しかしながら、上記した巻線装置では、巻線中に導線に弛みが生じてしまうと、複数本の導線の整列性を確保することができなくなり整列巻きを行うことができなるという問題があった。このため、上記した巻線装置では、ガイドローラ駆動用モータ及びストックリング駆動用モータの駆動制御を行って、巻線に必要なテンションを導線に付与するようになっているので、各モータの駆動制御が非常に複雑なものになっている。そして、このような複雑な駆動制御を実現させるために必要となるガイドローラ駆動とストックリング駆動との完全同期調整には、多くの工数を費やしてしまうという問題があった。
ここで、ステータコイルを形成する際には、極間の渡り線(接続導線)を設ける必要がある。そして、この渡り線を設けるときに、ストックリング(リール)と巻枠との間における導線の長さが一旦長くされた後に元に戻される(短縮される)。このとき、導線に大きな弛みが発生しやすい。そして、このような導線の大きな弛みは、上記した駆動制御では解消することが困難である。そこで、導線の大きな弛みが生じた場合に、その大きな弛みをなくすために大きなストロークに対応することができるテンション機構を新たに設けることも考えられる。ところが、このようなテンション機構を設けるための配置スペースを確保することが困難である。仮に配置スペースが確保できても、装置が大型化してしまうとともに高速巻線の障害となってしまう。
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、簡単な構成により、リールと巻枠との間で導線に大きな弛みが生じた場合にも、巻枠に供給される導線に対して適正なテンションをかけて導線を巻枠に整列巻きすることができる巻線装置を提供することを課題とする。
上記問題点を解決するためになされた本発明に係る巻線装置は、複数本の導線を巻枠に巻き付ける巻線装置において、前記巻枠の周囲に環状に配置されるとともに、前記巻枠と同一の軸線を中心に自転可能に設けられ、前記巻枠に巻き付けるための前記導線が予め巻き貯められたリールと、前記巻枠の周囲を前記軸線を中心に公転可能に設けられたフライヤと、前記フライヤの一端側に遠心方向へ移動可能に弾性支持され、前記リールから前記巻枠へ前記導線を案内する案内部材と、前記リールから前記案内部材への導線供給経路途中に配置され、前記導線に対してテンションを付与する第1テンション付与機構と、前記フライヤの他端側に配置されたバランスウエイトと、前記フライヤに遠心方向へ移動可能に設けられ、前記案内部材と前記バランスウエイトとを一体に連結する連結部材とを有することを特徴とする。
この巻線装置では、フライヤを公転駆動させることにより、案内部材が巻枠の周囲を公転する。そして、このときに、リールを自転駆動させて、必要な長さの導線をリールから繰り出す。このように、案内部材が巻枠の周囲を公転駆動するとともに、リールが自転駆動することにより、リールから繰り出される必要な長さの導線が巻枠に巻き付けられる。
巻線中、リールから繰り出される導線は、案内部材及び第1テンション付与機構を介して巻枠に供給される。このため、極間の渡り線形成時などに導線に大きな弛みが生じた場合には、フライヤに弾性支持された案内部材が遠心方向へ移動することにより、その導線の大きな弛みをなくすことができる。また、巻枠に供給される導線に対しては、第1テンション付与機構により所定のテンションが安定して付与される。これらのことから、複数の導線を巻枠に導線の整列性を維持した状態で巻き付ける整列巻きを行うことができる。
