(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、多気筒ガソリンエンジンであり、紙面に直交する方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有するシリンダブロック3と、シリンダブロック3上に設けられたシリンダヘッド4とを含むエンジン本体1を有している。また、このエンジンは、車載用エンジンであり、車両を駆動するための動力源として図外のエンジンルームに配設されている。
上記エンジン本体1の各気筒2には、ピストン5が往復摺動可能に挿入されている。ピストン5はコネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されており、上記ピストン5の往復運動に応じて上記クランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
上記シリンダブロック3には、上記クランク軸7の回転速度をエンジンの回転速度として検出するエンジン回転速度センサ30が設けられている。
上記ピストン5の上方には燃焼室6が形成され、燃焼室6に吸気ポート9および排気ポート10が開口し、各ポート9,10を開閉する吸気弁11および排気弁12が、上記シリンダヘッド4にそれぞれ設けられている。吸気弁11および排気弁12は、それぞれ、シリンダヘッド4に配設された一対のカムシャフト(図示省略)等を含む動弁機構13,14によりクランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
上記吸気弁11用の動弁機構13には、VVT15が組み込まれている。VVT15は、可変バルブタイミング機構(Variable Valve Timing Mechanism)と呼ばれるものであり、吸気弁11の動作タイミングを可変的に設定するための可変機構である。
上記VVT15としては、既に様々な形式のものが実用化されて公知であるが、例えば、液圧式の可変機構を上記VVT15として用いることができる。なお、図示は省略するが、この液圧式の可変機構は、吸気弁11用のカムシャフトに対し同軸に配置された被駆動軸と、カムシャフトと被駆動軸の間に周方向に並ぶように配置された複数の液室とを有しており、これら各液室間に所定の圧力差が形成されることにより、上記カムシャフトと被駆動軸との間に位相差が形成されるようになっている。そして、この位相差が所定の角度範囲内で可変的に設定されることにより、吸気弁11の動作タイミングが連続的に変更されるようになっている。
なお、上記VVT15として、バルブリフト量を変更することにより吸気弁11の閉じ時期を変更するタイプの可変機構を設けてもよい。また、このようなリフト式の可変機構と、上述した位相式の可変機構とを組み合わせて用いてもよい。
上記エンジン本体1のシリンダヘッド4には、点火プラグ16およびインジェクタ18が、各気筒2につき1組ずつ設けられている。
上記インジェクタ18は、燃焼室6を吸気側の側方から臨むように設けられており、図外の燃料供給管から供給される燃料(ガソリン)を先端部から噴射する。そして、エンジンの吸気行程等において上記インジェクタ18から燃焼室6に対し燃料が噴射され、噴射された燃料が空気と混合されることにより、燃焼室6に所望の空燃比の混合気が生成されるようになっている。
上記点火プラグ16は、燃焼室6を上方から臨むように設けられており、図外の点火回路からの給電に応じて先端部から火花を放電する。そして、圧縮上死点付近に設定された所定のタイミングで上記点火プラグ16から火花が放電され、これをきっかけに混合気の燃焼が開始されるようになっている。
上記点火プラグ16の近傍には、燃焼室6で混合気が燃焼することにより生じる火炎を検出するイオン電流センサ31が設けられている。このイオン電流センサ31は、例えば100V程度のバイアス電圧が印加される電極を有しており、この電極周りに火炎が形成されたときに生じるイオン電流を検出することで、火炎を検出するように構成されている。
上記イオン電流センサ31を用いることで、火花点火による正常の燃焼開始時期よりも前に混合気が自着火するプリイグニッションを検出することができる。すなわち、点火プラグ16による火花点火が行われると、通常は、所定の遅れ時間の後に燃焼が開始されるが、燃焼室6の温度および圧力が過度に上昇するなどした場合には、上記正常な燃焼開始時期よりも前に混合気が自着火することがある。そこで、このような混合気の自着火による異常燃焼(プリイグニッション)を検出すべく、上記イオン電流センサ31を設けて火炎を検出し、その検出タイミング(火炎の発生タイミング)が正常な燃焼開始時期に比べて早過ぎる場合に、プリイグニッションが発生したと判断する。以上のことから、当実施形態では、イオン電流に基づき火炎を検出するイオン電流センサ31が、本発明にかかる「プリイグニッションを検出するための検出手段」に相当する。
上記イオン電流センサ31を用いたプリイグニッションの検出方法を図3のグラフに基づき具体的に説明する。このグラフにおいて、実線の波形J0は、火花点火IGをきっかけに混合気が正常に燃焼した場合の熱発生量の分布(時間変化)を示している。この正常燃焼時の波形J0において、イオン電流センサ31で火炎を検出できる程度まで燃焼が進行した時点(実質的な燃焼開始時期)をt0とすると、この時点t0は、火花点火IGの時点よりも所定のクランク角分だけ遅くなる。
