JP5190977B2 - 芳香族性化合物の位置選択的置換方法 - Google Patents

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Description

本発明は、新規の銅アート錯体、並びに、該錯体を用いて芳香族性化合物に位置選択的に置換基を導入する方法に関する。
有機化合物のメタル化反応には、有機リチウム剤が使用されてきたが、生成する有機リチウム化合物は、高い求核反応性のために官能基に制約があるうえに、不安定なため低温で使用しなければならないという別の制約もある。このため、安定でかつ適度の反応性のある別の有機金属化合物が求められてきたが、そのような金属として、亜鉛、アルミニウム、銅などが注目されてきた。
とりわけ、中心金属と有機配位子とからなるアート錯体(ate complex)は、中心金属が過剰に電子を保持しているため高い求核性を有している。この錯体は、ルイス酸性をもつ金属化合物に対してルイス塩基が配位したアニオン性の錯イオンから形成される。
本発明者らは、これまでにZn(II)及びAl(III)を用いたアート型塩基試薬、例えばR2Zn(TMP)Li(R=tBu又はMe;TMP=2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ)及びtBu3Al(TMP)Liを開発し、芳香環上への直接メタル化と、それに続く置換基導入反応を報告した(非特許文献1〜5)。これらの錯体は、室温で安定であり、芳香環上において水素-亜鉛交換又は水素-アルミニウム交換が室温下で円滑に進行し、芳香族亜鉛アート錯体又は芳香族アルミニウムアート錯体を容易に調製でき、選択的な脱プロトン化反応に使用できる。
銅アート錯体については、例えばR2CuLi及びR(X)CuLi(X=アルケニル,-CN,-SR',-NR'2など)タイプのギルマン試薬が知られているが、それらは熱的に不安定であるため取り扱いに制約がある。この試薬は、例えばα,β-不飽和カルボニル化合物の1,4-付加(マイケル反応)、sp3炭素上の置換反応などを行うことができる(非特許文献6)。
Y. Kondo, M. Shilai, M. Uchiyama, and T. Sakamoto, J. Am. Chem. Soc. 1999, 121:3539-3540 M. Uchiyama, T. Miyoshi, Y. Kajihara, T. Sakamoto, Y. Otani, T. Ohwada, and Y. Kondo, J. Am. Chem. Soc. 2002, 124:8514-8515 M. Uchiyama, H. Naka, Y. Matsumoto, and T. Ohwada, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126:10526-10527 内山真伸, 薬学雑誌2002, 122(1):29-46 根東義則, 薬学雑誌2002, 122(11):919-927 E. Nakamura, and N. Yoshikai, Bull. Chem. Soc. Jpn. 2004, 77:1-12
本発明は、様々な官能基を有する芳香族化合物及び含窒素芳香複素環化合物などの芳香族性化合物に対して位置及び化学選択的に特異的オルトメタル化(directed ortho metalation)を可能にする新規の銅アート錯体を提供することを目的とする。
本発明はさらに、上記銅アート錯体を使用する、官能基を有する(すなわち、官能化)芳香族化合物及び含窒素芳香複素環化合物の位置選択的置換基導入のための新規な方法を提供する。
これまで、芳香環の化学に銅(Cu)を使用する例が知られていなかったが、それだけ難しいアート錯体の設計が必要であったし、またそのような使用の可能性さえも不明であった。
このような状況において、本発明者らは、芳香環の化学に使用可能である安定でかつ反応性のある新規の銅アート錯体を見出し、本発明を完成した。
発明の概要:
すなわち、本発明は、要約すると、以下の特徴を有する。
本発明は、第1の態様において、下記の式I:
Figure 0005190977
[式中、
R1は、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のアルケニル基、置換又は未置換のジアルキルアミノ基、置換又は未置換のアリール基、置換又は未置換のアリールアルキル基、置換又は未置換のトリアルキルシリルアルキル基、置換又は未置換の、環内に1つもしくは複数のN、O又はSを含んでもよい、5〜7員の複素環基、或いは、下記の式II:
Figure 0005190977
(式中、R4及びR5は、水素原子であるか、又はそれらのいずれか一方もしくは両方が置換又は未置換のアルキル基を表し、R6及びR7は、水素原子であるか、又はそれらのいずれか一方又は両方が置換又は未置換のアルキル基を表し、ただしR4、R5、R6及びR7がアルキル基である場合、それらのアルキル基は同じでもよいし又は異なっていてもよい)によって表される、環内に1つもしくは複数のN、O又はSを含んでもよい、飽和又は不飽和の置換又は未置換の5〜7員環状二級アミン基を表し、R2は、置換又は未置換のジアルキルアミノ基、或いは式IIの前記環状二級アミン基を表し、R3は、シアノ基、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のアルケニル基、置換又は未置換のジアルキルアミノ基、又は式IIの前記環状二級アミン基を表す]によって表される銅アート錯体を提供する。
本発明の一の実施形態において、R1が、置換又は未置換のC1〜C6アルキル基、置換又は未置換のジ(C2〜C6アルキル)アミノ基、置換又は未置換のフェニル基、置換又は未置換のフェニル(C1〜C4)アルキル基、置換又は未置換のトリ(C1〜C6アルキル)シリルメチル又はトリ(C1〜C6アルキル)シリルエチル基、チエニル基、フラニル基、或いはモノ、ジ、トリもしくはテトラ(C1〜C6アルキル)置換ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基である。
好適実施形態において、R1が、メチル、エチル、n−プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(i-プロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(i-ブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、チエニル、トリメチルシリルメチル、フェニル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ、或いは2,2,6,6-テトラエチルピペリジノ基である。
本発明の別の実施形態において、R2が、置換又は未置換のジ(C2〜C6アルキル)アミノ基、或いはモノ、ジ、トリもしくはテトラ(C1〜C6アルキル)置換ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基である。
好適実施形態において、R2が、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(i-プロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(i-ブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ、又は2,2,6,6-テトラエチルピペリジノ基である。
別の好適実施形態において、R2が、ジ(i-プロピル)アミノ又は2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ基である。
