JP5316390B2 - 燃料噴射制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、無噴射減速運転時に学習用噴射を実行して燃料噴射弁の噴射量を補正する燃料噴射制御装置に関する。
従来、機差または経時変化等により生じる燃料噴射弁の目標噴射量に対する実噴射量のずれ量を学習し、実噴射量が目標噴射量になるように噴射量補正値を算出することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。例えば、NOxおよび燃焼騒音を低減するためにメイン噴射の前に微少量のパイロット噴射を実施するディーゼルエンジンの場合、パイロット噴射による微少噴射量を高精度に補正する噴射量学習が求められる。
噴射量学習の一例として、特許文献1には、アクセル開度が0になって内燃機関が減速運転になり、燃料噴射弁からの噴射量が0になっている無噴射減速運転時に学習用の燃料噴射を実行し、学習用の噴射を実行したときの内燃機関の回転数の変動量に基づいて実噴射量を推定することが記載されている。
特開2008−309086号公報
ここで、無噴射減速運転時の噴射量学習において内燃機関の回転数の変動量に基づいて実噴射量を推定する場合、学習用噴射により発生する内燃機関の回転数の変動量が大きい方が実噴射量の推定値が大きくなるので、実噴射量の推定精度は向上する。そして、実噴射量の推定精度が向上すると、実噴射量と指令噴射量との差に基づいて高精度に噴射量補正値を算出できる。
しかしながら、回転数の変動量が大きくなると、学習用噴射により発生する振動および燃焼音が大きくなるという問題がある。特に、学習用噴射を実行するときの噴射圧力が高圧になるか、学習用噴射の噴射量が増加すると、振動および燃焼音が大きくなる。また、車両走行音の静寂化が進行すると、学習用噴射により発生する振動および燃焼音が、車両搭乗者に感知されやすくなる。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、内燃機関の無噴射減速運転時に学習用噴射を実行することにより発生する振動および燃焼音を低減する燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
本願発明者は、学習用噴射により発生する内燃機関の回転数の変動量の大きさ、つまり振動および燃焼音の大きさは、学習用噴射の噴射時期によって変化することに着目した。
そこで、請求項1に記載の発明によると、内燃機関の無噴射減速運転時に噴射指令手段からの噴射指令信号により燃料噴射弁が燃料噴射を実行することにより生じる内燃機関の回転数の変動量に基づいて燃料噴射弁の実噴射量を噴射量推定手段が推定し、噴射量推定手段が推定する実噴射量と噴射指令手段が燃料噴射弁に指令する指令噴射量との差に基づいて補正手段が噴射量補正値を算出する。そして、噴射時期設定手段は、無噴射減速運転時において噴射指令手段が燃料噴射弁に指令する学習用噴射の噴射時期を、回転数の変動量が極力大きくなるように適合される適合時期で噴射するよりも回転数の変動量が小さい時期を少なくとも含んで設定する。
このように、回転数の変動量が極力大きくなるように適合される適合時期で噴射するよりも回転数の変動量が小さい時期を少なくとも含んで学習用噴射の時期を設定することにより、回転数の変動量を極力大きくして実噴射量を高精度に推定する噴射時期とは異なる時期に学習用噴射を実行できる。つまり、回転数の変動量を極力大きくする噴射時期に比べて、内燃機関の振動および燃焼音が小さい時期に学習用噴射を実行できる。その結果、学習用噴射で発生する振動および燃焼音を低減できる。
請求項3に記載の発明によると、内燃機関の無噴射減速運転時に、噴射指令手段からの噴射指令信号により燃料噴射弁が燃料噴射を実行することにより生じる内燃機関の回転数の変動量に基づいて燃料噴射弁の実噴射量を噴射量推定手段が推定し、噴射量推定手段が推定する実噴射量と噴射指令手段が燃料噴射弁に指令する指令噴射量との差に基づいて補正手段が噴射量補正値を算出する。そして、噴射時期設定手段は、無噴射減速運転時において噴射指令手段が燃料噴射弁に指令する学習用噴射の噴射時期を複数の異なる時期に設定する。
このように、学習用噴射の噴射時期を複数の異なる時期に設定することにより、回転数の変動量を極力大きくして実噴射量の推定精度を向上するように適合される噴射時期とは異なる時期に、学習用噴射を実行できる。つまり、回転数の変動量を極力大きくする噴射時期に比べて、内燃機関の振動および燃焼音が小さい時期に学習用噴射を実行できる。その結果、前述した適合時期だけで学習用噴射を実行する場合に比べ、学習用噴射により発生する振動および燃焼音を低減できる。
