以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
1.焦電型赤外線検出装置
図1に示す第1還元ガスバリア膜140,280を各セルがそれぞれ備えた複数セルの焦電型赤外線検出器(広義には焦電型光検出器)200が直交二軸方向に配列された焦電型赤外線検出装置(広義には焦電型光検出装置)を、図2に示す。なお、1セル分のみの焦電型赤外線検出器にて焦電型赤外線検出装置が構成されても良い。図2において、基部(固定部ともいう)100から複数のポスト104が立設され、例えば2本のポスト104に支持された1セル分の焦電型赤外線検出器200が、直交二軸方向に配列されている。1セル分の焦電型赤外線検出器200が占める領域は、例えば30×30μmである。
図2に示すように、焦電型赤外線検出器200は、2本のポスト104に連結された支持部材(メンブレム)210と、赤外線検出素子(広義には焦電型光検出素子)220と、を含んでいる。1セル分の焦電型赤外線検出素子220が占める領域は、例えば10×10μmである。
1セル分の焦電型赤外線検出器200は、2本のポスト104と接続される以外は非接触とされ、焦電型赤外線検出器200の下方には空洞部102(図3参照)が形成され、平面視で焦電型赤外線検出器200の周囲には、空洞部102に連通する開口部102Aが配置される。これにより、1セル分の焦電型赤外線検出器200は、基部100や他のセルの焦電型赤外線検出器200から熱的に分離されている。
支持部材210は、赤外線検出素子220を搭載して支持する搭載部210Aと、搭載部210Aに連結された2本のアーム210Bとを有し、2本のアーム210Bの自由端部がポスト104に連結されている。2本のアーム210Bは、赤外線検出素子220を熱分離するために、細幅でかつ冗長に延在形成される。
図2は、上部電極に接続される配線層より上方の部材を省略した平面図であり、図2には赤外線検出素子220に接続された第1電極(下部電極)配線層222及び第2電極(上部電極)配線層224が示されている。第1,第2電極配線層222,224の各々は、アーム210Bに沿って延在され、ポスト104を介して基部100内の回路に接続される。第1,第2電極配線層222,224も、赤外線検出素子220を熱分離するために、細幅でかつ冗長に延在形成される。
2.焦電型赤外線検出器の概要
図3は、図2に示す焦電型赤外線検出器200の断面図である。また、図4は、製造工程途中の焦電型赤外線検出器200の部分断面図である。図4では、図3の空洞部102が犠牲層150により埋め込まれている。この犠牲層150は、支持部材210及び焦電型赤外線検出素子220の形成工程前から形成工程後まで存在しており、焦電型赤外線検出素子220の形成工程後に等方性エッチングにより除去されるものである。
図3に示すように、基部100は、基板例えばシリコン基板110と、シリコン基板110上の層間絶縁膜にて形成されるスペーサー層120とを含んでいる。ポスト104は、スペーサー層120をエッチングすることで形成されている。ポスト104には、第1,第2電極配線層222,224の一方に接続されるプラグ106を配置することができる。このプラグ106は、シリコン基板110に設けられる行選択回路(行ドライバー)か、または列線を介して光検出器からのデータを読み出す読み出し回路に接続される。空洞部102は、スペーサー層120をエッチングすることで、ポスト104と同時に形成される。図2に示す開口部102Aは、支持部材210をパターンエッチングすることで形成される。
支持部材210上に搭載される赤外線検出素子220は、キャパシター230を含んでいる。キャパシター230は、焦電体232と、焦電体232の下面に接続される第1電極(下部電極)234と、焦電体232の上面に接続される第2電極(上部電極)236とを含んでいる。第1電極234は、支持部材210の第1層部材(例えばSiO2)212との密着性を高める密着層234Dを含むことができる。
キャパシター230は、キャパシター230の形成後の工程で還元ガス(水素、水蒸気、OH基、メチル基など)がキャパシター230に侵入することを抑制する還元ガスバリア層(第2還元ガスバリア層)240に覆われている。キャパシター230の焦電体(例えばPZT等)232は酸化物であり、酸化物が還元されると酸素欠損を生じて、焦電効果が損なわれるからである。
還元ガスバリア層240は、図4に示すように、第1バリア層242と第2バリア層244とを含む。第1バリア層242は、例えば酸化アルミニウムAl2O3をスパッタ法により成膜して形成することができる。スパッタ法では還元ガスが用いられないので、キャパシター230が還元されることはない。第2水素バリア層244は、例えば酸化アルミニウムAl2O3を例えば原子層化学気相成長(ALCVD:Atomic Layer Chemical Vapor Deposition)法により成膜して形成すことができる。通常のCVD(Chemical Vapor Deposition)法は還元ガスを用いるが、第1層バリア層242によりキャパシター230は還元ガスから隔離される。
ここで、還元ガスバリア層240のトータル膜厚は50〜70nm、例えば60nmとする。このとき、CVD法で形成される第1バリア層242の膜厚は原子層化学気相成長(ALCVD)法により形成される第2バリア層244よりも厚く、35〜65nm例えば40nmとなる。これに対して、原子層化学気相成長(ALCVD)法により形成される第2バリア層244の膜厚は薄くでき、例えば酸化アルミニウムAl2O3を5〜30nm例えば20nmで成膜して形成される。原子層化学気相成長(ALCVD)法は、スパッタ法等と比較して、優れた埋め込み特性を有するため、微細化に対応することが可能となり、第1,第2バリア層242,244にて還元ガスバリア性を高めることができる。また、スパッタ法で成膜される第1バリア層242は第2バリア層244に比べて緻密ではないが、それが効を奏して伝熱率を下げる要因となるので、キャパシター230からの熱の散逸を防止できる。
