JP5257137B2 - 圧粉磁心の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、磁性粉末の表面に少なくとも絶縁層が被覆された圧粉磁心用粉末からなる磁性粉を、加圧成形した圧粉磁心の製造方法に係り、特に、防錆特性に優れた圧粉磁心の製造方法に関する。
従来から、変圧器、電動機、発電機、等の電磁気を利用した電磁機器は、交番磁界を利用しており、その交番磁界は、通常、磁心を中央に配設したコイルによって発生される。このような磁心は、電磁機器の性能向上や小型化を図るために、その磁気特性の向上を図ることが重要である。
そこで、電磁機器の部品に応じた磁心の成形性や小型化等を図るために、圧粉磁心が磁心として用いられたことがある。この圧粉磁心の製造方法としては、まず、鉄などの磁性粉末の表面に、シリコーン樹脂などの高分子樹脂を含む絶縁層が被覆された圧粉磁心用粉末からなる磁性粉を準備または製造する。次に、この磁性粉末を、成形型内に配置して、所定の加圧条件で圧縮成形(加圧成形)する。その後、鉄損(ヒステリシス損)の低減等を目的として、圧縮成形された圧粉磁心を焼鈍する。このようにして得られた圧粉磁心は、絶縁被膜を設けることで比抵抗値を高めて渦電流損の低減を図れ、その高密度化によって磁束密度等の磁気特性を高めることができる。
このようにして得られた圧粉磁心を磁器機器に使用する場合、経時的に安定して磁気特性を得るためには、その圧粉磁心の表面が防錆性(耐食性)を有することが好ましい。そこで、防錆性を確保するために、圧粉磁心の表面に防錆油を塗布したり、樹脂を含浸させたりする方法も考えられるが、圧粉磁心を接着剤などを用いて製品に接着した場合には、接着耐久性が低下する場合がある。
このような点を鑑みて、例えば、鉄を主成分とする磁性粉末の表面に、第1リン酸アルミニウム及び重クロム酸塩を含む絶縁被膜が被覆された圧粉磁心用粉末からなる磁性粉を加圧成形して圧粉磁心を成形する圧粉磁心の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、別の方法として、鉄系磁性粉末を含む磁性粉を加圧成形した後の圧粉磁心に対して、500℃〜650℃の過熱水蒸気雰囲気下で、Feを含む黒錆層を形成する工程(蒸気防錆法による工程)を含む圧粉磁心の製造方法が提案されている。
特開2003−272911号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法で圧粉磁心を製造した場合であっても、成形後の圧粉磁心を成形型から脱型する際に、成形型に擦られた圧粉磁心の表面に形成された絶縁被膜が剥離することがある。この結果、絶縁被膜が剥離した圧粉磁心の表面には、磁性粒子(磁性粉末が加圧成形された粒子)の鉄が露出することになり、圧粉磁心の表面にFeを含む赤錆層が形成される(腐食する)ことになり、圧粉磁心は、充分な防錆性を得ることができない場合があった。
また、圧粉磁心は、磁性粉を加圧成形しているので内部に微細な孔を有しており、上述した蒸気防錆法を行った場合には、水蒸気が圧粉磁心の内部にまで浸透してしまう。この結果、圧粉磁心の内部の磁性粒子の表面にも、Feを含む黒錆層が形成されることがあった。この結果、磁性粒子間の絶縁性が阻害されることがあり、圧粉磁心に所望の磁気特性を得ることができない場合があった。
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、磁性粉を加圧成形して圧粉磁心に成形した後に、圧粉磁心の磁気特性を損なうことなく、圧粉磁心の表面にのみ防錆性を与えることができる圧粉磁心の製造方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決すべく、本発明に係る圧粉磁心の製造方法は、鉄系の磁性粉末に絶縁層が被覆された圧粉磁心用粉末からなる磁性粉を加圧成形して圧粉磁心に成形する工程と、前記圧粉磁心の表面に、Feを含む赤錆層を形成する工程と、前記赤錆層のFeがFeになるように、前記赤錆層を黒錆層に変質させながら、前記圧粉磁心を焼鈍する工程と、を含むことを特徴とするものである。
