c面GaNウエハ上に半導体レーザが作製されている。ピエゾ電界が実質的に零にできるので、非極性面(a面、m面)GaNウエハ上に半導体レーザを作製することが研究されている。また、ピエゾ電界の影響が残るけれども、半極性面GaNウエハ上に半導体レーザを作製することに着目されている。
c面GaNウエハを用いる半導体レーザと異なって、非極性面及び半極性面を用いる半導体レーザは光学異方性を示し、また、低いしきい値の半導体レーザを得るために、へき開端面の向きが重要である。非特許文献2に示されるように、m面GaN基板上の半導体レーザはa軸方向に偏光するので、劈開はc面で行うことによって、遷移確率の高い成分をTEモードとして利用できる。しかしながら、非特許文献2のレーザ構造を非極性面から傾斜された半極性面に適用するとき、劈開のc面は導波方向に傾斜してしまい、共振器が得られない。一方、非特許文献1及び2における偏光度は、0.7程度またはそれ以上である。
III族窒化物半導体レーザでは、偏光度はしきい値電流と関連している。発明者らの知見によれば、偏光度が負値またはゼロに近い値であるとき、III族窒化物半導体レーザのしきい値電流が低くなると考えられる。
本発明は、このような事情を鑑みて為されたものであり、半極性面を用いて低しきい値を提供できるIII族窒化物半導体レーザを提供することを目的とし、またこのIII族窒化物半導体レーザを作製する方法を提供することを目的とする。
本発明に係る一側面は、III族窒化物半導体レーザである。このIII族窒化物半導体レーザは、(a)六方晶系のIII族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向の基準軸に直交する基準面に対して該III族窒化物半導体のa軸方向及びm軸方向のいずれか一方に50度以上70度以下の範囲の傾斜角で傾斜する主面を有する半導体基板と、(b)前記半導体基板上に設けられた第1導電型窒化ガリウム系半導体からなる第1のクラッド層と、(c)前記半導体基板上に設けられた第2導電型窒化ガリウム系半導体からなる第2のクラッド層と、(d)前記第1のクラッド層と前記第2のクラッド層との間に設けられた活性層とを備える。前記活性層における導波方向は、a軸方向及びm軸方向のいずれか他方に向いている。前記導波方向に向いたX1軸、このX1軸に直交するX2軸、および前記X1軸及びX2軸に直交するX3軸からなる直交座標系において、前記n型窒化ガリウム系半導体領域、前記活性層及び前記p型窒化ガリウム系半導体領域は、前記X3軸の方向に配列されている。前記活性層は多重量子井戸構造を有しており、前記多重量子井戸構造は、前記X3軸の方向に交互に配列された井戸層及び障壁層を含み、前記井戸層はInGaNからなり、前記障壁層はGaNまたはInGaNからなる。前記多重量子井戸構造は、前記井戸層と前記障壁層とのバンドギャップエネルギ差及び前記井戸層の厚みの少なくともいずれかにおいて、当該III族窒化物半導体レーザのLEDモードにおける偏光度Pが−1以上0.1以下になるように設けられている。前記偏光度Pは、前記LEDモードにおける光の該X1方向の電界成分I1と該X2方向の電界成分I2とを用いて、
P=(I1−I2)/(I1+I2)
によって規定される。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、c面を用いる発光ではランダム偏光を示すけれども、c面から傾斜した面における発光では光学的異方性が現れ、上記の50度以上70度以下の角度の範囲の傾斜面では、該半導体レーザのLEDモードにおける光の偏光度を、ゼロに近い値にまで小さくでき、または負値にできる。このとき、半導体レーザのTEモードに一致した光の偏光成分を大きくでき、半導体レーザのしきい値を下げることができる。つまり、上記の半極性面上の多重量子井戸構造では、圧縮歪みの作用に比べて量子閉じ込め性の作用を強めることによって、LEDモードにおける偏光度が小さくなり、ゼロに近い値または負値にすることができる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記活性層の前記多重量子井戸構造の発振波長は、450nm以上であり、550nm以下であることができる。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、偏光度は波長依存性を示し、この範囲であれば、偏光度を−1≦P≦0.1の範囲に実現できる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記井戸層の厚さが2nm以上10nm以下であることができる。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、狭い井戸幅により、ゼロに近い或いは負の偏光度を提供しやすくなる。一方、上記の傾斜角の範囲では、厚さ2nm以上10nm以下の井戸層を用いて、偏光度を−1≦P≦0.1の範囲に実現できる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記傾斜の方向はa軸の方向である。当該III族窒化物半導体レーザは、該六方晶系III族窒化物のm劈開面によって構成された一対の端面を更に備えることができる。