還元ガスバリア層240上には層間絶縁膜(広義には電気絶縁層)250が形成されている。一般に、層間絶縁膜250の原料ガス(TEOS)が化学反応する際には、水素ガスや水蒸気等の還元ガスが発生する。キャパシター230の周囲に設けた還元ガスバリア層240は、この層間絶縁膜250の形成中に発生する還元ガスからキャパシター230を保護するものである。
層間絶縁膜250上に、図2にも示した第1電極(下部電極)配線層222と第2電極(上部電極)配線層224とが配置される。層間絶縁膜250には、電極配線形成前に予め、第1コンタクトホール252と第2コンタクトホール254が形成される。その際、還元ガスバリア層240にも同様にコンタクトホールが形成される。第1コンタクトホール252に埋め込まれた第1プラグ226により、第1電極(下部電極)234と第1電極配線層222とが導通される。同様に第2コンタクトホール254に埋め込まれた第2プラグ228により、第2電極(上部電極)236と第2電極配線層224とが導通される。
ここで、層間絶縁膜250が存在しないと、第1電極(下部電極)配線層222と第2電極(上部電極)配線層224をパターンエッチングする際に、その下層の還元ガスバリア層240の第2バリア層244がエッチングされて、バリア性が低下してしまう。層間絶縁膜250は、還元ガスバリア層240のバリア性を担保する上で必要である。
ここで、層間絶縁膜250は水素含有率が低いことが好ましい。そこで、層間絶縁膜250はアニーリングにより脱ガス処理される。こうして、層間絶縁膜250の水素含有率は、第1,第2電極配線層222,224を覆うパッシベーション膜260よりも低くされる。
なお、キャパシター230の天面の還元ガスバリア層240は、層間絶縁膜250の形成時にはコンタクトホールがなく閉じているので、層間絶縁膜250の形成中の還元ガスがキャパシター230に侵入することはない。しかし、還元ガスバリア層240にコンタクトホールが形成された後は、バリア性が劣化する。これを防止する一例として、例えば図4に示すように第1,第2プラグ226,228を複数層228A,228B(図4では第2プラグ228のみ図示)とし、その第1層228Aにバリアメタル層を採用している。第1層228Aのバリアメタルにより還元ガスバリア性が担保される。第1層228Aのバリアメタルは、チタンTiのように拡散性の高いものは好ましくなく、拡散性が少なくかつ還元ガスバリア性の高いチタン・アルミ・ナイトライドTiAlNを採用できる。なお、コンタクトホールからの還元ガスの侵入を絶つ方法として、図5に示すように、少なくとも第2プラグ228を包囲して還元性ガスバリア層(第3還元ガスバリア層)290を増設しても良い。この還元性ガスバリア層290は、第2プラグ228のバリアメタル228Aを併用しても良いし、バリアメタル228Aを排除しても良い。なお、還元性ガスバリア層290は、第1プラグ226を被覆しても良い。この還元性ガスバリア層290は、例えば酸化アルミニウムAl2O3を原子層化学気相成長(ALCVD)法により、膜厚20〜50nmで成膜することができる。
第1,第2電極配線層222,224を覆って、SiO2またはSiNのパッシベーション膜260が設けられている。少なくともキャパシター230の上方には、パッシベーション膜260上に赤外線吸収体(広義には光吸収部材)270が設けられている。パッシベーション膜260もSiO2またはSiNにて形成されるが、赤外線吸収体270のパターンエッチングの必要上、下層のパッシベーション膜260とはエッチング選択比が大きい異種材料とすることが好ましい。この赤外線吸収体270に赤外線が図2の矢印方向から入射され、赤外線吸収体270は吸収した赤外線量に応じて発熱する。その熱が焦電体232に伝熱されることで、キャパシター230の自発分極量が熱によって変化し、自発分極による電荷を検出することで赤外線を検出できる。なお、赤外線吸収体270はキャパシター230と別個に設けるものに限らず、キャパシター230内に赤外線吸収体270が存在する場合には不要となる。
パッシベーション膜260や赤外線吸収体270のCVD形成時に還元ガスが発生しても、キャパシター230は還元ガスバリア層240及び第1,第2プラグ226,228中のバリアメタルにより保護される。
この赤外線吸収体270を含む赤外線検出器200の外表面を覆って、還元ガスバリア層280が設けられている。この還元ガスバリア層280は、赤外線吸収体270に入射する赤外線(波長帯域は8〜14μm)の透過率を高くするために、例えば他の還元ガスバリア層、例えば還元ガスバリア層240よりも薄肉に形成される必要がある。このために、原子の大きさレベルで膜厚が調整できる原子層化学気相成長(ALCVD)法が採用される。通常のCVD法では厚すぎて赤外線透過率が悪化してしまうからである。本実施形態では、例えば酸化アルミニウムAl2O3を10〜50nm、例えば20nmの厚さで成膜して形成される。上述の通り、原子層化学気相成長(ALCVD)法は、スパッタ法等と比較して、優れた埋め込み特性を有するため、微細化に対応して原子レベルで緻密な膜を形成することが可能となり、薄くても還元ガスバリア性を高めることができる。
