JP5267633B2 - 高周波結合器 - Google Patents

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Description

本発明は、情報機器間で大容量のデータ通信を行なう通信システムに係り、特に、情報機器間で静電界(準静電界)若しくは誘導電界を利用して他の通信システムとの干渉のないデータ通信を行なう通信システムに関する。
さらに詳しくは、本発明は、高周波信号を電界結合により大容量伝送を実現する通信システムに係り、特に、電界結合する送受信機の電極間の距離を拡張して、送受信機間の配置や通信装置のデザインを柔軟にする通信システムに関する。
最近、画像や音楽などのデータをパソコンとの間で交換するなど、小型の情報機器間でデータを移動する際、AV(Audio Visual)ケーブルやUSB(Universal Serial Bus)ケーブルなどの汎用ケーブルで相互接続したデータ通信やメモリカードなどのメディアを媒介にする方法に代わって、無線インターフェースを利用することが増えてきている。後者によれば、データ伝送の度にコネクタの付け替え作業をしてケーブルを引き回す必要がなく、ユーザの利便性が高い。各種のケーブルレス通信機能を搭載した情報機器も多く出現している。
小型機器間でケーブルレスによりデータ伝送を行なう方法として、IEEE802.11に代表される無線LAN(Local Area Network)やBluetooth(登録商標)通信を始めとして、アンテナを用いて無線信号の送受信を行なう電波通信方式が開発されている。例えば、グリップ部を把持した手による覆いを免れた位置に内蔵アンテナが内蔵され、内蔵アンテナが手で覆われることがなく正しい画像データが受信されるため、装置内部に無線通信用のアンテナを配備したとしても、アンテナが本来持つ特性がそのまま発揮される可搬型画像記録装置について提案がなされている(例えば、特許文献1を参照のこと)。
従来の無線通信システムの多くは電波通信方式を採用したものであり、空中線(アンテナ)に電流を流した際に発生する放射電界を利用して信号を伝搬させるものである。この場合、送信機側からは通信相手がいるかどうかに拘わらず電波を放出するので、近隣の通信システムに対する妨害電波の発生源になってしまうという問題がある。また、受信機側のアンテナは、送信機からの所望波だけでなく、遠方から到来した電波も受信するので、周囲の妨害電波の影響を受け易く、受信感度低下の原因になる。また、通信相手が複数存在する場合には、その中から所望の通信相手を選択するために複雑な設定を行なう必要がある。例えば、狭い範囲で複数の組の無線機が無線通信を行なう場合は、互いの干渉を回避するために、周波数選択などの分割多重を行なって通信を行なう必要がある。また、電波は偏波の向きが直交すると通信することができないため、送受信機間では互いのアンテナの偏波方向が揃っている必要がある。
例えば、数ミリ〜数センチメートルといった至近距離での非接触データ通信システムを考えた場合、近距離では送受信機が強く結合する一方、他のシステムへの干渉を回避するために遠距離まで信号が到来しないことが好ましい。また、データ通信する機器同士を至近距離に接近させた際の互いの姿勢(向き)に依存せず、結合すること、すなわち指向性がないことが望ましい。また、大容量データ通信を行なうには、広帯域通信が可能であることが望ましい。
無線通信には、上記の放射電界を利用した電波通信以外にも、静電界や誘導電界などを利用した通信方式が挙げられる。例えば、主にRFID(Radio Frequency IDentification)に利用されている既存の非接触通信システムでは、電界結合方式や電磁誘導方式が適用されている。静電界や誘導電界は発生源からの距離に対し、それぞれ距離の3乗並びに2乗に反比例する。したがって、この種の非接触通信システムは、伝送信号は距離に応じて急峻に減衰するので、通信相手が近くに存在しないときには結合関係が生じないので、他の通信システムを妨害することはない。また、遠方から電波が到来してきても、結合器(カプラ)が電波を受信しないので、他の通信システムからの干渉を受けなくて済む。
例えば、複数の通信補助体間にRFIDタグが位置するように配置した通信補助体組を形成し、通信補助体間に挟むように複数の商品に付けられたRFIDタグを配置することにより、RFIDタグが重なり合った状態であっても、情報の安定した読み取り・書き込みが可能となるRFIDタグ・システムについて提案がなされている(例えば、特許文献2を参照のこと)。
また、装置本体とこの装置本体を身体に装着するための装着手段とを備えるとともに、アンテナ・コイルとこのアンテナ・コイルを介して外部の通信装置と非接触でデータ通信を行うデータ通信手段を備え、装置本体の上部に設けられたアウターケースにアンテナ・コイルとデータ通信手段とを配置して、誘導磁界を用いたデータ通信装置について提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。
また、携帯情報機器に挿入されるメモリカードに外部機器とデータ通信を行なうためのアンテナ・コイルを搭載し、携帯情報機器のメモリカード挿入口の外側にRFIDのアンテナ・コイルが配置される構造として、携帯性を損なうことなく通信距離を確保したRFIDを有する携帯電話機について提案がなされている(例えば、特許文献4を参照のこと)。
静電界や誘導電界を利用した従来のRFIDシステムは、低周波数信号を用いているため通信速度が遅く、大量のデータ伝送には不向きであった。これに対し、本発明者らは、高周波信号を電界結合で伝送することによって、大容量伝送が可能であると考えている。
しかしながら、放射電界の電界強度が距離に反比例して緩やかに減衰するのに対し、誘導電界や静電界の電界強度はそれぞれ距離の2乗並びに3乗に反比例して急峻に減衰する、すなわち通信距離による信号の減衰が大きい。また、波長に対する伝搬距離の大きさに応じて伝搬損が生じることから、電界結合により高周波信号を伝搬する際には、電極間距離に応じた伝搬損の問題が顕著となる。このため、送信機と受信機の結合用電極間をできる限り密着させる必要がある。結合用電極同士を十分近づけるには、電極間で微妙な位置合わせを行なう必要があり、データ通信中はその位置を保持しなければならず、ユーザの使い勝手がよくない。また、長い距離では、送受信機間で直接通信を行なうことができない。
また、結合用電極を通信装置の筐体内に実装する際、データ通信時の電極間距離を小さくするには電極をできるだけ筐体の外側に配置する必要があり、筐体設計においてレイアウトの自由度が制限されてしまう。勿論、結合用電極は、小型で低コストであることが望ましい。
特開2006−106612号公報 特開2006−60283号公報 特開2004−214879号公報 特開2005−18671号公報
本発明の目的は、情報機器間で静電界若しくは誘導電界を利用して他の通信システムとの干渉のないデータ通信を行なうことができる、優れた通信システムを提供することにある。
本発明のさらなる目的は、高周波信号を静電界若しくは誘導電界を利用した通信方式によって大容量データ伝送を実現することができる、優れた通信システムを提供することにある。
本発明のさらなる目的は、送受信機の結合用電極間の距離を拡張して、送受信機間の配置や通信装置のデザインを柔軟にすることができる、優れた通信システムを提供することにある。
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、データを伝送する高周波信号を生成する送信回路部と、該高周波信号を静電界として送出する高周波結合器を備えた送信機と、
高周波結合器と、該高周波結合器で受信した高周波信号を受信処理する受信回路部を備えた受信機と、
前記送信機側の高周波結合器から放射される表面波を低い伝搬損で伝送する表面波伝送線路を提供する表面波伝搬手段と、
を具備することを特徴とする通信システムである。
但し、ここで言う「システム」とは、複数の装置(又は特定の機能を実現する機能モジュール)が論理的に集合した物のことを言い、各装置や機能モジュールが単一の筐体内にあるか否かは特に問わない(以下、同様)。
画像や音楽などのデータをパソコンとの間で交換するなど、小型の情報機器間でのデータ転送をケーブルレスで行なえると、ユーザの利便性が高まる。しかしながら、無線LANに代表される多くの無線通信システムでは、アンテナに電流を流した際に発生する放射電界を利用するので、通信相手がいるかどうかに関わらず電波が放出されてしまう。また、放射電界はアンテナからの距離に反比例して緩やかに減衰するので、比較的遠方まで信号が到達してしまう。このため、近隣の通信システムに対する妨害電波の発生源になるとともに、受信機側のアンテナも周囲の妨害電波の影響で受信感度が低下する。要するに、電波通信方式では、至近距離の通信相手に制限した無線通信を実現することは困難である。
