以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、それらの相対配置などは、本発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。従って、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
[実施例1]
本発明に係る実施例1について、図面を用いて説明する。図1は、画像形成装置の全体構成の概略図である。ここでは、実施例1の画像形成装置として、複数の画像形成部(画像形成ステーション)を備えたカラープリンタを例示している。
図1に示す画像形成装置は、形成できるトナー像の色が異なる4つの画像形成ステーションを備えている。ここでは、第1の画像形成ステーションをイエロー(a)、第2の画像形成ステーションをマゼンタ(b)、第3の画像形成ステーションをシアン(c)、第4の画像形成ステーションをブラック(d)としている。
各画像形成ステーションには各色に対応するプロセスカートリッジ9a,9b,9c,9dがそれぞれ着脱可能に装着される。各プロセスカートリッジ9a,9b,9c,9dは略同一構造である。各プロセスカートリッジ9は、それぞれ、像担持体である感光ドラム1、帯電手段としての帯電ローラ2、現像手段としての現像ユニット8、及びクリーニング手段としてのクリーニングユニット3を有する。各現像ユニット8は、現像スリーブ4及びトナー塗布ブレード7を有し、トナー(ここでは非磁性一成分現像剤)5が収容されている。また、各帯電ローラ2は、帯電ローラ2への電圧供給手段である帯電バイアス電源回路20に接続されている。同様に、各現像スリーブ4も、現像スリーブ4への電圧供給手段である現像電源回路21に接続されている。
更に各画像形成ステーションには、画像情報に応じたレーザー光12を感光ドラム1に照射する光学ユニット(露光手段)11が設けられている。
また画像形成装置は、無端状のベルトである中間転写ベルト80を備えている。中間転写ベルト80は、4つの感光ドラム1a,1b,1c,1d全てに対し当接可能に配置されている。中間転写ベルト80は、張架部材としての二次転写対向ローラ86、駆動ローラ14、テンションローラ15の3本のローラにより支持されており、適当なテンションが維持されるようになっている。駆動ローラ14を駆動させることにより中間転写ベルト80は感光ドラム1a,1b,1c,1dに対して順方向に略同速度で移動可能である。
また中間転写ベルト80を介して各感光ドラム1(1a,1b,1c,1d)の対向位置には、一次転写部材に81(81a,81b,81c,81d)が配置されている。各一次転写部材81は、一次転写部材81への電圧供給手段である一次転写電源回路84(84a,84b,84c,84d)に接続されており、各一次転写電源回路84よりトナーの帯電極性と逆極性の電圧が印加されるようになっている。中間転写ベルト80は、感光ドラム1と一次転写部材81との間を移動する。感光ドラム1と一次転写部材81が対向する各一次転写領域において、各感光ドラム1上に形成されたトナー像は各一次転写部材81によって、中間転写ベルト80の外周面上で重ね合わせるようにして順次転写される。
尚、ここでは、中間転写ベルト80として、厚さ100μm、体積抵抗率1010ΩcmのPVDFを用いている。また、駆動ローラ14は、Al芯金にカーボンを導電剤として分散した抵抗104Ω、肉厚1.0mmのEPDMゴムを被覆した外径φ25mmのものを用いている。また、テンションローラ15は、外径φ25mmのAlの金属棒を用いており、テンションは片側19.6N、総圧39.2Nとしている。また、二次転写対向ローラ86は、Al芯金にカーボンを導電剤として分散した抵抗104Ω、肉厚1.5mmのEPDMゴムを被覆した外径φ25mmのものを用いている。
また、二次転写を終えた後、中間転写ベルト80上に残留した転写残トナーと、記録材Pが搬送されることによって発生する紙粉は、中間転写ベルト80に当接されたベルトクリーニング手段83により、その表面から除去・回収される。尚、ここではベルトクリーニング手段83としてウレタンゴム等で形成された弾性を有するクリーニングブレードを用いている。
更に画像形成装置は、各給送カセット16から記録材Pを一枚ずつ給送する給送ローラ17、及びベルト80を介してローラ86と二次転写ローラ82が対向する二次転写領域に記録材Pを搬送するレジストローラ18を備えている。なお、二次転写ローラ82は二次転写電源回路85に接続されている。また定着ユニット19は、定着ローラ及び加圧ローラを備え、記録材P上のトナー像に熱と圧力を加えることで記録材P上にトナー像の定着を行う。