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、III族窒化物半導体レーザの共振器をm劈開面を用いて構成できる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記半導体基板の前記主面は、例えば(11−22)面及び(11−2−2)面のいずれか一方である。このIII族窒化物半導体レーザによれば、a軸方向への傾斜が可能である。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記傾斜の方向はm軸の方向である。当該III族窒化物半導体レーザは、該六方晶系III族窒化物のa劈開面によって構成された一対の端面を更に備えることができる。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、III族窒化物半導体レーザの共振器をa劈開面を用いて構成できる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記半導体基板の前記主面は(10−11)面及び(10−1−1)面のいずれか一方である。このIII族窒化物半導体レーザによれば、m軸方向への傾斜が可能である。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記半導体基板はGaNからなる。このIII族窒化物半導体レーザによれば、良好な結晶品質のエピタキシャル膜が得られる。また、オフ角付きのGaNウエハを作製可能である。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記第1のクラッド層と前記活性層との間に設けられたInGaN層を更に備えることができる。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、InGaN層は活性層への応力を調整する緩衝層として作用する。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記第1のクラッド層と前記InGaN層との界面に、ミスフィット転位がある。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、ミスフィット転位によってInGaN層が緩和することにより歪の異方性が変化する。この歪みの変化により、偏光度を−1≦P≦0.1の範囲にするために利用できる。ミスフィット転位は、InGaN層のc面がすべり面となって導入されていると考えられる。このミスフィット転位は、半導体基板を用いることによって導入されている。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記InGaN層のインジウム組成は0.01以上であり、前記InGaN層のインジウム組成は0.1以下であり、前記InGaN層は前記第1のクラッド層の主面と接触しており、前記第1のクラッド層の格子定数は前記InGaN層の格子定数と異なる。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、ミスフィット転位導入のためにはある程度のIn組成が必要である。一方で、高すぎるIn組成は活性層の結晶品質を低下させる可能性がある。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記InGaN層の厚さは20nm以上であり、前記InGaN層の厚さは150nm以下である。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、ミスフィット転位導入のためにはある程度の膜厚が必要である。一方で、厚すぎる膜厚は活性層の結晶品質を低下させる可能性がある。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記InGaN層は第1の光ガイド層であり、当該III族窒化物半導体レーザは、前記第2のクラッド層と前記活性層との間に設けられた第2の光ガイド層を更に備えることができる。前記第2の光ガイド層はInGaNからなる。
このIII族窒化物半導体レーザによれば、第1及び第2の光ガイド層は、InGaNからなる。レーザのビームパターンを整えると共に、ミスフィット転位の導入を可能にしている。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記偏光度Pは負値である。このIII族窒化物半導体レーザによれば、低いしきい値を実現できる。
本発明に係るIII族窒化物半導体レーザでは、前記傾斜角は58度以上であり、62度以下である。このIII族窒化物半導体レーザは、この角度範囲において、偏光度Pは負値である。
