この発明は、地上波デジタルテレビ用アンテナブースタユニットに関する。
テレビ放送などの受信機においては、アンテナからの受信信号を同軸ケーブルなどの信号ケーブルを介して受信回路に入力するようにしている。近年、電波放送の形態は非常に多様化しており、多チャンネル化の傾向が著しい。特に、地上波放送のUHF帯の場合、アナログ放送のチャンネルが設定されていることに加え、最近になって同じUHF帯で地上波デジタル放送も開始された。地上波デジタル放送は将来的には現行のアナログ地上波放送を完全に置き換えるべく計画されているが、受信機普及なども考慮して2011年まではアナログ/デジタルのサイマル放送が行われることになっている。そのためUHF帯域の周波数使用状況は大幅に過密となり、隣接チャンネル波や同一チャンネル波による受信障害の問題が深刻化している。
ところで、地上波デジタルテレビ放送では、直交周波数分割多重変調(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:OFDM)方式が採用されている。OFDM方式は、中心周波数が互いに直交関係にある多数のサブキャリア(副搬送波)に情報を分散させて伝送するマルチキャリア伝送方式の一つであり、マルチパス遅延干渉(ゴースト)の影響を大幅に低減できる利点がある。マルチキャリア変調信号のスペクトラムは、多数のサブキャリアの重ね合せスペクトラムとして表わされる。OFDM方式では、上記のごとく各サブキャリアが互いに直交関係にあるので原理的には他のサブキャリアに影響を与えないはずである。
他方、小電力送信放送の受信C/N比を向上させるためには、アンテナ受信信号をブースタにより増幅してテレビ受像機に入力することが有効である(例えば、特許文献1)。このとき、ブースタに使用する増幅器は、図23に示すごとく、入力振幅値が大きくなると出力振幅が飽和値に近付いて特性が非線形化する非線形領域を有する。サブキャリアの入力振幅値が非線形領域に入り込んだ場合、出力振幅はプラス側とマイナス側の双方で飽和して尖頭部分がクリップされた形に歪む(つまり、多次の高調波歪を発生する)。そして、3次相互変調歪を生じたサブキャリアの出力波形は、中心周波数を基本周波数とする形で、その逓倍化された周波数の高調波成分を含む。例えば、2つのサブキャリアの周波数をf1,f2として、その信号を増幅器に入力した場合、入力振幅値が非線形領域に入ると、周波数が各々nf1及びnf2のn次高調波が発生する。その結果、そのうちの2次高調波と、基本波f1,f2により、2f1−f2及び2f2−f1という周波数の信号歪成分が発生する。この周波数関係にある歪を3次相互変調歪と称する。地上波デジタルテレビ放送では1つのチャンネル帯域幅が5.6MHzであり、1チャンネル内に5617本のサブキャリアが含まれているから、隣接するサブキャリアの周波数間隔は1kHzと非常に近接しており、3次相互変調歪もキャリア基本周波数に近い周波数にて発生するので、受信C/N比に影響を及ぼすことは明らかである。
図24は、地上波デジタルテレビ放送のあるチャンネルのマルチキャリア変調信号のスペクトラムを示すものである。各サブキャリアの基本周波数信号の重ね合わせ波形がチャンネル帯域に収まる形で生じているものの、該チャンネルに含まれる5617本のサブキャリアの任意ペアによる3次相互変調歪の重ね合わせ波形は、着目しているチャンネル帯域のみならず、隣接チャンネルの帯域にもはみ出しており、その受信品質に影響が及ぶことがわかる。特に、大電力送信の広域デジタル放送チャンネルに、小電力送信の地域放送チャンネルが隣接している場合、元から受信レベルが低い地域放送チャンネルのキャリア信号に、広域デジタル放送チャンネルの高レベルの3次相互変調歪成分が重なる結果、該地域放送チャンネルの映像品質劣化は非常に深刻となる。
本発明の課題は、大電力放送チャンネル群の周波数帯の隙間をぬって地域放送チャンネル等の小電力送信放送がなされているような場合においても、該大電力放送チャンネル群から小電力送信放送に及ぶ非線形歪(特に、3次相互変調歪)の影響を効果的に回避でき、小電力送信放送の受信品質を大幅に向上でき、かつ、コンパクトに構成できる地上波デジタルテレビ用アンテナブースタユニットを提供することにある。
課題を解決するための手段及び発明の効果
本発明は、複数の地上波デジタルテレビ放送チャンネルを含む強電界受信対象チャンネル群と、地上波デジタルテレビ放送チャンネル又は地上波アナログテレビ放送チャンネルからなる弱電界受信対象チャンネル群とを受信するUHFテレビアンテナの受信信号を増幅し、その増幅した受信信号を受信装置のフロントエンド側に入力するためのブースタユニットにおいて、上記の課題を解決するために、
UHFテレビアンテナから入力される受信信号を、飽和出力が10dBm以上に確保され、かつ、受信対象となる地上波デジタルテレビ放送帯域を包含する470MHz以上770MHz以下の周波数帯域でのゲイン変動幅が5dB以内に収まった特性を有する広帯域アンプICにより増幅して出力する増幅部と、
該増幅部から出力される増幅済み受信信号が入力されるとともに、該増幅済み受信信号に含まれる弱電界受信対象チャンネルの信号を、強電界受信対象チャンネル群の信号よりも優先的に通過させるとともに、該強電界受信対象チャンネル群の信号を、該強電界受信対象チャンネル群の視聴が妨げられない範囲内にて減衰させることにより、弱電界受信対象チャンネルと強電界受信対象チャンネル群との信号レベル差を縮小して、受信装置のフロントエンド側へ出力するレベル差改善用フィルタと、を備えたことを前提とする。
上記本発明のブースタユニットでは、アンテナ受信信号が増幅部に入力される。この増幅部は、飽和出力が10dBm以上に確保され、かつ、地上波デジタルテレビ放送帯域を包含する470MHz以上770MHz以下の周波数帯域でのゲイン(SパラメータではS21)の変動幅が5dB以内に収まった特性を有する広帯域アンプICにて構成される。飽和出力が10dBm以上に確保されていることで、アンプICの線形領域が大幅に拡大し、OFDM方式を採用する地上波デジタルテレビ放送の個々のチャンネルのマルチキャリア変調信号の増幅出力スペクトラムから、個々のチャンネル内に、もしくは隣接チャンネル帯域へはみ出す形で生ずる非線形歪(特に、3次相互変調歪)の影響を劇的に軽減することができ、受信品質を大幅に向上することができる。また、受信対象となる地上波デジタルテレビ放送帯域を包含する470MHz以上770MHz以下の周波数帯域にてゲイン変動幅が5dB以内に収まっているので、小電力送信放送がどの帯域のチャンネルで行なわれていても、非線形歪を軽減しつつ受信信号を一律に増幅でき、受信品質を大幅に向上できる。なお、飽和出力は、より望ましくは10dBm以上に確保されていることがよい。
上記増幅部から出力される増幅済み受信信号は、弱電界受信対象チャンネルの信号と強電界受信対象チャンネル群の信号との双方を含む。強電界受信対象チャンネル群の信号は、飽和出力が高く線形領域の広い上記広帯域アンプICにて増幅されるので、チャンネル内に生ずる非線形歪の影響が軽減され品質劣化が回避できる。しかし、増幅された該強電界受信対象チャンネルの信号レベルが、これに近接する弱電界受信対象チャンネルの信号レベルよりも過度に大きいと、弱電界受信対象チャンネルの信号が該高レベルの強電界受信対象チャンネル側からはみ出してくる3次相互変調歪等の影響を受け、劣化してしまう問題がある。そこで、本発明では、この増幅済み受信信号をレベル差改善用フィルタにより、弱電界受信対象チャンネルの信号を優先的に通過させ、かつ、強電界受信対象チャンネル群の信号については視聴が妨げられない範囲内にて減衰させることにより、弱電界受信対象チャンネルと強電界受信対象チャンネル群との信号レベル差を縮小して、受信装置のフロントエンド側へ出力する。これにより、弱電界受信対象チャンネルについても、強電界受信対象チャンネル群から受ける3次相互変調歪等の影響を効果的に軽減でき、受信品質を大幅に向上できる。なお、対象チャンネルが中電界以上で受信品質C/N比に余裕のある場合は、アンテナと増幅部との間にレベル差改善フィルタを挿入することも可能である。この場合は、アンテナ受信信号がレベル差改善フィルタで一旦平準化された後、増幅部にて増幅されることとなる。
増幅部にて使用する広帯域アンプICの飽和出力が10dBm未満では、地上波デジタルテレビ放送帯域の、大電力放送チャンネル内、ないし隣接する小電力送信放送チャンネルにおける非線形歪の影響を十分に軽減できなくなる。なお、広帯域アンプICの飽和出力の上限には特に制限はなく、例えば25dBm程度までは十分可能である。また、広帯域アンプICの定格出力は、例えば地上波テレビ放送UHF帯域内の受信対象チャンネル数(アナログ+デジタル)が7波の場合、115dBuV以上確保されていること(上限には特に制限はないが、例えば130dBuV)が望ましい。
