JP5349151B2 - グラフト中空糸膜およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、グラフト反応により表面が均一に改質された機能性膜の製造方法に関する。
ポリオレフィンやポリフッ化ビニリデン等の疎水性樹脂からなる多孔性中空糸膜は、水中での物理強度が高く、高い濾過圧下においても、破断、破裂、損傷、寸法変形などが起きないといった特徴がある。しかしながら、疎水性の多孔性中空糸膜に血漿分画製剤やバイオ医薬品の成分であるタンパク質を透過させると、即座にタンパク質の吸着が起こり、濾過速度や回収率を著しく低下させるといった欠点がある。タンパク質の吸着は、膜の疎水性に起因するものであり、タンパク質の吸着を防止するためには、多孔性中空糸膜の細孔表面を改質し、膜に親水性を付与すればよい。
疎水性の多孔性中空糸膜の細孔表面を改質し、膜に親水性を付与する方法として、細孔表面に親水性モノマーをグラフト重合する方法(以下、グラフト法という。)がある。グラフト法により細孔表面に導入されたグラフト層は、膜に共有結合によって結びつき一体化しているため、洗浄によってグラフト層が溶出し、膜の親水性が失われるといったことがない。よって、グラフト法によって形成される親水性のグラフト層はタンパク質の膜への吸着を効果的に抑制することができる。
グラフト膜を製造する上で最も問題となるのは、如何にして膜へのグラフト量を均一に制御するかという点である。グラフト反応が均一に進まない場合、例えばグラフト量が少なすぎる部分が生じると、膜表面の官能基密度が不足し、表面改質の目的を達成することが出来ない。反対に、グラフト量が多すぎる部分が生じると、孔の閉塞や透過性能の著しい低下を招く。特に孔径が小さく、中空部内径の小さな膜においてその影響は顕著に表れる。
近年、血漿分画製剤やバイオ医薬品の精製工程において、ウイルス等の病原体を膜中に捕捉することにより除去し、安全性を高める技術が求められている。このようなウイルス群を膜濾過法によって物理的に除去するためには孔径10〜100nm程度の微多孔膜が必要である。しかしながら、ナノメートルサイズのウイルス等を除去できるような小孔径膜をグラフト法によって改質する場合、細孔表面に導入したグラフト層が孔を閉塞させ、透過性を著しく低下させるといった欠点があった。ウイルスを除去できる10〜100nm程度の小孔径の多孔性中空糸膜を、十分な濾過性能を維持したままでグラフト法により均一に改質する技術は幾つか検討されているものの、いずれも未だ十分とはいえなかった。
グラフト反応が均一に進まない要因としては、主として中空糸膜の形状の複雑さが挙げられる。中空糸膜は、外表面と中空部の内表面を有する円筒形状であるのに加え、膜厚部が均一あるいは不均一な多孔質構造を有しているため、グラフト反応させるモノマーの流通状態が規制されやすい。これは、膜内のバラつき要因となる。さらに中空糸膜が数十〜数万本束ねられた状態になると、束内部でのモノマーの流通状態が規制されるため、束内(=膜間)のバラつき要因となる。従って、均一にグラフト反応された中空糸膜を得るには、反応時のモノマーの流通状態に工夫を施すことが重要である。
例えば、特許文献1には、従来のグラフト重合法では100〜数千本の中空糸に均一に官能基が導入されない問題に鑑みて、実用規模のモジュールに充填する高分子基材膜全体の均一性を高めるための方法が検討されている。そして、この方法によれば、グラフト重合による官能基の導入反応を断熱容器内で行うことにより、反応後の束から無作為に抽出した中空糸膜の重量増加率(グラフト率を意味する)の偏差が小さくなることが開示されている。しかしながら、このような方法では、膜全体として見た時は均一性が高まるものの、中空糸膜の外表面近傍に、濃度差を駆動力とした拡散によってモノマーが次々と消費されるため、外表面近傍でのみグラフト重合が進む結果、外表面近傍の孔が閉塞し、透過性が著しく低下する懸念があった。
また、特許文献2には、膜表面だけではなく、膜厚部すなわち細孔内部にまでグラフト反応を均一に行うための検討がなされている。そして、この技術によれば、放射線照射した多孔性の高分子膜と反応性基を有する単量体が接触した状態で80℃以上の加熱処理を行うことにより、均一性と生産性とに優れた表面改質法が得られることが開示されている。しかしながら、このような方法では、細孔内部にまで十分反応させることが可能になる一方で、表面近傍が反応過剰となることは避けがたく、結果として膜全体の均一性を確実に担保できる方法とはいえない。
さらに、特許文献3は特許文献1の問題を改善した技術に関するものであるが、中空糸膜にガンマ線を照射し、束にまとめた多孔性中空糸膜の側面をフィルムで巻き、少なくとも片端面を開放し、糸束を縦にした状態でモノマー溶液と接触させる方法が開示されている。しかしながらこの方法の場合、中空糸の片側からモノマーを接触させて反応させるため、中空糸長の長さ方向に対してグラフト反応の進行にムラを生じてしまう可能性がある。さらに、このような方法では、糸束を立てた際に中空糸膜がバラけないようにするために糸束をフィルムで強く巻く必要があり、結果として中空糸膜の外表面のグラフト率が相対的に低くなる傾向もある。
また、特許文献4では、多孔性中空糸膜の糸束の片側からモノマーを含むキャリアガスを吹き込むことにより気相中でモノマーをグラフト反応する方法が開示されている。この方法によれば、糸束半径方向の均一性が向上することが示されているが、糸長方向におけるグラフトの均一性については記載されていない。しかし、糸束の片側からのみモノマーガスが供給されるため、糸長方向のグラフトムラは大きくなると予想される。また、キャリアガスは糸束中の通過抵抗の低い空隙を優先的に通るので、その付近はどうしてもグラフト率が高くなると推定される。また、該文献の比較例において、反応容器中でモノマーを気化拡散させてグラフト反応させた場合は、糸束半径方向においても大きなグラフトムラが生じており、気相反応においてもモノマーの拡散だけでは高いグラフト反応の均一性を達成できないことがわかる。
これまでにも中空糸膜のグラフト反応を均一に行う検討はなされているが、前記いずれの製造方法においても、モノマー液あるいはモノマーを含むキャリアガスが中空部の片側からのみ供給されるため、糸長方向において中空部に供給されるモノマー濃度に差が生じてしまう。その結果、糸長方向に対して過剰にグラフト重合が進行して孔が閉塞し、透過性能が著しく低下する部分と、ほとんどグラフト重合が進行せず、タンパク質の吸着が生じやすい部分とができ、中空糸膜の糸長方向でのグラフト量にムラが生じると予想される。
一般に、中空糸膜は、中空部での物質交換効率や強度確保の観点から長さ/内径(外径)の比を大きくする必要がある。このような細長い形状では、特に溶液系で反応液に浸漬すると中空部にエアロックを生じやすく、その部分が未反応領域となってしまうため、エアロックを生じないように中空糸膜を反応管内で立てて反応させることが一般的である(例えば、特許文献5、非特許文献1)。しかし、この方法は、ラジカルによるグラフト重合のように反応速度が速い系においては必ずしも適切ではない。反応液に中空糸膜を浸漬する、あるいは中空糸膜に反応液を注ぐ過程で反応性モノマーが急速に消費されるとモノマー濃度に局所的なムラが生じ、結果として中空糸膜の長さ方向にムラが生じるからである。そこで、中空糸膜を横に置き、さらに反応槽を回転させながらモノマーの流通状態を均一化しようとする方法も知られているが(特許文献6)、この方法ではモノマーの流通性が高い気相反応では効果的であるものの、液相系では反応液が中空部に十分に浸入しないため、依然として長さ方向のグラフトムラは改善されない。
