JP5274149B2 - 燃料電池 - Google Patents
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Description
電極は、白金あるいは白金族金属触媒を含む触媒層および触媒層の外面に形成されたガス供給と集電を担うガス拡散層から構成される。
一対の電極および固体高分子電解質膜を一体化させたものは膜電極接合体(Membrane−Electrode Assembly:MEA)とよばれ、一方の電極に燃料(水素)を、他方に酸化剤(酸素)を供給することで発電が行われる。
そのため、より高い起電圧を必要とする場合には、複数のセルを積層し、各セルを電気的に直列に接続して使用される。
このような構造は燃料電池スタックと呼ばれる。本件において、「燃料電池」と記した場合、燃料電池の一セル、及び燃料電池スタックを共に含むものとする。
そのため、各セルの温度条件や各セルへの燃料や酸化剤の供給が均一になるように設計、制御する必要がある。
一般的に、燃料電池スタックの燃料流路および酸化剤流路は各セルに並列に形成されており、燃料および酸化剤が各セルへ並列に分配される。
水素を燃料として用いるタイプの燃料電池においては、各セルの燃料流路における圧力損失ばらつきや凝縮水や生成水による燃料流路の閉塞などにより、燃料ガスが各セルへ均一に供給できなくなる問題がある。
燃料ガスが均一に供給されない場合、燃料ガスが不足したり、膜電極接合体を通じて燃料流路内に侵入する窒素ガスなどの不純物ガスが燃料流路内に蓄積したり、排出ガスが逆流するなどの現象により燃料電池スタックの性能低下や劣化を引き起こす恐れがあった。
ここでは、燃料電池スタックの支流路下流側に絞り構成を挿入するなどして発電部に相当する支流路、供給側流路および排出側流路の各流路抵抗を設計することにより、燃料ガスの均一な供給および効率的な不純物ガスの排出が実現されている。
また、特許文献2では、各セルへ均一に燃料を供給するために、ガス流通溝に設置された絞り弁を調整して供給口に近い燃料電池セルの圧力損失が大きくなるように積層した燃料電池が開示されている。
しかしながら、この装置においては、上記した絞り構成による各セルの燃料流路の圧力損失によって、起動時の燃料流路内における燃料ガス置換に要する時間については、何も考慮されていない。
燃料ガス置換の時間を短縮する方法の一つとして、供給燃料ガスの圧力を上げる方法が挙げられるが、コストや法規制、安全性の観点から、供給燃料ガスの圧力には上限があるため、燃料電池が発電可能な状態になるまでの時間を短縮することには限界があった。
燃料電池スタック内の各セルへ均一に燃料ガスを供給し、効率的に不純物ガスを排出でき、燃料ガス置換時間の短縮化とシステムの小型化を実現することが可能となる燃料電池の提供を目的とするものである。
本発明の燃料電池は、燃料ガスを該燃料ガスが消費される発電部に供給する燃料流路を備え、
前記発電部の発電中に一定の燃料ガスを連続的に排出しつづけるフロータイプの燃料電池であって、
前記燃料流路は、前記発電部を含むアノード室流路と、該アノード室流路の一方に接続された燃料ガスが供給される供給流路と、該アノード室流路の他方に接続された燃料ガスが排出される排出流路と、を備え、
前記アノード室流路内には、前記発電部の発電により生じた水により流量を変化させる可変流量制限手段が設置され、該可変流量制限手段によって発電中乃至発電終了後の一定期間、前記燃料ガスの流れが減少可能とされており、前記流量制限手段が、前記アノード室流路内に設置された多孔質体で構成され、前記多孔質体により燃料ガスの流れの上流側に向かって、発電によって生じる水を溜めるための凹部が形成されることを特徴とする。また、本発明の燃料電池は、前記凹部が、該凹部を形成する面の少なくとも一面が前記燃料流路の流路壁で構成されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記流路壁が、前記凹部の表面の少なくとも一部が親水性を有することを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記凹部が、該凹部を形成する面の少なくとも一面が膜電極接合体で構成されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記凹部が、該凹部の内部に吸水または吸湿により膨潤して体積が増加する膨潤部材を有することを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記多孔質体が、アノード室流路における前記排出流路側に設置されていることを特徴とする。
