JP5360006B2 - 車両用空調装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車室内の空調を実施する車両用空調装置に関する。
従来の車両用空調装置の一例として、ヒートポンプサイクルを用いた空調運転によって、乗車前の車室内空調(以下、単に「プレ空調」ともいう)を実施する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
具体的には、当該車両用空調装置では、空調負荷に関連するパラメータ(目標吹出温度)に対応する圧縮機の回転数を求め、バッテリの残容量に対応する圧縮機の回転数を求め、これらを比較して小さい方を、圧縮機を駆動させる回転数として決定する。これにより、ある程度の空調能力で空調しつつ、消費電力を抑制することができるため、乗員の快適性とバッテリの消費電力の抑制とを両立することができる。
特開2007−76544号公報
圧縮機の消費電力は、冷媒流量と圧縮機の回転数の両方に依存する。そして、冷媒流量が多いほど圧縮機に対する負荷が大きくなり消費電力も大きくなると共に、回転数が多いほど消費電力も大きくなる。
しかしながら、特許文献1に記載の車両用空調装置は、バッテリの残容量が少ない場合にはバッテリの残容量に対応した圧縮機の回転数が採用されることが多いが、前述のように実際の圧縮機の消費電力は、冷媒流量にも依存するため、圧縮機の回転数のみによっては適切に制御することができない。よって、従来技術のように圧縮機の回転数に基づく制御では、圧縮機の消費電力がバッテリの残容量をオーバーシュートしてしまうことがある。
一方、空調負荷が小さい場合には空調負荷に対応した圧縮機の回転数が採用されることが多く、バッテリの残容量に対して、圧縮機の回転数を十分に上げることができず圧縮機の消費電力を早く立ち上げることができず、プレ空調の立ち上がりが早くないという問題がある。
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、乗車前空調運転に使用できる使用許可電力に対してオーバーシュートすることなく、かつ空調の早期立ち上げが図れる車両用空調装置を提供することである。
本発明は上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。なお、特許請求の範囲および下記各手段に記載の括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す。
請求項1に記載の発明は、サイクル(1)の冷媒流れを制御することにより乗員の乗車前に車室内を空調する乗車前空調を実施する車両用空調装置に係る発明であって、サイクルを循環する冷媒を吸入し吐出する圧縮機(2)と、サイクルを循環する冷媒が蒸発して車室内への送風空気を冷却する冷却用熱交換器(8)と、車両に蓄えられた電力及び乗車前空調時に外部から供給される電力の少なくとも一方のうち、乗車前空調に使用することが可能な使用許可電力の範囲内で圧縮機の作動を制御する制御装置(50)と、を備え、
乗車前空調において、制御装置は、使用許可電力と圧縮機の消費電力との差に応じて圧縮機の回転数を増減させるための回転数変化量を決定し、回転数変化量は、使用許可電力と圧縮機の消費電力との差が大きいほど圧縮機の回転数を増加させるように決定され、小さいほど圧縮機の回転数を減少させるように決定されることを特徴とする。
この発明によれば、乗車前空調においては、圧縮機の回転数変化量は当該使用許可電力と圧縮機の消費電力との差に応じて決定されるため、当該使用許可電力に対して同じパラメータである圧縮機の消費電力の占める割合を監視しながら圧縮機の回転数制御を実施することができる。これにより、算出される回転数に応じて圧縮機の制御を行う上記の従来技術と比較して、当該使用許可電力の範囲内で適切な電力利用が図れる圧縮機の制御を実現できる。さらに、圧縮機の回転数変化量は当該使用許可電力と当該消費電力の差が大きいほど圧縮機の回転数を増加するように決定するため、当該使用許可電力を十分に活用した回転数制御がなされて、乗車前空調運転を早期に立ち上げることができる。さらに、圧縮機の回転数変化量は当該使用許可電力と当該消費電力の差が小さいほど圧縮機の回転数を減少させるように決定するため、当該使用許可電力の残余分が小さいときには、圧縮機の回転数が抑えられて、消費電力が当該使用許可電力をオーバーシュートすることを抑制するとともに、当該使用許可電力を十分に活用することができ、立ち上がりが早い乗車前空調運転を実施できる。
請求項2に記載の発明では、請求項1において、乗車前空調は、サイクル(1)の冷媒流れが制御されることによる冷房サイクル運転によって実施され、制御装置は、冷房サイクル運転による乗車前空調において、冷却用熱交換器の目標温度と実際の温度との差に応じて決定される回転数変化量と、使用許可電力と圧縮機の消費電力との差に応じて決定される回転数変化量とのうち、小さい方の回転数変化量を選択することを特徴とする。
この発明によれば、冷房サイクル運転時には、冷却用熱交換器の目標温度に近づけようとするための回転数変化量と、使用許可電力範囲内で制御しようとする回転数変化量とのうち小さい方を採用するため、使用許可電力の超過防止及び早期の冷房空調の立ち上げと、フロスト防止とを両立する乗車前空調制御を提供することができる。
請求項3に記載の発明では、請求項2において、乗車前空調は、サイクル(1)の冷媒流れが制御されることによる暖房サイクル運転によって実施され、制御装置は、暖房サイクル運転による乗車前空調において、圧縮機から吐出された冷媒圧力の目標圧力と実際の圧力との差に応じて決定される回転数変化量と、使用許可電力と圧縮機の消費電力との差に応じて決定される回転数変化量とのうち、小さい方の回転数変化量を選択することを特徴とする。
この発明によれば、暖房サイクル運転時には、高圧側冷媒の目標圧力に近づけようとするための回転数変化量と、使用許可電力範囲内で制御しようとする回転数変化量とのうち小さい方を採用するため、使用許可電力の超過防止及び早期の暖房空調の立ち上げと、ヒートポンプサイクルの異常高圧の防止とを両立する乗車前空調制御を提供することができる。
請求項4に記載の発明では、請求項1から請求項3のいずれか一項において、制御装置は、使用許可電力と圧縮機の消費電力との差が所定値以下のときは、回転数変化量をマイナス値となるように決定することを特徴とする。この発明によれば、使用許可電力と圧縮機の消費電力との差が所定値以下のときは回転数変化量をマイナス値にするため、圧縮機の消費電力が使用許可電力に近づいてくると圧縮機の回転数を減少させる制御が実施される。これにより、使用許可電力よりも少し低い電力で圧縮機の消費電力が制御されるため、当該消費電力の使用許可電力に対するオーバーシュートを確実に抑制するとともに、フィードバック遅れや電力変動によるオーバーシュートに対しても高い抑制効果が期待できる。
請求項5に記載の発明では、請求項1から請求項4のいずれか一項において、制御装置は、圧縮機から吐出された冷媒圧力が所定圧力以上になったとき、回転数変化量を低下させるように、または維持するように決定することを特徴とする。
この発明によれば、乗車前空調時に高圧側の冷媒圧力が所定圧力以上になったときは回転数変化量を低下、または維持するように決定することにより、圧縮機の回転数が抑制される。このため、冷媒圧力が高くなって放熱を行う送風機の出力が増加するようになっても、当該送風機による消費電力の増加分を圧縮機の回転数抑制によって軽減して、空調関連機器全体の消費電力を抑制することができる。したがって、使用許可電力超過の防止に貢献する乗車前空調を実施できる。
請求項6に記載の発明では、請求項1から請求項5のいずれか一項において、さらに乗車前空調時に車両の窓曇りを除去する防曇モードを有し、制御装置は、防曇モードが設定された乗車前空調時には、防曇モードを実施することを特徴とする。
この発明によれば、上記各請求項1〜5の作用効果に加え、当該防曇モードを設定することによって乗車前空調時に防曇モードが実施されるため、ユーザーが乗車前空調実施時の状況に応じて、当該防曇モードを設定して窓曇り除去を優先することにより、ユーザーの要求に対応可能な車両用空調装置を提供できる。
請求項7に記載の発明では、請求項1から請求項5のいずれか一項において、制御装置は、乗車前空調終了後、所定時間以内である場合、または設定室内温度と車室内温度との差が所定温度以内である場合には、車両の窓曇りを除去する防曇モードを実施することを特徴とする。
この発明によれば、乗車前空調終了後、あまり時間が経過していない場合や室温が設定温度に近い場合には、当該防曇モードを実施することにより、上記各請求項1〜5の作用効果に加え、窓曇り除去を行って車両発進までの時間を短縮することができる。
なお、特許請求の範囲及び上記各手段に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
