JP5366611B2 - プロトン伝導性電解質 - Google Patents
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Description
電気化学デバイス用の電解質としては、イオン液体自体がイオン伝導性を有すること、優れた電気化学的安定性(広い電位窓)、高い耐熱性、広い範囲で液体の性状を示すことから、燃料電池、水電解、ハロゲン化水素酸電解、湿度センサー、ガスセンサーなどの電解質として用いるのに有用である。
また、燃料電池は、電解質の種類により分類されるが、これらの中でも固体高分子形燃料電池は、小型で且つ高出力を得ることができるため、小規模の定置型用、移動体用、携帯端末用のエネルギー供給源としての適用について研究、開発が進められている。
パーフルオロスルホン酸系電解質膜は、スルホン酸基を主体とする領域とパーフルオロカーボン系主鎖を主体とする領域とにミクロ相分離していると考えられている。更に、スルホン酸基を含む相において、スルホン酸基はクラスターを形成していると考えられている。そして、パーフルオロカーボン系主鎖が凝集している部位が、電解質膜の化学的安定性に寄与しており、スルホン酸基が集まってクラスターを形成している部位が、電解質膜のイオン伝導に寄与していると考えられている。
例えば、現状の固体高分子形燃料電池は、室温から80℃程度の比較的低い温度領域で運転されている。
(1)用いられているパーフルオロスルホン酸系ポリマーが120〜130℃近傍にガラス転移点を有し、これよりも高温領域ではプロトン伝導に寄与しているイオンチャンネル構造の維持が困難となるため、実質的には100℃以下での使用が望ましいこと。
(2)水をプロトン伝導媒体として使用するため、水の沸点である100℃を超えると加圧が必要となり、装置が大がかりになること。
すなわち、燃料電池の運転温度が高くなると、燃料電池の発電効率が向上する。さらに、排熱利用の利便性が高まり、より効率的にエネルギーを活用することができる。
また、現行の燃料電池自動車のラジエータは、排熱負荷が高いため通常の自動車用のラジエータより大きくなることからシステムを大きくする要因となっているが、運転温度が120℃付近であれば、現行の移動体に使用されているラジエータと同等仕様のものを適用することができるため、システムをコンパクト化できる。
但し、このような固体高分子電解質膜においても、水をプロトン伝導媒体として使用するため、水の沸点である100℃を超えると加圧が必要となり、装置が大がかりなものとなる。
例えば、非特許文献1には、イオン液体が水に依存することなくプロトン伝導性を示し、燃料電池用電解質として利用可能であることが開示されている。
また、本発明の電気化学セルは、本発明の上記プロトン伝導性電解質を用いたことを特徴とし、本発明の燃料電池は、上記の電気化学セルを用いたことを特徴としている。
ネットワーク内でのプロトンの移動は、その中でのプロトンの供給/受容サイトのバランスで決まることから、プロトンドナーあるいはアクセプターとして機能する分子の存在により、ネットワーク内でより積極的なプロトンの運動性を得ることができる。
プロトンドナー性分子が、上記のものであることによって、プロトン伝導性電解質中のプロトンの供給サイトが増加し、水素結合ネットワークへ効率的なプロトン供給が可能となり、積極的なプロトンの移動が可能となる。
このようなカチオンであることによって、得られるプロトン伝導性電解質の融点が低下し、低温でも液体状態となるため、より高いイオン伝導度が得られる。
1位または3位の少なくとも一方にアリル基を有するイミダゾリウムカチオンとすることによって、得られるプロトン伝導性電解質の粘性が低下するため、より高いイオン伝導度が得られる。
カチオンに対するリン酸のモル比zが1であると、比較的高い熱安定性とプロトン伝導性が両立する。熱安定性の高いプロトン伝導性電解質が得られると、使用温度範囲をより広くできる。
なお、ここでの分子性の溶媒とは、電荷を持たない状態の単一分子からなる溶媒を意味し、具体的にはヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、酢酸、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、水などを用いることができる。
特に燃料電池へ適用すると高い出力が得られ、燃料電池システムの出力密度を高くできることから、コンパクトなシステムを提供することが可能となる。このシステムを移動体へ用いることで、利便性の高い移動体を社会へ提供することが可能となる。
[1]プロトン伝導性電解質の合成
本発明の第1の実施例によるプロトン伝導性電解質として、1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウム リン酸二水素塩+リン酸分子を合成した。
1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウムクロリド5.0gを純水100mlに溶解し、オルガノ(株)販売「アンバーライト」に通過させて、1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウム水酸化物水溶液とし、これと2.5gの85%リン酸とを氷冷中で混合した。100℃で減圧乾燥して水を留去し、次の化学式で表されるプロトン伝導性電解質(1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウムカチオン:リン酸二水素アニオン:リン酸分子=1:1:1(モル比))を得た。
プロトンの運動性の評価としては、合成したプロトン伝導性電解質を構成する分子の中で、プロトン伝導の伝導種として機能していると考えられるプロトンの運動性を、プロトン伝導性電解質を構成する分子の運動性と比較することで評価した。
すなわち、着目しているプロトンが高い運動性を示す場合は、そのプロトンが含まれる分子よりも高い運動性を示し、プロトンの運動性が低い場合は、そのプロトンが含まれる分子と同じ運動性を示すことになる。
