JP5340090B2 - 水性コーティング剤及びコーティング膜 - Google Patents

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Description

本発明は、亜鉛系めっき鋼等の金属表面の耐食性(防錆性)を向上させることができる水性コーティング剤及びコーティング膜に関し、特にコロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体エマルジョンとを含有する水性コーティング剤及びコーティング膜に関するものである。なお、「亜鉛系めっき鋼」とは、亜鉛めっき鋼及び亜鉛合金めっき鋼をいう。
ここで、「エマルジョン(emulsion,エマルションともいう。)」とは、乳濁液ともいい、液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として乳状をなすもの(分散系)、が本来の意味であるが(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」152頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)、本明細書及び特許請求の範囲、要約書においては、より広い意味で一般的に用いられている「液体中に固体または液体の粒子が分散しているもの」として、「エマルジョン」という用語を用いるものとする。
亜鉛の鉄に対する犠牲防食作用を利用した塗料はジンクリッチ塗料として広く利用されているが、有機溶剤を用いたものが主であり、揮発性有機化合物(VOC)として有機溶剤を含有するため環境に悪影響を与えるという問題を有している。これに対して、近年、有機溶剤を用いない水性ジンクリッチ塗料の開発が行なわれているが、亜鉛と水の混合による水素ガスの発生という問題や、防錆性能に劣るという問題がある。
そこで、特許文献1においては、水性塗料液・亜鉛末・水性アルミニウム顔料を含有する腐食防止被覆組成物の発明について開示している。これによって、特に亜鉛合金めっき鋼に対して防錆性に優れた塗膜を形成することができる腐食防止被覆組成物が得られるとしている。また、特許文献2においては、塩基性触媒を用いて形成されたコロイダルシリカゾル及び親水性ポリマーを必須成分とする帯電防止塗料の発明について開示している。これによって、長期的に帯電防止性能を示す帯電防止塗料が得られるとしている。
更に、特許文献3においては、金属製品に、水性樹脂エマルジョンと水溶性シランカップリング剤とを含む結合剤水溶液に鱗片状金属亜鉛粉末を混合した非クロム水性金属防錆塗料で塗膜を形成した上に、アルコキシシランオリゴマーを主成分とする非クロム表面処理剤を塗布してなる防錆塗装した金属製品の発明について開示している。これによって、比較的薄い防錆塗膜を施した金属製品であっても実用性のある防錆性能を確保し、赤錆・白錆・黒錆の発生を長時間防止できるとしている。
また、特許文献4においては、亜鉛粉末及びアルミニウム粉末を含有し、水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤を主成分とする水で希釈可能な水系塗料組成物であって、アミノ基含有シランカップリング剤の含有量が亜鉛に対して1重量%以上となるように配合されている水系塗料組成物の発明について開示している。これによって、亜鉛による犠牲防食効果を高めるとともに、水分等の腐食因子の侵入を防止して、防食効果を長期にわたって持続することができるとしている。
特開2002−053769号公報 特開2006−028469号公報 特開2005−238001号公報 特開2008−143946号公報
しかしながら、上記特許文献1に記載された技術においては、依然として防錆性能が不足しており、しかも亜鉛末及び水性アルミニウム顔料を大量に使用するため、製造コストが高くなってしまうという。また、上記特許文献2に記載された技術においては、得られる塗膜が全く防錆性を有しておらず、帯電防止性能についても親水性ポリマーの導電性に依拠しているため、帯電防止機能も不十分である。
更に、上記特許文献3に記載された技術においては、塗膜の構造が複雑であり、余分な工数を要するとともに、製造コストが高くなってしまう。また、上記特許文献4に記載された技術においては、防錆性能が不足しており、しかも亜鉛粉末及びアルミニウム粉末を大量に使用するため、製造コストが高くなってしまう。そして、これらの特許文献1乃至特許文献4に記載された技術においては、塗膜の導電性が不足しているため、帯電防止機能が必要とされる部分、例えば自動車の燃料系等の防請塗料としては適用することができないという問題点があった。
そこで、本発明はかかる課題を解決すべくなされたものであって、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに、導電性を有するコーティング膜を形成することができ、帯電性を有することが好ましくない金属部品等に応用することができ、環境にも優しい水性コーティング剤及びコーティング膜の提供を目的とするものである。
