この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
[実施の形態1]
(貫流ファンの基本構造の説明)
図1は、この発明の実施の形態1における貫流ファンを示す斜視図である。図2は、図1中の貫流ファンを構成する羽根車の1つを示す斜視図である。図3は、図1中のIII−III線上に沿った貫流ファンを示す断面図である。
図1から図3を参照して、本実施の形態における貫流ファン(クロスフローファン)100は、複数のファンブレード21を有する。貫流ファン100は、全体として略円筒形の外観を有し、複数のファンブレード21は、その略円筒形の周面に配置されている。貫流ファン100は、樹脂により一体に形成されている。貫流ファン100は、図中に示す仮想上の中心軸101を中心に、矢印103に示す方向に回転する。
貫流ファン100は、回転する複数のファンブレード21によって、回転軸である中心軸101に直交する方向に送風するファンである。貫流ファン100は、中心軸101の軸方向から見た場合に、中心軸101に対して一方の側の外側空間からファンの内側空間に空気を取り込み、さらに取り込んだ空気を中心軸101に対して他方の側の外側空間に送り出すファンである。貫流ファン100は、中心軸101に直交する平面内において中心軸101に交差する方向に流れる空気流れを形成する。貫流ファン100は、中心軸101に平行な平面状の吹き出し流れを形成する。
貫流ファン100は、家庭用の電気機器などのファンに適用される低レイノルズ数領域の回転数で使用される。
貫流ファン100は、中心軸101の軸方向に並べられた複数の羽根車12が組み合わさって構成されている。各羽根車12において、複数のファンブレード21は中心軸101を中心にその周方向に互いに間隔を隔てて設けられている。
貫流ファン100は、支持部としての外周枠13をさらに有する。外周枠13は、中心軸101を中心に環状に延在するリング形状を有する。外周枠13は、端面13aおよび端面13bを有する。端面13aは、中心軸101の軸方向に沿った一方の方向に面して形成されている。端面13bは、端面13aの裏側に配置され、中心軸101の軸方向に沿った他方の方向に面して形成されている。
外周枠13は、中心軸101の軸方向において隣り合う羽根車12間に介在するように設けられている。
互いに隣り合って配置された図1中の羽根車12Aおよび羽根車12Bに注目すると、羽根車12Aに設けられる複数のファンブレード21は、端面13a上に立設され、中心軸101の軸方向に沿って板状に延在するように形成されている。羽根車12Bに設けられる複数のファンブレード21は、端面13b上に立設され、中心軸101の軸方向に沿って板状に延在するように形成されている。
貫流ファン100の製造工程においては、図2中に示す羽根車12が樹脂成型により製造される。さらに、得られた複数の羽根車12を互いに接続することにより、図1中の貫流ファン100の形態が得られる。
図3中には、貫流ファン100の回転軸である中心軸101に直交する平面で切断した場合のファンブレード21の翼断面が示されている。
図2および図3を参照して、ファンブレード21は、内縁部27および外縁部26を有する。内縁部27は、ファンブレード21の内周側に配置されている。外縁部26は、ファンブレード21の外周側に配置されている。ファンブレード21は、内縁部27から外縁部26に向けて中心軸101を中心とする周方向に傾斜して形成されている。ファンブレード21は、内縁部27から外縁部26に向けて貫流ファン100の回転方向に傾斜して形成されている。
ファンブレード21には、正圧面25および負圧面24からなる翼面23が形成されている。正圧面25は、貫流ファン100の回転方向の側に配置され、負圧面24は、正圧面25の裏側に配置されている。貫流ファン100の回転時、翼面23上で空気流れが発生するのに伴って、正圧面25で相対的に大きく、負圧面24で相対的に小さくなる圧力分布が生じる。ファンブレード21は、正圧面25側が凹となり、負圧面24側が凸となるように、内縁部27と外縁部26との間で全体的に湾曲した翼断面を有する。ファンブレード21は、内縁部27と外縁部26との間で薄肉の翼断面を有するように形成されている。
図4は、図1中の貫流ファンが備えるファンブレードを示す断面図である。図4を参照して、図中には、ファンブレード21の翼断面の厚み方向(正圧面25と負圧面24とを結ぶ方向)における中心線28が示されている。
中心線28は、ファンブレード21の翼断面を正圧面25側と負圧面24側とに分けるように翼断面中を延びている。中心線28は、単一の円弧から構成されてもよいし、曲率が異なる複数の円弧が組み合わさって構成されてもよい。ファンブレード21は、中心線28が内周側に向けて延びる先端に内縁部27を有し、中心線28が外周側に向けて延びる先端に外縁部26を有する。中心線28は、内縁部27と外縁部26との間で湾曲して延びている。なお、中心線28は、後述する凹部41が形成された位置では、図4中の点線に示すように凹部41が設けられていない場合の正圧面25と、負圧面24との間の中心位置を延びるように示されている。
正圧面25および負圧面24は、それぞれ、内縁部27と外縁部26との間で湾曲しながら延在している。正圧面25と負圧面24との間の長さをファンブレード21の厚みという場合に、ファンブレード21は、内縁部27と外縁部26との間の任意の位置で厚みTを有する。本実施の形態では、ファンブレード21の厚みTが内縁部27および外縁部26でゼロとなる。ファンブレードの厚みTは、内縁部27と外縁部26との間で連続的に変化する。
ファンブレード21の翼面23には、外縁部26からよりも内縁部27から近い内周側領域51と、内縁部27からよりも外縁部26から近い外周側領域52とが規定されている。すなわち、内縁部27と外縁部26とを結ぶ中心線28の延伸方向において、内周側領域51は内縁部27側に配置され、外周側領域52は、外縁部26側に配置されている。内周側領域51および外周側領域52の境界位置と、内縁部27との間の翼面23(正圧面25または負圧面24)の長さと、内周側領域51および外周側領域52の境界位置と、外縁部26との間の翼面23(正圧面25または負圧面24)の長さとは、等しくなる。
ファンブレード21は、肉厚部40を有する。ファンブレード21は、内縁部27と外縁部26とを結ぶ中心線28の線上において肉厚部40で最も大きい厚みTmaxを有する。ファンブレード21の厚みTは、内縁部27から肉厚部40に向かうに従って大きくなり、肉厚部40で最大となり、肉厚部40から外縁部26に向かうに従って小さくなる。
肉厚部40は、内縁部27および外縁部26のいずれか一方に偏って配置されている。本実施の形態では、肉厚部40が、内縁部27および外縁部26のうち内縁部27に偏って配置されている。肉厚部40は、外縁部26からよりも内縁部27から近い内周側領域51に配置されている。肉厚部40は、内縁部27に隣り合って配置されている。肉厚部40は、内縁部27と肉厚部40との間の翼面23の長さが、肉厚部40と、内周側領域51および外周側領域52の境界位置との間の翼面23の長さよりも小さくなる位置に配置されている。ファンブレード21は、全体的に見て、内周側で相対的に大きい厚みを有し、外周側で相対的に小さい厚みを有する翼断面を有する。
