JP5183136B2 - ステアリングラックおよびこれを備えるステアリング装置ならびにステアリングラックの製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、製造にかかる手間を少なくすることのできるステアリングラックおよびこれを備えるステアリング装置ならびにステアリングラックの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記のステアリングラックを備えるステアリング装置(1)を提供するものである(請求項3)。本発明によれば、ステアリング装置の製造にかかる手間をより少なくできる。
図1は、本発明の一実施の形態のステアリングラックを備えるステアリング装置としての車両用電動パワーステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と、操舵部材2に連結されているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結されている中間軸5と、この中間軸5に自在継手6を介して連結されているピニオン軸7と、ピニオン軸7の先端部に設けられたピニオン8に噛み合うラック歯部としての歯部9を形成して車両の左右方向に延びるステアリングラック10とを有している。
トーションバー15の近傍には、トーションバー15のねじれに起因する第1の操舵軸13と第2の操舵軸14との相対回転変位量を検出するトルクセンサ16が設けられている。このトルクセンサ16の検出信号は、制御部17に与えられる。制御部17は、トルクセンサ16からの検出信号に基づいて操舵部材2に加えられた操舵トルクを算出する。そして、算出した操舵トルクや車速センサ18からの車速検出信号等に基づいて、ドライバ19を介して操舵補助用の電動モータ20の駆動を制御する。これにより、電動モータ20が駆動し、その出力回転(動力)が、ウォーム減速機構等の減速機21で減速されて第2の操舵軸14へ伝達される。第2の操舵軸14に伝えられた動力は、さらに中間軸5等を介して、上記ステアリングラック10等を含む舵取り機構22に伝えられ、運転者の操舵が補助される。
歯部9は、歯厚方向Lに相対向する一対の歯面61,62を含んでいる。各歯面61,62は、それぞれ、平坦な面をなしている。
一方の歯面61からの深さd(歯面61と垂直な方向の深さ)が歯部9のモジュールmの20%(d=0.2m)となる位置を通る第1の仮想の面63と、歯部形成部24の表面27とが交差して第1の交差部64が構成されている。
歯厚方向Lに関する歯部9の頂部26の一方の端部67が第1の交差部64と一致し、他方の端部68が第2の交差部66と一致している。
具体的には、(i)歯部9の頂部26(歯先)での有効硬化層深さaは頂部26の範囲内での最小値であり、この有効硬化層深さaが歯部9の全歯たけhの105%以下(a≦1.05h)とされ、且つ(ii)歯部9の頂部26での有効硬化層深さaおよび歯底部23での有効硬化層深さbのそれぞれが、歯部9のモジュールmの20%以上(0.2m≦a、0.2m≦b)とされている。
有効硬化層深さaが全歯たけhの105%を超えると、高周波焼入れのときに歯部形成部24がマルテンサイト変態することに起因する、歯部形成部24の寸法変化(膨張)が大きく、その結果、ステアリングラック10のうち、歯部形成部24を含む部分の曲がり量が大きくなる。
各上記硬化層深さa,bのそれぞれが、歯部9のモジュールmの20%未満であれば、十分な硬化層深さを形成できず、その結果、歯部9の頂部26および根元部28の疲労強度を向上し難い。
なお、ステアリングラック10のうち、歯部形成部24にのみ上記の高周波焼入れが施されており、歯部形成部24の背面部25等、他の箇所には高周波焼入れは施されていない。
このとき、互いに対向するステアリングラック10の歯部形成部24と近接導体37との間には隙間41が形成され、歯部形成部24が近接導体37に近接するようになっている。
発振器42は、交流電源100から出力された交流電力の周波数を変換して第1周波数f1をもつ交流電力と、第1の周波数f1よりも高い第2の周波数f2をもつ交流電力とを択一的に出力可能である。
電源制御回路44は、整合器43に入力される交流電力の電流と電圧に基づいて発振器42が発振する交流電力の周波数が共振周波数になるように発振器42を制御する。
