JP5260196B2 - 布帛および繊維製品 - Google Patents

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Description

本発明は、ソフトな風合いを呈するだけでなく優れた制電性を有する布帛、および該布帛を用いてなる繊維製品に関する。
近年、ナノオーダーの繊維直径(1nm〜1000nm)をもつ繊維はナノファイバーとも称され、注目を集めている。ナノファイバーはソフトな風合いを呈するだけでなく、比表面積効果、ナノサイズ効果、分子配列効果等の特有の効果を有しており、このことを利用して、衣料用素材、産業資材製品、生活資材製品、環境資材製品、医療・衛生製品、燃料電池や二次電池の電極や隔膜、再生医療用材料、超高性能フィルター、電子ペーパー、ウエアラブルセル、防護服等への応用が検討されている。このようなナノファイバーを製造する方法としては、エレクトロスピニング法(特許文献1)、ポリマーブレンド紡糸法(特許文献2)、海島型複合紡糸法(特許文献3、4)などが提案されている。また、ポリエステルからなるポリエステルナノファイバーは、通常の繊維径を有するポリエステル繊維に比較して、その比表面積が数百倍に増えることによって吸水性や吸着性が高くなる等の通常ポリエステル繊維では得られない効果を発現するようになるため、かかる特徴を活かして新規用途開発が進められている。
しかしながら、ポリエステル繊維は本来的に電気抵抗が著しく高く、静電気を帯びやすいという欠点を有し、衣類においては着脱時の不快感、裾のまとわりつき、汚れの付着等の問題がある。特に作業衣などとして用いる場合は可燃ガスへの引火の危険性や、精密機器類の破壊の問題がある。このような静電気の発生に伴う問題は、繊維の直径が通常のポリエステル繊維(繊維直径12〜22μm)から極細繊維(繊維直径6〜10μm)、超極細繊維(繊維直径2〜6μm)、ナノファイバー(繊維直径10〜1000nm)へと繊維直径が小さくなって繊維の比表面積が大きくなるのに従って摩擦耐電圧が高くなるため深刻になる。これは繊維の比表面積が大きくなるほど摩擦による静電気の発生量が大きくなる一方、電気の漏洩は繊維直径にあまり影響されないためであると考えられる。
従来、ポリエステル繊維が帯電しやすいという欠点を改良するために、ポリエステル繊維に制電性を付与する方法として、例えばポリエステルに実質的に非相溶性のポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール・ポリアミドブロック共重合体、ポリオキシアルキレングリコール・ポリエステルブロック共重合体あるいはポリオキシアルキレングリコール・ポリエステル・ポリアミドブロック共重合体等のポリオキシアルキレン化合物を混合させる方法、更にこれらに有機や無機のイオン性化合物を配合する方法が知られている(特許文献5〜9参照)。
しかしながら、かかる方法はいずれもポリエステルと非相溶性の制電剤を練り込むものであり、ナノオーダーの繊維直径をもつナノファイバーへの適用は強度が低下するという問題があった。
他方、エステル形成性スルホン酸基含有化合物を共重合した共重合ポリエステル繊維が通常のポリエステル繊維よりも静電気が発生しやすいことは知られている(例えば、特許文献10参照)。
なお、本願出願人は、特願2008−182561号で制電性ナノファイバーを提案した。
特開2007−303015号公報 特公昭60−28922号公報 特開2005−325494号公報 特開2007−9339号公報 特公昭39−5214号公報 特公昭44−31828号公報 特公昭60−11944号公報 特開昭53−80497号公報 特開昭60−39413号公報 特開2007−56420号公報
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、ソフトな風合いを呈するだけでなく優れた制電性を有する布帛および繊維製品を提供することにある。
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、エステル形成性スルホン酸基含有化合物を共重合した共重合ポリエステルからなる、単繊維径10〜1000nmの共重合ポリエステルフィラメント糸で布帛を構成すると、驚くべきことに、従来の知見とは相反して優れた制電性を有する布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
かくして、本発明によれば「カチオン性官能基および/またはアニオン性官能基を有する共重合ポリエステルであり下記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または下記一般式(2)で表わされるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物であるエステル形成性スルホン酸基含有化合物を共重合した共重合ポリエステルからなり単繊維径が10〜1000nmの範囲内でありかつフィラメント数500本以上の長繊維からなる共重合ポリエステルフィラメント糸Aを含むことを特徴とする布帛。」が提供される。
式(1)
Figure 0005260196
(式中、A1は芳香族基又は脂肪族基、X1はエステル形成性官能基、X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子、Mは金属、mは正の整数を示す。)
式(2)
Figure 0005260196
(式中、A2は芳香族基又は脂肪族基、X3はエステル形成性官能基、X4はX3と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子、R1、R2、R3及びR4はアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一又は異なる基、nは正の整数を示す。)
