JP5322340B2 - 直流を用いた変圧器鉄心の消磁方法およびその装置 - Google Patents

直流を用いた変圧器鉄心の消磁方法およびその装置 Download PDF

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Description

本発明は、直流を用いた変圧器鉄心の消磁方法およびその装置に関するもので、例えば、柱上変圧器などの配電用変圧器の鉄心を消磁する技術に関する。
変電所等の配電施設から家庭や工場に電力を配電する架空配電線路には柱上変圧器が設けられている。この柱上変圧器は、高圧配電線路に印加された交流6.6[kV]の高圧電力を、家庭や工場で利用可能な100[V]や200[V]の低圧電力に変成(変圧)する。かかる柱上変圧器が故障した場合、異常電圧や異常電流が生じ、保護回路によって電力の供給が切断される。
そこで、配電線事故が発生した場合の事故点を特定するステップとして事故範囲を絞り込んだ後に、変圧器故障判定器(トランスチェッカー)を用いて個々の変圧器の故障判定を実施して変圧器の健全性を一つ一つ確認し、事故点を特定する方法が一般的となっている。
この種の従来の変圧器故障判定器の動作原理は次の通りである。まず、内部で断線状態となった変圧器は、端子の電気抵抗が無限大、あるいはそれに非常に近い状態となっている。このような状態の変圧器の故障を検出するには、直流電圧を印加し、巻線抵抗を測定することにより可能となる。
また、上記柱上変圧器における故障のうち、変圧器内部で生じた巻線間の短絡(レアショート:layer short、ターンショート:turn short)状態は、変圧器内部に閉回路が構築されている。このような状態の変圧器に交流電圧を印加すると、無負荷状態であっても大きな電流が流れる。この原理を利用してレアショート等の巻線間短絡を検出することが可能となる。一例としては、変圧器の二次側に200〜600Hzの周波数範囲の交流電圧を印加し、その励磁電流と所定の固定しきい値とを比較して巻線間短絡の有無を判定する技術が知られている(例えば、特許文献1)。これは、巻線間に短絡が生じると励磁電流が大きくなるといった特性を利用し、特に200〜600Hzの周波数範囲においてしきい値より励磁電流が小さい変圧器を正常な変圧器と、しきい値より大きい変圧器を巻線間が短絡している変圧器と判定する技術である。
電力の配電設備において高圧カットアウトヒューズを溶断させる柱上変圧器の故障は、大半が巻線間短絡を伴う。従って、その初期判定において、異常な変圧器を正常と、または正常な変圧器を異常と誤判定すると、後の故障箇所の特定に影響し、現場作業における安全性、効率性に問題をきたしてしまう。従って、上述したような変圧器故障判定器による初期判定は非常に重要な役割を担っている。
また、撤去済みの変圧器を再利用するにあたり、その健全性を容易かつ的確に判定する必要がある。従って、変圧器故障判定器による撤去品の良否判別も事故時の判定と同様に重要な役割となっている。
特許文献1等に開示された従来の変圧器故障判定器は、あらかじめ設定した電流の大きさで変圧器の断線,巻線間短絡を検出する原理であるため、正常であってもその電流値を外れる特性を有する変圧器の場合には故障と判定されてしまうおそれがある。一つの例を図1に示す。容量の大きな変圧器は健全であっても励磁電流が大きく、容量の小さな変圧器がレアショートしたときの励磁電流と同じような電流値となることもある。この点に付き、これまでは、対象となる配電用変圧器の特性がメーカや世代に関係なく、その大半がある一定の範囲に収まっていたために大きな問題となることは少なかった。
しかし、近年になり、配電用変圧器の大容量化やメーカ別の多品目化など、様々な変圧器が出現してきた。たとえば、近年では、消費電力量の増加により100[kVA]を超える容量の変圧器の開発がなされている。また、配電効率の向上を図るべく三相3線、三相4線、三相4線等の変圧器も随時開発されている。さらには、従来品と等しい容量においても、励磁電流を低減した変圧器の制作が可能となった。このような変圧器に従来の変圧器故障判定器を適用した場合、誤判定する場合もある。
そこでかかる問題を解決するため、上記の固定されたしきい値判定に代わる簡単な判定処理で変圧器の巻線間短絡を迅速かつ確実に判定可能な短絡判定装置として、特許文献2に開示された発明が提案さている。この特許文献2に開示された変圧器故障判定器(短絡判定装置)は、変圧器の巻線に周波数の異なる交流電圧を順次印加する交流電源と、周波数の異なる交流電圧に対する変圧器の励磁電流を測定する電流測定部と、電流測定部で測定された励磁電流値の近似曲線を1階微分する1階微分計算部と、1階微分計算部による微分値が、正の場合短絡無し、負の場合短絡有りと判定する短絡判定部と、短絡判定部の判定結果を報知する判定報知部と、を備えている。
この特許文献2に開示された変圧器故障判定器は、巻線間が短絡している変圧器と短絡していない正常な変圧器とで、周波数を掃引して交流電圧をかけた場合の励磁電流の軌跡が相異することを利用している。つまり、健全な変圧器は、巻線によるL成分と巻線の絶縁層部によるC成分,さらには巻線抵抗によるR成分とがあり、これらを合成したインピーダンス値は周波数に依存する。すなわち、低周波領域ではL成分が支配的になり、高周波領域ではC成分が支配的となる。その結果、正常な健全品の場合、周波数を徐々に上昇させると励磁電流の電流値は上昇する傾向を示す。これに対し、レアショート状態の変圧器は、内部に形成された短絡回路によりL成分をうち消す方向に作用するため、健全品と比較した場合L成分は小さくなる。このため、変圧器全体のインピーダンスは周波数に関係なくCが支配的となる。その結果、故障品の場合、周波数を徐々に上昇させると、電流値は低下する傾向となる。
これらの健全な変圧器とレアショート状態の変圧器におけるそれぞれの励磁電流と周波数の関係を示すと、図2(a)のようになる。この図2(a)における事故品(1)と事故品(2)は、それぞれ、図2(b)に示す変圧器において、人為的に故障点を作ったものについて測定した結果である。事故品(1)は、一次側の(1)点でレアショートが発生したものであり、事故品(2)は二次側の(2)点でレアショートが発生したものである。