本発明の別の実施形態において、R3が、シアノ基、置換又は未置換のC1〜C6アルキル基、置換又は未置換のC2〜C6アルケニル基、置換又は未置換のジ(C2〜C6アルキル)アミノ基、或いはモノ、ジ、トリもしくはテトラ(C1〜C6アルキル)置換ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基である。
好適実施形態において、R3が、シアノ基、メチル、エチル、n−プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(i-プロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(i-ブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ又は2,2,6,6-テトラエチルピペリジノ基である。
本発明の別の実施形態において、本発明の錯体が、下記の式:
[ThCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[(TMP)2Cu(CN)]2-・2Li+
[(NiPr2)2Cu(CN)]2-・2Li+
[MeCu(CN)(NiPr2)]2-・2Li+
[MeCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[nBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[tBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[TMSMCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[PhCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[(TMP)3Cu]2-・2Li+
[MeCu(TMP)2]2-・2Li+、及び
[Me2Cu(TMP)]2-・2Li+
(式中、Thはチエニルを表し、TMPは2,2,6,6-テトラメチルピペリジノを表し、NiPr2はジイソプロピルアミノを表し、Meはメチルを表し、nBuはn-ブチルを表し、tBuはt-ブチルを表し、TMSMはトリメチルシリルメチルを表し、Phはフェニルを表す)によって表される錯体からなる群から選択される。
本発明は、第2の態様において、上記定義の銅アート錯体と、電子供与性基又は電子吸引性基を有する単環もしくは多環芳香族化合物、及び含窒素芳香複素環化合物、からなる群から選択される芳香族性化合物とを反応させて、該芳香族性化合物が単環もしくは多環芳香族化合物である場合、その該電子供与性基又は電子吸引性基に対してオルト位又は隣接位の炭素原子に、或いは該芳香族性化合物が含窒素芳香複素環化合物である場合、複素環を構成する環内窒素原子に対して隣接位の炭素原子に、該銅アート錯体由来の基である-[Cu(R1)(R3)]2-・2Li+(ここで、R1及びR3は上記と同義である)を結合させて、芳香族銅アート錯体を生成し、さらにその生成物と親電子剤とを反応させて、該銅アート錯体由来の基に代えて該親電子剤由来の親電子性基を、該オルト位又は隣接位の炭素原子に導入することを含む、該芳香族性化合物に位置選択的に置換基を導入するための方法を提供する。
本発明は、第3の態様において、上記定義の銅アート錯体と、電子供与性基又は電子吸引性基を有する単環もしくは多環芳香族化合物、及び含窒素芳香複素環化合物、からなる群から選択される芳香族性化合物とを反応させて、該芳香族性化合物が単環もしくは多環芳香族化合物である場合、その該電子供与性基又は電子吸引性基に対してオルト位又は隣接位の炭素原子に、或いは該芳香族性化合物が含窒素芳香複素環化合物である場合、複素環を構成する環内窒素原子に対して隣接位の炭素原子に、該銅アート錯体由来の基である-[Cu(R1)(R3)]2-・2Li+(ここで、R1及びR3は上記と同義である)を結合させて、芳香族銅アート錯体を生成し、さらにその生成物と酸素分子とを反応させて、該銅アート錯体由来の基に代えて水酸基を該オルト位又は隣接位の炭素原子に導入するか、或いは該オルト位又は隣接位の炭素原子を介して該芳香族性化合物同士のカップリングを起こすか、或いは該オルト位又は隣接位の炭素原子に配位子カップリングを起こすことを含む、該芳香族性化合物に位置選択的に置換基を導入するための方法を提供する。
上記第2又は第3の態様の発明の実施形態において、上記銅アート錯体が、
[ThCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[(TMP)2Cu(CN)]2-・2Li+
[(NiPr2)2Cu(CN)]2-・2Li+
[MeCu(CN)(NiPr2)]2-・2Li+
[MeCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[nBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[tBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[TMSMCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[PhCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[(TMP)3Cu]2-・2Li+
[MeCu(TMP)2]2-・2Li+、及び
[Me2Cu(TMP)]2-・2Li+
(ここで、Th、TMP、NiPr2、Me、nBu、tBu、TMSM及びPhは上記と同義である)からなる群から選択される。
本発明の別の実施継体において、上記電子供与性基又は電子吸引性基が、シアノ、ハロゲン、モノ-、ジ-又はトリ-ハロゲン化アルキル、アミド、N-モノもしくはジアルキルアミノカルボニル、モノ-又はジ-アルキルアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルチオ、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、アミノ又は四級アミノである。
本発明の別の実施継体において、上記親電子剤が、ハロゲン分子、ハロゲン化アリル、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化シリル、ハロゲン化アリール、酸ハロゲン化物、酸無水物、エステル、アルデヒド、ケトン、ラクトン、エポキシ、ジエン、イソシアネート、チオイソシアネート、重水又はα,β-不飽和カルボニル化合物である。
定義:
本明細書中で使用する用語のいくつかを以下に説明するが、しかし、これらの用語は、当技術分野で一般的に使用されかつ理解されている最も広義の意味で使用されるものとする。
本明細書中で使用する「アート錯体」なる用語は、ルイス酸性をもつ金属化合物に対して、ルイス塩基が配位して形成されるアニオン性錯イオンを指す。金属化合物が銅化合物であるとき、「銅アート錯体」と称する。本発明の銅アート錯体は、金属原子に配位する配位子の数が3つからなる高配位型アート錯体である点で、従来公知のギルマン試薬(R2CuLiタイプ)とは異なる。
本明細書中で使用する「アルキル」なる用語は、直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基を指す。例えば「C1〜C4アルキル」なる表記は、炭素数1〜4のアルキルを意味する。
本明細書中で使用する「アルケニル」なる用語は、1つ又は複数のオレフィン性二重結合を含む、直鎖又は分岐鎖の脂肪族炭化水素基を指す。
