本発明は電気光学効果や熱光学効果を利用して、光導波路に入射した光を変調して光信号として出射する光変調器に関する。
代表的な光変調器として誘電体材料を用いた光変調器がある。近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されているが、このような高速、大容量の光通信システムに組込むための高性能な光変調器の開発が求められている。
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO3)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
以下、リチウムナイオベートの電気光学効果を利用した従来のLN光変調器の特徴と問題点について考察する。
(第1の従来技術)
近年、開発が進んでいる40Gbit/sの超大容量光通信システムには、DPSKや例えば特許文献1にその原理が開示されているDQPSKのような位相変調器型のLN光変調器が適用されている。
例えば特許文献1において開示されているDQPSKの信号を発生させる方法について、それを具現化するLN光変調器の模式的な構造図を図9と図10に示す。ここで、説明をわかり易くするために、図9には光導波路のみを示している。このように、DQPSK型LN光変調器の光導波路は2つの小さなマッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)とその2つの小さなマッハツェンダ干渉系を合成する1つの大きなマッハツェンダ干渉系により構成されている。
図中、1はz−カットLN基板、2はSiO2バッファ層、3は光導波路である。3a、3b、3c、3dは次の図10で述べる進行波電極を伝搬する高周波電気信号と光が相互作用する光導波路であり、この相互作用する領域Iを相互作用領域(あるいは、相互作用部)、この領域の光導波路3a、3b、3c、3dを相互作用光導波路と呼ぶ。
図10には図9に示した光導波路3に加えて、相互作用光導波路3a、3b、3c、3dを伝搬する光と、相互作用領域Iにおいて相互作用する高周波電気信号Sa、Sb、Sc、Sdを伝搬させる進行波電極も示している。なお、説明を簡単にするために温度ドリフト抑圧のためのSi導電層は省略した。また、SiO2バッファ層2の厚みは1μm前後である。
LN光変調器に適用する進行波電極としては、特許文献2に開示されたCPW(共平面線路、あるいはCoplanar−waveguide)構造が一般的に広く使用されている。このCPW型の進行波電極の相互作用部には、中心電極(又は、中心電極)の他に接地電極が必要であるが、説明をわかりやすくするために図10では4つの中心電極4a、4b、4c、4dのみを示し、接地電極を省略した(なお、接地電極については次の図11に詳しく示している)。また、7はπ/2シフト用電極の中心電極であり、同様に接地電極を省略した。なお、4つの中心電極4a、4b、4c、4dの厚みは5〜50μm程度である。
高周波電気信号Sa、Sb、Sc、SdがLN光変調器に入力されると、これらの高周波電気信号は図10のIIとして示した入力側フィード部を経由して相互作用領域Iに達し、そこで光と相互作用する。
さて、図10に示した従来のDQPSK型LN光変調器を例にとり、複数の中心電極を有する従来技術のLN光変調器の問題点について考察する。LN光変調器のチップの長さは50mm程度と長いが、1枚のウェーハから多くのチップを得るために、その横幅(相互作用光導波路3a、3b、3c、3dの長さ方向に垂直で、かつz−カットLN基板1の表面に平行な方向の長さ)は2mmから5mm程度と短い。そのため、z−カットLN基板1の表面に平行な方向における入力側フィード部IIに割り当てることのできるこの領域の幅も比較的狭くなってしまう。
図11には図10における入力側フィード部IIの詳細な横断面構造(相互作用光導波路3a、3b、3c、3dの長さ方向に垂直で、かつz−カットLN基板1の表面に平行な方向の断面図)を示す。
図11では図10においては省略した接地電極も示している。ここで、中心電極4a、4b、4c、4dの幅をS、中心電極4a、4b、4c、4dと接地電極5a、5b、5c、5d、5eとの間のギャップをW、接地電極5b、5c、5dの幅をGとする。以下、図11について詳細に考察する。