一方、プリイグニッションが発生したときの熱発生量の分布は、1点鎖線の波形J1〜J3のようになる。波形J1は軽度のプリイグニッション、波形J2は中度のプリイグニッション、波形J3は重度のプリイグニッションを示しており、各ケースにおける実質的な燃焼開始時期は、それぞれt1,t2,t3となっている。このグラフから明らかなように、プリイグニッションが起きると、正常な燃焼開始時期t0よりも早く燃焼が始まり、かつ燃焼期間が短くなる(つまり燃焼が急峻化する)。特に、重度のプリイグニッション(波形J3)まで発展すると、極端に燃焼が急峻化して、エンジンにかなり大きな騒音や振動が発生し、ピストン等の損傷にもつながる。
そこで、少なくとも上記のような重度のプリイグニッションに発展するのを防止するため、当実施形態では、正常な燃焼開始時期t0よりも所定時間以上早い段階で上記イオン電流センサ31が火炎を検出したときに、これをプリイグニッションとして検出し、必要な措置を講ずるようにする。このとき、できるだけ軽度の段階でプリイグニッションを検出するため、イオン電流センサ31による火炎の検出タイミングが、例えばt1程度まで早くなればプリイグニッションであると判断するのがよい。
再び図1に戻って、エンジンの全体構成について説明する。上記エンジン本体1の吸気ポート9および排気ポート10には、吸気通路20および排気通路21がそれぞれ接続されている。すなわち、燃焼用の空気(新気)が上記吸気通路20を通じて燃焼室6に供給されるとともに、燃焼室6で生成された既燃ガス(排気ガス)が上記排気通路21を通じて外部に排出されるようになっている。
上記吸気通路20には、エンジン本体1に流入する吸入空気の流量を調節するスロットル弁22と、吸入空気の流量を検出するエアフローセンサ32とが設けられている。
上記スロットル弁22は、電子制御式のスロットル弁からなり、運転者により踏み込み操作される図外のアクセルペダルの開度に応じて電気的に開閉駆動される。すなわち、上記アクセルペダルにはアクセル開度センサ33(図2)が設けられており、このアクセル開度センサ33により検出されたアクセルペダルの開度(アクセル開度)に応じて、図外の電気式のアクチュエータがスロットル弁22を開閉駆動するように構成されている。
上記排気通路21には、排気ガス浄化用の触媒コンバータ23が設けられている。触媒コンバータ23には例えば三元触媒が内蔵されており、排気通路21を通過する排気ガス中の有害成分が上記三元触媒の作用により浄化されるようになっている。
(2)制御系
図2は、エンジンの制御系を示すブロック図である。本図に示されるECU40は、エンジンの各部を統括的に制御するための制御手段であり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
上記ECU40には、各種センサ類からの検出信号が入力される。すなわち、ECU40は、上記エンジン回転速度センサ30、イオン電流センサ31、エアフローセンサ32、およびアクセル開度センサ33と電気的に接続されており、これら各センサ30〜33による検出値として、エンジン回転速度Ne、イオン電流値Io、吸入空気量Qa、およびアクセル開度ACといった情報が、上記ECU40に逐次入力されるようになっている。
また、上記ECU40は、上記VVT15、点火プラグ16、インジェクタ18、およびスロットル弁22とも電気的に接続されており、これらの装置にそれぞれ駆動用の制御信号を出力するように構成されている。
上記ECU40が有するより具体的な機能について説明すると、上記ECU40は、その主な機能的要素として、記憶手段41、プリイグ判定手段42、燃料制御手段43、および圧縮比制御手段44を有している。
上記記憶手段41は、エンジンを制御する際に必要な各種データやプログラムを記憶するものである。その一例として、上記記憶手段41には、図4に示される制御マップが記憶されている。この図4の制御マップは、横軸をエンジン回転速度Ne、縦軸を負荷Ceとしたときの2次元領域を、プリイグニッションの発生し易さの点から複数の領域に分割したものである。なお、図中のWOTは、エンジンの最高負荷ラインを示している。
上記図4の制御マップには、プリイグニッションが比較的起き易い領域であるプリイグ領域Rが設定されている。すなわち、プリイグニッションは、火花点火による正常の燃焼開始時期よりも前に混合気が自着火する現象であるから、燃焼室6内の空気が高温・高圧化する高負荷寄りの運転領域にあるときに、最もプリイグニッションが発生し易い。そこで、図4では、比較的負荷の高い図中上側の領域を、上記プリイグ領域Rとして設定している。
上記プリイグ領域Rは、さらに、所定のエンジン回転速度Nex(例えば2500rpm程度)を境に、第1プリイグ領域R1と、第2プリイグ領域R2とに分けられる。これら各領域R1,R2では、プリイグニッションを引き起す主な原因が異なる。例えば、低回転側に設定された第1プリイグ領域R1でのプリイグニッションは、圧縮により高温・高圧化した燃焼室6内の空気から比較的長い期間にわたって燃料が受熱することで引き起こされる。一方、第1プリイグ領域R1よりも高回転側に設定された第2プリイグ領域R2では、燃焼室6内の空気から燃料への受熱期間は短くなるものの、単位時間あたりの熱発生量が増えるため、排気弁12の傘部や点火プラグ16が高温化し、これが熱源(ヒートポイント)となってプリイグニッションが引き起こされる。
上記プリイグ判定手段42は、上記イオン電流センサ31の検出値に基づいて、プリイグニッションが起きているか否かを判定するものである。具体的に、プリイグ判定手段42は、エンジンの運転状態が上記プリイグ領域Rにあるときに、上記イオン電流センサ31の検出値から火炎の発生タイミング(実際の燃焼開始時期)を特定し、これを正常な燃焼開始時期と比較することで、プリイグニッションが起きたか否かを判定する。なお、正常な燃焼開始時期の情報は、実験もしくは演算等により予め求められ、上記記憶手段41に記憶されている。
