JP5286883B2 - 自動車サイドシル用表面処理鋼板の耐食性評価方法 - Google Patents

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本発明は、自動車サイドシルに用いられる表面処理鋼板の耐食性評価方法に関するものである。
自動車用表面処理鋼板の開発では、実際に自動車用外板として表面処理鋼板を使用した場合を想定して、塩水噴霧試験(以下、SSTと称す)、複合サイクル腐食試験(以下、CCTと称す)、暴露試験などの腐食試験により、表面処理鋼板の耐食性評価が行われている。しかし、SSTやCCTに代表される腐食促進試験の場合は、塩水濃度、温度、湿度、および時間割合などによって材料間の相対的な耐食性が変化するため、腐食試験結果が実際に自動車用外板として鋼板を用いた場合の耐食性能と異なり、実際の自動車の腐食との相関性が課題とされている。そこで、上記課題を解決するために、例えば、実際の環境における腐食を再現するため、暴露試験や自動車に試験片を取り付けて走行するOn Vehicle Testなどが行われている。
また、環境条件だけでなく、自動車の形状を模擬して加工した試験片を腐食試験に用いる場合もある。例えば、自動車のプレス成形を模擬して、表面処理鋼板に張出し加工や深絞り成形を付与した試験片が腐食試験に供されている(例えば特許文献1)。
その他、外板向け表面処理鋼板においては、チッピングなどによる塗膜損傷を起点とする外観腐食に対する耐食性が要求されることから、塗装した表面処理鋼板に、人工的に傷を付与した試験片が用いられる。また、鋼板合わせ部の穴あき腐食に対する耐食性は、合わせ内部特有の腐食環境を模擬するために、試験片として、鋼板を重ね合わせた試験片やヘミング形状に加工した試験片が用いられる。
特開平8−166338号公報
現在、自動車用途には多くの種類の亜鉛系めっき鋼板が用いられている。また、摺動性や耐食性の向上を目的として、めっき上に有機、無機皮膜を形成した化成処理鋼板も用いられている。
これらの表面処理皮膜(めっき層や化成処理皮膜)は、鋼板の製造時においては、均一に鋼板表面に被覆されているが、加工を付与することで損傷する場合がある。場合によってはパウダリングやフレーキングなどの剥離現象を引き起こす。特に自動車部品の多くは形状が複雑で、難成形な形状のものが多く、加工による変形や摺動が大きいためめっき層や化成処理皮膜は損傷を受け易い。このように表面処理皮膜が損傷を受けた場合、該皮膜が有する防錆効果が損なわれる可能性がある。
このような加工による表面処理皮膜への影響をシミュレートする方法として、張出し加工などの加工を付与した試験片を用いて評価することもできるが、実際の自動車の腐食箇所と加工様式は必ずしも一致していていない。また、同じ目的で実プレス加工した自動車部品が耐食性評価に用いられる場合もあるが、実際の自動車成形部品は寸法が大きく、サンプル調達性の面、試験機のスペースの面からも、一様に評価することは困難であった。このように、現在の耐食性評価方法では、表面処理鋼板を適用する部材の実際の皮膜損傷とそれに伴う耐食性劣化の程度を再現できておらず、従って、適正な耐食性を評価することが困難であった。
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、実際の自動車サイドシル材の腐食に対して相関性が高い、表面処理鋼板の耐食性評価方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
自動車は部位毎に異なる様式でプレス成形されるため、ひずみの変形分布が異なる。したがって表面処理鋼板が受ける損傷の形態や程度もそれぞれの部位によって異なる。ゆえに、自動車サイドシルなどの腐食の厳しい部位に用いられる表面処理鋼板の耐食性を評価するにあたっては、各部位の特徴的な成形様式の加工を表面処理鋼板に付与したものを試験片として、前記試験片を腐食環境に供して耐食性を評価することが重要となる。
さらに、自動車において、腐食が激しい代表的な部位としては、フード、ドア、クオーター、ホイールハウス、サイドシルなどの鋼板合わせ部が挙げられることから、合わせ部形状で評価することが必要となる。
本発明は、以上の知見に基づき、鋭意研究を重ねた結果完成されたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]自動車サイドシルに用いられる表面処理鋼板の耐食性評価方法であって、表面処理鋼板に深絞り加工、ドロービード加工、平面摺動加工のいずれか1種類以上の加工を付与し、
