以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明のセラミック接合体の実施の形態の一例を示す、(a)は接合前の一対の板状の基体の斜視図であり、(b)は接合剤を用いて一対の板状の基体を接合したセラミック接合体の斜視図であり、(c)は(b)のX−X’線での断面図である。
本発明のセラミック接合体1は、窒化珪素質焼結体からなる一対の板状の基体2(2a,2b)の主面4同士が、アルミニウム,シリコン,イットリウムおよびルテチウムを含むガラスを主成分とし、ルテチウム化合物の結晶を含む接合層3を介して接合されていることを特徴としている。
このような構成のセラミック接合体1は、接合層3の主成分であるアルミニウム,シリコン,イットリウムおよびルテチウムを含むガラスによって、一対の板状の基体2の主面4同士を強固に接合することができる。
図2は、本発明のセラミック接合体における接合層の一例を示す、図1(c)におけるA部の拡大断面図である。
このように、窒化珪素質焼結体からなる一対の板状の基体2の主面4同士の間の接合層3は、アルミニウム,シリコン,イットリウムおよびルテチウムを含むガラス5を主成分とし、ルテチウム化合物の結晶6を含んでいる。
この接合層3に含まれるルテチウムおよびルテチウム化合物の結晶6は、高い熱伝導率を有するため、接合することによってセラミック接合体1の熱伝導率を低下させることが少ないので、セラミック接合体1の熱伝導率と基体2の有する熱伝導率とをほぼ同等にすることができる。
また、接合層3に含まれるルテチウムおよびルテチウム化合物の結晶6は、融点が高く耐熱性に優れているため、接合することによって高温強度が低下することが少ないので、セラミック接合体1の高温強度と基体2の有する高温強度とをほぼ同等にすることができる。
なお、接合層3に含まれるルテチウム化合物の結晶6の有無については、セラミック接合体1を厚み方向に研削加工し、接合層3を露出させて、露出した接合層3の表面をX線回折装置により測定して、その回折チャートに現れる結晶ピークを同定することにより確認することができる。回折チャートに現れるルテチウム化合物の結晶6としては、Lu2Si2O7やLu2SiO5などがある。Lu2Si2O7については、回折チャートにおいて回折角度2θ=16〜17°,19〜20°,26〜27°,29〜30°,33〜34°または39.5〜40.5°のいずれかの回折角度の範囲に主な結晶ピークが現れ、Lu2SiO5については、22〜23°,25〜26°,28〜29°または30〜31°のいずれかの回折角度の範囲に主な結晶ピークが現れる。
また、接合層3に含まれるアルミニウム,シリコン,イットリウムおよびルテチウムの成分の有無については、加速した電子線を物質に照射したきに放出される特性X線の波長と強度とを含むスペクトルを分析するEPMAにて確認することができる。成分の同定は、コンピュータにより自動的に処理されるものであるが、まず、得られたスペクトルのピーク位置の検出が行なわれ、検出したピーク位置とデータベースに記録されている既知特性X線データとの照合により、複数のピーク位置(特性X線エネルギー)が一致する元素を接合層3に存在する元素として同定するものである。また、成分量については、元素濃度の明らかな標準試料の特性X線強度と、接合層3の特性X線強度とを比較することによって確認することができる。
また、成分量については、接合層3を透過型電子顕微鏡により5000〜20000倍に拡大観察した後、接合層3の任意の箇所をエネルギー分散型X線回折装置により分析し、各部の元素カウント数から各成分の質量割合を求める方法によっても確認することができる。
