図1ないし図4は、本発明の内径加工方法の一実施形態を示すものであり、図5ないし図8はこの実施形態に用いられる内径加工工具の切刃ユニットを示すものである。本実施形態の内径加工方法に用いられる内径加工工具は、図1に示すようにその工具本体1が中心線Oに沿って延びる多段円柱状をなし、その両端部が工作機械に支持されてこの中心線O回りに図中に符号Tで示す回転方向に回転させられつつ符号Fで示す送り方向に送り出されて、図示されない被削材に間隔をおいて同軸に形成された複数の加工穴を所定の内径に加工してゆく。
工具本体1は、その中心線O方向一端側(図1における右側)に、上記工作機械からの回転駆動力が伝達される回転駆動部1Aを備えるとともに、この回転駆動部1Aから他端側(図1における左側)に向けて外径が一段大きくなる大径部1Bと、この大径部1Bより小径で中心線O方向の長さが長い切削部1Cとを備えている。そして、この切削部1Cに、本実施形態における一方の切刃として上記一実施形態の切刃ユニット10に設けられる中仕上げ用切刃11と、本実施形態における他方の切刃としての仕上げ用切刃21とが配置されている。
なお、この切削部1Cには、1つずつの中仕上げ用切刃11と仕上げ用切刃21とが、周方向に互いに反対側にずらされるように、かつ中心線O方向には中仕上げ用切刃11が仕上げ用切刃21よりも上記送り方向F側に、例えば各加工穴の中心軸線方向の幅よりも小さな間隔で僅かにずらされるようにして組をなし、このような組が、例えば被削材の加工穴数と同数の複数組(本実施形態では5組)、中心線O方向に間隔をあけるようにして配設されている。
また、各組の周方向において仕上げ用切刃21と同じ側で、中心線O方向には中仕上げ用切刃11よりも送り方向F側には、例えば該中仕上げ用切刃11から加工穴の上記幅よりも僅かに大きな間隔をあけて、それぞれ面取り用切刃31が備えられている。さらに、本実施形態では、上記大径部1Bの切削部1C側の端面外周部にも、中仕上げ用切刃11、仕上げ用切刃21、および面取り用切刃31が備えられている。
切削部1Cには、各組の中仕上げ用切刃11ごとにその外周面から中心線Oに対する径方向内周側に向けて、この中心線Oに直交する中心軸Cを有する断面円形で内周側に向かうに従い段階的に縮径する凹所2が、組同士で互いに上記中心軸Cを平行にして形成されており、中仕上げ用切刃11を備えた切刃ユニット10はこの凹所2に収容されて工具本体1に取り付けられる。より詳しくは、この凹所2は、切削部1Cの外周面側で内径が2段縮径させられるとともに、これより内周側に向けては1段縮径して中心線Oを僅かに越える深さまで穿設されており、この3段目の部分の中心線Oに対する径方向中程における凹所2の内周面には環状溝2Aが形成されており、この環状溝2Aは、切削部1Cの外周面に開孔する孔2Bを介して工具本体1の外部に連通させられている。
さらに、工具本体1には、一対の圧力流体の供給路3が、上記回転駆動部1Aから他端側に向けてそれぞれ中心線Oに平行に工具本体1の全長に亙って延びるように、かつ凹所2の底面に隣接して該凹所2を径方向に挟み込むように穿設されている。これらの供給路3は、切削部1Cの外周面から一方の供給路3および凹所2の底部を上記中心軸Cに直交する方向に貫通して他方の供給路3に達するように穿設された連通孔3Aを介して、それぞれ凹所2の底面側に上記環状溝2Aと間隔をあけて連通させられている。
なお、本実施形態では上記圧力流体は、切削時に中仕上げ用切刃11や仕上げ用切刃21による切削部位の冷却や潤滑を行う切削油剤(クーラント)とされており、上記一対の供給路3からはこれら中仕上げ用切刃11と仕上げ用切刃21とに向けてそれぞれ分岐孔3Bが形成されている。また、上記連通孔3Aの外周面側の開口部と工具本体1の他端側の開口部とは、埋め栓3Cによって封止されている。