また、本発明の燃料電池は、前記多孔質体が、前記アノード室流路内に設けられたアノードガス拡散層と一部接して配置されていることを特徴とする。
燃料電池スタック内の各セルへ均一に燃料ガスを供給し、効率的に不純物ガスを排出でき、燃料ガス置換時間の短縮化とシステムの小型化を実現することが可能となる。
また、このようにフロータイプの燃料電池とすることで、電解質膜を通じて燃料流路内に侵入してくる窒素を含む不純物ガスを発電部を有するアノード室流路内の一部に蓄積させることなく発電することができる。
フロータイプの燃料電池は、排出ガスを循環させて再度燃料ガスとして利用したり、バルブなどで排出ガス流量を絞ったりする構成をとることで燃料利用効率を高めることができる。
また、本発明の上記したアノード室流路内には、前記発電部の発電により生じた水による流量を変化させる可変流量制限手段が設置され、該可変流量制限手段によって発電中乃至発電終了後の一定期間、前記燃料ガスの流れが減少可能とされた構成によれば、
燃料ガスの逆流防止および効率的な不純物ガスの排出による燃料ガスの均一供給といった流量制限手段の効果を維持しながら、燃料ガス置換時間の短縮化とシステムの小型化、簡略化が可能となる。
また、本発明の上記構成によれば、流量制限手段として燃料流路内に設置された多孔質体により可変流量制限手段を構成し、これを流量制限手段として機能させることで、設置された箇所から前記燃料流路の上流側と下流側とで差圧を発生させることができる。
これにより、燃料電池の供給流路から発電部を含むアノード室流路まで均一に燃料を供給できるように燃料流路の流路抵抗を適宜設計することが可能になり、同時に排出流路から不純物ガスを含む燃料ガスの逆流を防止することができる。
これにより、発電により生じた水が凹部に溜まることにより、多孔質体を通過する燃料ガスのパスが変化し、より流路抵抗の高いパスを通過することにより、流量を減少させることができる。
そして、凹部に水が存在する間は流路抵抗が高い状態になるため、発電中乃至発電後一定期間において、燃料ガス流量を減少させることができる。
さらに、前記凹部を、該凹部を形成する面の少なくとも一面が前記燃料流路の流路壁で構成することができる。その際、前記凹部の表面の少なくとも一部が親水性を有する構成とすることにより、凹部に水が溜まりやすくすることができる。流路壁はセパレータや電極板などで形成されるため、燃料電池の冷却機構により冷却されている場合が多い。
そのため、流路壁表面は多孔質体に比べて温度を低い状態にしやすく、結露を発生させやすい。さらに流路壁表面を親水性とすることで、凹部内に短時間で確実に水を溜めることが可能となる。
また、前記凹部を、該凹部を形成する面の少なくとも一面が膜電極接合体で構成することにより、凹部内部に溜まった水による燃料ガスのパス変化を電解質膜の膨潤により実現することが可能となる。
電解質膜は発電により生じた水を吸水し、膨潤することが知られている。電解質膜の膨潤率は膜の種類や条件などにも依存するが、膜厚に対して約10%ほどとされている。
このように電解質膜が膨潤することにより、凹部を電解質膜が埋め、流量を変化させることができる。
また、前記凹部を、該凹部の内部に吸水または吸湿により膨潤して体積が増加する膨潤部材を有する構成とすることで、発電により生じた水を膨潤部材に効率的に吸収させることが可能となる。結露した水分だけでなく気体状態の水分も吸収することが可能となり、さらに膨潤するため、より少ない水分量で凹部内部を埋めることができる。
さらに、前記多孔質体が、前記アノード室流路内に設けられたアノードガス拡散層と一部接して配置されている構成とすることにより、アノードガス拡散層と多孔質体の間における過剰の結露水による流路の閉塞を防止することができる。
このような閉塞が発生すると、膜電極接合体を介して侵入する窒素を含む不純物ガスが流路内に蓄積し、燃料電池特性の低下や劣化などを引き起こす可能性がある。
アノードガス拡散層と多孔質体が接することで、流路内の結露が発生する空間が無くなり、多孔質体を発電部とほぼ同等の温度条件にすることができるため、結露による流路の完全閉塞を防止することが可能となる。