本発明によれば、成形工程後の脱型した圧粉磁心を腐食環境下に配置して、磁性粒子(磁性粉末が加圧成形された粒子)の表面うち圧粉磁心の表面のFeがFeとなるように、圧粉磁心の表面にFeを含む赤錆層を形成する。次に、赤錆層が形成された圧粉磁心に対して、成形工程時において発生した磁性粒子内部の残留歪を除去すべく(圧粉磁心の鉄損を向上させるべく)、圧粉磁心を加熱して焼鈍する。
ここで、この焼鈍工程において、圧粉磁心の表面に形成された赤錆層を、黒錆層に変質させる。この結果、圧粉磁心の表面に形成された黒錆層は、赤錆層が変質した層であるので剥離し難く、Feを含むので、耐食性に優れている。さらに、この黒錆層は、圧粉磁心の表面のみに形成され、Fe(マグネタイト)を含むので、圧粉磁心の磁気特性を損なうことはない。
さらに、圧粉磁心の脱型後において、絶縁層が剥離した場合であっても、剥離によりFeが露出した圧粉磁心の表面は、赤錆層が形成され、この赤錆層が黒錆層に変質するので、圧粉磁心に成形後の圧粉磁心の表面の防錆性(耐腐食性)を確保することができる。また、選択的に赤錆層を形成すれば、選択した箇所に黒錆層を形成することができるので、圧粉磁心の所望の表面に防錆処理を行うことができる。
ここで、赤錆層は、たとえば水分や酸素ガスを含む酸化雰囲気下において、成形後の圧粉磁心を放置することにより、形成することができ、赤錆層の形成方法は、特に限定されるものではない。
また、赤錆層を黒錆層に変質するのは、赤錆層中のFeをFeにすることにより、達成することができるが、例えば、この変質は、赤錆層を加熱したり、還元ガスと共に加熱したりことにより行うことができ、赤錆層が黒錆層に変質することができるのであれば、特にその方法は限定されるものではない。
このような還元ガスとしては、例えば、水素ガス、窒素ガス、一酸化炭素ガスなどを挙げることができるが、水素ガスの場合には、以下に示す反応が生じることになる。
3Fe+H→2Fe+H
この場合、反応後に水が生成されるため、圧粉磁心内部の微細な孔に、水分が浸透し、圧粉磁心の内部に酸化物が形成されるおそれがある。また、一酸化炭素ガスを用いた場合には、圧粉磁心の表層が浸炭されるおそれがある。そこで、より好ましくは、本発明に係る圧粉磁心の製造方法は、焼鈍工程を窒素ガス雰囲気下で行う。本発明によれば、還元ガスに窒素ガスを用いることにより、無酸素雰囲気下において、圧粉磁心の内部を参加させることなく、赤錆層を黒錆層に好適に変質させることができる。
また、本発明によれば、前記焼鈍工程を、前記窒素ガスの露点を−40℃以下にして行うことがより好ましい。本発明によれば、焼鈍工程において、例えば窒素ガス雰囲気下において、窒素ガスの露点を−40℃以下にすることにより、圧粉磁心の鉄損の増加を抑制できるばかりでなく、磁性粉末の成形後の磁性粒子間において、鉄酸化物の生成を抑制することができる。この結果として、磁性粒子間の導通は抑制され、圧粉磁心の電磁気特性を向上させることができる。
すなわち、窒素ガス雰囲気下において窒素ガスの露点が−40℃を超えた場合には、上述した鉄酸化物の生成により、圧粉磁心の電磁気特性が悪化する傾向にある。
ここで、本発明にいう露点(温度)とは、気体中の水蒸気が飽和に達して結露する温度であり、例えば、相対湿度100%のときの周囲温度である。窒素ガス雰囲気下の水分量が少ないと、この露点温度が低くなる。一方、窒素ガス雰囲気下の水分量が多いと、この露点温度が高くなる。すなわち、窒素ガス雰囲気下に水分がどの程度含有されているかを示す指標であって、露点温度と窒素ガス雰囲気自体の温度とは無関係である。露点温度の測定は、熱処理を実施する炉体へ導入及び排出する窒素ガスの出入口において、ガス圧が1気圧の条件下で行われることが好ましく、本発明でいう露点は1気圧下(0.1MPa)における値を意味する。
