図1は、本実施例に係る時計1の断面図である。時計1は、正面板10a、中板10b、背面板10cを含む。正面板10aは、時計1の正面側に配置されており、背面板10cは、時計1の背面側に配置され、中板10bは、正面板10aと背面板10cとの間に配置されている。図2は、正面板10aと正面板10aの正面側に配置されている部品とを示した透視図である。図3は、中板10bと、正面板10aと中板10bとの間に配置された部品とを示した透視図である。図4は、背面板10cと、中板10bと、背面板10cとの間に配置されている部品とを示した透視図である。
図1、図2に示すように、時計1は、秒針3a、時針3b、分針3cを有している。秒針3a、時針3b、分針3cは、時刻を表示するための時刻表示部に相当する。時針3b、分針3cは、同軸状に回転可能に設けられている。秒針3aは、時針3b、分針3cよりも時計1の上方に設けられている。時針3b、分針3cよりも下方には、歯車50、巻取り量表示部60、歯車110が設けられている。巻取り量表示部60は、詳しくは後述するが定荷重ばねSの巻取り量を表示する機能を有している。巻取り量表示部60には、定荷重ばねSの巻取り量の視認を容易にするための指針68が固定されている。歯車50及び歯車110は、巻取り量表示部60を間欠駆動するためのものである。歯車50、巻取り量表示部60及び歯車110は歯車機構130を構成している。
図1、図3に示すように、時計1は、歯車30a〜30eを含む。歯車30a〜30eは、後述する定荷重ばねSの動力を秒針3a、時針3b、分針3cに伝達する機構である。歯車30a〜30eは、正面板10a、中板10bとの間で回転可能に支持されている。なお、歯車30aは、軸28aに対して一方向に回転自在に保持されている。また、他方向への回転を防止するために歯車30aは、逆回転防止のためのラチェット車41、係合部材43を備えている。ラチェット車41、係合部材43については、詳しくは後述する。
図1、図4に示すように、時計1は、駆動ドラム20a、保持ドラム20bを含む。駆動ドラム20a、保持ドラム20bは、中板10bと背面板10cとの間に回転可能に支持されている。駆動ドラム20aは時計1の下方に配置され、保持ドラム20bは時計1の上方であるとともに駆動ドラム20aの上方に配置されている。駆動ドラム20aには、軸28aが連結されている。この軸28aは、正面板10a及び中板10bに設けられた軸受26aにより回転可能に支持され、駆動ドラム20aの回転に伴って軸28aも回転する。軸28aは、中板10b、正面板10aに対して回転可能に保持されている。中板10bと背面板10cとの間には軸26bが保持されており、軸26bの中板10b側端と背面板10c側端には軸受26cが設けられ、この軸受26cによって保持ドラム20bは、中板10bと背面板10cとの間で回転可能に支持されている。これにより、保持ドラム20bは、中板10b、背面板10c間で回転する。
駆動ドラム20aは、後述する定荷重ばねSの弾性復元力により回転する。定荷重ばねSの弾性復元力によって駆動ドラム20aが回転することにより、駆動ドラム20aの動力が秒針3a、時針3b、分針3cに伝達される。駆動ドラム20aから秒針3a、時針3b、分針3cに駆動力が伝達される構造について説明する。
駆動ドラム20aから秒針3aに駆動力が伝達される構造について説明する。
最初に、駆動ドラム20aから歯車30aに駆動力が伝達される構造について説明する。図1、図3に示すように、軸28aにはラチェット車41が連結されている。軸28aが回転することによりラチェット車41も回転する。ラチェット車41は、歯車30aと正面板10aとの間で軸28aに固定されている。ラチェット車41の外周部には歯部42が形成されている。
正面板10aと対向する歯車30aの正面には、係合部材43が設けられている。係合部材43の先端部は、ラチェット車41の歯部42と係合している。係合部材43は、歯車30aに固定されたピン34aにより揺動可能に歯車30aに支持されている。詳細には、係合部材43は、係合部材43の先端部が歯部42と係合する位置と歯部42から退避した位置との間を揺動可能に支持されている。歯車30aには線ばね48が固定されている。線ばね48は、係合部材43の先端部が歯部42と係合するように、係合部材43をラチェット車41側に付勢している。具体的には、係合部材43は、歯車30aを貫通した突起部44を有している。線ばね48は、歯車30aの背面側に固定されている。線バネ48は、歯車30aを貫通した突起部44に当接して付勢している。
定荷重ばねSの弾性復元力により駆動ドラム20aは、図3、図4では時計方向に回転する。これにより、ラチェット車41も時計方向に回転する。ラチェット車41が時計方向に回転すると、歯部42と係合部材43の先端部とが噛合うことにより、歯車30aが時計方向に回転する。このようにして、駆動ドラム20aの時計方向の回転は、歯車30aに伝達される。詳しくは後述するが、歯車30aが回転することにより、秒針3aが駆動する。
尚、後述する定荷重ばねSの巻取り作業の際には、駆動ドラム20aは反時計方向に回転させられる。駆動ドラム20aが反時計方向に回転するとラチェット車41も反時計方向に回転するが、この場合、歯車30aは停止したままである。係合部材43が揺動して、係合部材43の先端部が歯部42上を摺動するからである。この場合、歯車30aは停止したままになるので秒針3aは駆動しない。このように、ラチェット車41、係合部材43は、定荷重ばねSを巻取る方向に回転した際の駆動ドラム20aの動力を秒針3aに伝達せずに、巻取り方向と逆方向に回転した際の駆動ドラム20aの動力を秒針3aに伝達する機能を有している。これにより、秒針3aの駆動へ影響を与えずに定荷重ばねSの巻取りが可能となる。