本明細書中で使用する「アリール」なる用語は、ベンゼン環を含む単環又は多環芳香族炭化水素基を指す。
本明細書中で使用する「複素環基」なる用語は、環内に酸素原子、窒素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を1つ又は複数含む、飽和又は不飽和の単環又は縮合環炭化水素基を指す。
本明細書中で使用する「電子供与性基」及び「電子吸引性基」なる用語は、ある置換基の、それを構成する結合に恒久的な双極子(電荷の分離)が誘起される効果、いわゆる誘起効果、を指標にして、該置換基の誘起効果が相対的に大きいときその基を電子供与性基といい、一方、該置換基の誘起効果が相対的に小さいときその基を電子吸引性基という。本発明では、電子供与性基又は電子吸引性基が酸素原子、窒素原子、硫黄原子などの非共有電子対をもつ原子を含むならばその種類は制限されない。このような原子を含む基は、銅アート錯体のリチウムイオン(Li)を引き寄せ、一方、錯体のルイス塩基性の強い配位子が基質化合物のオルト位又は隣接位(又はα位)のプロトンに配位することによって、基質化合物と錯体との間に環状遷移構造が形成されると考えられる。
本明細書中で使用する「単環もしくは多環芳香族化合物」なる用語は、ベンゼン環が1つ又は複数、例えば2〜3つ、からなる芳香族炭化水素化合物を指す。多環芳香族化合物は、ナフタリンやアントラセンのような2つ以上のベンゼン環の縮合構造からなる。
本明細書中で使用する「含窒素芳香複素環化合物」なる用語は、5員以上の環、例えば5〜20員環、好ましくは5〜8員環、より好ましくは5〜7員の環内に1つ又は複数の窒素原子を含み、場合により1つ又は複数の酸素原子又は硫黄原子を含んでもよい、かつ1つ又は複数の不飽和結合(すなわち、二重結合)を含む複素環化合物、或いは該複素環と1又は複数のベンゼン環とが縮合した化合物をいう。
本明細書中で使用する「配位子カップリング」なる用語は、基質化合物にメタル化結合した銅アート錯体の電子供与性配位子(例えば、アルキルなど)がメタル化部位の炭素原子を攻撃して結合(すなわち、カップリング)し、同時に銅アート錯体が脱離することをいう。
本明細書中で使用する「位置選択的に置換基を導入する」なる用語は、基質化合物の所定の位置に選択的に置換が導入されることをいう。
本発明により、これまで報告例のなかった、銅(Cu)を用いた位置及び化学選択的な特異的オルソメタル化(directed ortho metalation)を行うことで添加剤なしでこれまで合成不可能であった化合物群の創製が可能となる。
1.銅アート錯体
下記の式I:
Figure 0005190977
によって表される銅アート錯体は、一価の銅原子にR1、R2及びR3からなる3つの配位子が配位することによってジアニオン型となり、これに2つのリチウムイオンが結合した構造をとっている。本発明によれば、3つの配位子R1、R2及びR3は、互いに独立して同じでもよい又は異なっていてもよい以下に示す基を含むことができる。しかし、後述する芳香族性化合物の位置選択的置換基導入反応において使用可能な本発明の銅アート錯体において、すべてのルイス塩基が配位子として適するわけではなく、例えばアルコキシやジメチルアミノを配位子として含む錯体は該反応を起こさなかった。
下記のR1、R2及びR3の各配位子において、それらが置換基を有する場合、置換基は、後述の位置選択的置換基導入のための基質としての芳香族性化合物の選択的メタル化反応に悪影響を与えない限りいずれの基であってもよい。置換基の例は、アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシなど、ヒドロキシ、アルキオチオ、例えばメチルチオ、エチルチオ、プロピルチオなど、オレフィン性二重結合を含むオレフィニル基(例えばアリール)、ニトリル基、C-C三重結合を含むアルキニル基、モノ又はジアルキルアミノ、例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノなど、ハロゲン原子、例えばF、Cl、Br及びIなどを含む。
(1.1)R1
R1の基は、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のアルケニル基、置換又は未置換のジアルキルアミノ基、置換又は未置換のアリール基、置換又は未置換のアリールアルキル基、置換又は未置換のトリアルキルシリルアルキル基、置換又は未置換の、環内に1つもしくは複数のN、O又はSを含んでもよい、5〜7員の複素環基、或いは、下記の式II:
Figure 0005190977
(式中、R4及びR5は、水素原子であるか、又はそれらのいずれか一方もしくは両方が置換又は未置換のアルキル基を表し、R6及びR7は、水素原子であるか、又はそれらのいずれか一方又は両方が置換又は未置換のアルキル基を表し、ただしR4、R5、R6及びR7がアルキル基である場合、それらのアルキル基は同じでもよいし又は異なっていてもよい)によって表される、環内に1つもしくは複数のN、O又はSを含んでもよい、飽和又は不飽和の置換又は未置換の5〜7員環状二級アミン基を含む。
アルキル基の例は、C1〜C20(炭素数1〜20を表す)、好ましくはC1〜C8、又はC1〜C6、より好ましくはC1〜C4アルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、これらのすべての異性体(光学異性体、幾何異性体を含む)、などを含む。
アルケニル基の例は、C2〜C20、好ましくはC2〜C8、又はC2〜C6、より好ましくはC2〜C4アルケニル基であり、例えばエテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、これらのすべての異性体(光学異性体、幾何異性体を含む)、などを含む。
ジアルキルアミノ基の例は、以下のものに限定されないが、ジ(C2〜C8アルキル)アミノ基、好ましくはジ(C2〜C6アルキル)アミノ基、より好ましくはジ(C2〜C4アルキル)アミノ基であり、例えば、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(イソプロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(イソブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、ジ(n−ペンチル)アミノ、ジ(イソペンチル)アミノ、ジ(n−ヘキシル)アミノなどを含む。アルキル部分は、上記のアルキルと同義であり、上記脱プロトン化を阻害又は抑制しないか、或いは反対に脱プロトン化を促進するならば、いかなる置換基で置換されていてもよい。置換基の例を挙げると、以下のものに限定されないが、アルコキシ、ヒドロキシ、アルキオチオ、オレフィン性二重結合を含む基(例えばアリル)、モノ又はジアルキルアミノ、ハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)などが含まれる。
アリール基の例は、フェニル基、フェニルアルキル基、例えばフェニルメチル、フェニルエチル、フェニルプロピルなど、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチルなどを含む。フェニル基は、例えばアルコキシ、例えばメトキシ、エトキシなど、モノ-又はジ−アルキルアミノ、例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノなど、アルキルチオ、例えばメチルチオ、エチルチオ、プロピルチオなど、アルキル、例えばメチル、エチル、n-又はイソ-プロピル、n-、t-又はイソ−ブチルなど、などの基によって置換されていてもよい。