本発明の別の側面は、III族窒化物半導体レーザを作製する方法である。この方法は、(a) 六方晶系のIII族窒化物半導体からなり、該III族窒化物半導体のc軸方向の基準軸に直交する基準面に対して該III族窒化物半導体のa軸方向及びm軸方向のいずれか一方に50度以上70度以下の範囲の傾斜角で傾斜する主面を有する半導体ウエハを準備する工程と、(b)第1導電型窒化ガリウム系半導体からなる第1のクラッド層を前記半導体ウエハ上に成長する工程と、(c)前記InGaN層上に活性層を成長する工程と、(d)第2導電型窒化ガリウム系半導体からなる第2のクラッド層を前記活性層上に成長する工程とを備える。前記活性層における導波方向は、a軸方向及びm軸方向のいずれか他方に向いている。前記導波方向に向いたX1軸、このX1軸に直交するX2軸、および前記X1軸及びX2軸に直交するX3軸からなる直交座標系において、前記n型窒化ガリウム系半導体領域、前記活性層及び前記p型窒化ガリウム系半導体領域は、前記X3軸の方向に配列されており、前記活性層は多重量子井戸構造を有しており、前記多重量子井戸構造は、前記X3軸の方向に交互に配列された井戸層及び障壁層を含み、前記井戸層はInGaNからなり、前記障壁層は窒化ガリウム系半導体からなり、前記多重量子井戸構造は、前記井戸層と前記障壁層とのバンドギャップエネルギ差及び前記井戸層の厚みの少なくともいずれかにおいて、当該III族窒化物半導体レーザのLEDモードにおける偏光度Pが−1以上0.1以下になるように設けられており、前記偏光度Pは、前記LEDモードにおける光の該X1方向の電界成分I1と該X2方向の電界成分I2とを用いて、
P=(I1−I2)/(I1+I2)
によって規定される。
この方法によれば、c面を用いる発光ではランダム偏光を示すけれども、c面から傾斜した面における発光では光学的異方性が現れ、上記に50度以上70度以下の角度の傾斜面では、該半導体レーザのLEDモードにおける光の偏光度を、ゼロに近い値にまで小さくでき、または負値にできる。このとき、半導体レーザのTEモードに一致した光の偏光成分を大きくでき、半導体レーザのしきい値を下げることができる。つまり、上記の半極性面上の多重量子井戸構造では、圧縮歪みの作用に比べて量子閉じ込め性の作用を強めることによって、LEDモードにおける偏光度を小さくして、ついには負値にすることができる。
本発明に係る方法は、前記活性層を成長する前に、前記第1のクラッド層上にInGaN層を成長する工程を更に備えることができる。この方法によれば、InGaN層は活性層への応力を調整する緩衝層として作用する。
本発明に係る方法では、前記InGaN層のインジウム組成は0.01以上であり、記InGaN層のインジウム組成は0.1以下であることができる。前記InGaN層は前記第1のクラッド層の主面と接触しており、前記第1のクラッド層の格子定数は前記InGaN層の格子定数と異なる。
この方法によれば、ミスフィット転位導入のためにはある程度のIn組成が必要である一方で、高すぎるIn組成は活性層の結晶品質を低下させる可能性がある。
本発明に係る方法では、前記InGaN層の厚さは20nm以上であり、前記InGaN層の厚さは150nm以下である。
この方法によれば、ミスフィット転位導入のためにはある程度の膜厚が必要である一方で、厚すぎる膜厚は活性層の結晶品質を低下させる可能性がある。
本発明に係る方法では、前記第1のクラッド層と前記InGaN層との界面に、ミスフィット転位があり、前記ミスフィット転位の密度は5×103cm−1以上1×105cm−1以下であることができる。
本発明の上記の目的および他の目的、特徴、並びに利点は、添付図面を参照して進められる本発明の好適な実施の形態の以下の詳細な記述から、より容易に明らかになる。
以上説明したように、本発明によれば、半極性面を用いて低しきい値を提供できるIII族窒化物半導体レーザが提供される。また、本発明によれば、このIII族窒化物半導体レーザを作製する方法が提供される。
本発明の知見は、例示として示された添付図面を参照して以下の詳細な記述を考慮することによって容易に理解できる。引き続いて、添付図面を参照しながら、本発明の、III族窒化物半導体レーザ、エピタキシャルウエハ、並びにエピタキシャルウエハ及びIII族窒化物半導体レーザを作製する方法に係る実施の形態を説明する。可能な場合には、同一の部分には同一の符号を付する。
図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物半導体レーザを概略的に示す図面である。図1には、X1軸、X2軸及びX3軸を有する直交座標系Sと、a軸、m軸及びc軸方位を示すための結晶座標系CRとが示されている。引き続く説明では、窒化ガリウム系半導体の例えば(0001)面の反対面を(000−1)面という表記で示す。
III族窒化物半導体レーザ11は、半導体基板13と、第1のクラッド層15と、活性層17と、第2のクラッド層19とを備える。半導体基板13は主面13a及び裏面13bを有する。半導体基板13は、六方晶系のIII族窒化物半導体からなり、このIII族窒化物半導体は、例えばGaN等である。半導体基板13の主面13aは、該III族窒化物半導体のa軸方向及びm軸方向のいずれか一方に該III族窒化物半導体のc軸方向の基準軸Cxに直交する基準面に対して50度以上70度以下の範囲の傾斜角AOFFで傾斜する。この角度AOFFは、本実施例では、ベクトルVCとベクトルVNとの成す角の余角に等しい。図1には、代表的なc面SC及びc軸ベクトルVCが示されており、主面13aへの法線ベクトルVNも示されている。