本発明の布帛において、前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aの破断強度が0.4cN/dtex以上であることが好ましい。また、布帛が前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aのみで構成されることが好ましい。また、JIS L1094により測定した摩擦帯電圧が3000V以下であることが好ましい。
本発明によれば、前記の布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品が提供される。
本発明によれば、ソフトな風合いを呈するだけでなく優れた制電性を有する布帛および繊維製品が得られる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明において、共重合ポリエステルフィラメント糸A(本発明において、「ナノファイバー」と称することもある。)はカチオン性官能基および/またはアニオン性官能基を有する共重合ポリエステルからなる。ここで、カチオン性官能基および/またはアニオン性官能基は主鎖に含まれることが好ましいが側鎖に含まれていてもよい。かかる共重合ポリエステルとしては、基体ポリエステルにエステル形成性スルホン酸基含有化合物を共重合した共重合ポリエステルが好ましい。
ここで、ここでポリエステルとは、テレフタル酸を主たる二官能性カルボン酸成分とし、エチレングリコール、トリメチレンテレングリコール、テトラメチレングリコールなどを主たるグリコール成分とするポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルを主たる対象とする。
また、テレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置換えたポリエステルであってもよく、及び/又はグリコール成分の一部を他のジオール化合物で置換えたポリエステルであってもよい。
ここで、使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。
また、上記グリコール以外のジオール化合物としては例えばシクロヘキサン−1,4−メタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物及びポリオキシアルキレングリコール等をあげることができる。
さらに、ポリエステルが実質的に線状である範囲でトリメリット酸、ピロメリット酸のごときポリカルボン酸、グリセリン、トリメチp−ルプロパン、ペンタエリスリトールのごときポリオールなどを使用することができる。
かかるポリエステルは任意の方法によって合成される。代表的なポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(PET)の場合、通常、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるか又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/又はその低重合体を生成させる第一段階の反応と、第一段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第二段階の反応によって製造される。
本発明においては、上記の基体ポリエステルに、エステル形成性スルホン酸基含有化合物が共重合されていることが好ましい。かかるエステル形成性スルホン酸基含有化合物としてはエステル形成性官能基を有するスルホン酸基含有化合物であれば特に限定する必要はなく、下記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または下記一般式(2)で表わされるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物を好ましいものとしてあげることができる。
式(1)
Figure 0005260196
式(2)
Figure 0005260196
上記一般式(1)において、A1は芳香族基又は脂肪族基を示し、好ましくは炭素数6〜15の芳香族炭化水素基または炭素数10以下の脂肪族炭化水素基である。特に好ましいA1は、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基、とりわけベンゼン環である。X1はエステル形成性官能基を示し、具体例として
式(3)
Figure 0005260196
(但し、R′は低級アルキル基またはフェニル基、aおよびdは1以上の整数、bは2以上の整数である。)等をあげることができる。X2はX1と同一若しくは異なってエステル形成性官能基又は水素原子を示し、なかでもエステル形成性官能基であることが好ましい。Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、mは正の整数である。なかでもMがアルカリ金属(例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウム)であり、かつmが1であるものが好ましい。
上記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物の好ましい具体例としては、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボメトキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸リチウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸リチウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸ナトウリム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸カリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4−スルホン酸リチウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシスフタレン−1−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−3−スルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボメトキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,6−ジカルボキシナフタレン−4,8−ジスルホン酸ナトリウム、2,5−ビス(ヒドロエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、α−ナトリウムスルホコハク酸などをあげることができる。上記エステル形成性スルホン酸金属塩化合物は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
