以下では図面等を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の車両の省燃費運転システムの概略構成図である。図1において、ディーゼルエンジン1には、燃料噴射量及び燃料噴射時期を調整し得るコモンレール式の燃料噴射装置2を備える。エンジン1には、図示しない変速機、ドライブシャフト、ディファレンシャルギヤ、駆動輪が連結されている。
コモンレール式燃料噴射装置2は、燃料を圧送するサプライポンプ3、このサプライポンプ3からの高圧の燃料を蓄えるコモンレール4、コモンレール4から分配される燃料を各シリンダに噴射するインジェクタ5から主に構成され、インジェクタ5内の電磁弁6のON,OFFによって燃料の噴射開始と噴射終了とが決まる。つまり、コモンレール式燃料噴射装置2では、電磁弁6をONとするタイミングで燃料の噴射開始時期が定まり、電磁弁6をONにしている時間で燃料噴射量が定まる。またコモンレール圧の調整も考慮して燃料噴射量を定めてもよい。
エンジンコントロールユニット11では、車両の加速度が目標加速度になるようにコモンレール式燃料噴射装置2を介して、エンジン1に供給される燃料噴射量や燃料噴射時期を制御する。
本実施形態では、省燃費運転の制御をエンジンコントロールユニット11とは別のコントロールユニットにより実行する。すなわちエンジンコントロールユニット11とは別に、省燃費運転コントロールユニット12(判定部、制御部)を備える。省燃費運転コントロールユニット12には、車速センサ21により検出される車速、加速度センサ22により検出される車両の加速度、エンジン回転数センサ23により検出されるエンジン回転数、エンジン負荷センサ24により検出されるエンジン負荷、燃料流量センサ25により検出される燃料流量といった車両情報(信号)が入力されている。省燃費運転コントロールユニット12では、これら各センサ21〜25からの車両情報(信号)に基づいて、省燃費目標加速度、ドライバ要求加速度、及び車両の目標加速度を算出する。図1において、全ての車両情報をセンサ21〜25により検出する必要はない。例えば、加速度センサ22がない場合には、車速センサ21により検出される車速から加速度を演算するようにしてもよい。
省燃費運転コントロールユニット12は、エンジンコントロールユニット11とCAN等の双方向通信15によって連結されている。省燃費運転コントロールユニット12は、車両の加速度が目標加速度となるように要求信号をエンジンコントロールユニット11に出力する。エンジンコントロールユニット11は、要求信号に応じて車両を制御する。
また省燃費運転コントロールユニット12は、表示装置31に省燃費運転中であるか否かの信号を出力する。表示装置31は、車室内の運転パネル上に備えている。表示装置31は、信号に応じて車両が省燃費運転中か否かを表示する。
図2は、第1実施形態の他の例の車両の省燃費運転システムの概略構成図である。図1ではセンサ21〜25からの信号を全て省燃費運転コントロールユニット12に入力させる場合で示しているが、これに限られるものではない。例えば、近年の車両の制御幅の拡大に対応して、図2に示すようにエンジンコントロールユニット11以外に二つのコントロールユニット13,14が設けられ、車両制御を分担して行わせるようにしてもよい。複数のコントロールユニットを備えるものでは、CAN等の車両内通信ネットワーク15でコントロールユニット11〜14間が連絡されるので、省燃費運転コントロールユニット12は、この車両内通信ネットワーク15を介して他のコントロールユニット11,13,14から必要な車両情報を得るようにしてもよい。
本実施形態は、所定の条件下で省燃費運転となるように車両を制御する。そして車両の加速度を直ぐに最適な省燃費運転を実現する省燃費目標加速度に降下させるのではなく、ドライバの加速要求を考慮して、徐々に省燃費目標加速度に近づける。以下では、省燃費運転コントロールユニット12(ここではコントローラ12とする)の具体的な省燃費運転の制御ロジックについてフローチャートに沿って説明する。
図3は、第1実施形態の省燃費運転の制御を説明するためのフローチャートである。なおフローは一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップS1においてコントローラ12は、各センサ21〜25により検出される車両情報を読み込む。具体的には、車速、加速度、エンジン回転数、エンジン負荷、及び燃料流量である。
