JP5325742B2 - 天然油脂を原料とする有機無機複合コーティング組成物 - Google Patents

天然油脂を原料とする有機無機複合コーティング組成物 Download PDF

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Description

本発明は、天然油脂である天然油または天然ゴムをエポキシ化した材料とポリシラノール化合物とを含む組成物に関する。
従来の化石資源に代わって、バイオマス資源が工業原料として注目されている。その中でも、天然油脂はその製造法が確立されており、安価かつ大量に供給可能であるという特長を有する。また、塗料分野においては、すでに、大豆油や亜麻仁油の天然油を用いたアルキド塗料が知られている。
また、天然油脂が有する不飽和結合は、酸化することによって、反応性のより高いエポキシ基に変性される。このようなエポキシ化された油脂と、籠型構造を有するケイ素化合物とを組み合わせた組成物が開示されている(例えば、特許文献1)。
ここで開示されている組成物は、成形体として優れた性能を発現するものの、コーティング材料として使用した場合、密着性に劣るという問題点を有する。
特開2004−331804号公報
本発明の課題は、密着性に優れた、天然油脂を原料とする有機無機複合コーティング組成物を提供することにある。
本発明の有機無機複合コーティング組成物は、不飽和結合を酸化して得られたエポキシ基を有する、エポキシ化天然油および/またはエポキシ化天然ゴムと、アルコキシシラン化合物を加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物とを含有しており、上記コーティング組成物の樹脂固形分に占める、上記ポリシラノール化合物の割合が、15〜99質量%である。上記エポキシ化天然油は、エポキシ化大豆油および/またはエポキシ化亜麻仁油であってよい。
本発明のコーティング膜は、先のコーティング組成物から得られるものである。
本発明の有機無機複合コーティング組成物は、密着性に優れている。先の特開2004−331804号公報に記載された組成物では、このような密着性は得られない。両者はともに、エポキシ基を有する油脂成分とシロキサン結合からなる化合物とが反応して架橋体を与えるものであり、得られた架橋体の主骨格は同じになるはずである。よって、両者の違いは架橋点の構造にあると考えられる。すなわち、特開2004−331804号公報記載の組成物の架橋点は、エポキシ基同士が開環付加して生じたものであるのに対し、本発明の有機無機複合コーティング組成物においては、エポキシ化された油脂が有するエポキシ基と、ポリシラノール化合物が有するシラノール基とが反応することにより生じた結合が架橋点である。このため、上記エポキシ基とシラノール基とが反応して得られた結合が、密着性付与に効いていると考えられる。
また、本発明の有機無機複合コーティング組成物は、特開2004−331804号公報に記載された組成物に比べて、無機成分の割合を高くすることができる。
本発明の有機無機複合コーティング組成物では、その構成成分であるエポキシ化天然油およびエポキシ化天然ゴムは、化石資源ではない、バイオマス材料である天然油および天然ゴムを原料に用いている。また、別の構成成分であるポリシラノール化合物は炭素含有率が低い化合物であることから、本発明の有機無機複合コーティング組成物は環境に優しい材料であると考えられる。
エポキシ基を有する天然油および天然ゴム
本発明の有機無機複合コーティング組成物は、不飽和結合を酸化して得られたエポキシ基を有するエポキシ化天然油および/または不飽和結合を酸化して得られたエポキシ基を有するエポキシ化天然ゴムを含有している。
上記エポキシ化天然油としては、不飽和結合を含有する動植物油が有する二重結合を酸化してオキシラン環に変性したものが挙げられる。上記不飽和結合を含有する天然の植物油としては、大豆油、亜麻仁油、サフラワー油、ひまわり油、とうもろこし油、綿実油、パーム油、菜種油、オリーブ油、椰子油、ゴマ油、ブドウ種油、桐油、ベニバナ油、ひまし油等が挙げられる。また、上記不飽和結合を含有する天然の動物油としては、魚油および獣油があり、魚油として、ニシン油、イワシ油、クジラ油等が、獣油として、牛脂および豚脂等を挙げることができる。これらは2種以上を混合して用いることが可能である。
上記エポキシ化天然油として好ましいものは、1分子当たりのエポキシ基の量が多い、エポキシ化大豆油およびエポキシ化亜麻仁油である。市販されているエポキシ化大豆油として、ダイセル化学工業社製のダイコックS−300K、花王社製のカポックスS−6、ADEKA社製のO−130P、DIC社製のエポサイザーW−100−EL、新日本理化社製のサンソサイザーE−2000H等を挙げることができる。また、市販されているエポキシ化亜麻仁油として、ダイセル化学工業社製のダイコックL−500、ADEKA社製のO−180A、新日本理化社製のサンソサイザーE−9000H等を挙げることができる。
