JP5364628B2 - レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版の製版方法、及び、レリーフ印刷版 - Google Patents

レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版の製版方法、及び、レリーフ印刷版 Download PDF

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Description

本発明は、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版の製版方法、及び、レリーフ印刷版に関する。
レリーフ形成層をレーザーにより直接彫刻し製版する、いわゆる「直彫りCTP方式」が多く提案されている。直彫りCTP方式は、原画フィルムを用いたレリーフ形成と異なり、自由にレリーフ形状を制御することができる。このため、抜き文字の如き画像を形成する場合、その領域を他の領域よりも深く彫刻する、又は、微細網点画像では、印圧に対する抵抗を考慮し、ショルダーをつけた彫刻をする、なども可能である。
特許文献1は、ニトロセルロース、光吸収体及びポリウレタンエラストマーを含む感光層と、この感光層が形成される支持体とで構成されている印刷用版材を開示する。特許文献2は、支持体上に、レーザ光に対する感光層と光透過性表面層とが順次積層され、前記感光層が、ニトロセルロース、光吸収体、ポリウレタンエラストマーから成るバインダーで構成されている印刷用版材を開示する。特許文献3は、構成単位としてヒドロキシエチレンを含む親水性ポリマー(A1)、(A1)以外の親水性ポリマー(A2)、エチレン性不飽和モノマー(B)、重合開始剤(C)及び可塑剤(D)を含有するレーザー彫刻用架橋性樹脂組成物を開示する。
特許第3438404号公報 特許第3475591号公報 特開2006−2061号公報
本発明の目的は、彫刻感度が高いレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を提供すること、並びに、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、レリーフ印刷版を提供することである。
前記課題は以下の手段により解決された。
<1>(成分A)ヒドラジド化合物、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、及び、テトラゾール化合物よりなる群から選択された少なくとも1つの発熱剤、並びに、(成分B)ガラス転移温度(Tg)が20℃以上であるバインダーポリマー、を含有するレリーフ形成層を支持体上に有し、前記レリーフ形成層全固形分に対する前記成分Aの含有量が、1〜20質量%であることを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<2>前記成分Bが、アクリル樹脂及び/又はポリビニルアセタールである、<1>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<3>前記レリーフ形成層が、(成分C)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物をさらに含有する、<1>又は<2>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<4>前記レリーフ形成層が、(成分D)重合性化合物をさらに含有する、<1>〜<3>いずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<5>前記レリーフ形成層が、(成分E)重合開始剤をさらに含有する、<1>〜<4>いずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<6>前記レリーフ形成層が、(成分F)光熱変換剤をさらに含有する、<1>〜<5>いずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<7>前記レリーフ形成層が、(成分G)可塑剤をさらに含有する、<1>〜<6>いずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<8>前記レリーフ形成層が、(成分H)香料をさらに含有する、<1>〜<7>いずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<9>フレキソ印刷版原版である、<1>〜<8>いずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<10>(1)<1>〜<9>いずれか1つに記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を、光及び/又は熱により架橋する架橋工程、並びに、(2)架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する彫刻工程、を含むことを特徴とするレリーフ印刷版の製版方法、
<11>前記架橋工程が、熱により架橋する工程である、<10>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<12><10>又は<11>に記載のレリーフ印刷版の製版方法により製版されたことを特徴とするレリーフ印刷版、
<13>レリーフ層の厚みが、0.05mm以上10mm以下である、<12>に記載のレリーフ印刷版、
<14>レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である、<12>又は<13>に記載のレリーフ印刷版。
本発明により、彫刻感度が高いレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を提供すること、並びに、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製版方法、及び、レリーフ印刷版を提供することができた。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、(成分A)ヒドラジド化合物、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、及び、テトラゾール化合物よりなる群から選択された少なくとも1つの発熱剤、並びに、(成分B)ガラス転移温度(Tg)が20℃以上であるバインダーポリマー、を含有するレリーフ形成層を支持体上に有し、前記レリーフ形成層全固形分に対する前記成分Aの含有量が、1〜20質量%であることを特徴とする。なお、本明細書において、数値範囲を表す「X〜Y」等の記載は、「X以上、Y以下」と同義であり、数値範囲の両端をその数値範囲内に含む。以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、他の用途にも広範囲に適用することができる。表面に凹凸や開口部を形成する他の材形、例えば、凹版、孔版、スタンプ等、レーザー彫刻により画像形成される各種印刷版や各種成形体の形成に適用できる。
なお、本明細書では、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の説明に関し、所定量の成分Aと、成分Bとを含有し、レーザー彫刻に供する画像形成層としての表面が平坦な層であり、かつ未架橋の層を「レリーフ形成層」と称する。また、前記レリーフ形成層を架橋した層を「架橋レリーフ形成層」と称する。また、これをレーザー彫刻して表面に凹凸を形成した層を「レリーフ層」と称する。以下、各成分について説明する。
<(成分A)ヒドラジド化合物、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、及び、テトラゾール化合物よりなる群から選択された少なくとも1つの発熱剤>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層は、(成分A)ヒドラジド化合物、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、及び、テトラゾール化合物よりなる群から選択された少なくとも1つの発熱剤を、前記レリーフ形成層全固形分に対して、1〜20質量%含有する。
〔ヒドラジド化合物〕
ヒドラジド化合物とはヒドラジン誘導体とオキソ酸が脱水縮合した構造を持つアミドの総称である。
ヒドラジド化合物としては、具体的には、プロピオン酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、ヒドロキシナフトエ酸ヒドラジド、カルボヒドラジド、チオカルボヒドラジド、1−ナフトヒドラジド、2−クロロベンズヒドラジド、2−ピコリン酸ヒドラジド、m−アニス酸ヒドラジド、4−アミノベンズヒドラジド、2−チオフェンカルボン酸ヒドラジド、4−ヒドロキシベンゾヒドラジド、4−メトキシベンゾヒドラジド、4−ニトロベンゾヒドラジド、ニコチン酸ヒドラジド、オキサリルジヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジド、リン酸ジヒドラジド、ベンゾフェノンヒドラジド、1,5−ジフェニルカルボノヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルホニルヒドラジド、2−メシチレンスルホニルヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、4,4’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、トリメシン酸トリヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、エノコ酸ジヒドラジド、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド、アクリルアミド−アクリル酸ヒドラジド共重合体などが挙げられる。好ましいヒドラジド化合物としてはスルホン酸誘導体が挙げられ、アリールスルホニルヒドラジド化合物がより好ましく、中でも、ベンゼンスルホニルヒドラジド、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルホニルヒドラジド、2−メシチレンスルホニルヒドラジドがさらに好ましい。また、ヒドラジド価(ヒドラジド基の当量)としては、好ましくは3.5meq/g以上であり、より好ましくは5.0meq/g以上である。
〔ニトロ化合物〕
ニトロ化合物とはニトロ基−NO2を有する化合物の総称であり、硝酸エステルは含まない。具体的には、2−メチル−2−ニトロプロパン、ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、1−ニトロブタン、2−ニトロブタン、ニトロベンゼン、p−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、3,5−ジニトロ安息香酸、3−クロロ−2−ニトロ安息香酸、3−ニトロフタル酸、4−ニトロフタル酸、5−ニトロサリチル酸、3,5−ジニトロサリチル酸、o−ニトロ桂皮酸、ピクリン酸、o−ニトロトルエン、p−ニトロトルエン、o−ニトロフェノール、p−ニトロフェノール、酢酸p−ニトロフェニル、p−ニトロフェニル酢酸、3−ブロモ−7−ニトロインダゾール、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2−ブロモ−4−ニトロアニソール、1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン、N−クロロメチル−4−ニトロフタルイミド、2−クロロ−4−ニトロアニリン、2−クロロ−3−ニトロピリジン、2,3−ジクロロニトロベンゼン、2,4−ジニトロアニソール、m−ジニトロベンゼン、2,4−ジニトロフェノール、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン、3’,6’−ビス(ジエチルアミノ)−2−(4−ニトロフェニル)スピロ[イソインドール−1,9’−キサンテン]−3−オン、2−メチル−5−ニトロアニリン、4−メチル−2−ニトロアニリン、メトロニダゾール、o−ニトロアセトフェノン、p−ニトロアセトフェノン、o−ニトロアニリン、p−ニトロアニリン、o−ニトロベンズアルデヒド、m−ニトロベンズアルデヒド、5−ニトロベンゾトリアゾール、m−ニトロベンジルアルコール、p−ニトロベンジルアルコール、4−(p−ニトロベンジル)ピリジン、4−ニトロカテコールなどが挙げられる。ニトロ価(ニトロ基の当量)としては、好ましくは2.0meq/g以上であり、より好ましくは5.0meq/g以上である。
〔ニトロソ化合物〕