ファンブレード21は、中心軸101に直交する平面により切断された場合に、内縁部27および外縁部26のいずれか一方に偏って配置された肉厚部40を有する翼型(aerofoil)断面を有する。
図2から図4を参照して、ファンブレード21には、凹部41が形成されている。凹部41は、翼面23から凹んで形成されている。凹部41は、外縁部26よりも肉厚部40が配置された内縁部27に近い位置、すなわち内周側領域51に形成されている。肉厚部40が配置された内縁部27よりも外縁部26に近い位置、すなわち外周側領域52には、凹部が形成されていない。
本実施の形態では、凹部41が正圧面25に形成されている。負圧面24には、凹部が形成されていない。凹部41は、正圧面25および負圧面24のいずれか一方に形成されている。正圧面25では、内縁部27と外縁部26との間の凹部41が形成された位置で翼面23が断続的になる。一方、凹部が形成されていない負圧面24では、翼面23が、内縁部27と外縁部26との間で連続して延在する。
図2中に示すように、ファンブレード21は、中心軸101の軸方向において一方端31と他方端32との間で延びる。図1中に示す貫流ファン100の形態において、一方端31は、外周枠13の端面13bに接続され、他方端32は、外周枠13の端面13aに接続されている。
凹部41は、中心軸101の軸方向に沿って延びる溝形状をなす。凹部41は、中心軸101の軸方向におけるファンブレード21の一方端31と他方端32との間で連続的に延びて形成されている。凹部41は、中心軸101の軸方向におけるファンブレード21の一方端31と他方端32との間で直線状に延びて形成されている。
凹部41は、中心軸101に直交する平面により切断された場合に、三角形状の断面を有する。凹部41は、このような形状に限られず、たとえば台形や円弧形状の断面を有してもよい。
ファンブレード21には、複数の凹部41(41A,41B,41C)が形成されている。複数の凹部41は、正圧面25および負圧面24のいずれか一方の表面に、内縁部27と外縁部26とを結ぶ方向に並んで形成されている。複数の凹部41は、正圧面25に内縁部27と外縁部26とを結ぶ方向に並んで形成されている。
凹部41Aは、内縁部27から最も近接して配置され、凹部41Cは、内縁部27から最も離れて配置され、凹部41Bは、凹部41Aと凹部41Cとの間に配置されている。凹部41A、凹部41Bおよび凹部41Cは、互いに異なる断面形状を有する。凹部41A、凹部41Bおよび凹部41Cは、互いに異なる溝深さを有する。複数の凹部41は、内縁部27から遠ざかって配置された凹部41ほど小さい溝深さを有するように形成されている。凹部41A、凹部41Bおよび凹部41Cは、翼面23上に互いに異なる開口幅を有する。
図1から図3を参照して、複数のファンブレード21は、互いに同一の翼断面を有する。ファンブレード21を中心軸101を中心に回転させた場合に、複数のファンブレード21の翼面23が互いに重なり合う。複数のファンブレード21は、隣接するファンブレード21間のピッチがランダムとなるように配列されている。このようなランダムピッチは、たとえば、複数のファンブレード21を乱数正規分布に従って不等間隔に配置することにより実現される。
複数の羽根車12は、ファンブレード21の配列が互いに同一となるように形成されている。すなわち、各羽根車12において、複数のファンブレード21を配列する間隔と、その間隔で配列されるファンブレード21の順番とは、複数の羽根車12間で同一である。
なお、複数のファンブレード21は、ランダムピッチに限られず、等ピッチに配列されてもよい。
複数の羽根車12は、中心軸101の軸方向から見た場合に隣接する羽根車12間でずらし角度Rが生じるように積層されている。たとえば、挙げる順に隣り合って配置された図1中の羽根車12A、羽根車12Bおよび羽根車12Cに注目すると、羽根車12Bは、羽根車12Aに対して、羽根車12Aおよび羽根車12Bの全てのファンブレード21が中心軸101の軸方向において重なる位置から、中心軸101を中心にずらし角度Rだけずれるように積層されている。さらに、羽根車12Cは、羽根車12Bに対して、羽根車12Bおよび羽根車12Cの全てのファンブレード21が中心軸101の軸方向において重なる位置から、中心軸101を中心にずらし角度R(羽根車12Aから見れば2R)だけずれるように積層されている。
(空気調和機および成型用金型の構造の説明)
図5は、図1中の貫流ファンが用いられる空気調和機を示す断面図である。図5を参照して、空気調和機210は、室内に設置され、室内側熱交換器229が設けられる室内機220と、室外に設置され、室外側熱交換器および圧縮機が設けられる図示しない室外機とから構成されている。室内機220および室外機は、室内側熱交換器229と室外側熱交換器との間で冷媒ガスを循環させるための配管により接続されている。
室内機220は、送風機215を有する。送風機215は、貫流ファン100と、貫流ファン100を回転させるための図示しない駆動モータと、貫流ファン100の回転に伴って、所定の気流を発生させるためのケーシング222とから構成されている。
ケーシング222は、キャビネット222Aおよびフロントパネル222Bを有する。キャビネット222Aは、室内の壁面に支持されており、フロントパネル222Bは、キャビネット222Aに着脱自在に取り付けられている。フロントパネル222Bの下端部とキャビネット222Aの下端部との間隙には、吹き出し口225が形成されている。吹き出し口225は、室内機220の幅方向に延びる略矩形に形成され、前方下方に臨んで設けられている。フロントパネル222Bの上面には、格子状の吸い込み口224が形成されている。
フロントパネル222Bに対向する位置には、吸い込み口224から吸い込まれた空気に含まれる塵埃を捕集・除去するためのエアフィルタ228が設けられている。フロントパネル222Bとエアフィルタ228との間に形成される空間には、図示しないエアフィルタ清掃装置が設けられている。エアフィルタ清掃装置によって、エアフィルタ228に蓄積した塵埃が自動的に除去される。
ケーシング222の内部には、吸い込み口224から吹き出し口225に向けて空気が流通する送風通路226が形成されている。吹き出し口225には、左右方向の吹き出し角度を変更可能な縦ルーバ232と、上下方向の吹き出し角度を、前方上方、水平方向、前方下方および真下方向に変更可能な複数の横ルーバ231とが設けられている。
送風通路226の経路上における、貫流ファン100とエアフィルタ228との間には、室内側熱交換器229が配置されている。室内側熱交換器229は、上下方向に複数段、かつ前後方向に複数列に並設される蛇行した図示しない冷媒管を有する。室内側熱交換器229は、屋外に設置される室外機の圧縮機に接続されており、圧縮機の駆動によって冷凍サイクルが運転される。冷凍サイクルの運転によって、冷房運転時には室内側熱交換器229が周囲温度よりも低温に冷却され、暖房運転時には室内側熱交換器229が周囲温度よりも高温に加熱される。