次に、歯車30aから秒針3aに動力が伝達される構造について説明する。
歯車30aの外周部には歯部31aが形成されている。歯部31aは、歯車30bの歯部32bと噛合う。歯車30bは、歯部32bと、歯部32bよりも径の大きい歯部31bとを有している。歯車30bの歯部31bは、歯車30cの歯部32cと噛合う。歯車30cは、歯部32cと、歯部32cよりも径の大きい歯部31cとを有している。歯車30cの歯部31cは、歯車30dの歯部32dと噛合う。歯車30dは、歯部32dと、歯部32dよりも径の大きい歯部31dを有している。歯車30dの歯部31dは、歯車30eの歯部32eと噛合う。歯車30eは、歯部32eと、歯部32eよりも径の大きい歯部100aとを有している。歯部100aはクラウン歯車となっており、ガンギ車101のガンギ車カナ101aと噛み合っている。図示はしないが、ガンギ車101は一般的な機械式時計の調速機構へと動力を伝達しており、この調速機構の備えるテンプの振幅に基づいた回転数で回転する。
歯車30eには、歯部32eと同軸上に、秒針3aが固定された軸が連結されている。従って、歯車30eが回転することにより、秒針3aが回転する。このように、歯車30aの動力が秒針3aへと伝達される。
次に、駆動ドラム20aから分針3cに駆動力が伝達される構造について説明する。
図5は、図2のB―B断面図である。図5に示すように、歯車30cには、回転軸33bが嵌合している。歯車30cが回転することにより、回転軸33bも回転する。回転軸33bは、正面板10aの正面側にまで貫通している。回転軸33bの先端側には、筒部36bが嵌合されている。筒部36bには、分針3cが連結されている。このように、回転軸33bが回転することにより分針3cが回転する。
次に、駆動ドラム20aから時針3bに駆動力が伝達される構造について説明する。
図5に示すように、筒部36bに設けられた歯部37bは、歯車30gの歯部31gと噛み合っている。歯車30gは歯部31gよりも径の小さい歯部32gを有しており、歯部32gは、筒部34bに嵌合している歯車30fの歯部31fと噛み合っている。筒部34bは筒部36bの外周に対して回転可能に嵌合されている円筒状の部材であり、先端には時針3bが連結されている。
歯車30cの回転により、回転軸33bが回転すると、歯部37b、歯部31gが噛み合い、歯車30gが回転する。歯車30gが回転すると歯部32g、歯部31fが噛み合い、歯車30fが回転して、筒部34bが回転する。これにより、時針3bが回転する。
尚、歯車30gの歯部31gは、歯車30iの歯部31iとも噛合っている。歯部31iは、歯車30jに噛合っている。歯車30i、30jは、正面板10aと支持板38との間で回転可能に支持されている。歯車30jには、調節軸33jが連結されている、調節軸33jは、正面板10a、10bを貫通して背面板10c側に延びている。ユーザが調節軸33jを回転させることにより、歯車30j、30i、30gを介して、筒部34b、36bを駆動させることができ、これにより時針3b、分針3cの位置の調整をすることができる。
次に、定荷重ばねSについて説明する。
図6、図7は、時計1を正面側から見た場合の定荷重ばねS周辺の構造の透視図である。尚、図6、図7は、駆動ドラム20a、保持ドラム20bや、歯車110、歯車50、巻取り量表示部60についても示している。定荷重ばねSは、一定の曲率で曲げられた帯状の板ばねであり、駆動ドラム20a、保持ドラム20b周りに巻かれる。定荷重ばねSの一端は、2つのネジ23aにより駆動ドラム20aに固定されている。定荷重ばねSの他端側は、保持ドラム20bに巻きつけられているが、保持ドラム20bに固定されていない。図6は、定荷重ばねSの大部分が保持ドラム20bに巻き付けられた状態を示しており、図7は、定荷重ばねSの大部分が駆動ドラム20aに巻き付けられた状態を示している。定荷重ばねSは、自身の弾性復元力により、保持ドラム20bに巻き付けられた状態に戻ろうとする。駆動ドラム20aは、背面板10cから部分的に露出しており、露出した駆動ドラム20aの部分を回転させることにより、定荷重ばねSを駆動ドラム20aに巻取ることができる。
図6に示した状態から、駆動ドラム20aを手動により反時計方向に回転させると、定荷重ばねSの一端はネジ23aにより駆動ドラム20aに固定されているので、駆動ドラム20aは定荷重ばねSの弾性復元力に抗して定荷重ばねSを巻取ることができる。保持ドラム20bに巻き付けられた状態に対して定荷重ばねSの表面と裏面とが逆になるようにして駆動ドラム20aに巻き取られる。更に、駆動ドラム20aを反時計方向に回転させると、図7に示すように、定荷重ばねSの大部分が駆動ドラム20aに巻取られる。
図7の状態で放置すると、定荷重ばねSは、自らの弾性復元力により、徐々に保持ドラム20b側に巻き戻る。この過程で、駆動ドラム20aは時計方向に回転する。このようにして定荷重ばねSは、駆動ドラム20aを駆動する。駆動ドラム20aが駆動することにより、上述したように秒針3a、時針3b、分針3cが駆動する。このように、定荷重ばねSは、時刻表示部である秒針3a、時針3b、分針3cの駆動源として機能する。また、駆動ドラム20aは、定荷重ばねSの弾性復元力に抗して巻取り可能であり、定荷重ばねSの弾性復元力に従って定荷重ばねSを巻き取る方向とは逆方向に回転させられて秒針3a等を駆動する。尚、駆動ドラム20aが回転することにより、歯車50、巻取り量表示部60も回転する。歯車50、巻取り量表示部60については後述する。
巻取り量表示部60の構造について説明する。
巻取り量表示部60は、正面板10aの正面側に設けられた軸122に対して回転可能に支持されている。巻取り量表示部60は、円板状である。図11に示すように、巻取り量表示部60の外周には、歯部63が形成されている。なお、図11は説明のために指針28を省略した状態で図示している。
