JP5248539B2 - 便蓋およびこれを備えた衛生洗浄装置 - Google Patents

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Description

本発明は、便器に取り付けられた便座を覆うために設けられる便蓋と、この便蓋を備えた衛生洗浄装置に関する。
腰掛式便器(以下、単に「便器」と略す。)または当該便器に設置された衛生洗浄装置、便座装置、局部洗浄装置等(以下、衛生洗浄装置等と称する。)の付属機器には、使用者が着座する便座と、当該便座を覆う便蓋とが設けられている。これら便座および便蓋は、それぞれ起立位置と倒伏位置との間で、それぞれ別個に、または、両者一緒に回動可能となっている。このうち便蓋としては、一般に、樹脂組成物の成形体(以下、適宜「樹脂成形体」と称する。)が広く用いられている。
便蓋は、倒伏位置で便座(および便器内部)を覆うものであることから、使用者は倒伏位置で便蓋の表面(外面)を目視することになる。したがって、便蓋には、少なくとも表面の外観が良好(以下、「外観良好性」と称する。)であることが求められる。
従来から、便蓋の外観良好性を得るための種々の技術が提案されている。例えば、特許文献1には、便蓋を含む便器付属品において、その表面に滑らかさを確保しつつ耐久性に富む装飾を施すことを目的とする技術が開示されている。具体的には、特許文献1に開示の便座付属品は、合成樹脂からなる本体に、透明性を有する基材の裏面に印刷インキからなる印刷層が形成されたシートを、前記基材の表面を前記本体の表面に露出させて一体成形した構成を有している。
また、特許文献2には、局部洗浄装置において、使用時の物体および人体の接触による傷付きを防止するとともに露出構成部品の高外観・高質感を長期間維持できることを目的とする技術が開示されている。具体的には、特許文献2に開示の局部洗浄装置は、当該局部洗浄装置を構成する少なくとも一部材の表面に、当該部材の部材樹脂表面よりも硬い高硬度層を有するフィルムもしくはシートを設けた構成を有している。
なお、便蓋等の部材の表面に、装飾を加える技術としては、各種塗料または被覆材料を塗装する技術が広く知られている。この技術は、特許文献1または2のように、便蓋等の部材の表面に、フィルムまたはシートを積層することで、被覆層を形成するのではなく、塗装によって被覆層を形成するものである。
特開2002−017612号公報 特開2002−010952号公報
ここで、各種塗料等を塗装する技術、あるいは、特許文献1または2に開示されるような、フィルムまたはシートを積層する技術は、いずれも便蓋を製造する上で、製造コストの増加を招くことになる。
すなわち、前者の技術では、塗料または被覆材料が別途必要になることに加え、塗装方法の種類によらず、塗装工程が確実に追加される。また、後者の技術では、便蓋本体の材料となる樹脂組成物以外に、フィルムまたはシートという「表面材料」を必要とすることに加え、前者の技術のように、工程を追加する必要がある。この場合、製造コストの増加だけでなく、製造工程の煩雑化を招くおそれがある。
具体的には、特許文献1および2のいずれにおいても、成形型の内部にフィルムまたはシートを成形型の内部に直接設置して射出成形する手法が開示されている。ただし、特許文献2においては、高硬度層を有するフィルムもしくはシートを、部品と同様の形状にあらかじめプリフォーム成形して、当該プリフォーム成形体を金型内に設置後、射出成形にて成形する手法が開示されている。この手法は、複雑な形状に対応することを目的としているが、便蓋でこのような手法を用いた場合には、少なくともプリフォーム成形に関する工程が追加される。射出成形前にプリフォーム成形を行うということは、成形型により表面材料を予め成形することになる。したがって、便蓋等を成形する上で、成形に関わる諸工程が繰り返されることになり、単に製造コストを上昇させるだけでなく、工程の煩雑化も招く。
また、特許文献1には特に開示がないが、当該特許文献1のように、表面材料である「加飾シート」の表面に図柄、模様、文字等の装飾が印刷されている場合には、特許文献2に開示されるようなプリフォーム成形を行うことが好ましい。つまり、便座または便蓋が平坦な形状を有しているとはいえ、シートを一体成形すれば、当該シートが加熱および加圧により延伸するおそれがある。シートの延伸は、印刷されている図柄等の変形を招く。そこで、シートをプリフォーム成形した上で、射出成形することにより、このような事態は回避されるが、やはり、プリフォーム成形に関する工程が追加される。
そこで、本発明者らは、前記のような複数層の構成ではなく、一層の構成で表面の外観良好性を向上させる技術を検討した。その結果、樹脂組成物にフィラーを添加して射出成形する技術の採用に到達した。この技術であれば、フィラーの種類を変更することにより、例えば便蓋の表面にメタリック感またはパール感(まとめて光輝感と称する。)を与えることができ、また、公知の顔料等を併用することにより、表面の種々の色彩を与えることができる。
ところが、フィラーの使用によって新たな課題が発生することが明らかとなった。すなわち、光輝感を与えるべく選択したフィラーを用いて、射出成形により便蓋を製造した場合、当該便蓋において、特に前方側面部にはウェルドラインが現れる。このウェルドラインは、これまでの便蓋でも発生していたものと判断されるが、特に光輝感を与えるためにフィラーを添加した場合には、目視で明確に認識できる程度に現れるため、便蓋の外観良好性が大幅に低下することになる。
一般的な樹脂成形体においては、ウェルドラインの発生を回避したり、あるいは、ウェルドラインを目視できない箇所に局所的に発生させたりする等の技術が知られている。しかしながら、便蓋の成形に関しては、ウェルドラインの発生による外観良好性の低下を回避する技術は何ら知られていなかった。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、便器または衛生洗浄装置等に設けられる樹脂成形体としての便蓋において、ウェルドラインの発生による外観良好性の低下を有効に回避することを目的とする。