上記燃料制御手段43は、上記インジェクタ18から燃焼室6に噴射される燃料の噴射量や噴射時期を制御するものである。より具体的に、上記インジェクタ制御手段44は、エンジン回転速度センサ30から入力されるエンジン回転速度Neやエアフローセンサ32から入力される吸入空気量Qa等の情報に基づいて、目標とする燃料の噴射量および噴射時期を演算し、その演算結果に基づいてインジェクタ18の開弁時期および開弁期間を制御する。
特に、上記プリイグ領域R(第1・第2プリイグ領域R1,R2)においてプリイグニッションが検出された場合、上記燃料制御手段43は、上記インジェクタ18からの燃料の噴射量を増大させることにより、筒内の空燃比をリッチ化する制御を実行する。このような制御を実行するのは、比較的多量の燃料を噴射して筒内温度を低下させることにより、燃料の受熱量を減らして圧縮上死点付近での燃料温度を低下させ、プリイグニッションの発生を抑制するためである。さらに必要な場合、上記燃料制御手段43は、本来は吸気行程中に噴射すべき燃料の一部を、圧縮行程の中期以降に遅らせて噴射する(つまり吸気行程と圧縮行程とに分割して燃料を噴射する)制御を実行する。これにより、燃料の受熱期間が短縮され、圧縮上死点付近での筒内の燃料温度が低下するため、よりプリイグニッションが起き難い環境をつくり出すことができる。
上記圧縮比制御手段44は、上記VVT15を駆動して吸気弁11の閉時期を変更することにより、エンジンの有効圧縮比を可変的に設定するものである。すなわち、吸気弁11の閉時期は、通常、吸気下死点の遅角側の近傍(吸気下死点を少し過ぎたタイミング)に設定されており、このようなタイミングに設定されることで、一旦吸入された空気が吸気ポート9に吹き返されることがなく、エンジンの実質的な圧縮比(有効圧縮比)が幾何学的圧縮比と略一致するようになっている。これに対し、吸気弁11の閉時期が吸気下死点よりも大幅に遅く設定された場合には、吸気の吹き返しが起きるようになり、その分だけエンジンの有効圧縮比が低下する。上記圧縮比制御手段44は、VVT15を駆動して上記吸気弁11の閉時期のリタード量(遅角量)を増減させることにより、エンジンの有効圧縮比を可変的に設定する。
特に、上記圧縮比制御手段44は、第1プリイグ領域R1でプリイグニッションが検出された場合に、一定の条件下で、吸気弁11の閉時期を遅角させて有効圧縮比を低下させる制御を実行する。これにより、筒内温度・圧力の低下が図られ、プリイグニッションが抑制される。ただし、このような有効圧縮比の低下制御は、第1プリイグ領域R1でのみ実行され、第2プリイグ領域R2では実行されない。これは、第2プリイグ領域R2では、排気弁12や点火プラグ16等が熱源となってプリイグニッションが起きるため、仮に有効圧縮比を下げても熱源の温度にあまり影響せず、十分なプリイグニッションの抑制につながらないからである。
なお、上記説明でいうところの「吸気弁11の閉時期」とは、リフトカーブのランプ部(リフト量が緩やかに立ち上がる緩衝区間)を除いた区間をバルブの開弁期間として定義した場合における閉時期であって、吸気弁11のリフト量が完全にゼロになる時期を指すものではない。
(3)プリイグ回避のための制御動作
次に、以上のように構成されたECU40により行われる制御動作について説明する。ここでは、上記プリイグ領域Rでプリイグニッションが検出された場合に行われる制御動作、およびその結果プリイグニッションが回避された場合に行われる制御動作を中心に説明する。
図5〜図8は、上記制御動作を説明するためのフローチャートである。図5のフローチャートに示す処理がスタートすると、まず、各種センサ値を読み込む制御が実行される(ステップS1)。具体的には、上記エンジン回転速度センサ30、イオン電流センサ31、エアフローセンサ32、およびアクセル開度センサ33から、それぞれ、エンジン回転速度Ne、イオン電流値Io、吸入空気量Qa、およびアクセル開度ACが読み出され、ECU40に入力される。
次いで、上記ステップS1で読み込まれた情報に基づいて、現在のエンジンの運転状態が、図4に示したプリイグ領域R内にあるか否かを判定する制御が実行される(ステップS3)。具体的には、上記ステップS1で読み込まれたエンジン回転速度Neと、吸入空気量Qa(またはアクセル開度AC)から演算されるエンジン負荷Ceとに基づき、現在のエンジンの運転状態が図4の制御マップ上で特定され、それがプリイグ領域R内にあるか否かが判定される。
上記ステップS3でNOと判定されてプリイグ領域Rから外れていることが確認された場合には、プリイグニッションは起こり得ないため、後述するステップS6,S7,S11の制御(プリイグ回避制御や復帰制御)が必要になることはなく、通常の運転が維持される(ステップS13)。すなわち、燃料の噴射量や噴射時期、吸気弁11の動作タイミング等が、運転状態に応じて予め定められた通常の目標値に沿って制御される。
一方、上記ステップS3でYESと判定されてプリイグ領域Rにあることが確認された場合には、上記ステップS1で読み込まれたイオン電流値Ioに基づいて、プリイグニッションが発生しているか否かを判定する制御が実行される(ステップS4)。具体的には、上記イオン電流値Ioから、火炎の発生タイミングが特定され、そのタイミングが、予め記憶された正常な燃焼開始時期(火花点火より少し遅れたタイミング;例えば図3の時点t0)よりも所定時間以上早い場合に、プリイグニッションが発生したと判定される。
上記ステップS4でYESと判定されてプリイグニッションの発生が確認された場合には、上記ステップS1で読み込まれたエンジン回転速度Neが、予め設定された閾値Nexよりも低いか否かを判定する制御が実行される(ステップS5)。ここでの閾値Nexは、図4に示したように、第1プリイグ領域R1と第2プリイグ領域R2との境界回転速度である。