上記切刃ユニット10は、上述のように形成された凹所2に嵌挿されて上記中心軸Cと同軸に装着される略円筒状のブッシュ12と、このブッシュ12内にその中心軸C方向に摺動可能に挿入される切刃部材13と、この切刃部材13を中心軸C方向後端側の工具本体1における径方向内周側(凹所2の底面側)に付勢する付勢部材14と、工具本体1の径方向外周側を向くように切刃部材13の先端部に取り付けられて上記中仕上げ用切刃11が形成された中仕上げ用インサート15とから概略構成されている。
ブッシュ12は、その外周面の先端側に一段拡径した鍔部12Aを一体に有しており、この鍔部12Aよりも後端側の部分を凹所2の径方向内周側における上記3段目の部分の内周に嵌挿した状態で、鍔部12Aが2段目の部分に嵌め込まれ、この2段目の部分の底面にねじ込まれる止めネジ16によって鍔部12Aが係止されることにより、工具本体1に固定される。また、この鍔部12Aと凹所2の上記2段目の部分の底面との間には、必要に応じて適当な厚さの円環板状のスペーサ17が介装される。
一方、ブッシュ12の内周面には、その上記中心軸C方向の中程に、この中心軸Cを中心とした円環板状に内周側に突出する突壁部12Bがやはりブッシュ12に一体に形成されており、この突壁部12Bよりも先端側ではブッシュ12の内径が後端側よりも一段小さくされている。また、この突壁部12Bには、その後端内周側を断面L字状に切り欠かくようにして環状の係止溝12Cが形成されているとともに、この係止溝12Cの後端側を向く底面から突壁部12Bの先端側を向く壁面にかけて貫通する貫通孔12Dが、周方向に間隔をあけて複数形成されている。さらに、この突壁部12Bよりも後端側のブッシュ12がなす円筒部には、該円筒部を径方向に貫通する孔12Eが周方向に等間隔に複数(本実施形態では図8に示すように4つ)形成されており、これらの孔12Eは上述のようにブッシュ12を凹所2に嵌挿して固定した状態で、この凹所2の上記環状溝2Aに連通する位置に配置されている。
また、この孔12Eよりも後端側においてブッシュ12がなす円筒部は、中心軸Cに平行かつ互いにも平行で中心軸Cから等距離にある一対の平行平面と、これらの平面の先端縁から中心軸Cに垂直な同一平面上を外周側に延びる一対の垂直平面とによって切り欠かれるように形成されている。そして、これらの垂直平面によって切り欠かれることにより形成されたそれぞれ1/2弱の円弧状をなしてブッシュ12の後端側を向く一対の平面は、突出した状態の上記中仕上げ用切刃11を位置決めする位置決め部12Fとされるとともに、一対の平行平面の間に残されて該位置決め部12Fから中心軸Cに平行に後端側に延びる一対の円弧板状の部分は、切刃部材13を中心軸C方向に案内するとともに該中心軸C回りの切刃部材13の回転を拘束する案内部12Gとされている。
さらに、切刃部材13は、上記中仕上げ用インサート15が着脱可能に取り付けられる先端側のカートリッジ18と、このカートリッジ18の後端側に頭部付きのクランプボルト19によって取り付けられるワッシャ20とから構成されている。さらにまた、カートリッジ18は、ブッシュ12の突壁部12Bよりも先端側の円筒部内に嵌挿される厚肉円板状の胴部18Aと、この胴部18Aの先端側に位置してブッシュ12から突出するヘッド部18Bと、胴部18Aの後端側に中心軸Cに沿うように該胴部18Aと同軸に延びて上記突壁部12Bの内周に挿通させられる軸部18Cとから一体に構成されている。