そして、本発明のセラミック接合体を構成する窒化珪素質焼結体がルテチウムを含んでいることが好ましい。窒化珪素質焼結体からなる一対の板状の基体2には、酸化イットリウムなどのイットリウム化合物や酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物を焼結助剤として用いた一般的な緻密質の窒化珪素質焼結体やサイアロンなどを用いることができる。中でも、ルテチウムを含む窒化珪素質焼結体を用いれば、ルテチウムが窒化珪素質焼結体の粒界にLu2Si2O7やLuSiO5として存在し、粒界の耐酸化性を向上させ、窒化珪素質焼結体の高温強度を高めることができる。また、Lu2Si2O7やLuSiO5は、熱伝導率が高いために窒化珪素質焼結体の熱伝導率を向上させることができる。
また、ルテチウムはイオン半径が小さく原子間の結合力が強固であり、格子振動が少なく熱膨張が小さいために、窒化珪素質焼結体の耐熱衝撃性を高めることができる。この窒化珪素質焼結体に含まれるルテチウムは、酸化物換算で3質量%以上15質量%以下とするのがよい。この範囲内であれば、窒化珪素質焼結体を緻密化させることができるとともに、高温強度,熱伝導率および耐熱衝撃性を高めることができるので好適である。
そして、窒化珪素質焼結体がルテチウムを含むときには、接合時の熱処理の際に、接合層3にルテチウムが拡散して、接合層3にルテチウム化合物の結晶6を生成することができるので、ルテチウムを含む窒化珪素質焼結体からなる一対の板状の基体2の主面4同士を接合したセラミック接合体1は、基体2が熱伝導率,高温強度および耐熱衝撃性に優れており、ルテチウム化合物の結晶6を含む接合層3を介して接合されているため、基体2の有する上記特性を低下させることが少ないので、様々な分野の構成部材として用いられている窒化珪素質焼結体の厚肉化への対応ができ、気体または液体が通る流路を形成することもできる。
図3は、本発明のセラミック接合体における接合層の他の例を示す、拡大断面図である。
図3に示すように、接合層3に窒化珪素の結晶7を含んでいるときには、接合層3に生じたクラックの進展を防止することができるので、接合層3の強度を向上させることができる。この接合層3に窒化珪素の結晶7を含ませるには、酸化珪素を含む接合剤を用いて窒素雰囲気で熱処理すればよい。
また、本発明のセラミック接合体1は、窒化珪素の結晶7の平均粒径が1μm以下であることが好ましい。窒化珪素の結晶7の平均粒径が1μm以下であるときには、薄い接合層3の厚みで十分な強度を得ることができるので、接合剤の塗布量および塗布作業にかかる時間を少なくできるため、製造コストを低減することができる。この窒化珪素の結晶7の平均粒径を1μm以下とするには、接合剤に用いる酸化珪素の平均粒径を1μm以下とすればよい。
なお、接合層3の窒化珪素の結晶7の有無および平均粒径については、接合層3の任意の箇所を波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子製JXA−8600M型)を用いたEPMAにて分析することにより確認することができる。
図4は、本発明のセラミック接合体における接合層のさらに他の例を示す、拡大断面図である。
図4に示すように、本発明のセラミック接合体1は、ルテチウム化合物の結晶6が一対の基体2のそれぞれに接していることが好ましい。ルテチウム化合物の結晶6が一対の基体2に接しているときには、熱伝導率の高いルテチウム化合物の結晶6と、一方の基体2aおよび他方の基体2bの双方にガラス5を介することなく接しているので、良好に基体2間の熱伝達が行なわれるため、熱伝導性がより向上する。
また、本発明のセラミック接合体1は、接合層3の厚みが3μm以上10μm以下であることが好ましい。接合層3の厚みが3μm以上10μm以下であるときには、十分な接合強度が得られるとともに、セラミック接合体1の機械的特性と基体2の有する機械的特性とをほぼ同等とすることができる。接合層3の厚さは、3μm以上5μm以下とすることがより好ましい。なお、接合層3の厚みは、接合剤の粘度や接合剤を塗布後に重ね合わせた基体2a・2bの表面にかける圧力によって調整することができる。