また、広帯域アンプIC単体のゲインの周波数特性は、470MHz以上770MHz以下の周波数帯域でのゲイン変動幅が5dB以内に収まっている限り、傾斜した特性を有していてもよいが、この場合は、入出力回路の追加により、増幅部全体としてのゲイン変動幅が3dB以内(望ましくは1dB以内)に収まるよう平坦化することが望ましい。また、該周波数帯域でのゲインの絶対値は15dB以上、望ましくは20dB以上確保されていることが望ましい。
本発明の適用対象となる地上波デジタルテレビ放送帯域は、例えば強電界受信対象チャンネル群をなす広域放送チャンネル系列に対し、それら広域放送チャンネル系列よりも送信電力レベルが小さい弱電界受信対象チャンネル群をなす地域放送チャンネルが割当・配列されたものであり、該地域放送チャンネルの弱電界受信チャンネル信号が増幅対象信号とすることができる。本発明の採用により、広域デジタル放送に由来する高電界受信レベルによって地域デジタル放送の低受信レベルの当該チャンネル内に励起される非線形歪、さらには該大電力放送チャンネル群から小電力送信放送チャンネルに及ぶ非線形歪(特に、3次相互変調歪)の影響を効果的に回避できる。
広域放送チャンネル系列に対し、それよりも送信電力レベルが小さい地域放送チャンネルが隣接設定された形での地上波デジタルテレビ放送の受信環境にて、全受信電力PiTがPiT≧−30dBmとなっている場合、広帯域アンプICとして飽和出力が10dBm以上に確保されたものを使用することで、その地域放送チャンネルの受信時におけるビットエラー率(BER)を、地上波デジタルテレビ放送の受信限界値(−40dB付近)に対し10dB以上の余裕度を確保でき、ひいては該地域放送チャンネルの映像品質を十分確保することができる。
増幅部をなす上記の広帯域アンプICは、従来のシリコン系バイポーラICでは飽和出力を10dBm以上に確保することは極めて困難である。従って、該広帯域アンプICは、飽和出力の高いGaAsMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)にて構成することが望ましい。MMICを構成するGaAs系単位能動素子は、MESFET(Metal-Semiconductor Field Effect Transistor)、HEMT(High Electron Mobility Transistor)及びHBT(Hetero-Bipolar Transistor)のいずれでもよい。本発明にて好適に採用できる上記広帯域アンプICの具体例として、GaAs系単位能動素子としてHEMTを用いたKGF2755(沖電気(株)製)を例示できる。
レベル差改善用フィルタは、弱電界受信対象チャンネルの受信品質が極力損なわれないよう、対応する帯域での減衰率が5dB未満であることが望ましい。他方、強電界受信対象チャンネル群に対応する帯域での減衰率は、弱電界受信対象チャンネルへの非線形歪の影響が緩和され、かつ強電界受信対象チャンネル群自体の受信品質は十分に確保できるよう、8dB以上20dB未満に定められていることが望ましい。
また、本発明のブースタユニットは、受信(視聴)対象チャンネルとして地上波アナログテレビ放送チャンネルを含んでいてもよい。レベル差改善用フィルタは、強電界受信対象チャンネル群の一部をなす地上波アナログテレビ放送チャンネル群の受信信号を、それら地上波アナログテレビ放送チャンネル群の視聴が妨げられない範囲内であって、強電界受信対象チャンネル群に属する地上波デジタルテレビ放送チャンネルよりも高レベルにて減衰させる通過特性を有するものとして構成できる。地上波アナログテレビ放送チャンネルは、例えば、デジタル地域放送チャンネルに対しデジタル広域放送チャンネル系列が位置するのと反対側の帯域に設定されていることもあるし、デジタル地域放送チャンネルよりも低域側に設定されていることもある。いずれにしても、地上波アナログテレビ放送チャンネル群の受信レベルは、地上波デジタルテレビの地域放送チャンネル系列の受信レベルよりも高いことが多く、前記した広域放送チャンネル系列と同様に地域放送チャンネル系列の受信品質劣化に関与する。しかし、上記のごとく、レベル差改善用フィルタにより地上波アナログテレビ放送チャンネル群の受信レベルを、視聴が妨げられない範囲で減衰させることでにより、地上波デジタルテレビの地域放送チャンネル系列の受信品質を良好に維持でき、アナログ/デジタルの地上波サイマル放送受信にも問題なく対応することができる。レベル差改善用フィルタは、この場合、地上波アナログテレビ放送チャンネル群帯域にて15dB以上26dB未満の減衰量が確保されるように通過特性を定めておくとよい。アナログ放送は、受信レベル低下に伴なう映像品質劣化がデジタル放送ほどには急峻に生じないので、減衰量の上限も地上波デジタルテレビの広域放送チャンネル群よりは大きく確保することができる。
次に、本発明の地上波デジタルテレビ用アンテナブースタユニットは、増幅部のブースタ入力端へのアンテナ受信信号の入力線及びブースタ出力端からの増幅信号の出力線の少なくとも一方を兼ねる、増幅部の電源線に入力される、アンテナ受信信号又は増幅信号をなす高周波信号に重畳された電源入力を、高周波信号から分離して広帯域アンプICの電源端子に供給する電源分離フィルタを含んだ電源系回路を備えたものとして構成できる。
上記の構成によると、増幅部の電源線にアンテナ受信信号又は増幅信号をなす高周波信号が重畳された形で電源入力するとともに、その高周波信号に重畳された電源入力を該高周波信号から分離して増幅部の電源端子に供給する電源分離フィルタを設けることで、ブースタ電源線をアンテナケーブルとは別に設ける必要がなくなり、ブースタユニットのコンパクト化を図ることができる。
また、ブースタ入力端側に設けられ、増幅部へ入力されるアンテナ受信信号を、地上波デジタルテレビ放送帯域を包含する通過周波数帯にてフィルタリングするとともに、ブースタ入力端インピーダンスを増幅部の入力インピーダンスに整合させる入力整合回路と、増幅部のブースタ出力端側に設けられ、増幅部の出力インピーダンスをブースタ出力端インピーダンスに整合させる出力整合回路と、を設けることもできる。出力整合回路及び入力整合回路により、ブースタ入力端インピーダンス及びブースタ出力端インピーダンス(例えば、同軸ケーブルの規格値(75Ω)に設定される)を、増幅部の入出力インピーダンス(例えば、高周波ICアンプの一般的な規格値(50Ω)に設定される)に整合させることで、反射損失の小さい良好な増幅特性を得ることができる。また、入力整合回路を、地上波デジタルテレビ放送帯域を包含した通過周波数帯にてフィルタリングするフィルタ回路に兼用させているため、映像信号への干渉成分となる放送帯域外の周波数成分を減衰させた状態で受信信号を増幅部に入力でき、映像受信品質の向上に寄与する。この場合、上記入力整合回路と出力整合回路とは、それぞれサージ吸収素子を設けることができる。これにより、ブースタユニットに接続されるアンテナケーブルへの高周波サージの誘導ないし重畳や、誘雷や静電気等によるEMIから広帯域アンプICを保護することができる。
上記本発明の地上波デジタルテレビ用アンテナブースタユニットは、アンテナケーブルを接続するための第一コネクタ部及び第二コネクタ部が形成されたブースタハウジングと、そのブースタハウジング内に収容され、ブースタ入力端子と、増幅部と、電源系回路と、ブースタ出力端子とが実装搭載された回路基板とを有するものとして構成することができる。入力整合回路と、出力整合回路とが設けられる場合は、これらも上記回路基板上に実装搭載される。各回路を単一の基板上に実装し、これをアンテナケーブル接続用のコネクタを有したブースタハウジングに収容する構成とすることで、ブースタユニットのさらなる小形化及び軽量化を図ることができ、アンテナケーブルへの取り付けも極めて簡単に行なうことができる。
ブースタハウジングは金属製(例えば、ステンレス鋼等)とすることができる。この場合、回路基板の主表面とブースタハウジングの内面との間に高分子材料からなる放熱部材を密着配置することができる。このような放熱部材を配置することにより、増幅部を構成するアンプICを含む基板上の能動素子の動作発熱を金属製のブースタハウジングに良好な熱伝導にて伝達でき、ひいては能動素子の放熱を促進することにより温度上昇を抑制でき、寿命を大幅に向上することができる。放熱部材はシリコーン樹脂にて構成することが、放熱部材の熱伝導率を向上でき、また、回路基板ないしブースタハウジングの接触面形状に対応して柔軟に変形できるので密着性に優れ、実装された回路素子にも無理な力を作用させにくいので好適である。