図6は、図5中の空気調和機の吹き出し口近傍を拡大して示す断面図である。図5および図6を参照して、ケーシング222は、前方壁部251および後方壁部252を有する。前方壁部251および後方壁部252は、互いに間隔を隔てて向い合って配置されている。
送風通路226の経路上には、前方壁部251と後方壁部252との間に位置するように貫流ファン100が配置されている。前方壁部251には、貫流ファン100の外周面に向けて突出し、貫流ファン100と前方壁部251との隙間を微小とする突出部253が形成されている。後方壁部252には、貫流ファン100の外周面に向けて突出し、貫流ファン100と後方壁部252との隙間を微小とする突出部254が形成されている。
ケーシング222は、上側ガイド部256および下側ガイド部257を有する。送風通路226は、貫流ファン100よりも空気流れの下流側において、上側ガイド部256および下側ガイド部257によって規定されている。
上側ガイド部256および下側ガイド部257は、それぞれ、前方壁部251および後方壁部252から連なり、吹き出し口225に向けて延在している。上側ガイド部256および下側ガイド部257は、貫流ファン100によって送り出された空気を、上側ガイド部256が内周側となり、下側ガイド部257が外周側となるように湾曲させ、前方下方へと案内するように形成されている。上側ガイド部256および下側ガイド部257は、貫流ファン100から吹き出し口225に向かうほど、送風通路226の断面積が拡大するように形成されている。
本実施の形態では、前方壁部251および上側ガイド部256がフロントパネル222Bに一体に形成されている。後方壁部252および下側ガイド部257がキャビネット222Aに一体に形成されている。
図7は、図5中の空気調和機の吹き出し口近傍に生じる空気流れを示す断面図である。図5から図7を参照して、送風通路226上の経路上には、貫流ファン100よりも空気流れの上流側に位置して上流側外側空間246が形成され、貫流ファン100の内側(周方向に配列された複数のファンブレード21の内周側)に位置して内側空間247が形成され、貫流ファン100よりも空気流れの下流側に位置して下流側外側空間248が形成されている。
貫流ファン100の回転時、突出部253,254を境にして送風通路226の上流側領域241には、上流側外側空間246からファンブレード21の翼面23上を通って内側空間247に向かう空気流れ261が形成され、突出部253,254を境にして送風通路226の下流側領域242には、内側空間247からファンブレード21の翼面23上を通って下流側外側空間248に向かう空気流れ261が形成される。このとき、前方壁部251に隣接する位置には、空気流れの強制渦262が形成される。
なお、本実施の形態では、空気調和機を例に挙げて説明したが、この他に、たとえば、空気清浄機や加湿機、冷却装置、換気装置などの流体を送り出す装置に、本発明における貫流ファンを適用することが可能である。
図8は、図1中の貫流ファンの製造時に用いられる成型用金型を示す断面図である。図8を参照して、成型用金型160は、固定側金型164および可動側金型162を有する。固定側金型164および可動側金型162により、貫流ファン100と略同一形状であって、流動性の樹脂が注入されるキャビティ166が規定されている。
成型用金型160には、キャビティ166に注入された樹脂の流動性を高めるための図示しないヒータが設けられてもよい。このようなヒータの設置は、たとえば、ガラス繊維入りのAS(アクリロニトリルおよびスチレンの共重合化合物)樹脂のような強度を増加させた合成樹脂を用いる場合に特に有効である。
なお、後述する実施の形態3における遠心ファン10も、図8中の成型用金型160と同様の構造を有する金型により製造される。
(作用、効果の詳細な説明)
続いて、本実施の形態における貫流ファン100によって奏される作用、効果を、貫流ファン100を図5から図7中の空気調和機に適用した場合を想定して説明する。
図9は、図7中の2点鎖線IXで囲まれた範囲を拡大して示す断面図である。図10は、図9中に示す範囲の空気流路を模式的に表わした図である。
図9および図10を参照して、下流側領域242において、内側空間247から下流側外側空間248に向かう空気流れが形成されるとき(図6を参照のこと)、隣接するファンブレード21間に形成される空気流路55には、内縁部27から流入し、翼面23上を通過し、外縁部26から流出する空気流れが発生する。
本実施の形態における貫流ファン100においては、ファンブレード21の厚みが最大となる肉厚部40が、内縁部27および外縁部26のうちの内縁部27に偏って配置されている。このため、隣接するファンブレード21間に形成される空気流路55は、内周側で相対的に小さい流路面積S1を有し、外周側で大きい流路面積S2を有する。このような構成により、内縁部27から外縁部26に向かう空気は、上流側から下流側に向けて流路断面が拡大する拡大流路を流れることになる。
空気流路55の内周側における空気流れの圧力および速度をそれぞれP1およびV1とし、空気流路55の外周側における空気流れの圧力および速度をそれぞれP2およびV2とし、下流側外側空間248の圧力がP3であるとする。この場合、空気流れの速度は、空気流路55の内周側から外周側に向かうに従って小さくなる一方で、空気流れの圧力は増大する(V1>V2、P1<P2)。これにより、隣接するファンブレード21間の空気流路55から送り出される空気流れの圧力P2が、下流側外側空間248の圧力P3よりも大きくなり、その結果、貫流ファン100の静圧特性を向上させることができる。
下流側領域242では、上流側領域241と比較して空気流れの流速が速くなるため、翼面23上の空気流れに剥離が生じ易くなる。本実施の形態では、そのような空気流れが剥離し易い下流側領域242において上述の拡大流路による圧力回復の効果を得ることにより、貫流ファン100の送風能力を大幅に向上させている。
図11は、図7中に示す下流側領域において、ファンブレードの翼面上で生じる現象を表わした断面図である。図11を参照して、下流側領域242において、内側空間247から下流側外側空間248に向かう空気流れが形成されるとき、ファンブレード21の翼面23上では、内縁部27から流入し、翼面23上を通過し、外縁部26から流出する空気流れが発生する。この際、正圧面25に形成された凹部41には、時計回りの空気流れの渦105(2次流れ)が形成される。これにより、翼面23上を通過する空気流れ106(主流)は、凹部41に生じた渦105の外側に沿って流れる。
凹部41に渦105が形成される理由について説明すると、前述の通り、貫流ファン100は、家庭用の電気機器などのファンに適用される低レイノルズ数領域の回転数で使用され、かつ、凹部41のスケールは少なくともファンブレード21の厚みTに対して小さい。このため、凹部41内の空気流れのレイノルズ数は、内縁部27と外縁部26との間の距離を寸法スケールとして考えるファンブレード21周りの空気流れのレイノルズ数に対して、たとえば、10−1のオーダで小さくなる。したがって、凹部41内の空気流れは、粘性が有利な流れとなり、凹部41の凹形状に沿った渦が形成される。