上記一般式(2)において、A2は芳香族基又は脂肪族基を示し、上記一般式(1)におけるA1の定義と同じである。X3はエステル形成性官能基を示し、上記一般式(1)におけるX1の定義と同じであり、X4はと同一若しくは異なってエステル形成性官能基又は水素原子を示し、上記一般式(1)におけるX2の定義と同じである。R1、R2、R3およびR4はアルキル基およびアリール基よりなる群から選ばれた同一又は異なる基を示す。nは正の整数であり、なかでも1であるものが好ましい。
上記エステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物の好ましい具体例としては、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸エチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、3,5―ジカルボキシベンゼンスルホン酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、3―カルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3―カルボキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3―カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3―カルボメトキシベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3,5―ジ(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5―ジ(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、3―(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3―(β―ヒドロキシエトキシカルボニル)ベンゼンスルホン酸テトラフェニルホスホニウム塩、4―ヒドロキシエトキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、2,6―ジカルボキシナフタレン―4―スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、α―テトラブチルホスホニウムスルホコハク酸等をあげることができる。上記エステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩は1種のみを単独で用いても、2種以上併用してもよい。
前記共重合ポリエステルポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
上記エステル形成性スルホン酸基含有化合物をポリエステルに共重合するには、前述したポリエステルの合成が完了する以前の任意の段階で、好ましくは第2段階の反応の初期以前の任意の段階で添加すればよい。2種以上併用する場合、それぞれの添加時期は任意でよく、両者を別々に添加しても、予め混合して同時に添加してもよい。
上記エステル形成性スルホン酸基含有化合物としては、制電性のレベルがより優れる傾向があるので、上記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物であることが好ましい。
一方、共重合ポリエステルフィラメント糸Aに対して強度などの物性が特に要求される用途においては、溶融粘度が低く、高重合度化に有利なため高強度繊維が得られ易い、上記一般式(2)で表わされるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物が好ましい。
かかるエステル形成性スルホン酸基含有化合物の共重合割合は芳香族ポリエステルを構成する全酸成分(但し、エステル形成性スルホン酸基含有化合物を除く)に対して0.1〜10モル%となる量の範囲であることが好ましい。0.1モル%未満では共重合ポリエステルフィラメント糸Aの制電性発現の効果が不充分であり、逆にこの共重合割合が10モル%を超えると制電性発現効果はもはや著しい向上を示さず、かえって共重合ポリエステルフィラメント糸Aがバラけ難くなりナノファイバー群が形成されないおそれがある。又耐熱性が低下し実用性に耐えられなくなるおそれがある。この共重合割合は好ましくは0.5〜7モル%の範囲であり、なかでも1.0〜5モル%の範囲が、制電性が共に優れ、かつ良好な形態安定性と耐熱性が得られるので特に好ましい。
上記式(1)、式(2)で表されるエステル形成性スルホン酸基含有化合物は下記数式
1及び数式2を同時に満足する条件で混合使用すると、常圧下でのカチオン染色が可能となり好ましい。
3.0≦c+d≦5.0 (数式1)
0.2≦d/(c+d)≦0.7 (数式2)
[ここで、cは式(1)の化合物の共重合量(モル%)、dは式(2)の化合物の共重合
量(モル%)を表す。]
(数式1の説明)