また、可変流量制限手段を、前記アノード室流路内に設置された複数の多孔質体で構成するに際し、
前記多孔質体の少なくとも一つは細孔内部へ水を吸収しやすい性質を有し、前記多孔質体のうち少なくとも一つは細孔内部へ水が浸入しにくい性質を有する構成とすることができる。
このように、細孔内部へ水を吸収する多孔質体と細孔内部へ水を吸収しにくい2種類の多孔質体により構成することにより、多孔質体に凹部を形成しなくても可変流量制限が実現可能となる。2種類の多孔質体を適宜選択することにより、所望の流量を容易に実現することが可能となる。
また、可変流量制限手段を、大きな細孔と小さな細孔とによる複数の細孔径分布ピークを有する多孔質体で構成することにより、多孔質体に凹部を形成しなくても可変流量制限が実現可能となる。
これにより、1種類の多孔質体を設置するだけで実現可能であり、簡単な構成とすることができる。
(実施形態1)
実施形態1として、燃料電池の燃料流路内において可変流量制限手段が設置され、前記可変流量制限手段が凹部を有する多孔質体で形成された構成例について説明する。
図1に、本実施形態における燃料電池の単セルについての構成を説明する断面図を示す。
図2は図1の可変流量制限手段周辺の拡大図である。
図1において、1は燃料電池の単セル、2は膜電極接合体、3はアノードガス拡散層、4はカソードガス拡散層、5は酸化剤供給層、6はアノード集電体、7はカソード集電体、8は絶縁板、9はエンドプレートである。
10は供給流路、11はアノード室流路、12は排出流路、14は可変流量制限手段である。
また、図2において、可変流量制限手段14を構成する多孔質体の凹部15を示している。
また、燃料電池の単セル1には、膜電極接合体2が中心に配置され、両面にそれぞれアノードガス拡散層3、カソードガス拡散層4が配置される。
膜電極接合体2は、周知のように、固体高分子電解質膜の両面に触媒層を含む電極を形成したものである。
固体高分子電解質膜には、一般にパーフルオロスルホン酸系のプロトン交換樹脂膜などが用いられるが、本発明は固体高分子電解質膜の種類によらず実施することができる。
一般に用いられる触媒としては、白金や白金合金の微粒子、白金担持カーボンなどが知られているが、本発明はこれらの触媒の種類によらず実施することができる。
アノードガス拡散層3およびカソードガス拡散層4は、ガス透過性と電気伝導性を有する層である。
すなわち、電極反応を効率良く行わせるために燃料や酸化剤を触媒の反応領域へ均一かつ充分に供給し、電極反応によって生じる電荷をセル外部に取り出す機能を有している。
一般に、ガス拡散層は多孔質カーボン材料が用いられ、本発明においてもこれら一般的な材料を用いることができる。
酸化剤供給層5としては、発泡金属や多孔質カーボン構造体、金属メッシュ、酸化剤供給用の溝を有する導電体板などが例示できる。
図1では、カソード側にのみ供給層が配置された燃料電池を例示しているが、アノードガス拡散層3外側に同様の機能を有する燃料供給層を配置する構成でも良い。
本実施形態においては、アノードガス拡散層3がガス拡散層としての機能と燃料供給層としての機能を兼ねている。
したがって、アノード集電体6およびカソード集電体7は、それぞれアノードガス拡散層3および酸化剤供給層5に接触して配置され、外部へ出力を取り出すための端子を有する。
絶縁板8は、例えば樹脂などで形成することができる。エンドプレート9は、燃料電池に対して均一に締結圧を伝達する機能を有する。
エンドプレート9は、剛性材料、例えばSUSなどで形成することができる。本発明において、一対のエンドプレート9の一方に燃料ガスの供給流路10および排出流路12が形成されている構成が例示されているが、この構成に限定されるものではない。
可変流量制限手段14は、発電前や発電後の燃料ガス流量に比べて発電中乃至発電終了後一定期間の燃料ガス流量を減少させる機能を有する。
また、減少した燃料ガス流量はゼロではない一定値に保たれる。このような機能は、発電によりカソード側に発生した水が膜電極接合体2を通じて逆拡散してアノード流路11内に侵入し、この水が可変流量制限手段14近傍で結露することにより発現する。
この結果、可変流量制限手段14を通過する燃料ガスのパスが変化して流路抵抗が増加することで、流量が絞られることになる。