ニトロソ化合物とはニトロソ基−NOを有する化合物の総称である。具体的には、n−ブチル−n−ブタノールニトロソアミン、ジイソプロパノールニトロソアミン、1−ニトロソ−2−ナフトール、2,4,6−トリ−tert−ブチルニトロソベンゼン、2,4,6−トリアミノ−5−ニトロソピリミジン、2,4−ジニトロソレソルシノール、2−ニトロソ−1−ナフトール、2−ニトロソ−5−ジメチルアミノフェノール塩酸塩、4−(ジメチルアミノ)−4’−ニトロソジフェニルアミン、4−(N−ブチル−N−ニトロソアミノ)酪酸、4−アミノ−2,6−ジヒドロキシ−5−ニトロソピリミジン、4−ヒドロキシ−2−ジメチルアミノ−5−ニトロソ−6−アミノピリミジン、2−ニトロソ−1−ナフトール−4−スルホン酸、4−ニトロソジフェニルアミン、4−ニトロソフェノール、4−ニトロソレソルシノール−1−モノメチルエーテル、5−ニトロソ−8−ヒドロキシキノリン、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N−ジメチル−4−ニトロソアニリン、N,N−ジエチル−4−ニトロソアニリン、N−ベンジル−N−ニトロソ−p−トルエンスルホンアミド、N−エチル−N−(2−ヒドロキシエチル)ニトロソアミン、N−エチル−N−(4−ヒドロキシブチル)ニトロソアミン、N−ブチル−N−(4−ヒドロキシブチル)ニトロソアミン、N−メチル−N−ニトロソ−p−トルエンスルホンアミド、N−メチル−N−ニトロソウレタン、N−ニトロソ−N−メチルアニリン、N−ニトロソジブチルアミン、ジエタノールニトロソアミン、N−ニトロソジエチルアミン、N−ニトロソジメチルアミン、N−ニトロソジフェニルアミン、N−ニトロソジプロピルアミン、N−ニトロソヘプタメチレンイミン、N−ニトロソモルホリン、N−tert−ブチル−N−エチルニトロソアミン、ニトロソベンゼンなどが挙げられる。ニトロソ価(ニトロソ基の当量)としては、好ましくは4.0meq/g以上であり、より好ましくは7.0meq/g以上である。
〔テトラゾール化合物〕
テトラゾール化合物として具体的には、具体的には、1H−テトラゾール、1−メチルテトラゾール、1−エチルテトラゾール、1−プロピルテトラゾール、1−ブチルテトラゾール、1−ペンチルテトラゾール、1−ヘキシルテトラゾール、1−ドデシルテトラゾール、1−フェニルテトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、5−エチル−1H−テトラゾール、5−プロピル−1H−テトラゾール、5−ブチル−1H−テトラゾール、5−ペンチル−1H−テトラゾール、5−ヘキシル−1H−テトラゾール、5−ドデシル−1H−テトラゾール、5−フェニル−1H−テトラゾール、5−ベンジル−1H−テトラゾール、1−メチル−5−メチルテトラゾール、1−エチル−5−メチルテトラゾール、1−プロピル−5−メチルテトラゾール、1−ブチル−5−メチルテトラゾール、1−ペンチル−5−メチルテトラゾール、1−ヘキシル−5−メチルテトラゾール、1−ドデシル−5−メチルテトラゾール、1−フェニル−5−メチルテトラゾール、1−ナフチル−5−メチルテトラゾール、1−メチル−5−エチルテトラゾール、1−メチル−5−フェニルテトラゾール、1−エチル−5−フェニルテトラゾール、1−プロピル−5−フェニルテトラゾール、1−ブチル−5−フェニルテトラゾール、1−ペンチル−5−フェニルテトラゾール、1−ヘキシル−5−フェニルテトラゾール、1−ドデシル−5−フェニルテトラゾール、1−フェニル−5−フェニルテトラゾール、5−アミノ−1H−テトラゾール、5−(2−アミノフェニル)−1H−テトラゾール、1−メチル−5−アミノテトラゾール、1−エチル−5−アミノテトラゾール、1−プロピル−5−アミノテトラゾール、1−ブチル−5−アミノテトラゾール、1−ペンチル−5−アミノテトラゾール、1−ヘキシル−5−アミノテトラゾール、1−ドデシル−5−アミノテトラゾール、1−フェニル−5−アミノテトラゾール、5−メルカプト−1H−テトラゾール、1−メチル−5−メルカプトテトラゾール、1−エチル−5−メルカプトテトラゾール、1−プロピル−5−メルカプトテトラゾール、1−ブチル−5−メルカプトテトラゾール、1−ペンチル−5−メルカプトテトラゾール、1−ヘキシル−5−メルカプトテトラゾール、1−ドデシル−5−メルカプトテトラゾール、1−シクロヘキシル−5−メルカプトテトラゾール、1−フェニル−5−メルカプトテトラゾール、1−カルボキシメチル−5−メルカプトテトラゾール、1−(4−メトキシフェニル)−5−メルカプトテトラゾール、1、5−ペンタメチレンテトラゾール、5−(メチルチオ)−1H−テトラゾール、5−(エチルチオ)−1H−テトラゾール、5−(ベンジルチオ)−1H−テトラゾール、5,5−ビテトラゾールニアンモニウム、5,5−ビテトラゾールピペラジンなどが挙げられる。テトラゾール価(テトラゾールユニットの当量)としては、好ましくは5.0meq/g以上であり、より好ましくは7.0meq/g以上である。
成分Aは、1種又は2種以上を併用してもよい。成分Aの含有量は、レリーフ形成層の全固形分の総質量に対して1〜20質量%である。成分Aの含有量が1質量%未満の場合、彫刻感度向上効果が発揮されないことがある。また、成分Aの含有量が20質量%を超えると、成分Aの熱分解とそれに伴う多量のガス発生によってレリーフ形状が悪化することがある。また、成分Aの含有量が多過ぎる場合には、架橋に関わる化合物の比率が下がるためフレキソ印刷に適した膜物性が実現できないことがある。彫刻感度と印刷に適した膜物性の両立の観点から、成分Aの含有量は2〜15質量%が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。
<(成分B)ガラス転移温度(Tg)が20℃以上のバインダーポリマー>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層は、(成分B)ガラス転移温度(Tg)が20℃以上のバインダーポリマーを含有する。ガラス転移温度(Tg)が20℃以上のバインダーポリマーを含有することで、彫刻感度を高めることができる。
ガラス転移温度(Tg)は、走査型示差熱量計(DSC、TA Instrument製Q20000)の測定パンにサンプルを10mg入れ、これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後(1st−run)、0℃まで10℃/分で降温し、この後さらに0℃から10℃/分で250℃まで昇温させ(2nd−run)、2nd−runでベースラインが低温側から変位し始める温度をTgとすることで算出される。
エラストマーとは、一般的に、ガラス転移温度が常温以下のポリマーであるとして学術的に定義されている(科学大辞典 第2版、編者 国際科学振興財団、発行 丸善(株)、P154参照)。従って、成分Bは、このようなエラストマーとは異なり、ガラス転移温度が常温を超える温度であるポリマーを指す。成分Bのガラス転移温度の上限には制限はないが、200℃以下であることが取り扱い性の観点から好ましく、36℃以上120℃以下であることがより好ましい。
成分Bは常温ではガラス状態をとるため、ゴム状態をとる場合に比較して、熱的な分子運動は抑制された状態にある。レーザー彫刻においては、レーザー照射時に、赤外線レーザーが付与する熱に加え、成分A及び所望により併用される(成分F)光熱変換剤の機能により発生した熱が、周囲に存在するこのバインダーポリマーに伝達され、これが熱分解、消散して、結果的に彫刻されて凹部が形成される。本発明の好ましい態様では、非エラストマーの熱的な分子運動が抑制された状態の中に(成分F)光熱変換剤が存在すると成分Bへの熱伝達と熱分解が効果的に起こるものと考えられ、このような効果によって彫刻感度がさらに増大したものと推定される。
本発明においては、成分Bが、膜強度の点から、(1)アクリル樹脂、(2)エポキシ樹脂、(3)ポリビニルアセタール、(4)ポリエステル、及び、(5)ポリウレタンよりなる群から選択された少なくとも1種のポリマーであることが好ましい。これらのポリマーの中でも、(成分C)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の反応性向上の点から、分子内にヒドロキシ基を有するものがより好ましい。これらのポリマーについて説明する。
(1)アクリル樹脂
本発明における成分Bとして用いうるアクリル樹脂としては、公知のアクリル単量体を用いて得るアクリル樹脂が挙げられる。中でも、分子内にヒドロキシ基を有するアクリル樹脂が好ましい。
アクリル樹脂の合成に用いられるアクリル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。ヒドロキシ基を有するアクリル樹脂を合成する際には、前記した(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類の分子内にヒドロキシ基を有するものを用いればよい。このようなヒドロキシ基を有するアクリル単量体の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、アクリル樹脂としては、上記のヒドロキシ基を有するアクリル単量体以外のアクリル単量体から合成されていてもよい。ヒドロキシ基を有するアクリル単量体以外のアクリル単量体として具体的には、(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、アセトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体のモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。さらに、ウレタン基やウレア基を有するアクリル単量体を含んで構成される変性アクリル樹脂も好ましく使用することができる。これらの中でも、水性インキ耐性の観点で、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートなど脂肪族環状構造を有する(メタ)アクリレート類が特に好ましい。なお、上記のアクリル単量体を、ヒドロキシ基を有するアクリル単量体と共重合してもよい。
このようなアクリル樹脂の重量平均分子量は、塗布溶剤への溶解性(溶解に要する時間)の点から、5,000〜300,000が好ましく、10,000〜200,000がより好ましく、20,000〜100,000がさらに好ましい。
(2)エポキシ樹脂
成分Bとして、エポキシ樹脂を用いることも好ましい態様の1つである。エポキシ樹脂はヒドロキシ基を側鎖に有するため好ましい。具体例としては、ビスフェノールAとエピクロヒドリンの付加物を原料モノマーとして重合して得られるエポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂は、重量平均分子量が800〜200,000で、数平均分子量が800〜60,000のものが好ましい。
(3)ポリビニルアセタール
本明細書においては、ポリビニルアセタール及びその誘導体を単にポリビニルアセタールと称する。即ち、本明細書においてポリビニルアセタールは、ポリビニルアセタール及びその誘導体を包含する概念で使用され、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルを鹸化して得られる。)を環状アセタール化することにより得られる化合物の総称を示す。
ポリビニルアセタール中のアセタール含量(原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数を100%とし、アセタール化されるビニルアルコール単位のモル%)は、30〜90モル%が好ましく、50〜85モル%がより好ましく、55〜78モル%が特に好ましい。
ポリビニルアセタール中のビニルアルコール単位としては、原料の酢酸ビニルモノマーの総モル数に対して、10〜70モル%が好ましく、15〜50モル%がより好ましく、22〜45モル%が特に好ましい。
また、ポリビニルアセタールは、その他の成分として、酢酸ビニル単位を有していてもよく、その含量としては0.01〜20モル%が好ましく、0.1〜10モル%がさらに好ましい。ポリビニルアセタールは、さらに、その他の共重合単位を有していてもよい。
ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラール誘導体、ポリビニルプロピラール誘導体、ポリビニルエチラール誘導体、ポリビニルメチラール誘導体などが挙げられ、中でもポリビニルブチラール誘導体(以下、PVB誘導体と称する。)が好ましい。なお、これらの記載においても、例えば、ポリビニルブチラール誘導体とは、本明細書においては、ポリビニルブチラール及びその誘導体を包含する意味で用いられ、他のポリビニルアセタール誘導体類についても同様である。
ポリビニルアセタールの分子量としては、彫刻感度と皮膜性のバランスを保つ観点で、重量平均分子量として5,000〜800,000であることが好ましく、より好ましくは8,000〜500,000である。さらに、彫刻カスのリンス性向上の観点からは、50,000〜300,000であることが特に好ましい。
以下、ポリビニルアセタールの特に好ましい例として、ポリビニルブチラールを挙げて説明するが、これに限定されない。ポリビニルブチラール誘導体の構造は、以下に示す通りであり、これらの構造単位を含んで構成される。
Figure 0005364628
PVB誘導体としては、市販品としても入手可能であり、その好ましい具体例としては、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で、積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズ、「エスレックK(KS)」シリーズ、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」が好ましい。さらに好ましくは、アルコール溶解性(特にエタノール)の観点で積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズと電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」である。これらのうち、特に好ましい市販品を、上記式中の、l、m、及びnの値と、分子量とともに以下に示す。積水化学工業(株)製の「エスレックB」シリーズでは、「BL−1」(l=61、m=3、n=36 重量平均分子量 1.9万)、「BL−1H」(l=67、m=3、n=30 重量平均分子量 2.0万)、「BL−2」(l=61、m=3、n=36 重量平均分子量 約2.7万)、「BL−5」(l=75、m=4、n=21 重量平均分子量 3.2万)、「BL−S」(l=74、m=4、n=22 重量平均分子量 2.3万)、「BM−S」(l=73、m=5、n=22 重量平均分子量 5.3万)、「BH−S」(l=73、m=5、n=22 重量平均分子量 6.6万)が、また、電気化学工業(株)製の「デンカブチラール」シリーズでは「#3000−1」(l=71、m=1、n=28 重量平均分子量 7.4万)、「#3000−2」(l=71、m=1、n=28 重量平均分子量 9.0万)、「#3000−4」(l=71、m=1、n=28 重量平均分子量 11.7万)、「#4000−2」(l=71、m=1、n=28 重量平均分子量 15.2万)、「#6000−C」(l=64、m=1、n=35 重量平均分子量 30.8万)、「#6000−EP」(l=56、m=15、n=29 重量平均分子量 38.1万)、「#6000−CS」(l=74、m=1、n=25 重量平均分子量 32.2万)、「#6000−AS」(l=73、m=1、n=26 重量平均分子量 24.2万)が、それぞれ挙げられる。
