以下、本発明の燃料電池セルおよび燃料電池の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明の燃料電池セルおよび燃料電池は、以下に説明する具体的な構成には限定されない。膜電極接合体(発電層部材)と、酸素供給層と、吸水層と、燃料供給層とを少なくとも備えた燃料電池セルにおいて、その構成の一部または全部を、代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実現可能である。
なお、本実施形態の燃料電池セルおよび燃料電池では、燃料タンクに貯蔵した燃料ガスを用いて発電を行うが、燃料タンクに水素原子を含むメタノール等の液体燃料を貯蔵して、刻々必要なだけ燃料ガスに改質反応させて用いてもよい。
また、本実施形態の燃料電池は、例えば、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、小型プロジェクタ、小型プリンタ、ノート型パソコン等の持ち運び可能な電子機器に使用することが可能である。このような場合、着脱可能に装備される独立した燃料電池として使用することも可能であるし、電子機器に燃料電池の発電部だけを一体に組み込んで、燃料タンクを着脱させる形式とすることも可能である。
本発明の実施形態は以下の通りである。
第1実施形態は、酸素供給層と集電体との間に発電層部材に対向配置させた吸水層を有し、かつ、吸水層の端部が開口部を含む平面上に存在する構成の燃料電池セルおよび該燃料電池セルからなる燃料電池である。
第2実施形態は、酸素供給層と集電体との間に吸水層を有し、かつ、開口部と同一平面を基準として燃料電池セルとは反対側に吸水層の端部を有する構成の燃料電池セルおよび該燃料電池セルからなる燃料電池である。
第3実施形態は、第2実施形態における吸水層が親水性の異なる複数の領域からなり、前記複数の領域のうち開口部に近い領域ほど親水性が高い構成の燃料電池セルおよび該燃料電池セルからなる燃料電池である。
第4実施形態は、第2実施形態における酸素供給層が多数の貫通孔を有するために厚み方向の通気性が高い構成の燃料電池セルおよび該燃料電池セルからなる燃料電池である。
第5実施形態は、第2実施形態における酸素供給層が溝および孔を有し、該溝および該孔に吸水層が存在する構成の燃料電池セルおよび該燃料電池セルからなる燃料電池である。
第6実施形態は、第2実施形態において、酸素供給層と接する集電体も開口部を含む平面を基準として燃料電池セルとは反対側に端部を有する構成の燃料電池セルおよび該燃料電池セルからなる燃料電池である。
第7実施形態は、第6実施形態において、集電体のうち開口部を含む平面を基準として燃料電池セルとは反対側に存在する部分がくし型形状である構成の燃料電池セルおよび該燃料電池セルからなる燃料電池である。
<第1実施形態>
図1は第1実施形態の燃料電池の全体構成を示す斜視図であり、図2は前記燃料電池を構成する燃料電池セルを開口部を含む平面と平行な面で切断した際の断面図である。図3は膜電極接合体を開口部を含む平面と平行な面で切断した際の断面図であり、図4は吸水層が複数である場合の燃料電池セルを開口部を含む平面と平行な面で切断した際の断面図である。図5は吸水層が複数である場合の吸水層および酸素供給層に集電体側からプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。図6は前記燃料電池セルを開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図である。
また、これらの断面図は、燃料電池セルの各層の配置を模式的に示したものであって、積層された各層の区別を容易にするため、平面方向に比較して厚み方向を誇張して図示している。
図1に示すように、燃料電池10は、燃料電池セル(発電セル)10Sを積み重ねて直列に接続したセルスタック(燃料電池スタック)10Aを備える。セルスタック10Aの下方には、燃料ガスを貯蔵して燃料電池セル10Sに供給する燃料タンク10Bが存在し、セルスタック10Aと燃料タンク10Bとは、燃料ガスの流路(図示せず)によって接続されている。燃料タンク10Bから取り出された燃料ガスは、大気圧よりわずかに高い圧力に調整されてそれぞれの燃料電池セル10Sに供給される。
燃料電池セル10Sは、燃料電池セルが有する側面のうち、電解質膜のプロトン伝導方向と平行な方向のセルの端面であるS1、S2内に開口部8を有する。より詳細には、前記酸素供給層が有する側面のうちプロトン伝導方向と平行な側面のうちの二つの側面に開口部8を有する。図6において、燃料電池セル10Sの紙面上の左右端で酸素供給層2の側面が露出した部分が開口部8である。
開口部8は、大気中の空気を自然拡散によって燃料電池セル10Sに取り込む空気取り入れ口として機能するものである。図1に示すように、燃料電池セル10Sは、燃料タンク10Bから供給された燃料ガスと開口部8から取り込んだ空気中の酸素とを反応させて発電する。本実施形態のように、燃料電池セルが有する側面のうちプロトン伝導方向と平行な側面に開口部が存在することにより、複数の燃料電池セルをスタックし接続させた燃料電池を形成した場合においても、一つの燃料電池セルの開口部が他の燃料電池セルによって塞がれて空気の取入れが阻害される恐れがない。なお、燃料電池セルが図2のように直方体である場合には対向する二つの側面にそれぞれ開口部を有していることが好ましい。また、側面が円柱形状である場合には、開口部は円柱の側面の一部となり、対向する円柱の側面にそれぞれ開口部を有することが好ましい。
燃料電池セル10Sは、図2に示すように、膜電極接合体4(MEA:Membrane Electrode Assembly)と、拡散層3、5と、燃料供給層6と、酸素供給層2と、吸水層11と、集電体1と、セパレータ7、9とを少なくとも有している。
酸素供給層2は、図6に示すように開口部8から取り込んだ酸化剤である大気中の酸素を酸素供給層に供給して拡散させる役割と、触媒層(酸素極)での電極反応に必要な電子を拡散層3を通じて膜電極接合体4の触媒層(酸素極)に流す2つの役割を有している。また、酸素供給層2は、発電に伴って膜電極接合体4で生成された水(水蒸気)を拡散層3から開口部8へ導いてセル内部から大気中へ排出する機能も有する。そのため、酸素供給層2は、導電性を有する多孔質体が好ましい。このような条件を満たす酸素供給層2としては、空孔率が80%以上、空孔径が0.1mm以上であることが好ましく、具体的な材料としては、発泡金属、ステンレスウールなどが好ましい。
なお、本実施形態において、集電体1は隣の燃料電池セル10Sとの仕切り(セパレータ)としての機能と集電体として集電する機能を兼ね備えるよう記載してある。したがって集電体1をセパレータと表記する場合もある。また、集電体1がセパレータの機能を兼ねず、別途セパレータが存在する場合には、セパレータは集電体1を挟んで酸素供給層2と対向する位置に形成される。
セパレータ7、9は燃料電池セル10Sの燃料である燃料ガスが通る部分と外気とが交わらないように密封している。また、セパレータ7と膜電極接合体4の間には、燃料供給層6および拡散層5が存在する。なお、本実施形態においては、セパレータ7は集電体の機能を兼ね備えている。
図2に示すように、燃料タンク10Bから取り出された燃料ガスは、燃料供給層6に供給された後、拡散層5内で拡散する。このような燃料供給層6としては、カーボン粒子層を表面に有するカーボンクロスやカーボンペーパーなどを用いることができる。
燃料供給層6を構成する材料の平均開口径は100μm〜900μmであることが好ましい。なお、燃料タンク10Bから取り出された燃料ガスは、図2に示すように、セパレータ9内のプロトン伝導方向と平行に存在する燃料ガスの主流路9pから分岐して、燃料電池セル10S内の燃料供給層6に供給される。そして、燃料供給層6に供給された燃料ガスは拡散層5内に拡散する。