図12は、図7中に示す上流側領域において、ファンブレードの翼面上で生じる現象を表わした断面図である。図12を参照して、上流側領域241において、上流側外側空間246から内側空間247に向かう空気流れが形成されるとき、ファンブレード21の翼面23上では、外縁部26から流入し、翼面23上を通過し、内縁部27から流出する空気流れが発生する。この際、正圧面25に形成された凹部41には、反時計回りの空気流れの渦107(2次流れ)が形成される。これにより、翼面23上を通過する空気流れ108(主流)は、凹部41に生じた渦107の外側に沿って流れる。
すなわち、貫流ファン100においては、ファンブレード21が上流側領域241から下流側領域242に移動すると、翼面23上における空気の流れ方向が反転し、これに伴って、凹部41に生じる渦の回転方向も反転する。
また、翼型断面を有するファンブレードを採用した場合、1枚当たりのファンブレードの重量が大きくなる。このため、ファン全体の重量はやはり増大することとなり、ファンブレードの駆動モータの消費電力が増大するという懸念が生じる。これに対して、本実施の形態における貫流ファン100においては、ファンブレード21に凹部41を形成することによって、ファンブレード21の重量を低減させることができる。この際、凹部41は、肉厚部40が配置された内縁部27に偏った位置に形成されるため、凹部41の形成によってファンブレード21の強度が大幅に低下することを防止できる。
一方、ファンブレード21に凹部41が形成されたことに起因して、翼面23上で空気流れの剥離が発生するという懸念が生じる。この点、凹部41に渦流れが形成されることにより、翼面23上の空気流れは、あたかも渦によって凹部41が塞がれたかのような挙動を示す。このため、空気は、隣接するファンブレード21間において、剥離を生じさせることなく内縁部27と外縁部26との間で安定して流れる。特に本実施の形態では、正圧面25に複数の凹部41が形成される。このような構成により、1つ1つの凹部41の断面積を小さくして翼面23上の空気流れを安定化しつつ、ファンブレード21の重量を大幅に低減させることができる。
また、凹部41に形成される渦105,107は、図11および図12中に示すように、翼面23から突出する形態により形成され、空気流れ106,108は、その渦105,107の外側を流れる。このため、ファンブレード21は、渦105,107が形成された位置であたかも翼断面形状が厚肉化された厚肉翼のような挙動を示す。これにより、実質的にファンブレード21の枚数を増やして隣接するファンブレード21間の間隔を狭めた場合と同様の作用が得られ、隣接するファンブレード21間で空気流れの逆流が生じる現象を防止できる。
図1中に示す本実施の形態における貫流ファン100と、比較例1および比較例2における貫流ファンとを用いて、以下に説明する実施例を行なった。比較例1における貫流ファンは、内縁部27と外縁部26との間でほほ均一な厚みを有するファンブレードを備える。比較例2における貫流ファンは、ファンブレード21と同じ翼断面形状を有するファンブレードを備えるが、ファンブレードに凹部が形成されていない。いずれの貫流ファンも、直径φ100mm、中心軸101の軸方向における長さ600mmの大きさを有し、ファンブレードを設ける形態も同一である。
図13は、貫流ファンの風量と駆動用のモータの消費電力(入力)との関係を示すグラフである。図13を参照して、図1中に示す本実施の形態における貫流ファン100と、比較例1および比較例2における貫流ファンとを、図5から図7中の空気調和機に適用して、風量を変化させながら、各風量における駆動用のモータの消費電力を測定した。図中に示すように、本実施の形態における貫流ファン100は、比較例1,2における貫流ファンと比較して、重量の低減および送風能力の向上によって同一風量時のモータの消費電力を低減できた。
図14は、貫流ファンの静圧特性を示すグラフである。図14を参照して、図1中に示す本実施の形態における貫流ファン100と、比較例1および比較例2における貫流ファンとを、図5から図7中の空気調和機に適用して、各貫流ファンの静圧特性(P:静圧−Q:風量)を測定した。図中に示すように、本実施の形態における貫流ファン100は、比較例1,2における貫流ファンと比較して、良好な静圧特性を得ることができた。
図15は、図11中に示すファンブレードの変形例を示す断面図である。図15を参照して、図中に示す変形例では、ファンブレード21に、正圧面25から凹む凹部41に加え、負圧面24から凹む凹部42が形成されている。凹部42には、反時計回りの空気流れの渦111が形成され、負圧面24上を通過する空気流れ112は、凹部42に生じた渦111の外側に沿って流れている。
このような構成を備えるファンブレード21を用いた場合にも、凹部41,42の形成によってファンブレード21の重量を低減させるととともに、凹部41,42に渦105,111が発生することにより、翼面23上の空気流れ106,112を安定化させることができる。また、上述の通り、ファンブレード21は、渦105,111が形成された位置であたかも翼断面形状が厚肉化された厚肉翼のような挙動を示す。この際、この厚肉化の効果が過剰に生じると、負圧面24上の空気流れ112が不安定となり、凹部42よりも下流側で剥離が生じる懸念が生じる。一方、正圧面25上の空気流れ106は、空気流路55からより大きい圧力を受けるため、ファンブレード21の厚肉化の効果にかかわらず剥離が発生する懸念を縮小できる。
(貫流ファンの細部構造の説明)
図4を参照して、凹部41は、凹部41が形成された位置のファンブレード21の厚みが、内縁部27と外縁部26との間のファンブレード21の厚みの平均値以上となるように形成されている。
より具体的には、凹部41A、凹部41Bおよび凹部41Cが形成された位置のファンブレード21の厚みをそれぞれT1、T2およびT3とした場合に、厚みT1、T2およびT3は、内縁部27と外縁部26との間のファンブレード21の厚みの平均値以上となる。ファンブレード21の厚みの平均値は、たとえば、内縁部27と外縁部26との間を10等分した各位置(凹部41が形成された位置を除く)で、ファンブレード21の厚みを測定し、得られた測定値から算出される。
このような構成によれば、凹部41が形成された各位置のファンブレード21の厚みが小さくなりすぎることを防ぎ、ファンブレード21の強度を十分に確保することができる。
図16は、図2中のファンブレードを示す斜視図である。図17は、図16中のXVII−XVII線上に沿ったファンブレードを示す断面図である。図18は、図16中のXVIII−XVIII線上に沿ったファンブレードを示す断面図である。図17中には、ファンブレード21の一方端31側の断面が示され、図18中には、ファンブレード21の他方端32側の断面が示されている。
