(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るMQWを備えた窒化物半導体装置を示す断面図である。同図では、特にMQWの部分を示している。
図1に示すように、本実施形態の窒化物半導体装置は、サファイアからなる基板1と、基板1の上に設けられたGaNからなるバッファ層2と、バッファ層2の上に設けられたGaNからなる下地層3と、下地層3の上に設けられた窒化物半導体からなるMQW80とを備えている。MQW80は、Al0.15Ga0.85Nからなる障壁層、障壁層の上に設けられたAl0.02In0.02Ga0.96Nからなる井戸層、井戸層の上に設けられたGaNからなる薄膜層がこの順に複数回繰り返された構造を有している。図1の例では、下地層3の上に、障壁層4、井戸層5、薄膜層6、障壁層7、井戸層8、薄膜層9、障壁層10、井戸層11、薄膜層12、障壁層13が順に設けられている。MQW80のうち最下層および最上層はキャリアを井戸層に閉じこめるための障壁層となっている。薄膜層6、9、12の各々の厚みは例えば4nm以下、より好ましくは2nm以下である。バッファ層2および下地層3の膜厚は、例えば0.02μmおよび1μmであり、井戸層5、8、11の膜厚は例えば2nmであり、障壁層4、7、10、13の膜厚は例えば10nmである。
本実施形態の窒化物半導体装置において、障壁層、薄膜層および井戸層のバンドギャップエネルギーの大きさは、障壁層>薄膜層>井戸層となっている。特に、薄膜層6、9、12のバンドギャップは井戸層5、8、11よりも大きく、且つ2nm以下の厚みとなっているので、MQW80をLED(Light Emitting Diode)やレーザなどの発光素子に利用する際に、キャリアを井戸層5、8、11内に良好に閉じこめておくことができる。
本実施形態のMQWの特徴は、InとGaとを含む窒化物半導体からなる井戸層の上でかつ障壁層の下に窒化物半導体からなる薄膜層が設けられていることにある。
本実施形態のMQWを備えた窒化物半導体装置は、MOCVD法を用いて以下の方法により作製される。
図2は、第1の実施形態に係るMQWを構成する窒化物半導体層の成長温度のプロファイルを示す図であり、図3は、本実施形態のMQWの製造工程を示すフローチャートである。なお、以下に示す本実施形態のMQWの製造条件は1つの実施例であり、温度、圧力その他の条件は本実施例に限定されない。
まず、図3に示す工程1では、MOCVD装置の反応管内に十分洗浄したサファイアからなる基板1を装入した後、反応管内に窒素と水素を流しながら基板1を約1100℃で10分間加熱し、基板1の表面クリーニングを行なう。この際の反応管内圧力は1013hPaとし、窒素流量は7010mL/min(=7010sccm)、水素ガス流量は3000mL/minとする。
次に、工程2では、基板1の温度を約570℃まで降下させ、反応管内に窒素、TMG、アンモニアをそれぞれ流してGaNからなるバッファ層2を基板1の上に形成する。この際の反応管内圧力は1013hPaとする。窒素流量は15500mL/minとし、TMG流量は8mL/min(=35.1μmol/min)とし、アンモニア流量は5000mL/minとする。
続いて、工程3では、TMGの供給を止めて窒素とアンモニアを流しながら基板1の温度を約1150℃まで昇温し、この温度下において、窒素、水素、TMG、アンモニアを反応管内に流してGaNからなる下地層3をバッファ層2の上に成長させる。この際の反応管内圧力は1013hPaとする。窒素流量は6680mL/minとし、水素流量は2080mL/minとし、TMG流量は19.8mL/min(=86.8μmol/min)とし、アンモニア流量は1250mL/minとする。
次に、工程4では、TMGの供給を止めてから基板1の温度を約1100℃まで降温し、この温度下で窒素、水素、TMG、TMA、アンモニアを反応管内に流してAl0.15Ga0.85Nからなる障壁層4を10nm成長させる。この際の反応管内圧力は1013hPaとする。窒素流量は22900mL/minとし、水素流量は2708mL/minとし、TMG流量は3.97mL/min(=17.4μmol/min)とし、TMA流量は3.56mL/min(=3.30μmol/min)とし、アンモニア流量は2500mL/minとする。
次いで、工程5では、TMG、TMA、および水素の供給を止めてから基板1の温度を約900℃まで降温する。そして、基板1の温度が900℃の状態で窒素、TMG、TMA、TMI、アンモニアをそれぞれ反応管内に流してAl0.02In0.02Ga0.96Nからなる井戸層5を2nm成長させる。この際の反応管内圧力は1013hPaとする。窒素流量は2494mL/minとし、水素流量は6mL/minとし、TMG流量は1.78mL/min(=7.80μmol/min)とし、TMA流量は0.38mL/min(=0.353μmol/min)とし、TMI流量は97.4mL/min(=8.88μmol/min)とし、アンモニア流量は5000mL/minとする。
続いて、TMAおよびTMIの供給を止め、窒素、TMG、およびアンモニアを流した状態で基板1の温度を900℃から1100℃まで昇温する。このようにして、基板1の昇温中にGaNからなる薄膜層6を成長させる(図3に示す工程5の後半)。なお、基板1の昇温に要する時間は約2.5分とする。