また、本発明のセラミック接合体1の強度は、接合層3を中央部に配置した試料を作製し、JIS R 1601−1995に準拠して4点曲げ強度の測定を行なうことにより確認することができる。このとき、本発明のセラミック接合体1の4点曲げ強度は、基体2である窒化珪素質焼結体とほぼ同等の700MPa以上の強度を有している。
さらに、4点曲げ強度の試験を1000〜1200℃の高温中で実施した場合の本発明のセラミック接合体1の4点曲げ強度は、590MPa以上であり、室温に対する高温の強度低下率(100−(高温における強度/室温における強度×100))は20%以下である。
また、本発明のセラミック接合体1の熱伝導率については、例えば接合層3を含む厚み4mm以下,直径が8〜10mmの円板形状の試料を研削加工により切り出し、この試料の表面にレーザーを照射するレーザーフラッシュ法を用いてJIS R 1611−1997に準拠して測定を行なうことにより確認することができる。測定装置については、例えばレーザーフラッシュ法熱定数測定装置(真空理工(株)製 TC−7000)を用いて測定することができる。
図5は、本発明のセラミック接合体の実施の形態の他の例を示す、(a)は接合前の一対の板状の基体の斜視図であり、(b)は(a)における一対の板状の基体を接合したセラミック接合体の概略図である。
図5に示すように、本発明のセラミック接合体1は、一対の基体2の主面4の少なくとも一方に溝8が形成され、溝8の周囲に接合層3が配置されているときには、溝8へ流体を流したときの溝8の周囲からの流体の漏洩を防止するとともに、熱伝達性の良好な接合層3を有しているので、溝8に流体を流す温度によって、セラミック接合体1上に載置した載置物を加温したり降温したりすることに好適に用いることができる。
次に、本発明のセラミック体1の製造方法の一例について詳細を以下に示す。
まず、窒化珪素質焼結体からなる一対の基体2の製造方法としては、例えば酸化イットリウム(Y2O3)と酸化アルミニウム(Al2O3)とを合計で1質量%以下の範囲で含む、純度が99〜99.8%で平均粒径が0.5〜2μmの窒化珪素1次原料を準備する。そして、この窒化珪素1次原料を100質量%とし、バインダを1〜5質量%,分散剤を0.5質量%以下,溶媒を80〜120質量%の割合で加え、混合してスラリーとした後、噴霧乾燥装置(スプレードライヤー)にて造粒して2次原料を得る。
次に、この2次原料を用いて静水圧プレス成形(ラバープレス)法や粉末プレス成形法にて所定形状の板状の成形体を成形し、必要に応じて板状の成形体に切削加工により施した後、これを焼成炉にて窒素雰囲気中1900℃の最高温度で焼成する。焼成後、研削加工により最終仕上げして、窒化珪素質焼結体からなる板状の基体2を得ることができる。なお、溝8を形成するときには、一方の基体2aおよび他方の基体2bの少なくともいずれかの板状の成形体に溝8のパターンの切削加工を施せばよい。
次に、基体2を接合するための接合剤を作製する。まず、純度が95%以上で平均粒径が0.5〜2μmの酸化アルミニウム(Al2O3)と、純度が99%以上で平均粒径が1μm以下の酸化珪素(SiO2)と、純度が98%以上で平均粒径が0.5〜1.5μmの酸化イットリウム(Y2O3)と、純度が95%以上で平均粒径が0.5〜1.5μmの酸化ルテチウム(Lu2O3)とを準備する。
ここで、酸化珪素の粉末として平均粒径が1μm以下のものを用いるのは、酸化珪素の大きさが接合層3に生成される窒化珪素の結晶7の大きさに影響するからである。酸化珪素粉末の平均粒径が1μmを超えると接合層3に存在させる窒化珪素の結晶7の平均粒径が1μmを超えて大きくなり、接合層3の強度をより向上させにくくなる。
次に、これらの1次原料粉末を、酸化アルミニウムが10〜30質量%,酸化珪素が35〜45質量%,酸化イットリウムが15〜40質量%,酸化ルテチウムが5〜20質量%の範囲で4種類の粉末の合計が100質量%となるように混合する。