また、請求項2および3に記載の発明によると、車両の走行状態に基づいて、学習用噴射により発生する回転数の変動量を低減するか否かを走行状態判定手段が判定し、噴射時期設定手段は、回転数の変動量を低減する走行状態であると走行状態判定手段が判定すると、回転数の変動量を低減する走行状態ではないと走行状態判定手段が判定するときに設定する噴射時期と異なる時期を少なくとも含んで学習用噴射の噴射時期を設定する。
これにより、回転数の変動量を低減する走行状態ではない場合には、例えば回転数の変動量が極力大きくなるように適合される適合時期で学習用噴射を実行することにより、回転数の変動量に基づいて高精度に実噴射量を推定する。
一方、回転数の変動量を低減する走行状態である場合には、回転数の変動量を低減する走行状態ではない場合の噴射時期とは異なる時期を少なくとも含んで学習用噴射を実行することにより、学習用噴射により発生する振動および燃焼音を低減できる。
ところで、無噴射減速運転が開始されてから時間経過とともに内燃機関の回転数が低下してくると、内燃機関の回転により発生する振動および音が小さくなるので、学習用噴射による燃焼で発生する振動および燃焼音が車両搭乗者に感知されやすくなる。
そこで、請求項4に記載の発明によると、噴射時期設定手段は、無噴射減速運転時において低下中の内燃機関の回転数に応じて噴射時期を設定する。
このように、無噴射減速運転時において低下中の内燃機関の回転数に応じて噴射時期を設定することにより、無噴射減速運転時の高速回転時よりも低速回転時に発生する振動および燃焼音が小さくなる噴射時期に学習用噴射を実行できる。
請求項5に記載の発明によると、無噴射減速運転時において、噴射時期設定手段は内燃機関の低速回転側の噴射時期を高速回転側よりも遅角させる。
噴射時期を遅角させると回転数の変動量が小さくなり、学習用噴射により発生する振動および燃焼音も小さくなる。したがって、内燃機関の回転により発生する振動および音が高速回転側よりも小さくなる低速回転側において、噴射時期を高速回転側よりも遅角させることにより、学習用噴射により発生する振動および燃焼音が車両搭乗者に感知されにくくなる。
ところで、学習用噴射により発生する回転数変動量から実噴射量を推定する場合、回転数変動量が大きいほど実噴射量の推定精度は高くなり、回転数変動量が小さいほど実噴射量の推定精度は低くなる。
したがって、学習用噴射により発生する振動および燃焼音を低減するために学習用噴射の噴射時期を複数の異なる時期に設定すると、各噴射時期において実噴射量の推定精度に違いが発生する。その結果、実噴射量と指令噴射量との差に基づいて算出される噴射量補正値の学習精度にも違いが発生する。
そこで、請求項6に記載の発明によると、補正手段は、噴射量推定手段が推定した異なる噴射時期で噴射された実噴射量に重み付けを行い、重み付けした実噴射量の加重平均と指令噴射量との差に基づいて噴射量補正値を算出する。
これにより、振動および燃焼音は大きいが実噴射量の推定精度は高い噴射時期に学習用噴射を実行して推定した実噴射量と、振動および燃焼音は小さいが実噴射量の推定精度は低い噴射時期に学習用噴射を実行して推定した実噴射量とに適切な重み付けを行い、重み付けした実噴射量の加重平均と指令噴射量との差に基づいて噴射量補正値を高精度に学習できる。
請求項7に記載の発明によると、走行状態判定手段は、車両搭載の音響装置および作動音を発生する車両搭載装置がオフ状態のとき、回転数の変動量を低減すると判定する。
また、請求項8に記載の発明によると、走行状態判定手段は、内燃機関の回転数が所定回転数以下の低速回転のとき、回転数の変動量を低減すると判定する。
また、請求項9に記載の発明によると、走行状態判定手段は、窓が全閉のとき、回転数の変動量を低減すると判定する。
このように、請求項7から9に記載の発明において、車両に搭載された音を発生する装置がオフ状態のとき、あるいは内燃機関の回転数が所定回転数以下の低速回転のとき、あるいは窓が全閉のときには、車内の静寂度が高くなる。この場合、回転数の変動量を低減するように噴射時期を設定することにより、学習用噴射により発生する振動および燃焼音を搭乗者に感知されにくくすることができる。
ところで、内燃機関の加速運転および減速運転の運転履歴から、急激な加減速運転が実行されてきたか否かを判定できる。急激な加減速運転が実行されてきた場合には、加減速運転により生じる振動および騒音を気に掛けない運転者であると判断できる。一方、緩やかな加減速運転が実行されてきている場合には、振動および騒音を気に掛ける運転者であると判断できる。