ここで、案内部材は、フライヤに弾性支持されているため、フライヤが回転するとその遠心力の影響を受けてしまう。そうすると、案内部材はフライヤから離れる方向へ移動するため、導線に過剰なテンションがかかってしまうおそれがある。しかしながら、この巻線装置では、フライヤの他端側(案内部材とフライヤの公転中心を挟んで反対側)に配置されたバランスウエイトと、フライヤに遠心方向へ移動可能に設けられ、案内部材とバランスウエイトとを一体に連結する連結部材とを有している。このため、フライヤが回転するとバランスウエイトにも遠心力が作用する。その結果、案内部材とバランスウエイトとが力学的に釣り合う位置に連結部材で一体化された案内部材とバランスウエイトが移動する。このとき、バランスウエイトに作用する遠心力と案内部材に作用する遠心力とが相殺される。これにより、案内部材はフライヤ回転中に遠心力の影響を受けなくなるので、案内部材によって導線に過剰なテンションが付与されることがない。また、上記した案内部材による導線の弛み取りの効果が維持されるため、巻線中(フライヤ回転中)に何らかの原因で導線に大きな弛みが生じても、案内部材によってその弛みを確実に吸収することができる。
そして、この巻線装置では、リールが巻枠と同一の軸線を中心に環状に配置されて巻枠の周囲を自転駆動するので、リールに残存する導線の多少にかかわらず、リールの重量バランスが保たれ、リールが安定的に自転駆動する。また、巻枠の周囲を公転駆動するフライヤ全体として、バランスウエイトによって重量バランスが保たれ、フライヤが安定的に公転駆動する。このため、巻枠に巻線を高速で巻き付けることができる。
このように、この巻線装置では、導線に大きな弛みが発生した場合には案内部材によって確実にその弛みが吸収され、第1テンション付与機構によって導線に対して適切なテンションを付与することができる。このため、適切なテンションがかかった導線を巻枠に安定して供給することができるので、高速かつ確実に整列巻きを行うことができる。また、この巻線装置では、案内部材を弾性支持する機構、バランスウエイト、及び連結部材という非常に簡単な構成により、導線の大きな弛みを吸収しているので、装置が大型化することがないため、巻線の高速化を阻害することがない。また、第1テンション付与機構によって巻線に必要なテンションを導線に付与しているので、リール及びフライヤの駆動制御を、従来装置のように複雑なものにする必要がない。さらに、リール駆動とフライヤ駆動との完全同期調整も不要となる。従って、この巻線装置によれば、簡単な構成により、リールと巻枠との間で導線に大きな弛みが生じた場合にも、巻枠に供給される導線に対して適正なテンションをかけて導線を巻枠に整列巻きすることができる。
そして、本発明に係る巻線装置においては、前記案内部材は、前記第1テンション付与機構が前記導線に付与するテンションよりも小さい弾性力で前記フライヤに弾性支持されていることが望ましい。
ここで、案内部材を弾性支持する弾性力が、第1テンション付与機構が導線に付与するテンションより大きいと、案内部材の移動により、リールから導線が必要以上に引き出されてしまうおそれがある。そして、案内部材がリールから導線を必要以上に引き出してしまうと、その引き出された導線によって発生する弛みを吸収することができなくなる。
そこで、上記のような構成にすることにより、案内部材がリールから必要以上の導線を引き出すことを防止することができる。これにより、案内部材によって導線の大きな弛みを確実に吸収することができる。その結果、リールと巻枠との間で導線に大きな弛みが生じた場合にも、巻枠に供給される導線に対して適正なテンションをかけて導線を巻枠に整列巻きすることができる。
本発明に係る巻線装置においては、前記案内部材から前記巻枠への導線供給経路途中に配置され、前記導線に対してテンションを付与する第2テンション付与機構を有することが望ましい。
このような構成により、巻枠に供給される導線の整列性をより確実に保つことができるため、導線を巻枠により確実に整列巻きすることができる。
そしてこの場合、本発明に係る巻線装置においては、前記第2テンション付与機構は、前記案内部材の弾性支持力より小さいテンションを前記導線に付与するようにすればよい。
第2テンション付与機構が導線に付与するテンションが、案内部材の弾性支持力よりも大きいと、案内部材の移動が制限されてしまって、案内部材により導線の大きな弛みを吸収することができなくなってしまうからである。
本発明に係る巻線装置によれば、上記した通り、簡単な構成によって、リールと巻枠との間で導線に大きな弛みが生じた場合にも、巻枠に供給される導線に対して適正なテンションをかけて導線を巻枠に整列巻きすることができる。
