本発明は、熱媒体を用いた気化液化装置に関し、この現象を利用した冷水あるいは温水の製造による空調装置に係る。更に主たる装置構成を同一とする発電、蒸留、分留、濃縮、脱気装置に係る。またこれら装置の操作に伴う気化液化現象を遂行させるために用いる100℃未満の低質な熱資源の開発利用を図る。
液体の気化及び気体の液化の現象は化学的、物理的基本操作として産業技術の多方面に利用されている。代表的なものの一つは冷暖房装置であり、ヒートポンプと称するこのシステムは密封された熱媒体を装置内で循環させ気化と液化を繰り返すことにより、一方において吸熱、他方において放熱を行い、空調、冷蔵、冷凍等の装置として利用されている。他の代表例は混合系の分離技術としての蒸留あるいは分留装置であるが、加えて相変態に伴うエントロピー変化を利用した火力及び原子力発電における熱エネルギーの電気エネルギーへの変換も重要な利用例となっている。
発明の解決しようとする課題
液体の気化には液体表面のみで行われる蒸発と液相全体で行われる沸騰の2現象があり、過程の進行速度の観点から利用性の高いのは後者である。液体を沸騰気化させるには液体の置かれている雰囲気の圧力より液体の蒸気圧が高くなければならない。他方液体を沸騰気化させるには相変体に必要な熱の供給が不可欠であるが、大気圧下の沸騰においては該液体の蒸気圧が1気圧より高くなくてはならず、熱源がこの蒸気圧値を与えるのに十分な温度を有していなければならない。最も卑近な液体である水は周知のごとく大気圧下では100℃で沸騰するので、これ以上の温度の熱源を用いないと大気圧下で沸騰気化させることはできない。100℃よりも低い温度で水を沸騰させる必要がある場合、これを実現する手段は水を減圧して低圧の状態に置き沸点を下げることである。この状態で熱を供給すれば低温の熱源からでも熱の供給を得、これを気化熱として利用し沸騰させることが可能となる。ところが一般に物質を減圧状態におくには大気と隔離された密封容器及びこれと連結した動力を伴う真空装置が必要となる。また過程がバッチ式(batch wise operation)になる。すなわち液体を減圧用容器に入れ、密封したのち減圧し沸騰気化させて目的とする処理を行い、しかる後密封状態を解除、処理後の生成物を取り出した後、次の液体を入れ替えて操作を繰り返す。工程としての効率は低い。他方、ヒートポンプではあらかじめ熱媒体を閉鎖密封してあるので、操作を連続的に行うことができる。しかしながら閉鎖密封系と外部との間の熱交換装置を必要とすることに加えて、熱媒体として用いられる物質の管理問題が生じる。近年は環境意識の社会的高揚に伴い、環境負荷物質の使用が排除される傾向が強く、長年熱媒体として用いられてきたフロン等の物質の使用が困難になりつつある。これらの事由を鑑み、本発明に係る装置は、液体の減圧、復圧を簡素化し連続的な操作を可能にする新規の方法を呈示することにより、ヒートポンプに適う作用を開放系で遂行するとともに、従来高温の熱源を利用して行われていた、発電、蒸留等の操作を、温度の低い100℃以下の低質な熱源を利用することによって可能にする。
課題を解決するための手段
本発明は上述の課題を達成する手段として、大気脚を発展させたバロメトリックサイホンを利用することを特徴とする。図2は、一方が閉じられた十分な長さの閉管に液体を満たしこれを逆さにして大気圧下で同一液体を溜め保持した容器に立てた状態を示すもので、周知のごとく該液体が水銀の場合には上部の管内の液面である蒸気圧液面11と下部の液槽の液面である大気圧液面13の間には76cmの高低差が生じ、管内の蒸気圧液面11より上部に生じた空間12はトリチェリー(Torricelli)の真空と呼ばれている。空間12は完全な真空ではなく水銀のその温度における飽和蒸気で満たされている蒸気空間12であり、上記2液面の高低差は厳密には水銀の蒸気圧と大気圧との差に対応する。水銀に替えて密度の低い他の液体を用いても同一の状態になるが、密度に対応して蒸気圧液面11と大気圧液面13の高低差が大きくなる。ちなみに常温25℃の水の場合にはこの温度における水の蒸気圧が23.76mmHg であるので高低差は1001cmとなる。一般に大気圧に対面させて液柱をつくるこの構成は大気脚(barometric legs)と呼ばれている。
