以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。風力により発電を行う風力発電システムに本発明を適用した場合を例に説明する。
図1に示すように、第1の実施の形態に係る風力発電システム10は、風力発電を行う風車12と、風車12の翼より内側のタワーの表面付近に設けられ、かつ、風車12からの騒音を集音し、集音した騒音に対応する音響信号を出力するセンサマイク14と、風車12の翼より内側のタワーの表面付近に設けられ、かつ、翼より外側の制御点(騒音低減エリア)に向けて放音するスピーカ16と、制御点に設けられ、かつ、フィードバックするための制御点マイク18と、センサマイク14及び制御点マイク18からの入力に基づいて、騒音を低減するようにスピーカ16から放音させる騒音低減装置20とを備えている。
風車12は、風の力を受けて回転する複数の翼22と、翼22が取り付けられたナセル24と、翼22及びナセル24を支持し、かつ、鉛直方向に伸びる柱状のタワー26と、翼22によって駆動され、発電を行う発電機(図示省略)と、風の向きや風速に応じて翼22の回転軸方向を変化させる方向変更機構(図示省略)とを備えている。翼22は例えば3枚であり、また、発電機は、ナセル24の内部に設けられている。方向変更機構は、常に風向や風速を感知しながら、最適な発電効率となるように、ナセル24の長さ方向を変更して、翼22の回転軸方向を変化させる。
図2(A)に示すように、センサマイク14は、所定の高さ(タワー中間部)にタワー26を囲うように設けられたセンサマイク回転用リング30上に設けられている。センサマイク回転用リング30は、モータ32の駆動によって回転し、センサマイク回転用リング30の回転により、センサマイク14の位置が、翼22より内側のタワー26の周囲を移動する。センサマイク回転用リング30は、図2(B)に示すように、スリップリング30A及び2本の電極30Bで構成され、2本の電極30Bがセンサマイク14に電気的に接続されており、センサマイク14がどの位置であっても、信号を得ることが可能な構成となっている。なお、翼22より内側とは、風車方向に応じて変化する翼22の軌跡より内側(タワー26側)であることを示す。
スピーカ16は、風車12の翼22より内側であって、風車12のタワー26の表面付近(例えば、キャットウォーク上)に、放音方向を制御点に向けるように配置されている。スピーカ16は、騒音低減装置20によって低減対象となる騒音の周波数帯域の最大周波数(例えば100Hz)以下の周波数帯域の制御音を放音するように制御される。
図3に示すように、騒音低減装置20は、デジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器62と、D/A変換器62から出力された信号を増幅してスピーカ16に入力するパワーアンプ42と、センサマイク14からの音響信号を増幅するマイクアンプ44と、マイクアンプ44から出力される信号に対して、逆フィルタリングをかけて低減信号を生成して後述する遅延回路47に出力する生成手段としての逆フィルタDSP46と、生成された低減信号を設定された遅延時間だけ遅延させてD/A変換器62に出力する遅延回路47と、制御点マイク18からの音響信号を増幅するマイクアンプ48と、風車12に設けられた、風車方向(翼22の回転軸方向あるいはナセル24の長さ方向)を検出するための風車方向検出部50からの出力に基づいて、逆フィルタDSP46の逆フィルタを切り替える逆フィルタ切替部52と、マイクアンプ44、48からの音響信号に基づいて風車方向毎の逆フィルタを演算して逆フィルタDSP46に設定する逆フィルタ演算部54と、風車方向検出部50からの出力に基づいて、モータ32の回転を制御する回転制御部57と、風車12に設けられた、翼22の単位時間あたりの回転数を検出するための回転数検出部70からの出力及び風車方向検出部50からの出力に基づいて、遅延回路47による遅延時間を演算して設定する遅延時間設定部72とを備えている。陽解法制御の場合、制御点マイク18は、逆フィルタを演算するためにインパルス応答を計測する時に必要となるが、制御時は不要であることを明記しておく。ここでいう陽解法とは、騒音源から制御点マイク18へ直接到達する経路のインパルス応答と、騒音源からの騒音がセンサマイク14で集音され、騒音低減装置20を介してスピーカ16から放音されて制御点マイク18へ到達する経路のインパルス応答とを事前に計測し、数値計算によりフィルタ係数を演算する方法である。
風車方向検出部50は、風車12の制御回路(図示省略)から風車方向を検出しており、回転数検出部70は、風車12の制御回路(図示省略)から翼22の単位時間(例えば1秒あるいは1分)あたりの回転数を検出している。なお、パワーアンプ42が、本発明の入力手段の一例であり、回転制御部57が、マイクロホン移動制御手段の一例である。また、遅延回路47が、処理手段の一例である。
ここで、低減対象の風車からの騒音について説明する。
風車からの発生騒音は以下の表1に示すように主に4つ存在する。
ただし、Fは周波数(Hz)であり、m=1,2,3・・・である。また、nは翼回転数(rpm)であり、Zは翼の枚数である。
第1に、発電機を高速に回すためにローターと発電機との間にギアが使われる場合には、ナセル内の発電機から機械音が発生する。これに対し、風車のナセルにおいて、ギアを使わないことにより、発生音は聴感上ほとんど気にならないレベルになる。
第2に、大型風車の翼の先端は、相対速度が200km/h以上にもなることから、翼の風切音として、主に高音域で「シュー」という音が発生する。これに対し、翼の形状を工夫することによってかなり静かになる。また、高音域の音は、風車の近傍では気になるが、風車から数100m離れると空気吸収減衰により減衰するので、聴感上は気にならないレベルになる。
第3に、翼がタワーを横切るタイミングで、空力干渉騒音が発生する。翼とタワーとの間がこの騒音の騒音源であると考えられる。アップウインドウ型では、ダウンウインドウ型よりも発生騒音が小さいことから、最近では、アップウインドウ型の風車が主流になりつつある。ただし、アップウインドウ型でもこの騒音が全く発生しないというわけではなく、低音域の音が発生している。この低音域の音は、空気吸収減衰しにくく、遠距離においてもあまり音が低減しないため、騒音問題になりやすい。
第4に、翼の回転により空気に衝撃を与えることによって、超低周波音が発生する。大型風車の場合の基本周波数は1Hz以下になり、その倍音成分も発生する。ただし、聴感的には聞こえないとされる20Hz以下の超低周数波音であるため、騒音問題になりにくい。