また、回路基板の広帯域アンプICの実装領域には、該回路基板を厚さ方向に貫通する放熱用貫通孔を形成でき、当該放熱用貫通孔の内部をヒートシンク金属部により充填することができる。これにより、広帯域アンプICの動作発熱を該ヒートシンク金属部により効果的に放熱でき、広帯域アンプICの寿命を延ばすことができる。また、電源系回路は、高周波信号が除去された電源信号の電圧を安定化させるレギュレータICを含むものとして構成できる。これにより、広帯域アンプICのより安定した動作を保障できる。この場合、回路基板には、該レギュレータICの実装領域に該回路基板を厚さ方向に貫通する放熱用貫通孔を形成でき、当該放熱用貫通孔の内部をヒートシンク金属部により充填することができる。該ヒートシンク金属部を設けることにより、発熱の大きいレギュレータICの放熱を促進でき、レギュレータICないしこれと同一基板上に実装されるアンプICの温度上昇を抑制して寿命向上を図ることができる。
いずれのヒートシンク金属部も、対応するICの裏面に密着するとともに回路基板を覆う接地面導体と導通する半田充填金属部とすることができる。半田充填金属部はプリント配線基板への後付け形成も容易であり、また、熱容量も大きいので放熱効果に優れる。また、このような半田充填金属部を、ICの裏面に密着するとともに回路基板を覆う接地面導体と一体形成・導通させることで、ICからの発熱を、半田充填金属部を介して大面積の接地面導体に導くことができ、該接地面導体を介して放熱を一層促進することができる。また、接地インピーダンスの低減にも寄与する。
また、前述の放熱部材を設ける場合、回路基板の広帯域アンプICあるいはレギュレータICが実装された主表面とは反対側の主表面にて、前述のヒートシンク金属部と接する形で配置することにより、個々のICの発熱を金属製のブースタハウジングに速やかに導くことができ、放熱効果を一層高めることができる。この場合、回路基板のIC実装側と反対側の主表面に、各ヒートシンク金属部が導通する接地面導体を設け、該接地面導体とブースタハウジングとの間に放熱部材を密着配置することにより、放熱効果をさらに高めることができる。
また、高周波信号が分離された電源入力の電圧を安定化させるレギュレータICを電源系回路に設ける場合、レギュレータICの出力を、広帯域アンプICにバイアス電流を供給する電源端子と、該広帯域アンプICのバイアス電流を制御するためのバイアス回路とに分配入力することができる。そして、該レギュレータICの出力端子とバイアス回路と電源端子との分岐点の間に直列に負帰還抵抗を挿入することができる。このような負帰還抵抗を設けることにより、広帯域アンプICのバイアス電流をより安定化でき、ひいては広帯域アンプICの出力直線性が安定して非線形歪の影響を低減することができる。
強電界受信対象チャンネルは、例えば地上波デジタルテレビ放送の広域放送チャンネル系列を含むものであり、弱電界受信対象チャンネルは、広域放送チャンネル系列と重ならないように割り当てられた該広域放送チャンネル系列よりも送信電力レベルの小さい地域放送チャンネルである。レベル差改善用通過フィルタは、地域放送チャンネルの受信信号を通過させつつ(減衰率:例えば5dB未満)、該広域放送チャンネル系列の受信信号を視聴が妨げられない範囲内にて減衰させる(減衰率:例えば8dB以上15dB未満)ものとして構成できる。送信電力レベルが比較的小さい地域放送チャンネルは広域放送チャンネル系列からの非線形歪の影響を受けて受信品質が特に劣化しやすい。しかし、レベル差改善用通過フィルタにより、広域放送チャンネル系列の受信信号を適度に減衰させることで、非線形歪による地域放送チャンネルの受信品質劣化を効果的に抑制できる。
上記レベル差改善用フィルタは、地上波デジタルテレビ放送の地域放送チャンネルの受信信号のみを選択的に切り出す形で通過させるレベル差改善用狭帯域通過フィルタとして構成できる。このような狭帯域通過フィルタの採用により、広域放送チャンネル系列の末端チャンネルの過度な減衰を抑制しつつ、地上波デジタルテレビ放送の地域放送チャンネルを通過させることが可能となる。この構成は、特に、地上波デジタルテレビ放送の地域放送チャンネルが、広域放送チャンネル系列の高域側又は低域側の末端チャンネルに対し、その高域側直近に隣接して設定されている場合には特に効果的である。該レベル差改善用狭帯域通過フィルタは、具体的には、次のような弱電界受信対象チャンネルの通過域の両端に第一減衰極と第二減衰極とを有する有極型狭帯域通過フィルタとして構成できる。すなわち、該有極型狭帯域通過フィルタは、
一端が入力部とされ他端が出力部とされた信号伝送路と、
信号伝送路上において主誘電体共振器と主共振キャパシタとが並列共振結合され、第二減衰極を形成するための並列共振減衰ピークを生じさせる主並列共振部と、当該主並列共振部と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに第一減衰極に対応した位置に直列共振通過ピークを有する主直列共振部とを有した主回路と、
信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられ、トラップ用誘電体共振器と並列共振結合キャパシタとを並列共振結合したトラップ用並列共振部と、当該トラップ用並列共振部と直列共振結合するキャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有するとともに、主直列共振部の直列共振通過ピークに隣接する位置に第二減衰極を形成するための直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ回路と、
信号伝送路から接地側に分岐する形で設けられた減衰調整用キャパシタを有し、通過域の低域側及び高域側に隣接する、強電界受信対象チャンネル群に対する阻止域の基底減衰量を調整する基底減衰量調整回路とを備えたものとして構成される。
上記の有極型狭帯域通過フィルタでは、通過域の基本形状を定めるのは主回路であり、Q値の大きい誘電体共振器が組み込まれた主並列共振部に、キャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子を有する主直列共振部を直結した構造をなす。その通過特性は、高域側阻止域か低域側阻止域の一方をなす第一基底レベルから、直列共振点に由来した極大値に向けて緩やかに増大して直列共振通過ピークを形成した後、第二減衰極をなす並列共振点レベルに向けて急峻に減少し、高域側か低域側の他方をなす第二基底レベルに向けてやや緩やかに復帰することにより、上記直列共振通過ピークと対になる並列共振減衰ピークを形成する。そして、その直列共振通過ピークに隣接する位置に直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ回路を追加することにより、極両側が急峻な減衰特性となるトラップ回路特有の狭く深い第一減衰極が形成される。
弱電界受信対象チャンネルの帯域を上記のような通過域に合わせ込んだとき、この第一減衰極をなす減衰ピークは、該弱電界受信対象チャンネルの信号を、当該第一減衰極側に隣接する強電界受信対象チャンネル群の信号からピンポイントで切り出しつつ通過させることができる。そして、通過域の低域側及び高域側に隣接する阻止域の基底減衰量(すなわち、上記第一ないし第二基底レベル)を調整する基底減衰量調整回路を設けたことで、強電界受信対象チャンネル群の信号の通過レベルも適正化することができる。その結果、強電界受信対象チャンネル群に隣接して弱電界受信対象チャンネルが設定されている場合においても、弱電界受信対象チャンネルの受信信号レベルにそれほど影響を与えることなく、隣接する強電界受信対象チャンネル群の信号レベルを適度に減衰させることができる。その結果、小電力送信放送の受信信号への非線形歪の影響を効果的に回避でき、かつ、強電界受信対象チャンネル群の信号を過度に減衰させることなく、弱電界受信対象チャンネルの受信品質を大幅に向上できる。すなわち、簡便で安価な構成によりつつも、過密な周波数使用状況下において弱電界受信対象チャンネルへの強電界受信対象チャンネル群による受信障害を効果的に防止できるようになる。
基底減衰量調整回路は、主回路の前段側及び後段側にて接地側にそれぞれ分岐する形で設けられた1対の減衰調整用キャパシタを有する高低域π形フィルタ回路として構成することができる。このような高低域π形フィルタ回路は、減衰調整用キャパシタの静電容量設定値に応じて、低域側及び高域側の各阻止域の基底減衰量を独立かつ容易に調整できる。