第1のクラッド層15は、半導体基板13の主面13a上に設けられており、また第1導電型の窒化ガリウム系半導体からなる。第1のクラッド層15の窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InAlGaN等からなる。活性層17の光の導波方向は、a軸方向及びm軸方向のいずれか他方であり、図1では軸Axが導波方向を示す。導波された光は端面から出射されるレーザ光L0となる。第2のクラッド層19は、半導体基板13の主面13a上に設けられており、また第2導電型の窒化ガリウム系半導体からなる。第2のクラッド層19の窒化ガリウム系半導体は、例えばGaN、AlGaN、InAlGaN等からなる。活性層17は第1のクラッド層15と第2のクラッド層19との間に設けられている。活性層17は多重量子井戸構造22を有する。多重量子井戸構造22は、X3軸の方向に交互に配列された井戸層23a及び障壁層23bを含み、井戸層23aはInGaNからなり、障壁層23bはGaNまたはInGaNからなる。本実施例では、III族窒化物半導体レーザ11は、X1軸の方向に導波方向(図1では、m軸方向)を有するゲインガイド型を有する。III族窒化物半導体レーザ11では、半導体基板13上において、n型窒化ガリウム系半導体領域、活性層及びp型窒化ガリウム系半導体領域はX3軸の方向に配列されている。多重量子井戸構造は、井戸層23aと障壁層23bとのバンドギャップエネルギ差及び井戸層23の厚みDWの少なくともいずれかによって当該III族窒化物半導体レーザのLEDモードにおける偏光度Pが−1以上0.1以下になるように設けられている。III族窒化物半導体レーザのLEDモードにおける光は、この半導体レーザがレーザ発振を到達する前に活性層から出射される光である。偏光度Pは、このLEDモードにおける光の該X1方向の電界成分I1と該X2方向の電界成分I2とを用いて、
P=(I1−I2)/(I1+I2)
によって規定される。
このIII族窒化物半導体レーザ11によれば、c面を用いる発光ではランダム偏光を示すけれども、c面から傾斜した面における発光では光学的異方性が現れ、上記の50度以上70度以下の角度範囲におけるGaN傾斜面(つまり、半極性面)では、該半導体レーザ11のLEDモードにおける光の偏光度Pを、ゼロに近い値にまで小さくでき、または負値にできる。このとき、半導体レーザ11のTEモードに一致した光の偏光成分を大きくでき、半導体レーザ11のしきい値が低減される。つまり、上記の半極性面上の多重量子井戸構造22では、LEDモードにおける偏光度を小さくして、ついには負値にすることができる。偏光度に関しては、強い圧縮歪みの多重量子井戸構造では偏光度は増加して「1」に近づく。一方、本実施の形態に係る上記範囲(−1以上0.1以下)の偏光度Pは、圧縮歪みの作用よりも、量子閉じ込め性の作用によって提供されると考えられる。量子閉じ込め性を相対的に強めるためには、例えば井戸層と障壁層とのバンドギャップエネルギ差を大きくすることが好適であり、井戸層の厚みを小さくすることが好適である。長波長の発光を得るためにInGaN井戸層のIn組成を増加することは、量子閉じ込め性を強化することを可能にする。
III族窒化物半導体レーザ11では、多重量子井戸構造22の発振波長は、450nm以上である。また、発振波長は、550nm以下であることあることができる。偏光度Pは波長依存性を示し、この範囲であれば、偏光度Pを−1≦P≦0.1の範囲に実現できる。多重量子井戸構造22において、井戸層23aの厚さDWは2nm以上であることができる。また、厚さDWは10nm以下であることができる。狭い井戸幅により、ゼロに近い或いは負の偏光度を提供することが容易になる。一方、上記の傾斜角の範囲では、厚さ2nm以上10nm以下の井戸層を用いて、偏光度を−1≦P≦0.1の範囲に実現できる。
III族窒化物半導体レーザ11はInGaN層27を更に備えることができる。InGaN層27は、第1のクラッド層15と活性層17との間に設けられている。InGaN層27は活性層17への応力を調整するための緩衝層として作用する。例えば、InGaN層27は第1のクラッド層15の主面と接触しており、第1のクラッド層15の格子定数はInGaN層27の格子定数と異なる。また、InGaN層27は活性層17と接触しており、活性層17の井戸層23aの格子定数はInGaN層27の格子定数と異なる。
第1のクラッド層15とInGaN層27との界面29に、ミスフィット転位がある。ミスフィット転位の導入によってInGaN層27が緩和することにより、活性層17における歪の異方性が変化する。この歪みの変化により、−1≦P≦0.1の範囲の偏光度Pを実現できると考えられる。ミスフィット転位はInGaN層のc面がすべり面として作用して導入されていると考えられる。このミスフィット転位は、半導体基板を用いることによって導入されている。歪の異方性を変化させるにはある程度の転位密度が必要であるので、ミスフィット転位の密度は5×103cm−1以上であることができる。また、高すぎる転位密度は結晶品質を悪化させる可能性があるので、ミスフィット転位の密度は1×105cm−1以下であることができる。