一方、静電界や誘導電界を利用した通信システムでは、通信相手が近くに存在しないときには、結合関係が生じない。また、誘導電界や静電界の電界強度はそれぞれ距離の2乗並びに3乗に反比例して急峻に減衰する。すなわち、不要な電界が発生せず、且つ、電界が遠くまで到達しないので、他の通信システムを妨害することはない。また、遠方から電波が到来してきても、結合用電極は電波を受信しないので、他の通信システムからの干渉を受けなくて済む。
また、静電界や誘導電界を利用した従来の非接触通信システムでは低周波信号を用いるため大量のデータ伝送には不向きであったが、本発明者らは、高周波信号を用いることで、この種の非接触通信システムにおいても大容量データ伝送が可能であると考えている。
ところが、誘導電界や静電界の電界強度はそれぞれ距離の2乗並びに3乗に反比例して急峻に減衰し、さらに高周波信号を用いると短波長であることから伝搬損が大きいという問題がある。このため、送信機と受信機の結合用電極間をできる限り密着させる必要があり、長い距離での通信を行なうことができない。また、結合用電極同士を十分に近接させるためには、電極間で微妙な位置合わせを行なう必要があり、且つ、データ通信中はその位置を保持しなければならないことから、ユーザの使い勝手がよくない。
そこで、本発明に係る通信システムは、高周波信号を電界結合により伝送する通信方式を採用するものであるが、送信機側の結合用電極から放射される表面波を表面波伝搬手段が伝達することによって、送受信機の電極同士を十分接近させたり、微妙な位置合わせを行なったりすることなく、データ伝送が可能となるように構成されている。
表面波伝搬手段は、例えば、誘電体や磁性体からなる線状の部材からなる表面波伝送線路で構成され、送信機側の結合用電極から放射される電磁波のうち縦波の進行方向に沿って配設されている。このような表面波伝送線路は、表面波を伝送線路の内部及び表面を通じて効率的に伝搬するので、表面波伝送線路を配置しない自由空間上で表面波を伝搬する場合に比べると、送受信機の結合器間に表面波伝送線路が介在することにより伝搬損が低減することができる。また、非接触伝送を行なう際に、ユーザは送受信機同士で互いの結合用電極間を直接密着させる必要はなくなる。
表面波伝送線路は、例えば、空気の誘電率ε0よりも大きな誘電率εを持つ誘電体で構成されている。このような場合、誘電体の表面波は境界面に平行に進むとともに、境界面では完全反射が起こる。したがって、誘電体内部に表面波を適当な角度で入射させると、2つの境界で反射を繰り返し表面波が、ロスすることなく効率的に伝搬される。
前記表面波伝送線路は、誘電率の高い誘電体の表面を、さらに誘電率の低い別の誘電体の層で覆うといった具合に、内側ほどより大きな誘電率を持つ誘電体で構成するようにしてもよい。このような場合、表面波伝送線路を伝搬する途上において表面波が透過波として外部に放射される割合を抑え、より効率的に信号を伝達することができる。例えば、前記表面波伝送線路をさらに誘電率の低い別の誘電体からなるラックの中に埋設するようにしてもよい。
あるいは、表面波伝送線路を、例えば、空気の透磁率μ0よりも大きな透磁率μを持つ磁性体で構成することができる。このような場合、磁性体の表面波は境界面に平行に進むとともに、境界面では完全反射が起こる。したがって、磁性体内部に表面波を適当な角度で入射させると、2つの境界で反射を繰り返し表面波が、ロスすることなく効率的に伝搬される。
前記表面波伝送線路は、透磁率の高い磁性体の表面を、さらに透磁率の低い別の磁性体の層で覆うといった具合に、内側ほどより大きな透磁率を持つ誘電体で構成することにより、表面波伝送線路を伝搬する途上において表面波が透過波として外部に放射される割合を抑え、より効率的に信号を伝達することができる。例えば、前記表面波伝送線路をさらに透磁率の低い別の磁性体からなるラックの中に埋設するようにしてもよい。
また、表面波伝送線路は、1つの誘電体(若しくは磁性体)ではなく途中で切り離された複数の誘電体(若しくは磁性体)で構成することもできる。すなわち、表面波伝送線路の途中を電気的に切り離して非接触の状態で用いることができるので、機器間や機器と部材間が物理的な接点を持たない非接触通信として適用することができる。このような場合、切り離された誘電体(若しくは磁性体)同士は接触していなくてもよいが、損失を小さく抑えるためには誘電体(若しくは磁性体)の間隔は小さく、信号が伝達する面同士が対向して向き合うような位置に置かれることが望ましい。
また、通信機内の主要基板上に送受信回路部と結合用電極が搭載された筐体内のレイアウトでは、筐体内奥深くに収容された電極の前に何も置かれていない場合には、電極から放射された信号は筐体内の空気中で分散し、失われてしまう。これに対し、結合用電極の正面に表面波伝送線路となる誘電体又は磁性体を設置して、結合用電極から放射した電磁界信号を表面波伝送線路によって筐体の表面まで誘導することで、効率的な信号の伝達が可能となる。
ここで、前記送信機は、前記送信回路部が生成する高周波信号を伝送する高周波信号伝送路を、所定の周波数で共振する共振部を介して前記高周波結合器の電極のほぼ中央に接続している。また、前記受信機は、前記高周波結合器の電極のほぼ中央において、所定の周波数で共振する共振部を介して、前記受信回路部へ高周波信号を伝送する高周波信号伝送路を接続している。
前記共振部は、集中定数回路で構成することができる。具体的には、前記共振部は、前記高周波伝送線路の信号線とグランド間に接続される並列インダクタと、前記高周波伝送線路の信号線と電極間に接続される直列インダクタで構成される。あるいは、前記共振部は、分布定数回路で構成することができる。具体的には、結合器を搭載するプリント基板上に使用波長に依存する長さを持つ導体パターン(「スタブ」とも呼ぶ)を形成して、これが共振部として作用する。
本発明によれば、情報機器間で静電界若しくは誘導電界を利用して他の通信システムとの干渉のないデータ通信を行なうことができる、優れた通信システムを提供することができる。
また、本発明によれば、高周波信号を静電界若しくは誘導電界を利用した通信方式によって大容量データ伝送を実現することができる、優れた通信システムを提供することができる。
また、本発明によれば、送受信機の結合用電極間の距離を拡張して、送受信機間の配置や通信装置のデザインを柔軟にすることができる、優れた通信システムを提供することができる。
本発明に係る通信システムでは、送信機側の結合電極から放射される表面波を表面波伝搬手段が低い伝搬損で効率的に伝達することから、データ通信を行なう際にユーザは送受信機同士で互いの結合用電極間を直接密着させる必要はなくなり、長い距離でも電界結合によるデータ通信が可能である。
また、本発明に係る通信システムによれば、電界結合する電極同士を十分近づけるために電極間で微妙な位置合わせを行なう必要はなくなり、さらに通信装置の筐体内に電極を筐体の外側に配置する必要はなくなるので、筐体のレイアウト設計の自由度が増す。
本発明に係る通信システムによれば、送受信機の結合用電極と表面波伝搬手段が提供する表面波伝送線路の間や、表面波伝送線路の途中を切り離して非接触の状態で用いることができるので、機器間や機器と部材間が物理的な接点を持たない非接触通信として適用することができる。
また、本発明に係る通信装置では、結合電極から放射される表面波を表面波伝送線路によって、利用し易い位置まで誘導することができる。よって、結合電極を通信装置筐体の外側近くに配置する必要がなくなることから、部品の実装や筐体のレイアウト設計の自由度が増す。
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