以上のことから、聴感上問題となりやすく、対策が困難な騒音は、翼がタワーを横切る時に発生する空力干渉騒音であり、本発明では、この騒音を低減対象とする。
また、大型風車からの発生騒音の特徴について説明する。直径約70mの翼を持つ2000KW級の大型風車から発生する騒音を、水平距離で約30m離れた地面上の場所において低周波騒音計で録音した。録音結果を分析し、AP(オールパス)、及び中心周波数20〜40Hzの1/3オクターブバンド中心周波数のみを取り出すと、図4に示す分析結果が得られた。
上記図4の波形から、特に、25、31.5、40Hz付近のレベルが、約1秒毎に変動していることが分かる。例えば、25Hz帯域では、1秒毎に65dB前後のほぼ同じようなレベルが繰り返されている。このときの風車は、ほぼ定常運転状態で回転数はほぼ一定であり、1回転に3秒かかっている。翼が支柱を交差する時間間隔は約1秒となり、レベル波形の時間変動の周期と一致していることが分かる。
次に、低減信号を遅延させる原理について説明する。
センサマイク、スピーカ、及び制御点を、風車からかなりの距離を離して設置する場合(スピーカが風車にぶつからないようにするには、少なくとも風車の半径+αで、かつ、センサマイクから風車を見たときに、風車の回転軸方向に関わらず、騒音発生箇所が変わらないとみなせる程度の距離を離して設定した場合)には、通常のアクティブ騒音低減技術で使われているフィードフォワード型の適応制御や陽解法による固定逆フィルタ制御を行うことにより、騒音を減音させることが可能である。
一方、本実施の形態にように、スピーカ16をタワー26の近傍に設置した場合には、これは、スピーカの設置間隔やスピーカ設置のための用地の確保などの面で大変メリットがある方法であるが、アップウインドウ型を例にとって考えると、図5に示すように、風下側のエリアに対して制御音を放音する場合には、センサマイク14をタワー26と翼22の間に設置し、スピーカ16をタワー26の風下側に設置すればよい。しかし、図6に示すように、風上側のエリアに対して制御音を放音する場合には、スピーカ16をタワー26の風上側に設置する必要があるが、制御したいエリアから見ると、スピーカ16が騒音源よりも遠方にある。従って、フィードフォワード制御を行う場合に、騒音源からの騒音に基づいて放音されるスピーカ16からの音波が、その騒音よりも遅れて制御点に到達することになり、騒音に基づく制御音が、その騒音に対して時間的に間に合わないため、騒音を低減させることができない。
すなわち、騒音発生箇所からセンサマイク14までの距離をd1、スピーカ16から騒音発生箇所までの距離をd2、音速をcとすると、従来のアクティブ騒音低減技術では、騒音源から制御点へ到達する音波(図7(A)参照)に対して、スピーカ16からの制御点へ到達する音波は、(d1+d2)/cだけ遅れるため、騒音を減音させることができない(図7(B)参照)。
そこで、本実施の形態では、風車12からの騒音が、発生周期を有するという特徴を利用して、1周期分だけ信号を遅延させると共に、逆フィルタを用いたフィルタリング処理で位相をずらすことにより、図7(C)に示すように、スピーカ16からの制御音により、制御点において騒音を低減させる。
遅延時間設定部72は、風車方向検出部50によって検出された風車方向が、制御点からスピーカ16までの距離より、制御点から、タワー26と翼22との間の騒音発生箇所までの距離の方が短くなる特定方向である場合に、回転数検出部70によって検出された回転数に基づいて、騒音の発生周期Tを算出し、算出された発生周期Tを遅延時間として遅延回路47に設定する。
例えば、360°の風車方向を例えば8分割した8方向のうちの特定方向である場合、以下の(1)式に基づいて、発生周期Tを算出する。
T=(v/60)/W ・・・(1)
ただし、Rは、翼22の長さであり、vは、1分あたりの回転数であり、Wは、翼22の枚数である。
遅延時間設定部72は、風車方向検出部50によって検出された風車方向が、特定方向以外である場合に、遅延時間として0(遅延無し)を遅延回路47に設定する。
逆フィルタDSP46は、マイクアンプ44から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器56と、風車方向毎のフィルタ係数が設定された時不変の逆フィルタ58と、低減対象の所定の周波数帯域(例えば、100Hz以下)の信号を通過させるようにフィルタリングを行うバンドパスフィルタ60とを備えている。逆フィルタ58のフィルタ係数は、風車方向毎に、逆フィルタ演算部54によって例えば陽解法及びfiltered−X LMS法の何れかによって算出される。上記の特定方向となる風車方向に対しては、遅延回路47によって騒音の発生周期Tだけ低減信号を遅延させた状態で、逆フィルタ演算部54によって、例えば陽解法及びfiltered−X LMS法の何れかに従って、逆フィルタ58のフィルタ係数が算出される。逆フィルタ58は、A/D変換器56から出力された信号に対して、検出された風車方向に対応するフィルタ係数が設定された逆フィルタを用いたフィルタリング処理を行うことにより、スピーカ16より外側において同振幅かつ逆相となる信号が出力される。なお、A/D変換器56の前段と、D/A変換器62の後段とには、アンチエイリアス用のローパスフィルタ(図示省略)が設けられている。
逆フィルタ演算部54は、360°の風車方向を例えば8分割した8方向毎にフィルタ係数を算出して、逆フィルタ58内のメモリ(図示省略)に記憶させる。
逆フィルタ切替部52は、風車方向検出部50によって検出された風車方向を含む上記8方向の何れかに対応するフィルタ係数を用いるように、逆フィルタ58に設定されるフィルタ係数を切り替える。
次にセンサマイク14の位置について説明する。風向きが一定で変わらない場合には、センサマイク14の位置を固定しても問題無いが、風車の方向変更機構は、風向や風速を感知しながら、常に最適な発電効率となるようにナセル24の向きを変えることから、低減対象の騒音源の位置が時間とともに変動する。
そこで、回転制御部57によって、風車方向検出部50によって検出された風車方向に基づいて、上記図2(A)に示すように、翼22とタワー26との間(ナセル24の下方)にセンサマイク14が位置するように、モータ32の回転を制御する。
逆フィルタ演算部54は、風車方向毎に、逆フィルタ58のフィルタ係数w(t)を、例えば陽解法によって、以下のように算出する。
