JP5388999B2 - 荷電粒子線装置 - Google Patents

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本発明は、荷電粒子線装置に係り、特に荷電粒子線を制御するレンズコイルや偏向コイルを備えた荷電粒子線装置に関する。
電子顕微鏡を代表とする荷電粒子線装置では、荷電粒子線すなわち電子ビームを収束したり偏向したりするために、ラウンド形状をした電磁レンズコイルや電磁偏向コイルが用いられている。装置としての所望の機能を実現するためには、電磁レンズや電磁偏向コイルから、安定な磁場を形成する必要がある。
一般的に、これらの装置では安定な磁場を得るために、コイルに変動の小さい一定の電流を流す必要があるため、直流定電流回路が用いられる。最近では、電子ビームを細く収束するための技術開発が進み、装置の飛躍的な高性能化(高分解能化)が進んでいる。これに伴って電子ビームを高精度に制御する要求が高まっており、電磁コイルの電流変動を従来にも増して小さくする必要がある。
しかしながら、実際の装置においては、周辺装置や商用交流電源、スイッチング電源などが出す高周波成分を含む交流外部磁場・電場等が、コイルを駆動する定電流回路基板やケーブル等に作用し、直流に重畳して交流電流(ノイズ電流)がわずかに流れることがある。
また、装置の設置条件などによっては、装置を駆動するための商用電源のアース(接地線)が電位的に安定でなくノイズ電圧を持つこともしばしばあり、これが原因でコイルを駆動する定電流回路基板の回路グラウンドに比較的周波数の高い交流ノイズが現われ、結果としてコイルを励磁する直流電流に高周波ノイズ電流が重畳されることもある。
さらには、コイルを励磁する定電流回路を構成する半導体素子・抵抗などの回路部品そのものが持つノイズなどは、本質的に除去が難しい。このような背景から、荷電粒子線装置において高周波ノイズを低減して安定な磁場を得ることは重要な課題となっている。
これに対して、一般には高周波ノイズ電流の対策には、低域通過フィルタ(LPF: Low−Pass Filter)が用いられる。これは抵抗素子とコンデンサ素子の受動素子を用いて、低周波成分のみを通過させるフィルタを形成するもので、一次のLPFは図4のように表すことができる。使用する抵抗値をR、コンデンサの容量をCとすれば、LPFを減衰なく通過できる上限の周波数、即ちカットオフ周波数fcは、fc=1/2πRCで求められる。
このような一次LPFは回路として簡単であるが、fcを数ヘルツ以下の低周波数に設定したい場合、抵抗Rおよびコンデンサ容量Cを大きくする必要がある。このLPF回路による方法は、信号処理回路などの電流をほとんど流さないような回路においては有効であるが、コイルを駆動する定電流回路には向いていない。なぜなら、荷電粒子線装置の場合、コイル励磁電流は数百ミリアンペア〜数アンペアであることがほとんどで、LPFに励磁電流を通過させるとコイルと直列に入った抵抗Rで電圧降下が生じて電力が消費され、コイルに必要な電流が流せないからである。定電流回路の電源電圧の昇圧が必要になり、LPFの抵抗Rでの発熱(電力消費)が大きくなるため無駄が多く実用的ではない。
また、特許文献1では、銅線に流れる微少な直流電流を検出するための直流電流センサーにおいて、被検出電流に混入する交流電流を実質的にゼロとする、交流電流のキャンセリング法が提案されている。この方法の特徴は、直流電流を検出するための検出用コアと、直流電流に混入した交流電流を検出するためのコアを備え、これら2つのコアを導線で交流トランスを構成するように接続していることにある。
具体的には図5に示すように、直流電流検出コイル503を検出コア502に巻回配置し、検出コア502の内側に直流電流が流れる被検出導線501を貫通配置する構成で、交流電流トランスを構成するために環状の交流電流トランスコア504と検出コア502とにまたがって交流電流キャンセルコイル505を巻回配置し、直流電流に混入する交流電流の影響をキャンセルする。これにより、比較的簡単な構成で微少な直流電流に重畳する交流電流の影響を低減している。
しかし荷電粒子線装置への応用を考えた場合、励磁コイルでは前述のように数百ミリアンペア〜数アンペアの比較的大きな直流電流を使用する。小信号センサーのように微少電流で使用する場合はよいが、直流電流が大きい場合にはトランス結合に使用されるコアが直流電流のつくる直流磁場によって磁気的に飽和し、交流トランスの機能を果たさなくなる。これには、コア材料の変更やコアの大型化などが考えられるが、コストの問題や設置スペース・重量化等の問題も出てくるため、よりシンプルな方法で高周波ノイズ電流の影響を低減する検討が必要となる。
