JP5381234B2 - 圧縮強度の高いラインパイプの製造方法 - Google Patents
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1.母材靱性を高めるためには鋼板の熱間圧延での圧延仕上温度を低下し、組織を微細化することが有効であるが、造管後の熱処理によって圧縮強度を高めるには、圧延終了温度をAr3温度以下に更に低下させ、フェライト相に一定量以上の加工を加えることが有効である。圧延時にフェライト相に大量に導入された可動転位が、造管後の加熱によって固溶炭素と結合する歪時効現象を促進することにより、大きな強度上昇が得られるためである。
2.具体的には、鋼材のC量とNb等の炭化物形成元素の添加量を適正化し、歪時効現象に必要な固溶Cを十分に確保することで、造管後の加熱処理によってより大きな強度上昇効果が得られる。
3.上記のような加工フェライトが存在することによって、バウシンガー効果の回復と歪時効による強度上昇が起きるため、造管後の熱処理が短時間であっても十分な効果が得られる。
4.Ar3温度以下で圧延を終了したのちに加速冷却を施した鋼板の組織は、実質的に加工フェライトとベイナイトからなる組織となるが、加速冷却ままの状態で、特に鋼板表層付近にはベイナイト中にMA(島状マルテンサイト)と呼ばれる硬質相が形成される場合があり、このような硬質相がバウシンガー効果による強度低下を促進する。しかし、そこで、鋼板の加速冷却後に鋼板表層部を一定温度以上に加熱すると、MAが消失し、バウシンガー効果による強度低下を抑制することが可能となる。
1.質量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.5%以下、Mn:1.0〜2.0%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Al:0.08%以下、Nb:0.005〜0.06%、Ti:0.007〜0.025%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、C(%)−0.065Nb(%)−0.025Mo(%)−0.057V(%)(但し、含有しない元素は0とする)が0.05以上である鋼を、
1000〜1200℃に加熱し、未再結晶温度域の圧下率が50%以上、かつAr3温度以下の圧下率が10%以上で、圧延終了温度が(Ar3−70℃)〜Ar3の熱間圧延を行って鋼板とし、引き続き10℃/秒以上の冷却速度で、300超え〜550℃まで加速冷却を行った後、冷間成形により鋼管形状とし、突き合せ部をシーム溶接後、拡管率が0.5〜1.5%で拡管して製造した鋼管に、表面温度が180〜300℃で、180℃以上に加熱される時間が1分以上、5分未満となる熱処理を行うことを特徴とする、圧縮強度の高いラインパイプの製造方法。
2.さらに質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、Ca:0.001〜0.004%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、1に記載の圧縮強度の高いラインパイプの製造方法。
3.加速冷却後に、鋼板表面温度が、450〜700℃で且つ、加速冷却停止時の鋼板温度より50℃以上高温となる温度に再加熱処理を施すことを特徴とする、1または2に記載の圧縮強度の高いラインパイプの製造方法。
1.化学成分
はじめに本発明の高強度高靱性鋼板が含有する化学成分の限定理由を説明する。なお、成分%は全て質量%を意味する。
Cは、加速冷却によって製造される鋼板の強度を高めるために最も有効な元素であり、さらに固溶Cとして存在させることで造管後の熱処理によって歪時効を起こし圧縮強度向上に有効に作用する元素でもある。しかし、0.05%未満では十分な効果が得られず、0.12%を超えると靱性や溶接性を劣化させる。従って、C量は0.05〜0.12%の範囲とする。より高い靭性が要求される場合は、0.05〜0.10%とすることが好ましい。
Siは脱酸のために添加するが、0.5%を越えると靭性や溶接性を劣化させる。従ってSi量は0.5%以下の範囲とする。
Mnは鋼の強度および靭性の向上のため添加するが、1.0%未満ではその効果が十分ではなく、2.0%を越えると溶接性が劣化する。従って、Mn量は1.0〜2.0%の範囲とする。