一方、上記エポキシ化天然ゴムとしては、天然ゴムの主鎖の二重結合を酸化してオキシラン環に変性したものが挙げられる。天然ゴムの分子量は生ゴムの種類や精製方法などで変化するが、一般的に、数万から200万程度である。この天然ゴムの二重結合を酸化してオキシラン環に変性する具体的な方法としては、クロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法等が挙げられる。エポキシ化率は、10%以上であることが好ましい。硬化性を考慮すると、エポキシ化率は高い方が好ましいが、完全にエポキシ化することは困難であるので、エポキシ化天然ゴムは二重結合を有していてもよい。市販されているエポキシ化天然ゴムとしては、Muang Mai Guthrie社製のエポキシプレン25(エポキシ化率:25%)およびエポキシプレン50(エポキシ化率:50%)、三洋貿易社が輸入販売しているENR−25およびENR−50等が挙げられる。
ポリシラノール化合物
本発明の有機無機複合コーティング組成物は、アルコキシシラン化合物を加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物を含有している。アルコキシシリル基は、加水分解反応によってシラノール基となり、このシラノール基同士およびシラノール基と別のアルコキシシリル基との間でそれぞれ縮合反応が生じる。上記加水分解反応および縮合反応が連続的に進行することによって、上記原料アルコキシシランからポリシラノール化合物が得られる。
上記アルコキシシラン化合物としては、1〜4個のアルコキシ基を有する4種類のアルコキシシランモノマーおよびこれらを縮合したオリゴマーが挙げられ、4種類のアルコキシシランモノマーとして具体的には、テトラアルコキシシランモノマー、トリアルコキシシランモノマー、ジアルコキシシランモノマーおよびモノアルコキシシランモノマーが挙げられる。
上記テトラアルコキシシランモノマーとして、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。
上記トリアルコキシシランモノマーとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
上記ジアルコキシシランモノマーとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
上記モノアルコキシシランモノマーとしては、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、ジエチルビニルメトキシシラン、ジメチルプロピルメトキシシラン、ジメチルフェニルメトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジメチルプロピルエトキシシラン、ジメチルフェニルエトキシシラン等が挙げられる。
上記アルコキシシラン化合物は、上記加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物の性質を制御するために、2種類以上のアルコキシシランモノマーを組み合わせて用いることが好ましい。また、上記加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物の上記エポキシ化天然油およびエポキシ化天然ゴムとの相溶性およびポリシラノール化合物の硬化反応性を合わせて考慮すると、上記アルコキシシラン化合物はトリアルコキシシランモノマーを含んでいることが好ましい。上記アルコキシシラン化合物がトリアルコキシシランモノマーを含む場合、その割合は、アルコキシシラン化合物の80〜100モル%であることが好ましい。
上記トリアルコキシシランモノマーが有している、珪素原子に直接炭素原子が結合している有機基は、その炭素数を4〜10とすることにより、エポキシ化天然油およびエポキシ化天然ゴムとの相溶性をさらに高くすることができる。上記炭素数が10を超えるとポリシラノール化合物の溶剤への溶解性が低下するおそれがある。上記炭素数4〜10の有機基を有するトリアルコキシシランモノマーを使用する場合、その量は特に限定されないが、例えば、トリアルコキシシランモノマーのうち1〜100モル%とすることができる。
なお、エポキシ基を含む有機基を有するアルコキシシランモノマーを用いることで、エポキシ基を有するポリシラノール化合物が得ることができる。本発明の有機無機複合コーティング組成物は、エポキシ基とシラノール基との反応によって硬化が進行するため、エポキシ基を含む有機基を有するアルコキシシランモノマーは単に硬化させるためには必要ではない。
上記アルコキシシラン化合物の加水分解および縮合は、一般的には、上記アルコキシシラン化合物を極性有機溶媒に溶解し、水および触媒を加えて行われる。
上記極性有機溶媒としては、上記アルコキシシラン化合物、水ならびに、その加水分解および縮合した物を溶解することができるものを用いることが好ましい。