尚、ここでは、二次転写ローラ86は外径φ8mmのニッケルメッキ鋼棒に抵抗値を108Ω、厚みを5mmに調整したNBRの発泡スポンジ体で覆った外径φ18mmのものを用いている。また、二次転写ローラ86は、中間転写ベルト80に対して、5〜15g/cm程度の線圧で当接させ、且つ中間転写ベルト80の移動方向に対して順方向に略等速度で回転するように配置している。
次に画像形成動作について説明する。画像形成動作がスタートすると、感光ドラム1a〜1dや中間転写ベルト80等は所定のプロセススピードで矢印方向に回転を始める。まず第1の画像形成ステーションにて、感光ドラム1aは帯電ローラ2aに電源回路20aよって一様に負極性に帯電される。続いて光学ユニット11aから照射されたレーザー光12aによって感光ドラム1a上に静電潜像が形成される。
現像ユニット8a内のトナー5aは、トナー塗布ブレード7aによって負極性に帯電されて現像スリーブ4aに塗布される。そして、現像スリーブ4aには、現像バイアス電源回路21aよりバイアスが供給される。感光ドラム1a上に形成された静電潜像が現像スリーブ4aに到達すると、静電潜像は負極性のトナーによって可視化され、感光ドラム1a上には第1色目(ここではイエロー)のトナー像が形成される。
感光ドラム1a上に形成されたトナー像は、一次転写部材81aの作用によって中間転写ベルト80上に一次転写される。一次転写が終了した感光ドラム1aはクリーニングユニット3aによってドラム表面に残留したトナーがクリーニングされ、次の画像形成に備える。
尚、マゼンタ、シアン、ブラック用の第2〜第4の画像形成ステーションも前述したイエロー用の第1の画像形成ステーションと同様の画像形成工程が行われる。すなわち、各感光ドラムに各色のトナー像が形成され、各色のトナー像は中間転写ベルト80上に重ねて転写され、中間転写ベルト80上に多重画像が形成される。
一方、前述の画像形成工程に合わせて、給送カセット16に収容されている記録材Pは、給送ローラ17により一枚ずつ給送され、レジストローラ18まで搬送される。記録材Pは中間転写ベルト80上のトナー像に同期してレジストローラ18によって、中間転写ベルト80と二次転写ローラ86とで形成される当接部(二次転写領域)へ搬送される。そして、二次転写電源回路85によりトナーと逆極性の電圧が印加された二次転写ローラ86により、中間転写ベルト80上に担持された4色の多重トナー像は一括して記録材P上に二次転写される。その後、定着ユニット19にて記録材P上のトナー像に熱と圧力を加えることで記録材P上にトナー像が定着される。トナー像が定着された記録材Pは、画像形成物(プリント、コピー)として画像形成装置外へと排出される。
ここで、図2を用いて、実施例1に係る1次転写部の構成について説明する。図2は、実施例1に係る1次転写部の構成を示す図である。図2(a)は1次転写部材、中間転写ベルト、感光ドラムのニップ関係を示す拡大断面図であり、図2(b)は1次転写部材の斜視図である。
尚、第1〜第4画像形成部は同様の構成であるため、以下の説明では、第1画像形成部における1次転写部材、中間転写ベルト、及び感光ドラムの関係を例示して説明し、その他の画像形成部の構成は説明を省略する。
1次転写部材81aは、中間転写ベルト80を挟んで感光ドラム1aと対向する位置に支持部材(不図示)に支持された付勢部材31aと、中間転写ベルト80と付勢部材31aの間に挟持されて中間転写ベルト80と接触するシート部材32aと、を有している。シート部材32aは、中間転写ベルトの内周面に面で摺擦しており、付勢部材31aは、シート部材32aを中間転写ベルト側に向かって付勢している。転写手段の中間転写ベルトとの接触面は、転写ローラと異なりベルトの移動に対して追従して動くことなく、ベルトの移動に対して実質的に静止している。シート部材32aは、ベルト80の内周面に接触する面に、線状の凸部又は線状の凹部を設けている。例えば、図2に示すように、中間転写ベルト80と接触する面に、複数の線状の凸部32bを有している。更にシート部材32aは、線状の凸部が中間転写ベルト80の移動方向に対して交差するように中間転写ベルト80と接触している。即ち、凸部の線方向は前記ベルト搬送方向と交差している。