本発明の第1実施形態の車両用空調装置100の構成及びCOOLサイクル時の冷媒流れを説明するための模式図である。 車両用空調装置100の構成及びHOTサイクル時の冷媒流れを説明するための模式図である。 車両用空調装置100の構成及びDRY EVAサイクル時の冷媒流れを説明するための模式図である。 車両用空調装置100の構成及びDRY ALLサイクル時の冷媒流れを説明するための模式図である。 上記各サイクルにおいて各電磁弁11〜14及び三方弁4の動作状態を示す図表である。 車両用空調装置100における制御構成を示すブロック図である。 車両用空調装置100のエアコンECU50による基本的な空調制御処理を示したフローチャートである。 上記空調制御処理におけるサイクル・PTC選択処理(ステップ6)の詳細を示すフローチャートである。 上記空調制御処理における圧縮機回転数等の決定を行う処理(ステップ10)の一部を示すフローチャートである。 図9のステップ1000でΔfCを求めるための偏差Enと偏差変化率EDOTとの関係を示すマップである。 図9のステップ1010でΔfHを求めるための偏差Pnと偏差変化率PDOTとの関係を示すマップである。 第2実施形態において圧縮機回転数等の決定を行う処理(ステップ10)の一部を示すフローチャートである。 第3実施形態において圧縮機回転数等の決定を行う処理(ステップ10)の一部を示すフローチャートである。 第4実施形態において圧縮機回転数等の決定を行う処理(ステップ10)の一部を示すフローチャートである。
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合わせることも可能である。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1〜図11を用いて詳細に説明する。第1実施形態は、蒸気圧縮式冷凍機をハイブリッド自動車用の空調装置に適用したものである。
ハイブリッド自動車は、ガソリン等の液体燃料を爆発燃焼させて動力を発生させる走行用内燃機関をなすエンジン30、走行補助用電動機機能及び発電機機能を備える走行補助用の電動発電機、エンジン30への燃料供給量や点火時期等を制御するエンジン用電子制御装置(以下、エンジンECU60ともいう)、電動発電機やエンジンECU60等に電力を供給する電池、電動発電機の制御及び無断変速機や電磁クラッチの制御を行うと共にエンジンECU60に制御信号を出力するハイブリッド電子制御装置(以下、ハイブリッドECU70ともいう)を備えている。ハイブリッドECU70は、電動発電機及びエンジン30のいずれの駆動力を駆動輪に伝達するかの駆動切替を制御する機能、及び電池の充放電を制御する機能を備えている。
また電池は、車室内空調、走行等によって消費した電力を充電するための充電装置を備えており、例えばニッケル水素蓄電池、リチウムイオン電池等が用いられる。この充電装置は、電力供給源としての電気スタンドや商業用電源(家庭用電源)に接続されるコンセントを備えており、このコンセントに電源供給源を接続することにより、電池の充電を行うこともできる。
具体的には、以下のような制御を行う。
(1)車両が停止しているときは、基本的にエンジン30を停止させる。
(2)走行中は、減速時を除き、エンジン30で発生した駆動力を駆動輪に伝達する。なお、減速時は、エンジン30を停止させて電動発電機にて発電して電池に充電する(電気走行モード)。
(3)発進時、加速時、登坂時及び高速走行時等の走行負荷が大きいときには、電動発電機を電動モータとして機能させてエンジン30で発生した駆動力に加えて、電動発電機に発生した駆動力を駆動輪に伝達する(ハイブリッド走行モード)。
(4)電池の充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジン30の動力を電動発電機に伝達して電動発電機を発電機として作動させて電池の充電を行う。
(5)車両が停止しているときに電池の充電残量が充電開始目標値以下になったときには、エンジンECU60に対してエンジン30を始動する指令を発するとともに、エンジン30の動力を電動発電機に伝達する。
車両用空調装置100は、乗員の乗車前に行われる車室内空調(以下、乗車前空調またはプレ空調という)運転が実施可能な空調装置である。車両のユーザーが、乗車前空調運転を行いたいときに携帯する携帯機52を操作すると、エアコンECU50は、携帯機52から送信される乗車前空調運転の命令信号を受信し、所定のプログラムによる演算を行って乗車前空調運転を実行するものである。
ユーザーは、車両に乗車しようとする前に車室内の空調環境を快適にしておくために、携帯機52を操作して、通信局であるセンターを通じて車両の空調装置に対して乗車前空調運転の指令を送信する。この乗車前空調運転は、原則として、車両のイグニッションスイッチがOFF状態であること、あるいはエアコンECU50に対して乗員が乗車している信号が送信されていないことが許容条件となる。
図1は、車両用空調装置100の構成及びCOOLサイクル(以下、冷房サイクルともいう)時の冷媒流れを説明するための模式図である。図2は、HOTサイクル(以下、暖房サイクルともいう)時の冷媒流れを説明するための模式図である。図3はDRY EVAサイクル(以下、第1の除湿サイクルともいう)時の冷媒流れを説明するための模式図である。図4は、DRY ALLサイクル(以下、第2の除湿サイクルともいう)時の冷媒流れを説明するための模式図である。図5は、上記各サイクルにおいて各電磁弁11〜14及び三方弁4の動作状態を示す図表である。各サイクルにおいて、冷媒が流れる経路は太字実線で示し、冷媒が流れない経路は破線で示している。
車両用空調装置100は、アキュムレータ式冷凍サイクルであるヒートポンプサイクル1を用いた装置であり、車室内に送風空気を導く空調ケース20、この空調ケース20内に空気を導入して車室内へ送る室内用ブロワ21(室内用送風手段)、及びエンジンECU60に接続されたエアコン電子制御装置(以下、エアコンECU50ともいう)を備える。
室内用ブロワ21は、ブロワケース(図示せず)、ファン、ブロワモータよりなり、このブロワモータへの印加電圧に応じて、ブロワモータの回転速度が決定される。ブロワモータへの印加電圧は、上記エアコンECU50からの制御信号に基づいて制御される。
室内用ブロワ21のブロワケースには、車室内空気(内気)を導入する内気導入口(図示せず)と、車室外空気(外気)を導入する外気導入口(図示せず)とが形成されるとともに、内気導入口と外気導入口との開口割合を調節する内外気切替手段を成す内外気切替ドア(図示せず)が設けられている。
室内用ブロワ21よりも送風空気の下流側における空調ケース20内の通風路には、上流側から下流側に進むにしたがい順に、蒸発器8(冷却用熱交換器)、エアミックスドア22、ヒータコア23、凝縮器3(加熱用熱交換器)、PTCヒータ24(電気式補助熱源)が配置されている。
空調ケース20の下流端(図1の上方)は、車両のフロントウィンドウに向かって送風空気を吐出するデフロスタ吹出口(図示せず)、乗員の上半身に向かって送風空気を吐出するフェイス吹出口(図示せず)、乗員足元に向かって送風空気を吐出するフット吹出口(図示せず)に連絡されている。
蒸発器8は室内用ブロワ21直後の通路全体を横断するように配置されており、室内用ブロワ21から吹き出された空気全部が通過するようになっている。蒸発器8は冷房サイクル運転時や除湿サイクル運転時において内部を流れる冷媒の吸熱作用によって、送風空気を除湿したり冷却したりする冷却用熱交換器として機能する。
ヒータコア23は少なくともその伝熱部分が空調ケース20内の温風側通路のみに位置するように蒸発器8よりも送風空気の下流側に配置されている。ヒータコア23は暖房サイクル運転時において、内部を流れるエンジン30の冷却水の熱を利用して周囲の空気を加熱する熱交換器として機能する。
凝縮器3は、少なくともその伝熱部分が空調ケース20内の温風側通路のみに位置して配置されており、ヒータコア23よりもさらに送風空気の下流側に配置されている。凝縮器3は暖房サイクル運転時、除湿サイクル運転時および冷房サイクル運転時において内部を流れる冷媒の放熱作用によって温風側通路を流れる送風空気を加熱する加熱用熱交換器として機能する。
PTCヒータ(positive temperature coefficient)24は、少なくともその伝熱部分が温風側通路のみに位置して設置されており、凝縮器3よりもさらに送風空気の下流側に配置されている。PTCヒータ24は暖房サイクル運転や冷房サイクル運転において温風側通路を流れる送風空気を加熱する補助的な加熱手段である。PTCヒータ24は、通電発熱素子部を備え、通電発熱素子部に通電されることによって発熱し、周囲の空気を暖めることができる。
この通電発熱素子部は、耐熱性を有する樹脂材料(例えば、66ナイロンやポリブタジエンテレフタレートなど)で成形された樹脂枠の中に複数個のPTC素子を嵌め込むことにより構成したものである。また、PTCヒータ24は、さらに通電発熱素子部からの発熱を伝達する熱交換フィン部を有してもよい。この熱交換フィン部は、アルミニウムの薄板を波形状に成形したコルゲートフィンと、このコルゲートフィンを一定の形状に保つとともにPTC素子や電極板との接触面積を確保するアルミニウムプレートと、をろう付け接合することにより構成したものである。