実線で描かれた線が乾燥状態におけるパス、点線で描かれた線が湿潤状態におけるパスを示す。凹部15に発電により生じた水が溜まると、乾燥状態には実線のようなパスを通って排出されていた燃料ガスは、点線のようなパスを通って排出されることになる。
このようなパスの変化により、燃料ガスが多孔質体(流路抵抗体)を通過する距離が長くなるため流量が減少する。
このような機能を有することで、燃料ガスの逆流防止や均一供給といった流量制限手段の効果に加えて、乾燥時は流量が大きいことから、起動時の燃料ガス置換を素早く行うことが可能となる。
ここで可変流量制限手段14により制限される流量の下限値とは、発電中乃至発電終了後一定期間(湿潤状態)における流量のことである。
主に膜電極接合体2を通じて侵入する窒素などの不純物ガスは、発電中乃至発電終了後一定期間といった膜電極接合体2が高温、高加湿状態の時に流量が最も大きくなる。
燃料流路13内に侵入する不純物ガスの流量よりも可変流量制限手段14により制限される流量が小さいと、燃料流路13内に不純物ガスが徐々に蓄積されることになる。
その結果、アノード室流路11内の燃料ガス濃度が低下し、燃料電池性能へ影響を与えたり、劣化反応が発生したりする恐れがある。
したがって、可変流量制限手段14により制限される流量の下限値は、燃料流路13内に侵入する不純物ガス流量よりも大きいことが求められる。
乾燥状態における可変流量制限手段14の流量は、直接的に燃料ガスへの置換時間に対応する。
そのため、より短時間での燃料ガス置換が必要な系においては、より大きな流量が必要となる。
これは、燃料電池のシステムやアプリケーションなどにより大きく異なる。
ここで多孔質体とは、複数の気孔を有し、さらにそれらの気孔が一方の面から他方の面まで連結しているような連通孔を有する構造体を指す。
多孔質体の一例として、各種フィルター、メッシュ、発泡ポリマーや発泡金属、複数のパイプを連結したものなどが例示できる。
可変流量制限手段14を構成する多孔質体の形状は、燃料ガスの流れの上流側に向かって凹部15を有する。
凹部15とは多孔質体の細孔により形成されるものを指すのではなく、多孔質体の形態により構成されるものであり、この凹部15に発電により生じた水が溜まることにより燃料ガスのパスが変化し、燃料ガスの流路抵抗を変化させるものである。
凹部15を有することにより、多孔質体を通るガスにとって最も流路抵抗の低いパスが凹部15を通過することになる。
つまり、発電前や発電終了後(乾燥状態)においては流量が大きくなる。
一方、発電中乃至発電終了後一定期間(湿潤状態)においては、発電により生じた水が凹部15に溜まって該凹部を水が埋めるため、ガスは多孔質体の凹部15を通ることができなくなる。
そのため、発電前よりも流路抵抗が大きくなり、流量が減少する。発電終了後に多孔質体の凹部15を埋めていた水が除去されると、ガスは凹部15を通るため、再び流量が大きくなる。
多孔質体が凹部15を有することで、発電により生じた水を凹部15内部にトラップし、受動的に流量が変化する可変流量制限手段14を実現することができる。
図4(a)はアノード室流路の中ほどに設置された多孔質体14により凹部15が形成されている例であり、図4(b)はアノード室流路の排出流路側12に設置された多孔質体14により凹部15が形成されている例を示している。
また、図4(c)、(e)、(g)はアノード室流路の中ほどに設置された多孔質体14および燃料流路13の流路壁16により凹部15が形成されている例を示している。
また、図4(d)、(f)はアノード室流路の排出流路側12に設置された多孔質体14および燃料流路13の流路壁16により凹部15が形成されている例を示している。
これらのように凹部15を有する多孔質体14は様々な形状をとることができる。
凹部15を通り、排出流路12へ向かう最短距離は最も流路抵抗の低いパスとなり、発電により生じた水が溜まり、多孔質体14を通過するガスのパスが変化することで流量が変化する。
流路壁16は一般的にセパレータや電極板、集電体などの部材により構成されている。
これらの部材は燃料電池を安定に発電させるため、冷却システムにより冷却することができる場合が多い。
したがって、多孔質体表面の温度よりも流路壁16表面の温度の方が低い状態となるため、流路壁16で水が結露しやすく、凹部15内部へ結露水が溜まっていくことになる。