拡散層5は、膜電極接合体4と燃料供給層6との間に両者に接触して存在し、燃料である水素ガスを拡散させ、水素のイオン化によって余剰となった電子を膜電極接合体4の触媒層から集電する。また、拡散層3は、膜電極接合体4と酸素供給層2との間に両者に接触して存在し、酸素を拡散させ、触媒層(酸素極)での電極反応に必要な電子を膜電極接合体4の触媒層(酸素極)に供給する役割する。拡散層5は、導電性を有し、燃料供給層6よりも小さな空孔を有する材料からなる。なお本発明において拡散層の組織とは拡散層を構成する材料のことを示す。
また、「拡散層5は、燃料供給層6よりも小さな空孔を有する材料からなる」とは、拡散層5を構成する材料の平均空孔径が、燃料供給層6を構成する材料の平均空孔径よりも小さいという意味である。さらに、拡散層5を構成する材料の平均開口径(空孔径)は、燃料極である触媒層を構成する材料の平均開口径と燃料供給層を構成する材料の平均開口径との中間の開口径(1μm)を有する。したがって、燃料供給層6は絞り抵抗として機能し、膜電極接合体4の表面全体に均等な圧力かつ均等な流量密度で燃料ガスを供給する。
また、拡散層3も、導電性を有し、酸素供給層2よりも小さな空孔を有する材料からなる。拡散層3を構成する材料が有する平均開口径は、同様に、酸素極である触媒層を構成する材料の平均開口径よりも大きく、酸素供給層2を構成する材料の平均開口径よりも小さい。このような開口径とすることで、酸素供給層2が絞り抵抗として機能し、膜電極接合体4の表面全体に均等な圧力かつ均等な流量密度で酸素を供給する。
なお、拡散層3が有する空孔は、酸素供給層2と膜電極接合体4とを連通する貫通孔であっても良い。拡散層3が高密度な貫通孔を有していることにより、膜電極接合体4と拡散層3との間に滞留した生成水を酸素供給層2まで吸い上げることも可能となる。このような、拡散層3および拡散層5を構成する材料としては、カーボンペーパー、カーボンクロスなどを用いることができる。
図3に示すように、膜電極接合体4は、電解質膜12と、該電解質膜の両面に接触して形成された2つの触媒層13、14(それぞれ燃料極、酸素極)からなる。電解質膜は、燃料供給層から酸素供給層の方向にプロトン伝導を行うことができるものであれば、どのような材料からなるものでも構わない。このような電解質膜の中では固体高分子電解質膜が好ましく、そのような例としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体であるデュポン社のナフィオン(商標)などが挙げられる。
膜電極接合体4を構成する2つの触媒層は、触媒活性を有する物質を少なくとも有する。なお、触媒活性を有する物質が単体で存在できない場合には、担持体に触媒活性物質を担持させることで触媒層としても良い。触媒活性物質が単体で存在する例としては、白金黒やスパッタ法により形成した樹枝状形状の白金触媒などが挙げられる。
一方、担持体に触媒活性物質が担持される例としては、白金担持カーボン粒子などが挙げられる。なお、触媒層にはカーボン粒子などの電子伝導体やプロトン伝導体(高分子電解質材料)が含まれていても良い。触媒層は電解質膜の表面に接触して一体化していても良いが、触媒層が電解質膜と接しており水素イオン等の化学種の受け渡しが可能であれば、膜電極接合体4として一つに形成する必要はない。また、触媒層の平均開口径は10nm〜100nmであることが好ましい。なお、以下の明細書において、燃料供給層側の触媒層を燃料極、酸素供給層側の触媒層を酸素極と呼ぶ場合もある。
本発明の燃料電池セルは、酸素の供給と水蒸気の排出とを開口部を通じた酸素の自然拡散によって行う受動型(パッシブ型)である。図からわかるように、開口部8以外の酸素供給層2は集電体1によって囲まれている。したがって、酸素極で生成した水は拡散層3を通って蒸気となった後、集電体1によって冷やされて酸素供給層2の内部で水滴となる。水滴の量が過剰になると酸素供給層2を閉塞してしまうため、酸素拡散性の低下によって電圧降下、つまりフラッディングが生じる。
そこで、水滴が生成する集電体1と酸素供給層2との間に吸水層11を形成する。吸水層11は、酸素供給層2と連通し、吸水層11の端部が開口部8を含む平面に存在するように形成する。すなわち、吸水層11は、拡散層3および酸素供給層2を隔てて、膜電極接合体4と対向する位置、かつ吸水層11の端部が開口部8を通じて外部の空気と接しやすい位置に形成される。なお、吸水層11は、集電体1と酸素供給層2との間の一部のみに配置される。それにより、集電体1と酸素供給層2との電気的接触は阻害されない。そのように配置する方法としては、酸素供給層2、集電体1のいずれか一方もしくは両方に溝を設け、該溝の中に吸水層11を配置する方法が挙げられる。
また、形成される吸水層11は図2のように一つであっても良く、図4に示すように複数であっても良い。また、図5は図4の燃料電池セルにおける吸水層11と酸素供給層2を集電体1側からプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。
吸水層11が酸素供給層2の溝に形成される場合、吸水層11が酸素供給層2内の酸素拡散性を阻害しないように、吸水層11の厚さは酸素供給層2の厚さよりも薄いことが好ましい。例えば、酸素供給層2の厚さが1mm以上3mm以下である場合には、吸水層11の厚さは1μm以上1mm未満であることが好ましい。
また、吸水層11は吸水性材料で構成される。吸水層11を構成する吸水性材料は、好ましくは、吸水性のみならず速乾性を有する繊維からなり、更に好ましくは酸素供給層2の材料よりも親水性が高い材料であって酸素供給層2から独立したシート状の材料である。吸水層11を構成する材料の親水性が酸素供給層2の材料の親水性よりも高いことで、より酸素供給層2から吸水層11への水の移動が起こりやすくなる。
なお、本発明において、「液体水を保持する安定性」とは「親水性」と同じ意味をなす。表面が親水性の材料である場合、表面が撥水性(疎水性)の材料よりも親水性が高いため、液体水を保持する安定性が高いと言える。また、親水性の材料を用いる場合、前記親水性材料の表面の平均開口径(隙間)が小さい方がより親水性が高く(液体を保持する安定性が高く)、表面が撥水性(疎水性)の材料であれば、組織の平均開口径(隙間)が大きい方がより親水性が高い(液体を保持する安定性が高い)と言える。
また、本発明において「吸水性材料」とは毛管現象により水を引き上げることのできる材料であり、より具体的には吸水性材料を水に漬けた時に10秒後の水の吸い上げ高さが30mm以上の材料を示す。
また、「速乾性材料」とは吸収した水を容易に乾燥して放出することのできる材料であり、より具体的には、25度C相対湿度50%雰囲気における1h後の乾燥率が80%以上である材料である。ここで、乾燥率は、毛管現象により吸水層が吸い込んだ水の重量に対する無風状態の恒温恒湿槽に1h放置した後に吸水層に残存していた水の重量の割合である。例えば吸水繊維の重量が0.5gで毛管現象により吸収した後の総重量が1.5gだった場合、吸収した水の重量は1gということになる。その繊維を無風状態の25度C50%の恒温恒湿槽に1h放置した後の総重量が0.6gであったとすると、吸水繊維に残った水は0.1g、すなわち、乾燥した水の重量は0.9gであったことになる。1gあった水のうち、0.9gが乾燥したため、このときの乾燥率は90%ということになる。
このような吸水性および速乾性を有する材料としては、例えば表面の親水性が高い多孔質材料などが挙げられる。ここで、本発明において、「親水性が高い材料」とは、その材料上に形成された水滴の接触角が90度以下のこととする。