まず、回転制御部57によって騒音源近傍に設置したセンサマイク14に入る騒音源からの騒音x(t)と、騒音源から制御点に到達し制御点マイク18により集音された騒音ys(t)との相互相関関数hs(t)を測定する。また、センサマイク14に入る騒音源からの騒音x(t)と、逆フィルタのフィルタ係数をw(t)=δ(t)としてスピーカ16から放音される制御音yc(t)との間の相互相関関数hc(t)を測定する(相互相関法によるインパルスh(t)の測定)。
そして、hs(t)、hc(t)の伝達関数をHs(ω)、Hc(ω)として、逆フィルタのフィルタ係数w(t)を、以下の(2)式によって算出する。
ここで、F−1は逆フーリエ変換を示す。
次に、第1の実施の形態に係る風力発電システム10の動作について説明する。まず、制御点に制御点マイク18が設置され、風車方向が8方向の各々であるときに、逆フィルタ演算部54によって、センサマイク14からの音響信号と、制御点マイク18からの音響信号とに基づいて、陽解法に従って、風車方向の各々に対する逆フィルタのフィルタ係数を演算し、逆フィルタ58のメモリに記憶させる。風車方向が、予め求められた、制御点から騒音発生箇所までの距離の方が短くなる特定方向となる場合には、遅延回路47に、騒音の発生周期Tを遅延時間として設定した状態で、逆フィルタ演算部54によって、当該風車方向に対する逆フィルタのフィルタ係数を演算し、逆フィルタ58のメモリに記憶させる。
各風車方向に対する逆フィルタのフィルタ係数が記憶されると、風車方向検出部50によって風車12の風車方向を検出し、騒音低減装置20の回転制御部57によって、検出された風車方向に応じて、モータ32を回転させて、翼22とタワー26との間にセンサマイク14が位置するように移動させる。
また、逆フィルタ切替部52によって、逆フィルタDSP46に対して、検出された風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を設定するように切り替える。遅延時間設定部72によって、検出された風車方向が、制御点から騒音発生箇所までの距離の方が短くなる特定方向である場合には、回転数検出部70により検出された翼22の回転数に基づいて、騒音の発生周期Tを算出し、遅延時間として遅延回路47に設定する。遅延時間設定部72は、検出された風車方向が特定方向以外である場合には、遅延回路47に対して、遅延時間として0(遅延無し)を設定する。
そして、風車12の翼22とタワー26との間の騒音源から放射された騒音は、センサマイク14で集音され、マイクアンプ44で音響信号が増幅されて、逆フィルタDSP46に入力される。そして、逆フィルタDSP46の逆フィルタ58は、A/D変換器56から入力されたデジタル信号と、設定されたフィルタ係数とを用いて、デジタルフィルタリング処理を行う。
このとき、逆フィルタ58を通すことで、信号の波形が整形されると共に時間移動され、入力信号を逆相にした低減信号が生成されるため、低減信号に基づいてスピーカ16から放音された制御音により、減音効果を得ることができる。
逆フィルタ58でフィルタリング処理された低減信号は、バンドパスフィルタ60に入力され、所定の周波数帯域の信号のみが通過し、通過した信号は、遅延回路47に入力され、発生周期Tだけ遅延させるか、又は遅延させずにD/A変換器62に出力する。そして、D/A変換器62によってD/A変換されて、パワーアンプ42を介して、スピーカ16に出力される。そして、フィルタリング処理された信号に対応する音波、即ち、騒音の逆相波であり、かつ、所定の周波数帯域の音波が、制御音としてスピーカ16から制御点に向けて放音される。従って、制御点において、風車12の騒音源からの騒音が、スピーカ16からの制御音により打ち消される。
風向きが変わり、風車方向(翼22の回転軸方向)が変化すると、風車方向検出部50によって変化後の風車方向が検出され、逆フィルタ切替部52によって、逆フィルタDSP46に対して、検出された風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を設定するように切り替える。また、遅延時間設定部72によって、検出された風車方向に応じて、遅延回路47に対して遅延時間(騒音の発生周期T又は0)を設定する。そして、上述したように、スピーカ16から制御音が放音され、制御点において、風車12の騒音源からの騒音が、スピーカ16からの制御音により打ち消される。
以上説明したように、第1の実施の形態に係る風力発電システムによれば、風車の風車方向に応じてセンサマイクを移動させて騒音を集音すると共に、風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を用いて騒音を低減するための低減信号を生成し、更に風車方向が特定方向である場合には低減信号を騒音の発生周期だけ遅延させて、制御音をスピーカから放音させることにより、低周波音の低減に効果的なアクティブ騒音低減技術を用いて騒音を低減することができるため、風力による発電効率を低下させずに、風車からの騒音を低減することができる。
また、風車における騒音源の位置の変化に対応して騒音を低減できるため、従来の能動制御で風車からの騒音を低減する場合に比べて、スピーカを風車のタワーの近くに設置することができる。これにより、スピーカの個数が少なくて済むため、システムの規模及びコストを抑えることができる。
また、風車の翼を傾けるなどの従来の騒音低減手法と比較すると、発電効率を下げずに風車からの騒音を低減することができる。
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第2の実施の形態では、センサマイクの位置が、風車の翼の回転軸方向の変化に連動するように設けられている点が、第1の実施の形態と異なっている。
第2の実施の形態に係る風力発電システムでは、図8に示すように、風車12のナセル24から下方に吊るされるようにセンサマイク14が設けられている。これによって、風車方向が変化しても、常にナセル24の下方にセンサマイク14が配置されているため、ナセル24の長さ方向の変化に連動してセンサマイク14がタワー26の周囲を移動し、翼22とタワー26との間に常に位置する。また、センサマイク14は、風車12の騒音の発生箇所(騒音源)の近傍から騒音を集音して、音響信号を出力する。
なお、第2の実施の形態に係る風力発電システムの騒音低減装置の構成については、回転制御部を備えていない点以外は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。また、風力発電システムの動作については、モータ制御によりセンサマイクを移動させてない点以外は、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
