「第1の参考形態」
以下,本発明を具体化した第1の参考形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,電磁誘導加熱方式の定着装置を有する画像形成装置に本発明を適用したものである。
本形態の画像形成装置100は,図1に概略構成を示すように,中間転写ベルト101を有する,いわゆるタンデム方式のカラープリンタである。中間転写ベルト101は,無端状ベルト部材であり,その図中両端部がローラ102,103によって支持されている。中間転写ベルト101の図中下部に沿って,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),ブラック(K)の各色の画像形成部104Y,104M,104C,104Kおよび画像濃度センサ105が配置されている。この画像濃度センサ105は,レジストセンサとしての機能をも有している。
各色の画像形成部104Y,104M,104C,104Kはいずれも同様の構成である。それぞれ,感光体ドラム106とその周囲に配置された帯電装置107,露光装置108,現像装置109,クリーナ装置110を有している。また,中間転写ベルト101を挟んで感光体ドラム106に対向する位置に,1次転写装置111が配置されている。図1中では画像形成部104Yによって代表して示している。
図1中で下方に示すのは,用紙Pを収容する給紙装置112である。給紙装置112の上部には,用紙Pを送り出す給紙ローラ113が設けられている。用紙Pは,給紙装置112から搬送経路114に沿って上方へ送られる。搬送経路114を挟んで,ローラ103と対面する位置に,2次転写装置115が配置されている。さらにその下流側(図中上方)には,定着装置1が配置されている。定着装置1は,加熱ローラ11,加圧ローラ12,磁束発生部13を有している。定着装置1については,後に詳述する。定着装置1より搬送経路114のさらに下流側には,排紙ローラ116および排紙トレイ117が配置されている。
次に,本形態の画像形成装置100の動作を簡単に説明する。この画像形成装置100は,画像形成の指示を受けると,その画像信号から各色の画像データを生成する。生成された各色の画像データは,対応する画像形成部104Y,104M,104C,104Kにそれぞれ送出される。各色の画像形成部104Y,104M,104C,104Kは,画像データに基づいて,それぞれの感光体ドラム106を帯電・露光して静電潜像を形成する。さらに,形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する。
形成されたトナー像は,順次,1次転写装置111によって中間転写ベルト101に転写され,重ね合わせられる。中間転写ベルト101に重ね合わせられたトナー像は,2次転写装置115によって用紙Pに転写される。トナー像を担持した用紙Pは,さらに搬送されて定着装置1に至り,定着装置1によって加熱されるとともに加圧される。これによりトナー像が用紙Pに定着される。トナー像が定着された用紙Pは,排紙ローラ116によって排紙トレイ117に排出される。
本形態の定着装置1は,図2に概略構成を示すように,加熱ローラ11,加圧ローラ12,磁束発生部13を有している。加熱ローラ11と加圧ローラ12とは互いに平行に配置され,いずれも回転可能に支持されている。加圧ローラ12は,加熱ローラ11へ向けて軸と垂直の方向に付勢される。これにより,加熱ローラ11と加圧ローラ12との間にニップが形成される。そして,ニップの出口(図中右側)の近傍には,定着後の用紙を加熱ローラ11から分離するための分離爪14が備えられている。なお,この図2は,図1の定着装置1を,右が下となるように90度回転させて示したものである。
加熱ローラ11は,図3に示すように,内側(図中下側)から芯金21,断熱層22,発熱制御層23,主発熱体層24,弾性層25,離型層26の6層構成になっている。このうち,芯金21と断熱層22とは互いに接着されてローラ状となっている。これらを合わせて定着ローラ27という。また,発熱制御層23,主発熱体層24,弾性層25,離型層26は互いに接着されて,無端ベルト状になっている。これらを合わせて定着ベルト28という。定着ローラ27と定着ベルト28とは接着されていない。定着ベルト28の内部に定着ローラ27が挿入されている。
本形態では,定着ベルト28と定着ローラ27との間には,ほとんど隙間はない。そのため,実質的に,定着ベルト28と定着ローラ27とを合わせた全体で1つのローラ(加熱ローラ11)と見ることができる。ここで,主発熱体層24が第1導電層,発熱制御層23が第2導電層にそれぞれ相当する。