吸水層11の役割は大きく分けて二つある。吸水層11の一つ目の役割は、酸素供給層2に凝集(発生)した水を吸収し、酸素供給層2に酸素拡散流路を確保させることである。発電活動によって膜電極接合体4で生成された水は、膜電極接合体4の外側に設置された拡散層3を通じて酸素供給層2へ排出される。吸水層11が無い場合、酸素供給層2へ排出された生成水は、蒸発して開口部8からセル外に拡散(放出)する以外に酸素供給層2から除去されない。酸素供給層2からの自然拡散だけでは、酸素供給層2に排出された生成水は十分蒸発することができず、酸素供給層2の酸素拡散流路を狭めるとともに、酸素供給層2の水蒸気分圧を高めて拡散層3を通じて酸素供給層2へ排出される生成水や水蒸気の流れを妨げる。すなわち、酸素供給層2における水分が過多になると、拡散層3を通じた膜電極接合体4からの水分排出が妨げられて、膜電極接合体4の表面が部分的に水没(フラッディング)する。これにより、膜電極接合体4への酸素供給が阻害される。
一方、吸水性材料からなる吸水層11がある場合、吸水層11の毛管現象によって積極的に酸素供給層2から水蒸気や霧滴を集めて、吸水層11内で生成水を形成する。したがって、酸素供給層2が毛管現象を有さないほど空孔径が大きいもしくは空孔率が高い場合であっても、吸水層11の毛管現象によって酸素供給層2内の生成水は吸水層11に取り込まれる。すなわち、吸水層11が、開口部8を通じた酸素の供給や水蒸気の排出の阻害を軽減することができる。
また、吸水層の端部が開口部を含む平面に存在することにより、吸水層11に吸収された液体水が外部の空気と触れやすくなり、効率的に蒸発拡散するようになる。なお、本発明において、開口部が曲面である場合、開口部を含む平面とは該曲面をプロトン伝導方向と平行に動かすことで形成される曲面のこととする。また、開口部が曲面である場合、開口部を含む平面と垂直な面とは、曲面を含む平面の対称面と平行な面のこととする。
なお、集電体1の吸水層11側表面には、親水性を高める特殊な表面処理を行ってもよい。このような方法としては、例えば集電体1に対する親水性塗料の塗布、極めて親水性の高い材料を用いた集電体1、集電体1の表面のサンドブラスト処理層、集電体1に対する酸化チタンと酸化ケイ素とのスパッタコーティング等が挙げられる。このような方法により、液体水が表面で凝結し、表面に沿って浸透拡散することは言うまでも無い。
吸水層11の二つ目の役割は、酸素供給層2内の湿度を一定に保つことである。
膜電極接合体4の水分が不足すると、電解質膜が乾燥して水素イオンが伝導しなくなるドライアウト現象を起こす。したがって、燃料電池セル10S内の湿度は適度な湿度に保たれていることが望ましい。吸水層11が存在することにより、湿度が一定に保たれるため、膜電極接合体4が乾燥した場合には、吸水層11から蒸発した水が電解質膜に吸収される。すなわち、吸水層11は、フラッディングと同時に極端な乾燥時や未使用時のドライアウトも防止し、燃料電池セル10S内を適度な湿度に保持する役割を果たす。
<第2実施形態>
図7は第2実施形態における燃料電池セルを開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図であり、第2実施形態では、吸水層11の形状が第1実施形態と異なる以外は、第1実施形態と同様にして燃料電池を組み立てることができる。したがって、本実施形態を説明する際には、図1を併せて参照し、図2、図6と共通する構成には共通の符号を付して詳細な説明は省略する。
図7に示すように、第2実施形態における燃料電池セル20Sは、第1実施形態の燃料電池セル10Sにおいて、開口部を含む平面を基準として燃料電池セル10Sとは反対側に端部を有するように吸水層を形成した構成の燃料電池セルである。また、図8は、本実施形態において、吸水層を複数形成した場合の吸水層11および酸素供給層2を示す図であり、吸水層が複数である場合の図7の燃料電池セルを集電体1側からプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。
すなわち、第1実施形態からの変更点は、吸水層11を酸化剤供給口である開口部8から延伸(拡張)させ、燃料電池セル20Sの外部にまで露出させたことにある。このような構成とすることにより、吸水層11の少なくとも一部が、直接セルの外部の空気(大気)と接触する。
本実施形態のように、燃料電池セル20Sの外部にまで吸水層11が露出する構造を採用することにより、外部の空気との接触面積が増大し、第1実施形態よりも更に効率的に吸水層内の水を蒸散させることができる。特に、高湿度下などの生成水の量が多い環境では本実施形態のような構成とすることでより効率的に吸水層内の水を蒸散させることができる。なお、「吸水層の少なくとも一部が、酸素供給層の外側で直接大気に開放されている」とは、開口部と垂直な断面で燃料電池セルを切断した際の切断面において、開口部を含む平面を基準として燃料電池セルと反対側に吸水層の端部が存在し、前記吸水層が直接大気に開放されていることを示す。
なお、吸水層11のうち開口部を含む平面を基準として燃料電池セル20Sと反対側に存在する部分(燃料電池セル20Sからはみ出した部分)の形状は、単純に延伸させた形状とするだけではなく、人為的に凹凸を作るなど更に表面積を増大させる構造とすると、外部の空気との接触面積が増大するため更に望ましい。
<第3実施形態>
図9は第3実施形態における燃料電池セルの構成を示す図であり、本実施形態の燃料電池セルを開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図である。第3実施形態では、吸水層11の内部構造が第2実施形態と異なる以外は、第2実施形態と同様な部品を用いており、本実施形態の燃料電池セルを第1の実施形態と同様にスタックし、接続することで本実施形態の燃料電池を組み立てることができる。したがって、図7と共通する構成には共通の符号を付して詳細な説明は省略する。
第3実施形態における燃料電池セル30Sは、図7における吸水層11に代えて、親水性の強度を場所によって変化させた吸水層11Dを用いることで、開口部8へ向かって水を排出する排水性能を高めている。詳しくは、前記吸水層のうち、酸素を取り込む前記側面側に近い平面位置の方が、酸素を取り込む前記側面側から遠い平面位置よりも液体水を保持する前記安定性が高い。すなわち、開口部8に近いほど親水性が強い構造とすることで、酸素供給層2の中央部から、外側すなわち蒸発拡散(蒸散)の起きやすい開口部8の方向に水分を引き寄せることができる。
図9を用いて具体的に説明すると、吸水層11Dを、開口部8に近い外側の吸水層11eと、中央部の吸水層11fとによって構成し、11eの親水性を11fの親水性より高く設定する。親水性の強さは、部材表面に形成した水滴の部材に対する接触角で判断することが可能であり、部材に対する水の接触角が小さいほど、その部材は親水性の強度が大きい(親水性が高い)ことを示している。
したがって、吸水層11fにおける水の接触角をθf、吸水層11eにおける水の接触角をθeとした際に、[θe<θf<90度]という関係が成り立つ事が望ましい。
このような構成とすることにより、吸水層11内の液体水は、親水性の低い領域(11f)から高い領域(11e)へと自然浸透して面方向(プロトン伝導方向と垂直な方向)に移動する。
吸水層を3種類以上の領域で構成する場合も、同様に、開口部に近い(セルの外側に近い)領域ほど親水性が高い領域とする。なお、吸水層11Dを、部分的に親水性が異なる2つ以上の領域で構成し、排水性能を高めるためには、必ずしも二種類以上の部材(材料)を用意する必要はない。例えば、一種類の材料を用いた吸水層部材の一部(中央部)に疎水処理を行う、あるいは開口部8付近に更なる親水処理を行うなどの方法も考えられる。
更に、吸水層11Dにおける親水性の変化は段階的な変化には限らない。例えば、ろ紙のようなセルロース繊維の吸水層であれば、プラズマ処理によって親水性を高めることができる。中央側から開口部8へ向かって、ろ紙のプラズマ処理時間を次第に増加させて、連続的に親水性を高めたグラデーションをつける場合も本実施形態に含まれるものとする。
<第4実施形態>
図10は第4実施形態の燃料電池セル40Sを示す図であり、本実施形態の燃料電池セルを開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図である。また、本実施形態の燃料電池セルも第1の実施形態と同様にスタックし、接続することで本実施形態の燃料電池を組み立てることができる。