本発明に係る便蓋は、前記の課題を解決するために、射出成形にて成形される樹脂組成物の成形体であって、少なくとも便座を覆うための形状を有し、縦方向の両端部である先端部および後端部、並びに、これら両端部をつなぐ一対の側部を有し、前記先端部の外周形状が放物線状または弧状に突出する形状となっている蓋本体と、前記先端部および両方の前記側部の外周に連続的に設けられ、前記蓋本体の表面から裏面に向かって立ち上がる形状となっている側壁部と、を備え、前記蓋本体の前記後端部の中央部には、前記射出成形時における前記樹脂組成物の注入口が設定され、さらに、前記蓋本体における横方向の中央部には、前記後端部から前記先端部の手前まで縦方向に沿って帯状に延伸している部位であって、前記蓋本体の他の部位よりも厚みが大きくなっている部位である、肉厚部が設けられている構成である。
前記構成によれば、蓋本体に後端部から延伸する肉厚部が設けられており、肉厚部に接するように後端部の中央部に樹脂組成物の注入口が設定されている。これにより、便蓋を射出成形する際には、成形型内での溶融した樹脂組成物の流れは、後端部から肉厚部に対応する領域に沿って速やかに流動し、当該肉厚部に対応する領域から周囲の領域に広がることになる。それゆえ、先端部近傍で樹脂組成物の流れが集中することがなく、その結果、少なくとも先端部の近傍でウェルドラインの出現を有効に低減することができる。
前記便蓋においては、前記構成に加えて、前記肉厚部の外周の少なくとも一部には、徐々に厚みが小さくなるテーパ部が設けられていることが好ましい。これにより、肉厚部から薄肉部への樹脂組成物の流れの広がりをより円滑なものとすることができるとともに、肉厚部および薄肉部の間に大きな段差が生じることを回避できる。
前記便蓋においては、前記構成に加えて、前記側壁部における前記蓋本体につながる部位は、当該側壁部の先縁よりも厚みが大きいことが好ましい。これにより、側壁部は、蓋本体につながる付け根の部分において厚く、先縁において薄い構成となるので、全体的に厚みが同等な構成に比べて樹脂組成物の量が少なくなる。それゆえ、肉厚部の存在による樹脂組成物の増量を回避し、便蓋の重量の増加を抑制することが可能となる。
さらに、前記便蓋が備える前記側壁部においては、前記蓋本体の前記裏面に向いている面を内面としたときに、前記側壁部には、その厚みが徐々に小さくなる部位、または、その厚みが段差により変化する部位が前記内面に設けられていることがより好ましい。これにより、便蓋全体の表面は円滑な面とした上で、前記のとおり側壁部の厚みを変化させることが可能となる。
前記便蓋においては、前記樹脂組成物は、フィラーまたは公知の他の添加剤を含んでもよいが、中でも、成形体に光輝感を与えるフィラー(光輝製フィラー)を含むことが好ましい。これにより、便蓋の表面を塗装したり被覆したりせずに、当該便蓋の表面に光輝感を与えることができるだけでなく、肉厚部を有することからウェルドラインの出現が低減されるので、光輝感を有する便蓋の外観良好性がウェルドラインによって低下するおそれを有効に回避することができる。
本発明に係る便蓋は、当該便蓋を用いるさまざまな分野に適用することができるが、代表的な一例として、衛生洗浄装置の便蓋として適用することができる。すなわち、本発明には、前記便蓋を備える衛生洗浄装置も含まれる。
以上のように、本発明によれば、樹脂成形体である便蓋において、ウェルドラインの発生による外観良好性の低下を有効に回避することができるという効果を奏する。
本発明の実施の形態に係る便蓋の構成の一例を示す斜視図である。 (a)は、図1に示す便蓋における縦方向の断面構成を示すX−X線矢視断面図であり、(b)は、(a)における破線の円Wで囲まれた領域を拡大して示す図である。 (a)は、図1に示す便蓋における横方向の断面構成を示すY−Y線矢視断面図であり、(b)〜(d)は、図1に示す便蓋における側壁部の断面構成の一例をそれぞれ示すZ−Z線矢視断面図である。 (a)は、従来の便蓋の射出成形時において、樹脂組成物の流動の様子を点線で示す模式図であり、(b)は、図1に示す便蓋の射出成形時において、樹脂組成物の流動の様子を点線で示す模式図である。 (a)および(b)は、図1に示す便蓋の構成の他の例をそれぞれ示す斜視図である。 図1に示す便蓋を備える衛生洗浄装置の構成の一例を示す斜視図である。
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
(実施の形態1)
[便蓋の基本構成]
まず、本実施の形態に係る便蓋の基本構成について具体的に説明する。図1に示すように、本実施の形態に係る便蓋54は、板状の蓋本体41と、この蓋本体41の外周に設けられる側壁部42とを備えている。便蓋54は、便座を覆うために用いられるので、少なくとも便座に対応した形状を有している。一般に便座は、便器内につながる中空部を有する略半楕円状の環状構造であるため、便蓋54(蓋本体41)の形状も略半楕円状となっている。図1においては、便蓋54は、裏面が図中上側を向き、表面は図中下側となって図示されていない。
ここで、便蓋54は、衛生洗浄装置または便器に開閉可能に取り付けられるが、当該便蓋54が倒伏位置にある状態は、当該便蓋54が閉じた状態であり、便蓋54が起立位置にある状態が、当該便蓋54が全開した状態である。それゆえ、便蓋54の裏面とは、当該便蓋54が閉じた状態にあるときに下側(すなわち便器に向いた側)となる面を指す。また、便蓋54の表面とは、裏面の反対側の面であり、便蓋54が閉じた状態にあるときに上側となる面を指す。なお、便蓋54が倒伏位置から起立位置へ向かって回動することを「開く」と称し、起立位置から倒伏位置へ向かって回動することを「閉じる」と称する。
蓋本体41は、その長手方向を縦方向と定義し、縦方向に直交する方向を横方向と定義すれば、縦方向の両端部の一方が先端部41a、他方が後端部41bとなるとともに、これら先端部41aおよび後端部41bをつなぐ両側の部位が側部41cとなる。先端部41aは、その外周形状が放物線状または弧状に突出する形状(突出形状)となっており、後端部41bは、その外周形状が横方向に広がる形状(平坦形状)となっている。先端部41aおよび後端部41bがこのような形状を有していることで、蓋本体41は前記のとおり略半楕円形状となっている。なお、図1において破線で囲んだ部位Pgは、後端部41bの中央部であって、後述する肉厚部412に接する位置に相当するが、この部位Pgが射出成形時における樹脂組成物の注入口(射出ゲート)となる。
側壁部42は、図1に示すように、先端部41aおよび両側の側部41cの外周に連続的に設けられ、図2(a)および図3(a)に示すように、蓋本体41の表面から裏面に向かって立ち上がる壁状の部位となっている。側壁部42のみに注目すれば、蓋本体41の外周のうち後端部41bの側を除いて、その外周全体に設けられた壁状の「縁部」または「枠部」と見ることができる。なお、側壁部42の内面は蓋本体41の裏面に向いている面であり、側壁部42の外面は、蓋本体41の表面と連続して便蓋54全体の表面(外面)を形成する面である。