そこで、請求項10に記載の発明によると、走行状態判定手段は、内燃機関の加速運転および減速運転の運転履歴に基づいて回転数の変動量を低減すると判定する。
これにより、緩やかな加減速運転が実行されてきている場合には、回転数の変動量を低減する噴射時期に学習用噴射を実行すると判断する。一方、急激な加減速運転が実行されてきている場合には、回転数の変動量が大きくなる噴射時期に学習用噴射を実行してもよいと判断する。
請求項11に記載の発明によると、噴射量推定手段は、燃料噴射弁が学習用噴射を実行することにより生じる内燃機関の回転数の変動量から内燃機関の出力トルクを算出し、噴射時期に応じて設定される出力トルクと実噴射量との特性に基づいて実噴射量を推定する。
学習用噴射を実行することにより発生する回転数の変動量は噴射時期によって変化するが、回転数の変動量と出力トルクとの対応関係は噴射時期に関わらず変化しない。これに対し、出力トルクと実噴射量との対応関係は噴射時期に応じて変化する。したがって、噴射時期に応じて設定される出力トルクと実噴射量との特性に基づいて、実噴射量を高精度に推定できる。
請求項12に記載の発明によると、無噴射減速運転時に、内燃機関の運転状態に基づいて設定される目標噴射圧力よりも燃料噴射弁の噴射圧力を減圧する噴射圧力制御手段を備える。
このように、学習用噴射を実行するときの噴射圧力を目標噴射圧力よりも減圧することにより、目標噴射圧力で噴射する場合よりも気筒内での燃焼が緩やかになる。その結果、学習用噴射により発生する振動および燃焼音を低減できる。
尚、本発明に備わる複数の手段の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の手段の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。
本実施形態による燃料噴射システムを示すブロック図。 噴射時期とトルクとの関係を示す特性図。 学習中のエンジン回転数の時間変化に伴う噴射時期、トルク、燃焼音、振動の変化を示す特性図。 (A)は噴射時期による噴射量とトルクとの関係を示す特性図、(B)は噴射時期と学習精度、音、振動との関係を示す特性図。 噴射量学習ルーチンを示すフローチャート。
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
本実施形態による燃料噴射システムを図1に示す。
(燃料噴射システム10)
燃料噴射システム10は、例えば、自動車用の4気筒のディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう。)2に燃料を噴射するためのものである。燃料噴射システム10は、燃料供給ポンプ14と、コモンレール20と、燃料噴射弁30と、電子制御装置(Electronic Control Unit:ECU)40とを備えている。
燃料供給ポンプ14は、燃料タンク12から燃料を汲み上げるフィードポンプを内蔵している。燃料供給ポンプ14は、カムシャフトのカムの回転に伴いプランジャが往復移動することにより、フィードポンプから加圧室に吸入した燃料を加圧する公知のポンプである。
調量アクチュエータとしての調量弁16は、燃料供給ポンプ14の吸入側に設置されており、電流制御されることにより燃料供給ポンプ14の各プランジャが吸入行程で吸入する燃料吸入量を調量する。燃料吸入量が調量されることにより、燃料供給ポンプ14の各プランジャからの燃料吐出量が調量される。燃料供給ポンプ14の吐出側に設置される調量弁により、燃料供給ポンプ14の各プランジャからの燃料吐出量を調量してもよい。
コモンレール20は、燃料供給ポンプ14から吐出される燃料を蓄圧する中空の部材である。コモンレール20には、内部の燃料圧力(コモンレール圧)を検出する圧力センサ22、および、コモンレール圧が所定圧を超えると開弁してコモンレール20内の燃料を排出するプレッシャリミッタ24が設けられている。
エンジン2には、運転状態を検出するセンサとして、エンジン回転数(NE)を検出する回転数センサ32が設置されている。さらに、運転状態を検出する他のセンサとして、運転者によるアクセルペダルの操作量であるアクセル開度(ACCP)を検出するアクセルセンサ、冷却水の温度(水温)、吸入空気の温度(吸気温)をそれぞれ検出する温度センサ等が燃料噴射システム10に設けられている。