上記極性有機溶媒として、親水性有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としてはアルコール、グリコール、グリコールのエーテルまたはエステル、ケトン等が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等が好ましく用いられる。
上記親水性有機溶媒に対して、親水性有機溶媒でない有機溶媒を併用して、溶解性を制御することができる。上記親水性有機溶媒でない有機溶媒としては、メチルイソブチルケトン、イソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジエチレングリコールジブチルエーテル等が挙げられる他、塗料に添加される成膜助剤として知られている、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(チッソ社製の製品名「CS−12」)を使用することもできる。なお、上記親水性有機溶媒の水への溶解度(20℃)としては、好ましくは5g/100gHO以上、より好ましくは20g/100gHO以上、さらに好ましくは100g/100gHO以上である。
上記極性有機溶媒の量は、アルコキシシラン化合物の質量に対して、0.5〜5倍の量であることが好ましく、上限の量が2倍であることがさらに好ましい。
上記アルコキシシラン化合物の加水分解および縮合に用いられる水の量は、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシシリル基のモル数の50〜100%の量とすることが好ましい。
上記原料アルコキシシランの加水分解および縮合反応には、触媒が用いられる。触媒としては、縮合が適切な度合いで進行するため、酸触媒を用いることが好ましい。酸触媒としては、アルコキシシリル基の加水分解反応に対して触媒作用を有するプロトン酸類やルイス酸類であれば、任意の適切なものを使用することができる。具体的には、プロトン酸として、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸や酢酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が、ルイス酸として、例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシドまたはキレート化合物等が挙げられる。上記キレート化合物の具体例として、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(n−プロピルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(n−ブチルアセテート)、アルミニウムモノエチルアセトアセテートビス(アセチルアセトネート)、トリス(プロピオニルアセトネート)アルミニウム、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(プロピオニルアセトネート)、アルミニウムトリス(プロピオナート)等のアルミニウム系のもの、チタニウムトリス(エチルアセトアセテート、チタニウムトリス(アセチルアセトネート)等のチタン系のもの、ジルコニウムテトラキス(n−プロピルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(エチルアセトアセテート)等のジルコニウム系のものを挙げることができる。
上記アルコキシシラン化合物が、エポキシ基を有するアルコキシシランモノマーを含む場合、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸を用いることによって、加水分解および縮合の工程においてエポキシ基を残存させることができる。また、アルミニウム系触媒を用いることで縮合反応を制御することができる。
上記触媒の使用量としては、アルコキシシラン化合物が有するアルコキシシリル基の加水分解反応に対して触媒作用を発現する量以上であればよい。具体的には、上記アルコキシシラン化合物の質量に対して、0.1ppm〜10%であることが好ましい。より好ましい上限値は5%である。
上記アルコキシシラン化合物の加水分解反応および縮合反応の温度は、室温〜約150℃の範囲で行うことが好ましい。室温で加水分解反応を先に進めた後に加温して、縮合反応を進めたり、最初から加熱して加水分解反応と縮合反応とを同時に進めたりすることが可能である。また、必要に応じて、加水分解および縮合で生じたアルコールや水を系外に留去することも可能である。また、上記留去は、反応終了後、濃縮を行うことによっても行われる。
上記アルコキシシラン化合物の加水分解および縮合は、赤外スペクトル(IR)または核磁気共鳴分析(H−NMR)で、アルコキシシリル基に基づくピークが観察されなくなるまで行われることが好ましい。時間はその条件によって異なり、特に限定されるものではないが、約1〜10時間で行うことが可能である。