特開平10−332744号公報
荷電粒子線装置において偏向コイルへの入力電流にノイズが含まれる場合、荷電粒子線の揺らぎとして現れる。この電流ノイズを低減するには、ノイズ周波数を解析した上で、装置内外での発生原因を特定し、発生箇所ごとに適切な対策を行わなければならない。その為、フィルタ等の対策部品追加による部品点数増大といった問題を生じる。また、ノイズ発生原因によっては低減自体が困難な場合も多くある。
そこで、本発明の目的とするところは、ノイズの発生箇所にかかわらず、高周波ノイズによる荷電粒子線への影響を抑制し、高性能で安定した制御が可能な荷電粒子線装置を提供することにある。
上記目的を達成するための本発明の一つの特徴は、荷電粒子線を偏向する偏向コイルを備え、当該偏向コイルに出力される電流を制御して前記荷電粒子線に作用する磁場を形成する荷電粒子線装置において、前記荷電粒子線に対して前記偏向コイルによる磁場とは逆向きの磁場を発生するノイズキャンセル用のコイルを具備し、前記偏向コイルに出力される電流をハイパス用コンデンサを介して前記ノイズキャンセル用コイルに通電することにある。
上記目的を達成するための本発明の他の一つの特徴は、荷電粒子線を収束するレンズコイルを備え、当該レンズコイルに出力される電流を制御して前記荷電粒子線に作用する磁場を形成する荷電粒子線装置において、前記荷電粒子線に対して前記レンズコイルによる磁場とは逆向きの磁場を発生するノイズキャンセル用のコイルを具備し、前記レンズコイルに出力される電流をハイパス用コンデンサを介して前記ノイズキャンセル用コイルに通電することにある。
本発明のその他の特徴は、以下述べる実施の形態の中で明らかにする。
本発明によれば、コイルとそれに電流を供給する電流源とで構成される荷電粒子線装置の偏向コイル系ないしはレンズコイル系において、ノイズの発生箇所にかかわらず、荷電粒子線への影響を除去ないし抑制することができる。よって、より高性能で安定した荷電粒子線制御が可能となる。
本発明の一実施例に係る偏向コイルの配線図 本発明との比較用偏向コイルの配線図 本発明の一実施例に係るレンズコイルの配線図 一般の低域通過フィルタの配線図 従来の直流電流センサーの構成図 本発明を適用した走査電子顕微鏡の全体構成図
以下、図を参照して本発明の実施の形態を説明する。
先ず、図6を用いて、荷電粒子線装置の一例として走査電子顕微鏡に本発明を適用した場合の全体構成を説明する。図に示すように、陰極601と第一陽極602の間にはコンピュータ630で制御する高圧制御電源620により電圧が印加されて、所定のエミッション電流で一次電子線604が陰極601より引き出される。引き出された一次電子線604は第二陰極603によって所定の電圧にて加速されて放出される。
この一次電子線604は集束レンズ制御電源622によって制御される第一集束レンズコイル605と第二集束レンズコイル607によって所定の箇所にて集束することができる。このとき対物絞り606の中心に一次電子線604を通過させて、不要な部位をカットするために、各所にあって図示していないアライナーコイルにアライナー制御電源621より電流を印加して一次電子線604を中心軸上に調整している。
集束レンズ607を通過した一次電子線604は対物レンズ制御電源625にて電流制御された対物レンズコイル609によってステージ611上にある試料610の表面1点に微小スポットとして集束される。さらに一次電子線604を偏向制御電源623によって制御される偏向コイル608によって試料上を二次元的に走査させることで二次元の画像を得ることが出来る。
像の明暗信号は一次電子線604による照射にて試料上で発生した二次電子613等の二次信号によって表現され、その二次信号は二次信号分離用直交電磁界発生器612により一次電子線604と分離されて二次電子検出器614で検出され、信号増幅器615にて増幅された後、信号検出制御部624にてAD変換等の処理がなされ、前記二次的走査と関連づけることで、コンピュータ上の画面に試料像として表示される。
このとき、コイル制御電源あるいはその制御電源とコイルを結ぶケーブル等にノイズが重畳した場合、試料像がボケてしまったり、画像のちらつきが発生したりする。特に各レンズコイル605,607や偏向コイル608等にノイズが重畳してしまった場合には、像に与える影響が非常に大きく、装置の分解能性能を左右してしまう恐れがある。
そこで本実施例では、このレンズコイル605,607や偏向コイル608にノイズキャンセル用のコイルを2重巻きすることで、高周波ノイズが重畳しても、その影響を押さえ込むように構成している。
