JP5158920B2 - 光−磁束変換型入力インターフェース回路 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、超伝導論理回路等、大容量の情報を高速度で伝送し得る超高速デジタルデバイスの入力回路等として用いることができる、光−磁束変換型入力インターフェース回路に関するものである。更に詳しくは、超伝導単一磁束量子(SFQ)論理回路における、数十ギガヘルツからテラヘルツ帯に及ぶ光信号の検出を可能とした入力インターフェース回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
超高速デジタルデバイスの一種として、超伝導特有の単一磁束量子(Single Flux Quantum、以下SFQと記す)を用いた素子又は回路の研究が進んでいる。SFQ回路は、高速性や低消費電力性に優れた特性を有しているため、従来の半導体素子では実現困難な高速信号処理が可能である(下記非特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、SFQ回路は、集積回路内で1000GHzに及ぶ高速動作をする論理回路であるため、その高速性に見合った超高速信号を外部から直接入力することは非常に難しい。このような高い周波数帯域においては、電気信号による入力では損失が大きくなり、また常伝導部分と超伝導部分間でのインピーダンス整合をとることも容易でない。
【0004】
これに対して、ON/OFF変調された光パルス信号又は振幅が変調された光ビートを用いて信号を入力する方式が有効であると考えられる。光信号を用いた入力方式では、フォトミキシングなどの技術を用いることで電気信号よりも高周波の信号を容易に扱うことができる。また、一方が光で他方が磁束量子であるから、両者間の直接的なインピーダンス整合等を行う必要がなく、さらにSFQ論理回路への信号導入部において浮遊インピーダンス等を考慮する必要がないことから、容易に信号を導入することができる。
【0005】
さらに、光ファイバで信号を光−磁束量子変換部に導入することを考えると、導体を信号導入ケーブルに使用しないために、外来電磁ノイズの影響が小さく、複数の信号入力を行う場合にもクロストークが起こりにくいといった利点もある。
このように、光信号を用いた入力方式を適用することによって、SFQ回路に入力信号を容易に、かつ比較的高速で導入することができる。
【0006】
しかしながら、光検出部とSFQ回路を直接接続し、電流パルスをジョセフソン接合に流し込む従来の光入力回路では、回路の時定数の影響で波形が鈍るため、光検出部の設計に自由度がなく、また、受光部分の影響が超伝導回路に及ぶ可能性がある。このような設計上の制限により、従来はSFQ回路本来の高速性を達成することが困難であった(下記特許文献1、2、非特許文献2参照)。
【0007】
また、光検出部に超伝導体を用いる方法が提唱されているが、キャリアの生成効率は半導体薄膜に比べて小さく、実用上有効ではない(下記特許文献3、非特許文献3参照)。
このように、SFQ回路等の性能を十分に引き出すためには、光信号の検出及び伝送方式の改良が重要である。具体的には、SFQ回路の演算速度に見合う高速な光応答、及び入力波形を鈍らせることなく、SFQ回路部分へ信号を伝達することが可能な光入力インターフェースが求められる。
【0008】
【特許文献1】
特開平09−237923号公報(第3頁−第5頁 図2)
【0009】
【特許文献2】
特開平07−335950号公報(第5頁−第8頁 図1)
【0010】
【特許文献3】
特開平05−259522号公報(第3頁 図1)
【0011】
【非特許文献1】
K.K.Likharev et al.,IEEE Trans.Appl.Supercond.Vol.1,3−28(1991)
【0012】
【非特許文献2】
Chia−chi Wang et al.,Appl.Phys.Lett.Vol.66,3325−3327(1995)
【0013】
【非特許文献3】
R.Adam et al.,Appl.Phys.Lett.Vol.76,469−471(2000)
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記状況に鑑みて、超高速デジタルデバイスとして有用である超伝導論理回路、特にSFQ論理回路の性能を十分に引き出すことを可能とする。