トラップ回路の直列共振減衰ピークに由来した第一減衰極と、主回路の並列共振減衰ピークに由来した第二減衰極とのいずれが高域側減衰極となり、いずれが低域側減衰極となるかは、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子としてキャパシタとインダクタとのいずれを選択するかに応じて、自由に変更できる。具体的には、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子をキャパシタで構成した場合、第一減衰極が低域側減衰極となり、第二減衰極が高域側減衰極となる。また、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子をインダクタで構成した場合、第一減衰極が高域側減衰極となり、第二減衰極が低域側減衰極となる。
すなわち、主回路及びトラップ回路の各直列共振結合素子がキャパシタで構成される場合、主回路に基づく第一減衰極が主並列共振部に基づく高域側に位置し、第一減衰極の減衰ピーク幅が第二減衰極の減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成される。通過希望周波数帯の低域側直近に隣接して阻止(あるいは通過抑制)希望周波数帯が存在する場合は、近接周波数帯の切り分けに好適なピーク幅の狭い第一減衰極が、当該低域側に現われるよう直列共振結合素子をキャパシタで構成するのが好適であるといえる。減衰ピーク幅は、該減衰ピークに隣接する阻止域の通過曲線をベースラインとしてみたときのピーク半値幅により定量化できる。なお、直列共振結合素子と並列にダンプ抵抗を挿入しておくと、ダンプ抵抗の値に応じて第一減衰極の減衰深さを縮小することができる。
次に、レベル差改善用フィルタは、広域放送チャンネル系列に対し1以上の中間チャンネルを隔てて設定された2以上のアナログないしデジタルの地域放送チャンネルの受信信号を通過させつつ、該広域放送チャンネル系列の受信信号を視聴が妨げられない範囲内にて減衰させる通過特性を有したレベル差改善用広帯域通過フィルタとすることもできる。広帯域通過フィルタの採用により、受信レベルの比較的低い2以上のアナログないしデジタルの地域放送チャンネルの受信品質を高めることができる。
該レベル差改善用広帯域通過フィルタは、地上波デジタルテレビ放送の広域放送チャンネル系列の高域側又は低域側に重複しないように設定される、受信地域に隣接する他都府県のアナログないしデジタルの地域放送チャンネルの受信信号を通過させるものとできる。該構成によれば、受信地域に隣接する他都府県の地域放送チャンネル系列の受信信号も高品質にて抽出でき、視聴可能なチャンネルの拡大を図ることができる。
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。具体例として、我が国における中京広域圏(愛知県、岐阜県、三重県)での適用例を例にとるが、適用対象地域がこれに限定されることを意味せず、本発明の思想を逸脱しない範囲で適宜構成を変更することにより、他の受信地域にも適用できることはもちろんである。
本発明に係る本発明の地上波デジタルテレビ用アンテナブースタユニット(以下、単にアンテナブースタユニットともいう)は、次のような受信地域での使用を前提とするものである。すなわち、図25に示すように、テレビ受像機TVは名古屋市内に設置されており、UHFアンテナ200を第一方向DR1(具体的には、瀬戸デジタルテレビ放送塔方向)に向けて設置することにより、地上波デジタルテレビ放送チャンネルからなる1つの弱電界受信対象チャンネル(U23)と、その弱電界チャンネルよりも高レベルの、地上波広域デジタルテレビ放送チャンネル(U13,U18,U19,U20,U21,U22)及び地上波アナログテレビ放送チャンネル(U25及びU35)からなる複数の強電界受信対象チャンネルが受信可能となっている。弱電界受信対象チャンネル(U23)は、その広域放送チャンネル系列(U13,U18,U19,U20,U21,U22)に隣接して割り当てられ、該広域放送チャンネル系列よりも送信電力レベルの小さいデジタル地域放送チャンネルである。
図1は、本発明のアンテナブースタユニットの一例を示す概略構成図である。このアンテナブースタユニット100は、OFDM変調方式による地上波デジタルテレビ放送(サイマル放送受信時は、さらに地上波アナログテレビ放送)のUHFアンテナ200の受信信号を増幅し、その増幅信号を受信装置40(地デジチューナ)のフロントエンド側に入力するためのものである。具体的には、UHFアンテナ200と受信装置40とを接続する同軸ケーブルからなるアンテナケーブル10上に、アンテナ側からブースタ本体1、レベル差改善用フィルタ20及び電源部30をこの順に配列したものである。
図2はブースタ本体1の回路構成例を示すもので、その要部は、増幅部2、入力整合回路3、出力整合回路4及び電源系回路5からなる。増幅部2は、飽和出力が10dBm以上に確保され、かつ、受信対象となる地上波デジタルテレビ放送帯域を包含する470MHz以上770MHz以下の周波数帯域にて平坦なゲイン特性を有する広帯域アンプIC1にて構成されている。本実施形態では、広帯域アンプIC1として、KGF2755(沖電気(株)製)を採用している。
入力整合回路3は、アンテナ受信信号のブースタ入力端Input側に設けられ、増幅部2へ入力されるアンテナ受信信号を、地上波デジタルテレビ放送帯域を包含する通過周波数帯にてフィルタリングするとともに、ブースタ入力端インピーダンス(75Ω)を増幅部2の入力インピーダンス(50Ω)に整合させる役割を果たす。この実施形態では、入力整合回路3は地上波デジタルテレビ放送帯域に対応する通過帯域特性を有した帯域通過型フィルタとして構成されている。このうち、高域通過フィルタ部3Hは、増幅部2への入力ライン上に設けられたインダクタL1及びキャパシタC1,C3からなる直列共振部と、キャパシタC1,C3の間にて入力ラインから接地側に分岐する形で設けられた並列共振部とを有する。また、インピーダンス変換部3Lは、入力ライン上のインダクタLa,Lbと、両インダクタLa,Lbの間にて入力ラインから接地側に分岐するキャパシタCaからなり、低域通過フィルタの役割も果たす。該入力整合回路3には、入力ラインから接地側に分岐する形でダイオード対D2からなるサージ吸収素子3Sが設けられている。
また、出力整合回路4は、ブースタ出力端Output側に設けられ、増幅部2の出力インピーダンス(50Ω)をブースタ出力端インピーダンス(75Ω)に整合させる役割を果たす。本実施形態では、出力整合回路4は、増幅部2の出力ラインから接地側に分岐するLC並列共振部(インダクタL3及びキャパシタCd等)にて構成されている。該出力整合回路4には、出力ラインから接地側に分岐する形でツェナーダイオード対Z1からなるサージ吸収素子4Sが設けられている。
本実施形態では、ブースタ出力端Outputからの増幅信号の出力線(ブースタ入力端Inputへのアンテナ受信信号の入力線でもよい)が、増幅部2の電源ラインPLに兼用されている。従って、その電源ラインPLには、増幅部2からの増幅信号をなす高周波信号が重畳された形で、後述の電源部30から電源入力される。そこで、該電源ラインPL上にてブースタ出力端Output側に、その高周波信号を分離除去して該電源電圧を増幅部2の電源端子に供給する電源分離フィルタ5Fが設けられている。電源分離フィルタ5Fにて高周波信号が除去された電源入力は、電圧安定化のためのレギュレータIC2を経て広帯域アンプIC1にバイアス電流を供給する電源端子に入力されるとともに、広帯域アンプIC1のバイアス電流を制御するためのバイアス回路にも分配入力されるようになっている。バイアス回路は、広帯域アンプICの単位能動素子を構成するGaAsHEMTのゲートにバイアス電圧を印加するためのものであり、電源ラインPLからの抵抗分岐R3,R4として形成されている。このバイアス印加用のラインから接地側にさらに分岐する形で、サージ保護用のツェナーダイオードD5が設けられている。
電源分離フィルタ5Fは、電源ラインPL上に設けられた入力側インダクタL4と、チョークコイル及び1対の接地側キャパシタとを組み合わせたπ形ローパスフィルタとを組み合わせた形で構成されている。この電源分離フィルタ5FとレギュレータIC2との間には逆接続防止用のダイオードD1が設けられている。また、レギュレータIC2の出力端子とバイアス回路と間には、抵抗アレーR1,R2からなる負帰還抵抗が挿入されており、増幅部2のバイアス電流をより安定化させる役割を果たしている。
図3に示すように、該ブースタ本体1は、アンテナケーブル10(図1)上に取り付けて使用されるものであり、第一コネクタ部49及び第二コネクタ部50が形成されたブースタハウジング13を有する。第一コネクタ49はUHFアンテナ200からの入力端となるものであり、図6に示すようにUHFアンテナ200のターミナルボックス200Bに形成されたアンテナ出力端子200Tに、直結形態で螺合接続可能とされている。