次に、工程6では、基板1の温度を1100℃に維持しながら反応管内に窒素、水素、TMG、TMA、およびアンモニアをそれぞれ流してAl0.15Ga0.85Nからなる障壁層7を成長させる。この際の反応管内圧力は1013hPaとする。窒素流量は22900mL/minとし、水素流量は2708mL/minとし、TMG流量は3.97mL/min(=17.4μmol/min)とし、TMA流量は3.56mL/min(=3.30μmol/min)とし、アンモニア流量は2500mL/minとする。その後、TMG、TMA、および水素の供給を止め、基板1の温度を900℃まで降温する。この際には、約7分かけて基板1の降温を行う。
その後、工程7では、井戸層5、薄膜層6、および障壁層7を形成するのと同様の手順で井戸層8、薄膜層9、および障壁層10等を順次積層してMQWを形成する。なお、GaNからなる薄膜層6、9、12の膜厚を、基板1の昇温中に供給するTMGの量を調節することによって0nmを超え4nm以下の範囲に調節する。
以上のようにして作製したMQWにおいて、薄膜層の厚みとMQWの性能との関係を、試験結果を交えて説明する。
図12は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の厚さと発光強度(PL強度)との関係を示す図である。ここで、MQWは量子井戸を3回積層した構造とする。図12に示すPL強度は、波長が325nmのHeCd(ヘリウム・カドミウム)レーザでMQWを励起した際に観測されたものである。なお、薄膜層の厚みが0nmの場合とは、従来のMQWを用いた場合のことを意味する。
図12から判るように、MQWのPL強度は薄膜層の膜厚によって大きく変化し、特に薄膜層の厚みが2nm(20オングストローム)以下のときにPL強度が最大になった。この結果から、本実施形態のMQWでは、薄膜層の厚みを0nmより大きく且つ2nm以下とすることが特に好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWのPL強度は従来のMQWのPL強度を大きく上回っていた。
一方、図13は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の膜厚と表面平坦性との関係を示す図である。ここでは、図12の実験と同じく量子井戸が3回積層されたMQWを用いた。また、図13の縦軸は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定されたMQW上面の平坦性のRMS(Root Mean square)を示す。
図13から判るように、MQWの表面平坦性は薄膜層の膜厚に依存して大きく変化していた。特に、薄膜層の厚みが2nm以下の場合には、MQWの表面平坦性のRMS値が小さくなっている。従って、表面平坦性の点からも、薄膜層の厚みは2nm以下であることが好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWの上面は、従来のMQWの上面より平坦になっていた。
以上のような結果が出た理由としては、次のようなことが考えられる。
井戸層にInが含まれる場合、井戸層の最適な結晶成長温度はAlGaNなどからなる障壁層の最適な結晶成長温度に比べて低くなっている。そのため、井戸層を形成した後に障壁層を形成する際には基板温度を上げる必要がある。ところが、基板の昇温時には原料ガスの供給を停止するために、従来のMQWでは窒素やInが井戸層から蒸発してしまい、井戸層の表面が荒れると共に発光効率も低下する。これに対し、本実施形態のMQWでは、井戸層を形成した後の基板の昇温時に薄膜層を形成させるので、窒素等が井戸層から脱離するのを防ぐことができる。そのため、本実施形態のMQWでは上面が従来のMQWよりも平坦化され、且つ高いPL強度が得られると考えられる。さらに、井戸層の組成変化も防がれる。また、薄膜層を設けることによって井戸層と障壁層を同じ温度で形成しなくても井戸層からの窒素等の脱離を防げるので、井戸層と障壁層とをそれぞれの最適な成長温度で形成することができる。その結果、井戸層および障壁層の膜質を向上させることができる。
また、薄膜層のバンドギャップエネルギーは、井戸層のバンドギャップエネルギーより大きく、且つ障壁層のバンドギャップエネルギーよりも小さいので、薄膜層を設けない場合と同程度にキャリアを井戸層に閉じこめることが可能となっている。
さらに、本実施形態のMQWでは、薄膜層が設けられることにより、井戸層と障壁層との間の歪みを従来のMQWに比べて緩和することもできる。そのため、井戸層、障壁層、および薄膜層で構成される量子井戸内で生じる内部電界が小さくなり、井戸層内に閉じこめられた伝導帯と価電子帯にある電子と正孔との空間的な重なりが増加し、発光効率が増大する。また、MQW内で歪みが緩和されることで、MQWを発光させた場合にピーク波長の制御性が向上している。
また、本実施形態のMQWは、薄膜層が基板の昇温中に形成されるので、特別な装置も必要ない上、薄膜層を設けない場合と同じ時間およびコストで製造される。