図11の構造はいわば中心電極4a、4b、4c、4dが接地電極5b、5c、5dを介して相対向している平面型(あるいは、プレーナ型)のCPW構造と言うことができる。この平面型のCPW電極構造では、中心電極4aに対して接地電極5a、5b、中心電極4bに対して接地電極5b、5c、中心電極4cに対して接地電極5c、5d、中心電極4dに対して接地電極5d、5eが各々対になっている。そして、従来技術では各中心電極と接地電極の間のギャップもWと等しい。
その結果、高周波電気信号Sa、Sb、Sc、Sdの各々の等価屈折率na、nb、nc、ndの間にはna=nb=nc=ndの関係が成り立っている。このように、各進行波電極を伝搬する高周波電気信号が同じ等価屈折率を有する場合には高周波電気信号が互いに結合しやすく、高周波電気信号が伝搬するとともに電気的クロストークが生じやすい。なお、高周波電気信号の等価屈折率は進行波電極の等価屈折率と表現する場合もある。
ギャップWと比較して接地電極の幅Gを広くすることにより、中心電極4a、4b、4c、4d間の(あるいは、高周波電気信号Sa、Sb、Sc、Sdとの間の)クロストークを抑圧できる。つまり、接地電極5b、5c、5dの幅GとギャップWの比は、高周波電気信号間の電気的クロストークに大きな影響を与える。なお、一般に、電気的クロストークを充分に小さくするためには、接地電極の幅GをギャップWの4〜5倍とすることが望ましい。以下、従来技術の問題点について順を追って考察する。
図12には横軸に中心電極4a、4b、4c、4dと接地電極5a、5b、5c、5d、5eとの間のギャップWをとり、左側の縦軸にはCPW進行波電極の特性インピーダンスZを、右側の縦軸には接地電極5b、5c、5dの幅Gを示している。図からわかるように、進行波電極の特性インピーダンスZが不図示の外部回路の特性インピーダンスと一致する50ΩとなるギャップW1では接地電極5b、5c、5dの幅Gが狭くなる。また、接地電極5b、5c、5dの幅Gを広くしようとすると、中心電極4a、4b、4c、4dと接地電極5a、5b、5c、5d、5e間のギャップWが狭くなり(例えば、その時のWをW2とすると、W2<W1となる)、進行波電極の特性インピーダンスZが50Ωよりも著しく低くなってしまう。
図13には横軸に中心電極4a、4b、4c、4dと接地電極5a、5b、5c、5d、5e間のギャップWをとり、縦軸に進行波電極から高周波電気信号Sa、Sb、Sc、Sdが不図示の外部電気回路に戻る電気的パワー反射係数(あるいは、電気的パワー反射率)S11を示す。図12に述べたように、ギャップW1の場合における進行波電極の特性インピーダンスZは50Ωであるから、電気的パワー反射係数S11は極めて小さくなる。一方、中心電極4a、4b、4c、4dと接地電極5a、5b、5c、5d、5e間のギャップがW2と狭いと、進行波電極の特性インピーダンスZは50Ωよりもかなり低く(例えば、30Ω弱)なるので、図13に示すように電気的パワー反射係数S11が−10dB程度、あるいはそれ以上と大きくなってしまい、高速光変調を行うLN光変調器用の進行波電極として好ましくない。
図14には横軸に中心電極4a、4b、4c、4dと接地電極5a、5b、5c、5d、5e間のギャップWをとり、左側の縦軸にはCPW進行波電極の中心電極4a、4b、4c、4d(あるいは、高周波電気信号Sa、Sb、Sc、Sd)との間の電気的クロストークを示している。なお、図12と同様に右側の縦軸には接地電極5b、5c、5dの幅Gを示す。図12でも述べたように、進行波電極の特性インピーダンスが50ΩとなるギャップW1では接地電極5b、5c、5dの幅Gが狭くなる。
例えば、接地電極5b、5c、5dの幅Gが中心電極4a、4b、4c、4dの幅と同じ程度にまで狭くなると、中心電極4a、4b、4c、4d間の電気的クロストークが−10dB程度、あるいはそれ以上と劣化し、進行波電極としては好ましくない。なお、図12に示した50Ωよりも低い特性インピーダンスとなるギャップW2では電気的クロストークが−20dB以下と優れてはいるが、電気的パワー反射係数S11が劣化するので、これもまた進行波電極として好ましくない。
