JP5268282B2 - 個体内部の組織学的イメージ像を観察・取得する方法 - Google Patents
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Description
また、蛍光タンパク(GFP、YFP、CFP等)の開発により、これまで目に見えなかった生物の現象を目に見えるようにし、生物学に革命的な変化をもたらしてきている。
例えば、蛍光タンパクであるGFPは腫瘍細胞の動き、浸潤、転移や血管新生などのような生きた動物体内での癌の重要な側面を目で見ることを可能にし、また、多重蛍光タンパクは、in vivoで成育する癌細胞の色彩による識別を可能にしてきている(非特許文献1)。
共焦点レーザー顕微鏡は、従来の蛍光顕微鏡では観察できなかった生体組織や細胞の三次元的な構造を解析するための装置であり、光源には一般の蛍光顕微鏡で用いられている水銀光源ではなく、光を集光可能なレーザー光源を用いることで試料をスキャンニングしながら蛍光の画像を取り込むものである。
この共焦点レーザー顕微鏡では、焦点面のみの画像が得られるため、厚みのある組織などを光学的にセクションを行うことができ、最終的にコンピューター上で三次元立体構築画像を得ることができるものとなっている。
しかしながら、得られるイメージ像は、コンピューター上で三次元に立体構築された画像であることから、リアルタイムでの組織学的イメージ像を観察・取得することはできない。
すなわち、動物等の個体にあっては、その腹部内部の臓器は動物の呼吸や大動脈の拍動によって絶えず上下左右に振動(20〜50μm/分)しており、個体が生きたままの状態で、生体内部の組織学的なイメージ像をリアルタイムで獲得することは困難なものであった。また、これら組織の振動のために、取得した画像には縞状の波が現れ、細胞の像が撮影できない問題点があった。
Nature Review (Cancer)、Volume 5/October 2005, 796-806
被観察組織の表面に中空部を有する薄板を載置・固定し、
被観察組織の表面に載置・固定した該薄板をさらに外部固定手段により固定し、
それにより被観察組織の振動を除去する、
ことを特徴とする前記個体(生体)内部の組織学的イメージ像を観察・取得する方法である。
かかる薄板の中空部に生理的に許容される液体を充填させ、充填部分をカバーグラスにより被覆することにより、より鮮明に、生体自体の自発振動の影響を受けずに2光子レーザー顕微鏡により生体内部の組織学的イメージ像を観察・取得することが可能となる。
すなわち、
(1)前記中空部を有する薄板が、金属製の薄板又は硬質プラスチック製の薄板であることを特徴とする薄板;
(2)前記中空部を有する薄板が、リング状又は多角形状の薄板であることを特徴とする薄板;
(3)前記中空部を有する薄板が、厚さ0.5〜2mm厚を有し、内径4〜30mm/外径10〜60mmであることを特徴とする薄板;
(4)前記リング状の中空部を有する薄板が、円盤状又多角形状のものである薄板;
である。
また、かかる血栓の溶解に対する治療薬の効果をビジュアルに観察することが可能となり、より効果的かつ効率的な脳血栓症治療薬の開発を行える利点を有する。
また、白血球等免疫担当細胞の働きをリアルタイムで経時的、かつビジュアルに観察することが可能となり、癌治療薬や感染症、免疫疾患治療薬など、より効果的な各種疾患の治療薬の開発を行える利点を有する。
すなわち、被観察組織の表面に接着、固定した薄板は、接着面に極少量(例えば、0.01mL程度)の接着剤除去液を塗布することにより、また、吸引接着の場合は、さらに簡単に陰圧を解除するだけで、組織表面から取り除くことができ、したがって、一度観察した組織は、ほとんど無傷で個体に戻すことが可能であり、その後皮膚を縫合すれば、個体も観察後2時間程度で自力歩行、飲食可能となる。この結果、同一個体の同一組織、場合によっては、同一の細胞を、数日から数週間にわたって、経時的に観察できる利点を有している。この点は、動物取り扱いの規定からみて、極めて重要なことといえる。
かかる方法は、具体的には、