酸素の供給経路に設置された親水性の吸水材料からなる吸水層11は、生成水が酸素供給を阻害しないようにすることを第一の目的とする。そのため、燃料電池の全体構造は、燃料電池セル内の余分な生成水を吸水層11に誘導する構造であることが望ましい。
本実施形態では、酸素供給層2が貫通孔15を有することで、燃料電池セル内の余分な生成水を吸水層11に誘導する構造としている。酸素供給層2が貫通孔を有する以外は第2実施形態と同様の構成とする。
発電活動によって生成される生成水は、酸素供給層2だけではなく、拡散層3と膜電極接合体4との間にも滞留して膜電極接合体4への酸素の供給を妨げる。酸素供給層2として、微細な貫通孔15を有する材料を使用することにより、膜電極接合体4と拡散層3との間に滞留した生成水を、酸素供給層2が有する貫通孔15の毛管力によって酸素供給層2と吸水層11との接触面まで吸い上げることができる。吸い上げられた水は酸素供給層2に接する吸水層11によって吸収される。
このような構造にすることで、酸素供給層2のプロトン伝導方向に平行な方向の厚みが十分に厚く、生成水を吸水層11の毛管力のみで吸収できない場合であっても、効率的に酸素供給の阻害要因となる生成水の排出が可能となる。
<第5実施形態>
図11および図12に第5実施形態の燃料電池セル50Sを示す。図11は、本実施形態における燃料電池セルを開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図である。また、図12は、本実施形態における燃料電池セルを開口部を含む平面と平行な面で切断した際の断面図である。なお、本実施形態の燃料電池セルも第1の実施形態と同様にスタックし、接続することで本実施形態の燃料電池を組み立てることができる。
本実施形態では、第2実施形態における酸素供給層2の集電体1との接触面に、開口部を含む平面と垂直な方向を長さ方向とし、プロトン伝導方向を深さ方向とする複数の溝を有する。さらに、酸素供給層2にプロトン伝導方向と平行な方向を深さ方向とする複数の孔を形成する。そして、該溝、および該孔の少なくとも一部に吸水層を配置する。なお、図11および図12では孔内に存在する吸水層を11a、溝の内部に存在する吸水層を11としている。
ここで、溝とは、プロトン伝導方向と平行な断面において取れる溝内のプロトン伝導方向と平行な最大長さが、プロトン伝導方向と垂直な断面において取れるプロトン伝導方向と垂直な最大長さよりも短いもののことである。
一方、孔とはプロトン伝導方向と平行な断面において取れる溝内のプロトン伝導方向と平行な最大長さが、プロトン伝導方向と垂直な断面において取れるプロトン伝導方向と垂直な最大長さよりも長いもののことである。なお、孔は酸素供給層2中で貫通していてもしていなくても良い。
なお、孔が貫通しており、かつ孔が高密度に形成されている場合、以下の二つのいずれかの形態であることが好ましい。一つ目の形態としては、前記複数の孔のうちの少なくとも一部の孔が深さ方向の全領域に渡って吸水層を有しているわけではない形態である。そして、二つ目の形態としては、前記複数の孔のうちの一部の孔のみに吸水層を形成する形態である。
これは、吸水層と酸素極側拡散層との接触部分の面積が大きくなりすぎると、酸素極および拡散層中の酸素拡散性を妨げる場合があるからである。具体的には吸水層と酸素供給層との接触平面を仮定した際に、前記接触平面内の吸水層と酸素供給層との接触部分の面積に対して、吸水層と酸素極側拡散層との接触部分の面積が20%以下であることが好ましい。
なお、本発明において、「平行」とは、ほぼ平行を含む概念とし、平行な方向±10°の範囲とする。
また、形成する溝の深さは酸素供給層2の厚みに対して10%以上50%以下であることが好ましい。さらに、溝の長さは、開口部が平面である場合、酸素供給層2のうち、開口部と同一平面内に存在する酸素供給層2の端面と該端面に対向する酸素供給層2の端面との距離と同一の長さであることが好ましい。なお、形成する溝の数は発電によって生じる生成水の量によって調整することができる。
また、酸素供給層2の溝に配置する吸水層の材料と孔に配置する吸水層の材料は同一の材料であっても良いし、異なる材料であっても良いが、溝に配置される吸水層と孔に配置される吸水層は連結していることが好ましい。
本実施形態の燃料電池セルは、酸素供給層2の厚さが十分厚い場合であっても効率的に水を吸水することができる。したがって、第4実施形態よりも更に酸素供給層2の厚さが厚い場合に用いることが好ましい。
<第6実施形態>
本実施形態は、第2実施形態において、集電体1の端部が開口部8を含む平面を基準として燃料電池セルとは反対側に存在する構成の燃料電池セルである。すなわち、吸水層11のみならず、吸水層11が接する集電体1も燃料電池セルの外部にまで露出させた構造の燃料電池セルである。また、本実施形態の燃料電池セルも第1の実施形態と同様にスタックし、接続することで、本実施形態の燃料電池を組み立てることができる。
図13〜図16に本実施形態の燃料電池セルを示す。
図13は第6実施形態の燃料電池セル60Sを開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図である。図14は集電体1aをプロトン伝導方向と垂直な面で切断した際の断面図である。図15は、図14の集電体1aおよび吸水層11を燃料電池セルに組み込んだ際に、集電体1aおよび吸水層11に酸素供給層2側からプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。また、図16は集電体1aを基準とした際の酸素供給層2とは反対側の燃料電池セル外部からプロトン伝導方向と平行な方向で集電体1aおよび吸水層11に光を照射した際の投影図である。
本実施形態においては、プロトン伝導方向に垂直な方向の断面において、開口部を含む平面と垂直な方向の集電体の長さが燃料電池セルの長さよりも長く(集電体の幅が燃料電池セルのセル幅よりも大きい)、セルの外部で集電体と吸水層が接している。これにより、蒸散が困難である高湿度雰囲気下においても、発電時に発生する集電体の熱を効果的に利用して蒸散性を促進することができる。すなわち、排水性能を向上することができる。
このような集電体の形状としては、図14の1aのように、単に、開口部を含む平面に垂直な方向における集電体の長さが、開口部を含む平面に垂直な方向における燃料電池セルの長さ(セル幅)より長い集電体の形状とすることができる。
なお、吸水層11は第2実施形態で述べたように複数の吸水層を配置しても良いし、図15のように、はしご形状にしても良い。
集電体が図15のような形状である場合、集電体全体に対して吸水層を配置することができるため、より多くの吸水材料を配置することが可能となり、セルの小型化が容易であるという利点がある。
<第7実施形態>
本実施形態の燃料電池セルは、第6実施形態における集電体および吸水層の形状が異なる構成の燃料電池セルであり、集電体および吸水層の形状が異なる以外は第6実施形態と同様の構成である。また、本実施形態の燃料電池セルも第1の実施形態と同様にスタックし、接続することで本実施形態の燃料電池を組み立てることができる。
図17は第7実施形態の集電体の形状をプロトン伝導方向と垂直な面で切断した際の断面図であり、図18は本実施形態の集電体および吸水層に酸素供給層側からプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。
また、図19は本実施形態における吸水層および集電体を開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図である。