また、ブースタ本体1は、ブースタ入力端子Inputと、入力整合回路3と、増幅部2と、出力整合回路4と、電源系回路5と、ブースタ出力端子Outputとが、プリント配線基板からなる回路基板70上に実装搭載され、ブースタハウジング13内に収容されている。具体的には、ケーブル接続用ベース42に上記回路基板70が組み付けられ、その外側がステンレス鋼からなる円筒状のブースタハウジング13で覆われている。第一コネクタ部49はこのケーブル接続用ベース42と一体に形成されている。
回路基板70の表面をなす第一主表面側が各回路2〜5の構成素子を面実装するための部品実装面とされ(図2の回路図の符号を援用して、その実装位置を示している)、裏面をなす第二主表面には接地面導体GMF(図4)が形成されている。増幅部2の入出力ラインはその接地面導体とカップリングするマイクロストリップラインMSLとして形成されている。
図4は、回路基板70の両面の導体層パターニング例を示すものである。回路基板70の広帯域アンプIC1の実装領域IC1Pには、該回路基板70を厚さ方向に貫通する放熱用貫通孔2HSが形成されている。そして、その放熱用貫通孔2HSの内部はヒートシンク金属部71により充填されている。同様に、レギュレータIC2の実装領域IC2Pにも放熱用貫通孔2HS’が形成され、当該放熱用貫通孔2HS’の内部がヒートシンク金属部71’により充填されている。各ヒートシンク金属部71,71’は、対応するIC(1,2)の裏面に密着するとともに回路基板70を覆う接地面導体GMFと導通する半田充填金属部とされている。
次に、図5に示すように、回路基板70の主表面とブースタハウジング13の内面との間には、高分子材料、本実施形態ではシリコーン樹脂からなる放熱部材10が密着配置されている。具体的には、回路基板70のIC1,2の実装側と反対側の主表面(第二主表面)に、各ヒートシンク金属部71が導通する接地面導体GMFが形成され、その該接地面導体GMFとブースタハウジング13との間に放熱部材10を密着配置されている。図4に放熱部材10の配置領域を一点鎖線で示している。放熱部材10は、各IC1,2のヒートシンク金属部71のいずれとも密着するようにその配置領域が定められている。
放熱部材10は、例えば放熱促進効果を十分確保するために熱伝導率が1.2W/m・K以上(5.5W/m・K以下)のものを採用するのがよい。また、回路基板70上に貼り付けた状態でブースタハウジング13の内面に押し込むことにより容易に追従変形でき、かつ、該内面と良好な密着状態を実現するために、アスカーC硬さが45以下(20以上)の低硬度のものを採用することが望ましい。このような低硬度高熱伝導性シリコーンゴムシートとして、例えば、TC−100HS−1.4(信越シリコーン(株)社製)等の市販品を採用することができる。
放熱部材10は、ブースタハウジング13内に回路基板70とともに挿入する際に、ブースタハウジング13の内面と回路基板70との間で圧縮されるようにその厚みが定められており、その圧縮弾性復帰力によりブースタハウジング13の内面に密着するようになっている。なお、低硬度シリコーンゴムシートは粘着性を有するので、該シートで形成した放熱部材10の表面は、ブースタハウジング13内面への挿入抵抗を減ずるために、樹脂製のセパレートシート10Sで覆っておくとよい。
図7は、図2のブースタユニット1におけるSパラメータ特性の実測結果を示すものである。地上波デジタルテレビ放送の受信帯域を包含する470MHz以上770MHz以下の周波数帯域にて平坦なゲイン特性(S21)を有していることがわかる。また、入力整合回路3と出力整合回路4とを設けているので、入出力の反射損失(S11,S22)も上記受信帯域にて小さく留められていることがわかる。図8は、そのゲイン及び雑音指数の周波数特性を示すものであり、20〜25dBの間に収まる平坦かつ良好なゲイン特性を有し、雑音指数も受信帯域にて3dB未満に留められていることがわかる。
図9は、市販のソフト((株)エム・イー・エル社製の高周波・マイクロ波EDAツール:S−NAP/Pro)を用いたSパラメータ特性のシミュレーション結果を示す。各部品の回路定数は、シミュレーションを行なう上での入力設定値として、図9の等価回路図内に個別の値を示している。図7の実測結果と略一致する結果が得られていることがわかる。また、図10には、アンプIC1の等価回路図を、前後の入出力整合回路3,4とともに示している。図11は、その等価回路に従い上記のソフトを用いて行なったアンプIC1の非線形特性解析の結果を示すものである。図中右は、U23チャンネルの入力電力に対する基本波出力の特性と第2次及び第3次高調波の特性とを合せて示すものである。0dBm付近までの極めて高い入力電力レベルに至るまで、基本波出力は非常に良好な線形特性を示し、高調波歪のレベルも小さくなっていることがわかる。図中左はU22チャンネルとU23チャンネルの隣接2波に対する3次相互変調歪(IM3)を示している(基本波入力が−25dBmでも、3次相互変調歪のレベルは−60dBと僅少である)。基本波出力は10dBmまで線形性を維持している(飽和出力は20dBm)。
次に、放熱部材の効果を確認するために行なった実験結果について説明する。すなわち、図3において、アンプIC1(増幅部2)の表面にサーミスタを貼付し、アンプIC1を60mAの定電流で継続的に駆動しながら、その温度の経時変化を、配線基板70の裏面側に放熱部材10を配置した場合と、配置しない場合とで比較して測定した。また、配線基板70の裏面側に放熱部材10を配置した場合については、アンプIC1の直上位置にて金属製のブースタハウジングの外周面にサーミスタを貼付し、温度の経時変化を同様に測定した。以上の結果を図22に示す。
まず、放熱部材10を配置しなかった場合はアンプIC1の温度上昇が著しく、5分後にはアンプIC1の製品推奨上限温度である55℃を上回っていることがわかる。これに対して放熱部材10を配置すると、アンプIC1の温度は約10℃低減できており、推奨温度範囲内に納めることができた。また、ブースタハウジングの外周面温度は40℃未満で飽和しており、ハウジング内の蓄熱も低く留められていることがわかる。なお、放熱部材10の厚みを若干減じ、ハウジング内での放熱部材10の圧縮率を下げて同様の実験を行なったところ、アンプIC1の温度に2℃程度の上昇が見られた。
次に、図1に戻り、レベル差改善用フィルタ20はアンテナケーブル10(図1)上にて、ブースタ本体1の出力端側に取り付けて使用されるものであり、第一コネクタ部49及び第二コネクタ部50が形成されたハウジング13を有する。図12は、その回路図を示すものであり、入力コネクタCN1(第一コネクタ49)に、ブースタ本体1にて増幅済みのアンテナ受信信号(前述の第一方向では、U13,U18,U19,U20,U21,U22,U23,U25,U35)が入力され、出力コネクタCN2(第二コネクタ50)から出力される。
図13は、その通過特性の一例を示すものである。レベル差改善用フィルタ20は、弱電界受信対象チャンネル(U23)の信号を強電界受信対象チャンネル群(U13,U18,U19,U20,U21,U22(サイマル受信の場合は、さらにU25,U35))の信号よりも優先的に通過させる狭幅の通過域NBを有するとともに、該強電界受信対象チャンネル群の信号を、該チャンネル群の視聴が妨げられない範囲内にて減衰させることにより、弱電界受信対象チャンネル(U23)と強電界受信対象チャンネル群(U13,U18,U19,U20,U21,U22)との信号レベル差を縮小するレベル差改善用狭帯域通過フィルタとして構成されている。
具体的には、弱電界受信対象チャンネル(U23)の通過域NBの両端に第一減衰極PPと第二減衰極SPとを有する有極型狭帯域通過フィルタとして構成されている(以下、レベル差改善用狭帯域通過フィルタ20もしくは有極型狭帯域通過フィルタ20ともいう)。弱電界受信対象チャンネル(U23)の受信品質が極力損なわれないよう、対応する帯域での減衰率が5dB未満(図13では約3dB)とされている。他方、強電界受信対象チャンネル群(U13,U18,U19,U20,U21,U22)に対応する帯域での減衰率は、弱電界受信対象チャンネルへの非線形歪の影響が緩和され、かつ強電界受信対象チャンネル群自体の受信品質は十分に確保できるよう、8dB以上20dB未満(図13では15dB〜18dB)に定められている。