芯金21は,加熱ローラ11の全体を支持する支持体であり,十分な耐熱性と強度を有することが必要である。さらに本形態では,芯金21は第3導電層としての機能を兼ねている。芯金21は,非磁性材で構成されている。芯金21の比透磁率は0.99〜2.0,望ましくは0.99〜1.1の範囲内とする。
また,芯金21としては,電気抵抗率の低い材料を用いる。芯金21の体積抵抗率は,1.0〜10.0×10-8Ωm,望ましくは1.0〜2.0×10-8Ωmの範囲内のものとする。特に本形態では,芯金21には,高温において発熱制御層23よりも低抵抗である材料を用いる。芯金21としては,例えば,壁厚4mm程度で,外径15〜25mmφの銅製パイプとするとよい。あるいは,上記の比透磁率及び体積抵抗率の範囲内であれば,SUS,アルミ等の材質のものを用いることもできる。ここで,本発明における「高温」とは,過昇温状態である温度範囲のことであり,本形態では発熱制御層23のキュリー温度を超えた温度範囲に相当する。
断熱層22は,定着ベルト28に発生した熱を芯金21へ逃がさないためのものである。そのために,熱伝導率が低く,耐熱性および弾性を有する,ゴム材や樹脂材のスポンジ体(断熱構造体)のものが好ましい。このようなものとすれば,定着ベルト28のたわみを許容し,ニップ幅を大きく保つことができる。また,加熱ローラ11全体としての硬度を小さくして,定着性や通紙性等を良好なものとできる。また,断熱層22として,ソリッド体とスポンジ体との2層構造のものを使用してもよい。
また,例えば,断熱層22として,シリコンスポンジ材を用いる場合は,厚さ1〜10mmさらに望ましくは2〜7mmのものを使用するとよい。また,この断熱層22の硬度は,アスカーC硬度で20〜60度,さらに望ましくは30〜50度の範囲内とする。なお,この加熱ローラ11全体としてのローラ硬度は,アスカーC硬度で30〜90度程度が好ましい。
発熱制御層23としては,常温において,芯金21よりも適度に体積抵抗率の大きい磁性体を用いる。さらに本形態では,定着温度と同程度の温度にキュリー点を有する材質を用いる。例えば,比透磁率は,50〜2000,望ましくは100〜1000の範囲内のものとする。また,キュリー温度より低温の温度範囲での体積抵抗率は,2〜200×10-8Ωm,望ましくは5〜100×10-8Ωmの範囲内のものとする。なお,発熱制御層23の厚さは,20〜200μm,望ましくは40〜100μmの範囲内とすることが好ましい。
また,目標とする定着温度が約180℃(170〜190℃)の場合には,キュリー温度は,150〜220℃,望ましくは180〜200℃の範囲内のものとする。本実施例では,キュリー温度が190℃のパーマロイを使用している。パーマロイでは,ニッケルの比率が高いほどキュリー温度の高いものを得ることができるので,パーマロイの成分比によって発熱制御層23のキュリー温度を調整する。また,クロム,コバルト,モリブデン等を含む合金とすることによってもキュリー温度の調整が可能である。
主発熱体層24は,磁束発生部13によって発生される磁束を受けて誘導電流が誘起され,それによって発熱する層である。本形態では,この主発熱体層24として非磁性材によるものを用いる。特に,銅,銀等の良好な導電性を有する材質で構成する。これらは,比透磁率は低いが,薄膜にすることにより,磁性材料を使用した場合よりさらに発熱効率のよい主発熱体層24を得ることができる。主発熱体層24の比透磁率は,1.0〜2.0の範囲内が望ましい。さらに,良好な発熱性を得るために,この主発熱体層24をごく薄く形成する。主発熱体層24の厚さは,5〜40μmの範囲内が好ましい。本形態では,厚さ10μmの銅で形成されている。
また,この主発熱体層24の体積抵抗率は,高温において,発熱制御層23のものより小さいものとする。高温における主発熱体層24の体積抵抗率は,芯金21とほぼ同程度であることが望ましい。具体的には,1.0〜10.0×10−8Ωm,望ましくは1.0〜2.0×10−8Ωmの範囲内であることが望ましい。
また例えば,主発熱体層24として,樹脂に銅,銀等の導電材の粒子を分散させたものとしてもよい。あるいは,樹脂材にこれらの導電材をコーティングしたものとしてもよい。主発熱体層24として,樹脂ベースのものを用いれば,定着ベルト28全体としての柔軟性がさらに大きくなり,用紙の分離性を向上させることができる。なお,このようなものでは,対外的な導電性は得られないかもしれないが,渦電流は通ることが可能である。本発明の導電層としてはこのようなものも含まれる。