本発明において、ポリエステルに共重合させる成分cと成分dの合計は酸成分を基準として、c+dが3.0〜5.0モル%の範囲であることが好ましい。3.0モル%より少ないと、常圧下でのカチオン染色では十分な染着を得ることができない。一方、5.0モル%より多くなると、得られるポリエステル糸の強度が低下するため実用に適さない。さらに染料を過剰に消費するため、コスト面でも不利である。
(数式2の説明)
また、成分cと成分dの成分比は、d/(c+d)が0.2〜0.7の範囲にあることが好ましい。0.2以下、つまり成分cの割合が多い状態では、スルホイソフタル酸金属塩による増粘効果により、得られるポリエステルの重合度を上げることが困難になる。一方、0.7以上、つまり成分dの割合が多い状態では、反応が遅くなり、さらに成分dの比率が多くなると分解が進むため重合度を上げることができない。さらに、成分dの比率多くなると熱安定性が悪化し、溶融紡糸段階で再溶融した際の熱分解による分子量の低下が大きくなるため、得られるポリエステル糸の強度が低下するため、好ましくない。
上記エステル形成性スルホン酸基含有化合物を共重合したポリエステルとしては、固有粘度(35℃、オルソクロロフェノール溶液で測定)が0.30〜1.0のものがよく、なかでも0.40〜0.70の範囲が、ナノファイバーの製造工程や加工工程における工程通過性や最終的に得られるナノファイバーおよびその繊維製品の物性等の観点から好適である。
前記の共重合ポリエステルフィラメント糸Aにおいて、繊維軸に直交する断面における繊維径(繊維直径)が10〜1000nmの範囲である必要がある。繊維直径が1000nmを超えると制電性発現効果が低下する。制電性発現効果は繊維直径が小さくなるのに伴って向上するが、10nm未満になると制電性はもはや著しい向上を示さなくなり、かえってナノファイバー同士の凝集力が過大になって個々のナノファイバーがばらけ難くなり、ナノファイバーの形成が困難となる。繊維直径の好ましい範囲は50〜900nmの範囲であり、さらに好ましくは550〜800nmの範囲である。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
また、前記の前記の共重合ポリエステルフィラメント糸Aにおいて、以下に定義する繊維直径変動係数(CV)が0〜20%であることが好ましい。
繊維直径変動係数(CV)=σ/X×100(%)
ただし、ここで言う繊維直径は繊維横断面における長径と短径の平均値とし、σは繊維直径分布の標準偏差、Xは平均繊維直径を示す。
この繊維直径変動係数(CV)は0〜20%の範囲が好ましく、さらに好ましくは0〜15%の範囲、なかでも0〜10%の範囲が特に好ましい。このCV値が小さいことは繊維直径のばらつきが少ないこと、すなわちナノレベルで繊維直径を精密にコントロールできることを意味する。ばらつきの少ないナノファイバーを用いることにより、用途に合わせて繊維直径を設計することができ、効率的に商品設計を行うことができる。
前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、超極細繊維特有の風合いを得る上で500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、ポリエステルフィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aにおいては、破断強度が0.4cN/dtex以上(より好ましくは0.4〜4.5cN/dtex)、破断伸度が7〜60%であるのが、実用面から好ましい。さらに好ましくは、破断強度が1.5〜3.5cN/dtex、破断伸度が15〜40%の範囲である。
前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aを製造するには、格別の方法を採用する必要はなく、エレクトロスピニング法、ポリマーブレンド紡糸法(海成分溶出)海島型複合紡糸法(海成分溶出)等の、従来公知のナノファイバーの製造方法が任意に採用される。なかでも、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去する方法が好ましい。
海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去する方法について、以下説明する。まず、下記のような海島型複合繊維用の海成分ポリマーと島成分ポリマーを用意する。
海成分ポリマーは、好ましくは島成分との溶解速度比が200以上であればいかなるポリマーであってもよいが、特に繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。また、ナイロン6は、ギ酸溶解性があり、ポリスチレン・ポリエチレンはトルエンなど有機溶剤に非常によく溶ける。なかでも、アルカリ易溶解性と海島断面形成性とを両立させるため、ポリエステル系のポリマーとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。なお、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加効果が大きくなるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性・紡糸安定性などの点から好ましくなくなる。また、共重合量が10重量%以上になると、本来溶融粘度低下作用があるので、本発明の目的を達成することが困難になる。したがって、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
一方、島成分ポリマーとして、前記の共重合ポリエステルを用意する。上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
次に島数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなるので100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。なお、島数があまりに多くなりすぎると紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、加工精度自体も低下しやすくなるので10000以下とするのが好ましい。