すなわち、上記ステップS5の判定は、エンジンの運転状態が第1および第2プリイグ領域R1,R2のいずれにあるかを判定するものであり、これにより、現在発生しているプリイグニッションの性質を推定するものである。具体的には、低回転側の第1プリイグ領域R1であれば、圧縮により高温・高圧化した燃焼室6内の空気から比較的長い期間にわたって燃料が受熱するために起きるプリイグニッションであると推定でき、高回転側の第2プリイグ領域R2であれば、高温化した排気弁12の傘部や点火プラグ16が熱源となって起きるプリイグニッションであると推定できる。
上記ステップS5でYESと判定されてエンジン回転速度Ne<Nexであることが確認された場合、つまり、第1プリイグ領域R1でのプリイグニッションであることが確認された場合には、これを回避するための制御として、第1プリイグ回避制御が実行される(ステップS6)。一方、上記ステップS5でNOと判定されてエンジン回転速度Ne≧Nexであることが確認された場合、つまり、第2プリイグ領域R2でのプリイグニッションであることが確認された場合には、上記第1プリイグ回避制御とは異なる第2プリイグ回避制御が実行される(ステップS7)。
次に、上記ステップS6の第1プリイグ回避制御の具体的内容について、図6を参照しつつ説明する。この第1プリイグ回避制御が開始されると、まず、現在設定されている筒内の空燃比(A/F)が、11よりも小さいか否かを判定する制御が実行される(ステップS20)。なお、ここでの判定閾値(A/F=11)は、後述するステップS22で空燃比をリッチ化する場合に許される限界値である。仮に、A/F=11よりも空燃比がリッチ化(小さく)されると、スモークが発生するおそれがあり、また燃費の面でも不利になるため、リッチ化の限界値として、A/F=11が設定されている。
上記第1プリイグ領域R1では、当初、筒内の空燃比が、理論空燃比(=14.7)か、又はこれよりもややリッチな値に設定され、上記限界値(=11)よりもリーンな空燃比に設定されている。このため、上記ステップS20での最初の判定は当然にYESとなり、次のステップS22に移行して、空燃比をリッチ化する制御が実行される。具体的には、インジェクタ18からの燃料の噴射量が増大されることにより、筒内の空燃比が、現在設定されている空燃比よりも所定量リッチにされる。
上記空燃比のリッチ化は、複数回に分けて段階的に行われる。例えば、現在の空燃比がA/F=14.7(理論空燃比)であれば、これよりも小さいA/F=12.5まで空燃比がリッチ化され、それでもプリイグニッションを回避できない場合に、さらに小さい空燃比であるA/F=11(限界値)までリッチ化される。逆に、A/F=12.5の時点でプリイグニッションが回避されれば、その時点でリッチ化は停止される。
上記ステップS22で空燃比を限界値のA/F=11までリッチ化した後、なおもプリイグニッションが継続して起きる場合には、上記ステップS20でNOと判定されるため、次のステップS21で、現在設定されている吸気弁11の閉時期(IVC)が、後述するステップS23でIVCを最大限に遅角させた場合の閉時期(最遅時期)であるTxよりも早いか否かを判定する制御が実行される(ステップS21)。なお、ここでの判定閾値である最遅時期Txは、吸気の吹き返しが起きてエンジンの有効圧縮比が幾何学的圧縮比に対しある程度低下するような時期(例えば吸気下死点の通過後110°CA程度)に設定されている。仮に、吸気弁11の閉時期が最遅時期Txよりもさらに遅角されると、エンジンの有効圧縮比が極端に低下して出力が不足するため、最大限に遅角できる量として、上記最遅時期Txが設定されている。
上記第1プリイグ領域R1では、当初、吸気弁11の閉時期が、吸気の吹き返しが起きないような時期として、例えば吸気下死点の通過後30°CA程度に設定されている。このため、上記ステップS21での最初の判定は当然にNOとなり、次のステップS23に移行して、吸気弁11の閉時期を遅角(リタード)させる制御が実行される。具体的には、吸気弁11の動作タイミングが遅れる方向にVVT15が駆動されることにより、吸気弁11の閉時期が現在の設定値よりも所定量遅角され、エンジンの有効圧縮比が下げられる。
上記吸気弁11の閉時期の遅角化は、例えば10°CAずつ段階的に行われる。すなわち、吸気弁の閉時期が、現在の設定値に対し10°CAだけ遅角され、それでもプリイグニッションを回避できない場合に、さらに10°CAだけ遅角される。そして、このような10°CA刻みの遅角化が、吸気弁11の閉時期が上記最遅時期Txに達するまで継続される。逆に、最遅時期Txに達する前にプリイグニッションが回避されれば、その時点で遅角化は停止される。
上記ステップS23で吸気弁11の閉時期が最遅時期Txまで遅角された後、なおもプリイグニッションが継続して起きる場合には、上記ステップS21でNOと判定されるため、次のステップS24で、燃料の噴射時期を分割してその一部を圧縮行程噴射する制御が実行される。すなわち、図9に示すように、本来は吸気行程中に全ての燃料が噴射されるべきところ(同図(a)のF参照)、そのうちの一部の燃料の噴射時期が圧縮行程の中期以降まで遅角されることにより、吸気行程と圧縮行程とに分割して燃料が噴射される(同図(b)のF1,F2参照)。
以上のように、上記第1プリイグ回避制御においては、空燃比のリッチ化(ステップS22)と、吸気弁11の閉時期の遅角化(ステップS23)と、燃料噴射時期の遅角化(ステップS24)とが、この順に優先して実行されるようになっている。
