JP5370728B2 - Mas試料管 - Google Patents
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Description
MAS試料管はもともと固体試料専用に開発されてきており、その場合、試料空間は固体粉末を封止できれば十分であり、気密性は特には重要視されてこなかった。
ところが、未硬化のエポキシ樹脂等の高粘度液体に代表される液体試料や生体膜上の蛋白質等に代表される湿潤試料、液中に触媒等の粒子や繊維が分散した懸濁液試料やゲル状試料、または、昇華性固体試料や特定雰囲気下における固体試料などを、気密を保ったままMAS測定を行いたいという要望が出てきた。本明細書においては、これらの、MAS試料管に対して気密性を要求する試料を総称して液状試料と記す。
この要望にこたえるために、図14に示すようなMAS試料管が提案された。
当該試料管では、上下栓(片方の蓋はタービン翼を兼ねる)は、硬質樹脂で出来ており、それぞれゴムのOリングを有していて、前記Oリングを圧縮変形しながら圧入することにより、筒状の本体に取り付けられる。当該試料管は、このようにして試料管内の気密を保つ構造となっているので、上下栓の内、最後の栓を押し込むとき、Oリングが密着し始めてから、その栓が所定の位置に達するまでの間、試料空間を密閉したまま圧縮することになり、試料空間には体積圧縮を担う空気が残ってしまうこととなる。
このため、試料の充填率が悪くなり信号強度(S/N)的に不利なだけでなく、試料空間が正圧となり、栓には外れる方向の力が常に加わることとなる。これにより、MASの高速回転中の振動で栓が外れてくる恐れがあり、MASの最高回転数が制限される。
この他に、上下栓に比較的軟質な樹脂材料を用いて、気密を保つようにした例もあるが、この場合は樹脂部品の変形により最高回転数が制限されるため(4mm試料管で概ね8kHz)、高速MAS測定には利用できない。
実験化学講座8「NMR・ESR」第5版、日本化学会編、(丸善、2006)
発明4は、発明1から3のいずれかのMAS試料管において、前記弾性筒状体の頂部により区画された試料収納空間の一端部と前記挿入子の頂部との間に間隙を有さしめてあることを特徴とする。
また、筒体内の試料保持空間に圧力をかけることなく、密封することができるので、MASの最高回転数を従来の固体試料と同様なものとしても、栓が外れるおそれがなくなった。より具体的には以下のような機能によるものである。
発明1は上記のように栓を構成することにより、当該栓の主体である弾性筒状体を、本体に挿入される際には、本体との間に隙間を有することとなり、この栓を最後にして密封することで、本体内の余分な空気を圧縮することなく、外部に放出することができる。
その後、この弾性筒状体に挿入子を挿入することで、前記弾性筒状体はその径方向に膨らむこととなり、液状試料側に圧縮力を付加することなく、容易に弾性筒状体の外周を本体内面に密着できるようになった。
その結果、内部に液状試料のみを封入することが容易に行えると共に、内外の圧力差を生じずに液状試料を密封できるようになった。
さらに、発明2では、ストッパーによる弾性筒状体の入り込みを阻止できることから、挿入子を挿入するときに与えられる弾性筒状体への本体への侵入方向の分力をもこのストッパーにて受け止め、内部の試料に圧力をかけることがなくなった。
また、発明3では、試料収納空間内の液状試料が試料管本体とともに回転するにあたり、中央側での回転が遅れる若しくは回転しないという事態を防止して、試料全体を試料管とともに確実に回転させることができるようになる。
また、発明4では、硬質の挿入子は材質により測定を狂わせるおそれがあるが、このように間隙を設けることで、挿入子による外乱をなくすることができる。
弾性筒状体や上部栓の材料として、封入される試料との接触によっても化学変化を生じず、また、MASの回転による遠心力を受けても、密封状態を保つ保形性と、挿入子や本体の挿入に際して弾性変形できる変形性を持ち合わせている材料であって、大きな磁化率を持っていたり、バックグラウンド信号等の原因となってNMR測定に悪影響をもたらす可能性がある不純物や添加物が含有されていないものであれば使用できる。