ここでは、シート部材32a表面の線状の凸部32bをベルト搬送方向(矢印R方向)に対して斜めに交差(図では角度30°)させて使用している。なお、図2(b)では線状の凸部32bを分かり易く表すために模式的に図示している。また、線状の凸部と線状の凸部の間は、線状の凹部となっている。即ち、凹部の線方向も、ベルト搬送方向と交差している。このように、接触面に線状の凸部又は線状の凹部が形成されていることで、シート部材32a表面と中間転写ベルト80の内周面との接触面積が減る。このことによって、シート部材32aとベルト13の摩擦係数が減り、中間転写ベルトの駆動に弊害が生じ難く、また、シート部材32へのストレスも軽減される。また、本実施例では、付勢部材がシート部材を押圧する転写構成であるため、シート部材と中間転写ベルトの均一な接触性をより確実に確保できる。
図3(a)は、図2(b)のK−K’の断面図である。線状の凹部と線状の凸部の関係は、図3(a)以外の図3(b)や図3(c)のように、一方の凹部又は凸部が、他方の凹部又は凸部よりも長手方向に大きい構成でもよい。
更に具体的には、弾性部材31aは、ウレタンの発泡スポンジ状の弾性体を肉厚5mm、幅5mm、長さ230mmの略直方体形状にしたものを用いている。硬度はアスカーC(500gf)で20°である。尚、ここでは、弾性部材31aとして発泡ウレタンを用いているが、エピクロルヒドリンゴム、NBR、EPDMなどのゴム材料、マイクロセルポリマーシートのPORONなどを用いても良い。
シート部材32aは厚み200μmの超高分子導電PE(Ultra High Molecular Weight Polyethylene)シートを用いている。シート部材は、汎用測定器(Mitsubishi Chemical Corporation製のLoresta−AP(MCP−T400))で測定した際の抵抗値が105Ωであった(測定時の室内温度は23℃、室内湿度は50%)。また、前記シート部材の表面摩擦係数は0.2程度であった。尚、ここで言う摩擦係数とは、ポータブル摩擦計(Shinto Scientific Co., Ltd.製のHEIDON TRIBOGERType94i)を用いた値である。
ここで、シート部材の成型方法を簡単に説明する。材料を圧縮し、超高分子に成型し、さらに圧縮されたブロック状の塊をシート状に加工する。シート状に加工するには、ブロック状の塊を回転させ、そのブロック状の塊に刃をあて、削ってシート状に成型する。前述のシートに加工する方法では、線状の凹部又は線状の凸部の刃スジ跡が発生する。実施例1で用いるシート部材は、その表裏両面に生成される線状の凹部又は線状の凸部の刃スジ線跡を有している。刃スジ線跡は10〜40μmの相当の線状の凹部又は線状の凸部を生成することが可能であり、無数の数μm程度の線状の凹部又は線状の凸部を生成することも可能である。実施例1では5μm程度の刃スジ線跡のみが生成されたシート部材を用いている。このシート部材の刃スジ線跡の表面粗さRz(JIS B0601)は15μm程度であった。測定には表面粗さ測定器(Kosaka Laboratory Ltd.製のSE−3400LK)を用いている。本実施例では、凹部の深さ、又は、凸部の深さは、5μm以上40μm以下の範囲である。
尚、実施例1では、シート部材として超高分子導電PEシートを用いているが、導電PEシート、PFA、PTFA、PVDF等のフッ素樹脂シート等を用いてもよい。
図2において、物理ニップAは感光ドラム1aとベルト80が当接し、且つ、ベルト80と1次転写部材81aが当接している領域である。ベルト移動方向において物理ニップAより上流側の上流テンションニップBは、感光ドラム1aとベルト80が接触しておらず、且つ、ベルト80と1次転写部材81aが当接している領域である。ベルト移動方向において物理ニップAより下流側の下流テンションニップCは、感光ドラム1aとベルト80が接触しておらず、且つ、ベルト80と1次転写部材81aが当接している領域である。
感光ドラム1aと中間転写ベルト80との物理ニップAを2.5mm、シート部材32aと中間転写ベルト80との上流テンションニップBを1mm、シート部材32aと中間転写ベルト80との下流テンションニップCを1mmに設定した。また、弾性部材31aの厚さDを5mmとしている。1次転写部材81aに接続される1次転写電源回路84aは、シート部材32aに接続されている。
次に実施例1に係る1次転写部の作用について説明する。