なお、図2(a)は、図1に示す便蓋54の縦方向の断面図、具体的には、図1におけるX−X矢視断面図に相当する。また、図3(a)は、図1に示す便蓋54の横方向の断面図、具体的には、図1におけるY−Y矢視断面図に相当する。また、図1においては、「側壁部」に対して「42」の符号を付しているだけでなく、括弧内に「45A〜45C」の符号を付記しているが、この「45A〜45C」は、後述する側壁部42の変形例を示すものである。
蓋本体41および側壁部42の具体的な構成は特に限定されず、例えば、蓋本体41は略半楕円状ではなく先端部41aが突出形状であり後端部41bが平坦形状であれば、長方形状であってもよいし、楕円形の長手方向(長径に沿った方向)の端部の一方を切り欠いたような形状であってもよい。また、後端部41bの平坦形状は、図1に示すように、横方向に直線状となっている必要はなく、先端部41aに向かってゆるやかに凹むように湾曲する形状であってもよいし、逆に、先端部41aの側からゆるやかに突出するように湾曲する形状であってもよいし、段差等を含んでいてもよい。
また、蓋本体41は、全体的には平坦な板状と見なすことができるが、実際には、図1に示すように、部分的に湾曲した部分を有している。これは、便蓋54が衛生洗浄装置または便器に取り付けられた状態で便座を覆う目的で用いられることから、便蓋54を取り付ける構造体(衛生洗浄装置の本体部または便座および便蓋の開閉機構)の種類、便座の形状等の条件に合わせて、当該便蓋54(特に蓋本体41)の形状が決定されるためである。したがって、蓋本体41の形状は、平坦な板状に限定されず、種々の湾曲部位、凹凸部位、段差部位等を含んでもよい。また、本実施の形態では、蓋本体41が、前記湾曲部位、凹凸部位、または段差部位等を含んでいても、便座を覆う二次元に広がる形状を有していることから、「板状」と称するものとする。
ここで、側壁部42の具体的な構成は、図3(a)のY−Y線矢視断面図に示すように、全体において同じ厚みとなる構成であればよいが、便蓋54の軽量化を図る点から、図3(b)〜(d)に示す側壁部45A〜45Cのように、蓋本体41への接続部位、すなわち付け根(根元)の厚みが相対的に大きく、先縁の厚みが相対的に小さい構成であると、より好ましい。つまり、側壁部45A〜45Cは、少なくとも、蓋本体41につながる部位の厚みが、その先縁の厚みよりも大きく構成されていると好ましい。なお、図3(b)〜(d)は、図1に示す便蓋54が、側壁部42ではなく括弧内に付記した側壁部45A〜45Cを備えている場合の断面図であり、具体的には、図1におけるZ−Z矢視断面図に相当する。
例えば、図3(b)に示す側壁部45Aは、その内面の中腹(付け根と先縁との中間付近)となる部位に、傾斜部451を有し、傾斜部451よりも付け根側の厚みが大きく、傾斜部451よりも先縁側の厚みが小さくなる構成となっている。また、図3(c)に示す側壁部45Bは、側壁部45Aと同様に、その内面の中腹となる部位に、段差部452を有し、段差部452よりも付け根側の厚みが大きく、段差部452よりも先縁側の厚みが小さくなる構成となっている。あるいは、図3(d)に示す側壁部45Cは、傾斜部451または段差部452を有さずに、付け根側から先縁側に向かって全体的に厚みが徐々に小さくなるテーパ形状の構成となっている。
前記いずれの構成においても、厚みが略均一な側壁部42と比較して樹脂組成物の量を低減することができるので、便蓋54の軽量化を図ることが可能となる。特に、後述するように、蓋本体41には肉厚部412が設けられているが、この肉厚部412によって樹脂組成物の量が増加しても側壁部45A〜45Cのいずれか(または類似する構成)を採用することで、樹脂組成物の増量を相殺することが可能となる。
また、後端部41bの両端に隣接する側壁部42の内面には、それぞれ筒状または管状の開閉軸部43が設けられている。これら開閉軸部43は、互いに同軸となるように側壁部42の内面に位置し、便蓋54を衛生洗浄装置または便器に回動可能に取り付けられる。開閉軸部43を衛生洗浄装置等に取り付けた状態では、使用者は、例えば便蓋54の先端部41a近傍を把持して上下させることにより、開閉軸部43が回動軸となって便蓋54が倒伏位置および起立位置の間を移動する。
また、蓋本体41において、先端部41aと側部41cとが接続している箇所のそれぞれの裏面には、脚部枠44が側壁部42の内面に接する形で設けられている。脚部枠44には、図示されない蓋状または台状の脚本体が取り付けられることで、便蓋54の脚部を構成する。この脚部は、便蓋54が閉じた状態で、当該便蓋54によって覆われる下方の便座の表面に当接する。これにより、便蓋54と便座との間に所定の間隔が形成されるので、便蓋54が閉じた状態で過剰に下方に沈み込むことがない。また、便座が暖房機能を有する「暖房便座部」であれば、脚部を除いて便蓋54の裏面が暖房便座部に直接接触しないため、便蓋54に対して暖房便座部からの熱による影響が及ばない状態で、当該暖房便座部からの放熱を抑えることができる。
開閉軸部43および脚部枠44の具体的な構成は特に限定されず、公知の形状を有していればよい。例えば、開閉軸部43は完全な円筒または円管状でなく、便蓋54が全開した状態で停止するためのストッパーとなり得る段差を有してもよい。あるいは、脚部枠44は、図1に示す構成例では、略半円状であるが、側壁部42の内面から突出する長方形状であってもよい。
このように、本実施の形態に係る便蓋54は、蓋本体41、側壁部42、開閉軸部43、および脚部枠44を備えているが、もちろんこれに限定されず、これら以外の構造部位を備えてもよい。また、本実施の形態では、便蓋54は、射出成形により成形される樹脂組成物の成形体(樹脂成形体)であるため、蓋本体41、側壁部42、開閉軸部43および脚部枠44はいずれも一体的に成形されるが、例えば、開閉軸部43または脚部枠44等は、便蓋54の形状または用途に応じて別体として製造されて蓋本体41または側壁部42に取り付けられてもよい。これら以外の構造部位についても同様である。
[肉厚部の構成および射出成形への寄与]
