本発明のタンパク質アレイ用検出および解析システムは高密度でタンパク質を固定化した基板を用い、該基板上のタンパク質に光(紫外光、可視光または赤外光)を照射し、基板上のタンパク質の吸収を直接測定することにより、タンパク質を検出・解析する。また、本発明のシステムにおいては、上記基板として紫外光を透過し得る基板を用い、タンパク質の紫外光の吸収による通過光量の減少割合を利用してタンパク質を検出・解析する。ここで、「検出・解析」とは、タンパク質の定性、定量、タンパク質とタンパク質またはタンパク質以外の化合物との相互作用の測定、固定化タンパク質の吸光による通過光量の減少割合に基づくタンパク質-リガンド相互作用の測定、タンパク質自体の構造変化のモニタリング、固定化タンパク質と相互作用するタンパク質以外の化合物の定性、定量等をいう。
本発明において、タンパク質は、ペプチド、ポリペプチドも含まれる。また、アレイ上のタンパク質を検出する際の「アレイ上のタンパク質」とは、アレイ上にNH基を介して結合した固定化タンパク質だけではなく、固定化タンパク質との相互作用により結合した他のタンパク質も含む。また、「アレイ上のタンパク質の検出・解析」とは、アレイ上の固定化したタンパク質および該固定化タンパク質と相互作用した他のタンパク質の検出・解析ばかりでなく、アレイ上に固定化したタンパク質がタンパク質以外の化合物、例えば低分子化合物と相互作用し、該相互作用によりタンパク質の構造等の変化により吸光が変化した場合に、通過光量の減少割合の変化を測定することにより、前記タンパク質の構造変化等を検出・解析することも含む。さらに、「アレイ上のタンパク質と相互作用した他の化合物の検出・解析」とは、アレイ上に固定化されたタンパク質と相互作用するタンパク質以外の他の化合物の検出・解析をいい、特定の波長の光に吸収を有する化合物をその波長の光を利用して測定することをいう。
本発明のタンパク質アレイ用検出および解析システムの構成を図1に示す。システムは、光照射手段(光学系)2を含むシステム制御部、CCDデジタルカメラ等の光検出手段5や必要ならばビデオキャプチャボード等のビデオデータ処理手段6等を含む測定部およびデータ処理部7、タンパク質を高密度で固定化した基板3から構成される。また測定部には紫外-可視光変換デバイス4を含んでいてもよい。さらに光学系2から基板3への光路上には、レンズまたはスリット8を含んでいてもよい。また、データ処理手段はRS232C等の通信手段9により、システム制御部の作動を制御することができる。なお、該システムにおいて、光照射手段および光検出手段を含む、光を発生させ、分光させ、タンパク質アレイに照射し、透過光を測定する部分は、分光光度計1であり、本発明は、タンパク質を高密度で固定化した基板上のタンパク質を分光光度計を利用して検出するシステムでもある。ここで、分光光度計とは、赤外、可視、紫外部のスペクトルを測定するための装置であり、本発明においては、望ましくは紫外部のスペクトルが測定される。従って、本発明では、広く普及している紫外可視分光光度計を用いることができる。
本発明において、基板は光透過性である必要がある。「光透過性」とは、紫外光、可視光または赤外光を透過する性質を有するものを用いる。このような基板として、透明ガラス(石英ガラス、パイレックスガラス等)、透明プラスチック等でできた基板を用いればよい。また、紫外光を用いて測定する場合は、基板は紫外光を透過する必要がある。紫外光を透過する基板として、紫外光透過ガラス等の分光光度計に使用される紫外光測定用セル(キュベット)と同一素材でできたガラス基板を用いればよい。紫外光を透過し得る基板として、合成石英ガラスや溶融石英ガラス等の石英ガラスでできたスライドガラスを用いればよく、合成石英ガラス(例えば、信越化学工業社製)が好ましい。本発明の方法は、特に光が一見透過しないようなモノリスゲル基板のような難光透過性基板を用いた場合でも、タンパク質を固定したタンパク質スポット部位とそれ以外の部位を判別し、適切な解析をすることを可能にする。
また、本発明において、基板に固定化したタンパク質と他のタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物との相互作用を液中で測定するフローシステムも構築することができ、そのフローシステムの概要は、図3Aおよび図3Bで示される。タンパク質を固定化した基板(アレイ基板)を、適当なスペーサーを用いて、カバーするガラス基材(カバー)ではさみ、片方のスペーサーに溶液の入り口を(流入口)、反対側のスペーサー部分に、溶液の出口部分(排出口)を作り、外部より溶液を流すことが出来るようにすることにより、フローシステムを簡便に作製することができる。該フローシステムは、図1に示す装置のタンパク質固定化基板3の位置に装着される。フローシステムは、フローチャンネルセルやガラス基板上にミクロンオーダーの高精度の流路を形成したマイクロチップ等を用いて、流路内のガラス上にタンパク質を固定化することによっても構築できる。マイクロチップを用いる場合、流路を形成した流路基板とカバープレートを作製し、カバープレートの流路と接する部分にタンパク質を固定化した後に、流路基板とカバープレートを接合してマイクロチップを作製すればよい。また、Epigem社のFluenceマイクロ流路ツールキット等の市販のものを用いることもできる。
本発明においては、アレイに光を照射しアレイ上のタンパク質による吸光を通過光量の減少割合として測定するため、アレイ上に単位面積あたりのタンパク質分子数が大きくなるように高密度で固定化する必要がある。そのためにはアレイ用の基板が3次元的なゲル構造をしていて、その内部にもタンパク質を固定化できることが望ましい。また同時に、アレイ用の基板は光、特に280nm近傍の光が検出器が検出できるだけの光を透過できる必要がある。さらに、本発明においてはタンパク質アレイに対して相互作用を調べるタンパク質および/または化合物の溶液をアレイ基板の内部を送液させるので、アレイ用の基板が液体に対して浸透性が高い必要がある。このような条件全てを満足するものとして、例えば、石英ガラスに深さ0.1mmの溝を作り、その中に形成させたモノリス(monolith)ゲルをアレイ用の基板がある(図2)。
モノリスゲルとは、モノリス材料(モノリス型ポリマー)でできたゲルをいう。モノリス材料は、単一の連続的な構造体から構成され、その構造を貫通する連続的な流路となる孔を有する。モノリスゲルは、水溶液ゾルを作成するゾル化ステップ、得られたゾルを加温してゲルにするゲル化ステップ、得られたゲルを焼成する焼成ステップにより製造することができる。本発明において用い得るモノリスゲルとして、例えばケイ素を含むモノリスシリカゲルが挙げられる。モノリスゲルは、例えばゾル-ゲル法により製造することができる。ゾル-ゲル法とは、ケイ素、ホウ素、チタン、アルミニウムなどの各種の金属アルコキシド、その他、金属の有機及び無機化合物の溶液から出発し、溶液中での化合物の加水分解・重合によって溶液を金属化合物または水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、さらに反応を進ませてゲル化し、できた多孔質のゲルを加熱して非結晶、ガラス、多結晶体を作ることをいう。ケイ素を含むモノリスシリカゲルの場合、酢酸、ポリエチレングリコール、テトラメトキシシランを混合し、混合溶液を例えば40℃で24時間焼成すればよい。モノリスゲルの製造方法は、例えば特公平08-029952号公報、特開平07-041374号公報に記載されている。
ただし、この状態ではタンパク質を固定化できないので、モノリスゲル内にエポキシシランを導入し、さらにポリ-L-リジン等のアミノ基含有ポリマーを結合させてアミノ基を導入したものをアレイ用基板として作製すればよい。エポキシシランの結合は、モノリスゲルをエポキシシラン溶液に浸すことにより行うことができる。また、アミノ基の導入は、アミノ基含有ポリマーをモノリスゲル表面に添加し、内部に浸透させればよい。これらの操作によりモノリスゲル内にエポキシ基を導入し、さらにエポキシ基にアミノ基を共有結合により結合させることができる。それに固定化用のタンパク質をスポットし固定化反応を行い、タンパク質のカルボキシ末端をアミド結合させることで、基板に固定化することができる。タンパク質の固定化反応は、例えば特許第2517861号公報、特許第2990271号公報、特許第3047029号公報、等に記載されている方法に倣って行うことができる。