ステップS2においてコントローラ12は、公知の方法(特開2006−57483号公報参照)を用いて車両総質量mを算出する。例えば、車両の駆動力Fが分かれば、車両総質量mは、車両の駆動力Fと加速度センサ22により検出される車両の加速度αとから次の式により求めることができる。
ここで、車両の駆動力F(タイヤの回転力)は、エンジントルク、動力伝達系(トランスミッション、ディファレンシャル)のギヤ比、各伝達系の機械効率、タイヤ半径及びタイヤの摩擦係数等を知ることによって求めることができる。エンジン負荷とエンジン回転数をパラメータとするエンジントルクのマップを記憶させておき、負荷センサ24により検出されるエンジン負荷と回転数センサ23により検出されるエンジン回転数とからこのマップを参照することにより上記のエンジントルクを求めればよい。上記の動力伝達系のギヤ比、各伝達系の機械効率、タイヤ半径及びタイヤの摩擦係数等は予めわかっている。
ステップS3においてコントローラ12は、現在の変速機のギヤ比gを算出する。ここでギヤ比gはエンジン回転数Nに対する車速Vの比であり、次の式により求められる。
車速Vとエンジン回転数Nとは、それぞれ車速センサ21とエンジン回転数センサ23とから検出される。(2)式は、車速Vとエンジン回転数Nとの比で変速機のギヤ比gを簡易に求めるものである。変速機のギヤ比の算出方法はこれに限られるものではない。
ステップS4においてコントローラ12は、現在の車両総質量mにおいて最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αeを算出する。省燃費目標加速度αeは、基本的に変速機のギヤ比から定まる。省燃費目標加速度αeとギヤ比gとの関係を予めマップ化しておいて現在のギヤ比から求めてもよいが、本実施形態では車両総質量mも考慮して省燃費目標加速度αeを算出する。
ここで図6〜8を参照して、省燃費目標加速度αeの算出方法を説明する。まずステップS3で算出したギヤ比gから、図6を参照して空車状態で最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αAを、また図7を参照して最大積載状態で最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αBを算出する。例えばギヤ比が所定値g1であったとすれば、図6、図7に示すようにしてギヤ比g1のときの省燃費目標加速度αA、αBを求めればよい。図6、図7に示すギヤ比と省燃費目標加速度αA、αBとの関係式は、予めマップ化されている。ここで「空車状態」とは、通常走行に必要な装備を搭載した状態のことである。JISでは乾燥状態に冷却液、燃料を90%以上と携行工具等を加えた状態としている。また「最大積載状態」とは、乗員及び最大積載質量の荷物を均等に積載した状態のことをいう。
図6、図7に示すように、ギヤ比が同じ条件のとき省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度(太実線)は、通常運転の場合の目標加速度(細実線)よりも低く設定される。これは省燃費運転の場合には通常運転の場合よりも車両の加速度を抑制することによって無駄に燃料が消費されないようにし、これによって省燃費運転を実現するためである。ここで「通常運転」とは、ドライバが省燃費運転することを意識していないときの運転をいう。
ただし省燃費運転を実現するためとはいえ、省燃費目標加速度αA、αBを低く設定しすぎると、今度はドライバの加速要求に応えることができなくなるので、省燃費運転とドライバの加速要求との両立が図れるようにバランスよく省燃費目標加速度αA、αBの特性を定めることが望ましい。そしてギヤ比が小さい側(低速段側)では、ギヤ比が大きい側(高速段側)よりも、省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αA、αBを大きくしている。高速段側に合わせて低速段側での省燃費目標加速度αA、αBを設定したのでは、低速段側において十分な加速感が得られない。そこで低速段側になるほど省燃費目標加速度αA、αBを大きくすることで、省燃費運転となるように加速度を抑えつつ低速段側でのドライバの加速要求に応えるようにしている。図6、図7の特性は最終的には適合により定める。
このようにして空車状態で最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αA、最大積載状態で最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αBを求める。そして、これら2つの省燃費目標加速度αA、αBと現在の車両総質量mとから次の式で表わされる補間計算式を用いて、現在の車両総質量mのときに最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αeを算出する。