以下、本発明の巻線装置を具体化した最も好適な実施の形態について、添付図面に基づき詳細に説明する。そこで、実施の形態に係る巻線装置について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、実施の形態に係る巻線装置の概略構成を示す図である。図2は、図1に示す巻線装置を下方から見た図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る巻線装置10は、巻枠12と、リール13と、フライヤ14と、ガイドローラ15と、第1テンション装置21と、第2テンション装置22と、ノズル23と、固定バランスウエイト17と、可動バランスウエイト18とを備えている。そして、リール13から供給されるワイヤWがガイドローラ15を介して巻枠12に巻き付けられてコイルが形成されるようになっている。
巻枠12は、巻線装置10のほぼ中心に配置され、固定枠12aと可動枠12bにより構成されている。巻枠12には、ワイヤWが巻かれる。ワイヤWは、電動機等のステータを構成するコイルを形成するために供される。本実施の形態では、ワイヤWは並列配置された複数本(10本前後)の導線により構成され帯状をなしている。そして、巻枠12において、可動枠12bは、不図示のアクチュエータにより図1中左右方向に移動するようになっており、巻枠12にワイヤWが巻き付けられてコイルが形成されると、固定枠12aに近接し、形成されたコイルを巻枠12から離脱させる。また、巻枠12は、不図示のアクチュエータにより図1中上下方向にも移動するようになっている。
リール13は、円筒状の巻芯13aと、巻芯13aの上下端に配置されたつば部13b,13bとで構成されている。そして、巻枠12に巻くためのワイヤWが巻芯13aに予め巻き付けられ、そのワイヤWがつば部13bにより保持されている。このようにして、リール13には、ワイヤWが巻き貯められている。このリール13は、巻枠12と同一の軸線Lを中心に回転する円環状の回転保持部材30に保持されている。回転保持部材30は、例えばコレットチャックなどによりリール13を保持するようになっている。そして、回転保持部材30には、不図示のモータがギヤやベルトなどで構成される駆動系を介して接続されている。これにより、不図示のモータの駆動力が回転保持部材30に伝達され、回転保持部材30が軸線Lを中心に回転するようになっている。この回転保持部材30の回転に伴い、リール13が軸線Lを中心に自転駆動するようになっている。また、リール13の巻芯13aの内側及び回転保持部材30の内側には、巻枠12が配置されている。
フライヤ14は、巻線装置10の筐体に保持された不図示の軸受によって回転可能に支持され、巻枠12の周囲を軸線Lを中心に公転可能に設けられている。このフライヤ14の中心には、リール13の巻芯13aの内径とほぼ同じ径の貫通穴14aが形成されており、貫通穴14a内に巻枠12が配置されている。そして、フライヤ14には、不図示のモータがギヤやベルトなどで構成される駆動系を介して接続されている。これにより、不図示のモータの駆動力がフライヤ14に伝達され、フライヤ14が軸線Lを中心に公転駆動するようになっている。
このようなフライヤ14の下面側一端(図1では右側)に、案内部材であるガイドローラ15が配置されている。ガイドローラ15は、リール13から巻枠12へワイヤWを案内するものである。このガイドローラ15は、保持部材31から延設された支持軸32に回転自在に取り付けられている。保持部材31は、フライヤ14にスプリング33を介して弾性支持されている。これにより、ガイドローラ15がフライヤ14に弾性支持されるので、ワイヤWに大きな弛みが発生すると、ガイドローラ15が移動してその弛みを吸収することができるようになっている。なお、保持部材31(ガイドローラ15)の弾性支持構造の詳細については後述する。
