図1に、本発明の加工条件設定装置の好ましい実施の形態の構成がブロック図で示される。実施の形態の加工条件設定装置は、基本的にパーソナルコンピュータと同じ構成を有しており、コンピュータ数値制御装置(CNC、Computerized Numerical Controller)に設けられるが、数値制御装置とネットワークで結ばれるパーソナルコンピュータに設けることができる。
加工条件設定装置は、入力装置1と、第1の記憶装置2と、第2の記憶装置3と、演算装置4を含んでなる。図1は、制御装置が加工条件設定装置として使用されることに限定して示しているが、各装置が加工条件を設定する以外の目的で動作することを制限するものではない。また、制御装置が数値制御を含む加工条件を設定する以外の目的で使用されるときは、図示されない必要な別の装置を制御装置に設けることができる。
加工条件設定装置の入力装置1は、キーボードまたはマウスのような操作装置、磁気ディスクまたは光ディスクのような記憶媒体からデータを読み込むことができるディスクドライブ、外部からデータを取り込むことができるUSBフラッシュメモリ(USB, Universal Serial Bus)のような外部記憶装置、LANアダプタ(LAN, Local Area Network)ようにコンピュータネットワークからデータを取り込むことができる通信装置と、必要な入出力インターフェースを含んでいう。
入力装置1は、加工要求のデータを加工条件設定装置に与える手段である。また、入力装置1は、基礎データを作成するときに必要な数値データを入力する手段である。図1では、入力装置1から入力された加工要求のデータは、入力装置1から演算装置4に直接出力されるように示されているが、実際に加工要求のデータが入力されるときは、演算装置4によって第1の記憶装置2または第2の記憶装置3に一旦記憶され、演算に必要なときに第1の記憶装置2または第2の記憶装置3から読み出される。
加工要求のデータは、加工における制約を示すパラメータとして加工条件を決定する上で初期に要求される加工に関する情報として与えられる。加工要求は、所望の加工面粗さのような加工結果のパラメータである場合がある。加工要求は、制御装置に直接パラメータ値を入力して与えられる場合に限らず、制御装置に入力される加工要求ではないパラメータ値から演算して求められて与えられる場合がある。
加工要求は、使用できる加工条件を制限するとともに加工結果に変動を及ぼす。形彫放電加工における加工要求は、例えば、所望の加工面粗さのような期待される加工結果、工具電極と被加工物の材質、電極減寸量、加工面積、加工深さ、加工形態(加工形状)、液処理方法がある。なお、加工形態のデータは、円柱形状や円錐形状のように加工形状(加工穴の輪郭形状)の特徴を幾何学的に直接示すデータだけではなく、リブ加工、ゲート加工、コアピン加工のように加工形状の特徴を間接的に示すデータを含んで総称していう。
設定されるべき加工条件の種類は、機械本機と加工用電源装置の仕様によって異なっている。そこで、以下、代表的に主要な電気条件であるピーク電流値、オン時間、オフ時間、サーボ基準電圧、極性、無負荷電圧について説明する。また、加工要求は、上記種類の加工条件を決定する上で、またはオフセット値を計算する上で必要なパラメータに限定して説明する。このとき、加工条件の組合せの中で全ての種類の加工条件が基礎データに基づいて1つずつ順番に決定される必要はなく、加工条件の種類によっては、ある加工条件の決定に従っていくつかの種類の加工条件を同時にまとめて決定することができる。
実施の形態の加工条件設定装置では、加工要求として、少なくとも所望の加工面粗さ、工具電極と被加工物の材質、電極減寸量(電極縮小代)を入力する。また、加工面積と加工深さを入力する。加工面積は、電極投影面積、電極表面積、加工穴の底面積の何れであってもよい。加工面積と加工深さは、加工要求のデータとして入力装置1から作業者が直接パラメータ値を入力するのではなく、加工穴の寸法と工具電極の寸法を入力することによって演算装置4で計算して加工条件設定装置に与えられる。また、加工面積と加工深さは、被加工物形状(加工形状)と工具電極形状の三次元形状データ(ソリッドデータ)を入力することによって、ソリッドデータから計算して得ることができる。
第1の記憶装置2は、大容量のハードディスクドライブのようなデータを記憶させておく補助記憶装置である。第1の記憶装置2として、磁気ディスクや光ディスクなどの記憶媒体にデータを読み書きするディスクドライブ装置を用いることができる。また、USBフラッシュメモリのような外部記憶装置でもよく、電源が切れている間も基礎データを記憶しておくことができるものであるならば限定されない。
第1の記憶装置2は、複数種類の基礎データを記憶しておく手段である。第1の記憶装置2は、必要に応じて、加工条件を決定するプロセスで最初に与えられるパラメータのデータを記憶する。具体的に、第1の記憶装置2は、予め工具電極と被加工物の材質毎にファーストカットで取り得る複数のピーク電流値のデータを対応する無負荷電圧と極性のデータと組み合わせて記憶している。複数のピーク電流値のデータは、加工条件設定装置が複数組の加工条件の組合せを登録したデータベースを有しているときは、新たに作成する必要がなく、既存のデータベースを利用することができる。
基礎データは、一方の種類のパラメータ(以下、主体パラメータという)のパラメータ値に対応する主体パラメータとの間に理論的な相関関係を有する他方のパラメータ(以下、従属パラメータという)のパラメータ値のデータを集積したデータである。したがって、基礎データは、複数種類のパラメータ間の理論的な相関関係を示している。理論的な相関関係を有する複数種類のパラメータには、加工条件と加工要求が含まれる。
複数種類のパラメータ間に理論的な相関関係があるということは、複数種類のパラメータ間に直接因果関係がある場合に限定されず、主体パラメータが科学的な根拠をもって直接または間接的に従属パラメータに影響を与えて従属パラメータのパラメータ値が決まるような相関関係が認められる場合を含む。したがって、本発明における基礎データは、少なくとも理論的な相関関係がない複数種類のパラメータのパラメータ値の集積または加工条件と加工結果とが組み合わされた加工データの単なる寄せ集めではなく、主体パラメータのパラメータ値が決定すると必ず対応する従属パラメータのパラメータ値が予め定められた誤差の範囲で決定する。そのため、基礎データによって得られる主体パラメータのパラメータ値に対応する従属パラメータのパラメータ値は、理論上正しい値であって信頼性が高い。
複数種類の基礎データは、それぞれ任意のデータファイル名が与えられてデータファイルの形式で第1の記憶装置2に記憶されている。複数種類のパラメータの理論的な相関関係を示す基礎データは、物理式や化学式で複数種類のパラメータ間の相関関係が示されるデータだけではなく、実際の加工で期待される加工結果が得られているサンプルデータのように経験値によって理論的に相関関係が示されるデータを含む。
基本的な基礎データは、理論的な相関関係を有する複数種類のパラメータにおける実際の加工で期待される加工結果が得られているサンプルデータを含むパラメータ値が確定的な代表的なデータの集積である。基本的な基礎データは、代表的なデータをばらばらに集積したデータではなく、複数種類のパラメータの相関関係における理論と精度を逸脱しない範囲で適当な近似式で連続するパラメータ値として表わすことができるデータである。したがって、基礎データは、代表的なデータを複数集積して理論的な相関関係を有する複数種類のパラメータの連続するパラメータ値のデータとして表わす近似式のデータを含んでいることがある。近似式を含む基礎データは、主体パラメータと従属パラメータとの理論的な相関関係を線グラフで表わすことができる。
基礎データが複数種類のパラメータ間の理論的な相関関係に基づく代表的なデータから連続するパラメータ値のデータを形成する近似式のデータを含んでいる場合、代表的なデータに存在しないパラメータ値が与えられたときに、単なる中間値データではなく、必ず主体パラメータのパラメータ値に対応する従属するパラメータの理論値を得ることができる。また、実用上許容される誤差の範囲で理論に基づく連続するパラメータ値を得ることができる数の代表的なデータが与えられていればよいので、基礎データを加工データに基づいて生成する場合は、数少ないテスト加工で信頼性の高い基礎データを作成することができる利点を有する。