トリアルキルシリルアルキル基の例は、トリ(C1〜C6アルキル)シリル(C1〜C6アルキル)基、好ましくはトリ(C1〜C4アルキル)シリルメチル又はトリ(C1〜C4アルキル)シリルエチル基、例えばトリメチルシリルメチル、トリメチルシリルエチル、トリエチルシリルメチルなどを含む。
5〜7員複素環基は、環内に酸素原子、窒素原子、硫黄原子などの非共有電子対をもつヘテロ原子を含み、かつ環内に1つ又は複数の二重結合、好ましくは2つ又は3つの共役二重結合、を有する複素環基であり、例えばチエニル、フラニル、ピリジル、チエピニル、ピラニル、チオピラニル、ピロリルなどが挙げられる。
上記の式IIの5〜7員環状二級アミン基は、二級アミノ窒素原子の両隣のα位とω位に電子供与性の置換基を1〜4つ有するものが好ましく、ここで、そのような電子供与性置換基の例は、立体障害を及ぼすような嵩高い基でないかつ電子供与性を有する基である、C1〜C6アルキル、好ましくはC1〜C4アルキル、C1〜C6アルコキシ、好ましくはC1〜C4アルコキシ、モノ又はジC1〜C6アルキルアミノ、好ましくはモノ又はジC1〜C4アルキルアミノ、ヒドロキシ、C1〜C6アルキルチオ、好ましくはC1〜C4アルキルチオなどが挙げられ、環状二級アミンの例は、例えば上記の電子供与性基で置換されたような、置換ピペリジノ、置換モルホリノ、置換ピロリジノ、置換ピロリル、置換ピラジル、置換イミダゾリルなどを含む。環状二級アミン基の好ましい例は、モノ、ジ、トリもしくはテトラC1〜C4アルキル置換ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基であり、より好ましくは、二級アミノ窒素原子の両隣のα位とω位にモノ、ジ、トリもしくはテトラC1〜C4アルキル置換基を有するピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基、さらに好ましくはα,ω-テトラC1〜C4アルキル-ピペリジノ、-モルホリノ又は-ピロリジノ基であり、本発明の好適実施形態によれば、2,2,6,6-テトラメチル-もしくはテトラエチル-ピペリジノ基が効果的に使用できる。
(1.2)R2
R2の基は、本発明の銅アート錯体にとって重要な基であり、置換又は未置換のジアルキルアミノ基、或いは、上記の式IIの前記環状二級アミン基である。これらの配位子は、芳香族性化合物の位置選択的置換基導入反応の際に、該化合物の選択的メタル化(水素-銅交換反応)を引き起こす脱プロトン化のために重要な役割を果たし、メタル化と同時に該化合物の水素原子を引き抜いて該錯体から脱離する。したがって、R2の基は、銅アート錯体の配位子のなかでもルイス塩基性の高い、すなわち電子供与性の大きい塩基であることが好ましく、上記のように、芳香族性化合物の電子供与性又は電子吸引性置換基のオルト位又は隣接位(又はα位)の水素原子を引き抜くことができる基であればその種類は制限されない。
ジアルキルアミノ基は、R1基に関して例示したものと同様であるが、R2基としてのジアルキルアミノ基は、R1基のものと同じでもよいし又は異なっていてもよい。その例は、以下のものに限定されないが、ジ(C2〜C8アルキル)アミノ基、好ましくはジ(C2〜C6アルキル)アミノ基、より好ましくはジ(C2〜C4アルキル)アミノ基であり、例えば、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(イソプロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(イソブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、ジ(n−ペンチル)アミノ、ジ(イソペンチル)アミノ、ジ(n−ヘキシル)アミノなどを含む。アルキル部分は、上記アルキルと同義であり、上記脱プロトン化を阻害又は抑制しないか、或いは反対に脱プロトン化を促進するならば、いかなる置換基で置換されていてもよい。ここで、置換基は、以下のものに限定されないが、例えばアルコキシ、ヒドロキシ、アルキオチオ、オレフィン性二重結合を含む基(例えばアリル)、モノ又はジアルキルアミノ、ハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)などが含まれる。
上記の5〜7員環状二級アミン基は、R1基に関して例示したものと同様であるが、R2基としての環状二級アミン基は、R1基のものと同じでもよいし又は異なっていてもよい。該アミン基は、二級アミノ窒素原子の両隣のα位とω位に電子供与性の置換基を1〜4つ有するものが好ましく、ここで、そのような電子供与性置換基の例は、立体障害を及ぼすような嵩高い基でないかつ電子供与性を有する基である、C1〜C6アルキル、例えばC1〜C4アルキル、C1〜C6アルコキシ、例えばC1〜C4アルコキシ、モノ又はジC1〜C6アルキルアミノ、好ましくはモノ又はジC1〜C4アルキルアミノ、ヒドロキシ、C1〜C6アルキルチオ、好ましくはC1〜C4アルキルチオなどが挙げられ、環状二級アミンの例は、例えば上記の電子供与性基で置換されたような、置換ピペリジノ、置換モルホリノ、置換ピロリジノ、置換ピロリル、置換イミダゾリルなどを含む。環状二級アミン基の好ましい例は、モノ、ジ、トリもしくはテトラ(C1〜C6アルキル)置換ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基、より好ましくはモノ、ジ、トリもしくはテトラ(C1〜C4アルキル)置換ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基であり、さらに好ましくは、α,ω-テトラ(C1〜C4アルキル)ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基であり、本発明の好適実施形態によれば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ基又は2,2,6,6-テトラエチルピペリジノ基が効果的に使用できる。
(1.3)R3
R3の基は、シアノ基、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のアルケニル基、
置換又は未置換のジアルキルアミノ基、又は式IIの上記環状二級アミン基である。
アルキル基の例は、C1〜C20(炭素数1〜20を表す)、好ましくはC1〜C8、又はC2〜C6、より好ましくはC1〜C4アルキル基であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、これらのすべての異性体(光学異性体及び幾何異性体を含む)などを含む。
アルケニル基の例は、C2〜C20、好ましくはC2〜C8、又はC2〜C6、より好ましくはC2〜C4アルケニル基であり、例えばエテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、これらのすべての異性体(光学異性体及び幾何異性体を含む)などを含む。
ジアルキルアミノ基は、R1基又はR2基に関して例示したものと同様であるが、R3基としてのジアルキルアミノ基は、R1基又はR2基のものと同じでもよいし又は異なっていてもよい。その例は、以下のものに限定されないが、ジ(C2〜C8アルキル)アミノ基、好ましくはジ(C2〜C6アルキル)アミノ基、より好ましくはジ(C2〜C4アルキル)アミノ基であり、例えば、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(イソプロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(イソブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、ジ(n−ペンチル)アミノ、ジ(イソペンチル)アミノ、ジ(n−ヘキシル)アミノなどを含む。アルキル部分は、上記アルキルと同義であり、上記脱プロトン化を阻害又は抑制しないか、或いは反対に脱プロトン化を促進するならば、いかなる置換基で置換されていてもよい。置換基の例を挙げると、以下のものに限定されないが、アルコキシ、ヒドロキシ、アルキオチオ、オレフィン性二重結合を含む基(例えば、アリルなど)、モノ又はジアルキルアミノ、ハロゲン原子(F、Cl、Br又はI)などが含まれる。
