JP5364485B2 - メタルボンド砥石の製造方法 - Google Patents

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本発明は、プラトーホーニング加工に好適なメタルボンド砥石に関する。
近年、あらゆる分野において環境に対する取り組みがなされている。車両においても、燃費向上は取り組むべき重大な事項である。燃費向上対策の一つに、シリンダとピストンとの間の摩擦軽減がある。この摩擦軽減は、燃費向上だけでなく、運動性能の向上にも繋がる。
上述の摩擦軽減を実現するには、プラトーホーニング工法が有効である。
図7はプラトーホーニング加工が施されたシリンダの断面を拡大した模式図であり、プラトーホーニング加工が施されたシリンダ100の表面には、無数のプラトー(丘)101と、隣り合うプラトー101、101の間に形成される谷102とが形成される。プラトー101の頂面103は面粗さを小さくして摩耗を低減させ、谷102に溜めたオイルで頂面103とピストンとの間の潤滑を維持する。この結果、摺動性と潤滑性を両立させることができる。
以上に述べたプラトーホーニング加工に適した砥石として、メタルボンド砥石が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1の段落番号[0049]に「製造条件は、硫酸バリウム(BaSO)を含む実施例の砥石の焼結温度500℃及び成型圧力15MPaであった。いずれも調合した混合粉末を同時に過熱(原文のまま。加熱が正しいと思われる)加圧(ホットプレス)して製作した。」の記載がある。
本発明者らは、上記焼結条件(500℃、15MPa)で、メタルボンド砥石素材を加圧焼結した。焼結後に、特許文献1には説明されていないが、ヒータへの通電を停止して冷却することでメタルボンド砥石を得た。このときの冷却速度は5.8℃/分であった。
得られたメタルボンド砥石の断面模式図は次の通りである。
図8は従来のメタルボンド砥石の断面模式図であり、このメタルボンド砥石110では、母材である金属系結合材Mb中に、コバルト(Co)粒子111と、約5μmの砥粒112と、二硫化タングステン(WS)粒子113とを分散させることを基本とするが、これに約30μmの凝集塊115が含まれていることが判明した。
この凝集塊115は、機械的特性の向上を目的に添加されるフィラーの分散が不十分であるため、母材である金属系結合材Mbの粗大な結晶中にフィラーであるコバルト粒子111と二硫化タングステン粒子113とが凝集したことにより生成される。このような凝集塊115は、周囲に較べて脆弱である。
図9は図8の作用説明図であり、メタルボンド砥石110で暫く研削を行ったところ、凝集塊115が表面から脱落して、約30μm径の大きなポケット116ができていた。このため保持力が低下して砥粒の脱落が進行することによる研削量の低下、および、凝集塊脱落の進行による摩耗の急増が発生するので、従来のメタルボンド砥石110は寿命が短いという問題があることが分かった。
特開2008−229794公報
本発明は、高寿命のメタルボンド砥石を製造することができる製造技術を提供することを課題とする。
請求項1に係る発明は、研削材としての砥粒と、砥石の性能を向上させるコバルト及び二硫化タングステンと、結合材とからなるメタルボンド砥石の製造方法であって、
ホットプレスにより前記砥粒、コバルト、二硫化タングステン及び結合材からなる素材にプレス圧を付与しながら、前記素材をゲージ圧で少なくとも0.10MPaを超える加圧不活性ガス雰囲気中で焼成処理することで焼成品を得る加熱処理工程と、
加熱を停止し、前記加圧不活性ガス雰囲気中で前記焼成品を冷却することで砥石を得る冷却処理工程と、からなり、
前記冷却は、焼成温度から600℃まで10℃/分以上の降温速度で実施することを特徴とする。
請求項2に係る発明では、降温速度は、10〜20℃/分の範囲に設定することを特徴とする。
請求項1に係る発明では、焼成処理後に、10℃/分以上の冷却を行う。この冷却により、凝集塊の大きさを十分に小さくすることができ、砥石の寿命を延ばすことができる。
請求項2に係る発明では、降温速度は、10〜20℃/分の範囲に設定する。降温速度を高めるほど設備的な負担が大きくなる。20℃/分で留めることにより、コストの上昇を抑えることができる。
本発明で使用するホットプレスの断面図である。 炉内圧力と降温速度の相関図である。 砥石の断面を拡大した模式図である。 使用後の砥石の断面を拡大した模式図である。 3000倍に拡大した凝集塊のスケッチ図である。 凝集塊の大きさと研削比の相関図である。 プラトーホーニング加工が施されたシリンダの断面を拡大した模式図である。 従来の砥石の断面を拡大した模式図である。 使用後の砥石の断面を拡大した模式図である。
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
また、圧力に関しては次の表記を採用する。減圧状態には、絶対真空をゼロとした絶対圧を使用し、単位の後に(a)を記す。加圧状態には、大気圧をゼロとしたケージ圧を使用し、単位の後に(G)を記す。