従って、上記複数の周波数による交流電圧に対する複数の励磁電流値の近似曲線を励磁電流の軌跡とみなし、その近似曲線を1階微分することで、曲線が増加傾向にあるか減少傾向にあるかを判定でき、巻線間短絡を1階微分処理といった容易な処理によって迅速かつ確実に判定することができる。
しかし、健全な同一の変圧器に対して複数回にわたり周波数−励磁電流特性を計測したところ、図3に示すように、測定する毎に特性結果に異なることが判明した。このように、同一の変圧器に対する周波数−励磁電流特性にばらつきが生じることは、係る変圧器故障判定器を用いたレアショート等の巻線間短絡についての検出精度が低くなるといった問題があり、より確実な巻線間短絡の検出は困難であるという状況は続いている。先にも説明したとおり、事故点を特定することは重要であり、誤判定は避けなければならない。つまり、巻線間短絡を生じていない健全品の変圧器を事故品と誤判定して交換すると、健全品の無駄な廃棄をすることになり好ましくない。さらには、事故品を健全品と誤判定してしまうと、事故品がそのまま残ることになり、係る事態の発生は避けなければならない。よって、実用に供し得るためには、より検出精度の向上を図る必要があり、さらなる技術革新が求められている。
そこで、本発明者らは、研究を重ねた結果、変圧器の鉄心の残留磁束が測定結果に影響を与えることを突き止めた。すなわち、使用された変圧器の鉄心には残留磁束があり、その大きさや磁界の向きは一定ではない。そして、残留磁束が大きい場合は、鉄心透磁率が低下し巻線インダクタンスが減少するため励磁電流は大きくなる。逆に、残留磁束が小さい場合は、鉄心透磁率が増加し巻線インダクタンスが増加するため励磁電流は小さくなる。この鉄心の残留磁束のレベルは、印加電圧を切るタイミング、その後の放置時間,鉄心サイズ等の諸条件により変圧器個々で異なるとともに、同一の変圧器であっても、測定するタイミングで異なるもので、測定対象の変圧器鉄心の残留磁束は不明である。係る事象が、上述した印加した交流電圧の周波数−励磁電流特性のばらつきの要因となっている。
そこで、本発明では、巻線間短絡の判定のために交流電圧を印加するに先立ち、まず変圧器(鉄心)の消磁を行い、鉄心の残留磁束を統一した条件(消磁)にした状態で、交流電圧を印加して励磁電流を測定し、巻線間短絡の有無の判定を行う技術を創案した。
特許117509号 特開平7−94341号公報
ところで、一般的に消磁は,一度当該変圧器にやや過励磁になる程度まで交番磁束(交流電圧)を印加し,徐々に磁束(電圧)の大きさを下げていく交流消磁が用いられる。特に、本発明が対象としている配電用の変圧器の消磁は、突入電流の防止を目的として、係る定格以上の高電圧の交流電圧を印加し、スライダック等を利用して作業員が人手により電圧値を徐々に低下させ、最終的に0にすることが行われている。
しかしながら、係る一般に行われている消磁方法を用いると、確実に残留磁束を小さくさせることができるが、定格以上の電圧が必要となり,装置自体が大がかりとなる。よって、街中に出て、実際に柱上変圧器等に対して巻線間短絡等の故障判定処理をして事故点を特定するためには、コンパクトな装置も開発が必須となり、それに適した消磁装置の開発が必要となる課題がある。
さらに、上述したように、突入電流防止のための変圧器の消磁は、交流電圧を用いて行われているが、定格以上の高圧の交流電圧を印加することから、作業場所は係る電源のある付近に限定されてしまうと共に、マニュアル操作で減衰させることから、作業が繁雑であるばかりでなく、確実に消磁しようとするために必要以上にゆっくりと減衰させる傾向にあり、作業時間がかかり効率が悪いので、コンパクトで変圧器を自動かつ短時間で消磁する装置の開発が望まれているという課題もある。
上述した課題を解決するために、本発明に係る消磁装置は、(1)変圧器に直流電圧を印加して正又は負の飽和状態にする初期処理手段と、飽和状態の前記変圧器に、逆向きの飽和状態にするための直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、前記変圧器の鉄心が飽和状態になったことを検知する飽和検知手段と、前記初期処理手段で飽和された前記変圧器に対し、前記飽和検知手段で飽和が検知されるまでの間、前記初期処理手段と逆向きの直流電圧を印加し、前記鉄心が飽和状態になったら直ちに遮断し、その直流電圧の印加開始から、前記遮断に伴い発生する逆起電力がゼロになるまでの時間を測定する計時手段と、その計時手段で測定した時間の半分の時間、前記初期処理手段で印加した直流電圧と同じ向きに、同じ大きさの直流電圧を前記変圧器に印加するパルス印加手段と、を備えるとよい。
初期処理手段は、実施形態では、直流電圧を一定時間印加する処理を行う機能であり、例えば、処理ステップS1を実行する機能により実現される。一定時間は、通常の使用状況下で取り得る残留磁束密度のいずれの場合も飽和するように、十分な時間とする。もちろん、あまり長いと、計測時間が長くなると共に無駄に電圧を印加して消費するので、適宜の長さに設定する。また、簡易な構成を採るために、実施形態では、一定時間印加しているが、飽和するか否かを監視し、飽和した場合に電圧の印加を停止するようにしてもよい。飽和検知手段は、実施形態では、励磁電流の電流値を監視し、急に増加した場合に飽和したと判定するようにしたが、他の手法を用いても良い。計時手段は、実施形態では、t1を計測するものでタイマとCPUにより実現されている。パルス印加手段は、実施形態では、t1/2の時間だけ直流電圧を印加する機能に対応する。
このように、直流電圧を用いて消磁するようにしたので、簡易な構成で消磁を実現することができる。よって、携帯に優れ、柱上変圧器等の街中に点在する検査対象物であっても、容易に故障の有無の判定を行うことができ、事故点の発見をするのに便利となる。
(2)前記飽和検知手段は、前記直流電圧印加手段により前記変圧器へ直流電圧を印加することで流れる励磁電流の電流値に基づいて飽和の有無を判断するものであるとよい。直流電圧を印加した場合、時間の経過に伴い励磁電流の電流値も徐々に増加するが、飽和状態になると電流値が急に増加する。そこで、係る変化に基づいて飽和の有無を検出することができる。