モノリスゲルを用いた場合、モノリスゲルは溶液の浸透性が高く、フローシステムにおいて、モノリスゲル自体が流露となり、化合物の溶液をモノリスゲル内を高速で流すことができる。このためフローシステムを用いることにより、リアルタイムで相互作用を測定することができる。
高密度で固定化するとは、基板の単位面積あたりに固定化されたタンパク質分子の数が大きくなるように固定化することをいう。固定化量は限定されないが、基板上に固定化された1種類のタンパク質当たり、すなわち面積1cm2のスポット当たり、0.5nmole以上、好ましくは1nmole以上、さらに好ましくは5nmole以上であるか、あるいは0.01μg/mm2以上、0.05μg/mm2以上、0.1μg/mm2以上、0.25μg/mm2以上であるか0.5μg/mm2以上、好ましくは1μg/mm2以上である。1スポット当りの固定化量がこれ以下では、分光光度計を用いて通過光量の減少割合を測定することは困難である。
タンパク質を高密度で基板上に固定化するためには、タンパク質を基板上に配向制御して固定化することが望ましい。配向制御したタンパク質の固定化とは、タンパク質をタンパク質のペプチド鎖の一端で基板上に固定化することをいい、例えばペプチド鎖のカルボキシ末端またはアミノ末端で固定化する。配向制御してタンパク質を固定化する方法として、例えば特許第2517861号公報、特許第2990271号公報、特許第3047029号、特開2003-344396号公報に記載の方法が挙げられる。 例えば、式 NH2-R1-COOHで表されるタンパク質のカルボキシ末端側に、システイン残基をカルボキシ末端とする数個のアミノ酸残基から成るアミノ酸配列を導入して改変タンパク質を調製したのち、これをそのカルボキシ末端のシステイン残基におけるメルカプト基を介して固定化基板に結合させることができる。この場合、NH2-R1-CO-NH-R2-CO-NH-Y(R1およびR2は任意のアミノ酸配列を示し、Yは一級アミンを官能基として有する固定化基板を示す。)で示される固定化タンパク質を得ることができる。
タンパク質の固定化は、例えば、以下のようにして行うことができる。
式(1) NH2-R1-CONH-R2-CO-NH-CH(CH2-SH)-CO-NH-R3-COOH で示されるスルフヒドリル基を有するタンパク質を式(2)NH2-Yで示される固定化基板上に中性から弱アルカリ条件下(pH7〜10)に整列化することにより、タンパク質R1がNH2-R1-CONH-R2-CO-NH-CH(CH2-SH)-CO-NH-R3-COOH(-)--(+)-NH2-Yの式((-)--(+)はイオン結合で吸着結合している状態を表す)により基板上に吸着したタンパク質アレイが得られる。さらに、この式で表される吸着したタンパク質をシアノ化試薬で処理することにより、NH2-R1-CO-NH-R2-CO-NH-Yの式で示されるタンパク質R1が共有結合により基板上に整列固定化されたタンパク質アレイを得ることができる。上記式中、R1およびR2は任意のアミノ酸配列、R3は中性付近で強く負に荷電し、且つ式(1) NH2-R1-CO-NH-R2-CO-NH-CH(CH2-SH)-CO-NH-R3-COOHの等電点を酸性にできる任意のアミノ酸残基の連鎖を表す。R2は、式 NH2-R1-COOHで示される固定化しようとするタンパク質と基板との間のリンカーペプチドとなる。R2は任意でありそのアミノ酸の種類、数ともに限られないが、例えばGly-Gly-Gly-Gly等を用いることができる。R3としては、アスパラギン酸やグルタミン酸を多く含む配列が好適であり、例えば、Asp-Asp-Asp-Asp-Asp-Aspが挙げられる。タンパク質の等電点は、構成するアミノ酸の種類と数に依存する。例えば、リジンやアルギニンなどの塩基性アミノ酸を多く含む場合は、塩基性アミノ酸の総数を超える数のアスパラギン酸やグルタミン酸が必要である。タンパク質の等電点の計算は、当業者であれば容易に計算により推定できる。好ましくは、上記式(1)で示される物質の等電点を4から5の間の値になるように、アスパラギン酸やグルタミン酸を多く含む配列をデザインすればよい。そのような配列のうち好適な配列としてアラニル-ポリアスパラギン酸をあげることができる。なぜならば、シアノシステインの次のアミノ酸をアラニンにすることにより、シアノシステイン残基を介したアミド結合形成反応が生じやすいことと、アミノ酸側鎖の中でアスパラギン酸のカルボキシル基が最も酸性であるからである。
吸着反応を行う溶液としては、上記静電相互作用を保証し、且つ、式(1)で示されるタンパク質が溶解し得る溶媒で且つpHを調整できる溶媒であればいかなる溶液も利用可能である。リン酸緩衝液、硼酸緩衝液などの種々の緩衝液、メタノール、エタノールなどのアルコール類の他、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホオキサイドなどが利用可能である。反応温度は、室温で高い反応効率が得られるが、用いる溶媒が凍結もしくは沸騰しない範囲、及び上記式(1)で示されるタンパク質が変性の結果凝集しない温度範囲であれば問題なく用いることができる。シアノ化反応は、シアノ化試薬を用いて行うことができる。シアノ化試薬としては、通常、2-ニトロ-5-チオシアノ安息香酸(2-nitro-5-thiocyanobennzoic acid (NTCB)) (Y.Degani, A.Ptchornik, Biochemistry, 13,1-11 (1974)参照)または、1−シアノ-4-ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロ硼酸(1-cyano-4dimethylaminopyridinium tetrafluoroborate(CDAP))などを用いる方法が簡便である。NTCBおよびCDAPは市販のものをそのまま用いることができる。NTCBを用いたシアノ化は、pH7〜9の間で効率よく行うことができ、且つ遊離するチオニトロ安息香酸の412nmの吸光度の増加(分子吸光係数=13,600M-1cm-1)で反応効率を調べることができる。また、SH基のシアノ化は文献(J.Wood & Catsipoolas, J.Biol.Chem. 233, 2887(1963)参照)の記載の方法に従っても行うことができる。シアノ化試薬によるシアノ化は、固定化基板上に式(1) NH2-R1-CO-NH-R2-CO-NH-CH(CH2-SH)-CO-NH-R3-COOHで示されるタンパク質を吸着固定化した後に行っても、吸着固定化と同時に行ってもよい。後者の場合、上記式(1)で示されるタンパク質とシアノ化試薬を同時に固定化基板上に適用すればよい。シアノ化処理は、基板のタンパク質が吸着した表面にシアノ化剤を添加すれば行える。また、タンパク質が吸着した基板ごとシアノ化剤中に浸漬する等の手段によってシアノ化することもできる。また、上述の整列化手段によりタンパク質を吸着した後、同様の整列化手段を用いて基板上のタンパク質が吸着した部分にシアノ化試薬を適用してもよい。例えば、ピンを用いてタンパク質を一定のドットパターンで基板上に吸着整列化した後に、ピンを用いてタンパク質の代わりにシアノ化試薬溶液をタンパク質に重ねるようにしてスポットすれば、シアノ化反応が起こりタンパク質が固定化される。また、固定化基板に式(1) NH2-R1-CONH-R2-CO-NH-CH(CH2-SH)-CO-NH-R3-COOHで示されるタンパク質と、シアノ化試薬を同時に適用してもよい。例えば、シアノ化反応は、2-ニトロ-5-チオシアノ安息香酸(2-nitro-5-thiocyanobennzoic acid (NTCB))等の市販のシアノ化試薬を用いて行うことができる。具体的には固定化用のタンパク質をアレイ用基板にスポットしてイオン結合で吸着させた後に、基板全体を5mMのNTCBに4時間浸しておくことでシアノ化反応を進めることができる。その後の固定化反応は、基板全体を弱アルカリ環境下に置くことで進められるが、例えばpH=9.5に調節した10mMのホウ酸緩衝液に24時間浸しておくことで進めることができる。この後、基板全体を無水酢酸などの酸無水物で処理することにより、残存アミノ基をブロッキングすることが可能である。