この酸化珪素の含有量が35〜45質量%の範囲内であれば、一対の基体2同士の高い接着力を有するとともに、接合層3に窒化珪素の結晶7を生成し、接合層3の強度を高めることができる。
次に、混合粉末にアルミナボールおよび有機溶剤(イソプロピルアルコール)を適量加えたものを円柱状のプラスチック容器中に投入し、回転装置にて軸方向と平行に、12〜36時間回転させて混合する。混合後、アルミナボールと混合スラリーを分離しながら、プラスチック容器から金属製容器内にスラリーを排出する。排出後、乾燥機内でスラリーを乾燥し、乾燥後に得られた粉体の固まりを解砕して接合剤用原料とする。
次に、接合剤用原料と溶媒と分散剤とを調合する。接合剤用原料100質量%に対し、溶媒を10〜20質量%,分散剤を0.5〜2質量%の割合で添加して、これらを再度円柱状のプラスチック容器内に投入して、容器の軸方向と平行に回転装置にて回転させながら混合することで、ペースト状の接合剤を得ることができる。
ここで、溶媒としては、例えばパラフィン系等の疎水性の有機溶媒を使用することが好ましい。疎水性の有機溶媒を用いたペースト状の接合剤は、接合する一方の基体2aの接合部に塗布した際に表面が乾きにくく、他方の基体2bの接合部となじみ易いので、より良好な接合層3とすることが可能となる。また、分散剤については、疎水性溶媒に適した非イオン界面活性剤を用いるのがよい。なお、ペースト状の接合剤は、分離あるいは固化しやすいので、回転させながら保管するのがよい。
また、ペースト状の接合剤の粘度は0.5〜2Pa・sとするのがよい。この範囲の粘度であれば、接合部である基体2の主面4に塗布したペースト状の接合剤が垂れ落ちることなく接合部に留まるとともに、接合部における接合剤の塗布厚みを均一にしやすい。
次に、作製したペースト状の接合剤を接合部である窒化珪素焼結体からなる基体2の主面4に塗布する。なお、塗布するのは、一方の基体2a,他方の基体2bのいずれかの主面であっても、両方の主面であってもよい。ペースト状の接合剤の塗布は、刷毛などを用いて行なってもよいが、塗布厚みをより均一とするためには、接合部のみ目開きし、その他は目封止したスクリーンを準備し、そのスクリーンの目開き部分を接合部に合わせ、スクリーン上にペースト状の接合剤を垂らして、樹脂性のスキージでスクリーンを介して塗布することが好ましい。
ここで、ペースト状の接合剤の塗布厚みは5〜100μmの範囲とするのがよい。この範囲の塗布厚みであれば、ペースト状の接合剤を塗布後に基体2の主面4同士を重ね合わせ、重ね合わせた基体2の表面に圧力を加えたときに、接合部よりはみ出す接合剤は少量なので、はみ出した接合剤を除去するための追加工を少なくすることができる。また、接合部よりはみ出した少量の接合剤が、熱処理時に溶融状態となり表面張力によって応力集中を受けやすい角部を補強するという効果を得ることができる。
そして、ペースト状の接合剤を塗布後に基体2の主面4同士を重ね合わせ、重ね合わせた基体2の表面に圧力を加える。例えば、ペースト状の接合剤の粘度が0.5〜2Pa・sであれば、重ね合わせた基体2の表面に15MPa以上の圧力が加わるように設定すればよい。
次に、熱処理を実施する。熱処理には、窒素ガスを注入して炉内を窒素雰囲気に調整可能な大型のバッチ炉を用いる。このとき炉内は、常圧で20〜500kPaのN2分圧とするのがよい。そして、熱処理温度を1250〜1400℃として0.5〜3時間保持すれば、接合強度の高いセラミック接合体1を得ることができる。このような雰囲気,温度および保持時間の条件にて熱処理することにより、接合剤中に含まれるルテチウム成分が結晶化し、ルテチウム化合物の結晶6を含む接合層3を形成することができる。また、上記含有量の酸化珪素を含む接合剤を用いて、窒素雰囲気で熱処理することにより、窒化珪素の結晶7を接合層3に生成させることができ、接合層3の機械的強度を向上させることが可能となる。