なお、図12に示す結果において、薄膜層が2nmを超えた場合にPL強度が低下する理由としては、薄膜層の膜厚が厚くなりすぎると薄膜層自体がキャリアを井戸層に閉じこめる障壁となってしまい、井戸層内でのキャリアの存在確率が低下してしまうことが考えられる。また、本実施形態のMQWでは薄膜層を900℃から1100℃までの間で形成しているが、これは薄膜層を形成するための最適条件よりも低い温度であるので、この点からも薄膜層は厚くなりすぎないことが好ましいと考えられる。
本実施形態MQWは、LEDや半導体レーザ、あるいはHEMT(High Electron mobility transistor)などの半導体装置に応用することができる。LEDの場合、例えばMQWの下にn電極に接続されたn型化合物半導体層を設け、MQWの上にp電極に接続されたp型化合物半導体層を設ければ、p電極から注入されたホールとn電極から注入された電子を井戸層で再結合させることができるので、高い発光効率を実現することができる。この効果は、これ以後の実施形態についても同様である。また、MQWのうち最下層に設けられた障壁層にn型不純物を導入し、最上層に設けられた障壁層にp型不純物を導入してもLEDとして機能させることができる。
HEMTの場合、MQWの最上層となる障壁層の上に障壁層とオーミック接触するソース電極およびドレイン電極と、障壁層とショットキー接触するゲート電極とを設ける。チャネルとして機能する井戸層の上面および下面が平坦になっているので従来よりもキャリアの移動度を向上させたHEMTを実現することができる。
なお、本実施形態のMQWでは、井戸層の材料として4元結晶であるAl0.02In0.02Ga0.96Nを用いているが、井戸層の材料はこれに限られない。井戸層の材料がInとGaを含む混晶であれば最適な成長温度が、AlとGaを含む混晶の最適な成長温度よりも低いので本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。障壁層もAlGaN以外の材料で構成してよい。例えば、薄膜層がGaNであれば井戸層がInGaN(3元結晶)で構成されかつ障壁層がAlInGaN(4元結晶)であっても本実施形態のMQWと同様の効果が得られる。すなわち、井戸層がInxAlyGa1−x−yN(0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)であり、障壁層がInwAlzGa1−z−wN(0≦w<1、0<z<1、0<z+w<1)であればよい。また、本実施形態のMQWでは、薄膜層の材料としてGaNを用いたが、それ以外に、井戸層のエネルギーバンドギャップよりも大きく障壁層のエネルギーバンドギャップよりも小さいエネルギーバンドギャップをもつ材料を用いてもよい。
なお、障壁層がアンドープであってもn型にドープされていてもMQWは同様な効果を発揮する。図1に示す例では基板1としてサファイア基板を使用したが、SiC基板 、ZnO基板、GaN基板、Si基板等、他の基板を用いても本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係るMQWを備えた窒化物半導体装置を示す断面図である。図5は、第2の実施形態に係るMQWを構成する窒化物半導体層の成長温度のプロファイルを示す図である。
本実施形態の窒化物半導体装置は第1の窒化物半導体装置と同じ構成を有しているが、図4では、第1の実施形態の窒化物半導体装置と区別するために窒化物半導体層の各々に図1と異なる符号を付している。すなわち、本実施形態の窒化物半導体装置は、下から順に、基板14と、バッファ層15と、下地層16と、障壁層17と、井戸層18と、薄膜層19と、障壁層20と、井戸層21と、薄膜層22と、障壁層23と、井戸層24と、薄膜層25と、障壁層26とを備えている。障壁層17から障壁層26までの層は、MQW82を形成している。本実施形態の窒化物半導体装置では、薄膜層が形成される温度が第1の実施形態と異なっている。
すなわち、本実施形態のMQW構造を備えた窒化物半導体装置は、MOCVD法を用いて以下の方法により作製される。なお、各工程で供給するガスの流量および反応管内の圧力は第1の実施形態と同じとする。
まず、MOCVD装置の反応管内に、十分洗浄したサファイアからなる基板14を装入し、反応管内に窒素と水素を流しながら基板14を約1100℃で10分間加熱し基板14の表面クリーニングを行う。
次に、基板14の温度を約570℃まで降下させ、反応管内に窒素、TMG、アンモニアをそれぞれ流してGaNからなるバッファ層15を基板14の上に形成する。
続いて、TMGの供給を止めて窒素とアンモニアを流しながら基板14の温度を約1150℃まで昇温し、この温度下において、窒素、水素、TMG、アンモニアを反応管内に流してGaNからなる下地層16をバッファ層15の上に成長させる。
次に、TMGの供給を止めてから基板14の温度を約1100℃まで降温し、この温度下で窒素、水素、TMG、TMA、アンモニアを反応管内に流してAl0.15Ga0.85Nからなる障壁層17を10nm成長させる。