また、フライヤ14の下面には、リール13とガイドローラ15との間に第1テンション装置21が配置され、ガイドローラ15と巻枠12との間に第2テンション装置22及びノズル23が配置されている。これら第1テンション装置21、第2テンション装置22、及びノズル23は、フライヤ14に取り付けられており、フライヤ14とともに回転(公転)する。また、第1テンション装置21、第2テンション装置22、及びノズル23は、ワイヤWの供給経路上に設けられており、リール13から繰り出されたワイヤWが、第1テンション装置21、第2テンション装置22、及びノズル23を通過して巻枠12に供給されるようにされている。
ここで、図2に示すように、第1テンション装置21は、5つの円筒形ローラが互い違いに配置されており、各ローラでワイヤWを蛇行させてワイヤWに所定のテンションを付与するものである。第2テンション装置22は、3つの円筒形ローラが互い違いに配置されており、各ローラでワイヤWを蛇行させてワイヤWに所定のテンションを付与するものである。なお、第1テンション装置21が、主として巻線時に必要となるテンションをワイヤWに付与する役割を担い、第2テンション装置22が、主として巻枠12に供給するワイヤWの整列性をノズル23とともに高めるためのテンションをワイヤWに付与する役割を担っている。ノズル23は、ワイヤWを整列させるためのものであり、出入口が幅広で中央部が幅狭となっており中央部でワイヤWを縦一列(並列)に揃えるようになっている。
なお、各テンション装置21,22に備わるローラの外周面、及びノズル23の内部は、ワイヤWを傷つけないために鏡面加工されている。また、各テンション装置21,22、及びノズル23は開閉するようになっており、それぞれ開状態でワイヤWが通された後にそれぞれ閉状態とされる。
ここで、第1テンション装置21及び第2テンション装置22がそれぞれワイヤWに付与するテンションの大きさと、スプリング33によるガイドローラ15の弾性支持力の大きさとの関係について説明する。第1テンション装置21がワイヤWに付与するテンションT1が、スプリング33によるガイドローラ15の弾性支持力Fより小さい(T1<F)と、ガイドローラ15の移動によってリール13からワイヤWが必要以上に引き出されてしまうおそれがある。そして、ガイドローラ15がリール13からワイヤWを必要以上に引き出してしまうと、引き出されたワイヤWによって発生する弛みをガイドローラ15で吸収することができなくなる。また、第2テンション装置22がワイヤWに付与するテンションT2が、スプリング33によるガイドローラ15の弾性支持力Fより大きい(T2>F)と、ガイドローラ15の移動が制限されてしまって、ガイドローラ15によってワイヤWの大きな弛みを吸収することができなくなる。
すなわち、巻線装置10において、第1テンション装置21,22がワイヤWに付与するテンションT1,T2と、スプリング33によるガイドローラ15の弾性支持力Fとの関係を、「T2>F>T1」としてしまうと、ガイドローラ15によるワイヤWの弛み取り効果が発揮されなくなってしまうのである。このため、巻線装置10においては、第1テンション装置21,22がワイヤWに付与するテンションT1,T2と、スプリング33によるガイドローラ15の弾性支持力Fとの関係を、「T2<F<T1」としている。これにより、ガイドローラ15によって、ワイヤWに発生する大きな弛みを確実に吸収できるようにしている。
一方、フライヤ14の下面側他端(図1では左側)には、固定バランスウエイト17が取り付けられている。これにより、フライヤ14全体の重量バランスがとられている。また、固定バランスウエイト17の上方に、可動バランスウエイト18が配置されている。この可動バランスウエイト18は、取付部材35に取り付けられている。取付部材35は、フライヤ14に遠心方向D(図2参照)へ移動可能に設けられた連結ロッド36,36によって、保持部材35に連結されている。これにより、可動バランスウエイト18は、ガイドローラ15と一体で遠心方向D(図2参照)へ移動するようになっている。なお、可動バランスウエイト18の支持構造の詳細については、保持部材31の弾性支持構造とともに後述する