実用上、中間値を必要としないパラメータに関する基礎データは、主体パラメータの代表的なパラメータ値または所定の範囲のパラメータ値に1対1で対応する主体パラメータとの間に理論的な相関関係を有する従属パラメータのパラメータ値または所定の範囲のパラメータ値でなるデータの集積である。このような基礎データは、主体パラメータと従属パラメータとの相関関係を示す対応表で表わすことができる。
第1の記憶装置2に記憶されている複数種類の基礎データは、サンプルデータを含む代表的なデータの数値を変更、削除、追加するようにして編集することができる。その結果、基礎データの精度を向上させ、出力されるパラメータ値の誤差をより小さくするように進化させることができる。また、サンプルデータを含むパラメータ値が確定的な代表的なデータから理論的な相関関係を有する連続するパラメータ値のデータを得ることができる近似式の種類を選択して変更することができる。その結果、新しい理論に基づいて容易に基礎データを再構築することができる。
第1の記憶装置2は、加工条件の組合せを生成するプログラムによって生成された加工条件の組合せを記憶させておくことができる。第1の記憶装置2に記憶された加工条件の組合せは、ディスクドライブ装置を通して記憶媒体に記憶させたり、USBポートを通してUSBフラッシュメモリに記憶させることができる。また、第1の記憶装置2に記憶される加工条件の組合せのデータは、加工条件番号を付けて既存の加工条件データベースの中に追加して登録させることができる。
第2の記憶装置3は、演算のために使用する揮発性メモリ(RAM, Random Access Memory)のような一時記憶装置である。第2の記憶装置3は、演算装置6との間で高速にデータのやり取りをできる一時的にデータを記憶しておくことができる記憶装置であればよい。
第2の記憶装置3は、入力装置1から入力された加工要求のデータ、演算装置4で生成された1組以上の加工条件の組合せのデータ、演算装置4の演算で得られた加工面粗さ、放電ギャップ、オフセット値のような演算結果のデータ、および演算装置4の演算に必要なデータを記憶しておく手段である。
演算装置4は、中央演算処理装置(CPU, Central Processing Unit)である。演算装置4は、基礎データに基づいて複数種類の加工条件を予め定められた順番に決定していき加工条件の組合せを生成し、生成された複数組の加工条件の組合せの中から要求される電極減寸量に最適な側面オフセット値になる加工条件の組合せを選択して設定する手段である。
演算装置4は、加工要求として入力装置1から入力された工具電極と被加工物の材質に基づいて工具電極と被加工物の材質毎に記憶されているファーストカットで取り得る1つ以上のピーク電流値のデータを選択して第1の記憶装置2から読み出す。実施の形態では、演算装置4は、ピーク電流値をピーク電流値に対応する無負荷電圧と極性とを組み合わせたデータで抽出する。そのため、ピーク電流値が同じ値であっても対応する無負荷電圧と極性がそれぞれ異なる場合は、別のデータとして読み込まれる。
演算装置4は、第1の記憶装置2から読み出された工具電極および被加工物の材質に基づいて選定されるファーストカットで取り得る1つ以上のピーク電流値のそれぞれに対して各ピーク電流値に適するオン時間とオフ時間を含む各種類の加工条件を基礎データに基づいて予め定められた順番に順次決定して1組以上の加工条件の組合せをファーストカットにおける加工条件の組合せの候補として生成する。
演算装置4は、候補として生成された複数組の加工条件の組合せにおける側面オフセット値を基礎データに基づいてそれぞれ求める。具体的に、側面オフセット値は、加工要求として入力装置1から入力された所望の加工面粗さと、基礎データに基づいて得られる各組の加工条件の組合せにおける加工面粗さ、側面放電ギャップ、側面安全代とから求められる。
このとき、基礎データに基づいて電極消耗量を求めて電極消耗量を考慮して側面オフセット値を計算させることができる。ただし、電極消耗量は、加工形状に対応して加工深さ位置によって異なるため、電極消耗量を計算する加工深さ位置を正確に指定しておかないと、ある加工深さ位置では電極消耗量を少なく見積もってしまうことが起こり、加工の失敗のおそれがある。
しかしながら、加工形状に対応して電極消耗量を計算する加工深さ位置を正確に指定することは、複雑な加工形状の場合は現在の技術レベルでは困難である。また、電極消耗量を考慮しないで求められる側面オフセット値の誤差によって生じる加工時間の差は全体の加工時間の僅かであるから、加工効率に殆ど影響しない。このようなことから、実施の形態の加工条件設定装置では、安全のため、電極消耗量を無視して側面オフセット値を計算するようにしている。
演算装置4は、候補の各組の加工条件の組合せにおける側面オフセット値を加工要求として入力装置1から入力された電極減寸量と順番に比較して、電極減寸量に適する側面オフセット値を得る加工条件の組合せをファーストカットの加工条件の組合せとして設定する。選定される最適の加工条件の組合せは、電極減寸量以下の値でかつ最も近い値の側面オフセット値を得る加工条件の組合せである。したがって、加工の失敗がなく、加工効率がより優れる加工条件の組合せが設定される。
演算装置4は、候補の加工条件の組合せの中から加工要求として入力される加工面積に対して取り得る平均加工電流値の加工条件の組合せを抽出して、抽出された加工条件の組合せの中で電極減寸量に適する側面オフセット値を得る加工条件の組合せを選択するようにしている。平均加工電流値は、ピーク電流値とオン時間とオフ時間から計算することができる。そのため、加工面積に対応して許容できない加工速度になる不適当なピーク電流値とオン時間とオフ時間との組合せを有する加工条件の組合せが排除されている。したがって、不適当な加工条件の組合せが設定されるおそれがより小さい点で有益である。
演算装置4は、加工面粗さ、側面放電ギャップ、および側面安全代は、基礎データに基づいて得るようにされている。そのため、求められる側面オフセット値は、加工結果からばらばらに寄せ集められた加工データから推測される中間値ではなく、計算して求められた理論値であるので、加工結果として偶然得られてしまった不適当な側面オフセット値が排除されている。また、加工条件の組合せ全体との間に直接理論的な相関関係を有していない側面オフセット値を理論的に求めることができる。その結果、加工結果にばらつきがなく信頼性の高い加工条件の組合せを決定することができる。
放電ギャップの大きさは、放電エネルギによって概ね推定することができる。放電エネルギの大きさは、ピーク電流値とオン時間の影響を大きく受けている。したがって、演算装置4は、ピーク電流値毎のオン時間と側面放電ギャップとの相関関係から側面放電ギャップを求める。
実際の加工では、放電ギャップは、いくつかの要因によって変動する。そこで、実施の形態の加工条件設定装置では、演算装置4は、放電エネルギに基づいて得られる放電ギャップを基本の放電ギャップとして既に知られている放電ギャップに影響を与えるいくつかの要因(パラメータ)によって補正するようにされている。したがって、実施の形態の加工条件設定装置は、側面放電ギャップの値を精密に推定することができ、より正確に側面オフセット値を求めることができる利点がある。
側面放電ギャップに影響を与えるパラメータは、例えば、無負荷電圧、電圧が加工間隙に印加されてから放電が発生するまでの不特定の遅れ時間(放電待機時間、無負荷時間、放電遅延時間)、加工深さがある。演算装置4は、放電エネルギに基づいて得られる基本の側面放電ギャップを補正するための1つ以上の基礎データに基づいて基本の側面放電ギャップを補正して最終的な側面放電ギャップを求める。基本の放電ギャップを補正するための基礎データは、他の種類の基礎データとともに第1の記憶装置2に記憶されている。
具体的に、演算装置4は、補正前の側面放電ギャップ毎の無負荷電圧と補正後の側面放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて基本の側面放電ギャップを補正する。次に、補正前の側面放電ギャップ毎の放電待機時間と補正後の側面放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて無負荷電圧で補正された側面放電ギャップを補正する。そして、補正前の側面放電ギャップ毎の加工深さと補正後の側面放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて放電待機時間で補正された側面放電ギャップを補正する。