ここで(3)式の空車質量mAと最大積載質量mBとは、車両の仕様により予め分かっている。「空車質量」とは、空車状態における車両の重量である。「最大積載質量」とは、法律上許容された最大の積載質量である。従って(3)式は現在の車両総質量mを変数とする1次関数であり、この1次関数に現在の車両総質量mを代入することによって省燃費目標加速度αeを算出することができる。
上記(3)式の補間計算式は、図8に示した公知の図形処理によって得られるものである。このように補間計算を行って省燃費目標加速度αeを算出する方法は、トラック、バス等の商用車のように車両総質量mが空車質量mAから最大積載質量mBまで大きく変化して省燃費目標加速度αeも大きく変化する場合に有用である。
さらに述べると、空車状態で最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αAを最大積載状態において設定する場合は、最大積載状態でαA−αBだけ余分に加速が行われることになり、最大積載状態での最適な省燃費運転にならない。一方、最大積載状態で最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αBを空車状態において設定する場合は、空車状態でαA−αBだけ余分に加速制限を行うことになる。このため省燃費運転とドライバの加速要求とのバランスが乱れ、ドライバの得られる加速感が低下する。このように車両総質量mが変化すると省燃費目標加速度αeも影響を受ける。車両総質量mに応じた最適な省燃費目標加速度αeを算出することで、車両総質量mが相違しても省燃費運転を行わせつつ加速感とのバランスをとることができる。
図3に戻って、省燃費運転の制御についてフローチャートの説明を続ける。
ステップS5においてコントローラ12は、ドライバ要求加速度αd推定ラインが設定済みであるか否かを判定する。ここで「ドライバ要求加速度」とは、ドライバの意思によって車両が加速されるときの車両の加速度をいう。ドライバ要求加速度αd推定ラインが設定されていない場合は、ステップS50に処理を移行する。ドライバ要求加速度αd推定ラインが設定されている場合は、ステップS6に処理を移行する。
まずドライバ要求加速度αd推定ラインが設定されていない場合(ステップS5でNo)の処理について図4を参照して説明する。図4は、ドライバ要求加速度推定ラインの設定を説明するためのフローチャートである。
ステップS50においてコントローラ12は、ドライバ要求加速度αd推定ラインを設定する。ここでは車両が平地走行であって車両の加速度が所定値以上である場合に、ドライバ意思による実加速度とそのときのギヤ比とを記憶してデータ蓄積する。そしてドライバの要求加速とギヤ比との関係を近似式(ドライバ要求加速度αd推定ライン)で表わす。これによりギヤ比からドライバ要求加速度αdを推定することが可能になる。
ステップS51においてコントローラ12は、公知の方法(特開2005−201190号公報参照)を用いて車両が上り坂又は下り坂を走行中であるか否かを判定する。例えば「上り坂」の判定は、ドライバによるアクセル踏込み量(アクセル開度)が所定値以上で、各変速ギヤ比に応じた所定値以下の車両の加速度である場合に「上り坂」と判定する。そして「下り坂」の判定は、ドライバによるアクセル踏込み量(アクセル開度)が所定値以下で、エンジン回転数が所定値以上の場合において各変速ギヤ比に応じた所定値以上の加速度が生じるときを「下り坂」と判定する。そして車両が上り坂又は下り坂を走行中である場合は、本フローチャートの処理を抜ける。車両が上り坂又は下り坂を走行中でない場合、すなわち平地走行である場合は、ステップS52に処理を移行する。
ステップS52においてコントローラ12は、車両の加速度αが所定値以上であるか否かを判定する。車両の加速度αが所定値以上でない場合は、本フローチャートの処理を抜ける。車両の加速度αが所定値以上である場合は、ステップS53に処理を移行する。ここで所定値以上とは、明らかにドライバの加速意思がある加速度領域を表す。車両は一定走行の場合でも微小な加速度は生じるので、これらを除外して確実に加速要求である場合の車両の加速度αを記録する。