中空糸の中空部に反応液を注入する方法として、例えば、中空繊維の中空部に機能性付与剤としてのモノマーを減圧状態で充填した後に加熱し、その後重合して中空部を機能化する方法や(特許文献7)、真空吸入よって中空部に改質剤を導入する方法(特許文献8および9)が開示されている。しかし、これらは、膜の外表面に散在し、且つ中空部に連通する孔を介して反応液を長繊維の中空部に導入する技術ゆえ、長さ方向のムラは殆ど生じ得ない。
また、中空部ではないが、疎水性中空糸膜の細孔を親水化する際、減圧状態から特定の加圧状態に変化させて中空糸膜の細孔内部に水を浸入させる方法も知られている(特許文献10)。しかし、この方法は、水に濡れ難い疎水性膜をろ過膜として使用するために、界面活性剤や低表面張力有機溶媒で細孔を濡らした後に水置換する従来の親水化方法を改善するものであって、中空糸膜の長さ方向のグラフトムラについては全く考慮されていない。
このように、グラフト法を利用した中空糸膜の改質技術において、反応の均一性を高める工夫が種々なされているものの、中空糸膜に特有の課題である糸長方向での均一性については改善が必要であった。
特開平8−157504号公報 特開2004−154613号公報 特開2004−244501号公報 特開平4−293939号公報 特開平2−2848号公報 特開平1−217021号公報 特開平9−78453号公報 特開昭59−192774号公報 特開平5−339878号公報 特開昭61−101209号公報
Biotechnol.Prog.1991, 7, 412-416
本発明は、グラフト法により糸長方向に対して均一に表面が改質されたグラフト中空糸膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、反応容器内に多孔性中空糸膜を水平に置き、且つ反応容器内を減圧した状態で、中空糸膜の両端部から同時に反応液を中空部に導入することにより、糸長方向での反応ムラを改善できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、
[1] 反応開始点を有する多孔性中空糸膜を反応性モノマーを含有する反応液に浸漬し、反応性モノマーをグラフト反応させるグラフト中空糸膜の製造方法において、
反応容器内に多孔性中空糸膜を水平に置き、且つ反応容器内を減圧した状態で、該中空糸膜の両端部から同時に反応液を中空部に導入することを特徴とするグラフト中空糸膜の製造方法。
[2] 多孔性中空糸膜を複数本束ねた中空糸膜束の側面にフィルムを巻きつけ、束の両端面を開放した状態で反応液を導入することを特徴とする上記[1]に記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
[3] さらに、反応液を加圧した状態で導入させることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
[4] 多孔性中空糸膜の最大孔径が10〜100nm、長さが0.1〜0.7m、内径が100〜2000μmであることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
[5] 反応性モノマーをラジカル重合によってグラフト反応させることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれかに記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
[6] 多孔性中空糸膜を親水性モノマーで親水化することを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれかに記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
[7] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法によって製造されたグラフト中空糸膜であって、長さ方向に3等分した各中空糸膜の純水透水量の、最大値/最小値の値が1.50以下であることを特徴とするグラフト中空糸膜。
[8] 多孔性中空糸膜の最大孔径が10〜100nm、長さが0.1〜0.7m、内径が100〜2000μmである多孔性中空糸膜に、反応開始点であるラジカルを発生させ、反応性モノマーをグラフト反応させたグラフト中空糸膜において、該中空糸膜を長さ方向に3等分し、測定した各中空糸膜の純水透水量の、最大値/最小値の値が1.50以下であることを特徴とするグラフト中空糸膜。
[9] 少なくとも開孔率が大きい粗大構造領域と、開孔率が小さい緻密構造領域を有し、該粗大構造領域が少なくとも濾過第一表面に存在し、濾過第一表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量の1.20〜1.70倍であり、かつ、濾過第二表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量に対して0.80〜1.25倍であることを特徴とする上記[7]または[8]に記載のグラフト中空糸膜。
本発明によれば、グラフト法により糸長方向に対して均一に表面が改質された多孔性グラフト中空糸膜を容易に製造することが可能となる。特に糸長方向におけるグラフトムラが減少することから、水濡れ性、タンパク質非吸着性等に優れた均一な多孔性グラフト中空糸膜を容易に製造することが可能である。
中空糸膜において純水透水量を測定した部位の模式図及び測定部位に応じた透水量のグラフ。
本発明の製造方法は、いかなる多孔性中空糸膜の長さや内径および孔径にも適用可能であり、限定されるものではない。しかしながら本発明の製造方法は、中空糸膜を均一に改質するといった特徴があり、中空糸膜の内径および孔径が小さい多孔性中空糸膜の製造において特に有用である。
多孔性中空糸膜の製造方法には、熱誘起相分離といった溶融法や、乾式法、湿式法、乾湿式法といった溶液法、溶融紡糸後に中空糸を延伸して多孔質化する方法など様々な方法が知られているが、本発明で用いる多孔性中空糸膜は、いずれの方法を用いて製造されたものでも用いることが可能である。
本発明の製造方法において、多孔性中空糸膜の材料は、多孔性の高分子膜を形成しうる高分子材料であればいかなる材料でも用いることが可能である。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレナフタレート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等の含フッ素樹脂、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等の非結晶性樹脂などが使用できる。
本発明の製造方法で用いられる多孔性中空糸膜の最大孔径は、10〜100nmを有する中空糸膜を用いることが好ましく、より好ましくは10〜70nm、最も好ましくは10〜50nmである。最大孔径が10nm未満では、グロブリン等の生理活性物質の透過性や濾過速度の点に問題があり、100nmを越えると除去対象であるウイルス等の微粒子を実用的なレベルで除去することができない。従って、グラフト後の中空糸膜もこの孔径範囲にあることが好ましい。ここで言う最大孔径とは、ASTM F316−86に準拠したバブルポイント法で測定した値である。