弾性層25は,トナー像に均一かつ柔軟に熱を伝えるためのものである。この弾性層25が適度な弾性を有することにより,トナー像が押しつぶされたり不均一な溶融となることによる画像ノイズの発生を防止できる。そのために,弾性層25には,耐熱性と弾性とを有するゴム材や樹脂材を用いる。その材料としては,例えば,定着温度での使用に耐えられるシリコンゴム,フッ素ゴム等の耐熱性エラストマーが適している。また,上記の材料に,熱伝導性や補強等を目的とした各種の充填材を混入したものでもよい。そのうち熱伝導性の向上のために充填される粒子の例としては,ダイヤモンド,銀,銅,アルミニウム,大理石,ガラス等が挙げられる。実用的には,シリカ,アルミナ,酸化マグネシウム,窒化ホウ素,酸化ベリリウム等が好ましい。
この弾性層25としては,厚さ10〜800μm,さらに望ましくは100〜300μmの範囲内のものとする。弾性層24の厚さが10μm未満では厚さ方向の十分な弾力性を得ることが難しい。また,この厚さが800μmを超えていると,主発熱体層24で発生した熱を加熱ローラ11の外周面まで到達させることが難しく,熱効率が悪いので好ましくない。
弾性層25の硬度は,JIS硬度で1〜80度,さらに望ましくは5〜30度の範囲内のものとする。この範囲内の硬度であれば,弾性層25の強度の低下や密着性の低下を防止しつつ,安定した定着性を確保できる。硬度がこの範囲内となるシリコンゴムとして,例えば,1成分系,2成分系,または3成分系以上のシリコンゴム,LTV(Low Temperature Vulcanizable:低温加硫)型,RTV(Room Temperature Vulcanizable:常温加硫)型,またはHTV(High Temperature Vulcanizable:高温加硫)型のシリコンゴム,縮合型または付加型のシリコンゴム等が使用できる。本形態では,JIS硬度10度で厚さ200μmのシリコンゴムを使用している。
離型層26は,加熱ローラ11の最外層をなし,加熱ローラ11と用紙との離型性を高めるためのものである。この離型層26としては,定着温度での使用に耐えられるとともにトナーに対する離型性に優れたものを使用する。例えば,シリコンゴムやフッ素ゴム,あるいはPFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体),PTFE(四フッ化エチレン),FEP(四フッ化エチレン・六フッ化エチレン共重合体),PFEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素樹脂が好ましい。あるいは,これらを混合したものでもよい。
離型層26の厚さは5〜100μm,さらに望ましくは10〜50μmの範囲内のものとする。また,この離型層26と弾性層25との接着力を向上させるために,プライマー等による接着処理を行ってもよい。また,離型層26の中に,必要に応じて,導電材,耐摩耗材,良熱伝導材等をフィラーとして添加してもよい。
本形態では,発熱制御層23と主発熱体層24とをそれぞれ圧延してから,重ねてクラッド化し,絞り加工,スピニング加工,DI加工(ドローイング・アイアニング加工)などの塑性加工により無端状のベルト層とする。その上に弾性層25及び離型層26を被覆することによって,定着ベルト28を製造する。あるいは,発熱制御層23のみを塑性加工した後,主発熱体層24はメッキ加工や塗布皮膜によって構成してもよい。主発熱体層24は薄い層であるので,このような製造方法を採用することもできる。
次に,加圧ローラ12について説明する。加圧ローラ12は,図4に示すように,芯金31,断熱層32,離型層33を有している。芯金31は,壁厚3mmのアルミ製パイプである。強度が確保できれば,芯金31に代えて,PPSのような耐熱性の材質によるモールドのパイプを用いてもよい。あるいは,鉄パイプを使用することも不可能ではないが,電磁誘導による影響を受けにくい非磁性のものがより好ましい。
芯金31の外周には,断熱層32が設けられている。断熱層32は,厚さ3〜10mmの範囲内のシリコンスポンジゴムの層である。1層の断熱層32に代えて,シリコンゴムとシリコンスポンジとの2層構造としてもよい。
加圧ローラ12の最外周の離型層33は,加熱ローラ11の離型層26と同様に,用紙に対するローラ表面の離型性を向上させるためのものである。この離型層33は,PTFEまたはPFA等のフッ素系樹脂による厚さ10〜50μmの範囲内の層である。なお本形態では,加圧ローラ12は,加熱ローラ11に対して300〜500Nの荷重で加圧されており,定着装置1のニップ幅は約5〜15mmとなっている。本形態とは異なるニップ幅で使用したい場合には,加圧ローラ12の荷重を変更して調整すればよい。