なお、PVB誘導体を用いた樹脂組成物を用いる場合には、レリーフ形成層の形成は、PVB誘導体を溶媒に溶かした溶液をキャストし、乾燥させる方法が、膜の表面の平滑性の観点で好ましい。
(4)ポリエステル
本発明における成分Bとしてポリエステルを用いることができる。
このポリエステルとしては、ヒドロキシカルボン酸ユニットからなるポリエステル及びその誘導体、ポリカプロラクトン(PCL)及びその誘導体、ポリ(ブチレンコハク酸)及びその誘導体から成る群から選択される少なくとも1種のポリエステルであることが好ましい。
本明細書における「ヒドロキシカルボン酸ユニットからなるポリエステル」とは、ヒドロキシカルボン酸を原料の1つとして用い、重合反応により得られるポリエステルを指す。また、本明細書において、「ヒドロキシカルボン酸」とは分子中に少なくとも1つのOH基とCOOH基を有する化合物を指す。「ヒドロキシカルボン酸」の少なくとも1つのOH基とCOOH基は近傍に存在することが好ましく、OH基とCOOH基の連結が原子6個以下で行われていることが好ましく、4個以下で行われていることがより好ましい。
ポリエステルとして、具体的には、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、乳酸系ポリマー、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、及びポリ(ブチレンコハク酸)、並びにこれらの誘導体又は混合物からなる群から選択されるものが好ましい。
ポリエステルの重量平均分子量は、塗布溶剤への溶解性(溶解に要する時間)の点から、5,000〜300,000が好ましく、10,000〜200,000がより好ましく、20,000〜100,000がさらに好ましい。
(5)ポリウレタン
本発明における成分Bとしてはポリウレタンを用いることもできる。本発明において成分Bとして用いうるポリウレタンは、ジイソシアネート化合物の少なくとも1種と、ジオール化合物の少なくとも1種との反応生成物である構造単位を基本骨格とするポリウレタンである。
ジイソシアネート化合物としては、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートの二量体、2,6−トリレンジレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート化合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等のような脂肪族ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4(又は2,6)ジイソシアネート、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等のような脂環族ジイソシアネート化合物;1,3−ブチレングリコール1モルとトリレンジイソシアネート2モルとの付加体等のようなジオールとジイソシアネートとの反応物であるジイソシアネート化合物が挙げられる。特に熱分解性の観点で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネートが好ましい。
また、ジオール化合物としては、具体的には、1,4−ジヒドロキシベンゼン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ヒドロキシビナフチル、ビスフェノールA、4,4’−ビス(ヒドロキシフェニル)メタン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、重量平均分子量1,000以下のポリエチレングリコール、重量平均分子量1,000以下のポリプロピレングリコール等が挙げられる。
ポリウレタンの好ましい例としては、特開2008−26653号公報に記載の芳香族基がウレタン結合と直接結合した構造を有するポリウレタン樹脂も挙げられる。
成分Bとしてのポリウレタンの分子量は、好ましくは重量平均分子量で10,000以上であり、より好ましくは、40,000〜20万の範囲である。特に、分子量がこの範囲であるポリウレタンを用いると、熱架橋により形成された樹脂架橋物の強度に優れる。
前記(1)〜(5)のポリマーの中でも、彫刻感度の点から、(1)アクリル樹脂、(2)エポキシ樹脂、及び、(3)ポリビニルアセタールよりなる群から選択される少なくとも1種のポリマーであることが好ましく、アクリル樹脂及び/又はポリビニルアセタールがより好ましく、ポリビニルアセタールがさらに好ましい。
成分Bは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
成分Bの総含有量は、レリーフ形成層の固形分全質量に対し、15〜75質量%が好ましく、20〜65質量%がより好ましい。成分Bの含有量を15質量%以上とすることで、得られた印刷版を印刷版として使用するに足る耐刷性が得られ、また、75質量%以下とすることで、他成分が不足することがなく、印刷版をフレキソ印刷版とした際においても印刷版として使用するに足る柔軟性を得ることができる。
<(成分C)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層は、(成分C)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物を含有する。「加水分解性シリル基」とは、加水分解性を有するシリル基のことであり、加水分解性基としては、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、イソプロペノキシ基等を挙げることができる。シリル基は加水分解してシラノール基となり、シラノール基は脱水縮合してシロキサン結合が生成する。このような加水分解性シリル基又はシラノール基は下記式(1)で表されるものが好ましい。
Figure 0005364628
前記式(1)中、R1〜R3の少なくともいずれか1つは、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシ基を表す。残りのR1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は、1価の有機置換基(例えば、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基を挙げることができる。)を表す。
前記式(1)中、ケイ素原子に結合する加水分解性基としては、特にアルコキシ基、ハロゲン原子が好ましく、アルコキシ基がより好ましい。
アルコキシ基としては、リンス性と耐刷性の観点から、炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましい。より好ましくは炭素数1〜15のアルコキシ基、さらに好ましくは炭素数1〜5、特に好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基、最も好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。
また、ハロゲン原子としては、F原子、Cl原子、Br原子、I原子が挙げられ、合成のしやすさ及び安定性の観点で、好ましくはCl原子及びBr原子であり、より好ましくはCl原子である。
本発明における成分Cは、前記式(1)で表される基を1つ以上有する化合物であることが好ましく、2つ以上有する化合物であることがより好ましい。特に加水分解性シリル基を2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。すなわち、分子内に加水分解性基が結合したケイ素原子を2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。成分C中に含まれる加水分解性基が結合したケイ素原子の数は、2以上6以下が好ましく、2又は3が最も好ましい。
前記加水分解性基は1個のケイ素原子に1〜4個の範囲で結合することができ、式(1)中における加水分解性基の総個数は2又は3の範囲であることが好ましい。特に3つの加水分解性基がケイ素原子に結合していることが好ましい。加水分解性基がケイ素原子に2個以上結合するときは、それらは互いに同一であっても、異なっていてもよい。
好ましい前記アルコキシ基として、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基などを挙げることができる。これらの各アルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよいし、異なるアルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよい。
アルコキシ基の結合したアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリフェノキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基などのジアルコキシモノアルキルシリル基;メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基などのモノアルコキシジアルキルシリル基を挙げることができる。
成分Cは、硫黄原子、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、ウレア結合、又は、イミノ基を少なくとも有することが好ましい。
中でも、成分Cは、架橋性の観点から、硫黄原子を含有することが好ましく、また、彫刻カスの除去性(リンス性)の観点から、アルカリ水で分解しやすいエステル結合、ウレタン結合、又は、エーテル結合(特にオキシアルキレン基に含まれるエーテル結合)を含有することが好ましい。硫黄原子を含有する成分Cは、架橋レリーフ形成層及びレリーフ層の強度を向上させる。
また、本発明における成分Cは、エチレン性不飽和結合を有していない化合物であることが好ましい。
本発明における成分Cとしては、複数の前記式(1)で表される基が二価の連結基を介して結合している化合物が挙げられ、このような二価の連結基としては、効果の観点からスルフィド基(−S−)、イミノ基(−N(R)−)、又は、ウレタン結合(−OCON(R)−又は−N(R)COO−)を有する連結基が好ましい。なお、Rは水素原子又は置換基を表す。Rにおける置換基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、又は、アラルキル基が例示できる。
成分Cの合成方法としては、特に制限はなく、公知の方法により合成することができる。上記特定構造を有する連結基を含む成分Cの代表的な合成方法を以下に示す。
<連結基としてスルフィド基を有し、かつ加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法>
連結基としてスルフィド基を有する成分C(以下、適宜、「スルフィド連結基含有成分C」と称する。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Cと硫化アルカリの反応、メルカプト基を有する成分Cとハロゲン化炭化水素の反応、メルカプト基を有する成分Cとハロゲン化炭化水素基を有する成分Cの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Cとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Cとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Cとメルカプト基を有する成分Cの反応、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とメルカプト基を有する成分Cの反応、ケトン類とメルカプト基を有する成分Cの反応、ジアゾニウム塩とメルカプト基を有する成分Cの反応、メルカプト基を有する成分Cとオキシラン類との反応、メルカプト基を有する成分Cとオキシラン基を有する成分Cの反応、及び、メルカプタン類とオキシラン基を有する成分Cの反応、メルカプト基を有する成分Cとアジリジン類との反応等の合成方法が例示できる。
<連結基としてイミノ基を有し、かつ加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法>