大気脚では管下端部あるいは液槽内の大気圧液面13近傍の液体は大気圧下にあるが管内の蒸気圧液面11近傍の液体は低圧状態にあり、両者は大気脚の管内で通じていて高圧側と低圧側の間即ち管下部と管上部の間の物質交換が可能である。大気脚のこの特徴は、産業技術においても低圧の蒸気を大気下に液化して取り出す大気脚凝縮器(barometric condenser)として既に利用されており、砂糖の製造、石油の分留の一過程等に用いられている。即ち図2において蒸気空間12が外部の装置と連通して該装置より低圧な蒸気の供給を受け蒸気圧液面11近傍で冷却を受けて液化され、液化が継続すれば該液体が管内を経て液槽14にまで押し出される。冷却のための熱交換の手段として、凝縮させる液体と同一の液体の冷却されたジェット流を噴霧させる型式のものが普及している。逆に蒸気空間12が何某かの外部装置と連通し、管上部が加熱され液体が気化すると該外部装置に対する低圧な蒸気供給装置として機能させることができる。
最初に本発明に係る装置のうち冷却器について説明する。本発明のもとになる冷却器の原理的構成は図2に示した大気脚の上部の蒸気空間12に真空ポンプ15を連結させて、ポンプの排気口16を大気中に開放し、該真空ポンプを作動させ連続的に運転させるものである。この原理的構成を図3に示す。管内の液体として水を用いると蒸気圧面11近傍から水が沸騰気化して気化熱を奪い管上部の管内の水は冷却され、気化した水蒸気は真空ポンプの排気口16から大気中に放散される。環境に負荷を与えないものであれば他の液体の使用も可能である。運転を継続しても管内の蒸気圧液面11の水位はある位置で停止し、それ以上上昇しないので連続的に運転され冷却された水が管上部に製造される。しかしながら、継続的に運転する場合、この装置の構成では熱交換の問題が生じる。即ち管上部の冷却された水はこのままでは使用に供することができず、この位置に熱交換器を設けて他に冷熱を移動させなければならない。設けずに放置するとやがて水は凍りつき気化による吸熱作用は停止する。熱交換器を設けることで効率は著しく低下し実用性は薄れる。
本発明はこの状態を回避するものである。本発明の冷却装置の基本構成は、図4に示すごとく、2本の大気脚を上部で連結させ、大気脚管内の液体の流動に関してサイホンの機能をもたせたものである。あるいは上下に十分長いサイホンで、最上部に蒸気室20を設け、そこに蒸気空間12を形成する構成とみなすこともできる。蒸気圧液面11の上部に飽和蒸気よりなる蒸気空間12を蒸気室20により設ける。該構成を本明細書ではバロメトリックサイホンとして引用する。蒸気室20の存在が通常のサイホンとバロメトリックサイホンの相違である。このバロメトリックサイホンの蒸気空間12に真空ポンプ15を連結させ駆動して大気中に蒸気を放散させる。2本の大気脚はサイホンの2本の管脚となり、サイホンが作用している時は一方の管脚の下端は相対的に水位の高い高位側液槽35に、もう一方の下端は低水位の低位側液槽36に浸される。
発明の効果
図4の装置において、蒸気圧液面11近傍の管上部の水が真空ポンプ15を駆動させることで冷却される点は、図3の装置の場合と同一である。サイホンの作用に従い高位側液槽35から低位側液槽36に向けて液体の流動が生じ、その結果上部で冷却された水を大気圧下の低位側液槽36に取り出すことができ、この冷水をそのまま使用に供することができるので、熱交換器を設ける必要がない。高位側液槽35には水の供給を続け、適当な位置に排水口を設けるなどして低位側液槽36の水位を維持し、両液槽間の水位の高低差を維持すれば作用が継続し、冷水を連続的に製造する装置とし機能させることができる。
このバロメトリックサイホンの一般的な構成や作用について更に詳述する。図4から真空ポンプ15を取り去ったより原理的な構成を図5に示す。バロメトリックサイホン2は大気脚の機能を飛躍的に増進させるものである。前述のごとく1基の大気脚は気化器あるいは凝結器として作用させることが可能であるが、この作用は大気脚内の液柱の上部と下部の間の物質交換及び気化あるいは凝結を継続させるための熱交換の存在を前提とする。バロメトリックサイホンはこれらの効果を大きく増進させる。単に大気脚内の液体を撹拌するのではなく、サイホンを構成することで液体の流動を明確に形成する。