本明細書中で示した、「テフロン(登録商標)」および「ダイフロン(登録商標)」はそれぞれ「米国デュポン社」および「ダイキン工業株式会社」の登録商標である。本発明の実施に際して求められる材料の特性としては、必ずしも特定の商品ではなく、同等の組成や類似の特性をもつ素材でも満たされる。以下では、「ポリテトラフルオロエチレンおよびその類似品」を「テフロン(登録商標)」で代表し、また、「3弗化塩化エチレン樹脂およびその類似品」をダイフロン(登録商標)で代表して記述してある。
テフロン(登録商標)およびダイフロン(登録商標)は、適度の弾性や保形性の機械的物性と、化学的にも電気的に安定な性質を併せ持つため、弾性筒状体や上部栓の材料として、適している。テフロン(登録商標)は、ダイフロン(登録商標)に比べて弾性が大きいため、弾性筒状体の材料として、さらに適している。
MAS試料管は本体の円筒中心軸を軸として超高速回転するので、重心がずれることによる芯ぶれを防ぐため、各部品は、中心軸に対して回転対称的に形成しなければならない。
部品の加工精度に対しては、中心軸に対しての真円性や同芯性といった回転対象性に関する項目では、特に厳密な公差管理が要求される。また、部品の形状は特に断らない限り回転対称性を持つことが期待される。
両端が解放された直線円筒状でセラミクス製の本体(110)の上部には、テフロン(登録商標)製の上栓(30)と、挿入部(122)の上端にタービン翼(121)が付いたキャップ(120)が挿入され、下部には、弾性筒状体(10)と、これに挿入される挿入子(20)とからなる下栓が挿入される構造となっている。
前記タービン翼(121)については逆配置の構成とすること、すなわち、(120)を単なるキャップとし、硬質カバー(15)に相当する部分にタービン翼を形成することも可能である。
前記上栓(30)は、前記本体(110)の内面(112)の内径(d)よりも大きい直径を有する膨出部(31)を上下中間部に形成してあり、中央には、上方を解放したメクラ孔状の穿孔(32)が形成してある。
この穿孔(32)は、圧入時の上栓(30)の素材によるバックグラウンド信号の影響を軽減するために設けられている。また、分解時にタッピングネジをねじ込んで把持して、本体(110)から引き出すために用いる。
このようにして、前記上栓(30)は前記本体(110)に挿入したとき、膨出部(31)が弾性変形しつつ本体内面(112)と密着し気密を保つことができる。また、上栓(30)は、本体(110)への差し込み深さにより、前記下栓とによって形成される試料収納空間の大きさを調整できるようにしてある。
前記硬質カバー(15)は機械的強度に優れたPEEK等の硬質樹脂とする。機械的強度が不足すると、MASの高速回転中に変形するおそれがあるからである。
また、挿入子(20)は、全体としては前記挿入孔(12)の内径と同様な外形を基本とし、上端部と下部の二か所に、前記挿入孔(12)の内径よりも大きく、その挿入により前記弾性筒状体(10)の外径を前記本体(110)の内径(d)よりも大きくなるほどに膨張させる膨出部(21)(22)と、下端を解放したメクラ孔状の穿孔(23)とにより構成してある。
そして、挿入子(20)を前記弾性筒状体(10)内に図2に示すように挿入すると、前記挿入子(20)の膨出部(21)(22)により、前記弾性筒状体(10)の直径を拡大して、その空気を追い出した状態のままで、前記液状試料(S)に圧力を掛けることなく、密封することができた。
なお、前記穿孔(23)は、分解時にタッピングネジをねじ込んで把持して、前記弾性筒状体(10)から引き出すためのものである。
なお、前記キャップ(120)を挿入する前に、前記上栓(30)を突き棒などで押し込むか、あるいは適当な円柱状のスペーサを挿入することで、前記キャップ(120)による押し込み位置以上に深い位置に前記上栓(30)を配置することが可能である。
変形により弾性筒状体(10)の該当箇所はセラミクス製本体(110)の内面に密着し、気密が保たれる。二箇所で密着することにより、機械的にも芯ぶれなく密着する。
以上で試料管の準備が完了する。NMR測定等を行うことができる。