このようにして、本発明の有機無機複合コーティング組成物に用いられるポリシラノール化合物が得られる。
上記ポリシラノール化合物は、上記アルコキシシラン化合物が加水分解および縮合したものであり、SiO結合で構成され、複数のシラノール基を有している。アルコキシシラン化合物として、3個以上のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランモノマーおよびトリアルコキシシランモノマーを用いた場合、上記ポリシラノール化合物は、分岐部を有するものになる。この分岐部が存在することによって、上記ポリシラノール化合物は直鎖状の構造以外に、分岐状、環状、梯子状、籠状等の構造を取り得る。さらに上記ポリシラノール化合物は、これらの構造をそれぞれ構造単位として、複数個の構造単位が組み合わさった構造を取り得る。
また、上記ポリシラノール化合物は、上記アルコキシシラン化合物として用いたアルコキシシランモノマーが有していた、珪素原子に直接炭素原子が結合している有機基を有している。上記有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ビニル基、グリシドキシプロピル基、エポキシシクロヘキシルエチル基、メタクリロキシプロピル基、アクリロキシプロピル基、メルカプトプロピル基等が挙げられる。
上記アルコキシシラン化合物が有していたアルコキシシリル基は、加水分解反応と縮合反応とによって消失するため、上記ポリシラノール化合物はアルコキシシリル基を基本的に有していない。しかし、反応条件等によって、アルコキシシリル基が残存した場合、その個数は、加水分解および縮合に用いたアルコキシシラン化合物が有するアルコキシシリル基数の10%以内であることが好ましい。
上記ポリシラノール化合物の数平均分子量は、上記アルコキシシラン化合物が含んでいるアルコキシシランモノマーが有している、珪素原子に直接炭素原子が結合している有機基の種類によって異なるが、200〜100000であることが好ましい。数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の分子量等を用いて求めることができる。また、分子量測定の結果と用いたアルコキシシランモノマーの種類とから、ポリシラノール化合物の縮合度を求めることができる。ポリシラノール化合物の縮合度は、平均で3〜2000であることが好ましい。3未満だと塗膜の形成が困難であり、2000を超えると粘度が高く取り扱いにくくなる。
上記ポリシラノール化合物は、有機溶媒の溶液として用いられる。上記有機溶媒としては、先の加水分解および縮合で使用した溶媒であってよいし、加水分解および縮合後に、必要に応じて濃縮を行った後に、別の種類の有機溶媒を加えてもよい。なお、上記ポリシラノール化合物の固形分を直接求めることは困難である。このため、本明細書では、アルコキシシランが有していたアルコキシシリル基が全てシラノール基に加水分解し、かつ、縮合は起こらないものとした際に得られる構造を基にして固形分を算出し、これを適用することとする。このようにして計算で得られる上記ポリシラノール化合物の固形分は、20〜90質量%であることが好ましい。
有機無機複合コーティング組成物
本発明の有機無機複合コーティング組成物は、先のエポキシ化天然油および/またはエポキシ化天然ゴムとポリシラノール化合物とを含んでいる。本発明の有機無機複合コーティング組成物の樹脂固形分に占めるポリシラノール化合物の割合は、15〜99質量%であり、好ましくは20〜95質量%である。
本発明の有機無機複合コーティング組成物における上記エポキシ化天然油および/またはエポキシ化天然ゴムとポリシラノール化合物との比率は、固形分比(「エポキシ化天然油および/またはエポキシ化天然ゴム」/「ポリシラノール化合物」)で1/99〜85/15であることが好ましい。1/99未満だとコーティング膜にクラックが発生するおそれがあり、85/15を超えると硬化性が不十分となるおそれがある。より好ましい下限値は5/95であり、より好ましい上限値は80/20である。なお、本発明の有機無機複合コーティング組成物における樹脂固形分は、薄膜化およびハイソリッド化の観点から、1〜90質量%とすることができる。
本発明の有機無機複合コーティング組成物は、硬化するための触媒を含んでいる。上記有機無機複合コーティング組成物は、エポキシ基およびシラノール基を有しているので、上記硬化触媒としては、エポキシ基とシラノール基との反応に対して触媒作用を発現するものが用いられる。具体的には、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシドまたはキレート化合物が挙げられる。これらの中で、組成物の可使時間の点で、アルミニウムのキレート化合物を用いることが好ましい。上記硬化触媒の量は、その機能が発現する量であれば、特に限定されないが、通常、樹脂固形分に対して、0.1〜10質量%とすることができる。