図2に示すように、1次転写部材81aは、弾性部材31aとシート部材32aとで構成され、弾性部材31a及びシート部材32aを中間転写ベルト80のトナー像を担持する面の反対側の面(以下、中間転写ベルト80の内周面)に押圧している。従って、弾性部材31a及びシート部材32aを確実に中間転写ベルト80の内周面に接触させることができる。以上の作用により弾性部材31a及びシート部材32aと中間転写ベルト80との均一な接触性を確保することができ、長手方向での接触ムラに起因する縦スジ状の転写不良を防止することができる。
ベルト80の内周面に接触する面に線状の凸部又は凹部を有している転写部材81を用いることで、中間転写ベルトとの間の摩擦係数が低下し、中間転写ベルトの駆動トルクの上昇を抑えることができる。
なお、ここでは、第1画像形成部について説明したが、第2〜第4画像形成部も第1画像形成部と同様の構成であるため、第1画像形成部と同様の効果が得られる。
[実施例1の評価]
実施例1の1次転写部の効果を調べるために、プロセススピード50mm/secの画像形成装置を用いて、以下に示す比較例を利用して、シート部材の摩擦係数、ベルトの駆動トルク、長手方向の接触ムラに起因する縦スジ状の転写不良について評価した。
なお、以下に示す各比較例では、第1画像形成部について説明するが、第2〜第4画像形成部も第1画像形成部と同様の構成であるため、その説明は省略する。
比較例1を図4に示し、構成を説明する。シート部材52aは厚み100μmの導電PEシートを用いている。この導電PEシートは実施例1で用いているシート部材と製法が異なり、部材を押し出し製法によってシート状に加工している。比較例1のシート部材52aは、実施例1のシート部材32aのような刃スジ線跡はなく、中間転写ベルト80との接触面は実施例1のシート部材32aに比べて非常に平滑である。また、比較例1で用いている付勢部材31aは、実施例1と同一のものを用いている。
比較例2を図5に示し、構成を説明する。実施例1と同様のシート部材32aを用い、刃スジ線跡の方向がベルト搬送方向と同方向となるように、シート部材32aを配置している。また、比較例1で用いている付勢部材31aは、実施例1と同一のものを用いている。
前述した実施例及び比較例を用いて、中間転写ベルトと接触するシート部材面の摩擦係数、並びに、各条件での中間転写ベルトの駆動トルクを測定し、評価した。その評価結果を図6に示す。ここで言う摩擦係数とは、ポータブル摩擦計(新東科学株式会社製のHEIDONトライボギアミューズType94i)を用いた値である。
実施例1においては、中間転写ベルトと接触するシート部材面の摩擦係数は0.21であった。さらに、中間転写ベルトの駆動トルクは0.14[N・m]であった。
比較例1においては、中間転写ベルトと接触するシート部材面の摩擦係数は0.4であった。さらに、中間転写ベルトの駆動トルクは0.28[N・m]であり、実施例1と比較して、性能が劣る結果を示した。
比較例2においては、中間転写ベルトと接触するシート部材面の摩擦係数は0.2であった。さらに、中間転写ベルトの駆動トルクは0.14[N・m]であり、実施例1と同等の結果を示した。
中間転写ベルトと接触するシート部材面の摩擦係数、中間転写ベルトの駆動トルクの低減に効果的であるのは、実施例1、及び比較例2であることが判明した。
次に、転写電流を1.0μAから5.0μAまで1.0μA刻みで変化させた時の、画像不良である縦スジの発生の有無を評価する。その評価結果を図7に示す。
比較例1は、中間転写ベルトの駆動トルクが高く、評価することが出来なかった。
比較例2は、転写電流が1.0、2.0μAの時に、ベルト搬送方向と平行な軽微な縦スジ画像が発生していた。この縦スジの発生箇所はシート部材の表面の刃スジ線跡と一致していた。シート部材の表面粗さRz(JIS)は15μm程度であり、シート部材表面の線状の凹部が画像に影響することが確認できた。シート部材の刃スジ線跡の凹と凸の部分で放電具合が異なり、中間転写ベルト上に一次転写されたトナー像の長手方向の帯電ムラを引き起こしていると考えられる。
実施例1と比較例1の結果より、実施例1はシート部材表面に刃スジ跡を有し、ベルトの駆動トルクを低減することができている。一方、比較例1で用いたシート部材表面には、刃スジ線跡を有しておらず、シート部材表面は実施例1のシート部材に比べて非常に平滑である。そのため、中間転写ベルトの駆動トルクは高く、中間転写ベルトを移動できなかった。結果、実施例1は中間転写ベルトの駆動トルクの低減に効果的であることが確認できた。