本実施形態における集電体および吸水層は、図17および図18に示すようにくし型の形状をなす。本実施形態のくし型の集電体は、くし部分のみ燃料電池セルの側面よりも外部に露出させている。集電体1bがくし型集電体である場合には、くしの幅及び長さはセル外へ露出している吸水層と同じ大きさであることが好ましく、更に図19に示すように複数の吸水層が各々集電体のくし端部を覆う形状であることが好ましい。
本実施形態では、第6実施形態と比較して空気を取り込みやすいため、性能が向上するという利点がある。したがって、セルの小型化よりもセルの性能を優先する場合には本実施形態の構成の燃料電池セルとすることが好ましい。
以上のように、燃料電池セルの構成を第1〜第7の実施形態のような構成とすることで、膜電極接合体4の単位表面積あたりの電流値を高く設定しても膜電極接合体4の局所的な水没領域が発生しにくくなり、高い発電効率が安定して維持される。したがって、小面積の膜電極接合体4を用いて、大気の循環機構やブロアーに頼らなくても大きな電流が出力可能となる。高信頼性、長寿命、高性能を実現しつつ、部品点数が少なく小型軽量で安価な燃料電池を提供できる。
<比較形態の燃料電池>
次に比較形態の燃料電池の説明を行う。
<第1比較形態>
図20は第1比較形態である従来のパッシブ型固体高分子型燃料電池セルを開口部を含む平面と平行な面で切断した際の断面図であり、図21は第1の比較形態である従来のパッシブ型の燃料電池セルを開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図である。図20に示すように、固体高分子型燃料電池の燃料電池セル100Sは、少なくとも、膜電極接合体104と、拡散層103、105と、燃料供給流路(燃料供給層)106と、酸素供給流路(酸素拡散層)102と、セパレータ101、107、109からなる。
なお、膜電極接合体104は電解質膜と触媒層(燃料極、酸素極)で構成される。膜電極接合体104は燃料電池セル100Sの中央部に位置し、電解質膜の一方の面には、酸素極である触媒層が存在し、他方の面には燃料極である別の触媒層が存在する。
そして、燃料極を挟んで電解質膜と対向する位置に拡散層105が存在し、酸素極である触媒層の外側には、電解質膜と対向する位置に拡散層103が存在する。燃料極および酸素極は、それぞれ、その外側に燃料もしくは酸化剤を拡散させる役割と、電子を発生させる役割を担う。拡散層103、105の外側に燃料もしくは酸化剤を燃料電池セル100S全体に供給する供給流路である酸素供給層102、燃料供給層106が存在する。
拡散層103、105の部材としては、導電性を有する多孔質媒体が用いられる。そのような導電性の多孔質媒体としては、例えばカーボンクロスなどが挙げられる。酸素供給層102、燃料供給層106には何も設置されないか、集電及び支持部材として空孔率の高い多孔質媒体が設置される。
燃料は、燃料供給層106の中を、例えばポンプによる強制循環などにより移動する。また、酸化剤は酸素供給層102の中を自然拡散・自然対流などの手法により移動する。酸化剤および燃料は、酸素供給層102、燃料供給層106から拡散層103、105を通して拡散し、それぞれ膜電極接合体104内の電解質膜に到達する。
膜電極接合体104内における燃料極と電解質膜との接触部分においては、燃料極に到達した燃料が触媒による酸化作用により酸化され、水素イオンとなって、電解質膜中をカソードに向けて移動する。このような燃料としては水素ガスなどの気体やメタノール・エタノールといった液体が使用される。
膜電極接合体104内における酸素極と電解質膜との接触部分においては、酸素供給層102から拡散層103を通じて到達した酸化剤と(例えば酸素)と、電解質膜内を移動してきた水素イオンとが反応して水分子が生成される。そして、この一連の化学反応で発生するエネルギーの一部が電気エネルギーとして取り出される。
前述の通り、膜電極接合体104のカソードでは発電反応によって水が生成される。この水は、通常水蒸気もしくは生成水となって拡散層103から酸素供給層102に移動し、開口部108からの蒸散によって排出される。また、電解質膜を透過してアノード側から排出される場合もある。この際、燃料の供給を、ポンプを用いて行う場合には、ポンプの圧力によってそのまま燃料と一緒に水も移動し、排出口より排出される。
図21に示すように、従来のパッシブ型燃料電池の燃料電池セル100Sは、中央に電解質膜を配置する。そして、電解質膜の表裏両面に触媒層を形成し膜電極接合体104とする。膜電極接合体104の外側には拡散層103、拡散層105が存在する。拡散層105には燃料として水素が供給され、拡散層103は酸化剤として大気中の酸素が供給される。アノード側は水素が供給されるために、セパレータ107、109でシールされてリークが生じないようになっている。また、カソード側は空気を供給するために開口部108を有している。
発電によって発生した生成水は、水蒸気となって自然拡散し、開口部108を通じて大気中に排出される。もしくは拡散層103や酸素供給層102で液化して滞留する。特に拡散層103や酸素供給層102の内部で液化した水は、蒸発して排出されるまでその場所に滞留しつづけるため、放置しておくとカソードへの酸素供給に影響を及ぼす。
パッシブ型燃料電池においては、酸素供給層102に排出された水を外に送り出す手段が存在しない。したがって、一旦拡散層103から酸素供給層102に排出された水はそのままその場所に滞留し続け、結果的には、酸化剤の供給を止めてしまう。したがって、排水手段を有しない燃料電池セルの構成である場合、長時間駆動を行うと燃料電池セルの性能を低下させてしまう。
<第2比較形態>
また、図22は第2比較形態である従来のパッシブ型固体高分子型燃料電池セルを開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図である。本比較形態燃料電池セルは、第1比較形態において、酸素供給層102とセパレータ101との間に吸水層110を有するものの、該吸水層の端面が開口部108と同一平面よりセル側、すなわち、セル内に存在する構造を有するものである。なお、図22において、燃料電池セルの紙面上の左右端108のみが開口部である。
本比較形態のように、吸水層の端部がセル内に存在する場合、発電開始直後においては発生する水が少量であるため、生成水は吸水層に吸水される。しかしながら、本比較形態の吸水層は、端部がセルの内部に存在し、セル外部の空気と接しないため、吸水層に吸収した水の蒸散性が悪い。したがって、長時間駆動を行う場合など、生成水の量が多い場合には、吸水層が吸水できなくなるため、生成した水が滞留してしまう。これにより、酸化剤の供給が不十分となり、燃料電池セルおよび該燃料電池セルを用いた燃料電池の性能が低下してしまう。
<第3比較形態>
図23は第3比較形態である従来のパッシブ型固体高分子型燃料電池セルを開口部を含む平面と垂直な面で切断した際の断面図である。本比較形態の燃料電池および燃料電池セルは、第1の比較形態(図21)における酸素供給層102と拡散層103の間に吸水層110を有する構造の燃料電池セルである。
本比較形態のように、吸水層が酸素供給層と集電体との間ではなく、酸素供給層と酸素極側拡散層との間に形成される場合、燃料電池セルが開口部108から取り込んだ酸素の拡散層103への拡散を吸水層110が阻害してしまう。拡散層103への酸素の拡散が阻害されることにより、膜電極接合体104への酸素の供給も阻害され、燃料電池セルの性能が低下してしまう。
<実施例>
次に、上記実施の形態に基づいて、具体的な実施例を詳細に説明する。ただし、触媒層(酸素極および燃料極)、電解質膜、拡散層、酸素供給層、燃料供給層などの材料は以下に示すものに限定するものではなく、同様の機能を有するものであればどのような材料を用いても構わない。
[実施例1]
図24は実施例1の燃料電池セルにおける吸水層の配置の説明図である。本実施例は、第2実施形態の燃料電池セル20Sの構成を採用しており、吸水層を酸素供給層の集電体側の表面に形成し、吸水層の端部が開口部を含む平面を基準として燃料電池セルと反対側に存在する形態の燃料電池セルである。以下、本実施例に係わる燃料電池セルの製造工程を詳細に説明する。