そこで、保持部材31(ガイドローラ15)の弾性支持構造、及び可動バランスウエイト18の支持構造について、図3を参照しながら説明する。図3は、フライヤ周辺部の概略構成を示す上面図である。
まず、ガイドローラ15の弾性支持構造について説明する。図3に示すように、ガイドローラ15を支持する支持軸32が設けられた保持部材31には、貫通孔31a,31aが形成されている。そして、これらの貫通孔31a,31aに、フライヤ14の一端部(図3では右側)から遠心方向外側へ延設されたガイド部材40,40が貫挿されている。ガイド部材40,40の先端には、ガイド部材40,40を連結する連結部材41が取り付けられている。これにより、保持部材31は、ガイド部材40に沿ってフライヤ14と連結部材41との間で遠心方向D(図3の状態では左右方向)へ移動するようになっている。
また、保持部材31のフライヤ側端面には、スプリング33,33の一端を収容するスプリング孔31b,31bが形成されている。そして、スプリング孔31b、31bに一端が収容されたスプリング33,33の他端は、フライヤ14の一端部(図3では右側)に設けられた突起42,42に差し込まれている。これにより、保持部材31は、スプリング33,33によりフライヤ14に弾性支持される。従って、保持部材31に保持されているガイドローラ15もフライヤ14に弾性支持される。よって、巻線時にはワイヤWのテンションによりスプリング33,33が縮まるため、ガイドローラ15はフライヤ14寄りに位置する。そして、リール13と巻枠12との間でワイヤWに大きな弛みが発生した場合には、スプリング33,33が伸びてガイドローラ15が遠心方向外側(連結部材41側)へ移動して、ワイヤWの弛みを吸収するようになっている。
そして、スプリング33は、その一端がスプリング孔31bに収容され、他端が突起42に差し込まれているだけであるので、簡単に交換することができる。従って、スプリング33を交換する(スプリングの強さを変更する)ことにより、ガイドローラ15の弾性支持力を調整することができる。これにより、ガイドローラ15によるワイヤWの弛み取り動作範囲、言い換えるとフライヤ14のどの回転数範囲でガイドローラ15によるワイヤWの弛み取り動作が行われるかを、任意に設定することができる。その結果、巻線装置10は、仕様の異なる様々コイルを形成する場合であっても、それぞれのコイル形成時におけるフライヤ14の回転数に応じて、ワイヤWの弛み取り動作範囲を適切に設定することができるようになっている。
次に、可動バランスウエイト18の支持構造について説明する。図3に示すように、可動バランスウエイト18が取り付けられた取付部材35には、貫通孔35a,35aが形成されている。そして、これらの貫通孔35a,35aに、フライヤ14の他端部(図3では左側)から遠心方向外側へ延設されたガイド部材45,45が貫挿されている。ガイド部材45,45の先端には、ガイド部材45,45を連結する連結部材46が取り付けられている。これにより、取付部材35は、ガイド部材45に沿ってフライヤ14と連結部材46との間で遠心方向D(図3の状態では左右方向)へ移動するようになっている。そして、取付部材35にボルト47,47によって可動バランスウエイト18が取り付けられている。このようにして、可動バランスウエイト18は、取付部材35を介してフライヤ14に対し移動可能に支持されている。
そして、ガイドローラ15が保持される保持部材31と可動バランスウエイト18が取り付けられる取付部材35とは、2本の連結ロッド36,36によって連結されて機械的に一体化されている。連結ロッド36,36は、フライヤ14に対して遠心方向Dに貫通形成された貫通孔14b,14bに摺動可能に貫挿されている。これにより、ガイドローラ15と可動バランスウエイト18とが一体となって、遠心方向Dへ移動するようになっている。