被観察組織の表面に中空部を有する薄板を載置・固定し、
被観察組織の表面に載置・固定した該薄板をさらに外部固定手段により固定し、
それにより被観察組織の振動を除去する、
ことにより、前記生体内部の組織学的イメージ像を観察・取得する方法である。
図1に、共焦点レーザー顕微鏡と2光子レーザー顕微鏡の原理の比較を示した。
なお、この原理の比較の出典は、Denk W.ら、Neuron, 18(1997), 351-357による。
図中左に共焦点レーザー顕微鏡の原理を、右に2光子レーザー顕微鏡の原理を示した。本発明で使用する2光子レーザー顕微鏡は、要するに励起した2つの光子を同時に同じ蛍光分子に当て、フェムトセカンド(フェムト秒)レーザー10−15秒の中に波長同期した光子を発生させ観察する技術であり、使用するレーザーが、波長900nm付近の赤外線(インフラレッドレーザー、IRレーザー)であるために組織の深部に到達しやすい性質があることから、生体組織のような厚みがあり、光散乱の大きい生体組織の内部において、高解像度の断層像を取得できる利点を有しており、またリアルタイムでの組織学的イメージ像を観察・取得することが可能となる。
例えば、腹腔内組織においては0.2〜0.5mm程度の上下振動があり、心臓や肺組織の近くでは1mm程度の上下振動が認められる。したがって、観察用と励起用の2本のレーザーを波長同期させて照射し、同時に蛍光分子に当たるに際してその上下動のため、得られた画像には縞状の波が現れ、細胞の像の撮影は困難なものであった。
すなわち、図中1は被観察個体としての例えば、GFPトランスジェニックマウスであり、その腹部を切開し、切開した腹腔内の被観察組織(臓器)の表面に、中空部を有する薄板2を載置・固定し、該薄板を例えば、外部固定手段、例えば、ステージ上に固定されたマウス固定器の金属アーム3で固定し、2光子レーザー顕微鏡により生体内部の組織学的イメージ像を観察・取得する。
本実施例にあって、被観察組織(臓器)の表面に、載置・固定する中空部を有する薄板2としては、金属製のリングであるが、かかる薄板としては、金属製の薄板に加え、硬質プラスチック製の薄板等をあげることができる。
かかる薄板2は、2光子レーザー顕微鏡により生体内部の組織学的観察を可能にするように、中空部を有するものであり、その厚さとしては0.5〜2mm厚程度であり、その大きさとして内径4〜30mm/外径10〜60mmであるのが好ましく、被観察組織(臓器)の大きさにより種々変更させることができる。
なお、その厚み、内径/外径の大きさは、上記の範囲に限定されないことはいうまでもない。
かくすることにより、2光子レーザーの透過がより安定し、より鮮明なイメージ画像を取得することができる。かかる生理的に許容される液体としては、簡便には生理食塩水を使用することができる。
GFPトランスジェニックマウスに麻酔をかけ、頭蓋骨に穴を開ける。
頭蓋骨の開切部に、本発明の薄板である中空部を有する金属リングを接着剤にて載置・固定し、中空部に生理食塩水を充填させ、カバーグラスにより被覆した後、2光子レーザー顕微鏡により正常脳血管像を観察した。
かかる方法により得られた正常脳血管像の写真を図3として示した。
図3に示した写真から判明するように、本発明方法により極めて鮮明な脳血管の組織画像を取得することができていることが理解される。
なお、このLPSは微生物(グラム陰性菌体)の外膜成分であり、リピドA、コア多糖体、O−多糖体から構成されるものであり、血管の内皮細胞を傷害するものである。
LPS投与後1日後に脳血管に形成された血栓の、本発明の方法による2光子レーザー顕微鏡による観察画像を図4として示した。
図中において、血管壁に形成された血栓20及び白血球30が鮮明に映し出されていることが判明する。
かくして形成された血栓を、例えば血栓溶解剤であるt−PAを投与することにより血栓が溶解している様子を本発明の方法によりリアルタイムで観察することができた。
また、血栓溶解剤を投与しない場合であっても、白血球30により形成された血栓20が崩壊していく様子をリアルタイムに観察することができた。
かかる様子を観察した画像を図5として示した。