(工程1)
電解質膜への転写層としてのPTFEシート(日東電工製ニトフロン)上に反応性スパッタ法により樹枝状構造をとる白金酸化物触媒を2000nm形成した。このときのPt担持量は0.68mg/cm2であった。反応性スパッタは、全圧4Pa、酸素流量比(Q02/(QAr+QO2)70%、基板温度300度C、投入パワー4.9W/cm2なる条件にて行った。引き続き、この樹枝状構造をとる白金酸化物触媒を2%H2/He雰囲気(1atm)にて120度C30分間の還元処理を行い、PTFEシート上に樹枝状構造の白金触媒層を得た。
さらに、PTFEとNafion(登録商標)の混合懸濁溶液を前記PTFEシートに含浸させることによって、触媒表面に有効に電解質チャネルを形成するとともに適切な撥水処理を行った。
(工程2)
電解質膜への転写層としてのPTFEシート上に、ドクターブレードを用いて白金担持カーボン触媒を形成する。ここで使用する触媒スラリーは、白金担持カーボン(Jhonson Matthey製 HiSPEC4000)、Nafion、PTFE、IPA、水の混錬物である。このときの白金担持量は0.35mg/cm2であった。
(工程3)
(工程1)により作製した触媒層を酸素極、(工程2)によって作製した触媒層を燃料極として、前記一対の触媒層(酸素極および燃料極)で固体高分子電解質膜(Dupont製Nafion112)を挟み、8MPa、150度C、1minなるプレス条件でホットプレスを行った。
その後、PTFEシートを剥離することにより、一対の触媒層を高分子電解質膜に転写して、電解質膜と一対の触媒層を接合し、膜電極接合体(以下MEAと略記)を得た。
(工程4)
酸素供給層として、長さ28mm、幅10mm、厚み2mmの発泡金属を用いた。また、エンドプレートとしては、長さ37mm幅10mmのものを用い、これをセルの長さおよび幅とした。酸素供給層の一方の面、酸素極側集電体と接触する側に長さ10mm、幅2.5mm、深さ500μmの溝を前記酸素供給層が有する10mmの幅と平行な方向に等間隔に4本形成した。該溝に長さ20mm、幅2.5mm、厚さ500μmにカットした吸水材料を左右5mmづつセルからはみ出すように設置して吸水層とした。
ここで、吸水材料には、アンビック社製液体拡散不織布Pタイプを使用した。これにより、吸水層11と酸素供給層2を得た。
(工程5)
以上により得られたMEAと、酸素供給層と吸水層の接合体、および燃料極側集電体、燃料極側拡散層、酸素極側拡散層、酸素極側集電体を図2の如く積層して燃料電池セルを得た。なお、本例における燃料極側集電体は図2におけるセパレータ7に当たる。
また、燃料極側拡散層にはカーボンクロス(E−TEK製 LT2500−W)を、酸素極側拡散層にはカーボンクロス(E−TEK製 LT1200−W)を用いた。
なお、図24(a)〜(c)に工程4によって作製した吸水層11および酸素供給層2を示す。(a)は吸水層および酸素供給層を開口部と平行な面で切断した際の断面図、(b)は集電体側から吸水層および酸素供給層にプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。(c)は酸素極側拡散層側から吸水層および酸素供給層にプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。
[実施例2]
図25は実施例2の燃料電池セルにおける吸水層の配置の説明図である。本実施例は、第1実施形態で述べた酸素供給層と集電体との間のみに吸水層を配置させ、吸水層の端部が開口部を含む平面に存在する形態の燃料電池である。すなわち、吸水層の端部が開口部を含む平面と同一平面に存在する形態である。この点以外は実施例1と同様とする。
図25(a)〜(c)に作製した吸水層11および酸素供給層2を示す。(a)は吸水層および酸素供給層を開口部を含む平面と平行な面で切断した際の断面図、(b)集電体側から吸水層および酸素供給層にプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。(c)は酸素極側拡散層側から吸水層および酸素供給層にプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。
以上のようにして作製した燃料電池セルの400mA/cm2における定電流測定の電圧変動により、耐フラッディング特性の評価を行った。測定条件としては25度C、相対湿度50%の無風状態の恒温恒湿槽にセルを置き、コンプレッサーなどの補器を用いない自然吸気で評価した。また、このとき、吸水層を形成しない以外は同じ工程を用いて作製した燃料電池セル(第1比較形態の燃料電池セル100Sと同様の構成の燃料電池セル)を比較例1として、同様の評価を行った。
図26に実施例1、実施例2、比較例1の燃料電池セルの評価結果を示す。実施例1、実施例2と、比較例1との測定開始時の電圧に差異はなく、吸水層を形成したことによる性能低下はみられなかった。これは、吸水層が酸素極側の拡散層に触れていないため、ガスの拡散を阻害していないからだと考えられる。しかしながら、実施例1と比較例1の電圧差は測定開始20分後から徐々に開いていき、90分後には大きな差異が生じた。
次に、定電流測定90分後の両燃料電池セル内の残存水重量を比較することにより排水機能を比較した。その結果、比較例1のセル内残存水重量が0.2852gであったのに対し、実施例1のセル内残存水重量は0.1265gと少ない値を示した。
これらの結果より、実施例1の燃料電池セルには生成水をセル外へと排出する機能があり、フラッディングの抑制機能があることがわかる。
また、実施例2のセル内残存水分量は0.1798gであり、実施例2のセルにおいても、比較例1より残存水分量は少なかった。すなわち、実施例2の形態も比較例1の形態よりも排水機能が高いことがわかる。
実施例1の形態は実施例2の形態よりも更に排水機能が高いため、より高い排水機能を求める場合には実施例1の形態が好ましい。一方、実施例2の形態は、吸水層が小さいため、実施例1の形態よりもコンパクトなセル構造とすることができる。
したがって、排水機能を重視するアプリケーションには実施例1の形態をとることが好ましく、排水機能を有していながらもスペース効率を重視するアプリケーションには実施例2の形態とすることが好ましい。
以上より、吸水層を酸素供給層の集電体側表面に形成することにより、性能の低下を招くことなく、大幅な耐フラッディング特性の向上に成功した。
[実施例3]
図27は実施例3の燃料電池セルにおける吸水層の配置の説明図である。本実施例は、第5実施形態で述べた吸水層を酸素供給層と集電体との間と、酸素供給層内部に設置した場合の例である。この例は酸素供給層の厚みが厚く、拡散層から発生した水蒸気が集電体に到達する前に酸素供給層中で水滴となる場合に非常に有効である。なお、工程4以外の工程は実施例1と同様であるので、工程4のみ説明する。
(工程4)
(工程1〜3、工程5は実施例1と同様)
酸素供給層の集電体(酸素極側集電体)側表面に長さ10mm、幅2.5mm、深さ500μmの溝を等間隔に4本形成した。溝を形成した部分に一つの溝に対してφ2mmの貫通しない孔を等間隔に2つずつ形成した。貫通しない孔の中に吸水材料を詰めて吸水層を形成し、溝に長さ2cm、幅2.5mm、厚さ500μmにカットした吸水材料を設置して別の吸水層を形成した。
その際、貫通しない孔内に存在する吸水材料と、溝の中の吸水材料は接触するよう配置した。図27(a)〜(d)に得られた吸水層11および11a、酸素供給層2および貫通しない孔15Hを示す。ここで、貫通しない孔内に存在する吸水層を11a、溝の内部に存在する吸水層を11としている。
なお、酸素供給層として用いた発泡金属は、実施例1と同様、長さ28mm、幅10mm、厚み2mmのものとした。また、セルサイズとしては37mm×10mmのものを用いた。吸水繊維は短手方向に配置し、左右5mmづつはみ出させた。