また、基体2の窒化珪素質焼結体にルテチウムを含ませるには、例えば酸化ルテチウム(Lu2O3)を5〜15質量%含む、純度が85〜95%で平均粒径が0.5〜2μmの窒化珪素1次原料を準備する。以降、調合,成形や焼成については上記同様の工程にて作製することにより、ルテチウムを含む窒化珪素質焼結体からなる板状の基体2を得ることができる。
そして、接合剤としては、上記同様の酸化アルミニウムが10〜30質量%,酸化珪素が35〜45質量%,酸化イットリウムが15〜40質量%,酸化ルテチウムが5〜20質量%の範囲で4種類の粉末の合計が100質量%となるように混合した粉末を用いてもよいが、基体2がルテチウムを含む窒化珪素質焼結体からなるときには、ルテチウムを含まない接合剤を用いることも可能である。
ルテチウムを含まない接合剤としては、上記同様の粉末を用いて、酸化アルミニウムが10〜30質量%,酸化珪素が35〜45質量%,酸化イットリウムが35〜45質量%の範囲で3種類の粉末の合計が100質量%となるように混合し、その後の調合等については、上記同様の工程にて作製する。
そして、ルテチウムを含む窒化珪素質焼結体からなる基体2の主面4に接合剤を塗布し、基体2の主面4同士を重ね合わせ、重ね合わせた基体2の表面に圧力を加え、その後、上記条件にて熱処理することにより、接合強度の高いセラミック接合体1を得ることができる。なお、接合剤にルテチウムは含まれていないが、ルテチウムを含む窒化珪素質焼結体からなる一対の板状の基体2を酸化アルミニウム,酸化珪素および酸化イットリウムからなる接合剤を用いて、上記条件で熱処理すれば、窒化珪素質焼結体に含まれるルテチウムが接合層3に拡散し、接合層3にルテチウムの結晶6を生成することができるので、本発明のセラミック接合体1の機械的特性を基体2の有する機械的特性とほぼ同等とすることができる。
以上、本発明の実施の形態の一例について説明したが、本発明のセラミック接合体1は上述の内容に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲内であれば種々変更してもよいことは言うまでもない。例えば、本発明のセラミック接合体1を板状の被加工材や板状の部材の載置台として用いたり、各種粉砕機の内壁などに粉砕機用部材として用いたりすることが可能である。
以下、本発明の実施例について詳細を示す。
(実施例1)
ルテチウムを含まない基体(以下、第1の基体と称す。)およびルテチウムを含む基体(以下、第2の基体と称す。)と、ルテチウムを含まない接合体(以下、第1の接合剤と称す。)およびルテチウムを含む接合剤(以下、第2の接合剤と称す。)とを作製し、これらを組み合わせたセラミック接合体を作製して、セラミック接合体の熱伝導率および4点曲げ強度の測定を行なった。
まず、酸化イットリウムおよび酸化アルミニウムを焼結助剤とし、ルテチウムを含まない第1の基体を作製した。純度が99.5%以上で平均粒径が1μmの窒化珪素粉末と、純度98%が以上で平均粒径が1μmの酸化イットリウム粉末と、純度が95%以上で平均粒径が1μmの酸化アルミニウム粉末とを準備した。そして、窒化珪素粉末100質量%に対し、焼結助剤である酸化イットリウム粉末および酸化アルミニウム粉末を合計で1質量%以下添加して、混合攪拌機にて混合して窒化珪素1次原料を得た。
その後、この窒化珪素1次原料にバインダを3質量%,分散剤を0.2質量%,溶媒を100質量%加え、混合してスラリーとした後、スプレードライヤーにて造粒して窒化珪素2次原料を得た。次に、この窒化珪素2次原料を用いて、粉末プレス成形法にて縦横が120mmの正方形であり、厚みが30mmの板状の成形体を得た。しかる後、この板状の成形体を窒素雰囲気中1900℃で焼成して焼結体を得た後、研削加工を施して、縦横が100mmの正方形で厚みが20mmの板状である第1の基体を得た。