前述のように、入力側フィード部IIに割り当てることができる幅(相互作用光導波路3a、3b、3c、3dの長さ方向に垂直で、かつz−カットLN基板1の表面に平行な方向に入力側フィード部IIを割り当てることのできる幅)は限られている。そこで、以上において述べた中心電極4a、4b、4c、4d間のクロストークと電気的パワー反射係数S11の劣化を抑えようとすると、中心電極4a、4b、4c、4dの幅Sを狭くすることが考えられる。
しかしながら、中心電極4a、4b、4c、4dの幅Sを狭く(例えば、図15ではS1と)すると、図15に示すように高周波電気信号Sa、Sb、Sc、Sdの伝搬損失αが大きくなるので、図16に示すようにLN光変調器のパワー変調指数|m|2が周波数(f)とともに著しく劣化してしまい(換言すると、3dB光変調帯域が狭くなってしまい)、40Gbit/s用のLN光変調器としては極めて好ましくない。
例えば、中心電極4a、4b、4c、4dの幅Sを5μmとすると、中心電極4a、4b、4c、4d間の電気的クロストークと電気的パワー反射係数S11の両方を−20dB以下に抑えることができるが、このフィード部における高周波電気信号の伝搬損失が著しく増加するため、LN光変調器としての3dB帯域は10GHz程度にまで劣化し、40Gbit/sの光伝送への適用は困難である。
特表2004−516743号公報
特許第2126214号公報
LN変調器に接続する外部回路への電気的反射を抑えるためには、入力側フィード部として適切な特性インピーダンス(もっとも好ましくは50Ω)とする必要がある。これを実現するには、中心電極と接地電極との間のギャップ(図11におけるW)を広くする必要があり、結果的に、図11に示す接地電極5b、5c、5dの幅Gが狭くなる。さて、従来技術においてはLN光変調器の進行波電極の入力側フィード部はいくつかの中心電極について同じCPW構造を有していた。つまり、各中心電極を伝搬する高周波電気信号の等価屈折率は互いに等しく、その結果、高周波電気信号の間に電気的クロストークが発生しやすい構造であった。そして、前述のように、中心電極と接地電極との間のギャップを広くしたために、接地電極の幅Gが狭くなっていたので、進行波電極を伝搬する高周波電気信号の間に大きな電気的クロストークを生じていた。また、この電気的クロストークを抑圧するために、接地電極5b、5c、5dの幅Gを広くすると、中心電極と接地電極との間のギャップ(図11におけるW)が狭くなる。その結果、進行波電極としての特性インピーダンスZが著しく下がり、電気的パワー反射係数S11が劣化していた。さらに特性インピーダンスの低下と、高周波電気信号の間における電気的クロストークの劣化の両方を抑えるために、進行波電極の特性インピーダンスを50Ωに近く設定し、かつ中心電極と接地電極との間のギャップ(図11におけるW)と比較して図11に示す接地電極5b、5c、5dの幅Gを広くするように設定すると、必然的にギャップWが狭くなり、その結果、進行波電極の中心電極の幅も狭くなった。そして、中心電極の幅が狭くなると高周波電気信号の伝搬損失が増大した。つまり、従来の平面型のCPW構造からなるフィード部において、特性インピーダンスの低下と、高周波電気信号の間における電気的クロストークの劣化の両方を抑えるように設計すると、高周波電気信号の伝搬損失が大きくなり、LN光変調器として高速での光変調が困難となっていた。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、小型で、高周波電気信号の電気的クロストークと電気的パワー反射率が低く、光変調帯域が広い光変調器を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の光変調器は、基板と、該基板に形成された光導波路と、電圧を印加するための中心電極と接地電極からなる進行波電極とを備え、前記光導波路は、前記進行波電極に電圧を印加することにより屈折率が変化する領域である相互作用部に複数の相互作用光導波路を具備し、前記中心電極と前記接地電極が各々複数からなるとともに、前記相互作用部の前記進行波電極に接続される入力側フィード部の電極が各々複数の中心電極と接地電極からなる光変調器において、前記入力側フィード部の複数の前記中心電極が前記相互作用部の中心電極に対して折り返されるよう形成され、前記入力側フィード部の複数の前記中心電極が折り返されるように形成される領域において、複数の前記中心電極と複数の前記接地電極との間における複数のギャップのうち、少なくとも2つが互いに異なっており、前記入力側フィード部の複数の前記中心電極が折り返されるように形成される領域における複数の前記中心電極と前記接地電極とを伝搬する複数の高周波電気信号の複数の等価屈折率のうち、隣接する少なくとも2つが互いに異なる構造としたことを特徴とする。