次に、蓋本体41の具体的な構成、特に蓋本体41に含まれる肉厚部に関して具体的に説明する。図1、図2(a)および(b)、並びに図3(a)に示すように、蓋本体41は、標準的な厚みを有する薄肉部411と、薄肉部411よりも厚みの大きい肉厚部412と、薄肉部411および肉厚部412の間に位置するテーパ部413とを有している。なお、図2(b)は、図2(a)で破線の円で示す領域Wの拡大図であり、特にテーパ部413の断面構成を示している。
薄肉部411は、図1に示すように、蓋本体41の外周側の大部分を占め、図2(b)に示すように、肉厚部412と比較して相対的に薄い厚みを有している。肉厚部412は、図1に示すように、蓋本体41の縦方向の中央となる部位に帯状に設けられ、図2(a)にも示すように、後端部41bから先端部41aの手前まで延伸している。したがって、後端部41bに接する端部(後端)を除いて、当該肉厚部412の周囲に薄肉部411が位置することになる。テーパ部413は、図2(b)および図3(a)に示すように、肉厚部412と薄肉部411との間に位置し、その厚みが肉厚部412から薄肉部411に向かって徐々に小さくなっている。
肉厚部412は、蓋本体41において単に厚みが大きいだけの部位ではなく、便蓋54を射出成形する際に、便蓋54の表面側にウェルドラインを生じにくくするために寄与する有用な部位となっている。
射出成形においては、金型等の成形型に設けられる注入口(射出ゲート、図1においては部位Pgの位置に相当)から溶融した樹脂組成物を成形型内部の内部空間(キャビティ)に注入する。図4(a)は、従来の便蓋154を射出成形する際に、当該便蓋154を前記内部空間に見立てた模式図であり、従来の便蓋154の後端部141bの中央部にゲート残り140が位置していることから明らかなように、後端部141bの中央部に前記注入口が設定されている。便蓋154を成形するための樹脂組成物は、加熱等によって溶融しているので流動性を有している。そこで、後端部141bの中央部の注入口(ゲート残り140の位置)から図中矢印Inで示す方向に溶融した樹脂組成物が注入されることで、前記内部空間内に樹脂組成物が流動して充填されていく。
ここで、従来の便蓋154の蓋本体141は、肉厚部412を有しておらず、全体的にほぼ同程度の厚みを有している。この場合、後端部141b側の1点(注入口)から樹脂組成物が注入されると、樹脂組成物は図中点線で示すように、注入口の位置(ゲート残り140の位置)を中心とする同心円状に流動する。図4(a)に示す例では、蓋本体141の縦方向の中間に対応する部位までは、樹脂組成物は同心円状に流動している。
ところが、蓋本体141の横方向の寸法は所定の長さに特定されていることから、図4(a)に示す例では、先端部141aに近づくにしたがって、樹脂組成物は同心円状に流動できなくなり、先端部141aの両側部141cの近傍では、同心円状に広がることができなかった樹脂組成物が集中する。その結果、側部141cの近傍では、他の部位と比較して樹脂組成物の流動速度が速くなり、中央部よりも前方に進んでしまう。この結果、先端部141aに樹脂組成物の流れが集中することになり、特に先端部141aの中央部から見て両外側となる領域(図中一点差線で囲んだ領域)Awでは、特に側壁部(図4(a)には図示せず)においてウェルドラインが現れやすくなる。
ウェルドラインは、流動する樹脂組成物の先端が複数会合した場所に発生する線状の痕跡である。便蓋の分野においては、ウェルドラインの発生が当該便蓋の強度に影響することはないと考えられているが、少なくとも便蓋の表面にウェルドラインが生じると、当該便蓋の外観良好性を大きく損なうことになる。
ここで、一般的なポリプロピレン樹脂に一般的な顔料等の添加剤を加えて樹脂組成物を調製し、当該樹脂組成物で便蓋を射出成形した場合、ウェルドラインが発生しても目視では確認できない。ところが、樹脂組成物に後述する光輝性フィラーが含まれている場合、成形される便蓋に対して、その外観に光輝感(メタリック感またはパール感)を与えることができる反面、ウェルドラインが目視で確認できる程度に現れることが多い。光輝性フィラーは配向を有することに加え、樹脂組成物の流れが複数会合する箇所(先端部)では、樹脂組成物の流れが複雑となった状態で、当該樹脂組成物が硬化する。そのため、先端部においては、樹脂組成物の流動方向の乱れと光輝性フィラーの配向のばらつきとによって、光輝性フィラーに当たる光の反射率が異なるため、ウェルドラインが顕著に現れることになる。
しかも、ウェルドラインとしては、目視で薄い線状程度に確認できるものから、割れていると誤認する程度に明確なものまで存在する。特に、明確なウェルドラインは、光輝感を有する便蓋の外観を著しく損ない、また、便蓋の品質そのものの低下につながる。
加えて、便蓋の先端部は、前述したように、使用者が便蓋を開閉するときに把持する部位であり、かつ、通常は使用者が便器を使用する際に最も手前側となる部位である。それゆえ、この先端部にウェルドラインが現れると、便蓋の他の表面に現れる場合と比較して、外観良好性を大きく損なってしまう。
そこで、本実施の形態では、図4(b)に示すように、蓋本体41の縦方向の中央部に帯状に肉厚部412が設けられるように、成形型の内部空間を設計している。これにより、後端部41b側の1点(注入口、図1においては部位Pgの位置に相当)から樹脂組成物が注入されると、樹脂組成物は、注入口の位置(ゲート残り40の位置)を中心とする同心円状に流動せず、肉厚部412に対応する領域において、薄肉部411に対応する領域よりも相対的に高速で流動する。
それゆえ、樹脂組成物は、先に蓋本体41の中央部を流動してから、側部41cに向かって広がるように流動する。言い換えれば、樹脂組成物は、同心円状に均等に広がるように流れるのではなく、肉厚部412に対応する領域を優先して流れることになる。これにより、先端部41aで樹脂組成物の流れが集中するようなことがなく、樹脂組成物の流れは、ほぼ同程度の速度で先端部41aの全体に渡って到達することになる。その結果、先端部41aにおいて複数の樹脂組成物の流れが集中することが有効に抑制され、特に、図4(a)における領域Awに相当する箇所(先端部41a側の側壁部42)であっても、ウェルドラインの出現を有効に低減することができる。
ここで、肉厚部412の厚みは、薄肉部411の厚みよりも大きければ特に限定されないが、後述するように肉厚部412は、射出成形時の樹脂組成物の流動に影響する部位であるため、本実施の形態では、例えば、次に示すような範囲を好ましく挙げることができる。