このように、センサマイクが風車方向の変化に連動して騒音を集音すると共に、風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を用いて騒音を低減するための低減信号を生成し、更に風車方向が特定方向である場合には低減信号を騒音の発生周期だけ遅延させて、制御音をスピーカから放音させることにより、能動制御により騒音を低減することができるため、風力による発電効率を低下させずに、風車からの騒音を低減することができる。
次に、第3の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第3の実施の形態では、風車のタワーの周囲に、複数のセンサマイクが設けられている点と、センサマイクの位置が固定されている点とが、第1の実施の形態と主に異なっている。
図9に示すように、第3の実施の形態に係る風力発電システム310は、風車12と、風車12のタワーの表面に設けられた複数のセンサマイク314と、スピーカ16と、制御点マイク18と、複数のセンサマイク314及び制御点マイク18からの入力に基づいて、騒音を低減するようにスピーカ16から放音させる騒音低減装置320とを備えている。
図10に示すように、センサマイク314は、タワー26の表面に設置されたキャットウォーク(図示省略)上に、タワー26を囲むように複数設けられている。センサマイク314の各々は、等間隔で設置され、設置位置が固定されている。
センサマイク314の設置間隔dは、以下の式で示されるように低減対象となる騒音の周波数帯域の最大周波数fの音の波長λの1/2以下とする。
d≦λ/2
例えば、f=100Hzの場合、λ/2=1.7mであるため、1.7m間隔でセンサマイク314を設置すればよい。また、支柱の直径を4.3mとした場合には、タワーの円周の長さは13.5mであるため、1.7m以下の間隔で8個(=13.5/1.7)以上のセンサマイク314を設置すればよい。
図11に示すように、騒音低減装置320は、D/A変換器62と、パワーアンプ42と、複数のセンサマイク314からの音響信号を各々増幅する複数のマイクアンプ344と、複数のマイクアンプ344から出力される信号の何れかを切り替えて逆フィルタDSP46に出力するマイク切替部346と、逆フィルタDSP46と、遅延回路47と、マイクアンプ48と、逆フィルタ切替部52と、逆フィルタ演算部54と、遅延時間設定部72とを備えている。
マイク切替部346は、風車方向検出部50によって検出された風車方向に基づいて、上記図10に示すように、翼22とタワー26との間に位置するセンサマイク314に対応するマイクアンプ344から出力される信号に切り替えて、騒音源の近傍に存在するセンサマイク314からの音響信号を増幅した信号を、逆フィルタDSP46に出力する。
例えば、360°の風車方向を、センサマイク314の個数分に分割し(例えば8分割し)、分割された各方向と、タワー26の当該方向の表面に位置するセンサマイク314とが対応付けられている。マイク切替部346は、検出された風車方向に対応付けられたセンサマイク314からの音響信号を増幅した信号に切り替える。
次に、第3の実施の形態に係る風力発電システム310の動作について説明する。まず、制御点に制御点マイク18が設置され、風車方向が8方向の各々であるときに、マイク切替部346によって、当該風車方向に対応するセンサマイク14からの音響信号を増幅した信号に切り替える。逆フィルタ演算部54によって、マイク切替部346からの音響信号と、制御点マイク18からの音響信号とに基づいて、陽解法に従って、風車方向の各々に対する逆フィルタのフィルタ係数を演算し、逆フィルタ58のメモリに記憶させる。風車方向が、予め求められた特定方向となる場合には、遅延回路47に、騒音の発生周期Tを遅延時間として設定した状態で、逆フィルタ演算部54によって、当該風車方向に対する逆フィルタのフィルタ係数を演算し、逆フィルタ58のメモリに記憶させる。
各風車方向に対する逆フィルタが記憶されると、風車方向検出部50によって風車12の風車方向を検出し、騒音低減装置20のマイク切替部346によって、検出された風車方向に応じて、対応するセンサマイク314からの音響信号を増幅した信号に切り替えて逆フィルタDSP46に出力する。
これにより、騒音源の近傍に存在するセンサマイク314によって、風車12の翼22とタワー26との間の騒音源から放射された騒音が集音され、マイクアンプ344で音響信号が増幅されて、マイク切替部346を介して逆フィルタDSP46に入力される。
また、逆フィルタ切替部52によって、逆フィルタDSP46の逆フィルタ58に対して、検出された風車方向に対応する逆フィルタの係数を設定するように切り替える。また、遅延時間設定部72によって、検出された風車方向に応じて、遅延回路47に対して遅延時間(発生周期T又は0)を設定する。
そして、逆フィルタDSP46の逆フィルタ58は、A/D変換器56から入力されたデジタル信号と、設定されたフィルタ係数とを用いて、デジタルフィルタリング処理を行う。
逆フィルタ58でフィルタリング処理された低減信号は、バンドパスフィルタ60に入力され、所定の周波数帯域の信号のみが通過し、通過した信号は、遅延回路47に入力される。遅延回路47から出力された信号は、D/A変換器62に入力され、D/A変換されて、パワーアンプ42を介して、スピーカ16に出力される。そして、フィルタリング処理された信号に対応する音波が、制御音としてスピーカ16から制御点に向けて放音され、制御点において、風車12の騒音源からの騒音が、スピーカ16からの制御音により打ち消される。
風向きが変わり、風車方向(翼22の回転軸方向)が変化すると、風車方向検出部50によって風車方向が検出され、マイク切替部346によって、変化後の風車方向に対応するセンサマイク314からの音響信号を増幅した信号に切り替えて、逆フィルタDSP46に出力する。また、逆フィルタ切替部52によって、逆フィルタDSP46の逆フィルタ58に対して、検出された風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を設定するように切り替える。遅延時間設定部72によって、検出された風車方向に応じて、遅延回路47に対して遅延時間(発生周期T又は0)を設定する。そして、上述したように、スピーカ16から制御音が放音され、制御点において、風車12の騒音源からの騒音が、スピーカ16からの制御音により打ち消される。