歯車50の構造について説明する。
正面板10aの正面側に設けられた軸121には歯車50が回転可能に支持されている。歯車50には、詳しくは後述するが、歯部63と噛み合うことでゼネバ機構として機能する歯部53および歯部53の背面側に歯部53よりも径の大きな歯部54が設けられている。歯部53と歯部54とを同軸上に設けることにより、歯部53と歯部54とを別に設ける場合と比べて部品点数を減らすことができる。
また、駆動ドラム20aと共に回転する軸28aの先端側には歯車110が固定されている。詳しくは後述するが歯車110には、歯車50の歯部54と噛み合うことでゼネバ機構として機能する2つの歯部113が180°対向するように形成されている。駆動ドラム20aによる定荷重ばねSの巻取り作業が行なわれている間は、歯車110もそれに伴って反時計方向に回転し、歯車50を介して巻取り量表示部60は反時計方向に回転する。定荷重ばねSの弾性復元力により駆動ドラム20aが時計方向に回転すると、歯車110も時計方向に回転し、歯車50を介して巻取り量表示部60は時計方向に回転する。このように、駆動ドラム20aにおける定荷重ばねSの巻取り量に応じて巻量表示部60が回転する。巻取り量表示部60には、図2、図6及び図7に示すように指針68が固定されており、巻取り量表示部60の回転に伴って指針68も回転する。例えば図6に示すように保持ドラム20bに定荷重ばねSの大部分が巻き取られた状態では指針68は、時計1を正面から見て左斜め下を指している。この状態では、駆動ドラム20aを回転させるための弾性復元力がほとんど働かない状態にある。従ってユーザは、駆動ドラム20aを手動により反時計方向に回転させて、定荷重ばねSを駆動ドラム20aに巻き取らなければならないと判断することができる。
一方、図7に示すように、駆動ドラム20aに定荷重ばねSの大部分が巻き取られている状態では、指針68は時計1を正面から見た場合に、右斜め下を指しており、ユーザは、十分に定荷重ばねSを駆動ドラム20aに巻き取ることができたと判断することができる。
駆動ドラム20aに巻き取られた定荷重ばねSは、やがて弾性復元力により保持ドラム20bに巻き戻っていく。その過程において、指針68は図7に示す右斜め下を指す位置から、図6に示す左斜め下を指す位置まで移動する。従ってユーザは、指針68の指す位置を視認することで、定荷重ばねSが駆動ドラム20aに巻き取られている量を概ね把握することができる。すなわちユーザは、指針68の位置を視認することで定荷重ばねSの巻取り量を把握することができる。このように、巻取り量表示部60は、駆動ドラム20aに連動し、駆動ドラム20aにより巻き取られた定荷重ばねSの巻取り量を示す。
定荷重ばねSの巻取りを可能な範囲を制限する構造について説明する。
上述したように本発明においては、巻取り量によらずに弾性復元力が略一定となる領域で定荷重ばねSを用いている。そのため巻取り量を増やしても弾性復元力が上昇することがないので、一定の負荷で巻取りを行うことができるが、定荷重ばねSの全長が決まっているので巻き取れる範囲には限界がある。限界に到達した状態で、更に定荷重ばねSを巻き取ろうとすると、本実施例においては定荷重ばねSは保持ドラム20bに固定されていないので、定荷重ばねSが保持ドラム20bから離脱してしまい駆動ドラム20aを駆動させることができなくなる。また、仮に定荷重ばねSが保持ドラム20bに固定されていた場合には、定荷重ばねSに負荷がかかって破損するおそれがある。従って、いずれの場合であっても定荷重ばねSの巻取り可能範囲を制限する必要がある。
図1、図2に示すように、本発明における巻取り量表示部60の背面側には円弧状の係合溝66が形成されている。係合溝66は、巻取り量表示部60の回転方向に延在している。換言すれば、係合溝66は、巻取り量表示部60の回転軸心周りに延在している。また、係合溝66と係合したストッパ16が正面板10aに固定されている。ストッパ16は、ピン状である。巻取り量表示部60が回転することにより、係合溝66はストッパ16に対して移動する。ストッパ16は、巻取り量表示部60の回転範囲を制限している。図6に示した状態では、ストッパ16は係合溝66の一端に当接し、巻取り量表示部60の更なる時計方向への回転を制限している。図7に示した状態では、ストッパ16は係合溝66の他端に当接し、巻取り量表示部60の更なる反時計方向の回転を制限している。
このように、巻取り量表示部60の回転範囲を制限することにより、駆動ドラム20aの回転範囲を制限することができる。巻取り量表示部60と駆動ドラム20aとは、歯車50、歯車110、軸28aを介して連動しているからである。これにより駆動ドラム20aの回転範囲が制限される。従って、駆動ドラム20aによる定荷重ばねSの巻取り可能範囲が制限されている。
上述したように、巻取り量表示部60の回転範囲を制限するストッパ16により、定荷重ばねSの巻取り量も制限している。このため、巻取り量表示部60の回転範囲と定荷重ばねSの巻取り可能範囲とを制限するストッパを個別に設けた場合と比較し、時計1は部品点数が削減されている。
ストッパ16により制限された定荷重ばねSの巻取り可能範囲について説明する。
図8Aは、定荷重ばねSの巻取り量と弾性復元力との関係を示した図である。ここで巻取り量とは、定荷重ばねSの弾性復元力に抗してドラムに巻取られた長さである。巻取り量ゼロから所定の巻取り量との間では、定荷重ばねSの弾性復元力は徐々に増大する。その後、定荷重ばねSの弾性復元力は、巻取り量に関わらずに略一定となる。弾性復元力が一定となる時の巻取り量をR1とする。巻取り量R1よりも大きく、定荷重ばねSの全長の長さよりも短い時点での巻取り量を巻取り量R2とする。