なお、図27(a)は吸水層および酸素供給層を開口部を含む平面と平行な面で切断した際の断面図、(b)集電体側から吸水層および酸素供給層にプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。(c)は酸素極側拡散層側から吸水層および酸素供給層にプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図、(d)は酸素供給層と酸素供給層の孔内部に配置した吸水層をプロトン伝導方向と垂直な面で切断した際の断面図である。
以上のようにして作製した燃料電池セルの400mA/cm2における定電流測定の電圧変動により、耐フラッディング特性の評価を行った。測定条件は25度C、相対湿度50%の無風状態の恒温恒湿槽にセルを置き、コンプレッサーなどの補器を用いない自然吸気として、評価を行った。また、この際、比較例1の燃料電池セルを用いて同様の評価を行った。
図28にその結果を示す。実施例3と比較例1の測定開始時の電圧に差異がないことから、吸水層によるガス拡散性の低下は起きていないことがわかる。図26と同様、実施例3と比較例1の電圧差は測定開始20分経過以降、徐々に開いていき、90分後には大きな差異が生じた。
次に、定電流測定90分後の両セル内の残存水重量を比較することにより排水機能を比較した。その結果、比較例1のセル内残存水重量が0.2394gであったのに対し、実施例3のセル内残存水重量は0.1338gとなり、大幅に少ない値を示した。
これらの結果より、実施例3の燃料電池セルには生成水をセル外へと排出する機能があり、フラッディングの抑制機能があることがわかる。
次に吸水層の端部が開口部を含む平面と同一平面に存在する、もしくは開口部を含む平面を基準として燃料電池セルとは反対側に存在することの優位性、および吸水層が集電体と酸素供給層との間に存在することの優位性を示す。
この優位性を示すために、吸水層の端部がセル内にある構成を比較例2とし、吸水層が酸素供給層と酸素極側拡散層との間に存在する構成を比較例3として比較を行った。
[比較例2]
図29は比較例2の燃料電池セルにおける吸水層の配置の説明図である。本比較例は、吸水層が実施例1と同様に酸素供給層と集電体との間に配置されているものの、セル外へはみ出さず、吸水層の端部が開口部を含む平面を基準として燃料電池セルと同一側にある構成の例である。つまり、図22に示す第2比較形態の燃料電池セル110Sと同様の構成の例である。工程4以外の工程は実施例1と全く同様であるので、工程4のみ説明する。
(工程4)
(工程1〜3、工程5は実施例1と同様)
酸素供給層の集電体側表面に、酸素供給層の10mmの幅と平行に長さ10mm、幅2.5mm、深さ500μmの溝を等間隔に4本形成する。その溝に長さ5mm、幅2.5mm、厚さ500μmにカットした吸水材料を、吸水層の端部が開口部を含む平面を基準として燃料電池セルと同一側となるように設置する。
図29の(a)〜(c)に形成した吸水層11および酸素供給層2を示す。なお、(a)は吸水層11および酸素供給層2を開口部を含む平面と平行な面で切断した際の断面図、(b)は集電体側から吸水層11および酸素供給層2にプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。(c)は酸素極側拡散層側から吸水層11および酸素供給層2にプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。
以上のようにして作製した燃料電池セルを比較例2として、耐フラッディング特性を実施例1と比較した。評価方法としては、400mA/cm2における定電流測定を行い、その電圧変動により評価した。測定条件は25度C、相対湿度50%の無風状態の恒温恒湿槽にセルを置き、コンプレッサーなどの補器を用いない自然吸気として評価を行った。
図30にその結果を示す。比較例2の構成においては約60分後に電圧の降下が起こった。また、定電流測定90分後の両セルのセル内残存水重量を比較すると、実施例1が0.1265gであったのに対して、比較例2は0.209gであった。
以上の結果から、比較例2の構成では、生成水の排水機能が低く、フラッディングによる電圧の降下を招いたと推測される。これは、吸水層の端部がセル内にあることにより、吸水層が吸収した生成水が蒸散せず、酸素供給層内に溜まってしまうため、酸素供給層が生成水で閉塞してしまうことが原因だと考えられる。この結果より、酸素供給層と集電体の間に吸水層を形成しても、吸水層の端部がセル内部にある場合には十分な排水効果を発揮しないことが示された。
[比較例3]
図31は比較例3の燃料電池セルにおける吸水層の配置の説明図である。本比較例は、吸水層の端部が開口部を含む平面を基準として燃料電池セルと反対側に存在するものの、吸水層が酸素供給層と酸素極側拡散層との間に配置されている構成の例である。つまり、図23に示す第3比較形態の燃料電池セル120Sと同様の構成の例である。工程4以外の工程は実施例1と同様であるので、工程4のみ説明する。
(工程4)
(工程1〜3、工程5は実施例1と同様)
酸素供給層2として、長さ28mm、幅10mm、厚み2mmの発泡金属を用いた。酸素供給層2の酸素極側拡散層3側の表面に、酸素供給層2の幅と平行な方向に長さ10mm、幅2.5mm、深さ500μmの溝を等間隔に4本形成する。その溝に長さ2cm、幅2.5mm、厚さ500μmにカットした吸水層を設置し、吸水層の端部が開口部を含む平面を基準として燃料電池セルと反対側に存在するようセルから左右5mmずつはみ出させて設置した。なお、エンドプレートとしては、長さ37mm幅10mmのものを用い、これをセルの長さおよび幅とした。図31の(a)〜(c)に得られた吸水層11および酸素供給層2を示す。(a)は、吸水層11および酸素供給層2を、開口部を含む平面と平行な面で切断した際の断面図、(b)は、吸水層11および酸素供給層2を集電体側からプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。(c)は吸水層11および酸素供給層2を酸素極側拡散層側からプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。
以上のようにして作製した比較例3の燃料電池セルと、実施例1の燃料電池セルとの性能を比較して、耐フラッディング特性を評価した。評価方法としては、400mA/cm2における定電流測定を行い、その電圧変動により評価した。また、I−V特性を比較することにより、両者の電池特性も比較した。測定条件は25度C、湿度50%の無風状態の恒温恒湿槽にセルを置き、コンプレッサーなどの補器を用いない自然吸気として評価を行った。
図32に実施例1及び比較例3のI−V曲線を示す。両者を比較すると、低電流領域ではほぼ同様の特性を示すが、500mA/cm2以上の高電流領域では差が見られ、限界電流においても差異が観測された。これは、比較例3の燃料電池セルでは、空気の拡散性が低い吸水層が酸素供給層と酸素極側拡散層との間に広い領域で存在しているため、触媒層への空気の供給量が少なく、特に高電流領域での性能低下を招いたことが原因だと考えられる。
次に、実施例1及び比較例3の耐フラッディング特性を比較した定電流測定時の電圧の変動を図33に示す。吸水層を酸素供給層と酸素極側拡散層との間に配置させた構成のセルである比較例3においては、短時間での電圧の降下が観測された。しかしながら、定電流測定90分後の両セルのセル内残存水重量を比較すると、実施例1のセルが0.1265gであったのに対して、比較例3のセルは0.129gであり、比較例3の構成でも実施例1と同等の高い排水能力を有していることがわかる。
このように排水能力が高いにもかかわらず、電圧の降下が観測された要因としては、吸水層が酸素供給層と酸素極側拡散層との間に広い領域で配置されているために酸素供給層内の生成水を酸素極側拡散層へと引き込んでしまうためと考えられる。酸素供給層内の水は効率的に排水できるものの、酸素極側拡散層の水没を招き、結果として酸素供給層ではなく、酸素極側拡散層のフラッディングによる電圧の降下が観測されたものと考えられる。