さらに、凹部15を形成する流路壁16表面の一部が親水処理されていることで、結露水を凹部15内部へ効率的に導くことが可能となり、より短時間で凹部15内部を水で埋めることが可能となる。
親水処理は、例えばプラズマ処理や無機被膜表面処理、さらに表面の凹凸化など公知の技術を用いて流路壁16表面を親水処理することができる。
凹部15内部へ前記膨潤部材17を設置することにより、結露した水分だけではなく気体状態の水分も前記膨潤部材17によってトラップすることが可能となり、より短時間で流量を変化させることが可能になる。
膨潤部材17は水分子を自重の数十倍から数千倍まで吸収して保持することが可能であり、例えば、イオン性官能基を導入した高分子状の網目構造を有する樹脂が例示できる。
アクリルアミド−アクリル酸を含むポリアクリル酸塩系高分子樹脂やデンプン−アクリロニトリル共重合体、変性アルキレンオキサイド樹脂等の高分子樹脂を主成分とするものなどが挙げられる。
膨潤部材17としては、膨潤性を有するものであれば上記以外の物質でも使用可能である。
これらの高分子樹脂の形状は、粉末状、ペレット状、繊維状、シート状、スポンジ状、パール状(真球状)あるいはクラスター状(真球の集合体)などである。
これらの形状の高分子樹脂を凹部内部から流路内へ流出することのないように固定化して使用することが好ましい。
また、これらの高分子樹脂を別の熱可塑性樹脂に混合したり、担持させたり、付着させたものを使用してもよい。
吸湿乃至吸水して膨潤した時に、凹部15内部のガス抵抗が上昇し、燃料ガスのパスを変化させることができればどのような形態でも前記膨潤部材17を用いることができる。
さらに、これらの膨潤部材17の中でも、吸湿乃至吸水しやすく離水しやすい膨潤部材17が燃料電池のオン−オフに短時間で対応することが可能であるため好ましい。
図6には断面が円形である流路内に凹部を有する多孔質体が設置された図を示す。X>Y、a>bとして図面が描かれている。好ましい可変流量制限手段14の機能として、
(1)発電前と発電中の流量差が大きいこと、
(2)発電開始後すぐに流量が制限されること、
が求められる。
上記(1)を実現するためには、aおよびbをできる限り大きくすることである。
しかしながら、上記(1)と同時に上記(2)を実現するためには、aおよびbを大きくしてしまうと凹部の体積が大きいため、凹部を水で埋めるのに時間が掛かる。
そのため、aもしくはbのどちらかを小さくすることが求められる。凹部の体積はつぎの式1に示すようにbの2乗が掛かっているため、bを小さくすることで、より効率的に上記(1)および上記(2)を両立することができる。
凹部の体積=a×π(b/2)2 ……(式1)
したがって、a>bとなるように、凹部のアスペクト比を設定することで、所望の可変流量制限手段14を得ることができる。
アスペクト比が大きくなるほど、凹部15の体積は小さくなり、発電開始後から流量が制限されるまでの時間を短くすることができる。
実施形態2として、燃料電池の燃料流路内に設置された可変流量制限手段が凹部を有する多孔質体で形成され、凹部を形成する一部が膜電極接合体で形成された構成例について説明する。
図7に、本実施形態における凹部を形成する面のうち一面が膜電極接合体により形成された可変流量制限手段の構成例を説明する模式図を示す。
図7(a)、(c)はアノード室流路の中ほどに上記凹部が形成された例を示す図であり、図7(b)はアノード室流路の排出流路側12に上記凹部が形成された例を示す図である。
実施形態1のように、流路抵抗の低い凹部15を埋めるものが水ではなく膜電極接合体2とすることにより、流路壁16表面の親水処理や膨潤部材17の使用などを行うことなく可変流量制限手段14を実現可能になる。
さらに、膜電極接合体2の膨潤率は膜の種類と発電の条件により決定されるため凹部15のサイズも容易に決定することができる。
例えば膜電極接合体を構成する電解質膜としてNRE−212(DuPont社製)を用いた場合、膜の膨潤率は10〜15%(23℃50%RHから23℃〜100℃の水に浸漬した場合)程度である。
したがって、この膜電極接合体2の膜厚が約50μmであることから凹部15のサイズ(多孔質体と乾燥状態における膜電極接合体の隙間)を約7.5μm以下に設計すればよい。
膜電極接合体2の膨潤のみでは上記のように多孔質体14と膜電極接合体2の隙間を精密に設計する必要がある。