次に、島成分の径(直径)は、10〜1000nm(好ましくは100〜800nm)の範囲とする必要がある。島成分の径を該範囲内とすることにより、最終的に得られる織物に、単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nmのマルチフィラメント糸が含まれることになる。ここで、島成分の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を島成分の径とする。なお、島成分の径(直径)は、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去したのち、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。
吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。
ここで、特に微細な島径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを極細化する流動延伸工程を採用することが好ましい。流動延伸を容易とするため、熱容量の大きい水媒体を用いて繊維を均一に予熱し、低速で延伸することが好ましい。このようにすることにより延伸時に流動状態を形成しやすくなり、繊維の微細構造の発達を伴わずに容易に延伸することができる。このプロセスでは、特に海成分および島成分が共にガラス転移温度100℃以下のポリマーであることが好ましい。具体的には60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施し、延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で実施することが好ましい。予熱温度不足および延伸速度が速すぎる場合には、高倍率延伸を達成することができなくなる。
得られた流動状態で延伸された延伸糸は、その強伸度などの機械的特性を向上させるため、常法にしたがって60〜220℃の温度で配向結晶化延伸する。該延伸条件がこの範囲外の温度では、得られる繊維の物性が不十分なものとなる。なお、この延伸倍率は、溶融紡糸条件、流動延伸条件、配向結晶化延伸条件などによって変わってくるが、該配向結晶化延伸条件で延伸可能な最大延伸倍率の0.6〜0.95倍で延伸すればよい。
かくして得られた海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が40%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
また、前記の海島型複合繊維において、その島間の海成分厚みが500nm以下、特に20〜200nmの範囲が適当であり、該厚みが500nmを越える場合には、該厚い海成分を溶解除去する間に島成分の溶解が進むため、島成分間の均質性が低下するだけでなく、毛羽やピリングなど着用時の欠陥や染め斑も発生しやすくなる。
次いで、該海島型複合繊維にアルカリ水溶液処理を施し、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1000nmの共重合ポリエステルマルチフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。また、アルカリ水溶液処理は、織編物を織編成する前でもよいが、織編物を織編成した後のほうが好ましい。
本発明の布帛は前記の共重合ポリエステルフィラメント糸Aを含む布帛である。かかる布帛は不織布でもよいが、ソフトな風合いを得る上で織物または編物であることが好ましい。
かかる布帛は、前記ポリエステルフィラメント糸A(またはポリエステルフィラメント糸A用海島型複合繊維フィラメント糸)と、必要に応じてその他の繊維(例えば、通常のポリエステルフィラメント糸)を用いて布帛(織編物)を織編成した後、必要に応じて、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去し海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1000nmの共重合ポリエステルマルチフィラメント糸Aとすることにより得られる。その際、前記ポリエステルフィラメント糸Aの布帛の全重量に対する重量割合は20重量%以上(より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは100重量%)であることが好ましい。
また、布帛の織編組織は特に限定されず、織物の織組織は、平織、斜文織、朱子織等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロード、タオル、ベロア等のたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天等のよこパイル織などが例示される。なお、これらの織組織を有する織物は、レピア織機やエアージェット織機など通常の織機を用いて通常の方法により製織することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する織物でもよい。
編物の種類は、よこ編物であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
また、布帛に他のフィラメント糸Bが含まれている場合、以下のような構成で布帛中に配されていることが好ましい。
すなわち、好ましい実施態様(1)では、織物の経糸および/または緯糸に、前記ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとが配されている。具体的には、1本交互または複数本交互(例えば、1本:複数本、複数本:1本、複数本:複数本、またはこれらの組合せ)に配されている。
また、好ましい実施態様(2)では、織物の経糸および緯糸のうち、どちらか一方に前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、かつ他方に前記フィラメント糸Bが含まれている。