本発明で用いる多孔性中空糸膜の長さは0.1〜0.7mが好ましく、より好ましくは0.15〜0.5mであり、最も好ましくは0.2〜0.4mである。中空糸膜の長さが0.1m未満の場合は、糸長が短すぎるために、取り扱いが悪く、生産効率が良くない。また、中空糸膜の長さが0.7mを超える場合、モノマーを含有する反応液が中空部内に供給される間に、モノマー濃度が減少してしまうため、糸長方向において透水量のムラが起こる可能性がある。
本発明で用いる多孔性中空糸膜の内径は100μmより大きければいかなる内径でも構わないが、100〜2000μmが好ましく、より好ましくは、200〜1000μm、最も好ましくは、300〜500μmである。除去対象であるウイルス等の微粒子を実用的レベルで除去することを考慮すると、内径が100μm未満の中空糸膜は製造し難いだけでなく、圧損が大きくなるため好ましくない。また、2000μmよりも大きくなると、同じ膜面積のフィルターを成型する場合に、フィルターのかさが大きくなるため実用性の面から好ましくない。
本発明で用いる多孔性中空糸膜は、少なくとも開孔率が大きい粗大構造領域と、開孔率が小さい緻密構造領域を有することが好ましい。粗大構造領域は膜厚全体の中で相対的に開孔率が大きい部分であり、タンパク溶液等に含まれる懸濁物質に対してプレフィルター機能を発揮することにより膜の処理能力を向上させる。また、上記緻密構造領域は膜厚全体の中で相対的に開孔率が小さく、実質的に膜の孔径を規定している部分である。ウイルス等の微粒子を除去する目的の微多孔膜においては該微粒子の除去機能を有する部分である。
本発明において開孔率は、膜の断面において、膜断面に対する空隙部分が占める面積比率であって、膜断面の電子顕微鏡写真の画像解析から求められる。本発明においては、開孔率は、膜厚方向に一定の厚み毎に測定され、膜厚方向の空隙部分の容積比率の変化を調べるために用いられ、測定の精度から厚み1μm毎に測定している。
具体的には、開孔率は、中空糸膜の膜表面に垂直な方向の断面構造の観察結果を厚み方向に厚み1μm毎に分割し、画像処理解析によって各分割領域において求めた開孔率をある一定の膜厚領域で平均した開孔率であり、膜厚全体の平均開孔率は各分割領域において求めた開孔率を膜厚全体で平均して求めた開孔率である。この開孔率は、グラフト反応の前後では殆ど変化しないので、いずれの中空糸膜で測定することもできる。
本発明において、粗大構造領域とは、膜表面に存在する開孔率の大きい領域であり、好ましくは(A)開孔率が膜厚全体の平均開孔率+2.0%以上の領域(以下、(A)の粗大構造領域という)であり、より好ましくは+2.5%以上の領域であり、特に好ましくは+3.0%以上の領域である。粗大構造領域の開孔率の上限は、膜厚全体の平均開孔率+30%以下が好ましく、より好ましくは膜厚全体の平均開孔率+25%以下、特に好ましくは膜厚全体の平均開孔率20%以下である。粗大構造領域の開孔率が膜厚全体の平均開孔率+2.0%以上であれば、緻密構造領域との構造差も充分に大きく、粗大構造領域側から被処理液を供給する際にプレフィルター効果を発現でき、膜の処理能力を増大させる効果がある。また、粗大構造領域の開孔率が膜厚全体の平均開孔率+30%より大きい場合は、粗大構造領域の構造が必要以上に粗になり、充分なプレフィルター機能を有しない傾向があり好ましくない。
該粗大構造領域の厚みは2μm以上が好ましく、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上、特に好ましくは8μm以上である。粗大構造領域は、プレフィルター機能を有し、夾雑物の閉塞による濾過速度の低下を緩和する。孔径の小さな微多孔膜ほど、生理活性物質中に含まれる夾雑物が濾過速度の低下を引き起こしやすいため、粗大構造領域の厚みが厚いことが好ましい。
粗大構造領域は、膜表面から緻密構造領域に向かって開孔率が連続的に減少する傾斜構造であることが好ましい。この好ましい理由は、開孔率が連続的に減少するとともに孔径も連続的に小さくなることにより、表面近傍で大きな懸濁物質が除去され、内部に入るにつれて小さな懸濁物質が段階的に除去されることにより、粗大構造領域のプレフィルター機能を向上させているものと推察される。開孔率が粗大構造領域と緻密構造領域の境界で不連続に大きく変化する場合は、境界近傍に懸濁物質が堆積することによって濾過速度の低下を招くために好ましくない。ここで言う開孔率が連続的に減少する傾斜構造とは、膜厚方向における全体的な傾向を指しており、構造ムラや測定誤差に起因する開孔率の局所的な多少の逆転があってもよい。
粗大構造領域は、開孔率が膜厚全体の平均開孔率+5.0%以上である領域を含むことが好ましく、膜厚全体の平均開孔率+8.0%以上の領域を含むことが更に好ましい。粗大構造領域が、開孔率が膜厚全体の平均開孔率+5.0%以上である領域を含む場合は、緻密構造領域より充分に大きな孔径の領域を有していることを示しており、粗大構造領域は充分なプレフィルター機能を発揮することが可能となる。開孔率の最大値を有する領域は、膜表面に存在するか、或いは膜表面近傍に存在することが好ましい。
また、該中空糸膜においては、粗大構造領域が存在する膜表面の平均孔径は、少なくともバブルポイント法で求めた最大孔径の2倍以上であることが好ましく、より好ましくは、バブルポイント法で求めた最大孔径の3倍以上である。粗大構造領域が存在する膜表面の平均孔径が、バブルポイント法で求めた最大孔径の2倍未満である場合は、孔径が小さすぎるため、表面で懸濁物質の堆積が起こり、濾過速度が低下する傾向があることから好ましくない。該中空糸膜がウイルス等の微粒子除去用に用いられる場合には、粗大構造領域が存在する膜表面の平均孔径は3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。該平均孔径が3μmを超えると、プレフィルター機能が低下する傾向にあり好ましくない。
本発明において、緻密構造領域とは、開孔率が小さい領域であり、好ましくは(B)開孔率が、膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満であって、かつ(膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満の領域の開孔率の平均値)±2.0%(両端を含む)の範囲内にある領域(以下、(B)の緻密構造領域という)である。緻密構造領域の開孔率が、(膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満の領域の開孔率の平均値)±2.0%(両端を含む)の範囲内にあるということは、緻密構造領域が比較的均質な構造を持っていることを意味し、このことはデプス濾過によってウイルス等を除去する際に重要である。緻密構造領域の均質性は高いほど好ましく、開孔率の変動幅は±2%の範囲内であることが好ましく、更に好ましくは±1%の範囲内である。緻密構造領域の構造例としては、国際公開第01/28667号パンフレットに開示されている球晶内ボイド構造などが好ましく適用できる。
緻密構造領域の厚みは膜厚全体の50%以上が好ましい。緻密構造領域の厚みが膜厚全体の50%以上であれば、ウイルス等の除去性能を低下させることなく使用できる。より好ましくは55%以上であり、特に好ましくは60%以上である。
なお、該中空糸膜において、上記の(A)の粗大構造領域及び(B)の緻密構造領域のいずれにも属さない中間的領域が存在してもよい。ここで言う中間的領域とは、開孔率が膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満であるが、[膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満の領域の開孔率の平均値]±2.0%(両端を含む)の範囲内に入らない領域に対応する。このような領域は、通常は(A)の粗大構造領域と(B)の緻密構造領域の境界部分に存在する。