膜電極接合体2の膨潤に加えて水による凹部15の閉塞を併せることで、多孔質体14と膜電極接合体2の距離について設計に余裕を与えることができるため、より容易に可変流量制限手段14を実現することができる。
実施形態3として、燃料電池の燃料流路内に設置された可変流量制限手段が凹部を有する多孔質体で形成され、前記可変流量制限手段がアノードガス拡散層と一部接して配置した構成例について説明する。
図8に、本発明の実施形態3における凹部15を有する多孔質体とアノードガス拡散層3が接して流路内に設置されている可変流量制限手段の構成例を説明する模式図を示す。
図8(a)は凹部15が多孔質体により構成されている場合、図8(b)は凹部を形成する面の一つが流路壁16により構成されている場合、図8(c)は凹部15を形成する面の一つが膜電極接合体2により構成されている場合をそれぞれ例示している。
多孔質体14とアノードガス拡散層3が接して設置されることにより、例えばウェット条件で長時間発電した場合において、多孔質体14とアノードガス拡散層3の間で過剰の結露水の発生により流路を完全に閉塞するのを防ぐことができる。
多孔質体14とアノードガス拡散層3が一部接して配置されることにより、多孔質体14を発電部(アノードガス拡散層3)に近い温度条件に置くことができるため、結露を防止することができる。
また、接していることにより結露する空間を無くすことができるため、結露は多孔質体14の凹部15でのみ発生し、流路の完全閉塞を防止することが可能となる。
本実施形態のような構成によれば、燃料電池の運転条件として、ドライからウェットと幅広い運転条件を選択することが可能となる。
参考例として、燃料電池の燃料流路内に設置された可変流量制限手段が複数の多孔質体で形成された構成例について説明する。
図9に、本参考例における可変流量制限手段の構成例を説明する模式図を示す。図9(a)はアノード室流路の中ほどに上記可変流量制限手段が形成された例を示す図であり、図9(b)はアノード室流路の排出流路側12に上記可変流量制限手段が形成された例を示す図である。
図9に示すように、発電により生じた水に対する親和性の異なる二つの多孔質体を燃料流路内に設置することにより、可変流量制限手段を実現できる。
例えば、水に対する親和性が高い多孔質体の流路抵抗を小さく、水に対する親和性の低い多孔質体の流路抵抗を大きく設定することで、発電中乃至発電終了後一定期間の流量を減
少させることが可能になる。
二つの多孔質体は、燃料流路内のガスの流れに対して平行に配置させることで可変流量制限手段として機能する。
水に対する親和性の異なる二つの多孔質体を図のようにガスの流れに対して平行に重ねて配置する。発電が開始されると水に対する親和性の高い多孔質体18に優先的に水が溜まり細孔が閉塞する。
その結果、水に対する親和性の低い多孔質体19を通ってのみガスが排出されるため、流量が減少する。
例えば、親水性の多孔質体や細孔内部に吸水材や吸湿材を有する多孔質体、親和性の低い多孔質体に比べて相対的に温度が低い状態にあり細孔内部で結露が発生しやすい多孔質体などが例示できる。
一方、水に対する親和性の高い多孔質体18に対し、水に対する親和性の低い多孔質体19とは、細孔内部へ水が浸入しにくい性質を有する多孔質体であり、発電中においても細孔内部は水により満たされることがない多孔質体を言う。
例えば、撥水性の多孔質体や温度が相対的に高い状態にあり細孔内部で結露が発生しにくい多孔質体などが例示できる。
このように構成すると、親和性の高い多孔質体18の流路抵抗は発電前や発電後(乾燥状態)における流量を決定し、親和性の低い多孔質体19の流路抵抗は発電中や発電終了後一定期間(湿潤状態)における流量を決定する。
したがって、所望の可変流量制限手段14を得るためには、これら二つの多孔質体(18、19)の流路抵抗や厚さなどを適宜選択すればよい。
ここでは二つの多孔質体で構成された例を示したが、必要に応じて三つ以上の多孔質体で可変流量制限手段14を構成することもできる。
大きな細孔は発電前や発電後(乾燥状態)における流量を決定し、水が大きい細孔内にトラップされることで閉塞される。
小さな細孔は発電中や発電終了後一定期間(湿潤状態)における流量を決定し、乾燥状態に比べて流量が減少した状態となる。
このような2つ以上の細孔径分布ピークを有する多孔質体としては、骨格部分に微細な細孔を有する発泡金属などの構造体が例示できる。