連結基としてイミノ基を有する成分C(以下、適宜、「イミノ連結基含有成分C」と称する。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、アミノ基を有する成分Cとハロゲン化炭化水素の反応、アミノ基を有する成分Cとハロゲン化炭化水素基を有する成分Cの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Cとアミン類の反応、アミノ基を有する成分Cとオキシラン類との反応、アミノ基を有する成分Cとオキシラン基を有する成分Cの反応、アミン類とオキシラン基を有する成分Cの反応、アミノ基を有する成分Cとアジリジン類との反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Cとアミン類の反応、エチレン性不飽和二重結合を有する成分Cとアミノ基を有する成分Cの反応、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Cの反応、アセチレン性不飽和三重結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Cの反応、イミン性不飽和二重結合を有する成分Cと有機アルカリ金属化合物の反応、イミン性不飽和二重結合を有する成分Cと有機アルカリ土類金属化合物の反応、及び、カルボニル化合物とアミノ基を有する成分Cの反応等の合成方法が例示できる。
<連結基としてウレタン結合(ウレイレン基)を有し、かつ加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法>
連結基としてウレイレン基を有する成分C(以下、適宜、「ウレイレン連結基含有成分C」と称する。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、アミノ基を有する成分Cとイソシアン酸エステル類の反応、アミノ基を有する成分Cとイソシアン酸エステルを有する成分Cの反応、及び、アミン類とイソシアン酸エステルを有する成分Cの反応等の合成方法が例示できる。
成分Cとしては、下記式(C−1)又は式(C−2)で表される化合物であることが好ましい。
Figure 0005364628
(式(C−1)及び式(C−2)中、RBはエステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、又は、イミノ基を表し、L1はn価の連結基を表し、L2は二価の連結基を表し、Ls1はm価の連結基を表し、L3は二価の連結基を表し、n及びmはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は、一価の有機置換基を表す。ただし、R1〜R3の少なくともいずれか1つは、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシ基を表す。)
前記式(C−1)及び式(C−2)におけるR1〜R3は、前記式(1)におけるR1〜R3と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記RBは、リンス性及び膜強度の観点から、エステル結合又はウレタン結合であることが好ましく、エステル結合であることがより好ましい。
前記L1〜L3における二価又はn価の連結基は、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子から構成された基であることが好ましく、炭素原子、水素原子、酸素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子から構成された基であることがより好ましい。前記L1〜L3の炭素数は、2〜60であることが好ましく、2〜30であることがより好ましい。
前記Ls1におけるm価の連結基は、硫黄原子と、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子とから構成された基であることが好ましく、アルキレン基、又は、アルキレン基、スルフィド基及びイミノ基を2以上組み合わせた基であることがより好ましい。前記Ls1の炭素数は、2〜60であることが好ましく、6〜30であることがより好ましい。
前記n及びmはそれぞれ独立に、1〜10の整数であることが好ましく、2〜10の整数であることがより好ましく、2〜6の整数であることがさらに好ましく、2であることが特に好ましい。
1のn価の連結基及び/若しくはL2の二価の連結基、又は、L3の二価の連結基は、
彫刻カスの除去性(リンス性)の観点から、エーテル結合を有することが好ましく、オキシアルキレン基に含まれるエーテル結合を有することがより好ましい。
式(C−1)又は式(C−2)で表される化合物の中でも、架橋性等の観点から、式(C−1)において、L1のn価の連結基及び/又はL2の二価の連結基が硫黄原子を有する基であることが好ましい。
本発明に適用しうる成分Cの具体例を以下に示す。例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)ジエトキシメチルシラン、3−(2−アセトキシエチルチオプロピル)ジメトキシメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、ジメトキシメチル−3−(3−フェノキシプロピルチオプロピル)シラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)デカン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ウレア、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、トリメチルシラノール、ジフェニルシランジオール、トリフェニルシラノール等を挙げることができる。その他にも、以下に示す化合物が好ましいものとして挙げられるが、本発明はこれらの化合物に制限されるものではない。
Figure 0005364628
Figure 0005364628
Figure 0005364628
Figure 0005364628
Figure 0005364628
前記各式中、Rは以下の構造から選択される部分構造を表す。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一で
あることが好ましい。
Figure 0005364628
Figure 0005364628
前記各式中、Rは以下に示す部分構造を表す。R1は前記したものと同義である。分子
内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合
成適性上は、同一であることが好ましい。
Figure 0005364628
成分Cは、適宜合成して得ることも可能であるが、市販品を用いることがコストの面から好ましい。成分Cとしては、例えば、信越化学工業(株)、東レ・ダウコーニング(株)、モメンティブパフォーマンスマテリアルズ(株)、チッソ(株)等から市販されているシラン製品、シランカップリング剤などの市販品がこれに相当するため、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に、これら市販品を、目的に応じて適宜選択して使用してもよい。
本発明における成分Cとして、加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物を1種用いて得られた部分加水分解縮合物、又は、2種以上用いて得られた部分共加水分解縮合物を用いることができる。以下、これらの化合物を「部分(共)加水分解縮合物」と称することがある。
部分(共)加水分解縮合物前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、膜の相溶性の観点から、ケイ素上の置換基としてメチル基及びフェニル基から選択される置換基を有するシラン化合物であることが好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが好ましい前駆体として例示される。
この場合、部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物の2量体(シラン化合物2モルに水1モルを作用させてアルコール2モルを脱離させ、ジシロキサン単位としたもの)〜100量体、好ましくは2〜50量体、さらに好ましくは2〜30量体としたものが好適に使用できるし、2種以上のシラン化合物を原料とする部分共加水分解縮合物を使用することも可能である。
なお、このような部分(共)加水分解縮合物は、シリコーンアルコキシオリゴマーとして市販されているものを使用してもよく(例えば、信越化学工業(株)などから市販されている。)、また、常法に基づき、加水分解性シラン化合物に対し当量未満の加水分解水を反応させた後に、アルコール、塩酸等の副生物を除去することによって製造したものを使用してもよい。製造に際しては、前駆体となる原料の加水分解性シラン化合物として、例えば、上記したようなアルコキシシラン類やアシロキシシラン類を使用する場合は、塩酸、硫酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミン等のアルカリ性有機物質等を反応触媒として部分加水分解縮合すればよく、クロロシラン類から直接製造する場合には、副生する塩酸を触媒として水及びアルコールを反応させればよい。
本発明の樹脂組成物における成分Cは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層中に含まれる成分Cの含有量は、レリーフ形成層の総質量に対して、固形分換算で、0.1〜80質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%の範囲であり、最も好ましくは5〜30質量%の範囲である。
<(成分D)重合性化合物>
本発明においては、レリーフ形成層中に架橋構造を形成する観点から、これを形成するために、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層は、重合性化合物を含有することが好ましい。
ここで用いうる重合性化合物は、エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個、さらに好ましくは2個有する化合物の中から任意に選択することができる。
また、前記重合性化合物は、成分Bとは異なる化合物であり、分子の末端にエチレン性不飽和結合を有する化合物であることが好ましい。また、前記重合性化合物の分子量(重量平均分子量)は、5,000未満であることが好ましい。
前記重合性化合物としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、特開2009−204962号公報の段落0098〜0124、及び、特開2009−255510号公報に記載のものを例示できる。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層中には、架橋構造を形成することが必要であることから、多官能モノマーが好ましく使用される。これらの多官能モノマーの分子量は、120〜3,000であることが好ましく、200〜2,000であることがより好ましい。
単官能モノマー及び多官能モノマーとしては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。
好ましい成分Dとしては、グリセロールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に、重合性化合物を用いることにより、架橋レリーフ形成層における膜物性、例えば、脆性、柔軟性などを調整することができる。
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層中の(成分D)重合性化合物の含有量は、架橋膜の柔軟性や脆性の観点から、固形分換算でレリーフ形成層の総質量に対して、5〜60質量%が好ましく、8〜30質量%の範囲がより好ましい。
<(成分E)重合開始剤>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層は、さらに(成分E)重合開始剤を含有することが好ましく、(成分D)重合性化合物と併用することが好ましい。
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましく、特開2008−63554号公報の段落0074〜0118に記載されている化合物を好ましく例示できる。
ラジカル重合開始剤としては、芳香族ケトン類、オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アゾ系化合物等が挙げられる。中でも彫刻感度と、レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した際にはレリーフエッジ形状を良好とするといった観点から、有機過酸化物又はアゾ系化合物がより好ましく、有機過酸化物が特に好ましい。
また、好ましい併用成分として、有機過酸化物と光熱変換剤とを組み合わせて用いることで、彫刻感度が極めて高くなるのでより好ましく、有機過酸化物と光熱変換剤であるカーボンブラックとを組み合わせて用いた態様が最も好ましい。
これは、有機過酸化物を用いてレリーフ形成層を熱架橋により硬化させる際、ラジカル発生に関与しない未反応の有機過酸化物が残存するが、残存した有機過酸化物は、自己反応性の添加剤として働き、レーザー彫刻時に発熱的に分解する。その結果、照射されたレーザーエネルギーに発熱分が加算されるので彫刻感度が高くなると推定される。
なお、この効果は、光熱変換剤としてカーボンブラックを用いる場合に著しい。これは、カーボンブラックから発生した熱が有機過酸化物にも伝達される結果、カーボンブラックだけでなく有機過酸化物からも発熱し、成分B等の分解に使用されるべき熱エネルギーの発生が相乗的に生じるためと考えている。