また、基部100側では、空洞部102を規定する壁部、つまり空洞部102を規定する底壁100Aと側壁104Aには、焦電型赤外線検出器200を製造する過程で空洞部102に埋め込まれていた犠牲層150(図4参照)を等方性エッチングするときのエッチングストップ膜130が形成されている。同様に、支持部材210の下面(犠牲層150の上面)にもエッチングストップ膜140が形成されている。本実施形態では、エッチングストップ膜130,140と同一材料により還元ガスバリア膜280を形成している。つまり、エッチングストップ膜130,140も還元ガスバリア性を有することになる。このエッチングストップ膜130,140は、例えば酸化アルミニウムAl2O3を原子層化学気相成長(ALCVD)法により、膜厚20〜50nmで成膜することができる。よって、このエッチングストップ膜130,140もまた還元ガスバリア性を有することができる。
エッチングストップ膜140が還元ガスバリア性を有することで、犠牲層150をフッ酸により還元雰囲気で等方性エッチングしたとき、支持部材210を透過してキャパシター230に還元ガスが侵入することを抑制できる。また、基部100を覆うエッチングストップ膜130が還元ガスバリア性を有することで、基部100内に配置される回路のトランジスタや配線が還元されて劣化することを抑制できる。
3.焦電型赤外線検出器の特徴的構造
3.1.還元ガスバリア性
本実施形態の焦電型赤外線検出器200の還元ガスバリア性について、図1及び図6を参照して説明する。上述した通り、焦電型赤外線検出器200では、キャパシター230の焦電体232は還元ガス(H2、OH基等)により酸素欠損が生じると、特性が劣化してしまう。その上、支持部材210及び赤外線検出素子220が完成した後の工程で、還元性のエッチャント例えばフッ酸等により犠牲層150をエッチングするので、焦電型赤外線検出器200にて還元ガスバリア性を担保することが極めて重要である。
先ず、第1還元ガスバリア層140,280について説明する。第1還元ガスバリア層140,280は、犠牲層150を等方性エッチングするときに、支持部材210及び赤外線検出素子220がエッチングされることを阻止するエッチングストップ膜として兼用される。
第1還元ガスバリア層140,280は、図1に示すように、支持部材210の第1面(裏面または下面)211Bと、開口部102Aに臨む支持部材210の側面211Cと、焦電型光検出素子220側(図1の上方側)から見て露出する焦電型光検出素子220及び支持部材210の外表面220Aとを覆っており、つまり、支持部材210及び赤外線検出素子220がエッチャントと接触する全露出面を覆っている。エッチングストップ膜140,280は、エッチング後はその機能を失うが、本実施形態ではエッチング後にエッチングストップ膜140,280が除去されずに残存され、第1還元ガスバリア層として機能させている。
第1還元ガスバリア層140,280のうちの還元ガスバリア層140は、支持部材210の第1面(裏面または下面)211Bを覆うことから、キャパシター230の下方からの還元性阻害要因をブロックできる。キャパシター230の下方からの還元性阻害要因とは、例えば犠牲層150の等方性エッチング時に用いられるフッ酸から生成される水素ガスであり、あるいは例えば400℃以上の高温処理、例えば焦電体232の焼成時や層間絶縁膜230の脱ガス処理時に、支持部材210の下方のスペーサー層(SiO2)210の含有水分からの還元性の脱ガス(H2、OH基等)などである。
第1還元ガスバリア層140,280のうちの還元ガスバリア層280は、キャパシター230を上方から覆っていることから、キャパシター230の上方からの還元性阻害要因をブロックできる。キャパシター230の上方からの還元性阻害要因とは、例えば犠牲層150の等方性エッチング時に用いられるフッ酸から生成される水素ガスである。
次に、本実施形態では、焦電型赤外線素子200は、図3〜図5に示すように、第1電極234と第2電極236との間に焦電体232を含み、入射された光による熱量(温度)に基づいて分極量が変化するキャパシター230と、赤外線検出素子200の外表面220A側に配置され、赤外線(広義には光)を吸収して熱に変換する赤外線吸収体(広義には光吸収部材)270を含み、第1還元ガスバリア層140,280のうちのバリア層280は、赤外線吸収体270を覆って形成することができる。
こうすると、赤外線吸収体270側からの還元性阻害要因を、還元ガスバリア層280にてブロックできる。また、還元ガスバリア層280は、犠牲層150をエッチングする際に、赤外線吸収体270がエッチングされることを阻止するエッチングストップ膜を兼ねることができる。
ここで、キャパシター230は図3〜図5に示すように、第1電極234が支持部材210に搭載され、第2電極236に接続される第2プラグ228が設けられ、赤外線吸収体270は第2プラグ228を覆って形成することができる。
なお、赤外線吸収体270は、第2プラグ228を覆って形成される場合には、第2プラグ228から侵入する還元性阻害要因を、還元ガスバリア層280にてブロックできる。なお、図3〜図5とは異なり、赤外線吸収体270は第1プラグ226も覆って形成することができる。こうすると、第1プラグ226から侵入する還元性阻害要因を、還元ガスバリア層280にてブロックできる。ただし、赤外線吸収体270は、プラグ226,228を覆って形成するものに限らず、アンブレラ型と称されるように薄膜部材により傘型に形成されるものにも適用できる。この場合にも、還元ガスバリア層280にアンブレラ型の赤外線吸収部材を覆うことができるが、犠牲層150をエッチングする際に、アンブレラ型の赤外線吸収部材がエッチングされることを阻止するエッチングストップ膜としてのみ機能させることができる。
さらに、本実施形態ではキャパシター230の少なくとも側面を被覆する第2還元ガスバリア層240をさらに有することができる。このとき、第1還元ガスバリア層140,280のうち、支持部材210及び赤外線検出素子220の外表面220Aを覆う還元性ガスバリア層280の膜厚は、第2還元ガスバリア層240の膜厚よりも薄く形成できる。こうすると、赤外線入射途中に設けられる還元ガスバリア層280の薄膜化により、赤外線透過特性を損なうことが低減される。