蒸発器8よりも下流側であってヒータコア23や凝縮器3よりも上流側の通風路には、蒸発器8を通過した空気を、凝縮器3を通る空気と凝縮器3を迂回する空気とに分けたり、切り替えたりして、これらの空気の風量比率を調整できるエアミックスドア22が設けられている。
エアミックスドア22は、アクチュエータ等によりそのドア本体位置を変化させることで、空調ケース20内の二分された通路である温風側通路および冷風側通路のそれぞれの一部または全部を塞ぐことができる。そして、エアミックスドア22による温風側通路の開度は、温風側通路の横断方向の開口が開放される割合のことであり、0から100%の範囲で調整可能である。また、エアミックスドア22による冷風側通路の開度は、冷風側通路の横断方向の開口が開放される割合のことであり、0から100%の範囲で調整可能である。
ヒートポンプサイクル1は、圧縮機2、凝縮器3、三方弁4、室外熱交換器5、第1膨張弁10、第2膨張弁7、蒸発器8、アキュムレータ9、及び各電磁弁11〜14を備える。ヒートポンプサイクル1は、冷凍サイクル内を流れる冷媒(例えば、R134a、CO2等)の状態変化を利用することにより、冷房用の蒸発器8と暖房用の凝縮器3によって冷房、暖房および除湿を行うことができる。また、蒸発器8と凝縮器3とは、室外熱交換器5に対して、室内熱交換器を構成する。
冷房サイクル運転時の冷媒は、図1の太字実線の経路を白抜き矢印の向きに流れる。ヒートポンプサイクル1の冷房サイクルは、除湿能力が大きく、図1に示すように冷媒を吸入して吐出する圧縮機2と、圧縮機2から吐出された冷媒が流入する凝縮器3と、冷房サイクル運転時に凝縮器3から流入する冷媒が空気と熱交換して放熱する室外熱交換器5と、凝縮器3を流出した冷媒が室外熱交換器5に向かわせる三方弁4と、室外熱交換器5から蒸発器8への冷媒流れを制御するように設けられた電磁弁11と、電磁弁11によって開放された流路を通ってきた冷媒を減圧する第2膨張弁7と、第2膨張弁7で減圧された冷媒が蒸発して送風空気を冷却する蒸発器8と、冷媒を気液分離するアキュムレータ9と、を配管により環状に接続することにより形成されている。冷房サイクル運転経路は、圧縮機2→凝縮器3→三方弁4→室外熱交換器5→電磁弁11→第2膨張弁7→蒸発器8→アキュムレータ9→圧縮機2となる。
このように冷房サイクル運転経路は、三方弁4を室外熱交換器5側の流路と連通するように切り替えることによって、冷房サイクル運転時に凝縮器3で送風空気と熱交換して冷却された冷媒が第1膨張弁10を通らないで室外熱交換器5に流入し、電磁弁11によって開放された流路を通り第2膨張弁7で減圧された後、蒸発器8に流入し、アキュムレータ9を経由して圧縮機2に吸入される経路である。冷房サイクル運転では、凝縮器として機能する室外熱交換器5から、熱が室外に放出され、蒸発器8から熱が吸収される。このとき、凝縮器3も発熱しているが、エアミックスドア22の位置制御で、車室内空気との熱交換量を少なくすることができる。また、電磁弁11と第2膨張弁7との間の通路には、逆流防止用の逆止弁15が設けられている。
暖房サイクル運転時の冷媒は、図2の太字実線の経路を黒塗り矢印の向きに流れる。ヒートポンプサイクル1の暖房サイクルは、暖房性能が大であり、除湿能力無しの運転であり、図2に示すように圧縮機2と、暖房サイクル運転時に圧縮機2から吐出された冷媒と空気とを熱交換させて空気を加熱する凝縮器3と、暖房サイクル運転時に凝縮器3から流入した冷媒を減圧する減圧装置としての第1膨張弁10と、第1膨張弁10から室外熱交換器5への冷媒流れを制御するように設けられた電磁弁14と、暖房サイクル運転時に第1膨張弁10で減圧された冷媒を蒸発させる室外熱交換器5と、室外熱交換器5から圧縮機2への冷媒流れを制御するように設けられた電磁弁12と、アキュムレータ9と、を配管により環状に接続することにより形成されている。暖房サイクル運転経路は、圧縮機2→凝縮器3→三方弁4→第1膨張弁10→電磁弁14→室外熱交換器5→電磁弁12→アキュムレータ9→圧縮機2となる。また、電磁弁12とアキュムレータ9との間の通路には、逆流防止用の逆止弁16が設けられている。なお、室外空気が極めて低いときは、暖房サイクルによる暖房は効率が悪いので、冷房サイクルにてエンジン30を稼動させ、エンジン冷却水(温水)の温度を上げて、ヒータコア23の熱で車室内が暖房される。
第1の除湿サイクル運転時の冷媒は、図3の太字実線の経路を斜線太矢印の向きに流れる。ヒートポンプサイクル1の第1の除湿サイクルは、暖房性能が小、除湿能力が中レベルの運転であり、例えば、操作パネル51の操作等により、暖房能力が小レベルで車室内の除湿を行うときに選択されて実行される。第1の除湿サイクルは、図3に示すように圧縮機2、凝縮器3、第1膨張弁10、第1膨張弁10から蒸発器8への冷媒流れを制御するように設けられた電磁弁13、第1膨張弁10で減圧された冷媒を蒸発させる蒸発器8、及びアキュムレータ9を配管により環状に接続することにより形成されている。第1の除湿サイクル運転経路は、圧縮機2→凝縮器3→三方弁4→第1膨張弁10→電磁弁13→蒸発器8→アキュムレータ9→圧縮機2となる。この第1の除湿サイクル運転経路は、第1膨張弁10で減圧された冷媒が室外熱交換器5に流入しないで蒸発器8に流入して送風空気を冷却した後、アキュムレータ9を経由して圧縮機2に吸入される経路である。
第2の除湿サイクル運転時の冷媒は、図4の太字実線の経路を斜線太矢印の向きに流れる。ヒートポンプサイクル1の第2の除湿サイクルは、暖房性能が中レベル、除湿能力が小レベルの運転であり、例えば、操作パネル51の操作等により、暖房能力が中レベルで車室内の除湿を行うときに選択されて実行される。第2の除湿サイクルは、図4に示すように第1の除湿サイクル運転経路に加え、第1膨張弁10と電磁弁13の間で分岐した冷媒経路を有する。この分岐する冷媒経路は、第1膨張弁10と電磁弁13の間の通路から電磁弁14、室外熱交換器5及び電磁弁12を通り、蒸発器8とアキュムレータ9の間の通路に合流するようになっている。これにより、第2の除湿サイクル運転経路は、圧縮機2→凝縮器3→三方弁4→第1膨張弁10→電磁弁13→蒸発器8→アキュムレータ9→圧縮機2の経路と、第1膨張弁10→室外熱交換器5→電磁弁12→アキュムレータ9の経路とで構成される。この第2の除湿サイクル運転経路は、第1膨張弁10で減圧された冷媒が、室外熱交換器5に流入しないで蒸発器8に流入して送風空気を冷却した後、アキュムレータ9を経由して圧縮機2に吸入される経路と、室外熱交換器5に流入して空気から吸熱した後、アキュムレータ9を経由して圧縮機2に吸入される経路と、を有している。
圧縮機2は、内蔵された電動モータ2aにより駆動され、回転数制御が可能であり、回転数に応じて冷媒吐出流量が可変である。圧縮機2はインバータ90により周波数が調整された交流電圧が印加されてその電動モータ2aの回転速度が制御される。インバータ90は車載電池から直流電源の供給を受け、エアコンECU50により制御される。
室外熱交換器5は、エンジンコンパートメント等の車室外に配置されて、外気と冷媒との熱交換を行うもので、室外ファン6から強制的に送風を受けて暖房サイクル運転時には蒸発器として機能し、冷房サイクル運転時には凝縮器として機能する。
第1膨張弁10は固定絞り等の固定式膨張弁(例えばキャピラリチューブ)、定圧式膨張弁、機械式膨張弁等で構成される。第1膨張弁10は、暖房サイクル運転時に室外熱交換器5へ供給される冷媒を減圧膨脹する。第2膨張弁7は感温筒を備え、蒸発器8出口の冷媒の蒸発状態が適度な過熱度をもつように出口冷媒温度をフィードバックし適切な弁開度によって冷媒流量を制御する温度作動方式を採用している。暖房サイクル及び各除湿サイクルでは、第2膨張弁7で減圧された低圧冷媒を蒸発器8で吸熱して蒸発させ、蒸発器8を通過した冷媒をアキュムレータ9に流入させ、アキュムレータ9で蒸発器8の出口冷媒の気液を分離し、アキュムレータ9内のガス冷媒を圧縮機2に吸入させる。
蒸発器8は、送風空気を冷却する冷却用熱交換器であり、冷房サイクル運転時に蒸発器として機能する。この蒸発器8は、第2膨張弁7で減圧膨脹された低温低圧の冷媒と空気との熱交換を行うことにより、コア部を通過する空気を冷却する。
凝縮器3は、送風空気を加熱する加熱用熱交換器であり、空調ケース20内で蒸発器8の下流(風下)に配設されて、圧縮機2で圧縮された高温高圧の冷媒と空気との熱交換を行うことにより、コア部を通過する空気を加熱する。ウォータポンプ31は、エンジン冷却水が循環する回路に設けられ、エンジン冷却水から成る温水をヒータコア23に供給する。このヒータコア23は、凝縮器3と共に送風空気を加熱する加熱器として機能する。