本発明における(成分E)重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層中の(成分E)重合開始剤の含有量は、レリーフ形成層の固形分全質量に対し0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。重合開始剤の含有量を0.01質量%以上とすることで、これを添加した効果が得られ、架橋性レリーフ形成層の架橋が速やかに行われる。また、含有量を10質量%以下とすることで他成分が不足することがなく、レリーフ印刷版として使用するに足る耐刷性が得られる。
<(成分F)光熱変換剤>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層は、さらに、(成分F)光熱変換剤を含有することが好ましい。すなわち、本発明における光熱変換剤は、レーザーの光を吸収し発熱することで、レーザー彫刻時の硬化物の熱分解を促進すると考えられる。このため、彫刻に用いるレーザー波長の光を吸収する光熱変換剤を選択することが好ましい。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を、700〜1,300nmの赤外線を発するレーザー(YAGレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー、面発光レーザー等)を光源としてレーザー彫刻に用いる場合に、光熱変換剤としては、700〜1,300nmに極大吸収波長を有する化合物を用いることが好ましい。本発明における光熱変換剤としては、種々の染料又は顔料が用いられる。
光熱変換剤のうち、染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、700〜1,300nmに極大吸収波長を有するものが挙げられ、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、ジインモニウム化合物、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が好ましく挙げられる。本発明において好ましく用いられる染料としては、ヘプタメチンシアニン色素等のシアニン系色素、ペンタメチンオキソノール色素等のオキソノール系色素、フタロシアニン系色素及び特開2008−63554号公報の段落0124〜0137に記載の染料を挙げることができる。
本発明において使用される光熱変換剤のうち、顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。また、顔料としては、特開2009−178869号公報の段落0122〜0125に記載の顔料が例示できる。
これらの顔料のうち、好ましいものはカーボンブラックである。
カーボンブラックは、組成物中における分散性などが安定である限り、ASTMによる分類のほか、用途(例えば、カラー用、ゴム用、乾電池用など)の如何に拘らずいずれも使用可能である。カーボンブラックには、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなどが含まれる。なお、カーボンブラックなどの黒色着色剤は、分散を容易にするため、必要に応じて分散剤を用い、予めニトロセルロースやバインダーなどに分散させたカラーチップやカラーペーストとして使用することができ、このようなチップやペーストは市販品として容易に入手できる。また、カーボンブラックとしては、特開2009−178869号公報の段落0130〜0134に記載されたものが例示できる。
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層中における光熱変換剤の含有量は、その分子固有の分子吸光係数の大きさにより大きく異なるが、レリーフ形成層の固形分全質量の0.01〜30質量%の範囲が好ましく、0.05〜20質量%がより好ましく、0.1〜10質量%が特に好ましい。
<(成分G)可塑剤>
可塑剤は、レリーフ層を柔軟化する作用を有するものであり、成分Bに対して相溶性のよいものが好ましい。
可塑剤としては、高分子の可塑剤として公知のものを用いることができ、限定されないが、例えば高分子大辞典(初版、1994年、丸善(株)発行)の第211〜220頁に記載のアジピン酸誘導体、アゼライン酸誘導体、ベンゾイル酸誘導体、クエン酸誘導体、エポキシ誘導体、グリコール誘導体、炭化水素及び誘導体、オレイン酸誘導体、リン酸誘導体、フタル酸誘導体、ポリエステル系、リシノール酸誘導体、セバシン酸誘導体、ステアリン酸誘導体、スルホン酸誘導体、テルペン及び誘導体、トリメリット酸誘導体が挙げられ、中でも、アジピン酸誘導体、フタル酸誘導体、クエン酸誘導体、及び、グリコール誘導体が好ましい。
アジピン酸誘導体としては、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ビス(イソノニル)、アジピン酸ビス(イソデシル)、アジピン酸ビス(2−ブトキシエチル)等が、フタル酸誘導体としては、例えば、ジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート等が、クエン酸誘導体としては、クエン酸トリブチル等が、グリコール誘導体としては、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)、ポリプロピレングリコール(モノオール型やジオール型)等が好ましく用いられる。
成分Gは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。成分Gの含有量は、固形分換算で、レリーフ形成層の総質量に対して、1〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましく、20〜30質量%がさらに好ましい。
<(成分H)香料>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層は、臭気を低減させるために、(成分H)香料を含有することが好ましい。香料は、レリーフ印刷版原版の製造時やレーザー彫刻時の臭気を低減させるのに有効である。
香料を含有することにより、製造中に塗布した各成分を含む液状樹脂組成物を乾燥する際、揮発する溶剤臭をマスクすることができる。また、レーザー彫刻する際に発生するアミン臭やケトン臭、アルデヒド臭、樹脂の焦げ臭さなどの不快臭をマスクすることができる。また、香料は、硫黄の臭気を低減することにも効果的であるため、硫黄原子を有する化合物を含む場合には、有用である。
香料としては、公知の香料を適宜選択して用いることができ、香料を1種単独で用いることもできるし、複数の香料を組み合わせて使用することもできる。
香料は、使用する成分によって、適宜選択することが好ましく、公知の香料を組み合わせて最適化することが好ましい。香料としては、「合成香料−化学と商品知識−」(印藤元一著、(株)化学工業日報社発行)、「香料化学入門」(渡辺昭次著、(株)培風館出版)、「香りの百科」(日本香料協会編、(株)朝倉書店出版)、「香料化学総覧II 単離香料・合成香料・香料の応用」((株)廣川書店発行)に記載されている香料が挙げられる。また、本発明に用いることができる香料としては、特開2009−203310号公報の段落0012〜0025に記載された香料が例示できる。
中でも、香料として、テルペン系炭化水素、テルペン系アルコール、テルペン類のオキサイド、テルペン系アルデヒド、テルペン系ケトン、テルペン系カルボン酸、テルペン系ラクトン、テルペン系カルボン酸エステル等のテルペン化合物及び/又は脂肪族エステル、フラン系カルボン酸族エステル、脂肪族環状カルボン酸エステル、シクロヘキシルカルボン酸族エステル、芳香族カルボン酸エステル等のエステル化合物を使用することが好ましい。
また、本発明における香料として、耐熱性香料を用いることが好ましい。耐熱性香料を用いることにより、レーザー彫刻時において芳香を発散することにより樹脂の分解による悪臭をマスキングし、しかも、常温においてはほとんど芳香を発散せず長期保存の可能な(架橋)レリーフ形成層及びレリーフ層とすることができる。
ここで、耐熱性香料とは、レーザー彫刻作業時において芳香を発散することにより樹脂の分解等による悪臭をマスキングし、かつ、常温においてはほとんど芳香を発散せず長期保存が可能である香料のことをいう。
耐熱性香料として、具体的には、以下に示すような、ヘリオトロープ系、ジャスミン系、ローズ系、オレンジフラワー系、アンバー系、及び、ムスク系よりなる群から選ばれた1種以上の香料成分が好ましく使用される。
また、さらに具体的な香料として、下記のパチュリ油を主体とするオリエンタルベースに、下記のローズ系、アンバー系、ムスク系、及び、ジャスミン系よりなる群から選ばれる香料成分を、溶剤のジオクチルフタレート(DOP)と共に上乗せしたタブ(TABU)タイプの香料がある。
オリエンタルベースとしては、パチュリ油、ハーコリン(メチルアビエテート・methylabietate)、バニリン、エチルバニリン、クマリン等が挙げられ、ローズ系香料成分としては、フェニルエチルアルコール、ゲラニオール、イソ−ボルニルメトキシシクロヘキサノール(iso−Bornyl methoxycyclohexanol)等が挙げられ、アンバー系香料成分としては、テトラハイドロパラメチルキノリン等が挙げられ、ムスク系香料成分としては、ガラクソリッド、ムスクケトン等が挙げられ、ジャスミン系香料成分としては、α−アミルシンナムアルデヒド、メチルジヒドロジャスモネート等が挙げられる。
また、下記のヘリオトロープ系の香料成分を主香調とし、ジャスミン系の香料成分、さらに、高調性、拡散性を付与するため、ローズ系の香料成分やオレンジフラワー系の香料成分を、溶媒のDOPと一緒に加えたアメシスト(AMETHYST)タイプの香料も好ましいものとして挙げられる。
ヘリオトロープ系香料成分としては、ヘリオトロピン、ムスクケトン、クマリン、エチルバニリン、アセチルセドレン、ハーコリン(メチルアビエテート)、オイゲノール、メチルヨノン等が挙げられ、ローズ系香料成分としては、ダマスコン−β、ダマスコン−α、イソ−ボルニルメトキシシクロヘキサノール等が挙げられ、オレンジフラワー系香料成分としては、メチルアンスラニレート、γ−ウンデカラクトン、γ−ノナラクトン等が挙げられ、ジャスミン系香料成分としては、メチルジヒドロジャスモネート等が挙げられる。
さらに、その他の耐熱性香料として、6−ヒドロキシアルカン酸や、6−(5−及び/又は6−アルケノイロキシ)アルカン酸を用いることも好ましい。
香料としては、バニリン系香料、ジャスミン系香料、又は、ミント系香料を少なくとも含むことが好ましく、バニリン系香料、及び/又は、ミント系香料を含むことがより好ましく、バニリン系香料を含むことがさらに好ましい。
バニリン系香料として、具体的には、バニリン、バニリン酸、バニリルアルコール、バニリンプロピレングリコールアセタール、メチルバニリン、エチルバニリン、パラヒドロキシ安息香酸、パラヒドロキシベンズアルデヒド等が好ましく例示できる。
ジャスミン系香料として、具体的には、メチルジヒドロジャスモネート、メチルエピ−ジヒドロジャスモネート、メチルジャスモネート、メチルエピ−ジャスモネート、シスジャスモン、ジャスモナン、シスジャスモンラクトン、ジヒドロジャスモンラクトン、ジャスミンラクトン、γ−ジャスモラクトン、シスジャスモンラクトン、メチルγ−デカラクトン、ジャスモラクトン、γ−ヘキサラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、4−メチル−5−ヘキセノライド−1:4、2−n−ヘキシルシクロペンタノン、アルキル−シクロヘプチルメチルカーボネート等が好ましく例示できる。
ミント系香料として、具体的にはメントール、メントン、シネオール、l−メントール、d−メントール、dl−メントール、d−ネオメントール、d−イソメントール、d−ネオメントール、ペパーミント油、スペアミント油、ハッカ油等が好ましく例示できる。
香料の含有量は、レリーフ形成層の全固形分量に対し、0.003〜1.5質量%が好ましく、0.005〜1.0質量%がより好ましい。上記範囲であると、マスキング効果を充分に発揮でき、香料の香りが適度であり、作業環境の改善される。
<その他の添加剤>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層には、ゴムの分野で通常用いられている各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。例えば、充填剤、ワックス、プロセス油、有機酸、金属酸化物、オゾン分解防止剤、老化防止剤、熱重合防止剤、着色剤等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
プロセス油を使用する場合、例えば芳香族系プロセス油、ナフテン系プロセス油、パラフィン系プロセス油を挙げることができる。その添加量は、成分B100部あたり1〜70部が好ましい。
有機酸は金属塩として、常套の加硫剤と組み合わせて、加硫促進のための助剤として使用することができる。有機酸としては例えば、ステアリン酸、オレイン酸、ムラスチン酸を挙げることができる。併用される金属源としては酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化マグネシウム等の金属酸化物を挙げることができる。これらは加硫工程において、ゴム中で有機酸と金属酸化物が金属塩を形成し、硫黄等の加硫剤の活性化を促すとされている。このような金属塩を系中で形成させるための金属酸化物の添加量は、成分B100部あたり0.1〜10部が好ましく、2〜10部がより好ましい。
有機酸の添加量は、成分B100部あたり0.1〜5部が好ましく、0.1〜3部がより好ましい。