また、演算装置4は、設定される加工条件の組合せにおけるファーストカットの底面オフセット値を基礎データに基づいて求める。底面オフセット値は、側面オフセット値と同様に、所望の加工面粗さと、基礎データに基づいて得られる各組の加工条件の組合せにおける加工面粗さ、底面放電ギャップ、底面安全代とから求められる。そのため、求められる底面オフセット値は、偶然得られてしまった不適当な値が排除された理論値であるので、加工結果にばらつきがなく信頼性の高い加工条件の組合せを決定することができる。
実施の形態の加工条件設定装置では、各組の加工条件の組合せにおける底面オフセット値をファーストカットの加工条件の組合せを決定する前に求めるようにしている。ただし、底面オフセット値は、電極減寸量によって制限される側面オフセット値と異なり、送り量を変えることによって調整することができるので、ファーストカットの加工条件の組合せが選択されて設定された後に求めるようにすることができる。
側面放電ギャップと同様に、放電エネルギに基づいて得られる基本の底面放電ギャップは、ピーク電流値毎のオン時間と側面放電ギャップとの理論的な相関関係を示す基礎データから求められる。放電エネルギに基づいて得られる基本の底面放電ギャップは、底面放電ギャップに影響を与えるパラメータによって補正され、より正確に底面オフセット値を求めるようにされる。底面放電ギャップに影響を与えるパラメータは、例えば、無負荷電圧、放電待機時間、加工深さがある。
具体的に、演算装置4は、補正前の底面放電ギャップ毎の無負荷電圧と補正後の底面放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて基本の底面放電ギャップを補正する。次に、補正前の底面放電ギャップ毎の放電待機時間と補正後の底面放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて無負荷電圧で補正された底面放電ギャップを補正する。そして、補正前の底面放電ギャップ毎の加工深さと補正後の底面放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて放電待機時間で補正された底面放電ギャップを補正する。
演算装置4は、セカンドカット以降の加工工程の加工条件の組合せについては、基礎データに基づいて所望の加工面粗さと設定されたファーストカットの加工条件の組合せにおける加工面粗さとから各加工工程における加工面粗さを求めて、各加工工程毎に各加工工程における加工面粗さから加工条件の組合せをそれぞれ設定する。
以上のように構成された本発明の加工条件設定装置は、電極減寸量で制限され、加工条件の組合せによって変動し、かつ加工条件の組合せ全体との間に直接理論的な相関関係を有していないファーストカットにおける側面オフセット値を理論的に求めることができるから、加工結果のばらつきの影響を受けず、加工要求として与えられた電極減寸量に最適な加工効率がよく信頼性の高い安全なファーストカットの加工条件の組合せをより容易に設定することができる。
また、本発明の加工条件設定装置は、少なくともファーストカットにおいて、少ない代表的なデータでなる基礎データに基づいて複数種類の加工条件を順番に決定していくので、許容される誤差範囲で側面オフセット値または電極減寸量にきめ細かく対応するように加工条件の組合せを膨大に準備しておく必要がない。そのため、テスト加工を大幅に減らすことができ、作業の負担が軽減される。
既に説明されているように、最終仕上げ加工工程で最終的に要求される所望の加工面粗さが得られるように、各加工工程で段階的に放電エネルギを小さくして加工面粗さが小さくなるように加工することから、ファーストカットの加工条件の組合せが決まると、セカンドカット以降の加工工程の加工条件の組合せは、ファーストカットの加工条件の組合せにおける加工面粗さと最終的に要求される所望の加工面粗さとで決まる各加工工程の加工面粗さで得ることができる。したがって、セカンドカット以降の各加工工程における加工条件の組合せを加工面粗さに基づいてデータベースから抽出して設定するようにしても、本発明の十分な利益を得ることができる。
実施の形態の加工条件設定装置は、演算装置4は、セカンドカット以降の各加工工程の少なくとも1つの加工工程においても、加工条件の組合せ全体と加工結果との関係で加工要求に適する加工条件の組合せを抽出して設定するのではなく、各種類の加工条件を理論的に順番に決定していき、加工条件の組合せを生成して設定するようにされている。具体的に、演算装置4は、セカンドカット以降の各加工工程毎に基礎データに基づいてオン時間とオフ時間を含む複数種類の加工条件を予め定められた順番に順次決定して加工条件の組合せを設定する。
そのため、比較的ばらつきが少ないものの加工時間に影響を与えるセカンドカット以降の中仕上げ加工工程における加工条件の組合せについても理論的に生成されるので、中間値的に加工条件の組合せを決定する場合に比べてより一層安定して加工要求に近い加工効率に優れる加工条件の組合せをより容易に設定できる利点がある。
また、演算装置4は、各加工工程の加工条件の組合せにおける底面オフセット値と側面オフセット値とを基礎データに基づいてそれぞれ求めるようにされている。特に、演算装置4は、各加工工程毎に所望の加工面粗さと基礎データに基づいて得られる各加工工程の加工条件の組合せにおける加工面粗さ、側面放電ギャップ、および側面安全代とから各加工工程の底面オフセット値と側面オフセット値を求める。そのため、各加工工程の加工条件の組合せに適切なオフセット値が理論的に求められ、信頼性が高く安全で加工効率のよい送り量と揺動量を決定できる。
セカンドカット以降の加工工程における放電エネルギに基づいて得られる基本の側面放電ギャップと底面放電ギャップは、ピーク電流値毎のオン時間と放電ギャップとの相関関係から求められる。さらに、放電エネルギに基づいて得られる基本の放電ギャップは、放電ギャップに影響を与えるパラメータによって補正される。セカンドカット以降の加工工程における放電ギャップに影響を与えるパラメータは、例えば、無負荷電圧と放電待機時間がある。
具体的に、演算装置4は、補正前の放電ギャップ毎の無負荷電圧と補正後の放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて放電エネルギに基づいて得られる基本の放電ギャップを補正する。次に、補正前の放電ギャップ毎の放電待機時間と補正後の放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて無負荷電圧で補正された底面放電ギャップを補正する。側面放電ギャップと底面放電ギャップとで求めるプロセスは同じであるが、使用される基礎データは異なる。
演算装置4は、加工要求として入力装置1から入力される加工深さとファーストカットにおける底面オフセット値からファーストカットにおける加工深さ方向の送り量を求める。また、演算装置4は、前段の加工工程における底面オフセット値と各加工工程における底面オフセット値とから各加工工程における加工深さ方向の送り量をそれぞれ求めるとともに、加工要求として入力装置1から入力される電極減寸量と各加工工程における側面オフセット値とから各加工工程における揺動量をそれぞれ求める。各パラメータの関係は、図10と図11に示されており、図10と図11の説明が参照される。
したがって、実際の加工における加工結果に基づいてばらばらに得られている単なる加工データから推測されるオフセット値ではなく、理論的に計算して求められるオフセット値に基づいてファーストカットから最終仕上げ加工工程までの各組の加工条件の組合せに適する加工効率がよく信頼性の高い安全な送り量と揺動量を自動的に決定することができる。その結果、NCプログラムの作成がより容易になる。
以下に、具体的に演算装置4の構成を説明する。加工条件生成部41は、工具電極および被加工物の材質で異なるファーストカットで取り得る1つ以上のピーク電流値を第1の記憶装置2に工具電極および被加工物の材質毎に記憶されている複数のピーク電流値のデータから選択して読み出す。
実施の形態の加工条件設定装置では、ピーク電流値を並列接続されたスイッチング回路の接続数で設定するように構成された形彫放電加工装置の加工用電源装置を想定している。そのため、ピーク電流値の実数値を計算するために無負荷電圧が特定されている必要がある。また、極性によって各種類の加工条件の相関関係におけるパラメータ値が異なるので、使用する基礎データを極性毎に選択して特定する必要がある。そこで、第1の記憶装置2に記憶されているファーストカットで取り得るピーク電流値のデータは、無負荷電圧と極性の組合せで記憶されており、演算装置4は、ファーストカットで取り得るピーク電流値と無負荷電圧と極性の組合せのデータを読み出すようにされる。