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、ホットプレス10は、水冷ジャケット11を備え、内圧が0.98MPa(G)まで耐える炉殻12と、この炉殻12の底から上向きに挿入された下部パンチ13と、この下部パンチ13に載せられる円筒状のダイ14と、炉殻12のトップから下向きに挿入され、ダイ14に挿入される上部パンチ15と、ダイ14の周囲に配置される黒鉛ヒータ16と、この黒鉛ヒータ16を囲う断熱室17とからなる焼結炉である。
下部パンチ13の下部はシリンダ18に挿入され、このシリンダ18へ油圧ポンプ19から圧油が送られると下部パンチ13は上昇する。油圧は圧力検出手段21で検出する。
水冷ジャケット11へは、水ポンプ22で給水される。この水はチラー23に排出され、温度調節がなされた後、水ポンプ22に戻される。
黒鉛ヒータ16は炉温制御部25で制御される。すなわち、炉温検出手段26で検出した温度が設定値より低い場合には、黒鉛ヒータ16への給電量を増加し、温度が設定値より高い場合には、黒鉛ヒータ16への給電量を減少させることにより、昇温速度の制御を含む炉温制御が可能となる。
また、炉殻12には、炉内の圧力を検出する炉圧検出手段27及び排気・加圧兼用の管28が設けられ、この管28に真空ポンプやエジェクターなどの排気手段29及び不活性ガス供給源31が接続されている。不活性ガスは、アルゴンガスや窒素ガスが入手容易である。ただし、排気手段29と不活性ガス供給源31とは同時に使用されることはない。
また、炉圧検出手段27は減圧用と加圧用とは別々に設けることが望ましいが、ここでは便宜的に共用とした。
以上に説明したホットプレス10を用いて次に述べる実験を行った。
(実験例)
本発明に係る実験例を以下に述べる。なお、本発明は実験例に限定されるものではない。
○素材:
砥粒(平均粒径5μm):8.75体積%
コバルト:56体積%
二硫化タングステン:5.25体積%
結合材(りん青銅):30体積%
○素材充填:
上記素材を、図1のダイ14に充填した。なお、ダイ14の最大径は120mmである。
○排気:
炉内の空気を排除するために、図1の排気手段29により、炉内を20Pa(a)又はそれ以下の圧力に減圧する。これで、酸素は殆ど除去される。
○不活性ガス充填:
図1の不活性ガス供給源31からアルゴンガスを炉内へ吹き込み、炉圧を所定の圧力に維持する。
○プレス:
図1のパンチ13、15により、素材に30MPaのプレス圧を付与する。
○加熱及び昇温速度:
大気温度(25℃)から焼結温度(740℃)まで、12.5℃/分の昇温速度で加熱する。740℃で一定時間保持することにより、焼結処理がなされる。
○加熱停止:
図1の黒鉛ヒータ16を止める。これで、炉内及び素材の温度は下がる。降温の際には、炉内の不活性ガスの圧力が維持されるように、炉圧検出手段27で圧力を監視して排気手段29、及び不活性ガス供給源31を制御する。
降温速度は、次図に示す通りであった。
図2に示すように、炉内圧力が0.01MPa(G)では、降温速度は11.9℃/分、0.10MPa(G)で12.8℃/分、0.49MPa(G)で16.0℃/分、0.69MPa(G)で17.5℃/分、0.80MPa(G)で18.7℃/分、0.92MPa(G)で、19.3℃/分であった。
なお、降温速度は740℃〜600℃までの所要時間を計測し、(740−600)/所要時間=降温速度の計算により求めた。
降温速度の差異は、次のように説明することができる。
冷却とは温度が高い炉中心部から低い外周部に熱が伝わる(逃げる)事である。この仲介を果たす伝達物質が雰囲気となる。言い換えれば、熱の伝達は気体分子の衝突で行われる。
一般的なホットプレス製法は、炉内を減圧もしくはガス置換を行い、酸素分圧を下げてから焼結する。これは、酸化による劣化を防ぐ為である。減圧雰囲気では、熱を伝達する物質(気体分子)が少なくなる。また、ガス置換についても、ガスの種類が変わっても気体分子数はほとんど変わらない。よって、一般的なホットプレスの雰囲気では降温速度は向上しない。
本発明では、炉内の雰囲気を加圧状態でホットプレス製法を行うことにより、降温速度を向上させるものである。高圧ガスを炉に封入する事により気体の分子の数を増やす。すなわち、分子の衝突を増やして放熱を加速することに成功した。
○ 0.92MPa(G)での評価:
炉内圧力が0.92MPa(G)で製作した砥石の断面(模式図)は次図の通りであった。
図3に示すように、砥石40は、砥粒41とコバルト粒子42と二硫化タングステン粒子43と、これらを結合する金属系結合材44とからなると共に、小さな黒点で示すコバルト粒子42と二硫化タングステン粒子43と砥粒41とが均等に分散されていた。
図4は図3の作用図であり、このような砥石40で研削を行ったところ、表面から二硫化タングステン粒子43が脱落し、微細なポケット47ができた。