(3)前記パルス印加手段で直流電圧を印加された前記変圧器に対し、前記飽和検知手段で飽和が検知されるまでの間、前記パルス印加手段と逆向きの直流電圧を印加し、前記鉄心が飽和状態になったら直ちに遮断し、その直流電圧の印加開始から、前記遮断に伴い発生する逆起電力がゼロになるまでの時間を測定する第2計時手段を備え、その第2計時手段で測定した時間と、前記パルス印加手段で印加している時間の差が、基準以内の場合には、前記計時手段で測定した時間の半分の時間或いは第2計時手段で測定した時間だけ前記パルス印加手段で直流電圧を印加して消磁処理を完了し、前記時間の差が基準以上の場合、前記パルス印加手段での直流電圧を印加する時間を変更するようにするとよい。第2計時手段は、実施形態では、t3を計測するための機能により実現される。これにより、パルス印加手段で印加した直流電圧(単発パルス)により消磁が成功していたか否かが確認できる。成功している場合には、再度同じ時間だけ電圧を印加することで、消磁の状態に戻せる。すなわち、(1)のパルス印加手段により所定時間直流電圧を印加すると、理論上は消磁が行える。しかし、鉄心の個体差などの影響で確実に0になるとは限らない可能性も残っている。そこで、パルス印加手段で直流電圧を印加していた時間(t2=t1/2:t1は計時手段で計測した時間)と、第2計時手段で計測した時間t3の時間差が基準以内であれば、成功と判断でき、基準よりも多くずれている場合には、パルス印加手段で直流電圧を印加する時間を変更して調整を図る。
(4)上記の(1)または(2)の発明を前提とし、前記パルス印加手段で直流電圧を印加された前記変圧器に対し、前記飽和検知手段で飽和が検知されるまでの間、前記パルス印加手段と逆向きの直流電圧を印加し、その直流電圧の印加開始から、その後に逆起電力がゼロになるまでの時間を測定する第2計時手段を備え、前記直流電圧印加手段を用いた飽和処理並びに、前記パルス印加手段での電圧印加処理を、正側と負側で行い、それぞれについて前記第2計時手段により前記時間を計測し、正負間でその計測した時間の差が基準以内の場合には、前記計時手段で測定した時間の半分の時間だけ前記パルス印加手段で直流電圧を印加して消磁処理を完了し、前記時間の差が基準以上の場合、前記パルス印加手段での直流電圧を印加する時間を変更するようにするとよい。正負の両側で検証することで、より正確に消磁をすることができる。
(5)最後に印加する直流電圧の直後に続けて、第1波の大きさがその直流電圧の大きさを越えない減衰交流を印加させようにするとより好ましい。このようにすると、消磁を更に確実に行うことができる。
(6)前記直流電圧の電源は、電池とすることができる。このようにすると、装置全体がコンパクトで携帯に便利となる。そして、巻線抵抗、巻数を考慮すると、現在の配電用変圧器の多くは数V程度の直流電源で鉄心の磁束密度を飽和させることが可能である。よって、電池を数本直列接続する直流電圧で消磁も行えるので、問題はない。
(7)本発明の消磁方法は、変圧器に直流電圧を印加して正又は負の飽和状態にする初期処理、その初期処理を実行して飽和状態となった前記変圧器に、その初期処理と逆向きの直流電圧を印加して飽和状態にした後、その直流電圧の印加を遮断し、前記直流電圧の印加開始から、前記遮断に伴い発生する逆起電力がゼロになるまでの時間を求める時間取得処理、その時間取得処理で求めた時間の半分の時間だけ、前記初期処理で印加した直流電圧と同じ向きに、同じ大きさの直流電圧を前記変圧器に印加するパルス処理、を実行するものとした。
本発明では、簡単な構成で変圧器の鉄心を消磁することができる。
本発明の課題を説明する図である。 本発明の課題を説明する図である。 本発明の課題を説明する図である。 本発明に係る消磁装置が組み込まれる変圧器故障判定器の好適な一実施形態を示す図である。 飽和検知の機能を説明する図である。 消磁部の機能を示すフローチャートである。 消磁部の機能・動作原理を示す図である。 消磁部が印加する電圧のパターンの一例を示す図である。 本発明の効果を説明する図である。 断線判定対象の結線図を示す図である。 断線判定機能を説明する図である。 本発明に係る消磁装置が組み込まれる変圧器故障判定器の好適な他の実施形態を示す平面図である。 (a)は本発明に係る消磁装置が組み込まれる変圧器故障判定器の好適な他の実施形態を示す側面図、(b)はその正面図である。 本発明に係る消磁装置が組み込まれる変圧器故障判定器の好適な他の実施形態における内部に実装される回路構成を示す図である。 本発明に係る消磁装置が組み込まれる変圧器故障判定器の好適な他の実施形態における機能を示すフローチャートである。
図4は、本発明に係る消磁装置が組み込まれる変圧器故障判定器の概略構成を示している。図4に示すように、変圧器の各相の端子に接続する測定用端子であるプローブ1を備え、このプローブ1に消磁部2と故障判定部3とを、切り替えスイッチSWを介して連携する。プローブ1は、各相に接続するため、本実施形態では、3個用意している。各プローブ1に対し、それぞれ消磁部2と故障判定部3が切り替え式で接続され、検査対象物である変圧器の各相の端子に連携される。さらに、変圧器故障判定器は、マンマシンインタフェースとしての入力部4と、報知部5を備える。さらに、各部を動作させるための電源部6や、電圧・電流などを測定する測定回路7を備えている。
入力部4は、電源のON/OFFや、各種のモードの設定や、測定開始等を指示するための操作スイッチ等がある。報知部5は、ブザーのように音声(音)による出力手段や、ランプ・ディスプレイなどの視覚による出力手段などがあり、判定結果を報知する。
電源部6は、本実施形態では、電池を用いている。つまり、直流電源であり、CPUや各種の電子機器を駆動させるための電源電圧である。また、後述するように、直流電圧を用いた消磁を行う場合の電源にも利用する。具体的には、公称電圧1.2〜1.5[V]の電池(例えば、1.2[V]のニッケル水素電池)を4本直列に接続し、直列接続された電池全体の端子間電圧は4.8〜6[V]となり、出力は4〜5[W]程度となる。もちろん、この直列に接続する数は任意である。また、電池を並列接続して連続して、長寿命化を図るのも妨げない。また、出力電圧値を安定化させるため、後述するように、電池の出力に安定化回路(レギュレータ)を接続し、その安定化回路を介して出力し、3[V]程度の所定の直流電圧が出力されるようにしている。