すなわち、本発明は、数十ギガヘルツからテラヘルツ帯に及ぶ光信号を検出し、それを磁束に変換することにより、入力波形を鈍らせることなく超伝導論理回路へと信号伝達を可能とする光−磁束変換型入力インターフェース回路を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕光−磁束変換型入力インターフェース回路において、バイアス電圧が印加されるとともに、光信号を受光すると、その光強度に応じたフォトキャリアが生成され、それに応じた電流を流すことができる、超伝導電極と高速光応答を示す半導体薄膜を用いる半導体光伝導スイッチング手段と、この半導体光伝導スイッチング手段に接続されるとともに、流れた電流により磁束を発生させる制御電流線と、この制御電流線とは電気的に独立し、前記発生した磁束から電圧パルスを発生する磁束−電圧変換部であって、超伝導体の線幅を1μm以下にし、イオン照射でダメージを与えることによって作製される、フラックスフロータイプの電流−電圧曲線をもつ弱結合ブリッジを用いる磁束−電圧変換部と、この磁束−電圧変換部と共通接地に接続されたジョセフソン伝送線と、数十ギガヘルツ以上で、かつ1〜2テラヘルツ以下の周波数帯の電圧パルスを入力することができる超伝導単一磁束量子論理回路とを具備することにより入力波形を鈍らせることなく、前記超伝導単一磁束量子論理回路へと信号を伝達できることを特徴とする。
【0016】
〕上記〔〕記載の光−磁束変換型入力インターフェース回路において、前記半導体薄膜が低温成長ガリウム砒素又は非晶質ゲルマニウムであることを特徴とする。
〕上記〔1〕記載の光−磁束変換型入力インターフェース回路において、前記半導体光伝導スイッチング手段として、単一走行キャリア・フォトダイオードを用いることを特徴とする。
【0017】
〕上記〔〕記載の光−磁束変換型入力インターフェース回路において、前記超伝導単一磁束量子論理回路として、ジョセフソン接合を用いることを特徴とする。
すなわち、本発明の目的を達成するため、半導体薄膜を用いた光伝導スイッチ又は単一走行キャリア・フォトダイオードなどの高速光応答するフォトダイオードなどのスイッチング手段を組み込んだ制御電流線、及びそれと磁気的に結合しSFQパルスを発生するジョセフソン接合又は超伝導弱結合ブリッジ、そして発生したSFQパルスを伝送・成形するためのジョセフソン接合が平行につながっている、ジョセフソン伝送線(JLT)からなる、光−磁束変換素子を作製する(図1参照)。
【0018】
これまでにも、光スイッチにより生成した光電流をジョセフソン接合に注入してSFQパルスを発生する試みはあった(特許文献1、2、非特許文献2)が、その場合、光スイッチを含む回路の時定数の影響などにより動作速度が律速されるという問題があった。しかしながら、光を磁束に直接変換する本発明の光−磁束変換型入力インターフェース回路では、磁束は空間中を変動する磁場として高速にSFQ回路に伝達されるため、そのような制限はない。また、制御電流線と論理回路は完全に分離されているため、制御電流及びSFQ回路のバイアス電流は独立に制御することができ、素子の設計が容易になるという利点も持っている。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明に係る光−磁束変換型入力インターフェース回路を詳細に説明する。
図1は本発明の実施例を示す光−磁束変換型入力インターフェース回路図である。
【0020】
この図に示すように、この光−磁束変換型入力インターフェース回路は、磁場を発生させるための制御電流線101と、この制御電流線101に組み込まれた光伝導スイッチング手段(光伝導スイッチ又は単一走行キャリア・フォトダイオードなどの高速光応答するフォトダイオードなど)102と、制御電流線101によって注入される磁束のフローにより電圧パルスを発生する磁束−電圧変換部103及び発生した電圧パルスをSFQパルスに成形・伝送する伝送部(ジョセフソン伝送線)104、および超伝導論理回路(SFQ論理回路)105により構成される。
【0021】
制御電流線101には銅酸化物超伝導体薄膜を用いる。制御電流線101中に作製された光伝導スイッチング手段(光伝導スイッチやフォトダイオード)102はダイポール、ボウタイ、ログペリ、櫛形構造などの超伝導電極と低温成長ガリウム砒素又は非晶質ゲルマニウム等の高速光応答を示す半導体薄膜からなる。又は光伝導スイッチの代わりに単一走行キャリア・フォトダイオード(UTC−PD)を用いてもよい。現在通信帯域で使用されている1.5μmの光を使用する場合は、バンドギャップの小さい非晶質ゲルマニウムやUTC−PDが望ましい。
【0022】