すなわち、肉厚部412の厚みをD1と定義し、薄肉部411の厚みをD2と定義すれば、D1およびD2は少なくとも下記の関係式(1)を満たせばよいが、好ましくは、下記の関係式(2)を満たすことが好ましく、下記の関係式(3)を満たすことがより好ましい。
D1>D2 … (1)
7/6≦D1/D2≦2 … (2)
7/6≦D1/D2≦5/3 … (3)
肉厚部412は、少なくとも薄肉部411よりも厚い構成であればよいので、前記関係式(1)を満たしていればよい。しかしながら、薄肉部411と肉厚部412とは、相対的に厚みが異なっていればよいため、肉厚部412の厚みをより一層大きくすることができ、あるいは、薄肉部411を通常よりも薄くすることもできる。
ここで、便蓋54の全体構成を鑑みたときに、肉厚部412を極端に厚くした場合、あるいは、薄肉部411の厚みを極端に薄くした場合には、便蓋54の強度のバランスが低下したり、その外観が劣ったりするおそれがある。そこで、便蓋54の具体的な構成にもよるが、前記関係式(2)を満たすことで、極端に厚みが大きくなったり小さくなったりするおそれを抑制して、強度バランスの低下、外観の劣化等を有効に回避することができる。
さらに、便蓋54の具体的な構成にもよるが、前記関係式(3)を満たすことで、肉厚部412に対する薄肉部411の厚みの比がより絞り込まれることから、肉厚部412が極端に厚くなったり、薄肉部411が極端に薄くなったりするおそれがより有効に抑制され、強度バランスの低下、外観の劣化等を有効に回避することができる。
加えて、側壁部42の厚み(図3(b)〜(d)に示す側壁部45A〜45C等のように厚みが異なる構成であれば、付け根の部分の厚み)をD3と定義したときに、D1,D2およびD3が下記の関係式(4)および(5)を満たしていれば、ウェルドラインの出現をさらに有効に低減することが可能となる。
D1/D2<7/6 … (4)
D2>D3 … (5)
前述したように、従来の便蓋154においては、その先端部141aにつながる側壁部42にウェルドラインが現れやすい。そこで、側壁部42の厚みも含めて肉厚部412および薄肉部411との関係性を考慮することがより好ましい。それゆえ、前記関係式(4)および(5)に示すように、側壁部42が薄肉部411よりも薄く、肉厚部412に対する薄肉部411の厚みの比が所定の値よりも小さければ、ウェルドラインの出現をより一層有効に低減することが可能となる。
このように肉厚部412および薄肉部411の具体的な厚みは特に限定されず、前記各関係式を満たしていれば好ましいが、具体的な一例を挙げると、従来の便蓋154(図4(a)参照)の板厚の平均値が約3mmであるとすれば、好ましい一例としては、肉厚部412の厚みD1=5mm、薄肉部411の厚みD2=2mmの例を挙げることができる。この例では、薄肉部411の厚みを従来の一般的な板厚よりも小さくなるように構成している。これによって、前記関係式(1)を満たすとともに、肉厚部412を厚くしただけ薄肉部411を一般的な板厚よりも薄くすることで、便蓋54の重量の増加を抑制することができる。さらに他の例については、後述する実施例にて具体的に例示する。
ここで、肉厚部412の具体的な構成は特に限定されない。例えば、肉厚部412の寸法(縦方向および横方向の長さ)は、成形型の内部空間において肉厚部412に対応する空間が、前述したように樹脂組成物を有効に流動させることができるように設定されていればよい。例えば、樹脂組成物の流動性が良好で、先端部41aに向かって良好に流動する場合には、肉厚部412の縦方向の寸法は相対的に短くてよいし、先端部41aに向かって流動しにくいのであれば相対的に長くてもよい。肉厚部412の横方向の寸法についても同様である。
さらに、肉厚部412の具体的な形状も特に限定されず、肉厚部412は、蓋本体41の縦方向の中央部に帯状に形成されていればよい。具体的には、図1に示す肉厚部412のように、その先端部41a側の端部が、蓋本体41の外周形状に略相似する放物線状または弧状であってもよいし、図5(a)に示す肉厚部414のように、その先端部41a側の端部が略平坦となっており、当該肉厚部414が長方形状であってもよい。あるいは、図5(b)に示す肉厚部415のように、その先端部41a側の端部が略三角形状にとがった形状であってもよい。もちろんこれら以外の形状であってもよいことは言うまでもない。
また、肉厚部412および薄肉部411の間に設けられるテーパ部413の具体的な構成も特に限定されない。テーパ部413が設けられることで、樹脂成形体である蓋本体41において、薄肉部411に対する肉厚部412の段差が急なものとならないようにできるとともに、射出成形時においては、肉厚部412に対応する空間と薄肉部411に対応する空間との間にも急な段差が形成されない。それゆえ、樹脂組成物の流れに乱れが生じるおそれを一層低減することができ、ウェルドラインの出現を有効に低減することができる。
テーパ部413は、肉厚部412および薄肉部411の間で、徐々に厚みが変わるように構成されていればよいが、その寸法(間隔)も特に限定されない。前記のとおり、樹脂成形体である蓋本体41の外観良好性を向上したり、射出成形時に樹脂組成物の流動性を良好なものとしたりできる範囲内であれば、蓋本体41の構成に応じて、所望の間隔を設定することができる。一例を挙げれば、蓋本体41の横方向の寸法が約400mmであり、肉厚部412の横方向の寸法が約80mmであるとすれば、テーパ部413の間隔は約30mmに設定することができるが、もちろんこの例に限定されないことはいうまでもない。
さらに、テーパ部413は、肉厚部412の全ての外周に設けられている必要はなく、部分的に設けられてもよい。例えば、樹脂組成物の流動性を向上するために設けた方が好ましい箇所のみにテーパ部413を設け、流動性が低下しない箇所にはテーパ部413を設けなくてもよい。
[樹脂組成物の構成]
次に、本実施の形態に係る便蓋54を成形するために用いられる樹脂組成物の構成の一例について具体的に説明する。
本実施の形態で用いられる樹脂組成物は、樹脂成分として熱可塑性樹脂を含んでいればよい。当該熱可塑性樹脂の具体的な種類は特に限定されず、便蓋54を含む衛生洗浄装置の分野で広く用いられている各種の樹脂材料を好適に用いることができる。
前記熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリカーボネート樹脂(PC)、アクリル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、フッ素樹脂等が挙げられるが特に限定されない。これら樹脂は単独で用いてもよいし、複数の樹脂を組み合わせてポリマーアロイとして用いることもできる。あるいは、アロイ化も含めた種々の変性処理を行ってもよいし、前記以外の公知の樹脂を組み合わせてもよい。