エアミックスドア22は、蒸発器8からの冷風と凝縮器3等(加熱器)との暖風との混合割合を制御する。アキュムレータ9は、冷凍サイクル内の過剰冷媒を一時蓄えると共に、気相冷媒のみを送り出して、圧縮機2に液冷媒が吸い込まれるのを防止する。
三方弁4、常開型の電磁弁11、常閉型の電磁弁12、常閉型の電磁弁13、及び常開型の電磁弁14は、流路切替手段であり、これらの上記各サイクルにおける動作状態は図5に示すとおりである。冷媒圧力センサ40は、ヒートポンプサイクル1の高圧側の流路に設けられ、凝縮器3よりも上流の冷媒の高圧圧力、すなわち圧縮機2の吐出圧力Preを検出する。
エアコンECU50は、車室内の空調運転を制御する制御装置であり、マイクロコンピュータと、車室内前面に設けられた操作パネル51上の各種スイッチからの信号や、冷媒圧力センサ40、内気センサ41、外気センサ42、日射センサ43、蒸発器温度センサ44等からセンサ信号が入力される入力回路と、各種アクチュエータに出力信号を送る出力回路と、を備えている。マイクロコンピュータは、ROM(読み込み専用記憶装置)、RAM(読み込み書き込み可能記憶装置)等のメモリおよびCPU(中央演算装置)等から構成されており、操作パネル51等から送信された運転命令に基づいた演算に使用される各種プログラムを有している。
エアコンECU50は、上記の各サイクル運転時に、エアコン環境情報、エアコン運転条件情報及び車両環境情報を受信してこれらを演算し、圧縮機2の設定すべき容量を算出する。そして、エアコンECU50は、演算結果に基づいてインバータ90に対して制御信号を出力し、インバータ90によって圧縮機2の出力量は制御される。
このように乗員による操作パネル51や携帯機52の操作によって、空調装置の運転・停止および設定温度などの操作信号などがエアコンECU50に入力されて各種センサの検出信号が入力されると、エアコンECU50は、エンジンECU60、ハイブリッドECU70等と通信し、各種の演算結果に基づいて、圧縮機2、室内用ブロワ21、室外ファン6、PTCヒータ24、三方弁4、電磁弁11〜14、内外気切替ドア25、吹出口切替ドア26等の各機器の運転を制御する。
図7は、エアコンECU50による基本的な制御処理を示したフローチャートである。図7において、イグニッションスイッチが投入されてエアコンECU50に電源が供給されると制御がスタートする。以降の各ステップに係る処理は、エアコンECU50によって実行されるものである。
(プレ空調判定)
エアコンECU50は、上記の各種センサからの信号、操作パネル51に設けられた各種操作部材からの信号、または遠隔操作可能な操作手段である携帯機52からの信号等に基づいて、車室内を空調するように構成されている。車両が継続的に停止して乗員が搭乗していないときには、エアコンECU50は、上記携帯機52からのプレ空調要求の有無、または予め設定されたプレ空調運転指令を監視している。
図7のステップ1では、携帯機52からプレ空調要求があった場合、または予め送信入力された空調要求時刻に基づいてプレ空調を開始するタイミングとなった場合には、車両が停止状態であるか否かを判断するとともに、電源電力がプレ空調作動時の要求電力に対し大きいか否か判断する。車両が停止状態であり、電源電力がプレ空調要求電力より大きいことを確認したら、プレ空調の実施を許可するためにプレ空調フラグを立てる。
(イニシャライズ)
次に、ステップ2で図6のエアコンECU50内のRAM等の記憶されている各パラメータ等を初期化する。
(スイッチ信号読み込み)
次に、ステップ3で操作パネル51等からのスイッチ信号等を読み込む。
(センサ信号読み込み)
次に、ステップ4で上記の各種センサからの信号を読み込む。
(TAO算出基本制御)
次に、ステップ5で、ROMに記憶された下記の数式1を用いて、車室内に吹き出す空気の目標吹出温度TAOを算出する。
(数式1)
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C
ここで、Tsetは、温度設定スイッチにて設定された設定温度、Trは内気センサ41にて検出された内気温度、Tamは外気センサ42にて検出された外気温度、Tsは日射センサ43にて検出された日射量である。また、Kset,Kr,Kam及びKsは各ゲインであり、Cは全体にかかる補正用の定数である。そして、このTAO及び上記各種センサからの信号により、エアミックスドア22のアクチュエータの制御値及びウォータポンプ31の回転数の制御値等を算出する。
(サイクル・PTC選択)
次に、ステップ6で、運転すべきサイクルの選択及びPTCヒータ24の通電本数の選択を実行する。このステップ6は、具体的には、図8に基づいて実行する。図8は、図7のステップ6におけるサイクル・PTC選択処理の詳細を示すフローチャートである。
図8に示すように、制御がスタートすると、ステップ60でステップ1の処理結果としてプレ空調フラグが立っているか否かを判定する。プレ空調フラグが立っている場合は、ステップ61にて、外気温が−3℃より低いか否かを判定する。
外気温が−3℃より低い場合は、ヒートポンプサイクル1による暖房の効率が悪くなり、かつ室外熱交換器5に着霜しやすくなるため、ステップ63aにてPTCヒータ24によるプレ空調を実施するのでPTCヒータ24に通電する。
外気温が−3℃以上の場合は、ステップ62で自動運転での吹出口モードがフェイスモードか否かを判定する。フェイスモードの場合には、ヒートポンプサイクル1による暖房の必要なしと判断して、ステップ63bで冷房サイクルによるプレ空調を実施する。
ステップ62でフェイスモード以外であると判定すると、ステップ63cで暖房サイクルによる暖房のプレ空調を実施する。なお、このときのプレ空調として、第1の除湿サイクル、または第2の除湿サイクルを実行してもよい。ステップ60において、プレ空調フラグが立っておらず、プレ空調でないと判定された場合は、ステップ64で外気温が−3℃より低いか否かを判定する。
外気温が−3℃より低い場合は、暖房サイクルによる暖房の効率が悪くなり、かつ、室外熱交換器5に着霜しやすくなるため、ステップ66aで冷房サイクルによる空調を実施する。なお、このときは、エンジン30を稼動し、温水及びヒータコア23の温度を上昇させるようにする。
ステップ64で、外気温が−3℃以上であると判定された場合は、ステップ65で自動運転での吹出口モードがフェイスモードか否かを判定する。フェイスモードである場合は、ヒートポンプサイクル1による暖房の必要なしと判断して、ステップ66bで冷房サイクルでの空調を実施する。ステップ65で、フェイスモードでないと判定された場合は、ヒートポンプサイクル1による暖房の必要有りと判断して、ステップ66cで暖房サイクルでの空調を実施する。
なお、図3に示す第1の除湿サイクルまたは図4に示す第2の除湿サイクルは、暖房と除湿の必要度合に応じて、上述のステップ63c及び66cの暖房サイクルでの運転のときに自動的に選択するようにしてもよい。
(ブロワ電圧決定)
次に、図7に示すステップ7において、ROMに記憶されたマップを用いて目標吹出温度TAOに対応するブロワ電圧を決定する。このブロワ電圧は、電池の電力により駆動される室内用ブロワ21に印加される電圧である。このため、このマップは、電池の現在の充電量について、目標吹出温度TAOとブロワ電圧との関係を表した特性図である。このマップによれば、目標吹出温度TAOに対する適正なブロワ電圧を電池の充電量を考慮して決定することができる。
また、ブロワ電圧の決定は、プラグイン仕様により商用電源(100Vまたは200V)の電力を供給可能な車両においては、電池の充電量と商用電源の電力から得られる電力について目標吹出温度TAOとブロワ電圧との関係を表したマップを用いて実施される。
(吸込口モード決定)
次に、図7のステップ8で、ROMに記憶されたマップから、目標吹出温度TAOに対応する吸込口モードを決定する。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときには、内気循環モードが選択され、目標吹出温度TAOが低いときには、外気導入モードが選択される。
(吹出口モード決定)
次に、図7のステップ9で、ROMに記憶されたマップから、目標吹出温度TAOに対応する吹出口モードを決定する。具体的には、目標吹出温度TAOが高いときには、フットモードが選択され、目標吹出温度TAOの低下に伴ってバイレベルモード、さらにはフェイスモードの順に選択される。
(圧縮機回転数等決定)
次に、図7のステップ10で圧縮機回転数等の決定を実行する。このステップでは、空調運転に使用することが可能な使用許可電力と、圧縮機2の消費電力との差に基づいて、圧縮機回転数の増減量(回転数変化量)を決定すると共に、冷房サイクル運転時及び暖房サイクル運転時のそれぞれに対応する圧縮機2の回転数を決定する。ここでいう使用許可電力は、プラグイン仕様により車両に供給される商用電源の電力量及び電池の充電量の少なくとも一方から求められる当該使用許可電力であり、空調運転に使用できる使用電力の制限を示している。また、当該使用許可電力は、電池から供給可能な電力またはプラグインにより供給される商用電源(100Vまたは200V)の電力の中から空調運転用に割り当てることができる電力であってもよい。使用許可電力に含まれる電池の充電量は、電池の端子間を短絡させて電流を流し内部抵抗を計測することにより求めるようにしてもよいし、充電及び放電の電流値と時間を用いた演算により求めるようにしてもよい。