本発明の請求項2の光変調器は、前記入力側フィード部における複数の前記中心電極のうち、隣接する少なくとも2つの前記中心電極の幅が互いに異なっていることを特徴とする。
本発明の請求項3の光変調器は、前記入力側フィード部における複数の前記中心電極のうち、隣接する少なくとも2つの前記中心電極の幅についての大小関係が前記入力側フィード部の長手方向において入れ替わっていることを特徴とする。
本発明では進行波電極の入力側フィード部を構成する進行波電極において、複数の中心電極のうち、隣接する中心電極を伝搬する高周波電気信号の等価屈折率を互いに異ならしめることにより、高周波電気信号の間における電気的クロストークを抑圧したまま、各々の中心電極の間にある接地電極の幅を狭くできる。そして、このことは、中心電極と接地電極との間のギャップを広くできること、つまり、進行波電極としての特性インピーダンスをほぼ50Ωとすることにより、高周波電気信号が外部回路へ戻る電気的なパワーの反射を抑圧できることを意味している。さらに、入力側フィード部の接地電極の幅を狭くできるので、入力側フィード部の中心電極の幅を広くすることも可能となる。従って、高周波電気信号の伝搬損失が低減され、高速光変調を実現することができる。
本発明の実施形態に係わる光変調器を構成する進行波電極を含む上面図
図1における入力側フィード部の横断面図
本発明の原理を説明する図
本発明の原理を説明する図
本発明の原理を説明する図
本発明の原理を説明する図
本発明の原理を説明する図
本発明の原理を説明する図
従来技術によるDQPSK光変調器についての光導波路の構成を示す上面図
従来技術のDQPSK光変調器についての進行波電極を含む上面図
図10における入力側フィード部の横断面図
従来技術の問題点を説明する図
従来技術の問題点を説明する図
従来技術の問題点を説明する図
従来技術の問題点を説明する図
従来技術の問題点を説明する図
以下、本発明の実施形態について説明するが、図9から図16に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
(実施形態)
図1に本発明の光変調器に関する実施形態の一つについてその上面図を示す。なお、光変調方式としてDQPSKを例にとっているので、光導波路の構造は図9に示した従来技術と同じである。
また、図11に対応して、図2には図1の入力側フィード部IIIの横断面図(相互作用光導波路3a、3b、3c、3dの長さ方向に垂直で、かつz−カットLN基板1の表面に平行な方向の断面図)を示す。なお、図2には図1では省略した接地電極も示している。また、説明を簡単にするために、温度ドリフト抑圧のためのSi導電層は省略した。
図2を用いて本発明の原理を詳細に説明する。中心電極4a´、4b´、4c´、4d´の幅を各々Sa´、Sb´、Sc´、Sd´、中心電極4a´、4b´、4c´、4d´と接地電極5a´、5b´、5c´、5d´、5e´との間のギャップを各々WaとWa´、WbとWb´、WcとWc´、WdとWd´、接地電極5b´、5c´、5d´の幅をGb、Gc、Gdとする。ここで、本発明の原理の説明を簡単にするためにここではWa=Wa´、Wb=Wb´、Wc=Wc´、Wd=Wd´と仮定するが、以下の議論においてはWa≠Wa´、Wb≠Wb´、Wc≠Wc´、Wd≠Wd´の少なくとも1つが成り立っていても良いことは言うまでもない。
さて、本発明においては、Wa≠Wb、Wb≠Wc、Wc≠Wdの少なくとも1つが成り立つことが不可欠である。但し、本発明としての効果が最も発揮できるのはこれらの条件の全てが成り立つ時である(換言すると、本発明における高周波電気信号Sa、Sb、Sc、Sdの等価屈折率na´、nb´、nc´、nd´について、na´≠nb´、nb´≠nc´、nc´≠nd´のどれか1つが成り立つことが不可欠であるが、本発明としての効果が最も発揮できるのはこれらの条件の全てが成り立つ時である)。