上記ステップS22,S23,S24のいずれかの制御が実行されると、その後は、フラグF(そのデフォルト値は0)に「1」が入力され(ステップS25)、図5のメインフローにリターンされる。
図10は、上記第1プリイグ回避制御において、上記ステップS22,S23,S24の全ての制御を実行しないとプリイグニッションが回避できなかったと仮定した場合に、空燃比(A/F)、吸気弁11の閉時期(IVC)、および燃料噴射時期が、時間経過に応じてそれぞれどのように変化するかを示すタイムチャートである。本図からも理解できるように、第1プリイグ回避制御では、まず、空燃比を段階的にリッチ化する制御が優先的に実行され、そこで最大限に(A/F=11まで)リッチ化された後もプリイグニッションが回避できない場合に、吸気弁11の閉時期(IVC)が段階的に遅角され、そこで最大限に遅角された後でもなおプリイグニッションが回避できない場合に、燃料噴射時期の遅角化(燃料の一部の圧縮行程噴射)が実行される。
次に、図5のステップS7に示した第2プリイグ回避制御の具体的内容について、図7を参照しつつ説明する。この第2プリイグ回避制御が開始されると、まず、現在設定されている筒内の空燃比(A/F)が、11よりも小さいか否かを判定する制御が実行され(ステップS30)、ここでYESと判定されて11よりも小さいことが確認された場合に、空燃比をリッチ化する制御が実行される(ステップS31)。このステップS31での空燃比のリッチ化は、上述した第1プリイグ回避制御のステップS22と同様、例えばA/F=14.7→12.5→11といったように段階的に行われる。
上記ステップS31で空燃比をA/F=11までリッチ化した後、なおもプリイグニッションが継続して起きる場合には、上記ステップS30でNOと判定されるため、次のステップS32で、燃料の噴射時期を分割してその一部を圧縮行程噴射する制御が実行される。
以上のように、上記第2プリイグ回避制御においては、空燃比のリッチ化(ステップS31)と、燃料噴射時期の遅角化(ステップS32)とが、この順に優先して実行されるようになっている。また、上記第1プリイグ回避制御(図6)のときと異なり、吸気弁11の閉時期を遅角させる制御(図6のステップS23に相当する制御)は実行されない。すなわち、第2プリイグ領域R2では、吸気弁11の閉時期が、吸気の吹き返しが起きないような時期として、例えば吸気下死点の通過後45°CA程度に設定されるが、上記第2プリイグ回避制御中であっても、その時期が遅角されることはなく、有効圧縮比は一定に維持される。
上記ステップS31,S32のいずれかの制御が実行されると、その後は、フラグFに「1」が入力され(ステップS33)、図5のメインフローにリターンされる。
図11は、上記第2プリイグ回避制御において、上記ステップS31,S32の両方の制御を実行しないとプリイグニッションが回避できなかったと仮定した場合に、空燃比(A/F)および燃料噴射時期が、時間経過に応じてそれぞれどのように変化するかを示すタイムチャートである。本図からも理解できるように、第2プリイグ回避制御では、まず、空燃比を段階的にリッチ化する制御が優先的に実行され、そこで最大限に(A/F=11まで)リッチ化した後もプリイグニッションが回避できない場合に、燃料噴射時期の遅角化(燃料の一部の圧縮行程噴射)が実行される。
次に、上記第1または第2のプリイグ回避制御(図6、図7)が実行された結果、プリイグニッションの発生が回避された場合の制御動作について説明する。この場合には、図5のステップS4でNOと判定されるため、次のステップS10でフラグFが「1」であるか否かが判定される。上記プリイグ回避制御が実行中のとき、フラグFはF=1であるため、上記ステップS10ではYESと判定され、その結果、次のステップS11で、上記プリイグ回避制御を解除して通常運転に復帰するための復帰制御が実行される。
図8は、上記ステップS11での復帰制御の具体的内容を示している。この復帰制御が開始されると、まず、一部の燃料の噴射時期を圧縮行程の中期以降に遅角させる制御(図6のステップS24、図7のステップS32)が実行中か否かが判定され(ステップS40)、ここでYESと判定されて燃料噴射時期の遅角化(圧縮行程噴射)が実行中であることが確認された場合に、上記一部の燃料の噴射時期を、通常の噴射時期である吸気行程中に戻す制御が実行される(ステップS43)。
上記のように燃料の噴射時期が通常時期(吸気行程中)に戻された後もプリイグニッションが発生しなかった場合、もしくは、当初から燃料噴射時期の遅角化が実行されていなかった場合には、上記ステップS40での判定がNOとなる。すると、ステップS41に移行して、吸気弁11の閉時期が、本来の設定時期よりも遅角されているか否かを判定する制御が実行される。
上記図6のステップS23で吸気弁11の閉時期が遅角されていれば、上記ステップS41ではYESと判定される。すると、ステップS44に移行して、吸気弁11の閉時期を進角(アドバンス)側に戻して有効圧縮比を増大させる制御が実行される。
上記吸気弁11の閉時期の進角化は、上記図6のステップS23のときと同様、例えば10°CAずつ段階的に行われる。すなわち、吸気弁の閉時期が、現在の設定値に対し10°CAだけ進角され、それでもプリイグニッションが発生しないことが確認された場合に、さらに10°CAだけ進角される。そして、このような10°CA刻みの進角化が、吸気弁11の閉時期が通常時期(吸気の吹き返しが起きないような時期)に達して有効圧縮比が幾何学的圧縮比と略一致するまで継続される。