図1は、誘電体からなる表面波伝送線路内を表面波が伝搬する様子を示した図である。 図2は、磁性体からなる表面波伝送線路内を表面波が伝搬する様子を示した図である。 図3は、本発明の一実施形態に係る通信システムの構成例を示した図である。 図4は、送信機10の表面波発信部分の構成例を示した図である。 図5は、容量装荷型アンテナの構成例を示した図である。 図6は、送信機10の表面波発信部分の他の構成例を示した図である。 図7は、板状に構成された表面波伝送線路の例を示した図である。 図8は、帯状に構成された表面波伝送線路の例を示した図である。 図9は、線状に構成された表面波伝送線路の例を示した図である。 図10は、錘状に構成された表面波伝送線路の例を示した図である。 図11は、表面波伝送線路として誘電率の高い誘電体の表面を、さらに誘電率の低い別の誘電体の層で覆うようにした構成例を示した図である。 図12は、中心からの距離rに応じて連続的に誘電率が変化する表面波伝送線路の構成例を示した図である。 図13は、表面波伝送線路として誘電率の高い誘電体を、さらに誘電率の低い別の誘電体の中に埋設した様子を示した図である。 図14は、表面波伝送線路が1つの誘電体(若しくは磁性体)ではなく途中で切り離された複数の誘電体(若しくは磁性体)で構成されている例を示した図である。 図15は、表面波伝送線路を用いた非接触通信機の構成例を示した図である。 図16は、伝搬方向と平行な向きに振動する電界成分(縦波成分)ERを示した図である。 図17Aは、誘電体としてPPS(ポリフェニレンスルフィド樹脂)、あるいは磁性体としてNiZnフェライト、磁石をそれぞれ表面波伝送線路に用いた場合の伝送線路の長さと伝搬損の関係を示した図である。 図17Bは、表面波伝送線路として使用した素材を図である。 図17Cは、伝搬損を説明するための図である。 図18Aは、高周波結合器の電極の中心に高周波伝送線路を接続したときに電極内を流れる電流の様子を示した図である。 図18Bは、高周波結合器の電極の中心からオフセットのある位置に高周波伝送線路を接続したときに、電極内に不均等な電流が流れて不要電波を放射する様子を示した図である。 図19は、静電界若しくは誘導電界を利用した非接触通信システムの構成例を示した図である。 図20は、送信機10及び受信機20のそれぞれに配置される高周波結合器の構成例を示した図である。 図21は、図20に示した高周波結合器を対向して配置し、全体としてバンドパス・フィルタが構成される様子を示した図である。 図22は、1組の高周波結合器からなるバンドパス・フィルタの等価回路を示した図である。 図23は、図20に示した高周波結合器単体としてインピーダンス変換回路として機能する場合の等価回路を示した図である。 図24は、アンテナ、結合器(並列インダクタがある場合)、結合器(並列インダクタがない場合)をそれぞれ向かい合わせに置き、距離を変えながら伝搬損を測定した結果を示した図である。 図25は、図20に示した高周波結合器の実際の構成例を示した図である。 図26は、微小ダイポールによる電磁界を結合用電極上にマッピングした様子を示した図である。 図27は、対向する2つの高周波結合器1及び2間に誘電体からなる表面波伝送線路を介在させて高周波信号の伝送を行なう様子を示した図である。 図28Aは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、zx面内の電界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図28Bは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、zx面内の電界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図28Cは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、zx面内の電界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図28Dは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、zx面内の電界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図28Eは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、zx面内の電界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図28Fは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、zx面内の電界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図29Aは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、xy面内の磁界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図29Bは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、xy面内の磁界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図29Cは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、xy面内の磁界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図29Dは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、xy面内の磁界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図29Eは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、xy面内の磁界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図29Fは、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、xy面内の磁界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示した図である。 図30は、誘電体からなる表面波伝送線路の周囲に発生する電界分布と磁界分布を模式的に表した図である。 図31Aは、高周波結合器の結合用電極の表面で発生した縦波の電界ERが誘電体からなる表面波伝送線路の端部において表面波として乗り移る様子を示した図である。 図31Bは、高周波結合器の結合用電極の表面で発生した縦波の電界ERが誘電体からなる表面波伝送線路の端部において表面波として乗り移る様子を示した図である。 図32は、図27に示した構成において、送受信機それぞれの結合用電極のサイズを変えたときの伝搬損S21を有限要素法によるシミュレーションで求めた結果を示した図である。 図33は、図27に示した構成において、表面波伝送線路の太さを変えたときの伝搬損S21を有限要素法によるシミュレーションで求めた結果を示した図である。 図34は、図27に示した構成において、表面波伝送線路の比誘電率と比透磁率を変えたときの伝搬損S21を有限要素法によるシミュレーションで求めた結果を示した図である。 図35は、図3に示した通信システムを電力伝送に応用したときの構成例を示した図である。 図36は、図3に示した通信システムを電力伝送に応用した他の構成例を示した図である。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
本発明は、静電界若しくは誘導電界を利用して情報機器間でデータ伝送を行なう通信システムに関する。静電界若しくは誘導電界に基づく通信方式によれば、通信相手が近くに存在しないときには結合関係がなく電波を放射しないので、他の通信システムを妨害することはない。また、遠方から電波が到来してきても、結合器が電波を受信しないので、他の通信システムからの干渉を受けなくて済む。
また、アンテナを用いた従来の電波通信では放射電界の電界強度が距離に反比例するのに対し、誘導電界では電界強度が距離の2乗に、静電界では電界強度が距離の3乗に反比例して減衰することから、電界結合に基づく通信方式によれば、近隣に存在する他の無線システムにとってノイズ・レベル程度となる微弱無線を構成することができ、無線局の免許を受ける必要はなくなる。
なお、時間的に変動する静電界のことを「準静電界」と呼ぶこともあるが、本明細書ではこれを含めて「静電界」に統一して称することにする。
従来の静電界若しくは誘導電界を利用した通信では、低周波信号を用いるため大量のデータ伝送には不向きである。これに対し、本発明に係る通信システムでは、高周波信号を電界結合で伝送することによって、大容量伝送が可能である。具体的には、UWB(Ultra Wide Band)通信のように高周波、広帯域を使用する通信方式を電界結合に適用することで、微弱無線であるとともに、大容量データ通信を実現することができる。