2本の大気脚が上部で連結している構造であるが、連結部分の下端あるいは2本の管脚の付け根であるサイホン分岐点17は蒸気圧液面11の下方にあり、両大気脚の管脚内の液相が連通し、該液相の表面である蒸気圧液面11を介してその上部に蒸気空間12が接面して存在する構成になっている。蒸気空間12の圧力は1気圧より低くなければならない。サイホン分岐点17が蒸気圧液面11に近付き過ぎるとサイホン内の液体の流動が妨げられ、下方に行き過ぎるとサイホンの上部と下部との間の物質交換が十分に行われない。蒸気圧液面11の高さは内部の液体の物質の種類に加えて液体の温度により異なるので、サイホン分岐点17の上下の位置は予め操業時の温度に合わせて定めるか上下に可変な構造にする。蒸気空間12は接面する管内の液体と平衡する飽和蒸気気体で満たされており、該液体の成分以外の空気等の気体成分は原則として混入していない。即ち管内の液体が単一成分であるときはその同一成分の飽和蒸気、多成分系であるときはこれらの成分からなる平衡する飽和混合蒸気である。実操業時にサイホンの作用を妨げない程度の微量の不純物や他成分気体が混入することはありえる。この構造で一方の液柱の下端部が浸っている液槽の液面を高く、他方の液面を低くするとサイホンが構成されることになり、高位側液槽35より低位側液槽36に向けて液体の流れが生じる。即ち高位側液槽35内の液体は管脚の液柱内を上昇して上部の連結部分を経てもう一方の液柱に至って下降し低位側液槽36に至る。高位側液槽35から低位側液槽36に流動するこの液体が、作動液10としてバロメトリックサイホンを機能させる。高位側液槽35に作動液の供給を続け低位側液槽36から溢れる該液体を採取することによって作用を継続させることができる。両液槽間の水位に高低差を設けず、送水ポンプをいずれかの管脚の途中に設けても一方の液槽からもう一方の液槽に向けて作動液を流動させることができるが、この場合も両液相間に高低差が存在するのと同じくサイホンが構成されているとみなせる。それぞれの液槽内では作動液10が大気と大気圧液面21、22で接面して大気圧を受けている。両液槽の作動液の液面の上に該液体に不溶性で密度の低い異種の液体の層を形成させるなどして作動液と大気との直接接触がない場合でも、作動液が大気の圧力の効果を直接受ける状態にあれば大気と接面しているとみなす。作動液10はバロメトリックサイホンの管内では大気と遮断されているが、液槽35及び36においては大気中に自由に取り出せる開放系である。
作動液10の変化の流れからみると高位側液槽35内で大気圧下にあった作動液は、バロメトリックサイホン内を上昇することによって減圧され、上部の蒸気圧液面11近傍に達して一部が気化されるかあるいは接触している飽和蒸気相からの凝結によって増量され、その後下降して低位側液槽36に至ることによって再び大気圧の状態に戻る。バロメトリックサイホン内を流動する作動液について、1気圧からの減圧及びその減圧された圧力から1気圧までの復圧が連続的に達成されることになる。この作動液10の流れによりバロメトリックサイホン上部と下部の間の速やかな物質交換を果たし、作動液自身が熱媒体として働くので極めて効率の良い熱交換作用を達成させることが可能となる。バロメトリックサイホンはこれ自身大気脚の改良型として捕らえることができるので、周知の大気脚凝縮器の機能を増進させる改良機として利用できる。即ち図5において蒸気空間12が外部の何某かの装置と接続して大気圧より低圧の蒸気の供給を受けるときにこれを速やかに凝縮させて大気圧下に取り出すことができる。逆に蒸気空間12と通ずる外部装置に作動液の低圧な蒸気を供給する。
発明を実施するための最良の状態
図3及び図4の装置では、運転の継続に伴い真空ポンプ15が発熱するので、該真空ポンプ用の冷却装置を設けなければならない。図4の装置ではサイホンの作用により、冷却された水を連続的に取り出すことは可能だが、水の沸騰気化により冷却するので、気化した水蒸気は真空ポンプ15で大気圧まで圧縮されて大気圧下に放散される。このとき水蒸気は再び液化して発熱するので、該ポンプの冷却装置を必要とする。該ポンプの負荷としても蒸気を大気圧まで圧縮する仕事量が課せられることになる。