図16から図18を参照して、ファンブレード21は、図8中に示す成型用金型160を用いて、樹脂成型により形成されている。この際、可動側金型162の抜き勾配を考慮して、ファンブレード21は、中心軸101の軸方向に対して傾きが生じるテーパ形状を有して形成されている。より具体的には、ファンブレード21は、中心軸101に直交する平面により切断された場合に得られる断面積が一方端31から他方端32に向かうほど大きくなるように形成されている(S3<S4)。
このような構成を備えるファンブレード21において、凹部41は、その断面積が一方端31側よりも他方端32側で大きくなるように形成されている(S5<S6)。凹部41は、中心軸101の軸方向において断面形状が連続的に変化するように形成されている。凹部41は、その溝深さが一方端31側よりも他方端32側で大きくなるように形成されている(H1<H2)。凹部41は、その翼面23上の開口幅が一方端31側よりも他方端32側で大きくなるように形成されている(B1<B2)。
このような構成によれば、より大きい断面積を有する他方端32側で凹部41の断面積が大きくなるように凹部41の形状を変化させる。これにより、ファンブレード21の強度を確保しつつ、その重量を大幅に低減させることができる。
以上に説明した、この発明の実施の形態1における貫流ファン100の構造についてまとめて説明すると、本実施の形態におけるファンとしての貫流ファン100は、周方向に互いに間隔を隔てて設けられる複数の羽根部としてのファンブレード21を備える。ファンブレード21は、内周側に配置される内縁部27と、外周側に配置される外縁部26とを有する。ファンブレード21には、内縁部27と外縁部26との間で延在し、正圧面25と負圧面24とからなる翼面23が形成される。正圧面25は、ファンの回転方向の側に配置され、負圧面24は、正圧面25の裏側に配置される。ファンの回転に伴って、翼面23上には内縁部27と外縁部26との間を流れる流体流れとしての空気流れが発生する。ファンブレード21は、ファンの回転軸としての中心軸101に直交する平面により切断された場合に、正圧面25と負圧面24との間の厚みTが最大となる肉厚部40が、内縁部27および外縁部26のいずれか一方としての内縁部27に偏って配置される翼断面形状を有する。内縁部27および外縁部26のいずれか他方としての外縁部26よりも、肉厚部40が配置された内縁部27および外縁部26のいずれか一方としての内縁部27に近い位置に、翼面23から凹む凹部41が形成される。
このように構成された、この発明の実施の形態1における貫流ファン100によれば、ファンブレード21が内縁部27に偏って配置された肉厚部40を有する翼型断面を有するため、良好な静圧特性を得ることができる。一方、肉厚部40が形成された内縁部27に近い位置に凹部41を形成することにより、ファンブレード21の強度を確保しつつ、その重量を低減させることができる。この際、凹部41に空気流れの渦105,107が発生することにより、翼面23上の空気流れ106,108を安定化させることができる。このため、静圧特性を向上させる効果を残しつつ、ファンブレード21の重量を低減させることができる。結果、軽量で、かつ優れた送風能力を発揮する貫流ファン100を実現することができる。
また、この発明の実施の形態1における空気調和機210によれば、軽量で、かつ優れた送風能力を発揮する貫流ファン100を用いることによって、貫流ファン100を駆動させるための駆動モータの消費電力を低減させることができる。これにより、省エネルギ化に貢献可能な空気調和機210を実現することができる。
[実施の形態2]
本実施の形態では、実施の形態1における貫流ファン100や、貫流ファン100に用いられるファンブレード21の各種変形例について説明を行なう。
図19は、図1中の貫流ファンの第1変形例を示す斜視図である。図20は、図19中の貫流ファンが備えるファンブレードを示す断面図である。
図19および図20を参照して、本変形例では、ファンブレード21に、凹部41に加えて、追加の凹部としての凹部43が形成されている。凹部43は、翼面23から凹んで形成されている。凹部43は、肉厚部40が配置された内縁部27よりも外縁部26に近い位置、すなわち外周側領域52に形成されている。凹部43は、負圧面24に形成されている。
凹部43は、中心軸101の軸方向に沿って延びる溝形状をなす。凹部43は、中心軸101の軸方向におけるファンブレード21の一方端31と他方端32との間で連続的に延びて形成されている。凹部43は、中心軸101の軸方向におけるファンブレード21の一方端31と他方端32との間で直線状に延びて形成されている。
凹部43は、中心軸101に直交する平面により切断された場合に、三角形状の断面を有する。凹部43は、このような形状に限られず、たとえば台形や円弧形状の断面を有してもよい。本変形例では、負圧面24の外周側領域52に1つの凹部43が形成されているが、複数の凹部43が形成されてもよい。
凹部43は、その溝深さが凹部41よりも小さくなるように形成されている(H6<H3,H4,H5)。
図21は、図19中の貫流ファンを空気調和機に適用した場合の下流側領域を示す断面図である。
図21を参照して、図中には、図6中の下流側領域242が示されており、内側空間247から下流側外側空間248に向かう空気流れが形成されている。このとき、隣接するファンブレード21間を通る空気には、矢印131に示すように、中心軸101を中心に半径方向外側に向かう遠心力が作用する。この場合、正圧面25は内周側に面するように配置されているため、遠心力が作用された空気は、正圧面25の外周側に強く吹き付けるように流れる。これにより、正圧面25の外周側領域52に凹部を設けた場合には、その凹部に埃が溜まるという懸念が生じる。
一方、負圧面24は、正圧面25の背面で外周側に面するように配置されているため、空気が負圧面24に強く吹き付けるということがない。このため、凹部43に埃が堆積するという懸念を生じさせることなく、凹部43を設けたことによるファンブレード21の軽量化の効果を得ることができる。
また、本変形例では、凹部43が、その溝深さが凹部41よりも小さくなるように形成されている。このような構成により、内周側領域51と比較して薄肉の外周側領域52において、ファンブレード21の厚みが極度に薄くなることを防止できる。また、図8中の成型用金型160を用いて貫流ファンを樹脂成型する場合に、薄肉の外周側領域52における樹脂の流動性を確保することができる。
図22は、図1中の貫流ファンの第2変形例を示す斜視図である。図23は、図22中の貫流ファンが備えるファンブレードを示す断面図である。
図22および図23を参照して、本変形例では、肉厚部40が、内縁部27および外縁部26のうち外縁部26に偏って配置されている。肉厚部40は、内縁部27からよりも外縁部26から近い外周側領域52に配置されている。肉厚部40は、外縁部26に隣り合って配置されている。肉厚部40は、外縁部26と肉厚部40との間の翼面23の長さが、肉厚部40と、内周側領域51および外周側領域52の境界位置との間の翼面23の長さよりも小さくなる位置に配置されている。ファンブレード21は、全体的に見て、外周側で相対的に大きい厚みを有し、内周側で相対的に小さい厚みを有する翼断面を有する。