以上説明したように、第3の実施の形態に係る風力発電システムによれば、風車方向に応じて、翼とタワーとの間に位置するセンサマイクを選択して騒音を集音すると共に、風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を用いて騒音を低減するための低減信号を生成し、更に風車方向が特定方向である場合には低減信号を騒音の発生周期だけ遅延させて、制御音をスピーカから放音させることにより、能動制御により騒音を低減することができるため、風力による発電効率を低下させずに、風車からの騒音を低減することができる。
次に、第4の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態及び第3の実施の形態と同様の構成となっている部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第4の実施の形態では、センサマイクが複数設けられている点と、複数の制御点に対してスピーカが複数設けられている点と、風車を中心に全方位の騒音を低減している点とが、第1の実施の形態と主に異なっている。
第4の実施の形態に係る風力発電システムでは、図12に示すように、風車12のタワー26のキャットウォーク上に複数のセンサマイク314が設けられており、また、風車12の翼22より内側であって、タワー26の表面付近に、タワー26を囲むようにして複数のスピーカ416が配置されている。また、複数のセンサマイク314及び複数のスピーカ416は、騒音低減装置420に接続されている。
複数のスピーカ416の各々は、等間隔で設置され、設置間隔dは、以下の式で示されるように低減対象となる騒音の周波数帯域の最大周波数fの音の波長λの1/2以下とする。
d≦λ/2
例えば、f=100Hzの場合、λ/2=1.7mであるため、1.7m間隔で複数のスピーカ416を設置すればよい。また、風車から半径aとなる円状に複数のスピーカ416を設置する場合には、以下の式で示されるn個以上配置する。
n=2πa/(λ/2)
複数のスピーカ416の各々に対して、風車12の外側であって、かつ、当該スピーカ416の放音方向に、制御点を決定し、逆フィルタのフィルタ係数を演算するときに、その制御点の各々に、制御点マイク418が設置される。
図13に示すように、騒音低減装置420は、複数のスピーカ416に対して、風車方向に応じて各々設定された遅延時間だけ信号を各々遅延させる複数の遅延回路447、及びデジタル信号をアナログ信号に変換する複数のD/A変換器462と、複数のD/A変換器462から出力された信号を増幅して各スピーカ416に入力する複数のパワーアンプ442と、マイクアンプ344と、マイク切替部346と、マイク切替部346から出力される信号に対して、各スピーカ416に対して、逆フィルタリングをかけて低減信号を各々生成して、対応する遅延回路447に出力する逆フィルタDSP446と、各制御点に設置された制御点マイク418からの音響信号を各々増幅する複数のマイクアンプ448と、風車方向検出部50からの出力に基づいて、逆フィルタDSP446の各スピーカ416に対応する逆フィルタを各々切り替える逆フィルタ切替部452と、マイク切替部346から出力された音響信号及び各制御点マイク418に対応するマイクアンプ448からの音響信号に基づいて、各スピーカ416に対して、風車方向毎の逆フィルタのフィルタ係数を各々演算して逆フィルタDSP446に記憶させる逆フィルタ演算部454と、回転数検出部70からの出力及び風車方向検出部50からの出力に基づいて、複数の遅延回路447による遅延時間を各々演算して設定する遅延時間設定部472とを備えている。
騒音低減装置420では、n個のスピーカ416に対して、遅延回路447、D/A変換器462、及びパワーアンプ442の各々がn個設けられている。
次に、信号を遅延させる原理について説明する。
図14に示すように、対応する制御点からスピーカ416までの距離より、制御点から、タワー26と翼22との間の騒音発生箇所までの距離の方が短いスピーカ416については、スピーカ416からの制御音が、騒音源からの騒音に対して間に合わない。例えば、1つ目、2つ目、8つ目のスピーカ416からの制御音は、対応する制御点において時間的に間に合わないので、それらのスピーカ416からの制御音を生成するときに、上記の第1の実施の形態と同様に、1周期前の音波を用いるように、対応する遅延回路447で各々遅延を与える。
これによって、図15に示すように、仮想的に、1つ目、2つ目、8つ目のスピーカ416が、対応する制御点までの距離が制御点から騒音発生箇所までの距離より短くなるように配置される。
一方、対応する制御点からスピーカ416までの距離より、制御点から騒音発生箇所までの距離の方が長いスピーカ416については、制御が間に合うため、集音した音波の信号をそのまま用いて制御する。例えば、3つ目〜7つ目のスピーカ416については、制御点に対して、騒音源よりスピーカ416が前にあるので集音した音波の信号をそのまま利用することができる。
すなわち、音源発生位置を0°とした場合、90°〜270°の位置にあるスピーカ416に対しては、集音した信号をそのまま用いて制御することが可能である。
以上のように制御すると、図15に示すように、楕円状に設置しなければ制御スピーカから放音される制御音が時間的に騒音源からの音波に間に合わないため制御できなかったものが、円状のままで制御できるようになり、水平面全体、360°方向に対して、騒音を低減することが可能となる。
遅延時間設定部472は、回転数検出部70によって検出された回転数に基づいて、騒音の発生周期Tを算出し、複数のスピーカ416の各々について、風車方向検出部50によって検出された風車方向が、対応する制御点から当該スピーカ416までの距離より、制御点から騒音発生箇所までの距離の方が短くなる特定方向である場合に、算出された発生周期Tを遅延時間として、対応する遅延回路447に設定する。また、遅延時間設定部472は、残りのスピーカ416については、検出された風車方向が、制御点から騒音発生箇所までの距離の方が短くなる特定方向ではないため、遅延時間を0として、対応する遅延回路447に設定する。
例えば、遅延時間設定部472には、360°の風車方向を、センサマイク314の個数分に分割し(例えば8分割し)、分割された各方向と、当該方向が風車方向となる場合に対応する制御点から騒音発生箇所までの距離の方が短くなる特定方向となるスピーカ416とが対応付けられている。遅延時間設定部472は、検出された風車方向を含む分割された方向に対応付けられたスピーカ416の各々に対して、発生周期Tを遅延回路447に設定し、その他のスピーカ416の各々に対して、遅延時間として0(遅延無し)を遅延回路447に設定する。