Pは不可避的不純物として含まれるが、Pの含有量が増えると靭性及び溶接性を劣化させるため、P量の上限は0.015%とする。
Sも不可避的不純物として含まれるが、Sの含有量が増えると靱性及び延性を劣化させるため、S量の上限は0.003%とする。
Alは脱酸剤として添加されるが、0.08%を超えると清浄度の低下により延性を劣化させる。従って、Al量は0.08%以下とする。
Nbは、圧延時の粒成長を抑制し、微細粒化により靭性を向上させる。しかし、Nb量が0.005%未満ではその効果がなく、0.06%を超えると炭化物として析出し歪時効に必要な固溶C量を低下させ、造管後の熱処理で高い強度上昇が得られない。また、溶接熱影響部においては焼入れ性が上昇しMA等の脆化組織によって靭性が劣化する。従って、Nb量は0.005〜0.06%の範囲とする。より高いHAZ靭性が必要とされる場合は、0.005〜0.040とすることが好ましい。
Tiは、TiNを形成してスラブ加熱時の粒成長を抑制するだけでなく、溶接熱影響部の粒成長を抑制し、母材及び溶接熱影響部の微細粒化により靭性を向上させる。しかし、Ti量が0.005%未満ではその効果がなく、0.025%を越えると靭性を劣化させる。従って、Ti量は0.005〜0.025%の範囲とする。
本パラメータ式は固溶Cを確保するためのもので、Nb,後述する選択元素であるMo,Vを添加する場合は、本パラメータ式の値が0.05未満では固溶Cが不足するため、0.5以上となるように添加する。
Cuは、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると溶接性が劣化する。従って、Cuを添加する場合は0.5%以下とする。
Niは、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、1%を超えて添加すると溶接性が劣化する。従って、Niを添加する場合は1.0%以下とする。
Crは、焼入れ性を高めることで強度の上昇に有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると溶接性を劣化させる。従って、Crを添加する場合は0.5%以下とする。
Moは、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると溶接性が劣化する。従って、Moを添加する場合は0.5%以下とする。
Vは靭性を劣化させずに強度を上昇させる元素であるが、0.1%を超えて添加するとNbと同様に炭化物として析出し固溶Cを減少させるため、Vを添加する場合は、0.1%以下とする。より高いHAZ靭性が要求される場合は、0.06%以下にすることが好ましい。
Caは硫化物系介在物の形態を制御し、延性を改善するために有効な元素であるが、0.001%未満ではその効果がなく、0.004%を超えて添加しても効果が飽和し、むしろ清浄度の低下により靱性を劣化させる。従って、Caを添加する場合は0.001〜0.004%の範囲とする。
本発明は、上述した化学成分を含有する鋼スラブを、加熱し熱間圧延を行った後、加速冷却を施し、引き続いて誘導加熱による焼戻しを行う製造方法である。以下に、鋼板の製造条件の限定理由について説明する。
スラブ加熱温度は、1000℃未満では十分な強度が得られず、1200℃を越えると、靱性やDWTT(落重引裂試験)特性が劣化する。従って、スラブ加熱温度は1000〜1200℃の範囲とする。
熱間圧延工程において、高い母材靱性を得るには未再結晶温度域で十分な圧下を行い組織を微細化する必要がある。しかし、圧下率が50%未満では効果が不十分であるため、未再結晶域で圧下率を50%以上とする。なお、圧下率は複数の圧延パスで圧延を行う場合はその累積の圧下率とする。また、未再結晶温度はNb、Ti等の合金元素添加量によって変化するが、本発明におけるNb及びTi添加量では950℃以下の温度域での圧下率を50%以上とすればよい。
Ar3温度はフェライト変態が開始する温度であり、Ar3温度以下で圧延を行い加工フェライトを得ることが本発明の特徴である。しかし、Ar3温度以下の圧下率が10%未満では十分な量の可動転位がフェライト相中に導入されず、造管後の熱処理による強度上昇効果が小さくなる。よって、Ar3温度以下の圧下率を10%以上とする。