上記のように吸気弁11の閉時期が通常時期まで戻された後もプリイグニッションが発生しなかった場合、もしくは、当初から吸気弁11の閉時期が遅角されていなかった場合には、上記ステップS41での判定がNOとなる。すると、ステップS42に移行して、筒内の空燃比が通常値(理論空燃比もしくはその近傍)よりもリッチ化されているか否かを判定する制御が実行される。そして、ここでYESと判定されて空燃比がリッチ化されていることが確認された場合に、空燃比をリーン側(通常値に近づく側)に戻す制御が実行される(ステップS45)。
上記空燃比のリーン化は、上記図6のステップS22、および図7のステップS31のときと同様、複数回に分けて段階的に行われる。例えば、筒内の空燃比が、A/F=11→12.5→14.7のように、段階的にリーン化されて、通常値へと戻される。
上記ステップS45の制御が完了して空燃比が通常値に戻されると、上記ステップS42の判定がNOとなる。すると、ステップS46でフラグFに「0」が入力され、図5のメインフローにリターンされる。
図12および図13は、以上のような復帰制御が行われた場合の空燃比や燃料噴射時期等の時間変化を示すタイムチャートである。このうち、図12には、先の図10に示したような第1プリイグ回避制御が行われた場合、つまり、第1プリイグ領域R1でのプリイグニッションを回避するために、空燃比のリッチ化、吸気弁11の閉時期の遅角化、および燃料噴射時期の遅角化(燃料の一部の圧縮行程噴射)を全て行う必要があった場合に、その後の復帰制御によって各状態量がどのように変化するかを示している。
図12に示すように、第1プリイグ回避制御からの復帰に際しては、まず燃料噴射時期の遅角化が解除されて噴射時期が通常時期(吸気行程中)に戻され、その後もプリイグニッションが発生しなかった場合に、吸気弁11の閉時期(IVC)を通常時期に向けて段階的に進角させる制御が実行され、それでもプリイグニッションが発生しなかった場合に、空燃比を通常値に向けて段階的にリーン化する制御が実行される。
また、図13には、先の図11に示したような第2プリイグ回避制御が行われた場合、つまり、第2プリイグ領域R2で起きたプリイグニッションを回避するために、空燃比のリッチ化と、燃料噴射時期の遅角化とを両方とも行う必要があった場合に、その後の復帰制御によって各状態量がどのように変化するかを示している。図13に示すように、第2プリイグ回避制御からの復帰に際しては、まず燃料噴射時期の遅角化を解除する制御が実行され、続いて空燃比をリーン化する制御が実行されることになる。
(4)作用効果等
以上説明したように、当実施形態の火花点火式エンジンでは、イオン電流センサ31による検出値に基づきプリイグニッションが検出された場合に、エンジン回転速度Neが所定の閾値Nexより高いか低いかに応じて(つまり第1および第2プリイグ領域R1,R2のいずれの領域で起きたプリイグニッションであるかに応じて)、第1および第2プリイグ回避制御のいずれかが選択的に実行される。このうち、回転速度Ne<Nexのときに選択される第1プリイグ回避制御では、筒内の空燃比をリッチ化する制御(ステップS22)と、吸気弁11の閉時期を遅角させて有効圧縮比を低下させる制御(ステップS23)と、一部の燃料の噴射時期を圧縮行程の中期以降に遅角させる制御(ステップS24)とが、この順に優先して実行される。一方、回転速度Ne≧Nexのときに選択される第2プリイグ回避制御では、空燃比のリッチ化(ステップS31)と、燃料噴射時期の遅角化(ステップS32)とが、この順に優先して実行されるが、上記第1プリイグ回避制御のときと異なり、吸気弁11の閉時期を遅角させる制御は実行されず、有効圧縮比は一定に維持される。このような構成によれば、エミッション性の悪化やエンジン出力の低下をできる限り回避しつつ、プリイグニッションの発生を効果的に抑制できるという利点がある。
すなわち、上記実施形態では、プリイグニッションが検出されたときに実行される第1および第2のプイリグ回避制御において、空燃比をリッチ化する制御がまず最初に行われ、燃料噴射時期を遅角させる(燃料の一部を圧縮行程噴射する)制御は後回しにされるため、エミッション性の悪化をできるだけ回避しながら、プリイグニッションの発生を効果的に抑制することができる。
例えば、プリイグニッションが検出されたときに、いきなり燃料噴射時期を遅角させ、燃料の一部を圧縮行程噴射したような場合には、多くの未燃炭素が残ってスモークが発生するおそれがある。これに対し、上記実施形態では、プリイグニッションの発生時にまず空燃比をリッチ化して、筒内温度の低下を図ることでプリイグニッションを抑制し、それでもプリイグニッションが回避できない場合にのみ、上記燃料噴射時期の遅角化を実行するようにしたため、上記のようなスモークの発生を極力回避できるという利点がある。
また、プリイグニッションが検出されときに、エンジン回転速度Neが閾値Nex未満であった場合(つまり第1プリイグ回避制御が選択される場合)には、空燃比のリッチ化より優先度が低くかつ燃料噴射時期の遅角化より優先度が高い制御として、吸気弁11の閉時期を遅角させて有効圧縮比を低下させる制御を実行するようにしたため、燃料噴射時期の遅角化が行われる頻度をより低くして、スモーク発生によるエミッション性の悪化をより効果的に防止できるという利点がある。
すなわち、エンジン回転速度Neが比較的低い場合に、空燃比のリッチ化に次いで、エンジンの有効圧縮比を低下させる制御を実行し、それによって筒内温度・圧力の低下を図った上で、それでもプリイグニッションを回避できないときに、はじめて燃料噴射時期を遅角させるようにしたため、燃料噴射時期を遅角させなくても、より高い確率でプリイグニッションを回避することが可能になる。これにより、燃料噴射時期の遅角化が実行される頻度が極めて低くなり、スモークの発生を極力回避しながらプリイグニッションを抑制することができる。