第1の周波数f1は、相対的に低い値、例えば50kHz〜100kHzの範囲(例えば、60kHz)に設定される。
ステアリングラック10の歯部形成部24の高周波焼入れは、以下のようにして行われる。すなわち、まず、第1の周波数f1の交流電力を出力して、第1の高周波加熱を行う。このとき、高周波電流が矢印で示すように第2の導体34から近接導体37および第2の接触電極36に流れ、ステアリングラック10内を通り、第1の接触電極35を通り、第1の導体33を通り、電力供給装置39に戻るように流れるか、またはその逆の経路で交互に流れる。
その結果、ステアリングラック10の歯部形成部24の表面27は、相対的に低い所定の焼入温度(例えば、800℃程度)まで加熱される。この焼入れ温度は、例えば、母材のオーステナイト化温度(A3変態点)付近に設定される。
第2の周波数f2の交流電力が出力されると、第1の周波数f1の交流電力が出力されたときと同様にして、ステアリングラック10が加熱され、ステアリングラック10の歯部形成部24の表面27が、相対的に高い所定の焼入温度(例えば、1200℃程度)まで加熱される。
第2の高周波加熱の後に、噴射孔38から冷却液をステアリングラック10の少なくとも歯部形成部24に噴射し、ステアリングラック10を冷却する。この冷却は、例えば水冷であり、水量密度3000l/(m2・min)の冷却である。これにより、ステアリングラック10の歯部形成部24に、直接通電および誘導加熱による高周波焼入れが施される。
以上の次第で、本実施の形態によれば、歯部9の頂部26の有効硬化層深さaを全歯たけhの105%以下とすることにより、歯部9に十分な深さの硬化層29を形成しつつ、歯部形成部24に加える熱を必要最小限にでき、歯部形成部24のマルテンサイト変態に起因する歯部形成部24の膨張を十分に抑制できる。すなわち、ステアリングラック10の曲がりを十分に抑制することができる。
さらに、歯厚方向Lに関する歯部9の頂部26の一方の端部67が第1の交差部64と一致し、他方の端部68が第2の交差部66と一致するようにしている。歯厚方向Lに関する頂部26の一対の端部66,67をこのように規定することにより、頂部26を十分な範囲に形成することができる。
また、ステアリングラック10の歯部形成部24に高周波焼入れを施す工程において、第1の高周波加熱に続いて第2の高周波加熱を実施した後、ステアリングラック10の少なくとも歯部形成部24を冷却して焼入れを施行している。
このように、第1の高周波加熱で予め歯部形成部24にある程度の熱量を加えた状態から第2の高周波加熱を短く行う結果、第2の高周波加熱による加熱の際、歯部形成部24の表面27近傍に熱を集中させて十分に加熱しつつ、ステアリングラック10の芯に近い部分に熱が伝わり過ぎることを防止できる。これにより、一般の機械部品の中では比較的小さい形状をなすステアリングラック10の歯部形成部24でも、その表面27近傍のみを薄く焼入れすることが可能となり、焼入れに伴うマルテンサイト変態による歯部形成部24の膨張量を抑制できる。
このうち、第2の高周波加熱の加熱時間t2を短くする意義は、歯部形成部24の表面27の加熱(輪郭加熱)のときの当該表面27の加熱を均一化することにある。また、第2の高周波加熱の第2の周波数f2を可能な限り大きくする意義は、表面27からの透過電流深度δを浅くし、表面27に発熱を集中させることにある。
なお、第1の高周波加熱を省略して第2の高周波加熱のみで輪郭加熱をすることは、歯部9の頂部26の温度が高くなり過ぎてしまうこととなり、成立しない。
例えば、図5に示す高周波誘導加熱焼入装置80を用いて、ステアリングラック10の歯部形成部24に高周波焼入れを施してもよい。誘導加熱装置80は、第1〜第5の絶縁体81,82,83,84,85と、近接導体37と、電力供給装置39と、を備えている。なお、以下では、図4の高周波直接通電焼入装置31と同様の構成については図に同一の符号を付して説明を省略する。
ステアリングラック10の歯部形成部24の焼入れの際には、電力供給装置39から交流電力を出力して、第1および第2の高周波加熱を行う。このとき、高周波電流が矢印で示すように近接導体37に流れるか、その逆の方向に流れる。
このときの加熱の態様(加熱温度、加熱時間等)は、図4の高周波直接通電焼入装置31における加熱の態様と同様である。