本発明のタンパク質の固定化には、スポッター(アレイ機)を用いることができる。スポッターとは、コンピュータの制御下で高性能モーターによりタンパク質試料をスポットするためのピンのピン先あるいは基板をXYZ軸方向に作動させ、マイクロタイタープレート等のタンパク質試料を含む容器から基板表面にタンパク質試料を運ぶ装置である。スポッターとしては、市販のものを用いることができる。市販のスポッターとして、例えば、日立ソフトウェアエンジニアリング社のSPBIO2000、宝酒造社のGMS417Arrayer、日本レーザ電子社のGene Tip Stamping、PerkinElmer社のピエゾ方式バイオチップ・スポッティングシステム等がある。
さらに、本発明のタンパク質の固定化に、インクジェットプリンティング技術を利用して、タンパク質アレイを作製することができる。本発明のタンパク質の固定化工程中、式(1) NH2-R1-CO-NH-R2-CO-NH-CH(CH2-SH)-CO-NH-R3-COOHで示されるタンパク質をインクジェットプリンティング技術によりNH2-Yで示されるアミノ基を導入した適当な基板に吸着固定化し、次いで該タンパク質のシステイン残基のスルフヒドリル基をシアノ化し、シアノシステイン残基に変換させることにより、式 NH2-R1-CO-NH-R2-CO-NH-Yで示される固定化タンパク質を有するタンパク質アレイを作製することができる。
プリンティングに用いるインクジェットプリンタには、インクの射出方法の違いにより、電圧を加えることにより変形する素子(ピエゾ素子)を用いてその変形によりヘッド内のインク収納スペースを減少させ、この圧力によりインクを吐出するピエゾ方式のものと、ノズル中のヒータを加熱することにより泡を生成し、この泡によりインクを押し出すサーマルインクジェット方式のものがあるが、本発明の固定化にはいずれの方式のプリンタも用いることができる。但し、タンパク質の熱による変性を考慮すると、ピエゾ方式のプリンタが好ましい。インクジェットプリンタとしては、市販のプリンタを用いることができ、例えば、市販のEPSON社のPMシリーズやCanon社のPIXUSシリーズのインクジェットプリンタが挙げられる。
プリンタのインクカートリッジに上記式(1)で示されるタンパク質溶液を充填し、プリンタに設置すればよい。プリンタのプリンティングパターンは描画ソフト等の適当なソフトウェアを利用すれば自由に設定でき、線状に固定化するラインパターンを採用しても、一定面積上に任意の数のドット(スポット)として固定化するドットパターンを採用してもよい。また、この際1回に吐出されるタンパク質溶液の量も自由に設定できる。例えば、ラインパターンを採用する場合、幅数十μmから数mmのライン状に固定化すればよい。吐出量、吐出速度を適宜設定すればこの範囲で任意の幅のラインパターンで固定化することができる。また、ドットパターンを採用する場合、ドット一つに対して1滴分のタンパク質溶液を吐出して直径数μmから数mmの円状のドットとしてタンパク質を固定化することもできるし、プリンティング時のパターニングを調整し、一辺が数μmから数mmの矩形状にドットを形成させることもできる。この際も、所望のドットパターンによりタンパク質溶液の吐出量や吐出速度を適宜設定すればよい。なお、1ドットあるいは1ライン上に固定化するタンパク質の量は上記のとおりであり、この際の、固定化に用いるタンパク質溶液の濃度は1mM〜1M程度が望ましく、固定化するタンパク質溶液の量は、0.1μl〜100μl程度が望ましいが、限定されず固定化しようとするタンパク質量に応じて、タンパク質溶液の濃度および固定化するタンパク質溶液の量を適宜変更することができる。
1つの基板上に固定化されるタンパク質の種類数またはスポット数は、少なくとも1であり、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上、さらに好ましくは50以上、特に好ましくは100以上である。
上記のように、タンパク質を基板上に固定化する際、基板上にアミノ基を導入し、該アミノ基とタンパク質のペプチドのカルボキシ末端を結合させる。基板上にアミノ基を導入するためには、例えば、基板上にアミノ基を有する一級アミンのポリマーからできたマトリックスを結合させる必要がある。一級アミンのポリマーとして、例えばポリアミン、アリルアミン、ポリリジン等が挙げられる。これらの一級アミンのポリマーを適当な担体と混合し、基板上にキャストし、基板上で膜を形成させればよい。担体としては、例えばハイドロゲルやモノリスゲルを用いることができる。「ハイドロゲル」とは、高分子からなる架橋ないし網目構造と、該構造中に支持ないし保持された(分散液体たる)水とを少なくとも含むゲルをいう。ハイドロゲルを与えるべき水溶性または親水性高分子化合物としては、メチルセルロース、デキストラン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリN−ビニルピロリドン、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリN−メチルアクリルアミド、ポリヒドロキシメチルアクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸およびそれらの塩、ポリN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、ポリN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドおよびそれらの塩等が挙げられる。また、アミノ−セルロファイン(生化学工業で販売)、AF-アミノトヨパール(TOSOHで販売)、EAH-セファローズ4B及びリジン-セファローズ4B(アマシャムファルマシアで販売)、アフィゲル102(バイオラッドで販売)、ポラス20NH(ベーリンガーマンハイムで販売)などの一級アミノ基を有する市販の担体を用いてもよい。この際、一級アミンのポリマーとポリアクリルアミド等の担体との結合には、担体を重合させる必要があり、例えば、紫外線照射処理が有効である。
マトリックスとガラス等の基板との結合は、例えばシランカップリング剤を用いればよい、シランカップリング剤は、ガラス表面とポリアクリルアミド等のマトリックスの両方と共有結合を形成し得る物質であり、無機物質と有機物質を結合させることができる。シランカップリング剤は一般的にR-Si-X3の構造をもつ化合物であり、Xはメトキシ基(-OCH3)などのアルコキシ基で、これを加水分解することによりシラノール基(Si-OH)になる。このシラノール基が基板表面に存在するシラノール基と水素結合や脱水縮合などの反応を起こして、安定なシロキサン結合(Si-O-Si)を形成して基板表面に疎水性のR-の被膜を形成する。一方R-はマトリックスと結合可能な有機官能グループ(たとえばH2C=C(CH3)C(=O)O-(CH2)3-など)である。シランカップリング剤として、市販のもの、例えば、Amersham社のバインドシラン(Bind-silane; 3-Methacryloxypropyltrimethoxysilane)等を用いることができる。