請求項1の発明に係る水性コーティング剤は、コロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)エマルジョンとを含有する水性コーティング剤であって、前記コロイダルシリカと前記SBRエマルジョンの固形分重量比が、10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内であり、かつ、固形分重量%で5%〜11%の範囲内の金属フィラーを含有するものである。
ここで、「コロイダルシリカ」としては、ゾル法によって合成されたシリカ粒子を分散質とするものであって、シリカ粒子の平均一次粒子径が10nm〜50nmであるものが好ましく、表面をカチオン性に改質したシリカ粒子を分散質とするカチオン性コロイダルシリカであることが、安定性の観点から好ましい。なお、平均一次粒子径とは、一次粒子が判別できる程度まで分散された粒子の電子顕微鏡観察によって、一定面積内に存在する100個の粒子各々の投影面積に等しい円の直径を粒子の一次粒子径として求めたものの平均をいう。
このようなコロイダルシリカとしては、日本化学工業(株)製のシリカドール(登録商標)、(株)ADEKA製のアデライト(登録商標)AT、触媒化成工業(株)製のカタロイド(登録商標)、日産化学工業(株)製のスノーテックス(登録商標)、等を挙げることができる。
また、前記金属フィラーは、鱗片形状であって、アスペクト比(径と厚さの比)が80〜120の範囲内であるものである。ここで、「アスペクト比(径と厚さの比)」とは、平均径と平均厚さとの比であって、平均径も平均厚さもともに、金属フィラーを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して径と厚さとを読み取り、それらの値を数十個の金属フィラーについて読み取ってそれぞれの平均値を算出したものである
請求項2の発明に係る水性コーティング剤は、請求項1の構成において、前記金属フィラーは、アルミニウム微粒子または亜鉛微粒子であるものである。
請求項3の発明に係る水性コーティング剤は、請求項1または請求項2の構成において、固形分を除く溶媒が実質的に水のみであるものである。
ここで、「溶媒が実質的に水のみである」とは、水性コーティング剤の溶媒としては水のみを用いて、水性コーティング剤の溶媒として積極的に有機溶剤を使用しないことを意味しており、必ずしも水性コーティング剤中に全く有機溶剤を含まないことを意味するものではない。例えば、添加剤に内部溶剤として有機溶剤が含まれる場合には、必然的に水性コーティング剤中にも少量の有機溶剤が含まれ、また表面張力や蒸発速度を制御するために少量の有機溶剤を添加する場合もあるが、それらの場合をも排除する意味ではない。すなわち、溶媒以外の用途で有機溶剤が含まれる場合もあるが、溶媒として積極的に使用されるのは水のみであるという意味である。
請求項4の発明に係るコーティング膜は、コロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)とを含有するコーティング膜であって、前記コロイダルシリカと前記SBRとの間に金属フィラーが分散して、該金属フィラーが前記コーティング膜に導電性を付与しているものである。なお、金属フィラーの含有量は、コーティング膜に対して5重量%〜11重量%の範囲内であることが好ましい。
また、前記金属フィラーは、鱗片形状であって、アスペクト比(径と厚さの比)が80〜120の範囲内であるものである。ここで、「アスペクト比(径と厚さの比)」とは、平均径と平均厚さとの比であって、平均径も平均厚さもともに、金属フィラーを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して径と厚さとを読み取り、それらの値を数十個の金属フィラーについて読み取ってそれぞれの平均値を算出したものである。
請求項5の発明に係るコーティング膜は、請求項4の構成において、前記金属フィラーは、アルミニウム微粒子または亜鉛微粒子であるものである。
請求項6の発明に係るコーティング膜は、請求項4または請求項5の構成において、前記コーティング膜は、亜鉛系めっき鋼の表面に形成されたものである。ここで、「亜鉛系めっき鋼」とは、上述したように、亜鉛めっき鋼及び亜鉛合金めっき鋼をいう。
請求項1に係る発明においては、水性コーティング剤がコロイダルシリカとSBRエマルジョンとを含有することから、亜鉛等の金属との密着性に優れるコロイダルシリカによって亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、コロイダルシリカとの相溶性が良く柔軟な硬化物を形成するSBRエマルジョンによって良好な成膜性を得ることができる。