加工条件生成部41は、ピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて選択されたピーク電流値に対するオン時間を決定する。工具電極の消耗を考慮しなければ、最大の加工速度が得られるピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係でオン時間を決定することができる。工具電極の消耗を考慮するときは、電極消耗比と加工速度を考慮して所要の電極消耗比または加工速度が得られるピーク電流値に対するオン時間を決定する。
図2に示されるように、最大の加工速度が得られるピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係を示す基礎データと最低電極消耗比(電極無消耗)が得られるピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係を示す基礎データとに基づいてピーク電流値に対するオン時間の範囲を決定できる。そして、図3に示されるように、ピーク電流値毎のオン時間と電極消耗比との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて先に決定されたオン時間の範囲に対する電極消耗比の範囲が決定できる。
加工条件生成部41は、図4に示されるように、ピーク電流値と消耗比重視比率(消耗比重視度)との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて消耗比重視比率を決定して、先に決定された電極消耗比の範囲に対する消耗比重視比率から電極消耗比を求めて、図3に示される基礎データに基づいて所要の電極消耗比に対するオン時間を決定する。
消耗比重視比率は、どの程度工具電極の消耗を小さくすることを重視するかを百分率で示すパラメータである。図3は、消耗重視比率が100%のとき最低電極消耗比(電極無消耗)が得られるオン時間を示し、消耗重視比率が0%のとき最大の加工速度が得られるオン時間を示す。消耗比重視比率が加工要求として数値で入力して与えられているときは、消耗比重視比率を求めることなくオン時間を決定する。また、工具電極の消耗を考慮する必要がない加工では、消耗比重視比率が0%であるときのオン時間である。
加工速度と電極消耗比とは相反する関係にあるので、電極消耗比と消耗比重視比率に代えて加工速度と加工速度重視比率をパラメータとして用いてオン時間を決定するように構成することができる。このとき使用する基礎データは、ピーク電流値毎のオン時間と加工速度との理論的な相関関係を示す基礎データと、ピーク電流値と加工速度重視比率との理論的な相関関係を示す基礎データである。
オフ時間は、加工していない時間であるので、オフ時間が長過ぎると加工速度が遅くなる。また、オフ時間は、加工間隙の消イオン化を行なう期間であり、オフ時間が短すぎるとアーク放電のような加工に悪影響を与える不良放電の発生率が高くなる。オン時間が長くなるほど絶縁回復に要する時間が長くなるのでオフ時間を長くする必要がある。したがって、加工条件生成部41は、図5に示されるように、オン時間とオフ時間との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいてオフ時間を決定する。
サーボ基準電圧は、放電待機時間と無負荷電圧との積とオン時間と加工電圧との積の和をオン時間と非放電時間の和で除して計算することができる。加工電圧は、加工に寄与する正常な放電が発生して放電電流が供給されているときの放電電圧である。非放電時間は、放電していない時間であって放電待機時間とオフ時間の和である。放電待機時間は、単発放電では不特定でばらつきがあるが、実測値があると、オン時間に対する特定の期間における平均的な非放電時間は比較的正確に求めることができる。そのため、オン時間と非放電時間との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて非放電時間を得て、非放電時間からオフ時間を減算することによって放電待機時間が求められる。加工電圧は、工具電極と被加工物との材質毎にほぼ特定の値に定まる。
このことから、加工条件生成部41は、基礎データに基づいて理論的に放電待機時間と加工電圧を求めて、求められた放電待機時間と加工電圧、既に決定しているオン時間、オフ時間、無負荷電圧とからサーボ基準電圧を決定する。
加工条件生成部41は、加工面粗さ推論部42で求められる加工面粗さに基づいてセカンドカット以降の各加工工程におけるピーク電流値とオン時間を決定する。具体的には、加工条件生成部41は、加工面粗さ推論部42で先行して求められている当該加工工程の加工面粗さに対応するピーク電流値を決定して、決定したピーク電流値に対応するオン時間を求める。
加工条件生成部41は、ファーストカットと同様にして、オフ時間を含む各種類の加工条件を予め定められた順番で決定する。各種類の加工条件を決定するときに使用される基礎データは、ファーストカットと理論的な相関関係を有するパラメータの種類が同じでパラメータ値が異なる基礎データである。生成された加工条件の組合せは、第2の記憶装置3に一時的に記憶させておく。
加工面粗さ推論部42は、加工条件生成部41で生成されたファーストカットにおける1組以上の候補の加工条件の組合せにおける加工面粗さを第1の記憶装置2に記憶された基礎データに基づいて推論する。具体的に特定の加工条件の組合せにおける加工面粗さは、ピーク電流値毎のオン時間と加工面粗さとの相関関係を示す基礎データに基づいて理論的に得ることができる。推論されたファーストカットにおける加工面粗さは、第2の記憶装置3に記憶される。
加工面粗さ推論部42は、第2の記憶装置3に記憶されているファーストカットにおける加工面粗さと加工要求のデータとして入力装置1から入力された最終仕上げ面粗さである所望の加工面粗さから、ファーストカットの加工面粗さを段階的に小さくしていくように、前段の加工工程における加工面粗さに対する次の加工工程における加工面粗さとの相関関係を示す基礎データに基づいて各加工工程における加工面粗さを求める。
加工面粗さ推論部42は、各加工工程における加工条件の組合せが生成された後に、前段の加工工程における加工面粗さに対する次の加工工程における加工面粗さとの相関関係を示す基礎データに基づいて得られる加工面粗さとは別に、ピーク電流値毎のオン時間と加工面粗さとの相関関係を示す基礎データに基づいて加工面粗さを改めて推論し直す。このとき演算に使用する基礎データは、ファーストカットにおける加工面粗さを求めるときに使用する基礎データとパラメータの種類が同じでパラメータ値が異なるデータであって、ファーストカットで使用する基礎データとは別の基礎データである。
放電ギャップ推論部43は、加工条件生成部41で生成されたファーストカットで取り得る1組以上の加工条件の組合せにおける放電ギャップを第1の記憶装置2に記憶された基礎データに基づいて推論する。側面放電ギャップと底面放電ギャップは、それぞれ別の基礎データに基づいて推論される。既述のとおり、放電ギャップは、基本的にピーク電流値毎のオン時間と放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて求められ、放電ギャップに変動を与える複数種類のパラメータによって補正される。推論された放電ギャップは、第2の記憶装置3に一旦記憶される。
放電エネルギに基づいて得られる基本の放電ギャップを補正するときに、補正値を先に求めておいてから、求められている複数の補正値によって総合的に基本の放電ギャップを補正するようにすることができる。放電ギャップに対する影響が僅かである場合があるので、放電ギャップに変動を与える全ての種類のパラメータで基本の放電ギャップを補正する必要はない。また、放電ギャップに影響を与える可能性がある、例えば液処理の方法のような他の種類のパラメータで基本の放電ギャップを補正することができる。
放電ギャップ推論部43は、ファーストカットと同様の方法によってセカンドカット以降の加工工程の加工条件の組合せにおける放電ギャップを推論することができる。ただし、このとき演算に使用する基礎データは、ファーストカットにおける放電ギャップを求めるときに使用する基礎データとパラメータの種類が同じでパラメータ値が異なるデータであって、ファーストカットで使用する基礎データとは別の基礎データである。また、側面放電ギャップと底面放電ギャップとで、異なる基礎データを使用する。