ファンブレード21には、凹部46が形成されている。凹部46は、翼面23から凹んで形成されている。凹部46は、内縁部27よりも肉厚部40が配置された外縁部26に近い位置、すなわち外周側領域52に形成されている。肉厚部40が配置された外縁部26よりも内縁部27に近い位置、すなわち内周側領域51には、凹部が形成されていない。凹部46は、正圧面25に形成されている。負圧面24には、凹部が形成されていない。ファンブレード21には、複数の凹部46が形成されている。
本変形例における貫流ファンを空気調和機に適用した場合、図7中の上流側領域241において、上流側外側空間246から内側空間247に向かう空気流れが形成されるとき、隣接するファンブレード21間の空気流路55で拡大流路による圧力回復の効果を得ることができる。
図24は、図23中に示すファンブレードの第1変形例を示す断面図である。図24を参照して、本変形例では、ファンブレード21に、凹部46に加えて、凹部47が形成されている。凹部47は、内縁部27よりも肉厚部40が配置された外縁部26に近い位置、すなわち外周側領域52に形成されている。凹部47は、負圧面24に形成されている。凹部46と凹部47とは、中心線28を挟んで互いに対向する位置に形成されている。ファンブレード21には、複数の凹部47が形成されている。
このような構成によれば、負圧面24に形成された凹部47によって、ファンブレード21の重量を低減する効果をより効果的に得ることができる。
図25は、図23中に示すファンブレードの第2変形例を示す断面図である。図25を参照して、本変形例におけるファンブレード21は、図24に示すファンブレード21と比較して、凹部47が形成される位置が異なる。本変形例では、凹部46と凹部47とが、中心線28を挟んで互いにずれる位置に形成されている。凹部46と凹部47とは、中心線28に沿って千鳥状に並ぶように配置されている。
このような構成によれば、凹部46および凹部47が形成された位置でファンブレード21の厚みが極度に薄くなることを防止し、ファンブレード21の強度を十分に確保できるという効果がさらに奏される。
図26は、図23中に示すファンブレードの第3変形例を示す断面図である。図26を参照して、本変形例におけるファンブレード21は、図25中に示すファンブレード21と比較して、凹部47が形成される数が異なる。本変形例では、ファンブレード21に1つの凹部47が形成される。
このような構成によれば、図25中に示すファンブレード21と比較して、負圧面24上の空気流れが凹部47よりも下流側で剥離を起こす現象をより確実に回避できる。
図27は、図23中に示すファンブレードの第4変形例を示す断面図である。図27を参照して、本変形例では、図25中に示すファンブレード21と比較して、凹部46が形成されておらず、負圧面24から凹む凹部47のみが形成されている。
図28は、図23中に示すファンブレードの第5変形例を示す断面図である。図28を参照して、本変形例におけるファンブレード21は、図23中に示すファンブレード21と比較して、凹部46が形成される数が異なる。本変形例では、ファンブレード21に1つの凹部46が形成される。凹部46は、凹部46と、内周側領域51および外周側領域52の境界位置との間の翼面23の長さが、外縁部26と凹部46との間の翼面23の長さよりも小さくなる位置に配置されている。
本変形例では、元々肉厚形状を有する外縁部26に近い位置に凹部を設けず、外縁部26から離れて肉厚が小さくなった位置に凹部46を設ける。これにより、外縁部26に近い位置ではファンブレード21自身によって、凹部46が設けられた位置では凹部46に形成される渦流れによって、厚肉翼による静圧特性向上の効果が奏される。
なお、図24から図28中に示す変形例は、肉厚部40が内縁部27に偏って配置されたファンブレード21にも適用可能である。
図29は、図1中の貫流ファンの第3変形例を示す断面図である。図29を参照して、本変形例における貫流ファンにおいては、複数のファンブレード21が、複数種類のファンブレード21A,21B,21C,21D,21E,21Fから構成されている。ファンブレード21A〜21Fでは、互いに異なる形態により凹部41が形成されている。ファンブレード21A〜21Fの各ファンブレードは、複数ずつ設けられている。
凹部41が設けられる形態とは、凹部41の形状(断面形状、溝深さ、開口幅など)や、凹部41が形成される位置、凹部41の数を意味する。本変形例では、ファンブレード21A,21Cに3つの凹部41が形成され、ファンブレード21B,21Dに2つの凹部41が形成され、ファンブレード21E,21Fに1つの凹部41が形成されている。ファンブレード21B,21C,21Eには、溝深さが相対的に大きい凹部41が形成され、ファンブレード21A,21D,21Fには、溝深さが相対的に小さい凹部41が形成されている。
ファンブレード21A,21B,21C,21D,21E,21Fは、中心軸101を中心とする周方向において不規則(ランダム)な順番で並ぶように配列されている。すなわち、ファンブレード21A〜21Fが、規則性を持った順番(たとえば、ファンブレード21A→21B→21C→21D→21E→21F→21A→21B→21C→21D→21E→21F→21A→21B…といった順番)で繰り返し並ばないように配列されている。
図中に示す貫流ファンでは、所定の区間において、中心軸101を中心にその時計回り方向に、ファンブレード21A,21B,21C,21D,21E,21F,21C,21B,21F,21A,21D,21E,21B,21F,21E,21C,21A,21Dが順に並んでいる。
上記の例では、ファンブレード21A〜21Fをランダム配置する方法として、6種類のファンブレード21A〜21Fを1セットと考えて、ファンブレード21A〜21Fの並びが異なる複数のセットを順に配置する方法が採られている。このほか、ファンブレード21A〜21Fの各ファンブレードを複数ずつ準備し、その中から適当なファンブレードを選択して順に並べる方法を用いてもよい。全体として規則性を持たずにファンブレード21A〜21Fが配列されれば、特定種類のファンブレードが連続して並んでもよい。貫流ファンに使用されるファンブレード21の全てで、互いに異なる形態の凹部41が設けられてもよい。使用されるファンブレード21の種類の数は、好ましくは3種類以上であり、より好ましくは4種類以上である。
このような構成によれば、凹部41の形態が異なることにより、ファンブレード21A〜21Fにおいて、凹部41に形成される空気流れの渦の形や大きさ、数が異なってくる。この場合、その渦の外側に沿った空気流れも渦の形や大きさ、数の影響を受けるため、凹部41よりも下流側の空気流れの方向や速度を、ファンブレード21A〜21F間でばらつかせることができる。これにより、ファンブレード21の通過音の周波数を分散させ、ファンの駆動に伴う騒音を抑制することができる。
このように構成された、この発明の実施の形態2における貫流ファンによれば、実施の形態1に記載の効果を同様に得ることができる。
[実施の形態3]