上記の5〜7員環状二級アミン基は、R1基又はR2基に関して例示したものと同様であるが、R3基としての環状二級アミン基は、R1基又はR2基のものと同じでもよいし又は異なっていてもよい。該アミン基は、二級アミノ窒素原子の両隣のα位とω位に電子供与性の置換基を1〜4つ有するものが好ましく、ここで、そのような電子供与性置換基の例は、立体障害を及ぼすような嵩高い基でないかつ電子供与性を有する基である、C1〜C6アルキル、例えばC1〜C4アルキル、C1〜C6アルコキシ、例えばC1〜C4アルコキシ、モノ又はジC1〜C6アルキルアミノ、好ましくはモノ又はジC1〜C4アルキルアミノ、ヒドロキシ、C1〜C6アルキルチオ、好ましくはC1〜C4アルキルチオなどが挙げられ、環状二級アミンの例は、例えば上記の電子供与性基で置換されたような、置換ピペリジノ、置換モルホリノ、置換ピロリジノ、置換ピロリル、置換ピラジル、置換イミダゾリルなどを含む。環状二級アミン基の好ましい例は、モノ、ジ、トリもしくはテトラ(C1〜C6アルキル)置換ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基、より好ましくはモノ、ジ、トリもしくはテトラ(C1〜C4アルキル)置換ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基であり、さらに好ましくは、α,ω-テトラ(C1〜C4アルキル)ピペリジノ、モルホリノ又はピロリジノ基であり、本発明の好適実施形態によれば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ基又は2,2,6,6-テトラエチルピペリジノ基が効果的に使用できる。
(1.4)好適例
本発明の好適な銅アート錯体は、式Iにおいて下記のR1、R2及びR3を配位子として含むことができる。
R1が、メチル、エチル、n−プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(i-プロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(i-ブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、チエニル、トリメチルシリルメチル、フェニル、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ、或いは2,2,6,6-テトラエチルピペリジノ基であり、
R2が、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(i-プロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(i-ブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、又は2,2,6,6-テトラメチル-もしくはテトラエチル-ピペリジノ基であり、及び、
R3が、シアノ基、メチル、エチル、n−プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(i-プロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(i-ブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ、又は2,2,6,6-テトラエチルピペリジノ基である。
上記の配位子を含む好適な銅アート錯体の例は、下記の式:
[ThCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[(TMP)2Cu(CN)]2-・2Li+
[(NiPr2)2Cu(CN)]2-・2Li、
[MeCu(CN)(NiPr2)]2-・2Li+
[MeCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[nBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[tBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[TMSMCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[PhCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
[(TMP)3Cu]2-・2Li+
[MeCu(TMP)2]2-・2Li+、及び
[Me2Cu(TMP)]2-・2Li+
(式中、Thはチエニルを表し、TMPは2,2,6,6-テトラメチルピペリジノを表し、NiPr2はジイソプロピルアミノを表し、Meはメチルを表し、nBuはn-ブチルを表し、tBuはt-ブチルを表し、TMSMはトリメチルシリルメチルを表し、Phはフェニルを表す)によって表される錯体からなる群から選択される。
(1.5)錯体の製法
本発明の銅アート錯体は、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒中、ハロゲン化銅(I)(ここで、ハロゲンはCl、Br又はI、好ましくはIである)又はシアン化銅(I)と、R1Li及び/又はR3Li及び/又はR2Li(ここで、R1、R2及びR3は、上記と同義である)を単独で又は組み合わせて、同時に又は逐次的に、低温(例えば-78℃〜約0℃)で約30分反応させることによって作製することができる。
例えば、[nBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+については、シアン化第一銅(CuCN)と、1当量のnBuLiを反応せてnBuCuCNLiを合成したのち、1当量の(TMP)Liとさらに反応させてnBuCu(CN)(TMP)Li2を合成することができる。
また、別の例である[(TMP)2Cu(CN)]2-・2Li+については、シアン化第一銅(CuCN)と、2当量の(TMP)Liとを反応させて(TMP)2Cu(CN)Li2を合成することができる。
作製した銅アート錯体は、作製後すぐに、芳香族性化合物のメタル化反応に使用されるのが好ましい。
該錯体の分析は、1H-NMRスペクトル、Ramanスペクトル、in situ FTIRスペクトルなどを用いて行うことができる(内山真伸, 薬学雑誌2002, 122(1):29-46)。例えば1H-NMRスペクトルによる分析では、本発明の錯体は、その配位子のメチル基シグナルの化学シフトが高磁場シフトするので、その生成を確認できる。
2.芳香族性化合物の位置選択的置換基導入反応
本発明の銅アート錯体は、単環又は多環(もしくは縮合環)芳香族化合物、或いは含窒素芳香複素環化合物、からなる芳香族性化合物の位置選択的メタル化のために使用され、中間体として得られた芳香族銅アート錯体はついで、種々の親電子剤との反応に使用される。
すなわち、本発明は、上記定義の銅アート錯体と、電子供与性基又は電子吸引性基を有する単環もしくは多環芳香族化合物、及び含窒素芳香複素環化合物、からなる群から選択される芳香族性化合物とを反応させて、
(a)該芳香族性化合物が単環もしくは多環芳香族化合物である場合、その該電子供与性基又は電子吸引性基に対してオルト位又は隣接位の炭素原子に、或いは、