図1はポンプの負荷を軽減するために更に改良された構成で、バロメトリックサイホンを2基用い、各の蒸気空間18及び19を蒸気連結通路24により連結させた構造になっている。負荷を低減することでエネルギー消費を抑え環境問題にも寄与する。蒸気連結通路24の途中に圧縮ポンプ23を設け駆動させる。図1では左側のバロメトリックサイホンの蒸気空間19から右側のバロメトリックサイホンの蒸気空間18に向けて蒸気が移動、圧縮される方向で圧縮ポンプ23が機能する。作用の理解を助けるために、それぞれのバロメトリックサイホンには最初同温度の水が作動液10として流通していると仮定する。即ちそれぞれの高位側液槽35から低位側液槽36に向けて水の流動が行われている。この状態で圧縮ポンプ23を始動させると、左側のバロメトリックサイホンの上部の蒸気圧液面26近傍では水が沸騰して気化し、冷却水が製造されるが、右側のバロメトリックサイホンの上部の蒸気圧液面25の近傍では左側から供給された蒸気が蒸気空間18に供給されるので凝縮が生じ発熱して温水が製造される。それぞれのバロメトリックサイホンの上部で製造された冷水や温水はサイホンの作用によってそれぞれの低位側液槽36に至って用途に供され、以降連続的に運転させることができる。定常的な運転では、それぞれのバロメトリックサイホンの高位側液槽35に同一温度の水を供給する必要はなく、使用目的とする水温、供給可能な水源、ポンプの性能や使用条件に対応させてそれぞれの温度が決定される。圧縮ポンプ23の負荷は2基のバロメトリックサイホンそれぞれの上部の蒸気圧液面25及び26近傍の温度に対応する水蒸気圧の差によって決定されるが、大気圧まで圧縮する必要がないので大幅に軽減され、ヒートポンプに相当する熱効率となる。図3及び図4に示す装置は冷水製造装置であるが、図1に示す装置は冷水製造装置として機能させることができると同時に温水製造装置として機能させ暖房に利用することも可能である。
図4に示すバロメトリックサイホンを構成する冷水製造装置が本発明の基本形となるものであるが、最大の特徴は装置の構築に10m程度の高さを要する点で、自立する装置を製作するには塔を建てなければならない。必ずしも鉛直にする必要はなく上部と下部との高低差が得られればよいので、山や丘陵の斜面を利用して構築することも可能である。一戸建ての平屋の家屋での利用は設備が大きな負担となる。3階建て以上の家屋や、オフィスビルや集合住宅ビル、屋根の高い工場などでの利用では、それらの建物の構造と並築すればよく建築構造的負担が軽減される。バロメトリックサイホンを構成する2つの管脚のパイプの材料としては、水を通すので、水道管に用いられている耐食鋼管、非鉄金属製管等がそのまま援用可能である。熱水を通す場合でも100℃以下であるので塩ビ製等のプラスチック素材の利用も可能である。両管脚の管の太さは、あまり細いと毛管現象が働いて通常のサイホンの機能に支障をきたす。管の材質にもよるが、下記文献の記載事項などを参照すると、水溶液の場合には内径は1cmより大きい方が安定した作用が得られる。建築構造的な強度以外に内部が減圧されるので装置全体が1気圧の負荷に耐えられる必要があるが、高真空状態ではないので、周知の真空技術をもとに継ぎ手や構造の接続部分も含めて容易に各所設計できる。
特許第2649169号
真空ポンプ15に関しては汎用のロータリー式の真空ポンプは、水蒸気がポンプの潤滑油と結合して作用に支障をきたすので利用できない。水蒸気混入気体を扱えるポンプとしては水封式ポンプ、ルーツ式真空ポンプ、ダイヤフラム式ポンプ等が周知技術として知られている。また、例えば下記文献等の新技術も提案されており、今後更に高性能のポンプが出てくることが見込める。真空ポンプ15には冷却装置を具備する必要があるが、空冷式、水冷式等の周知技術は多々存在する。
製造した冷水を利用して冷気の供給あるいは建物内の除湿をするシステムに関してはすでに周知技術が多く存在する。ただし作動液として水を用いる場合は0℃より低くすることはできない。作動液として塩水などの水溶液を用いれば0℃より多少は低くすることができるが、冷凍装置には適さない。環境負荷がなく0℃より20度以上低温でも液体状態を保てる物質が見つかれば冷凍装置への利用も可能である。
特開2007−56766