燃料噴射弁30は、エンジン2の各気筒に設置されており、コモンレール20で蓄圧された燃料を気筒内に噴射する。燃料噴射弁30は、例えば、噴孔を開閉するノズルニードルのリフトを制御室の圧力で制御する公知の電磁弁である。燃料噴射弁30の噴射量は、ECU40から指令される噴射指令信号のパルス幅によって制御される。噴射指令信号のパルス幅が長くなると噴射量が増加する。
ECU40は、CPU、RAM、ROM、フラッシュメモリ等を中心とするマイクロコンピュータにて主に構成されている。ECU40は、ROMまたはフラッシュメモリに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することにより、圧力センサ22、回転数センサ32を含む各種センサから取り込んだ出力信号に基づき、燃料噴射システム10の各種制御を実行する。
例えば、ECU40は、圧力センサ22が検出するコモンレール圧が目標圧力になるように調量弁16への通電量を制御し、燃料供給ポンプ14の吐出量を調量する。ECU40は、調量弁16を制御する電流値と吐出量との相関を表す特性マップに基づいて、調量弁16を制御する電流値を設定する。
また、ECU40は、燃料噴射弁30の燃料噴射量、燃料噴射時期、およびメイン噴射の前後にパイロット噴射、ポスト噴射等を実施する多段噴射のパターンを制御する。
ECU40は、燃料噴射弁30に噴射を指令する噴射指令信号のパルス幅と噴射量との相関を示す噴射特性マップを、コモンレール圧の所定の圧力範囲毎にROMまたはフラッシュメモリに記憶している。そして、ECU40は、エンジン回転数およびアクセル開度に基づいて燃料噴射弁30の噴射量が決定されると、圧力センサ22が検出したコモンレール圧に応じて該当する圧力範囲の噴射特性マップを参照し、決定された噴射量を燃料噴射弁30に指令する噴射指令信号のパルス幅を噴射特性マップから取得する。
(噴射量学習)
ECU40は、以下に示す噴射量学習条件が成立していると、燃料噴射弁30に学習用の単発の燃料噴射を指令する。噴射量学習条件が成立している場合、単発の学習用噴射が所定回数実行される。
<噴射量学習条件>
(1)エンジン2の運転状態が、アクセル開度が0になってエンジン2が減速運転になり、燃料噴射弁30からの噴射量が0になっている無噴射減速運転状態である。
(2)吸気温、水温が所定範囲内。
(3)エンジン回転数の変動が所定範囲内。
(4)前回実行した学習用噴射からの走行距離が所定距離に達した。
ECU40は、無噴射減速運転時に上記条件が成立していると、所定の指令噴射量の学習用噴射を燃料噴射弁30に指令する。微少噴射量学習の場合、指令噴射量は、例えば1mm3〜5mm3の範囲である。燃料噴射弁30対する噴射指令は、前述したように、学習用噴射実行時のコモンレール圧に該当する圧力範囲の噴射特性マップから指令噴射量に対応するパルス幅を取得し、取得したパルス幅の噴射指令信号を送出することにより行う。
そして、ECU40は、学習用噴射によって発生するエンジン2の回転数の変動量からエンジン2の出力トルクを算出し、算出した出力トルクから燃料噴射弁30が実際に噴射した実噴射量を推定する。ECU40は、推定した実噴射量と燃料噴射弁30に指令した指令噴射量との差に基づいて、前述した噴射特性マップを補正する噴射量補正値を算出する。
ここで、学習用噴射を実行して推定される実噴射量の推定値は、回転数の変動量が大きい方が、つまり出力トルクが大きい方が大きくなる。したがって、実噴射量の推定精度は、回転数の変動量が大きい方が高くなる。実噴射量の推定精度が高くなれば、実噴射量と指令噴射量との差に基づいて噴射量補正値を算出する学習精度が向上する。
ここで、図2に示すように、回転数の変動量、つまり出力トルクは、噴射圧力および噴射量が同じであっても、噴射時期に応じて変化する。図2においては、出力トルクが最大になるのは、該当気筒の圧縮行程の上死点(TDC)よりも12°CA進角側である。噴射時期が12°CA進角側から進角または遅角すると、出力トルクは低下する。尚、図2において、TDCからプラス側を進角側の噴射時期とし、マイナス側を遅角側の噴射時期とする。
ただし、12°CA進角側から噴射時期が僅かに進角側にずれるとトルクの低下量が大きくなるので、無噴射減速運転時に学習用噴射により発生する回転数変動量を極力大きくし、噴射時期がずれてもトルクの低下量が小さい10°CA進角側を学習用噴射の噴射時期の適合時期とする。
