本発明の実施の形態について、図面を用いて以下に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細をさまざまに変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。以下に説明する本発明の構成において、同じものを指す符号は異なる図面間で共通して用いることとする。
(実施の形態1)
本形態では、単結晶シリコン基板を劈開して剥離を行う場合であっても、剥離面の平坦性を保持したまま剥離が可能とすることを目的の一とする半導体基板の製造方法について図面を参照して説明する。また本形態では、ガラス基板等耐熱温度が低い基板に単結晶半導体層を設けることを目的の一とする半導体基板の製造方法についても合わせて説明する。具体的には、半導体ウエハに線状又は矩形状のイオンビームを照射した後に、支持基板と貼り合わせて剥離する半導体基板の製造方法について説明する。
半導体ウエハ101の一の表面に窒素を含有する第1の絶縁層102を形成する(図1(A)参照)。半導体ウエハ101は、例えば単結晶シリコン基板、ゲルマニウム基板、ガリウムヒ素やインジウムリン等の化合物半導体ウエハ等である。単結晶シリコン基板としては、直径5インチ(125mm)、直径6インチ(150mm)、直径8インチ(200mm)、直径12インチ(300mm)サイズの円形のものが代表的である。なお、形状は円形に限られず矩形状に加工したシリコン基板を用いることも可能である。
窒素を含有する第1の絶縁層102は、後に半導体ウエハ101の一部を支持基板に貼り合わせて単結晶構造を有する半導体層(以下、「単結晶半導体層」と記す)を設けた際に、支持基板側からの不純物汚染を防ぐ目的で設けておくことが好ましい。すなわち、窒素を含有する第1の絶縁層102は支持基板に含まれる可動イオンや水分等の不純物が単結晶半導体層に拡散することを防ぐためのバリア層として機能する。従って、不純物汚染が問題とならない場合には、窒素を含有する第1の絶縁層102は省略することも可能である。
窒素を含有する第1の絶縁層102は、プラズマCVD法、スパッタリング法等を用いて窒化シリコン層、窒化酸化シリコン層又は酸化窒化シリコン層を単層構造又は積層構造で形成する。窒素を含有する第1の絶縁層102は、50nm乃至200nmの範囲で設けることが好ましい。例えば、半導体ウエハ101側から酸化窒化シリコン層、窒化酸化シリコン層を積層させて窒素を含有する第1の絶縁層102とすることができる。
なお、酸化窒化シリコン膜とは、その組成として、窒素よりも酸素の含有量が多いものであって、濃度範囲として酸素が55〜65原子%、窒素が1〜20原子%、シリコンが25〜35原子%、水素が0.1〜10原子%の範囲で含まれるものをいう。また、窒化酸化シリコン膜とは、その組成として、酸素よりも窒素の含有量が多いものであって、濃度範囲として酸素が15〜30原子%、窒素が20〜35原子%、シリコンが25〜35原子%、水素が15〜25原子%の範囲で含まれるものをいう。
半導体ウエハ101の表面から所定の深さにイオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンを電界で加速して注入し、分離層103を形成する(図1(B)参照)。当該イオンのイオンビームの断面形状は半導体ウエハ101の全面を照射する面状として行うとイオンの注入濃度と深さを均一にすることができるので好ましい。また、当該イオンのイオンビームの断面形状を矩形若しくは線状とし、半導体ウエハ101の全面を走査するように注入しても同様な効果を得ることができる。
半導体ウエハ101として円形のシリコンウエハを用いる場合には、シリコンウエハの直径より大きくなるように線状又は矩形状のイオンビーム105を形成し、イオンビーム105の短尺方向に半導体ウエハ101を相対的に移動させることによって、半導体ウエハ101の所定の深さにイオンを導入することができる(図3(A)参照)。また、半導体ウエハ101の形状は円上に限られない。例えば、正方形又は長方形状に加工された複数のシリコンウエハを支持体106上に配置させて支持基板への貼り合わせを行う場合には、複数のシリコンウエハに同時に線状のイオンビーム105を照射することによってイオンの導入を行ってもよい(図3(B)参照)。
線状又は矩形状のイオンビームを照射して半導体ウエハ101にイオンを導入することによって、大面積に一括にイオンの導入を行う場合と比較して、イオンの注入分布を均一にすることができる。これは、大面積に一括にイオンの導入を行う場合には二次元(長尺方向及び短尺方向)でのイオンの注入分布の均一性が要求されるが、線状又は矩形状のイオンビームを走査してイオンの導入を行う場合には長尺方向における均一性のみが要求されるためである。
半導体ウエハ101に線状又は矩形状のイオンビーム105を照射する場合には、イオンビーム105の短尺方向に半導体ウエハ101を相対的に移動させることに半導体ウエハ101の全面にイオンの導入を行うが、半導体ウエハ101を移動させる構成としてもよいし、イオンビームを走査させる構成としてもよい。
イオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンは、水素プラズマを生成し、該プラズマ中に生成されるイオンを質量分離せず、そのまま電界で加速するこにより注入するイオンドーピング装置を用いて行うことができる。イオンドーピング装置を用いることにより、大面積の半導体ウエハに対しても生産性良くイオンを注入することができる。
また、イオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンは、水素プラズマを生成し、該プラズマ中に生成されるイオンを質量分離して、半導体ウエハに注入するイオン注入装置を用いて行うこともできる。この場合、イオン源から引き出されるイオンビームの断面形状を矩形若しくは線状とすることで大面積の半導体ウエハに対しても生産性良くイオンを注入することができる。
イオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンは、代表的にはH3 +イオンである。例えば、イオン源に水素を導入し、フィラメントに直流電力を印加してプラズマを生成することにより、H3 +のイオンを得ることができる。フィラメントの熱電子を使って水素プラズマを生成することで、H3 +イオンの割合をイオン種(H+、H2 +)よりも高めることができるので好ましい。H3 +イオンを注入することで、H+、H2 +を注入するよりもイオンの注入効率が向上し、ドーズ量が少なくても水素を高濃度に注入することができる。
イオンビーム105に、イオン種H+、H2 +、H3 +の総量に対してH3 +イオンが50%以上含まれるようにすることが好ましい。H3 +イオンの割合は80%以上がより好ましい。このようにH3 +の割合を高めておくことで、分離層103には1×1020atoms/cm3以上の水素を含ませることが可能である。分離層103には、好ましくは5×1020atoms/cm3以上の水素を含ませることが好ましい。半導体ウエハ101に局所的に高濃度の水素注入領域を形成すると、結晶構造が失われ微小な空孔が形成されるため、分離層103は多孔質構造となっている。そのため、比較的低温(600℃以下)の熱処理によって分離層103に形成された微小な空洞の体積変化が起こり、分離層103に沿って、半導体ウエハ101を劈開することができる。
イオンの注入は、後に半導体ウエハ101から分離されて支持基板に転置される単結晶半導体層の膜厚を考慮して行う。好ましくは、単結晶半導体層の膜厚が5nm乃至500nm、より好ましくは10nm乃至200nmの厚さとなるようにする。イオンをドープする際の加速電圧及びイオンのドーズ量は、転置する単結晶半導体層の膜厚を考慮して適宜選択する。本形態のようにH3 +イオンを主として注入する場合、H3 +イオンは質量がH+イオンよりも重いので、半導体ウエハ101の表面から浅い領域に分離層103を形成することができる。それにより、CMPプロセスのような研磨工程が不要となる。また、劈開面が頗る平坦になるので、1000℃を超えるような高温の熱処理を行い平坦化を行う工程が不要となる。
次に、半導体ウエハ101上に窒素を含有する第1の絶縁層102を介して第2の絶縁層104を形成する(図1(C)参照)。第2の絶縁層104は、支持基板との接合層として機能し、半導体ウエハ101が支持基板と接合を形成する面に設ける。単層構造としても積層構造としてもよいが、支持基板と接合する面(以下、「接合面」とも記す)が平滑面を有し親水性表面となる絶縁層を用いることが好ましい。
平滑面を有し親水性表面を形成できる絶縁層としては、水素を含有する酸化シリコン、水素を含有する窒化シリコン、酸素と水素を含有する窒化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコン等を適用することができる。
水素を含有する酸化シリコンとしいては、例えば有機シランを用いて化学気相成長法により作製される酸化シリコンは好ましい。有機シランを用いて形成された第2の絶縁層104、例えば酸化シリコン膜を用いることによって、支持基板と単結晶半導体層との接合を強固にすることができるためである。有機シランとしては、テトラエトキシシラン(TEOS:化学式Si(OC2H5)4)、テトラメチルシラン(TMS:化学式Si(CH3)4)、テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリエトキシシラン(SiH(OC2H5)3)、トリスジメチルアミノシラン(SiH(N(CH3)2)3)等のシリコン含有化合物を用いることができる。
水素を含有する窒化シリコンは、シランガスとアンモニアガスを用いてプラズマCVD法により作製することができる。前記ガスに水素が加えられていても良い。酸素と水素を含有する窒化シリコンは、シランガスとアンモニアガスと亜酸化窒素ガスを用いてプラズマCVD法で作製することができる。いずれにしても、プラズマCVD法、減圧CVD法、常圧CVD法等の化学気相成長法により、シランガス等を原料ガスとして用いて作製される酸化シリコン、酸化窒化シリコン、窒化酸化シリコンであって水素が含まれるものであれば適用することができる。化学気相成長法による成膜では、半導体ウエハ101に形成した分離層103から脱ガスが起こらない程度の温度を適用する。例えば、成膜温度を350℃以下とすることが好ましい。なお、半導体ウエハ101から単結晶半導体層を剥離する加熱処理は、化学気相成長法による成膜温度よりも高い加熱処理温度が適用される。いずれにしても第2の絶縁層104として、平滑面を有し、水酸基が付いた表面を有するものであれば良い。
次に、半導体ウエハ101と支持基板107とを貼り合わせる(図1(D)参照)。半導体ウエハ101上に形成された第2の絶縁層104の表面と支持基板107の表面とを密着させることにより接合が形成される。この接合は、水素結合やファン・デル・ワールス力が作用している。水素結合は、基板表面が親水性であること、水酸基や水分子が接着剤として働き、熱処理で水分子が拡散し、残留成分がシラノール基(Si−OH)を形成して水素結合で接合を形成する。さらにこの接合部は、水素が抜けることでシロキサン結合(O−Si−O)が形成されることで共有結合になり、半導体ウエハ101と支持基板107の接合が強固なものとなる。
支持基板107は、絶縁表面を有する基板を用いる。例えば、アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスのような電子工業用に使われる各種ガラス基板、石英基板、セラミック基板、サファイア基板が挙げられる。好ましくは支持基板107としてガラス基板を用いるのがよく、例えば第6世代(1500mm×1850mm)、第7世代(1870mm×2200mm)、第8世代(2200mm×2400mm)といわれる大面積のマザーガラス基板を用いる。大面積のマザーガラス基板を支持基板107として用いて半導体基板を製造することで、半導体基板の大面積化が実現できる。その結果、1枚の基板から製造できる表示パネルの数(面取り数)を増大させることが可能となり、生産性を向上させることができる。
アルミノシリケートガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラスのような電子工業用に使われる各種ガラス基板の表面は、研磨面を有しているものを用いると平坦性が頗る良好であり好ましい。ガラス基板の研磨面と半導体ウエハ、若しくは半導体ウエハに形成さえれた第2の絶縁層とを接合させることにより、接合不良を低減することができる。ガラス基板の研磨は、例えば酸化セリウム等で行えば良い。研磨処理をすることで、ガラス基板の主表面における端部領域を含む略全面に半導体ウエハを貼り合わせることができる。
また、支持基板107と第2の絶縁層104との接合を良好に行うために、接合面を活性化しておいてもよい。例えば、接合を形成する面の一方又は双方に原子ビーム若しくはイオンビームを照射する。原子ビーム若しくはイオンビームを利用する場合には、アルゴン等の不活性ガス中性原子ビーム若しくは不活性ガスイオンビームを用いることができる。その他に、プラズマ照射若しくはラジカル処理を行うことで接合面を活性化することもできる。このような表面処理により、400℃以下の温度であっても異種材料間の接合を形成することが容易となる。
第2の絶縁層104を介して支持基板107と半導体ウエハ101を貼り合わせた後(図2(A)参照)は、加熱処理と加圧処理の一方又は両方を行うことが好ましい。加熱処理や加圧処理を行うことにより支持基板107と半導体ウエハ101の接合強度を向上させることが可能となる。加熱処理の温度は、支持基板107の耐熱温度以下で行う。加圧処理は、接合面に垂直な方向に圧力が加わるように行い、支持基板107及び半導体ウエハ101の耐圧性を考慮して行う。
加熱処理を行い分離層103を劈開面として半導体ウエハ101の一部を支持基板107から剥離する(図2(B)参照)。加熱処理の温度は第2の絶縁層104の成膜温度以上、支持基板107の耐熱温度以下で行うことが好ましい。例えば400℃乃至600℃の加熱処理を行うことにより、分離層103に形成された微小な空洞の堆積変化が起こり、当該分離層103に沿って劈開する。第2の絶縁層104は支持基板107と接合しているので、支持基板107上には半導体ウエハ101と同じ結晶性の単結晶半導体層108が残存することとなる。
以上の工程により、支持基板107上に第2の絶縁層104を介して単結晶半導体層108が設けられた半導体板が得られる。
特定の質量のイオンを選択的に半導体ウエハ等に注入するイオン注入法を用いた場合には、イオンの注入分布が不均一となり、剥離して得られる単結晶半導体層108の劈開面は粗面化する。その表面を平坦化するために化学的機械的研磨CMP又はガラス基板の耐熱温度以上で熱処理を行う必要がある。一方、本形態で示しように、線状又は矩形状のイオンビームを照射して形成された剥離層を用いて半導体ウエハを劈開することにより得られる単結晶半導体層108の劈開面は比較的平坦なものとなる。本形態では、イオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンを半導体ウエハ101に注入することにより、単結晶半導体層108の劈開面が比較的平坦になる。従って、従来必要であった1000℃を超えるような高温の熱処理や、CMPによる平坦化処理を省略することができる。このような場合においても、酸素濃度が10ppm以下の不活性気体中(例えば、窒素雰囲気下、希ガス雰囲気下等)のレーザアニールにより表面を滑らかにする処理を行うことは好ましい。
従って、支持基板としてガラス基板等の耐熱温度が低い基板を用いた場合であっても、実用に耐えうる単結晶半導体層を備えた半導体基板を得ることができる。また、大面積のガラス基板に単結晶半導体層を貼り合わせた場合であっても、CMP工程を省略することができるため、低コスト化、スループットの向上を図ることができる。また、剥離した半導体ウエハ101の剥離面も平坦であるため、化学的機械研磨処理の工程や高温での熱処理を行うことなく再利用することが可能となる。
また、支持基板107に複数の半導体ウエハ101を配列させて、支持基板107上に単結晶半導体層108を設けることも可能である。この場合、半導体ウエハ101の大きさに依存せず大型の半導体装置を作製することが可能となる。
(実施の形態2)
本形態は、実施の形態1と同様の課題を目的とし、半導体基板における単結晶半導体層の結晶面を{110}面とした場合について説明する。
図4は単結晶シリコンの単位格子、シリコン原子及び結晶面の関係を示す。ここで、図4(A)は{110}面のうち代表例として(110)面の様子を示し、図4(B)は{100}面のうち代表例として(100)面の様子を示すが、簡単のため、それぞれの結晶面に関与しないシリコン原子については、その一部を省略している。なお、図4においてはシリコンを例に挙げて説明しているが、本形態はこれに限定して解釈されるものではない。
図4(A)及び(B)より、単結晶シリコンの単位格子において、(110)面のシリコン原子の平面の面密度は(100)面のシリコン原子の面密度より大きいことが分かる。(110)面では原子が密に配列しているため、その他の面を用いる場合と比較して、半導体ウエハから分離された単結晶半導体層の劈開面の平坦性が向上する。すなわち、(110)面の単結晶シリコン層を用いることで、CMPや平坦化のための熱処理工程を省略することができる。なお、(110)面は(100)面と比較してヤング率が大きく、劈開しやすいというメリットも有している。
次に、結晶面が{110}面である半導体ウエハを用いた半導体基板の製造方法に関して図面を参照して説明する。本形態では、支持基板側に接合層として機能する絶縁層を設ける場合について説明する。
結晶面が{110}面である半導体ウエハ101上に保護層として機能する第3の絶縁層109を形成する。半導体ウエハ101として、代表的にはシリコンウエハが用いられる。第3の絶縁層109を介して、線状又は矩形状のイオンビーム105を半導体ウエハ101に照射することによって、半導体ウエハ101の表面から所定の深さにイオンを注入し、分離層103を形成するする(図5(A)参照)。