以上のように作製したタンパク質アレイを用いて、基板に固定化したタンパク質と他のタンパク質または化合物との間の相互作用を解析することができる。その際、石英ガラスを基板に被せてアレイ基板を密閉しアレイ基板の内部を調べたいタンパク質等の溶液が流せるようなフローシステムを組み立てる(図3Aおよび図3B)。密閉用の石英ガラスの両端部には孔を開けており、チューブをつないで一方から溶液を流入させ、もう一方から溶液を流出させることが可能になっている。溶液を流すためにはポンプを利用するが、モノリスゲル基板の溶液浸透性が高いので、市販の低圧ポンプで容易に基板の内部を送液することが可能である。ポンプとしては、例えばGEヘルスケアのPump P-1や、島津製作所のLC20AD等を用いることができる。また、このフローシステムは分光光度計の内部に設置可能で、送液している最中にアレイに光を照射し画像を取り込み、アレイ上のタンパク質による吸収を測定することが可能なように設計されている。照射する光は紫外光、可視光、赤外光いずれも用いることができるが、タンパク質を投入し測定する場合は280nm 付近の波長の紫外光が望ましい。タンパク質以外の化合物を投入し測定する場合はその化合物特有の吸収波長の光を用いればよい。送液する溶液としては、タンパク質溶液、化合物の溶液、緩衝液等を用いることができるが、これら各種溶液を送液している最中にアレイに光を照射し、アレイからの透過光を画像データとして取り込んでいき、スポット領域の明るさが時間変化していく様子を観察することが可能である。
基板上に固定化したタンパク質に光を照射してタンパク質による光の吸収に伴う通過光量の減少割合を測定する。この際、好ましくは紫外線透過性基板上に固定化したタンパク質に紫外光を照射してタンパク質による紫外光の通過光量の減少割合を測定する。光照射手段としては、分光器を用いればよい。分光器としては、光学フィルターを用いた分光器、分散型分光器、フーリエ変換型分光器のいずれも用いることができる。照射光として紫外光を用いる場合は、分散型分光器が望ましい。用いる光は紫外光、可視光、赤外光いずれも用いることができる。紫外光を用いる場合の波長は、200〜310nmであり、タンパク質を測定する場合はタンパク質が吸収する280nm付近の波長の紫外光が望ましい。タンパク質以外の化合物を測定する場合は、その化合物の特有の吸収波長の光を用いればよい。例えば、市販の分光光度計を用いて、分光光度計のセルを装着するセル室に本発明のタンパク質を固定化した基板を装着して測定することができる。タンパク質を固定化した面は、光照射手段側に向けても反対側の光検出手段側に向けてもよい。また、光照射手段から、基板に光を照射する光路上には、レンズやスリットを設けて光路の幅等を調整し、基板の必要な部分に光が照射するようにすることができる。
また、CCD等の2次元の光検出器を用いる場合、基板上にスポットされた固定化タンパク質全体に光を照射することにより、個々のスポットにおける通過光を一度に測定することができるが、一次元の光検出器を用いる場合は、基板上の特定のスポットのみに光が照射するように光の照射手段を移動させ、すべてのスポットに光を照射すればよい。この場合、光照射部分の移動と同時に光検出器も移動させる。
光をタンパク質を固定化した基板に照射すると光が固定化したタンパク質、固定化タンパク質に結合したタンパク質および/または固定化タンパク質に結合したタンパク質以外の化合物に吸収される。本発明においては、基板内での光の散乱も反映され、基板を通過してきた光の量を測定する。通過した光の測定は、光検出手段を用いる。光検出手段は、光強度を電気信号として出力する手段であり、内部光電効果型光検出器および外部光電効果型光検出器のいずれも用いることができる。内部光電効果型光検出器は、光による半導体中の電荷分離を利用する検出器であり、電荷分離により生じた担体による電気伝導度の変化を検出する光導電型検出器と電位差を検出す光起電力型検出器がある。光導電型検出器として電荷結合素子(charge coupled device、CCD)、フォトダイオード(PD)、フォトダイオードアレイ(PDA)、CMOS等がある。外部光電効果型光検出器は、入射光子によって光電面から電子を真空中に放出させ、その電子を直接あるいは増幅した後に検出する光電管や光電子増倍管(フォトマル、photomultiplier)がある。
本発明の装置において、これらのいずれの光検出手段を用いることができるが、マルチチャンネル検出器であるPDAやCCDが望ましく、2次元のマルチチャンネル検出器であるCCDがさらに望ましい。また、PDA、CCDにマイクロチャンネルプレートによる電子増倍機能を付与したIPDAやICCDを用いることもできる。本発明において、IPDA、ICCDはそれぞれPDA、CCDに包含される。
照射光として紫外光を用いて、通過光量の減少割合を測定する場合、CCDは紫外光に対応している必要がある。紫外光対応のCCDとして、例えば、テキサスインスツルメンツ社製のTC253SPD-30/TC253SPD-B0、TC285SPD-30/TC285SPD-B0等のIMPACTRONTMCCD素子やホリバジョバンイボン社製のCCD素子を用いることができる。またこれらの素子を利用した市販のCCDカメラを用いてもよい。例えば、テキサスインスツルメンツ社製のMC681SPD、MC285SPD-LOBO等のIMPACTROMTMCCDデジタルカメラ等がある。しかしながら紫外光対応のCCDは、非常に高価であるという問題がある。入手容易な市販のCCDデジタルカメラに使用されている紫外光に対応していないCCDを用いる場合は、非線形光学材料である紫外-可視光変換デバイスを用いればよい。紫外-可視光変換デバイスとは紫外光を可視光に変換するデバイスであり、例えば蛍光ガラス等の波長変換ガラス、蛍光顔料等の蛍光材料、銀塩感剤や非銀塩感剤等の感剤が挙げられる。この中でも蛍光ガラスが望ましく蛍光ガラスはガラスに蛍光活性イオンとなる希土類イオンを含有させたものであり、200〜400nmの紫外光を照射することにより、400nm以上の可視光に変換する。蛍光ガラスとして、例えば住田光学ガラス社製のルミラス-G9、ルミラス-R7、ルミラス-B等があり、それぞれ200〜400nmの紫外光を照射することにより、540nmの緑色の蛍光、610nmの赤色の蛍光、410nmの青色の蛍光を発する。蛍光ガラスは、本発明の装置において、タンパク質を固定化した紫外光透過性の基板と光検出手段の間に設置すればよい。また、蛍光顔料や感剤は、ガラス板に塗布して、該ガラス板をタンパク質を固定化した紫外光透過性の基板と光検出手段の間に設置してもよく、またタンパク質を固定化した紫外光透過性の基板の反対側に塗布してもよい。後者の場合、タンパク質を固定化した面に紫外光を照射する。
上記のように、タンパク質を固定化した紫外光透過性の基板に紫外光を照射し、固定化タンパク質の吸収に由来する通過光量の減少割合または紫外光から変換された可視光の通過光量の減少割合を光検出手段で検出する。
光検出手段から、画像データまたはビデオデータとして信号が出力され、解析手段で該信号を処理し、基板上のタンパク質の吸光を測定する。画像データの種類は限定されず、例えば画像データをBMP画像として得て、処理することができる。画像データまたはビデオデータを処理する際、基板上の各スポットの光強度を求める。処理データは例えば、各スポットにおいて、吸収の違いにより色分けして表示することも、基板上の2次元座標に対応して、吸光度を高さで表示する3次元座標で表示することもできる。
ビデオデータは、CCDを有するビデオカメラでタンパク質を固定化した基板を撮像することにより得られる。ビデオデータを得ることにより、基板上のタンパク質の吸収をリアルタイムで解析することができる。リアルタイムでビデオデータを処理するには、ビデオキャプチャボードおよび市販のソフトウェアを用いることができ、例えばDirect X(Windows社製)を用いて処理すればよい。