その画像は、特に、生体個体の自発振動の影響を受けることなく生体における組織学的に厚みのある組織の高解像度の断層像を取得することを可能にし、これら組織における病体を、鮮明なイメージ像として観察・取得できることから、疾患の治療の進行を確実に把握することも可能となる。
実験例2:
本発明方法と、本発明方法によらないGFPトランスジェニックマウスの腹腔内組織における細胞像の比較写真を、図6及び図7に示した。
図6は、本発明の方法によらない2光子レーザー顕微鏡による観察画像であるが、組織の振動のため、図中矢印で示すように、画像に縞状の波が現れ、鮮明な像の撮影ができない状態であった。
これに対して、本発明方法による2光子レーザー顕微鏡による観察画像を図8として示したが、組織の振動がなくなるため、図中矢印で示すように、鮮明な細胞の像画が獲得できていることが理解される。
(1)多重蛍光標識個体における細胞同定と再生医療への本発明技術の有用性
多重に蛍光標識された動物個体では、たとえば、RFPが全身の細胞に発現され、GFPが特定の神経幹細胞にのみ発現されているマウスを用いれば、片方の蛍光(RFP)による細胞イメージを位置同定の基準にして、もう一方の蛍光(GFP)で標識された特定の神経幹細胞が、どこに移動し、どのような細胞に分化したかを検証することができることとなる。
このような二重蛍光標識動物と本発明の技法による細胞同定技術は、特に再生医療において、必須の技術になると考えられる。
本発明技法と微細ガラス管マイクロマニピュレーションを組み合わせると、2光子レーザー顕微鏡のリアルタイムイメージングによって、微細ガラス管先端の位置を描出し、画像を見ながらガラス管先端を目的の細胞に刺入して、特定の遺伝子や蛋白質を微量注入したり、逆に、目的の細胞からmRNAを回収したり、電気生理学的解析を行うことが可能である。
また、将来、マイクロナノロッボットマシーンを用いた治療においては、このマシーン操作のモニター用として、本技法が有用である。
かかる本発明により、個体(生体)が生きたままの状態でその生命現象を同一個体で経時的に観察できることとなり、その結果、医学分野においては、病気の発生、進展及び治癒の過程を細胞レベルでリアルタイムでの観察が可能となる利点を有している。
2 中空部を有する薄板
3 外部固定手段(金属アーム)
20 血栓
30 白血球
Claims (8)
- 被観察個体自体の自発振動の影響を受けずに2光子レーザー顕微鏡により個体内部の組織学的イメージ像を観察・取得する方法であって、
被観察組織の表面に中空部を有する薄板を載置・固定し、
薄板の中空部に生理的に許容される液体を充填させ、充填部分をカバーグラスにより被覆し、
被観察組織の表面に載置・固定した該薄板をさらに外部固定手段により固定し、
それにより被観察組織の振動を除去する、
ことを特徴とする前記個体内部の組織学的イメージ像を観察・取得する方法。 - 個体内部の組織学的イメージ像が、個体内部組織の蛍光断層像である請求項1に記載の方法。
- 前記中空部を有する薄板が、金属製の薄板又は硬質プラスチック製の薄板であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記中空部を有する薄板が、リング状又は多角形リング状の薄板であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
- 前記中空部を有する薄板が、厚さ0.5〜2mm厚を有し、内径4〜30mm/外径10〜60mmであることを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
- 被観察組織の表面に対する中空部を有する薄板の載置・固定手段を、接着剤により行うものである請求項1に記載の方法。
- 被観察組織の表面に対する中空部を有する薄板の載置・固定手段を、薄板に設けた吸引孔を利用した吸引接着により行うものである請求項1に記載の方法。
- 生理的に許容される液体が、生理食塩水である請求項1に記載の方法。
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