UWB通信は、3.1GHz〜10.6GHzという非常に広い周波数帯域を使用し、近距離ながら100Mbps程度の大容量の無線データ伝送を実現することができる。UWB通信は、本来、アンテナを用いた電波通信方式として開発された通信技術であり、例えば、IEEE802.15.3などにおいて、UWB通信のアクセス制御方式として、プリアンブルを含んだパケット構造のデータ伝送方式が考案されている。また、米インテル社は、UWBのアプリケーションとして、パソコン向けの汎用インターフェースとして普及しているUSBの無線版を検討している。
また、UWB通信は、3.1GHz〜10.6GHzという伝送帯域を占有しなくても100Mbpsを超えるデータ伝送が可能であることやRF回路の作り易さを考慮して、3.1〜4.9GHzのUWBローバンドを使った伝送システムも開発が盛んである。本発明者らは、UWBローバンドを利用したデータ伝送システムを、モバイル機器に搭載する有効な無線通信技術の1つと考えている。例えば、ストレージ・デバイスを含む超高速な近距離用のDAN(Device Area Network)など、近距離エリアにおける高速データ伝送を実現することが可能である。
本発明者らは、静電界若しくは誘導電界を利用したUWB通信システムによれば、微弱電界によるデータ通信が可能であるとともに、例えば動画像やCD1枚分の音楽データといった大容量のデータを高速且つ短時間で転送することができる、と考えている。
図19には、静電界若しくは誘導電界を利用した非接触通信システムの構成例を示している。図示の通信システムは、データ送信を行なう送信機10と、データ受信を行なう受信機20で構成される。
送信機10及び受信機20がそれぞれ持つ送受信用の電極13及び23は、例えば3cm程度離間して対向して配置され、電界結合が可能である。送信機側の送信回路部11は、上位アプリケーションから送信要求が生じると、送信データに基づいてUWB信号などの高周波送信信号を生成し、送信用電極13から受信用電極23へ信号が伝搬する。そして受信機20側の受信回路部21は、受信した高周波信号を復調及び復号処理して、再現したデータを上位アプリケーションへ渡す。
UWB通信のように高周波、広帯域を使用する通信方式によれば、近距離において100Mbps程度の超高速データ伝送を実現することができる。また、電波通信ではなく電界結合によりUWB通信を行なう場合、その電界強度は距離の3乗若しくは2乗に反比例することから、無線設備から3メートルの距離での電界強度(電波の強さ)が所定レベル以下に抑制することで無線局の免許が不要となる微弱無線とすることが可能であり、安価に通信システムを構成することができる。また、電界結合方式により超近距離でデータ通信を行なう場合、周辺に存在する反射物により信号の質が低下することはない、伝送路上でハッキングの防止や秘匿性の確保を考慮する必要がない、といった利点がある。
一方、波長に対する伝搬距離の大きさに応じて伝搬損が大きくなることから、電界結合により高周波信号を伝搬する際には、伝搬損を十分低く抑える必要がある。UWB信号のように高周波数の広帯域信号を電界結合で伝送する通信方式では、3cm程度の超近距離通信であっても、使用周波数帯4GHzにとっては約2分の1波長に相当するため、無視することはできない長さである。とりわけ、高周波回路では、低周波回路に比べると特性インピーダンスの問題はより深刻であり、送受信機の電極間の結合点においてインピーダンス不整合による影響は顕在化する。
kHzあるいはMHz帯の周波数を使った従来の非接触通信では、空間での伝搬損が小さいため、送信機及び受信機が電極のみからなる結合器を備え、結合部分が単純に平行平板コンデンサとして動作する場合であっても、所望のデータ伝送を行なうことができる。これに対し、GHz帯の高周波を使った非接触通信の場合には、空間での伝搬損が大きくなるため、送受信機の結合用電極間において信号の反射を抑え、伝送効率を向上させる必要がある。図19に示した通信システムにおいて、送信回路部11と送信用電極13を結ぶ高周波信号伝送路が例えば50Ωのインピーダンス整合がとられた同軸線路であったとしても、送信側の結合用電極13と受信側の結合用電極23間の結合部におけるインピーダンスが不整合であると、信号は反射して伝搬損を生じる。
そこで、送信機10及び受信機20のそれぞれに配置される高周波結合器を、図20に示すように、平板状の結合用電極13、23と、並列インダクタ12A、22A、直列インダクタ12B、22Bを高周波信号伝送路に接続して構成している。このような高周波結合器を、図21に示すように向かい合わせて配置すると、2つの電極が1つのコンデンサとして動作し、全体としてバンドパス・フィルタのように動作するため、2つの高周波結合器の間で効率よく高周波信号を伝達することができる。ここで言う高周波信号伝送路とは、同軸ケーブル、マイクロストリップ線路、コプレーナ線路などを示す。
図19に示した非接触通信システムにおいて、UWBなどの高周波信号を電界結合により伝送する際には、高周波結合器として必須の条件は以下の通りとなる。
(1)電界で結合するための電極があること。
(2)より強い電界で結合させるための並列インダクタがあること。
(3)通信に使用する周波数帯において、結合器を向かい合わせに置いたときにインピーダンス・マッチングが取れるように、インダクタ、及び電極によるコンデンサの定数が設定されていること。
図21に示したように電極が対向する1組の高周波結合器からなるバンドパス・フィルタは、直列インダクタと並列インダクタのインダクタンス、電極によって構成されるコンデンサのキャパシタンスによって、その通過周波数f0を決定することができる。図22には、1組の高周波結合器からなるバンドパス・フィルタの等価回路を示している。特性インピーダンスR[Ω]、中心周波数f0[Hz]、入力信号と通過信号の位相差をα[ラジアン](π<α<2π)、電極によって構成されるコンデンサのキャパシタンスをC/2とすると、バンドパス・フィルタを構成する並列及び直列インダクタンスL1、L2の各定数は、使用周波数f0に応じて下式で求めることができる。
また、結合器単体としてインピーダンス変換回路として機能する場合、その等価回路は図23に示す通りとなる。図示の回路図において、下式を満たすように、使用周波数f0に応じて並列インダクタンスL1及び直列インダクタンスL2をそれぞれ選ぶことにより、特性インピーダンスをR1からR2へ変換するインピーダンス変換回路を構成することができる。
図24には、アンテナ、結合器(並列インダクタがある場合)、結合器(並列インダクタがない場合)をそれぞれ向かい合わせに置き、距離を変えながら伝搬損を測定した結果を示している。
結合器(並列インダクタあり)は、距離1cm程度までの近距離では強く結合し伝搬損が小さくなっているが、距離が大きくなるにつれて急激に減衰し、周囲への干渉を起こさないような特性になっている。これに対して、アンテナは距離が大きくなっても結合器(並列インダクタあり)の場合ほどには伝搬損が大きくならないので、他の無線システムへの妨害信号になってしまう可能性がある。また、並列インダクタを持たない結合器では、伝搬効率が悪く、通信相手が近くにいる場合であっても伝搬損が大きい。
なお、高周波結合器の結合用電極は、同軸ケーブル、マイクロストリップ線路、コプレーナ線路といった高周波伝送線路に接続されている。本明細書で言う「高周波結合器」は、高周波回路特有の問題を解決するものである。
このように、図19に示した非接触通信システムでは、UWB通信を行なう通信機は、従来の電波通信方式の無線通信機においてアンテナを使用する代わりに、図20に示した高周波結合器を用いることで、従来にない特徴を持った超近距離データ伝送を実現することができる。
ここで、発信用電極13の中心に直列インダクタなどからなる共振部12(若しくは高周波伝送線路)が接続されるものとする。何故ならば、電極の中心に高周波伝送線路を接続することにより、電極13内に均等に電流が流れて、電極13の正面に電極面とほぼ垂直な向きに不要な電波を放射しないが(図18Aを参照のこと)、電極13の中心からオフセットのある位置に共振部12を接続すると、電極13内に不均等な電流が流れてマイクロストリップ・アンテナのように動作して不要な電波を放射してしまうからである(図18Bを参照のこと)。
図25には、図20に示した高周波結合器の実際の構成例を示している。図示の例では送信機10側の高周波結合器を示しているが受信機20側でも同様に構成される。同図において、電極13は円柱状の誘電体15の上面に配設され、プリント基板17上の信号線とはこの誘電15体内を貫挿するスルーホール16を通して電気的に接続されている。図示の高周波結合器は、例えば、所望の高さを持つ円柱状の誘電体にスルーホールを形成した後、この円柱の上端面に結合用電極となるべき導体パターンを形成するとともに、スルーホール中に導体を充填させ、さらにプリント基板上にこの誘電体をリフロー半田などにより実装することによって製作することができる。