次いで、TMG、TMA、および水素の供給を止めてから基板14の温度を約900℃まで降温する。そして、基板14の温度が900℃の状態で窒素、TMG、TMA、TMI、アンモニアをそれぞれ反応管内に流してAl0.02In0.02Ga0.96Nからなる井戸層18を2nm成長させる。
続いて、基板14の温度を900℃に保持したまま、TMAおよびTMIの供給を止め、窒素、TMG、およびアンモニアを流すことにより、井戸層18の上にGaNからなる薄膜層19を成長させる。その後、TMGの供給を止め、基板14の温度を1100℃まで昇温する。
次に、基板14の温度を1100℃に維持しながら反応管内に窒素、水素、TMG、TMA、およびアンモニアをそれぞれ流してAl0.15Ga0.85Nからなる障壁層20を10nm成長させる。その後、TMG、TMA、および水素の供給を止め、基板14の温度を900℃まで降温する。
その後、井戸層18、薄膜層19、および障壁層20と同様の手順で井戸層21、薄膜層22、および障壁層23等を順次積層してMQW82を形成する。なお、GaNからなる薄膜層19、22、25の膜厚を、基板14の昇温中に供給するTMGの量を調節することによって0nmを超え4nm以下の範囲に調節する。
図14は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の厚さと発光強度(PL強度)との関係を示す図である。窒化物半導体層の積層数や測定条件は図12と同じである。
図14から判るように、本実施形態のMQWのPL強度は薄膜層の膜厚によって大きく変化し、特に薄膜層の厚みが2nm以下のときにPL強度が最大になった。この結果から、本実施形態のMQWでは、薄膜層の厚みを0nmより大きく且つ2nm以下とすることが特に好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWのPL強度は従来のMQWのPL強度を大きく上回っていた。
一方、図15は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の膜厚と表面平坦性との関係を示す図である。ここでは、図14の実験と同じく量子井戸が3回積層されたMQWを用いた。
図15からは、MQWの表面平坦性が薄膜層の膜厚に依存して大きく変化し、特に、薄膜層の厚みが2nm以下の場合には、MQWの表面平坦性(表面粗さ)のRMS値が小さくなっていることが判った。従って、表面平坦性の点からも、薄膜層の厚みは2nm以下であることが好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWの上面は、従来のMQWの上面より平坦になっていた。
以上の結果から、本実施形態のように、薄膜層19、22、25を井戸層18、21、24と同じ温度で成長させた場合でも、井戸層の上面を平坦化することができ、従来のMQWよりも発光効率を向上させられることが判る。これは、本実施形態のMQWの作製方法においても井戸層からの窒素等の脱離が防がれていることと、井戸層および障壁層を、それぞれ最適な成長温度で成長させることができることとによると考えられる。
また、薄膜層のバンドギャップエネルギーは、井戸層のバンドギャップエネルギーより大きく、且つ障壁層のバンドギャップエネルギーよりも小さいので、薄膜層を設けない場合と同程度にキャリアを井戸層に閉じこめることが可能となっている。
また、第1の実施形態のMQWと同様に、本実施形態のMQWでは、薄膜層が設けられることにより、井戸層と障壁層との間に生じる歪みを従来のMQWに比べて緩和することもできる。
なお、図13と図15とを比べた場合、第1の実施形態のMQWの方がより平坦な上面を有している。これは、第1の実施形態での薄膜層の方が、より最適な成長温度に近い温度で形成できるからであると考えられる。
なお、本実施形態のMQWでは、井戸層の材料として4元結晶であるAl0.02In0.02Ga0.96Nを用いているが、井戸層の材料はこれに限られない。井戸層の材料がInとGaを含む混晶であれば最適な成長温度が、AlとGaを含む混晶の最適な成長温度よりも低いので本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。障壁層もAlGaN以外の材料で構成してよい。例えば、薄膜層がGaNであれば井戸層がInGaN(3元結晶)で構成されかつ障壁層がAlInGaN(4元結晶)であっても本実施形態のMQWと同様の効果が得られる。すなわち、井戸層がInxAlyGa1−x−yN(0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)であり、障壁層がInwAlzGa1−z−wN(0≦w<1、0<z<1、0<z+w<1)であればよい。また、本実施形態のMQWでは、薄膜層の材料としてGaNを用いたが、井戸層のエネルギーバンドギャップよりも大きく障壁層のエネルギーバンドギャップよりも小さいエネルギーバンドギャップをもつ材料であればよい。
なお、障壁層がアンドープであってもn型にドープされていてもMQWは同様な効果を発揮する。図4に示す例では基板14としてサファイア基板を使用したが、SiC基板 、ZnO基板、GaN基板、Si基板等、他の基板を用いても本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。