以下、本発明の原理について説明するが、わかりやすくするために、図2に示した入力側フィード部の電極構造のうち、中心電極4a´と4b´に着目する。つまり、中心電極と接地電極が各々4a´と5a´、5b´、及び各々4b´と5b´、5c´からなる2つのCPW電極について考察するが、考察の結果は中心電極と接地電極が各々4c´と5c´、5d´、及び各々4d´と5d´、5e´からなるその他のCPW電極についても成り立つ。
図3には中心電極4a´と4b´を伝搬する高周波電気信号SaとSbの等価屈折率na´とnb´との差の絶対値(|Δnab|=|na´−nb´|)を横軸にとった場合の高周波電気信号SaとSbとの結合度を縦軸に示す。なお、接地電極5b´の幅Gbは30μmとした。この図からわかるように、中心電極4a´と4b´を伝搬する高周波電気信号SaとSbの等価屈折率na´とnb´との差が大きくなるにつれて、高周波電気信号SaとSbとの間の結合度は急速に小さくなる。
図4には横軸に中心電極4a´と5a´、5b´とのギャップWaと中心電極4b´と5b´、5c´とのギャップWbとの差の絶対値(|ΔWab|=|Wa−Wb|)をとり、縦軸に中心電極4a´と4b´を伝搬する高周波電気信号SaとSbの等価屈折率na´とnb´との差の絶対値(|Δnab|=|na´−nb´|)をとる。図からわかるように、ギャップWaとWbとの差の絶対値(|ΔWab|=|Wa−Wb|)が大きくなると高周波電気信号SaとSbの等価屈折率na´とnb´との差は大きくなる。
図5は横軸に中心電極4a´と5a´、5b´とのギャップWaと中心電極4b´と5b´、5c´とのギャップWbとの差の絶対値(|ΔWab|=|Wa−Wb|)をとり、縦軸に高周波電気信号SaとSbとのクロストークを示す。図4に示したように、ギャップWaとWbとの差の絶対値(|ΔWab|=|Wa−Wb|)が大きくなると、高周波電気信号SaとSbの等価屈折率na´とnb´との差の絶対値(|Δnab|=|na´−nb´|)が大きくなり、その結果、図3に示したように、高周波電気信号SaとSbとの間の結合度が小さくなり、最終的にこれらの高周波電気信号SaとSbとの間のクロストークが抑圧される。
図6には接地電極5b´の幅Gbを変数とした場合の高周波電気信号SaとSbと間のクロストークを示す。図からわかるように、ギャップWaとWbとが等しい場合(つまり従来技術で各々65μmとした)、接地電極5b´の幅Gbが小さい場合に高周波電気信号SaとSbとの間のクロストークが劣化するので、接地電極5b´の幅Gbを広くする必要がある。しかしながら、本発明のように、ギャップWaとWbとを異ならしめる(つまり、高周波電気信号SaとSbの等価屈折率na´とnb´とを異ならしめる)ことにより、高周波電気信号SaとSbとの間のクロストークを抑圧することが可能となる。なお、この例ではギャップWaとWbとして各々65μmと90μmとした。
以上のように、従来技術と比較して接地電極5b´の幅Gbを狭くすることができるので、ギャップWaやWbを広くすることができるばかりでなく、中心電極4a´(や4b´、4c´、4d´)の幅Sa´(やSb´、Sc´、Sd´)を広くすることも可能である。よって、図7にS1´として示すように、広い中心電極を用いることにより、図15にS1として示した従来技術と比較して高周波電気信号(ここでは、高周波電気信号Saをとり上げて説明している)の伝搬損失を大幅に低減することが可能となる。本発明により中心電極の幅を広く(例えばS1´=45μm)とすると、高周波電気信号の伝搬損失が低減されるので、図8に示すように、図16に示した従来技術と比較して大幅に改善された変調指数の周波数特性を実現することが可能となる(つまり、変調の3dB帯域が改善される)。
(各実施形態)
以上においてDQPSK光変調器を例にとり説明したが、本発明は入力側フィード部に複数の中心電極を有するLN光変調器に有効であるので、DQPSKに限らず1つのマッハツェンダ光導波路からなるDPSK、あるいはDQPSKよりも多くのマッハツェンダ光導波路を具備するその他の位相変調方式、さらには2電極型の強度変調器にも適用可能であることは言うまでもない。
