JP5325345B2 - 線維筋痛症の診断剤 - Google Patents

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Description

本発明は,線維筋痛症の診断剤,診断方法及び治療剤に関する。より詳しく説明すると,本発明は,抗VGKC複合体抗体が線維筋痛症の一因であるという新規な知見に基づくものである。そして,本発明は,この抗VGKC複合体抗体に関連する線維筋痛症を診断するための診断剤,診断方法及び,この抗VGKC複合体抗体に関連する線維筋痛症の治療剤に関する。
線維筋痛症の診断方法として,米国リウマチ学会が1990年に提唱した分類基準が知られている。また,下記非特許文献1には,J−FIQ(日本版FIQ;Fibromyalgia Impact Questionaire)に基づく線維筋痛症の判定方法が提案されている。また,特許3630689号公報(特許文献1)には,抗ポリマー抗体を検出することで線維筋痛症に罹患しているか否かを診断する方法が開示されている。
線維筋痛症は,様々な原因により惹起される疾患である。このため,ある線維筋痛症の患者には有効な治療薬が,他の線維筋痛症の患者には全く効果がない事例も多々存在する。そこで,線維筋痛症に罹患しているか否かを診断するだけではなく,線維筋痛症の原因やタイプを適切に診断する方法が望まれる。
一方,特開2009−007278号公報(特許文献2)に示されるように,ある種の線維筋痛症に罹患した患者には,抗うつ薬が有効とされる。また,この公報にも開示されるように,一部の線維筋痛症患者の治療には,抗けいれん薬や漢方薬も有効とされている。
なお,アイザックス症候群(Isaacs Syndrome)は,たとえば,生体内にカリウムチャネルに影響を与える抗体が存在することにより,神経の興奮を抑制しにくくなり,けいれんが持続する症状である。アイザックス症候群に対して,電位依存性カリウムチャネル(VGKC)の選択的な阻害剤が有効であることが知られている(たとえば,特表2009−502206号公報)。
特許3630689号公報 特開2009−007278号公報
厚生労働研究班「線維筋痛症診察ガイドライン2009」財団法人日本リウマチ財団2010年3月31日発行58頁
上記の通り,線維筋痛症の原因やタイプを適切に診断する方法や,そのタイプに応じた治療方法の確立が望まれる。
そこで,本発明は,ある種の線維筋痛症を適切に診断するための診断剤,診断方法,及びそのタイプに対する治療剤を提供することを目的とする。
本発明は,基本的には,ある種の線維筋痛症は,電位依存性カリウムチャネル(VGKC)の複合体に対する抗体(抗VGKC複合体抗体)が原因であるという実施例による知見に基づくものである。そして,本発明者らは,抗VGKC複合体抗体が原因である線維筋痛症に対して,抗けいれん薬が有効であることを実施例により解明した。
すなわち,本発明の第1の側面は,抗VGKC複合体抗体を検出する試薬を含む線維筋痛症の診断剤に関する。この診断剤は,電位依存性カリウムチャネルの複合体に対する抗体(抗VGKC複合体抗体)と関連する線維筋痛症の診断剤である。そして,この診断剤は,抗VGKC複合体抗体を検出する試薬を含むため,線維筋痛症の原因が抗VGKC複合体抗体である患者に対して,線維筋痛症の原因を解明できる。これにより,後述するとおり,このタイプの線維筋痛症に対する適切な処置を施すことができることとなる。
本発明の第2の側面は,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症の診断方法に関する。この方法は,基本的には先に説明した診断剤を用いて線維筋痛症患者の原因が,抗VGKC複合体抗体であるか否かを判定する方法である。この方法は,たとえば,抗VGKC複合体抗体を検出する試薬を用いて,患者の生体試料(たとえば,血清)に,抗VGKC複合体抗体が所定濃度以上含まれるか否か判定する。
本発明の第3の側面は,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症の治療剤に関する。この治療剤は,抗けいれん薬を有効成分として有効量含む。具体的な抗けいれん薬は,ガバペンチン又はクロナゼパムである。後述する実施例で実証されたとおり,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症患者に対して,抗けいれん薬を投与したところ,線維筋痛症の症状が著しく改善された。よって,抗けいれん薬を有効成分として含む治療剤は,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症の治療剤として有効であると考えられる。この治療剤は,血清中を用いた抗VGKC複合体抗体濃度の測定において抗VGKC複合体抗体濃度が100pM以上の線維筋痛症患者に対する疼痛改善に用いられる治療剤として特に有効である。