図11に、本実施例における燃料電池の単セルの構成を説明する模式図を示す。
図11には、実施形態1で説明した図1と同じ構成に同一の符号が付されているので、共通する部分の説明は省略する。
触媒層として、白金酸化物からなる樹枝状構造体を適切な還元処理を行うことで得られる白金樹枝状構造体を含む触媒層を用いた。
白金酸化物からなる樹枝状構造体を形成する基材としてPTFEシート(日東電工社製、ニトフロンR)を用い、反応性スパッタ法により、触媒前駆体である白金酸化物からなる樹枝状構造体を2μmの厚さで形成した。
このときのPt担持量は0.68mg/cm2であった。なお、Pt担持量は蛍光X線分析により測定した。
反応性スパッタは、全圧4Pa、酸素流量比(QO2/(QAr+QO2))70%、基板温度25℃、投入パワー4.9W/cm2の条件にて行った。
得られた白金酸化物からなる樹枝状構造体に適切な疎水化処理を施した後に、プロトン導電性電解質の塗布を行った。
プロトン導電性電解質は5wt.%Nafion(登録商標)溶液(和光純薬社製)をイソプロピルアルコール(和光純薬社製、特級)を用いて5倍に希釈した溶液を1cm2当たり10μl塗布後、溶媒を揮発させることで触媒層を形成した。
アノードガス拡散層およびカソードガス拡散層にはカーボンクロス(E−TEK社製、アノード:LT 2500−W、カソード:LT 1200−W)、酸化剤供給層には発泡金属(住友電工社製、セルメット#5)を用いた。
アノードおよびカソード集電体は、SUS板を加工したものを用いた。加工したSUS板の表面に接触抵抗を低減させるための金メッキを施したものを使用した。
アノード集電体6にはアノードガス拡散層3の厚さに対応する深さの凹部が掘り込まれており、アノード室流路11はアノードガス拡散層3で満たされる構成とした。
この構成では、アノードガス拡散層がアノード室流路の機能を有する。アノードガス拡散層3で満たされたアノード室流路11の水素流量は、水素圧力を0.1MPaで供給したときに約0.5ml/secとなった。
可変流量制限手段には、親水性PTFEフィルター(ミリポア社製、Omnipore0.1μm)を用いた。
図13に示すように、アノード側ガス拡散層の側面に隣接する位置にアノード室流路内下流に親水性PTFEフィルターを設置し、電解質膜とフィルターの間に空間を設け、電解質膜とフィルターにより凹部を形成した。
流路とフィルターの間に隙間が発生しないようにシール材22(3M社製、シリコン系接着剤)を用いて封止した。流路幅(図13中のaに相当)は0.4mm、フィルター厚さ(図13中のbに相当)は60μmであった。
セル締結の際に膜電極接合体2がアノード室流路側へ入りこむため、凹部サイズは流路幅とフィルター厚さから計算されるものよりも多少小さくなる。
可変流量制限手段を設置した後の水素フロー量は、水素圧力を0.1MPaで供給したときの水素フロー量が約0.5ml/secとほぼ設置前と変わらなかった。
評価は温度25℃相対湿度50%の環境下、アノードに無加湿の純水素を0.1MPaの圧力で供給し、カソードには空気を一定フロー量供給した状態で、350mA/cm2の定電流測定を行った。
発電は120分間行い、発電停止後もそのまま水素を供給しつづけて可変流量制限手段による流量変化を調べた。
発電前に約0.5ml/sec程度であった水素フロー量は発電を開始すると減少して約0.03ml/sec程度まで絞られていった。
発電前と比べて流量は約1/17となったが、ゼロになることはなかった。
これは電解質膜と多孔質体により形成された凹部へ発電により生じた水が溜まり、燃料ガスのパスが変化することで流量が大幅に減少したと考えられる。
120分間の発電中は燃料電池のセル電圧は安定しており、可変流量制限手段による性能への影響は見られなかった。
発電終了後90分程度の間はわずかに流量は増加していることがわかる。
これは、多孔質体内の細孔に入った水および凹部内部の水が徐々に抜けている様子および電解質膜が乾燥している様子を表しているものと思われる。
発電終了後90分後以降に急激に流量が増加したのは、凹部内部の水が完全に除去され燃料ガスのパスが発電前の状態に戻ったものと思われる。発電の前後で流路を通過する燃料ガスの流量は同じであった。
比較例として、上記実施例の燃料電池において、凹部を設けずに流量制限手段を設置した燃料電池の単セルを構成した。