(第3の実施形態)
図6は、本発明の第3の実施形態に係るMQWを備えた窒化物半導体装置を示す断面図であり、図7は、第3の実施形態に係るMQWを構成する窒化物半導体層の成長温度のプロファイルを示す図である。
図6に示すように、本実施形態の窒化物半導体装置は、サファイアからなる基板27と、基板27の上に設けられたGaNからなるバッファ層28と、バッファ層28の上に設けられたGaNからなる下地層29と、下地層29の上に設けられた窒化物半導体からなるMQW84とを備えている。MQW84は、Al0.15Ga0.85Nからなる障壁層、障壁層の上に設けられたAl0.02In0.02Ga0.96Nからなる井戸層、井戸層の上に設けられたGaNからなる薄膜層がこの順に複数回繰り返された構造を有している。図6の例では、下地層29の上に、障壁層30、薄膜層31、井戸層32、障壁層33、薄膜層34、井戸層35、障壁層36、薄膜層37、井戸層38、障壁層39が順に設けられている。薄膜層31、34、37の各々の厚みは例えば4nm以下、より好ましくは2nm以下である。井戸層32、35、38の膜厚は例えば2nmであり、障壁層30、33、36、39の膜厚は例えば10nmである。
本実施形態の窒化物半導体装置において、障壁層、薄膜層および井戸層のバンドギャップエネルギーの大きさは、障壁層>薄膜層>井戸層となっている。
本実施形態のMQWの特徴は、AlとGaを含む障壁層の上で且つInとGaを含む井戸層の下に、窒化物半導体からなる薄膜層が設けられていることにある。
本実施形態のMQWを備えた窒化物半導体装置は、MOCVD法を用いて以下の方法により作製される。なお、各工程で供給するガスの流量および反応管内の圧力は第1の実施形態と同じとする。
まず、MOCVD装置の反応管内に、十分洗浄したサファイアからなる基板27を装入し、反応管内に窒素と水素を流しながら基板27を約1100℃で10分間加熱し基板27の表面クリーニングを行う。
次に、基板27の温度を約570℃まで降下させ、反応管内に窒素、TMG、アンモニアをそれぞれ流してGaNからなるバッファ層28を基板27の上に形成する。
続いて、TMGの供給を止めて窒素とアンモニアを流しながら基板27の温度を約1150℃まで昇温し、この温度下において、窒素、水素、TMG、アンモニアを反応管内に流してGaNからなる下地層29をバッファ層28の上に成長させる。
次に、TMGの供給を止めてから基板27の温度を約1100℃まで降温し、この温度下で窒素、水素、TMG、TMA、アンモニアを反応管内に流してAl0.15Ga0.85Nからなる障壁層30を10nm成長する。
次いで、TMAおよび水素の供給を止め、基板27の温度を約900℃まで降温しながら窒素、TMG、アンモニアを流しGaNからなる薄膜層31を障壁層30の上に成長させる。
続いて、基板27の温度が900℃に達したらTMGの供給を止める。そして、基板温度を900℃に維持した状態で窒素、TMG、TMA、TMI、およびアンモニアを流してAl0.02In0.02Ga0.96Nからなる井戸層32を2nm成長させる。
その後、TMG、TMA、およびTMIの供給を止めて基板27の温度を900℃から1100℃まで昇温する。
次に、基板27の温度を1100℃に維持しながら窒素、水素、TMG、TMA、およびアンモニアをそれぞれ流してAl0.15Ga0.85Nからなる障壁層33を10nm成長させる。
次に、TMAおよび水素の供給を止め、基板27の温度を約900℃まで降温しながら窒素、TMG、アンモニアを流してGaNからなる薄膜層34を成長させる。その後、同様な手順を繰り返して井戸層、障壁層、薄膜層を順次成長させてMQWを形成する。なお、GaNからなる薄膜層31、34、37の膜厚を、基板27の昇温中に供給するTMGの量を調節することによって0nmを超え4nm以下の範囲に調節する。
図16は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の厚さと発光強度(PL強度)との関係を示す図である。窒化物半導体層の積層数や測定条件は図12と同じである。
図16から判るように、本実施形態のMQWのPL強度は薄膜層の膜厚によって大きく変化し、特に薄膜層の厚みが2nm以下のときにPL強度が最大になった。この結果から、本実施形態のMQWでは、薄膜層の厚みを0nmより大きく且つ2nm以下とすることが特に好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWのPL強度は従来のMQWのPL強度を上回っていた。
一方、図17は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の膜厚と表面平坦性との関係を示す図である。同図に示す結果から、MQW上面の平坦性は薄膜層の膜厚に依存して大きく変化し、特に、薄膜層の厚みが2nm以下の場合に表面平坦性のRMS値が小さくなっていることが判った。従って、表面平坦性の点からも、薄膜層の厚みは2nm以下であることが好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWの上面は、従来のMQWの上面よりも平坦になっていた。