本発明は,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症を診断するための診断剤,診断方法,及び抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症に対する治療剤を提供できる。
図1は,線維筋痛症患者の抗VGKC複合体抗体濃度を示す図である。 図2は,抗VGKC複合体抗体陽性線維筋痛症患者における抗けいれん剤による痛みの軽減実験(VASによる評価)を示すグラフである。
抗VGKC複合体抗体関連線維筋痛症の診断剤
先に説明したとおり,本発明の第1の側面は,抗VGKC複合体抗体を検出する試薬を含む線維筋痛症の診断剤に関する。この診断剤は,電位依存性カリウムチャネルの複合体に対する抗体と関連する線維筋痛症の診断剤である。抗VGKC複合体抗体の例は,抗VGKC抗体の他,VGKC及びVGKCに結合したタンパク質の複合体に対する抗体である。抗VGKC複合体抗体は,VGKCと,ブンガロトキシンを含むカリウムチャネル阻害剤との複合体に対する抗体であってもよいし,VGKC及びVGKCに結合したタンパク質と,ブンガロトキシンを含むカリウムチャネル阻害剤との複合体に対する抗体であってもよい。この診断剤は,線維筋痛症の原因が抗VGKC複合体抗体と関連する患者に対して,線維筋痛症の原因を解明でき,治療における指針を与えることができる。
従来,抗VGKC複合体抗体は,患者数が極めて少ないアイザックス症候群と関連することが知られていた。このため,抗VGKC複合体抗体の診断剤の開発は進められていなかった。一方,実施例に示されるとおり,抗VGKC複合体抗体は,特定の線維筋痛症患者において特異的に発現している。このため,抗VGKC複合体抗体は,線維筋痛症の特異的マーカーとなる。一方,抗VGKC複合体抗体を直接検出するための試薬は現時点では開発されていない。そこで,カリウムチャネル阻害剤であるブンガロトキシン(bungarotoxin)をVGKCに結合させる。すると,VGKCとブンガロトキシンとからなる複合体,又はVGKC,VGKCと結合したタンパク質及びブンガロトキシンを含む複合体が得られる。そこで,ブンガロトキシンに対する抗体を用いて,VGKC複合体を検出すればよい。すなわち,VGKCの複合体の濃度を,ブンガロトキシンに対する抗体の濃度を用いて測定すればよい。このため抗VGKC複合体抗体の濃度を測定することで,抗VGKC抗体又はVGKCと結合しVGKC複合体を形成するタンパク質の濃度(すなわち血清中のVGKC複合体の濃度)を推測することができる。すなわち,抗VGKC複合体抗体を検出するための試薬の例は,VGKCと結合させるためのブンガロトキシンと,ブンガロトキシンに対する抗体と,ブンガロトキシンに対する抗体の濃度を測定するための試薬とを含むものである。これらを含む試薬は,本発明にいう抗VGKC複合体抗体を検出するための試薬の一例である。そして,そのような抗VGKC複合体抗体を検出するための試薬を含む診断剤は,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症の診断剤として有効である。
抗VGKC複合体抗体関連線維筋痛症の診断方法
本発明の第2の側面は,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症の診断方法に関する。この方法は,基本的には先に説明した診断剤を用いて,線維筋痛症患者の原因分子が抗VGKC複合体抗体であるか否か判定する方法である。
この方法は,たとえば,抗VGKC複合体抗体を検出する試薬を用いて,患者の生体試料(たとえば,血清)に,抗VGKC複合体抗体が所定濃度以上含まれるか否か判定する。なお,この方法は,先に説明したとおり,VGKCとブンガロトキシンとの複合体,又はVGKCとあるタンパク質を含むVGKC複合体とブンガロトキシンとの複合体を形成させ,そのうえで抗VGKC複合体抗体の濃度を検出することで,抗VGKC複合体抗体が所定濃度以上含まれるか否か判定するものであってもよい。この方法に先立って,たとえば,J−FIQに基づいて線維筋痛症に罹患しているか否か判定してもよい。そして,線維筋痛症に罹患した患者の生体試料を採取して,抗VGKC複合体抗体の濃度を分析してもよい。なお,対照実験と比較して抗VGKC複合体抗体の濃度が一定比以上か否か判断してもよい。抗VGKC複合体抗体に関する線維筋痛症か否かの規準となる抗VGKC複合体抗体の濃度の例は,100pMである。