実施例1と比較例2の結果より、実施例1及び比較例2のシート部材表面には刃スジ線跡が存在し、ベルトの駆動トルクを低減することができている。しかしながら、比較例2はベルト搬送方向と平行な方向の刃スジ線跡による縦スジ状の転写不良が発生した。発生した条件は、転写電流が1.0、2.0μAの時である。一方、実施例1は転写電流1.0μAの時のみ、ぼんやりと縦スジ状の転写不良が見受けられる程度であった。これは、比較例2のシート部材の刃スジ線跡の方向が、ベルト搬送方向と同方向であるためであると考えられる。シート部材の刃スジ線跡の方向が、ベルト搬送方向と同方向であると、シート部材の接触面に、ベルトと接触しない部分がベルト搬送方向と同方向に発生してしまう。ベルトと接触しない部分は、ベルトと接触する部分に対して転写効率が低下するため、シート部材の刃スジ線跡の方向がベルト搬送方向と同方向であると、縦スジ状の転写不良がし易くなってしまう。
これに対して、シート部材の刃スジ線跡の方向が、ベルト搬送方向と交差している実施例1は縦スジ状の転写不良の抑制に効果的であることが確認できた。すなわち、実施例1は、刃スジ線跡の凹凸による縦スジ状の転写不良が軽微であり、且つ、発生する電流域が他の比較例と比べて狭かった。つまり、幅広い用途に使用できる構成であると言える。
実施例1、比較例1、比較例2の結果より、実施例1の構成は、シート部材と中間転写ベルトとの均一な接触性を確保することができ、縦スジの画像不良を抑止することができた。さらに、実施例1のシート部材表面の刃スジ線跡を、ベルト搬送方向に対して交差(ここでは、斜め30°)させることで、刃スジ線跡の凹凸による縦スジ状の転写不良を抑止することもできた。また、製造過程で生成される刃スジ線跡を有するシート部材を用いることで、中間転写ベルトの駆動トルクの上昇を効果的に抑えることができた。
尚、実施例1では、シート部材の刃スジ跡をベルト搬送方向に対して、斜め30°に設置しているが、交差するように設置する構成であれば、角度は他の値であっても、同等な効果が得られる。シート部材の刃スジ線跡を中間転写ベルトの搬送方向に対して、より大きな角度で交差させることで、シート部材表面の刃スジ線跡から成る線状の凹部又は線状の凸部による縦スジ状の転写不良を抑止により効果がある。
例えば、図8で示すようにシート部材32a表面の線状の凸部32bをベルト搬送方向(矢印R方向)に対して直交させる構成でもよい。なお、図8(b)では凸部を分かり易く表すために模式的に図示している。また、凸部と凸部の間は凹部になっている。
図8で示す構成では、転写電流がどの場合でも縦スジ状の画像不良はほぼ未発生であった。中間転写ベルトの搬送方向と直角に刃スジ線跡を配置しているため、シート部材の刃スジ線跡の凹凸は1次転写部の長手方向においては影響なく、画像を形成することできた。シート部材表面の凹凸の影響を受けることなく、1次転写部で発生する放電現象を長手方向に均一にすることができたため、前述の効果を得ることができたと考えられる。
[実施例2]
次に、図9を用いて、実施例2に係る1次転写部の構成について説明する。なお、本実施例で適用する画像形成装置の構成は、転写部材(シート部材)の形状を除き、前述した実施例1と同様であり、同一部材には同一記号を付し、説明を省略する。図9は、各一次転写領域の拡大断面図である。ここでは第1の画像形成ステーションにおける一次転写領域を図示しているが、第2〜第4の画像形成ステーションにおける一次転写領域も同様に構成されている。
図9に示すように、一次転写部材81aは、弾性部材31aとシート部材32aを有している。シート部材32aは、中間転写ベルト80と弾性部材31aの間に挟持され、弾性部材31aにより中間転写ベルト80の内周面に付勢されてベルト80に接触している。このシート部材32aの前記中間転写ベルト80との接触面(接触領域A)には複数の凹部と凸部が設けられている。本実施例は、実施例1のような線状の凹凸ではなく、複数の凹部と凸部が互いに隣接して設けられている。