また、好ましい実施態様(3)では、織物が2層以上の多層構造を有する多層構造織物であって、少なくとも1層に前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、かつ他層に前記フィラメント糸Bが含まれている。例えば、織物が2層構造を有し、表層に前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、かつ裏層に前記フィラメント糸Bが含まれている場合、また、織物が2層構造を有し、表層に前記フィラメント糸Bが含まれ、かつ裏層に前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが含まれている場合などが例示される。特に、織物が3層以上の多層構造を有し、最外層または最内層に前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、他層に前記フィラメント糸Bが含まれていることが好ましい。例えば、織物が3層構造を有し、最外層に前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが含まれ、他層に前記フィラメント糸Bが含まれる場合、織物が3層構造を有し、最外層に前記フィラメント糸Bが含まれ、他層に前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが含まれる場合などが例示される。なお、2層構造織物としては、サテン組織、経2重織組織、緯2重織組織、経緯2重織組織などが例示される。また、3層構造織物としては、ダブルサテン組織、経3重織組織、緯3重織組織、経緯3重織組織などが例示される。
また、好ましい実施態様(4)では、布帛が前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとを含み、前記ポリエステルフィラメント糸Aおよび/またはフィラメント糸Bが複合糸の一部として織物に含まれる。ここで、複合糸としては、インターレース加工やタスラン(登録商標)加工などにより得られる空気混繊糸、複合仮撚捲縮加工糸、カバリング糸などが例示される。その際、共重合ポリエステルフィラメント糸Aとフィラメント糸Bとのうち一方が芯部に位置し、かつ他方が鞘部に位置する芯鞘構造を複合糸が有していることが好ましい。
また、かかる布帛には、常法の染色加工、精練、リラックス、プレセット、ファイナルセットなどの各種加工を施してもよい。さらには、起毛加工、撥水加工、カレンダー加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
かくして得られた布帛において、前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが含まれることにより、優れた制電性を有する。その際、JISL1094による摩擦耐電圧が3000V以下であることが好ましい。また、前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aの単繊維径が10〜1000nmであるので、布帛は超極細繊維特有のソフトな風合いを呈する。
また、かかる布帛が織物である場合には、経糸のカバーファクターおよび緯糸のカバーファクターがいずれも500〜5000(さらに好ましくは、500〜2500)であることが好ましい。なお、本発明でいうカバーファクターCFは下記の式により表されるものである。
経糸カバーファクターCF=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCF=(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWは経糸総繊度(dtex)、MWは経糸織密度(本/2.54cm)、DWは緯糸総繊度(dtex)、MWは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
なお、経糸(緯糸)に複数種類の糸が交織される場合は、それぞれの経糸(緯糸)カバーファクターを算出した後、足し算する。
次に、本発明の繊維製品は、前記の布帛を用いてなる、スポーツウェア、アウトドアウェア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記の布帛を用いているので、超極細繊維特有のソフトな風合いを呈するだけでなく、優れた制電性を有する。
以下、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。各測定値は以下の方法で測定される値である。
(1)溶解速度測定
海・島成分の各々を0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作成する。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
(2)ナノファイバーの繊維直径および繊維直径の均一性
海成分溶解除去後の微細繊維の30000倍TEM観察により、繊維径を求めた。ここで繊維径は膠着していない単糸の繊維径を測定した。ランダムに選択した50本の微細繊維の繊維繊維径データにおいて、平均繊維径(X)と標準偏差(σ)を算出し、以下で定義する繊維直径変動係数(CV)を算出した。
繊維直径変動係数(CV)=σ/X×100(%)
(3)ナノファイバーの破断強度、破断伸度
海島型複合繊維を用いて重量1g以上の筒編みを作成し、海成分を溶解除去し、その後筒編をほどき、室温で初期試料長100mm、引っ張り速度200mm/分として荷重−伸長曲線を求めた。繊度は、JIS−1015に記載の方法に準拠して測定した。破断強度は破断時の荷重値を繊度で割った値、破断伸度は破断時の伸長値から求めた。
(4)制電性
ナノファイバー試料は予め温度20℃、相対湿度65%の雰囲気中に一昼夜以上放置して調湿した後、スタチックオネストメーターを使用して電極に10KVを印加し、温度20℃、相対湿度65%において試料の初期帯電圧(V)と帯電圧の半減期(秒)を測定した。