本発明にいう絶縁層は、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、または、シリコーン樹脂などの高分子樹脂などの樹脂からなり、より好ましくは、シリコーン樹脂である。そして、絶縁層が、前記絶縁層はシリコーン樹脂からなる場合には、前記焼鈍工程を、露点を−40℃以下にして、500℃以上900℃未満の加熱条件で前記圧粉磁心を加熱することにより行うことがより好ましい。
本発明によれば、焼鈍工程において圧粉磁心を加熱温度500℃以上で、シリコーン樹脂の一部を、SiとOを含む(SiOも含む)シリケート化合物にすることができるので、圧粉磁心の絶縁抵抗をさらに向上させることができる。また、窒素囲気下において露点を−40℃以下にすることにより、磁性粉末の成形後の磁性粒子間において、鉄酸化物(Fe等)の生成を抑制することができ、圧粉磁心の磁気特性を向上させることができる。
すなわち、加熱温度が500℃未満の加熱温度領域において、露点を−40℃以下に管理して圧粉磁心の焼鈍を行っても、加熱温度領域が、500℃以上で、露点が−40℃よりも大きくなってしまうと、鉄酸化物が生成されてしまう。また、加熱温度が900℃以上の場合には、シリケート化合物が破壊されてしまい、圧粉磁心の鉄損が増加する場合にある。
なお、本発明でいう、加熱条件とは、圧粉磁心に焼鈍を行うための目標となる加熱温度の条件のことをいい、この加熱温度まで昇温し、一般的には、それ以降、所定の時間、圧粉磁心を均熱する熱処理温度のことをいう。
また、本発明でいう磁性粉末とは、透磁性を有する粉末のことをいい、鉄系の軟磁性金属粉末が、好ましく、例えば、鉄(純鉄)、鉄−シリコン系合金、鉄−窒素系合金、鉄−ニッケル系合金、鉄−炭素系合金、鉄−ホウ素系合金、鉄−コバルト系合金、鉄−リン系合金、鉄−ニッケル−コバルト系合金、または、鉄−アルミニウム−シリコン系合金などが挙げられる。また、磁性粉末は、水アトマイズ粉末、ガスアトマイズ粉末、または粉砕粉末等を挙げることができ、加圧成型時におけるシリコーン樹脂からなる絶縁層の破壊の抑制を考慮した場合、粉末の表面に凹凸の少ない粉末を選定することがより好ましい。また、磁性粉末の平均粒径が10〜450μmの範囲にあることが好ましい。
シリコーン樹脂を被覆する方法としては、例えば、有機溶媒にシリコーン樹脂を有機溶媒で希釈化した溶液に、磁性粉末を投入後、攪拌混合して、溶液を揮発乾燥させて、磁性粉末を被覆することができるが、均一かつ均質にシリコーン樹脂からなる絶縁層を被覆することができる方法であれば、特のその方法は限定されるものではない。
また、本発明に係る圧粉磁心の製造方法は、圧粉磁心用粉末からなる磁性粉を成形型内に充填し、温間金型潤滑成型法により加圧成型することがより好ましい。温間金型潤滑成型法で圧粉磁心に加圧成型することにより、従来の室温成型に比べてより高い圧力で圧粉磁心に成型することができる。
上述したような絶縁性及び電磁気特性に優れた前記圧粉磁心は、ハイブリッド車や電気自動車の駆動用電動機を構成するステータやロータ、電力変換機を構成するリアクトル用のコア(リアクトルコア)に好適である。
本発明によれば、磁性粉を加圧成形して圧粉磁心に成形した後に、圧粉磁心の磁気特性を損なうことなく、圧粉磁心の表面にのみ防錆性を与えることができる圧粉磁心を得ることができる。
図1は、本実施形態に係る圧粉磁心の製造方法を説明するための図であり、図1(a)は、本実施形態に係る圧粉磁心用粉末の模式図を示しており、図1(b)は、圧粉磁心に成形する工程を説明するための図であり、図1(c)は、圧粉磁心の表面に赤錆層を形成する工程を説明するための図であり、図1(d)は、圧粉磁心を焼鈍する工程を説明するための図。 熱処理条件によるシリコーン樹脂からシリケート化合物が生成される現象を説明するための図。 実施例3及び比較例3の、交流抵抗の測定結果を示した図。 実施例2及び比較例2の電磁特性を示した図であり、(a)は、インダクタンスの測定結果を示した図であり(b)は、交流抵抗の測定結果を示した図。 実施例3及び比較例3の鉄損の測定結果を示した図。