プロトンの運動性を検討するため、リン酸二水素アニオンのプロトン(1H)とリン(31P)それぞれの運動性に着目し、個別に自己拡散係数を測定し(リン酸二水素アニオンとリン酸分子は同一のシグナルとして観察された)、得られたスピンエコーシグナルの減衰直線の傾きからリン酸二水素アニオンのHとPの自己拡散係数を算出した。
合成したプロトン伝導性電解質のDSC測定を行い、融点を測定した。結果を表1に示す。
[1]プロトン伝導性電解質の合成
実施例1と同様の方法により得た1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウム水酸化物水溶液と、3.1gの85%リン酸とを氷冷中で混合した。100℃で減圧乾燥して水を留去し、次の化学式で表されるプロトン伝導性電解質(1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウムカチオン:リン酸二水素アニオン:リン酸分子=1:1:0.2(モル比))を得た。
再結晶前後のプロトン伝導性電解質の、1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウムカチオンに対するリン酸分子のモル比zを、イオンクロマトグラフィーにより算出した。その結果を表2に示す。
再結晶後に得られたプロトン伝導性電解質のDSC測定を行い、融点を測定した。DSCチャートを図2に、融点の測定結果を表2に示す。
[1]プロトン伝導性電解質の合成
実施例1と同様の方法により得た1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウム水酸化物水溶液と、3.5gの85%リン酸とを氷冷中で混合した。100℃で減圧乾燥して水を留去し、次の化学式で表されるプロトン伝導性電解質(1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウムカチオン:リン酸二水素アニオン:リン酸分子=1:1:0.4(モル比))を得た。
再結晶前後のプロトン伝導性電解質の、1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウムカチオンに対するリン酸分子のモル比zを、イオンクロマトグラフィーにより算出した。その結果を表2に併せて示す。
再結晶後に得られたプロトン伝導性電解質のDSC測定を行い、融点を測定した。結果を表1に併せて示す。
[1]プロトン伝導性電解質の合成
第1の比較例によるプロトン伝導性電解質として、2−エチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩を合成した。
この反応生成物を100℃で予備乾燥した後、120℃で真空乾燥し次の化学式で表されるプロトン伝導性電解質(2−エチルイミダゾリウムカチオン:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン=1:1(モル比))を得た。
合成した上記プロトン伝導性電解質のプロトンの運動性を実施例1と同様の方法で算出した。
すなわち、得られたプロトン伝導性電解質では、2−エチルイミダゾリウムカチオンの窒素に結合したプロトンがプロトン伝導の伝導種として機能していると考えられることから、2−エチルイミダゾリウムカチオンの1位のNに結合したプロトンと、2位のエチル基のプロトン、それぞれ個別に自己拡散係数を測定した。そして、得られたスピンエコーシグナルの減衰直線の傾きからの1位のNに結合したプロトンと2位のエチル基のプロトンの自己拡散係数を算出した。
[1]プロトン伝導性電解質の合成
第2の比較例によるプロトン伝導性電解質として、イミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩+イミダゾール分子を合成した。
合成した上記プロトン伝導性電解質のプロトンの運動性を実施例1と同様の方法で算出した。
すなわち、上記プロトン伝導性電解質では、イミダゾリウムカチオンの窒素に結合したプロトンがプロトン伝導の伝導種として機能していると考えられることから、イミダゾリウムカチオンのNに結合したプロトンと4位のプロトン、それぞれ個別に自己拡散係数を測定した(イミダゾリウムカチオンとイミダゾールは同一のシグナルとして観察された)。そして、得られたスピンエコーシグナルの減衰直線の傾きからの1位のNに結合したプロトンと4位のプロトンの自己拡散係数を算出した。
[1]プロトン伝導性電解質の合成
第3の比較例によるプロトン伝導性電解質として、イミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド塩+ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド分子を合成した。
合成した上記プロトン伝導性電解質のプロトンの運動性を実施例1と同様の方法で算出した。
すなわち、当該プロトン伝導性電解質においては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド分子の窒素に結合したプロトンがプロトン伝導の伝導種として機能していると考えられることから、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド分子の窒素に結合したプロトンとフルオロメチル基のフッ素、それぞれ個別に自己拡散係数を測定した。そして、得られたスピンエコーシグナルの減衰直線の傾きから窒素に結合したプロトンとフルオロメチル基のフッ素の自己拡散係数を算出した。
[1]プロトン伝導性電解質の合成
実施例1と同様の方法により得た1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウム水酸化物水溶液と、2.5gの85%リン酸とを氷冷中で混合した。100℃で減圧乾燥して水を留去し、次の化学式で表されるプロトン伝導性電解質(1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウムカチオン:リン酸二水素アニオン=1:1(モル比))を得た。
再結晶前後のプロトン伝導性電解質の、1−アリル−3−ヘキシルイミダゾリウムカチオンに対するリン酸分子のモル比zを、イオンクロマトグラフィーにより算出した。その結果を表2に併せて示す。