ここで、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比が10/90以下であると(SBRエマルジョンの比率が高過ぎると)、形成される塗膜の防錆性が低下するとともに塗膜の硬さも低下し、固形分重量比が70/30以上であると(コロイダルシリカの比率が高過ぎると)、形成される塗膜の表面にクラックが発生して成膜性が低下する。したがって、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比は、10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内であることが好ましい。
更に、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比が20/80≦コロイダルシリカ/SBRエマルジョン≦60/40の範囲内であると、より確実に優れた防錆性と成膜性とを兼ね備えた水性コーティング剤が得られるため、より好ましい。
そして、更に固形分重量%で5%以上の金属フィラーを含有することから、形成される塗膜中の全体に金属フィラーが分散するとともに、金属フィラー同士が互いに接触した状態となり、形成される塗膜に導電性が付与される。したがって、形成される塗膜が帯電防止効果を有することになり、帯電性を有することが好ましくない金属部品等に優れた防錆性を付与するための水性コーティング剤として用いることができる。
なお、金属フィラーの含有量が固形分重量%で5%〜11%の範囲内であると、水性コーティング剤の製造コストがより低下するとともに、確実に塗膜に導電性が付与されることから、より一層好ましい。
このようにして、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに、導電性を有するコーティング膜を形成することができ、帯電性を有することが好ましくない金属部品等に応用することができ、環境にも優しい水性コーティング剤となる。
また、水性コーティング剤の金属フィラーが、鱗片形状であって、アスペクト比(径と厚さの比)が80〜120の範囲内であることから、水性コーティング剤を塗布してコーティング膜を形成した場合には、コーティング膜内において膜表面と平行な方向に鱗片形状の金属フィラーが配列して、互いに接触した層を構成する。したがって、請求項1に係る発明の効果に加えて、金属フィラーの含有量が少なくても優れた導電性を有するとともに、金属フィラーが配列した層によって水分の侵入が阻止されるため、より防錆性に優れたコーティング膜が得られる。
請求項2に係る発明においては、水性コーティング剤の金属フィラーが、亜鉛よりイオン化傾向が大きいか等しいアルミニウム微粒子または亜鉛微粒子であることから、請求項1に係る発明の効果に加えて、確実に亜鉛の犠牲アノード抑止効果を得ることができるため、特に亜鉛系めっき鋼の防錆性をより一層向上させることができるコーティング膜を形成できる水性コーティング剤となる。
請求項3に係る発明においては、水性コーティング剤の固形分を除く溶媒が実質的に水のみであることから、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、揮発性有機化合物(VOC)を発生させる恐れも殆どなく、環境に優しい水性コーティング剤となる。
請求項4に係る発明においては、コーティング膜がコロイダルシリカとSBRエマルジョンとを含有することから、亜鉛等の金属との密着性に優れるコロイダルシリカによって亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、コロイダルシリカとの相溶性が良く柔軟な硬化物を形成するSBRエマルジョンによって良好な成膜性を得ることができる。そして、コーティング膜を構成するコロイダルシリカとSBRとの間に金属フィラーが介在して、金属フィラーがコーティング膜に導電性を付与していることから、帯電防止効果が高いコーティング膜となる。
このようにして、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに導電性を有することから、帯電性を有することが好ましくない金属部品等に応用することができるコーティング膜となる。
また、コーティング膜の金属フィラーが、アスペクト比(径と厚さの比)が80〜120の範囲内の鱗片形状であることから、コーティング膜内において膜表面と平行な方向に鱗片形状の金属フィラーが配列して、互いに接触した層を構成する。したがって、請求項5に係る発明の効果に加えて、金属フィラーの含有量が少なくても優れた導電性を有するとともに、金属フィラーが配列した層によって水分の侵入が阻止されるため、より防錆性に優れたコーティング膜となる。
請求項5に係る発明においては、コーティング膜の金属フィラーが、亜鉛よりイオン化傾向が大きいか等しいアルミニウム微粒子または亜鉛微粒子であることから、請求項4に係る発明の効果に加えて、確実に亜鉛の犠牲アノード抑止効果を得ることができるため、特に亜鉛系めっき鋼の防錆性をより一層向上させることができるコーティング膜となる。