レリーフ形成層には、成分Cの架橋構造形成を促進するため、アルコール交換反応触媒を添加することが好ましい。アルコール交換反応触媒は、シランカップリング反応において一般に用いられる反応触媒であれば、限定なく適用できる。アルコール交換反応触媒としては、酸又は塩基性化合物をそのまま用いるか、又は水若しくは有機溶剤などの溶媒に溶解させた状態のもの(以下、それぞれ酸性触媒、塩基性触媒とも称する。)を用いる。溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸又は塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよい。
酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸、リン酸、ヘテロポリ酸、無機固体酸などが挙げられる。
塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、アミン類、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類酸化物、四級アンモニウム塩化合物、四級ホスホニウム塩化合物などが挙げられ、中でもアミン類が好ましい。
アミン類としては、(a)ヒドラジン等の水素化窒素化合物;(b)脂肪族アミン、脂環式アミン又は芳香族アミン;(c)縮合環を含む環状アミン;(d)アミノ酸類、アミド類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミド類又はラクタム類等の含酸素アミン;(e)S、Se等のヘテロ原子を有する含ヘテロ元素アミン;が挙げられ、中でも、(c)縮合環を含む環状アミンが好ましい。
前記(c)縮合環を含む環状アミンとは、少なくとも1つの窒素原子が縮合環を形成する環骨格に含まれる環状アミンであり、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが挙げられ、中でも、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましい。
本発明においては、アルコール交換反応触媒を1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。レリーフ形成層におけるアルコール交換反応触媒の含有量は、レリーフ形成層の全固形分中、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版)
本発明において「レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版」とは、レーザー彫刻用樹脂組成物からなる架橋性を有するレリーフ形成層が、架橋される前の状態、及び、光又は熱により硬化された状態の両方又はいずれか一方のものをいう。
本発明において「レリーフ形成層」とは、架橋される前の状態の層をいい、必要に応じ、乾燥が行われていてもよい。
本発明において「架橋レリーフ形成層」とは、前記レリーフ形成層を架橋した層をいう。前記架橋は、熱及び/又は光により行われる。また、前記架橋は各成分を含む樹脂組成物が硬化される反応であれば特に限定されない。
架橋レリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版をレーザー彫刻することにより「レリーフ印刷版」が作製される。本発明において「レリーフ層」とは、レリーフ印刷版におけるレーザーにより彫刻された層、すなわち、レーザー彫刻後の前記架橋レリーフ形成層をいう。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、必要によりさらに、支持体と(架橋)レリーフ形成層との間に接着層を、また、(架橋)レリーフ形成層上にスリップコート層、保護フィルムを有していてもよい。
<レリーフ形成層>
レリーフ形成層は、前記各成分を含む樹脂組成物からなる層であり、熱架橋性及び/又は光架橋性の層である。本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版としては、成分Bと成分Cとによる架橋構造に加えて、さらに(成分D)重合性化合物及び(成分E)重合開始剤を含有することで、さらなる架橋性の機能を付与したレリーフ形成層を有するものが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版によるレリーフ印刷版の作製態様としては、レリーフ形成層を架橋させて架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版とした後、架橋レリーフ形成層(硬質のレリーフ形成層)をレーザー彫刻することによりレリーフ層を形成してレリーフ印刷版を作製する態様であることが好ましい。レリーフ形成層を架橋することにより、印刷時におけるレリーフ層の摩耗を防ぐことができ、また、レーザー彫刻後にシャープな形状のレリーフ層を有するレリーフ印刷版を得ることができる。
レリーフ形成層は、レリーフ形成層用の前記成分を有する樹脂組成物を、シート状又はスリーブ状に成形することで形成される。レリーフ形成層は、後述する支持体上に設けられる。以下、主としてレリーフ形成層をシート状にした場合を例に挙げて説明する。
<支持体>
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PAN(ポリアクリロニトリル))やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。支持体としては、PETフィルムやスチール基板が好ましく用いられる。支持体の形態は、レリーフ形成層がシート状であるかスリーブ状であるかによって決定される。
<接着層>
レリーフ形成層を支持体上に形成する場合、両者の間には、層間の接着力を強化する目的で接着層を設けてもよい。接着層に使用しうる材料(接着剤)としては、例えば、I.Skeist編、「Handbook of Adhesives」、第2版(1977)に記載のものを用いることができる。
<保護フィルム、スリップコート層>
レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面への傷や凹み防止の目的で、レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面に保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの厚さは、25〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。保護フィルムは、例えば、PETのようなポリエステル系フィルム、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のようなポリオレフィン系フィルムを用いることができる。またフィルムの表面はマット化されていてもよい。保護フィルムは、剥離可能であることが好ましい。
保護フィルムが剥離不可能な場合や、逆にレリーフ形成層に接着しにくい場合には、両層間にスリップコート層を設けてもよい。スリップコート層に使用される材料は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂など、水に溶解又は分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法)
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層の形成は、特に限定されるものではないが、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法は、前記樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、及び、前記レリーフ形成層を熱架橋及び/又は光架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む製造方法であることが好ましい。
その後、必要に応じてレリーフ形成層の上に保護フィルムをラミネートしてもよい。ラミネートは、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムとレリーフ形成層を圧着することや、表面に少量の溶媒を含浸させたレリーフ形成層に保護フィルムを密着させることによって行うことができる。保護フィルムを用いる場合には、先ず保護フィルム上にレリーフ形成層を積層し、次いで支持体をラミネートする方法を採ってもよい。接着層を設ける場合は、接着層を塗布した支持体を用いることで対応できる。スリップコート層を設ける場合は、スリップコート層を塗布した保護フィルムを用いることで対応できる。
<層形成工程>
本発明において、レーザー彫刻用レリーフ印刷版の製版方法は、前記樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程を含むことが好ましい。
レリーフ形成層の形成方法としては、樹脂組成物を調製し、必要に応じて溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法や、樹脂組成物を調製し、樹脂組成物を支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して溶媒を除去する方法が好ましく例示できる。
樹脂組成物は、例えば、成分A、成分B及び他の任意成分を適当な溶媒に溶解させることによって製造できる。溶媒成分のほとんどは、レリーフ印刷版原版を製造する段階で除去する必要があるので、溶媒としては、揮発しやすい低分子アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコ−ルモノメチルエーテル)等を用い、かつ温度を調整するなどして溶媒の全添加量をできるだけ少なく抑えることが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における(架橋)レリーフ形成層の厚さは、架橋の前後において、0.05mm以上10mm以下が好ましく、0.05mm以上7mm以下がより好ましく、0.05mm以上3mm以下がさらに好ましい。
<架橋工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版の製版方法は、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を、熱及び/又は光により架橋する架橋工程を含む製造方法であることが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を加熱及び/又は光照射することで、レリーフ形成層を架橋することができる。熱により架橋を行うための加熱手段としては、印刷版原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。光により架橋する場合は、活性光線源により活性光線を照射する工程が必要となる。該工程は溶剤除去前後どちらで行ってもよい。活性光線源としては高圧水銀灯、超高圧水銀灯、紫外線蛍光灯、カーボンアーク灯、キセノンランプ、殺菌燈などが挙げられる。
レリーフ形成層を架橋することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。
(レリーフ印刷版及びその製版方法)
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、(1)本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を、熱及び/又は光により架橋する架橋工程、並びに、(2)架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する彫刻工程、を含むことを特徴とする。
本発明のレリーフ印刷版は、本発明のレリーフ印刷版の製版方法により製版されたレリーフ印刷版である。本発明のレリーフ印刷版は、水性インキの印刷時に好適に使用することができる。本発明のレリーフ印刷版の製版方法における架橋工程は、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製造方法における架橋工程と同義であり、好ましい範囲も同様である。
<彫刻工程>
彫刻工程は、前記架橋工程で架橋された架橋レリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、架橋された架橋レリーフ形成層に対して、所望の画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成することが好ましい。また、所望の画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、架橋レリーフ形成層に対して走査照射する工程が好ましく挙げられる。
この彫刻工程には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、架橋レリーフ形成層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、架橋レリーフ形成層中の分子は分子切断又はイオン化されて選択的な除去、すなわち、彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く又はショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度で架橋レリーフ形成層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。
彫刻工程に用いられる赤外レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)又は半導体レーザーが好ましい。特に、ファイバー付き半導体
赤外線レーザー(FC−LD)が好ましく用いられる。一般に、半導体レーザーは、CO2レーザーに比べレーザー発振が高効率且つ安価で小型化が可能である。また、小型であ