逆フィルタDSP446には、各スピーカ416に対して、マイク切替部346から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器456、風車方向毎のフィルタ係数が記憶された時不変の逆フィルタ458、及び低減対象の所定の周波数帯域(例えば、100Hz以下)の信号を通過させるようにフィルタリングを行うバンドパスフィルタ460が複数設けられている。
逆フィルタ演算部454は、各逆フィルタ458について、360°の風車方向を例えば8分割した8方向毎にフィルタ係数を算出してメモリ(図示省略)に各々記憶させる。
逆フィルタ切替部452は、風車方向検出部50によって検出された風車方向を含む上記8方向の何れかに対応するフィルタ係数に、各逆フィルタ458の設定を切り替える。
次に、第4の実施の形態に係る風力発電システムの動作について説明する。まず、各スピーカ416に対応する各制御点に制御点マイク418が各々設置され、風車方向が8方向の各々であるときに、マイク切替部346によって、当該風車方向に対応するセンサマイク14からの音響信号を増幅した信号に切り替える。また、逆フィルタ演算部454によって、各スピーカ416に対して、マイク切替部346からの音響信号と、対応する制御点マイク418からの音響信号とに基づいて、陽解法に従って、風車方向の各々に対する逆フィルタのフィルタ係数を演算し、当該スピーカ416に対応する逆フィルタ458のメモリに記憶させる。ここで、対象のスピーカ416について、風車方向が、対応する制御点から騒音発生箇所までの距離の方が短くなる特定方向となる場合には、対象のスピーカ416に対応する遅延回路447に、騒音の発生周期Tを遅延時間として設定した状態で、逆フィルタ演算部454によって、当該風車方向に対する逆フィルタのフィルタ係数を演算し、対応する逆フィルタ458のメモリに記憶させる。
これによって、複数の逆フィルタ458の各々に、風車方向の各々に対する逆フィルタのフィルタ係数が各々記憶される。
各風車方向に対する逆フィルタのフィルタ係数が各逆フィルタ458に記憶されると、風車方向検出部50によって風車12の風車方向を検出し、騒音低減装置20のマイク切替部346によって、検出された風車方向に応じて、対応するセンサマイク314からの音響信号を増幅した信号に切り替えて逆フィルタDSP446に出力する。
また、逆フィルタ切替部452によって、逆フィルタDSP446の各逆フィルタ458に対して、検出された風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を設定するように切り替える。遅延時間設定部472によって、検出された翼22の回転数に基づいて、発生周期Tを演算し、検出された風車方向に応じて、各遅延回路447に対して、遅延時間として発生周期T又は0(遅延無し)を設定する。
そして、逆フィルタDSP446の各逆フィルタ458は、対応するA/D変換器456から入力されたデジタル信号と、設定されたフィルタ係数とを用いて、デジタルフィルタリング処理を行う。
各逆フィルタ458でフィルタリング処理された低減信号は、対応するバンドパスフィルタ460に各々入力され、所定の周波数帯域の信号のみが通過し、通過した信号は、対応する遅延回路447に各々入力され、対応するD/A変換器462に各々出力される。
D/A変換器462に各々入力されると、D/A変換されて、対応するパワーアンプ442を介して、対応するスピーカ416に各々出力される。
このとき、フィルタリング処理された信号に対応する音波、即ち、騒音の逆相波であり、かつ、所定の周波数帯域の音波が、制御音として複数のスピーカ416から、対応する制御点に向けて各々放音される。従って、広い範囲において、風車12の騒音源からの騒音が、スピーカ416からの制御音により打ち消される。
また、風向きが変わり、風車方向(翼22の回転軸方向)が変化すると、風車方向検出部50によって風車方向が検出され、マイク切替部346によって、変化後の風車方向に対応するセンサマイク314からの音響信号を増幅した信号に切り替えて、逆フィルタDSP446に出力する。また、逆フィルタ切替部452によって、逆フィルタDSP446の各逆フィルタ458に対して、検出された風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を各々設定するように切り替える。遅延時間設定部472によって、検出された風車方向に応じて、複数の遅延回路447に対して遅延時間(発生周期T又は0)を各々設定する。
そして、上述したように、スピーカ416の各々から制御音が放音され、広い範囲において、風車12の騒音源からの騒音が、スピーカ416からの制御音により打ち消される。
以上説明したように、第4の実施の形態に係る風力発電システムによれば、風車方向に応じて、翼とタワーとの間に位置するセンサマイクを選択して騒音を集音すると共に、風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を用いて騒音を低減するための低減信号を生成し、また、風車方向が特定方向となるスピーカに対して低減信号を騒音の発生周期だけ各々遅延させて、制御音を複数のスピーカから放音させることにより、能動制御により騒音を低減することができるため、風力による発電効率を低下させずに、風車からの騒音を広い範囲で低減することができる。
また、風車における騒音源の位置の変化に対応して騒音を低減できるため、従来の能動制御で風車からの騒音を低減する場合に比べて、スピーカを風車のタワーの近くに設置することができる。これにより、スピーカの個数が少なくて済むため、システムの規模及びコストを抑えることができる。
なお、上記の実施の形態では、風車を中心に全方位に対して、騒音を低減する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、複数のエリアを含む一部の方位に対して、騒音を低減するように構成してもよい。この場合には、複数のエリアの各々に対して、スピーカ及び制御点マイクを設置し、各スピーカに対する低減信号を、それぞれの逆フィルタを用いたフィルタリング処理によって生成し、また、風車方向が特定方向となるスピーカに対する低減信号を遅延させればよい。
また、上記第1の実施の形態の技術を適用して、風車のタワーの表面付近に移動可能なセンサマイクを1つだけ設けるようにしてもよい。また、上記第2の実施の形態の技術を適用して、風車のナセルから吊るされたセンサマイクを1つだけ設けるようにしてもよい。