前記熱可塑性樹脂のいずれを選択するかについては、製造コスト、外観良好性、機械的物性等の諸条件を考慮した上で、適切なものを選択すればよい。一般的には、耐薬品性に優れ、成形性も良好であり、安価であることから、ポリプロピレン樹脂が特に好ましく用いられる。
本実施の形態で用いられる樹脂組成物には、前記熱可塑性樹脂に加えて、種々の添加剤が含まれてよい。具体的には、充填剤、可塑剤、内部離型剤、加水分解防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、発泡剤、無機顔料、有機顔料、無機抗菌剤、有機抗菌剤等を挙げることができる。
中でも、本実施の形態においては、便蓋54に光輝感を与える観点から、充填剤として、樹脂成形体に光輝性を与えるフィラー(光輝性フィラー)を好ましく用いることができる。前述したように、光輝性フィラーを含んだ樹脂組成物で樹脂成形体を成形すれば、部分的にウェルドラインが出現しやすくなるが、本実施の形態では、便蓋54が肉厚部412を有しているため、先端部41a、特に先端部41a近傍の側壁部42において、ウェルドラインの出現を有効に低減し、外観良好性を向上させることができる。
前記光輝性フィラーとしては、光の反射、透過、屈折等の作用により樹脂成形体に光輝感(メタリック感、パール感等)を与えるものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、アルミニウム粉、ブロンズ粉等の金属顔料;マイカ、着色マイカ、アルミナ等のパール顔料;ガラスフレーク等の他の無機フィラー;等を挙げることができる。これらフィラーは、単独で用いてもよいし、複数種類を組み合わせて用いてもよい。あるいは、これら光輝性フィラーに対して公知の顔料または染料等を組み合わせて用いることで、色調の異なる光輝感を実現することもできる。顔料としては、カーボンブラック(黒)、二酸化チタン(白)、酸化鉄(茶・赤)、紺青(青)、クロム酸亜鉛(黄)等の公知のものを挙げることができるが特に限定されない。
前記光輝性フィラーのいずれを選択するかについては、製造コスト、外観良好性、機械的物性等の諸条件を考慮した上で、適切なものを選択すればよい。一般的な光輝感を実現するのであれば、アルミニウム粉およびマイカの少なくとも一方が好ましく用いられる。これら光輝性フィラーであれば、良好な外観を与えることができるだけでなく、安価であるためコスト面からも好ましい。
また、前記光輝性フィラーにおけるアスペクト比、粒径(平均粒径、粒径の範囲)、その他の特性も特に限定されない。光輝性フィラーの場合、アスペクト比または粒径等の条件が大きく影響する。
例えば、光輝性フィラーのアスペクト比が大きいほど高い光輝感が得られる。これは、光輝性フィラーの平面部分の面積が大きいため、便蓋54に添加した場合、当該便蓋54の表皮面に対して平行に配向されやすいためである。ただし、アスペクト比の高い光輝性フィラーの配向が乱れると、光輝感の減少も大きく、かつ、ウェルドラインが出現しやすい傾向がある。一方、アスペクト比が小さいほどウェルドラインは目立ちにくくなるが、光輝感はあまり向上しない。
あるいは、光輝性フィラーの単位重量当たりの含有量が同等であれば、当該光輝性フィラーの平均粒径が小さいほど重量当たりの粒子数が多いことになる。それゆえ、粒径が小さい光輝性フィラーであれば、光輝感を高めることができる。しかも、一般に光輝性の光輝性フィラーは、同じ色合いのものであれば、粒径が小さいほど、淡い色調表現が可能となる。ただし、粒径が小さく粒子数が多ければ、ウェルドラインが目立ちやすくなる。
本実施の形態に係る便蓋54は、前述のとおり肉厚部412を有するため、射出成形時にウェルドラインの出現を抑制することが可能となる。それゆえ、添加する光輝性フィラーとしてアスペクト比が大きいもの、または、粒径が小さいもの、もしくは、両方の特性を有するものを選択することができる。これによって、より高い光輝感を有し、かつ、外観良好性の優れた便蓋54を得ることができる。
また、前記光輝性フィラーには、一般的な他の充填剤(フィラー)を組み合わせて用いることもできる。例えば、公知のガラスフィラー、カーボンフィラー等を挙げることができるが、特に限定されない。
本実施の形態で用いられる樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂および光輝性フィラーを含んでいることが好ましいが、当該樹脂組成物の具体的な組成は特に限定されない。得られる便蓋54に光輝感を与える点、光輝性フィラーの過剰な添加により機械的物性等が低下する点、または、添加量に見合う光輝感が得られない点等を考慮して、熱可塑性樹脂の種類、光輝性フィラーの種類、他の添加剤の種類等の条件に応じて適切な組成とすればよい。一例として、熱可塑性樹脂100重量部に対して、光輝性フィラーが0.2〜30重量部の範囲内を挙げることができ、好ましくは、0.2〜10重量部の範囲内を挙げることができる。また、他の成分の添加量も特に限定されず、公知の比率で添加すればよい。
本実施の形態で用いられる樹脂組成物の調製方法は特に限定されず、前記熱可塑性樹脂および光輝性フィラー、並びにその他の添加剤を、前記組成となるように混合し、射出成形機に供給すればよい。このとき、光輝性フィラー(および他の添加剤)は、熱可塑性樹脂に着色ペレットの形態で混合してもよいし、熱可塑性樹脂の種類に合わせて製造されたマスターバッチの形態として混合してもよい。
本実施の形態における樹脂成形体の製造方法、すなわち、本実施の形態に係る便蓋54の製造方法も特に限定されず、成形型(金型等)として、蓋本体41となる内部空間に、肉厚部412および薄肉部411(好ましくはテーパ部413)を有するものを用いる以外は、公知の構成の射出成形機を用い、公知の成形条件等を適用することができる。一例として、熱可塑性樹脂がポリプロピレン樹脂であり、光輝性フィラーとしてアルミニウム粉およびマイカを用いる場合には、シリンダ径φ=70mmであれば、シリンダ温度は180〜220℃の範囲内、射出圧力は60〜120MPaの範囲内、射出速度は20〜60mm/sの範囲内の条件を好ましく挙げることができる。