図1の装置の製造は図4の装置に準ずる。2基のバロメリトリックサイホンの構築が必要であるので装置の規模が増大する。圧縮ポンプ23に関する条件は図4に示す装置の場合の真空ポンプ15に対するものより圧縮比が下がり緩和される。例として高温側のバロメトリックサイホンの作動液として25℃の水を用い、10℃の冷水を低温側のバロメトリックサイホンに製造する場合をとると、それぞれの温度における水の蒸気圧は23.76mmHg、9.21mmHgである。図4の装置で10℃の冷水を製造するには圧縮比約83倍の真空ポンプ15を必要とするが、図1の装置では約3倍の圧縮ポンプ23でよい。該ポンプ23は排出側の圧力は1気圧以下であるが、本明細書では蒸気の圧縮、送出をするので圧縮ポンプとして表現することとする。一例として25℃の水より10℃の冷水を毎分1リットルのペースで定常的に製造する場合を考えると、図1の左側のバロメトリックサイホン上部では毎分約28gの水を気化させる必要があり、このためには低温側蒸気空間19より毎分約3立方メートルの水蒸気を排気しなければならない。図1の装置は図4の装置と同様冷凍装置には適さない。大気圧下で0℃より20度以上低温でも液体状態を保てる物質が存在し、かつ該物質自身が環境負荷物質ではないか、あるいは大気圧下に取り出すことがあっても一定の領域より外に飛散しない環境設備を確立すれば冷凍装置への適用も可能である。
図1の装置は図中右側の高温側のバロメトリックサイホンの作動液10を利用対象とすると、温水あるいは熱水製造装置として機能させることができる。ただし100℃以上の高温熱水を製造することはできない。温水は生活用水としてそのまま利用できる。温水を給湯管を介して家屋やビル内に供し室内の温風器より暖気を送り込む暖房システムはすでに周知技術として普及している。低温側のバロメトリックサイホンの作動液の供給源として河川、水道水、湖沼、地下水、海洋等の水を利用することにより、それらの熱を暖房の熱源として利用することができ、暖房熱のすべてを電気あるいはガスにより作り出す場合よりもはるかに効率のよい暖房システムとすることができる。この低温熱源の暖房への利用はすでにヒートポンプを用いたシステムでは実用化されている。閉鎖系であるヒートポンプでは外部との熱交換器の具備を必要とするが、開放系である本発明の装置は熱交換器を必要としない。熱媒体でもある製造された温水を装置から取り出し使用に供する。
図6にバロメトリックサイホンの別の実施例の一つを示す。内径の大きいシームレス管を用い構造の簡素化を図っている。十分に長い管をU字形に成形しこれをこのままバロメトリックサイホン2として機能させる。蒸気圧液面11が最上部の管内の中ほどに位置し、蒸気空間12が最上部の管内上部に形成されるように作動液10の温度、及び液槽の大気圧液面21、22の位置を定める。装置は蒸気圧液面11の水位が定常的な運転でほとんど変化しない場合のみ機能する。通気細管37を蒸気連結通路24の一部として一方の管脚内を通して連結開口33で蒸気空間12に接続し、反対側では蒸気連結通路端34の先で圧縮ポンプに導通する。蒸気連結通路24内は気体であるのでポンプの位置は図1のように蒸気空間12と同じ高さにある必要はない。装置が自立している場合など大掛かりで重量のあるポンプを使用する場合には下の床位置に置くほうがよい。蒸気連結通路24内で飽和蒸気が液化する場合もありうるので、途中に凝結液用トラップ27を設け一時的に集積させる。蓄積が多くなったらその部分を熱して蒸気に変え、いずれかのサイホンの作動液として吸収させる。図1の場合には、蒸気連結通路24に多少傾斜を持たせておけば、通路内で凝結が生じても液滴は傾斜が下降するサイホン側に自ずと移行し吸収される。
図7にはバロメトリックサイホンの別の実施例を示す。図5のような2管脚の代わりに、内径の異なる2本の管を用意する。径の大きな方を閉管として閉端部を上方に位置させて外管脚40とし、細い方を内管脚39として太い管の中に通す。内管脚39の上端の口は太い管の閉端部の手前で開き、蒸気圧液面11が内管脚39の口より上に位置し、更にその上部に蒸気空間12が形成されるように調整する。内管脚39の上端の口がサイホン分岐点17に相当する。外管脚40の上端部に蒸気連結通路24を設けて蒸気空間12と連結させ圧縮あるいは真空ポンプへと導通させる。太細2本の管がバロメトリックサイホンの2本の管脚に相当する。図7では外側の太管側が高位側液槽35に、内側の細管側が低位側液槽36に浸っている状態になっている。