また、上記の第1の実施の形態〜第4の実施の形態では、風車の翼の回転数を検出して、騒音の発生周期を演算する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、風車の翼の回転速度を検出し、回転速度に基づいて、騒音の発生周期を演算するようにしてもよい。
また、遅延回路に対して遅延時間として0又は発生周期を設定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、風車方向に応じた騒音発生源からセンサマイクまでの距離及びスピーカから騒音発生源までの距離による音波のずれを更に考慮した遅延時間を、遅延回路に対して設定してもよい。
次に、第5の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態〜第4の実施の形態と同様の構成となっている部分については、同一符号を付して説明を省略する。
第5の実施の形態では、センサマイクが複数設けられている点と、スピーカが複数設けられている点と、風車を中心に全方位の騒音を低減している点とが、第1の実施の形態と主に異なっている。
第5の実施の形態に係る風力発電システムでは、風車12のタワー26のキャットウォーク上に複数のセンサマイク314が設けられており、また、風車12の翼22より内側であって、タワー26の表面付近に、タワー26を囲むようにして複数のスピーカ416が配置されている。また、複数のセンサマイク314及び複数のスピーカ416は、騒音低減装置520に接続されている。
何れかのスピーカ416に対して、風車12の外側であって、かつ、当該スピーカ416の放音方向に、制御点を決定し、逆フィルタのフィルタ係数を演算するときに、その制御点に、制御点マイク18が設置される。
図16に示すように、騒音低減装置520は、複数のスピーカ416に対して、風車方向に応じて各々設定された遅延時間だけ信号を各々遅延させる複数の遅延回路447、デジタル信号をアナログ信号に変換する複数のD/A変換器462と、複数のD/A変換器462から出力された信号を増幅して各スピーカ416に入力する複数のパワーアンプ442と、複数のセンサマイク314からの音響信号を各々増幅するマイクアンプ344と、複数のマイクアンプ344から出力される信号の何れかを切り替えて逆フィルタDSP46に出力するマイク切替部346と、マイク切替部346から出力される信号に対して、逆フィルタリングをかけて低減信号を各々生成して、複数の遅延回路447に出力する逆フィルタDSP46と、制御点に設置された制御点マイク18からの音響信号を増幅するマイクアンプ48とを備えている。
また、騒音低減装置520は、風車方向検出部50からの出力に基づいて、逆フィルタDSP46の逆フィルタを各々切り替える逆フィルタ切替部52と、マイク切替部346から出力された音響信号及びマイクアンプ48からの音響信号に基づいて、制御点に対応するスピーカ416に対して、風車方向毎の逆フィルタのフィルタ係数を各々演算して逆フィルタDSP46に記憶させる逆フィルタ演算部54と、風車方向検出部50からの出力に基づいて、複数の遅延回路447による遅延時間を各々演算して設定する遅延時間設定部572とを備えている。
騒音低減装置520では、n個のスピーカ416に対して、遅延回路447、D/A変換器462、及びパワーアンプ442の各々がn個設けられている。
次に、信号を遅延させる原理について説明する。
図17に示すように、生成された1つの低減信号に基づいて、全方位に対して騒音を低減するためには、騒音源を中心とした円状に、複数のスピーカを配置する必要がある。また、騒音源は、風車方向に応じて変化するため、風車方向に応じた騒音源を中心とした円状に、複数のスピーカを配置する必要がある。
そこで、複数のスピーカ416が、上述した円状に仮想的に配置されるように、低減信号を各々遅延させる必要がある。風車方向の各々について、各スピーカ416に対する遅延時間が以下のように予め算出され、遅延時間設定部572に記憶される。
まず、上記図17に示すように、目視と図面による確認とで、算出対象の風車方向に応じた翼22とタワー26との間の騒音源の位置(特定位置)を特定する。そして、騒音源の位置から最も離れた位置にあるスピーカ416(図17の5番目のスピーカ416)を選択し、選択されたスピーカ416と騒音源の位置との距離を計測する。計測された距離を、円状配列スピーカの半径Rとして決定する。各スピーカ416について仮想的な位置を、騒音源の位置を中心とした半径Rの円状に決定する。
そして、各スピーカ416について、スピーカ416が、対応する位置に仮想的に配置されるように、遅延時間を算出する。このとき、騒音源の位置から最も離れた位置にあるスピーカ416に対する遅延時間は、0(遅延なし)となる。
上記のように、風車方向毎に、各スピーカ416に対する遅延時間が予め算出され、遅延時間設定部572に予め記憶される。例えば、8分割された風車方向毎に、各スピーカ416に対する遅延時間が予め算出され、記憶される。
遅延時間設定部572は、風車方向検出部50によって検出された風車方向に応じて、対応する遅延時間を、各スピーカ416に対応する遅延回路447に設定する。
逆フィルタDSP46には、マイク切替部346から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器56、風車方向毎のフィルタ係数が記憶された時不変の逆フィルタ58、及び低減対象の所定の周波数帯域(例えば、100Hz以下)の信号を通過させるようにフィルタリングを行うバンドパスフィルタ60が複数設けられている。
逆フィルタ演算部54は、逆フィルタ58について、360°の風車方向を例えば8分割した8方向毎に、上記遅延時間設定部572により遅延回路447に遅延時間を設定した状態で、フィルタ係数を算出してメモリ(図示省略)に記憶させる。
逆フィルタ切替部52は、風車方向検出部50によって検出された風車方向を含む上記8方向の何れかに対応するフィルタ係数に、逆フィルタ458の設定を切り替える。
次に、第5の実施の形態に係る風力発電システムの動作について説明する。まず、何れかのスピーカ416に対応する制御点に制御点マイク18が設置され、風車方向が8方向の各々であるときに、マイク切替部346によって、当該風車方向に対応するセンサマイク14からの音響信号を増幅した信号に切り替える。また、逆フィルタ演算部54によって、マイク切替部346からの音響信号と、制御点マイク18からの音響信号とに基づいて、陽解法に従って、風車方向の各々に対する逆フィルタのフィルタ係数を演算し、逆フィルタ58のメモリに記憶させる。ここで、当該風車方向に応じて算出された各スピーカ416に対応する遅延時間が、遅延時間設定部572によって、各スピーカ416に対応する遅延回路447に設定された状態で、逆フィルタ演算部54によって、当該風車方向に対する逆フィルタのフィルタ係数を演算し、逆フィルタ58のメモリに記憶させる。