故障判定部3は、特許文献2に開示された従来の故障判定器等の機能を組み込んで構成することができる。つまり、端子間短絡の有無の判定を行う機能としては、周波数の異なる交流電圧を順次印加し、その周波数の異なる交流電圧を印加したときの変圧器の励磁電流を測定し、その測定された励磁電流値に基づいて所定の演算処理をして短絡の有無を判断するものを用いることができる。係る判定は、周波数が高くなるにつれて励磁電流の他愛が大きくなるか(健全・正常)、小さくなるか(短絡)により行うことができるので、所定の演算処理は、励磁電流特性の近似曲線を1階微分し、その微分した結果、増加傾向にあるか減少傾向にあるかにより、判定を行うことができる。故障判定部3は、その判定結果を、報知部5を介して出力する。また、係る交流電圧を印加するための正弦波の生成部(ワンチップ・マイコン等により実現でき、必要に応じてオペアンプ等で増幅する回路)等も備える。
上記の励磁電流特性の近似曲線を1回微分する方式は、特許文献2に開示された技術を利用することができ、従来公知のものであるため、詳細な説明は省略する。また、故障判定部3の判定機能は、係る特許文献2に開示されたものに限られない。一例を示すと、異なる周波数(例えば、1kHzと3kHz)の交流電圧(正弦波)を切り替えて出力し、それぞれの周波数の時の励磁電流を求め、その大小関係から巻線間短絡の有無を判定するようにしてもよい。この場合、周波数の高い時の励磁電流の方が大きい場合には、増加傾向にあるので正常となり、周波数の高い時の励磁電流の方が小さい場合には、減少傾向にあるので巻線間短絡が生じていると判断することができる。
消磁部2は、故障判定部3における測定(周波数−励磁電流特性の測定)に先立ち、変圧器(鉄心)を消磁するためのものである。すなわち、通常に使用された変圧器の鉄心には残留磁束があり、その大きさや磁界の向きは一定ではない。その理由は、鉄心の残留磁束は、その直前の遮断時の電圧や極性に影響されるからである。従って、残留磁束が異なると、同一の電圧を印加したとしても係る電圧の印加に伴い流れる励磁電流値も異なるので、図3に示すように、測定結果は、測定を行うたびに変化してしまう。そのため、本実施形態では、係る残留磁束の影響を回避すべく初期状態を一定にするために、消磁部2で消磁するようにした。
また、一般的に消磁は、一度変圧器にやや過励磁になる程度まで交番磁束(交流電圧)を印加し、徐々に磁束(電圧)の大きさを下げていく交流消磁が用いられる。この方法で消磁すると、確実に残留磁束を小さくさせることができるが、定格以上の電圧が必要となり装置自体が大がかりとなる。そこで本実施形態では、電源部6の直流電圧を利用し、直流消磁を行うようにした。これは、巻線抵抗,巻数を考慮すると、現在の配電用変圧器の多くは数V程度の直流電源で鉄心の磁束密度を飽和させることが可能である。このことを利用すれば、小さな電圧で消磁を行うことが可能となるので、変圧器故障判定器もコンパクトとなり、携帯可能となる。
測定回路7は、変圧器の端子間電圧や、励磁電流や、抵抗値などの電気的な特徴量を測定するもので、その測定結果は、消磁部2や故障判定部3に与えられ、各部における動作制御や、判定などに用いられる。
次に、消磁の原理を説明しつつ、消磁部2の機能を説明する。消磁部2は、電源部6から直流電圧をプローブ1を介して変圧器の端子に印加する。このように、変圧器に直流電圧を継続して印加させると、その変圧器の鉄心が飽和領域に達し、磁束が残留磁束として鉄心に残る。そこで、直流電圧の印加時間を制御することにより、最終的に残留磁束が0になるようにする。
つまり、けい素鋼板やアモルファスは、大きな透磁率を有するので、これらを鉄心として作ったコイルの自己インダクタンスは大きな値を有する。そのため、このコイルに直流電源を印加させた場合、図5に示すように、励磁電流は時間をかけて徐々に大きくなる。そして、ある一定の電流値(起磁力)に達すると、見かけ上の透磁率は小さくなり自己インダクタンスも小さくなるため、励磁電流はほぼ瞬間的に巻線抵抗と電源電圧で決まる値に達する。換言すると、励磁電流を監視し、その値が急激に上昇したときが鉄心が飽和したときと判定できる。
一方、鉄心を通る磁束密度の大きさは、残留磁束密度の大きさと電流値(起磁力)の時間積分により決まる。そのため、電圧を印加してから励磁電流が急激に増える(磁束密度が飽和領域に達する)までの時間を測定することで残留磁束密度の大きさを知ることができる。また、鉄心材料のヒステリシスカーブ(B−H特性)は正負で対称であるため、プラスとマイナスにおける飽和状態までの時間が等しければ鉄心は消磁状態であるとみなせる。
そこで、本実施形態では、残留磁束密度が最大の状態から逆向きに最大となるまでに要したエネルギー(実際には、時間で特定)の半分のエネルギー(時間)分だけ電圧を印加して励磁させることで残留磁束を0にさせて消磁を行うようにした。具体的には、消磁部2内のCPUが、図6に示す以下のアルゴリズムを実行する。また、前提として、変圧器故障判定器は、励磁電流を計測する測定手段と、タイマと、を備えている。
CPUは、変圧器の鉄心を正の飽和状態にする(S1)。具体的には、電源部6から出力される電圧(正の直流電圧)をそのまま一定時間変圧器に印加することで、鉄心を飽和させる。つまり、鉄心のヒステリシスカーブ(B−H特性)の一例を示すと、図7のようになる。そして、係る正の直流電圧を印加する際の残留磁束は、上述したようにその大きさや磁界の向きがばらばらである。そこで、CPUは、確実に飽和するために十分な時間(例えば1秒)だけ直流電圧を印加し(図7中(1)参照)、その後、電源を遮断する。これにより、鉄心に加わる磁界Hも0になり、所定の残留磁束が残る。このように、一度正の向きに飽和させることで、その直前の使用状態に基づく残留磁束の大きさ・磁界の向きのばらつきが解消され、同じ初期状態にすることができる。
なお、例えば短絡しているような場合には、直流電圧の印加と共に大きな電流が流れるので、たとえ1秒でも係る状態が継続するのは好ましくない。そこで、この処理の実行時も励磁電流を監視し、電離中値が急激に増加したり、所定の基準値を超えたりするなど、予め設定した停止条件場合を満たした場合には、遮断するようにすると良い。
なおまた、本実施形態では、正の直流電圧を印加して正の飽和状態にするようにしたが、最初に負の直流電圧を印加し、負の飽和状態にするようよしても良い。その場合には、以下の説明における各処理ステップで印加する直流電圧の向きを逆にすればよい。この処理ステップS1を実行する機能が、初期処理手段に対応する。