すなわち、砥粒の耐摩耗性を向上させるコバルト粒子42は砥石内にとどまって砥石摩耗抑止作用を発揮する。さらに、微細ポケット47は切粉の砥粒前面への堆積を防止し、脱落した二硫化タングステン粒子43が固体潤滑剤の役割を果たして切粉の排出性を促進するため、切粉による目詰まりが防止される。これらの作用により、良好な切削性が維持される。
○大気圧(0.01MPa(G))での評価:
一方、炉内圧力が0.01MPa(G)で製作した砥石の断面(模式図)は、従来の技術で述べた図8とほぼ同一であり、図9のような問題点を有する。
本発明のように、焼結後に、高降温速度で冷却することで、凝集塊(図8、符号115)の大きさを小さくすることができた。
以上に述べたように、降温速度の増加に比例して、凝集塊の大きさを小さくすることができることが分かった。そこで、次に降温速度と凝集塊の大きさの相関を調べる追加実験を行った。
(追加実験)
○実験1〜5:
表1に示すように、降温速度を5.8〜26.4℃/分として、上記(実験)の項で示した実験条件で、砥石を製作した。
ただし、図2では降温速度は、11.9〜19.3℃/分であった。しかし、サイズの大きなダイを使用することで降温速度を下げることができ、サイズの小さなダイを使用することで降温速度を上げることができる。加えて、断熱室17を構成する断熱材の厚さを変え、種類を替えることでも降温速度が調整できる。このような処置を施すことにより、5.8〜26.4℃/分の降温速度を実現した。
Figure 0005364485
得られた砥石の最表面をSEMにて3000倍の顕微鏡写真を観察した。
図5は3000倍に拡大した凝集塊のスケッチ図である。
(a)は実験1に係るスケッチ図であり、かなり大きな凝集塊48が認められた。この凝集塊48の大きさL1は30μmであった。この大きさは分布している多数の凝集塊48の大きさの平均値にほぼ等しかった。そこで、表1に30μmを記載した。
(b)は実験2に係るスケッチ図であり、凝集塊49の平均的大きさL2は25μmであった。
(c)は実験3に係るスケッチ図であり、凝集塊50の平均的大きさL3は16μmであった。
(d)は実験4に係るスケッチ図であり、凝集塊51の平均的大きさL4は8μmであった。
(e)は実験5に係るスケッチ図であり、凝集塊52の平均的大きさL5は8μmであった。
ところで、砥石でワークを研削した場合に、ワークは所定の体積だけ研削除去される。この体積を研削体積と呼ぶ。
また、砥石側もある程度の体積が摩耗する。この体積を摩耗体積と呼ぶ。
(研削体積/摩耗体積)=研削比と定義する。研削比は砥石の寿命そのものを表すので、研削比の大きな砥石、すなわち、砥石の摩耗量が少なく、ワークの研削量が大きい砥石が望まれる。
実験1〜5での砥石を用いて研削比を調べたところ、表1に示す値が得られた。
表1に記載されている凝集塊の大きさと研削比との相関をグラフ化する。
図6(a)に示すように、凝集塊の大きさが小さいほど研削比が大きくなることが分かる。そして、グラフは横軸目盛りで16、すなわち凝集塊の大きさが16μmに特異点があり、凝集塊の大きさが16μm以下であれば、高い研削比が得られることが分かった。
1μm余裕を見た15μm以下であれば、研削比1000が得られる。さらに、10μm以下であれば、研削比2000以上が得られる。
したがって、砥石に不可避的に分布する凝集塊の大きさは、15μm以下、好ましくは10μm以下にすることで、良好な研削比が得られる。
なお、図6(b)は表1の降温速度と凝集塊の大きさの相関をグラフ化したものであり、破線で示すように、凝集塊の平均的大きさを16μmに留めるには降温速度は10℃/分以上にする必要がある。
ただし、実験4での降温速度18.6℃/分以上では、凝集塊の大きさは殆ど変化しない。降温速度を高めるには設備的に負担を強いるために、20℃/分を上限とすることが望まれる。
従って、好ましい降温速度は10〜20℃/分となる。
本発明は、プラトーホーニング加工に用いるメタルボンド砥石に好適である。
40…メタルボンド砥石、41…砥粒、42…コバルト粒子、43…二硫化タングステン粒子、44…金属系結合材、48〜52…凝集塊、L1〜L5…凝集塊の大きさ(平均的大きさ)。

Claims (2)

  1. 研削材としての砥粒と、砥石の性能を向上させるコバルト及び二硫化タングステンと、結合材とからなるメタルボンド砥石の製造方法であって、
    ホットプレスにより前記砥粒、コバルト、二硫化タングステン及び結合材からなる素材にプレス圧を付与しながら、前記素材をゲージ圧で少なくとも0.10MPaを超える加圧不活性ガス雰囲気中で焼成処理することで焼成品を得る加熱処理工程と、
    加熱を停止し、前記加圧不活性ガス雰囲気中で前記焼成品を冷却することで砥石を得る冷却処理工程と、からなり、
    前記冷却は、焼成温度から600℃まで10℃/分以上の降温速度で実施することを特徴とするメタルボンド砥石の製造方法。
  2. 前記降温速度は、10〜20℃/分の範囲に設定することを特徴とする請求項1記載のメタルボンド砥石の製造方法。
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