以下に、図面を参照して、本発明に係る圧粉磁心の製造方法の実施形態に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る圧粉磁心の製造方法を説明するための図であり、図1(a)は、本実施形態に係る圧粉磁心用粉末の模式図を示しており、図1(b)は、圧粉磁心に成形する工程を説明するための図であり、図1(c)は、圧粉磁心の表面に赤錆層を形成する工程を説明するためも図であり、図1(d)は、圧粉磁心を焼鈍する工程を説明するための図である。
図1(a)に、示すように、圧粉磁心に成形するための圧粉磁心用粉末4は、磁性粉末2に、高分子樹脂絶縁層3が被覆されたものである。磁性粉末2は、鉄系の粉末であり、具体的には、鉄とシリコンが合金化された鉄−シリコン系合金の粉末、または、鉄−アルミニウム−シリコン系合金の粉末である。この磁性粉末2は、平均粒径が10〜450μmのガスアトマイズ又は水アトマイズにより製造されたアトマイズ粉末、又は合金インゴットをボールミル等で粉砕した粉砕粉である。
高分子樹脂絶縁層3は、圧粉磁心10の磁性粒子(成形後の磁性粉末)間の電気的絶縁を確保するための高分子樹脂からなる層であり、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂、または、シリコーン樹脂などの高分子樹脂を挙げることができるが、本実施形態ではシリコーン樹脂からなる層であることが好ましい。このような高分子樹脂絶縁層3は、例えば、シリコーン樹脂を有機溶媒で希釈化した溶液に、磁性粉末2をして投入後、混合し、この溶液を乾燥させることにより得ることができる。
次に、図1(a)に示した圧粉磁心用粉末4からなる磁性粉(圧粉磁心用粉末4の集合物)を、図1(b)に示すように、成形用金型30へ充填し、この磁性粉を加圧成形する成形工程を経て、圧粉磁心10が得られる。成形用金型へ充填する磁性粉は、上記圧粉磁心用粉末に、シラン系カップリング剤や他の絶縁剤等を添加したものであっても良い。成形用金型へ充填した磁性粉の加圧成形は、冷間、温間、熱間を問わず、粉末中に内部潤滑剤等を混合した一般的な成形法により行っても良い。しかし、圧粉磁心の高密度化による磁気特性の向上を図る観点から、本実施形態では、温間金型潤滑成型法により圧粉磁心10に成形する。これにより、成形圧力を大きくしても、成形用金型の内面と磁性粉末との間でかじりを生じたり抜圧が過大となったりせず、金型寿命の低下も抑制できる。そして、高密度な圧粉磁心を試験レベルではなく、工業レベルで量産可能となる。
成形工程における加圧の程度は、圧粉磁心の仕様や製造設備等により適宜選択されるが、温間金型潤滑成型法を用いた場合、従来の成形圧力を超越した高圧力下で成形可能である。このため、本実施形態に示す硬質なFe−Si系磁性粉末であっても、高密度な圧粉磁心を容易に得ることができる。例えば、成形圧力を980〜2000MPaとすると好適である。
ここで、本来ならば、圧粉磁心10の表面には、圧粉磁心用粉末に被覆された高分子樹脂絶縁層3に由来した被膜が形成されているが、この被膜は、圧粉磁心10を成形型から脱型した際に剥離することが多い。そこで、この高分子樹脂の被膜が剥離して鉄が露出した圧粉磁心10の表面11を酸化させて、この表面11にFeを含む赤錆層を形成する。
具体的には、図1(c)に示すように、圧粉磁心10の表面11に水を塗布し、常温・常湿の環境下で数十時間放置する。これにより、圧粉磁心10の表面11のFeを酸化させて、Feを含む赤錆層12を形成することができる。
ところで、図1(d)に示す成形工程において、磁心用粉末を加圧成形した場合、成形後の圧粉磁心の内部には残留応力や残留歪を生じる。これを除去するために、図1(c)に示す成形工程後に、圧粉磁心を加熱、徐冷する焼鈍工程を行う。
具体的には、図(d)に示すように、加熱炉51内に圧粉磁心10を配置し、窒素ガスが充填された窒素ガス供給源41から、炉内に窒素ガスを送り込み、ヒータ52を用いて炉内を昇温させ、加熱炉51内に配置された温度計53の計測温度に基づいて、圧粉磁心10の加熱温度を管理する。