第3の絶縁層109は、酸化シリコン、窒化シリコン、窒化酸化シリコン、酸化窒化シリコン等から選択された一又は複数の材料を用いて形成することができる。第3の絶縁層109は単層構造でも良いし積層構造でも良い。第3の絶縁層109の形成方法としては、化学気相成長法(CVD法)やスパッタ法、熱酸化法、熱窒化法等により形成することができる。厚さは10nm乃至200nm程度とすることが好ましい。第3の絶縁層109を設けることにより、イオンの注入による半導体ウエハ101の表面(後の単結晶半導体層の表面)の荒れを防止できる。
分離層103の形成方法の詳細については実施の形態1を参照できるため、ここでは省略する。分離層103の形成後には、第3の絶縁層109を除去しても良いが、第3の絶縁層109を残存させた場合には下地絶縁層として機能させることが可能である。いずれにしても、半導体ウエハ101の表面から所定の深さにイオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンを電界で加速して注入し、分離層103を形成する。
次に、表面上に窒素を含有する第1の絶縁層102と接合層として機能する第2の絶縁層104が形成された支持基板107と、半導体ウエハ101とを貼り合わせる(図5(B)参照)。窒素を含有する第1の絶縁層102は、支持基板に含まれる可動イオンや水分等の不純物が拡散することを防ぐためのバリア層として機能する。窒素を含有する第1の絶縁層102は、CVD法やスパッタリング法等を用いて窒化シリコン層、窒化酸化シリコン層又は酸化窒化シリコン層を単層構造又は積層構造で形成する。窒素を含有する第1の絶縁層102は、50nm乃至200nmの範囲で設けることが好ましい。例えば、支持基板107側から酸化窒化シリコン層、窒化酸化シリコン層を積層させて窒素を含有する第1の絶縁層102とすることができる。
第2の絶縁層104は、有機シランを原料ガスに用いた化学気相成長法により成膜される酸化シリコン層を用いることができる。他にも、シランを原料ガスに用いた化学気相成長法により成膜される酸化シリコン層又は酸化窒化シリコン層を適用することもできる。また、第2の絶縁層104を介して支持基板107と半導体ウエハ101を貼り合わせた後は、加熱処理と加圧処理の一方又は両方を行うことが好ましい。加熱処理や加圧処理を行うことにより支持基板107と半導体ウエハ101の接合強度を向上させることが可能となる。加熱処理の温度は、支持基板107の耐熱温度以下で行う。加圧処理は、接合面に垂直な方向に圧力が加わるように行い、支持基板107及び半導体ウエハ101の耐圧性を考慮して行う。
次に、加熱処理を行い分離層103を劈開面として半導体ウエハ101の一部を支持基板107から剥離する(図5(C)参照)。加熱処理の温度は第2の絶縁層104の成膜温度以上、支持基板107の耐熱温度以下で行うことが好ましい。例えば、400℃乃至600℃の加熱処理を行うことにより、分離層103に形成された微小な空洞の堆積変化が起こり、当該分離層103若しくはその近傍で劈開する。第2の絶縁層104は支持基板107と接合しているので、支持基板107上には半導体ウエハ101と同じ結晶性の単結晶半導体層108が残存することとなる。
以上により、{110}面を主表面とする単結晶半導体層108を有する半導体基板が得られる。{110}面における原子の面密度は、他の結晶面と比較して大きいため、絶縁層と単結晶半導体層との密着性が向上する。すなわち、単結晶半導体層の剥離を抑制することができる。
また、{110}面では上記のように原子が密に配列しているため、その他の面を用いる場合と比較して、作製した半導体基板における単結晶半導体層の平坦性が向上する。さらに、イオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンを用い断面形状が線状又は矩形のイオンビームで形成された剥離層を利用して半導体ウエハ101を劈開することによって、剥離された単結晶半導体層108の表面をより平坦にすることができる。その結果、化学的機械研磨処理の工程や高温での熱処理を行わない場合であっても、本形態で得られる単結晶半導体層108を用いて作製したトランジスタは優れた特性を有することになる。
なお、本形態で示した半導体基板の作製方法は、実施の形態1で示した作製方法と適宜組み合わせることができる。
(実施の形態3)
本形態では、実施の形態1及び2と同様の課題を目的とし、上記実施の形態と異なる半導体基板の作製方法に関して図面を参照して説明する。
半導体ウエハ101を硫酸過水(SPM)、アンモニア過水(APM)、塩酸過水(HPM)、希フッ酸(DHF)等を適宜使って洗浄した後、半導体ウエハ101の熱酸化を行うことにより酸化膜110を形成する(図6(A)参照)。
熱酸化はドライ酸化で行っても良いが、酸化雰囲気中にハロゲンを添加した酸化を行うことが好ましい。ハロゲンを含むものとしてはHClが代表例であり、その他にもHF、NF3、HBr、Cl2、ClF3、BCl3、F2、Br2等から選ばれた一種又は複数種を適用することができる。このような熱酸化の例としては、酸素に対しHClを0.5〜10体積%(好ましくは3体積%)の割合で含む雰囲気中で、900℃〜1150℃の温度(代表的には1000℃)で熱酸化を行うと良い。処理時間は0.1〜6時間、好ましくは0.5〜1時間とすれば良い。形成される酸化膜の膜厚としては、10nm〜1000nm(好ましくは50nm〜200nm)、例えば100nmの厚さとする。
このような温度範囲で熱処理を行うことで、半導体ウエハ101に対してハロゲン元素によるゲッタリング効果を得ることができる。ゲッタリング効果としては、特に金属不純物を除去する効果が得られる。すなわち、塩素の作用により、金属等の不純物が揮発性の塩化物となって気相中へ離脱して除去される。半導体ウエハ101の表面を化学的機械研磨(CMP)処理したものに対しては有効である。また、水素は半導体ウエハ101と酸化膜110の界面の欠陥を補償して界面の局在準位密度を低減する作用を奏する。