また、本発明の有機無機複合コーティング組成物は、上記エポキシ基およびシラノール基以外の反応性基を含む場合がある。上記ポリシラノール化合物が有するものとして、加水分解縮合に用いたアルコキシシランモノマーが有している上記有機基由来のものとして、ビニル基、グリシドキシプロピル基、エポキシシクロヘキシルエチル基、メタクリロキシプロピル基、アクリロキシプロピル基、メルカプトプロピル基等が挙げられる。一方、上記エポキシ化天然油および/またはエポキシ化天然ゴムでは、酸化されなかった二重結合が挙げられる。
上記ポリシラノール化合物がグリシドキシプロピル基やエポキシシクロヘキシルエチル基を有する場合、エポキシ化天然油および/またはエポキシ化天然ゴムがエポキシ基を有するので、エポキシ基の開環付加重合に作用する触媒を用いることができる。また、上記ポリシラノール化合物がビニル基、メタクリロキシプロピル基やアクリロキシプロピル基を有し、エポキシ化天然油および/またはエポキシ化天然ゴムが二重結合を有する場合、酸化重合反応に作用する触媒を用いることができる。
このほか、本発明の有機無機複合コーティング組成物は、その他の成分として、顔料等の着色剤、艶消し剤、表面調整剤、消泡剤、可塑剤、造膜助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、その他の溶剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、その添加による機能を発現できるとともに、コーティング組成物およびそれから得られるコーティング膜の特性に悪影響を及ぼさない量で使用されることが一般的である。
本発明の有機無機複合コーティング組成物の製造は、上記エポキシ化天然油および/またはエポキシ化天然ゴム、ポリシラノール化合物、触媒、ならびにその他の成分を混合することによって得ることができる。なお、ポリシラノール化合物の溶液の中に、加水分解縮合の触媒として用いられた硬化触媒が所定量含まれている場合、追加的に混合する必要はない。
本発明の有機無機複合コーティング組成物の計算から求められる固形分は、1〜90質量%であることが好ましい。1質量%未満では、得られるコーティング膜の厚みが不十分であり、90質量%を超えると、コーティング組成物の安定性や塗装作業性に問題が生じるおそれがある。固形分濃度は、例えば、上述の有機溶媒を添加または除去することにより所望の値に調整することができる。
本発明の有機無機複合コーティング組成物は、種々の基材に対して適用されうる。コーティング膜の形成は、刷毛、スプレー、ローラー、各種コーター等を用いて行いうる。コーティングの条件は特に限定されないが、例えば、乾燥膜厚1〜30μmになるように塗装を行い、60〜150℃で10〜120分間加熱することで行うことができる。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
製造例1 ポリシラノール化合物Aの製造
アルコキシシラン化合物として、トリアルコキシシランモノマーである、メチルトリメトキシシラン136部およびフェニルトリメトキシラン198部をイソプロピルアルコール270部とメチルイソブチルケトン135部の混合溶媒に溶解した。
この溶液にアルミキレートD(商品名、川研ファインケミカル社製のアルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート)を1.7部添加し、攪拌しながらイオン交換水108部を滴下した。40℃で2時間攪拌したあと、加熱攪拌しながら溶媒を留去して、ポリシラノール化合物Aの溶液273部を得た。IRによる分析で、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。また、メトキシシリル基が全て加水分解し、縮合は進行しなかったものとして計算される固形分は85質量%であった。
製造例2 ポリシラノール化合物Bの製造
フェニルトリメトキシシラン41.6部をイソプロピルアルコール28部とメチルイソブチルケトン14部の混合溶媒に溶解した。
この溶液にアルミキレートDを0.12部添加し、攪拌しながらイオン交換水11.4部を滴下した。40℃で2時間攪拌したあと、加熱攪拌しながら溶媒を留去して、ポリシラノール化合物Bの溶液41部を得た。IRによる分析で、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。また、メトキシシリル基が全て加水分解し、縮合は進行しなかったものとして計算される固形分は80質量%であった。
製造例3 ポリシラノール化合物Cの製造
デシルトリメトキシシラン2.5部およびフェニルトリメトキシラン36部をイソプロピルアルコール30部とメチルイソブチルケトン15部の混合溶媒に溶解した。