次に、CPUは、変圧器に負の直流電圧を印加し、鉄心を負の飽和状態にする。ここでは、処理ステップS1のように一定時間を印加するのではなく、励磁電流を監視し、飽和するまで一定の直流電圧を印加する。つまり、CPUは、まず負の直流電圧を印加開始すると共に、タイマTをリスタートする(S2)。そして、CPUは、励磁電流が急激に増加したか否かを判断する(S3)。係る判断をする処理ステップを実行する機能が、飽和検出手段に対応する。励磁電流が徐々に増加している区間(図5中、区間A)では、未飽和の状態であり、その区間は、処理ステップS3の分岐判断はNoのままであるので、負の直流電圧は継続して印加しつつ、励磁電流の監視を継続して行う。
励磁電流が急激に増加する(図5中、“X”)と、処理ステップS3の分岐判断がYesとなり、鉄心が負の飽和状態になったと推定できる(図7中(3)参照)。この判断は、例えば、前回の励磁電流の値を記憶しておき、今回の励磁電流との差が一定のしきい値以上となった場合に急増したと判定することができる。
励磁電流が急激に増加したならば、CPUは、電源を遮断する(S4)。この電源の遮断は、最終的に変圧器に負の直流電圧が印加されず、励磁電流が巻線に流れなければよい。このように励磁電流が急激に増加したときに直流電圧の印加を遮断すると、逆起電力が発生し、その後徐々に電圧が低下して0に戻る(図7中(4)参照)。この逆起電力が0になったとき、鉄心には、図7に示すように、負の一定の残留磁束が発生している。CPUは、このように起電力が0になるのを待ち(S5)、その時(S5でYes)のタイマの値Tを取得し、t1とする(S6)。つまり、負の直流電圧を印加していた時間と、電源を遮断してから起電力が0になるまでの時間を加算した値がt1となる。この時間t1は、CPUが記憶・保持しても良いし、メモリ・記憶手段に格納しても良い。
次に、CPUは、正の向きにt1/2(=t2)の時間だけ、直流電圧を印加し(図7中(5)参照)、その後電源を遮断する(S7,S8)。このとき印加する直流電圧の電圧値は、処理ステップS1で印加したものと同じである。このように、印加する直流電圧の電圧値(絶対値)が同じで一定としているので、飽和させるのに要したエネルギーは、時間に比例する。よって、正の飽和状態から負の飽和状態にするまで要したエネルギーの半分のエネルギーを、逆向き、つまり、正の向きに加えることで、理論上、残留磁束密度は0になり、消磁が行える(図7中(6)参照)。
この処理ステップで消磁処理を終了しても良いが、本実施形態では、念のため、再度負の向きに飽和するまで直流電圧を印加し(図7中(7)参照))、飽和したならば電源を遮断し、逆起電力が0になるまで待ち(図7中(8)参照)、そこまでの時間t3を測定する(S9)。この処理は、具体的には、上述した処理ステップS2からS5までの処理と同様である。そして、CPUは、t2=t3か否かを判断する(S10)。実際には、両者の差が一定の範囲内にあれば、処理ステップS10の条件を充足すると判断するようにしている。
この処理ステップS10の分岐判断がYesの場合、先に行った時間t2だけ直流電圧を印加した処理で消磁が成功していることになる。但し、処理ステップ9の実行により、再び負の飽和状態になっているので、正の向きにt2だけ直流電圧を印加する(S11)。これにより、残留磁束密度が0(ほぼ0)となり、消磁処理が完了する。
一方、t2とt3が異なり、処理ステップ10の分岐判断が、Noとなった場合、CPUは、t2を変化させ(S12)、新たな補正後のt2に基づき、処理ステップ8から処理を実行する。このようにして、t2=t3となるまで継続することで、消磁が行える。
また、時間t2だけ直流電圧を印加するに際し、図8に示すような直流電圧+減衰交流電圧を印加させるようにしてもよい。これにより、残留磁束を限りなく0にすることが可能となる。
本実施形態のように、まず消磁を行い、その後に、周波数−励磁電流特性を測定すると、図9に示すように、同じ変圧器に対して複数回測定を行ったとしても、ほとんど同じ値(特性)を示すことが確認できた。これに対し、先に説明した通り、消磁を行わないで測定した場合、図3に示すように、測定毎に測定結果が異なる。この図3と図9とを比較することで消磁を行うことの効果が確認できる。その結果、消磁部2にて消磁を行った後に故障判定部3にて周波数−励磁電流特性に基づく巻選択欄の有無の判定を行った場合、高性能な検出・判定が行える。
ところで、巻線間短絡は、消磁処理の後に行うようにしており、仮に巻線間短絡がしていたとしても、直流電圧を印加した際に励磁電流が流れて消磁はできる。しかし、断線していた場合には、励磁電流が流れないことかから、消磁処理ができない。しかも、励磁電流が急激に増加することもないので、実際に鉄心が飽和することもなく、少なくとも処理ステップS3がNoのままとなる。そこで、消磁処理を行うに先立ち、断線の有無を判断すると良い。
この断線の有無の判断は、端子間の抵抗値から容易に判定できる。つまり、断線を生じていると、抵抗は無限大となることから、抵抗値がしきい値以上の場合には断線していると判断することができる。また、直流電圧を印加し、励磁電流が流れるか否かにより判定ルこともできる。さらに、断線していても閉回路が構成されて電流が流れるような特殊な構成の変圧器の場合でも、以下に示す処理を行うことで断線の有無を判定できる。
すなわち、係る特殊な構成の変圧器として、デルタ結線変圧器や一部の単相3線式変圧器がある。これらの変圧器に共通していることとして3端子であること、並びに線間の抵抗は一定の規則性がある。そこで、本実施形態では、この特性を利用してこれまで不可能だった断線検出を行う。
[デルタ結線の断線検出]
図10(a)に示すように、デルタ結線変圧器は同じ特性を持つ巻線が変圧器内部で三角結線されているので健全品であればそれぞれの端子間(U−V間,V−W間,W−U間)の抵抗(r)は等しい。一方、内部で断線が発生した場合、導通があったとしても抵抗値は大きくなる。図11(a)は、巻線の断線があった場合の各端子間の抵抗比を示している。この比が全て等しければ健全であり、異なっていれば故障と判定する。
[単相3線式変圧器の断線検出]