ここで、上記中仕上げ用インサート15は、本実施形態では超硬合金等の硬質材料により形成された略正方形平板状のものであり、その一方の正方形面の4つの辺稜部にはそれぞれ切刃が形成されるとともに、該正方形面の中央からは当該中仕上げ用インサート15をその厚さ方向に貫通する取付孔15Aが形成されている。そして、当該中仕上げ用インサート15は、上記ヘッド部18Bの先端部に形成されたインサート取付座18Dに、その厚さ方向を上記中心軸C方向に向けて、切刃の1つが上記一方の切刃である中仕上げ用切刃11として最先端に位置するように着座させられ、取付孔15Aに挿通されたクランプネジ15Bがヘッド部18Bにねじ込まれることにより、カートリッジ18すなわち切刃部材13に取り付けられる。
また、カートリッジ18の胴部18Aの後端側を向く面は中心軸Cに垂直な平面状に形成されており、この面が、同じく中心軸Cに垂直な平面状とされたブッシュ12の上記突壁部12Bの先端側を向く壁面に当接することにより、中仕上げ用切刃11が没入した状態での位置決めがなされる。さらに、この胴部18Aの後端側を向く面から延びる上記軸部18Cは、その胴部18A側が僅かにくびれている以外は、上記突壁部12Bの内径より僅かに小さな一定外径を有する円柱状とされ、ただしその後端面は図6に示すように後端側に凸となる断面V字状に形成されている。また、この後端面から先端側に向けては、中心軸Cに沿って胴部18Aの中程に至る位置まで、上記クランプボルト19がねじ込まれる雌ネジ孔18Eが形成されている。
さらに、上記ワッシャ20は、ブッシュ12の鍔部12Aよりも後端側の部分と等しい外径を有する円板状部20Aと、この円板状部20Aの先端側を向く面にそれぞれ同軸に突設された、ブッシュ12の突壁部12Bよりも後端側の内周部に嵌挿可能な外径を有する円筒部20B、およびこの円筒部20Bの内周側に間隔をあけて形成された上記軸部18Cと等しい外径の軸部20Cとから一体に構成されている。
このうち、軸部20Cの先端面は、軸部18Cの後端面がなす凸Vと密着する断面凹V字状に形成されるとともに、円板状部20Aの後端側を向く面の中央からこの軸部の先端面にかけては、上記クランプボルト19が挿通されるとともにその頭部が収容される段付き孔20Dが貫通させられており、こうして軸部20C,18Cの先後端面がなす凹凸Vを密着させて段付き孔20Dからクランプボルト19を上記雌ネジ孔18Eにねじ込むことにより、ワッシャ20は上記中心軸Cに同軸にカートリッジ18と一体化される。
また、このワッシャ20の周方向において互いに反対側には、中心軸Cに対する径方向に円板状部20Aの外周から上記円筒部20Bの外周部までを切り欠くように、また中心軸C方向には該中心軸Cに平行にこれら円板状部20Aから円筒部20Bの全長に亙って延びるように、中心軸Cに直交する断面が外周側に開口する「コ」字状をなす一対の案内溝20Eが形成されており、これらの案内溝20Eには、ブッシュ12の上記案内部12Gがそれぞれ嵌合させられている。
従って、これらの案内溝20Eに案内部12Gが摺接し、かつカートリッジ18の胴部18B外周がブッシュ12の突壁部12Bよりも先端側の内周に摺接することにより、切刃部材13は中心軸C回りの回転が拘束された状態で該中心軸C方向に摺動しつつ出没自在とされる。なお、こうして案内部12Gが嵌合した状態で、案内溝20Eの溝底側には、上記案内部12Gとの間に、ブッシュ12の内周部に連通する通路がワッシャ20の後端側に開口するように残されている。
さらに、このワッシャ20の円筒部20Bよりも外周側における円板状部20Aの先端側を向く面は中心軸Cに垂直な平面状とされて、本実施形態における当接部20Fとされている。この当接部20Fから先端側への円筒部20Bの突出高さは、ブッシュ12の上記位置決め部12Fから突壁部12Bまでのブッシュ12後端側の内周部の深さよりも小さくされていて、切刃部材13が先端側に突出するときには、この当接部20Fが位置決め部12Fに当接することにより切刃部材13および中仕上げ用切刃11が位置決めされる。