ストッパ16は、巻取り可能範囲を、定荷重ばねSの弾性復元力が一定に維持される巻取り量R1〜R2の範囲内に制限している。図6は、巻取り量R1での定荷重ばねSの状態を示しており、駆動ドラム20aには巻取り量R1に相当するだけの定荷重ばねが巻かれた状態にある。この状態でストッパ16により駆動ドラム20aの更なる時計方向への回転が制限されているため、それ以上、定荷重ばねSは保持ドラム20bへと巻き取られることはない。従って時計1が弾性復元力一定ではない状態で駆動されることはない。すなわち、すでに駆動ドラム20aには所定量の定荷重ばねが巻かれた状態にあるが、見かけ上、時計1において巻取り量表示部60が巻き取り量ゼロを表示するのは巻取り量R1の状態である。
図7は、巻取り量R2での定荷重ばねSの状態を示している。この状態でストッパ16により駆動ドラム20aの更なる反時計方向への回転が制限されているため、それ以上、定荷重ばねSが駆動ドラム20aに巻き取られることはない。従って定荷重ばねSが全長を越えて巻き取られようとすることで破損したり、保持ドラム20bから離脱してしまうようなことはない。
図8Bは、縦軸を日差dとし、横軸を定荷重ばねSの巻取り量とした場合の、定荷重ばねSを用いた場合の日差と巻取り量との関係を示した図である。図8Bに示した直線L1は、定荷重ばねSを用いた場合の日差を示す。ここで、「日差」とは、1日当りにおける、正確な時刻と時計が示す時刻との差を示している。
また、図8Cは、縦軸を日差dとし、横軸をぜんまいばねの巻取り量とした場合の、日差と巻取り量との関係を示した図である。図8Cに示した直線L2は、ぜんまいばねを用いた場合の日差と巻取り量との関係を示す。
通常のぜんまいばねは、定荷重ばねSと異なり、巻取り量によって弾性復元力が異なる。具体的には、巻き取り量が少ないうちは巻取り量に伴って弾性復元力が上昇していくが、やがて急激に弾性復元力が上昇して、それ以上巻きとることができなくなる。このように弾性復元力が変化すると、調速機のテンプの振幅が弾性復元力に応じて変化してしまい、ガンギ車101の回転数もこれに応じて変化するので、指針の回転速度が変動してしまう。すなわち日差が変動する。一方、定荷重ばねSは、弾性復元力が略一定であるため、調速機のテンプの振幅は略一定となるから、巻取り量によらずに指針の回転数は略一定となる。従って日差が略一定となる。
図8Bにおいて、巻取り量R1の状態から所定量だけ巻き取った際の巻取り量をRaとする。そして、Raにおける弾性復元力で駆動される時計1の調速機を既知の方法により時計1の日差を可能な限り小さい状態に調整し、その際の図8Bにおけるd軸上の位置をda0とする。
上述のように、日差は調速機に伝達される弾性復元力に応じて変化するが、定荷重ばねSを用いた場合には巻取り量によらず弾性復元力が略一定であるため、テンプの振幅周期が略一定となる。そのため巻取り量Raの状態で調整したにもかかわらず、巻取り量がR1からR2の範囲内であれば日差は略一定となる。
図8Cにおいて、時計が動作できる最小量だけぜんまいばねを巻き取った位置をRb1とし、ぜんまいばねを巻き取ることができなくなる巻取り量をRb2とし、Rb1の状態から所定量だけ巻き取った状態をRbとする。そしてRbにおける弾性復元力で駆動される時計の日差を可能な限り小さい状態に調整し、その際のd軸上の位置をdb0とする。
図8Cに示すように、ぜんまいばねを用いた時計ではぜんまいばねの巻取り量が少ない場合と多い場合とでは弾性復元力が異なるので、ぜんまいばねを用いた時計の日差は略一定とはならず、Rb2からRb1に向かうに従って日差が減少していき、やがてRbに到達すると日差が最も小さくなる。そしてRb1に向かうに従って、再び日差が大きくなっていく。
従って、通常のぜんまいばねを用いた時計と比較して、本実施例の時計1は、巻取り量によらず日差が略一定となる。このため、通常のぜんまいばねを用いた時計と比較して、時計1は、時刻が狂いにくくなっている。
歯車機構130の動作について説明する。
図9A〜10C及び図11は、図2の状態にある時計1の歯車50周辺の構造を示した模式図である。なお、図9A〜10Cは説明のために歯部54を省略した状態で図示している。
歯車50は、本体部52、本体部52の外周に部分的に設けられた2つの隣接した歯53a、53bからなる歯部53、本体部52よりも径が大きく本体部52よりも軸方向の厚みが薄い外周部56、外周部56の背面側に交互に設けられた歯54a、歯54bからなる歯部54を含む。歯54a、54bの歯底円直径は外周部56の径よりも大きい。また、歯54aの歯底から歯先までの距離である歯たけ54ahは、歯54bの歯底から歯先までの距離である歯たけ54bhよりも大きい。
図14A、Bは図2の状態にある時計1の歯車50周辺の構造を示した模式図である。巻取り量表示部60の歯部63は、交互に設けられた歯63a、63bからなる歯部63を含む。図14Bに示すように、歯63aの歯底から歯先までの距離である歯たけ63aHは、歯63bの歯底から歯先までの距離である歯たけ63bHよりも大きい。
次に、歯車110から巻取り表示部60に動力が伝達される構造について説明する。上述のように歯車110は、駆動ドラム20aと共に回転する軸28aの先端側に取り付けられている。従って歯車110は駆動ドラム20aとともに回転する。
駆動ドラム20aによる定荷重ばねSの巻取り作業が行われている間、歯車110は、軸28aの回転に伴って反時計方向に回転する。歯車110には2つの歯部113が180°対向するように形成されており、歯車50の歯部54と噛み合う。歯部113は隣接した2つの歯113a、113bより構成されており、歯113a、113bが歯車50の歯部54を構成する歯54a、54bと噛み合うことで、歯車110の動力を歯車50に間欠的に伝達する。これによって、歯車50は間欠的に時計方向に回転する。このように歯車110はゼネバ歯車として機能する。