プリント基板17の回路実装面から電極13までの高さ、すなわちスルーホール16の長さを使用波長に応じて適当に調整することで、スルーホール16がインダクタンスを持ち、直列インダクタ12Bと代用することができる。信号線はチップ状の並列インダクタ12Aを介してグランド18に接続されている。なお、図示しないが、並列インダクタンスは、チップではなく、プリント基板上の配線パターンで代用することも可能である。この種のインダクタンスは分布定数回路からなり、以下では「スタブ」とも呼ぶ。
誘電体15とスルーホール16は、電極13とグランド18との結合を回避する役割と、直列インダクタ12Bを形成する役割を兼ね備えている。プリント基板17の回路実装面から電極13まで十分な高さをとって直列インダクタ12Bと等価なインダクタンスを構成することによって、グランド18と電極13との電界結合を回避して、高周波結合器としての機能(すなわち、受信機側の高周波結合器との電界結合作用)を確保する。但し、誘電体15の高さが大きい、すなわちプリント基板17の回路実装面から電極13までの距離が使用波長に対して無視できない長さになると、直列インダクタ12Bすなわち共振部12はアンテナとして作用して電波を放出するという弊害がある。この場合、高周波結合器の共振部12におけるアンテナとしての振る舞いによる放射電波は距離に対する減衰が静電界や誘導電界よりも小さいため、無線設備から3メートルの距離での電界強度が所定レベル以下となる微弱無線に抑えることが困難になる。よって、誘電体15の高さは、グランド18との結合を回避して高周波結合器としての特性を十分に得ることと、共振回路として作用するために必要な直列インダクタ12Bを構成することと、この直列インダクタ12Bからなる共振部がアンテナとしての作用が大きくならない程度であることが条件となる。
一般に、金属はアンテナの効率的な電波の放射を妨げるため、アンテナの放射エレメントの近傍にグランドなどの金属を配置することができない。これに対し、本実施形態に係る通信システムでは、高周波結合器は電極13の裏面側に金属を配置しても特性が悪化しない。また、直列インダクタ12Bと並列インダクタ12Aの定数を適当に選ぶことで、従来のアンテナよりも小型に作ることができる。また、静電界はアンテナのように偏波を持たないため、向きが変わっても一定の通信品質を確保することができる。
なお、電波通信の分野では、図5に示すようにアンテナ素子の先端に金属を取り付けて静電容量を持たせ、アンテナの高さを短縮させる「容量装荷型」のアンテナが広く知られており、一見して図20に示した結合器と構造が類似する。ここで、本実施形態で送受信機において用いられる結合器と容量装荷型アンテナとの相違について説明しておく。
図5に示した容量装荷型アンテナは、アンテナの放射エレメントの周囲B1及びB2方向に電波を放射するが、A方向は電波を放射しないヌル点となる。アンテナの周りに発生する電界を詳細に検討すると、アンテナからの距離に反比例して減衰する放射電界と、アンテナからの距離の2乗に反比例して減衰する誘導電界と、アンテナからの距離の3乗に反比例して減衰する静電界が発生する。そして、誘導電界と静電界は放射電界に比べ距離に応じて急激に減衰するため、通常の無線システムでは放射電界についてのみ議論され、誘導電界と静電界は無視されることが多い。したがって、図5に示す容量装荷型アンテナであっても、Aの方向に誘導電界と静電界を発生させているが、空気中で速やかに減衰するため、電波通信では積極的には利用されていない。
続いて、送信機側の結合用電極において発生する電磁界について考察してみる。図16には、微小ダイポールによる電磁界を表している。また、図26には、この電磁界を結合用電極上にマッピングしている。図示のように電磁界は、伝搬方向と垂直な方向に振動する電界成分(横波成分)Eθと、伝搬方向と平行な向きに振動する電界成分(縦波成分)ERに大別される。また、微小ダイポール回りには磁界Hφが発生する。下式は微小ダイポールによる電磁界を表しているが、任意の電流分布はこのような微小ダイポールの連続的な集まりとして考えられるので、それによって誘導される電磁界にも同様の性質がある(例えば、虫明康人著「アンテナ・電波伝搬」(コロナ社、16頁〜18頁、1961年2月28日初版発行)を参照のこと)。
上式から分るように、電界の横波成分は、距離に反比例する成分(放射電界)と、距離の2乗に反比例する成分(誘導電界)と、距離の3乗に反比例する成分(静電界)で構成される。また、電界の縦波成分は、距離の2乗に反比例する成分(誘導電界)と、距離の3乗に反比例する成分(静電界)のみで構成され、放射電磁界の成分を含まない。また、電界ERは、|cosθ|=1となる方向、すなわち図16中の矢印方向で最大となる。
無線通信において広く利用されている電波通信では、アンテナから放射される電波はその進行方向と直交方向に振動する横波Eθであり、電波は偏波の向きが直交すると通信することができない。これに対し、静電界や誘導電界を利用した通信方式において結合電極から放射される電磁波は、横波Eθの他に、進行方向に振動する縦波ERを含む。縦波ERは「表面波」とも呼ばれる。表面波は、導体や、誘電体、磁性体などの媒体の内部を通じて伝搬することもできる(後述)。
非接触通信システムでは、放射電界、静電界、誘導電界のいずれの成分を媒介として信号を伝達することもできる。しかしながら、距離に反比例する放射電界は比較的遠くにある他のシステムへの妨害波になるおそれがある。このため、放射電界の成分を抑制すること、言い換えれば、放射電界の成分を含む横波Eθを抑制しながら、放射電界の成分を含まない縦波ERを利用した非接触通信が好ましい。
なお、上述した観点から、本実施形態に係る高周波結合器では、以下のような工夫をしている。まず、電磁界を示した上記の3式より、θ=0゜という関係を有する場合に、Eθ=0となり、且つ、ER成分が極大値をとることが分かる。すなわち、Eθは電流の流れる向きに対して垂直な方向で最大になり、ERは電流の流れる向きと平行な方向で最大になる。したがって、電極面に対して垂直な正面方向のERを最大にするには、電極に対して垂直な方向の電流成分を大きくすることが望ましい。一方、電極の中心から給電点をオフセットさせた場合には、このオフセットに起因して、電極に対して平行な方向に対する電流成分が増加する。そして、この電流成分に応じて電極の正面方向のEθ成分が増加してしまう。このため、本実施形態に係る高周波結合器では、図18Aに示したように電極の略中心位置に給電点を設け(前述)、ER成分が最大となるようにしているのである。
勿論、旧来のアンテナでも放射電界だけでなく、静電界や誘導電界が発生し、送受信アンテナを近接させれば電界結合が起きるが、エネルギの多くは放射電界として放出され、非接触通信としては効率的でない。これに対し、図20に示した高周波結合器は、所定の周波数においてより強い電界ERを作り伝送効率を高めるように、結合用電極及び共振部が構成されている。
図20に示した高周波結合器を送信機側で単独で使用した場合、結合用電極の表面には縦波の電界成分ERが発生するが、放射電界を含む横波成分EθはERに比べ小さいことから、電波はほとんど放射されない。すなわち、近隣の他システムへの妨害波を発生しない。また、高周波結合器に入力された信号のほとんどが電極で反射して入力端に戻る。
これに対し、1組の高周波結合器を使用した場合、すなわち送受信機間で高周波結合器を近距離に配置されたときには、結合用電極同士が主に準静電界成分によって結合して1つのコンデンサのように働いて、バンドパス・フィルタのように動作し、インピーダンス・マッチングが取れた状態になっている。したがって、通過周波数帯では信号・電力の大部分は相手方に伝送され、入力端への反射は少ない。ここで言う「近距離」は波長λによって定義され、結合用電極間の距離dがd≪λ/2πであることに相当する。例えば、使用周波数f0が4GHzであれば電極間距離が10mm以下のときである。
また、送受信機間で高周波結合器を中距離に配置したときには、送信機側の結合用電極の周囲には、静電界は減衰し、主に誘導電界からなる電界ERの縦波が発生する。電界ERの縦波は、受信機側の結合用電極で受け取られ、信号が伝送される。但し、両結合器を近距離に配置した場合と比較すると、送信機側の高周波結合器では、入力された信号が電極で反射して入力端に戻る割合が高くなる。ここで言う「中距離」は波長λによって定義され、結合用電極間の距離dがλ/2πの1〜数倍程度であり、使用周波数f0が4GHzであれば電極間距離が10〜40mmのときである。