以上の結果から、本実施形態のように、薄膜層31、34、37を障壁層30、33、36の上に設けた場合でも、従来のMQWよりもMQW上面を平坦にでき、発光効率を向上させられることが判る。これは、本実施形態のMQWにおいて、障壁層からの窒素の脱離が防がれていることにより、障壁層の膜質の劣化が防がれていることと、井戸層および障壁層をそれぞれ最適な成長温度で成長させることができることによると考えられる。また、本実施形態のMQWにおいては、障壁層の組成変化も防がれている。
さらに、第1および第2の実施形態のMQWと同様に、本実施形態のMQWでは、薄膜層が設けられることにより、井戸層と障壁層との間の歪みを従来のMQWに比べて緩和することができる。このことも、PL強度の向上につながっている。また、本実施形態のMQWにおいて薄膜層は基板27の降温中に形成されるため、薄膜層を形成するための時間を別途設ける必要がない。従って、本実施形態のMQWは従来のMQWと同じ時間、ほぼ同じコストで製造することができる。
なお、本実施形態のMQWでは、井戸層の材料として4元結晶であるAl0.02In0.02Ga0.96Nを用いているが、井戸層の材料はこれに限られない。井戸層の材料がInとGaを含む混晶であれば、最適な成長温度がAlとGaを含む混晶の最適な成長温度よりも低いので、本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。障壁層もAlGaN以外の材料で構成してよい。例えば、薄膜層がGaNであれば井戸層がInGaN(3元結晶)で構成されかつ障壁層がAlInGaN(4元結晶)であっても本実施形態のMQWと同様の効果が得られる。すなわち、井戸層がInxAlyGa1−x−yN(0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)であり、障壁層がInwAlzGa1−z−wN(0≦w<1、0<z<1、0<z+w<1)であればよい。また、本実施形態のMQWでは、薄膜層の材料としてGaNを用いたが、井戸層のエネルギーバンドギャップよりも大きく障壁層のエネルギーバンドギャップよりも小さいエネルギーバンドギャップをもつ材料であればよい。
なお、障壁層がアンドープであってもn型にドープされていてもMQWは同様な効果を発揮する。図6に示す例では基板27としてサファイア基板を使用したが、SiC基板 、ZnO基板、GaN基板、Si基板等、他の基板を用いても本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。
(第4の実施形態)
図8は、本発明の第4の実施形態に係るMQWを備えた窒化物半導体装置を示す断面図であり、図9は、第4の実施形態に係るMQWを構成する窒化物半導体層の成長温度のプロファイルを示す図である。本実施形態の窒化物半導体装置は、第3の実施形態に係る窒化物半導体装置と同一の構成を有しているが、薄膜層の形成温度が第3の実施形態とは異なっている。
すなわち、本実施形態の窒化物半導体装置は、下から順に、基板40と、バッファ層41と、下地層42と、障壁層43と、薄膜層44と、井戸層45と、障壁層46と、薄膜層47と、井戸層48と、障壁層49と、薄膜層50と、井戸層51と、障壁層52とを備えている。障壁層43から障壁層52までの層は、MQW86を形成している。
本実施形態のMQW構造を備えた窒化物半導体装置は、MOCVD法を用いて以下の方法により作製される。なお、各工程で供給するガスの流量および反応管内の圧力は第1の実施形態と同じとする。
まず、第1〜第3の実施形態と同様の方法でサファイアからなる基板40の上にバッファ層41、下地層42および障壁層43を順次形成する。
次いで、図9に示すように、TMAおよび水素の反応管内への供給を止め、基板40の温度を1100℃に維持したまま窒素、TMG、アンモニアを流し、GaNからなる薄膜層44を障壁層43の上に成長させる。このように、薄膜層44を障壁層の成長温度で成長させるのが本実施形態の製造方法の特徴である。
続いて、TMGの供給を止めて基板40の温度を900℃まで降温する。基板40の温度が900℃に達したらそのまま基板温度を900℃に維持し、窒素、TMG、TMA、TMI、アンモニアをそれぞれ反応管内に流してAl0.02In0.02Ga0.96Nからなる井戸層45を2nm成長させる。
次に、TMG、TMAおよびTMIの供給を止めて基板40の温度を900℃から1100℃まで昇温する。そして、基板40の温度を1100℃で維持しながら窒素、水素、TMG、TMA、およびアンモニアを反応管内に流してAl0.15Ga0.85Nからなる障壁層46を10nm成長させる。
次いで、TMAの供給を止め、基板40の温度を1100℃に維持させたまま窒素、TMG、およびアンモニアを反応管内にそれぞれ流してGaNからなる薄膜層47を成長させる。
続いて、基板40の温度を900℃まで降温する。基板40の温度が900℃に達したらそのまま基板温度を維持して井戸層48を形成する。その後、同様の手順を繰り返してMQWを形成する。なお、GaNからなる薄膜層44、47、50の膜厚を、基板40の昇温中に供給するTMGの量を調節することによって0nmを超え4nm以下の範囲に調節する。