このように窒素ガス雰囲気下において、圧粉磁心10の焼鈍工程を行うことにより、圧粉磁心10の表面は酸化されず、さらに、圧粉磁心10の表面に、以下に示す反応を生じさせる。
3Fe+N→2Fe+N
これにより、赤錆層のFeがFeとなり、赤錆層が黒錆層に変質することになる。圧粉磁心の表面に形成された黒錆層13は、赤錆層12が変質した層であるので剥離し難く、Feを含むので、耐食性に優れている。さらに、この黒錆層13は、圧粉磁心10の表面のみに形成され、Fe(マグネタイト)を含むので、圧粉磁心10の磁気特性を損なうことはない。
特に、本実施形態では、加熱炉51内を昇温させた時に、炉内雰囲気の露点を管理する。これは、炉内に送り込む窒素ガスが、水分を含んでいる加湿状態にあると、その水分が圧粉磁心10の内部に浸透し、その内部が酸化してしまい、所望の磁気特性がえられないからである。
そこで、好ましくは、窒素ガスを導入する前に、炉内を真空排気する。そして、炉内に、窒素ガス供給源41から、露点調整装置42、露点計43を介して、露点調整装置42で調整された窒素ガスを供給する。また、本実施形態では、加熱炉51内の出口側にも露点計44を配置しており、入口及び出口側の露点計43,44で計測される露点が略等しい状態となるように、露点を管理する。ここで、露点は、窒素ガス中の水蒸気が凝結して露になりはじめるときの温度であり、露点調整後の窒素ガスを1気圧下での状態で特定したものである。
本実施形態では、シリコーン樹脂からなる高分子樹脂絶縁層を有しており、このシリコーン樹脂は図2に示すように、焼鈍工程において、加熱温度が200℃〜300℃近傍で脱水縮合反応が起こり、シリコーン樹脂の−OH基が脱離する。さらに、加熱温度を500℃以上にすると、メチル基等の炭化水素官能基が脱離し、シリコーン樹脂が無機化して、シリケート化合物となる。このシリケート化合物を生成することにより、圧粉磁心の絶縁特性を確保することができる。
しかしながら、シリケート化合物を生成するように加熱した場合には、この加熱温度条件では、圧粉磁心10内の鉄系の磁性粒子(磁性粉末が加圧成形された粒子)間に、鉄系酸化物が生成されることがある。
そこで、本実施形態では、窒素ガス雰囲気下で、露点を−40℃以下にして、圧粉磁心の焼鈍を行う。具体的には、炉内の露点を、露点計43,44で管理すると共に、露点調整装置42で、炉内に供給する窒素ガスの露点を調整する。露点の調整方法としては、窒素ガス中の湿気(水分)を除去できる一般的な方法であり、特にその方法は限定されない。
そして、前記露点を管理した状態で、焼鈍工程において、熱処理温度として、圧粉磁心10を500℃以上、900℃未満の範囲の加熱条件で、圧粉磁心10の焼鈍を行う。この結果、圧粉磁心の保磁力が低減され、ヒステリシス損が低減される。また、交番磁界に対する追従性等の良好な圧粉磁心が得られる。なお、焼鈍工程で除去される残留歪等は、成形工程前から磁性粉末の粒子内に蓄積された歪等であっても良い。
さらに、熱処理温度(加熱温度)を500℃以上にすることにより、シリコーン樹脂の一部がシリケート化合物になるが、磁性粒子間に、鉄系酸化物が生成されない。また、熱処理温度が高い程、残留歪等は有効に除去される。また、窒素ガスが還元ガスとして作用して、赤錆層12のFeがFeになるように、前記赤錆層を黒錆層に変質させるので、圧粉磁心の防錆性を確保することが同時にできる。
しかし、熱処理温度が、900℃以上では、シリケート化合物を含む絶縁被膜が少なくとも部分的に破壊される。そこで、熱処理温度を500℃以上、900℃未満とすることにより、残留歪の除去と絶縁被膜の保護の両立を図ることができる。加熱時間(均熱時間)は、効果と経済性とから考えて、1〜300分、好ましくは5〜60分である。
このようにして得られた圧粉磁心10は、防錆特性を有しており、耐久性に優れており、さらには、交流抵抗及び鉄損を低減することができ、電磁機器に実用可能な所望のインダクタンスの範囲内にすることができ、電磁機器に好適な磁気特性を得ることができる。