ステップS53においてコントローラ12は、ステップS3で算出したギヤ比gと、ステップS4で算出した省燃費目標加速度αeと、ステップS1で検出した車両の加速度αと、を記憶する。ギヤ比gと車両の加速度αとの関係はデータ蓄積されて、図9においてバツ印で示すようにプロットされる。図9は、ドライバ要求加速度推定ラインの設定について説明する図である。このとき省燃費目標加速度αeもギヤ比gと車両の加速度αとの関係のプロット数(図9のバツ印)と同じだけデータが蓄積される。省燃費目標加速度αeとギヤ比gとの関係式については後述するステップS9で説明する。
ステップS54においてコントローラ12は、ドライバ要求加速度αd推定ラインを設定する条件が成立したか否かを判定する。設定条件の成立は、例えば記録したギヤ比gと車両の加速度αとのプロットデータから近似式が作成できる程度にデータが蓄積できたら設定条件が成立したとする。本実施形態では、記録したプロットデータが20点に達したらドライバ要求加速度αd推定ラインの設定条件が成立したと判断する。ドライバ要求加速度αd推定ラインの設定条件が成立しない場合は、本フローチャートの処理を抜ける。設定条件が成立する場合は、ステップS55に処理を移行する。
ステップS55においてコントローラ12は、ドライバ要求加速度αd推定ライン、すなわちプロットデータに対する近似式を作成する。図9においてドライバ要求加速度αd推定ラインは、太実線で示される。このドライバ要求加速度αd推定ラインを用いて、ギヤ比gに対するドライバ要求加速度αdを求める。
なお、ドライバ要求加速度αd推定ラインは、一定時間経過ごとに見直してもよい。また商用車のように複数のドライバが入れ替わるような場合は、ドライバを認識するIDカードに図9に示すようなギヤ比とドライバ要求加速度との関係を記録させておけば、同じ車両でドライバが入れ替わっても、その都度ドライバの運転の仕方に合ったドライバ要求加速度αdを求めることが可能である。
なおコントローラ12は、本フローチャート(ステップS50)の処理を終えたら、ステップS13に処理を移行する。
次に図3のフローチャートに戻って、ドライバ要求加速度αd推定ラインが設定されている場合(ステップS5でYes)について説明する。
ステップS6においてコントローラ12は、車両の加速度αがステップS4で算出した省燃費目標加速度αeより小さいか否かを判定する。車両の加速度αが省燃費目標加速度αeよりも小さい場合は省燃費制御の必要がないので、ステップS13に処理を移行する。車両の加速度αが省燃費目標加速度αeよりも大きい場合は、ステップS7に処理を移行する。
ステップS7においてコントローラ12は、ドライバ要求加速度αdを推定する。図9に示すドライバ要求加速度αd推定ラインを用いて、ギヤ比gに対するドライバ要求加速度αdを求める。
ステップS8においてコントローラ12は、ドライバ要求加速度αdが省燃費目標加速度αeよりも大きいか否かを判定する。ドライバ要求加速度αdが省燃費目標加速度αeよりも大きい場合は、ステップS9に処理を移行する。ドライバ要求加速度αdが省燃費目標加速度αeよりも小さい場合は省燃費制御の必要がないので、ステップS13に処理を移行する。
ステップS9においてコントローラ12は、車両の目標加速度αtを設定する。処理の詳細は、図5を参照して説明する。図5は、目標加速度αtの設定を説明するためのフローチャートである。
ステップS91においてコントローラ12は、目標加速度αtの算出に必要な係数βを設定する。係数βは0〜1の変数である。本実施形態では係数βを0.5とする。
ステップS92においてコントローラ12は、目標加速度αtを算出する。目標加速度αtは、ステップS4で算出した省燃費目標加速度αeと、ステップS7で算出したドライバ要求加速度αdと、ステップS91で設定したステップ係数βとから以下の式で求められる。
図10は、目標加速度αtの計算を説明するための特性図である。目標加速度αtは、図中の太線で示される。同じギヤ比で目標加速度αtよりも大きい加速度であるドライバ要求加速度αdは、図中の実線で示される。この実線は前述した図9のドライバ要求加速度αd推定ラインである。また、同じギヤ比で目標加速度αtよりも小さい加速度である省燃費目標加速度αeは、図中の点線で示される。ギヤ比gと省燃費目標加速度αeとの関係は、ステップS53でドライバ要求加速度αd推定ラインを設定するときに記憶したプロットデータ数と同じだけデータが蓄積されている。省燃費目標加速度αeは、ギヤ比gが同じでも車両総質量mによって変動するので、ドライバ要求加速度αd推定ラインをエンジンが始動する度に見直すようにしておく。これによりエンジン始動後の車両総質量mは略一定と考えられるので、図10に示すように省燃費目標加速度αeはギヤ比gに比例する。