[3]融点の測定
再結晶後に得られたプロトン伝導性電解質のDSC測定を行い、融点を測定した。結果を表1に併せて示す。
これは、着目しているリン酸二水素アニオン及びリン酸分子のプロトンがリン酸二水素アニオン及びリン酸分子としてプロトン伝導体中を動くだけでなく、リン酸二水素アニオン及びリン酸分子間をホッピングすることにより高い運動性を示している結果であると考えられる。
同様に、比較例3のプロトン伝導性電解質も、着目しているビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド分子の窒素に結合したプロトンがフルオロメチル基のフッ素よりも僅かに高い自己拡散係数を示す(1.1倍)が、実施例1に比べその運動性は非常に小さい。
さらに、実施例1では、リン酸がプロトンドナー性分子として機能し、リン酸二水素アニオンが形成するネットワーク中にプロトンを供与、またはネットワーク中のプロトンを受容することが可能となり、ネットワーク中でより積極的なプロトンの運動が起こり、上記の結果のとおり、高いプロトンの運動性が得られたと推察される。
さらに、比較例2及び比較例3のプロトン伝導性電解質では、比較例1と同様に水素結合のネットワークを形成することはできない。ただし、比較例2では、プロトンアクセプター性の分子、比較例3ではプロトンドナー性の分子が存在することで、実施例1に比べ僅かではあるが、プロトンの運動性が向上したと推察される。
また、表2のカチオンに対するリン酸分子のモル比zは、実施例2と実施例3を比較すると、仕込みのモル比が異なるにもかかわらず、再結晶により得られた結晶のモル比は同じ値になった。このことから、実施例2と実施例3で再結晶により得られた結晶は、同一のプロトン伝導性電解質であるといえる。
なお、分子のモル比を変えることによる物性のコントロールは、融点のコントロールに限定されるものではなく、密度、粘度、熱容量等などに適用することができる。
Claims (17)
- アニオンと、
カチオンと、を含み、
アニオンが水素結合ドナーとして機能する官能基と、水素結合アクセプターとして機能する官能基をそれぞれ1つ以上有し、
カチオンが、イミダゾリウム骨格を有し、イミダゾリウム骨格が、その1位又は3位の少なくとも一方にアリル基を有する
ことを特徴とする塩。 - 上記水素結合ドナーとして機能する官能基が−OH及び−NR1H(式中のR1は水素又は炭化水素基)の一方又は双方の官能基であることを特徴とする請求項1に記載の塩。
- 上記水素結合アクセプターとして機能する官能基が=O、=NR2(式中のR2は水素又は炭化水素基)、−O−及び−NR3−(式中のR3は水素又は炭化水素基)から成る群より選ばれた少なくとも1種の官能基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩。
- 上記アニオンが次の一般式で表される多価のオキソ酸から選ばれた少なくとも1種のオキソ酸由来のアニオンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の塩。
HnXO4
(式中のnは2〜4の整数であって、nが2のとき、XはS,Se,Cr,Te,Mo又はW、nが3のとき、XはP,As,V,Nb,Mn又はSb、nが4のとき、XはSi又はGeを示す。) - 上記アニオンがリン酸二水素アニオン及び硫酸水素アニオンの少なくとも1種のアニオンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の塩。
- 請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の塩と、
プロトンドナー性又はプロトンアクセプター性を有する分子と、を含む
ことを特徴とするプロトン伝導性電解質。 - 上記プロトンドナー性を有する分子がオキソ酸、イミド酸、チオ酸及びハロゲン化水素酸から成る群から選ばれた少なくとも1種の酸であることを特徴とする請求項7に記載のプロトン伝導性電解質。
- 上記プロトンドナー性を有する分子が一般式HnXO4(式中のnは2〜4の整数であって、nが2のとき、XはS,Se,Cr,Te,Mo又はW、nが3のとき、XはP,As,V,Nb,Mn又はSb、nが4のとき、XはSi又はGeを示す。)で表される多価のオキソ酸から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項7又は8に記載のプロトン伝導性電解質。
- 上記プロトンドナー性を有する分子がリン酸及び硫酸の少なくとも1種であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つの項に記載のプロトン伝導性電解質。
- 上記プロトンアクセプター性を有する分子が非共有電子対を有する原子を有していることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1つの項に記載のプロトン伝導性電解質。
- 上記プロトンアクセプター性を有する分子がイミダゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピロリジン誘導体、ピペリジン誘導体、ピペラジン誘導体、アミン誘導体、ホスフィン誘導体、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドから成る群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1つの項に記載のプロトン伝導性電解質。
- 上記カチオンに対するリン酸のモル比zが1であることを特徴とする請求項13に記載のプロトン伝導性電解質。
- 分子性の溶媒を含有していることを特徴とする請求項7〜14のいずれか1つの項に記載のプロトン伝導性電解質。
- 請求項7〜15のいずれか1つの項に記載のプロトン伝導性電解質を用いたことを特徴とする電気化学セル。
- 請求項16に記載の電気化学セルを用いたことを特徴とする燃料電池。
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