前記加工付与後の異種又は同種の表面処理鋼板を重ね合わせて鋼板合わせ部を形成し、次いで、前記鋼板合わせ部を形成した鋼板を試験片として腐食環境に供して耐食性を評価することを特徴とする表面処理鋼板の耐食性評価方法。
[2]前記[1]において、前記鋼板合わせ部は、前記異種又は同種の表面処理鋼板を接合して形成されることを特徴とする表面処理鋼板の耐食性評価方法。
[3]前記[2]において、前記接合が抵抗溶接による接合であることを特徴とする表面処理鋼板の耐食性評価方法。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記試験片は、前記鋼板合わせ部を形成したのち、化成処理および電着塗装を施したものであることを特徴とする表面処理鋼板の耐食性評価方法。
本発明の表面処理鋼板の耐食性評価方法によれば、実際の自動車サイドシル材の腐食に対して相関性が高い評価を簡便に実施することができる。その結果、材料開発の効率化および腐食試験による材料選定の精度向上が期待される。
本発明は実際の自動車部位に即して自動車用表面処理鋼板の耐食性評価を行う方法であり、本発明では自動車サイドシルに用いられる表面処理鋼板を対象とする。そして、その特徴は、自動車サイドシルの成形様式で表面処理鋼板を加工した試験片を腐食が発生しやすい合わせ形状にし、腐食試験に供する耐食性評価方法である。
本発明の耐食性評価の対象である自動車サイドシル材(サイドシル外板と称することもある)の場合は、深絞り加工の要素が強く、X方向、Y方向のうち一方は伸び変形、他方は縮み変形を受ける箇所と、一方向伸びを受ける箇所がある。また、材料を固定し、金型へ流入させないようにビードが設けてあるが、材料の一部がビードを通過して流れ込みパネルが成形される可能性がある。ゆえに、サイドシル材の耐食性評価試験を行うに際し、実際の自動車サイドシル材の腐食に対して相関性が高い評価結果を得るためには、自動車サイドシル材の特徴的な成形様式の加工、すなわち深絞り加工、ドロービード加工、平面摺動加工のいずれか1種類以上の加工を表面処理鋼板に付与したものを試験片とすることが重要となる。特に好ましいのは、表面処理鋼板に、深絞り加工を付与し、またはさらにドロービード加工、平面摺動加工のいずれか1種類以上の加工を付与するものである。
そして、このように、自動車サイドシル材の加工を模擬して、事前に表面処理鋼板を加工しておき、加工後の表面処理鋼板を試験片として腐食試験を行うことにより、実際の自動車サイドシル材の腐食を高い精度で再現することができる。
具体的には、まず、表面処理鋼板に深絞り加工、ドロービード加工、平面摺動加工のいずれか1種類以上の加工を付与し、前記加工付与後の異種又は同種の表面処理鋼板を重ね合わせて鋼板合わせ部を形成する。次いで、前記鋼板合わせ部を形成した鋼板を試験片として腐食環境に供して耐食性を評価することを特徴とする。
この時、鋼板合わせ部は、前記異種又は同種の表面処理鋼板を接合して形成されることが好ましい。また、特に抵抗溶接により接合されることが好ましい。
また、前記試験片は、鋼板合わせ部を形成したのち、化成処理および電着塗装を施したものであることが好ましい。
以下、詳細に説明する。
表面処理鋼板に深絞り加工、ドロービード加工、平面摺動加工のいずれか1種類以上の加工を付与する。
自動車サイドシル材を模擬するために、例えば、表面処理鋼板に対して円筒絞り試験機により成形を行う。
また、表面処理鋼板に対してドロービード加工、平面摺動加工を行うこともできる。加工の方法は、ドロービード試験機および摺動試験機により、材料の変形に加えて摺動を付与することができ、より厳しい加工条件での加工を受けたサイドシルの耐食性を模擬することができる。
そして、上記加工は1回だけでなく、複数種、複数回の加工を付与しても構わない。なおこの時の加工方法、回数等は特に限定されず、実際に用いられる自動車サイドシル材の加工方式を考慮して選択することが好ましい。
加工付与後の異種又は同種の表面処理鋼板を重ね合わせて鋼板合わせ部を形成する。