InGaN(InXGa1−XN)層27のインジウム組成Xは0.01以上であることができる。ミスフィット転位導入のためには、ある程度のIn組成が必要である。インジウム組成Xは0.1以下であることができる。高すぎるIn組成は活性層17の結晶品質を低下させる可能性がある。
また、InGaN層27の厚さD27は20nm以上であることができる。ミスフィット転位導入のためにはある程度の膜厚が必要である。この厚さD27は150nm以下であることができる。厚すぎる膜厚Dは活性層17の結晶品質を低下させる可能性がある。
III族窒化物半導体レーザ11では、光ガイド層31を更に備えることができる。光ガイド層31は、第2のクラッド層19と活性層17との間に設けられている。光ガイド層31はInGaNからなる。光ガイド層31は、いわゆる上側光ガイド層として作用するとき、InGaN層27は下側光ガイド層として作用する。これらの光ガイド層27、31はレーザのビームパターンを整えると共に、光ガイド層27はミスフィット転位の導入を可能にしている。光ガイド層31のIn組成は、例えば0.01以上0.1以下であることができる。光ガイド層27はアンドープInGaNからなることができ、光ガイド層31はアンドープInGaNからなることができる。
III族窒化物半導体レーザ11は、第2のクラッド層19と活性層17との間に設けられた電子ブロック層33を更に含む。電子ブロック層33のバンドギャップは、光ガイド層31のバンドギャップよりも大きく、また第2のクラッド層19のバンドギャップよりも大きい。電子ブロック層33は、例えばAlGaNからなる。
III族窒化物半導体レーザ11は、必要な場合には、第2のクラッド層19上に設けられたコンタクト層35を更に含む。コンタクト層35のドーパント濃度は第2のクラッド層19のドーパント濃度よりも大きい。コンタクト層35は、例えばp型GaN等からなることができる。
III族窒化物半導体レーザ11は、劈開面によって構成された一対の端面37a、37bを更に含むことができる。傾斜の方向はa軸方向であるとき、m面における劈開面が可能になる。III族窒化物半導体レーザ11の端面37a、37bはm面劈開面である。m面劈開面を用いてIII族窒化物半導体レーザ11の共振器を構成できる。また、傾斜の方向はm軸方向であるとき、a面における劈開面が可能になる。III族窒化物半導体レーザ11の端面37a、37bはa面劈開面である。a面劈開面を用いてIII族窒化物半導体レーザ11の共振器を構成できる。端面37a、37bと導波方向を示す軸Axとの成す角は、−1度以上+1度以下の範囲にあることができる。
半導体基板13の主面13aは、例えば(11−22)面(オフ角58度a軸方向)及び(11−2−2)面のいずれか一方であるとき、a軸方向への傾斜が可能である。また、半導体基板13の主面13aは(10−11)面(オフ角62度m軸方向)及び(10−1−1)面のいずれか一方であるとき、m軸方向への傾斜が可能である。
III族窒化物半導体レーザでは、p型窒化ガリウム半導体領域39aの表面を覆う保護膜41を更に備える。保護膜41には、導波方向に延在するコンタクト窓41aが設けられている。電極(例えば、アノード)43aは、コンタクト窓41aを介して窒化ガリウム半導体領域39aに接触を成す。一方、電極(例えば、カソード)43bは、半導体基板13bの裏面13bに接触を成す。アノード及びカソード間に電源を接続するとき、アノードから導電性の半導体基板を介してカソードに電流が流れる。半導体基板13は例えば導電性GaNからなることができる。GaNは、導電性を基板に付与することを可能にすると共に、良好な結晶品質のエピタキシャル膜の成長を提供できる。また、オフ角付きのGaNウエハを作製可能である。
(実施例1)
種々のオフ角を有する半極性GaNウエハを準備した。c面とウエハ主面との成す角度(オフ角)は、例えばm軸方向43度、a軸方向58度、m軸方向62度、m軸方法75度であった。GaNウエハ上に図2に示される発光ダイオード(LED)構造を作製した。エピタキシャル成長は、有機金属気相成長法により行われ、エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いる。以下の工程を行って、図2に示されたエピタキシャルウエハを作製する。
GaNウエハ上に以下の条件でエピタキシャル成長を行った。GaNウエハのエッジ上の2点間の間隔の最大値は、例えば45mm以上である。まず、前処理工程を行うために、GaNウエハを成長炉のサセプタ上に配置した。成長炉にNH3及びH2を供給しながら、前処理として、摂氏1050度の温度で熱処理を行った。熱処理時間は例えば10分であった。この熱処理の後にn型半導体成長工程を行うために例えば摂氏1150度の温度に基板温度を変更した。摂氏1150度の基板温度でTMG、NH3、SiH4を成長炉に供給して、SiドープGaN層を成長した。GaN層の厚さは例えば2マイクロメートルである。
次の工程では、オフ角に応じてインジウム組成を調整するために、摂氏650度以上摂氏880度以下の範囲の基板温度を用いて、以下の半導体層の成長を行った。TMG、TMI、NH3、SiH4を成長炉に供給して、SiドープInGaN層を成長した。InGaN層の厚さは例えば100nmである。InGaN層のIn組成は例えば0.04である。