るためアレイ化が容易である。さらに、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。
半導体レーザーとしては、波長が700〜1,300nmのものが好ましく、800〜1,200nmのものがより好ましく、860〜1,200nmのものがさらに好ましく、900〜1,100nmのものが特に好ましい。
また、ファイバー付き半導体レーザーは、さらに光ファイバーを取り付けることで効率よくレーザー光を出力できるため、本発明における彫刻工程には有効である。さらに、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。例えば、ビームプロファイルはトップハット形状とすることができ、安定に版面にエネルギーを与えることができる。半導体レーザーの詳細は、「レーザーハンドブック第2版」レーザー学会編、実用レーザー技術 電子通信学会 等に記載されている。
また、本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製版方法に好適に使用しうるファイバー付き半導体レーザーを備えた製版装置は、特開2009−172658号公報及び特開2009−214334号公報に詳細に記載され、これを本発明に係るレリーフ印刷版の製版に使用することができる。
本発明のレリーフ印刷版の製版方法では、彫刻工程に次いで、さらに、必要に応じて彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスするリンス工程、彫刻されたレリーフ層を乾燥する乾燥工程、彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層をさらに架橋する後架橋工程を含んでもよい。
リンスの手段として、水又は水を主成分とする液体で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式又は搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、石鹸や界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスするリンス工程を行った場合、彫刻されたレリーフ形成層を乾燥してリンス液を揮発させる乾燥工程を追加することが好ましい。
さらに、必要に応じてレリーフ形成層をさらに架橋させる後架橋工程を追加してもよい。追加の架橋工程である後架橋工程を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
取扱いが容易であることから、リンス液のpHは、9〜14が好ましく、10〜13がより好ましく、11〜12.5がさらに好ましい。リンス液を上記のpH範囲とするために、適宜、酸及び/又は塩基を用いてpHを調整すればよく、使用する酸及び塩基は特に限定されない。
リンス液は、主成分として水を含有することが好ましい。また、リンス液は、水以外の溶媒として、アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン等などの水混和性溶媒を含有していてもよい。
リンス液は、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤としては、彫刻カスの除去性、及び、レリーフ印刷版への影響を少なくする観点から、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物等のベタイン化合物(両性界面活性剤)が好ましく挙げられる。前記ベタイン化合物としては、式(1)で表される化合物及び/又は式(2)で表される化合物が好ましい。
Figure 0005364628
(式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、一価の有機基を表し、R4は単結合、又は、二価の連結基を表し、AはPO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、又は、SO3 -を表し、R5は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、R1〜R3のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよい。)
Figure 0005364628
(式(2)中、R6〜R8はそれぞれ独立に、一価の有機基を表し、R9は単結合、又は、二価の連結基を表し、BはPO(OR10)O-、OPO(OR10)O-、O-、COO-、又は、SO3 -を表し、R10は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、R6〜R8のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよい。)
前記式(1)で表される化合物又は前記式(2)で表される化合物は、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物であることが好ましい。なお、本発明において、アミンオキシド化合物のN=O、及び、ホスフィンオキシド化合物のP=Oの構造はそれぞれ、N+−O-、P+−O-と見なすものとする。
前記式(1)におけるR1〜R3はそれぞれ独立に、一価の有機基を表す。また、R1〜R3のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよいが、環を形成していないことが好ましい。
1〜R3における一価の有機基としては、特に制限はないが、アルキル基、ヒドロキシ基を有するアルキル基、アルキル鎖中にアミド結合を有するアルキル基、又は、アルキル鎖中にエーテル結合を有するアルキル基であることが好ましく、アルキル基、ヒドロキシ基を有するアルキル基、又は、アルキル鎖中にアミド結合を有するアルキル基であることがより好ましい。
また、前記一価の有機基におけるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、R1〜R3のうちの2つがメチル基である、すなわち、式(1)で表される化合物がN,N−ジメチル構造を有することが特に好ましい。上記構造であると、特に良好なリンス性を示す。
前記式(1)におけるR4は、単結合、又は、二価の連結基を表し、式(1)で表され
る化合物がアミンオキシド化合物である場合は単結合である。
4における二価の連結基としては、特に制限はないが、アルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有するアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜8のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜8のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜3のアルキレン基であることがさらに好ましい。
前記式(1)におけるAは、PO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、又は、SO3 -を表し、O-、COO-、又は、SO3 -であることが好ましく、COO-であることがより好ましい。
-がO-である場合、R4は単結合であることが好ましい。
PO(OR5)O-及びOPO(OR5)O-におけるR5は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、水素原子、又は、1以上の不飽和脂肪酸エステル構造を有するアルキル基であることが好ましい。
また、R4は、PO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、及び、SO3 -を有していない基であることが好ましい。
前記式(2)におけるR6〜R8はそれぞれ独立に、一価の有機基を表す。また、R6〜R8のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよいが、環を形成していないことが好ましい。
6〜R8における一価の有機基としては、特に制限はないが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基であることが好ましく、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基であることがより好ましい。
また、前記一価の有機基におけるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、R6〜R8のうちの2つがアリール基であることが特に好ましい。
前記式(2)におけるR9は、単結合、又は、二価の連結基を表し、式(2)で表され
る化合物がホスフィンオキシド化合物である場合は単結合である。
9における二価の連結基としては、特に制限はないが、アルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有するアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜8のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜8のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜3のアルキレン基であることがさらに好ましい。
前記式(2)におけるBは、PO(OR10)O-、OPO(OR10)O-、O-、COO-、又は、SO3 -を表し、O-であることが好ましい。
-がO-である場合、R9は単結合であることが好ましい。
PO(OR10)O-及びOPO(OR10)O-おけるR10は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、水素原子、又は、1以上の不飽和脂肪酸エステル構造を有するアルキル基であることが好ましい。
また、R9は、PO(OR10)O-、OPO(OR10)O-、O-、COO-、及び、SO3 -を有していない基であることが好ましい。
式(1)で表される化合物としては、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
Figure 0005364628
(式(3)中、R1は一価の有機基を表し、R4は単結合、又は、二価の連結基を表し、AはPO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、又は、SO3 -を表し、R5は、水素原子、又は、一価の有機基を表す。)
式(3)におけるR1、A、R4、及び、R5は、前記式(1)におけるR1、A、R4、及び、R5と同義であり、好ましい範囲も同様である。
式(2)で表される化合物としては、下記式(4)で表される化合物であることが好ましい。
Figure 0005364628
(式(4)中、R6〜R8はそれぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基を表す。ただし、R6〜R8の全てが同じ基となることはない。)
前記式(4)におけるR6〜R8はそれぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基を表し、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基であることが好ましい。
式(1)で表される化合物又は式(2)で表される化合物として具体的には、下記の化合物が好ましく例示できる。
Figure 0005364628
Figure 0005364628
また、界面活性剤としては、公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等も挙げられる。さらに、フッ素系、シリコーン系のノニオン界面活性剤も同様に使用することができる。
界面活性剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
界面活性剤の使用量は特に限定する必要はないが、リンス液の全質量に対し、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.05〜10質量%であることがより好ましい。
以上のようにして、支持体等の任意の基材表面にレリーフ層を有するレリーフ印刷版が得られる。
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは、耐磨耗性やインキ転移性のような種々の印刷適性を満たす観点からは、0.05〜10mmが好ましく、より好ましくは0.05〜7mm、特に好ましくは0.05〜3mmである。
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50°以上90°以下であることが好ましい。レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、JIS K6253に規定のショアA硬度に基づいて測定したものであり、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる。)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するタイプAデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。なお、試験片は、厚さ1mmを6枚重ねたものを使用し、測定温度は25℃とする。