そして本実施形態ではステップS91で係数βを0.5と設定する。よって図10においてステップS92で算出される目標加速度αtは、省燃費目標加速度αeとドライバ要求加速度αdとの中間に位置する。
また本実施形態では、車両の加速度αと、ドライバ要求加速度αd及び目標加速度αt(S92で算出)との大小関係によって係数βの値を変える。係数βの設定について図11を参照してステップS93からステップS98を説明する。
図11は、係数βの変動による目標加速度の変化を説明する図である。図中のバツ印は車両の加速度αを示す。本実施形態では、車両の加速度αがドライバ要求加速度αdより大きい場合(状態A)、車両の加速度αがステップS92で算出した目標加速度αtより大きくドライバ要求加速度αdより小さい場合(状態B)、車両の加速度αが省燃費目標加速度αeより大きくステップS92で算出した目標加速度αtより小さい場合(状態C)の3パターンで係数βの設定が分けられる。
ステップS93においてコントローラ12は、車両の加速度αが目標加速度αtよりも小さいか否かを判定する。車両の加速度αが目標加速度αtより小さい場合は、ステップS95に処理を移行する。車両の加速度αが目標加速度αtより大きい場合は、ステップS94に処理を移行する。
ステップS94においてコントローラ12は、車両の加速度αがドライバ要求加速度αdよりも小さいか否かを判定する。車両の加速度αがドライバ要求加速度αdより小さい場合は、ステップS96に処理を移行する。車両の加速度αがドライバ要求加速度αdより大きい場合は、ステップS97に処理を移行する。
ステップS95においてコントローラ12は、目標加速度αtの算出に用いた係数βを再設定する。本実施形態では、ステップS91で設定したβに0.5を乗じた値をβとする。図11におけるCの状態である。
ステップS96においてコントローラ12は、目標加速度αtの算出に用いた係数βを再設定する。本実施形態では、ステップS91で設定したβに0.8を乗じた値をβとする。図11におけるBの状態である。
ステップS97においてコントローラ12は、目標加速度αtの算出に用いた係数βをそのまま用いる。図11におけるAの状態である。
ステップS98においてコントローラ12は、上記(4)式にステップS95又はステップS96で再設定した係数βを代入して目標加速度αtを再び算出する。
このように、車両の加速度αと、ドライバ要求加速度αd及び目標加速度αt(S92で算出)との大小関係によって係数βの値を変える。車両の加速度αがドライバ要求加速度αd又は目標加速度αt(S92で算出)よりも小さい場合、すなわち図11で状態B又はCの場合は、係数βの値を小さくする。そして車両の加速度αは省燃費目標加速度αeに近づく。なお係数βを再設定する場合に係数βに乗ずる値は、本実施形態での値(0.5,0.8)に限らない。図11の状態AからCになるにつれて係数βが小さくなるような値であればよい。
図3のフローチャートに戻る。
ステップS10においてコントローラ12は、ステップS9で設定した目標加速度αtに対する目標車速Vtを算出する。加速度を積分した値が車速であるから、現在の車速をV、図3のフローチャートの制御周期をΔt(=10ms)とすると、目標車速Vtを以下の式により求めることができる。
ステップS11においてコントローラ12は、エンジンコントロールユニット11に対して目標車速Vtを要求する信号を送る。
ステップS12においてコントローラ12は、車両の加速度を目標加速度αtに制限するために車速を目標車速Vtとすること、すなわち省燃費運転を実行することを表示装置31に表示する。例えば、「省燃費運転中」と表示させる。さらに表示装置31にどれだけ省燃費となるかを合わせて表示させるようにしてもよい。
ステップS13においてコントローラ12は、表示装置31に省燃費運転を実行していないことを表示させる。例えば「通常運転中」と表示させる。又は、省燃費運転の実行を非表示させる。このときはドライバの運転操作を優先する。
本実施形態では、エンジンが始動して車両が走行を始めてからしばらくの間は、ドライバ要求加速度αd推定ラインを設定するためにデータが蓄積される。同時に最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αeも算出されてデータが蓄積される。そしてドライバ要求加速度αd推定ラインが設定されるまでは、省燃費運転は実行されない(S5でNo→S50→S13)。ドライバ要求加速度αd推定ラインが設定されて(S5でYes)、車両の加速度αが省燃費目標加速度αeより大きくて(S6でNo)、さらにギヤ比gから推定したドライバ要求加速度αdが省燃費目標加速度αeよりも大きい場合に(S8でYes)、車両は省燃費運転を実行する(S9〜S12)。