一方、ワッシャ20の後端側を向く円板状部20Aの後端面は、本実施形態における被押圧面20Gとされている。この被押圧面20Gには、ワッシャ20の周方向において上記一対の案内溝20Eの中間に、円板状部20Aの外周に開口して内周側に延びる一対の凹溝20Hがそれぞれ形成されており、これらの凹溝20Hは中心軸Cを挟んで互いに反対側に位置して、内周側に向かうに従いその溝深さが漸次浅くなるようにして、上記段付き孔20Dの被押圧面20Gへの開口部に達する手前で該被押圧面20Gに切れ上がるように形成されている。
また、ワッシャ20の上記円筒部20Bの内径は、ブッシュ12の突壁部12Bに形成された上記係止溝12Cの内径と等しくされており、突壁部12Bの内周に挿通されたカートリッジ18の軸部18C外周とこの係止溝12Cとの間から、ワッシャ20の軸部20C外周と円筒部20B内周との間に画成される円筒状の空間に、上記付勢部材14が介装されている。この付勢部材14は、本実施形態ではこのような円筒状の空間に収容可能なコイルスプリングであって、圧縮された状態で該空間に収容されることによりワッシャ20を押圧して切刃部材13を後端側に付勢しており、こうして付勢された切刃部材13は、上述のようにカートリッジ18の胴部18Aの後端側を向く面がブッシュ12の突壁部12Bの先端側を向く壁面に当接して、中仕上げ用切刃11が没入した状態で位置決めされる。
このように構成された切刃ユニット10は、ワッシャ20の被押圧面20Gに形成された上記一対の凹溝20Hを、凹所2の底部に一対開口することになる上記連通孔3Aにそれぞれ向けて、上述のように該凹所2に挿入されて工具本体1に取り付けられる。そして、こうして取り付けられた切刃ユニット10において、工具本体1の上記供給路3に圧力流体を供給せずに、中仕上げ用切刃11が没入して上述のように位置決めされた状態では、本実施形態では図3に示すように切刃部材13のカートリッジ18におけるヘッド部18Bが中仕上げ用インサート15ごと凹所2の1段目の部分に収容されて、中仕上げ用切刃11が切削部1Cの外周面から突出することがないようにされ、このときの突出した仕上げ用切刃21や面取り用切刃31から工具本体1の直径方向に反対側の切削部1Cにおける外周面までの長さ、すなわち切削部1Cの最大外径は、内径加工を施す加工穴(下穴)の直径よりも小さくされる。なお、この状態で、凹所2の底面とこの底面側を向くワッシャ20の被押圧面20Gとの間には若干の間隔があけられている。
一方、上記供給路3に圧力流体を供給して上記連通孔3Aから凹所2内に導入すると、その圧力によってワッシャ20の被押圧面20Gが押圧されることにより、付勢部材14による付勢力に抗して切刃部材13が上記中心軸C方向先端側すなわち工具本体1の径方向外周側に移動し、これに伴い図4に示すように中仕上げ用切刃11が上記回転方向Tを向くようにして切削部1Cの外周面から突出し、上述のように当接部20Fが位置決め部12Fに当接したところで位置決めされる。ただし、こうして突出した中仕上げ用切刃11の上記中心線Oからの半径は、切削部1Cの外周面の半径よりは大きく、また内径加工を施す加工穴(下穴)の半径よりも大きいものの、中心線Oから仕上げ用切刃21までの半径よりは小さくされる。
なお、本実施形態では、他方の切刃とされるこの仕上げ用切刃21も、工具本体1の切削部1Cにカートリッジ22を介して着脱可能に取り付けられる仕上げ用切削インサート23に形成されており、このカートリッジ22は、特許文献1と同様に調整ピン24と調整バー25とを備えた調整機構によって径方向の位置が調整可能とされ、これに伴い仕上げ用切刃21の上記半径も微調整可能とされている。また、上記面取り用切刃31は同じ組の仕上げ用切刃21側を向いて中心線Oに対して45°の角度で交差する方向に配置されており、このような調整機構を備えていないこと以外は仕上げ用切刃21と同様にインサートに形成されて取り付けられている。