ところで、静電界や誘導電界を用いた通信方式では、電界強度は距離の3乗並びに2乗に反比例して急激に減衰するため、通信範囲が超近距離に制限されてしまう、という問題がある。さらにUWB通信などの高周波信号を用いた場合には、短波長であることから伝搬損が大きいという問題がさらに加わる。このため、送信機と受信機の電極(結合器)間をできる限り密着させる必要があり、長い距離での通信を行なうことができない。また、電極同士を十分に近接させるためには、電極間で微妙な位置合わせを行なう必要があり、データ通信中はその位置を保持しなければならず、ユーザの使い勝手がよくない。
これに対し、本発明に係る通信システムでは、送信機側の結合電極と受信機側の結合電極の間に、誘電体や磁性体からなる表面波伝送線路を配設して、送信機側の結合電極から放射される電磁波のうち表面波を、この表面波伝送線路の内部及び表面を通じて効率的に伝搬することができる。したがって、送信機と受信機の結合電極同士を比較的長い距離に離しても、電界結合により放射される表面波を低い伝搬損で伝送して、データ通信を行なうことができ、送受信機同士で互いの結合用電極間を直接密着させる必要はなくなる。
電磁界を利用した伝送波のうち位相速度vが光速cより小さいものを遅波、大きいものを速波という。表面波は前者の遅波に相当し、遅波構造における無限長伝送路では、エネルギが伝送路に集中して伝わり外部への放射は生じない(例えば、手代木扶・米山務編著「新ミリ波技術」(オーム社、P119)を参照されたい)。ここで言う表面波は、結合用電極から発生する電界のうち、伝搬方向と平行な向きに振動する成分である縦波ERに相当する(前述)。
電磁波が導体や誘電体若しくは磁性体の表面に沿って伝搬する仕組みは、例えば「グーボー線路」又は「G線」として知られている(例えば、米国特許第2685068号明細書、米国特許第2921277号明細書を参照のこと)。
例えば、特開2003−115707号公報には、熱可塑性ポリマーからなる誘電体を媒質とする表面波伝送線路について開示されている。また、特開平7−175987号公報には、高周波損失の少ない誘電体又は誘電体繊維を所定の周期構造を以って拠り合わせて電磁界の分布範囲をある程度制御可能にした表面波伝送線路について提案がなされている。なお、電磁波を伝搬する表面波伝送線路の仕組みの詳細に関しては、例えば、中島将光著「マイクロ波工学」(森北出版、182頁〜190頁)を参照されたい。
また、軸方向に磁化された1本のフェライト棒を伝搬する電磁表面波は広く研究されており、“dynamic”、“surface(表面モード)”、“volume(立体モード)”という3種類の表面波モードが存在することが既に明らかにされている。ダイナミック・モードはフェライトが単なる誘電体と見なせる周波数域で存在し、forward waveである。一方、表面モードと立体モードは、それぞれフェライト棒の表面近く又は中心部に電力が集まるモードであり、主にbackward waveである。これらのモードのうち、表面モードは共振器に応用され、立体モードは遅延線やファラデ一回転子に応用されている(明利敏巳著「並行な二本のフェライト棒を伝搬する表面波の研究」を参照のこと)。
図3には、送受信機の高周波結合電極間に表面波伝送線路を介在させた非接触通信システムの構成例を示している。図示の通信システムは、データ送信を行なう送信機10と、データ受信を行なう受信機20と、送信機10側の発信用電極13から放射される表面波を低い伝搬損で伝送する表面波伝送線路30で構成される。表面波伝送線路30は、誘電体又は磁性体からなり、発信用電極13から放射された表面波の進行方向に沿って配設されている。
送信機10側の送信回路部11は、上位アプリケーションから送信要求が生じると、送信データに基づいてUWB信号などの高周波送信信号を生成する。送信回路部11から出力された信号は、共振部12で共振し、電極から正面方向に表面波として発信用電極13から放射される。
発信用電極13から放射された表面波は、表面波伝送線路30の介在により効率的に伝搬し、受信器20側の受信用電極23から共振部22を経て受信回路部21へと入力される。受信回路部21は、受信した高周波信号を復調及び復号処理して、再現したデータを上位アプリケーションへ渡す。
発信用電極13が放出した表面波は、表面波伝送線路30の端面から入射すると、その内部では外部との境界面に到達する度に反射を繰り返しながら、ロスなく受信側へ伝搬する(後述)。したがって、表面波伝送線路30の介在により、発信用電極13から受信用電極23へ信号が効率的に伝搬することができる。また、発信用電極13から放射される表面波の入射角を大きくし、透過波として外部に放射される割合を少なくするため、誘電体又は磁性体からなる表面波伝送線路30の端面を発信用電極13の正面に、電極面に対してほぼ垂直になるように配置することが望ましい。
図4には、送信機10の表面波発信部分(高周波結合器)の構成例を示している。受信機20側の表面波受信部分の構成も同様であると理解されたい。
図示のように、同軸ケーブルからなる高周波信号線の先端部分には、所定の長さを持つ線状導体の共振部と電極が取り付けられている。共振部12と発信用電極13を合わせた全体として所定の周波数の4分の1波長の長さを持つように設計することによって、所定の周波数で共振をさせ、その周波数の表面波を発生させることができる。通常、発生した表面波は距離の増大に応じて空気中で急激に減衰するが、先端の発信用電極13の中央に共振部12を接続することと、電極の正面に電極の放射面とほぼ垂直な向きに誘電体若しくは磁性体からなる表面波伝送線路30を設置することで、発信用電極13から発信された表面波を誘電体若しくは磁性体からなる表面波伝送線路30で捉えて表面波発信器(若しくは高周波結合器)とすることができる。
誘導電界と静電界の強度が大きい発信用電極13の正面に、電極面に対して垂直な位置に、誘電体若しくは磁性体からなる表面波伝送線路30が配置されている。そして、電極13の近傍で発生した誘導電界と静電界が表面波伝送線路30の端面で捉えられると、この伝送線路30内を伝搬して、受信機20側の受信用電極23に入力される。すなわち、送信機10側の電極13から放射された電磁界を、表面波伝送線路30内を表面波として伝達させることで、表面波を利用したデータ通信を可能にすることができる。
図6には、送信機10の表面波発信部分の他の構成例を示している。受信機20側の表面波受信部分の構成も同様に構成することができると理解されたい。
表面波の発信部分と受信部分はそれぞれ、線状導体の代わりにコイルやコンデンサなどを用いて、集中定数回路による共振部12を配設している。図6に示す例では、共振部12が送信回路部11からの高周波伝送線路の信号線とグランドの間に接続される並列インダクタ12Aと信号線と電極の間に接続される直列インダクタ12Bで構成されており、電極の正面に強い電界が生じ、効率よく表面波を発生させることができる。
また、送受信機において、図6に示したような1組の高周波結合器を、表面波伝送線路を介在させて向かい合わせて配置すると、2つの電極が1つのコンデンサとして動作し、全体としてバンドパス・フィルタのように動作する。ここで、直列インダクタ12Bの定数、並列インダクタ12Aの定数、及び、電極13及び23からなるコンデンサの定数を調整することで、結合部分におけるインピーダンスが連続的となるように設計することは可能である(前述)。
誘電体からなる表面波伝送線路に入射した表面波は、外部との境界面に到達する度に反射を繰り返しながら、伝搬方向(すなわち受信機側)へ振興する。図1には、誘電体からなる表面波伝送線路の内部を表面波が伝搬する様子を図解している。但し、誘電体の誘電率εは、表面波伝送線路を取り巻く空気の誘電率ε0よりも大きいとする。
誘電率の異なる2つの媒質の境界に電磁波(表面波)が入射すると、光学におけるのと同様な屈折が生じる。入射角θiが下式で示される臨界角θcに等しくなると、屈折角θtはπ/2に等しくなり、誘電体の透過波は境界面に平行に進むようになる。入射角θiがそれより大きくなると、境界面では完全反射が起こる。したがって、誘電体平板の内部に電磁波を適当な角度で入射させると、2つの境界で反射を繰り返し電磁波(表面波)が、ロスすることなく効率的に伝搬される。