本発明の特徴である加工フェライトを得るためには、フェライト生成温度であるAr3温度以下で圧延を終了する必要がある。しかし、圧延終了温度が低すぎると鋼板の製造能率が低下するため、圧延終了温度は(Ar3−70℃)〜Ar3の範囲とする。
Ar3(℃)=910−310C(%)−80Mn(%)−20Cu(%)−15Cr(%)−55Ni(%)−80Mo(%)・・・・・(1)
熱間圧延に引き続いて加速冷却を行う。加速冷却の条件は以下の通りである。
加速冷却は高強度で高靱性の鋼板を得るために不可欠なプロセスであり、高い冷却速度で冷却することで変態強化による強度上昇効果が得られる。冷却速度が10℃/秒未満では十分な強度が得られないだけでなく、冷却中のセメンタイトの析出量が多く十分な固溶Cを確保できず、造管後の熱処理による強度上昇が得られない。よって加速冷却時の冷却速度の下限を10℃/秒とする。
加速冷却によってベイナイト変態が進行し必要な強度が得られるが、冷却停止時の温度が550℃を超えると、ベイナイト変態が不十分であり、十分な強度が得られない。また,冷却停止時の鋼板平均温度が300℃以下では,鋼板表層部の硬度が高くなるだけでなく、鋼板に歪みを生じやすくなり成形性が劣化しパイプに成形したときの真円度が著しく劣化する。よって、冷却停止時の温度は300超え〜550℃の範囲とする。
造管後の加熱処理によってバウシンガー効果が回復し、また、歪時効によって圧縮降伏強度が上昇する。しかし、その温度が180℃未満では十分な効果が得られず、300℃を超えるとその効果が飽和するか逆に強度低下を招くため、加熱温度は180〜300℃とする。加熱処理には鋼管の外面側から加熱可能な誘導加熱を用いることが好ましく、加熱温度は外表面の温度とする。
本発明では化学成分の調整による固溶Cの確保と、Ar3温度以下での圧延による可動転位の増加によってバウシンガー効果の回復と歪時効による圧縮強度の上昇が速やかに起こるため、鋼管の加熱時間は1分以上あれば、所定の効果が得られる。また、5分以上に加熱してもその効果が飽和するだけでなく、鋼管の製造効率を著しく阻害するため、加熱時間を1分以上、5分未満とする。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.05〜0.12%、Si:0.5%以下、Mn:1.0〜2.0%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Al:0.08%以下、Nb:0.005〜0.06%、Ti:0.007〜0.025%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、C(%)−0.065Nb(%)−0.025Mo(%)−0.057V(%)(但し、含有しない元素は0とする)が0.05以上である鋼を、
1000〜1200℃に加熱し、未再結晶温度域の圧下率が50%以上、かつAr3温度以下の圧下率が10%以上で、圧延終了温度が(Ar3−70℃)〜Ar3の熱間圧延を行って鋼板とし、引き続き10℃/秒以上の冷却速度で、300超え〜550℃まで加速冷却を行った後、冷間成形により鋼管形状とし、突き合せ部をシーム溶接後、拡管率が0.5〜1.5%で拡管して製造した鋼管に、表面温度が180〜300℃で、180℃以上に加熱される時間が1分以上、5分未満となる熱処理を行うことを特徴とする、圧縮強度の高いラインパイプの製造方法。 - さらに質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下、Ca:0.001〜0.004%の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の圧縮強度の高いラインパイプの製造方法。
- 加速冷却後に、鋼板表面温度が、450〜700℃で且つ、加速冷却停止時の鋼板温度より50℃以上高温となる温度に再加熱処理を施すことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の圧縮強度の高いラインパイプの製造方法。
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