請求項6に係る発明においては、コーティング膜が亜鉛系めっき鋼の表面に形成されたことから、水性コーティング剤の金属フィラーが、亜鉛よりイオン化傾向が大きいか等しいアルミニウム微粒子または亜鉛微粒子であるため、請求項4または請求項5に係る発明の効果に加えて、確実に亜鉛の犠牲アノード抑止効果を得ることができ、亜鉛系めっき鋼の防錆性をより一層向上させることができるコーティング膜となる。
以下、本発明の実施の形態に係る水性コーティング剤及びコーティング膜について説明する。本実施の形態に係る水性コーティング剤は、コロイダルシリカとSBRエマルジョンとを含有し、更に固形分重量%で5%以上の金属フィラーを含有し、溶媒が実質的に水のみであり、コロイダルシリカとSBRエマルジョンの固形分重量比が、10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内である。
本実施の形態においては、コロイダルシリカとして日本化学工業(株)製のシリカドール40(固形分40%)を(なお、「シリカドール」は、日本化学工業(株)の登録商標である。)、SBRエマルジョンとして旭化成ケミカルズ(株)製のA7032(固形分50%)を、更に金属フィラーとしては水性アルミニウムペーストであるドイツ国・エカルト社製のHydrolan(ハイドロラン)9165を、それぞれ用いた。そして、コロイダルシリカとSBRエマルジョンと金属フィラー(及びこれらに含有される溶媒としての水)のみからなり、固形分重量比がコロイダルシリカ/SBRエマルジョン=50/50である水性コーティング剤を、実施例1〜実施例4として作製した。
ここで、コロイダルシリカとしてのシリカドール40が固形分40%であり、SBRエマルジョンとしてのA7032が固形分50%であるため、「コロイダルシリカ/SBRエマルジョン」の固形分重量比を所定の値とするためには、溶媒としての水分を含むシリカドール40を、溶媒としての水分を含むA7032に対して、所定の固形分重量比よりも多めに配合する必要がある。シリカドール40とA7032の配合量と、それによって得られる固形分重量比の関係を、表1に示す。
Figure 0005340090
なお、SBRエマルジョンとしての旭化成ケミカルズ(株)製のA7032の物性値は、いずれもカタログ値で、固形分が50%、Tgが−16℃、平均粒子径が220nmである。
また、水性アルミニウムペーストであるエカルト社製のHydrolan(ハイドロラン)9165は、固形分が60%であり、アルミニウム粒子の形状は鱗片形状であって、平均径が20μmで平均厚さが0.2μmであった。したがって、金属フィラーとしての水性アルミニウムペーストのアルミニウム粒子のアスペクト比は、100となる。なお、平均径及び平均厚さは、水性アルミニウムペーストのアルミニウム粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、アルミニウム粒子の径及び厚さを読み取って、それを数十個の粒子について平均することによって算出した。
実施例1〜実施例4に係る水性コーティング剤は、コロイダルシリカとしてのシリカドール40、SBRエマルジョンとしてのA7032、及び金属フィラーとしての水性アルミニウムペースト(Hydrolan(ハイドロラン)9165)を、各実施例についての所定量ずつ容器に入れて、ディスパーで攪拌することによって作製した。したがって、実施例1〜実施例4に係る水性コーティング剤は、コロイダルシリカ、SBRエマルジョン、アルミニウム粒子及び溶媒としての水のみから構成されている。
これに対して、特性を比較するために、コロイダルシリカとSBRエマルジョン(及びこれらに含有される溶媒としての水)のみからなり、金属フィラーとしての水性アルミニウムペーストを全く含有しないもの、金属フィラーとしての水性アルミニウムペーストの含有量が固形分重量%で3%であるもの、及び金属フィラーの代わりに無機フィラーとしての雲母を含有する水性コーティング剤を、比較例1〜比較例7として作製した。
ここで、無機フィラーとしての雲母(マイカ)には、(株)山口雲母工業所製の湿式粉砕雲母粉(マイカ粉)A−21を使用した。雲母粉A−21の特性値は、固形分100%、鱗片形状であって、平均径が20μmで平均厚さが0.3μmであった。平均径及び平均厚さの値は、水性アルミニウムペーストの場合と同様にして算出した。したがって、雲母粉A−21のアスペクト比は、66.7となる。
実施例1〜実施例4に係る水性コーティング剤、及び比較例1〜比較例7の水性コーティング剤の各配合を、表2の上段に重量%で示す。なお、「フィラー添加量」は、金属フィラーまたは無機フィラーの含有量を、固形分重量%で表したものである。
Figure 0005340090
これらの実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例7の水性コーティング剤及びコーティング膜の特性を、導電性・成膜性・防錆性・密着性・硬さ・耐水性の6項目について評価した。評価する供試体は、基材として長さ150mm×幅70mm×厚さ0.8mmの亜鉛めっき/3価クロメート鋼板を用いて、これに水性コーティング剤をエアスプレー法で塗装膜厚30μmになるように塗装し、140℃×5分間乾燥して作製した。