自動車では、完全に塗装された外面よりも、複数の鋼板が重なり合った鋼板合わせ部が腐食し易く、防錆対策の中心となっている。このため、自動車サイドシルに用いられる表面処理鋼板の耐食性を評価するにあたっては、サイドシル内外板の合わせ部やサイドパネルと部品とで構成される合わせ部における腐食を再現するため、表面処理鋼板に加工を付与した後、表面処理鋼板を重ね合わせて鋼板合わせ部を形成することとする。この時の鋼板合わせ部を形成する鋼板は同種であっても異種であってもどちらでもよい。
また、鋼板合わせ部は、異種又は同種の表面処理鋼板を接合して形成することができる。例えば、スポット溶接等の抵抗溶接で接合して形成することができる。抵抗溶接は自動車の製造工程で使用されている接合方法であり、実験室においても溶接機を用いることにより簡便に接合することができる方法のため、鋼板合わせ部の形成に際し、好適に使用される。しかし、鋼板合わせ部の接合方法は上記に限定されず、他には、シーム溶接等の抵抗溶接の他に、トックス接合などのかしめ、ロウ付け、摩擦攪拌接合等が挙げられる。
さらに、自動車の生産工程に従い、鋼板合わせ部を形成した鋼板に対して、化成処理および電着塗装を施し試験片として、この試験片に対して腐食環境に供して耐食性を評価することが好ましい。このように鋼板合わせ部に対して電着塗装までの一連の処理を施した試験片を用いることで、より実際の自動車構造を模擬することができる。
なお、化成処理および電着塗装の条件は特に限定しないが、以下に化成処理および電着塗装の条件の一例を示す。
日本パーカラインジング(株)製PB-3080りん酸塩化成処理液を用いて、りん塩皮膜量が1.8〜2.2g/m2になるように化成処理を行った後、関西ペイント(株)製自動車用電着塗料を用いて、焼付け後の膜厚が18〜24μmになるように塗装する。その後、170℃の雰囲気で20分間焼付け処理する。また、化成処理前に脱脂処理および/又は表面調整処理を行ってもよい。
なお、試験片には、鋼板合わせ内部だけを腐食させ、外面からの腐食の影響を除くために、合わせ部を形成した鋼板の外表面(合わせ開口部を除く)にシールを施すことが好ましい。
このようにして作製した鋼板合わせ部を形成させた表面処理鋼板を試験片として腐食環境に供して耐食性を評価する。
例えば、複合サイクル試験などの腐食環境に試験片を供し、所定期間後の腐食の状態を観察する、若しくは塗膜の膨れ幅、赤錆の発生頻度などを定量的に測定することによって耐食性を評価する。
耐食性を評価する方法は特に限定しない。自動車用外観腐食試験法として内外で規格化されている試験法、例えば、国内では、JASO M 609-91で規格された試験法、米国では、米国自動車技術会で定めたSAE J2334などの複合サイクル試験法を用いることができる。
なお、本発明で用いる表面処理鋼板とは、特に限定されず、使用される目的に応じて適宜選択することができる。中でも、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板は好適に使用される。
<本発明試験片の作製>
板厚0.75mmでめっき付着量45g/m2、及び60g/m2の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA45およびGA60)2種と、板厚0.75mmでめっき付着量50g/m2の電気亜鉛めっき鋼板(EG50)ならびに冷延鋼板の計4種に対して、図1に示す深絞り加工と図2に示すドロービード加工をそれぞれ施した。なお、ここで、めっき付着量は片面あたりの付着量であり、全て両面めっきとした。深絞り加工後の鋼板2枚はそのままサンプルとした。一方、ドロービード加工を受けた鋼板は加工を受けた箇所からサンプルとして各2枚切り出し採取した。次いで、同種の鋼板の上記サンプルをスポット溶接で接合して合わせ部を形成し、図3に示す深絞り加工による試験片(本発明例1;n=3)と図4に示すドロービード加工による試験片(本発明例2;n=3)を作製した。次いで、図3および図4に示すように、作製した試験片の評価面の腐食に影響を及ぼす部位にポリエステル製粘着テープ(日東電工(株)製リビック(登録商標))でシールした。なお、上記ドロービード加工は、押しつけ荷重3923N(400kgf)、引き抜き速度1m/minの条件にて行い、上記深絞り加工は、ブランク径110mmφ、ポンチ径50mmφ、しわ押さえ圧29420N(3tf)、絞り速度2mm/secの条件にて深さ30mmの高さまで深絞り加工を行った。図3および図4に示す合わせ部の内部(両面)を評価面とした。