また、該中空糸膜は、粗大構造領域と緻密構造領域が一体化していることが好ましい。この粗大構造領域と緻密構造領域が一体化しているとは、中空糸膜の製造時に粗大構造領域と緻密構造領域が、同時に形成されることを言う。この際、粗大構造領域と緻密構造領域の境界部分に中間的領域が存在してもよい。大孔径の支持体上に比較的小孔径な領域をコートすることによって製造される膜や、孔径の異なる膜を重ね合わせた積層膜よりも、粗大構造領域と緻密構造領域が一体化していることが好ましい。コートすることによって製造される膜や、孔径の異なる膜を重ね合わせた積層膜は、二つの領域の間で、孔の連結性が低くなったり、孔径が大きく不連続に変化するため、支持体とコート層の間に懸濁物質が堆積しやすいという欠点を有する。
以上のような膜構造の詳細については、国際公開WO03/026779号パンフレットの記載を参照することができる。
本発明においては、前記粗大構造領域は少なくとも濾過第一表面に存在することが好ましい。濾過第一表面とは、使用時に被処理液を供給する側の表面であり、他方、濾液が得られる側の表面を濾過第二表面という。従って、内圧濾過式では濾過第一表面が中空糸膜の内表面、濾過第二表面が外表面となり、外圧濾過式ではそれぞれ逆となる。
次に、多孔性中空糸膜に反応性モノマーをグラフト反応する方法について説明する。グラフト法とは、多孔性中空糸膜にあらかじめアミノ基、ヒドロキシル基、カルボン酸等の官能基を導入して反応開始点とし、互いに反応して高分子化しうるモノマーを縮合や付加反応等によりグラフトする方法や、又は電離性放射線の照射や化学反応等の手段によって該中空糸膜に生成させたラジカルを反応開始点として、該中空糸膜に反応性モノマーを重合させる手法である。
本発明の製造方法においては、反応開始点を有する多孔性中空糸膜を、反応性モノマーを含有する反応液に浸漬し、反応性モノマーをグラフト反応させる。本発明において、反応開始点に該反応性モノマーを接触させるには、中空糸膜の両端部から同時に反応液を中空部に導入させることが必要である。ここで、反応開始点とは上記のように、多孔性中空糸膜にあらかじめ導入した官能基、もしくは電離性放射線の照射や化学反応等の手段によって多孔性中空糸膜に生成させたラジカルをいう。
本発明において、同時に反応液を中空部に導入するとは、中空糸膜に対して反応液が中空部の両末端から実質的に時間差なく導入される状態をいう。両端部から時間差なく反応液が導入された場合、中空部内に導入した反応液のモノマー濃度が両側で均等になるため、中空糸膜長さ方向におけるグラフトムラが最も小さくなる。また、グラフト反応をよりスムーズに進行させるために、両端面がきれいに開口しており、中空糸膜内部を反応液が自由に出入りできる状態であることが好ましい。
本発明の製造方法では、中空糸膜の両端部から中空部に反応液を実質的に同時に導入するために、該多孔性中空糸膜を反応容器中に水平にした状態で配置する。多孔性中空糸膜を水平にした状態とは、中空糸膜の両端面が実質的に同じ高さにあることをいい、中空糸膜の入った反応容器に中空糸膜の長さ方向と平行に付属した気泡管水平器が水平を示す状態をさす。水平を示す状態とは、該中空糸膜の入った反応容器に付属して中空糸膜の長さ方向と平行に置かれている気泡管水平器の勾配が、1/50勾配以下であることをいう。好ましくは1/100勾配以下、さらに好ましくは勾配なしの状態である。勾配が1/50勾配超える場合、水平とはいい難く、中空部内に反応液が導入されるのに時間差が生じる。また、勾配が小さいほど片側からのみ液が供給されることがなくなるため、糸長方向におけるグラフト重合のムラは改善される。
多孔性中空糸膜を水平にする工程は、反応性モノマーを含有する反応液中で多孔性中空糸膜の反応開始点に反応性モノマーをグラフト反応させる工程より前であれば、いかなるタイミングで行ってもよい。
本発明において、多孔性中空糸膜に反応性モノマーをグラフト反応させる方法は、いかなる手段も採用しうる。例えば、化学グラフト法、光グラフト法、放射線グラフト法、あるいは放電グラフト法等を採用することが出来るが、電離性放射線の照射による放射線グラフト法は、膜全体に反応開始点の1つであるラジカルを生成させることが可能であるため特に好ましい。電離性放射線の種類として、α線、β線、γ線、電子線、X線、中性子線等が利用できる。しかし、工業規模で実施する場合は、γ線または電子線、X線が好ましく、γ線が最も好ましい。γ線は非常に透過性が高く、均一に反応開始点を生成させることができる。
電離性放射線の照射線量は、膜に対して均一にラジカルが生成でき、且つ膜の強度に大きな影響を与えない線量であれば特に限定されるものではないが、1kGy以上1000kGy以下が好ましく、5kGy以上500kGy以下がより好ましく、10kGy以上200kGy以下が特に好ましい。放射線グラフト法は一般に膜にラジカルを生成した後、ついでそれを反応性モノマーと接触させる前照射法と、膜を反応性化合物と接触させた状態で膜にラジカルを生成させる同時照射法に大別される。同時照射法の場合、グラフト反応の進行とともに遊離オリゴマーが大量に発生し、小孔径の膜の場合、細孔が埋まってしまうため、本発明においては、オリゴマーの生成が少ない前照射法が好ましい。
本発明において、グラフト反応させるための反応容器に充填する多孔性中空糸膜本数は、中空糸膜を反応容器内に潰れることなく充填できれば、いかなる本数でも実施できる。また本発明においては、中空糸膜の充填の形態はいかなる形態でもかまわないが、多孔性中空糸膜を複数本束ねて糸束にまとめ、糸束の両端面を開放した状態で糸束の側面に、フィルムを巻きつけた状態で反応液を導入させることが望ましい。反応容器内に中空糸膜をそのまま充填する形態や反応容器内に中空糸膜を最密充填する形態に比べて、糸束の側面をフィルムで巻いて反応を行うことにより、中空糸膜束の外周部近傍での過剰なグラフト反応を防ぐことができ、より均一なグラフト膜が得られる。また、中空糸膜を束にまとめてあるため、細い中空糸膜を1本1本扱うよりも作業性が大きく向上する。
中空糸膜をフィルムで巻く場合、糸束を構成する多孔性中空糸膜の本数はいかなる本数で実施してもよいが、実質的な作業を考慮した場合10〜500000本が好ましい。より好ましくは50から100000本、最も好ましくは100から50000本である。10本未満では実質的に糸束をフィルムで完全に巻くことが困難であり、500000本を越えると糸束中心部の中空糸膜が抜け落ちる可能性がある。
フィルムで巻く糸束の充填率は30〜90%が好ましく、より好ましくは60〜85%、最も好ましくは65〜80%である。充填率が30%未満ではグラフト反応が過剰に進み細孔の閉塞を引き起こし、90%を超えると多孔性中空糸膜の濾過第二表面のグラフト率が小さくなり、生理活性物質の閉塞が起こる。ここで言う充填率とは、以下の式(1)で定義される値である。
充填率(%)=100×{(中空糸の外直径/2)×π×中空糸の本数}/{(糸束を巻いたフィルムからなる筒状構造体の内直径/2)×π} (1)