本実施の形態では、まず、本発明におけるファンが適用される遠心ファンの構造について説明し、続いて、その遠心ファンが用いられる送風機および空気清浄機の構造について説明する。なお、本実施の形態における遠心ファンは、実施の形態1における貫流ファン100と比較して、部分的に同様の構造を備える。以下、重複する構造についてはその説明を繰り返さない。
(遠心ファンの構造の説明)
図30は、この発明の実施の形態3における遠心ファンを示す斜視図である。図20を参照して、本実施の形態における遠心ファン10は、複数のファンブレード21を有する。遠心ファン10は、全体として略円筒形の外観を有し、複数のファンブレード21は、その略円筒形の周面に配置されている。遠心ファン10は、樹脂により一体に形成されている。遠心ファン10は、図30中に示す仮想上の中心軸101を中心に、矢印103に示す方向に回転する。
遠心ファン10は、回転する複数のファンブレード21によって、内周側から取り込んだ空気を外周側に送り出すファンである。遠心ファン10は、遠心力を利用して、ファンの回転中心側からその半径方向に空気を送り出すファンである。遠心ファン10は、シロッコファンである。遠心ファン10は、家庭用の電気機器などのファンに適用される低レイノルズ数領域の回転数で使用される。
遠心ファン10は、支持部としての外周枠13pおよび外周枠13qをさらに有する。外周枠13pおよび外周枠13qは、中心軸101を中心に環状に延在して形成されている。外周枠13pおよび外周枠13qは、中心軸101の軸方向に距離を隔てた位置にそれぞれ配置されている。外周枠13pには、ディスク部14を介して、遠心ファン10を駆動モータに連結するためのボス部16が一体に形成されている。
複数のファンブレード21は、中心軸101を中心とする周方向に互いに間隔を隔てて配列されている。複数のファンブレード21は、中心軸101の軸方向における両端において、外周枠13pおよび外周枠13qによって支持されている。ファンブレード21は、外周枠13p上に立設され、外周枠13qに向けて中心軸101の軸方向に沿って延びるように形成されている。
ファンブレード21は、実施の形態1における図4中のファンブレード21と同じ翼断面形状を有する。すなわち、ファンブレード21の厚みが最大となる肉厚部40が、内縁部27および外縁部26のうちの内縁部27に偏って配置されている。ファンブレード21の、外縁部26よりも肉厚部40が配置された内縁部27に近い位置には、凹部41が形成されている。
本実施の形態における遠心ファン10においては、複数のファンブレード21が等間隔に配列されている点が、実施の形態1における貫流ファン100と異なる。
(送風機および空気清浄機の構造の説明)
図31は、図30中の遠心ファンを用いた送風機を示す断面図である。図32は、図31中のXXXII−XXXII線上に沿った送風機を示す断面図である。図31および図32を参照して、送風機320は、外装ケーシング326内に、駆動モータ328と、遠心ファン10と、ケーシング329とを有する。
駆動モータ328の出力軸は、遠心ファン10と一体に成型されたボス部16に連結されている。ケーシング329は、誘導壁329aを有する。誘導壁329aは、遠心ファン10の外周上に配置される略3/4円弧によって形成されている。誘導壁329aは、ファンブレード21の回転により発生する気流をファンブレード21の回転方向に誘導しつつ、気流の速度を増大させる。
ケーシング329には、吸い込み部330および吹き出し部327が形成されている。吸い込み部330は、中心軸101の延長上に位置して形成されている。吹き出し部327は、誘導壁329aの一部から誘導壁329aの接線方向の一方に開放されて形成されている。吹き出し部327は、誘導壁329aの一部から誘導壁329aの接線方向の一方に突出する角筒形状をなしている。
駆動モータ328の駆動により、遠心ファン10が矢印103に示す方向に回転する。このとき、空気が吸い込み部330からケーシング329内に取り込まれ、遠心ファン10の内周側空間331から外周側空間332へと送り出される。外周側空間332に送り出された空気は、矢印304に示す方向に沿って周方向に流れ、吹き出し部327を通じて外部に送風される。
図33は、図30中の遠心ファンを用いた空気清浄機を示す断面図である。図33を参照して、空気清浄機340は、ハウジング344と、送風機350と、ダクト345と、(HEPA:High Efficiency Particulate Air Filter)フィルタ341とを有する。
ハウジング344は、後壁344aおよび天壁344bを有する。ハウジング344には、空気清浄機340が設置された室内の空気を吸い込むための吸い込み口342が形成されている。吸い込み口342は、後壁344aに形成されている。ハウジング344には、さらに、清浄空気を室内に向けて放出する吹き出し口343が形成されている。吹き出し口343は、天壁344bに形成されている。一般的に、空気清浄機340は、後壁344aを室内の壁に対向させるようにして壁際に設置される。
フィルタ341は、ハウジング344の内部において、吸い込み口342と向い合って配置されている。吸い込み口342を通じてハウジング344内部に導入された空気は、フィルタ341を通過する。これにより、空気中の異物が除去される。
送風機350は、室内の空気をハウジング344内部に吸引するとともに、フィルタ341により清浄された空気を、吹き出し口343を通じて室内に送り出すために設けられている。送風機350は、遠心ファン10と、ケーシング352と、駆動モータ351とを有する。ケーシング352は、誘導壁352aを有する。ケーシング352には、吸い込み部353および吹き出し部354が形成されている。
ダクト345は、送風機350の上方に設けられ、清浄空気をケーシング352から吹き出し口343に導く導風路として設けられている。ダクト345は、その下端が吹き出し部354に連なり、その上端が開放された角筒形をなす形状を有する。ダクト345は、吹き出し部354から吹き出された清浄空気を、吹き出し口343に向けて層流に誘導するように形成されている。
このような構成を備える空気清浄機340においては、送風機350の駆動により、ファンブレード21が回転し、室内の空気が吸い込み口342からハウジング344内に吸い込まれる。このとき、吸い込み口342および吹き出し口343間に空気流れが発生し、吸い込まれた空気に含まれる塵埃等の異物は、フィルタ341により除去される。
フィルタ341を通過して得られた清浄空気は、ケーシング352内部に吸い込まれる。この際、ケーシング352内に吸い込まれた清浄空気は、ファンブレード21周りの誘導壁352aによって層流となる。層流とされた空気は、誘導壁352aに沿って吹き出し部354に誘導され、吹き出し部354からダクト345内に送風される。空気は、吹き出し口343から外部空間に向けて放出される。
なお、本実施の形態では、空気清浄機を例に挙げて説明したが、この他に、たとえば、空気調和機(エアーコンディショナ)や加湿機、冷却装置、換気装置などの流体を送り出す装置に、本発明における遠心ファンを適用することが可能である。
このように構成された、この発明の実施の形態3における遠心ファン10および空気清浄機340によれば、実施の形態1に記載の効果を同様に得ることができる。
