特許文献1、2に開示されるような研削部の拡径機能を有する工具は、ドローバーの軸方向の動きをテーパ面を介して直接砥石に伝達する構造になっている。このような研削部の拡径機能を有する工具を用いて複数の加工箇所がある長尺ワークを同時に加工するには、ホルダ(アーバー)、研削部およびドローバーの長さを長くしなけらばならず、製作が困難である。
また製作できたとしても、工具全体の撓みの問題が生じる。つまり先端側ではドローバーとホルダとの軸芯が一致しなくなり、加工精度が低下してしまう。
そこで、長尺ホルダの軸方向の複数箇所に拡径機能を有した研削部を個々に設け、またドローバーにも研削部を拡径せしめるためのテーパ部を個々の研削部毎に形成することも考えられる。しかしながら、各研削部毎に研削部の径方向突出量を均一にするには、ドローバーのテーパ部の形状も極めて正確に加工しなければならず、また組付け誤差などによっても研削部の径方向突出量が狂ってしまう。
上記課題を解決するため本発明に係る内径研削工具は、スピンドルによって回転せしめられる筒状ツールホルダに研削部を径方向に移動可能に保持し、前記筒状ツールホルダ内には前記研削部の径方向突出量を調整するドローバーを挿通した内径研削工具において、前記ドローバーより内側の前記筒状ツールホルダ内に油圧管が挿通され、この油圧管の前記研削部に対応する箇所にはシリンダが配置され、このシリンダ内には油圧の作用で径方向外側に前記ドローバーを押圧するピストンが設けられた構成とした。
前記研削部は筒状ツールホルダの軸方向に一箇所でもよいが、クランクジャーナル軸受けなどのように加工箇所が複数あるワークを同時に加工する場合には、複数の研削部を筒状ツールホルダの軸方向に離間して設けることが好ましい。また回転バランスを考慮すると、研削部は周方向に等間隔で複数個設けることが好ましい。
尚、筒状ツールホルダを軸方向に複数に分割し、これらをボルトなどで連結して1本のツールホルダとすることも可能である。
本発明に係る内径研削工具にあっては、ドローバーの軸方向の動きを直接研削部の径方向突出量に変化させるのではなく、間にドローバーは介在するものの油圧によるピストンの径方向の動きによって研削部を拡径せしめ、この状態を維持するようにしたので、軸方向に沿って複数の研削部が設けられている場合でも、ドローバーを軸方向に移動する際にはピストンに油圧が作用しない状態とすることで、ドローバーを軸方向に移動する際の抵抗が小さく、操作をスムーズに行うことができる。
また、ドローバーを軸方向に移動する際の抵抗が小さいため、拡径機構を構成する部材に大きな力が作用しない。したがって拡径機構の構成を小型化且つ単純化することができる。
以下に添付図面に基づいて好適な実施例を説明する。本実施例では図1に示すようにシリンダブロックW1とロアブロックW2を合わせて形成されるクランクジャーナル軸受けを研削するために、内径研削工具は複数の研削部を有したものを示している。
本発明に係る内径研削工具はスピンドルモータMによって回転せしめられる保持体1の一端部に筒状ツールホルダ2を取り付け、この筒状ツールホルダ2の軸方向に離間して複数の研削部3を設けている。各研削部3の位置は各クランクジャーナル軸受けに対応した箇所になっており、また、各研削箇所において研削部3は周方向に180°離間して一対設けられている。
前記筒状ツールホルダ2内には一対のドローバー4、4が挿入され、これらドローバー4、4は前記保持体1を貫通してその基端部はリング5に固定され、このリング5は支持プレート6に取り付けられ、この支持プレート6の一部にはナット7が設けられ、このナット7にスラストモータ8によって回転せしめられるボールネジ9が螺合している。
而して、スラストモータ8を駆動してボールネジ9を回転させることで、支持プレート6に連結している一対のドローバー4、4は軸方向に移動する。尚、ドローバー4、4の各研削部3に対応する箇所には、研削部3の径方向突出量を決めるテーパ部4aが形成されている。
また、前記研削部3はドローバー4を内側から抱持するリテーナ10と、このリテーナ10にボルト11によって固着される砥石12からなり、砥石12の表面にはダイヤモンド砥粒やCBNが電着により固着されている。尚、砥石以外の刃具を取り付けてもよい。
前記ドローバー4より内側の筒状ツールホルダ2内には油圧管13が挿通されている。この油圧管13の先端部は閉じられ、基端部は電磁バルブ14を介して油圧ポンプ15につながっている。
また、油圧管13の各研削部3に対応する箇所にはシリンダ16が配置されている。このシリンダ16は油圧管13およびリテーナ10を径方向に貫通し、シリンダ16内には径方向外側への油圧を受けるピストン17が配置されている。
以上において、研削作業を行わない場合には各研削部3を筒状ツールホルダ2に収納する。この収納操作は電磁バルブ14を閉じることで行う。即ち、電磁バルブ14を閉じると油圧管13内の油圧が低下し、図5(a)及び(b)に示すように、ピストン17を外側へ押圧する力が低下し、研削部3は図示しないバネ部材などによって径方向内側に移動し、筒状ツールホルダ2内に収納される。
一方、各研削部3を筒状ツールホルダ2の外周面から所定量だけ径方向外側に突出せしめるには、先ず、電磁バルブ14を閉じた状態としてピストン17とドローバー4との接触圧を小さくしてドローバー4が軸方向に移動しやすくしておく。
次いで、スラストモータ8を駆動してドローバー4を軸方向に移動せしめる。すると、砥石12はドローバー4のテーパ面4aと摺接するテーパ面12aを有するため、砥石12(研削部3)は拡径する。
また、上記のドローバー4を軸方向の移動とともに電磁バルブ14を開とし、油圧ポンプ15からの油を油圧管13内に送り込み油圧管13内の圧力を高める。すると、図6(a)、(b)に示すように、ピストン17が径方向外側に移動し、ドローバー4を内側から支える。このドローバー4を内側から支えることで、砥石12(研削部3)の径方向内側への移動は阻止され、ロック状態となる。
上記の手順によって所定量だけ砥石12を拡径せしめたならば、ワークの穴の中心と内径研削工具の軸心を一致させ、スピンドルモータMによって筒状ツールホルダ2を高速で回転させつつ軸に沿って前進させ、ワークの穴の内径を研削する。