次に,磁束発生部13について説明する。磁束発生部13は,加熱ローラ11の外周に対面するとともに,加熱ローラ11の長手方向に沿って,加熱ローラ11に平行に配置されている。磁束発生部13は,図2に示すように,励磁コイル41と磁性体コア42とコイルボビン43とを有している。本形態ではさらに,高周波インバータ44,サーミスタ45,制御部46を有している。
励磁コイル41は,加熱ローラ11の長手方向に沿って巻かれたコイルである。その横断面(図2参照)は,加熱ローラ11の外周に倣ってやや湾曲した形状となっている。この励磁コイル41には,高周波インバータ44が接続され,20〜40kHz,100〜2000Wの高周波電力が供給される。本形態では,この周波数を20〜40kHzとしたので,発熱効率が高く,十分高い定着温度を得ることができる。この周波数を20kHz未満とすると,発熱効率が大きく低下してしまう。また,周波数を40kHzより大きくすると,連続通紙時に電力供給が不足気味となるおそれがある。このような状態では,定着ベルト28の温度が十分高くならず,定着不良が発生するおそれがあるので好ましくない。
そのため,本形態では,励磁コイル41の巻き線として,細い素線を数十〜数百本束ねてリッツ線としたものを使用している。この励磁コイル41は通電時に自己発熱する。その場合でも絶縁性を保てるように,巻き線に耐熱性の樹脂が被覆されたものを使用している。さらに,例えばファン等によって,励磁コイル41を空冷することが望ましい。なお,本形態の励磁コイル41は,その長手方向に一繋がりのものであり,複数個に分断されているものではない。
磁性体コア42は,磁気回路の効率を上げるためと,磁気遮蔽のためのものである。この磁性体コア42は,メインコア47,端部コア48,裾コア49を有している。メインコア47は,その横断面が図2に示すようなアーチ形状のものである。本形態では,長さが約10mmのコア片を,加熱ローラ11の軸方向に13個配置したものとしている。なお,メインコア47として,断面が略「E」字の形状で,中央部に加熱ローラ11側へ突出した部分のあるものを使用しても良い。このようにすれば,さらに発熱効率を高めることができる。また,端部コア48は,横断面が四角形状で長さが5〜10mmのコア片を,加熱ローラ11の両端部に配置したものである。また,裾コア49は,横断面が四角形状のものを,加熱ローラ11の長手方向寸法に略対応した範囲に連続的に配置したものである。
磁性体コア42はいずれも,高透磁率でありかつ渦電流の損失が低い材質で形成されている。本形態の磁性体コア42のキュリー温度は,140〜220℃,さらに望ましくは160〜200℃の範囲内とすることが望ましい。本形態では高周波を用いるため,コア内における渦電流の損失が大きくなりがちである。また,パーマロイのような高透磁率の合金によるコアでは,さらに渦電流の損失が大きくなりがちである。そこで,このような材質を使用する場合は薄板を積層した構造のコアとすることが望ましい。なお,励磁コイル41と磁性体コア42とによる磁気回路部分の磁気遮蔽が,他の手段によって十分にできる場合には,コアなし(空芯)にしてもよい。さらに,磁性体コア42として,樹脂材に磁性粉を分散させたものを用いることもできる。この素材は,透磁率はやや低いが,形状を自由に設定できるという利点がある。
さらに本形態では,加熱ローラ11の表面に当接して配置されたサーミスタ45を有している。サーミスタ45は,加熱ローラ11のローラ軸方向について,どのサイズの用紙を通紙した場合でも用紙が通過する箇所に配置される。例えば,左寄せで通紙される画像形成装置であれば,加熱ローラ11の左端部の近くである。また,加熱ローラ11の回転方向について,定着ニップの入口よりやや上流側に配置されている。このサーミスタ45によって,加熱ローラ11の定着前の場所における表面温度が検出される。
そして,定着処理時には,サーミスタ45によって検出された表面温度が適切な定着温度の範囲内となるように,制御部46によって高周波インバータ44が制御される。適切な定着温度は,トナーの種類等に応じてあらかじめ設定されており,例えば,100〜200℃程度である。なお,加熱ローラ11の表面温度の検出は,サーミスタ45に限らず,非接触式の温度センサによって行ってもよい。
次に,本形態の定着装置1による定着処理動作について説明する。本形態の定着装置1では,加圧ローラ12が加熱ローラ11に押し付けられ,これらの間にニップが形成されている。定着処理時には,図2中に矢印で示すように,加圧ローラ12が図中時計回り方向に回転駆動される。これにより,加熱ローラ11は,加圧ローラ12との摩擦力によって,図中反時計回り方向に従動回転される。なお,この駆動と従動との関係は,逆でもよい。