気密性を検証するため、外径4mmの実施例1の試料管を用いて、流動性の非常に大きな液状試料であるメタノールを上記の手順で封入した。直径2.6mm長さ6mmの試料空間(0.0319ml)に25.5mgのメタノールが封入された。これは、室温におけるメタノールの比重(0.793g/ml)から逆算すると1%の誤差の範囲内でほぼ100%に相当する。室内に長時間放置した場合の重量の変化は、一週間で0.1mg以下であった。また、試料充填直後に12kHzで1時間MASを行ったところ、0.2mgの重量の減少が測定された。引き続き、20kHzでMASを行ったところ、1時間後に重量の減少量は0.1mgであった。さらに引きつつき、16kHzで48時間MASを行ったところ、実験の前後で重量に変化は観測されなかった。この間の重量の測定誤差については、重量計測に用いた秤の最小目盛りは0.1mgであるので、それと同程度と予想される。これらの結果から、隙間に残された僅かな量が、回転初期に減じる以外は、試料の漏れはほとんど無く、20kHzに達する高速MASに用いることが出来ることが分った。蒸発し難い試料の場合で、隙間に残された僅かな試料の漏れによる装置の汚染が問題となる場合は、試料封入後、アセトン等の適当な溶媒中を用いて超音波洗浄を行い、これを良く乾燥させてから用いるとよい。
弾性筒状体(10a)の挿入孔(12a)は、実施例1と同様な内径を有する下半部(14a)とこれより小さい内径の上半部(13a)とにより構成した。また、挿入子の第一の膨出部(21)の外径は内径(14a)と同程度に構成し、挿入子の第二の膨出部(22)の外径が内径(14a)よりも大きく構成した。
その他の点は、実施例1と同様なので同じ符号を付して説明を省略する。
挿入子(20)を挿入して行くとき、挿入子の第一の膨出部(21)は内径(14a)の部分を抵抗無く通過できるため、弾性筒状体(10a)に不必要な変形を強いることが少なく、予定外の変形による芯ぶれ等の心配が軽減されている。
以下、図4を参照しながら説明する。
本例の挿入子(20a)は、前記弾性筒状体(10a)の挿入孔(12a)の大径部分(14a)にネジ込まれる、雄ネジ部(25)を中心に、その先端に前記小径部分(13a)に入り込み可能な小径頭部(24)が形成され、下端面に、マイナスドライバー挿入用の溝(26)が設けてある構成とした。
このようにすることで、挿入子(20a)を前記弾性筒状体(10a)に挿入し、回転することで、セルフタッピング作用で前記雄ネジ部(25)が、挿入孔(12a)の内面に食い込みながら奥に進行することとなる。
そして、挿入子(20a)が前記小径部分(13a)に至ることで、当該個所の外径を膨張させセラミック製本体(110)の内面に前記弾性筒状体(10a)の外面を全周にわたって密着させることとなる。
その結果、前記弾性筒状体(10a)には、奥に押し込む力をさほど受けずに、挿入子(20a)の挿入を完了することができ、前記各実施例に比べより一層容易に密封作業を完了することができるようになる。
なお、図示しないが、前記雄ネジ部(25)を図6の配置で下に行くほど太くなるテーパーネジとすることで、挿入子の下端近傍の太くなった部分が弾性筒の下部(14a)を押し広げることにより、実施例2における挿入子の第2の膨出部に相当する作用がより大きくなり、機械的な安定度が増大し芯ぶれの恐れが少なくなる。
また、MASによる試料管の回転方向とは逆方向の回転により、挿入子(20a)を弾性筒状体(10a)にねじ込むように前記雄ネジ部(26)のネジ方向を設定することで、MAS回転時の不測な緩みを防止できる。
セルフタッピング作用により、前記弾性筒状体(10a)に破損が生じないようにする必要があるので、セルフタッピング作用を生じる限度で、前記雄ネジ部(25)のネジの谷をできるだけ浅くするのが望ましい。
また、挿入子の溝(26)の機械的強度に余裕が少ない場合は、作業者の熟練の度合いによっては、溝(26)をつぶしてしまう恐れがある。それに備えるための工夫として、挿入子(20a)のネジ部の長さを長く取って、前記弾性筒状体(10a)よりはるかに突出するように成形し、ダブルナットで把持し締結の後、余分を切断する構成とすることもできる。
挿入子(20b)のフランジ部分(24)には、前記弾性筒状体(10)のストッパー(13)を挿入する環状溝(25)が形成してあり、前記弾性筒状体(10)に挿入子(20b)が完全に挿入された状態では、ストッパー(13)が前記環状溝(25)内に入って取り囲むので、この部分の剛性が増すこととなる。類似の構成は実施例1〜3でも可能である。