また、上記のような有効圧縮比の低下が、プリイグニッション発生時のエンジン回転速度Neが閾値Nex未満であるとき(第1プリイグ回避制御時)にのみ実行され、閾値Nex以上のとき(第2プリイグ回避制御時)には実行されないため、プリイグニッションの性質に応じた有効な対策のみを選択しながら、適正かつ確実にプリイグニッションを抑制できるという利点がある。
すなわち、エンジン回転速度Neが比較的高いときのプリイグニッションは、排気弁12や点火プラグ16等が熱源となって起きるものであるため、仮に有効圧縮比を下げても熱源の温度にあまり影響せず、十分なプリイグニッションの抑制につながらない。そこで、このような性質のプリイグニッション発生時に行われる上記第2プリイグ回避制御において、空燃比をリッチ化してもプリイグニッションを回避できないときには、有効圧縮比を低下させる制御を行うことなく、直ちに燃料噴射時期を遅角させるようにする。これにより、あまり有効な対策とならない圧縮比の低下を省略し、その制御に無駄な時間が割かれるのを回避しながら、確実にプリイグニッションの抑制を図ることができる。
なお、上記構成では、エンジン回転速度Neが閾値Nex未満のときに行われる第1プリイグ回避制御において、まず空燃比をリッチ化し、それでもプリイグニッションが回避できないときに、吸気弁11の閉時期を遅角させて有効圧縮比を低下させるようにしたが、これら2つの制御(空燃比のリッチ化と有効圧縮比の低下)は、そのいずれを実施してもエミッション性(スモークの発生)には影響しないため、この点だけを考慮すれば、有効圧縮比の低下を空燃比のリッチ化より優先して行ってもよいと考えられる。しかしながら、有効圧縮比を低下させる制御は、エンジンの出力低下を招くだけでなく、制御の応答性に劣るという問題がある。すなわち、特にVVT15が液圧式の可変機構である場合、このVVT15の駆動により吸気弁11の動作タイミングを変更するのに、比較的長時間の応答遅れが生じるため、吸気弁11の閉時期を遅角させて有効圧縮比を低下させる制御は、インジェクタ18からの噴射量を増やして空燃比をリッチ化する制御に比べて、制御の応答性の面で劣るといえる。
そこで、上記実施形態では、第1プリイグ回避制御時に、空燃比のリッチ化を先に、有効圧縮比の低下を後に実行するようにした。このように、有効圧縮比の低下を後回しにすることで、圧縮比の低下に起因したエンジン出力の低下をできるだけ回避できるとともに、応答性に優れた空燃比のリッチ化を最優先で行うことにより、プリイグニッションの発生直後にその抑制をより迅速に図れるという利点がある。
また、上記実施形態では、図10に示したように、第1プリイグ回避制御時に、まず空燃比のリッチ化を段階的に行い、最大限にリッチ化した状態でもプリイグニッションが検出された場合に、吸気弁の閉時期を遅角させて有効圧縮比を低下させるようにした。同様に、図11に示される第2プリイグ回避制御では、まず空燃比を段階的にリッチ化し、最大限にリッチ化した状態でもプリイグニッションが検出された場合に、燃料噴射時期を遅角させて燃料の一部を圧縮行程噴射するようにした。これらの構成のように、空燃比のリッチ化を段階的に行うようにすれば、例えばプリイグニッションの程度が軽く、空燃比をわずかにリッチ化するだけでプリイグニッションを回避できるような場合に、必要以上に空燃比をリッチ化してしまうことがなく、燃費性能等の悪化を最小限に抑えることができる。また、空燃比を最大限にリッチ化してもプリイグニッションを回避できないときには、有効圧縮比の低下、もしくは燃料噴射時期の遅角化によりプリイグニッションの抑制を図ることで、空燃比が過度にリッチ化されるのを防止しながら、比較的重度なプリイグニッションであってもこれを確実に回避することができる。
さらに、上記第1プリイグ回避制御(図10)では、上記有効圧縮比の低下(吸気弁の閉時期の遅角化)を段階的に行い、最大限に低下させた状態でもプリイグニッションが検出された場合に、上記燃料噴射時期の遅角化を実行するようにした。このような構成によれば、有効圧縮比が必要以上に低下してエンジン出力が大幅に低下するのを防止しながら、プリイグニッションをより確実に回避できるという利点がある。
また、上記実施形態では、第1または第2プリイグ回避制御から通常運転への復帰時に、燃料噴射時期の遅角化(燃料の一部の圧縮行程噴射)を解除する制御を最優先で実行し、圧縮行程の中期以降まで遅角されていた上記一部の燃料の噴射時期を吸気行程中に戻すようにしたため、プリイグニッションを回避するための制御の後に、できるだけ早期にエミッション性を回復させることができるという利点がある。
例えば、第1プリイグ回避制御の際に、空燃比のリッチ化と、有効圧縮比の低下(吸気弁の閉時期の遅角化)と、燃料噴射時期の遅角化とが全て必要であった場合には、その状態から通常運転に復帰する際に、図12に示すように、まず燃料噴射時期の遅角化を解除して噴射時期を吸気行程中にまで戻し、その後もプリイグニッションが検出されない場合に、吸気弁の閉時期を進角側に戻して有効圧縮比を増大させ、それでもプリイグニッションが検出されない場合に、空燃比をリーン側に戻すようにした。このような構成によれば、プリイグニッションが回避されたときに、燃料噴射時期の遅角化をまず最初に解除してスモークの発生等の可能性を除去することにより、エミッション性が悪化する時間を最小限に抑えることができる。また、その後もプリイグニッションが検出されなければ、次に優先される制御として、吸気弁11の閉時期を進角させて有効圧縮比を増大させることにより、圧縮比の低下に起因したエンジン出力の落ち込みを早期に解消することができる。そして、それでもプリイグニッションが検出されなければ、最終的に空燃比をリーン側に戻すことにより、プリイグニッションの発生が無いことを担保しながら、通常運転への復帰を適正に図ることができる。