磁束発生部13においては,高周波インバータ44によって,励磁コイル41に高周波電力が供給される。これにより発生した磁束は,磁性体コア42の内部を通る。そして,その磁束は,磁性体コア42の突起部間で外部に出て,加熱ローラ11に至る。発熱制御層23がそのキュリー温度より低温の常温状態であれば,発熱制御層23は透磁率の高い状態である。この状態では,発熱制御層23のシールド効果により,磁束はその反対側(加熱ローラ11のより内周側)へはほとんど漏れない。
すなわち,常温では,磁束のほとんどは,主発熱体層24と発熱制御層23との厚さの中を加熱ローラ11の周方向に進み,磁束発生部13へ戻る。このため,これらの層では磁束密度が非常に高い。従って,これらの層では発熱量が大きい。例えば,ウォームアップ時はこの状態であるので,主発熱体層24と発熱制御層23とがともに大きく発熱する。さらに本形態では,発熱に寄与する層(主発熱体層24と発熱制御層23)の熱容量が小さく,断熱層22によって定着ベルト28が断熱保持されていることから,短時間で昇温させることができる。
さらに本形態では,主発熱体層24が非磁性材であるものの非常に薄い層であるので,主発熱体層24によって大きい発熱量が得られる。このことは,次のように説明できる。一般に,高周波の交番電界を印加した場合に導電層に誘導される渦電流は,いわゆる表皮効果のために表面層に集中し,内部にはあまり流れない。表皮効果の程度は,以下の式1で表される。
δ = √(ρ / π・f・μ) …(式1)
ただし,δは浸透深さ(電流密度が表面の1/eになる深さ),fは交番電圧の周波数,μは透磁率,ρは体積抵抗率である。ここで,浸透深さδ当たりの抵抗は,以下の式2に示す表皮抵抗Rで表され,このRを用いて導電層の発熱量Pは以下の式3で表される。
R = ρ / δ …(式2)
P = R・I2 …(式3)
ただし,Iは,渦電流である。
磁性材の発熱層では,この表皮効果により,層自体の厚さにかかわらず渦電流の流れる範囲が限定されるので,電流密度が大きく発熱量も大きい。非磁性材の場合は,表皮効果が小さく,層全体に渦電流が流れる。本形態の主発熱体層24は,非磁性材の非常に薄い層であるので,層全体に流れたとしても電流密度が大きく,十分な発熱量を得ることができる。また,低抵抗の主発熱体層24があることにより,芯金21へ磁束の一部が漏れることが防止されている。
このように発生した熱は,主発熱体層24に接着されている弾性層25を介して,加熱ローラ11の表面へ伝達される。そして,加熱ローラ11の表面が適切な定着温度となるように,制御部46によって高周波インバータ44が制御される。トナー像を担持する用紙Pは,トナー像の載っている面を加熱ローラ11の側に向けた状態で,加熱ローラ11と加圧ローラ12との間のニップに挿入される。そして,加熱ローラ11と加圧ローラ12との間のニップを,図2中左から右へ通過する間に,トナーが溶融されて用紙Pに定着される。
ニップを通過した用紙Pは,加熱ローラ11から分離されて後段へと搬送される。用紙Pが,ニップを通過した後も加熱ローラ11に張り付いたままであれば,分離爪14によって加熱ローラ11から強制的に分離される。これにより,用紙Pが定着装置1でジャムになることが防止されている。なお,分離爪14の先端部は,加熱ローラ11の表面に接触していてもしていなくてもよい。
用紙Pの定着処理により,用紙P及びトナーによって加熱ローラ11の表面から熱が奪われる。そのため,ローラの軸方向について用紙Pの通紙された範囲では,加熱ローラ11の表面温度が下がる。サーミスタ45は,用紙Pが通紙される箇所で温度を検出する。制御部46は,サーミスタ45の検出結果を受けて,高周波インバータ44を制御する。すなわち,次回の用紙Pが定着ニップまで搬送されてくるまでに適切な定着温度の範囲内となるように,制御部46は,高周波インバータ44から励磁コイル41に供給される高周波電力を増減する。
この定着装置1によって,比較的用紙幅の小さい用紙Pを連続して定着処理すると,通紙範囲外においては次第に熱が溜まる。そのため,加熱ローラ11の軸方向のうち,通紙範囲外においては発熱制御層23の温度が特に上昇し,その部分の温度がキュリー温度を超える場合がある。発熱制御層23の温度がキュリー温度を超えた箇所では,発熱制御層23の透磁率が大きく低下する。これにより,発熱制御層23によるシールド効果が弱くなる。すなわち,通紙範囲外の高温となった部分では,発熱制御層23の透磁率が大きく低下して,磁束の大部分が主発熱体層24と発熱制御層23とを貫通してさらに内周側へ漏れる。これにより,主発熱体層24と発熱制御層23とを通る磁束密度が大きく減少するので,これらによる発熱量も大きく低下する。