オフセット値計算部44は、第2の記憶装置3に記憶されている最終仕上げ面粗さである所望の加工面粗さと、その加工条件の組合せにおける加工面粗さおよび放電ギャップを読み出すとともに、加工面粗さに対するどの程度の安全代を取るべきかを決める安全率との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて安全率を求めて、加工面粗さに安全率を乗算して安全代を推論し、加工面粗さと放電ギャップと安全代を加算してから所望の加工面粗さを減算してオフセット値を求める。オフセット値の計算は、側面と底面のそれぞれについて各加工工程毎に行なわれる。
加工条件設定部45は、第2の記憶装置3に記憶されているファーストカットにおいて取り得るピーク電流値毎に生成された加工条件の組合せの候補の中から加工面積に適する平均加工電流値を有する加工条件の組合せを抽出する。そして、加工条件設定部45は、抽出された各組の加工条件の組合せにおける側面オフセット値と入力装置2から入力され第2の記憶装置3に記憶されている電極減寸量とを比較して、電極減寸量以下の電極減寸量に最も近い側面オフセット値の加工条件の組合せをファーストカットの加工条件として出力する。
また、加工条件設定部45は、第2の記憶装置3に記憶されているセカンドカット以降の各加工工程における加工条件の組合せを読み出して、各加工工程における加工条件として設定する。設定された各加工工程の加工条件の組合せは、第2の記憶装置3に一旦記憶される。第2の記憶装置3に記憶されている各加工工程の加工条件の組合せは、それぞれ加工条件番号を付けて加工要求に対応させて第1の記憶装置2に保存しておくことができる。
演算装置4は、加工深さとファーストカットにおける底面オフセット値からファーストカットにおける加工深さ方向の送り量を求める。また、前段の加工工程における底面オフセット値と次段の加工工程における底面オフセット値とから次段の加工工程における加工深さ方向の送り量を順次求める。また、電極減寸量と各加工工程における側面オフセット値とから各加工工程における揺動量を求める。求められた送り量と揺動量に基づいて各軸方向の移動指令値が計算される。したがって、適切で信頼性の高い送り量と揺動量が得られるので、加工の失敗がなく、望ましい加工時間が得られ、加工効率が向上する。
このように、実施の形態の加工条件設定装置は、加工結果とは無関係にファーストカットで取り得る加工条件によって複数組の加工条件の組合せを生成してから、基礎データを使用して生成された各組の加工条件の組合せにおける加工結果をそれぞれ理論的に求めて複数組の加工条件の組合せの候補の中から加工要求に合う加工条件の組合せを決定して設定するようにされている。
そのため、特定種類の加工要求に対応する加工条件の組合せ全体を1つのデータとして抽出して設定する方法または特定種類の加工結果に対する特定種類の加工条件を決定して特定種類の加工条件から順次複数種類の加工条件を決定していく方法に比べてより少ない加工データで電極減寸量により近い側面オフセット値を得る加工条件の組合せを設定することができる。その結果、加工効率を向上させることができ、加工の失敗のおそれもない。また、大量のサンプルデータを用意する必要がなく、テスト加工による作業の負担が大幅に軽減される。
以下に、実施の形態の加工条件設定装置による加工条件の設定のプロセスを図6〜図10に示されるフローチャートを用いて説明する。図6に、ファーストカットで取り得るピーク電流値から加工条件の組合せを生成するプロセスが示されている。
ファーストカットにおける加工条件の組合せを生成する場合は、最初に、第2の記憶装置3に記憶されている加工要求のデータである工具電極と被加工物の材質の組合せのデータに基づいて第1の記憶装置2に記憶されている工具電極と被加工物の材質毎のピーク電流値のデータからファーストカットで取り得るピーク電流値のデータを読み出して第2の記憶装置3に記憶させる(S1)。
実施の形態における形彫放電加工装置の制御装置では、ピーク電流値のデータが実数値で設定されるように構成されていないので、ピーク電流値の実数値を計算する上で無負荷電圧を特定する必要があり、また、極性によってオン時間やオフ時間を決定するパラメータの相関関係が異なるので、ピーク電流値のデータは無負荷電圧と極性の組合せで記憶されている。したがって、同じピーク電流値であっても無負荷電圧と極性の組合せが異なるデータは、異なるデータとして全て読み出される。
並列接続されたスイッチング回路の接続数でピーク電流値を制御する構成の加工用電源装置の場合は、設定できるピーク電流値の数がスイッチング回路を接続する組合せの数で決まる。また、加工用直流電源の電源電圧が切換式の場合は、設定できる無負荷電圧は切り換えることができる電源電圧の数で決まる。極性は、正極と負極の2通りである。したがって、実施の形態では、読み出されるピーク電流値のデータ数は、適当な数に限定される。
ピーク電流値や無負荷電圧がアナログに可変できる構成の加工用電源装置の場合であっても、基本的には、実数値ではなく、制御装置で固有に規定されたパラメータ値で設定されるようになっているので、読み出されるピーク電流値のデータ数は適当な数に限定される。仮に、加工用電源装置がピーク電流値のデータ数に限定がない構成である場合は、予め工具電極と被加工物毎に記憶しておくピーク電流値のパラメータデータの数を限定しておくとよい。
このように、ファーストカットの加工条件の組合せを決定するときに最初に与えられるパラメータはピーク電流値であるが、与えられるパラメータ値がファーストカットで取り得ること以外は限定されないので、単なる加工データの集積である既存のデータベースがある場合は、既存のデータベースを利用してピーク電流値とピーク電流値に対応する無負荷電圧と極性のデータを抽出するようにすることができ、あえてピーク電流値のデータを別に用意する必要はない。
次に、ピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係からオン時間を決定する。ファーストカットにおいては、可能な限り短い加工時間で加工することが最も加工効率がよいのであるから、電極消耗比に制約がないとすると、設定されるべきオン時間は、最大の加工速度が得られるピーク電流値に対するオン時間である。したがって、最大の加工速度が得られるピーク電流値とオン時間の理論的な相関関係を示す基礎データに基づいてピーク電流値に対するオン時間を決定することができる。
加工速度は、放電一発毎の放電エネルギが大きいほど放電一発毎の取り量が多いために速くなる。放電一発毎の放電エネルギは、放電電流パルスの放電電流値に比例するので、ピーク電流値が高くオン時間が長いほど大きくなる傾向にある。ただし、放電加工は、繰返し放電を発生させて加工するものであるから、放電の繰返し周波数が低くなると加工効率はかえって低下するから、オン時間の上限が存在する。図2に、この理論に基づいて期待された加工結果が安定して得られている実際の加工における代表的データを近似式で近似して得られたピーク電流値に対するオン時間の相関関係を示す最大加工速度曲線の一例が示される。
ここで、実際の放電加工においては、底付穴の加工でピーク電流値が比較的高い加工の場合は、加工効率をある程度低い電極消耗比が要求される。例えば、加工速度を速くすることによって加工時間を短くしようとすると、工具電極の消耗がより大きくなり、それだけ取残しも多くなる。そのため、放電エネルギをより小さくして加工する次の加工工程以降の取り代が多くなって、加工全体に要する加工時間からみるとかえって長くなることがある。あるいは、比較的大きいピーク電流値で加工する加工工程で工具電極の消耗を無視すると、工具電極の本数が余計に必要になるおそれがある。そこで、電極消耗比を考慮してピーク電流値に対する最適なオン時間を決定する。
まず、図2に示されるように、最大の加工速度が得られるピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係を示す基礎データと最低電極消耗比(電極無消耗)が得られるピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係を示す基礎データとに基づいて選択されたピーク電流値に対するオン時間の範囲を決定する。