ここで、切削部1Cの周方向において上記各組の凹所2と反対側には、この切削部1Cの外周面に開口する断面「コ」字状の凹溝26が中心線Oに平行に延びるように形成されており、カートリッジ22は、この凹溝26に嵌合する略直方体状のブロックとされていて、その長手方向中央部よりも一端側(図1および図2における右側)に形成されたインサート取付座22Aに上記仕上げ用切削インサート23が着脱可能に取り付けられている。そして、このカートリッジ22は、必要に応じて凹溝26の溝底側にスペーサー22Bを介して、該カートリッジ22の長手方向中央部よりも他端側(図1および図2における左側)に工具本体1の径方向に挿通されたクランプネジ22Cが凹溝26の底面にねじ込まれることにより、該凹溝26内に固定される。
上記仕上げ用切削インサート23は、本実施形態ではやはり超硬合金等の硬質材料により正三角形平板状に形成されたものであって、その一方の正三角形面をすくい面として回転方向T側に向け、この正三角形面の3つのコーナ部に形成された切刃の1つを上記仕上げ用切刃21として工具本体1の切削部1Cにおける外周面よりも径方向外周側に突出させるようにして取り付けられている。また、工具本体1の外周面には、上記凹溝26に上記インサート取付座22Aの位置において直交するように開口し、中心線Cに直交する断面における該外周面の接線に沿って回転方向T側に延びるチップポケット26Aが形成されている。
さらに、工具本体1には、上記凹所2と凹溝26との間に、上記中心線Oと中心軸Cとを含む平面に直交する方向に延びる断面円形の止まり孔状の凹孔27が、凹溝26に装着されるカートリッジ22の上記インサート取付座22Aよりもさらに長手方向(中心線O方向)一端側の位置に形成されており、この凹孔27には孔底側から順に、コイルスプリング等の付勢手段28と上記上記調整バー25とが挿入された上で、この凹孔27の開口部には調整ネジ29がねじ込まれている。調整バー25は凹孔27に嵌挿可能な外径に形成されていて、その側面には凹孔27の孔底側に向かうに従い漸次後退する傾斜面25Aを備えた切欠溝が凹溝26側を向くように形成されている。
一方、凹溝26に取り付けられたカートリッジ22のインサート取付座22Aよりもさらに長手方向一端側には、該カートリッジ22を工具本体1の径方向に貫通する取付孔22Dが凹孔27に直交する位置に形成されているとともに、上記スペーサー22Bと、そして凹溝26の底面から凹孔27にかけての工具本体1にも、この取付溝22Dに連通する貫通孔が形成されている。そして、この取付孔22Dおよび貫通孔には、取付孔22D側から上記調整ピン24が挿入されていて、この調整ピン24の工具本体1径方向内周側を向く先端部は上記調整バー25の傾斜面25Aに密着する傾斜面とされており、またこうして調整ピンが挿入された上で、取付孔22Dの工具本体1の径方向外周側の開口部には止めネジ30がねじ込まれて調整ピン24の後端部と当接させられている。
従って、このような調整機構によれば、付勢手段28による付勢力に抗して調整ネジ29をねじ込むことにより調整バー25が凹孔27の孔底側に前進し、その傾斜面25Aによって調整ピン24が押し上げられて止めネジ30ごとカートリッジ22を工具本体1の径方向外周側に押圧する。これにより、カートリッジ22は、クランプネジ22Cがねじ込まれた他端側の部分を支点に弾性変形を生じて長手方向一端側の部分が径方向外周側に変位し、従って仕上げ用切削インサート23および仕上げ用切刃21も径方向外周側にせり出されて、その中心線Oに対する半径が微調整される。