一方、図10(b)に示すように、単相3線式変圧器は、変圧器内部で同じ特性を持つ2つの中性点付き3端子コイルを並列接続する回路構成としている。この変圧器のコイルの断線が起きた場合、端子間の直流抵抗比は、図11(b)のようになる。この比が1−2端子間=2−3端子間=(1−3端子間)/2であれば健全、異なっていれば故障と判定する。
各端子間の抵抗は、端子間に直流電圧を印加し、そのときの端子間に流れる電流から計測することができる。そして、本実施形態では、消磁部2にて消磁するに際し、直流電圧を印加することから、係る断線判定は、消磁と同時に行うことができ、故障判定の時間短縮が可能となる。
従って、変圧器故障判定器の検査は、(1)断線判定、(2)消磁、(3)巻線間短絡判定の順に行う。なお、断線判定は、図4に示すブロック図構成の場合、消磁部2が消磁を行うべく電源部6からの直流電圧をプローブ1を介して変圧器に印加している際に、測定回路7で検出した電流値や電圧値を故障判定部3が取得し、故障判定部3のCPUは、断線の有無を判定する。断線がないことが確認された場合、故障判定部3のCPUは、消磁部2のCPUに対して消磁処理開始命令を与える。消磁部2のCPUは、係る開始命令を受け付けると、上述したフローチャートに基づく消磁処理を実行する。そして、係る処理時処理が完了後、スイッチSWを切り替え、故障判定部3からプローブ1を介して所定周波数の交流電圧を変圧器に印加し、その時の測定回路7で検出した励磁電流に基づき、巻線間短絡の有無を判定する。
上述のように、断線判断を行うに際し、直流電圧を印加しているので、その印加時間が一定以上の場合、消磁機能における処理ステップS1を省略することができる。また、消磁処理における処理ステップS1の実行時に、同時に断線判断をするようにしてもよい。但し、断線判定と消磁を同時に開始した場合、消磁機能の処理ステップS2以降は、断線判定を行い、正常であることが確認されたことを条件に再開するとよい。断線している変圧器に対して、消磁処理を行っても無駄なだけでなく、断線していると、励磁電流が流れずに励磁電流が急激に増加することが無いことから、処理ステップS3でNoの状態が続き、直流電圧を印加し続ける事態を招くおそれがあるためである。従って、係る処理ステップ3の分岐判断がNoとなった場合、その時のタイマの値Tを確認し、Tが設定された基準時間以上の場合には、異常終了とする機能を備えると良い。特に、断線判定機能を備えていない変圧器故障判定器の場合には、係る機能を設けると好ましい。
いずれかの処理で異常が検出された場合には、報知部4からその旨出力される。また、以上が検出されずに処理が完了した場合も、その旨の出力がなされる。また、説明の便宜上、消磁部2と故障判定部3とを別のブロックで記載し、それぞれにCPUが存在し、各種の判断や、制御を行うようにしたが、実際には、1つのCPUにて実行することができる。
また、上記の断線検出機能は、必ずしも設けなくても良い。また、設ける場合、従来からある断線検出機能(抵抗値に基づいてしきい値処理して判定)を組み込むのも、もちろん妨げない。
図12,図13は、本実施形態の変圧器故障判定器の外観の一例を示している。コンパクトな矩形の箱状のケース10の上面に、3本のプローブ11が取り付けられている。プローブ11は、ワニ口クリップを用いている。このワニ口クリップは、200mm2の電線を挟めると共に、一番細い電線である5.5mm2でも抜けないものを用いている。またこのワニ口クリップは、羽子板端子やクランプ型端子にも確実に接続ができるものとする。
また、上面にはインターフェースとして、メインスイッチ13,検出モード切替ダイヤル14,検査開始ボタン17,インジケータ15,ブザー16,電源ランプ18を備える。メインスイッチ13,検出モード切替ダイヤル14並びに検査開始ボタン17が、上述した入力部4に対応する。また、インジケータ15,ブザー16,電源ランプ18が報知部5に対応する。さらに、このケース10の内部には、図14に示すように、直流電圧用の電源部21や、CPU(ワンチップ・マイコン)22や各種の回路23〜55が内蔵される。
図示の変圧器故障判定器は、単相変圧器用であるため、検出モード切替ダイヤル14は、検出対象が、“一次側”,“2端子単相変圧器の二次側”,“3端子単相変圧器の二次側”のいずれかを選択するものである。インジケータ15は、3つのランプからなり、測定中の場合には、測定中ランプが点灯し、巻線間短絡や、断線が検出された場合には、それぞれ該当するランプが点灯する。
検査開始ボタン17は、親指で押しやすい位置(手前側の左右縁近傍:本例では、右端)に配置するとともに、大きめな寸法としている。これは、ユーザである検査員は、ゴム手袋等を装着していることが多々あり、その装着した状態のまま操作可能にするためである。同様に、メインスイッチ13の設置位置(本例では、手前側の左端)及び寸法も設定している。
電源部21は電圧4.8〜6[V],出力4〜5[W]の乾電池等の直流で駆動する。汎用性,ランニングコストを考慮し、単3型のアルカリマンガン電池,ニッケル水素電池が使える構造とする。これらの電池からの供給される電源は安定化回路23に入る。ここで3[V]の直流電圧を発生させる。
この安定化回路23の出力は、遮断スイッチ27,正負切替スイッチ24,直流・交流選択スイッチ28を介してプローブへ与えられる。また、印加電圧や、励磁電流等を測定する測定回路26も備えている。各スイッチの切替制御は、ワンチップ・マイコン22の制御信号に基づいて行われる。遮断スイッチ27は、開閉する機能を持つため、FET等のスイッチ素子を利用することができる。
この遮断スイッチ27が閉じた場合、安定化回路23の出力は、正負切替スイッチ24へ与えられる。ワンチップ・マイコン22は、消磁のために鉄心に直流電圧を印加する場合には、遮断スイッチ27を閉じ、鉄心が飽和状態になって電源を遮断する場合に遮断スイッチ27を開くように制御する。
正負切替スイッチ24は、変圧器に印加する電圧の向き(正/負)の切替をするもので、スイッチの切替により、正極/負極側を反転するスイッチ回路である。この切替により、変圧器に正の直流電圧を印加して正の飽和状態にしたり、それとは逆向きの負の直流電圧を印加した負の飽和状態にしたりする。
直流・交流切替スイッチ28は、プローブへ印加する際の電源の種類を切り替えるもので、図示する状態では、消磁/断線検出のために直流電圧を印加するようになり、オペアンプ25側に接続された状態では、巻線間短絡検出のために交流電圧を印加するようになる。