セラミック製本体(110)の下部に挿入可能なPEEK製の雌ネジ筒(70)と、この雌ネジ筒(70)の上側に配置され、上方に向かって大径となるテーパー挿入孔(51)を有するテフロン(登録商標)製の弾性筒状体(50)と、前記雌ネジ筒(70)の雌ネジ(72)に螺合する雄ネジ部(62)とその上端に形成した部分球状の大径頭部(61)とマイナスドライバー挿入用の溝(63)とにより構成されたPEEK製の硬質の挿入子(60)とにより構成されている。
前記弾性筒状体(50)の変形が生じないようにして、これを通した前記挿入子(60)を前記雌ネジ筒(70)の雌ネジ(72)にねじ込んで、この三者をあらかじめ組み上げておき、前記雌ネジ筒(70)の下端に形成したフランジ部(73)が、前記セラミック製本体(110)の下端にあたるまで挿入する。挿入部(71)は、その外径が本体内面(112)よりも僅かに大きく成形されており、セラミック製本体(110)に圧入されることにより嵌め合いが可能となっており、機械的に固定される。この嵌め合いは、前述の、タービン翼キャップの挿入部(122)と本体内面(112)との嵌め合いと同様のものである。
次に、前記雌ネジ筒(70)の内側を通してマイナスドライバーを挿入し、前記挿入子(60)を回転させて下方に進行させると、前記弾性筒状体(50)は前記大径頭部(61)とテーパー挿入孔(51)の径差により、徐々に変形して外周面が膨張し、前記本体(110)の内面に密着して密封することとなる。
以上の一連の操作を、前記実施例1と同様に上下を反転させて行うことで、試料(S)を内部に収納したまま、密封することができた。
このようにすることで、前記挿入子(60)は、わずかでも外側に移動して密封することとなるので、下栓全体として上方への吸引力が作用することとなる。
この結果、下栓はより外れにくくなるものである。
本実施例は、これらのバランスを取るために、頭部を球状ではなく、図7に示すように、上下中間部が少々凸状に膨らんだテーパー状にした頭部(61a)にした例である。
その他の点は、前記実施例5と同様なので詳しい説明は省略する。
なお、図7中の右端に示したグラフは、弾性筒状体(50)の密着圧力の変化を模式的に示したものである。全体的に密着しつつ、中央部で特に強い密着圧力を示し、バランスが良い。
このため、前記実施例5および実施例6では、できるだけ雌ネジ筒(70)の突入長さを大きくして、試料収納空間(S)に余分な空間を与えないようにしてある。ところが、一般にPEEK等の材料はテフロン(登録商標)と比べて電磁的な高周波特性が悪く、また、バックグラウンド信号の原因ともなり易いので、試料近傍に設定するのが好ましくない場合がある。また、テフロン(登録商標)も、測定に際しては夾雑物であるので、試料近傍に大量に配置するのは望ましくない。
このような視点から、本実施例は、前記実施例5の思想をさらに発展しつつ、試料収納空間(S)を効果的に制限する手段を例示するものである。
当実施例は、図8に示すように、前記弾性筒状体を利用して、その上部に、排除空間(S’)を形成できるようにしたものである。
具体的には、弾性筒状体(50b)を、前記実施例5で示した弾性筒状体の上部を、さらに上部に延長して、上部筒(53b)を形成した形状としたもので、その上端に、この空間(S’)の上面を密封するキャップ(55b)をはめ込み可能にしたものである。
このようにして、前記弾性筒状体(50b)による前記本体(110)の密封個所よりも上方の空間に、前記試料空間(S)には連続しない排除空間(S’)を形成できるようにしたものである。
この排除空間(S’)は、NMR測定に影響を与えない物質で満たされていることが望ましい。空気などの気体は低密度なので、NMR測定に影響を与え難い物質として優れているので、多くの場合、排除空間は空気で満たしておくのがよい。
その他の実施例、例えば、実施例1〜4の場合においても、挿入子(20)と試料空間(S)との間に同様の排除空間を設定することは有効なので、それらの実施例においても、挿入子の突入長さの設定に際しては排除空間の確保について留意することが望ましい。また、上栓(30)の穿孔(32)には、このような排除空間としての作用がある。
なお、雌ネジ筒(70a)は、挿入子(60b)を螺進させるのに必要な長さを有している。