次に、このような内径加工工具を用いて、被削材に間隔をあけて同軸に形成された複数の加工穴(下穴)を、中仕上げ用切刃11によって中仕上げするとともに、これと連続して仕上げ用切刃21により所定の内径に仕上げる場合の本発明の内径加工方法の一実施形態について説明する。本実施形態においては、まず供給路3に圧力流体を供給せずに、各組の切刃ユニット10における切刃部材13を付勢部材14の付勢力によって工具本体1の径方向内周側に付勢して、出没可能な一方の切刃である中仕上げ用切刃11を図3に示したように切削部1Cの外周面よりも没入した状態とする。
次いで、工具本体1を上記回転駆動部1A側でのみ保持し、その中心線Oを加工穴の中心軸線に対して、他方の切刃である上記仕上げ用切刃21が突出した側とは反対側、すなわち本実施形態では切刃ユニット10が取り付けられる凹所2が開口した側(図1および図2における下側)に偏心するように支持し、上記他端側から切削部1Cを加工穴に挿通してゆく。さらに、このように切削部1Cを加工穴に挿通して、各組の中仕上げ用切刃11と仕上げ用切刃21とが、内径加工を施すべき加工穴に対してそれぞれ送り方向Fの後方側に位置するように各加工穴を通り抜けたなら、切削部1Cの他端部を保持するとともに工具本体1の中心線Oが加工穴の中心軸線と同軸となるように支持する。
そして、上記供給路3に圧力流体(切削油剤)を供給することにより上述のように中仕上げ用切刃11を突出させて位置決めするとともに、工具本体1を中心線O回りに回転方向Tに回転させ、次いで工具本体1を送り方向Fに送り出すことにより、各加工穴の内径を突出した中仕上げ用切刃11と仕上げ用切刃21とによって切削してゆく。このとき、中仕上げ用切刃11は仕上げ用切刃21よりも送り方向F側にずらされており、かつ突出して位置決めされた中仕上げ用切刃11の上記中心線Oからの半径は中心線Oから仕上げ用切刃21までの半径より小さくされているので、工具本体1の送りに伴い加工穴は、その内径が中仕上げ用切刃11によって拡径させられた後に、仕上げ用切刃21によってさらに拡径させられて所定の内径に仕上げられる。
また、本実施形態では、供給路3に供給される圧力流体が切削油剤であって、内径加工時にはこの供給路3から上記分岐穴3Bを介して該切削油剤が中仕上げ用切刃11と仕上げ用切刃21とによる切削部位にもそれぞれ供給されるとともに、凹所2内で切刃部材13におけるワッシャ20の被押圧面20Gを押圧した切削油剤は、その一部がこの被押圧面20Gに開口した案内溝20Eの溝底と案内部12Gとの間の上記通路からブッシュ12の後端側の内周部に流れ込み、この内周部に滞留した空気を押し出しつつブッシュ12の上記孔12Eから凹所2の環状溝2Aに流れて孔2Bを介し切削部1Cの外周に噴出させられて、加工穴の内周にも供給される。さらに、中仕上げ用切刃11および仕上げ用切刃21による内径加工に先立って、面取り用切刃31により加工穴の開口部の面取り加工を行うこともできる。
このようにして各加工穴が所定の内径に仕上げられて、各組の仕上げ用切刃21が加工穴の送り方向F側に抜け出たなら、工具本体1の回転を停止するとともに圧力流体の供給も停止することにより、付勢部材14による付勢力によって中仕上げ用切刃11を再び工具本体1の径方向内周側に没入させる。なお、このとき突出した切刃部材13の被押圧面20Gと凹所2の底面との間に残留した圧力流体は、案内溝20Eと案内部12Gとの間の上記通路からブッシュ12の内周部に流れ込むため、切刃部材13の後退による中仕上げ用切刃11の没入を円滑とすることができる。そして、切削部1Cの他端側の保持を解くとともに工具本体1を挿通時と同じく仕上げ用切刃21とは反対側に偏心させて、仕上げられた加工穴と仕上げ用切刃21や面取り用切刃31との干渉を避けつつ工具本体1を送り方向F側に移動させて、切削部1Cを加工穴から引き抜く。