糸束を巻く場合に使用するフィルムの材質は、いかなる材質も用いることが可能であるが、反応液による膨潤等による強度劣化が少ないものが好ましい。また、反応液が透過しない材質のものがより好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂製、アルミ、チタン等の金属製、ブタジエンゴム、ウレタンゴム等のゴム製または紙類等が使用できる。放射線グラフト重合を用いる場合は、電離性放射線による強度劣化や崩壊が少ないものが好ましい。特にアルミ製のフィルムは電離性放射線による強度劣化が少ないことなどから好ましい。
該フィルムの厚みは、ハンドリングしやすく、且つ作業中にフィルムが破損する恐れのない厚みであればいかなる厚みでもよいが、1〜1000μmが好ましく、より好ましくは2〜500μm、最も好ましくは5〜100μmである。1μm未満では強度に不安があり、1000μmを越えるとハンドリングが著しく低下する。
糸束を巻く方法はいかなる方法で実施しても良い。一般的な包装機だけでなく、シュリンク包装機等の加熱や超音波処理を伴う方法も用いることも可能である。該中空糸膜の両端部から同時に反応液が導入できる状態であればいかなる形状でも適用できる。糸束の側面をフィルムで巻いた場合に、糸束中心部の中空糸膜が自重で抜け落ちるようであれば該糸束の両端面を、反応液が自由に出入りできるが、中空糸膜が抜け落ちない程度の孔径を有するメッシュ、不織布、膜等で覆うことも可能である。また、該糸束を予め糸や帯等で拘束し、糸束中心部の中空糸膜が抜け落ちることを防ぐことも可能である。
フィルムの該糸束長さ方向の長さは、多孔性中空糸膜の濾過に寄与する有効長以上であればいかなる長さでも良いが、該糸束の長さに対して極端に短い場合は該糸束側面ほとんどが露出した状態となり、露出した部分でグラフト反応が過剰に進み細孔の閉塞を引き起こす傾向があり好ましくない。また、該糸束の長さに対して極端に長い場合は反応液が該糸束中に入り難くなる傾向があり好ましくない。
フィルムの該糸束円周方向に対する長さは、糸束中心部の中空糸膜が自重で抜け落ちない程度に拘束した状態の糸束の外周に対して1倍以上であれば、長さは限定されるものではない。該糸束の外周に対して1倍未満では、該糸束側面の一部が露出し、グラフトムラが生じる。またフィルムが外周に対して長い場合は、特に問題は無い。但し極端に長い場合には、フィルムの素材によっては電離性放射線の透過率を低下させる場合があるので該糸束の外周に対して1〜10倍が好ましい。
糸束の側面を巻いたフィルムは、端部を接着しなくても良いが、作業性を考慮すると接着するほうが好ましい。接着にはどのような方法を用いることも可能である。例えば、市販の粘着テープや接着剤等によりフィルム端部を固定すること、また、ホットメルトをあらかじめフィルムに塗布し、超音波や加熱によって融着させてもよい。さらには、フィルムに熱収縮フィルムを用いて、加熱により収縮させ、糸束にフィルムを密着させることにより接着することも可能である。
本発明において反応容器とは、中空糸膜が充填され、次いでグラフト反応させるための容器であって、反応液の導入・導出口を備えるものである。さらに内部を減圧または加圧状態に維持できる耐圧容器のことが望ましい。反応開始点を生成させた中空糸膜と、反応性モノマーを含む反応液とを接触させる前に、予め中空糸膜を充填した反応容器を減圧することが好ましい。中空糸膜を反応容器に充填し、内部を減圧した反応容器に反応液を吸引導入させることにより、該反応液を膜の細孔内部にまで均一に導入することができる。減圧する際の反応容器内の真空度は0〜1340Paが好ましく、さらに好ましくは0〜500Pa、最も好ましくは0〜100Paである。真空度が1340Paを越えると、反応液を膜の細孔部まで均一に導入することが困難である。
本発明の製造方法において、反応液を導入する際は、中空糸膜の入った反応容器内部に反応液を吸引導入させることが好ましい。これは、反応容器の圧力に対し、反応液の貯留容器の圧力を高くすることにより可能となる。さらに、反応液の導入速度を速くするため、反応液の貯留容器を加圧することが好ましい。反応容器と反応液の貯留容器の圧力差は0より大きいことが好ましく、より好ましくは0.02MPa以上、最も好ましくは0.05MPa以上である。圧力差が0より大きければ上限はいかなる圧力差でも構わないが、使用する各反応容器の耐圧度に応じて決まる。
本発明の製造方法において、反応開始点を有する多孔性中空糸膜に反応性モノマーを接触させる方法は、中空糸膜を反応性モノマーを含有する反応液に浸漬することにより行う。本発明における反応性モノマーとは、多孔性中空糸膜の反応開始点と重合可能な化合物であれば特に限定されるものではない。例えば、官能基を反応開始点としたグラフト法の場合は、ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、テレフタル酸、尿素、ビスフェノールA等が挙げられる。反応開始点がラジカルである場合、反応性モノマーとしては、放射線グラフト重合法において通常用いられている任意のモノマーを用いることができる。例えば、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のビニルモノマー誘導体、スチレン、スチレンスルホン酸ナトリウム等のスチレン誘導体等があるが、その中でもビニル基を1個以上有するモノマーが好ましい。
本発明における親水性モノマーとは、グラフト重合法において通常用いられている任意のモノマーの中で、大気圧下、25℃の純水に1容量%混合させた時に均一溶解できるモノマー、または、加水分解等の化学反応を行うことで、親水性を示す官能基に変換可能な官能基を有するモノマーをいう。例えばスルホン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、水酸基、あるいはその前駆体となる官能基等を有するモノマーが挙げられる。
放射線グラフト重合の場合は、親水性官能基とともにビニル基を有するモノマーが好ましい。例えばヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸と多価アルコールのエステルや、アリルアルコール等の不飽和結合を有するアルコール類、あるいは前駆体となる官能基を有する酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のエノールエステル類ビニルモノマー、また、ビニルピロリドン等のアミド結合を有するビニルモノマー、アクリルアミド等のアミノ基を有するビニルモノマー、ポリエチレングリコールモノアクリレート等のポリエチレングリコール鎖を有するビニルモノマー、メタクリル酸トリエチルアンモニウムエチル等のアニオン交換基を有するビニルモノマー、メタクリル酸スルホプロピル等のカチオン交換基を有すビニルモノマー等が挙げられる。これらの反応性モノマーは、単独で用いるだけでなく、2種類以上を膜と同時に接触させて共重合させることも可能である。上記モノマーの中では、ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸と多価アルコールのエステル類が特に好ましい。
本発明の製造方法において、膜同士の固着を抑制させたり、膜からの溶出を低減させる等の効果があることから、必要に応じて架橋剤を反応性モノマー溶液に混入させて使用することも可能である。
反応性モノマー、および必要に応じて用いる架橋剤を溶解させる際の濃度は、3〜30容量%が好ましく、より好ましくは3〜20容量%、最も好ましくは3〜15容量%である。3容量%以上の濃度であれば十分なグラフト量が得られ好ましい。30容量%を越えるとグラフト層によって細孔が埋まる場合があり、透過性能が低下する傾向があり好ましくない。