工具電極がグラファイトや銅で被加工物が鉄であるとき、ピーク電流値に対してオン時間がある割合以上長い放電電流パルス、いわゆるロングパルスを供給すると電極消耗比が小さくなることが知られており、オン時間が長いほど電極消耗比は小さくなる傾向にある。そこで、次に、図3に示されるように、この理論に基づいて期待された加工結果が安定して得られている実際の加工における代表的データを近似式で近似して得られたピーク電流値毎のオン時間と電極消耗比との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて先に求められたオン時間の範囲に対する電極消耗比の範囲を決定する(S2)。
加工要求として電極消耗比が与えられていない場合は、図4に示されるようなピーク電流値と消耗比重視比率との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて選択されたピーク電流値に対する消耗比重視比率を決定する。消耗比重視比率は、数値が大きいほど電極消耗比が小さいことが要求されることを意味する。基本的にオン時間が同じ値であるときにピーク電流値が大きい加工領域ほど工具電極の消耗が大きく、また取り代が多く加工誤差が大きくなるので、工具電極が消耗しにくい加工をするべきであると言える。この理論に基づいて、図4のようなピーク電流値に対する消耗比重視比率が与えられる。
加工要求として消耗比重視比率が数値で与えられている場合は、基礎データに基づいて求める必要はない。また、例えば、「電極無消耗」、「電極低消耗」、「電極有消耗」、「消耗重視」、「標準」、「速度重視」のように、加工要求として消耗重視度が曖昧に与えられている場合は、予め定められたルールによって消耗比重視比率を得るようにする。
消耗比重視比率が得られたら、電極消耗比の上限が消耗比重視比率0%、電極消耗比の下限が消耗比重視比率100%として、既に決定されている電極消耗比の範囲に対する消耗比重視比率で電極消耗比を得る(S3)。電極消耗比が得られたら、図3に示されるピーク電流値毎のオン時間と電極消耗比との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて電極消耗比に対するオン時間を決定することができる(S4)。
このとき、電極消耗比と加工速度は基本的に相反する関係にあるので、電極消耗比および消耗比重視比率に代えて加工速度および加工速度重視比率によってオン時間を決定するようにすることができる。また、最大の加工速度が要求される場合は、消耗比重視比率が0%、最低の電極消耗比が要求される場合は、消耗比重視比率が100%にされるので、図2に示される最大加工速度曲線または最低電極消耗比曲線でピーク電流値に対するオン時間を決定することができる。
オフ時間は、加工間隙の消イオン化に必要な時間であり、オン時間が長くなるほど消イオンに時間がかかるのでオフ時間が長く要求される。一方、オフ時間が長過ぎると加工時間が余計にかかる。したがって、オン時間が与えられると適するオフ時間が与えられる。そこで、次に、図5に示されるように、この理論に基づいて期待された加工結果が安定して得られている実際の加工における代表的データを近似式で近似して得られたオン時間とオフ時間との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいてオフ時間を決定する(S5)。
ところで、オン時間に対するオフ時間の基礎データは、テスト加工によって安定した加工結果が得られることがわかっている適当な比較的少ない数のオン時間に対するオフ時間のサンプルデータであるが、基礎データの中に予め設定されている最適な近似式のデータを含んでいる。オン時間が長くなるほどオフ時間が長くなるという理論に適する近似式は、累乗近似である。そのため、使用される基礎データは、オン時間とオフ時間との相関関係を連続するパラメータ値のデータとして表わされるので、サンプルデータが存在しないオン時間が与えられた場合でも、単なる中間値ではなく理論値としてサンプルデータが存在しないオフ時間を得ることができる。したがって、基礎データから求められるオフ時間は、信頼性が高い安全値であることがわかる。
オフ時間の次にサーボ基準電圧を決定する(S6)。平均加工電圧で工具電極を位置決めさせて加工間隙の距離を維持するようにサーボ制御する場合は、サーボ基準電圧は、平均加工電圧である。平均加工電圧は、放電待機時間と無負荷電圧の積にオン時間(放電時間)と加工電圧の積を加算した値を放電待機時間とオン時間とオフ時間の総和である放電1サイクルの総時間で除して表わされる。
ここで、オン時間とオフ時間は既に決定しているが、放電待機時間は不特定の時間である。無負荷電圧は、最初に与えられるピーク電流値のデータとともに与えられている。加工に寄与する正常な放電が発生して放電電流が流れているときの放電電圧である加工電圧は、工具電極と被加工物の材質毎におおよそ決まっており、工具電極と被加工物の材質毎の加工電圧を示す基礎データから得ることができる。したがって、放電待機時間がわかれば、サーボ基準電圧を求めることができる。
既述のとおり、放電待機時間は、単発放電では不特定でばらつきがある。しかしながら、実測値があると、オン時間に対する特定の期間における平均的な非放電時間は比較的正確に求めることができる。そこで、この理論に基づいて期待された加工結果が安定して得られている実際の加工における代表的データを近似式で近似して得られたオン時間と非放電時間との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて非放電時間を得て、非放電時間からオフ時間を減算することで放電待機時間を求める。
このようにして、複数種類のパラメータ間の理論的な相関関係を示す基礎データを用いてその他の種類の加工条件を順次決定していき、加工条件の組合せを生成する(S7)。したがって、順番に決定される加工条件は、パラメータ値が確定的である代表データが必要最低限存在しさえすれば、与えられたパラメータ値に対して信頼性の高い安全値として決定される。また、いくつかの種類の加工条件は、厳密に1つ1つ順番に決定する必要がなく、同時に決定することができる。
以上のプロセスを、最初に第2の記憶装置3に記憶されているファーストカットで取り得る全てのピーク電流値に対して繰返し行なって、各ピーク電流値毎に加工条件の組合せを生成する(S8)。生成された複数組の加工条件の組合せは、第2の記憶装置3に記憶される。
図7に、オフセット値の計算とファーストカットにおける加工条件を設定するプロセスが示されている。図8に、放電ギャップを推論するプロセスが示されている。以下、先のプロセスで生成された複数組の加工条件の組合せにおけるオフセット値の計算とファーストカットにおける加工条件を設定する方法を説明する。
先に、加工面粗さを推論する(S11)。放電加工回路における回路要素が同じであるとき、放電一発毎の放電エネルギが大きいほど放電痕のサイズが大きく深くなるので、一般に、放電エネルギが大きいほど加工面粗さが粗くなる。放電エネルギは、ピーク電流値とオン時間で概ね決まる。したがって、加工面粗さは、この理論に基づいて期待された加工結果が安定して得られている実際の加工における代表的データを近似式で近似して得られたピーク電流値毎のオン時間と加工面粗さとの相関関係を示す基礎データに基づいて求めることができる。
ただし、実際の放電加工では、加工環境の影響を受けて加工面粗さにばらつきが生じる。そのため、使用される基礎データにおけるピーク電流値毎のオン時間に対する加工面粗さの代表的なデータは、テスト加工で実測した標準的な加工面粗さのサンプルデータとする。また、加工深さ方向(底面方向)と側面方向で別々の基礎データを用意しておき、それぞれ所定の近似式で近似するようにすることによって基礎データの信頼性を高めるようにする。
次に、図8に示されるような計算プロセスで側面放電ギャップを推論する(S12)。放電ギャップの大きさは、基本的に放電エネルギに依存する。言い換えれば、放電ギャップの大きさに最も影響を与えるパラメータは、放電エネルギであって、放電エネルギによって放電ギャップの大きさが概ね推定できる。放電エネルギは、ピーク電流値とオン時間で概ね決まる。したがって、側面放電ギャップは、この理論に基づいて期待された加工結果が安定して得られている実際の加工における代表的データを近似式で近似して得られたピーク電流値毎のオン時間と側面放電ギャップとの相関関係を示す基礎データに基づいて求めることができる(S21)。
実際の放電加工では、放電ギャップは、いくつかの要因によって変動する。実際の加工における許容誤差の範囲で放電エネルギに基づいて推定される放電ギャップで十分であるが、放電ギャップに影響を与えるパラメータの種類によって、放電エネルギに基づいて得られる放電ギャップに数μm〜数十μmの差が生じる場合がある。そこで、より加工効率に優れる加工条件の組合せを得る場合は、放電エネルギに基づいて得られる放電ギャップを基本の放電ギャップとして可能な限り放電ギャップに影響を与える要因で基本の放電ギャップを補正して最終的な放電ギャップを推論することが好ましい。