続いて、上記した構成の巻線装置10の動作について説明する。まず、不図示のグリッパによりワイヤWの先端がクランプされ、所定の長さのワイヤWがリール13から引き出され、引き出されたワイヤWが第1テンション装置21、ガイドローラ15、第2テンション装置22、及びノズル23を通過させられる。そして、フライヤ14が回転させられる。これにより、フライヤ14が巻枠12の周囲を公転するため、フライヤ14に取り付けられている第1テンション装置21、ガイドローラ15、第2テンション装置22、ノズル23、及びバランスウエイト17,18が、巻枠12の周囲を公転する。このとき、リール13が回転させられる。これにより、リール13は、巻枠12の周囲を自転して必要な長さのワイヤWを繰り出す。
このようして、第1テンション装置21、ガイドローラ15、第2テンション装置22及びノズル23が巻枠12の周囲を公転駆動するととともに、リール13が巻枠12の周囲を自転駆動して、リール13から繰り出されるワイヤWが巻枠12に順次巻き付けられていく。このとき、巻枠12が下方へ移動させられていく。これにより、巻枠12の下方から上方へ順にワイヤWが巻き付けられていき、図1に示すように、ワイヤWが巻枠12に整列巻きされる。
ここで、巻枠12に巻かれるワイヤWには、第1テンション装置21により所定のテンションが付与されているため、巻枠12にはワイヤWがしっかりと巻き付けられる。また、巻枠12に巻かれるワイヤWは、第2テンション装置21及びノズル23により縦一列(並列)に揃えられるため、整列性を維持した状態で巻枠12に巻き付けられる。これらのことから、巻線装置10によれば、リール13から繰り出されたワイヤWは、適切なテンションがかかった状態、かつ整列性が維持された状態で巻枠12に供給される。従って、ワイヤWを巻枠12に対して確実に整列巻きすることができる。
また、巻線装置10では、リール13が巻枠12と同一の軸線Lを中心に環状に配置されて巻枠12の周囲を自転駆動するので、リール13に残存するワイヤWの多少にかかわらず、リール13の重量バランスが保たれる。このため、リール13の重量変化がリール13の自転駆動に悪影響を与えることがないので、リール13が安定的に自転駆動する。また、巻枠12の周囲を公転駆動するフライヤ14は全体として、バランスウエイト17,18によって重量バランスが保たれている。このため、フライヤ14が安定的に公転駆動する。これらのことから、巻線装置10によれば、巻枠12にワイヤWを高速で巻き付けることができる。その結果、コイルを形成するためのワイヤWの巻き付けに係る工程時間を短縮することができる。
そして、1極分のコイルが形成されると、巻枠12の移動枠12bが固定枠12aへ近づき巻枠12に巻き付けられたワイヤW(1極分のコイルに相当するもの)が、巻枠12から外されてトランスファーツールに落とされる。次いで、次極のコイルを形成する際に、極間に渡り線が設けられる。このとき、リール13と巻枠12との間におけるワイヤWの長さが一旦長くされた後に元に戻される(短縮される)ため、ワイヤWに大きな弛みが生じてしまう。
ところが、巻線装置10では、渡り線形成時に生じるワイヤWの大きな弛みは、ガイドローラ15によって以下のようにして吸収される。すなわち、ガイドローラ15はスプリング33を介してフライヤ14に弾性支持されている。そして、巻線中においてガイドローラ15にワイヤWが掛けられている状態では、ワイヤWに付与されているテンションT1がスプリング33による弾性支持力Fよりも大きいので、スプリング33が縮んでガイドローラ15がフライヤ14寄りに位置している。このとき、上記のようにワイヤWに大きな弛みが生じると、スプリング33が伸びてガイドローラ15が遠心方向外側(フライヤ14から離れる方向)に移動する。このガイドローラ15の移動により、ワイヤWの大きな弛みが吸収されるのである。
このようにして巻線装置10では、渡り線形成時に生じるワイヤWの大きな弛みが、ガイドローラ15によって吸収されるので、次極のコイル形成時においても、リール13から繰り出されるワイヤWを巻枠12に対して、整列性を維持しつつ適切なテンションをかけた状態で供給することができる。これにより、次極コイルの形成時にも、ワイヤWを、巻枠12に対して確実に整列巻きすることができる。