活性層を成長する工程を行った。まず、障壁層成長工程では、障壁層の成長温度(TB)でTMG、NH3を成長炉に供給して、アンドープGaN障壁層を成長した。このGaN層の厚さは15nmである。GaN障壁層の成長後に成長を中断して、成長温度(TB)から井戸層の成長温度(TW)に基板温度を変更した。変更後に、井戸層成長工程では、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、アンドープInGaN井戸層を成長した。InGaN井戸層の厚さは3nmであった。このInXGa1−XNのIn組成Xは例えば0.2であった。InGaN井戸層の成長後に、TMIの供給を停止した。次いで、NH3を成長炉に供給しながら、成長温度(TW)から成長温度(TB)に基板温度を変更した。変更後に、障壁層成長工程を行って、アンドープGaN障壁層を成長した。GaN障壁層の厚さは15nmである。繰り返し工程では、井戸層の成長、温度変更、障壁層の成長を繰り返して、InGaN井戸層及びGaN障壁層を形成した。
p型半導体成長工程では、活性層上にp型GaN系半導体領域が成長される。例えば、GaN障壁層の成長後に、TMGの供給を停止して、基板温度を摂氏1000度に上昇した。この温度で、TMG、TMA、NH3、Cp2Mgを成長炉に供給して、p型Al0.18Ga0.82N電子ブロック層を成長した。この電子ブロック層は例えば20nmであった。この後に、TMAの供給を停止して、p型GaNコンタクト層を成長した。p型GaNコンタクト層は例えば50nmであった。成膜後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャルウエハELEDを作製した。
電極形成工程では、エピタキシャルウエハELED上に電極を形成する。まず、p型GaNコンタクト層上にp側電極(透明電極Ni/Au)を形成する。この後に、pパッド電極(Ti/Au)を形成する。n側電極(Ti/Al)をGaNウエハの裏面に形成する。この後に、電極アニール(例えば、摂氏550度で1分)を行う。これの工程により、半導体発光素子の基板生産物が得られた。
図2は、発光ダイオード構造LED及びそのためのエピタキシャルウエハELEDの構造を示す図面である。発光ダイオード構造LED及びエピタキシャルウエハELEDは、GaNウエハ51の主面51a上に順に成長されたn型GaN半導体層52、n型InGaN層53、活性層54、p型電子ブロック層55及びp型コンタクト層56を含む。活性層54は、障壁層54a及び井戸層54bを含む。また、エピタキシャルウエハELEDのコンタクト層56上にはアノード57aが形成されると共に、GaNウエハの裏面51bにはカソード57bが形成される。
これらのLED構造のアノード57a及びカソード57bに電源59を接続して、コンタクト層56を介してLED構造の上面からの光LLEDの偏光度を測定した。図3は、オフ角と偏光度との関係を示す図面である。図3を参照すると、例えばm軸方向43度(矢印A43)、a軸方向58度(矢印A58)、m軸方向62度(矢印A62)、m軸方法75度(矢印A75)が示されている。偏光度特性線P0は、角度AD0、AU0においてゼロ偏光を示す。図3より、角度AD0は約50度であり、角度AU0は約68度である。また、偏光度特性線P0は、角度AD、AUにおいて偏光度0.1を示す。図3から角度ADは約49度であり、角度AUは約73度である。図3に示されるように、偏光度特性線P0は、c面からの傾斜角AOFFの増加に伴って正の偏光度の領域において一旦増加する。しかしながら、偏光度特性線P0は、傾斜角が30度を超えると、傾斜角AOFFの増加に伴って減少して、角度AD当たりで偏光度0.1以下になり、更には角度AD0当たり負値になる。そして、60度付近の傾斜角で最小値になり、傾斜角AOFFの増加に伴って増加して、角度AU0当たり正値になり、角度AU当たりで偏光度0.1を越えて、さらに増加する。
図4は、代表的な傾斜角AOFFの58度(a軸方向傾斜)及び62度(m軸方向傾斜)において、LEDモードにおけるピーク発光波長と偏光度との関係を示す図面である。図4を参照すると、偏光度は、波長450nm近傍の波長ΛLにおいて0.1を示す。また、460nm近傍の波長Λ0において偏光度がゼロになる。波長ΛS1は450nmである。
このLED構造では、偏光度Pは波長依存性を示す。この実験に加えて発明者らの他の実験に基づき、450nm以上550nm以下のピーク発振波長の範囲において、偏光度Pを−1≦P≦0.1の範囲に実現できる。
また、負値の偏光度を得るためには、多重量子井戸構造のピーク発振波長は、460nm以上であり、550nm以下であることができる。この半導体レーザによれば、低いしきい値を実現できる。例えば58度以上62度以下の範囲の傾斜角では、偏光度Pは負値である。