バロメトリックサイホンの運転継続に伴い、作動液10の温度変化などにより蒸気圧液面11の位置が変化し、サイホン分岐点17との位置関係を調整する必要が生じる場合がある。調整法のひとつは蒸気圧液面11側の位置を変える方法で、液槽の大気圧液面22あるいは21の水位を変えることによって行うことができる。図7では低位側液槽36の溢水口29の上下位置を可変にすることによって低位側大気圧液面22を変え蒸気圧液面11の位置を制御する構造例が示されている。他方外側の外管脚40あるいは内側の内管脚39を上下に移動可能な構造にしサイホン分岐点17側を変化させても目的を果たすことができる。
図8に示すのは本発明に係る発電装置である。2基のバロメトリックサイホンより構成される装置の実施例の1つとみなすことができる。同じく2基のバロメトリックサイホンよりなる図1の装置とほぼ同一の構成であるが、圧縮ポンプ23に替えて発電用のタービン30を設置する。それぞれのバロメトリックサイホン2には作動液10として最初から温度の異なる水を通す。図8では右側に作動液10として高温の熱水を、左側に低温の冷水を通す場合が示されている。高温側の蒸気圧液面25で沸騰気化した蒸気は、両サイホンの蒸気空間18及び19を結合する蒸気連結通路24を経て、低温側の蒸気空間19に至り低温側蒸気圧液面26近傍で液化し、低温側のサイホンの作動液の水流に加わる。蒸気の流れが生じる蒸気連結通路24の途中にタービン30を設けて発電機と連結し電力をうる。高温側熱水としては、地熱、工場排水、太陽熱で加熱された温水等、従来ほとんど利用されることのなかった100℃以下の低質な熱源を利用する。低温側の水源としては、河川、湖沼、海洋、水道水、地下水に加え、寒冷地では雪、霙、氷等の混入した冷水を利用できる。高温側として海洋の表層水、低温側として深層水を利用することもできる。装置の耐食性などの条件が満たされれば、これらの水もしくは水溶液をそのまま作動液として装置に導入できる。
一例として、熱源として80℃の地熱による熱水、低温側の作動液として雪や氷が混入した十分な量の0℃の冷水が利用できる場合を仮定する。高温側のバロメトリックサイホンの上部では沸騰気化により熱水の温度は降下する。2液槽間の水位差を調整することで作動液流速を変え熱水の降下温度を調節することが可能である。図中右側の高温側バロメトリックサイホンへの流入温度即ち高位側液槽35における熱水の温度が80℃、流出温度即ち低位側液槽36における温度が40℃になると仮定し、平均をとって60℃でサイホン上部で沸騰気化が行われるとみなすと、蒸気の凝結温度は0℃であるので、熱から他のエネルギー形態への変換効率の上限は18%である。高温側のバロメトリックサイホンを経由することで1gの水が40calの熱を失うので、この理想効率に対して蒸気を経てタービンによる電力への装置のシステム全体の変換効率が50%であるとし乗ずると、毎分4リットルの80℃の熱水湧出量があれば1kwの電力が供給されることになる。このとき両蒸気圧空間18と19の間の蒸気圧差は145mmHgとなるが、この圧力差で作動する蒸気タービンは周知技術の範囲で十分製作可能である。発電装置を通すことで80℃の熱水は冷却されて40℃になるが、冷却された温度域で作動する次段の発電装置に通してもよいし、ほどよい温水として温泉あるいは農業畜産漁業用に利用してもよい。
図9には同様に2基のバロメトリックサイホン2を使用した蒸留あるいは濃縮による混合系の分離装置を示す。図1や図8とほぼ同一の構成だが、両サイホンを連結する通路にはポンプやタービンを置かず、ただそれぞれの蒸気空間18と19を結ぶ蒸気連結通路24のみを設ける。図8の場合と同様右側のバロメトリックサイホン2に作動液として高温の液体、左側に低温の液体を通す。右側から気化した蒸気成分は蒸気連結通路24を経て左側で凝結する。高温側の液体は原液であり単一成分系ではない。原液のすべての成分が一様に気化するとは限らず、一部の成分の蒸気分圧は無視できる場合もある。気化により生じた蒸気の全圧が1気圧より低い場合のみバロメトリックサイホンが機能するので、この点から原液の温度が制限される。気化した蒸気が凝結する物理的あるいは化学的環境は原液側ともう一方の側とで異なるので、高温側と低温側の温度差が僅少であれば、厳密には必ずしも高温側から低温側に向けて蒸気の移動が生じるとは限らない。