具体的な評価方法として、導電性については、このようにして作製した供試体の塗膜の電気抵抗値を、鶴賀電機(株)製のMΩ(メガオーム)テスタ(絶縁抵抗計)MODEL356Aで測定して評価した。塗膜の電気抵抗値の測定は、直流電圧500Vを印加して行った。
成膜性については、このようにして作製した供試体の塗装表面外観を目視観察して、クラックが多いものを×、少しクラックがあるものを△、クラックが全くないものを○として評価した。また、防錆性については、JIS−Z2371「塩水噴霧試験方法」に準じて、供試体について塩水噴霧試験(SST)を行って、240時間ごとに塗膜表面を目視観察して、白錆が発生するまでの時間で評価した。
更に、密着性については、JIS−K5400に準じて、供試体の塗膜について碁盤目テープテスト(1mm幅、100マス)を行なって、1マスでも剥がれたものは×、剥がれのなかったものを○として評価した。また、塗膜の硬さについては、JIS−K5600に準じて鉛筆硬度を測定して、2B以下のものを×、B以上のものを○として評価した。更に、耐水性については、40℃の温水に240時間浸漬した後に碁盤目テープテスト(1mm幅、100マス)を行なって、1マスでも剥がれたものは×、剥がれのなかったものを○として評価した。
以上の6項目についての評価結果を、表2の下段に示す。表2の下段に示されるように、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例7の水性コーティング剤は、いずれも、固形分重量比でコロイダルシリカ/SBRエマルジョン=50/50の配合であるため、6項目のうち成膜性・密着性・硬さ・耐水性の4項目については、全て○の評価となった。しかしながら、導電性については、実施例1〜実施例4に係るコーティング膜が0.1MΩ以下であって導電性を示したのに対して、比較例1〜比較例7のコーティング膜は、いずれも測定値が∞(無限大)であって、導電性を有しないものであった。
また、防錆性については、実施例1〜実施例4に係るコーティング膜が、塩水噴霧試験を2400時間行った時点においても白錆を発生しておらず、白錆が発生するまでの時間が2400時間を超えている。これに対して、コロイダルシリカとSBRエマルジョンのみからなり、金属フィラーとしての水性アルミニウムペーストを全く含有しない比較例1、及び金属フィラーの代わりに無機フィラーとしての雲母を3重量%及び5重量%含有する比較例3と比較例4の三点のコーティング膜は、840時間で白錆が発生している。
また、金属フィラーの代わりに無機フィラーとしての雲母を7重量%、9重量%及び11重量%含有する比較例5、比較例6及び比較例7の三点のコーティング膜は、960時間で白錆が発生しており、金属フィラーとしての水性アルミニウムペーストの含有量が固形分重量%で3%であって、5重量%に満たない比較例2のコーティング膜は、1500時間で白錆が発生している。
このように、表2の下段に示される通り、実施例1〜実施例4に係る水性コーティング剤及びコーティング膜については、導電性・成膜性・防錆性・密着性・硬さ・耐水性の6項目の評価試験の全てについて優れた結果が得られたのに対して、比較例1〜比較例7の水性コーティング剤及びコーティング膜は、導電性及び防錆性に劣るものであるという結果が出た。また、表2の下段に示されるように、実施例1〜実施例4に係るコーティング膜の抵抗値が0.1MΩ以下で防錆性が大きく向上している。これは、コーティング膜の電気抵抗を0.1MΩ以下に下げることでコーティング膜に電流が流れ易くなり、基材に流れる腐食電流が抑制されたものと推定される。このことから、金属フィラーを水性コーティング剤に配することで、この水性コーティング剤によって作製されたコーティング膜は導電性が付与されて帯電防止機能が向上するだけでなく、防錆性の向上も合わせて図ることができる。
以上説明したように、コロイダルシリカとSBRエマルジョンと5重量%以上の金属フィラーとしての水性アルミニウムペーストとを含有し、固形分重量比が10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内である水性コーティング剤、特に、固形分重量比が20/80≦コロイダルシリカ/SBRエマルジョン≦60/40の範囲内である水性コーティング剤を塗布してなるコーティング膜は、導電性及び防錆性が非常に優れていることが明らかになった。したがって、自動車のフューエルパイプ等の帯電防止性が必要とされる金属部品の防請用コーティング剤として使用することができる。
上記の実施例においては、金属フィラーとしての水性アルミニウムペーストの含有量について、固形分で11重量%までのものだけを示しているが、本発明者は、水性アルミニウムペーストの含有量について、固形分で30重量%までのコーティング膜で、実施例1〜実施例4に係るコーティング膜と同様の評価結果が得られることを確認した。更に、上記の実施例に係る水性コーティング剤は、溶媒として実質的に水のみを含むため、VOCを含有せず、環境にも極めて優しいものとなる。