本実施形態では、図3〜図5に示すように、第2還元ガスバリア層240を覆う電気絶縁層(層間絶縁層)250が設けられ、電気絶縁層250は400℃以上の高温にてアニーリングして脱ガス処理することができる。こうすると、第2還元ガスバリア層240に接する電気絶縁層250が脱ガス要因となることが低減される。それにより、電気絶縁膜250の形成工程以降にアニーリングしても、電気絶縁層からの脱ガスは低減されるので第2還元ガスバリア層240のバリア性を維持できる。
本実施形態では、図5に示すように、第2プラグ228は、第2還元ガスバリア層240及び電気絶縁層250に貫通形成されたコンタクトホールに充填され、電気絶縁層250上に形成されて第2プラグ228に接続される第2電極配線層224と、電気絶縁膜及び電極配線層250上に形成される第3還元ガスバリア層290と、をさらに設けることができる。
こうすると、第2還元ガスバリア層240にコンタクトホールが形成されてバリア性が失われても、その還元ガス通過ルートを第3還元ガスバリア層290により塞ぐことができる。
キャパシター230が搭載される本実施形態の支持部材210は、図4に示すように、単層では残留応力によって反りが生じるので、引張及び圧縮の双方の残留応力に反りを発生させる応力を相殺させるように、複数層例えば三層で形成されている。
キャパシター230側から順に、第1層部材212は酸化膜(例えばSiO2)、第2層部材214は窒化膜(例えばSi3N4)、第3層部材216は酸化膜(例えば第1層部材212と同一材料でSiO2)としている。酸化膜と窒化膜の応力方向が逆なので、支持部材に反りを生じさせる応力を相殺できる。
ここで、窒化膜(例えばSi3N4)は還元ガスバリア性を有するので、支持部材210の第2層部材214でもキャパシター230の焦電体232に支持部材210側から侵入する還元性阻害要因をブロックする機能がある。
焦電体232の焼成工程中など、高温処理時にはキャパシター230内部で蒸発気体が生成されることがあるが、その蒸発気体の逃げ道が、図4の矢印Aに示すように、支持部材210の第1層部材212にて確保される。つまり、キャパシター230内部で発生する蒸発気体を逃がすには、第1層部材212にはガスバリア性を備えず、第2層部材214にガスバリア性を備える方が良い。
この他、本実施形態ではキャパシター230の焦電体232に接する第1,第2電極234,236の各々は、複数種の膜の積層構造で形成され、その一層234B,236Bを還元性ガスバリア層として形成しているが、その点については後述する。
3.2.第1還元性ガスバリア膜のエッチングストップ膜としての兼用
以下、焦電型赤外線検出器200の主要製造工程を説明しながら、第1還元性ガスバリア膜140,280をエッチングストップ膜として兼用する点について、図7〜図11を参照して説明する。
先ず、図7に示すように、シリコン基板110上に形成されたスペーサー層(SiO2)120をエッチングして形成した空洞部102及びポスト104を形成する。その後、空洞部102を規定する壁部、つまり空洞部102を規定する底壁100Aと、ポスト104の側壁104Aには、第1エッチングストップ膜130が形成される。この第1エッチングストップ膜130は、酸化アルミニウムAl2O3が原子層化学気相成長(ALCVD)法により膜厚20〜50nmで成膜されて形成される。
次に、図8に示すように、空洞部102内に犠牲層150が、例えばSiO2をCVD等によって堆積することで形成される。犠牲層150は、ポスト104上の第1エッチングストップ膜130と面一になるようにCMPによって平坦化される。
次に、図9に示すように、犠牲層150と、ボスと104の頂面の第1エッチング膜130上に、第2エッチングストップ膜140が全面形成される。この第2エッチングストップ膜140も、酸化アルミニウムAl2O3が原子層化学気相成長(ALCVD)法により膜厚20〜50nmで成膜されて形成される。
次に、図10に示すように、第2エッチングストップ膜140の全面に支持部材210を、さらに支持部材210上に赤外線検出素子220を形成する。例えば、赤外線吸収体270が形成された後に、全面にレジスト材を塗布し、露光した後、犠牲層150の全面に形成されていた支持部材210をパターンエッチングして、図2に示す支持部材210の輪郭に沿って開口部102Aを形成する。このとき、開口部102Aでは、第2エッチングストップ膜140が除去されて、犠牲層150が露出する。
レジスト材を除去した後に、図10に示すように、全面に第3エッチングストップ膜280を形成する。この第3エッチングストップ膜280は、酸化アルミニウムAl2O3が原子層化学気相成長(ALCVD)法により成膜されて、例えば膜厚20nm程度の薄膜で形成される。
このとき、第3エッチングストップ膜280は、開口部102Aに臨む支持部材210の側面211Cと、平面視にて露出する赤外線検出素子2220及び支持部材210の外表面200Aとを覆う他、開口部102A内の犠牲層150上にも重ねて堆積される。
その後、図11に示すように開口部102A内の第3エッチングストップ膜280がエッチングで除去された後に、フッ酸等により犠牲層150が等方性エッチングされて除去される。この際、エッチャントは図2及び図11に示す開口部102Aより侵入して犠牲層と接触し、支持部材210の裏側(下方)に回り込みながら等方性エッチングが進行する。それにより、図1に示すように犠牲層102が除去されて空洞部102が形成される。