雄ネジ筒(70a)は、雌ネジ(72a)、と下部のフランジ部(73a)とにより構成されている。
3者の組み立て後に、前記キャップ(55b)を弾性筒状体(50b)の上端にかぶせる以外は、前記実施例5と同様な手順で用いるので、その他の点は説明を省略する。
なお、挿入子(60b)は、前記弾性筒状体(50b)のテーパ孔(51b)と同様な大きさをもったテーパー状に頭部が形成されている。このようにして当該テーパ孔(51b)の全長にわたって略均等に膨張して密封することとなるようにしてある。
なお、弾性筒状体(50b)とキャップ(55b)とを予め一体で形成し、挿入子(60b)を、弾性筒状体(50b)の弾性変形を利用して小径部(52b)方向から圧入するような構成とすることも出来る。この構成は、弾性筒状体(50b)とキャップ(55b)との間の接合が、試料により侵されるかも知れないという不安要素を排除したい場合に有効である。
それぞれ、2回、4回、6回、5回の回転対称性をもつ。この部品の回転対象性をmとし、駆動系の回転対称性(例えばタービン翼の枚数)をnとすると、mとnとが互いに素になるような数mを選ぶことにより、回転の高次の振動数における部品の共振を予防することができるので、その種の共振が問題となったときは、回転対象性を変えてみると良い場合がある。
これらの形状は加工の容易さや耐久性等を考慮して目的に応じて選択することができる。軸受の噴出し口やタービン駆動噴出し口、タービン翼の回転対称性は、しばしば6,7,8等であるので、図示したものは耐力や耐久性が優れているうえ、対称性の相性もよく、多くの場合優れた選択となる。
MAS測定のとき、試料はその全周を一体となって等角速度で回転運動する試料管に取り囲まれているので、静止状態から試料管が回転をし始めると、流動性のある液状試料はその粘性によって試料管の内壁に接している部分から徐々に引きずられるようにして回転をし始める。内壁から離れている部分へは回転運動は試料の粘性によって伝えられるので、内部の回転速度は、試料管の回転速度に若干遅れる傾向にある。試料が粘性を持っていれば、試料管が等角速度で回転するようになって充分な時間が経過したのちは、回転速度差は徐々に緩和して試料も試料管と等角速度で回転運動することとなる。このような背景の中、低粘度の液状試料を扱う場合、試料の回転運動の追随性を確実にしたい場合がある。その目的のための工夫を、本実施例で示す。(図11、12参照)。
上栓(30a)の下面に、図11に示す板状の攪拌子(80)の上部を嵌め込む溝(33a)を形成した他は、前記実施例1と同様な構成とする。
前記攪拌子(80)は、図11に示すように、試料収納空間(S)を左右に2分割するもので、上端部は、前記嵌め込む溝(33a)に支えられ、下端部は、弾性筒状体(10)の上端面の弾性変形により保持されている。
また攪拌子(80)は中心部分が厚く、外周部が薄い構造をとることが望ましい。この理由は、内周部は測定コイルから遠いため、NMR信号の測定感度が外周部と比較して低いためである。すなわち、夾雑物である攪拌子(80)の強度を保つための構造を、なるべく測定に影響しない中心部分に設定するためである。また、攪拌子(80)は試料を攪拌すれば十分であり、セラミック製本体(110)との間には隙間があっても良い。
攪拌子(80)は測定コイルの内側に入るので、バックグラウンド信号等の影響が大きいので、材質の選択はその点を考慮して決められる。多くの場合、セラミクス製本体(110)と同じ材質のセラミクスを用いると良い結果が得られる。但し、セラミクス部品は高価なので、目的に応じて、ダイフロン(登録商標)等の樹脂を使うこともできる。
なお、図12は、十字型の攪拌子(80a)を示し、試料収納空間(S)を4分割する例を示している。上栓(30b)の下面には、前記攪拌子(80a)に合わせた十字型の溝(33b)が形成してある。この様に構成することにより、攪拌子(80a)の位置は回転の中心部に固定され、セラミック製本体(110)との間に隙間があっても機械的に安定する。その他は、前記実施例9と同様である。
このようにして、試料収納空間(S)の分割数を増やすことで、試料の回転追随性を改善することができるが、その分だけ攪拌子に追い出される形で試料の充填量が減少し、信号強度が減じることとなるので、目的に応じて使い分けることが望ましい。