歯車50は歯部54よりも径の小さな歯部53を有している。歯部53は、巻取り量表示部60の歯部63と噛み合う。歯部53は隣接した2つの歯53a、53bより構成されており、歯53a、53bが巻取り量表示部60の歯部63を構成する歯63a、63bと噛み合うことで、歯車50の動力を巻き取り量表示部60に間欠的に伝達する。従って、歯車50の回転に伴って、巻取り量表示部60は間欠的に回転する。このように歯車50はゼネバ歯車として機能する。歯車110、歯車50及び巻取り量表示部60は、歯車機構130を構成する。
図11は、歯113a、113bと、歯54a、歯54b及び歯53a、53bと、歯63a、63bとが噛合っていない時の歯車機構130を示している。また、図12は、図11の状態にある歯車機構130の斜視図である。
歯113a、113bと、歯54a、54bとが噛み合っていないときには、歯車110の外周部112の外周面は、歯54bの歯面の一部と摺接する。ここで、図12に示すように、歯54aの歯幅b1は、歯54bの歯幅b2よりも短くなっており、外周部112は歯54aに摺接しない。これにより、歯54a、54bと、歯113a、歯113bとが噛み合っていない時に、歯車50が不用意に回転することを抑制している。
歯53a、53bと、歯63a、63bとが噛合っていないときは、歯車50の外周部56の外周面は、歯63bの歯面の一部と摺接する。ここで、図12に示すように歯63aの歯幅b3は、歯63bの歯幅b4よりも短くなっており、外周部56は歯63aに摺接しない。これにより、歯53a、53bと、歯部63とが噛合っていない時に、巻取り量表示部60が不用意に回転することを抑制している。
図11に示す状態から、歯車110が時計方向に回転すると、歯113bが歯54aを押して、歯車50は反時計方向に回転し始める。さらに歯車110が時計方向に回転すると、今度は歯113aと歯54bとが当接し、歯113aが歯54bを押して、歯車50は反時計方向への回転を継続させられる。さらに歯車110が時計方向に回転を続けると、やがて歯車110の外周部112の外周面と歯54bの歯面の一部とが摺接し、次に180°対向した位置に設けられた歯113bが歯54aと当接するまで、歯車50の回転は中断させられる。このように、歯113a、歯113bが歯54bを挟むようにして、歯車110と歯車50とは間欠的に噛み合う。なお、歯車110には180°対向するように歯部113が設けられているので、歯車110が時計方向に1回転すると歯車110の回転は、歯車50に2回伝達される。
次に、歯車50と巻取り量表示部60との関係について説明する。図11に示す状態から、歯車110が時計方向に回転するにつれて、歯車50は、間欠的に反時計方向に回転を続け、やがて図9Aに示すように歯53aが歯63aに当接する。次に、図9Bに示すように歯53aが歯63aを押して巻取り量表示部60は時計方向に回転し始める。次に、歯車50は更に時計方向に回転して図9Cに示すように歯53bが歯63bに当接する。次に、図9Dに示すように歯53aは歯63aを押し、歯53bは歯63bを押して巻取り量表示部60は時計方向に回転する。次に、図10Aに示すように、歯53aは歯63aから離れる。次に、図10B、10Cに示すように、歯53bが歯63bを押して巻取り量表示部60は時計方向に回転する。次に、歯53bが歯63bから離れる。その後、歯車50が時計方向に回転して、再び図9Aに示すように、歯53aが歯63aに当接する。このようにして、歯車50の回転が間欠的に巻取り量表示部60に伝達される。以上のように、歯53a、歯53bが、歯63bを挟むようにして、歯車50、巻取り量表示部60は噛合う。巻取り量表示部60は、歯車50に噛合う従動歯車に相当する。
歯車50の歯部53、巻取り量表示部60の歯部63の設計方法について説明する。
図11〜17を参照しながら、歯車50、巻取り量表示部60の設計方法について説明する。駆動歯車としての歯車50及び従動歯車としての巻取り量表示部60を設計する際には、図11に示す歯車50、巻取り量表示部60間の中心間距離Lを最初に設定する。尚、この設計途中の段階の歯車50、巻取り量表示部60について、便宜上歯車50x、巻取り量表示部60xとして説明する。
次に図13A、Bに示すように中心間距離Lに基づいて歯車50xの歯部53xのピッチ円直径D1及び巻取り量表示部60xの歯部63xのピッチ円直径D2を設定する。続いてインボリュート歯車の歯形及び寸法によって規定されるモジュールを、例えばJISB1701−2に記載されている標準値のなかから選択する。これらの初期設定値および公知の公式に基づいて歯車50xの歯部53xの歯数Z1、及び巻取り量表示部60xの歯部63xの歯数Z2が決定される。尚、本実施形態では、歯数Z1<歯数Z2となるように設計する。
尚、歯車50xの歯部53xの歯数とは、実際に歯車50に設けられる歯部の歯の数を意味するものではなく、巻取り量表示部60の歯数と噛合うために設計上必要となる歯数である。
次に、図13Bに示すように、巻き取り量表示部60を間欠的に回転させるため、歯車50xから隣接した2つの歯53ax、53bx以外の歯を除去する。
さらに歯車50xの回転中心から、歯53ax、53bxの歯先先端までの距離を半径とする外周部56を歯53ax、53bxの間を除いて、歯車50xの回転中心周りに形成する。このようにして歯車50xの歯部53xが得られる。
図13Aに示すように、巻取り量表示部60xには歯63a、63bxよりなる歯部63xが設けられる。歯63a、63bxは、同一形状であるが、後述する理由により、便宜上異なる符号を付する。歯63a、63bxは、交互に並んでいる。