グラフト重合時の反応温度は、反応液が液体の状態であればいかなる温度でも良いが、一般的に0〜100℃で行われる。本発明では、10〜70℃が好ましく、20〜60℃が最も好ましい。
反応性モノマーを溶解する溶媒としては、反応性モノマー、および必要に応じて用いる架橋剤を均一溶解でき、且つ膜を濡らすことができるものであれば特に限定されない。ここで、膜が濡れる状態とは、膜と接触させた場合に、自発的に細孔内部に入る状態をいう。このような溶媒として、例えば、エタノールやt−ブチルアルコール等のアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトンや2−ブタノン等のケトン類、水、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
グラフト重合時に用いる反応性モノマー、および必要に応じて用いる架橋剤を溶媒に溶解させた反応液の量は、反応容器内に入れた全ての中空糸膜または中空糸膜束が完全に反応液に浸る量であれば特に限定されない。中空糸膜または中空糸膜束が完全に反応液に浸る量であれば均一性が充分な膜が得られる。中空糸膜の一部が反応液に浸漬できない場合、その部分のグラフト重合が進行しなくなるため、中空糸膜に対して反応液の量を過剰にすることが望ましい。
本発明では、多孔性中空糸膜の実用的な透過性能を維持したまま、十分なグラフト量の反応性モノマーをグラフト反応する。そのために、多孔性中空糸膜にグラフト反応されるグラフト率は、好ましくは3〜100%、さらに好ましくは5〜50%、最も好ましくは7〜30%である。グラフト率が3%未満であると膜のグラフト量が不足し、目的とする改質が達成できない場合がある。100%を越えると、比較的小さな孔がグラフト層によって埋まってしまい、充分な濾過速度が得られない。ここで言うグラフト率とは、以下の式(2)で定義される値である。
グラフト率(%)={(グラフト反応後の膜質量−グラフト反応前の膜質量)/グラフト前の膜質量}×100 (2)
本発明の製造方法によって製造された多孔性中空糸膜は、中空糸膜全体を長さ方向に3等分した場合において、各部位で測定した純水透水量の、最大値/最小値の値が1.50以下であることが望ましい。より好ましくは1.40以下、最も好ましくは1.30以下である。ここでいう透水量の、最大値/最小値の値とは以下の式(3)で定義される値である。
最大値/最小値=3等分したうちの最大透水量/3等分したうちの最小透水量 (3)
本発明においては、最大値/最小値の値が上記の場合、中空糸膜が長さ方向にわたって実質的に均一にグラフト反応されているとみなす。このようにグラフト反応されていると、濾過する際に水濡れ性やタンパク質の非吸着性に優れるため、高い濾過性能が得られる。一方、各部位で測定した純水透水量の、最大値/最小値が1.50を超える場合は、糸長方向において均一な膜とは言い難い。この場合には、濾過速度や透過すべき物質の透過性が低下したり、反対に、膜透過を阻止すべき物質のリークが起こることがある。
このように、中空糸膜は長さ方向に均一にグラフト反応されていることが好ましいが、加えて、膜厚方向にも均一にグラフト反応されていると特に好ましい。本発明では、濾過第一表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量の1.20〜1.70倍であることが好ましい。本発明のグラフト膜を生理活性物質の濾過に用いる際、特に濾過第一表面から濾過第二表面に向かって濾過する場合は、生理活性物質中に含まれる夾雑物は濾過第一表面に堆積しやすいので、濾過第一表面のグラフト量は大きいほど夾雑物閉塞の影響を低減できる。そのため、濾過第一表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量の1.20倍未満では、夾雑物閉塞によって膜の濾過速度が低下しやすい。しかしながら、1.70倍を超えるグラフト量では、グラフト層が細孔を塞いでしまうため、膜の純水透水量が小さくなってしまう。これでは、血液製剤やバイオ医薬品の生産に用いようとしても、混入し得るウイルスは膜中に捕捉することで除去できても溶液の透過性が著しく悪くなり、分離膜としての機能を果たせない。
ここで言うグラフト量とは、顕微ATR法によって得られた3箇所(濾過第一表面、断面中央部、そして濾過第二表面)のスペクトルの、特定波長領域における積分値から、以下の式(4)で算出した値である。断面中央部は、中空糸膜を凍結割断する等により得られる円環状の断面をいう。
グラフト量(%)=グラフト率(%)×積分値/3箇所の積分値の平均 (4)
グラフト量を算出する際に採用する顕微ATRスペクトルの波長領域は、グラフト反応させる反応性モノマーの種類に依存する。そのため、実質的にはグラフト率を変化させた膜を作成し、グラフト量に連動して増減するピークの波長領域を特定することで、波長領域を選択することが可能である。
本発明では、濾過第二表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量に対して0.80〜1.25倍であることが好ましい。濾過第二表面のグラフト量が膜断面中央部におけるグラフト量よりも1.25倍を超えて高くなってしまった場合、濾過第二表面のグラフト層が細孔を塞いでしまい、膜の純水透水量が小さくなってしまう。また、濾過第二表面が中空糸の外表面側の場合は、グラフト反応が過剰になると膜同士が固着することがあり、中空糸膜の束としての取扱性が低下したり、濾過面積の低下を招くことがある。
一方、濾過第二表面のグラフト量が膜断面中央部におけるグラフト量よりも0.80倍未満の場合、濾過第二表面近傍のグラフト層が不足し、生理活性物質の吸着を低減させるといったような、グラフト反応による改質の本来の目的を達することができない。
本発明の製造方法によって製造されたグラフト中空糸膜は、ウイルスや細菌等の除去、濃縮、または培地等に利用できる医用分離膜、薬液や処理水等から微粒子を除去する産業プロセス用フィルター、油水分離や液ガス分離用の分離膜、上下水の浄化を目的とする分離膜、リチウムイオン電池等のセパレーター、及びポリマー電池用の固体電解質支持体等の広範囲な用途に利用できるものである。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。実施例は本発明を限定するものではない。実施例および比較例にて用いた測定方法は次の通りである。
(1)中空糸膜の外径、内径、膜厚
多孔性中空糸膜の外径、内径は、該膜の垂直割断面を実体顕微鏡(モリテックス(株)製 SCOPEMAN503)を使用して210倍の倍率で撮影することで求めた。膜厚は中空糸膜の外径と内径との差の1/2として計算した。
(2)透水量
定圧デッドエンド濾過による温度25℃の純水の透過量を測定し、膜面積、濾過圧力(0.294MPa)、及び濾過時間より、次式の通りに計算して透水量とした。
透水量(m/m・s・Pa)=透過量 ÷(膜面積×濾過時間×濾過圧力)
(3)最大孔径
ASTM F316−86に準拠したバブルポイント法より求まるバブルポイント(Pa)を最大孔径(nm)として換算した。膜を浸漬する試験液として表面張力が12mN/mの炭化フッ素液体(住友スリーエム社製 パーフルオロカーボンクーラントFX−3250 商品名)を用いた。
(4)膜の構造観察
適当な大きさに切り取った中空糸膜を導電性両面テープにより試料台に固定し、金コーティングを施して検鏡用試料とした。高分解能走査型電子顕微鏡装置(HRSEM)を用い、加速電圧5.0kV、及び所定倍率で中空糸膜の表面及び断面の構造観察を行った。
(5)開孔率・平均開孔率