図18は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の厚さと発光強度(PL強度)との関係を示す図である。窒化物半導体層の積層数や測定条件は図12と同じである。
図18から判るように、本実施形態のMQWのPL強度は薄膜層の膜厚によって大きく変化し、特に薄膜層の厚みが2nm以下のときにPL強度が最大になっていた。この結果から、本実施形態のMQWでは、薄膜層の厚みを0nmより大きく且つ2nm以下とすることが特に好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWのPL強度は従来のMQWのPL強度を大きく上回っていた。
一方、図19は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の膜厚と表面平坦性との関係を示す図である。
図19からは、MQWの表面平坦性が薄膜層の膜厚に依存して大きく変化し、特に、薄膜層の厚みが2nm以下の場合には、MQWの表面平坦性(表面粗さ)のRMS値が小さくなっていることが判った。従って、表面平坦性の点からも、薄膜層の厚みは2nm以下であることが好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWの上面は、従来のMQWの上面より平坦になっていた。これは、本実施形態のMQWにおいて、障壁層からの窒素の脱離が防がれていることにより、障壁層の膜質の劣化が防がれていることと、井戸層および障壁層をそれぞれ最適な成長温度で成長させることができることによると考えられる。また、本実施形態のMQWにおいては、障壁層の組成変化も防がれている。
さらに、本実施形態のMQWでは、井戸層と障壁層との間に薄膜層が設けられているので、層間の歪みを従来のMQWに比べて緩和することができる。このことも、PL強度の向上につながっている。
なお、本実施形態のMQWでは、井戸層の材料として4元結晶であるAl0.02In0.02Ga0.96Nを用いているが、井戸層の材料はこれに限られない。井戸層の材料がInとGaを含む混晶であれば、最適な成長温度がAlとGaを含む混晶の最適な成長温度よりも低いので、本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。障壁層もAlGaN以外の材料で構成してよい。例えば、薄膜層がGaNであれば井戸層がInGaN(3元結晶)で構成されかつ障壁層がAlInGaN(4元結晶)であっても本実施形態のMQWと同様の効果が得られる。すなわち、井戸層がInxAlyGa1−x−yN(0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)であり、障壁層がInwAlzGa1−z−wN(0≦w<1、0<z<1、0<z+w<1)であればよい。また、本実施形態のMQWでは、薄膜層の材料としてGaNを用いたが、井戸層のエネルギーバンドギャップよりも大きく障壁層のエネルギーバンドギャップよりも小さいエネルギーバンドギャップをもつ材料であればよい。
なお、障壁層がアンドープであってもn型にドープされていてもMQWは同様な効果を発揮する。図8に示す例では基板40としてサファイア基板を使用したが、SiC基板 、ZnO基板、GaN基板、Si基板等、他の基板を用いても本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。
(第5の実施形態)
図10は、本発明の第5の実施形態に係るMQWを備えた窒化物半導体装置を示す断面図であり、図11は、第5の実施形態に係るMQWを構成する窒化物半導体層の成長温度のプロファイルを示す図である。
図10に示すように、本実施形態の窒化物半導体装置は、サファイアからなる基板53と、基板53の上に設けられたGaNからなるバッファ層54と、バッファ層54の上に設けられたGaNからなる下地層55と、下地層55の上に設けられた窒化物半導体からなるMQW88とを備えている。MQW88は、Al0.15Ga0.85Nからなる障壁層、障壁層の上に設けられたGaNからなる第1の薄膜層、第1の薄膜層の上に設けられたAl0.02In0.02Ga0.96Nからなる井戸層、井戸層の上に設けられたGaNからなる第2の薄膜層がこの順に複数回繰り返され、且つ最上層が障壁層となっている構造を有している。
図10の例では、下地層55の上に、障壁層56、第1の薄膜層57、井戸層58、第2の薄膜層59、障壁層60、第1の薄膜層61、井戸層62、第2の薄膜層63、障壁層64、第1の薄膜層65、井戸層66、第2の薄膜層67、障壁層68が順に設けられている。第1の薄膜層57、61、65および第2の薄膜層59、63、67の各々の厚みは例えば4nm以下、より好ましくは2nm以下である。井戸層58、62、66の膜厚は例えば2nmであり、障壁層56、60、64、68の膜厚は例えば10nmである。
本実施形態の窒化物半導体装置において、障壁層、薄膜層および井戸層のバンドギャップエネルギーの大きさは、障壁層>第1薄膜層=第2の薄膜層>井戸層となっている。
本実施形態のMQWの特徴は、InとGaを含む井戸層の下に窒化物半導体からなる第1の薄膜層が設けられ、井戸層の上に窒化物半導体からなる第2の薄膜層が設けられていることにある。