抗VGKC複合体抗体の濃度を検出するための生体試料(検体試料)は,血清に限定されない。この生体試料の血清以外の例は,ずい液である。また,たとえば,抗VGKC複合体抗体又はVGKCを用いた免疫学的方法を用いて,抗VGKC複合体抗体を検出できる。免疫学的方法の例は,ウェスタンブロット法,ドットブロット法,スロットブロット法,ELISA法,及びRIA法である。これらの方法は,既に知られている。VGKCは,既に知られている。たとえば,アフィニティークロマトグラフィー,又はSDS−PAGEを用いてVGKCを単離し,精製することで,抗VGKC複合体抗体を検出するためのVGKCを得ることができる。
抗VGKC複合体抗体は,公知である。このため,本発明は,公知の抗VGKC複合体抗体を用いることができる。また,抗VGKC複合体抗体を,バイオテクノロジーの分野において既に知られた方法により産生してもよい。たとえば,抗VGKC複合体抗体を産生する抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを樹立し,このハイブリドーマから得られるモノクローナル抗体を抗VGKC複合体抗体としてもよい。
抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症の治療剤
本発明の第3の側面は,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症の治療剤に関する。この治療剤は,たとえば,先に説明した診断方法により,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症に罹患していると判断された患者に対して処方されてもよい。線維筋痛症は,様々な病因が考えられる。後述する実施例により実証された通り,本発明の治療剤は,鬱型でない線維筋痛症の治療に有効である。このような線維筋痛症の改善例は,疼痛の改善である。本発明の治療剤は,抗VGKC複合体抗体陽性線維筋痛症患者(血清を用いた抗VGKC複合体抗体の濃度が100pM以上である線維筋痛症患者)に投与され,抗VGKC複合体抗体陽性線維筋痛症患者の症状の改善に有効である。
この治療剤は,抗けいれん薬を有効成分として有効量含む。抗けいれん薬の例は,ガバペンチン,フェニトイン,メフェニトイン,エトトイン,フェノバルビタール,メフォバルビタール(mephobarbital),プリミドン,カルバマゼピン,エトスクシミド,メトスクシミド,フェンスクシミド,バルプロ酸,トリメタジオン,パラメタジオン,フェナセミド,アセタゾールアミド,プロガビド,ジアゼパム,ロラゼパム,クロナゼパム,クロラゼプ酸塩及びニトラゼパムである。本発明では,後述する実施例で実証されたとおり,抗けいれん薬として,ガバペンチン又はクロナゼパムを好ましく用いることができる。後述する実施例で実証されたとおり,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症患者に対して,抗けいれん薬を投与したところ,線維筋痛症の症状が著しく改善された。よって,抗けいれん薬を有効成分として含む治療剤は,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症の治療剤として有効であると考えられる。以下では,ガバペンチン及びクロナゼパムを中心に本発明の治療剤について説明する。
ガバペンチン又はクロナゼパムはプロドラックであってもよい。ガバペンチン又はクロナゼパムは,薬学的に許容される塩又は溶媒和物であってもよい。
ガバペンチンの化学名は(1−アミノメチルシクロヘキシル)酢酸である。ガバペンチンの薬理的に許容される塩の例は,無機酸塩(塩酸塩,硫酸塩など),無機塩基塩(ナトリウム塩,カリウム塩,カルシウム塩など),および有機酸塩(酢酸塩,安息香酸塩,マレイン酸塩,酒石酸塩,フマル酸塩,メシル酸塩など)である。ガパペンチンまたはその薬理的に許容される塩は常法にしたがって製造しても良いし,市販のものを入手するようにしても良い。市販のカバペンチンの例は,ガパペン錠(商品名,有効成分:ガバペンチン,ファイザー株式会社)である。
クロナゼパムの例は,大日本住友製薬社の「ランドセン」及び中外製薬の「リボトリール」である。クロナゼパムは,ベンゾジアゼピン誘導体の一種である。