次に、ルテチウムを含む第2の基体を作製した。純度が99%以上で平均粒径が1μmの酸化ルテチウム粉末と、純度が99.5%以上で平均粒径が1μmの窒化珪素粉末とを準備し、窒化珪素粉末100質量%に対し酸化ルテチウムを10質量%添加して、混合攪拌機にて混合してルテチウムを含む窒化珪素1次原料を得た。
その後、このルテチウムを含む窒化珪素1次原料にバインダを3質量%,分散剤を0.2質量%,溶媒を100質量%加え、混合してスラリーとした後、スプレードライヤーにて造粒してルテチウムを含む窒化珪素2次原料を得た。次に、ルテチウムを含む窒化珪素2次原料を用いて、粉末プレス成形法にて縦横が120mmの正方形で厚みが30mmの板状の成形体を得た。しかる後、この板状の成形体を窒素雰囲気中1900℃で焼成して焼結体を得た後、研削加工を施して、縦横が100mmの正方形で厚みが20mmの板状である、ルテチウムを含む第2の基体を得た。
次に、ルテチウムを含まない第1の接合剤およびルテチウムを含む第2の接合剤を作製した。
まず、第1の接合剤として、純度が95%以上で平均粒径が1μmの酸化アルミニウム粉末を20質量%と、純度が99%以上で平均粒径が0.5μmの酸化珪素粉末を40質量%と、純度が98%以上で平均粒径が1μmの酸化イットリウム粉末を40質量%とを混合した。この混合粉末に、アルミナボール,有機溶剤(イソプロピルアルコール)を適量加え、プラスチック容器中で24時間回転攪拌した後、プラスチック容器から所定の金属容器にスラリーを排出し、このスラリーを乾燥機内で60℃の温度で40時間乾燥し、乾燥後に得られた粉体の固まりを解砕して第1の接合剤用原料を得た。
次に、この第1の接合剤用原料100質量%に対し、溶媒としてイソパラフィンを15質量%と、分散剤として非イオン界面活性剤を1.5質量%との割合で添加して、これらを再度円柱状のプラスチック容器内に投入して、容器ごと回転装置にて回転させながら約10時間混合して、第1の接合剤を得た。なお、第1の接合剤の粘度は、E型粘度計にて測定したところ1Pa・sであった。
次に、ルテチウムを含む第2の接合剤として、純度が95%以上で平均粒径が1μmの酸化アルミニウム粉末を20質量%と、純度が99%以上で平均粒径が0.5μmの酸化珪素粉末を40質量%と、純度が98%以上で平均粒径が1μmの酸化イットリウム粉末を30質量%と、純度が95%以上で平均粒径が1μmの酸化ルテチウム粉末を10質量%とを混合し、その後の調合等については、上記同様の工程にて、ルテチウムを含む第2の接合剤を作製した。なお、第2の接合剤の粘度は、E型粘度計にて測定したところ1Pa・sであった。
そして、ルテチウムを含まない第1の基体およびルテチウムを含む第2の基体と、ルテチウムを含まない第1の接合剤およびルテチウムを含む第2の接合剤とを用いて、表1に示す組合せにて接合を行なった。接合方法としては、一方の基体の主面にスクリーンを介して30μmの厚みの接合剤を塗布し、他方の基体の主面を一方の基体の主面に重ね合わせ、基体の表面に15MPaの圧力を加えた。その後、窒素雰囲気の大型のバッチ炉に投入し、炉内を常圧で200kPaのN2分圧とし、1350℃の最高温度で熱処理し、接合層3の厚みが5〜8μmの試料No.1〜4のセラミック接合体を得た。なお、接合前のルテチウムを含まない第1の基体の熱伝導率は25W/m・Kであり、4点曲げ強度は室温で750MPa,1200℃で450MPaであり、接合前のルテチウムを含む第2の基体の熱伝導率は65W/m・Kであり、4点曲げ強度は室温で750MPa,1200℃で600MPaであった。
そして、それぞれのセラミック接合体から接合層3を含む厚みが4mm以下で直径が8〜10mmの円板形状の試料を研削加工により切り出し、JIS R 1611−1997に準拠して、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(真空理工(株)製 TC−7000)を用いて測定した。また、それぞれのセラミック接合体からJIS R 1601−1995に準拠した接合層3を中央部に配置した試料を作製し、室温と1200℃とでの4点曲げ強度を測定し、第1,第2の基体の有する4点曲げ強度との比が5%以内であれば基体とほぼ同等であるとして○とし、5%を超えるときには×として示した。