(b)該芳香族性化合物が含窒素芳香複素環化合物である場合、複素環を構成する環内窒素原子に対して隣接位の炭素原子に、
該銅アート錯体由来の基である-[Cu(R1)(R3)]2-・2Li+(ここで、R1及びR3は上記と同義である)を結合させて、芳香族銅アート錯体を生成し、さらにその生成物と親電子剤とを反応させて、該銅アート錯体由来の基に代えて該親電子剤由来の親電子性基を、該オルト位又は隣接位の炭素原子に導入することを含む、該芳香族性化合物に位置選択的に置換基を導入するための方法を提供する。
単環もしくは多環芳香族化合物は、ベンゼン環が1つ又は複数、例えば2〜3つ、からなるすべての芳香族炭化水素化合物であり、多環芳香族化合物は、ビフェニルなどの複数のベンゼン環が単結合で結合したような化合物、ナフタリンやアントラセンのような複数のベンゼン環が縮合した化合物の両方を含むことを意図する。
含窒素芳香複素環化合物は、5員以上の環、例えば5〜20員環、好ましくは5〜8員環、さらに好ましくは5〜6員環、の環内に1つ又は複数の窒素原子を含み、場合により1つ又は複数の酸素原子又は硫黄原子を含んでもよい、かつ1つ又は複数の不飽和結合(すなわち、二重結合)を含むすべての複素環化合物、該複素環と1又は複数のベンゼン環とが縮合したすべての化合物を含む。
上記芳香族性化合物は、電子供与性基又は電子吸引性基を有しているべきであるが、これらの基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子などの非共有電子対をもつ原子を含むならばその種類は制限されない。このような原子を含む基は、銅アート錯体のリチウムイオン(Li)を引き寄せ、一方、錯体のルイス塩基性の強い配位子が基質化合物のオルト位又は隣接位(又はα位)のプロトンに配位することによって、基質化合物と錯体との間に環状遷移構造が形成されると考えられる。
電子供与性基又は電子吸引性基は、以下のものに限定されないが、例えばシアノ、ハロゲン、モノ-、ジ-又はトリ-ハロゲン化アルキル、アミド(-CONH2、N-モノアルキルアミド又はN-ジアルキルアミド、及び-NHCOR(ここでRはアルキルを表す)を含む)、N-モノもしくはジアルキルアミノカルボニル、モノ-又はジ-アルキルアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルチオ、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、アミノ、四級アミノなどである。ここで、ハロゲンは、F、Cl、Br又はIであり、アルキルは、例えばC1〜C20、好ましくはC1〜C8、又はC1〜C6、より好ましくはC1〜C4アルキルであり、アルコキシのアルキル部分は、アルキルの例と同様である。
上記親電子剤は、以下のものに限定されないが、例えばハロゲン分子、ハロゲン化アリル、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化シリル、ハロゲン化フェニル、酸ハロゲン化物、酸無水物、エステル、アルデヒド、ケトン、ラクトン、エポキシ、イソシアネート、チオイソシアネート、重水、α,β-不飽和カルボニル化合物やジエンなどの共役二重結合をもつ化合物である。
親電子剤として酸素分子を使用するときは、銅アート錯体由来の基である-[Cu(R1)(R3)]2-・2Li+(ここで、R1及びR3は上記と同義である)に代えて水酸基を、芳香族性化合物の置換基のオルト位又は隣接位の炭素原子に導入するか、或いは該オルト位又は隣接位の炭素原子を介して該芳香族性化合物同士のカップリングを起こすか、或いは該オルト位又は隣接位の炭素原子に配位子カップリングを起こすことができる。ここで、配位子カップリング反応の配位子は、銅アート錯体由来の配位子である。したがって、酸素分子を親電子剤とするときには、上記の3つの生成物の混合物を得ることができる。
上記のメタル化反応及び親電子剤との反応はともに、通常、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中、0℃〜室温の温度で行うことができる。反応時間は、0.5〜20時間である。また、溶媒として、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどの脂肪族エーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテルなどのエーテル系溶媒が好ましく使用できる。また、芳香族性化合物1当量に対して、銅アート錯体を1〜2当量、及び親電子剤を1.5〜3当量反応させることができる。
上記反応の生成物は、溶媒抽出、再結晶化、蒸留、シリカゲルクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー等の当業者に慣用の技術を用いて精製することができる。
また、生成物の同定は、標準サンプルの分析データとの一致を確認することが好ましいが、例えば融点、沸点、元素分析、スペクトル分析(例えば、1H-NMR、13C-NMR、Mass、IRなど)、TLCのRf値などに基づいて行うことができる。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されないものとする。
<実施例1>銅アート錯体の合成
以下に記載した種々の銅アート錯体をアルゴン(Ar)雰囲気下で合成した。なお、式中、Thはチエニルを表し、TMPは2,2,6,6-テトラメチルピペリジノを表し、NiPr2はジイソプロピルアミノを表し、Meはメチルを表し、nBuはn-ブチルを表し、tBuはt-ブチルを表し、TMSMはトリメチルシリルメチルを表し、Phはフェニルを表す。また、(TMP)Li溶液は、Ar 雰囲気下、TMP(0.34 mL,2.0 mmol)の脱水THF3 mL溶液にn-BuLi(2.44 M n-ヘキサン溶液0.82 mL, 2.0 mmol)を-78℃において滴下し、氷冷下30分間攪拌することによって作製した。[nBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中、0℃で30分、シアン化第一銅(CuCN)(183 mg)と、1当量のnBuLi(2.44 M n-ヘキサン溶液0.81 mL)を反応せてnBuCuCNLiを合成したのち、同じ温度で30分、1当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒5.0 mL)と反応させてnBuCu(CN)(TMP)Li2を合成した。なお、(TMP)Liは、TMPとnBuLiから合成した。
[(TMP)2Cu(CN)]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中、0℃で30分、シアン化第一銅(CuCN(183 mg)と、2当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、5.0 mL)とを反応させて(TMP)2Cu(CN)Li2を合成した。
[ThCu(CN)(TMP)]2-・2[Li+]は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中、0℃で30分、リチウムチエニルシアン化第一銅([ThCu(CN)]-・[Li+])(8.0 mL)と、1当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、5.0 mL)と反応させてThCu(CN)(TMP)Li2を合成した。