圧縮機2の消費電力は、ステップ10で求められた圧縮機回転数に伴う現状の圧縮機2の消費電力であり、インバータ90による計測または所定の演算による算出によって求められる実際の消費電力である。
このようにして、エアコンECU50は、車両に蓄えられた電力の一例である電池の電力及びプレ空調時に外部から供給される電力の一例である商用電源の少なくとも一方のうち、プレ空調に使用することが可能な使用許可電力の範囲内で圧縮機2の作動を制御するものである。
図9は、図7のステップ10における圧縮機回転数等の決定を行うステップの一部を説明するフローチャートである。なお、このステップの一部とは、冷房サイクル運転時及び暖房サイクル運転時の圧縮機回転数の決定のステップを示したものということである。その他のサイクルにおける圧縮機回転数の決定は、周知の方法を採用するものとし、ここでは説明を省略する。
まず、エアコンECU50は、まずステップ1000において、各種センサの検出信号を用いて算出した目標蒸発器温度TEOと、実際の蒸発器温度TE(蒸発器温度センサ44によって検出される温度)との温度偏差Enを以下の数式2を用いて演算する。
(数式2)
En=TEO−TE
さらに、以下の数式3を用いて偏差変化率EDOTを演算する。
(数式3)
EDOT=En−En-1
ここで、Enは1秒に1回更新されるため、En-1はEnに対して1秒前の値となる。
さらに、エアコンECU50は、算出したEn及びEDOTと、図10に示すマップとを用いて、1秒前の電動モータ2aの「冷房サイクル時の回転数変化量ΔfC」を算出する。この冷房サイクル時の回転数変化量ΔfCは、冷房サイクル時の熱交換器のフロスト防止に貢献する値である。図10に示すマップは、偏差Enと偏差変化率EDOTとの関係を示すマップであり、予めROMに記憶されている。なお、この温度偏差En及び偏差変化率EDOTにおける回転数変化量ΔfCは、ROMに記憶された所定のメンバーシップ関数及びルールに基づいて、ファジー制御にて求めるようにしてもよい。
次にステップ1010では、目標圧力PDO、高圧圧力Pre(Preは冷媒圧力センサ40にて測定した高圧圧力)、偏差Pn、偏差変化率PDOTを用いて、圧縮機の回転数変化量を求める。なお、Pn-1は、偏差Pnの先回の値であり、nは自然数である。
まず、ヒートポンプサイクル1による暖房サイクル運転時において、図9のステップ1010において、図7のステップ5で求められた目標吹出温度TAOを、冷凍サイクルの高圧側を流れる冷媒の目標圧力PDO(以下、単にPDOともいう)に変換する。この変換は、周知の方法を用いればよく、目標吹出温度TAOを変換用マップでPDOに変換してもよい。
また、目標吹出温度TAOと、室内用ブロワ21の風量Vによって異なる温度効率φと、凝縮器3の吸入側空気温度とから飽和冷媒温度Tcを求め、この飽和冷媒温度Tcと飽和圧力Pc(凝縮器3の凝縮圧力)との関係に基づいて、上記飽和冷媒温度Tcに対応する飽和圧力Pcを求めて、この飽和圧力Pcを目標圧力PDOとしてもよい。
次に、目標圧力PDOと、冷媒圧力センサ40にて検出された高圧圧力Preとの圧力偏差Pnを下記数式4によって算出する。
(数式4)
Pn=PDO−Pre
また、偏差変化率PDOTを下記数式5によって算出する。
(数式5)
PDOT=Pn−Pn-1
上述したように、Pn-1は、偏差Pnの先回の値である。
図11は、圧力偏差Pnと、偏差変化率PDOTと、回転数変更分ΔfHとの関係を示すマップである。次に、このPnとPDOTとを用いて、エアコンECU50のROMに記憶された図11に示すマップを用いて1秒前の圧縮機回転数fn-1に対して,増減する回転数変更分ΔfHを求める。なお、この圧力偏差Pn及び偏差変化率PDOTにおける回転数変更分ΔfHは、ROMに記憶された所定のメンバーシップ関数及び所定のルールに基づいて、ファジー制御にて求めることもできる。
次に、ステップ1020でプレ空調と判定されたか否かまたはプレ空調中であるか否かを判定する。プレ空調でない場合は、以下に説明する通常の演算処理により圧縮機回転数が算出されることになる。そしてステップ1040で、前述のステップ6で選択されたサイクルが冷房サイクルであるか否かを判定する。冷房サイクルである場合は、ステップ1041において圧縮機の回転数変化量Δfをステップ1000で算出した「冷房サイクル時の回転数変化量ΔfC」に決定しこれをRAMに書き込む。さらに、ステップ1041で決定したΔf(=ΔfC)と前回の圧縮機回転数とを足し算して「今回の圧縮機回転数」を算出し(ステップ1060)、プレ空調でない冷房サイクル運転時の圧縮機回転数が求められる。
また、冷房サイクルでなく暖房サイクルである場合は、ステップ1042において圧縮機の回転数変化量Δfをステップ1010で算出した「暖房サイクル時の回転数変化量ΔfH」に決定しこれをRAMに書き込む。さらに、ステップ1042で決定したΔf(=ΔfH)と前回の圧縮機回転数とを足し算して「今回の圧縮機回転数」を算出し(ステップ1060)、プレ空調でない暖房サイクル運転時の圧縮機回転数が求められる。
次に、プレ空調における圧縮機回転数の特有の演算処理について説明する。ステップ1020でプレ空調と判定された場合は、次にステップ1030で、上記の使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差(以下、単に「第1の残余電力」ともいう)に応じて圧縮機回転数の変化量ΔfPre[rpm]を算出する。この圧縮機回転数の変化量ΔfPreは、車両がもっている使用許可電力をオーバーしないように有効に活用するために求めたパラメータである。
圧縮機回転数の変化量ΔfPreの算出は、当該第1の残余電力に対応する関数として表されるΔfPreのマップ(図9のステップ1030に図示するマップ)を用いて算出される。第1の残余電力とΔfPreは比例関係にあり、この第1の残余電力の値が小さいほど、ΔfPreは小さくなり、第1の残余電力が所定値以下の場合はΔfPreがマイナス値になるため、圧縮機2の回転数が前回よりも低減するように制御されることになる。すなわち、第1の残余電力が所定値以下になると、ΔfPreがマイナス値になり、圧縮機の回転数は下がるように制御されることになる。本実施形態においては当該所定値は、200〜300Wの範囲に設定されている。
なお、ステップ1030に図示するマップは予めROMに記憶されており、このマップから算出されたΔfPreはRAMに書き込まれる。このステップ1030の算出処理は1秒に1回更新される。
次にステップ1050で、前述のステップ6で選択されたサイクルが冷房サイクルであるか否かを判定する。冷房サイクルである場合は、ステップ1000で算出したΔfCと、ステップ1030で算出したΔfPreとを比較し、このうち小さい値の方を圧縮機の回転数変化量Δfに決定する(ステップ1051)。そして、このΔfと前回の圧縮機回転数とを足し算して「今回の圧縮機回転数」を算出し(ステップ1060)、プレ空調かつ冷房サイクル運転時の圧縮機回転数が求められる。
また、冷房サイクルでなく暖房サイクルである場合は、ステップ1010で算出したΔfHと、ステップ1030で算出したΔfPreとを比較し、このうち小さい値の方を圧縮機の回転数変化量Δfに決定する。そして、このΔfと前回の圧縮機回転数とを足し算して「今回の圧縮機回転数」を算出し(ステップ1060)、プレ空調かつ暖房サイクル運転時の圧縮機回転数が求められる。
このようにステップ10(圧縮機回転数等の決定処理)では、冷房サイクル運転時にはステップ1051でΔfPreとΔfCの小さい方を選択するため、使用許可電力の超過防止と共にフロスト防止を両立する制御を実施することができる。さらに、暖房サイクル運転時にはステップ1052でΔfPreとΔfHの小さい方を選択するため、使用許可電力超過の防止と共にヒートポンプサイクル1の異常高圧の防止を両立する制御を実施することができる。
(PTC・デフォッガの作動決定)
次に、図7のステップ11でPTC・デフォッガの作動決定を実行する。このステップでは、前述した圧縮機回転数等の決定(ステップ10)におけるステップ1030と同様に、空調運転に使用することが可能な使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差(第1の残余電力)に基づいて、PTCヒータ24またはデフォッガに通電するか否かを決定するものである。
ここでデフォッガは、電気抵抗体の一例であり、車両のフロントウィンドウ等に熱線抵抗体を装着してなる熱線式ウィンドウデフォッガである。デフォッガは、電池等からの電力が供給されて通電することにより、通電量や印加電圧に応じて発熱し窓曇り除去に貢献する。デフォッガの作動は、エアコンECU50によって制御される。