図12に示すように、有極型狭帯域通過フィルタ20は、一端が入力部CN1とされ他端が出力部CN3とされた信号伝送路86を有し、信号伝送路86上に主回路MC1が形成されている。該主回路MC1においては、信号伝送路86上において主誘電体共振器CV2と主共振キャパシタVC2とが並列共振結合され、第二減衰極SPを形成するための並列共振減衰ピークを生じさせる主並列共振部MPRが形成されている。また、当該主並列共振部MPRと直列共振結合するキャパシタ(インダクタでもよい)からなる直列共振結合素子C2が、第一減衰極PPに対応した位置に直列共振通過ピークを有する主直列共振部MSRを形成している。
また、信号伝送路86から接地側に分岐する形でトラップ回路TC1が形成されている。トラップ回路TC1においては、トラップ用誘電体共振器CV1と並列共振結合キャパシタVC1とが並列共振結合してトラップ用並列共振部TPRを形成している。また、当該トラップ用並列共振部TPRと直列共振結合するキャパシタ(インダクタでもよい)からなる直列共振結合素子C1が、主直列共振部MSRの直列共振通過ピークに隣接する位置に第一減衰極PPを形成するための直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ用直列共振部TSRを形成している。
さらに、有極型狭帯域通過フィルタ20は、基底減衰量調整回路AJCを有する。該基底減衰量調整回路AJCは、信号伝送路86から接地側に分岐する形で設けられた減衰調整用キャパシタC5,C1を有し、通過域NBの低域側及び高域側に隣接する、強電界受信対象チャンネル群に対する阻止域の基底減衰量を調整するためのものである。なお、キャパシタC1はトラップ回路TC1の直列共振結合素子に兼用されている。
基底減衰量調整回路AJCは、信号伝送路86上にて減衰調整用キャパシタC5,C1の間に調整用キャパシタC3が挿入された高低域π形フィルタ回路として構成されている。本実施形態では、主回路MC1及びトラップ回路TC1の各直列共振結合素子C1、C2がキャパシタで構成され、主回路MC1に基づく第二減衰極SPが主並列共振部に基づく第一減衰極PPよりも高域側に位置し、第一減衰極PPの減衰ピーク幅が第二減衰極SPの減衰ピーク幅よりも狭くなる形で形成されている。減衰ピーク幅は、該減衰ピークに隣接する阻止域の通過曲線をベースラインとしてみたときのピーク半値幅により定量化できる。なお、直列共振結合素子C1と並列にダンプ抵抗R1が挿入されており、ダンプ抵抗R1の値に応じて第一減衰極PPの減衰深さが縮小方向に調整されている。また、第二減衰極SPの減衰深さを軽減するために、信号伝送路86上にて主回路MPRに対し並列挿入される形で、ダンプ抵抗R2が挿入されている。
上記の有極型狭帯域通過フィルタ20は、では、通過域NB(図13)の基本形状を定めるのは主回路MC1であり、Q値の大きい誘電体共振器が組み込まれた主並列共振部に、キャパシタ又はインダクタからなる直列共振結合素子C2を有する主直列共振部を直結した構造をなす。その通過特性は、高域側阻止域か低域側阻止域の一方をなす第一基底レベルから、直列共振点に由来した極大値に向けて緩やかに増大して直列共振通過ピークを形成した後、第一減衰極PPをなす並列共振点レベルに向けて急峻に減少し、高域側か低域側の他方をなす第二基底レベルに向けてやや緩やかに復帰することにより、上記直列共振通過ピークと対になる並列共振減衰ピークを形成する。そして、その直列共振通過ピークに隣接する位置に直列共振減衰ピークを生じさせるトラップ回路TC1を追加することにより、図13に示すごとく、極両側が急峻な減衰特性となるトラップ回路特有の狭く深い第一減衰極PPが形成される。
デジタル放送は、受信信号のC/N比劣化に伴い、映像品質がある閾値にて急峻に劣化する特性を有しており、映像品質を担保しつつ受信レベルを広帯域に渡って平坦に減衰させる必要がある。つまり、有極型狭帯域通過フィルタ20を採用する場合、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23)に対し低域のデジタル側に、(アナログ放送よりも狭間隔で)隣接するデジタル広域放送チャンネル(U13,U18,U19,U20,U21,U22)を、視聴に支障のない受信レベルを平坦に確保するために、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23)の低域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に第一減衰極PPを位置させることが望ましい。一方、アナログ放送(U25,U35)は、受信信号レベルの低下に伴う映像品質劣化の影響がデジタル放送と比較してはるかに緩やかであり、通過希望チャンネルの高域側に隣接するチャンネルの減衰をより優先させる観点から、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23)の高域側直近に隣接するチャンネルの周波数帯内に(よりブロードな)第二減衰極SPが位置するように、各減衰極の位置を調整しておくことが望ましい。この場合、第一減衰極PPの減衰深さは、隣接するデジタル広域放送チャンネル(U13,U18,U19,U20,U21,U22)の受信信号に対する減衰量を必要最小限とする観点から、第二減衰極SPの減衰深さよりも小さく設定されていることが望ましい。
なお、図12において、キャパシタC4,C5、及びさらに信号伝送路86上の主回路MPRとトラップ回路TC1に対し並列に挿入されたチョークコイルCH1は、フィルタ20の前後に接続されるアンテナケーブル10(同軸ケーブル)へ直流電源を供給する回路を形成している。
図1に戻り、電源部30はブースタ本体1に電源電圧を供給するためのものであり、アンテナケーブル10(図1)上に設けられる。具体的にはアンテナケーブル10に接続するための、第一コネクタ部49及び第二コネクタ部50が形成されたハウジング13を有する。また、外部電源をなす商用交流電源コンセントに装着されるACアダプタ3AD(降圧トランス、整流回路及び平滑化コンデンサ等を一体にモールドした周知の構成のもの)の直流出力ケーブルCDCの末端に設けられた端子PTMが、電源部30に形成された直流電源コネクタCON1に装着される。
図14は、電源部30の回路図を示すものであり、直流電源コネクタCON1にてACアダプタADから受電した直流電流(例えばDC15V)は、交流遮断回路31(コンデンサC2及びこれと並列結合する第一チョークコイルL1(平滑化フィルタを構成する)と、これにさらに直接結合する第二チョークコイルL2とを有する)に入力され、電源ノイズ等の交流ノイズ成分がカットされる。そして、その交流ノイズ成分がカットされた直流出力が、ブースタ本体1側からのアンテナ受信信号に重畳される形で、信号線136を経由して前述のごとくブースタ本体1の電源系回路5へ供給される。一方、受信装置40側において該直流出力は不要なバイアス成分となるので、信号線136上のコンデンサC1により遮断されるようになっており、ブースタ本体1で増幅され、さらにレベル差改善フィルタ20を通過したアンテナ受信信号のみが受信装置40側へ出力されることとなる。なお、交流遮断回路31から接地側に分岐する形で発光ダイオードLD1及び電流制限抵抗R1からなる電源インジケータが設けられ、電源受電時にハウジング13上で点灯するようになっている。
なお、図14は、商用交流電源(通常AC100V)を、一般的なACアダプタADを介して直流化した形で受電するのに好適な回路構成を示すものであったが、市販のアンテナブースタ電源装置の中には、商用交流電源とは異なる電圧の専用交流出力(例えばAC30V)を有したものがあり、これをアンテナブースタの電源電圧(外部電源)として用いる場合は、一般的なACアダプタが使用できないことがある。図15は、そのような場合に対応できるよう、専用のAC/DC変換回路137を組み込んだ電源部30Aの回路構成を示すものである。専用交流電源の入力(AC INPUT)は、信号線136から分岐する電源変換線236上にてダイオードD1,D2,D3により半端整流され、ツェナーダイオードD1で波形クリッピングした後、コンデンサC4にて平滑化され、DC−DCコンバータPS1にて所望の電圧に降圧された直流出力として出力される(DC OUT)。
なお、信号線136上のコンデンサC1,C2は、交流電源入力波形(ひいては、DC−DCコンバータPS1の直流出力)は遮断し、増幅後/フィルタ通過後のアンテナ受信信号波形は通過できるよう静電容量が定められている。また、信号線136の入出力端から接地側にそれぞれ分岐する形で設けられたチョークコイルL1,L2は、アンテナ受信信号波形が遮断されるようにインダクタンスが定められている。なお、AC/DC変換回路137の入出力側にパスコンC5,C6がそれぞれ挿入され、また、出力側には逆流防止用のダイオードD5,D6が挿入されている。