図1に本発明の一実施例に係る偏向コイルの配線図を示す。図1はX軸方向あるいはY軸方向の1方向に対して荷電粒子ビームを偏向するための偏向コイル配線図である。100は偏向電流出力回路、101aおよび101bは荷電粒子ビームに対して対極に配置された偏向コイル、102aおよび102bは荷電粒子ビームに対して対極に配置され、ノイズ電流による磁場をキャンセルするキャンセル用コイル、103はハイパスフィルタの役目をもつコンデンサ、104は偏向電流と偏向コイル101によって生成される磁場、105はノイズ電流と偏向コイル101によって生成される磁場、106はノイズ電流とキャンセル用コイル102によって生成される磁場、107は荷電粒子ビームを示す。
また図2に、図1の実施例との比較用の偏向コイル配線図を示す。図2はこれもX軸方向あるいはY軸方向の1方向に対して荷電粒子ビームを偏向するための偏向コイルの一般的な配線図である。200は偏向電流出力回路、201aおよび201bは荷電粒子ビームに対して対極に配置された偏向コイル、204は偏向電流と偏向コイル201によって生成される磁場、205はノイズ電流と偏向コイル201によって生成される磁場、207は電子ビームに代表される荷電粒子ビームを示す。
ここで、図2のような配線図では、偏向電流出力回路200に偏向電流(I_DEF)のみならず、高周波ノイズ電流(I_NOISE)が重畳していた場合は、偏向コイル201によって、偏向磁場204とノイズによる磁場205が生成されるので、荷電粒子ビームはこの2つの磁場の影響を受けて所望の位置に偏向することが不可能になってしまう。偏向電流出力回路200をさまざまに調整することで、高周波ノイズ電流(I_NOISE)を小さくすることが考えられるが、偏向電流出力回路200と偏向コイル201の距離が離れている場合は、外部磁場等の影響によって、偏向電流出力回路200と偏向コイル201間の配線上にノイズ電流が発生して、ノイズによる磁場205を無くすことは出来ない。
これに対して図1の実施例によれば、以下のような働きでノイズ電流による磁場をキャンセルすることが出来る。
いま偏向電流出力回路100の出力電流に偏向電流(I_DEF)と高周波ノイズ電流(I_NOISE)の2つが重畳していたとする。偏向電流の周波数帯域は高周波ノイズ電流の周波数帯域より十分小さいとする。このとき偏向電流はコンデンサ103を突き抜けることができないため、偏向コイル101にのみ本電流が流れるため、偏向コイル101による磁場104が生成される。
一方高周波ノイズ電流は高周波であることからコンデンサ103を突き抜けることができるため、高周波ノイズ電流(I_NOISE)の約半分は偏向コイル101に流れ、ノイズ電流による磁場105を生成する。もう半分は磁場キャンセル用コイル102に流れ、ノイズ電流による磁場106を生成する。ここで偏向コイル101と磁場キャンセル用コイル102が同様な形状で配置、巻き数が同様であって、高周波ノイズ電流が互いに逆向きに流れれば、ノイズ電流による磁場が逆向きにキャンセルしあうので、荷電粒子ビームに影響を及ぼす磁場は偏向磁場のみとなって、ノイズの影響を除去することができる。
なお、上記のように、理想的にノイズ電流による磁場をキャンセルするためには偏向コイル101と磁場キャンセル用コイル102のコイルの巻き方として、コイル線2本を同時巻きにして、一方を偏向コイル、一方を磁場キャンセル用コイルとして使用する方法が一番効率よく特性を一致させることができると考えられる。また、ハイパスフィルタとして用いられているコンデンサ103はその容量によって、帯域調整が可能であることから、偏向速度に合わせて、コンデンサ容量を適宜設定することで偏向速度以上の周波数をノイズ電流とみなしてその磁場をキャンセルすることができる。
上記のような偏向コイル配線構成はビームスキャン用の偏向コイルやビーム軸を調整するためのアライナーコイル等に適用できるが、コイルの向きを変更すればレンズコイル等にも適用できる。
次に、図3を用いてレンズコイルに本発明を適用した場合の一実施例を説明する。
300はレンズ電流出力回路、301はレンズコイル、302ノイズ電流による磁場をキャンセルするキャンセル用コイル、303はハイパスフィルタの役目をもつコンデンサ、304はレンズ電流とレンズコイル301によって生成される磁場、305はノイズ電流とレンズコイル301によって生成される磁場、306はノイズ電流とキャンセル用コイル302によって生成される磁場を示す。荷電粒子ビームはコイル301および302のコイル中心軸上を通ることで、軸上に焦点を形成することができる。