さらに本形態では,芯金21が第3導電層として機能する。高温箇所において主発熱体層24と発熱制御層23とを貫いて漏れた磁束は,第3導電層である芯金21に掛かる。芯金21は,例えば銅製パイプであり低抵抗であるので,渦電流が容易に流れる。そのため,芯金21に掛かっている磁束による渦電流の大部分は,芯金21中に発生する。芯金21は低抵抗であるので,渦電流が流れてもほとんど発熱しない。また,芯金21に発生する渦電流による逆起電力が,磁束を打ち消す方向に働く。そのため,主発熱体層24と発熱制御層23との磁束密度がさらに低下する。従って,発熱量がさらに低下する。これにより,高温箇所では,加熱ローラ11の半径方向のいずれの箇所でもほとんど発熱しない状態となる。
従って,過昇温となった箇所では,発熱制御層23の透磁率が変化するとともに,発熱量が大きく低下する。一方,通紙範囲内の高温となっていない部分では発熱量はほとんど変わらない。これは,この範囲においては,発熱制御層23の透磁率が低下せず,磁束密度の分布が常温状態からほとんど変化しないことによる。このように,芯金21が第3導電層として機能することにより,発熱制御層23の透磁率の分布が変化した際に,主発熱体層24と発熱制御層23との発熱量をさらに低下させることができる。さらに,本形態では第3導電層である芯金21の厚さが他の層に比較して大きいので,第3導電層の発熱量をより抑制でき,定着装置の全体として熱効率のよいものとできる。
さらに本形態では,主発熱体層24と発熱制御層23とが積層されているので,表面温度の変化が発熱制御層23に素早く伝わる。従って,加熱ローラ11の一部において,その表面温度が,定着に適した温度を超えて高くなるとすぐに,その部分の発熱量が大きく低下するので,過昇温状態が続くことはない。このような効果が得られるように,発熱制御層23のキュリー温度が選択されている。また,本形態では,第3導電層として芯金21を使用しているので,第3導電層をも定着ベルトに積層した場合に比較して,定着ベルト28の熱容量は大きくない。従って,短時間でのウォームアップが可能である。
さらに本形態では,第1導電層として,非磁性体の主発熱体層24を有している。特に,この主発熱体層24をごく薄いものとしたので,総発熱量が大きい。従って,投入電力の制御可能な範囲が広いものとなっている。また,主発熱体層24の熱容量が小さいので,ウォームアップ時間が短いものとなっている。
次に,本形態の定着装置による効果を確認するために行った様々な実験の結果について説明する。まず,第1の実験として,加熱ローラに導電体ではない材質の回転軸を用いた点の他は本形態と同じ構成の画像形成装置を比較例とし,本形態の実施例との比較実験を行った。具体的には,比較例の回転軸としてセラミック製のパイプを使用した。
この実験では,発熱制御層23がキュリー温度を超えたときの前後での発熱量の変化の度合いを,前の発熱量に対する後の発熱量の割合によって発熱率として求めた。その結果を図5に示す。ここでは,全導電層による合計の発熱量で比較した。比較例では,発熱率65%程度までしか低下しなかったのに比較して,実施例では,30%以下となった。このことから,第3導電層を有することによって,キュリー温度を超えたときの発熱量の低下の割合を大きくすることができることが分かった。
次に,第2の実験として,上記と同じ実施例と比較例について,発熱効率を比較した。ここでの発熱効率とは,定着装置全体の発熱量のうち,有効な発熱である第1〜第3導電層の全体による発熱量が占める割合のことである。インバーターの電源損失を除いて算出した。これ以外の発熱,つまり無駄な発熱としては,コイルのジュール発熱や,周辺板金等の誘導発熱等がある。第2の実験の結果を図6に示す。この図に示すように,実施例においても,比較例においても,発熱効率は約97%であり,大差ない。すなわち,芯金21として第3導電層として機能するものを用いても,発熱効率を低下させることにはならないことが確認できた。