なお、上記の実施形態では、愛知県の地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23)の受信を優先するために、UHFアンテナ200を瀬戸デジタルテレビ放送塔方向に設置することを想定した。そして、レベル差改善用フィルタ20として、低域のデジタル側に密接するデジタル広域放送チャンネル(U13,U18,U19,U20,U21,U22)を急峻に減衰させるため、地上波デジタルテレビ地域放送チャンネル(U23)のみを選択的に切り出す有極型の狭帯域通過フィルタが使用されていた。しかし、図25に示すごとく、UHFアンテナ200を第二方向DR2(具体的には、NHK津送信所方向)に向けて設置することにより、該第一アンテナANT1では受信不能なチャンネル群、具体的には、上記強電界受信対象チャンネルよりは低レベルにて受信可能な、地上波デジタルテレビ放送チャンネル(U27)ないし地上波アナログテレビ放送チャンネル(U33)からなる三重県地方の弱電界受信対象チャンネルが受信可能である。この場合は、受信対象となる地域放送チャンネル(U27,U33)は、デジタル広域放送チャンネル群(U13,U18,U19,U20,U21,U22)から比較的離れているので、レベル差改善用フィルタ20は、上記の有極型の狭帯域通過フィルタほどの急峻性は不要となる。しかし、複数の地域放送チャンネル(U27、U33)を一括して通過させるため、フィルタ通過域の拡張が必要である。
図16は、レベル差改善用フィルタを、そのようなレベル差改善用広帯域通過フィルタ20Wとして構成した例である。該回路は、信号伝送路86上の直列キャパシタンス(C1,C2,C4,C5)と信号伝送経路から分岐する並列インダクタンス(L1,L2,L3)とからなるカットオフ周波数の異なる複数の高域通過部と、信号伝送路上の直列インダクタンス(L4,L5,L6,L7)と接地側へ分岐する並列キャパシタンス(C6,C7,C8,C9)とからなるカットオフ周波数の異なる複数の低域通過部とをカスケード接続した構成が基本となっており、通過域のピーク周波数が異なる複数の狭帯域フィルタ特性を合成する形で、全体としてのフィルタ通過域の拡張を図っている。なお、電源電流の通過を許容できるようにするため、高域通過部のインダクタンスの1つ(La)は、入力側に接続してある。また、高域通過部の並列インダクタンスの一部(L2)と、低域通過部の並列キャパシタンスの一部(C7,C9)とは、それぞれコンデンサC3と直列共振回路及び並列共振トラップ回路(C7a+L8,C9a+L9)を形成し、フィルタ通過域両端の急峻化を図っている。各回路定数は図16内に開示している。図17は、その通過特性の一例を示すものである。
以下、本発明の効果確認のために行なった実験結果について説明する。
図19は、愛知県名古屋市瑞穂区(瑞穂陸上競技場付近)を調査受信位置として行なった各チャンネルの受信レベル及び受信品質C/N比に係る現地調査結果を示すものである。瀬戸デジタルテレビ放送塔方向をアンテナ設置方向とし、地上波デジタル放送チャンネル(U13,U18,U19,U20,U21,U22,U23:このうち、U23が愛知県地域放送チャンネル、他が中京広域放送チャンネル群)及び地上波アナログ放送チャンネル(U25及びU35)を評価対象チャンネルとした。
測定に使用した受信システム構成は図1に示す通りであり(レベル差改善フィルタについては、図2に示す回路構成の有極型狭帯域通過フィルタを用いた)、その出力を市販の受信装置(地上波デジタルテレビチューナ:Panasonic(株)社製、TU-MHD550)と、シグナルレベルメータ(LF985:リーダー電子(株)製)に切り替え入力して、各チャンネルの受像状態と受信レベル及び受信C/N比を測定した。また、比較のため、ブースタ本体及びレベル差改善フィルタを省略し、アンテナ受信信号を直接入力した場合についても同様の測定を行なった。結果を図18にまとめて示している。図中、棒グラフは受信信号レベルの評価結果(クロスハッチング:直接入力の場合、片ハッチング:ブースタ本体で増幅したのみの場合、ハッチングなし:ブースタ本体で増幅後、レベル差改善フィルタを通過)を示し、折れ線グラフは受信C/N比の評価結果(白実線:ブースタ本体で増幅したのみの場合、黒実線:ブースタ本体で増幅後、レベル差改善フィルタを通過)を示す。
受信信号レベルの評価結果によると、アンテナ受信信号を直接入力した場合は、広域デジタル放送チャンネル群をなすU13,U18,U19,U20,U21,U22と、アナログ放送チャンネル群U25及びU35との間に挟まれた地域デジタル放送チャンネルU23の受信レベルが極度に低く、広域デジタル放送チャンネル群と比較すれば10〜15dBμVもの受信レベル差が存在する。U23は、もともとの受信レベルが低いので、アンテナとデジタル放送受信器とを接続するケーブルや分配器による損失や、該受信器のフロントエンド側の雑音指数(NF)が大きい(役7dB)ことの影響により、そのC/N比は受信限界値である20dBを下回る17dBとなっている。数値にして3dB下回るだけであるが、実際に受像された映像は図20Aに示すごとく、ブロックノイズにより完全に視聴不能となっている。デジタル放送はアナログ放送と異なり、受信レベルがある閾レベルまで低下すると、ブロックノイズ等による映像品質の劣化が非常に急峻に生じるので、小中電力送信放送となりがちな地域放送チャンネルでは映像品質を保証するための受信C/N比マージンがどうしても小さく、その影響は想像以上に大きいことがわかる。
次に、ブースタ本体で出力を増幅した場合の受信レベルであるが、地域デジタル放送チャンネルU23については、増幅前の広域デジタル放送チャンネル群と同等ないしそれを上回る50dBμV強まで受信レベルが向上している。しかし、広域デジタル放送チャンネル群(U13,U18,U19,U20,U21,U22)とアナログ放送チャンネル(U25)についても、前者は60dBμV前後まで、後者は90〜100dBμVまで受信レベルが増加しており、地域デジタル放送チャンネルU23との受信レベル差はほとんど同一であり、U23についての視聴は不能のままであった。このことは、単に地域デジタル放送チャンネルU23の受信レベルをブースタで増幅し、その増幅された受信出力をそのまま受信装置に入力した場合、全受信電力が受信機フロントエンドの最大許容受信レベル(限界値)を超えるために、当該フロントエンドに飽和や大きな歪を生じて受像不能であった。
そこで、ブースタ本体の出力側にさらにレベル差改善フィルタを挿入した場合の結果を見ると、地域デジタル放送チャンネルU23のレベルは47dBμVであり、レベル差改善フィルタ通過による減衰が比較的小さく、増幅後のレベル(50dBμV)から高々3dBμV低下するにとどまっている。そして、広域デジタル放送チャンネル群(U13,U18,U19,U20,U21,U22)とアナログ放送チャンネル(U25)については、レベル差改善フィルタにより適度に減衰がかかり、前者はほぼ50dBμV前後にそろったレベルとなり、後者についてもアンテナ直接入力時並みの76dBμVとなっている。その結果、広域デジタル放送チャンネル群と地域デジタル放送チャンネルU23との受信レベル差は1〜4dBμV前後に縮小しており、全デジタル放送チャンネル群としてほぼ一様な受信レベル状態が得られていることがわかる。なお、アナログ放送チャンネル(U25)とのレベル差は依然30dBμV(アンテナ直接受信時は41dBμV)あるが、受信器フロントエンドに入力する全受信電力が最大許容受信レベルを下回ることに起因した受信品質C/N比の劣化を生ずることはない。こうして、図20Bに示すように、U23はほぼ問題なく受像できた。このことは、受信C/N比の評価結果にも如実に裏付けられており、地域デジタル放送チャンネルU23のC/N比は増幅+フィルタ通過後は24dBと、受信限界比20dBは余裕をもってクリアできていることがわかる。
なお、広域デジタル放送チャンネルについて見てみると、増幅+フィルタ通過後の受信レベルはアンテナ直接入力時と比較して数dBμV程度増加しているに過ぎず、見かけの受信状態は一見それほど変わっていないように見える。しかし、これらのチャンネル群はデジタル放送チャンネル群であり、一旦増幅してから減衰させることの受信品質への影響は、アナログ放送チャンネルの受信時とは全く事情が異なる点に留意するべきである。