このように、上記構成の内径加工工具によれば、中仕上げ用切刃11と仕上げ用切刃21とのうち一方の切刃である中仕上げ用切刃11が工具本体1の径方向に出没可能とされているので、この中仕上げ用切刃11を工具本体1の径方向内周側に没入させた状態で切削部1Cの最大外径が加工穴(下穴)の内径(直径)よりも小さくなるように設定することにより、上記内径加工方法のようにこの中仕上げ用切刃11による加工穴の中仕上げ加工と仕上げ用切刃21による仕上げ加工とを、各加工穴に対して連続して1回の工具本体1の送りだけで行うことが可能となる。
しかも、本実施形態では、複数の加工穴の1つずつに対して複数組の中仕上げ用切刃11および仕上げ用切刃21の1組ずつが加工を行うので、実質的に1つの加工穴の中心軸線方向の幅分のストロークだけ工具本体1を送り出せばよい。このため、例えば中仕上げ用切刃だけを備えた内径加工工具による中仕上げ加工の後に仕上げ用切刃だけを備えた内径加工工具による仕上げ加工を行うのに比べ、加工サイクルタイムの大幅な短縮を図って加工効率の向上を促すことができる。
また、このように工具本体1の送り出しのストロークが短くて済むのに伴い、工具本体1の特に切削部1Cにおける中心線O方向の長さも必要以上に長尺となるのを防ぐことができ、例えば中仕上げ用切刃を備えた内径加工工具と仕上げ用切刃を備えた内径加工工具とを同軸に連結した工具により加工を行うのに比べ、工具本体1の剛性を確保して加工時の振れを抑え、加工精度の向上を図ることができる。さらに、当該内径加工工具の両端部を支持して回転駆動および送りを与える工作機械についても大型化を避けることができ、例えば中仕上げ加工と仕上げ加工とを2工程で行うときの工作機械をそのまま使用することが可能であるので、設備コストの増大を防ぐことも可能となる。
特に、こうして中仕上げ用切刃11が出没可能とされている一方で、本実施形態では他方の切刃である仕上げ用切刃21は上記調整機構を介して所定の加工径となるように切削部1Cに固定されるので、万一中仕上げ用切刃11による加工精度にばらつきがあったりしても、その後の仕上げ用切刃21により確実に所定の内径の加工穴を得ることができる。ただし、本実施形態ではこのように中仕上げ用切刃11が一方の切刃として工具本体1の径方向に出没可能とされるとともに、他方の切刃としての仕上げ用切刃21は工具本体1に固定されて取り付けられているが、これとは逆に中仕上げ用切刃11を他方の切刃として工具本体1に固定する一方で、仕上げ用切刃21を上述のような切刃ユニット10に取り付けるなどして、一方の切刃として工具本体1の径方向に出没可能に取り付けてもよい。また、本実施形態では、中仕上げ用切刃11と仕上げ用切刃21とが工具本体1の周方向において互いに反対側に位置するようにずらされるとともに、中心線O方向には加工穴の幅よりも小さい間隔でずらされているので、内径加工の途中ではこれら中仕上げ用切刃11と仕上げ用切刃21に作用する径方向の切削負荷が相殺する方向に作用することになり、これによっても工具本体1の振れを抑えて加工精度を向上させることができる。
なお、上記内径加工工具では、加工穴に工具本体1の切削部1Cが挿通される中心線O方向他端側(図1において左側)に向けた方向とは反対向きが送り方向Fとされていて、本実施形態の内径加工方法では組をなす中仕上げ用切刃11と仕上げ用切刃21とは、中仕上げ用切刃11が没入した状態で内径加工を施す加工穴を一旦通り抜けた後、中仕上げ用切刃11が突出させられて送り方向Fに引き戻されるようにして該加工穴を切削するようにされているが、これとは逆に加工穴に切削部が挿通される方向を送り方向として、各組の中仕上げ用切刃と仕上げ用切刃を内径加工すべき加工穴の手前に位置するまで切削部を挿通した後、中仕上げ用切刃を突出させてそのままこの挿通した方向に工具本体を送り出し、内径加工を施すようにしてもよい。