この等方性エッチング時には、第1エッチングストップ膜130、第2エッチングストップ膜140及び第3エッチングストップ膜280が、それぞれ基部100と、支持部材210の下面(第1面)211と、支持部210及び赤外線検出素子220の外表面200Aを保護する。同時に、第2エッチングストップ膜140及び第3エッチングストップ膜280は、犠牲膜150のエッチング時を含む製造工程中や製品完成後も、第1還元性ガスバリア膜として機能させることができる。
3.3.熱コンダクタンス
図6は、本実施形態のキャパシター230の構造をより詳細に説明するための概略断面図である。上述した通り、キャパシター230は、第1電極(下部電極)234と第2電極(上部電極)236との間に焦電体232を含む。このキャパシター230は、支持部材210が空洞部102と面する第1面(図1、図3及び図6の上面)211Bと対向する第2面(図1、図3及び図6の下面)211Aに搭載して支持される。そして、入射された赤外線の光量(温度)によって焦電体232の自発分極量が変化すること(焦電効果またはパイロ電子効果)を利用して赤外線を検出できる。本実施形態では、赤外線が赤外線吸収体270にて吸収されて赤外線吸収体270が発熱し、赤外線吸収体270と焦電体232との間にある固体熱伝導路を介して、赤外線吸収体270の発熱が伝達される。
本実施形態のキャパシター230では、支持部材210と接する第1電極(下部電極)234の熱コンダクタンスG1を、第2電極(上部電極)236の熱コンダクタンスG2よりも小さくしている。こうすると、キャパシター230は、赤外線に起因した熱が第2電極(上部電極)236を介して焦電体232に伝達されやすく、しかも、焦電体232の熱が第1電極(下部電極)234を介して支持部材210に逃げ難くなり、赤外線検出素子220の信号感度が向上する。
上述した特性を有するキャパシター230の構造を、図6を参照してさらに詳細に説明する。先ず、第1電極(下部電極)234の厚さT1は、第2電極(上部電極)236よりも厚い(T1>T2)である。第1電極(下部電極)234の熱伝導率をλ1とすると、第1電極(下部電極)234の熱コンダクタンスG1は、G1=λ1/T1となる。第2電極(上部電極)236の熱伝導率をλ2としたとき、第2電極(上部電極)236の熱コンダクタンスG2は、G2=λ2/T2となる。
熱コンダクタンスの関係をG1<G2とするためには、例えば第1,第2電極234,236の材質を例えば共に白金PtまたはイリジウムIr等の同一の単一材料とすれば、λ1=λ2となり、図6からT1>T2であるのでG1<G2の関係を満足できる。
そこで先ず、第1,第2電極234,236の各々を、それぞれ同一材料にて形成することについて考察する。キャパシター230は、焦電体232の結晶方向を揃えるために、焦電体232が形成される下層の第1電極234との界面の結晶格子レベルを整合させる必要がある。つまり、第1電極234は結晶のシード層としての機能を有するが、白金Ptは自己配向性が強いので、第1電極234として好ましい。イリジウムIrもシード層材料として好適である。
また、第2電極(上部電極)236は、焦電体232の結晶性を崩さずに、第1電極234、焦電体232から第2電極236に至るまで結晶配向が連続的につながることが好ましい。そのため、第2電極236は第1電極234と同一材料にて形成することが好ましい。
このように、第2電極236を第1電極234と同一材料例えばPtまたはIr等の金属にて形成すると、第2電極236の上面を反射面とすることができる。この場合、図6に示すように、赤外線吸収体270の頂面から第2電極236の頂面までの距離Lをλ/4(λは赤外線の検出波長)とすると良い。こうすると、赤外線吸収体270の頂面と第2電極236の頂面との間で、検出波長λの赤外線が多重反射されるので、検出波長λの赤外線を赤外線吸収体270にて効率よく吸収できる。
3.4.電極多層構造
次に、図6に示す本実施形態のキャパシター230の構造について説明する。図6に示すキャパシター230は、焦電体232、第1電極234及び第2電極236の優先配向方位が、例えば(111)面方位で揃えられている。(111)面方位に優先配向されることで、他の面方位に(111)配向の配向率が例えば90%以上に制御される。焦電係数を大きくするには(111)配向よりもむしろ(100)配向などが好ましいが、印加電界方向に対して分極を制御しやくするために(111)配向としている。ただし、優先配向方位はこれに限定されない。
第1電極234は、支持部材210から順に、第1電極234を例えば(111)面に優先配向するように配向制御する配向制御層(例えばIr)234Aと、第1還元ガスバリア層(例えばIrOx)234Bと、優先配向のシード層(例えばPt)234Cとを含むことができる。
第2電極236は、焦電体232側から順に、焦電体232と結晶配向が整合する配向整合層(例えばPt)236Aと、第2還元ガスバリア層(例えばIrOx)236Bと、第2電極236に接続される第2プラグ228との接合面を低抵抗化する低抵抗化層(例えばIr)236Cとを含むことができる。
本実施形態にてキャパシター230の第1,第2電極234,236を多層構造とした理由は、熱容量の小さい赤外線検出素子220でありながら、能力を低めずに低ダメージで加工して界面での結晶格子レベルを整合させ、しかも、キャパシター230の周囲が製造時または使用時に還元雰囲気となっても焦電体(酸化物)232を還元ガスから隔離することにある。
焦電体232は例えばPZT(Pb(Zr,Ti)O3の総称:チタン酸ジルコン酸鉛)またはPZTN(PZTにNbを添加したものの総称)等を例えば(111)面方位で優先配向させて結晶成長させている。PZTNを用いると、薄膜になっても還元され難く酸化欠損を抑制できる点で好ましい。焦電体232を配向結晶化させるために、焦電体232の下層の第1電極234の形成段階から配向結晶化させている。