図13Bに示すように、歯63bxの形状は修正される。具体的には、図13Bに示すように、歯63aが巻取り量表示部60xの中心と歯車50xの中心とを結ぶ仮想線63l上に位置する際における、歯63bxの、歯車50xの外周部56との重なり部分を除去し、歯車50xの外周部56の外周面と歯63aの両側に位置する歯63bxの歯面の一部とが摺接するように、歯63bxの形状を修正する。尚、歯面の一部とは、図14Bに示す63b3、63b4のことである。これにより、巻取り量表示部60xの歯部63xと歯車50xの歯部53xとが噛合っていないときに、巻取り量表示部60xが不用意に回転することを防止できる。また、図13Bに示すように、摺接面63b3、63b4と歯車50xの外周部56の外周面とが摺接するときには、当該歯63aは巻取り量表示部60xの中心と歯車50xの中心とを結ぶ仮想線63l上に位置決めされる。尚、この修正により、歯63bxは歯63aよりも全歯たけが短くなる。
尚、図13Bに示した歯車50xにおいて、歯53ax、53bx間の歯底面53abxと、歯53ax、53bxに挟まれていない歯53ax側の歯底面53ab1、歯53bx側の歯底面53ab2とは、歯車50xの回転中心を中心とする同一円周上にある。
上述したような方法によって歯車機構130が設計されるが、歯車110による歯車50の回転角に対する巻き取り量表示部60の回転角度を、上述のとおり初期設定された現在の設計途中段階のものよりも、大きく回転したい場合があったとする。
上述したように、巻取り量表示部60に固定された指針68によって、駆動ドラム20aに定荷重ばねSの巻取りの状態をユーザは視認することができるが、本実施形態では歯車110の回転に対して巻取り量表示部60は間欠的にしか回転しないため、歯車110の回転数よりも巻取り量表示部の回転数は少なくなる。
例えば、歯車110が1回転すると巻取り量表示部60が1ピッチだけ回転するものとし、定荷重ばねSの大部分が駆動ドラム20aに巻き取られるまで歯車110を10回転させるものとすると、巻取り量表示部60は10ピッチだけ回転する。すなわち図6に示す状態から図7に示す状態に至るまでに巻取り量表示部60が10ピッチだけ回転するものとする。
仮に巻取り量表示部60が1ピッチで1°しか回転しないとすると、図6に示す状態から、図7に示す状態に到るまでに巻取り量表示部60は10°しか回転しないため、ユーザが定荷重ばねSの巻取り量を把握しづらい。
それに対して、仮に巻取り量表示部60が1ピッチで5°回転したとすると、図6に示す状態から、図7に示す状態に到るまでに巻取り量表示部60は50°回転することになり、ユーザが定荷重ばねSの巻取り量を把握することが容易になる。このように本実施形態では、歯車110による歯車50の回転角に対する巻き取り量表示部60の回転角度は、上述のとおり初期設定された現在の設計途中段階のものよりも、大きく回転することが望ましい。
その場合は、巻き取り量表示部60の回転数が現在よりも増速されるように設計変更しなければならない。すなわち、歯車110の回転数に対して歯車50を増速するか、歯車50の回転数に対して巻取り量表示部60を増速させるなどしなければならない。
ここでは、歯車50に対して巻取り量表示部60を増速させる場合の設計変更の方法について以下に説明する。なお、説明を容易にするために、歯車50x及び巻取り量表示部60xを例にして説明を行うものとする。
本実施形態では外周部56を設ける前において、歯車50xの歯部53xの歯数Z1<巻取り量表示部60xの歯部63xの歯数Z2という関係にある。この場合、巻取り量表示部60xを現在よりも増速させるためには、歯部63xの歯数Z2を変えずに歯部53xの歯数Z1を現在の歯数よりも多くする。そうすると、巻取り量表示部60xは増速される。
例えば巻取り量表示部60xの歯部63xの歯数を一定とした場合にモジュールを小さくすると、巻取り量表示部60x及び歯車50xの歯部53xのピッチ円直径が小さくなる。ここで中心間距離L一定とすると、巻取り量表示部60xの歯部63xのピッチ円直径が小さくなるのに応じて、歯車50xの歯部53xのピッチ円直径を大きくすることができるので、歯部53xの歯数を増やすことができる。しかしながら、モジュールを小さくすると、それに伴い歯の強度が低下して、歯が欠損するなどの不具合が発生することが考えられる。また、歯形が小さくなるほど加工も難しくなるので、一定限度以下のモジュールを選ぶことは避けることが望ましい。
あるいは、モジュール一定とした場合に、歯部63のピッチ円直径は変えずに歯部53xのピッチ円直径を大きくすれば歯数を増やすことができるが、この場合は歯車間の中心間距離Lが大きくなってしまい、時計1が大型化する。時計のサイズが大きくなりすぎることは望ましくないことであり、またデザイン上の観点からも、一定限度以上に中心間距離Lを大きくすることはできない。
更に図11、12を見るとわかるように、本実施形態では歯部53と歯部54とを同軸上に設けている。このような構成によって本実施形態では部品点数を減らすことが可能となるが、歯部53の歯先円直径は歯部54の歯底円直径よりも大きくすることができない。このことも一定限度以上に中心間距離Lを大きくすることができない理由のひとつである。
以上のように、通常の設計方法によって増速をしようという場合には一定の限界があるが、本実施形態によれば、こうした限界以上に増速させることが可能である。以下にその設計方法を説明する。
図14A、14Bに、通常の設計方法によって得られた歯車50xの歯部53x及び本実施形態に示す設計方法によって歯車50xの形状を修正した歯車50の歯部53を示す。また、図15A、15Bに図14A、14Bに示した歯部53x及び歯部53の詳細を示す。