[(NiPr2)2Cu(CN)]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中、0℃で30分、シアン化第一銅(CuCN(183 mg)と、2当量の(NiPr2) Li(2.0 mL)とを反応させて(NiPr2)2Cu(CN)Li2を合成した。
[MeCu(CN)(NiPr2)]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中、0℃で30分、シアン化第一銅(CuCN)(183 mg)と、1当量のMeLi(0.91 Mジエチルエーテル溶液2.3 mL)を反応せてMeCuCNLiを合成したのち、同じ温度で30分、1当量の(NiPr2) Li(1.0 mL)と反応させてMeCu(CN) (NiPr2) Li2を合成した。
[MeCu(CN)(TMP)]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中、0℃で30分、シアン化第一銅(CuCN) (183 mg)と、1当量のMeLi(0.91 Mジエチルエーテル溶液2.3 mL)を反応せてMeCuCNLiを合成したのち、同じ温度で30分、1当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、5.0 mL)と反応させてMeCu(CN) (TMP) Li2を合成した。
[tBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中、0℃で30分、シアン化第一銅(CuCN) (183 mg)と、1当量のtBuLi(2.44 M n-ヘキサン溶液1.4 mL)を反応せてtBuCuCNLiを合成したのち、同じ温度で30分、1当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、5.0 mL)と反応させてtBuCu(CN) (TMP) Li2を合成した。
[TMSMCu(CN)(TMP)]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中、0℃で30分、シアン化第一銅(CuCN) (183 mg)と、1当量のTMSMLi(2.0 mL)を反応せてTMSMCuCNLiを合成したのち、同じ温度で30分、1当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、5.0 mL)と反応させてTMSMCu(CN) (TMP) Li2を合成した。
[PhCu(CN)(TMP)]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中、0℃で30分、シアン化第一銅(CuCN) (183 mg)と、1当量のPhLi(1.9 mL)を反応せてPhCuCNLiを合成したのち、同じ温度で30分、1当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、5.0 mL)と反応させてPhCu(CN) (TMP) Li2を合成した。
[(TMP)3Cu]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒( 5 ml)中、0℃で30分、ヨウ化第一銅(CuI) (381 mg)と、3当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、5.0 mL)とを反応させて(TMP)3CuLi2を合成した。
[MeCu(TMP)2]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒( 5 ml)中0℃で30分、ヨウ化第一銅(CuI) (381 mg)と、1当量のMeLi(0.91 Mジエチルエーテル溶液2.3 mL)を反応せてMeCuを合成したのち、同じ温度で30分、2当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、5.0 mL)と反応させてMeCu (TMP)2 Li2を合成した。
[Me2Cu(TMP)]2-・2Li+は、テトラヒドロフラン(THF)溶媒(5 ml)中0℃で30分、ヨウ化第一銅(CuI) (381 mg)と、2当量のMeLi(0.91 Mジエチルエーテル溶液4.6 mL)を反応せてMe2CuLiを合成したのち、同じ温度で30分、1当量の(TMP)Li(テトラヒドロフラン(THF)溶媒、5.0 mL)と反応させてMe2Cu(TMP) Li2を合成した。
上記反応はすべて、Ar 雰囲気下で行い、錯体は用時調製し、以下の反応に使用した。
また、錯体の生成は、1H-NMRスペクトルのメチル基の化学シフトの高磁場シフトに基づいて確認した。
<実施例2>N,N-ジイソプロピルベンズアミドへの位置選択的置換基の導入
Ar雰囲気下、N,N-ジイソプロピルベンズアミド1当量に対し、銅アート錯体MeCu(TMP)(CN)Li22当量を反応して芳香族銅アート錯体を得た後、ヨウ素(I2)、重水(D2O)、ヨードメタン(MeI)及び臭化アリル(allyl bromide)を反応させることにより、各々、90〜100%の高収率でオルト位に置換基が導入された目的化合物を得た。生成物の単離は、飽和NH4Cl-Na2S2O3水溶液に注ぎ、酢酸エチルにて抽出し、溶媒留去後、シリカゲルクロマトグラフィーにて精製することによって行った。目的化合物の2-ヨード−N,N−ジイソプロピルベンズアミドは、白色固体として得られ、次の分析値を有した。
400MHz 1H-NMR (CDCl3/TMS)δ(ppm): 7.81 (dd, 1H, J = 7.9 Hz, 0.8 Hz), 7.35 (td, 1H, J = 7.5 Hz, 1.2 Hz), 7.14 (dd, 1H, J = 7.5 Hz, 1.2 Hz), 7.02 (td, 1H, J = 7.1 Hz, 1.6 Hz), 3.46-3.63 (m, 2H), 1.56-1.61 (m, 6H), 1.26-1.28 (m, 3H), 1.06-1.08 (m, 3H); m/z (EI) 331 (M+)
さらにまた、上記の芳香族銅アート錯体をニトロベンゼンによる酸化を行うことにより、2-メチル-N,N-ジイソプロピルベンズアミドを収率96%で得た。また上記の芳香族銅アート錯体を酸素による酸化を行うことにより2-ヒドロキシ-N,N-ジイソプロピルベンズアミド(収率15〜78%)、及びN,N-ジイソプロピルベンズアミドの二量体(収率12〜31%)を得た。
上記の反応の反応条件及び生成物を、下記のスキームにまとめて示す。
Figure 0005190977
<実施例3>シアノベンゼンへの位置選択的置換基の導入
Ar雰囲気下、シアノベンゼン1当量に対し、表1に示した種々の銅アート錯体1.1当量又は2当量を、THF溶媒(15 ml)中、0℃で3時間反応して芳香族銅アート錯体を得た後、その反応混合液にヨウ素(7.0当量)を添加し、室温で16時間反応させることにより、シアノベンゼンのオルト位にヨウ素原子が導入された1-シアノ-2-ヨードベンゼンを得た。各々の錯体を用いたときの目的化合物の収率は、表1に示した。
Figure 0005190977
<実施例4>芳香族化合物への位置選択的置換基の導入
Ar雰囲気下、シアノベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、N,N-ジイソプロピルベンズアミド及びメトキシベンゼン各1当量に対し、銅アート錯体(TMP)2CuCNLi21.1当量又は2当量を、THF溶媒(15 ml)中、0℃で3時間反応して芳香族銅アート錯体を得た後、その反応混合液にヨウ素(7.0当量)を添加し、室温で16時間反応させることにより、各芳香族化合物のオルト位にヨウ素原子が導入された目的化合物を表2に示した収率で得た。
Figure 0005190977
<実施例5>芳香族性化合物への位置選択的置換基の導入