このために、下部電極234には配向制御層として機能するIr層234Aがスパッタ法で形成される。なお、図6に示すように、配向制御層234Aの下に密着層234Dとして例えばチタン・アルミ・ナイトライド(TiAlOx)層または窒化チタン(TiN)層を形成すると良い。支持部材210の材質によっては密着性が確保しにくいからである。また、密着層234Dの下層に位置する支持部材210の第1層部材212をSiO2で形成するとき、第1層部材212はポリシリコンよりもグレインが小さい材料またはアモルファス材料にて形成することが好ましい。こうすると、支持部材210がキャパシター230を搭載する表面の平滑性を確保できるからである。もし、配向制御層234Aが形成される面が粗面であると、結晶成長中に粗面の凹凸が反映されてしまうから好ましくない。
第1電極234中にて還元ガスバリア層として機能するIrOx層234Bは、キャパシター230の下方からの還元性の阻害因子から焦電体232を隔離するために、還元ガスバリア性を呈する支持部材210の第2層部材(例えばSi3N4)及び支持部材210のエッチングストップ膜(例えばAl2O3)140と共に用いられる。例えば焦電体(セラミック)232の焼成時や他のアニール工程での基部100からの脱ガスや、犠牲層150の等方性エッチング工程に用いる還元ガスが、還元性阻害因子となる。
また、IrOx層234Bは、それ自体の結晶性は少ないが、Ir層234Aとは金属−金属酸化物の関係となって相性が良いので、Ir層234Aと同一の優先配向方位を持つことができる。
第1電極234中にてシード層として機能するPt層234Cが、焦電体232の優先配向のシード層となり、(111)配向される。本実施形態では、Pt層234Cは二層構造となっている。第1層目のPt層で(111)配向の基礎をつくり、第2層目のPt層で表面にマイクロラフネスを形成して、焦電体232の優先配向のシード層として機能させる。焦電体232は、シード層234Cにならつて(111)配向される。
第2電極236では、スパッタ法で成膜されるとは物理的に界面が荒れ、トラップサイトが生じて特性が劣化する虞があるので、第1電極234、焦電体232、第2電極236の結晶配向が連続的につながるように、結晶レベル格子整合の再構築を行っている。
第2電極236中のPt層236Aはスパッタ法で形成されるが、スパッタ直後で界面の結晶方向は不連続となる。そこで、その後にアニール処理してPt層236Aを再結晶化させている。つまり、Pt層236Aは、焦電体232と結晶配向が整合する配向整合層として機能する。
第2電極236中のIrOx層236Bは、キャパシター230の上方からの還元性劣化因子のバリアとして機能する。また、第2電極236中のIr層236Cは、IrOx層236Bの抵抗値が大きいので、第2プラグ228との間の抵抗値を低抵抗化させるために用いられる。Ir層236Cは、IrOx層236Bと金属酸化物−金属の関係で相性がよく、IrOx層236Bと同一の優先配向方位を持つことができる。
このように、本実施形態では、第1,第2電極234,236は、焦電体232側から順に、Pt、IrOx、Irと多層に配置され、焦電体232を中心として、形成材料が対称配置されている。
ただし、第1,第2電極234,236を形成する多層構造の各層の厚さは、焦電体232を中心として非対称となっている。先ず、第1電極234のトータル厚さT1と、第2電極236のトータル厚さT2とは、上述したよりも関係(T1>T2)を満足している。ここで、第1電極234のIr層234A、IrOx層234B、Pt層234Cの各熱伝導率をλ1、λ2、λ3とし、各厚さをT11、T12、T13とする。第2電極のIr層236C、IrOx層236B、Pt層236Aの各熱伝導率は第1電極234と同じくλ1、λ2、λ3となり、その各厚さをT21、T22、T23とする。
また、第1電極234のIr層234A、IrOx層234B、Pt層234Cの各熱コンダクタンスをG11、G12、G13とすると、G11=λ1/T11、G12=λ2/T12、G13=λ3/G13となる。第2電極のIr層236C、IrOx層236B、Pt層236Aの各熱コンダクタンスをG21、G22、G23とすると、G21=λ1/T21、G22=λ2/T22、G13=λ3/G23となる。
第1電極234のトータル熱コンダクタンスG1は、1/G1=(1/G11)+(1/G12)+(1/G13)で表わされるので、
G1=(G11×G12×G13)/(G11+G12+G13)…(1)
同様に、第2電極236のトータル熱コンダクタンスG2は、1/G2=(1/G21)+(1/G22)+(1/G23)で表わされるので、
G2=(G21×G22×G23)/(G21+G22+G23)…(2)
となる。
次に、第1,第2電極234,236を形成する多層構造の各層の厚さは、T11+T12+T13=T1>T2=T21+T22+T23を満たす条件化でほぼ次の通りの関係である。
Ir層234A,236C T11:T21=1:0.7
IrOx層234B,236B T12:T22=0.3:1
Pt層234C,236A T13:T231=3:1
このような膜厚関係とした理由は以下の通りである。先ず、Ir層234A,236Cについて言えば、第1電極234中のIr層234Aは配向制御層として機能するから、配向性を有するには所定の膜厚が必要であるのに対して、第2電極236のIr層236Cの目的は低抵抗化にあり、薄くするほど低抵抗化を実現できる。
次に、IrOx層234B,236Bについて言えば、キャパシター230の下方及び上方からの還元性阻害因子のバリア性は他のバリア膜(第2層部材214、還元性ガスバリア層240、エッチングストップ膜兼還元性ガスバリア層140,280)を併用しており、第1電極234のIrOx層234Bは薄くしているが、第2電極IrOx層236Bは第2プラグ228でのバリア性が低いことに備えて厚くしている。