本実施形態のMQWを備えた窒化物半導体装置は、MOCVD法を用いて以下の方法により作製される。なお、各工程で供給するガスの流量および反応管内の圧力は第1の実施形態と同じとする。
まず、第1〜第4の実施形態と同様の方法でサファイアからなる基板53の上にバッファ層54、下地層55および障壁層56を順次形成する。
次に、TMAおよび水素の供給を止め、基板53の温度を約1100℃から約900℃まで降温しながら窒素、TMG、アンモニアを流し、GaNからなる第1の薄膜層57を成長させる。
続いて、基板53の温度が900℃に達したらTMGの供給を止め、基板温度を900℃に維持したまま窒素、TMG、TMA、TMI、およびアンモニアを流し、Al0.02In0.02Ga0.96Nからなる井戸層58を2nm成長させる。
次に、TMAおよびTMIの供給を止め、基板53の温度を900℃から1100℃まで昇温しながら窒素、TMG、およびアンモニアを流してGaNからなる第2の薄膜層59を成長させる。
基板53の温度が1100℃に到達した後、TMGの供給を止め、基板53の温度を1100℃に維持したまま窒素、水素、TMG、TMA、アンモニアを反応管内に流してAl0.15Ga0.85Nからなる障壁層60を10nm成長させる。
次に、TMG、TMA、および水素の供給を止め、基板53の温度を約900℃まで降温しながら窒素、TMG、アンモニアを流してGaNからなる第1の薄膜層61を成長させる。以後、同様の手順を繰り返してMQWを形成する。
なお、GaNからなる第1の薄膜層57、61、65および第2の薄膜層59、63、67の膜厚を、基板53の昇温中に供給するTMGの量を調節することによって0nmを超え4nm以下の範囲に調節する。
図20は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の厚さと発光強度(PL強度)との関係を示す図である。窒化物半導体層の積層数や測定条件は図12と同じである。
図20から判るように、本実施形態のMQWのPL強度は薄膜層の膜厚によって大きく変化し、特に薄膜層の厚みが2nm以下のときにPL強度が最大になっていた。この結果から、本実施形態のMQWでは、薄膜層の厚みを0nmより大きく且つ2nm以下とすることが特に好ましく、1nm以下であるとさらに好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWのPL強度は従来のMQWのPL強度を大きく上回っていた。
一方、図21は、本実施形態のMQWにおける薄膜層の膜厚と表面平坦性との関係を示す図である。
図21からは、MQWの表面平坦性が薄膜層の膜厚に依存して大きく変化し、特に、薄膜層の厚みが2nm以下の場合には、MQWの表面平坦性(表面粗さ)のRMS値が小さくなっていることが判った。従って、表面平坦性の点からも、薄膜層の厚みは2nm以下であることが好ましいことが判った。ただし、測定した全範囲にわたって本実施形態のMQWの上面は、従来のMQWの上面より平坦になっていた。特に、本実施形態のMQWの上面の平坦性は、第1〜第4の実施形態よりもさらに平坦になっていた。これは、第1の薄膜層によって障壁層からの窒素の脱離が防がれるとともに、第2の薄膜層によって井戸層からの窒素等の脱離も防がれていることによると考えられる。そのため、本実施形態のMQWでは、障壁層および井戸層の膜質の劣化が防がれ、非常に高い発光効率が実現されている。さらに、本実施形態のMQWでは、薄膜層が設けられることにより、井戸層と障壁層との間に第1の薄膜層と第2の薄膜層が設けられているので、井戸層が上方と下方から受ける歪みが共に低減されている。このことも、PL強度の向上につながっている。
なお、本実施形態のMQWでは、井戸層の材料として4元結晶であるAl0.02In0.02Ga0.96Nを用いているが、井戸層の材料はこれに限られない。井戸層の材料がInとGaを含む混晶であれば最適な成長温度が、AlとGaを含む混晶の最適な成長温度よりも低いので本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。障壁層もAlGaN以外の材料で構成してよい。例えば、第1および第2の薄膜層がGaNであれば井戸層がInGaN(3元結晶)で構成されかつ障壁層がAlInGaN(4元結晶)であっても本実施形態のMQWと同様の効果が得られる。すなわち、井戸層がInxAlyGa1−x−yN(0<x<1、0<y<1、0<x+y<1)であり、障壁層がInwAlzGa1−z−wN(0≦w<1、0<z<1、0<z+w<1)であればよい。また、本実施形態のMQWでは、第1および第2の薄膜層の材料としてGaNを用いたが、井戸層のエネルギーバンドギャップよりも大きく障壁層のエネルギーバンドギャップよりも小さいエネルギーバンドギャップをもつ材料であればよい。
なお、障壁層がアンドープであってもn型にドープされていてもMQWは同様な効果を発揮する。図10に示す例では基板53としてサファイア基板を使用したが、SiC基板 、ZnO基板、GaN基板、Si基板等、他の基板を用いても本実施形態のMQWと同様の効果を得ることができる。