図15に、比較例における燃料電池の単セルの構成を説明する模式図を示す。
図15に示すように、凹部のない流量制限手段23がアノード室流路11内の排出流路12側へ設置した燃料電池を比較例とした。
流量制限手段としてセルロース混合エステルタイプメンブレンフィルター(ADVANTEC社製、A010)を5枚重ねて流路内に設置した。
流量制限手段23の位置および多孔質体の種類、凹部の有無以外は上記実施例と同様の燃料電池構成とした。
流量制限手段設置前のアノード室流路11の水素流量は、水素圧力を0.1MPaで供給したときに約0.5ml/secとなり、設置した後の水素流量は約0.01ml/secまで絞られた。
発電前と比べて発電中の水素フロー量はわずかに絞られているが、ほとんど変わらずに約0.01ml/sec程度に保たれている。
僅かに流量が減少したのは、流量制限手段であるフィルター内の細孔に生成水が入ったためと考えられる。
発電終了後、徐々に水素フロー量は発電前と同様の水準に戻ることも確認された。
これは多孔質体の細孔に入り込んだ水が徐々に抜けていく様子を表しているものと思われる。発電の前後で流路を通過する燃料ガスの流量は同じであった。
また、乾燥状態での流量と湿潤状態での流量が大きく異なることで、起動時の燃料ガス置換を短時間で実現可能となり、発電中においては燃料ガスの整流効果により安定駆動を実現できる。
また、凹部を有する可変流量制限手段を設置することで、比較例に比べて上記実施例では起動時の燃料ガス置換にかかる時間を約1/50とすることが可能となる。
2:膜電極接合体
3:アノードガス拡散層
4:カソードガス拡散層
5:酸化剤供給層
6:アノード集電体
7:カソード集電体
8:絶縁板
9:エンドプレート
10:供給流路
11:アノード室流路
12:排出流路
13:燃料流路
14:可変流量制限手段(多孔質体)
15:凹部
16:流路壁
17:膨潤部材
18:水に対する親和性の高い多孔質体
19:水に対する親和性の低い多孔質体
20:大小の細孔が共存する多孔質体
21:アノードガス拡散層用凹部
22:シール材
23:流量制限手段
Claims (7)
- 燃料ガスを該燃料ガスが消費される発電部に供給する燃料流路を備え、
前記発電部の発電中に一定の燃料ガスを連続的に排出しつづけるフロータイプの燃料電池であって、
前記燃料流路は、前記発電部を含むアノード室流路と、該アノード室流路の一方に接続された燃料ガスが供給される供給流路と、該アノード室流路の他方に接続された燃料ガスが排出される排出流路と、を備え、
前記アノード室流路内には、前記発電部の発電により生じた水により流量を変化させる可変流量制限手段が設置され、該可変流量制限手段によって発電中乃至発電終了後の一定期間、前記燃料ガスの流れが減少可能とされており、
前記可変流量制限手段は、前記アノード室流路内に設置された多孔質体で構成され、前記多孔質体により燃料ガスの流れの上流側に向かって、発電によって生じる水を溜めるための凹部が形成されることを特徴とする燃料電池。 - 前記凹部は、該凹部を形成する面の少なくとも一面が前記燃料流路の流路壁で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
- 前記流路壁は、前記凹部の表面の少なくとも一部が親水性を有することを特徴とする請求項2に記載の燃料電池。
- 前記凹部は、該凹部を形成する面の少なくとも一面が膜電極接合体で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
- 前記凹部は、該凹部の内部に吸水または吸湿により膨潤して体積が増加する膨潤部材を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池。
- 前記多孔質体が、アノード室流路における前記排出流路側に設置されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池。
- 前記多孔質体が、前記アノード室流路内に設けられたアノードガス拡散層と一部接して
配置されていることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池。
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