この結果より、燃料電池セルに配置した際に、プロトン伝導方向と垂直な面で切断した面の面積が大きい吸水層は、酸素供給層と集電体との間に形成する必要があることがわかった。
次に、集電体の端部が開口部を含む平面を基準として燃料電池セルとは反対側に存在し、吸水層と集電体とがセル外で接触している構成の実施例について説明する。すなわち、集電体の端部が開口部を含む平面を基準としてセルとは反対側に存在し、前記集電体のうち前記開口部を含む平面を基準として前記燃料電池セルとは反対側に存在する領域の少なくとも一部が吸水層と接している形態の燃料電池セルである。
以下、集電体の端部が開口部を含む平面を基準として燃料電池セルとは反対側に存在することを、セルから集電体がはみ出していると呼び、集電体のうち前記開口部を含む平面を基準として前記燃料電池セルとは反対側に存在する部分をセルからはみ出した部分と呼ぶことがある。
[実施例4]
図34は実施例4の燃料電池セルにおける吸水層と集電体との配置の説明図である。本実施例は、第7実施形態の燃料電池セルの構成を採用している。本実施例では集電体がくし型形状をなしており、くしの部分が開口部を含む平面を基準としてセルとは反対側に存在し、開口部を基準としてセルとは反対側に存在する部分すなわちくし部分で吸水層と接触している。なお、くしの幅及び長さは吸水層のうち開口部を基準としてセルとは反対側に存在する部分と同サイズであり、セル外の吸水層と接触している部分の集電体のみがセル外へはみ出している。集電体がくし型形状になっており、端部がセル外にあり、吸水層とセル外で接触している以外は実施例1と同様である。なお、セルから集電体がはみ出した長さは左右2mmづつとした。
[実施例5]
図35は実施例5の燃料電池セルにおける吸水層と集電体の配置の説明図である。本実施例は、第6実施形態の燃料電池セル60Sの構成を採用している。集電体の端部が直線形状であり、かつ直線形状である端部が開口部を含む平面を基準としてセルとは反対側に存在し、集電体のうち開口部を基準としてセルとは反対側に存在する部分が吸水層と接触している場合の実施例である。なお、集電体全体がセル外へとはみ出し、吸水層と集電体がセル外でも接触している以外は実施例1と同様である。なお、セルから集電体がはみ出した長さは左右1mmづつとした。
実施例4の吸水層11および集電体1bを図34の(a)〜(c)に示す。図34の(a)はプロトン伝導方向と垂直な面で切断した際の集電体の断面図、(b)は吸水層11および集電体1bに酸素供給層側からプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。(c)は集電体を基準として吸水層11とは反対側から吸水層11および集電体1bにプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図、(d)は開口部を含む平面と垂直な面で吸水層11および集電体1bを切断した際の断面図である。
また、実施例5の吸水層11および集電体1aを図35の(a)〜(c)に示す。図35の(a)はプロトン伝導方向と垂直な面で集電体1aを切断した際の断面図、(b)は酸素供給層側から吸水層11および集電体1aにプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図である。(c)は集電体を基準として吸水層11とは反対側から吸水層11および集電体1aにプロトン伝導方向と平行な方向で光を照射した際の投影図、(d)は開口部を含む平面と垂直な面で吸水層11および集電体1aを切断した際の断面図である。
図34、35に示す通り、実施例4及び実施例5の集電体の幅はセルの幅よりも大きく、セル外へとはみだしており、セル内のみならずセル外でも吸水層11と集電体1aとを接触させている。
このとき、図34の(d)、図35の(d)に示すように、吸水層11の端部を集電体1a、1bのはみ出した部分に巻きつけるように配置すると、同じはみ出し量で約二倍の面積の吸水層11をセル外に配置することができ、スペース効率がよくなる。
さらに、図35の(a)に示すように、実施例5の集電体1a全体がはみ出した形状の場合は、実施例1〜4のように帯状ではなく、集電体11のセル外にはみ出した部分全体に吸水層11をはしごのような形状で配置できるので、さらにスペース効率がよくなる。
集電体をセルからはみ出させて、吸水層と集電体とをセル外でも接触させる場合、上記のようにスペース効率がよくなるのみならず、発電時の熱を吸水層に供給することができるという利点がある。つまり、セル外の吸水層の吸水材料にセル内から熱を供給することにより、蒸散性が向上し、特に蒸散性が悪くなる高湿度雰囲気下での特性向上が見込まれる。
この時、吸水層と集電体のはみ出した部分を熱伝導性両面テープで固定することにより、より効率よく熱を供給することができ、好適である。上記効果を確認するために、25度C、相対湿度90%の恒温恒湿槽に、実施例1、実施例4、実施例5、および比較例1のセルを置き、コンプレッサーなどの補器を用いない自然吸気で400mA/cm2での定電流測定を行い、高湿度雰囲気下での耐フラッディング評価を行った。その結果を図36に示す。
比較例1の吸水層を有さない燃料電池セルがフラッディングにより電圧が大きく低下したのに対し、実施例1、4、5のセルは大きな電圧降下が見られず、高い耐フラッディング特性を示した。また、測定前後のセル重量変化からセル内残存水量を比較すると、比較例1が0.234gであったのに対し、実施例1は0.237gという値になった。また、実施例1では初期電圧が0.635Vであったのに対し、測定終了時は0.573Vとなり、0.116V、18.3%の電圧降下が確認された。
これに対して、実施例4及び5のセル内残存水分量は各々0.148gと0.144gとである。そして、実施例4では初期電圧が0.648Vであったのに対し、測定終了時は0.608Vであり、電圧降下は0.04V、6.2%に抑えることができた。実施例5は、初期電圧が0.621Vであったのに対し、測定終了時は0.561Vであり、電圧降下は0.06V、9.7%に抑えることができた。
これらの結果より、25度C、相対湿度90%という高湿度雰囲気下では、実施例1のような構成のセルでも効果はあるものの、実施例4や5のようなより排水能力が高い吸水層を形成することがより好ましいと言える。これは、高湿度雰囲気下では吸水層の蒸散性が悪くなるため、実施例4や5のように、集電体がセル外へとはみ出し、はみ出した部分でも吸水層と集電体とを接触させることにより、発電により生じる熱を利用して吸水層中の水の蒸散を促進することができるためである。
なお、実施例4の方が実施例5よりも高い電圧を示しているが、これは集電体1bがくし型形状になっていることによる効果だと考えられる。実施例5のように、集電体1aの全体がはみ出している場合は集電体1aの縁がひさしのような役割をしてしまい、ガスの拡散が阻害され、特性が低下する場合がある。
これに対して、実施例4の場合は、集電体1bがくし型になっているため、はみ出し部とはみ出し部との間(くし部分とくし部分との間)から酸素の供給がなされ、ガスの拡散阻害を極力抑えることが可能となる。
ただし、実施例5の場合は、集電体1aの全体がはみ出していることにより、はみ出し量が少なくてもセル外に吸水層11を配置する面積を大きく確保できる。
つまり、同じ量の吸水層を配置するためのはみ出し量が実施例4よりも少なくてすむ。実際、同様の排水能力を有する実施例4及び5であるが、集電体のはみ出し量は実施例4より実施例5の方が少なく、よりコンパクトなセルが可能になる。つまり、より特性を重視するアプリケーションでは実施例4の構成の燃料電池セルを、よりセルサイズを重視するアプリケーションでは実施例5の構成の燃料電池セルを適宜選択できる。