酸化膜110はハロゲンが含まれることにより、外因性不純物である重金属を捕集して単結晶半導体層が汚染されることを防止する効果を奏する。代用的な重金属としてはFe、Cr、NiでありMoがさらに含まれる場合があり、これらは単結晶半導体層に対し、質量分離されないイオンをドーピングして分離層を形成する過程で導入される。すなわち酸化膜110は酸化雰囲気中にHCl等を添加した酸化を行うことで、膜中にハロゲンを含ませることが出来、それにより重金属等単結晶半導体層に悪影響を与える不純物がゲッタリングされるという効果を得ることができる。
酸化膜110を形成した後に行われる熱処理により、単結晶半導体層に含まれる不純物としての金属は酸化膜110に析出し、ハロゲン(例えば塩素)と反応して捕獲されることとなる。それにより酸化膜110中に捕集した当該不純物を固定して半導体ウエハ101の汚染を防ぐことができる。すなわち、酸化膜110は、半導体のライフタイムキラーとなる金属元素を捕獲して再拡散させないことにより、トランジスタの高性能化を図ることができる。
熱酸化により形成される酸化膜110中にはハロゲンが含まれる。ハロゲンは1×1017/cm3〜5×1020/cm3の濃度で含まれることにより金属等の不純物を捕獲して半導体ウエハ101の汚染を防止する保護膜としての機能を発現させることができる。
次に、酸化膜110を介して、イオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンであって線状又は矩形状の断面形状を有するイオンビーム105を半導体ウエハ101に照射する。それによって、半導体ウエハ101の表面から所定の深さにイオンを注入し、分離層103を形成するする(図6(B)参照)。なお、分離層103の形成方法の詳細については実施の形態1を参照できるため、ここでは省略する。
イオンを注入する際に、質量分離をしないイオンドーピング装置を用いる場合には、水素イオンの他に金属イオンも同時に半導体ウエハ101に注入される場合がある。金属イオンは質量が大きいので、イオンが注入される側の極表面に多く分布する。本形態では半導体ウエハ101の表面に酸化膜110が形成されている。この酸化膜110の膜厚を金属イオンの注入深さよりも厚く形成することで、当該金属の分布を酸化膜110中に止めておくことができる。酸化膜110はHCl酸化等によって膜中にハロゲンを含ませることにより、重金属等半導体ウエハ101に悪影響を与える不純物をゲッタリングする作用がある。それにより酸化膜110中に捕集した当該不純物を固定して半導体ウエハ101の汚染を防ぐことができる。この場合、イオンを注入する工程の後に、酸化膜110の表層部をエッチングしても良い。酸化膜110の表層部をエッチングすることで、その領域に留まっている重金属等の不純物を除去することができる。
酸化膜110上に窒素を含有する第1の絶縁層102を形成し、当該第1の絶縁層102上に接合層として機能する第2の絶縁層104を形成する(図6(C)参照)。窒素を含有する第1の絶縁層102、第2の絶縁層104は、上記実施の形態1で示した作製方法や材料を用いて形成すればよい。
半導体ウエハ101と支持基板107とを貼り合わせる(図6(D)参照)。半導体ウエハ101上に形成された第2の絶縁層104の表面と支持基板107の表面とを密着させることにより接合が形成される。その後、加熱処理を行い分離層103を劈開面として半導体ウエハ101の一部を支持基板107から剥離することによって、半導体基板を作製することができる。
本形態によれば、イオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンを半導体基板に注入することにより、該半導体基板の表面から浅い領域に半導体層を劈開するための分離層を形成することができる。それにより、CMPプロセスのような研磨工程が不要となる。また、劈開面が頗る平坦になるので、1000℃を超えるような高温の熱処理を行い平坦化を行う工程が不要となる。すなわち、ガラス基板等耐熱温度が低い基板を用いた場合にも、実用に耐えうる半導体層を備えた半導体基板を提供することが可能となる。さらに、酸化雰囲気中にハロゲンを添加した酸化を行うことにより半導体ウエハに対して汚染物質となる不純物を効果的に除去することができる。
なお、本実施の形態で示した半導体板の作製方法は、実施の形態1及び2で示した作製方法と適宜組み合わせることができる。
(実施の形態4)
本形態では、実施の形態1乃至3においてイオンビーム105を生成するための装置の構成について例示する。
図7は、イオン源において生成された複数種のイオンを質量分離しないて半導体ウエハ101に注入するイオンドーピング装置の構成を説明する概略図である。イオン源130にはイオン源ガス供給部131から水素等、所定のガスが供給される。イオン源130にはフィラメント132が備えられている。フィラメント電源133はフィラメント132へアーク放電電圧を印加し、フィラメント132に流れる電流を調節する。
なお、図7ではイオン源130にフィラメント132が複数設けられた構成を示し、各フィラメントに対応してフィラメント電源133が設けられている構成を示している。このような構成は、線状又は矩形状のイオンビームを形成する場合に有利な構成となる。すなわち、線状又は矩形状のイオンビームの長手方向に沿ってフィラメント132をイオン源130に配置することにより、該イオンビームの均一性を向上させることができる。フィラメント132に電力を供給するフィラメント電源133を電源制御部134によって個別に制御することで、個々のフィラメント132に流れる電流を個別に制御すことができる。
イオン源130で生成されたイオンは、引き出し電極系136によって引き出され、イオンビーム105を形成する。イオンビーム105は試料台137に載置された半導体ウエハ101に照射される。イオンビーム105に含まれるイオン種の割合は試料台137に設けられた質量分析管138によって計量される。質量分析管138をイオンビーム105の長手方向に沿って備えておくことで、イオンビーム105のイオン強度分布を測定することができる。質量分析管138によって計数されたイオン密度は質量分析計139で信号変換され、その結果を電源制御部134にフィードバックさせるようにしても良い。イオンビーム105にイオン強度の不均一性がある場合には、電源制御部134がフィラメント132のフィラメント電源133を個別に制御して調節するようにすれば良い。