図10に示すように、一次転写部材81aのシート部材32aに設けた凹凸は、複数の凹部33a及び凸部34aが互いに隣接して設けられたものである。図10(a)はシート部材の上面図、図10(b)は図10(a)のX−X断面図である。図10においてYはベルトの移動方向である。シート部材32aの表面の凹凸形状は、凸部34aの頂部間の幅D1、凹部33aの底部の幅(底部の最大幅)D2がともに60μmの正方形である。また、凸部34a間のピッチE1は80μm、凹部33a間のピッチE2は80μmである。凹部33aの深さhは、凸部34aの頂部と凹部33aの底部との垂直距離である。中間転写ベルト80の移動方向(矢印Y方向)に対して、シート部材32aの凹部33aと凸部34aは、配置されている。凹凸(凹部33a)は、中間転写ベルト80の移動方向(矢印Y方向)に対して、不連続に配置されている。また、シート部材32aの、中間転写ベルト80との接触領域Aの幅は3mmである。このように、中間転写ベルト80の移動方向において、凹部33aの底部の最大幅D2は、中間転写ベルト80とシート部材32aとの接触領域Aの幅よりも小さい設定されている。
実施例1と同様に、一次転写部材81aとして、弾性部材31aは、ウレタンの発泡スポンジ状の弾性体を肉厚2mm、幅5mm、長さ230mmの略直方体形状にしたものを用いている。硬度はアスカーC 500gfで30°である。なお、ここでは、弾性部材31aとして発泡ウレタンを用いているが、これに限定されるものではなく、例えばエピクロルヒドリンゴム、NBR、EPDMなどのゴム材料を用いても良い。
シート部材32aは、実施例1と同様に、体積抵抗率が100V印加で1E6Ωcmであり、厚み200μmのポリアミド(PA)系樹脂を用い、導電剤にカーボンを分散して電気抵抗値が108Ωとなるよう設定している。なお、ここでは、シート部材32aとして酢酸ビニルシートを用いているが、これに限定されるものではなく、例えば酢酸ビニルシート、ポリカーボネイト(PC)、PVDF、PET、ポリイミド(PI)、ポリエチレン(PE)などの他の材料を用いても良い。
また、本実施例では、シート部材32aの接触面に凹凸を形成する方式として、フォトエッチング法によって表面に凹凸形状を形成した金型ロール(不図示)を用いて、シート部材32aの表面を加熱プレスする方式を用いた。しかしながら、前述の凹凸を形成する方式はこれに限定されるものではなく、シート部材の表面(ベルト80の内周面との接触面)に同様の凹凸形状が形成できるものであれば、その他の方式であってもよい。
以下に実施例2における作用効果について説明する。
1次転写部材81aと中間転写ベルト80の間に転写電流が流れる構成においては、シート部材32aにはたらく力には、弾性部材31aによる付勢による垂直抗力に加え、転写部材81aと中間転写ベルト80間の静電引力(以下、吸着力)がある。
本発明者らの検討によれば、転写部材81aが、ベルトの内周面と接触する面に複数の凹部及び凸部を有していることによって、前述した吸着力、及び中間転写ベルト80の駆動トルクの増大を大幅に抑制できることがわかった。これは、転写部材81aと中間転写ベルト80間にはたらく静電吸着力が、互いの平均表面間距離(隙間)の1/2乗に比例して大きくなることによるものである。本実施例は、実施例1に対して、シート部材32aの凹部と凸部が、中間転写ベルト80の搬送方向(矢印Y方向)に配置されている構成で相違している。シート部材32aの凹部と凸部が、中間転写ベルト80の搬送方向(矢印Y方向)に配置されるので、シート部材32aのベルトと接触しない部分がベルト搬送方向と同方向に一列に配置されることを防ぐことができる。
また、前記一次転写部材81aの凹凸の凹部33aでは、中間転写ベルト80の表面に向けて電界放電が生じ、転写部材81a全体の帯電量が減少するため、中間転写ベルト80への放電量が安定化し、中間転写ベルト80の帯電に大きく寄与する効果がある。なお、図11に示すように、貫通していない前記凹部33aの代わりに、一次転写部材81aに無数の貫通穴35aをあけることによっても前記吸着力の低減を達成することは可能である。しかしながら、前記貫通穴35aでは前述したような電界放電が生じることがないため、転写部材の形態としては最適なものとはいえない。
[実施例2の評価]
本実施例における、転写部材81aと中間転写ベルト80との間にはたらく摩擦力及び吸着力の低減効果を簡易的に評価する方法として、下記内容を実施した。
図12に示すように、接地された支持台92に中間転写ベルト80を隙間の無いように貼り、その上に転写部材81aを、シート部材32aが中間転写ベルト80の表面と接するように配置している。更に転写部材81aを、前述した画像形成装置相当の圧力にて中間転写ベルト80に押圧している。また、転写部材81aは、外部の電源装置90によって任意の電圧が印加されるよう配置されている。また、転写部材81aにデジタルフォースゲージ91が取り付けられており、中間転写ベルト80上を転写部材81aが水平移動したときに、転写部材81aと中間転写ベルト80との間にはたらく摩擦荷重(摩擦力)を測定することができる。なお、転写部材81aの移動速度は、10mm/secとした。