また、このような圧粉磁心は、例えば、モータ(特に、コアやヨーク)、アクチュエータ、トランス、スピーカ等の各種の電磁機器に利用できる。特に、本発明の被覆された磁性粉末からなる圧粉磁心は、高磁束密度と共に焼鈍等によるヒステリシス損の低減も図れ、比較的低周波数域で使用される機器等に有効である。
以下に実施例に基づいて、本発明の圧粉磁心の製造方法を説明する。
(実施例1)
Fe−3%Siアトマイズ粉(平均粒径100μm)を準備し、所定量(1mass%)の市販のシリコーン系樹脂をエタノール等を含む有機溶媒で希釈化した溶液に、このアトマイズ粉を添加して、攪拌して混合し、乾燥させて、シリコーン樹脂が被覆された圧粉磁心用粉末を製作した。
次に成形工程を行った。具体的には、製作された圧粉磁心用粉末からなる磁性粉を所定量準備し、U型コア用の成形用金型の表面に水分散ステアリン酸リチウムを吹付けて、この金型内に磁性粉を充填し、成形圧力980〜1568MPa(具体的には1176MPa)、成形金型温度120℃〜150℃(具体的には135℃)の条件で、温間金型潤滑成型法により加圧成型した。これにより、7.0〜7.3cm(具体的には7.2cm)の密度の圧粉磁心を得た。
次に、加圧成形した圧粉磁心の表面に、純水を噴霧し、常温、常湿(25℃、40RH%)の環境下で、24時間放置して、圧粉磁心の表面を酸化させて、この表面にFeを含む赤錆層を形成した。
次に、焼鈍工程を行った。具体的には、成形後の圧粉磁心に対して、残留歪を除去し、シリコーン樹脂からシリケート化合物を得るために、図1(c)に示すような加熱炉を用いて、窒素ガス雰囲気下で、露点が−60℃で、750℃、30分の熱処理をおこない、圧粉磁心の表面の赤錆層を黒錆層に変質させると共に、圧粉磁心の焼鈍を行った。
そして、この圧粉磁心に対して、40%、85RH%の環境下で96時間放置した錆試験を行い、試験後の圧粉磁心に対して巻線後、閉回路を形成し、LCRメータ(アジレントテクノロジー社 4284A)を用いて、巻き線に10kHzの交流電流を流して、交流抵抗を測定した。この結果を、図2に示す。
(比較例1)
実施例1と同じようにして、圧粉磁心を製造した。実施例1と相違する点は、赤錆層を形成しなかった点である。そして、この圧粉磁心に対して、実施例1と同様の錆試験を行い、実施例1と同じようにして試験後の交流抵抗を測定した。この結果を図2に示す。
(参考例)
実施例1と同じようにして、圧粉磁心を製造した。実施例1と相違する点は、赤錆層を形成しなかった点である。そして、この圧粉磁心に対して、実施例1と同様の錆試験を行わずに、実施例1と同じようにして試験後の交流抵抗を測定した。この結果を図2に示す。
(結果1及び考察)
実施例1は、参考例と同じ交流抵抗値であった。すなわち、実施例1の圧粉磁心は、錆試験を行っても、圧粉磁心の表面には、赤錆の発生は認められなかった。一方、比較例1の圧粉磁心の表面には、赤錆の発生が認められ、赤錆の発生した圧粉磁心の交流抵抗値は、実施例1のものに比べて高かった。このことから、実施例1の圧粉磁心は、黒錆層が形成されたことにより、この黒錆層が、圧粉磁心の防錆性を向上させたことにより、参考例と同等の交流抵抗値となったと考えられる。
(実施例2)
実施例1と同じようにして、圧粉磁心の製造を行った。実施例1と相違する点は、露点が−60℃以下の窒素ガスに水分を付与して、炉内における窒素ガス雰囲気下で、露点が−40℃以下(−40℃、−50℃、−60℃)にした点である。
そして、この圧粉磁心に対して巻線後、閉回路を形成し、LCRメータアジレントテクノロジー社 4284A)を用いて、巻き線に10kHzの交流電流を流して、インダクタンス及び交流抵抗を測定した。この結果を、図4(a),(b)に示す。なお、図4に示す基準範囲は、磁気機器に用いるに好適な範囲である。また、このときの圧粉磁心の組織を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した。なお、この焼鈍前後の圧粉磁心を構成する化合物の組成をX線光電子分光分析装置(XPS)により分析した。