省燃費運転を実行するため、車両の加速度αは目標加速度αtに制限される(S9)。目標加速度αtはドライバ要求加速度αdと省燃費目標加速度αeとから算出される(S92)。このとき車両の加速度αがドライバ要求加速度αdよりも大きい場合は(S93及びS94でNo)、そのままの目標加速度αtに車両の加速度αを制限する(S97)。しかし車両の加速度αがドライバ要求加速度αdよりも小さい場合は(S93又はS94でYes)、目標加速度αtが小さくなるよう係数βを再設定する(S95,S96)。目標加速度αtは、車両の加速度αが小さくなるにつれて省燃費目標加速度αeに近づくように設定される。
省燃費運転が開始されると、次回以降、ステップS1〜S12が繰り返される。ここでステップS11において省燃費運転コントロールユニット12からの目標車速Vtを要求する信号を受けるエンジンコントロールユニット11では、例えば、この要求信号を受ける前より電磁弁6のON時間(燃料噴射量)を減量してエンジントルクを低下させることとなる。これによって加速度が低下して、ステップS6で車両の加速度αがやがて省燃費目標加速度αe以下となる。このときは加速度に対する制限を終了してステップS13に進んで表示装置31に省燃費運転を実行しないことを表示させる。
本実施形態によれば、省燃費運転を実行する場合に、車両の加速度αが目標加速度αtになるように省燃費運転コントロールユニット12で制御される。よってドライバは意識的に省燃費運転を実行することなく、普段通りに運転するだけで省燃費運転を実行可能である。ドライバの運転操作に頼ることなく容易に燃費の良い省燃費運転を実行することができるので、省燃費運転をアドバイスに従って自分で実行しようとするドライバの心理的負担を軽減することができる。
またドライバの意思で要求されるドライバ要求加速度αdが同じギヤ比で最適な省燃費運転を実現するときの省燃費目標加速度αeよりも大きい場合に、車両の加速度αは省燃費目標加速度αeよりも大きくドライバ要求加速度αdよりも小さい目標加速度αtに制御される。省燃費運転を実現する場合に、車両の加速度αを急に省燃費目標加速度αeに制限するのではなく、ドライバ要求加速度αdと省燃費目標加速度αeとの間に設定する目標加速度αtに制限する。よってドライバの要求加速と車両の実加速との差が小さくなるので、ドライバが感じる違和感を軽減することができる。
また車両の目標加速度αtは、ドライバ要求加速度αdと省燃費目標加速度αeとから算出される。ドライバの運転の仕方、すなわちドライバの要求を考慮しつつ省燃費運転を実行することができるので、ドライバの違和感がさらに軽減される。
ドライバ要求加速度αdを推定するドライバ要求加速度αd推定ラインは、車両が平地走行の場合にドライバの意思による加速である車両の加速度αとギヤ比gとを記憶して、データを蓄積することで作成される。そしてドライバ要求加速度αd推定ラインは蓄積されたデータの近似式で、省燃費運転を実行する前に作成される。これによりギヤ比に対応するドライバの要求加速度が容易にわかる。また車両の目標加速度αtの算出式を簡易にする。さらに例えばエンジン始動毎にドライバ要求加速度αd推定ラインを見直すようにすれば、より現在に近い車両の状態及びドライバの運転の仕方におけるドライバ要求加速度αdを求めることが可能である。よって車両の目標加速度αtの精度が向上する。
ドライバ要求加速度αd推定ラインは、ドライバを識別するIDカードに記録されるようにしてもよい。これにより商用車のように同じ車両で複数のドライバが入れ替わるような場合でも、その都度ドライバの運転の仕方に合ったドライバ要求加速度αdを求めることが可能である。
また車両の加速度αがドライバ要求加速度αdよりも小さい場合には、目標加速度αtが小さくなるよう再算出される。再算出される目標加速度αtは、より省燃費目標加速度αeに近づく値となる。よって目標加速度αtが徐々に省燃費目標加速度αeに近づいていくので、ドライバは負担を感じることなく最適な省燃費運転に移行することができる。
このように車両はドライバの運転から最適な省燃費運転へ徐々に移行される。よってドライバは少しずつ省燃費運転に慣れることができ、ドライバ自身の運転が省燃費運転に近づくことが期待できる。