ワンチップ・マイコン(ワンチップ・CPU)22は、正弦波を生成し出力する機能(正弦波生成部22a)を備えるとともに、装置全体の制御を司るもので、図4に示した消磁部2と故障判定部3の機能を備える。また、正弦波生成部22aの出力は、オペアンプ25(電源電圧が±12[V])で増幅後、測定回路26経由で変圧器へ印加するようになっている。
また、ワンチップ・マイコン22は、ケース10の上面に設けた入力部たるメインスイッチ13,検出モード切替ダイヤル14,検査開始ボタン17からの入力信号を受け、所定の処理を実行し、その実行結果を出力信号として報知部たるインジケータ15,ブザー16,電源ランプ18へ伝え、所定の報知を行う。
図15は、この変圧器故障判定器の概略の動作手順のアルゴリズムを示している。メインスイッチ13が投入(OFF→ON)されると、ワンチップ・マイコン22(CPU)は、自動的に電源部(乾電池)21から規定の電圧,電流を取り出すことができるかチェックする(S21)。また、このメインスイッチ13の投入に伴い、電源ランプ18が点灯する。電源ランプ18は、原則として、メインスイッチ13がOFFになるまで点灯し続ける。但し、乾電池から規定の電圧等が取り出さない(電池の容量不足等)場合には、消灯する。これにより、ユーザは、この電源ランプ18の点灯状態から、電源が十分であるか否かの判断が容易に行える。なお、消灯するのに替えて、点灯する色を異ならせるようにしても良い。また、インジケータ15の各ランプも、メインスイッチ13の投入に伴い一旦点灯させ、その後消灯させる。これにより、インジケータ15を構成するランプや回路自体の故障がないことが確認できる。
さらに、本実施形態では、自己診断回路を内蔵しているので、その自己診断回路により変圧器故障判定器が正常に動作するか否かの動作確認を行う。この自己診断回路は、LCR回路であり、Rだけで抵抗値の確認を行う。LR回路部分で健全変圧器を模擬し、CR回路で故障変圧器を模擬する。周波数の変化に対し、励磁電流が正しく増減し、判定結果が正しいか否かを確認する。自己診断途中で異常を感知した場合、ブザー16や、インジケータ15(例えば、全てのランプを点滅させる等の、予め決めた発光状態とする)を使って変圧器故障判定器自身の異常を知らせる。また、自己診断回路は、このようにLCR回路を用いるものに限ることはなく、LR回路で実解しても良い。さらに、自己診断回路は、ケース10に内蔵しても良いし、ケース10とは別の筐体内に組み込み付属装置として付設する構成を採ってもよい。
自己診断が完了したならば、変圧器故障判定器は、確認待ちモードとなる。ユーザは、たとえばこの状態のときに検査する変圧器にあわせて検出モード切替スイッチ14を操作し、モードを切り替えたり、プローブ11を検査対象の変圧器の端子に装着したりする。
検査開始ボタン17を押すと、ワンチップ・マイコン22(CPU)は次の順番で自動的に検査を始める。本実施形態では、検査開始ボタン17が押されている間、動作する。つまり、検査開始ボタン17が押されて検査を開始したとしても、その途中で検査開始ボタン17の押下を解除した場合、そこで測定は終了し、エラーとなる。検査開始ボタン17が押下されると、インジケータ15の測定中ランプが点灯する。
そして、検査開始ボタン17が押下され続けていると、ワンチップ・マイコン22(CPU)は、自動的に図12の直流電圧モード(S22),交流電圧モード(S23)を順次実行する。まず、直流電圧モードが先に実行されるので、ワンチップ・マイコン22は、電池(安定化回路)の出力である直流電圧を、変圧器に印加するように制御する。つまり、遮断スイッチ27を閉じ、直流・交流電圧切替スイッチ28は直流側に接続され、正負切替スイッチ24は、正側(鉄心が正の飽和状態になる状態)にする。このとき、流れる電流を測定回路26で測定し、その測定結果をワンチップ・マイコン22が取得することにより、断線チェックを行う。断線が検出された場合、ワンチップ・マイコン22は、この時点で検査を終了し、インジケータ15の断線ランプを点灯させるとともにブザーによる警報を行う(S25)。そして、断線がないことが確認されたら、引き続き、消磁を行う。この消磁処理は、ワンチップ・マイコン22(CPU)が、図6に示すフローチャートを実行することで行う。また、処理ステップS1における正の飽和状態のための正の直流電圧の印加であるが、上記の断線検出のための直流電圧の印加を十分に行うことで、その処理を兼用することができる。換言すると、正の飽和状態にするために直流電圧を印加しているときに、断線チェックを行うとよい。もちろん、断線チェックのための直流電圧の印加と、消磁のための直流電圧の印加を別に行うことを妨げない。但し、共有した方が、短時間で処理が完了できるので好ましい。
消磁完了後、ワンチップ・マイコン22は自動的に交流電圧モード(S23)に移行する。つまり、直流・交流電圧切替スイッチ28を交流側(オペアンプ25側)に切り替え、巻線間短絡検出を始める。最初に低周波の正弦波を印加する。電圧印加および周波数を可変する際は、励磁突入電流を発生させないように電源の投入角は波のピーク時とする。また、CPUは周波数を可変する際に電圧変動が生じないよう電圧監視を行うと同時に必要に応じ電源装置を制御して電圧が常に安定するようにする。こしてCPUは、周波数増加に伴う励磁電流値の変化(増減)から、健全品(正常)か、巻線間短絡(故障)かの判定を行い、短絡があった場合には、インジケータ15の短絡ランプを点灯させる。
上述した実施形態では、消磁を直流電圧を印加するとともに、その印加する向きと印加時間を適宜制御することで行いようにした。そして、短時間で処理するため、一度正の飽和状態にした後、“負の飽和状態”にした後“電源を遮断”して“逆起電力が0”になるまでの時間(t1)を求め、そのt1/2(=t2)だけ正の向きに印加することで消磁し、その確認のため、そこから“負の飽和状態”にした後“電源を遮断”して“逆起電力が0”になるまでの時間(t3)を求め、t2とt3の差が一定の範囲内になったならば、消磁が成功と判断するようにした。これは、鉄心のヒステリシスカーブは、正/負で対称形であるので、片側で消磁していることが確認できれば、問題がないためである。