以上に説明した実施の形態1から3に記載のファンの構造を適宜組み合わせて新たなファンを構成してもよい。たとえば、実施の形態2において説明した各種のファンブレードを用いて、実施の形態3における遠心ファン10を構成してもよい。
以下、この発明に従ったファン、成型用金型および流体送り装置の構造についてまとめて説明する。
この発明に従ったファンは、周方向に互いに間隔を隔てて設けられる複数の羽根部を備える。羽根部は、内周側に配置される内縁部と、外周側に配置される外縁部とを有する。羽根部には、内縁部と外縁部との間で延在し、正圧面と負圧面とからなる翼面が形成される。正圧面は、ファンの回転方向の側に配置され、負圧面は、正圧面の裏側に配置される。ファンの回転に伴って、翼面上には内縁部と外縁部との間を流れる流体流れが発生する。羽根部は、ファンの回転軸に直交する平面により切断された場合に、正圧面と負圧面との間の厚みが最大となる肉厚部が、内縁部および外縁部のいずれか一方に偏って配置される翼断面形状を有する。内縁部および外縁部のいずれか他方よりも、肉厚部が配置された内縁部および外縁部のいずれか一方に近い位置に、翼面から凹む凹部が形成される。
このように構成されたファンによれば、流体が、隣り合う羽根部間において肉厚部が配置された内縁部および外縁部のいずれか一方からその他方に向けて流れる時に、流体流れの圧力が回復するため、良好な静圧特性を得ることができる。一方、肉厚部が配置された内縁部および外縁部のいずれか一方に近い位置に凹部を形成することにより、羽根部の強度を確保しつつ、ファン重量を低減させることができる。この際、凹部に流体流れの渦(2次流れ)が生成されることによって、翼面上を通過する流体流れ(主流)は、凹部に生じた渦の外側に沿って流れる。このため、羽根部に凹部が形成されるにもかかわらず、流体を翼面に沿って安定して流すことができる。結果、高い送風能力が実現されるファンを得ることができる。
また好ましくは、凹部は、正圧面に形成される。このように構成されたファンによれば、負圧面と比較して、正圧面では翼面上を通過する流体流れに対して大きい圧力が作用する。このため、正圧面に凹部が形成されているにもかかわらず、流体を翼面に沿って安定して流すことができる。
また好ましくは、凹部は、凹部が形成された位置の羽根部の厚みが、内縁部と外縁部との間の羽根部の厚みの平均値以上となるように形成される。このように構成されたファンによれば、凹部が形成された位置の羽根部の厚みが小さくなりすぎることを防ぎ、羽根部の強度を確保することができる。
また好ましくは、複数の凹部が、内縁部と外縁部とを結ぶ方向において並んで形成される。このように構成されたファンによれば、翼面から凹む各凹部の断面積を小さくして翼面上の流体流れを安定化させつつ、ファン重量を大幅に低減させることができる。
また好ましくは、凹部は、ファンの回転軸方向における羽根部の一方端から他方端にまで延びて形成される。このように構成されたファンによれば、翼面から凹む凹部の断面積を小さくして翼面上の流体流れを安定化させつつ、ファン重量を大幅に低減させることができる。
また好ましくは、ファンの回転軸に直交する平面により切断された場合に、羽根部の断面積は、一方端から他方端に向かうほど大きくなる。凹部は、翼面から凹む凹部の断面積が一方端側よりも他方端側で大きくなるように形成される。このように構成されたファンによれば、羽根部の強度を確保しつつ、ファン重量を大幅に低減させることができる。
また好ましくは、複数の羽根部は、羽根部に形成される凹部の形態が互いに異なる第1羽根部および第2羽根部を含む。
このように構成されたファンによれば、羽根部に形成される凹部の形態が異なることにより、第1羽根部および第2羽根部間において、凹部に形成される流体流れの渦の形や大きさ、数が異なってくる。この場合、その渦の外側に沿って流れる流体流れも、渦の形や大きさ、数の影響を受けるため、凹部よりも下流側の流体流れの方向や速度を、第1羽根部および第2羽根部間でばらつかせることができる。これにより、羽根部の通過音の周波数を分散させ、ファンの駆動に伴う騒音を抑制することができる。
また好ましくは、羽根部の厚みは、内縁部および外縁部のいずれか一方から肉厚部に向うほど大きくなり、肉厚部から内縁部および外縁部のいずれか他方に向かうほど小さくなる。このように構成されたファンによれば、隣り合う羽根部間に、肉厚部が配置された内縁部および外縁部のいずれか一方からその他方に向かうほど流路断面が拡大する拡大流路を得ることができる。これにより、拡大流路を流れる流体流れの圧力を回復させることができる。
また好ましくは、肉厚部は、外縁部よりも内縁部に偏って配置される。凹部は、外縁部よりも内縁部に近い位置で正圧面から凹んで形成される。羽根部には、追加の凹部がさらに形成される。追加の凹部は、内縁部よりも外縁部に近い位置で負圧面から凹んで形成される。このように構成されたファンによれば、追加の凹部を形成することにより、ファン重量をさらに低減させることができる。この際、追加の凹部に流体流れの渦が生成されることによって、流体を負圧面に沿って円滑に流すことができる。また、正圧面と比較して、負圧面上を流れる流体は遠心力の影響を受けないため、追加の凹部に埃が溜まることを抑制できる。
また好ましくは、負圧面から凹む追加の凹部の深さは、正圧面から凹む凹部の深さよりも小さい。このように構成されたファンによれば、肉厚部から離れた外縁部側において羽根部の厚みが小さくなりすぎることを防ぎ、羽根部の強度を確保することができる。
また好ましくは、周方向に配列された複数の羽根部の内側に内側空間が形成され、その外側に外側空間が形成される。上述のいずれかに記載のファンは、ファンの回転軸方向から見た場合に、回転軸に対して一方の側の外側空間から内側空間に流体を取り込み、取り込んだ流体を回転軸に対して他方の側の外側空間に送り出す貫流ファンである。このように構成されたファンによれば、軽量で、かつ高い送風能力が実現される貫流ファンを得ることができる。
また好ましくは、周方向に配列された複数の羽根部の内側に内側空間が形成され、その外側に外側空間が形成される。上述のいずれかに記載のファンは、内側空間から外側空間に流体を送り出す遠心ファンである。肉厚部は、外縁部よりも内縁部に偏って配置される。このように構成されたファンによれば、軽量で、かつ高い送風能力が実現される遠心ファンを得ることができる。
また好ましくは、上述のいずれかに記載のファンは、樹脂により形成される。このように構成されたファンによれば、軽量で、かつ高い送風能力を発揮する樹脂製のファンを得ることができる。
この発明に従った成型用金型は、上述のいずれかに記載のファンを成型するために用いられる。このように構成された成型用金型によれば、樹脂製のファンを製造することができる。
この発明に従った流体送り装置は、上述のいずれかに記載のファンと、ファンに連結され、複数の羽根部を回転させる駆動モータとから構成される送風機を備える。このように構成された流体送り装置によれば、送風能力を高く維持しつつ、駆動モータの消費電力を低減することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。