イオン源130に水素を導入し、フィラメント132に直流電力を印加してアーク放電を生成することにより、H3 +のイオンを得ることができる。この場合、複数のフィラメント132をイオン源130に設け、線状又は矩形状のイオンビームの長手方向に沿って配列させることで、イオンビームの均一性及び注入イオンの均一性を高めることができる。その結果、半導体ウエハ101に対して均一性良くイオンを注入することができる。また、イオンビーム105のイオン強度分布を、試料台137(若しくは試料台137の近傍)に設けた質量分析管138により計数し、計数値をフィラメント132の電源制御部134側にフィードバックさせることにより、イオンビーム105の均一性の良い状態を長時間維持することができる。
図8は、イオン源において生成された複数種のイオンを質量分離して半導体ウエハ101に注入するイオン注入装置の構成を説明する概略図である。イオン源143には、アークチャンバ140、引き出し電極系136、ソースマグネット141が備えられている。
アークチャンバ140にはイオン源ガス供給部131から水素等のガスが供給され、フィラメント132により放電が起こり、イオンが生成される。フィラメント132はフィラメント電源133により電流等が制御される。ソースマグネットは、電子の飛距離を長くして、イオン化効率を上げるために設けられている。
引き出し電極系136によりアークチャンバ140から引き出されたイオンビームは、アナライザユニット142に入射する。アナライザユニット142は、多種類のイオンの中から必要なイオンのみを取り出すされる。そのイオンが半導体ウエハ101に照射される。
図8はイオン注入装置の基本的な構成を示している。このような構成の装置により得られるイオンビームは、点状に半導体ウエハ101に照射されるので、半導体ウエハの全面にイオンを注入する場合には、イオンビームと半導体ウエハを相対的に移動させる必要がある。一方、図9に示すように、複数のイオン源143を配列させることで線状又は矩形状のイオンビームを生成することも可能である。
いずれにしても、イオン源143に水素を導入し、フィラメント132に直流電力を印加してアーク放電を生成することにより、水素イオンを生成することができる。その水素イオンの中からH3 +のイオンをアナライザユニット142により取り出すことで、H3 +イオンを選択的に半導体ウエハに注入することができる。それにより、他の不純物イオンの汚染を受けずに分離層を半導体ウエハに形成することができる。H3 +を注入することにより、半導体ウエハの表面より浅い領域に、高濃度に水素を含む分離層を、効率よく形成することができる。
(実施の形態5)
実施の形態1乃至4による半導体基板を用いて作製される半導体装置について図面を参照して説明する。なお本形態は、信頼性の高い半導体装置を作製することを目的の一としている。
第4の絶縁層111が形成された支持基板107に、第2の絶縁層104を介して単結晶半導体層108が設けられている(図10(A)参照)。単結晶半導体層108の膜厚は5nmから500nm、好ましくは10nmから200nm、より好ましくは10nmから60nmの厚さとすることが好ましい。単結晶半導体層108の厚さは、半導体ウエハに対し、H3 +イオンを主としてドーピングして分離層を形成することで薄く形成することができる。単結晶半導体層108にはしきい値電圧を制御するために、硼素、アルミニウム、ガリウム等のp型不純物を添加しても良い。例えば、p型不純物として硼素を1×1016cm−3以上1×1018cm−3以下の濃度で添加されていても良い。
支持基板107に第4の絶縁層111を設けることで、単結晶半導体層108の汚染を防ぐことができる。なお、窒化シリコン層に換えて、窒化酸化シリコン層、窒化アルミニウム層、窒化酸化アルミニウム層を適用しても良い。
単結晶半導体層108をエッチングして、半導体素子の配置に合わせて島状に分離した単結晶半導体層108を形成する(図10(B)参照)。単結晶半導体層108をエッチングすることにより、その下層にある窒素を含有する第1の絶縁層102、第2の絶縁層104もエッチングされる場合がある。そのような場合でも、第4の絶縁層111を残存させるようにこのエッチング処理を行うことが好ましい。窒素を含有する第1の絶縁層102は単結晶半導体層108の下地に位置することで、単結晶半導体層108を汚染等から保護する作用がある。第4の絶縁層111を支持基板107の表面が露出しないように残存させておくことで、前述したように汚染を防止することができる。
単結晶半導体層108上にが露出した後ゲート絶縁層112、ゲート電極113、サイドウオール絶縁層114を形成し、第1不純物領域115、第2不純物領域116を形成する(図10(C)参照)。第5の絶縁層117は窒化シリコンで形成し、ゲート電極113をエッチングするときのハードマスクとして用いる。
ゲート電極113の上層に、パッシベーション層118を窒化シリコン、窒化酸化シリコンで形成する。そして、層間絶縁層119を形成する。層間絶縁層119はBPSG(Boron Phosphorus Silicon Glass)膜を成膜するか、ポリイミドに代表される有機樹脂を塗布して形成する(図10(D)参照)。パッシベーション層118は、単結晶半導体層108の外側の領域で、第4の絶縁層111と接するように設ける。ゲート電極113、ゲート絶縁層112及び単結晶半導体層108は、パッシベーション層118と第4の絶縁層111で包まれることにより、トランジスタの特性に悪影響を及ぼす汚染物質としての不純物から遮断される。すなわち、窒化シリコン膜又は窒化酸化シリコン膜によりゲート電極113、ゲート絶縁層112及び単結晶半導体層108の上層側及び下層側を被覆することで半導体装置の信頼性を高める構成とすることができる。