本測定方法を用いて、凹部の底部と凸部の頂部の間の深さ、即ちhが、5μm、4μm、2μmの転写部材と、下記に示す形状の異なる転写部材(比較例3)について、摩擦荷重の測定を実施した。
比較例3では、シート部材32aとして、ポリアミド(PA)系樹脂で形成された表面が平滑なシート部材を用いている。このシート部材32aの中間転写ベルト80と接触する表面の中心線平均粗さRaは0.2〜0.3μmであり、ほぼ平滑なものとなっている。更に比較例3のシート部材は、導電剤にカーボンを分散して電気抵抗値が108Ωとなるよう設定している。ベルト搬送方向において、シート部材32aと中間転写ベルト80の接触領域(ニップ幅)は3mmである。比較例3として用いている弾性部材31a及び中間転写ベルト80は、実施例2と同一のものを用いている。
[評価結果]
評価結果を図13に示す。転写部材81aへの印加電圧を0〜800Vまで、200V刻みで印加した場合の、各例の転写部材の引っ張り荷重を測定したものである。
印加バイアス0Vの状態での引っ張り荷重は、押圧の垂直抗力による摩擦荷重を示しており、バイアスを印加することによって、転写部材81aと中間転写ベルト80との間の吸着力による摩擦荷重が加算されている。
h=5μmの構成では、いずれの値の印加バイアスについても、転写部材81aと中間転写ベルト80との間の摩擦荷重が大きく増加することなく、吸着力はほぼ安定して低い値であるといえる。
h=5μmの構成に比べて、比較例3の構成では、電圧の印加に伴い、転写部材81aと中間転写ベルト80との間の摩擦荷重は二次関数的に上昇しており、吸着力は急激に上昇している。
また、図13に示すように凹凸の深さが大きくなるに従い、転写部材81aと中間転写ベルト80との間の摩擦荷重、つまり、吸着力の上昇を低減することができるという結果が得られた。ただし、凹凸の深さが4μm以下は、が、実施例2ほどの抑制効果は得られなかった。転写部材81aと中間転写ベルト80との間の摩擦荷重及び吸着力の抑制効果が得られる最適な凹凸の深さhについては、本発明者らの検討結果によると凹凸の深さhは5μm以上であることが好ましいことがわかった。即ち、凹部の底部と凸部の頂部の間の深さが5μm以上40μm以下の範囲であると、より摩擦荷重及び吸着力の抑制効果が高い。
また、実施例2の転写部材を用いて、前述した画像形成装置で連続通紙試験を実施したところ、従来例の転写部材を用いた構成に比べて、約1.5〜2.0倍耐久寿命が延長する結果となった。尚、上記評価では、第1の画像形成ステーションの一次転写部を例示して説明したが、第2〜第4の画像形成ステーションも第1の画像形成ステーションと同様の構成であるので、同様の効果が得られる。
上述したように、本実施例によれば、転写部材81の中間転写ベルト80との接触面(接触領域A)に凹凸を設けたことにより、中間転写ベルト80と転写部材81との摩擦力が高くなるのを抑制できる。これにより、中間転写ベルト80の駆動トルクの上昇による、中間転写ベルト80と転写部材81の間で発生する異音を抑制し、転写不良などの画像不良が発生するのを防止できる。また、転写部材81が、中間転写ベルト80に安定して接触するため、安定した転写性能を維持でき、転写不良などの画像不良が発生するのを防止できる。
[実施例3]
本発明に係る実施例3について、図面を用いて説明する。なお、本実施例で適用する画像形成装置の構成は、転写部材(シート部材)の形状を除き、前述した実施例2と同様であり、同一部材には同一記号を付し、説明を省略する。以下、実施例3で用いた転写部材におけるシート部材の形状について図16を用いて説明する。