開孔率は、上述のように、中空糸膜の膜表面に垂直な方向の断面構造の観察結果を厚み方向に厚み1μm毎に分割し、画像処理解析によって各分割領域において空隙が占める面積分率として求めた。このときの電子顕微鏡撮影は倍率15000倍で行った。平均開孔率はある一定の膜厚領域についての開孔率の平均値である。
(6)粗大構造領域の厚み、緻密構造領域の膜厚全体に占める割合
上記の開孔率の測定において、各分割領域が本文に定義する緻密構造領域及び粗大構造領域の定義に合致するかを判定した。即ち、粗大構造領域は、膜表面に存在し、厚み方向に測定した開孔率が膜厚全体における開孔率の平均値より2%以上大きい連続した領域であり、緻密構造領域は、粗大構造部分以外の領域において、厚み方向に測定した開孔率が粗大構造領域を除いた領域の開孔率の平均値に対して±2%未満の範囲内にある領域である。緻密構造部分の膜厚全体に占める割合は、合致する分割領域の厚みの和を全体の膜厚で割った値である。
(7)粗大構造領域側表面の平均孔径
粗大構造領域側表面の構造観察結果から、画像処理解析によって、表面に存在する孔の数と面積を計測し、孔を真円と仮定して孔1個当りの平均面積から円相当径を求めた。この円相当径を粗大構造層側表面の平均孔径とした。このときの電子顕微鏡撮影は倍率6000倍で行った。
(8)グラフト率
グラフト率は48束の糸束の質量をそれぞれグラフト重合前後で測定し、48束の糸束を構成する中空糸膜の平均値として下記のグラフト率の式から算出した。
グラフト率(%)={(グラフト反応後の膜質量−グラフト反応前の膜質量)/グラフト反応前の膜質量}×100
(9)グラフト量(%)
顕微ATR法によって得られた3箇所(濾過第一表面、断面中央部、そして濾過第二表面)のスペクトルの、特定波長領域における積分値から、下記の式で算出した。
グラフト量(%)=グラフト率(%)×積分値/3箇所の積分値の平均
(10)3wt%ウシ免疫ブロブリン溶液の濾過試験
ウシ免疫グロブリンは、Life Technology社のウシ免疫グロブリン溶液を、日本薬局方の生理食塩液(大塚製薬(株)製)で希釈して3wt%とし、更に濾過膜(旭化成メディカル(株)製、PLANOVA35N)で前濾過して夾雑物を除いたものを濾過原液として用いた。該濾過原液中のウシ免疫グロブリンの分子量分布を液体クロマトグラフィー(東ソー社製 CCP&8020シリーズ、アマシャムバイオサイエンス社製 Superdex 200 HR10/30)を用いて測定した結果、2量体以上の多量体の占める割合は20wt%以下であった。内圧濾過法により、該濾過原液を濾過圧力0.3MPa、濾過温度25℃の条件で定圧デッドエンド濾過を行い、濾過開始時から15分後の濾過量を測定した。
[製造例1]
本発明でグラフト反応に用いた多孔性中空糸膜は、公知のポリフッ化ビニリデン(PVDF)中空糸膜の製造方法(特開2004−244501号公報)を参考にし、原料の吐出速度や凝固浴温等を調製することで多孔性中空糸膜を得た。得られた中空糸膜を束にまとめたものから無作為に15本抜き出し長さを測定した後、内径、膜厚、最大孔径の測定にそれぞれ5本ずつ使用した。15本の測定結果の平均を長さとして算出し、5本の測定結果の平均を内径、膜厚、最大孔径として算出した。その結果、得られた多孔性中空糸膜は長さ32.5cm、内径330μm、膜厚49μm、粗大構造領域の厚み8μm、最大孔径28.1nmであった。粗大構造領域は中空糸膜の濾過第一表面側(中空糸内表面側)に位置し、緻密構造領域は濾過第二表面側(中空糸外表面側)に位置した。
また、得られた中空糸膜から無作為に25本を抜き出し、その平均値を透水量として算出した。その結果、得られた中空糸膜の透水量は2.41E−10m/m・s・Paであった。
[製造例2]
中空内部にフタル酸ジブチルを12ml/分で流したこと以外は、製造例1と同様の方法で中空糸膜を製造した。その結果、得られた多孔性中空糸膜は長さ32.5cm、内径350μm、膜厚47μm、粗大構造領域の厚み8μm、最大孔径28.1nmであった。その結果、得られた中空糸膜の透水量は2.52E−10m/m・s・Paであった。
[実施例1]
製造例1で得られた多孔性中空糸膜に対し、グラフト法による親水化処理を行った。反応液は、ヒドロキシプロピルアクリレートを8.2容量%となるように、t−ブタノールの25容量%水溶液に溶解させ、45℃に保持した状態で、窒素バブリングを20分間行ったものを用いた。まず、製造例1で得られた多孔性中空糸膜1100本を、幅15cm×長さ34cmに切断した厚み12μmのアルミ箔(住軽アルミ箔(株)製)で巻き、約7cm毎に5箇所粘着テープ(住友3M(株)製)で等間隔に固定し、充填率76%の糸束とした。次に、窒素雰囲気下において、該糸束をドライアイスで−60℃に冷却しながら、Co60を線源としてγ線を、25kGy照射した。
γ線照射後の糸束96束を、容量35Lの反応容器中に充填した後、気泡管水平器を用いて該糸束が水平状態であることを確認した。反応容器内部を真空度100Pa以下で10分間静置した後、束の水平状態を崩さず、かつ、束が完全に浸漬するように、反応液30Lを貯留容器から反応容器内に導入することにより、反応液を該膜の両端から同時に中空部内に導入させた。反応液を導入する際、貯留容器側を0.1MPaに加圧した。その後中空糸膜束が反応液に完全に浸漬された状態で、45℃、60分間グラフト重合を行った。重合後の膜をイソプロピルアルコールで洗浄し、水に浸漬した状態で高圧蒸気滅菌装置を用いて125℃の熱処理を1時間施した。その後、60℃真空乾燥を8時間行い、親水性の多孔性中空糸膜を得た。
グラフト中空糸膜の透水量は次のように算出した。48束の中から6束を無作為に選び出し、選び出したそれぞれの糸束から中空糸膜を無作為に25本ずつ抜き出し、均等に3等分した。3等分にした中空糸膜でモジュールを作成した後、透水量を部位毎に測定し、6束×25本の平均値として算出した。また、その結果得られた、グラフト率および透水量を表1および表2に示す。
透水量の、最大値/最小値の値を式(3)から算出した。最大値/最小値の値は、1.24であった。表2に示すとおり、反応液導入側である左右の末端部(AおよびA´)の透水量が若干が低く、中央部が高くなっているが、その差は小さいことが判る。透水量のこのような傾向に関しては、中空糸膜全体のグラフト率が9.6%と比較的高い場合は十分に親水化されて高い透水量が得られている領域なので、反応液導入部(AおよびA´)のようにグラフト率が大きくなると、寧ろ目詰まりの方が顕著になって透水量が低目になるものと考えられる。
中空糸膜のグラフト率及びグラフト量を測定した結果を表1にまとめた。グラフト率は、9.6%であった。顕微ATRを測定した結果、1731cm−1付近にカルボニル由来のピークを検出したため、そのピークの面積を用いてグラフト量の計算を行った。その結果、濾過第一表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量の1.42倍であり、かつ、濾過第二表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量に対して1.04倍であった。
グラフト中空糸膜の3%IgG透過量は5.3L/mであり、十分な透過性を有していた。
[比較例1]
製造例1で得られた多孔性中空糸膜に対し、糸束を垂直にした状態でモノマー反応液を中空糸膜下部から導入した以外、実施例1と同様のグラフト処理を行った。即ち、モノマー反応液を図1の多孔性中空糸膜の右端側(A´側)より導入した。グラフト率および各部位の透水量を表1および表2に示す。