この際、基板上のタンパク質を固定化していない部位を透過した光の強度とタンパク質を固定化した部位を透過した光の強度を測定し、タンパク質を固定化していない部分を透過した光の量と、タンパク質を固定化した部位を通過した光の量の比、すなわち、通過光量の減少割合の対数を光シグナルとして用いる。光検出手段により得られたデータはピクセルとして構成されており、タンパク質を固定化していない任意の部位について複数のピクセルについての光強度に関するデータを得て平均し(I0)、さらにタンパク質を固定化したそれぞれの部位(スポットまたはドット)についても複数のピクセルについて光強度に関するデータを得て平均し、各スポットの光の透過率を求めることができる(I)。吸光度は-log(I / I0)により求めることができる。この際、あらかじめ固定化密度、あるいは1スポット中のタンパク質量のわかっている標準タンパク質について、固定化密度と吸光度の関係を求めておくことにより、測定しようとする固定化タンパク質の固定化密度を求めることができる。例えば、密度Dの標準タンパク質の吸光度がAsであり、密度未知の被験タンパク質の吸光度がAtである場合、被験タンパク質の密度は、式D×(At/As)により求めることができる。この際、基板上に密度既知の標準タンパク質をコントロールスポットとして固定化しておいてもよい。
光照射手段からタンパク質を固定化した基板に照射する紫外光は一定の波長に固定化した紫外光でもよいし、1nmから数十nmの波長幅があってもよい。
固定化したタンパク質と該タンパク質と相互作用する他のタンパク質または低分子化合物等のタンパク質以外の化合物とを接触反応させ、基板上のスポットにおける光の吸収を測定することができる。例えば、固定化タンパク質とそのタンパク質と結合するリガンドタンパク質との相互作用を検出・解析することができる。また、固定化タンパク質とタンパク質以外のリガンドとの相互作用を検出・解析することができる。例えば、抗体または抗原を一定密度で固定化し、該抗体または抗原と特異的に結合する抗原または抗体と反応させた後に、基板上のタンパク質の吸収による通過光量の減少割合から光シグナルを測定することにより、固定化した抗原または抗体と結合した抗体または抗原の量を測定することができる。この場合、固定化タンパク質と他のタンパク質またはタンパク質以外の化合物を接触反応させる前後にタンパク質アレイ上の光シグナルを測定した場合、接触前の測定値は固定化タンパク質のみの吸光を反映し、接触後の測定値は固定化タンパク質と他のタンパク質またはタンパク質以外の化合物が相互作用した複合体を反映する。従って、接触前後の光シグナルの差をとることにより、固定化タンパク質と相互作用した他のタンパク質またはタンパク質以外の化合物の量を決定することができる。基板上に固定化したタンパク質の吸収をあらかじめ求めておき、他のタンパク質を相互作用させた後に、再度吸収を測定し、相互作用前後の吸収の変化を求めることにより、固定化タンパク質が相互作用したことおよび相互作用した他のタンパク質の量を測定することができる。また、基板としてフローセルまたは液体の流路を有するマイクロチップを用いフローシステムを構築することにより、接触の前後にわたって接触中のタンパク質アレイ上の吸光の変化をリアルタイムで測定することができ、相互作用を経時的にモニタすることができる。
本発明は、さらに、基板上にタンパク質を高密度で整列固定化したタンパク質アレイおよび分光光度計を含む、タンパク質アレイ上のタンパク質および/または固定化タンパク質と相互作用するタンパク質以外の他の化合物を検出・解析するシステムであって、分光光度計を用いて前記タンパク質アレイに光を照射し、タンパク質アレイを透過した光を測定することによりアレイ上のタンパク質および/または固定化タンパク質と相互作用するタンパク質以外の他の化合物による通過光量の減少割合を測定し、タンパク質アレイ上のタンパク質および/またはタンパク質以外の他の化合物を検出・解析するシステムを用いたタンパク質やタンパク質と相互作用するタンパク質以外の他の化合物を検出・解析する際の、タンパク質を固定化した部分の透過光強度とタンパク質を固定化していない部分の透過光強度とを比較・演算することにより、当該アレイ上のタンパク質および/またはタンパク質以外の他の化合物の量を推定する方法を包含する。該方法においては、タンパク質を固定する基板は、モノリスゲル基板に限定されず、透明ガラス(石英ガラス、パイレックスガラス等)、透明プラスチック、合成石英ガラスや溶融石英ガラス等の紫外光を透過し得る石英ガラスでできたスライドガラス等を用いればよい。
例えば、国際公開第WO2006/059727号パンフレットに記載のシステムを用いてタンパク質やタンパク質と相互作用するタンパク質以外の他の化合物を検出・解析する際に、本発明のアレイ上のタンパク質および/またはタンパク質以外の他の化合物の量を測定する方法を適用することができる。基板上にタンパク質を高密度で整列固定化したタンパク質アレイおよび分光光度計を含む、タンパク質アレイ上のタンパク質および/または固定化タンパク質と相互作用するタンパク質以外の他の化合物を検出・解析するシステムとしては、例えば図1に記載のシステムを用いることができる。図11は、図1の3のタンパク質を固定化した基板がフローセルである場合の詳細を示している。すなわち、相互作用を測定すべきタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物を溶液に含ませて送り、その前後でスポットの濃度を測定することにより、相互作用を測定するものである。ただし、本発明の方法は基板がフロー型の場合に限定されるものではなく、基板を図1の測定系から一旦取り外し、適当な容器内で同様の処理をした後で測定系図1に戻し測定し、その前後を比較するということも可能であり、後者の場合も簡単な変更で同じ原理を適用可能である。図11において、光(好ましくはタンパク質の吸収がある280nm)は図の左から入ってきて、紫外光280nmを透過する材料(例えば石英)でできているガラス12を通過し、アレイ基板10に固定されたタンパク質11により吸収されて、図の右側に出ていく。その際、基板に由来する散乱などにより、反対側にまで到達する光の量は著しく減少するが、ある割合で通過できる。
なお、光の向きは限定されず、図の右から左方向でも良い。11と12の間は特に限定されるものではないが、溶液が通過可能で紫外線が透過し、かつタンパク質をこれに強固に固定可能な担体であることが最も好ましく、例としてアクリルアミドゲルや液体クロマトグラフに用いられる各種充填剤、あるいはモノリス担体がある。15はこの担体を示す。
図12は、図2の基板上のタンパク質のスポット例を正面図(図12A)及び断面図(図12B)により示したものである。図12Aの正面図に示すように、タンパク質はヨコ8列×タテ12行、合計96個、担体15に固定されている。この場合、スポットは担体の左側から打ち込まれていて、担体15は溶液を通さない基板10に固定され、左からガラス基材12がフタになり溶液の漏出を防いでいる。
図1に記載のシステムにおいて、基板3を通過した光は、その後、紫外・可視光電変換デバイス4(具体的にはCCD(電荷結合素子)センサなど)により電気的な画像データに変換される。図2に記載のフローセルを用い、タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物を溶液に含ませて送った場合のシステムの動作を図13により示す。図13はある特定のスポットの、溶液の成分を変えたときの通過光量の減少割合に由来する光シグナルの時間変化を示す。当初、タンパク質およびタンパク質以外の他の化合物を含まない溶液を流す場合には、透過光は強い(これをI0とおく)。しかし、タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物を含む溶液を流すと、透過光が徐々に弱くなる(図14)。これはスポットに固定されているタンパク質に溶液中のタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物が吸着し、スポットの濃度が更に高くなったためである。タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物溶液を十分な時間流した後の透過光強度をI1 とおくと、吸着したタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物の量は-log10(I1/I0)に比例している。その後、吸着を解離する溶液を流せば、再びタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物がスポットから解離し、スポットの透過光強度が大きくなる。あらかじめ濃度の分かっているタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物を流すことにより校正すれば、タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物の濃度の絶対量を測定することができる。よって以上により、溶液中のタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物のスポットに固定されたタンパク質との親和性がわかる。