このように、金型等の成形型を用いて前述した樹脂組成物を樹脂成形することで便蓋54が製造される。得られた便蓋54においては、注入口の痕跡であるゲート残り40は適宜切断すればよく、必要に応じて、ゲート残り40の切断痕が目立たないように研磨等の処理を施してもよい。このような後処理がなされた便蓋54は、完成品として便座に取り付けられ、衛生洗浄装置または便器に組み込まれることになる。つまり、本発明に係る便蓋54は、基本的には、注入口の痕跡(ゲート残り40等)が目立たないように加工された状態で完成品となる。
(実施の形態2)
本実施の形態では、前記実施の形態1に係る便蓋54を備える衛生洗浄装置の一例について具体的に説明する。
図6に示すように、本実施の形態に係る衛生洗浄装置50は、本体部51、固定操作部52、便座部53、便蓋54、リモートコントローラ55、着座センサ56、および人体センサ57を備えている。衛生洗浄装置50の本体部51、便座部53および便蓋54は、一体的に組み付けられて便器60の上面に設置される。以下、便座部53に着座した使用者から見て前方を前、後方を後ろ、左右側方を左右として説明する。
本体部51には、便座便蓋開閉部を介して便座部53の後部が回動可能に支持されており、便座部53の後部には、同じく便座便蓋開閉部を介して便蓋54の後部が回動可能に支持されている。便座部53は、図示されないが、内部にヒータを備える暖房便座として構成されている。
本体部51の筐体は中空の箱状に形成されており、本体部51の右側には衛生洗浄装置50に備えられた機能のうち主要な一部を操作する固定操作部52が設けられ、本体部51の前部には着座センサ56が設けられている。
また、本体部51には、何れも図示されないが、便座部53に着座した使用者の局部へ洗浄水を噴出する洗浄ノズル、洗浄ノズルに洗浄水を供給する洗浄水供給機構、洗浄ノズルに供給される洗浄水を温める温水ヒータ、使用者の局部等を洗浄後に乾燥する乾燥ヒータ、衛生洗浄装置50の全体動作を制御する制御部等が内蔵されている。着座センサ56は、便座部53に使用者が着座したことを検出するものであり、本体部51の前部に設けられている。
リモートコントローラ55は、トイレットルーム内において便座部53に着座した使用者が操作可能な位置に設置される。このリモートコントローラ55には、衛生洗浄装置50に備えられた機能を操作するための無線操作部が、固定操作部52とは別に設けられている。リモートコントローラ55は、本体部51の制御部と無線通信可能に構成されており、リモートコントローラ55の無線操作部にて入力された操作信号は本体部51の制御部へ送信され、制御部では受信した操作信号に応じた衛生洗浄装置50の全体動作の制御を行う。人体センサ57は、トイレットルーム内に使用者が入室したことを検出するものであり、トイレットルームの壁面等に設置される。
ここで、本体部51および便座部53の外装部(筐体)は、便蓋54と同様に光輝性フィラーが添加されて射出成形されたものである。それゆえ、衛生洗浄装置50は、その表面を塗装することなく、メタリック感またはパール感等の光輝感を有するものとなっている。しかも、本実施の形態では、便蓋54が、図6に示すように、蓋本体41に肉厚部412および薄肉部411(好ましくは図示されないテーパ部413)を有する構成となっている。それゆえ、便蓋54の前方(先端部41a)においては、ウェルドラインが現れることなく便蓋54全体の外観良好性が優れたものとなっている。
なお、本実施の形態では、暖房便座機能および局部洗浄機能を有する衛生洗浄装置50を例示したが、本発明はこれに限定されず、便蓋54は、暖房便座機能のみを有する便座装置に設けられてもよいし、局部洗浄機能のみを有する局部洗浄装置に設けられてもよいし、他の構成のトイレ装置に設けられてもよいし、トイレ装置等ではなく、便器60に便座とともに取り付けられてもよい。
また、一般的な便器60は陶器製であるが、便器60を樹脂成形体で製造することもできる。この場合、少なくとも便器60の外装部を便蓋54と同様に光輝感を有する構成とすれば、衛生洗浄装置50および便器60の全体に光輝感を与えることができ、外観良好性をさらに一層向上させることができる。
次に、下記の実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
(実施例1)
樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としてポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製、製品名:J−882HV)を用い、また、光輝性フィラーとして、平均粒径20μmのアルミニウム粉(東洋アルミニウム株式会社製、製品名:METEX(R))および粒径10〜60μmのマイカ(メルク株式会社製、製品名:Iriodin100)を用いた。そして、樹脂組成物の組成は、100重量部のポリプロピレン樹脂に対して、1重量部のアルミニウム粉、および、3重量部のマイカを添加する組成に設定した。なお、この組成を重量百分率で示すと、ポリプロピレン樹脂97%、アルミニウム粉1%、およびマイカ3%に相当する。
成形型として、前記実施の形態1に係る便蓋54(図1、図4(b)他参照)に対応する内部空間(キャビティ)を有する金型を準備した。この金型においては、肉厚部412の厚みD1=5mm、薄肉部411の厚みD2=2mmとなるようにキャビティが設計されている。なお、これら厚みD1およびD2は、前記関係式(1)を満たす値である。
そして、ポリプロピレン樹脂、アルミニウム粉、およびマイカのペレットを、前記組成となるように、シリンダ径φ=70mmの射出成形機に供給した。当該射出成形機のシリンダ内で、樹脂組成物の温度を200℃となるように溶融混練することで熱可塑性ポリプロピレン樹脂組成物が調製され、これを金型温度50℃で保持された金型に対して注入口(射出ゲート)から射出した。このときの射出圧力は70MPa、射出速度は30mm/sに設定した。さらに、市販の樹脂流動解析ソフト(オートデスク株式会社製、商品名:Moldflow)を用いて、キャビティ内での溶融した樹脂組成物の流れを解析した。
その結果、キャビティ内では、肉厚部412に対応する縦中央の帯状の空間で先に樹脂組成物が流動し、この帯状の空間から周囲の空間に向かって樹脂組成物の流れが広がるという動向が確認された。なお、先端部41a側の側壁部42のうち、先端部41aの中央部から側部41c側に寄った領域(図4(a)の領域Aw参照)では、一部において熱可塑性樹脂の配向が便蓋54の表面に略平行となって配向乱れが生じていることが確認されたが、全体として見れば、配向が集中せずに略均一と見なせることが確認された。また、射出成形により得られた便蓋54は、全体的に優れた光輝感を有しており、特に、先端部41aにおいても(図4(a)の領域Aw参照)ウェルドラインの出現が有効に低減されていた。