ここで、ガイドローラ15がスプリング33を介してフライヤ14に弾性支持されているため、フライヤ14が回転するとその遠心力の影響を受けてしまう。そうすると、ガイドローラ15は遠心方向外側(フライヤ14から離れる方向)へ移動するため、ワイヤWに過剰なテンションがかかってしまうおそれがある。
しかしながら、この巻線装置10では、フライヤ14の他端側(ガイドローラ15と軸線Lを挟んで反対側)に配置された可動バランスウエイト18と、この可動バランスウエイト18とガイドローラ15とを一体に連結するとともに、フライヤ14に対して遠心方向へ移動可能に配置された連結ロッド36を有している。このため、フライヤ14が回転すると、可動バランスウエイト18にも遠心力が作用する。そして、可動バランス18とガイドローラ15とは連結ロッド36で一体化されているため、ガイドローラ15と可動バランスウエイト18とが力学的に釣り合う位置に一体化された両者が移動する。このとき、可動バランスウエイト18に作用する遠心力とガイドローラ15に作用する遠心力とは相殺される。これにより、ガイドローラ15はフライヤ14の回転中に遠心力の影響を受けなくなるため、フライヤ14の回転中にガイドローラ15によって、ワイヤWに過剰なテンションが付与されることがない。また、フライヤ14の回転中でもガイドローラ15によるワイヤWの弛み取り効果は維持されるため、フライヤ14の回転中に何らかの原因でワイヤWに大きな弛みが生じた場合であっても、ガイドローラ15によってその弛みを確実に吸収することができる。
そして、巻線装置10では、ガイドローラ15を弾性支持する機構、可動バランスウエイト18、及び連結ロッド36という非常に簡単な構成により、ワイヤWの大きな弛みを吸収しているので、装置が大型化することがなく、巻線の高速化を阻害することがない。また、第1テンション装置21によってワイヤWに巻線時に必要なテンションを付与しているので、リール13及びフライヤ14(ガイドローラ15)の駆動制御を、従来装置のように複雑なものにする必要がない。さらに、リール13の駆動とフライヤ14の駆動との完全同期調整も不要となる。従って、巻線装置10によれば、簡単な構成で複雑な駆動制御を行わずに、リール13と巻枠12との間でワイヤWに大きな弛みが生じた場合にも、適切なテンションがかかったワイヤWを巻枠12に安定して供給することができるので、高速かつ確実に整列巻きすることができる。
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係る巻線装置10によれば、ワイヤWに所定のテンションを付与する第1テンション装置21と、リール13から巻枠12へワイヤWを案内するガイドローラ15とを備え、ガイドローラ15をフライヤ14に対してスプリング33を介して弾性支持しているので、ワイヤWに大きな弛みが生じた場合には、ガイドローラ15の移動によって吸収することができる。そして、ガイドローラ15を連結ロッド36によって可動バランスウエイト18と一体化しているため、フライヤ14の回転中に、可動バランスウエイト18の作用によりガイドローラ15が遠心力の影響を受けない。これにより、フライヤ14の回転中であっても、ガイドローラ15による弛み取り作用が維持される。従って、巻線中にワイヤWに大きな弛みが生じても、ガイドローラ15によってその弛みを吸収することができるため、第1テンション装置21によって常に適切なテンションが付与されたワイヤWを巻枠12に安定して供給することができる。このため、ワイヤWを巻枠12に対して確実に整列巻することができる。
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、ガイドローラ15(保持部材31)をフライヤ14に弾性支持するためにスプリング33を用いたが、ガイドローラ15(保持部材31)を油圧ダンパや空圧ダンパなどを用いて弾性支持することもできる。
また、上記した実施の形態では、第1テンション装置21の他に第2テンション装置22を設けた構成を例示したが、第2テンション装置22を設けない構成にすることもできる。この場合であっても、ガイドローラ15によってワイヤWの大きな弛みを確実に吸収することができる。