本発明のレリーフ印刷版は、フレキソ印刷機による水性インキでの印刷に特に好適であるが、凸版用印刷機による水性インキ、油性インキ及びUVインキ、いずれのインキを用いた場合でも、印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機によるUVインキでの印刷も可能である。本発明のレリーフ印刷版は、リンス性に優れており彫刻カスの残存がなく、かつ、得られたレリーフ層が弾性に優れるため、水性インク転移性及び耐刷性に優れ、長期間にわたりレリーフ層の塑性変形や耐刷性低下の懸念がなく、印刷が実施できる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその趣旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
(実施例1)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
以下の表1に記載の成分を混合し、70℃に保持、撹拌しながら減圧脱気してレーザー彫刻用樹脂組成物を調製した。
・(成分A)発熱剤: 7部
・(成分B)バインダーポリマー: 50部
・(成分C)架橋剤(アルコキシシラン): 15部
・(成分D)重合性化合物: 15部
・(成分E)重合開始剤: 1部
・(成分F)光熱変換剤: 5部
・(成分G)可塑剤: 20部
・(成分H)香料: 1部
・触媒:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン: 0.4部
上記の成分にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を加えて、レーザー彫刻用樹脂組成物の総質量を200部とした。
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製
上記レーザー彫刻用樹脂組成物をPET(ポリエチレンテレフタレート)上に塗布し、90℃で8時間加熱して熱架橋し、膜厚1.28mmのレリーフ形成層を有するレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を得た。
3.レリーフ印刷版の作製(レーザー彫刻)、及び、評価
半導体レーザー彫刻機として、最大出力8.0Wのファイバー付き半導体レーザー(FC−LD)SDL−6390(JDSU社製、波長:915nm)を装備したレーザー記録装置を用いた。半導体レーザー彫刻機でレーザー出力:7.5W、ヘッド速度:409mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。なお、レリーフ層の厚さに変化はなかった。
また、レリーフ層のショアA硬度を、前述の測定方法により測定したところ、71°であった。
レリーフ層の「彫刻深さ」は、以下のようにして測定した。ここで、「彫刻深さ」とは、レリーフ層の断面を観察した場合の、彫刻された位置(高さ)と彫刻されていない位置(高さ)との差をいう。本実施例における「彫刻深さ」は、レリーフ層の断面を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK9510((株)キーエンス製)にて観察することにより測定した。彫刻深さが大きいことは、彫刻感度が高いことを意味する。
(実施例2〜38、及び、比較例1〜14)
表1に記載の各成分を使用し、実施例1と同様な方法により、レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版を、実施例2〜38及び比較例1〜14について、それぞれ得た。得られた各レリーフ印刷版の彫刻深さ、レリーフ層の厚さ、ショアA硬度を測定した結果を表1に示した。
(実施例39〜76、及び、比較例15〜28)
表2に記載の各成分を使用し、実施例1と同様な方法により、レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版を、実施例39〜80及び比較例15〜29についてそれぞれ得た。
実施例39〜80、及び、比較例15〜29においては、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)彫刻機として、レーザー照射による彫刻を、高品位CO2レーザーマーカML−9100シリーズ((株)キーエンス製)を用いた。レーザー彫刻用印刷版原版から保護フィルムを剥離後、炭酸ガスレーザー彫刻機で、出力:12W、ヘッド速度:200mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。なお、レリーフ層の厚さに変化はなかった。
得られた各レリーフ印刷版の彫刻深さ、レリーフ層の厚さ、ショアA硬度を測定した結果を表2に示した。
(実施例77〜80、及び、比較例29)
表2に記載の各成分を使用し、実施例1と同様な方法により、レーザー彫刻用樹脂組成物を調製した。
上記レーザー彫刻用樹脂組成物をPET(ポリエチレンテレフタレート)上に塗布し、90℃で3時間加熱し、紫外領域に光源を有する超高圧水銀灯(オーク(株)製)で全面露光(露光量:4,000mJ/cm2)した。
実施例77〜80、及び、比較例29においては、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)彫刻機として、レーザー照射による彫刻を、高品位CO2レーザーマーカML−9100シリーズ((株)キーエンス製)を用いた。レーザー彫刻用印刷版原版から保護フィルムを剥離後、炭酸ガスレーザー彫刻機で、出力:12W、ヘッド速度:200mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
得られた各レリーフ印刷版の彫刻深さ、レリーフ層の厚さ、ショアA硬度を測定した結果を表2に示した。
Figure 0005364628
Figure 0005364628
表1及び表2に記載の各成分の内容は以下の通りである。
<(成分A)ヒドラジド化合物、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、及び、テトラゾール化合物よりなる群から選択された少なくとも1つの発熱剤>
・A−1:2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルホニルヒドラジド(東京化成工業(株)製)ヒドラジド価:3.35meq/g
・A−2:2−メシチレンスルホニルヒドラジド(東京化成工業(株)製)ヒドラジド価:4.67meq/g
・A−3:ベンゼンスルホニルヒドラジド(東京化成工業(株)製)ヒドラジド価:5.81meq/g
・A−4:1,5−ジフェニルカルボノヒドラジド(東京化成工業(株)製)ヒドラジド価:8.25meq/g
・A−5:3’,6’−ビス(ジエチルアミノ)−2−(4−ニトロフェニル)スピロ[イソインドール−1,9’−キサンテン]−3−オン(東京化成工業(株)製)ニトロ価:1.78meq/g
・A−6:2−ブロモ−4−ニトロアニソール(東京化成工業(株)製)ニトロ価:4.31meq/g
・A−7:3,5−ジニトロ安息香酸(東京化成工業(株)製)ニトロ価:9.43meq/g
・A−8:2,4,6−トリ−tert−ブチルニトロソベンゼン(東京化成工業(株)製)ニトロソ価:3.63meq/g
・A−9:4−ニトロソレソルシノール−1−モノメチルエーテル(東京化成工業(株)製)ニトロソ価:6.53meq/g
・A−10:ニトロソベンゼン(東京化成工業(株)製)ニトロソ価:9.34meq/g
・A−11:1−(4−メトキシフェニル)−5−メルカプトテトラゾール(東京化成工業(株)製)テトラゾール価:4.80meq/g
・A−12:5−フェニル−1H−テトラゾール(東京化成工業(株)製)テトラゾール価:6.84meq/g
・A−13:5,5’−ビステトラゾールピペラジン(セルテトラBHT−PIPE、永和化成工業(株)製)テトラゾール価:8.88meq/g
<(成分B)ガラス転移温度(Tg)が20℃以上であるバインダーポリマー>
・B−1:ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、デンカブチラール#3000−2)、Tg=約68℃
・B−2:ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製、ゴーセナールT−215)、Tg=約85℃
・B−3:ポリ酢酸ビニル(Alfa Aesar製)、Tg=約32℃
・B−4:ポリアミド(東レ(株)製、アミランCM1017)、Tg=約48℃
・B−5:ブレンマーPME−100(日油(株)製)/メタクリル酸2−ヒドロキシエチル=50/50の共重合体、比較例、Tg=約7℃
・B−6:スチレンブタジエンゴム(JSR(株)製、TR2000)(比較例、Tg=−50℃)
<(成分C)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物(架橋剤)>
Figure 0005364628
Figure 0005364628
<(成分D)重合性化合物>
・D−1:グリセロールジメタクリレート(東京化成工業(株)製)
・D−2:1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(東京化成工業(株)製)
<(成分E)重合開始剤>
・E−1:tert−ブチルペルオキシベンゾエート(日油(株)製、パーブチルZ)
・E−2:2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、V−65)
・E−3:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバジャパン(株)製、IRGACURE184)
<(成分F)光熱変換剤>
・F−1:ケッチェンブラック(ライオン(株)製、EC600JD)
・F−2:カーボンブラック(東海カーボン(株)製、N330、HAFカーボン)
<(成分G)可塑剤>
・G−1:ジエチレングリコール(東京化成工業(株)製)
・G−2:クエン酸トリブチル(東京化成工業(株)製)
<(成分H)香料>
・H−1:バニリン(和光純薬工業(株)製)
・H−2:l−メントール(和光純薬工業(株)製)

Claims (14)

  1. (成分A)ヒドラジド化合物、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、及び、テトラゾール化合物よりなる群から選択された少なくとも1つの発熱剤、並びに、
    (成分B)ガラス転移温度(Tg)が20℃以上であるバインダーポリマー、を含有するレリーフ形成層を支持体上に有し、
    前記レリーフ形成層全固形分に対する前記成分Aの含有量が、1〜20質量%であることを特徴とする
    レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
  2. 前記成分Bが、アクリル樹脂及び/又はポリビニルアセタールである、請求項1に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
  3. 前記レリーフ形成層が、(成分C)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物をさらに含有する、請求項1又は2に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
  4. 前記レリーフ形成層が、(成分D)重合性化合物をさらに含有する、請求項1〜3いずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
  5. 前記レリーフ形成層が、(成分E)重合開始剤をさらに含有する、請求項1〜4いずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
  6. 前記レリーフ形成層が、(成分F)光熱変換剤をさらに含有する、請求項1〜5いずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
  7. 前記レリーフ形成層が、(成分G)可塑剤をさらに含有する、請求項1〜6いずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
  8. 前記レリーフ形成層が、(成分H)香料をさらに含有する、請求項1〜7いずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
  9. フレキソ印刷版原版である、請求項1〜8いずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
  10. (1)請求項1〜9いずれか1項に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を、光及び/又は熱により架橋する架橋工程、並びに、
    (2)架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する彫刻工程、を含むことを特徴とする
    レリーフ印刷版の製版方法。
  11. 前記架橋工程が、熱により架橋する工程である、請求項10に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
  12. 請求項10又は11に記載のレリーフ印刷版の製版方法により製版されたことを特徴とする
    レリーフ印刷版。
  13. レリーフ層の厚みが、0.05mm以上10mm以下である、請求項12に記載のレリーフ印刷版。
  14. レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である、請求項12又は13に記載のレリーフ印刷版。
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