透水量の、最大値/最小値の値を式(3)から算出した。最大値/最小値の値は2.83であり、実施例1に比較して2倍以上もバラついていることになる。つまり、中空糸膜全体のグラフト率は9.4%と、実施例1の9.6%と同程度に高いので、反応液導入側(A´)がもはやグラフト過剰となって目詰まりを起こしていると考えられる。従って、表2に示すとおり反応液導入側(A´)が透水量が低く、導入部位から反対側(A)の透水量が最も高くなっており、糸長方向に対してグラフト反応が不均一に進行していることが判る。
[比較例2]
製造例1で得られた多孔性中空糸膜に対し、反応容器内部を真空度100Pa以下で10分間静置するかわりに、反応容器内部に窒素を大気圧化で10分間ブローした後、束が完全に浸漬するように、反応液30Lを貯留容器から反応容器内に導入する以外、実施例1と同様のグラフト処理を行った。グラフト率および各部位の透水量を表1および表2に示す。
透水量の、最大値/最小値の値を式(3)から算出した最大値/最小値の値は4.00であり、実施例1に比較して3倍以上もバラついていることになる。実施例1では反応液を吸引導入しているのに対し、比較例2では吸引導入を行っていないため、中空糸の長さ方向の中央部(B)に、反応液が十分に到達しなかった。よって、糸長方向に対してグラフト反応が不均一に進行してしまった。
この例では、中空糸膜全体のグラフト率が8.1%と比較的低めなので、グラフト率が大きくなると透水量も増える領域にあると思われる。従って、反応液が十分に到達した反応液導入部(AおよびA´)では親水性が付与されて透水量が高まり、中央部(B)では親水化不足により透水量が低くなっていると考えられる。
[実施例2]
製造例1で得られた多孔性中空糸膜に対し、束の太さを調整することで充填率を81%に調整した以外は、実施例1と同様のグラフト処理を行った。その結果を、表1、および表2にまとめた。グラフト中空糸膜の3%IgG透過量は4.8L/mであり、十分な透過性を有していた。
[実施例3]
製造例2で得られた多孔性中空糸膜に対し、束の太さを調整することで充填率を59%に調整した以外は、実施例1と同様のグラフト処理を行った。その結果を、表1、および表2にまとめた。グラフト中空糸膜の3%IgG透過量は3.6L/mであり、十分な透過性を有していた。
[実施例4]
製造例1で得られた多孔性中空糸膜に対し、充填率を85%にした以外、実施例1と同様のグラフト処理を行った。その結果を、表1、および表2にまとめた。中空糸の充填率が高かったため、濾過第二表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量に対して0.79倍であった。グラフト中空糸膜の3%IgG透過量は3.2L/mであり、十分な透過性を有していた。
[実施例5]
製造例1で得られた多孔性中空糸膜に対し、充填率を33%にした以外、実施例1と同様のグラフト処理を行った。その結果を、表1、および表2にまとめた。中空糸の充填率が低かったため、濾過第二表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量に対して1.38倍であった。グラフト中空糸膜の3%IgG透過量は3.0L/mであり、十分な透過性を有していた。
[実施例6]
製造例2で得られた多孔性中空糸膜に対し、充填率を85%にし、且つ、ヒドロキシプロピルアクリレートを9.6容量%となるように、t−ブタノールの25容量%水溶液に溶解させた以外、実施例1と同様のグラフト処理を行った。その結果を、表1、および表2にまとめた。濾過第一表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量に対して1.81倍であった。グラフト中空糸膜の3%IgG透過量は1.8L/mであり、十分な透過性を有していた。
[実施例7]
製造例1で得られた多孔性中空糸膜に対し、充填率を48%にし、且つ、ヒドロキシプロピルアクリレートを7.5容量%となるように、t−ブタノールの25容量%水溶液に溶解させた以外、実施例1と同様のグラフト処理を行った。その結果を、表1、および表2にまとめた。濾過第一表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量に対して1.14倍であった。グラフト中空糸膜の3%IgG透過量は2.6L/mであり、十分な透過性を有していた。
本発明は、医療用分離膜、産業プロセス用フィルター、油水分離や液ガス分離用の分離膜、上下水の浄化を目的とする分離膜、リチウムイオン電池等のセパレーター、及びポリマー電池用の固体電解質支持体等の広範囲な用途に利用できる。

Claims (9)

  1. 反応開始点を有する多孔性中空糸膜を反応性モノマーを含有する反応液に浸漬し、反応性モノマーをグラフト反応させるグラフト中空糸膜の製造方法において、
    反応容器内に多孔性中空糸膜を水平に置き、且つ反応容器内を減圧した状態で、該中空糸膜の両端部から同時に反応液を中空部に導入することを特徴とするグラフト中空糸膜の製造方法。
  2. 多孔性中空糸膜を複数本束ねた中空糸膜束の側面にフィルムを巻きつけ、束の両端面を開放した状態で反応液を導入することを特徴とする請求項1に記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
  3. さらに、反応液を加圧した状態で導入させることを特徴とする請求項1または2に記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
  4. 多孔性中空糸膜の最大孔径が10〜100nm、長さが0.1〜0.7m、内径が100〜2000μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
  5. 反応性モノマーをラジカル重合によってグラフト反応させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
  6. 多孔性中空糸膜を親水性モノマーで親水化することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のグラフト中空糸膜の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造されたグラフト中空糸膜であって、長さ方向に3等分した各中空糸膜の純水透水量の、最大値/最小値の値が1.50以下であることを特徴とするグラフト中空糸膜。
  8. 多孔性中空糸膜の最大孔径が10〜100nm、長さが0.1〜0.7m、内径が100〜2000μmである多孔性中空糸膜に、反応開始点であるラジカルを発生させ、反応性モノマーをグラフト反応させたグラフト中空糸膜において、該中空糸膜を長さ方向に3等分し、測定した各中空糸膜の純水透水量の、最大値/最小値の値が1.50以下であることを特徴とするグラフト中空糸膜。
  9. 少なくとも開孔率が大きい粗大構造領域と、開孔率が小さい緻密構造領域を有し、該粗大構造領域が少なくとも濾過第一表面に存在し、濾過第一表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量の1.20〜1.70倍であり、かつ、濾過第二表面における反応性モノマーのグラフト量が、膜断面中央部におけるグラフト量に対して0.80〜1.25倍であることを特徴とする請求項7または8に記載のグラフト中空糸膜。
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