(比較例2)
実施例1と同じように、圧粉磁心用粉末の製作工程、成形工程、焼鈍工程を経て圧粉磁心を製作した。実施例1と相違する点は、焼鈍工程における露点温度を、−40℃よりも大きく(−30℃、−20℃、−5℃)した点である。
そして、実施例1と同じように、LCRメータにより、インダクタンス及び交流抵抗を測定した。この結果を図4(a),(b)に示す。また、実施例1と同じように、圧粉磁心の組織をSEMにより観察した。
(結果2及び考察)
図4(a)に示すように、実施例2のインダクタンスは、基準範囲にあるのに対して、比較例2のものは、基準範囲から外れていた。また、図3(b)に示すように、実施例2の交流抵抗は、基準範囲にあり、比較例2のものは、基準範囲から外れていた。
さらに、SEMの観察結果から、実施例2の圧粉磁心には、磁性粒子の粒界には鉄酸化物は見られなかったが、比較例2の圧粉磁心には、磁性粒子の粒界には鉄酸化物が確認された。
上記結果から、前記焼鈍工程において、窒素ガス雰囲気下で、露点が−40℃以下で熱処理した場合には、電磁気特性が向上するが、露点が−40℃を超えた場合には、磁気特性が悪化するおそれがあり、これは、粒界の鉄酸化物により磁性粒子間が導通したことによると考えられる。
また、XPSの組成分析結果より、焼鈍前の圧粉磁心には、シリコーン樹脂の存在が確認でき、焼鈍後の圧粉磁心には、シリケート化合物の存在が確認できた。この結果から、焼鈍の際に、磁性粉末に被覆されたシリコーン樹脂の一部がシリケート化合物になったと考えられる。
(実施例3)
実施例1と同じように、圧粉磁心用粉末の製作工程、成形工程、焼鈍工程(露点−40℃以下)を経て圧粉磁心を製作した。実施例1と相違する点は、熱処理温度を600℃以上900℃未満(具体的には、650℃、700℃、750℃、850℃)とした点である。そして、実施例1に示す方法と同様にして、鉄損を測定した。この結果を図5に示す。
(比較例3)
実施例1と同じように、圧粉磁心用粉末の製作工程、成形工程、焼鈍工程(露点−40℃以下)を経て圧粉磁心を製作した。実施例1と相違する点は、熱処理温度を900℃以上(具体的には、900℃)とした点である。そして、実施例1に示す方法と同様にして、鉄損を測定した。この結果を図5に示す。
(結果3及び考察)
図5に示すように、実施例3は、比較例3の鉄損に比べて、基準範囲内にあった。これは、比較例3の如く加熱温度(熱処理温度)が900℃以上の場合には、シリケート化合物が破壊されてしまい鉄損が増加したと考えられる。
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
2…磁性粉末,3…高分子樹脂絶縁層,4…圧粉磁心用粉末,10…圧粉磁心,11…表面、12:赤錆層、13:黒錆層、30…成形用金型,41…窒素ガス供給源,42…露点調整装置,43…露点計,44…露点計,51…加熱炉,52…ヒータ,53…温度計

Claims (3)

  1. 鉄系の磁性粉末に絶縁層が被覆された圧粉磁心用粉末からなる磁性粉を加圧成形して圧粉磁心に成形する工程と、
    前記圧粉磁心の表面を酸化させて、該表面にFeを含む赤錆層を形成する工程と、
    前記赤錆層のFeがFeになるように、前記赤錆層を黒錆層に変質させながら、前記圧粉磁心を焼鈍する工程と、を含むことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
  2. 前記焼鈍工程は、窒素ガス雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
  3. 前記絶縁層はシリコーン樹脂からなり、前記焼鈍工程は、前記窒素ガスの露点を−40℃以下にして、500℃以上900℃未満の加熱条件で前記圧粉磁心を加熱することにより行うことを特徴とする請求項2に記載の圧粉磁心の製造方法。
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