しかしながら、回転数の変動量および出力トルクが大きくなると、エンジン2の振動が大きくなるとともに、学習用噴射により発生する燃焼音が大きくなる。そして、回転数の変動量を極力大きくして学習精度を向上したい要求がある一方、学習用噴射を実行するが故に発生する振動および燃焼音が車両の搭乗者に感知されることを防止したいという要求がある。
そこで、以下の静寂条件が少なくとも一つ成立する場合には、車両内の静寂度が高く学習用噴射により発生する振動および燃焼音が車両の搭乗者に感知されやすいと判断する。そして、TDCよりも10°CA進角側で学習用噴射を実行するときよりも回転数の変動量、つまり出力トルクが小さくなる噴射時期で学習用噴射を実行し、学習用噴射により発生する振動および燃焼音を低減する。
一方、以下の条件が全て成立しない場合には、学習用噴射により発生する振動および燃焼音を車両の搭乗者が感知しにくいと判断し、TDよりも10°CA進角側の適合時期を学習用噴射の噴射時期とする。
<静寂条件>
(1)車両に搭載されているオーディオ等の音響装置がオフ状態である。
(2)作動音を発生する車両搭載装置としてエアコン等がオフ状態である。
(3)窓が全閉である。
(4)エンジン回転数が所定回転数以下の低速回転である。
(5)エンジン2の加速運転および減速運転の運転履歴に基づいて、運転者が緩やかな加減速運転をする。
本実施形態では、上記の静寂条件の少なくとも一つが成立し、回転数の変動量を極力大きくする適合時期以外の噴射時期を少なくとも含んで学習用噴射を実行する場合、例えば図3に示すように、噴射量学習条件が成立している学習期間を、高速回転側から低速回転側に向けて低下中のエンジン回転数に応じて3個の学習期間Ta、Tb、Tcに分類し、期間Ta、Tb、Tc毎に学習用噴射の噴射時期を変更する。図3では、期間Taの噴射時期が最も進角側であり、期間Tb、Tcの順に遅角側になる。
尚、図3において、実線で示す符号200は本実施形態における噴射時期の設定を示し、点線で示す符号202は従来における噴射時期の設定を示している。また、実線で示す符号210は本実施形態において学習用噴射により発生する振動および燃焼音を示し、点線で示す符号212は従来において学習用噴射により発生する振動および燃焼音を示している。
本実施形態では、例えば、期間Taの噴射時期を適合時期である10°CA進角側に設定し、期間Tb、Tcの順に噴射時期を遅角側に設定する。これにより、噴射圧力および噴射量が同じであれば、期間Taにおける回転数の変動量が最も大きく、期間Tb、Tcの順に回転数の変動量は小さくなる。すなわち、図3に示すように、期間Taにおける出力トルク(DLTRQ)が最も大きく、期間Tb、Tcの順に出力トルクは小さくなる。
したがって、期間Taにおいて発生する振動および燃焼音が最も大きく、期間Tb、Tcの順に振動および燃焼音は小さくなる。
また、無噴射減速運転時には、時間経過とともにエンジン回転数が低下するので、例えば、図3の点線212に示すように、従来のように適合時期である10°CA進角側で学習用噴射を実行しても、エンジン回転数の低下ととともに噴射間隔が広がり、振動および燃焼音は低減する。
これに対し、本実施形態のように、期間Ta、Tb、Tcの順に噴射時期を遅角側に設定すると、エンジン回転数の低下ととともに振動および燃焼音が低減することに加えて、噴射時期を遅角側に設定することにより、図3の実線210に示すように、振動および燃焼音がさらに低減する。
また、図4の(A)に示すように、噴射圧力および噴射量が同じであれば、TDCよりも10°CA進角側で学習用噴射を実行する期間Taでは、期間Taよりも遅角側で噴射する期間Tb、Tcよりも、回転数変動量が大きくなり、結果として出力トルクが大きくなる。これにより、図4の(B)に示すように、実噴射量の推定精度が高くなり、実噴射量と指令噴射量との差に基づいて噴射量補正値を算出する学習精度も高くなる。一方、回転数変動量が大きいと、発生する振動および燃焼音は大きくなる。図4の(B)において、◎は良、○は普通、△は不良を表している。
尚、回転数変動量に基づいて算出したトルクから実噴射量を推定する場合、噴射時期に応じて、トルクと噴射量との特性を表すマップまたは数式に基づいて実噴射量を推定する。
これに対し、図4の(A)に示すように、期間Taよりも遅角側で噴射する期間Tb、Tcにおいては、回転数変動量および出力トルクが期間Taよりも小さくなる。これにより、図4の(B)に示すように、実噴射量の推定精度が低下し、実噴射量と指令噴射量との差に基づいて算出する噴射量補正値の学習精度は低下する。一方、回転数変動量が小さいと、発生する振動および燃焼音は小さくなる。