但し、この後、反対側、負の飽和状態から、正の直流電圧を印加し、“正の飽和状態”にした後“電源を遮断”して“逆起電力が0”になるまでの時間(t1′)を求め、そのt1′/2(=t2′)だけ負の向きに印加することで消磁し、その確認のため、そこから“正の飽和状態”にした後“電源を遮断”して“逆起電力が0”になるまでの時間(t3′)を求める。そして、t3とt3′の差が一定の範囲内(例えば3%以内)の場合に消磁ができていると判断するようにしても良い。
上述した実施形態では、消磁装置を変圧器故障判定器に組み込んだものを説明したが、本発明はこれに限ることはなく、消磁装置単体(変圧器故障判定器から、故障判定に必要な要素を除いたもの)で構成してももちろん良いし、他の装置に組み込むことができる。
さらにこの消磁装置を用いて消磁すると、従来の定格以上から徐々に減衰させる交流電圧を用いる消磁システムに比べてコンパクトですむと共に、短時間で消磁できるので、簡便となる。よって、たとえば、励磁突入電流防止のため、使用に先立ち変圧器を消磁することなどにも利用できる。
すなわち、例えば変圧器は、定期点検を行う際には電源から切り離し無電圧状態とし、点検終了後電圧を印加する。このときに消磁を行わず残留磁束密度がある場合には、それが大きいと電圧投入時に大きな励磁突入電流が発生し、変圧器を保護する電力ヒューズが溶断する場合がある。本発明を用いることで、このようなヒューズ溶断を防止することができる。変圧器1台に対して1つの本装置を配線して附属することも、受配電設備内やキュービクル内のように複数台の変圧器で共通で使用することも可能である。
1 プローブ
2 消磁部
3 故障判定部
4 入力部
5 報知部
6 電源部
10 ケース
11 プローブ
13 メインスイッチ
14 モード切替スイッチ
15 インジケータ
16 ブザー
17 検査開始スイッチ
18 電源ランプ
21 電源部
22 ワンチップ・マイコン
23 安定化回路
24 正負切替スイッチ
25 オペアンプ
26 測定回路
27 遮断スイッチ
28 直流・交流電圧切替スイッチ

Claims (7)

  1. 変圧器に直流電圧を印加して正又は負の飽和状態にする初期処理手段と、
    飽和状態の前記変圧器に、逆の向きの飽和状態にするための直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、
    前記変圧器の鉄心が飽和状態になったことを検知する飽和検知手段と、
    前記初期処理手段で飽和された前記変圧器に対し、前記飽和検知手段で飽和が検知されるまでの間、前記初期処理手段と逆向きの直流電圧を印加し、前記鉄心が飽和状態になったら直ちに遮断し、その直流電圧の印加開始から、前記遮断に伴い発生する逆起電力がゼロになるまでの時間を測定する計時手段と、
    その計時手段で測定した時間の半分の時間、前記初期処理手段で印加した直流電圧と同じ向きに、同じ大きさの直流電圧を前記変圧器に印加するパルス印加手段と、
    を備えたことを特徴とする直流を用いた変圧器鉄心の消磁装置。
  2. 前記飽和検知手段は、前記直流電圧印加手段により前記変圧器へ直流電圧を印加することで流れる励磁電流の電流値に基づいて飽和の有無を判断するものであることを特徴とする請求項1に記載の直流を用いた変圧器鉄心の消磁装置。
  3. 前記パルス印加手段で直流電圧を印加された前記変圧器に対し、前記飽和検知手段で飽和が検知されるまでの間、前記パルス印加手段と逆向きの直流電圧を印加し、前記鉄心が飽和状態になったら直ちに遮断し、その直流電圧の印加開始から、前記遮断に伴い発生する逆起電力がゼロになるまでの時間を測定する第2計時手段を備え、
    その第2計時手段で測定した時間と、前記パルス印加手段で印加している時間の差が、基準以内の場合には、前記計時手段で測定した時間の半分の時間或いは第2計時手段で測定した時間だけ前記パルス印加手段で直流電圧を印加して消磁処理を完了し、
    前記時間の差が基準以上の場合、前記パルス印加手段での直流電圧を印加する時間を変更するようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の直流を用いた変圧器鉄心の消磁装置。
  4. 前記パルス印加手段で直流電圧を印加された前記変圧器に対し、前記飽和検知手段で飽和が検知されるまでの間、前記パルス印加手段と逆向きの直流電圧を印加し、その直流電圧の印加開始から、その後に逆起電力がゼロになるまでの時間を測定する第2計時手段を備え、
    前記直流電圧印加手段を用いた飽和処理並びに、前記パルス印加手段での電圧印加処理を、正側と負側で行い、それぞれについて前記第2計時手段により前記時間を計測し、正負間でその計測した時間の差が基準以内の場合には、前記計時手段で測定した時間の半分の時間だけ前記パルス印加手段で直流電圧を印加して消磁処理を完了し、
    前記時間の差が基準以上の場合、前記パルス印加手段での直流電圧を印加する時間を変更するようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の直流を用いた変圧器鉄心の消磁装置。
  5. 最後に印加する直流電圧の直後に続けて、第1波の大きさがその直流電圧の大きさを越えない減衰交流を印加させようにしたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の直流を用いた変圧器鉄心の消磁装置。
  6. 前記直流電圧の電源は、電池であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の変圧器故障判定器。
  7. 変圧器に直流電圧を印加して正又は負の飽和状態にする初期処理、
    その初期処理を実行して飽和状態となった前記変圧器に、その初期処理と逆向きの直流電圧を印加して飽和状態にした後、その直流電圧の印加を遮断し、前記直流電圧の印加開始から、前記遮断に伴い発生する逆起電力がゼロになるまでの時間を求める時間取得処理、
    その時間取得処理で求めた時間の半分の時間だけ、前記初期処理で印加した直流電圧と同じ向きに、同じ大きさの直流電圧を前記変圧器に印加するパルス処理、
    を実行する直流を用いた変圧器鉄心の消磁方法。
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