層間絶縁層119にコンタクトホールを形成し、第1不純物領域115と配線121を接続する埋め込みプラグ120を形成する。埋め込みプラグ120はタングステン又はタングステンシリサイドによって形成すれば良い。配線121は、例えばアルミニウム若しくはアルミニウム合金で形成し、上層と下層にはバリアメタルとしてモリブデン、クロム、チタン等の金属膜で形成するれば良い(図11参照)。
このように、支持基板107に接合された単結晶半導体層108を用いて電界効果トランジスタを作製することができる。本形態に係る単結晶半導体層108は、結晶方位が一定の単結晶半導体であるため、均一で高性能な電界効果トランジスタを得ることができる。すなわち、本形態の構成によれば、閾値電圧や移動度等トランジスタ特性として重要な特性値の不均一性を抑制し、高性能化を図ると共に高信頼性化を達成することが可能となる。
図12は本形態に係る半導体装置の一例として、マイクロプロセッサ200の一例を示す。このマイクロプロセッサ200は、演算回路201(Arithmetic logic unit;ALUともいう。)、演算回路制御部202(ALU Controller)、命令解析部203(Instruction Decoder)、割り込み制御部204(Interrupt Controller)、タイミング制御部205(Timing Controller)、レジスタ206(Register)、レジスタ制御部207(Register Controller)、バスインターフェース208(Bus I/F)、読み出し専用メモリ209、及びメモリインターフェース210(ROM I/F)を有している。
バスインターフェース208を介してマイクロプロセッサ200に入力された命令は命令解析部203に入力され、デコードされた後に演算回路制御部202、割り込み制御部204、レジスタ制御部207、タイミング制御部205に入力される。演算回路制御部202、割り込み制御部204、レジスタ制御部207、タイミング制御部205は、デコードされた命令に基づき各種制御を行う。具体的に演算回路制御部202は、演算回路201の動作を制御するための信号を生成する。また、割り込み制御部204は、マイクロプロセッサ200のプログラム実行中に、外部の入出力装置や周辺回路からの割り込み要求を、その優先度やマスク状態から判断して処理する。レジスタ制御部207は、レジスタ206のアドレスを生成し、マイクロプロセッサ200の状態に応じてレジスタ206の読み出しや書き込みを行う。タイミング制御部205は、演算回路201、演算回路制御部202、命令解析部203、割り込み制御部204、レジスタ制御部207の動作のタイミングを制御する信号を生成する。例えばタイミング制御部205は、基準クロック信号CLK1を元に、内部クロック信号CLK2を生成する内部クロック生成部を備えており、クロック信号CLK2を上記各種回路に供給する。なお、図12に示すマイクロプロセッサ200は、その構成を簡略化して示した一例にすぎず、実際にはその用途によって多種多様な構成を備えることができる。
このようなマイクロプロセッサ200は、絶縁表面を有する支持基板に接合された結晶方位が一定の単結晶半導体層によって集積回路が形成されているので、処理速度の高速化のみならず低消費電力化を図ることができる。
次に、非接触でデータの送受信を行うことのできる演算機能を備えた半導体装置の一例について図13を参照して説明する。図13は無線通信により外部装置と信号の送受信を行って動作するコンピュータ(以下、「RFCPU」という)の一例を示す。RFCPU211は、アナログ回路部212とデジタル回路部213を有している。アナログ回路部212として、共振容量を有する共振回路214、整流回路215、定電圧回路216、リセット回路217、発振回路218、復調回路219と、変調回路220を有している。デジタル回路部213は、RFインターフェース221、制御レジスタ222、クロックコントローラ223、インターフェース224、中央処理ユニット225、ランダムアクセスメモリ226、読み出し専用メモリ227を有している。
このような構成のRFCPU211の動作は概略以下の通りである。アンテナ228が受信した信号は共振回路214により誘導起電力を生じる。誘導起電力は整流回路215を経て容量部229に充電される。この容量部229はセラミックコンデンサーや電気二重層コンデンサー等のキャパシタで形成されていることが好ましい。容量部229はRFCPU211と一体形成されている必要はなく、別部品としてRFCPU211を構成する絶縁表面を有する基板に取り付けられていれば良い。
リセット回路217は、デジタル回路部213をリセットし初期化する信号を生成する。例えば、電源電圧の上昇に遅延して立ち上がる信号をリセット信号として生成する。発振回路218は定電圧回路216により生成される制御信号に応じて、クロック信号の周波数とデューティー比を変更する。ローパスフィルタで形成される復調回路219は、例えば振幅変調(ASK)方式の受信信号の振幅の変動を二値化する。変調回路220は、送信データを振幅変調(ASK)方式の送信信号の振幅を変動させて送信する。変調回路220は、共振回路214の共振点を変化させることで通信信号の振幅を変化させている。クロックコントローラ223は、電源電圧又は中央処理ユニット225における消費電流に応じてクロック信号の周波数とデューティー比を変更するための制御信号を生成している。電源電圧の監視は電源管理回路230が行っている。
アンテナ228からRFCPU211に入力された信号は復調回路219で復調された後、RFインターフェース221で制御コマンドやデータ等に分解される。制御コマンドは制御レジスタ222に格納される。制御コマンドには、読み出し専用メモリ227に記憶されているデータの読み出し、ランダムアクセスメモリ226へのデータの書き込み、中央処理ユニット225への演算命令等が含まれている。中央処理ユニット225は、インターフェース224を介して読み出し専用メモリ227、ランダムアクセスメモリ226、制御レジスタ222にアクセスする。インターフェース224は、中央処理ユニット225が要求するアドレスより、読み出し専用メモリ227、ランダムアクセスメモリ226、制御レジスタ222のいずれかに対するアクセス信号を生成する機能を有している。