また、高速回転側では、無噴射減速運転時においてエンジン2の回転により発生する振動および音が大きいので、学習用噴射により振動および燃焼音が発生しても、車両の搭乗者に感知されにくい。一方、低速回転側では、無噴射減速運転時においてエンジン2の回転により発生する振動および音が小さいので、学習用噴射により振動および燃焼音が発生すると、車両の搭乗者に感知されやすい。
そこで、本実施形態では、前述したように、高速回転側の期間Taでは、回転数変動量を極力大きくして学習精度を高める10°CA進角側を適合時期として学習用噴射を実行し、期間Taよりも低速回転になる期間Tb、Tcにおいては、適合時期よりも遅角側で学習用噴射を実行する。
ところで、期間Ta、Tb、Tcにおいて異なる噴射時期で学習用噴射を実行する場合、出力トルクから推定される実噴射量の推定精度は、期間Taが最も高く、期間Tb、Tcの順に低くなる。したがって、期間Ta、Tb、Tcにおいて異なる噴射時期で学習用噴射を実行して推定される実噴射量に重み付けを行い、重み付けされた実噴射量の加重平均を、指令噴射量との差を算出するために使用する実噴射量とする。次式(1)に、実噴射量の加重平均Qavrgの算出式を示す。
Qavrg=Σ{ka×Qa(i)+kb×Qb(j)+kc×Qc(k)}/(ka×na+kb×nb+kc×nc) ・・・(1)
式(1)に示すパラメータおよび項は以下の意味を表している。
(a)ka、kb、kc:期間Ta、Tb、Tcにおいて推定された実噴射量の重み係数。例えば、噴射時期が適合時期から離れるほど重み係数は小さくなり、ka=100、kb=10、kc=1に設定される。
(b)na、nb、nc:期間Ta、Tb、Tcにおいて実行された噴射回数。
(c)Qa(i)、Qb(j)、Qc(k):期間Ta、Tb、Tcにおいて噴射毎に推定された実噴射量。
(d)式(1)の分子:期間Ta、Tb、Tcにおいて推定された各実噴射量Qa(i)、Qb(j)、Qc(k)に重み係数ka、kb、kcを乗算したものを、それぞれi=1〜na、j=1〜nb、k=1〜ncの範囲で合計したもの。
(噴射量学習ルーチン)
図5に、噴射量学習ルーチンのフローチャートを示す。図5の噴射量学習ルーチンは常時実行される。図5において、「S」はステップを表している。
S400においてECU40は、前述した噴射量学習条件が成立しているか否かを判定する。噴射量学習条件が成立していない場合(S400:No)、ECU40は本ルーチンを終了する。
噴射量学習条件が成立している場合(S400:Yes)、S402においてECU40は、車両の走行状態が、学習用噴射により発生する振動および燃焼音が車両の搭乗者に感知され問題になる走行状態であるか否かを判定する。この判定は、前述した静寂条件の少なくとも一つが成立しているか否かで判定する。前述した静寂条件の少なくとも一つが成立していると、問題になる車両走行状態であると判定する。
問題になる走行状態である場合(S402:Yes)、S404においてECU40は、少なくとも適合時期とは異なる時期を含む噴射時期を学習用噴射の噴射時期として設定し、学習用噴射を実行する。そして、学習用噴射により発生した回転数変動からトルクを算出し、トルクから実噴射量を推定する。
この場合、学習用噴射により発生する振動および燃焼音をさらに低減するために、無噴射減速運転状態に基づいて設定される目標噴射圧力である目標コモンレール圧よりもコモンレール圧を減圧してもよい。コモンレール圧の減圧は、学習用噴射を実行する前に燃料噴射弁30から噴射しない程度に背圧室から燃料を低圧側に排出するか、コモンレール20に減圧弁を設置している場合には減圧弁を開弁して行う。
S404で噴射時期を変更した学習用噴射を実行し、実噴射量を推定すると、S408に処理を移行する。
問題になる走行状態ではない場合(S402:No)、S406においてECU40は、回転数の変動量が極力大きくなるように適合された適合時期、例えばTDCよりも10°CA進角側を学習用噴射の噴射時期とする通常の学習用噴射を実行する。そして、学習用噴射により発生した回転数変動からトルクを算出し、トルクから実噴射量を推定すると、S408に処理を移行する。
S408においてECU40は、学習用噴射が所定回数実行されたか否かを判定する。噴射回数が所定回数に達していない場合(S408:No)、ECU40はS400に処理を戻す。