この場合、例えば加工穴が2つであって2組の中仕上げ用切刃と仕上げ用切刃により内径加工を行うとすると、このうち送り方向側の組は中仕上げ用切刃が没入した状態で1つ目の加工穴を通り抜けた後に中仕上げ用切刃が突出して次の2つ目の加工穴を内径加工することになり、従って複数の加工穴を内径加工するときでも、工具本体は少なくとも1つの加工穴を仕上げ用切刃と中仕上げ用切刃とが通り抜けるように挿通されればよい。また、この場合には、複数組の中仕上げ用切刃と仕上げ用切刃のうち最も送り方向後方側の組は内径加工前に加工穴を通り抜けることはなく、加工後に工具本体を引き抜く際に中仕上げ用切刃が没入させられることになる。なお、この場合には送り方向が上記実施形態とは逆になるため、各組の中仕上げ用切刃も仕上げ用切刃に対して工具本体を加工穴に挿通する方向にずらされて配置されることになる。
また、上記内径加工工具では、上述のように中仕上げ用切刃11を出没可能とするのに、該中仕上げ用切刃11を工具本体1に着脱可能に取り付けられる上記実施形態の切刃ユニット10の出没自在な切刃部材13に設けて、この切刃部材13を付勢部材14によって工具本体1の径方向内周側に付勢して没入させておいて、内径加工時には工具本体1の供給路3を介して供給される圧力流体によって切刃部材13の被押圧面20Gを押圧することにより、径方向外周側に突出させるようにしている。従って、突出した中仕上げ用切刃11を没入させるのに例えば別経路の圧力流体の供給路を設けたりする必要がなく、工具本体1の構造や圧力流体を供給する工作機械の供給手段を簡略化することができる。
しかも、本実施形態ではこの圧力流体が切削油剤であるので、工作機械側に備えられるこのような切削油剤の供給手段を用いて中仕上げ用切刃11を出没させることが可能となり、設備コストの増大を一層確実に防ぐことができる。また、この中仕上げ用切刃11による加工径も、本実施形態では例えば切刃ユニット10のブッシュ12における鍔部12Aと凹所2との間に介装されるスペーサ17を厚さの異なるものに交換することにより、容易に調整が可能である。
一方、上記切刃ユニット10では、凹所2に嵌挿される筒状のブッシュ12内に上記切刃部材13が摺動可能に挿入されて工具本体1の径方向に出没自在とされており、この切刃部材13の径方向内周側の後端部には、ブッシュ12の凹所2内に嵌挿された後端部と等しい外径で、すなわち該凹所2内に案内溝20Eを除いて隙間なく嵌め入れ可能な外径を有する円板状部20Aを有するワッシャ20が備えられており、上記被押圧面20Gはこのワッシャ20の後端面とされている。従って、供給路3から凹所2の底部に圧力流体が供給されると、このワッシャ20が凹所2内でピストンのように作用して切刃部材13ごと中仕上げ用切刃11を確実に工具本体1の径方向内周側に突出させることができる。
また、このワッシャ20には上述のように案内溝20Eが形成される一方、ブッシュ12にはこの案内溝20Eに嵌合する案内部12Gが上記中心軸C方向に形成されており、中仕上げ用切刃11の出没の際には切刃部材13がこの案内部12Gに沿って案内されて中心軸C方向すなわち工具本体1の径方向に確実に出没させられる。そして、こうして突出させられた切刃部材13は、案内溝20Eが案内部12Gに嵌合させられていることにより中心軸C回りの回転が拘束され、またカートリッジ18の胴部18Aがブッシュ12の突壁部12Bよりも先端側の内周部に嵌合させられるとともに、ワッシャ20の先端側を向く当接部20Fがブッシュ12の位置決め部12Fに当接させられて位置決めされているので、中仕上げ用切刃11に作用する切削負荷に対してもガタつき等を生じることなく切刃部材13を保持することができて、安定した内径加工を促すことが可能となる。