蒸気の凝結が生じるまで低温側の温度を下げる必要がある。本明細書ではこの温度差が十分存在するとして、高温側、低温側の表現を用いている。装置は、主要構成が同一であっても、生産物として凝結した左側の液体を取るか、不用物を気化させることで除去した右側の液体を取るかで区別される。前者の場合は蒸留装置、後者は濃縮装置となるが、両方が生産物として利用できる場合もある。蒸留装置として機能させるときは、低温側のバロメトリックサイホンには気化した蒸気が凝結して生成される液体と同一成分よりなる液体を作動液として通すと、作動液の増量分として蒸留生成物が得られる。
例として原液として塩水の場合をとると、図中右側の高温側のバロメトリックサイホン2の上部で水が沸騰気化して水蒸気が発生、図中左側の低温側のバロメトリックサイホン2の上部で液化する。低温側のバロメトリックサイホンに予め純水を作動液として通しておくと、純水が加量される形で蒸留水が採取できる。海水の淡水化等蒸留水の採取が目的の場合には、低温側のバロメトリックサイホンの低位側液槽36から高位側液槽35に向けて揚水ポンプ38を連結した別の通路41を設けて水を送り返して循環させ、一定の水位を超えた分を溢水させて取り出すようにすると連続的な運転が可能となる。一方図中右側の高温側のバロメトリックサイホン2では濃縮された塩水がえられる。更に濃度を上げるには左側の低温側と同様に高位側液槽35と低位側液槽36の間を循環させるか、あるいは次段の蒸留装置につなげ、さらに濃度の上昇を図る。ただし、バロメトリックサイホンは液相に対してのみ作用するので、溶液の濃度を上昇させることは可能だが、この蒸留もしくは濃縮装置だけでは水をすべて除去して最終的に溶質を固体の状態で取り出すことまではできない。十分濃縮した状態で飽和濃度に達すれば晶出させることにより固体を取り出すことは可能である。いずれにせよ固体としての塩をうるには最終的に別の乾燥装置を必要とする。
図9には抜気用真空ポンプ31が記載されている。操業の継続に伴い不溶残存気体が蒸気空間18あるいは19に蓄積すると蒸気圧液面25あるいは26の水位が下がりサイホンとして機能しなくなるのを回避するためである。通常運転時には開閉弁32は閉じられているが、不溶残存気体の蓄積に伴い断続的に該弁を開放して抜気用真空ポンプ31を作動させる。不溶残存気体の種類が予め特定できるときは、蒸気室20内の適当な位置に不溶残存気体に対応する吸着剤を設置しても該気体の残留を抑制することが可能である。抜気用真空ポンプ31は装置の始動時に装置内部の空気を除去し作動液10をバロメトリックサイホン2内に導入するときにも機能させることができる。この抜気用真空ポンプ31は図1や図8の装置に取り付けてもよい。実用操業上有効な付帯設備ではあるが、本発明に係る装置構成に不可欠な要素ではない。
本発明に係る図9の蒸留もしくは濃縮装置は原液がコロイド溶液や混合液相の場合にも適用できる。果汁や野菜汁のような細胞質を含む溶液の場合にも利用でき、低温蒸留ができるので細胞を破壊することがない。たんぱく質等を含む、医薬品、化粧品、乳製品などのエマルジョン溶液に対しても、タンパク質や油性コロイドの変性をきたすことなく、液の濃縮や揮発成分を採取することができる。従来、真空蒸留、真空濃縮と呼ばれ低温低圧で処理されていた総ての溶液に原則的に適用可能である。発酵の過程で生じるメタンやバイオエタノール等の有機成分を酵母を殺さずに反応を継続させながら採取することも可能になる。蒸留酒の製造に利用することもできる。低温蒸留では生成されるアルコール比率や芳香成分に違いが生じるので、従来の蒸留酒とは異なった風味の、焼酎、ブランデー、ウィスキー等が製造できる可能性がある。低温蒸留は焼酎等ではすでに周知技術として30年程前から導入されている。従来は減圧容器に真空ポンプを取り付けたバッチ式工程で行われていたが、本発明に係る装置では連続処理が可能であり、工程面では明らかに効率は高い。加えて原液の気化温度の制御が容易である。更にバッチ式処理過程は密閉された減圧室の中で進行するので途中過程をモニターするのは難しいが、本発明に係る装置は開放系であるので操業途中の過程にある生成物をサンプリングして作動液の濃度変化の様子をみるのも容易である。他方設備が大掛かりになるので、医薬品や生物系実験、検査等で一時的に少量の生成物のみを必要とする場合は不向きである。装置を構成する両バロメトリックサイホンの作動液の温度を調整すると原油の分留にも利用でき、他方廃油や廃棄物等の処理過程で生じる混合油を低コストで分留できる可能性もある。