図18の結果を見ると、広域デジタル放送チャンネル群の増幅+フィルタ通過後のC/N比は全て30〜35dBと高品位を保っており、受信障害を全く生じていないことがわかる。これは、本発明特有のブースタ本体を採用することで、増幅後(フィルタ通過前)の信号が線形領域にあって、歪のない良好な増幅波形が得られており、増幅段階でのC/N比劣化防止が理想的に果たされていることを意味している。この増幅後(フィルタ通過前)の信号で受像できなかったのは受信装置自体の出力飽和に起因しており、入力信号の品質とは全く無関係であって、レベル差改善フィルタ通過により受信装置入力を適度に減衰させれば当然に受像可能となるわけである。
このことを裏付けるために、本発明のブースタ本体を最新型市販ブースタ(ホーム共同受信用ブースタ:MB−352A)で置き換え、同様の評価を行なったので、結果を図19に示す。これによると、市販ブースタを用いた場合、広域デジタル放送チャンネル群の増幅後フィルタリングした信号レベル自体は、本発明実施例とそれほど変わりはないが、C/N比は本発明実施例と比較して10dB近くも悪化しており、3次相互変調歪IM3の影響を受けていることは明らかである。いくつかのチャンネルについては、受信限界値20dBを辛うじてクリアできる程度であり、受信環境の多少悪い地域では、これら広域デジタル放送チャンネル群の受像も不能になることが十分に考えられる。また、もともと受信レベルの低い地域デジタル放送チャンネルU23は、レベル差改善フィルタの通過により広域デジタル放送チャンネル群とのレベル差は改善されているものの、アンプ出力飽和の影響によりC/N比は十分に改善されておらず、受像不能のままであった。
次に、図21は、同じ受信位置にて三重テレビ放送送信所をアンテナ設置方向として、同様の調査を行なった結果を示すものである。ただし、地上波デジタル放送チャンネル(U13,U18,U19,U20,U21,U22)及び地上波アナログ放送チャンネル(U27及びU33)を評価対象チャンネルとし、レベル差改善フィルタは図16に示す広帯域フィルタと交換した。ここで問題になるのは、三重県の地域デジタル放送チャンネルであるU27であるが、アンテナが直接受信する信号はレベルも低く、C/N比も不十分である。C/N比劣化の要因としては、信号レベルが低いことに加え、低域側に存在する愛知県側の地域アナログ放送チャンネルU25との受信レベル差が33.3dBと大きいことも関係している。しかし、ブースタ本体で増幅し、さらに広帯域フィルタからなるレベル差改善フィルタを通すことで、U27のレベルは広域デジタル放送チャンネル群よりも少し小さい程度の49dBμVまで引き上げられ、C/N比も27.4dBと受像上全く問題を生じない高レベルにまで改善されていることがわかる。
なお、本発明にて使用する広帯域アンプICは、請求項に規定した飽和出力特性及びゲイン特性を充足するものであれば、前述のKGF2755(沖電気(株)製)以外にも種々の市販品を採用することが可能である。具体的には、MGA62563(米国AVAGO TECHNOLOGY社製)を第一例として挙げることができる。図26は、該広帯域アンプICのデータシートに開示されている概要回路図であり、GaAs系単位能動素子をなすHEMT201に帰還回路202とバイアス回路203とをワンチップ化したGaAsMMICとして構成されている。また、図27は、該データシートに開示されたゲイン、雑音指数NF及び3次出力インターセプトポイント(OIP3)の周波数特性を示すものである(動作電圧3V、動作電流60mA)。470MHz以上770MHz以下の周波数帯域でのゲイン特性(S21)は20〜22dBの範囲に収まっていることがわかる。また、3次出力インターセプトポイント(OIP3)特性から、基本波出力は少なくとも10dBmまで良好な線形性を維持しているものと推測される。
表1は、図2の回路を構成したときの各種特性を、KGF2755を使用した場合とMGA62563を使用した場合とで比較して示すものである。
前述の3次相互変調歪IM3とアンプの出力電力Pm及びOIP3との間には、おおむね、IM3≒2×(Pm−OIP3)の関係が成り立つことが知られており、3次相互変調歪IM3のレベルはOIP3の値から一義的に決定される。MGA62563の500MHzでのOIP3の値は、動作電流60mAでの値は約34dBmと推測される。一方、KGF2755は、推奨動作電流は100mAであるが、放熱が大きいため実際の動作電流値は70mA程度に抑制して使用する。この場合、KGF2755のOIP3の値は27dBである。従って、MGA62563を使用することにより、OIP3のレベルは約8dB向上し、3次相互変調歪IM3はその約2倍に当たる16dBの改善が期待される。
前述のKGF2755のSパラメータ特性(S11,S12,S21,S22)と雑音指数特性を、上記MGA62563のSパラメータ特性と雑音指数特性とに置き換え、それ以外は図9と全く同じ回路条件(図28)にてSパラメータ特性をシミュレーションした結果を図28に示す。図9のKGF2755を使用した場合のシミュレーション結果と比較して、ゲイン(S21)レベルは多少低下するものの、雑音指数(NF)レベルは約1.5dB〜2.0dB低減され、受信品質C/N比が約1.5dB〜2.0dB向上する。
また、第二例としては、CALIG20(韓国RFHIC Company 社製)を挙げることができる。図29に示すように、このデバイスIC1’は、増幅部2だけでなく、入力整合回3’及び出力整合回路4’も含めてワンチップ化したMMICであり、入出力インピーダンスは75Ωに整合されている。このデバイスIC1’を用いると、当然、入出力の整合回路を外付け実装する必要がなくなり、コンパクト化と低コスト化に寄与するとともに、これら整合回路の外付け実装化に伴なう損失やゲイン低下も抑制できる利点がある。図30に、該CALIG20のデータシートに掲載されているSパラメータ、OIP3及び雑音指数の周波数特性を示す。雑音指数特性はKGF2755よりもさらに良好(約1.0dB〜1.5dB)である。また、500MHzでのOIP3の値は、動作電流70mAでの値は約28dBmと推測され、KGF2755の値(27dB)とほぼ同等のレベルが確保される。
本発明の地上波デジタルテレビ用アンテナブースタユニットの概略構成例を示す模式図。
ブースタ本体の回路構成例を示す図。
ブースタ本体の回路基板及びハウジングの構成例を示す分解斜視図。
回路基板の両面のパターニング例を示す図。
放熱部材の使用例を示す分解斜視図。
ブースタ本体のUHFアンテナへの取り付け形態の一例を示す斜視図。
図2の回路のSパラメータ特性を示す実測図。
図2の回路のゲインと雑音指数の周波数特性の一例を示す図。
図2の回路のSパラメータ特性のシミュレーション結果を示す図。
図2のアンプICの等価回路を示す図。
図10の回路におけるアンプICの非線形特性のシミュレーション解析結果を示す図。
レベル差改善フィルタの具体例をなす有極型狭帯域通過フィルタの構成例を示す回路図。
図12の有極型狭帯域通過フィルタの通過特性の一例を示す図。
電源部の第一例を示す回路図。
電源部の第二例を示す回路図。
レベル差改善フィルタの具体例をなす広帯域通過フィルタの構成例を示す回路図。
図16の広帯域通過フィルタの通過特性の一例を示す図。
本発明の効果確認のために行なった実験結果を示す第一のグラフ。
同じく第二のグラフ。
本発明を適用前の地域デジタル放送チャンネルの受像状態を示すテレビ画面画像。
本発明を適用後の地域デジタル放送チャンネルの受像状態を示すテレビ画面画像。
本発明の効果確認のために行なった実験結果を示す第三のグラフ。
放熱部材の効果を評価した実験結果を示すグラフ。
増幅部の非線形特性と3次相互変調歪との関係を説明する図。
3次相互変調歪の隣接チャンネルに及ぼす影響を説明する図。
調査に使用した受信地域とアンテナ方向との関係を説明する図。
本発明にて採用可能な広帯域アンプICの第一の別例を示すブロック図。
図26の広帯域アンプICのゲイン、雑音指数及びOIP3の周波数特性を示す図。
図2の回路にて、広帯域アンプICを図26のものに置き換えて行なったSパラメータ特性のシミュレーション結果を示す図。
本発明にて採用可能な広帯域アンプICの第二の別例を示すブロック図。
図26の広帯域アンプICのSパラメータ、OIP及び雑音指数の周波数特性を示す図。
符号の説明
1 ブースタ本体
2 増幅部
IC1 広帯域アンプIC
3 入力整合回路
4 出力整合回路
5 電源系回路
5F 電源分離フィルタ
3S,4S サージ吸収素子
2HS 放熱用貫通孔
10 放熱部材
13 ハウジング
20 有極型狭帯域通過フィルタ(レベル差改善用フィルタ)
MC1 主回路
TC1 トラップ回路
AJC 基底減衰量調整回路
20W レベル差改善用広帯域通過フィルタ(レベル差改善用フィルタ)
49 第一コネクタ部
50 第二コネクタ部
70 回路基板
71 ヒートシンク金属部