これによって、逆フィルタ58に、風車方向の各々に対する逆フィルタのフィルタ係数が記憶される。
各風車方向に対する逆フィルタのフィルタ係数が逆フィルタ58に記憶されると、風車方向検出部50によって風車12の風車方向を検出し、騒音低減装置20のマイク切替部346によって、検出された風車方向に応じて、対応するセンサマイク314からの音響信号を増幅した信号に切り替えて逆フィルタDSP46に出力する。
また、逆フィルタ切替部52によって、逆フィルタDSP46の逆フィルタ58に対して、検出された風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を設定するように切り替える。遅延時間設定部572によって、検出された風車方向に応じて、各遅延回路447に対して、当該風車方向に対して予め算出された遅延時間を各々設定する。
そして、逆フィルタDSP46の逆フィルタ58は、対応するA/D変換器456から入力されたデジタル信号と、設定されたフィルタ係数とを用いて、デジタルフィルタリング処理を行う。
逆フィルタ58でフィルタリング処理された低減信号は、バンドパスフィルタ60に入力され、所定の周波数帯域の信号のみが通過し、通過した信号は、複数の遅延回路447に各々入力され、対応するD/A変換器462に各々出力される。
D/A変換器462に各々入力されると、D/A変換されて、対応するパワーアンプ442を介して、対応するスピーカ416に各々出力される。
このとき、フィルタリング処理された信号に対応する音波、即ち、騒音の逆相波であり、かつ、所定の周波数帯域の音波が、制御音として複数のスピーカ416から、放音方向(風車12と逆方向)に向けて各々放音される。従って、広い範囲において、風車12の騒音源からの騒音が、スピーカ416からの制御音により打ち消される。
また、風向きが変わり、風車方向(翼22の回転軸方向)が変化すると、風車方向検出部50によって風車方向が検出され、マイク切替部346によって、変化後の風車方向に対応するセンサマイク314からの音響信号を増幅した信号に切り替えて、逆フィルタDSP46に出力する。また、逆フィルタ切替部52によって、逆フィルタDSP46の逆フィルタ58に対して、検出された風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を設定するように切り替える。遅延時間設定部572によって、検出された風車方向に応じて、複数の遅延回路447に対して、当該風車方向に応じて予め記憶された各スピーカ416に対する遅延時間を各々設定する。
そして、上述したように、スピーカ416の各々から制御音が放音され、広い範囲において、風車12の騒音源からの騒音が、スピーカ416からの制御音により打ち消される。
次に、円状のスピーカの中心に騒音発生箇所がある場合のアクティブ騒音制御による減音量のシミュレーションを行った。シミュレーション結果を図18(A)、(B)に示す。ここでは、騒音源とスピーカ間の距離を5.732mとし、スピーカが8個の場合についてシミュレーションを行った。中心周波数25Hzについて、図18(A)に示すような、減音量のシミュレーション結果が得られ、また、中心周波数40Hzについて、図18(B)に示すような、減音量のシミュレーション結果が得られた。制御点が一箇所であっても、360°方向に満遍なく減音することが可能であることがわかった。
以上説明したように、第5の実施の形態に係る風力発電システムによれば、風車方向に応じて、翼とタワーとの間に位置するセンサマイクを選択して騒音を集音すると共に、風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を用いて騒音を低減するための低減信号を生成し、また、風車方向に応じて、タワーと翼との間の騒音源の位置を中心とした円状の複数のスピーカに対応する位置との距離に応じた時間だけ、低減信号を各々遅延させて、制御音を複数のスピーカから放音させることにより、能動制御により騒音を低減することができるため、風力による発電効率を低下させずに、風車からの騒音を広い範囲で低減することができる。
また、風車における騒音源の位置の変化に対応して騒音を低減できるため、従来の能動制御で風車からの騒音を低減する場合に比べて、スピーカを風車のタワーの近くに設置することができる。これにより、スピーカの個数が少なくて済むため、システムの規模及びコストを抑えることができる。
なお、上記の実施の形態では、風車を中心に全方位に対して、騒音を低減する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、複数のエリアを含む一部の方位に対して、騒音を低減するように構成してもよい。この場合には、複数のエリアの各々に対して、スピーカを設置し、風車方向に応じて、各スピーカに対して、低減信号を各々遅延させればよい。
また、上記の第1の実施の形態における、風車の風車方向に応じてセンサマイクを移動させて騒音を集音する技術を適用してもよい。この場合には、制御点の位置に対応させて、センサマイクを1つ設ければよい。
また、上記の第2の実施の形態における、センサマイクが風車方向の変化に連動して騒音を集音する技術を適用してもよい。この場合には、制御点の位置に対応させて、センサマイクを1つ設ければよい。
また、上記の第1の実施の形態〜第5の実施の形態では、陽解法に代表される固定逆フィルタ法を用いて、逆フィルタのフィルタ係数を予め算出して、逆フィルタDSPに記憶しておく場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、filtered−X LMS法に代表される適応フィルタ法を用いて、逆フィルタのフィルタ係数をリアルタイムに算出するようにしてもよい。この場合には、制御点マイクを常時設定しておき、制御点マイクからの音響信号を用いて、リアルタイムに、風車方向に対応する逆フィルタのフィルタ係数を算出して、逆フィルタDSPに設定するようにすればよい。
また、風車における翼とタワーとの間の中間付近の特定位置が、低減対象の騒音の騒音発生源となる場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、風車の設計に応じて、風車の翼寄りの特定位置又はタワー寄りの特定位置を、騒音発生源としてもよい。