図15に本発明の方法の概念図を示す。図15Aはタンパク質の固定化部分(図11の11と図12の11の1点に相当)とその周辺の透過光強度の分布を示す。図15Bは図15Aを説明するために、吸着したタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物濃度を縦軸に取った概念図である。
タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物溶液が流れる前(図13のI0の状態)にはタンパク質は固定化されたもののみであり、これを図15Bの16に示す。この時の通過してくる光の強度はタンパク固定部分(図2および図3の11の部分)ではやや暗く、周辺で明るい。これを図15Aのように、中心をI0X 周辺をI 00とおく。次に、タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物溶液を流した後(図13のI1の状態)を考える。この状態では、溶液中のタンパク質は程度の差こそあれ、一部が全ての領域に均等に非特異的に吸着すると考えられる。これを図15Bの17(3カ所)に示す。タンパク質を固定した部分では、固定されたタンパク質と溶液中のタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物の親和性による吸着(18)が加わり、その結果、周辺よりもより多くのタンパク質またはタンパク質以外の他の化合物が吸着する(図15B)。一方、通過してくる光の強度は図15Aに示すように、周辺部では非特異的吸着によりやや暗くなる程度であるが(強度をI 0X とおく)、タンパク質固定化部分では非特異的吸着と親和性による特異的吸着の和になり吸光度が更に上がり、通過してくる光の強度は更に弱くなる(この強度をI1X とおく)。
以上により測定した各強度から親和性によって吸着した(つまり非特異的吸着の寄与を除いた)タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物濃度を求める方法を図16に示す。左列はタンパク質固定化部位(スポット部位)、右列は周辺部位である。計算は、各列で(つまりスポット部位と周辺部位で各々)タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物を流す前と流した後で通過光強度を比較し、吸光度=タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物濃度を求め、最後にタンパク質固定化部位(スポット部位)の濃度から周辺部位(これは非特異的吸着分)の濃度を引き算し、目的の親和性によって吸着した(つまり非特異的吸着の寄与を除いた)タンパク質またはタンパク質以外の他の化合物濃度が求められる。
図17は、基板上のタンパク質を整列固定したタンパク質スポットをCCDセンサで観察した例を示す。図17に示すように、CCDセンサは多数のピクセル(画素)からなっており、CCDのピクセルが受光し、それぞれのピクセルでの光の強度を検出することができる。図17に示すように、タンパク質スポットとピクセル(測定点)は重なり、1つのタンパク質スポット上に多数のピクセルが存在するとともに、タンパク質スポット以外の部位にもピクセルが存在する。図18は、タンパク質スポットとピクセルとの関係をより精密に示した図である。図18において、中央の2重円の内側の円で囲まれた部位がタンパク質スポット部位を示し、外側の円と内側の円の間がタンパク質スポットの周辺部位を示す。また、小さな四角、丸及び三角はピクセルの1つずつを示し、四角がタンパク質スポット上のピクセルを、丸がタンパク質スポットの周辺部位のピクセルを、三角はそれ以外のピクセルを示す。図18に示すように、タンパク質スポットの部位分とタンパク質スポットの部位は同心円で示すことができ。本発明においては、あらかじめタンパク質スポットの面積とタンパク質スポットの周辺部位の関係を決めておいてもよい。例えば、タンパク質周辺部位の面積のタンパク質スポット周辺部位の半径はタンパク質スポット半径の、1.1〜2倍、好ましくは1.1〜1.5倍である。また、タンパク質スポットに含まれるピクセルの数とタンパク質スポットの周辺部位に含まれるピクセルの数の比は、タンパク質スポットの面積とタンパク質スポットの周辺部位の面積の比と同じであり、タンパク質スポットの周辺部位に含まれるピクセルの数はタンパク質スポットに含まれるピクセルの数の、1.2〜4倍、好ましくは1.2〜1.75倍である。また、タンパク質スポットの面積とタンパク質スポットの周辺部位の関係を後記の実施例10に記載の方法で測定ごとに決定することもできる。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
本実施例においては、抗体に対して親和性のある抗体リガンドタンパク質を固定化したリガンドタンパク質アレイを作製し、抗体溶液を投入し抗体が結合する様子を観察し、その後、酸性緩衝液を投入し抗体が解離する様子を観察した。そこで得られる画像からスポットを自動認識させ通過光量の減少割合に由来する光シグナルを算出し、抗体リガンドタンパク質と抗体の間の相互作用を解析した。
実施例1 モノリス基板の作製
石英ガラスの表面に0.1mmの深さの窪みを作製し、その窪みにシリカモノリスゲルを形成させ、エポキシ基を導入し、さらにそこにアミノ基含有ポリマーを導入することにより、タンパク質固定化用モノリス基板を作製した(図2)。以下に作製過程の詳細を記す。
石英ガラスの表面を砂で研磨することにより、深さが0.1mmの六角形型の窪み(幅20mmX長さ35mm)を作製した。その窪みの中に、ゾル状態のシリカを流し込みカバーを被せて40℃で一晩放置してシリカをゲル化させ、この後約600℃で焼成してシリカモノリスゲル基板を作製した。次に、トルエンで20%に希釈したエポキシシラン(3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン)溶液の中にモノリス基板を浸し、80℃で一晩放置することによってエポキシ基をモノリス基板に導入した。次に、アミノ基含有ポリマーであるポリ-L-リジン(分子量4,000〜15,000:シグマ社より購入)20mgを純水1mlで溶解し、これに1Mの硼酸緩衝液(pH 8.5) 50μlを加えてpH = 8.5に調節したポリマー溶液を準備し、この溶液をモノリス基板の表面に添加し、16時間穏やかに攪拌することにより、ポリ-L-リジンをモノリス基板内に浸みこませ、エポキシ基に共有結合させて、アミノ基をモノリス基板に導入した。その後、0.5M塩化ナトリウムを含む0.5Mモノエタノールアミン溶液(pH=8.3に塩酸で調節)に石英ガラス全体を浸し、12時間穏やかに攪拌することにより、残存エポキシ基をブロッキングするとともに未反応のポリ-L-リジンを除去した。この後、純水20mlで数回洗浄することにより、モノエタノールアミンおよび未反応のポリ-L-リジンを除去した。その後モノリス基板を乾燥させた(図2)。