また、図2には、磁性体からなる表面波伝送線路内を表面波が伝搬する様子を図解している。但し、磁性体の透磁率μは、表面波伝送線路を取り巻く空気の透磁率μ0よりも大きいとする。透磁率の異なる2つの媒質の境界に電磁波(表面波)が入射すると、光学におけるのと同様な屈折が生じる。すなわち、入射角θiが下式で示される臨界角θcに等しくなると、屈折角θtはπ/2に等しくなり、透過波は境界面に平行に進むようになる。入射角θiがそれより大きくなると、境界面では完全反射が起こる。したがって、磁性体平板の内部に電磁波を適当な角度で入射させると、2つの境界で反射を繰り返し電磁波(表面波)は、図1に示した場合と同様に、ロスすることなく効率的に伝搬される。
本発明者らは、図27に示すように、対向する2つの高周波結合器1及び2間に誘電体(若しくは磁性体)からなる表面波伝送線路を介在させて高周波信号の伝送を行なう際に、表面波伝送線路の周辺で発生する電磁界分布を、有限要素法を用いたシミュレーションで求めてみた。但し、表面波伝送線路は比誘電率10、比透磁率10、電気伝導度0[Siemens/m]の誘電体を仮定し、その断面積は6mm×6mm、長さは49.6mmとし、この表面波伝送線路の両端面と結合用電極間の間隙を50mmに設定し、使用周波数を4.5GHzとした。また、高周波結合器は、面積20mm×42mmで、厚さ0.8mm、誘電率3.4のグランド基板上で面積が11mm×11mm、高さ3mmの結合用電極からなり、共振部は長さ20mmで幅が3mmのスタブ(前述)で構成されている。表面波伝送線路の長手方向、すなわち信号伝送方向をz軸とし、結合用電極の電極と平行な面をxy面とする。
図28A〜Fには、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、zx面内の電界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示している。同図に示すように、誘電体からなる表面波伝送線路の表面の垂直方向に振幅を持つ表面波が、高周波結合器1から高周波結合器2に向かって伝搬していることが判る。
また、電場の時間的変化により磁場が発生することが知られている。図29A〜Fには、図27に示した構成において表面波伝送線路を介在させて高周波信号を伝送する際の、xy面内の磁界分布の変化を12分の1周期間隔で半周期分だけ示している。
図30には、図28〜図29に基づいて、誘電体からなる表面波伝送線路の周囲に発生する電界分布と磁界分布を模式的に表している。伝送路を伝搬する表面波には、伝送路の表面近くにエネルギが集まる表面モードと、伝送路の中心部にエネルギが集まる立体モードが含まれることは既に述べた。図30からも分るように、誘電体からなる表面波伝送線路を伝搬する表面波のエネルギは、縦波成分が伝搬する中心軸付近(立体モード)、及び横波成分が伝搬する表面付近(表面モード)の双方に分布する。すなわち、誘電体の表面付近において誘電体の表面に垂直な電界が生じるとともに、誘電体内の中心部分において進行方向と略平行な向きに振動する縦波の電界(上記の全反射成分を含む)が生じ、さらにこれら2通りの電界の変化に伴って誘電体の中心軸に巻き付くように磁界が生じることによって、信号が伝搬する。
このとき、電流や磁気の方向や強さが変化する(交流)と電界と互いに影響し合うような好適な磁界が生じることによって、電界があると磁界が生じ、磁界があると電界が生じる、というように電界と磁界の間でエネルギの形態を交互に変えながら、表面波信号は遠くまで伝搬していくことが期待される。逆に、表面波伝送線路の比誘電率が1の磁性体では、高周波結合器から生じるのは電界成分のみとなるので、信号を捉えることが難しくなる。
図31には、高周波結合器の結合用電極の表面で発生した縦波の電界ERが誘電体からなる表面波伝送線路の端部において表面波として乗り移る様子を示している。結合用電極の表面で発生した縦波の電界ERが表面波伝送線路の端面から入射すると、縦波成分は図31Aに示すように表面波伝送線路の中心軸付近において立体モードにより伝搬する。また、結合用電極の表面で発生した縦波の電界ERが表面波伝送線路の端部付近の外周から垂直に入射すると、横波成分は図31Bに示すように表面波伝送線路の表面付近において表面モードにより伝搬する。
このように表面波が誘電体からなる表面波伝送線路上を伝搬する際、立体モード及び表面モードがともに存在し、エネルギは立体モードと表面モードの両方によって伝送される。このため、高周波結合器から発された表面波をロスすることなく受け取るためには、表面波伝送線路の端面の大きさ(伝送線路の太さ)は結合用電極のサイズに対して十分な大きさがあることが好ましい、と思料される。
図32には、図27に示した構成において、送受信機それぞれの結合用電極のサイズを変えたときの伝搬損S21を有限要素法によるシミュレーションで求めた結果を示している。但し、表面波伝送線路は比誘電率10、比透磁率10、電気伝導度0[Siemens/m]の誘電体を仮定し、その断面積は6mm×6mm、長さは49.6mmとし、この表面波伝送線路の両端面と結合用電極間の間隙を50mmに設定し、使用周波数を4.5GHzとした。また、高周波結合器は、面積20mm×42mmで、厚さ0.8mm、誘電率3.4のグランド基板上で高さ3mmの正方形の結合用電極からなり、共振部は長さ20mmで幅が3mmのスタブ(前述)で構成されているとし、結合用電極の一辺の長さを可変とした。同図から、表面波伝送線路の太さが変わらないときは、伝搬損S21はほぼ一定であると言える。
また、図33には、図27に示した構成において、表面波伝送線路の太さを変えたときの伝搬損S21を有限要素法によるシミュレーションで求めた結果を示している。但し、使用周波数を4.5GHzとする。また、表面波伝送線路は比誘電率10、比透磁率10、電気伝導度0[Siemens/m]の誘電体を仮定し、その長さは49.6mmとし、この表面波伝送線路の両端面と結合用電極間の間隙を50mmに設定し、その断面積を可変とした。また、高周波結合器は、面積20mm×42mmで、厚さ0.8mm、誘電率3.4のグランド基板上で面積が11mm×11mmで高さ3mmの結合用電極からなり、共振部は長さ20mmで幅が3mmのスタブ(前述)で構成されているとする。同図から、表面波伝送線路の太さに依存して伝搬損S21が変化することが判る。
また、図34には、図27に示した構成において、表面波伝送線路の比誘電率と比透磁率を変えたときの伝搬損S21を有限要素法によるシミュレーションで求めた結果を示している。但し、使用周波数を4.5GHzとし、高周波結合器は、面積20mm×42mmで、厚さ0.8mm、誘電率3.4のグランド基板上で面積が11mm×11mmで高さ3mmの結合用電極からなり、共振部は長さ20mmで幅が3mmのスタブ(前述)で構成されているとする。また、表面波伝送線路は、断面積が6mm×6mm、長さが49.6mmで、この表面波伝送線路の両端面と結合用電極間の間隙を50mmに設定する。同図から、表面波伝送線路の比誘電率及び比透磁率に依存して伝搬損S21が変化することが分かる。
誘電体からなる表面波伝送線路の伝搬損S21は、周波数、伝送線路の比誘電率、比透磁率、表面波伝送線路の太さに依存する。図32〜図34に示したシミュレーション結果を考慮すると、例えば、周波数4.5GHz、比誘電率が10、比透磁率が10のとき、表面波伝送線路の太さが6mm×6mm程度のときに損失が少なく効率よく信号が伝搬する。
表面波は、誘電体や磁性体の内部以外にも、金属線などの導体の表面を通じて伝搬することが知られている。磁性体からなる表面波伝送線路を用いた場合、高周波結合器から生じるのは電界成分のみであり、比誘電率が1の磁性体では信号を捉えることができないので、表面波の伝搬損が大きいが、比誘電率が1より大きい磁性体では効率よく表面波を伝送することができる。また、誘電体からなる表面波伝送線路を用いた場合には、誘電体の表面に対し垂直な電界と、誘電体の中心部分に生じる進行方向に平行な向きに振動する縦波の電界と、誘電体の中心軸に巻きつくように生じる磁界によって信号が伝搬する。
また、図17Aには、誘電体としてPPS(ポリフェニレンスルフィド樹脂)、あるいは磁性体としてNiZnフェライト、磁石をそれぞれ表面波伝送線路に用いた場合の伝送線路の長さと伝搬損S21の関係を示している。但し、PPSは誘電率5〜12、誘電正接0.002、直径10mmとし、NiZnフェライトは直径9mm(内径5mm)とし、磁石は直径6mmとする(図17Bを参照のこと)。また、表面波伝送線路の伝搬損S21は、電極間に表面波伝送線路を挟んだときの、送信機側の高周波信号線路(Port1)から受信機側の高周波信号線路(Port2)へ表面波が伝搬する際の損失とする(図17Cを参照のこと)。図17Aから、自由空間すなわち表面波伝送線路を配置しないで表面波を伝搬する場合に比べると、送受信機の結合器間に表面波伝送線路が介在することにより伝搬損が低減することが理解できよう。