さらに,第3の実験として,発明者らは,主発熱体層24(第1導電層)と芯金21(第3導電層)とに,磁性材を用いた場合と非磁性材を用いた場合とで,過昇温時の発熱率に与える影響を調べた。この実験では,主発熱体層24と芯金21とに,磁性材ではニッケルを使用し,非磁性材では銅を使用した。ここでの発熱率とは,発熱制御層23がキュリー温度を超えたときの前後での主発熱体層24の発熱量の変化の度合いを前の発熱量に対する後の発熱量の割合として求めたものである。この実験では,第1の実験の場合とは異なり,主発熱体層24のみによる発熱量を比較した。この実験の結果を図7に示す。これからわかるように,主発熱体層24と芯金21とに,ともに銅を用いることにより,過昇温の抑制効果が大きいことが分かった。なお,主発熱体層24と芯金21とを,銅に代えて,銀,アルミ等によって構成しても,同様の結果が得られた。
次に,第4の実験として,主発熱体層24の厚さを変更し,過昇温部の発熱率および常温での総発熱量を求めた。この実験では,参考のために,主発熱体層24として銅を用いた場合と,ニッケルを用いた場合との両方について実験を行った。ここでの発熱率は,第3の実験と同様のものである。また,総発熱量は,100Vの電力を投入して発熱させた場合のものである。
この実験の結果を,図8と図9とに示す。図8に示すように,主発熱体層24として銅を用いた場合でも,ニッケルを用いた場合でも,厚さが増すとともに発熱率も上昇する。この発熱率が高いことは,過昇温時にも発熱量があまり低下しないことを意味する。つまり,主発熱体層24としては,より薄いものを用いることが望ましいことが分かった。ただし,現実的には5μmより薄く製造することは困難であった。
一方,図9に示すように,主発熱体層24として銅を用いた場合は,その厚さが増すにつれて総発熱量が減少する。常温時には総発熱量が大きい方が好ましい。これは,総発熱量が大きければそれだけ,印加する高周波電力の大きさを変更することにより制御できる発熱量の範囲が広いことを意味するからである。約40μm以下の厚さの銅を主発熱体層24として用いれば,発熱量を制御可能な電力の十分な範囲が得られることが分かった。従って,主発熱体層24として銅を用いた場合,その厚さは5〜40μmの範囲内が好ましいことが分かった。なお,銅以外の非磁性材を用いた場合についても,ほぼ同様の結果が得られた。
次に,第5の実験として磁束発生部13に印加する高周波電力の周波数を変更し,それぞれの発熱効率および総発熱量を測定した。本実験では,主発熱体層24として厚さ10μmの銅を用い,発熱制御層23としてパーマロイを,芯金21として銅製のパイプを用いた。ここで,発熱効率は,第2の実験のものと同じである。また,総発熱量は,第4の実験のものと同じである。その結果を図10と図11とに示す。
図10に示すように,発熱効率の点からは,高周波電力の周波数が20kHz以上であることが望ましい。周波数が20kHzより小さいと,発熱効率が低く,不要な箇所での発熱量が大きくなった。また,総発熱量の点からは,図11に示すように,周波数が40kHz以下であることが望ましい。周波数が40kHzより大きい場合には,総発熱量が小さく,連続通紙時に電力供給不足となって十分な定着温度が得られないおそれがある。従って,本形態では,高周波電力の周波数は,20〜40kHzの範囲内であることが望ましい。
以上詳細に説明したように,本形態の画像形成装置によれば,加熱ローラ11に,第1導電層(主発熱体層24)と第2導電層(発熱制御層23)と第3導電層(芯金21)とを有している。従って,部分的に高温となり,定着ベルト28の表面温度が発熱制御層23のキュリー温度を超えた場合には,その箇所の発熱制御層23の透磁率が大きく低下する。従って,その部分の磁束密度が大きく低下し,発熱量が減少するので,過昇温が防止されている。また,芯金21の体積抵抗率を発熱制御層23の体積抵抗率に比較して小さいものとしたので,キュリー温度を超えたときの発熱量の低下が顕著なものとなっている。すなわち,小サイズの用紙を連続通紙した場合でも,部分的な過昇温が発生せず,安定した定着性能を有するとともに発熱効率のよい定着装置および画像形成装置となっている。さらに,主発熱体層24が厚さが40μm以下の非磁性材によるものであるので,制御可能な電力の範囲がより大きいものとなっている。
「実施の形態」
次に,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,第1の参考形態に比較して,加熱ローラ11の構成がやや異なるのみであり,同一の部材については,同一の符号を付し,説明を省略する。
本形態の定着装置2の加熱ローラ51は,図12に示すように,定着ローラ27の外径が,定着ベルト52の内径よりかなり小径に形成されている。この定着ローラ27は,第1の形態におけるものと径が異なるのみで,同一の層構成である。また定着ローラ27は,定着ベルト52を挟んで,加圧ローラ12に圧接されている。