(5)カチオン染料染色性:
布帛を精錬、プリセット後、Cathilon Black CDFH(保土谷化学(株)製カチオン染料)8%owfで芒硝3g/L、酢酸0.3g/Lを含む染浴中にて130℃で45分間染色後、ソーピング、乾燥、ファイナルセットを施した後、布帛の黒色度を視感判定する。評点2以下はカチオン染料可染繊維として不合格。
評価項目 評点 評価基準
カチオン染料染色性 1 汚染程度
2 淡色
3 中色
4 濃色
(6)経糸カバーファクターCFpおよび緯糸カバーファクターCFf
下記式で定義する。
経糸カバーファクターCFp=(DWp/1.1)1/2×MWp
緯糸カバーファクターCFf=(DWf/1.1)1/2×MWf
ただし、DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。
なお、経糸(緯糸)に複数種類の糸が交織される場合は、それぞれの経糸(緯糸)カバーファクターを算出した後、足し算した。
(7)風合い
布帛表面の風合いを試験者3人が官能評価し、3級:超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する、2級:普通、1級:超極細繊維特有の風合いを呈さない、の3段階に評価した。
[実施例1]
島成分に、ポリエステルを構成する全酸成分に対してエステル反応性スルホン酸基含有化合物として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を4.5モル%共重合したポリエチレンテレフタレート、海成分に、ポリエステルを構成する全酸成分に対して9モル%となる量の5−ナトリウムスルホイソフタル酸および共重合ポリエステル基準で3重量%となる量のポリエチレングリコール(平均分子量4000)とを共重合したポリエチレンテレフタレートを使用して、海成分:島成分を30:70の重量比率で、海島型複合繊維紡糸口金を用い、紡糸温度280℃で溶融吐出し、島数836の海島型複合繊維の未延伸糸を巻取り速度1000m/分で巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度90℃、延伸倍率3.9倍でローラー延伸し、次いで170℃で熱セットして巻取り、61dtex/10filの延伸糸(海島型複合延伸糸)を得た。延伸糸の伸度は強度2.8cN/dtex、伸度18.0%であった。この延伸糸を常法に従って丸編地に製編した後、1.0%NaOH水溶液で60℃にて45%減量した。ここで、海島成分のアルカリ減量速度差は71倍であった。繊維断面を観察したところ、均一なナノファイバー群が形成されていた。得られたナノファイバー(共重合ポリエステルフィラメント糸A)の繊維直径、繊維直径変動係数、破断強度、破断伸度、制電性、カチオン染料可染性は表1に示す通りであった。また、超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する(3級)ものであった。
次いで、該丸編地を用いてスポーツウエアを縫製し着用したところ、超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈するだけでなく静電気が発生しにくく着用快適性に優れるものであった。
[実施例2および3]
紡糸時の吐出量を変更する以外は実施例1と同様に行って繊維直径がそれぞれ485nmおよび240nmであるナノファイバーを作製した。測定結果を表1に示す。
[実施例4〜7]
島成分ポリマーにおける5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量を表1記載のように変更すること以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示した。
[実施例8および9]
島成分ポリマーにおける共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸に代えて5−テトラ−n−ブチルホスホニウムスルホイソフタル酸を使用すると共に、その共重合量を表1記載のように変更する以外は実施例1と同様に行った。結果は表1の通りであった。
[実施例10]
全酸成分に対して4.5モル%となる量の5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートを使用して、特開2007−303015号公報に記載されたエレクトロスピニング法を用い、下記の条件で静電紡糸を行い、平均繊維直径100nmのナノファイバーからなる繊維ウエブを得た。
ポリマー:全酸成分に対して2.6モル%となる量の5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート
溶剤:ヘキサフルオロイソプロパノール
溶液濃度:10重量%
ノズル孔径:800μm
ノズル数:1
吐出量:0.12g/分
印加電圧:10〜30KV
ノズルと捕集面との距離:10cm
得られたナノファイバーウエブの測定結果は表1に示した通りである。
[実施例11]
島成分ポリマーにおける共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸と5−テトラ−n−ブチルホスホニウムスルホイソフタル酸を2.25モル%ずつ使用する以外は実施例1と同様に行った。結果は表1の通りであった。
[実施例12]
実施例1において、エステル反応性スルホン酸基含有化合物として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を0.05モル%とした以外は同様に行った。得られた結果を表1に示す。
[参考例1]
実施例1において、エステル反応性スルホン酸基含有化合物として5−ナトリウムスル
ホイソフタル酸を11モル%とした以外は同様に行った。得られた結果を表1に示す。
[比較例1]