実施の形態における放電ギャップの推論方法では、いくつかの要因を考慮して放電エネルギに基づいて得られる基本の放電ギャップを補正するプロセスが示される。具体的には、無負荷電圧、放電待機時間、加工深さによって基本の放電ギャップを補正する。無負荷電圧、放電待機時間、加工深さによって基本の放電ギャップを補正した場合、実際の加工における放電ギャップと基本の放電ギャップとの誤差を数十μm程度小さくすることができることが判明している。したがって、最終的に求める推定の側面オフセット値の精度を高くすることができる。
放電エネルギに基づいて得られる基本の放電ギャップを補正する場合、最初に無負荷電圧と補正後の放電ギャップとの理論的な相対関係を示す基礎データに基づいて基本の放電ギャップを補正する(S22)。次に、無負荷電圧で補正された放電ギャップ毎の放電待機時間と補正後の放電ギャップとの理論的な相対関係を示す基礎データに基づいて無負荷電圧で補正された放電ギャップを補正する(S23)。ファーストカットである場合は(S24)、放電ギャップが加工深さの影響を大きく受けることから、放電待機時間で補正された放電ギャップ毎の加工深さと補正後の放電ギャップとの理論的な相対関係を示す基礎データに基づいて放電ギャップをさらに補正する(S25)。
放電ギャップに影響を与えるパラメータを考慮して放電エネルギに基づいて得られる基本の放電ギャップを補正する場合、上記プロセスの順番で補正する必要がない。ただし、上記プロセスの順番を変更したときは、上記プロセスで演算に使用した基礎データと異なる基礎データを用意する必要がある。
最後に、側面安全代を推論する(S13)。安全代は、加工し過ぎを防止するものであるが、加工面粗さのばらつきに依存するものである。放電エネルギが大きく加工面粗さが粗いほど加工面粗さのばらつきが大きくなるので、安全代は、最大の加工面粗さを実測することで得ることができる。したがって、実際の加工における狙いの加工面粗さと実測した安全代のサンプルデータから失敗の可能性がない的確な安全率を決定できる。この理論に基づいて期待された加工結果が安定して得られている実際の加工における代表的データを近似式で近似して得られた加工面粗さと安全率との理論的な相対関係を示す基礎データに基づいて安全率を決定し、加工面粗さに安全率を乗じて安全代を推論する。
加工面粗さ、側面放電ギャップ、側面安全代をそれぞれ求めたら、図11に示されるように、加工面粗さと側面放電ギャップと側面安全代とを合わせた距離が側面オフセット値に最終仕上げ面粗さである所望の加工面粗さを合わせた距離になるので、加工面粗さと側面放電ギャップと側面安全代を加算した値から加工要求として入力装置1から入力され第1の記憶装置2に記憶されている最終仕上げ面粗さである所望の加工面粗さを減算して、側面オフセット値を計算する(S14)。
側面オフセット値を計算したら、側面オフセット値の計算と同じようにして底面オフセット値を計算する(S15)。側面オフセット値を計算する場合との大きな差異は、相関関係を有するパラメータの種類が同じでパラメータ値が異なる基礎データを使用して加工面粗さ、底面放電ギャップ、底面安全代を求めることである。
実施の形態における底面オフセット値の計算では、安全のためにファーストカットにおける加工条件の組合せを決定する前に候補として生成された全ての組の加工条件の組合せについて底面オフセット値を計算するようにしているが、底面オフセット値は、所定の範囲以内で送り量で調整することができるので、ファーストカットにおける加工条件の組合せを選び出して設定した後に、設定した加工条件の組合せに対してだけ底面オフセット値を計算するようにすることができる。
候補として生成された全ての組の加工条件の組合せについて側面オフセット値の計算をしたら(S16)、加工要求として入力装置1から入力されている加工面積に対して許容できない加工速度になる不適当な平均加工電流値になるピーク電流値、オン時間、オフ時間の組合せである加工条件の組合せを候補から排除する(S17)。このとき、側面オフセット値を計算する前に加工面積に対して不適当な平均加工電流値になる加工条件の組合せを候補から排除しておくようにしてもよい。
不適当な加工条件の組合せを排除して残った全ての加工条件の組合せについて、各組の加工条件の組合せにおける側面オフセット値を加工要求として入力装置1から入力されている電極減寸量と順番に比較する(S18)。側面オフセット値が電極減寸量を超える場合は、最終仕上げ寸法を超えてしまい所望の加工形状を得ることができないので、その加工条件の組合せは候補から排除される。
側面オフセット値が電極減寸量以下で、所定の誤差の範囲内で電極減寸量に近いほど、ファーストカットでの残し代が小さくなる。セカンドカット以降の加工工程は、段階的に放電エネルギが小さくされていくので、セカンドカット以降の加工工程における取り代が小さいほど加工効率がよい。したがって、残されている加工条件の組合せの候補の中から側面オフセット値が電極減寸量以下で電極減寸量に最も近い値を有する加工条件の組合せをファーストカットの加工条件として設定する(S19)。
図9に、仕上げ加工工程における加工条件を決定するプロセスが示される。以下、セカンドカット以降の加工工程における加工条件の設定のプロセスについて説明する。
セカンドカット以降の加工条件は、最終仕上げ面粗さである所望の加工面粗さによって制約を受けるので、まず、各加工工程における加工面粗さを求める(S31)。各加工工程の加工面粗さは、前段の加工工程における加工面粗さに対する次の加工工程における加工面粗さの相関関係を示す基礎データに基づいて決定する。加工面粗さは段階的に小さくされていくので、ある前段の加工工程における加工面粗さと次の加工工程における加工面粗さとの相関関係は、所望の加工面粗さと先に得られているファーストカットの加工条件の組合せにおける加工面粗さを結ぶ直線または曲線で表わされる。
各加工工程の加工面粗さが決定したら、各加工工程毎に加工条件の組合せを生成する。ファーストカットの場合と同様に加工面粗さに対して設定し得るピーク電流値に適する複数組の加工条件の組合せを候補として加工条件の組合せを設定するようにすることができるが、ファーストカットの場合に比べて取り得るピーク電流値の範囲が広く、生成する加工条件の組合せが多くなり、加工条件の組合せを決定するために相当の時間を要するおそれがある。そこで、実施の形態におけるセカンドカット以降の加工工程の加工条件の組合せを設定する方法では、要求される電極消耗比または加工速度に適するピーク電流値を1つに特定して、そのピーク電流値に適する各種類の加工条件を順次決定していくようにする。
要求される電極消耗比に適するピーク電流値を決定する場合は、具体的に、まず、加工面粗さ毎のピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係を示す基礎データ、最大の加工速度が得られるピーク電流値と時間との理論的な相関関係を示す基礎データ、および最低電極消耗比(電極無消耗)が得られるピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係を示す基礎データとに基づいて取り得るピーク電流値の範囲を仮に決定する(S32)。そして、加工面粗さ毎のピーク電流値と電極消耗比との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいてピーク電流値の範囲に対する電極消耗比の範囲を決定する(S33)。
加工要求として電極消耗比が与えられていない場合は、加工面粗さと消耗比重視比率との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいてその加工工程における加工面粗さに対応して消耗比重視比率を決定する。基本的にピーク電流値が大きい加工領域ほど工具電極の消耗が大きく、また取り代が多く加工誤差が大きくなるが、ピーク電流値が大きい加工領域は、加工面粗さが大きくなる。
この理論に基づいて、図4に示されるファーストカットにおけるピーク電流値と消耗比重視比率との相関関係とよく似ている傾向で各加工工程における加工面粗さと消耗重視比率との理論的な相関関係を表わすことができる。したがって、ファーストカットと別に作成されているセカンドカット以降におけるピーク電流値と消耗比重視比率との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて、当該加工工程における加工面粗さに対する適当な消耗比重視比率を得ることができる。このとき、加工要求として消耗比重視比率が数値で与えられている場合または加工要求として消耗重視度が曖昧に与えられている場合は、既に説明されているファーストカットのときと同様にして消耗比重視比率を決定する。