高周波焼入れが施されたステアリングラック10は、所定の焼戻し工程が施されることにより、十分な靭性が付与される。
図1〜図3に示す実施の形態のステアリングラックと同様の形状のステアリングラックを用いて、比較例1,2および実施例1,2,3,4を作製した。これらの比較例1,2および実施例1,2,3,4の形状は互いに等しくされており、表1のラック形状の欄に示す諸元を有していた。
なお、比較例1の各部の温度履歴については、比較例2と同様の傾向を示すと考えられ、実施例1,2,3の各部の温度履歴については、実施例4と同様の傾向を示すと考えられる。
比較例2の歯部の頂部の温度履歴と、実施例4の歯部の頂部の温度履歴とを比較すると、それぞれの最高温度Tmax2,Tmax4が概ね200℃程度異なっており、実施例4の最高温度Tmax4が極めて高かった。
以上の温度履歴で高周波焼入れが施された比較例1,2および実施例1,2,3,4のそれぞれについて、歯部の頂部の有効硬化層深さaと、歯底部の有効硬化層深さbをそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
また、比較例1,2および実施例1,2,3,4のそれぞれについて、曲がり量を測定した。曲がり量は、図7に示すように、ステアリングラックの歯部形成部での曲がり量をいう。結果を表1に示す。
また、比較例2では、歯元強度は○であるものの、曲がり量が×の評価となっている。
一方、実施例1,2,3,4は、それぞれ、曲がり量、および歯元強度の双方について、○または◎の評価となっている。特に、実施例3,4については、比較例2の曲がり量(0.76mm)の50%以下となっており、曲がり量を格段に低くできる効果が実証された。すなわち、実施例3,4のように、歯部の頂部の硬化層深さaを歯たけhの80%以下(a≦0.8h)とすることにより、曲がり量を、曲がり量の最も大きい比較例2の50%以下にすることができた。
比較例3および実施例5
図1〜図3に示す実施の形態のステアリングラックと同様の形状のステアリングラックを用いて、比較例3および実施例5を作製した。これらの比較例3および実施例5の形状は互いに等しくされており、表2のラック形状の欄に示す諸元を有していた。
比較例3および実施例5のそれぞれについて、歯部の頂部の有効硬化層深さaと、歯底部の有効硬化層深さbをそれぞれ測定した。結果を表2に示す。なお、表2のa欄の括弧内の値は、歯部の歯たけhに対する割合を示しており、b欄の括弧内の値は、歯部のモジュールmに対する割合を示している。a欄の各数値は、何れも、モジュールmの20%(1.9mm×0.2=0.38mm)以上となっている。
表2を参照して、比較例3および実施例5のそれぞれについて、歯元強度および曲がりについて評価した。評価の基準は、比較例1,2および実施例1,2,3,4の場合と同様である。
一方、実施例5は、曲がり量が◎、歯元強度が○の評価となっている。特に、曲がり量については、比較例3の曲がり量の50%以下となっており、曲がり量を格段に低くできる効果が実証された。
Claims (4)
- 歯部形成部に高周波焼入れが施されたステアリングラックにおいて、
歯部の頂部での有効硬化層深さaが歯部の全歯たけhの105%以下とされ、
歯部の頂部での有効硬化層深さaおよび歯底部での有効硬化層深さbのそれぞれが、歯部のモジュールmの20%以上とされ、
各上記有効硬化層深さa,bは、ビッカース硬さ600Hv以上となる硬化層の表面からの深さであることを特徴とするステアリングラック。 - 請求項1において、上記歯部の頂部での有効硬化層深さaが歯部の全歯たけhの80%以下であるステアリングラック。
- 請求項1または2に記載のステアリングラックを備えるステアリング装置。
- 請求項1または2に記載のステアリングラックの製造方法において、
上記歯部形成部に高周波焼入れを施す工程を含み、
上記工程において、周波数が相対的に低く加熱時間が相対的に長い第1の高周波加熱に続いて、周波数が相対的に高く加熱時間が相対的に短い第2の高周波加熱を実施した後、ステアリングラックの少なくとも歯部形成部を冷却して焼入れを施行することにより、上記ステアリングラックを得るステアリングラックの製造方法。
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