いまレンズ電流出力回路300に焦点位置を決定するためのレンズ電流(I_Lens)と高周波ノイズ電流(I_NOISE)が重畳しており、もしキャンセル用コイル302が存在しなかった場合は高周波レンズ電流(I_NOISE)によって、レンズの焦点位置がレンズ電流周波数でふらつく現象が発生する。
ところが、図3のようにキャンセル用コイル302とコンデンサ303が存在することで、焦点位置のふらつきが小さくなる。原理的には図1の場合と同様で、レンズ電流はコンデンサ303を突き抜けることができないため、レンズコイル301にのみ本電流が流れるため、レンズコイル301による磁場304が生成される。
一方高周波ノイズ電流は高周波であることからコンデンサ303を突き抜けることができるため、高周波ノイズ電流(I_NOISE)の約半分はレンズコイル301に流れ、ノイズ電流による磁場305を生成する。
残りの半分はキャンセル用コイル102に流れ、ノイズ電流による磁場306を生成する。
ここでレンズコイル301とキャンセル用コイル302が同様な形状で配置され、巻き数が同様であって、高周波ノイズ電流が互いに逆向きに流れれば、ノイズ電流による磁場が逆向きにキャンセルしあうので、荷電粒子ビームに影響を及ぼす磁場はレンズ磁場のみとなって、ノイズの影響を除去することができる。
ここでも理想的にノイズ電流による磁場をキャンセルするためには、レンズコイル101とキャンセル用コイル102のコイルの巻き方は、コイル線2本を同時巻きにして、一方をレンズコイル、他方をキャンセル用コイルとして使用する方法が最も効率よく特性を一致させることができると考えられる。
以上、走査電子顕微鏡における偏向コイルおよびレンズコイルを例に挙げて説明したが、同様なコイルを有する他の荷電粒子線装置、例えば、透過電子顕微鏡、電子線描画装置等にも適用することができ、高周波ノイズの荷電粒子線への影響を抑制することが出来る。
100・・・偏向電流出力回路、101・・・偏向コイル、102・・・キャンセル用コイル、103・・・ハイパスフィルタ用コンデンサ、104・・・偏向電流と偏向コイルによって生成される磁場、105・・・ノイズ電流と偏向コイル101によって生成される磁場、106・・・ノイズ電流とキャンセル用コイルによって生成される磁場、107・・・電子ビームに代表される荷電粒子ビーム、300・・・レンズ電流出力回路、301・・・レンズコイル、302・・・キャンセル用コイル、303・・・ハイパスフィルタ用コンデンサ、304・・・レンズ電流とレンズコイルによって生成される磁場、305・・・ノイズ電流とレンズコイルによって生成される磁場、306・・・ノイズ電流とキャンセル用コイルによって生成される磁場、601・・・陰極、602・・・第一陽極、603・・・第二陰極、604・・・一次電子線、605・・・第一集束レンズコイル、606・・・対物絞り、607・・・第二集束レンズコイル、608・・・偏向コイル、609・・・対物レンズコイル、610・・・試料、611・・・ステージ

Claims (6)

  1. 荷電粒子線を偏向する偏向コイルを備え、当該偏向コイルに出力される電流を制御して前記荷電粒子線に作用する磁場を形成する荷電粒子線装置において、前記荷電粒子線に対して前記偏向コイルによる磁場とは逆向きの磁場を発生するノイズキャンセル用のコイルを具備し、前記偏向コイルに出力される電流をハイパス用コンデンサを介して前記ノイズキャンセル用コイルに通電することを特徴とする荷電粒子線装置。
  2. 請求項1記載の荷電粒子線装置において、前記偏向コイルと前記ノイズキャンセル用コイルを同じ箇所に2重巻きすることを特徴とする荷電粒子線装置。
  3. 請求項1記載の荷電粒子線装置において、前記ハイパス用コンデンサの容量を、前記ノイズキャンセル用のコイルでキャンセルする周波数帯域に応じて設定することを特徴とする荷電粒子線装置。
  4. 荷電粒子線を収束するレンズコイルを備え、当該レンズコイルに出力される電流を制御して前記荷電粒子線に作用する磁場を形成する荷電粒子線装置において、前記荷電粒子線に対して前記レンズコイルによる磁場とは逆向きの磁場を発生するノイズキャンセル用のコイルを具備し、前記レンズコイルに出力される電流をハイパス用コンデンサを介して前記ノイズキャンセル用コイルに通電することを特徴とする荷電粒子線装置。
  5. 請求項4記載の荷電粒子線装置において、前記レンズコイルと前記ノイズキャンセル用コイルを同じ箇所に2重巻きすることを特徴とする荷電粒子線装置。
  6. 請求項4記載の荷電粒子線装置において、前記ハイパス用コンデンサの容量を、前記ノイズキャンセル用のコイルでキャンセルする周波数帯域に応じて設定することを特徴とする荷電粒子線装置。
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