このステップでは、第1の残余電力に余裕があるときは、PTCヒータ24またはデフォッガに通電することにより、使用許可電力の範囲内で窓の防曇効果が得られる空調制御を実施する。このため、乗員が乗車後に窓曇りを除去する時間の短縮が図れ、車両発進までの周囲環境へ騒音を与える時間を短縮することができる。
(各弁ON/OFF決定)
次に、図7のステップ12において、所定の各サイクルで制御が実行できるよう、サイクル中の三方弁4及び電磁弁11〜14のONまたはOFF作動について決定する。この制御では、図5に示した各サイクルに対応する各弁の動作状態となるように、各弁の作動をオン、オフする出力信号を決定する。
(制御信号出力)
次に、図7のステップ13において、上記各ステップ1〜12で算出または決定された各制御状態が得られるように、エンジンECU60、インバータ90、PTCヒータ24、各種アクチュエータ、三方弁4及び電磁弁11〜14等に対して制御信号を出力する。そして、図7のステップ14において所定時間の経過を待って、ステップ3に戻り、継続して各ステップが実行される。
本実施形態の車両用空調装置100がもたらす効果を以下に述べる。車両用空調装置100は、ヒートポンプサイクル1の冷媒流れを制御することにより実施される冷房サイクル運転及び暖房サイクル運転によって、乗員の乗車前に車室内を空調する。プレ空調において、エアコンECU50は、使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差(第1の残余電力)に応じて圧縮機2の回転数を増減させるための回転数変化量を決定する(ステップ1030,1051,1052,1060)。回転数変化量は、使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差が大きいほど圧縮機2の回転数を増加するように決定され小さいほど圧縮機2の回転数を減少させるように決定されるものである(ステップ1030)。
これによれば、プレ空調においては、圧縮機2の回転数変化量は第1の残余電力に応じて決定されるため、当該使用許可電力に対して同じパラメータである圧縮機2の消費電力の占める割合を監視しつつ、正確な圧縮機2の回転数制御を実施することができる。これにより、上記従来の回転数に応じた圧縮機2の制御と比較して、当該使用許可電力の範囲内で電力利用が図れる適切な圧縮機2の制御を実現できる。
さらに、圧縮機2の回転数変化量は当該使用許可電力と当該消費電力の差が大きいほど圧縮機2の回転数を増加するように決定するため、当該使用許可電力を十分に活用することができ、プレ空調運転を早期に立ち上げ、ユーザーにとって有用なプレ空調を実施できる。さらに、圧縮機2の回転数変化量は当該使用許可電力と当該消費電力の差が小さいほど圧縮機2の回転数を減少させるように決定するため、当該使用許可電力の残余分が小さいときには、圧縮機2の回転数が抑えられて、当該使用許可電力に対する消費電力のオーバーシュートや電力応答遅れによる消費電力のオーバーシュートを抑制することができる。
また、エアコンECU50は、冷房サイクル運転によるプレ空調において、蒸発器8の目標温度TEOと実際の温度TEとの差に応じて決定される回転数変化量と、使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差(第1の残余電力)に応じて決定される回転数変化量とのうち、小さい方の回転数変化量を選択するものである(ステップ1051)。
これによれば、冷房サイクル運転時には、蒸発器8の目標温度TEOに近づけようとするための回転数変化量と、使用許可電力範囲内で制御しようとする回転数変化量とのうち小さい方を採用するため、使用許可電力の超過防止及び早期の冷房空調の立ち上げと、フロスト防止とを両立することができる。
また、エアコンECU50は、暖房サイクル運転によるプレ空調において、圧縮機2から吐出された冷媒圧力の目標圧力PDOと実際の圧力Preとの差に応じて決定される回転数変化量と、使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差(第1の残余電力)に応じて決定される回転数変化量とのうち、小さい方の回転数変化量を選択するものである(ステップ1052)。
これによれば、暖房サイクル運転時には、高圧側冷媒の目標圧力PDOに近づけようとするための回転数変化量と、使用許可電力範囲内で制御しようとする回転数変化量とのうち小さい方を採用するため、使用許可電力の超過防止及び早期の暖房空調の立ち上げと、ヒートポンプサイクルの異常高圧の防止とを両立することができる。
また、エアコンECU50は、使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差(第1の残余電力)が所定値以下のときは、回転数変化量をマイナス値となるように決定するものである(ステップ1030)。これによれば、使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差が所定値以下のときは回転数変化量をマイナス値にするため、圧縮機2の消費電力が使用許可電力に近づいてくると圧縮機2の回転数を減少させる制御が実施される。これにより、使用許可電力よりも少し低い電力で圧縮機2の消費電力が制御されるため、当該消費電力の使用許可電力に対するオーバーシュートを確実に抑制するとともに、電力応答遅れや電力変動によるオーバーシュートに対しても高い抑制効果が得られる。
また、運転の過渡期から定常に遷移するときに圧縮機2の回転数のオーバーシュートが発生した場合であっても、車両の使用許可電力の超過を防止することができる。また、室外ファン6や室内用ブロワ21の稼働率に変化があった場合でも、車両の使用許可電力の超過量やその時間を軽減することができる。
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1実施形態に対して、空調制御メインルーチンにおける圧縮機回転数決定の変形例を図12にしたがって説明する。このステップにおいても、第1実施形態と同様に、上記使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差に基づいて、圧縮機回転数の増減量(回転数変化量)を決定すると共に、冷房サイクル運転時及び暖房サイクル運転時のそれぞれに対応する圧縮機2の回転数を決定する。
図12は、図7のステップ10における圧縮機回転数等の決定を行うステップの一部を説明するフローチャートである。なお、このステップの一部とは、冷房サイクル運転時及び暖房サイクル運転時の圧縮機回転数の決定のステップを示したものということである。その他のサイクルにおける圧縮機回転数の決定は、周知の方法を採用するものとし、ここでは説明を省略する。
本実施形態における制御の処理フローは、第1実施形態で図9にしたがって説明した空調制御の処理フローに対して、ステップ1030のΔfPreの決定後に、図12のステップ1031のΔfPの決定を実行し、さらにステップ1051AのようにΔfを決定する点が異なっている。その他のステップは第1実施形態と同様である。なお、その他の各構成部品及びこれらの作動、他の制御処理手順については、第1実施形態と同様である。
図12に示すように、まず、エアコンECU50は、前述のステップ1030でΔfPreの決定した後、次にステップ1031で、高圧側の冷媒圧力Preに応じて「圧縮機回転数の変化量ΔfP[rpm]」を算出する。この圧縮機回転数の変化量ΔfPは、室外ファン6の出力増加を抑制するために求めるパラメータである。通常、冷媒圧力が高くなると、室外ファン6の風量を増加して放熱量等を向上させる制御が行われる。このときにステップ1031においてΔfPを小さく決定することにより、ステップ1060Aにおいて圧縮機2の回転数が低減するように制御される。したがって、冷媒圧力の上昇が抑制されて室外ファン6の出力量が増加することが抑えられるので、使用許可電力を急に超えてしまうことを防止できるようになる。
圧縮機回転数の変化量ΔfPの算出は、当該冷媒圧力に対応する関数として表されるΔfPのマップ(図12のステップ1031に図示するマップ)を用いて算出される。当該冷媒圧力が第1の所定圧力(例えば1.4[MPa])以上になったときにΔfPは低下するように決定され、当該冷媒圧力が第2の所定圧力(例えば1.7[MPa])以上になったときにΔfPは維持されるように一定値に決定されるものである。また、冷媒圧力の値が1.4〜1.7[MPa]の範囲では圧力が増加するほど、ΔfPは小さくなり、第3の所定圧力以上の場合はΔfPがマイナス値になるため、圧縮機2の回転数が前回よりも低減するように制御されることになる。すなわち、冷媒圧力が第3の所定圧力以上になると、ΔfPがマイナス値になり、圧縮機の回転数は下がるように制御されることになる。本実施形態においては当該第3の所定圧力値は、1.6〜1.7[MPa]の範囲に設定されている。