図4に示す装置は、先に「0007」の段落において冷水製造装置として示したが、作動液の脱気装置として利用することもできる。被処理液をサイホンの作動液にすることで液を減圧し溶存気体の脱気を促進させる。不用気体の除去や環境負荷物質の削減を図ることができる。原則として従来真空脱気法の対象とされていたすべての液状物質を被処理液とすることができる。但し被処理液の種類によって効果に差が生じる。用途によっては水中に溶存する酸素や炭酸ガスが不用物質となり、水を被処理液として装置にかけることもできる。サイホンを正常に機能させるには作動液にある程度の流動性を保つ必要があるので、接着材等の高粘度流体に利用する場合には効果に限界がある。
作動液としての適用対象は原則として液体であればよいので、低融点物質に限定されない。溶融金属や溶融塩にも適用可能である。金属精錬においては金属中に残存する微量な不純物である非金属元素の存在が脆性、強度、靭性等の材料の品質に大きく影響する。これらの除去が重要な課題であるが、典型的な非金属元素である硫黄、燐、窒素などが二酸化硫黄等の気体の形で脱気できれば、真空脱硫、真空脱燐、真空脱窒に準ずる。バロメトリックサイホンの上部で金属融体を撹拌するための交流電磁場の印加、高電圧やプラズマ放電による脱気反応の促進等の他の処理方法の併用を妨げない。精錬時に生成するスラグ等の廃棄物は酸化物の混合体であり溶融塩の一種である。直接廃棄すると含有されている硫黄、燐等が流出して環境負荷物質となるので予め除去することが可能であれば公害防止に寄与する。ともに溶融炉より排出され液状であるときに本装置に誘導すれば熱効率がよい。特に高温液体を処理するときに従来のバッチ式工程と本発明に係る連続的操作との差が大きい。これら高温融体を扱うときは、バロメトリックサイホンの構築に際し、材質として水溶液を扱う場合のようなわけにはいかないが、耐火煉瓦等精錬過程で溶融炉等を製作するときの周知の素材が援用できる。一般に作動液たる融体の蒸気圧は低いが密度は大きいので水溶液の場合のような高さは必要ではない。
ヒートポンプと同等の高い熱効率を有する空調装置を、閉鎖系ではなく開放系の熱媒体を用いて製造することができ、更なる効率の上昇と環境問題に寄与する。100℃以下の従来利用度の低かった低質な熱エネルギーの発電、海水淡水化等への利用を可能にする。真空蒸留、真空濃縮、真空脱気等の従来密封容器を用いてバッチ式で行っていた操作を連続的に遂行することを可能にし、工程の簡素化、作業の効率上昇、コスト低減に寄与する。
本発明に係る冷水温水製造装置の構成を表す図。
本発明の原理に係る大気脚を示す参考図。
本発明に係る冷水製造装置の原理を説明するための参考図。
本発明に係る冷水製造装置及び脱気装置の構成を示す図。
本発明の一般的原理であるバロメトリックサイホンの構成を示す図。
本発明に係るバロメトリックサイホンの一実施例でシームレス管を用いる場合の縦断面図
本発明に係るバロメトリックサイホンの一実施例で内径の異なる2管脚を用いる場合の縦断面図
本発明に係る発電装置の構成を示す図。
本発明に係る蒸留あるいは濃縮による分離装置の構成を示す図。
符号の説明
1‥‥‥大気脚。2‥‥‥バロメトリックサイホン。11‥‥蒸気圧液面。12‥‥蒸気空間。13‥‥大気圧液面。14‥‥液槽。15‥‥真空ポンプ。16‥‥排気口。17‥‥サイホン分岐点。18‥‥高温側蒸気空間。19‥‥低温側蒸気空間。20‥‥蒸気室。21‥‥高位側大気圧液面。22‥‥低位側大気圧液面。23‥‥圧縮ポンプ。24‥‥蒸気連結通路。25‥‥高温側蒸気圧液面。26‥‥低温側蒸気圧液面。27‥‥凝結液用トラップ。28‥‥溢水口。29‥‥可変溢水口。30‥‥タービン。31‥‥抜気用真空ポンプ。32‥‥開閉弁。33‥‥連結開口。34‥‥蒸気連結通路端。35‥‥高位側液槽。36‥‥低位側液槽。37‥‥通気細管。38‥‥揚水ポンプ。39‥‥内管脚。40‥‥外管脚。41‥‥揚水通路。42‥‥冷却器または熱交換器。