最後に、Pt層234C,236Aに関して言えば、第1電極234中のPt層234Cは焦電体232の優先配向を決定付けるシード層として機能するから所定の膜厚が必要であるのに対して、第2電極236のPt層236Aの目的は焦電体232の配向と整合する配向整合層として機能するので、第1電極234中のPt層234Cよりも薄く形成しても良い。
また、第1電極234のIr層234A、IrOx層234B、Pt層234Cの肉厚比は、例えばT11:T12:T13=10:3:15とし、第2電極236のIr層236C、IrOx層236B、Pt層236Aの肉厚比は、例えばT21:T22:T23=7:10:5とした。
ここで、Ptの熱伝導率λ3=71.6(W/m・K)であり、Irの熱伝導率λ1はλ1=147(W/m・K)とPtの熱伝達率λ3のほぼ2倍である。IrOxの熱伝導率λ2は熱度や酸素/金属比(O/M)によって変化するが、Irの熱伝達率λ1を超えることはない。上述した膜厚の関係と熱伝導率の関係を式(1)(2)に代入してG1,G2の大小関係を求めると、G1<G2が成立することが分かる。このように、本実施形態のように第1,第2電極234,236を多層構造にしても、熱伝導率と膜厚の関係からG1<G2が満足される。
また、上述した通り、第1電極234が支持部材210との接合面に密着層234Dを有する場合には、第1電極234の熱コンダクタンスG1はより小さくなるので、G1<G2の関係を満足し易くなる。
なお、キャパシター230のエッチングマスクはエッチングの進行に従い劣化するので、多層構造とするほどキャパシター230の側壁は、図6に示すように上側ほど狭く下側ほど広いテーパ形状となる。しかし、水平面に対するテーパ角は80度程なので、キャパシター230の全高がナノメートルオーダーであることを考慮すれば、第2電極236に対する第1電極234の面積拡大は小さい。よって、第1,第2電極234,236の熱コンダクタンスの関係から、第1電極234での熱伝達量を第2電極236での熱伝達量よりも小さくできる。
3.5.キャパシター構造の変形例
以上の通り、キャパシター230の第1,第2電極234,236の各々について、単層構造及び多層構造を説明したが、キャパシター230の機能を維持しながら、熱コンダクタンスの関係をG1<G2とする他の種々の組み合わせが考えられる。
先ず、第2電極236のIr層236Cを削除することができる。この場合、第2プラグ228の材料に例えばIrを用いれば、同様に低抵抗化の目的は達成されるからである。こうすると、第2電極236の熱コンダクタンスG2は図6の場合よりも大きくなるので、G1<G2の関係を満足させ易くなる。また、この場合には、図6に示すL=λ/4を規定する反射面は、第2電極236のPt層236Aに代わるが、同様に多重反射面を担保できる。
次に、図6の第2電極236中のIrOx層236Bの厚さを、第1電極234中のIrOx層234Bと同一厚さ以下とすることができる。上述の通り、キャパシター230の下方及び上方からの還元性阻害因子のバリア性は他のバリア膜(第2層部材214、還元性ガスバリア層240、エッチングストップ膜兼還元性ガスバリア層140,280)を併用しているからで、第2プラグ228での還元ガスバリア性が例えば図5のようにして高められれば、第2電極236中のIrOx層236Bの厚さを第1電極234中のIrOx層234Bより厚くする必要はない。こうすると、第2電極236の熱コンダクタンスG2はより大きくなり、よりG1<G2の関係を成立がし易くなる。
次に、図6の第1電極234中のIrOx層234Bを削除することができる。IrOx層234Bを削除しても、Ir層234AとPt層234Cとの結晶の連続性は妨げられないので、結晶配向に関して何ら問題はない。IrOx層234Bを削除することで、キャパシター230はその下方からの還元性阻害因子に対してバリア膜を持たないことになる。ただし、キャパシター230を支持する支持部材210にて第2層部材214が、支持部材210の下面にはエッチングストップ層140が、それぞれ存在し、第2層部材214及びエッチングストップ膜140が還元ガスバリア性を有する膜で形成それれば、キャパシター230はその下方からの還元性阻害因子に対するバリア性を担保できる。
ここで、第1電極234中のIrOx層234Bを削除すると、第1電極234の熱コンダクタンスG1は大きくなる。よって、G1<G2の関係を成立させるには、第2電極236の熱コンダクタンスG2も大きくする必要が生ずるかもしれない。その場合、例えば第2電極236中のIrOx層236Bを削除することが考えられる。IrOx層236Bを削除できれば、Ir層236Cもまた不要となる。Ir層236Cに代えてPt層236Aが低抵抗層として機能するからである。キャパシター230の上方からの還元性阻害因子についてのバリア性は、上述した還元性ガスバリア膜240や、図4に示すバリアメタル228Aや、あるいは図5の還元性ガスバリア層290により担保できる。
図6の第2電極234は上述した通りPt層236Aのみで形成したとき、第1電極234は、Pt層234Cの単層か、Ir層234A及びPt層234Cの二層か、あるいは図6の通りIr層234A、IrOx層234B及びPt層234Cの三層とすることができる。これらの場合のいずれでも、例えば第1電極234のPt層234Aの厚さT11を第2電極236のPt層236Cの厚さT21よりも厚くすれば(T11>T21)、G1<G2の関係を容易に成立させることができる。
4.電子機器