全酸成分に対して2.6モル%となる量の5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートを用いて、海成分:島成分を30:70の重量比率で、島数13の紡糸口金を用いて紡糸温度280℃で溶融紡糸し巻取り速度1000m/分で巻き取った。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率4.6倍でローラー延伸し、次いで170℃で熱セットして巻取り、44dtex/36filの延伸糸を得た。延伸糸の伸度は強度5.0cN/dtex、伸度10.9%であった。延伸糸を丸編みし、編物を作成した後、3.5%NaOH水溶液で95℃にて30%減量した。得られた繊維の繊維直径は2.5μmであった。得られた結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1において繊維直径が5nmと成るように口金の孔径を調整した以外は同様に行った。得られた結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例1において繊維直径が1100nmと成るように口金の孔径を調整した以外は同様に行った。得られた結果を表1に示す。
[比較例4]
実施例1においてエステル反応性スルホン酸化合物を使用しないで行った。得られた結果を表1に示す。
Figure 0005260196
[実施例13]
経糸および緯糸に、実施例1と同じ61dtex/10filの海島型複合延伸糸を全量配し、経密度165本/2.54cm、緯密度107本/2.54cmの織密度にて、通常の製織方法により平組織の織物生機を得た。そして、前記海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、3.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)した。経密度182本/2.54cm、緯密度118本/2.54cmの織物を製織した。
得られた織物を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されており、織物の経糸および緯糸全量が均一性に優れた超極細繊維により構成されていることを確認した。得られた織物において、経糸カバーファクターCFpは1289、緯糸カバーファクターCFfは791であり、摩擦帯電圧は2000Vと優れた制電性を有しており、かつ極細繊維特有の風合い(3級)を有していた。
[比較例5]
比較例4と同じ海島複合延伸糸を経糸と緯糸に全量配し、経密度197本/2.54cm、緯密度121本/2.54cmの織密度にて、通常の製織方法により平組織の織物生機を得た。そして、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、3.5%NaOH水溶液で、55℃にて30%減量(アルカリ減量)し、経密度217本/2.54cm、緯密度133本/2.54cmの織物を作成した。得られた織物を走査型電子顕微鏡SEMで織物表面および経糸および緯糸断面を観察したところ、海成分は完全に溶解除去されており、織物の経糸および緯糸全量が均一性に優れた極細繊維により構成されていることを確認した。得られた織物において、経糸カバーファクターCFpは1289、緯糸カバーファクターCFfは791であった。極細繊維特有の風合い(3級)は有していたが、摩擦帯電圧は5000Vと制電性は不十分であった。
本発明によれば、ソフトな風合いを呈するだけでなく優れた制電性を有する布帛および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

Claims (6)

  1. カチオン性官能基および/またはアニオン性官能基を有する共重合ポリエステルであり下記一般式(1)で表わされるエステル形成性スルホン酸金属塩化合物および/または下記一般式(2)で表わされるエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物であるエステル形成性スルホン酸基含有化合物を共重合した共重合ポリエステルからなり単繊維径が10〜1000nmの範囲内でありかつフィラメント数500本以上の長繊維からなる共重合ポリエステルフィラメント糸Aを含むことを特徴とする布帛。
    式(1)
    Figure 0005260196
    (式中、A1は芳香族基又は脂肪族基、X1はエステル形成性官能基、X2はX1と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子、Mは金属、mは正の整数を示す。)
    式(2)
    Figure 0005260196
    (式中、A2は芳香族基又は脂肪族基、X3はエステル形成性官能基、X4はX3と同一もしくは異なるエステル形成性官能基または水素原子、R1、R2、R3及びR4はアルキル基及びアリール基よりなる群から選ばれた同一又は異なる基、nは正の整数を示す。)
  2. 前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1に記載の布帛。
  3. 前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aの破断強度が0.4cN/dtex以上である、請求項1または請求項2に記載の布帛。
  4. 布帛が前記共重合ポリエステルフィラメント糸Aのみで構成される、請求項1〜3のいずれかに記載の布帛。
  5. JIS L1094により測定した摩擦帯電圧が3000V以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の布帛。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の布帛を用いてなる、スポーツウエア、アウトドアウエア、レインコート、傘地、紳士衣服、婦人衣服、作業衣、防護服、人工皮革、履物、鞄、カーテン、防水シート、テント、カーシートの群より選ばれるいずれかの繊維製品。
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