図14に示すように、一次転写部材81aのシート部材32aに設けた凹凸は、複数の凹部33a及び凸部34aが互いに隣接して設けられたものである。図14(a)はシート部材の上面図、図14(b)は図14(a)のX−X断面図である。図16においてYはベルトの搬送方向である。実施例3のシート部材32aは、実施例2のシート部材32aに対して、各凹凸部が側面に傾斜面36を有する点で相違している。具体的には、本実施例のシート部材32aの表面の凹凸形状は、凸部34aの頂部の幅D1が60μmの正方形、凸部の底部の幅D2が100μmの正方形であり、側面は傾斜面になっている。すなわち、シート部材32aの表面の凹凸形状は、各凸部34aの頂部と各凹部33aの底部の間が、凸部34aの頂部から前記凹部33aの底部に向かって傾斜する傾斜面36を有する。また、凸部34a間のピッチE1は120μm、凹部33a間のピッチE2は120μmである。更に、凹部33aの深さhは50μmである。この凹部33aの深さhは、凸部34aの頂部と凹部33aの底部との垂直距離である。また、シート部材32aの凹凸(凸部34a)は、中間転写ベルト80の搬送方向(矢印Y方向)に対して、不連続に配置されている。また、シート部材32aの、中間転写ベルト80との接触領域Aの幅は3mmである。このように、中間転写ベルト80の搬送方向において、凸部34a間の凹部33aの底部の最大幅は、中間転写ベルト80とシート部材32aとの接触領域Aの幅よりも小さい設定されている。
以下に実施例3における作用効果について説明する。
1次転写部材81aと中間転写ベルト80の間に転写電流が流れる構成においては、シート部材32aにはたらく力には、弾性部材31aによる押圧による垂直抗力に加え、転写部材81aと中間転写ベルト80間の静電引力(以下、吸着力)がある。
前述したように、転写部材81aの表面(ベルトとの接触面)を凹凸形状にすることによって、前述した吸着力、及び中間転写ベルト80の駆動トルクの増大を大幅に抑制することができる。また、前記転写部材81aの凹凸の凹部33aでは、中間転写ベルト80の表面に向けて電界放電が生じ、転写部材81a全体の帯電量が減少するため、中間転写ベルト80への放電量が安定化し、中間転写ベルト80の帯電に大きく寄与する効果がある。さらに、隣接する各凹部の底部と各凸部の頂部の間は、凸部の頂部から凹部の底部に向かって傾斜する傾斜面を有することで、凹部と凸部との急激な差による異常放電の発生を防止することができ、更に安定した転写性能を維持することができる。
[他の実施例]
前述したように、シート部材32aの凹凸形状として、実施例2では図10に示すように、中間転写ベルトの搬送方向に凹部33aと凸部34aを配置した構成を例示した。また実施例3では図16に示すように凸部34aを不連続に配置した構成を例示した。そして、実施例3の凸部34aが頂部から底部に向けて傾斜する傾斜面を有する構成を例示したが、実施例2の凹部33aが底部から頂部に向けて傾斜する傾斜面を有する構成であっても良い。この構成によって、同様に、更に安定した転写性能を維持することができる。
また前述した実施例では、画像形成ステーションを4つ使用しているが、この使用個数は限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すれば良い。
また前述した実施例では、画像形成装置本体に対して着脱自在なプロセスカートリッジとして、感光ドラムと、該感光ドラムに作用するプロセス手段としての帯電手段,現像手段,クリーニング手段を一体に有するプロセスカートリッジを例示した。しかしながら、プロセスカートリッジはこれに限定されるものではない。例えば、感光ドラムの他に、帯電手段、現像手段、クリーニング手段のうち、いずれか1つを一体に有するプロセスカートリッジであっても良い。
更に前述した実施例では、感光ドラムを含むプロセスカートリッジが画像形成装置本体に対して着脱自在な構成を例示したが、これに限定されるものではない。例えば各感光ドラムやプロセス手段がそれぞれ組み込まれた画像形成装置、或いは各感光ドラムやプロセス手段がそれぞれ着脱可能な画像形成装置であっても良い。
また前述した実施例では、画像形成装置としてプリンタを例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば複写機、ファクシミリ装置等の他の画像形成装置や、或いはこれらの機能を組み合わせた複合機等の他の画像形成装置であっても良い。また、搬送可能なベルトは中間転写体に限定されるものではなく、記録材を担持して搬送する記録材担持体を使用し、該記録材担持体に担持された記録材に各色のトナー像を順次重ねて転写する画像形成装置であっても良い。これらの画像形成装置に本発明を適用することにより同様の効果を得ることができる。
図15に示すように記録材を担持、搬送するエンドレスベルトとしての記録材搬送ベルト100を使用し、このベルト100に担持された記録材Sに各色のトナー像を順次重ねて転写する画像形成装置であっても良い。図15の転写部材81a、81b、81c、81dに前述した実施例の1次転写部材を用いることが可能である。