噴射回数が所定回数に達すると(S408:Yes)、S410においてECU40は、学習用噴射により推定した実噴射量に対して、S404を実行した場合には、式(1)に示すように、噴射時期に応じて実噴射量に所定の重み付けを行って算出した加重平均を指令噴射量との差を算出するために使用する実噴射量とする。また、S406を実行した場合には、同じ噴射時期で学習用噴射を実行するので、同じ重み付けで実噴射量の平均を算出し、指令噴射量との差を算出するために使用する実噴射量とする。
そして、ECU40は、算出した実噴射量と指令噴射量との差に基づいて噴射特性マップを補正する噴射量補正値を算出し、本ルーチンを終了する。
尚、学習用噴射の噴射回数が所定回数に達する前にS400の噴射量学習条件が成立しなくなる場合には、それまでの学習結果を記憶しておき、次に噴射量学習条件が成立すると、記憶していた学習結果に基づいて噴射量学習を継続する。
本実施形態では、ECU40が本発明の燃料噴射制御装置に相当し、エンジン2が本発明の内燃機関に相当する。
また、図5のS400〜S406の処理が本発明の噴射指令手段が実行する機能に相当し、図5のS402の処理が本発明の走行状態判定手段が実行する機能に相当し、図5のS404およびS406の処理が本発明の噴射量推定手段および噴射時期設定手段が実行する機能に相当し、S410の処理が本発明の補正手段が実行する機能に相当し、S404においてコモンレール圧を目標コモンレール圧から減圧する場合には、その処理が本発明の噴射圧力制御手段が実行する機能に相当する。
以上説明した本実施形態では、学習用噴射により発生する振動および燃焼音が、車両の搭乗者に感知され問題になる走行状態である場合には、回転数の変動量が極力大きくなるように適合した適合時期とは異なる噴射時期を少なくとも含む複数の噴射時期で学習用噴射を実行した。これにより、同じ適合時期で学習用噴射を実行するよりも、学習用噴射により発生する振動および燃焼音を低減できる。
また、異なる噴射時期で学習用噴射を実行する場合、回転数の変動量が極力大きくなるように適合した適合時期に近い噴射時期で推定した実噴射量の重みを大きくして加重平均を算出するので、学習用噴射により発生する振動および燃焼音を低減しつつ、実噴射量を極力高精度に推定できる。
[他の実施形態]
上記実施形態では、回転数の変動量が極力大きくなるように適合した適合時期とともに、適合時期とは異なる噴射時期を少なくとも含む複数の噴射時期で学習用噴射を実行した。これに対し、無噴射減速運転時において、適合時期とは異なる噴射時期だけで学習用噴射を実行してもよい。また、適合時期とは異なる噴射時期だけで学習用噴射を実行する場合、1種類の噴射時期で学習用噴射を実行してもよい。
また、無噴射減速運手時において、前述した静寂条件が成立しているか否かに関わらず、適合時期とは異なる噴射時期を少なくとも含む噴射時期で学習用噴射を実行してもよい。
また、回転数の変動量を極力大きくする適合時期で学習用噴射を実行するときよりも回転数の変動量が小さくなるのであれば、学習用噴射の噴射時期として、適合時期よりも遅角側だけでなく進角側を採用してもよい。
上記実施形態では、噴射指令手段、噴射量推定手段、噴射時期設定手段、補正手段、走行状態判定手段および噴射圧力制御手段の機能を制御プログラムにより機能が特定されるECU40により実現している。これに対し、上記手段の機能の少なくとも一部を、回路構成自体で機能が特定されるハードウェアで実現してもよい。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
2:ディーゼルエンジン(内燃機関)、30:燃料噴射弁、40:ECU(燃料噴射制御装置、噴射指令手段、噴射量推定手段、噴射時期設定手段、補正手段、走行状態判定手段、噴射圧力制御手段)

Claims (12)

  1. 内燃機関の無噴射減速運転時に学習用噴射を燃料噴射弁に指令する噴射指令手段と、
    前記噴射指令手段からの噴射指令により前記燃料噴射弁が学習用噴射を実行することにより生じる前記内燃機関の回転数の変動量に基づいて前記燃料噴射弁から実際に噴射された実噴射量を推定する噴射量推定手段と、
    前記噴射量推定手段が推定する前記実噴射量と前記噴射指令手段が前記燃料噴射弁に指令する指令噴射量との差に基づいて噴射量補正値を算出する補正手段と、
    前記無噴射減速運転時において前記噴射指令手段が前記燃料噴射弁に指令する学習用噴射の噴射時期を、前記回転数の変動量が極力大きくなるように適合される適合時期よりも前記回転数の変動量が小さい時期を少なくとも含んで設定する噴射時期設定手段と、
    を備えることを特徴とする燃料噴射制御装置。