また、接合層3を波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子(株)製 JXA−8600M型)を用いたEPMAにて分析し、ルテチウム化合物の結晶6の有無および第1,第2の基体に接しているか否かの確認を行なった。結果を表1に示す。
表1に示す結果から分かるように、本発明の範囲外である試料No.1の従来のセラミック接合体は、第1の基体の有する熱伝導率が25W/m・Kに対し、19W/m・Kと熱伝導率が低下した。これに対し、試料No.2の本発明のセラミック接合体1は24W/m・Kであり、従来のセラミック接合体と比較して熱伝導率の低下がなく、第1の基体の有する熱伝導率とほぼ同等であった。
また、試料No.3の本発明のセラミック接合体1は、第2の基体がルテチウムを含んでいることにより、接合層3にルテチウムが拡散し、ルテチウム化合物の結晶6を含んでいることから、熱伝導率は第2の基体の有する熱伝導率とほぼ同等の62W/m・Kであった。さらに、試料No.4の本発明のセラミック接合体1は、第2の基体および第2の接合剤ともにルテチウムを含むことから、第2の基体の有する熱伝導率と同等の65W/m・Kであった。
また、試料No.1の従来のセラミック接合体は、室温における4点曲げ強度においては、第1の基体の有する4点曲げ強度との比が5%以内の値を示したものの、1200℃の4点曲げ強度は5%を超えており、強度の低下が見られた。これに対し、試料No.2〜4の本発明のセラミック接合体1は、1200℃の4点曲げ強度においても第1,第2の基体の有する4点曲げ強度との比が5%以内であり、ほぼ同等であることが確認できた。
また、本発明のセラミック接合体1は、接合層3にルテチウム化合物の結晶6の存在が確認されるとともに、接合した双方の基体に接していることが確認され、特に、試料No.4が接合した双方の基体に接しているルテチウム化合物の結晶6が多かった。
(実施例2)
次に、実施例1と同様のルテチウムを含む第2の基体と第1の接合剤とを用いて、接合時の熱処理を大気雰囲気で行なった試料と、窒素雰囲気で行なった試料とにおける4点曲げ強度の比較を行なった。また、接合層3の窒化珪素の結晶7の有無および平均粒径について、波長分散型X線マイクロアナライザー装置(日本電子(株)製 JXA−8600M型)を用いたEPMAにて確認を行なった。
その結果、大気雰囲気で熱処理した試料の接合層3には、窒化珪素の結晶6は存在していなかった。これに対し、窒素雰囲気で熱処理した試料の接合層3には、平均粒径が0.7μmの窒化珪素の結晶7が確認された。また、4点曲げ強度の比較においては、大気雰囲気で熱処理した試料よりも窒素雰囲気で熱処理した試料の方が高く、接合層3に窒化珪素の結晶6を含んでいることにより、強度が高くなることが確認された。
(実施例3)
次に、実施例2と同様にルテチウムを含む第2の基体と第1の接合剤とを用いて、接合剤の塗布後に試料によって基体の表面に加える圧力を異ならせた。その後、窒素雰囲気で熱処理し、接合層3の厚みが2μm,3μm,7μm,10μm,12μmの本発明のセラミック接合体1を得た。
その結果、ルテチウムを含む第2の基体の有する熱伝導率および4点曲げ強度ともにほぼ同等の値を示したのは、接合層3の厚みが3μm,7μmおよび10μmの試料であり、接合層3の厚みが3〜10μmであることが好ましいことが確認された。
また、ルテチウムを含む第2の基体および第1の接合剤を用いて、図5に示すような、他方の基体2bに溝8を形成し、溝8の周囲に接合層3を配置した本発明のセラミック接合体1を作製し、溝8に流体を流したところ、流体の漏洩は無く、しかもセラミック接合体1の上に載せた載置物を好適に加温したり、降温したりできることが確認された。