一方、第2プリイグ回避制御時において、空燃比のリッチ化と、燃料噴射時期の遅角化とが両方とも必要であった場合には、その状態から通常運転に復帰する際に、図13に示すように、まず燃料噴射時期の遅角化を解除して噴射時期を吸気行程中にまで戻し、それでもプリイグニッションが検出されない場合に、空燃比をリーン側に戻すようにした。この構成による場合でも、エミッション性が悪化する時間を最小限に抑えながら、通常運転への復帰を適正に図ることができる。
なお、上記実施形態では、第1プリイグ回避制御で有効圧縮比を低下させる制御(ステップS23)を行う際には、吸気下死点よりも遅角側でかつ吸気の吹き返しが起きないような時期(例えば吸気下死点の通過後30°CA程度)に設定されている通常の吸気弁11の閉時期を、さらに遅角側に変更する(つまり吸気の吹き返しを起こさせる)ことにより、有効圧縮比を低下させるようにしたが、有効圧縮比を低下させるための方法はこれに限らず、例えば、吸気弁11の閉時期を吸気下死点より進角側まで早めることにより、有効圧縮比を低下させるようにしてもよい。しかしながら、このようにした場合には、吸気弁11の動作タイミングを大幅に変化させる必要が生じ、VVT15の制御量が増えて、制御の応答性が悪化するという問題がある。また、これを回避すべく、通常時の吸気弁11の閉時期を、吸気下死点と略一致するタイミング等に設定することも考えられるが、このようにすると、吸気慣性を十分に利用することができず、エンジン出力の低下を招いてしまう。
このような点から、やはり上記実施形態のように、通常時(プリイグニッションが発生していないとき)の吸気弁11の閉時期を、吸気下死点よりも遅角側に設定し、有効圧縮比を低下させる際には、吸気弁11の閉時期を上記通常時期に対し遅角させるようにした方が、通常時のエンジン出力を十分に確保しつつ、必要時に効率よく有効圧縮比を低下させることができる点で有利である。
また、上記実施形態では、例えば図9(a)に示したように、プリイグニッションが発生していない通常時の燃料の噴射時期を、吸気行程中の1回のみに設定した(つまり吸気行程中の1回に全ての燃料を噴射するようにした)が、通常時の燃料の噴射時期は、吸気行程中であればよく、吸気行程中に複数回に分割して燃料を噴射してもよい。
また、上記実施形態では、プリイグニッションが検出されたときに、必要に応じて燃料噴射時期を遅角させ、本来は吸気行程中に噴射すべき燃料の一部を圧縮行程の中期以降に噴射するとともに、それによってプリイグニッションが回避された場合には、圧縮行程の中期以降まで遅角された上記一部の燃料の噴射時期を、すぐに通常時期(吸気行程中)まで戻すようにしたが、プリイグニッションが回避された後の噴射時期は、少なくとも進角側(吸気行程に近づける側)に戻せばよく、通常時期まで段階的に進角させてもよい。
また、上記実施形態では、イオン電流センサ31を点火プラグ16とは別に設け、このイオン電流センサ31で火炎の発生タイミングを検出することにより、プリイグニッションが起きているか否かを判断するようにしたが、点火プラグ16の中心電極(プラグ電極)に、イオン電流検出用のバイアス電圧を印加するようにすれば、点火プラグ16をイオン電流センサ31として兼用することも可能である。この場合、点火プラグ16から火花が放電される瞬間(つまりプラグ電極に放電用の高電圧が印加される瞬間)は、プラグ電極にバイアス電圧を印加することができず、イオン電流を検出することはできないが、火花放電の瞬間に一致するタイミングでいきなり混合気が自着火することはまずないので、火花放電の前後それぞれにバイアス電圧を印加するようにすれば、ほぼ間違いなくプリイグニッションを検出できると考えられる。
また、上記実施形態では、イオン電流センサ31による火炎の検出タイミングに基づいてプリイグニッションを検出するようにしたが、例えば、ノッキングを検出するときなどに用いられる振動センサ(ノックセンサ)をエンジン本体1に設け、この検出値に基づいてプリイグニッションを検出するようにしてもよい。
もちろん、単に振動センサによる振動レベルだけを調べても、ノッキング(火花点火後に火炎が伝播する過程でエンドガスが自着火する現象)であるのか、プリイグニッション(火花点火による正常の燃焼開始時期よりも前に混合気が自着火する現象)であるのかを区別することはできないため、正確にプリイグニッションを検出することは不可能である。このため、振動センサを用いてプリイグニッションを検出するには、例えば点火時期を意図的に変化させて、それに伴う振動センサの検出値の変化を調べるようにするとよい。これにより、ノッキングとプリイグニッションとを正確に区別して検出することが可能になる。
例えば、エンジンの低回転・高負荷域では、一般に、圧縮上死点もしくはこれよりもやや遅角側で点火プラグ16からの火花点火が行われる。点火時期がこのような時期に設定されたエンジンの低回転・高負荷域で、仮にノッキングが起きたとすると、振動センサによって大きな振動レベルが検出されるが、このとき、点火時期を上記タイミングに対し遅角させた場合には、それによってノッキングが抑制されるため、点火時期の遅角化に伴って振動レベルは低下することになる。これに対し、プリイグニッションが起きている場合には、点火時期と関係なく自着火が起きるため、点火時期を遅角させてもプリイグニッションは抑制されず、振動レベルが低下することはない。そこで、このような性質を利用して、点火時期の遅角化に伴う振動レベルの変化を調べるようにすれば、振動センサを用いてプリイグニッションを検出することができる。