消耗比重視比率が得られたら、電極消耗比の上限が消耗比重視比率0%、電極消耗比の下限が消耗比重視比率100%として、既に決定されている電極消耗比の範囲に対する消耗比重視比率で電極消耗比を得る(S34)。電極消耗比が得られたら、加工面粗さ毎のピーク電流値と電極消耗比との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて電極消耗比に対するピーク電流値を求めてピーク電流値を決定する(S35)。
ピーク電流値が決まったら、加工面粗さ毎のピーク電流値とオン時間との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいてオン時間を決定する(S36)。ピーク電流値とオン時間が決まると放電エネルギが決まる。
ピーク電流値とオン時間を決定するプロセスにおいて、要求される加工速度に基づいてピーク電流値を決定する場合は、ピーク電流値に対する加工速度および加工速度重視比率との理論的な相関関係を示す基礎データを使用することでピーク電流値を決定することができる。また、先にオン時間を決定してピーク電流値を決定するようにすることができる。
加工間隙が狭いときは高い電圧を印加し、加工間隙が広くなるときは低い電圧を印加するようにすることで、加工間隙を安定させることができる。放電ギャップの大きさは、基本的に放電エネルギに依存しているので、ピーク電流値の大きさで無負荷電圧を決めることができる。この理論に基づいて期待された加工結果が安定して得られている実際の加工における代表的データを近似式で近似して得られた放電エネルギと無負荷電圧との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて無負荷電圧を決定する(S37)。
一般の放電加工回路における無負荷電圧は、複数の直流電源の組合せの電源電圧または可変電源電圧あるいは交流電源電圧で設定できる電圧値が決まっているので、無負荷電圧を得るために使用される基礎データは、代表的なデータを複数集積して所定の近似式で近似された連続するパラメータ値で表わされるデータではなく、特定の放電エネルギの範囲に1対1で対応して無負荷電圧が対応表形式で示されるデータである。
オフ時間は、オン時間とオフ時間との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて決定する(S38)。また、サーボ基準電圧は、オン時間と非放電時間との理論的な相関関係を示す基礎データに基づいて得られる放電待機時間と工具電極と被加工物の材質でおおよそ決まっている加工電圧(放電電圧)に、既に決定されている無負荷電圧、オン時間、オフ時間とから計算して決定する(S39)。
このようにして、各加工工程毎に加工条件を予め定められた順番で決定していき、加工条件の組合せを生成する(S40)。各加工工程において同じプロセスで各加工工程の加工条件の組合せを生成する(S41)。生成された加工条件の組合せは、加工条件番号が付されて各加工工程順に第2の記憶装置3に記憶される。全ての加工工程において加工条件の組合せが生成されたら、第2の記憶装置3に記憶された加工条件の組合せを第1の記憶装置2に記憶されている既存のデータベースに登録しておくことができる。
最終仕上げ加工工程あるいは最終仕上げ加工工程に近い仕上げ加工工程の場合は、最終的に要求される所望の加工面粗さを得るために、取り得るピーク電流値とオン時間の組合せが限定的である。したがって、最終仕上げ加工工程ないし最終仕上げ加工工程に近い仕上げ加工工程においては、従来のように、要求される加工面粗さに対応する加工条件の組合せを多数の加工条件の組合せを記録したデータベースから選択して設定するようにすることができ、全ての加工工程で実施の形態で開示されたプロセスで加工条件の組合せを設定することは要求されない。
また、最終仕上げ加工工程あるいは最終仕上げ加工工程に近い仕上げ加工工程では、設定された加工条件の組合せにおいて計算されるオフセット値と実際の加工におけるオフセット値との誤差は小さい。何れにしても、加工し過ぎは許されないので、どのような加工であっても必ず期待される加工誤差の範囲内で所望の加工形状寸法以内で加工が終了されるから、期待される加工誤差の範囲内で既存の加工条件の組合せのデータベースから要求される加工面粗さに対応する加工条件の組合せを抽出して選択設定したとしても、実際の加工で十分満足する適切な送り量と揺動量を得ることができる。
各加工工程における加工条件の組合せを生成したら、各加工工程毎に加工条件の組合せにおける側面オフセット値と底面オフセット値をそれぞれ求める。基本的に、ファーストカットの場合と同じプロセスで側面オフセット値と底面オフセット値を計算することができる。
ただし、ファーストカットにおいては、加工深さによって放電ギャップが数十μmの範囲で大きな変動があるが、セカンドカット以降の各加工工程では、工具電極が加工穴に挿入されている状態で加工が実施されるので、加工深さに対して放電ギャップの大きさは殆んど変わらない。したがって、図8に示されるように、放電ギャップを推論するときに、セカンドカット以降である場合は(S24)、加工深さによって放電エネルギに基づいて基本の放電ギャップを補正する必要がない。
セカンドカット以降の各加工工程で使用する基礎データは、ファーストカットのときの基礎データとパラメータの種類が同じでパラメータ値が異なるデータである。なお、最終仕上げ加工工程では、側面オフセット値および底面オフセット値は、側面放電ギャップに相当する。
以下に、ファーストカットを含む各加工工程における加工深さ方向の送り量とセカンドカット以降の各加工工程における揺動量を設定するプロセスを説明する。ファーストカットにおける送り量は、加工深さとファーストカットにおける底面オフセット値から求める。ファーストカットの送り量は、加工要求として入力装置1から入力される加工深さから側面オフセット値を引いた距離で求められる。実際の加工では、図10に示されるように、加工開始位置から加工が開始されるので、ファーストカットで工具電極が送られる距離は、加工開始位置から上面基準までの距離を加算した距離になる。ただし、アブソリュート方式でNCプログラムを作成する場合は、座標位置で指令するので、上面基準からの送り量が与えられればよいことがわかる。
セカンドカット以降の各加工工程の送り量は、前段の加工工程における底面オフセット値と次の加工工程における底面オフセット値とから求める。図10に示されるように、次の加工工程の送り量は、前段の加工工程における底面オフセット値から次の加工工程における底面オフセット値を引いた値である。
セカンドカット以降の各加工工程の揺動量は、ファーストカットにおける側面オフセット値または電極減寸量と各加工工程における側面オフセット値とから求める。図11に示されるように、次の加工工程の揺動量は、ファーストカットの側面オフセット値または電極減寸量から次の加工工程におけるオフセット値を引いた値である。
送り量は移動指令値に変換されて移動プログラムが生成される。揺動量は、加工条件の組合せに対応して記憶される。加工条件の組合せから加工時間を計算して、生成された各加工条件は、加工面粗さ、加工時間、オフセット値のような加工結果のデータおよび揺動量とともに加工条件表の形式で加工計画として表示装置の表示画面上に表示される。
生成された移動プログラムのデータは、NCプログラムの主要部分としてNCプログラムのフォーマットに変換される。また、生成された加工条件表の形式で表わされる各加工条件の組合せのデータは、NCプログラムのヘッダ部分としてNCプログラムのフォーマットに変換される。主要部分とヘッダ部分は組み合わされて、1つのNCプログラムのデータファイルとして出力され、データファイル名が付けられて第1の記憶装置2に保存される。
以上に説明される加工条件設定装置は、既にいくつかの変形例が示されているように、実施の形態の構成に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で変更、置換、追加のように変形して実施することができる。また、複数組の加工条件の組合せが記録された加工条件データベースを有する既存の加工条件設定装置と併用することができる。