なお、ステップ1031に図示するマップは予めROMに記憶されており、このマップから算出されたΔfPはRAMに書き込まれる。このステップ1031の算出処理は1秒に1回更新される。
次にステップ1050で、前述のステップ6で選択されたサイクルが冷房サイクルであると判定された場合は、ステップ1000で算出したΔfCと、ステップ1030で算出したΔfPreと、ステップ1031で算出したΔfPとを比較し、このうち小さい値の方を圧縮機の回転数変化量Δfに決定する(ステップ1051A)。そして、このΔfと前回の圧縮機回転数とを足し算して「今回の圧縮機回転数」を算出し(ステップ1060)、プレ空調かつ冷房サイクル運転時の圧縮機回転数が求められる。
本実施形態の車両用空調装置100がもたらす効果を以下に述べる。車両用空調装置100のエアコンECU50は、圧縮機2から吐出された冷媒圧力Preが所定圧力以上になったとき、回転数変化量を低下させるように、または維持するように決定するものである。
これによれば、プレ空調時に高圧側の冷媒圧力Preが所定圧力以上になったときは回転数変化量を低下、または維持するように決定することにより、圧縮機2の回転数が抑制される。このため、冷媒圧力が高くなって放熱を行う室外ファン6の出力が増加するようになっても、圧縮機2の回転数の上昇を抑えることにより室外ファン6による消費電力の増加分を軽減し、空調関連機器全体の消費電力を抑制することができる。つまり、使用電力が限られているプレ空調時に室外ファン6の稼働率が上昇すると、一気に使用許可電力を超過してしまうことを防止できるのである。
また、第2実施形態の本制御が第1実施形態の制御に加えて実施されることにより、使用許可電力超過の防止について、上記第1実施形態に記載の作用効果と合わせて二重の安全性を発揮することができる。
また、本制御は、室外ファン6のHi、Loを切り換える冷媒圧力、または機器保護状の上限圧力に近づいた場合に、圧縮機2の回転数を低下させることにより、使用許可電力の超過を防止するようにしてもよい。
(第3実施形態)
第3実施形態では、第1実施形態に対して、空調制御メインルーチンにおける圧縮機回転数決定の変形例を図13にしたがって説明する。このステップにおいても、第1実施形態と同様に、上記使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差(第1の残余電力)に基づいて、圧縮機回転数の増減量(回転数変化量)を決定すると共に、冷房サイクル運転時及び暖房サイクル運転時のそれぞれに対応する圧縮機2の回転数を決定する。ただし、後述するステップ1022でデフォッガが作動された場合は、第1の残余電力からさらにデフォッガの消費電力を差し引いた値を第2の残余電力としてステップ1030Aで使用する。
さらに、本実施形態では、車両用空調装置は、プレ空調時に車両の窓曇りを除去する防曇モードを有している。この防曇モードは、ユーザーが操作パネル51に設けられた所定の操作部を操作したり、予めプログラミングによりモード設定されていたりすることにより、設定することができる。防曇モードは、デフォッガを作動したり、吹出しモードをデフロスタモードに設定したりすることにより、フロンドウィンドウ等の窓を暖めて曇りを除去することができる。
図13は、図7のステップ10における圧縮機回転数等の決定を行うステップの一部を説明するフローチャートである。なお、このステップの一部とは、冷房サイクル運転時及び暖房サイクル運転時の圧縮機回転数の決定のステップを示したものということである。その他のサイクルにおける圧縮機回転数の決定は、周知の方法を採用するものとし、ここでは説明を省略する。
本実施形態における制御の処理フローは、第1実施形態で図9にしたがって説明した空調制御の処理フローに対して、ステップ1020のプレ空調判定処理でプレ空調であると判定された後に、図13のステップ1021,1022,1023の各処理を実行する点が異なっている。その他のステップは第1実施形態と同様である。なお、その他の各構成部品及びこれらの作動、他の制御処理手順については、第1実施形態と同様である。
図13に示すように、エアコンECU50は、第1実施形態で説明したステップ1020でプレ空調であると判定されると、次にステップ1021で防曇モードが設定されているか否かを判定する。
ステップ1021の判定処理において、防曇モードが設定されていると判定されると、ユーザーによって窓の防曇が優先されていることになり、デフォッガに通電して作動する処理(ステップ1022)、吹出しモードをデフロスタモードに設定する処理(ステップ1023)を順に実行し、ステップ1030Aに進む。ステップ1021の判定処理において、防曇モードが非設定であると判定されると、ユーザーによって窓の防曇よりも空調が優先されていることになり、防曇モードを実施しないでステップ1030Aに進む。
次にステップ1030Aで、上記の使用許可電力から圧縮機2の消費電力及びデフォッガの消費電力を差し引いたとき値に応じて圧縮機回転数の変化量ΔfPre[rpm]を算出する。このように、ステップ1030Aでは、圧縮機回転数の変化量ΔfPreは、第1実施形態のステップ1030の残余電力に対してさらにデフォッガの消費電力を差し引いた値である第2の残余電力に対応する関数である。ΔfPreの算出は、図13のステップ1030Aに図示するマップを用いて算出される。第2の残余電力とΔfPreは比例関係にあり、この第2の残余電力の値が小さいほど、ΔfPreは小さくなり、第2の残余電力が所定値以下の場合はΔfPreがマイナス値になるため、圧縮機2の回転数が前回よりも低減するように制御されることになる。すなわち、第2の残余電力が所定値以下になると、ΔfPreがマイナス値になり、圧縮機の回転数は下がるように制御されることになる。本実施形態において当該所定値は、200〜300Wの範囲に設定されている。
なお、ステップ1030Aに図示するマップは予めROMに記憶されており、このマップから算出されたΔfPreはRAMに書き込まれる。
その他の処理は、第1実施形態または第3実施形態と同様であり、最終的にステップ1060で「今回の圧縮機回転数」が算出される。以上のように、プレ空調時であって防曇モードが設定されている場合は、デフォッガの消費電力を考慮に入れた圧縮機回転数の変化量ΔfPreが決定され、これを加味した圧縮機2の回転数が算出されることになる。
本実施形態の車両用空調装置100がもたらす効果を以下に述べる。車両用空調装置100は、プレ空調時に車両の窓曇りを除去する防曇モードを有する。エアコンECU50は、防曇モードが設定されたプレ空調時には、防曇モードを実施するものである。
これによれば、上記の各実施形態で記載した作用効果に加え、防曇モードを設定することによってプレ空調時に防曇モードが実施されるため、ユーザーがプレ空調実施時の状況に応じて、窓曇り除去を優先するか、空調を優先するかを設定可能であり、使用許可電力の範囲内で、ユーザーの要求に対応可能な車両用空調装置を提供できる。
例えば、厚着のまま乗車する等、暖房感を優先しないユーザーは、防曇モードを優先的に選択することにより、乗車前空調時に、デフロスタモードを実施したり、デフォッガを作動させたりすることによって、限られた使用電力内で空調を制御するとともに、車両発進までの時間を短縮することができる。この短縮効果によれば、空調の早期立ち上げにも貢献できる。
また、プレ空調においては、圧縮機2の回転数変化量は、デフォッガの消費電力を加味した第2の残余電力に応じて決定されるため、当該使用許可電力に対して同じパラメータである圧縮機2の消費電力の占める割合を監視しつつ、正確な圧縮機2の回転数制御を実施することができる。これにより、防曇モードを実施する場合であっても、当該使用許可電力の範囲内で電力利用が図れる適切な圧縮機2の制御を実現できる。
さらに、圧縮機2の回転数変化量は、当該第2の残余電力が大きいほど圧縮機2の回転数を増加するように決定するため、防曇モードを実施する場合であっても、当該使用許可電力を十分に活用することができ、プレ空調運転を早期に立ち上げ、ユーザーにとって有用なプレ空調を実施できる。
さらに、圧縮機2の回転数変化量は、該第2の残余電力が小さいほど圧縮機2の回転数を減少させるように決定するため、防曇モードを実施する場合であっても、当該使用許可電力の残余分が小さいときには、圧縮機2の回転数が抑えられて、当該使用許可電力に対する消費電力のオーバーシュートや電力応答遅れによる消費電力のオーバーシュートを抑制することができる。
(第4実施形態)
第4実施形態では、第1実施形態に対して、空調制御メインルーチンにおける圧縮機回転数決定の変形例を図14にしたがって説明する。このステップにおいても、第1実施形態と同様に、上記使用許可電力と圧縮機2の消費電力との差(第1の残余電力)に基づいて、圧縮機回転数の増減量(回転数変化量)を決定すると共に、冷房サイクル運転時及び暖房サイクル運転時のそれぞれに対応する圧縮機2の回転数を決定する。ただし、後述するステップ1026でデフォッガが作動された場合は、第3実施形態と同様に、第1の残余電力からさらにデフォッガの消費電力を差し引いた値を第2の残余電力としてステップ1030Aで使用する。