歯車の噛み合い部から、その歯車の回転中心までの距離を半径とする円をピッチ円とし、歯車に設けられた1歯と、その隣の歯との間の間隔をピッチ円に沿って測った距離を円ピッチとしたときに、歯車50xのピッチ円の直径(以下ピッチ円直径)をD1x、歯車50xにおける円ピッチをピッチCPxとし、歯車50のピッチ円に相当する円の直径をD1、歯車50の円ピッチに相当する距離をピッチCPとする。ここでD1XとD1は等しいものとし、直径D1についてもピッチ円直径D1という。
歯車50xのピッチCPxは、選択したモジュールの値をMとして、CPx=π・M(mm)と算出されるが、図14Bに示す歯車50の歯部53のピッチCPは、モジュールMによって決定されるCPxよりも小さくなるように修正されている。換言すれば、初期設定の値で算出される歯数Z1よりも歯数が増えるように修正されている。ピッチCPが小さく、歯数が多いほど、歯車50の回転角に対する巻取り量表示部60の回転角を大きくすることができるからである。
この修正によれば、歯車50と巻取り量表示部60の中心間距離L、歯部53及び歯部63のピッチ円直径は変更されずに初期設定の値のままとすることができる。
また、歯形についても初期設定のまま変わらない。例えば、歯車50xの1歯における円周方向の幅をピッチ円直径D1xに沿って測定した距離を円弧歯厚tx、歯車50の1歯における円周方向の幅をピッチ円直径D1に沿って測定した円弧歯厚に相当する距離を歯厚tとしたときに、円弧歯厚tx=π・M/2によって算出される値と、修正後の歯厚tの値とは等しい。また、歯車50xの全歯たけhxと歯車50の全歯たけに相当する距離hの値は等しい。
従って、修正前の歯車50xと比較して、修正後の歯車50の回転はより増速されて巻取り量表示部60へ伝達されるが、モジュールを小さくすることなく歯形も変更が無いので、歯車50の製造が容易となり、また、ピッチ円直径を大きくすることがないので、時計1が大型化することも防ぐことができる。
このように、歯車50の歯部53のピッチCPを、モジュールMによって決定される歯車50xのCPxよりも小さくなるように修正した後は、再び、巻き取り量表示部60を間欠的に回転させるため、歯車50から隣接した2つの歯53a、53b以外の歯を除去するとともに、外周部56を歯53a、53bの間を除いて、歯車50の回転中心周りに形成すれば、ピッチCPが修正されたゼネバ歯車としての歯車50を得ることができる。
また、図14A、Bに示すように、歯53a、53b間の歯底面53abは、歯53ax、53bx間の歯底面53abxよりも、回転中心の外側に位置するように修正されている。尚、歯底面53ab1、53ab2については修正されていない。従って、歯底面53abは、歯底面53ab1、53ab2よりも歯車50の回転中心から離れている。この理由を説明する。
図15Aに示す修正前のピッチCPxよりも図15Bに示す、修正後のピッチCPは小さくなっているので、修正前の歯底面における溝幅をbbxとした場合に、修正後の歯底面における溝幅bbは修正前の溝幅bbxよりも小さくなる。そうすると歯車を加工するためのホブなどの加工工具自体の形状も細かくなり、強度が低くなるなどして加工が難しくなる。
ところで、図9A〜Dおよび図10A〜Cに示すように、歯53aと歯53bとの間には必ず歯63bが挟まれるようになっており、歯63aが挟まれることは無い。
従って、図14A、Bに示すように歯53aと歯53bとの間の歯底面53abは、歯63bと干渉しない範囲内で歯車50の回転中心から離れる方向に移動させても歯車50と表示部60の回転に支障が生じない。これにより、歯底面53abxと比較して歯底面53abの形状は緩やかなカーブを描くように形成することができる。従って、歯53a、53bの製造の容易性を確保できる。
また、図14A、14Bに示すように、歯63bの歯面は、歯車50の歯部53のピッチCPの修正に応じて、歯63bxの歯面よりも歯の内側に位置するように修正される。即ち、モジュールMによって決定される歯面の位置よりも内側に位置するように修正される。これにより、歯63bの円弧歯厚に相当する歯厚は、歯63aの円弧歯厚よりも小さくなる。歯63aは大歯に相当し、歯63bは小歯に相当する。このように、歯63b1、63b2の歯面の位置が修正されているのは、歯53a、53bの円ピッチを一般の円ピッチよりも狭く修正した関係上、そのままでは歯車50から巻取り量表示部60への回転がスムーズに伝達されないからである。以下に詳細を説明する。
図16Aは、歯63bxを修正する前の歯63a、歯63bx周辺の拡大図であり、歯車50が反時計方向に回転したとき、歯53bの歯面は歯63bxの歯面63b2xではなく、歯63bxの摺接面63b4xに当接する。これは、歯53a、53bの円ピッチが狭く修正されているのに対して、歯63a、63bxの円ピッチは修正されていないためである。このため、歯53bから歯63bxに伝えられる力は、巻取り量表示部60の回転軸中心方向に大きく作用してしまい、巻取り量表示部60はスムーズに回転しなくなる。あるいは回転できなくなる。
そこで、図16Bに示すように、歯53a、53bの円ピッチCPxからの修正に応じて、歯63bの歯面63b2を、歯63bxの歯面63b2xよりも内側に位置するように修正し、歯53bの歯面が摺接面63b4に当接しないようにすると、歯53bから歯63bに伝えられる力は、巻取り量表示部60の円周方向に大きく作用するため、巻取り量表示部60はスムーズに回転する。尚、歯車50が時計方向に回転する場合も同様である。すなわち、歯63bの歯面63b1を、歯63bxの歯面63b1xよりも内側に位置するように修正する。