図12に本実施形態の焦電型光検出器または焦電型光検出装置を含む電子機器の構成例を示す。この電子機器は、光学系400、センサーデバイス(焦電型光検出装置)410、画像処理部420、処理部430、記憶部440、操作部450、表示部460を含む。なお本実施形態の電子機器は図12の構成に限定されず、その構成要素の一部(例えば光学系、操作部、表示部等)を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
光学系400は、例えば1または複数のレンズや、これらのレンズを駆動する駆動部などを含む。そしてセンサーデバイス410への物体像の結像などを行う。また必要であればフォーカス調整なども行う。
センサーデバイス410は、上述した本実施形態の焦電型光検出器200を二次元配列させて構成され、複数の行線(ワード線、走査線)と複数の列線(データ線)が設けられる。センサーデバイス410は、二次元配列された光検出器に加えて、行選択回路(行ドライバー)と、列線を介して光検出器からのデータを読み出す読み出し回路と、A/D変換部等を含むことができる。二次元配列された各光検出器からのデータを順次読み出すことで、物体像の撮像処理を行うことができる。
画像処理部420は、センサーデバイス410からのデジタルの画像データ(画素データ)に基づいて、画像補正処理などの各種の画像処理を行う。
処理部430は、電子機器の全体の制御を行ったり、電子機器内の各ブロックの制御を行う。この処理部430は、例えばCPU等により実現される。記憶部440は、各種の情報を記憶するものであり、例えば処理部430や画像処理部420のワーク領域として機能する。操作部450は、ユーザが電子機器を操作するためのインターフェースとなるものであり、例えば各種ボタンやGUI(Graphical User Interface)画面などにより実現される。表示部460は、例えばセンサーデバイス410により取得された画像やGUI画面などを表示するものであり、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの各種のディスプレイにより実現される。
このように、1セル分の焦電型光検出器を赤外線センサー等のセンサーとして用いる他、1セル分の焦電型光検出器を二軸方向に二次元配置することでセンサーデバイス410を構成することができ、こうすると熱(光)分布画像を提供することができる。このセンサーデバイス410を用いて、サーモグラフィー、車載用ナイトビジョンあるいは監視カメラなどの電子機器を構成することができる。
もちろん、1セル分または複数セルの焦電型光検出器をセンサーとして用いることで物体の物理情報の解析(測定)を行う解析機器(測定機器)、火や発熱を検知するセキュリティー機器、工場などに設けられるFA(Factory Automation)機器などの各種の電子機器を構成することもできる。
図13(A)に図12のセンサーデバイス410の構成例を示す。このセンサーデバイスは、センサーアレイ500と、行選択回路(行ドライバー)510と、読み出し回路520を含む。またA/D変換部530、制御回路550を含むことができる。このセンサーデバイスを用いることで、例えばナイトビジョン機器などに用いられる赤外線カメラなどを実現できる。
センサーアレイ500には、例えば図2に示すように二軸方向に複数のセンサーセルが配列(配置)される。また複数の行線(ワード線、走査線)と複数の列線(データ線)が設けられる。なお行線及び列線の一方の本数が1本であってもよい。例えば行線が1本である場合には、図13(A)において行線に沿った方向(横方向)に複数のセンサーセルが配列される。一方、列線が1本である場合には、列線に沿った方向(縦方向)に複数のセンサーセルが配列される。
図13(B)に示すように、センサーアレイ500の各センサーセルは、各行線と各列線の交差位置に対応する場所に配置(形成)される。例えば図13(B)のセンサーセルは、行線WL1と列線DL1の交差位置に対応する場所に配置されている。他のセンサーセルも同様である。 行選択回路510は、1または複数の行線に接続される。そして各行線の選択動作を行う。例えば図13(B)のようなQVGA(320×240画素)のセンサーアレイ500(焦点面アレイ)を例にとれば、行線WL0、WL1、WL2・・・・WL239を順次選択(走査)する動作を行う。即ちこれらの行線を選択する信号(ワード選択信号)をセンサーアレイ500に出力する。
読み出し回路520は、1または複数の列線に接続される。そして各列線の読み出し動作を行う。QVGAのセンサーアレイ500を例にとれば、列線DL0、DL1、DL2・・・・DL319からの検出信号(検出電流、検出電荷)を読み出す動作を行う。
A/D変換部530は、読み出し回路520において取得された検出電圧(測定電圧、到達電圧)をデジタルデータにA/D変換する処理を行う。そしてA/D変換後のデジタルデータDOUTを出力する。具体的には、A/D変換部530には、複数の列線の各列線に対応して各A/D変換器が設けられる。そして、各A/D変換器は、対応する列線において読み出し回路520により取得された検出電圧のA/D変換処理を行う。なお、複数の列線に対応して1つのA/D変換器を設け、この1つのA/D変換器を用いて、複数の列線の検出電圧を時分割にA/D変換してもよい。
制御回路550(タイミング生成回路)は、各種の制御信号を生成して、行選択回路510、読み出し回路520、A/D変換部530に出力する。例えば充電や放電(リセット)の制御信号を生成して出力する。あるいは、各回路のタイミングを制御する信号を生成して出力する。
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例は全て本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。