実施例2 モノリス基板上へのリガンドタンパク質の固定化
実施例1で作製しモノリス基板に、抗体結合特性を有するリガンドタンパク質の固定化を行った。以下の実施例においては、12行×8列の96個の格子点にタンパク質をスポットして固定化した例を示している。
各スポット用のリガンドタンパク質としては、使用するタンパク質濃度として最大濃度が2mg/mlとなるように10mM燐酸緩衝液(pH=7.0)に溶解し、DTTを最終濃度が1mMになるように加え4時間以上37℃で還元反応を行い、リガンドタンパク質のシステイン残基を還元した。そのように処理したタンパク質溶液を希釈することにより各種濃度のタンパク質溶液とし、これを用い、専用のスポッター(スポット用装置;武蔵エンジニアリングより購入)を用いて、各種濃度のリガンドタンパク質溶液を0.1μlずつ、モノリス基板上に1.4mmの間隔で12行×8列の96個の格子点にスポットした。スポット直後すぐにタンパク質溶液モノリス基板に拡散すること無くしみこんだ。タンパク質をスポットした基板全体をシャーレに入れて、5mMの2-ニトロ-5-チオシアノ安息香酸(NTCB)溶液20mlを加え、その中で約4時間室温にて穏やかに攪拌することにより、システイン残基のシアノ化反応を行った。その後、基板全体を別のシャーレに移して、10mM硼酸緩衝液(pH9.5)を加え、約24時間室温で穏やかに攪拌することにより、固定化反応を行った。固定化反応終了後、さらに別のシャーレに移して1MKClを含む10mM燐酸緩衝液(pH7.0)に浸し、4時間以上穏やかに攪拌することによって未反応タンパク質及び副反応生成物を除去した。その後、アミノ基のブロッキング反応を、20mlの0.5M硼酸緩衝液(pH8.5)で満たしたシャーレに入れ、200μlの無水酢酸を約10分毎に6回添加することにより行った。ブロッキング反応後、10mM燐酸緩衝液(pH7.0)を用いて洗浄し、固定化反応を終了した。なお、このように作製したリガンドタンパク質アレイは、10mM燐酸緩衝液(pH7.0)中に浸して4℃で保存することにより、長期間保存が可能であった。
実施例3 フローセルの組み立て
モノリス基板を用いたフローセルを組み立てた。構成を、図3に示す。図3Bにはフローセルの写真を示す。
図2のモノリス基板上に、溶液を通じるための孔を2ヶ所空けた石英ガラス板を用いて両者を圧着し、その後、図3Bの写真にあるような締め付け金具を用いて締め付けるとともに、送液ラインを装着し、送液できるようにした。これを、検出解析装置にセットし、固定化したリガンドタンパク質に由来するシグナルの観察および送液中にリガンドに結合する抗体タンパク質を用いることにより、リガンドタンパク質に結合した抗体に由来するシグナルの観察に供することができた。
実施例4 基板上のタンパク質に由来するシグナルの検出
モノリス基板は、一見して不透明であり、いわゆる光吸収で測定することが可能か疑問であった。そこで、平行化した強い光を照射して、反対側にもれてくるいわゆる通過してくる光の量がタンパク質の存在によりどのような挙動を示すかを調べた。なお、通過してくる光には、ゲル等の基板に由来する多重散乱による光が含まれ、いわゆる、迷光となる。
実施例に示すようにリガンドタンパク質を固定化したアレイ基板を、実施例3に示すようにしてフローセルを構築し、これを、先に開発している国際公開第WO2006/059727号パンフレットの記載に基づく構成よりなる分光光度計にセットし、フローセルに、10mMのリン酸緩衝液(pH=7)を送液し、アレイ基板に280nmの光を照射し、照射側と反対側の検出装置を用いて、反対側で検出できる光量を測定した。検出できる光量は、リガンドタンパク質がスポットされた部分とそれ以外の部分では明らかに異なっていた。
タンパク質が固定化された部分の光量を,Ip,固定化されていない部分の光量を、Ioとして、タンパク質に由来する光シグナルを
S=-log(Ip/Io)
として求めた。このシグナルを表す式は、透過光を基準としたときの光吸収の度合い、いわゆる、吸光度と同じ形式である。
固定化に用いたタンパク質の量に対して、本シグナルをプロットすると、図3の関係が得られた。すなわち、固定化されたタンパク質の量に比例してシグナル量は増加した。従って、このシグナルを指標にモノリス基板中に存在するタンパク質量を測定できることが示された。
図中、リガンドタンパク質1はAIST-2リガンド、2から4は、その一アミノ酸変異体を用いている。このようにして用いた光シグナルは、基板に由来する多重散乱に由来する迷光により、ある値で線形関係が著しく損なわれるが、光シグナルが、0.1を超えない範囲では保たれることが示された。従って、一見して基板に由来する散乱などの効果により不透明であり、途中で散乱を受けながらも基板を通過してくる光の量を測定することが可能であることが示された。
実施例5 基板上のリガンドタンパク質に結合したタンパク質に由来するシグナルの検出
実施例3において用いたフローセルに、固定化リガンドに結合するタンパク質として、ヒトポリクローナル抗体溶液を送液することにより、シグナルがどのように変化するかを観察した。
フローセルに、0.2mg/mlの抗体溶液を毎分約0.6mlのスピードで30分間送液することにより、シグナルは安定化した。そのときのシグナルをリガンドタンパク質の固定化量に対してプロットすると、図5の結果が得られた。リガンドタンパク質の量に依存して結合する抗体量は増加すると予想されるが、このことを反映して、観察されるシグナル量も増加した(図5A)。抗体結合に由来する増加したシグナル量をリガンドタンパク質の量に対してプロットすると量に依存して飽和する関係が得られた。これは、この検出方法における直線関係の上限を示唆するものであり、用いた基板においては、シグナル量として0.05をあたりが上限であることを示している。一方、それ以下のシグナルを用いている限りは、リガンドとタンパク質に結合する抗体タンパク質の量を測定できることを示唆している。
実施例6 基板上のリガンドタンパク質と抗体との結合の観察
実施例3において用いたフローセルに、固定化リガンドに結合するタンパク質として、ヒトポリクローナル抗体溶液を送液することにより、シグナルが刑事的にどのように変化するかを観察した。
先ず抗体をアレイに投入するため(結合過程)、0.2mg/mlの抗体溶液を毎分約0.6mlのスピードで24分間送液した。この途中15秒間隔でアレイの画像を取り込んでいるが、スポット(リガンドが固定化されている領域)が次第に暗くなっていった(図6)。これは抗体が、アレイ上に固定化されたリガンドタンパク質に結合していったためである。次に、アレイを洗浄するため(洗浄過程)、10mMのリン酸緩衝液(pH=7)を同じスピードで25分間送液した。この過程では、スポットの明るさに変化はほとんど見られなかった。次に、抗体を溶出させるため(溶出過程)、溶出用緩衝液(0.1Mの酢酸緩衝液:pH=5)を同じスピードで25分間送液した。この過程では、送液を開始すると速やかにスポットが明るくなったことから抗体が速やかにリガンドから解離していることが分かる(図6)。最後にアレイを再生させるため(再生過程)、0.1Mのグリシン緩衝液(pH=2.5)を同じスピードで25分間送液した。この過程により、スポットはさらに明るくなり、初めの明るさにほぼ戻っていることから、抗体はリガンドから完全に解離し、アレイが再生されたことが示された(図6)。なお、再生後に再び同じような観察が可能であること、すなわち再利用が可能であることを確認した。
このような解析処理を全ての画像のすべてのスポットに関して行い、各種溶液を送液している間に吸光度がどのように変化していくのかを求めた(図7)。吸着過程においては、送液を開始した後吸光度はすみやかに上昇するが、しばらくすると上昇のスピードが遅くなり、24分後にはほとんど変化しなくなっていた。このことは、投入した抗体がほぼ飽和するまでリガンドに吸着したことを示している。次の洗浄過程では、吸光度もほとんど変化しなかったことから、抗体はリガンドに吸着した状態のままであることを示している(図7)。溶出過程では、送液を開始すると速やかに吸光度が減少していることから、抗体が速やかにリガンドから解離していることが分かった(図7)。再生過程では、吸光度はほぼ開始時点における値に戻っていた。