この溶液にアルミキレートDを0.06部添加し、攪拌しながらイオン交換水10.3部を滴下した。40℃で2時間攪拌したあと、加熱攪拌しながら溶媒を留去して、ポリシラノール化合物Cの溶液38部を得た。IRによる分析で、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。また、メトキシシリル基が全て加水分解し、縮合は進行しなかったものとして計算される固形分は80質量%であった。
実施例1
容器に、製造例1で得られたポリシラノール化合物Aの溶液10部、新日本理化社製のエポキシ化大豆油(商品名「サンソサイザーE−2000H」)0.94部、メチルイソブチルケトン(MIBK)7.3部、アルミキレートD0.62部(樹脂固形分に対して5質量%相当)を加えた。これをタッチミキサーで混合して均一化して、有機無機複合コーティング組成物を得た。
得られた有機無機複合コーティング組成物を、5cm×5cmのブリキ板に、スピンコーターを用いて塗装し、100℃で10分乾燥させて、コーティング膜を得た。
得られたコーティング膜について、塗装外観を目視で評価するとともに、膜厚、鉛筆硬度および密着性を以下のようにして測定した。結果を表1に示す。
<膜厚>
ケット科学研究所製電磁膜厚計LH300Cを用いて測定した。
<鉛筆硬度>
JIS K5600−5−4に基づき、コーテック社製の引っかき硬度(鉛筆法)試験器を用いて、引っかき試験を実施した。
<密着性>
JIS K5600−5−6に基づいて、クロスカット試験を行った。20/25以上を合格とした。
実施例2〜4
エポキシ化大豆油とポリシラノール化合物Aとの割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、有機無機複合コーティング組成物およびコーティング膜を得た。また、得られたコーティング膜について、塗装外観を目視で評価するとともに、膜厚、鉛筆硬度および密着性を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
実施例5〜8
表1に示すように、エポキシ化大豆油の代わりに、新日本理化社製のエポキシ化亜麻仁油(商品名「サンソサイザーE−9000H」)を用いた以外は、実施例1〜4と同様にして、有機無機複合コーティング組成物およびコーティング膜を得た。また、得られたコーティング膜について、塗装外観を目視で評価するとともに、膜厚、鉛筆硬度および密着性を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
実施例9〜11
表1に示すようにエポキシ化大豆油の代わりに、三洋貿易社が輸入販売している、エポキシ化天然ゴム(商品名「ENR−25」)をトルエンに固形分濃度5%で溶解したものを用いたこと、および、実施例10および11ではポリシラノール化合物Aの代わりに、各々ポリシラノール化合物BおよびCを用い、さらに各々の割合を表1のとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、有機無機複合コーティング組成物およびコーティング膜を得た。また、得られたコーティング膜について、塗装外観を目視で評価するとともに、膜厚、鉛筆硬度および密着性を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
比較例1および2
エポキシ化大豆油またはエポキシ化亜麻仁油とポリシラノール化合物との割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較用有機無機複合コーティング組成物および比較用コーティング膜を得た。また、得られた比較用コーティング膜について、塗装外観を目視で評価するとともに、膜厚、鉛筆硬度および密着性を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
Figure 0005325742
本発明の有機無機複合コーティング組成物から得られたコーティング膜は、いずれも密着性に優れていた。これに対して、コーティング組成物の樹脂固形分に占めるポリシラノール化合物の割合が低い場合には、膜に濁りが見られ、本発明のコーティング組成物に比べて硬化性および密着性が明らかに劣っていた。
本発明の有機無機複合コーティング組成物は、物体の表面を保護する必要のある分野等で好適に用いられる。

Claims (3)

  1. 不飽和結合を酸化して得られたエポキシ基を有する、エポキシ化天然油および/またはエポキシ化天然ゴムと、アルコキシシラン化合物を加水分解および縮合して得られるポリシラノール化合物とを含有するコーティング組成物であって、
    前記コーティング組成物の樹脂固形分に占める前記ポリシラノール化合物の割合が、15〜99質量%である有機無機複合コーティング組成物。
  2. 前記エポキシ化天然油が、エポキシ化大豆油および/またはエポキシ化亜麻仁油である請求項1記載の有機無機複合コーティング組成物。
  3. 請求項1または2に記載のコーティング組成物から得られるコーティング膜。
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