  2. 車両の走行状態に基づいて、学習用噴射により発生する前記回転数の変動量を低減するか否かを判定する走行状態判定手段を備え、
    前記噴射時期設定手段は、前記回転数の変動量を低減する走行状態であると前記走行状態判定手段が判定すると、前記回転数の変動量を低減する走行状態ではないと前記走行状態判定手段が判定するときに設定する噴射時期と異なる時期を少なくとも含んで学習用噴射の噴射時期を設定する、
    ことを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
  3. 内燃機関の無噴射減速運転時に学習用噴射を燃料噴射弁に指令する噴射指令手段と、
    前記噴射指令手段からの噴射指令により前記燃料噴射弁が学習用噴射を実行することにより生じる前記内燃機関の回転数の変動量に基づいて前記燃料噴射弁から実際に噴射された実噴射量を推定する噴射量推定手段と、
    前記噴射量推定手段が推定する前記実噴射量と前記噴射指令手段が前記燃料噴射弁に指令する指令噴射量との差に基づいて噴射量補正値を算出する補正手段と、
    前記無噴射減速運転時において前記噴射指令手段が前記燃料噴射弁に指令する学習用噴射の噴射時期を複数の異なる時期に設定する噴射時期設定手段と、
    車両の走行状態に基づいて、学習用噴射により発生する前記回転数の変動量を低減するか否かを判定する走行状態判定手段と、
    を備え、
    前記噴射時期設定手段は、前記回転数の変動量を低減する走行状態であると前記走行状態判定手段が判定すると、前記回転数の変動量を低減する走行状態ではないと前記走行状態判定手段が判定するときに設定する噴射時期と異なる時期を少なくとも含んで学習用噴射の噴射時期を設定する、
    ことを特徴とする燃料噴射制御装置。
  4. 前記噴射時期設定手段は、前記無噴射減速運転時において低下中の前記内燃機関の回転数に応じて噴射時期を設定することを特徴とする請求項3に記載の燃料噴射制御装置。
  5. 前記無噴射減速運転時において、前記噴射時期設定手段は前記内燃機関の低速回転側の噴射時期を高速回転側よりも遅角させることを特徴とする請求項3または4に記載の燃料噴射制御装置。
  6. 前記補正手段は、前記噴射量推定手段が推定した前記実噴射量に噴射時期に応じて重み付けを行い、重み付けした前記実噴射量の加重平均と前記指令噴射量との差に基づいて前記噴射量補正値を算出することを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
  7. 前記走行状態判定手段は、車両搭載の音響装置および作動音を発生する車両搭載装置がオフ状態のとき、前記回転数の変動量を低減すると判定することを特徴とする請求項2から6のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
  8. 前記走行状態判定手段は、前記内燃機関の回転数が所定回転数以下の低速回転のとき、前記回転数の変動量を低減すると判定することを特徴とする請求項2から7のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
  9. 前記走行状態判定手段は、窓が全閉のとき、前記回転数の変動量を低減すると判定することを特徴とする請求項2から8のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
  10. 前記走行状態判定手段は、前記内燃機関の加速運転および減速運転の運転履歴に基づいて前記回転数の変動量を低減すると判定することを特徴とする請求項2から9のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
  11. 前記噴射量推定手段は、前記燃料噴射弁が学習用噴射を実行することにより生じる前記内燃機関の回転数の変動量から前記内燃機関の出力トルクを算出し、噴射時期に応じて設定される前記出力トルクと前記実噴射量との特性に基づいて前記実噴射量を推定することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
  12. 前記無噴射減速運転時に、前記内燃機関の運転状態に基づいて設定される目標噴射圧力よりも前記燃料噴射弁の噴射圧力を減圧する噴射圧力制御手段を備えることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
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