また本実施形態では、省燃費目標加速度αeはギヤ比gだけでなく車両総質量mも考慮して算出される。このため車両総質量mが大きく変動するトラック、バス等の商用車においても、最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αeを精度良く算出することができる。よって車両状態に応じた効率の良い省燃費運転を実行することができる。
さらに省燃費目標加速度αeは、空車状態(質量mA)及び最大積載状態(質量mB)で最適な省燃費運転を実現するための省燃費目標加速度αA、αBと現在の車両総質量mとから補間計算して算出される。空車状態及び最大積載状態は既知であるので、現在のギヤ比gと車両総質量mとが分かれば容易に省燃費運転加速度αeを算出することができる。
そして本実施形態によれば、目標加速度αtに基づいて目標車速Vtを算出し、車速Vがこの目標車速Vtまで低下するように車両を制御するので、最適な車速Vにて車両を走行させることが可能になる。省燃費運転を車速の制限によって実行するので、ドライバにとっても省燃費運転が判りやすい。
ところで省燃費運転のためとはいえ、車両の加速度αをドライバの要求加速度αdよりも小さい目標加速度αtに制限することは、ドライバにとって要求する加速感が得られず運転上の不安感を与えてしまう。本実施形態では、運転パネル上に表示装置31を設けて省燃費運転を実行中か否かを表示するので、ドライバの不安感が解消される。
(第2実施形態)
図12は、本発明による第2実施形態の省燃費運転の制御を説明するためのフローチャートである。なお以下では前述した内容と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
第1実施形態と相違する部分は、ステップS21、S22、S23のみである。車両の目標加速度αtが決まったら、ステップS21においてコントローラ12は、目標加速度αtの加速を行うのに必要となるエンジン負荷を目標エンジン負荷Ttとして算出する。これは、簡単には目標加速度αtから図13を参照して目標エンジン負荷Ttを求めればよい。なお、図13には特性を直線で示したが、必ずしも直線となるものではないので、図13の特性は適合により予め定める。
ステップS22においてコントローラ12は、目標エンジン負荷Ttがエンジン負荷センサ24(図1参照)により検出される現在のエンジン負荷Tより小さいか否かを判定する。ステップS21で算出した目標エンジン負荷Ttが現在のエンジン負荷Tより小さい場合は、ステップS23に処理を移行する。目標エンジン負荷Ttが現在のエンジン負荷T以上の場合は、ステップS13に処理を移行する。
ステップS23においてコントローラ12は、エンジンコントロールユニット11に対して目標エンジン負荷Ttを要求する信号を送る。
省燃費運転が開始されると、次回以降、ステップS1〜S9、ステップS21〜S23、ステップS12が繰り返される。ここで、ステップS23において省燃費運転コントロールユニット12からの目標エンジン負荷Ttを要求する信号を受けるエンジンコントロールユニット11では、例えば、この要求信号を受ける前より電磁弁6のON時間(燃料噴射量)を減量してエンジン負荷を低下させることとなる。これによって、エンジン負荷Tが低下してゆき、ステップS22で現在のエンジン負荷Tがやがて目標エンジントルクTt以下となる。このときには加速度に対する制限を終了するため、ステップS13に進んで表示装置31に省燃費運転は実行しないことを表示させる。
第2実施形態においても、第1実施形態と同じ作用効果を奏する。すなわち、車両の加速度αが、目標加速度αtとなるように制限されるので、ドライバは省燃費運転することを意識することなく普段通りに運転するだけで省燃費運転を実現できる。また、ドライバの運転操作への負荷を軽減することが可能になる。
第2実施形態によれば、目標加速度αtに基づいて目標エンジン負荷Ttを算出し、エンジン負荷Tがこの目標エンジン負荷Ttまで低下するように車両を制御するので、最適なエンジン負荷Tにて車両を走行させることが可能になる。
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれることが明白である。例えば実施形態では、目標加速度を算出する係数βの値は、車両の加速度とドライバ要求加速度及び目標加速度との大小関係に応じて3パターンを設けているが、これに限られるものでない。係数βはギヤ比に応じて変動するように設定してもよい。車両の加速度が小さくなるにつれて、徐々に省燃費目標加速度に近づくような目標加速度が設定されればよい。また本実施形態はディーゼルエンジンを例に説明したが、ガソリンエンジンなどの場合も同様である。