図5は、LED構造のカソードルミネッセンス(CL)像を示す図面である。図5(a)〜図5(d)は、それぞれ、m軸方向43度オフ(偏光度:0.52)、a軸方向58度オフ(偏光度:−0.29)、m軸方向62度オフ(偏光度:−0.06)、m軸方向75度オフ(偏光度:0.24)のLED構造のCL像を示す。CL像の測定における加速電圧は、加速電子がInGaN層に到達できるように設定された。負値の偏光度を示す軸方向58度オフ及びm軸方向62度オフのCL像おいて、オフ方向と垂直方向に入っている暗線が観測された。暗線の向きから判断して、c面がすべり面となってミスフィット転位が導入されていると考えられる。半極性GaN基板では、半極性面に対して傾いた面(すべり面)上を転位のハーフループが広がることによって、すべり面と界面(上記のLED構造では、InGaN層とn型GaN層との界面)とが交差する位置にミスフィット転位が導入される。
図4に示されるように、発光ピーク波長が増加するとき、偏光度Pが減少する。この偏光度Pの振る舞いは、井戸層のIn組成の増加によって以下のように説明可能である。大きなIn組成の井戸層では、量子閉じ込め効果が強いと考えられる。また、図5の結果も、井戸層のIn組成の増加によって説明可能である。大きなIn組成の井戸層は、InGaN層とn型GaN層との界面に大きな応力を与えるので、この界面にミスフィット転位が生じやすいと考えられる。
図3〜図5の結果から、50度から70度の範囲のオフ角ではc面に対してせん断応力が大きく働き、InGaN層と下地GaN層との界面にミスフィット転位が導入されると考えられる。ミスフィット転位の導入によって、井戸層の歪みの面内異方性が変化して偏光度に影響を及ぼしていると考えられる。
c面がすべり面であるとき、c面のシュミット因子を見積もる。このシュミット因子は、c面においてすべりの起こる程度を表す。図6を参照しながら、シュミット因子を説明する。図6には、InGaN層の一部が円筒形状の物体として示されている。c面すべり面Sslipは法線ベクトルNslipによって示される方向に軸Axに対して傾斜している。c面すべり面SslipはすべりベクトルDslipによって示される方向(c軸の方向)にすべる。断面積Aに引っ張り張力Fを加えるとき、すべり方向のせん断応力τは、
τ=(F×cosλ)/(A/cosφ)=σ×cosλ×cosφ (1)
で表される。応力σ(=F/A)が臨界値以上であるとき、すべり面で変形が生じる。式(1)における「cosλ・cosφ」をシュミット因子(以下「FS」で表す)と呼ぶ。
図7は、オフ角とシュミット因子との関係を示す図面である。シュミット因子の大きさは、以下の順序である。
FSa58>FSm62>FSm43>FSm75 (2)
式(2)で示される順序は、CL像における暗線の発生とオフ角度との関係を定性的に支持している。CL像では、a軸方向58度のGaN基板上のLED構造、m軸方向62度のGaN基板上のLED構造にミスフィット転位が観測される。ミスフィット転位の発生の境界は、50度以下であり50度近傍の角度であり、また、70度以上であり70度近傍の角度である。
(実施例2)
実施例1では、LED構造からの発光を観測することによって、偏光度と角度との関係を見出した。実施例2では、半導体レーザ構造を、a軸方向58度傾斜のGaNウエハ上に作製した。エピタキシャル成長は、有機金属気相成長法により行われ、エピタキシャル成長のための原料として、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルインジウム(TMI)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)、シラン(SiH4)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いる。以下の工程を行って、図8に示されたエピタキシャルウエハ及び半導体レーザの作製を図9及び図10を参照しながら説明する。
工程S101では、50度以上70度以下の範囲内の傾斜角を有する半極性GaNウエハを準備した。実施例2では、a軸方向58度傾斜のGaNウエハ61を準備した。
GaNウエハ61上に以下の条件でエピタキシャル成長を行った。まず、工程S102では、GaNウエハ61を成長炉のサセプタ上に配置した。工程S103では、前処理を行うために成長炉にNH3及びH2を供給しながら、摂氏1050度の温度で熱処理を行った。熱処理時間は例えば10分であった。この熱処理の後に、工程S104では、n型半導体の成長を行うために例えば摂氏1150度の温度に基板温度を変更した。摂氏1150度の基板温度でTMG、TMA、NH3、SiH4を成長炉に供給して、SiドープAlGaN層62をGaNウエハ61の主面61a上に成長した。このAlGaN層62の厚さは例えば2マイクロメートルである。AlGaN層62のAl組成は例えば0.04である。
次の工程S105では、摂氏840度の基板温度で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、InGaN層63aをAlGaN層62上に成長した。InGaN層63aの厚さは例えば100nmであり、In組成は例えば0.04である。このInGaN層63aは光ガイド層としても働く。