図14Bは、上記の修正が行なわれて製造された歯車50、巻取り量表示部60を示している。歯63bの全歯たけ63bHは、歯63aの全歯たけ63aHよりも小さい。また、歯63bは、歯車50の外周部56に摺接し得る摺接面63b3、63b4を有し、図11に示すように、摺接面63b3、63b4は、巻取り量表示部60の不用意な回転を防止している。
上述のように、歯車50は、歯53a、53bの歯先円直径と等しい直径を持つ外周部56を歯53a、53bの間以外の範囲に備えている。従って歯53bの歯先面から外周部56の外周面までは連続して繋がっている。同様に歯53aの歯先面と外周部56の外周面までは連続して繋がっている。
例えば、歯車50が反時計方向に回転した場合に、図17Aに示すように歯63bの歯面63b2と歯53bの歯面53b1とが当接して、巻取り量表示部60は時計方向に回転するが、この当接状態は、図17Bに示すように歯53bの歯面53b1が外周部56の外周面に達するまで継続し、最終的には図17Cに示すように、摺接面63b4と外周部56の外周面とが摺接することで、巻取り量表示部60は回転を終了し、歯63aは仮想線63l上に位置決めされる。また、このとき、外力によって巻取り量表示部60が反時計方向に回転させられたとしても、歯63aを挟んだ反対側の歯63bの摺接面63b3が外周部56の外周面と当接するので、それ以上反時計方向に回転することが妨げられる。すなわち巻取り量表示部60の不用意な回転を防止している。
このように、歯63bの摺接面63b4の形状と歯車50の外周部56の形状が調整されているので、歯63aは巻取り量表示部60の中心と歯車50の中心とを結ぶ仮想線63l上の所定の位置に確実に位置決めされる。
このような構成上の特徴を持つので、歯車50の歯53a、53bのピッチCPが狭く修正されていても、歯車50の歯53aと歯63aとが再度当接する際には、巻取り量表示部60は、再び所定の位置から回転を開始することができる。
ここで、前述したように、歯部53の歯先円直径と、外周部56の直径とは一致している。このため、歯車50が反時計方向に回転している場合には、歯63bには、歯53bと外周部56の外周面とが当接する。これにより、例えば、歯53bの一部が欠損している場合であっても、外周部56が歯63bに当接して歯63bを所望の位置へと移動させることができる。これにより、図17Cに示したように、歯63aは仮想線63l上に位置付けることができる。これにより、歯53bの一部、例えば歯先付近が欠損して、歯53bだけでは歯63bを所望の位置に送ることができないような場合であっても、歯車50の回転を巻取り量表示部60に伝達することができる。また、歯車50が時計方向に回転する場合も上述した場合と同様に、歯53aの一部が欠損したような場合であっても、外周部56の外周面が歯63bに当接して、歯63bを所望の位置へと移動させることができる。
また、本実施形態において、図6に示した状態から、駆動ドラム20aを手動により反時計方向に回転させると巻取り量表示部60は時計方向に回転する。やがて、図7に示すように定荷重ばねSの大部分が駆動ドラム20aに巻き付けられた状態になると、ストッパ16によって巻取り量表示部60の時計方向への回転が制限される。
図7に示した状態から、駆動ドラム20aを更に反時計方向に回転させようとしても、駆動ドラム20aは巻取り量表示部60を介してストッパ16によって回転を制限されているため回転することはない。このときの回転トルクは、歯車50と巻取り量表示部60との間にかかる。具体的には、歯53aと歯63aに回転トルクがかかる。即ち、この状態においては、歯53aは歯63aと当接するが歯63bには当接しない。このため、このような回転トルクは歯63bにはかからない。このような回転トルクが歯63bにかかってしまうと、歯63bの歯厚はモジュールMから決定される円弧歯厚よりも小さくなるように修正されているため、歯63bが変形、破損するおそれがある。
また、図6に示すように、保持ドラム20bに定荷重ばねSの大部分が巻かれた状態では、ストッパ16によって巻取り量表示部60がそれ以上反時計方向に回転することを制限されるが、上述したように、本実施形態においては、定荷重ばねSの荷重が一定となる領域を用いる関係上、巻取り量表示部60の巻取り量ゼロの位置においても、所定量の定荷重ばねSが駆動ドラム20aに巻かれた状態にある。
そのため、巻取り量ゼロの状態であっても、駆動ドラム20aには時計方向に回転しようとする力が働くが、駆動ドラム20aは巻取り量表示部60を介してストッパ16によって回転を制限されているので、回転することはない。このとき定荷重ばねSによる回転トルクが歯53bと歯63aにかかっている。即ち、この状態においても、歯53aは歯63aと当接するが歯63bには当接しない。このため、このような回転トルクは歯63bにはかからない。このような力が仮に歯63bにかかってしまうと、やはり歯63bが変形、破損するおそれがある。
しかしながら本実施形態においては、ストッパ16が巻取り量表示部60の回転を制限する場合には、歯53a及び歯53bは、歯63bには当接しない。このため、歯63bに負荷はかからず、歯63bが変形、破損することはない。そのため歯車50と巻取り量表示部60はスムーズに回転することが可能である。
以上本発明の好ましい一実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、本実施形態ではピッチCPを修正した歯部53は歯車50に一つだけ設けられているが、歯車50に設ける歯部53は一つに限られず、二つ以上あってもよい。
また、巻取り量表示部には、針の変わりに、指標となるラインを描いてもよい。巻取り量表示部は、ラックなどを用いて直線状に移動するものであってもよい。ストッパを、巻取り量表示部の背面側に設け、このストッパと係合する係合溝を正面板側に設けてもよい。上記時計1は、置き時計であるが、壁掛け時計や腕時計であってもよい。