本形態では,定着ローラ27が小径であることから,その図12中上部において,定着ローラ27と定着ベルト52との間に空間Sがある。この空間S内に,2層構造の摺接部材53が固定されて配置されている。摺接部材53は,図示の横面形状が扇形で,図中奥行き方向に加熱ローラ51とほぼ同等の長さを有するものである。また,その図中上面は,定着ベルト52の内側の面に接触している。すなわち,定着ベルト52は,定着ローラ27と摺接部材53とに架け渡されている。
本形態の定着ベルト52は,第1の参考形態の定着ベルト28に比較して,発熱制御層23を有していない。すなわち,図13に示すように,内周側から順に主発熱体層55,弾性層56,離型層57の3層構成となっている。そして,摺接部材53は,同図に示すように,内周側から順に補助発熱層58と発熱制御層59との2層構成となっている。主発熱体層55の材質は,第1の参考形態の主発熱体層24と同じく非磁性材,例えば銅である。発熱制御層59の材質は,第1の参考形態の発熱制御層23と同じく,キュリー温度190℃程度のパーマロイである。補助発熱層58の材質は,第1の参考形態の芯金21と同じく,体積抵抗率の低い導電性金属材料,例えば銅とすればよい。なお,図13では,定着ベルト52と摺接部材53との区別のために,これらの間に多少の隙間を設けているが,実際には互いに接触している。
本形態では,摺接部材53の図13中上面は,定着ベルト52の内周側に沿って湾曲した曲面となっている。すなわち,発熱制御層59は,均一の厚さの円筒面の一部の形状である。そして,発熱制御層59の図中上面は,そのほぼ全域にわたって,定着ベルト52の主発熱体層55に常時接触している。発熱制御層59の図中下面は,その全域にわたって,補助発熱層58に接触している。補助発熱層58も,均一の厚さの円筒面の一部の形状である。また,摺接部材53の図中下面は,定着ローラ27に接触していない。この形態では,主発熱体層55が第1導電層に,発熱制御層59が第2導電層に,補助発熱層58が第3導電層にそれぞれ相当する。
本形態では,定着ローラ27の外径を小さいものとしたので,定着ベルト52と定着ローラ27との接触面積が小さい。従って,定着ベルト52から定着ローラ27へ逃げる熱の量も小さい。さらに,摺接部材53は全周でなく1箇所のみに設けられているので,摺接部材53へ逃げる熱の量も小さい。また,発熱制御層59を定着ベルト52以外の部分に設けたことから,定着ベルト52は第1の参考形態の定着ベルト28に比較して薄く形成することができる。従って,定着ベルト52の熱容量を第1の参考形態に比較して小さくできる。これらのことから,第1の参考形態に比較してウォームアップ時間のさらなる短縮が可能である。
以上詳細に説明したように,本形態の画像形成装置によっても,第1の参考形態と同様に,小サイズの用紙を連続通紙した場合でも,部分的な過昇温が発生せず,安定した定着性能を有するとともに発熱効率のよい画像形成装置となっている。
「第2の参考形態」
次に,本発明を具体化した第2の参考形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,実施の形態に比較して,定着ベルトと摺接部材の構成がやや異なるのみであり,同一の部材については,同一の符号を付し,説明を省略する。
本形態の定着装置3は,図14に示すように,加熱ローラ61が,定着ローラ27と定着ベルト62と摺接部材63を有している。摺接部材63の図中上面は定着ベルト62に接触している。本形態では,定着ベルト62に,発熱制御層をも含んでいる。摺接部材63の形状は,実施の形態の摺接部材53と同様であるが,2層構成とはなっていない。摺接部材63は,単に補助発熱層として機能する。このようにしても,定着ベルト62と定着ローラ27との接触面積が小さいので,定着ベルト62から定着ローラ27へ逃げる熱の量を小さくすることができる。
または,補助発熱層をも定着ベルトに含まれるものとしてもよい。すなわち,補助発熱層,発熱制御層,主発熱体層,弾性層,離型層のすべてが含まれるものとすることもできる。この場合は,摺接部材はなくてもよい。
以上詳細に説明したように,本形態の画像形成装置によっても,第1の参考形態と同様に,小サイズの用紙を連続通紙した場合でも,部分的な過昇温が発生せず,安定した定着性能を有するとともに発熱効率のよい画像形成装置となっている。
なお,本形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。
例えば,本形態ではカラープリンタとしたが,1色の画像形成部のみを有する単色プリンタに本発明を適用することもできる。その場合には,加熱ローラ11として弾性層25の無いものとしてもよい。