活性層64を成長する工程S106を行った。まず、障壁層成長工程S107では、摂氏860度の成長温度(TB)でTMG、NH3を成長炉に供給して、アンドープGaN障壁層65aを成長した。このGaN層65aの厚さは例えば15nmである。温度変更の後に、井戸層成長工程S108では、摂氏790度の成長温度(TW)で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、アンドープInGaN井戸層65bをGaN障壁層65a上に成長した。InGaN井戸層65bの厚さは例えば3nmであった。このInXGa1−XNのIn組成Xは例えば0.18であった。In組成Xは例えば0.10以上0.40以下の範囲であることができる。InGaN井戸層65bの成長後に、成長温度(TW)から成長温度(TB)に基板温度を変更した。変更後に、障壁層成長工程S107を行って、アンドープGaN障壁層65aを成長した。GaN障壁層65aの厚さは例えば15nmである。繰り返し工程S109では、井戸層65bの成長、温度変更、障壁層65aの成長を繰り返して、交互に配列されたGaN障壁層65a及びInGaN井戸層65bを含む多重量子井戸構造を形成した。
次の工程S110では、摂氏840度の基板温度で、TMG、TMI、NH3を成長炉に供給して、InGaN層63bを活性層64上に成長した。InGaN層の厚さは例えば100nmであり、In組成は例えば0.04である。
p型半導体成長工程S111では、InGaN層63b上にp型GaN系半導体領域66が成長される。例えば、InGaN光ガイド層63bの成長後に、TMGの供給を停止して、基板温度を摂氏1000度に上昇した。この温度で、TMG、TMA、NH3、Cp2Mgを成長炉に供給して、p型AlGaN電子ブロック層66aをInGaN光ガイド層63b上に成長した。この電子ブロック層66aは例えば20nmであった。電子ブロック層66aのAl組成は例えば0.18であった。次いで、温度を変更せずに、TMG、TMA、NH3、Cp2Mgを成長炉に供給して、p型AlGaNクラッド層66bを電子ブロック層66a上に成長した。このp型クラッド層66bは例えば400nmであった。p型クラッド層66bのAl組成は例えば0.04であった。この後に、TMAの供給を停止して、p型GaNコンタクト層66cをp型クラッド層66b上に成長した。p型GaNコンタクト層66cは例えば50nmであった。成膜後に、成長炉の温度を室温まで降温して、エピタキシャルウエハELDを作製した。
電極形成工程S112では、エピタキシャルウエハELD上に、コンタクト窓を有する絶縁膜68を形成した後に、エピタキシャルウエハELD上にp側電極69aおよびn側電極69bを形成する。p型GaNコンタクト層66c上にp側透明電極(Ni/Au)を形成する。この後に、アノードパッド電極(Ti/Au)を形成する。絶縁膜は例えばシリコン酸化膜である。コンタクト窓は、例えば幅10μmのストライプ形状を成す。カソード電極(Ti/Al)をGaNウエハ61の裏面61bに形成する。この後に、電極アニール(例えば、摂氏550度で1分)を行う。これの工程により、半導体発光素子の基板生産物が得られた。
へき開工程S113では、基板生産物を所定の間隔でへき開を行って、レーザ共振器を作成した。へき開により、例えばレーザ共振器は一対のm面劈開面を含む。これらの工程によって、半導体レーザDMが作製された。
比較のために、c面GaNウエハ上にも同様なレーザ構造をエピタキシャル成長により作製した。半導体レーザDCが作製された。
図11は、半導体レーザDM及びDCの特性を示す図面である。図11(a)を参照すると、注入電流密度と、LEDモードにおける発光スペクトルのピーク波長との関係が示されている。図11(b)を参照すると、注入電流密度と、LEDモードにおける発光スペクトルの半値幅との関係が示されている。
半導体レーザDMは半極性面(a軸方向に58度の傾斜面)上に作製されているので、半導体レーザDMのブルーシフトは半導体レーザDCに比べて小さい。また、半導体レーザDMの半値幅も半導体レーザDCに比べて小さい。半値幅の振る舞いは、以下のように理解される。半導体レーザDCは大きなピエゾ効果を示すので、活性層への注入電流の量に応じて活性層の各井戸層毎にキャリア密度に差が生じる。キャリア密度の差に起因して各井戸層のピエゾスクリーニングの程度に差異が生じる。このため、LEDモードの発光スペクトルにおいて半値幅が大きくなる。一方、半導体レーザDMのピエゾ分極は半導体レーザDCに比べて小さいので、各井戸層におけるピエゾスクリーニングの程度の差は小さい。加えて、半導体レーザDMの井戸層では、In組成の不均一性が半導体レーザDCに比べて小さい。このIn組成の均一性も、LEDモードの発光スペクトルにおける半値幅の縮小に寄与している。
半導体レーザDMにおいて注入電流5mAで測定した偏光度は+0.02であった。この偏光度は、これまでの報告例に比べて小さい。半導体レーザDM及びDCへの印加電流を増加したとき、半導体レーザDMでは850mAの電流でレーザ発振が生じた。一方、半導体レーザDCでは900mAの電流でレーザ発振が生じた。
以上説明したように、非常に小さい偏光度(0.1以下−1以上)の半導体レーザが得られた。m面へき開による端面ミラーを用いて、比較例に比べて低いしきい値が得られたと考えられる。
好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。