Ar雰囲気下、表3に示した芳香族性化合物各1当量に対し、銅アート錯体MeCu(TMP)CNLi22当量を、THF溶媒(15 ml)中、0℃で3時間反応して芳香族銅アート錯体を得た後、その反応混合液にヨウ素(7.0当量)を添加し、0℃又は-78℃で3時間反応させることにより、芳香族性化合物(#1〜#8)のオルト位に、又は芳香族性化合物(#9〜#10)の窒素原子に対し隣接位に、ヨウ素原子が導入された化合物が表3に示した収率で得られた。また、化合物No.10の芳香族銅アート錯体を重水(D2O)で処理したときには、窒素原子に対し隣接位の水素原子が100%重水素化された化合物が得られた。
Figure 0005190977
多種多様な芳香環において、位置及び化学選択的に銅アート錯体化することで、様々な官能基を導入することが可能となり、新たに様々な化合物を創製することができる。さらには官能基のオルト位選択的にヒドロキシル基を導入できる可能性を有する。これまで、官能基保存的にヒドロキシル基が導入された知見はほとんどなく、様々な機能性分子を創製、合成する上で、産業上非常に大きな利用価値がある。

Claims (6)

  1. 下記の式I:
    Figure 0005190977
    [式中、
    R1は、メチル、エチル、n−プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(i-プロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(i-ブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、チエニル、トリメチルシリルメチル、フェニル、又は2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ基であり、
    R2は、ジ(i-プロピル)アミノ又は2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ基であり、
    R3は、シアノ、メチル、エチル、n−プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、ジエチルアミノ、ジ(n-プロピル)アミノ、ジ(i-プロピル)アミノ、ジ(n-ブチル)アミノ、ジ(i-ブチル)アミノ、ジ(t-ブチル)アミノ、又は2,2,6,6-テトラメチルピペリジノ基である]
    によって表される、ただし[(NiPr2)2Cu(CN)]2-・2Li+ 及び[( t Bu)(N i Pr 2 )Cu(CN)] 2- ・2Li + (式中、N i Pr 2 はジイソプロピルアミノを表し、 t Buはt-ブチルを表す)を除く、銅アート錯体。
  2. 下記の式:
    [ThCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
    [(TMP)2Cu(CN)]2-・2Li+
    [MeCu(CN)(NiPr2)]2-・2Li+
    [MeCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
    [nBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
    [tBuCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
    [TMSMCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
    [PhCu(CN)(TMP)]2-・2Li+
    [(TMP)3Cu]2-・2Li+
    [MeCu(TMP)2]2-・2Li+、及び
    [Me2Cu(TMP)]2-・2Li+
    (式中、Thはチエニルを表し、TMPは2,2,6,6-テトラメチルピペリジノを表し、NiPr2はジイソプロピルアミノを表し、Meはメチルを表し、nBuはn-ブチルを表し、tBuはt-ブチルを表し、TMSMはトリメチルシリルメチルを表し、Phはフェニルを表す)によって表される錯体からなる群から選択される、請求項1に記載の銅アート錯体。
  3. 請求項1に記載の銅アート錯体、請求項2に記載の銅アート錯体 [(NiPr2)2Cu(CN)]2-・2Li+の銅アート錯体、並びに[( t Bu)(N i Pr 2 )Cu(CN)] 2- ・2Li + の銅アート錯体からなる群から選択される銅アート錯体と、電子供与性基又は電子吸引性基を有する単環もしくは多環芳香族化合物、及び含窒素芳香複素環化合物、からなる群から選択される芳香族性化合物とを反応させて、該芳香族性化合物が単環もしくは多環芳香族化合物である場合、その該電子供与性基又は電子吸引性基に対してオルト位又は隣接位の炭素原子に、或いは該芳香族性化合物が含窒素芳香複素環化合物である場合、複素環を構成する環内窒素原子に対して隣接位の炭素原子に、該銅アート錯体由来の基である-[Cu(R1)(R3)]2-・2Li+(ここで、R1及びR3は上記と同義である)を結合させて、芳香族銅アート錯体を生成し、さらにその生成物と親電子剤とを反応させて、該銅アート錯体由来の基に代えて該親電子剤由来の親電子性基を、該オルト位又は隣接位の炭素原子に導入することを含む、該芳香族性化合物に位置選択的に置換基を導入するための方法。
  4. 請求項1に記載の銅アート錯体、請求項2に記載の銅アート錯体[(NiPr2)2Cu(CN)]2-・2Li+の銅アート錯体、並びに[( t Bu)(N i Pr 2 )Cu(CN)] 2- ・2Li + の銅アート錯体からなる群から選択される銅アート錯体と、電子供与性基又は電子吸引性基を有する単環もしくは多環芳香族化合物、及び含窒素芳香複素環化合物、からなる群から選択される芳香族性化合物とを反応させて、該芳香族性化合物が単環もしくは多環芳香族化合物である場合、その該電子供与性基又は電子吸引性基に対してオルト位又は隣接位の炭素原子に、或いは該芳香族性化合物が含窒素芳香複素環化合物である場合、複素環を構成する環内窒素原子に対して隣接位の炭素原子に、該銅アート錯体由来の基である-[Cu(R1)(R3)]2-・2Li+(ここで、R1及びR3は上記と同義である)を結合させて、芳香族銅アート錯体を生成し、さらにその生成物と酸素分子とを反応させて、該銅アート錯体由来の基に代えて水酸基を該オルト位又は隣接位の炭素原子に導入するか、或いは該オルト位又は隣接位の炭素原子を介して該芳香族性化合物同士のカップリングを起こすか、或いは該オルト位又は隣接位の炭素原子に配位子カップリングを起こすことを含む、該芳香族性化合物に位置選択的に置換基を導入するための方法。
  5. 前記電子供与性基又は電子吸引性基が、シアノ、ハロゲン、モノ-、ジ-又はトリ-ハロゲン化アルキル、アミド、N-(モノもしくはジアルキル)アミノカルボニル、モノ-又はジ-アルキルアミノ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルチオ、カルボキシル、ホルミル、スルホニル、ニトロ、アミノ又は四級アミノ基である、請求項3又は4に記載の方法。
  6. 前記親電子剤が、ハロゲン分子、ハロゲン化アリル、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化シリル、ハロゲン化アリール、酸ハロゲン化物、酸無水物、エステル、アルデヒド、ケトン、ラクトン、エポキシ、ジエン、イソシアネート、チオイソシアネート、重水又はα,β-不飽和カルボニル化合物である、請求項3又は4に記載の方法。
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