本発明の薬剤が,ガバペンチン又はクロナゼパムを有効成分として含む場合,有効成分の投与量は,患者の体重,年齢,性別,疾患の程度に応じて適宜定めればよい。例えば,成人に対する投与量は,経口投与で0.5〜30mg/日,好ましくは5〜20mg/日の範囲である。1日投与量を2〜4回に分けて投与するのが好ましい。また,反復投与するのが好ましく,例えば,4週間以上,継続使用するのがよい。
本発明の薬剤は,有効成分を,必要な賦形剤,崩壊剤,結合剤,滑沢剤,希釈剤,緩衝剤,等張化剤,防腐剤,湿潤剤,乳化剤,分散剤,安定化剤,溶解補助剤等の製剤担体と適宜混合または希釈・溶解し,常法により種々の剤形のものを製造することができる。また,市販製剤を使用することもできる。
本発明の薬剤の投与形態は,たとえば,散剤,顆粒剤,細粒剤,ドライシロップ剤,錠剤,カプセル剤等の経口投与剤;注射剤,貼付剤,坐剤等の非経口投与剤である。
本発明は,先に説明した診断方法に従って,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症に罹患しているか判断する工程,及び抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症に罹患している判断された患者に対して,抗けいれん薬を投与する工程を含む,抗VGKC複合体抗体と関連する線維筋痛症の治療方法をも提供する。この患者の例は,患者の血清を用いてVGKC複合体を生成した場合の抗VGKC複合体抗体濃度が100pM以上の線維筋痛症患者である。すなわち,本発明は,患者の血清を用いた抗VGKC複合体抗体濃度の測定において抗VGKC複合体抗体濃度が100pM以上の線維筋痛症患者に対して,ガバペンチン又はクロナゼパムを投与する工程を含む,線維筋痛症の治療方法をも提供する。特に本発明は,この患者の疼痛の改善に有効である。
線維筋痛症患者の血清中における抗VGKC複合体抗体濃度
線維筋痛症患者22名(鬱型6名及び鬱型でない患者16名)及び健常者13名から血清を採取し,ブンガロトキシンを用いてVGKCとの複合体,又はVGKCとあるタンパク質とブンガロトキシンとの複合体を形成し,抗VGKC複合体抗体の濃度を測定した。抗VGKC複合体抗体の濃度が100pM以上を陽性,400pM以上を強陽性とした。その結果を図1に示す。図1に示される例では,線維筋痛症患者をFMとして示している。
図1では,健常者および鬱型の線維筋痛症患者の血清からは抗VGKC複合体抗体を含む複合抗体は検出されなかった。一方,鬱型でない線維筋痛症患者については,5名の患者の血清から抗VGKC複合体抗体が検出された。
線維筋痛症は,原因不明の疾患である。この実験結果により,線維筋痛症の一因として,抗VGKC複合体抗体が考えられる。このため,線維筋痛症患者に含まれる抗VGKC複合体抗体の濃度を測定することで,抗VGKC複合体抗体陽性線維筋痛症患者の病因を解明することができると考えられる。
抗VGKC複合体抗体陽性線維筋痛症患者における抗けいれん剤による痛みの軽減実験
抗VGKC複合体抗体陽性線維筋痛症患者には,抗けいれん剤により疼痛を軽減できると考えられる。そこで,実施例1における抗VGKC複合体抗体陽性線維筋痛症患者4名のうち3名(100pMを超える濃度の抗VGKC複合体抗体が検出された患者)に対し,抗VGKC複合体抗体陽性線維筋痛症患者における抗けいれん剤による痛みの軽減実験を行った。これらの患者は,鬱型でない線維筋痛症患者である。
患者Aに対し,カバペンチン900mg及びクロナゼパム0.5mgを経口投与した。その結果,患者疼痛VASの値が,投薬前を100としたところ40に軽減された。
患者Bに対し,クロナゼパム1.5mgを経口投与した。その結果,患者疼痛VASの値が,投薬前を100としたところ30に軽減された。
患者Cに対し,カバペンチン1600mg及びクロナゼパム1.0mgを経口投与した。その結果,患者疼痛VASの値が,投薬前を100としたところ20に軽減された。
これらの結果から,抗VGKC複合体抗体陽性線維筋痛症患者には,抗けいれん剤により疼痛を著しく軽減できることが分かった。このように本発明は,原因不明の線維筋痛症に対して,抗VGKC複合体抗体が病因であることを見出した場合,適切な対処を行うことができることとなる。
本発明は,疾患診断サービス業,及び製薬業において利用されうる。

Claims (1)

  1. 電位依存性カリウムチャネルの複合体に結合するタンパク質と,前記タンパク質と結合した電位依存性カリウムチャネルの複合体に対する抗体を検出する試薬を含む,電位依存性カリウムチャネルに対する抗体と関連する線維筋痛症の診断剤。
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