中央処理ユニット225の演算方式は、読み出し専用メモリ227にOS(オペレーティングシステム)を記憶させておき、起動とともにプログラムを読み出し実行する方式を採用することができる。また、専用回路で演算回路を構成して、演算処理をハードウェア的に処理する方式を採用することもできる。ハードウェアとソフトウェアを併用する方式では、専用の演算回路で一部の処理を行い、残りの演算をプログラムを使って中央処理ユニット225が実行する方式を適用することができる。
このようなRFCPU211は、絶縁表面を有する基板若しくは絶縁基板上に接合された結晶方位が一定の単結晶半導体層によって集積回路が形成されているので、処理速度の高速化のみならず低消費電力化を図ることができる。それにより、電力を供給する容量部229を小型化しても長時間の動作を保証することができる。図13ではRFCPUの形態について示しているが、通信機能、演算処理機能、メモリ機能を備えたものであれば、ICタグのようなものであっても良い。
(実施の形態6)
本形態では、実施の形態1乃至3において、半導体ウエハに注入されるイオン、すなわちイオン化した水素であって質量がプロトンよりも重い水素イオンの濃度分布について説明する。
イオンドーピング装置を用いて半導体ウエハ(結晶方位が(100)であるシリコンウエハ)に水素イオンを添加する実験を行い、その二次イオン質量分析の結果データに基づき添加されるモデルをいくつか設定し、深さ方向に対する水素イオンの数及び欠陥の数を計算した。また、モデルのサイズを(x軸,y軸,z軸)=(800nm,800nm,1200nm)として計算した。なお、x軸及びy軸は、シリコンウエハ平面に対応し、z軸は深さ方向に対応する。また、実験に用いたイオンドーピング装置は、イオンの添加分布を均一化するためにシリコンウエハを回転させている。
膜厚100nmの第2の絶縁層104が設けられている面側から半導体ウエハ101に対して、種々のイオンを注入した場合、イオン数と、イオンがシリコンウエハ中の原子(シリコン原子や酸素原子)と衝突することによって生じる欠陥の数を、モンテカルロ法で計算した。また、加速電圧は、80keVとして計算を行った。なお、第2の絶縁層104は、珪酸エチルの有機シランガスを用いて得られたアモルファス構造の酸化シリコン膜である。
図14(A)は、H3 +イオンが加速電圧80keVによって加速され、半導体ウエハ101の表面、即ち、第2の絶縁層104表面で分離されて3つのH+イオンとなる第1のモデル図を示している。第1のモデル図に基づき、計算した深さ方向に対するイオンの数及び欠陥の数を示すグラフが図14(B)に相当する。なお、グラフの横軸である深さは、100nmの酸化シリコン膜(第2の絶縁層104)を含めた表面からの深さを示している。
また、図15(A)は、H3 +イオンが加速電圧80keVによって加速され、そのまま半導体ウエハ中に添加される第2のモデル図を示している。第2のモデル図に基づき、計算した深さ方向に対するイオンの数及び欠陥の数を示すグラフが図15(B)に相当する。
また、図16(A)は、H+イオンが加速電圧80keVによって加速され、そのまま第1の半導体ウエハ中に添加される第3のモデル図を示している。第3のモデル図に基づき、計算した深さ方向に対するイオンの数及び欠陥の数を示すグラフが図16(B)に相当する。
図16(B)からH+イオンは深く添加され、水素濃度のピークが800nm付近に位置していることが読み取れる。また、最も深い所では、表面から1100nmを超える深さまで水素が添加されており、浅い領域から深い領域にまで広い範囲で添加されていることが読み取れる。このことは、ウエハ面内で添加されるイオン注入濃度のばらつきが生じる原因となる恐れがある。
また、図15(B)からH3 +イオンは浅く添加され、水素濃度のピークが150nm付近に位置していることが読み取れる。また、最も深い所では、表面から200nmを超える深さまでしか水素が添加されていない。また、欠陥の数のピークも水素濃度のピークとほぼ同じ150nm付近に位置していることから、表面付近の原子(シリコン原子や酸素原子)と衝突していると考えられる。H3 +イオンの水素イオン同士の結合エネルギーは22.6eV程度であり、加速電圧80keVに比べて限りなく小さいため、実際には、ほとんどのH3 +イオンは衝突した段階でそれぞれ3つのH+イオンに分離されると考えられる。
従って、図14(A)に示した第1のモデル図が実際のH3 +イオンの添加時の挙動に近いと考えている。図14(B)からは、H+イオンの結果である図16(B)と比べて浅く添加され、水素濃度のピークが400nm付近に位置していることが読み取れる。また、最も深い所では、表面から600nmを超える深さまでしか水素が添加されていない。第3のモデル図に基づく計算結果に比べて第1のモデル図の計算結果よりも浅い領域に添加されているのは、3つのH+イオンに分離する際に解離エネルギーとして運動エネルギーが使われたためと考えられる。
また、ここでは、加速電圧80keVの計算結果を示したが、加速電圧の数値を調節することで水素の濃度ピークの位置を調節できることは言うまでもない。また、第2の絶縁層を100nmの酸化シリコン膜とした計算結果を示したが、膜厚を調節することで、単結晶半導体層の膜厚を調節することができることは言うまでもない。単結晶半導体層の膜厚は、5nm乃至500nm、好ましくは10nm乃至200nmの厚さとする。従来のイオン注入法を用いる半導体基板の作製方法では、剥離後に研磨やエッチングを行って膜厚を薄くする処理を行わなければ、このような膜厚にすることは困難である。半導体ウエハは高価であり、研磨やエッチングによって薄膜化することは材料のロスに繋がる。また、剥離後に研磨やエッチングを行ったとしても従来のイオン注入法を用いる半導体基板の作製工程と比べて短時間で研磨やエッチングを行うことができる。また、剥離後に研磨やエッチングを行ったとしても同様に材料のロスを低減することができる。また、剥離した第1の半導体ウエハの残りは、再利用することができるため、残りの膜厚が厚ければ厚いほど、1枚の第1の半導体ウエハからより多くの半導体基板を作製することができる。