図14は、図7のステップ10における圧縮機回転数等の決定を行うステップの一部を説明するフローチャートである。なお、このステップの一部とは、冷房サイクル運転時及び暖房サイクル運転時の圧縮機回転数の決定のステップを示したものということである。その他のサイクルにおける圧縮機回転数の決定は、周知の方法を採用するものとし、ここでは説明を省略する。
本実施形態における制御の処理フローは、第1実施形態で図9にしたがって説明した空調制御の処理フローに対して、ステップ1020の「プレ空調判定処理」でプレ空調でないと判定された後に、図14のステップ1024,1025,1026,1027の各処理を実行する点が異なっている。その他のステップは第1実施形態と同様である。なお、その他の各構成部品及びこれらの作動、他の制御処理手順については、第1実施形態と同様である。
図14に示すように、エアコンECU50は、第1実施形態で説明したステップ1020でプレ空調でないと判定されると、つまり通常の乗車中空調時のときは、次にステップ1024で、プレ空調終了後の経過時間が、所定時間(ここでは10分)以内か否かを判定する。また、ステップ1024は、設定室温と実際の車室内温度との差が所定温度以内であるか否かによって判定するように置き換えてもよい。
ステップ1024の判定処理においてNOと判定されると、前述のステップ1040に進む。一方、ステップ1024の判定処理においてYESと判定されると、次に前述のステップ6で選択されたサイクルが冷房サイクルであるか否かを判定する(ステップ1025)。冷房サイクルでなく暖房サイクルである場合は、前述のステップ1041に進む。冷房サイクルである場合は、第3実施形態と同様に、デフォッガに通電して作動する処理(ステップ1026)、吹出しモードをデフロスタモードに設定する処理(ステップ1027)を順に実行し、第3実施形態と同様のステップ1030Aに進む。その他の処理は、第1実施形態または第3実施形態と同様であり、最終的にステップ1060で「今回の圧縮機回転数」が算出される。
以上のように、プレ空調終了後、所定時間(例えば10分)以内に行われる冷房空調である場合は、デフォッガの消費電力を考慮に入れた圧縮機回転数の変化量ΔfPreが決定され、これを加味した圧縮機2の回転数が算出されることになる。
本実施形態の車両用空調装置100がもたらす効果を以下に述べる。車両用空調装置100のエアコンECU50は、プレ空調終了後、所定時間以内である場合、または設定室温と車室内温度との差が所定温度以内である場合には、車両の窓曇りを除去する防曇モード(ステップ1026,1027)を実施するものである。
これによれば、プレ空調終了後、あまり時間が経過していない場合や実際の室温が設定室内温度に近い場合には、プレ空調による空調効果がまだ保たれているとみなして、窓曇り除去を優先する防曇モードを実施することにより、当該使用許可電力の範囲内で電力利用が図れる上記の各実施形態の作用効果に加え、窓曇り除去を積極的に実施して車両発進までの時間を短縮することができる。
例えば、乗車前空調終了後、デフロスタモードを実施したり、デフォッガを作動させたりすることによって、限られた使用電力内で空調を制御するとともに、暖房感の確保及び車両発進までの時間の短縮化を提供できる。この短縮効果によれば、空調の早期立ち上げにも貢献できる。
また、本制御によれば、当該使用許可電力の範囲内で電力利用が図れる上記の各実施形態の作用効果と車両発進までの時間短縮化の両方を得ることができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
上記の各実施形態は、冷房サイクル運転及び暖房サイクル運転の両方を実施可能なヒートポンプサイクル1を用いた車室内空調であるが、本願の発明は、このようなサイクルにおいてのみ適用されるものではない。例えば、冷房サイクルを実施可能であるが暖房サイクルを実施できないサイクルにおいて適用してもよい。
上記の、第1実施形態、第2実施形態及び第3実施形態の各実施形態は、少なくとも二つの実施形態を組み合わせて実施することが可能である。このように複数の実施形態を組み合わす場合には、いずれかの実施形態によって求められた圧縮機2の出力量(回転数)を採用するものである。
また、上記の第4実施形態は、第1実施形態及び第2実施形態の少なくともいずれか一方と組み合わせて実施することが可能である。このように複数の実施形態を組み合わす場合には、いずれかの実施形態によって求められた圧縮機2の出力量(回転数)を採用するものである。
また、第3実施形態の防曇モードで作動される窓曇り除去のための機器は、デフォッガ及びデフロスタモードで作動する機器に限定されるものではない。窓曇り除去が可能な機器であれば、他の形態であってもよい。
また、上記実施形態において電気式補助熱源としてPTCヒータ24を採用しているが、これに限定するものではない。電気式補助熱源は、通電されることにより、発熱体等から発熱して周囲の空気や物体を加熱できれば他の装置でもよい。
また、上記実施形態では、PTCヒータ24を凝縮器3よりも送風空気の下流側に配置しているが、凝縮器3よりも送風空気の上流側に配置するようにしてもよい。
1…ヒートポンプサイクル(サイクル)
2…圧縮機
3…凝縮器(加熱用熱交換器)
8…蒸発器(冷却用熱交換器)
50…エアコンECU(制御装置)

Claims (7)

  1. サイクル(1)の冷媒流れを制御することにより乗員の乗車前に車室内を空調する乗車前空調を実施する車両用空調装置であって、
    前記サイクルを循環する冷媒を吸入し吐出する圧縮機(2)と、
    前記サイクルを循環する冷媒が蒸発して車室内への送風空気を冷却する冷却用熱交換器(8)と、
    前記車両に蓄えられた電力及び前記乗車前空調時に外部から供給される電力の少なくとも一方のうち、前記乗車前空調に使用することが可能な使用許可電力の範囲内で前記圧縮機の作動を制御する制御装置(50)と、を備え、
    前記乗車前空調において、前記制御装置は、前記使用許可電力と前記圧縮機の消費電力との差に応じて前記圧縮機の回転数を増減させるための回転数変化量を決定し、前記回転数変化量は、前記使用許可電力と前記圧縮機の消費電力との差が大きいほど前記圧縮機の回転数を増加させるように決定され、小さいほど前記圧縮機の回転数を減少させるように決定されることを特徴とする車両用空調装置。
  2. 前記乗車前空調は、前記サイクル(1)の冷媒流れが制御されることによる冷房サイクル運転によって実施され、
    前記制御装置は、前記冷房サイクル運転による前記乗車前空調において、前記冷却用熱交換器の目標温度と実際の温度との差に応じて決定される前記回転数変化量と、前記使用許可電力と前記圧縮機の消費電力との差に応じて決定される前記回転数変化量とのうち、小さい方の前記回転数変化量を選択することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
  3. 前記乗車前空調は、前記サイクル(1)の冷媒流れが制御されることによる暖房サイクル運転によって実施され、
    前記制御装置は、前記暖房サイクル運転による前記乗車前空調において、前記圧縮機から吐出された冷媒圧力の目標圧力と実際の圧力との差に応じて決定される前記回転数変化量と、前記使用許可電力と前記圧縮機の消費電力との差に応じて決定される前記回転数変化量とのうち、小さい方の前記回転数変化量を選択することを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
  4. 前記制御装置は、前記使用許可電力と前記圧縮機の消費電力との差が所定値以下のときは、前記回転数変化量をマイナス値となるように決定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
  5. 前記制御装置は、前記圧縮機から吐出された冷媒圧力が所定圧力以上になったとき、前記回転数変化量を低下させるように、または維持するように決定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
  6. さらに前記乗車前空調時に車両の窓曇りを除去する防曇モードを有し、
    前記制御装置は、前記防曇モードが設定された前記乗車前空調時には、前記防曇モードを実施することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
  7. 前記制御装置は、前記乗車前空調終了後、所定時間以内である場合、または設定室内温度と車室内温度との差が所定温度以内である場合には、車両の窓曇りを除去する防曇モードを実施することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の車両用空調装置。
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