なお、攪拌子の断面形状は前記のような板状で限らず、三角、四角等の角軸状、長手方向で、分割されるなど、攪拌機能を有しながら試料収納空間(S)をできるだけ広く確保するようにするのが望ましい。
なお本実施例には、前記いずれの実施例をも容易に適用できる。
1) 連続多孔性材料を試料収納空間(S)中に充填し、これに液状の試料を含浸させる。
連続多孔性材料としては、ウレタンスポンジなどの合成樹脂製多孔性材料や、寒天やゼラチン等のゲル状物質を所定の形状に成形して凍結乾燥した海綿状物質などを用いることができる。
2) 前記1)の連続多孔性材料として、液状試料と溶解してこれをゲル化する材料でできたもの(試料が水溶性である場合の寒天やゼラチンなど)であれば、液状試料をゲル状試料として取り扱う事ができる。
3) セラミクス製本体の内面(112)の断面形状を図13(a)に示すように五角形(112a)、図13(b)のように六角形(112b)とするなど、多角形断面としたり、図13(c)のように一部弧状にした部分円形(112c)とすることによっても、攪拌機能は得られる。
このようにした場合は、これに挿入される各部品も同様な断面形状することにより実施可能である。また、当該断面形状を試料収納空間(S)のみに採用し、その他は円形とすることによっても同様な効果を得ることが可能である。
4) さらに、前記各実施例のように全体に内面(112)を円形断面とし、試料収納空間(S)の一側部に棒状体などを配置することによっても攪拌機能を発現させることができる。たとえば、上栓(30)(30a)の下面一側部に、この収納空間(S)の太さからすれば極小さい太さの棒状体を下方に延ばして一体化しておくと、組み立て状態で、前記収納空間(S)の一側に前記棒状体が位置することとなり、回転とともに、前記収納空間(S)内の試料を攪拌することとなる。
(112)(112a)(112b)(112c)セラミクス製本体の内面
(120)タービン翼キャップ
(121)タービン翼
(122)挿入部
(10)(10a)(50)(50b)弾性筒状体
(11)弾性本体
(12)(12a)(51)(51b)挿入孔
(13)ストッパー
(13a)小径部分
(14a)大径部分
(15)硬質カバー
(53b)上部筒
(55b)キャップ
(52)(52b)小径部
(20)(20a)(20b)(60)(60a)(60b)挿入子
(21)(22)膨出部
(23)穿孔
(24)フランジ部分
(25)環状溝
(26)雄ネジ部
(27)小径頭部
(28)ドライバー挿入用溝
(30)(30a)(30b)テフロン(登録商標)製上栓
(31)膨出部
(32)メクラ孔状の穿孔
(33a)(33b)溝
(61)(61a)頭部
(62)雄ネジ部
(63)ドライバー挿入用溝
(63i)十字ミゾ
(63ii)六角穴
(63iii)星型穴
(70)(70a)(70b)雌ネジ筒
(72)(72a)(72b)雌ネジ
(73)(73a)(73b)フランジ部
(74b)切り欠き
(80)(80a)攪拌子
(D)直径
(S’)排除空間
(S)試料収納空間
Claims (4)
- 管状の本体の少なくとも一方が、栓により開閉自在に密閉される構造を有し、本体の内部にMAS測定用の液状試料を封入するMAS試料管であって、前記栓は、前記本体の内径よりも小さい外径に形成された弾性筒状体と、この筒状体の内部に挿入され、かつ前記弾性筒状体よりも硬質な挿入子とからなり、前記弾性筒状体が膨張して、その外周面が前記本体の内面に圧接して本体を密封するように、前記弾性筒状体の内径より大きい外径を有する部分が前記挿入子に形成されていることを特徴とするMAS試料管。
- 請求項1に記載のMAS試料管において、前記弾性筒状体の本体への挿入方向後端には、前記本体の内径より大きいフランジ状のストッパーが設けられていることを特徴とするMAS試料管。
- 請求項1又は2に記載のMAS試料管において、試料管本体と一体化された攪拌子が、試料収納空間内に設けられていることを特徴とするMAS試料管。
- 請求項1から3のいずれかに記載のMAS試料管において、前記弾性筒状体の頂部により区画された試料収納空間の一端部と前記挿入子の頂部との間に間隙を有さしめてあることを特徴とするMAS試料管。
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