(実施例2)
射出成形に用いる金型として、肉厚部412の厚みD1=5.1mm、薄肉部411の厚みD2=3mmとなるようにキャビティが設計されたものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして便蓋54を成形し、また、成形の過程でキャビティ内での樹脂組成物の流れを解析した。なお、前記厚みD1およびD2は、前記関係式(2)を満たす値である。
その結果、前記実施例1と同様の樹脂組成物の流動が確認された。特に、先端部41a側の側壁部42においては、熱可塑性樹脂の配向が略平行となる領域が実施例1よりも縮小していることが確認された。また、得られた便蓋54もウェルドラインの出現が有効に低減されていた。
(実施例3)
射出成形に用いる金型として、肉厚部412の厚みD1=3.6mm、薄肉部411の厚みD2=3mmとなるようにキャビティが設計されたものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして便蓋54を成形し、また、成形の過程でキャビティ内での樹脂組成物の流れを解析した。なお、前記厚みD1およびD2は、前記関係式(3)を満たす値である。
その結果、前記実施例1と同様の樹脂組成物の流動が確認された。特に、先端部41a側の側壁部42においては、熱可塑性樹脂の配向が略平行となる領域が実施例2よりも縮小していることが確認された。また、得られた便蓋54もウェルドラインの出現が有効に低減されていることに加え、肉厚部412および薄肉部411の厚みの差が小さいことから、外観良好性が向上するとともに、便蓋54の強度のばらつきも小さくなっているものと判断された。
(実施例4)
射出成形に用いる金型として、肉厚部412の厚みD1=3.4mm、薄肉部411の厚みD2=3mm、側壁部42の厚みD3=2.5mmとなるようにキャビティが設計されたものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして便蓋54を成形し、また、成形の過程でキャビティ内での樹脂組成物の流れを解析した。なお、前記厚みD1〜D3は、前記関係式(4)および(5)を満たす値である。
その結果、前記実施例1と同様の樹脂組成物の流動が確認された。特に、先端部41a側の側壁部42においては、熱可塑性樹脂の配向が略平行となる領域がほとんど確認されなかった。また、得られた便蓋54もウェルドラインの出現が有効に低減されていることに加え、肉厚部412および薄肉部411の厚みの差が小さいことから、外観良好性が向上するとともに、便蓋54の強度のばらつきも小さくなっているものと判断された。
(比較例1)
射出成形に用いる金型として、肉厚部412を有さず蓋本体141の厚みが全体的に3mmとなるようにキャビティが設計されたもの、すなわち、従来の便蓋154(図4(a)参照)を成形するための金型を用いた以外は、前記実施例1と同様にして便蓋54を成形し、また、成形の過程でキャビティ内での樹脂組成物の流れを解析した。
その結果、先端部141a側の側壁部においては、熱可塑性樹脂の配向が便蓋154の表面に略平行となる領域が全体的に確認され、また先端部141aの中央部付近では、特に配向が乱れて1点に集中するような動向が確認された。そして、得られた便蓋154では、先端部141a側の側壁部において明確に目視できるウェルドラインが現れた。
なお、本発明は前述した実施の形態および実施例の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明は、衛生洗浄装置、便座装置、トイレ装置等、便蓋を備え便器に据え付ける各種機器の分野、あるいは、便座および便蓋等を直接取り付ける便器の分野に広く好適に用いることができる。
41 蓋本体
41a 先端部
41b 後端部
42 側壁部
45A,45B,45C 側壁部
50 衛生洗浄装置
53 便座部
54 便蓋
411 薄肉部
412 肉厚部
413 テーパ部
414 肉厚部
415 肉厚部
421 傾斜部
422 段差部

Claims (7)

  1. 射出成形にて成形される樹脂組成物の成形体であって、少なくとも便座を覆うための形状を有し、
    縦方向の両端部である先端部および後端部、並びに、これら両端部をつなぐ一対の側部を有し、前記先端部の外周形状が放物線状または弧状に突出する形状となっている蓋本体と、
    前記先端部および両方の前記側部の外周に連続的に設けられ、前記蓋本体の表面から裏面に向かって立ち上がる形状となっている側壁部と、を備え、
    前記蓋本体の前記後端部の中央部には、前記射出成形時における前記樹脂組成物の注入口が設定され、
    さらに、前記蓋本体における横方向の中央部には、前記後端部から前記先端部の手前まで縦方向に沿って帯状に延伸している部位であって、前記蓋本体の他の部位よりも厚みが大きくなっている部位である、肉厚部が設けられていることを特徴とする、便蓋。
  2. 前記肉厚部の外周の少なくとも一部には、徐々に厚みが小さくなるテーパ部が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の便蓋。
  3. 前記側壁部における前記蓋本体につながる部位は、当該側壁部の先縁よりも厚みが大きいことを特徴とする、請求項1に記載の便蓋。
  4. 前記側壁部において、前記蓋本体の前記裏面に向いている面を内面としたときに、前記側壁部には、その厚みが徐々に小さくなる部位、または、その厚みが段差により変化する部位が前記内面に設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の便蓋。
  5. 前記樹脂組成物には、フィラーが含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の便蓋。
  6. 前記フィラーが成形体に光輝感を与えるものであることを特徴とする、請求項5に記載の便蓋。
  7. 請求項1ないし6のいずれか1項に記載の便蓋を備えることを特徴とする、衛生洗浄装置。
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