このように、本実施の形態及び本実施例に係る水性コーティング剤は、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに、導電性を有するコーティング膜を形成することができ、帯電性を有することが好ましくない金属部品等に応用することができ、環境にも優しいものである。また、本実施の形態及び本実施例に係るコーティング膜は、亜鉛系めっき鋼等の金属の防錆性を向上させることができ、優れた成膜性を有するとともに導電性を有することから、帯電性を有することが好ましくない金属部品等に応用することができる。
本実施の形態においては、コロイダルシリカとして日本化学工業(株)製のシリカドール40を、SBRエマルジョンとして旭化成ケミカルズ(株)製のA7032を用いた場合について説明したが、コロイダルシリカ及びSBRエマルジョンとしては、その他の種類のものを用いることもできる。
また、本実施の形態においては、固形分重量比がコロイダルシリカ/SBRエマルジョン=50/50である水性コーティング剤及びコーティング膜のみについて説明したが、コロイダルシリカとSBRエマルジョンと5重量%以上の金属フィラーとを含有し、固形分重量比が10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内であるという条件を満たせば良い。
更に、本実施の形態においては、本発明に係る水性コーティング剤及びコーティング膜を、亜鉛系金属製品としての亜鉛めっき/3価クロメート鋼板に適用した場合について説明したが、本発明に係る水性コーティング剤及びコーティング膜は、その他の亜鉛系金属製品や、アルミニウム系金属製品、マグネシウム系金属製品等に対する防錆目的での使用も可能である。
また、本実施の形態においては、金属フィラーとして、鱗片形状のアルミニウム粒子を含有する水性アルミニウムペーストであるエカルト社製のHydrolan(ハイドロラン)9165を用いた場合について説明したが、水性アルミニウムペーストとしてはその他の種類のものを使用することもできる。また、金属フィラーとしては、水性アルミニウムペーストに限られず、アルミニウムフレーク、水性亜鉛ペースト、亜鉛フレーク等を用いることもでき、本発明に係る水性コーティング剤及びコーティング膜を、亜鉛系金属製品以外の金属製品に適用する場合には、その他の金属の水性ペースト・フレーク等を使用も可能である。
本発明を実施するに際しては、水性コーティング剤のその他の構成、成分、材料、配合、形状、大きさ、製造方法等についても、コーティング膜のその他の構成、成分、材料、配合、形状、大きさ、製造方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で上げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更しても実施を否定するものではない。

Claims (6)

  1. コロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)エマルジョンとを含有する水性コーティング剤であって、
    前記コロイダルシリカと前記SBRエマルジョンの固形分重量比が、10/90<コロイダルシリカ/SBRエマルジョン<70/30の範囲内であり、かつ、固形分重量%で5〜11%の範囲内の金属フィラーを含有し、前記金属フィラーは、鱗片形状であって、アスペクト比(径と厚さの比)が80〜120の範囲内としたことを特徴とする水性コーティング剤。
  2. 前記金属フィラーは、アルミニウム微粒子または亜鉛微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の水性コーティング剤。
  3. 固形分を除く溶媒が実質的に水のみであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水性コーティング剤。
  4. コロイダルシリカとスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)とを含有するコーティング膜であって、
    前記コロイダルシリカと前記SBRとの間に金属フィラーが分散して、該金属フィラーが前記コーティング膜に導電性を付与しており、前記金属フィラーは、鱗片形状であって、アスペクト比(径と厚さの比)が80〜120の範囲内とし、かつ、固形分重量%で5〜11%の範囲内の含有量としたことを特徴とするコーティング膜。
  5. 前記金属フィラーは、アルミニウム微粒子または亜鉛微粒子であることを特徴とする請求項4に記載のコーティング膜。
  6. 前記コーティング膜は、亜鉛系めっき鋼の表面に形成されたことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のコーティング膜。
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