また、シール前の図3に示す深絞り加工による試験片と、図4に示すドロービード加工による試験片に、アルカリ脱脂を行い、以下に示すように化成処理および電着塗装を施した後、さらに、本発明例1および本発明例2と同様に、評価面の腐食に影響を及ぼす部位にシールした。
リン酸塩化成処理液(日本パーカライジング(株)製PB−3080)を用いて、りん塩皮膜量が1.8〜2.2g/m2となるように化成処理を行った後、関西ペイント(株)製自動車用電着塗料を用いて電着塗装した。その後、170℃の雰囲気で20分間焼付け処理し、膜厚が18〜24μmの電着塗膜を形成した。
上記のようにして、深絞り加工後、化成処理、電着塗装した試験片(本発明例3、n=3)と、ドロービード加工後、化成処理、電着塗装した試験片(本発明例4、n=3)を作製した。
<比較試験片の作製>
比較サンプルとして、上記本発明と同様に4種の鋼板を用いて、加工を行わず、それ以外は上記本発明2と同じ方法で作製した試験片(比較例1;n=3)を準備した。また、上記本発明の加工方法(ドロービード加工および深絞り加工)の代わりに図5に示す張出し加工を行ない、図6に示す試験片とした以外は上記本発明2と同じ方法で作製した試験片(比較例2;n=3)を準備した。なお、上記張出し加工は、しわ押さえ147100N(15tf)、速度1m/minの条件にて高さ20mmの張り出し加工を行った。
以上により得られた、本発明試験片と比較試験片をSAE J2334腐食試験に供した。
また、本試験の評価のために、北米を8〜10年走行した車両のサイドシル(シーラー、ワックス等の副資材は使用されていない)の実車データ(各めっき材についてn=3)を用いた。
腐食試験の終了は、上記の冷延鋼板と実車データの最大腐食深さの比が約1になるサイクルで全てのサンプルの試験を終了させた。試験後、鋼板合わせ部の溶接部に穴をあけて分解し、内部の腐食生成物を除錆剤により溶解除去した後、ポイントマイクロメーターを用いて板厚を測定し、各試験片の健全部に対する板厚減少値(腐食深さ)の最大値を求めた。また、各試験片の最大腐食深さ(n=3)は、同種のめっき材を使用した実車サイドシル材の最大腐食深さ(n=3)それぞれを1とした場合の比を求めて評価した(全評価値としてn=9となる)。
以上の方法により得られた結果を図7に示す。
図7より、加工せずに鋼板合わせ部を形成した試験片(比較例1)、および張出し加工して鋼板合わせ部を形成した試験片(比較例2)では、冷延鋼板が実際の自動車と同じ程度の腐食深さに達しても、めっき鋼板(GA45、EG50、GA60)では、実際の自動車の腐食深さと大きく異なり、傾向が一致していないことがわかる。
これに対して、本発明の深絞り加工またはドロービード加工を付与し鋼板合わせ部を形成した試験片(本発明例1〜4)では、全てのめっき鋼板(GA45、EG50、GA60)について冷延鋼板と同様に実際の自動車との腐食比が0.5〜1.5の範囲であり、実際の自動車におけるサイドシルの耐食性を高い精度で再現した。
本発明で用いられる深絞り加工方法を示す簡略図である。(本発明例1および3) 本発明で用いられるドロービード加工方法を示す簡略図である。(本発明例2および4) 深絞り加工したのち、スポット溶接で接合して形成される鋼板合わせ部試験片を示す図である。(本発明例1および3) ドロービード加工したのち、スポット溶接で接合して形成される鋼板合わせ部試験片を示す図である。(本発明例2および4) 比較として用いた張出し加工方法を示す簡略図である。(比較例2) 比較として用いた張出し加工後スポット溶接で接合して形成される鋼板合わせ部試験片を示す図である。(比較例2) SAE J2334腐食試験の結果を示す図である。

Claims (2)

  1. 自動車サイドシルに用いられる表面処理鋼板の耐食性評価方法であって、表面処理鋼板に深絞り加工を付与した後に、さらに、ドロービード加工、平面摺動加工のいずれか1種類以上の加工を付与する加工を行い、前記加工付与後の異種又は同種の表面処理鋼板を重ね合わせてスポット溶接で接合して鋼板合わせ部を形成し、次いで、前記鋼板合わせ部を形成した鋼板を試験片として腐食環境に供して耐食性を評価することを特徴とする自動車サイドシル用表面処理鋼板の耐食性評価方法。
  2. 前記試験片は、前記鋼板合わせ部を形成した後、化成処理および電着塗装を施したものであることを特徴とする請求項に記載の自動車サイドシル用表面処理鋼板の耐食性評価方法。
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