また、進行波電極における入力側フィード部の全ての中心電極を挟んでz−カットLN基板をエッチングし、リッジ加工した、いわゆるリッジ構造についても本発明は成り立つ。また、一部の中心電極についてのみその近傍のz−カットLN基板をリッジ加工することにより、リッジ型と平面型の電極構造を組み合わせても良い。また、平面型、リッジ型、あるいは平面型とリッジ型を組み合わせた構造について、各中心電極の下方にあるバッファ層の厚みを入力側フィード部において部分的に異ならしめても良く、その場合には、入力フィード部の進行波電極を伝搬する高周波電極の等価屈折率の差が大きくなるので電気的クロストークを一層抑圧できる。
なお、一般に、中心電極4a´と4b´を伝搬する高周波電気信号SaとSbの等価屈折率na´とnb´とを異ならしめると、進行波電極としての特性インピーダンスも異なる。
例えば、進行波電極の入力側フィード部の特性インピーダンスを50Ωよりもある程度低く設定する場合には、中心電極と接地電極との間のギャップを狭くできるので、接地電極の幅を広く設定することが可能となり、高周波電気信号間のクロストークを改善できる。また、逆に、進行波電極の入力側フィード部の特性インピーダンスを50Ωよりも高く設定すると、入力側フィード部を伝搬する高周波電気信号の電流値が小さくなるので、ジュール熱による減衰を小さくすることができ、その結果高速光変調が可能となる。
さらに、入力側フィード部において部分的にバッファ層を厚くしても良い。あるいは前述のように平面型とリッジ型を組み合わせるなどすることにより、等価屈折率na´とnb´を異ならしめても、各中心電極の幅や各ギャップを適切に設定することにより、各中心電極についての特性インピーダンスをほぼ互いに同程度とすることも可能である。
さらに、これまで、図1の入力側フィード部IIIにおいて、各中心電極を伝搬する高周波電気信号の等価屈折率の大小関係が高周波電気信号の伝搬方向(進行波電極の長手方向)において入れ替わることがないように説明をしてきたが、各々の等価屈折率の大小関係が高周波電気信号の伝搬方向において勿論入れ替わっても良いことは言うまでもない。
別の表現をすると、これまで図1の入力側フィード部IIIの横断面図として示した図2の中心電極4a´、4b´、4c´、4d´の幅Sa´、Sb´、Sc´、Sd´と、中心電極4a´、4b´、4c´、4d´と接地電極5a´、5b´、5c´、5d´、5e´との間のギャップ幅、Wa、Wa´、Wb、Wb´、Wc、Wc´、Wd、Wd´が高周波電気信号の伝搬方向において構造的に変化はないとして説明してきたが、これらの大小関係が入力側フィード部IIIにおける高周波電気信号の伝搬方向において入れ替わっても良いとも言うことができる。そして、この大小関係が入力側フィード部IIIにおける高周波電気信号の伝搬方向において入れ替わっても良いということは中心電極4a´、4b´、4c´、4d´について成り立つ。
また、z−カットLN基板について説明したが、x−カット、y−カット、あるいはそれらを混合したカットなどその他のカットのLN基板でも良いし、半導体基板などその他の基板でも良い。またバッファ層としてはSiO2として説明してきたが、Al2O3やSiN、あるいはSiOXなど、その他の材料でも良いことは言うまでもない。
電極構成としては構造が対称なCPW電極を用いた構成について説明したが、構造が非対称なCPW電極でも良いし、さらには非対称コプレーナストリップ(ACPS)あるいは対称コプレーナストリップ(CPS)など、その他の構成でも良い。
以上のように、本発明により、特性インピーダンス、つまり電気的パワー反射率、及び電気的クロストーク、さらには高周波電気信号の伝搬損失、つまり光変調帯域について大幅に改善された光変調器を提供できる。
1:z−カットLN基板(基板)
2、9:SiO2バッファ層
3、30:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a、3b、3c、3d:相互作用光導波路
4a、4b、4c、4d、4a´、4b´、4c´、4d´、7:中心電極
5a、5b、5c、5d、5e、5a´、5b´、5c´、5d´、5e´:接地電極