誘電体又は磁性体からなる表面波伝送線路30の形状は、特に限定されない。例えば、図7に示すような板状、図8に示すような帯状、図9に示すような線状のいずれであっても良い。また、図10に示すように表面波伝送線路の形状を錘状とし、特定の受信機にその頂点を向けるようにすれば、送信機側の結合用電極から底面で捕捉した表面波を伝搬し、頂点部分に集中させることができるので、効率的な伝搬を実現することができる。例えば、一方の通信装置から他方の通信装置への一方向通信を行なう場合において、このような伝送線路の構成は有利となる。
図11に示すように、表面波伝送線路30として誘電率の高い誘電体の表面を、さらに誘電率の低い別の誘電体の外側層31で覆うように構成しても良い。このようにすることで、表面波が誘電率の高い誘電体の表面を反射せずに透過したとしても、さらにこれを覆う別の誘電体の表面において反射して、中央の誘電体層まで引き戻される。すなわち、表面波伝送線路30を伝搬する途上において表面波が透過波として外部に放射される割合を抑え、より効率的に信号を伝達することができる。
勿論、図11に示したような誘電率ε(又は透磁率μ)の異なる外側層を2層以上形成して、外側ほど誘電率を低くするようにしても、同様の効果を得ることができる。また、中心からの距離rに応じて誘電率ε(又は透磁率μ)が段階的に変化するのではなく、図12に示すように中心からの距離rに応じて連続的に誘電率ε(又は透磁率μ)が変化する場合であっても、同様に、表面波が透過波として表面波伝送線路30の外部に放射される割合を抑えることができる。
図13には、表面波伝送線路30として誘電率ε(又は透磁率μ)の高い誘電体を、さらに誘電率ε(又は透磁率μ)の低い別の誘電体(又は磁性体)からなる物体の中に埋設した様子を示している。また、誘電率ε(又は透磁率μ)の高い誘電体を埋める別の物体は、例えばラックや、送信機10及び受信機20の結合電極13、23の位置決め用の部材として構成することができる。
図14には、表面波伝送線路30が1つの誘電体(若しくは磁性体)ではなく途中で切り離された複数の誘電体(若しくは磁性体)で構成されている例を示している。表面波伝送線路30の途中を切り離して非接触の状態で用いることができるので、本実施形態に係る通信システムは、機器間や機器と部材間が物理的な接点を持たない非接触通信として適用することができる。切り離された誘電体同士は接触していなくてもよいが、損失を小さく抑えるためには誘電体の間隔は小さく、信号が伝達する面同士が対向して向き合うような位置に置かれることが望ましい。
図15には、表面波伝送線路を用いた非接触通信機の構成例を示している。図示の例では、非接触通信機内の主要回路基板上に送受信回路部と結合用電極が搭載されている。筐体内奥深くに収容された電極の前に何も置かれていない場合には、電極から放射された信号は筐体内の空気中で分散し、失われてしまう。これに対し、図15に示した通信機の構成によれば、結合用電極の正面に表面波伝送線路となる誘電体又は磁性体を設置して、結合用電極から放射した電磁界を表面波伝送線路によって筐体の表面の所望する部位まで信号を誘導することで、効率的な信号の伝達が可能となっている。
これまでは、図3に示した通信システムにおいて、表面波伝送線路の介在により1組の高周波結合器間で信号を伝送する仕組みについて説明してきた。ここで、2つの機器間で信号を伝送する際には必然的にエネルギの移動を伴うことから、この種の通信システムを電力伝送に応用することも可能である。上述したように、送信機側の高周波結合器で発生した電界ERは、表面波として表面波伝送線路上を伝搬する。そして、受信機側では、高周波結合器で受け取った信号を整流・安定化して、電力を取り出すことができる。
図35には、図3に示した通信システムを電力伝送に応用したときの構成例を示している。
図示のシステムでは、AC電源に接続された充電器と無線通信機を内蔵する高周波結合器により、その間に置かれた表面波伝送線路を介して無線通信機への送電、及び充電を行なうことができる。但し、高周波結合器は電力伝送の用途のみで使用される。
受電する高周波結合器が送電する高周波結合器の近くにないときには、送電用の高周波結合器に入力された電力の大部分は反射してDC/ACインバータ側に戻るため、外部に不要な電波を放射したり必要以上に電力を消費したりすることを抑えることができる。
また、同図では無線通信機への充電を行なう例を挙げたが、充電される側は無線機に限らず例えば音楽プレイヤやデジタルカメラへの非接触電力伝送を行なうようにしてもよい。
また、図36には、図3に示した通信システムを電力伝送に応用した他の構成例を示している。図示のシステムは、高周波結合器と表面波伝送線路を電力伝送と通信に兼用して使用するように構成されている。
通信及び送電を行なうタイミングの切り替えは、送信回路部から送られる通信・送(受)電切り替え信号によって行なわれる。例えば、通信と送電はあらかじめ決められた周期で切り替えを行なうようにしてもよい。このとき、充電の状態を通信信号に加えて充電器側にフィードバックすることで送電出力を最適に保つことができる。例えば充電が完了したらその情報を充電器側に送り、送電の出力を0にする。あるいは、電力に通信データを重畳させるようにしてもよい。
同図に示したシステムは充電器をAC電源に接続するようにして構成されているが、他にも例えば電池の少なくなった携帯電話に他の携帯電話から電力を分け与えるような用途に用いてもよい。
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施形態の修正や代用を成し得ることは自明である。
本明細書では、UWB信号を電界結合によりケーブルレスでデータ伝送する通信システムに適用した実施形態を中心に説明してきたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではない。例えば、UWB通信方式以外の高周波信号を使用する通信システムや、比較的低い周波数信号を用いて電界結合によりデータ伝送を行なう通信システムに対しても、同様に本発明を適用することができる。
また、本明細書では、表面波伝送線路の介在により1組の高周波結合器間でデータ通信を行なうシステムに対して本発明を適用した実施形態を中心に説明してきたが、2つの機器間で信号を伝送する際には必然的にエネルギの移動を伴うことから、この種の通信システムを電力伝送に応用することも当然にして可能である。
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、特許請求の範囲を参酌すべきである。
10…送信機
11…送信回路部
12…共振部
12A…並列インダクタ
12B…直列インダクタ
13…発信用電極
20…受信機
21…受信回路部
22…共振部
23…受信用電極
30…表面波伝送線路
31…外側層

Claims (6)

  1. 高周波の信号又は電力を伝送する伝送路と、前記伝送路の一端に接続され電荷を蓄える結合用電極と、前記結合用電極に対向して前記高周波信号の波長に対して無視し得る高さだけ離間して配置され前記電荷に対する鏡像電荷を蓄えるグランドと、前記伝送路を介して前記結合用電極に流れ込む電流を大きくするための共振部を有し、前記結合用電極に蓄えられた前記電荷の中心と前記グランドに蓄えられた鏡像電荷の中心を結ぶ線分からなる微小ダイポールを形成する結合手段と、
    空気の誘電率ε 0 よりも大きな誘電率εを持つ誘電体で構成され、前記微小ダイポールとなす角θがほぼ0度となる方向に設置され、前記方向と平行な向きに振動する電界の縦波成分を低い伝搬ロスで伝送する表面波伝送線路を提供する表面波伝搬手段と、
    を具備することを特徴とする高周波結合器。
  2. 前記表面波伝送線路は、内側ほどより大きな誘電率を持つ誘電体で構成される、
    ことを特徴とする請求項1に記載の高周波結合器。
  3. 前記表面波伝送線路をさらに誘電率の低い別の誘電体の中に埋設する、
    ことを特徴とする請求項1に記載の高周波結合器。
  4. 前記表面波伝送線路は、空気の透磁率μ 0 よりも大きな透磁率μを持つ磁性体で構成される、
    ことを特徴とする請求項1に記載の高周波結合器。
  5. 前記表面波伝送線路は、内側ほどより大きな透磁率を持つ磁性体で構成される、
    ことを特徴とする請求項4に記載の高周波結合器。
  6. 前記表面波伝送線路をさらに透磁率の低い別の磁性体の中に埋設する、
    ことを特徴とする請求項4に記載の高周波結合器。
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