実施例7 各種リガンドタンパク質を固定化したアレイの作製
本実施例では、8種類の異なるリガンドを固定化したリガンドタンパク質アレイを以下のように作製した。8種類の固定化用リガンドタンパク質の配列としては、プロテインA(Staphylococcus aureus)の抗体結合ドメインAを様々に改変したものや、プロテインG(Streptococci)の抗体結合ドメインを改変したものに、固定化用のアミノ酸配列を各々のカルボキシ末端に連結させたものを用いた。実施例2で示したのと同様の方法で、これらのアミノ酸配列をコードする遺伝子を大腸菌で発現させて精製し、固定化用モノリス基板にスポットした。ただしスポットでは、8種類のリガンド各々が12行×8列の96個の格子点を斜め方向に渡るように、各々のリガンドタンパク質を12個ずつスポットした(図6)。このように並べたリガンドに関して得られるデータの平均をとることにより、場所に依存する影響を可能な限り排除した。スポットした後の固定化反応やアミノ基のブロッキング反応等の作業は全て実施例2で示したのと同じ方法で行なった。
実施例8 各種リガンドタンパク質固定化したアレイにおける抗体の吸着・乖離の観察
様々な種類のリガンドに関して、その性質(抗体に対する親和性)の違いを検出するため、実施例3で作製したリガンドアレイ2に関して、実施例4で示した方法に従い、抗体の結合・解離を観察した(図7)。結合過程・洗浄過程では、すべての種類のリガンドに関してほとんど同じように吸光度が変化していたが、溶出過程においては、リガンドの種類に依存して吸光度減少のスピードに大きな違いがみられた。このことは、pH=5の環境下では、各種リガンドから抗体が解離するスピードが異なること、すなわちリガンドの種類によって抗体親和性に大きな違いがあることを示している。
実施例9 モノリス基板内の色素溶液移動の観察
溶液がモノリスの内部を容易に拡散できるかどうか確かめるため、色素分子溶液(1%のブリリアントブルー水溶液)を用い、色素分子がモノリスゲル基板の中をどのように移動していくのか以下のように観察した。
固定化用のモノリス基板を実施例4で示した方法に従ってホルダーにセットし、ペリスタティックポンプを繋いで毎分約0.6mlのスピードで基板内部を送液できる状態にした。まず、純水を流した後、1%のブリリアントブルー水溶液0.05mlを送液し、再び純水を流した。この時の様子を、一眼レフカメラ(オリンパス、C-7070)でビデオ撮影し、色素溶液が基板内をどのように移動していくのかを確認した。色素溶液を送液しているときは、色素は基板全体をほぼムラなく流れており、純水を送液すると速やかにゲル基板の中から流出していることが示された(色素の拡散の様子を2秒間隔で図8に示す)。この結果は、溶液がモノリス基板の内部をムラなく移動していることを示している。
実施例10
本発明のデータ処理方法を示す。図1に示す装置を用いた。本実施例においては、具体的な画像から、親和性を計算するまでのデータ処理を中心に説明する。
図1の5のCCDセンサで見た画面の一例を図17に示す。11は固定化されたタンパク質のスポットを示し、19はCCDセンサの測定点(ピクセル)である。(実際には、ピクセル数は、例えば横1024、タテ512等と極めて大きい数字となるが、この図においては模式的により小さい数のピクセルを示してある)。説明のために、このうちの一つのスポット20を取り上げ、この周辺を拡大したのが図18である。
図18には、スポットとその周辺の測定点(ピクセル)と、本発明の通過してくる光の強度を計算する領域を示す。20がスポットであり、21はスポットの画像上での半径である。23(四角)はスポット内の測定点(ピクセル)である。なお、ピクセルは位置を区別するために、四角、丸、三角で示してある。また、22はスポットの周辺部の領域までの半径を示す。23の各測定点での透過光強度の平均を計算した結果を図15AのIox(タンパク質溶液を流す前)又はI1x(タンパク質溶液を流した後)に示す。22の内側でかつ21の外側にある測定点(ピクセル)がタンパク質を固定した部位(スポット)の周辺部位であり、これを24で示す。24の各測定点での透過光強度の平均を計算した結果が図15AのIo0(タンパク質溶液を流す前)又はI10(タンパク質溶液を流した後)であり、以降、図16に示した計算により、最終的に親和性により吸着したタンパク質の量を求めることができる。
ここで、図18でスポット領域の範囲21やスポット周辺領域の範囲22を決める方法は大別して2つあり、以下に示す。
第1の方法
第1の方法は、各タンパク質を整列固定化した部分(スポット)と、タンパク質を固定していない部分との区別をする方法として、通過してくる光の強度の画像情報からこれらの部分を自動決定することを特徴とする。
図19A及び19B(図19Bは図19Aの続き)は、第1の方法によるスポット部位と周辺部位の範囲の設定を示している。図19A中、(i)は測定後の画像であり、円はスポットでありこの部分は通過してくる光の強度が弱い。点線は、CCD測定点(ピクセル)のある特定の行の部位を示している。(ii)により、これを平滑化する。平滑化の方法としては、移動平均やデジタルフイルタが考えられる。次に(iii)で通過してくる光の強度の平均を計算する。次に、(iv)により平均値(iii)と平均化前の信号(ii)とを比べる。これを(iv)の図に示す。直線が平均値で、逆台形が信号である。スポット部分は通過してくる光の強度が小さいため、信号は弱く、台形の窪みの部分がスポット部位を示す。そこで、平均値より小さい信号が出る測定点(ピクセル)をスポット部位(v)とする。このピクセルは、図19Bの下方の図では四角に相当する。
これ以外(すなわち平均値に等しいか大きい部位(vi))のピクセルについては、各ピクセルとスポット部位(v)との距離を計算し、これが所定距離(あらかじめ設定するか使用者が入力する)未満の場合に、このピクセルをスポットの周囲(周辺部位)(viii)とみなす。具体的には、例えば当該ピクセルの位置を(p,q)とし距離をdと置いたときに、(p-d,q-d)と(p+d,q+d)で囲まれる領域に(v)のピクセルが有るか否かを判定し、前者の場合は当該ピクセルを「周辺部位」とし、後者の場合は「それ以外」(ix)とする。図19Bの下方の図では、d=1の場合の「周辺部位」のピクセルを丸で示している。
以上により設定したスポットとスポット周辺部位は、図18Aの23(スポット部位)と24(周辺部位)に他ならず、その後、前述の方法をとることによりスポット部位と周辺部位の範囲を設定することができる。
第2の方法
第2の方法は、各タンパク質を整列固定化した部位(スポット部位)と、タンパク質を固定していない部位との区別をする方法として、あらかじめ使用者がスポット直径・スポット間隔・スポット行数・スポット列数などを入力し、それにより形成されたパターンを画面上で移動・拡大・縮小・回転などすることにより実際の画像にあてはめることで区別することを特徴とする。
第2の方法によるスポット部位と周辺部位の範囲の設定を図20に示す。このソフトウエアでは、(b)のように、あらかじめ使用者がスポット直径・スポット間隔・スポット行数・スポット列数などを入力する。それによりマス目状のパターンを作成して、これを拡大・縮小・回転などし(c)、測定結果の画像(a)にあてはめることでまずはスポットの領域を設定する(d)。周囲の領域(図18の22)は、使用者が実際のスポット信号を見ながらスポットの同心円の半径を動かすことで設定する(e)。
以上により設定したスポットとスポット周囲は、図18Aの23(スポット部位)と24(周辺部位)に相当し、その後、前述の方法をとることによりスポット部位と周辺部位の範囲を設定することができる。