この光伝導スイッチング手段102(ここでは光伝導スイッチ)にバイアス電圧をかけ、光信号106としてパルス光を照射すると、フォトキャリアが生成され瞬間的に制御電流線101に電流が流れる。また、ミキシング光を照射した場合は、光の振幅のビートの周波数に対応した交流電流が流れる。光信号106を集光する手段としては光ファイバー又は光学レンズ、又は放物面鏡等を用いる。
【0023】
このようにして発生した光電流は、制御電流線101の周りに磁場を誘起する。誘起された磁場が、磁束−電圧変換部103のジョセフソン接合で単一磁束量子(2.07×10-15 Wb)以上になると、接合内部に侵入し高速でフローする。磁束−電圧変換部103にはジョセフソン臨界電流Jc以下のバイアス電流が流れており、磁束が侵入するとジョセフソン臨界電流Jcが減少することにより、ゼロ電圧状態から有限の電圧状態へと転移する。この電圧状態は、単一磁束量子に相当する電圧パルス(SFQパルス)として、ジョセフソン伝送部104へと送られる。
【0024】
このSFQパルスは、臨界電流磁束量子として、図1における磁束−電圧変換部103(ジョセフソン接合又は弱結合ブリッジ)内をフローし、SFQパルス信号を発生する。この発生したSFQパルス信号はジョセフソン伝送部104によって伝達・成形され、SFQ論理回路105へと送られる。
磁束−電圧変換部103としては、超伝導体の線幅を1μm以下にし、イオン照射等でダメージを与えることによって作製される、弱結合ブリッジを使用してもよい。この場合も同様にブリッジにはバイアス電流が流れており、磁束が侵入するとローレンツ力によりブリッジを横切る方向へフローする。この際、ブリッジには電磁誘導の法則にしたがって、電圧が発生する。
【0025】
ここで、磁束が銅酸化物超伝導ブリッジを走行する速度に関しては、105 〜106 m/s程度の値が得られており、ブリッジ幅を十分小さくすれば、パルス幅が1ps程度のSFQパルスを発生することが可能である。その後、同様にジョセフソン伝送部104によって、SFQパルスがSFQ論理回路105へと伝送される。
【0026】
以上のように、図1に示した光−磁束変換型入力インターフェース回路は、超高速光信号を磁束量子へと変換し、パルス幅1ps以下の電圧パルスをギガヘルツからテラヘルツに及ぶ周波数帯、具体的には数十ギガヘルツから1〜2テラヘルツの周波数帯の速度で伝送することが可能な、光入力インターフェース回路として動作することが可能である。
【0027】
【実施例】
具体的な実施例としては、光伝導スイッチ(102)として非晶質ゲルマニウム薄膜、制御電流線101としてYBa2 Cu3 7 (YBCO)薄膜、そして磁束−電圧変換部103としてYBCO薄膜の表面改質バリアを用いたランプエッジ型ジョセフソン接合を用いた。これらの構造はすべてMgO(100)基板上に作製されており、動作検証温度は40Kである。
【0028】
図2は本発明の実施例を示す非晶質ゲルマニウム薄膜を用いた、ボウタイ型光伝導スイッチを示す図である。
この図において、制御電流線101である超伝導(YBCO)薄膜の膜厚は100nm、幅が5μmである。また、光伝導スイッチ部の非晶質ゲルマニウム薄膜は、制御電流線101中に作製された5μmのギャップ上に厚さ約100nm堆積したものである。この光伝導スイッチ(102)から1μm離れたところに、磁束−電圧変換部103(図示なし)としてYBCO薄膜を用いたランプエッジ型のジョセフソン接合を作製し、さらに同一のグランドプレーンに接地した、同様のジョセフソン接合が10個並列につながったジョセフソン伝送部(ジョセフソン伝送線)104(図示なし)へとつながっている。
【0029】
制御電流線101に電源(図示なし)を接続し、非晶質ゲルマニウム光伝導スイッチ(102)に5Vの電圧をかけ、光信号106としてパルスレーザー光を照射した。照射したのは、繰り返し周波数82MHz、波長780nm、0.1psのパルス幅を持つ1mWのパルスレーザー光106である。
パルスレーザー光106を照射した時、制御電流線101に流れる電流の時間変化に伴う光電流特性を測定したものが図3であり、この図において、縦軸は光電流(mA)、横軸は時間(ps)を示している。
【0030】
この図から分かるように、電流パルスの半値幅が約1psであり、生成される光電流の瞬間的な最大値は3.6mAであることが確認できた。パルス幅が1psであることは、100ギガヘルツ以上の十分高速な動作が可能であることを示している。この値は、1μm離れたジョセフソン接合又は弱結合ブリッジ部分103に数個の磁束量子を生成可能な量である。
【0031】
次に、実際に出力される電圧パルスの波形を測定した結果を図4に示す。この図において、縦軸はパルス電圧、横軸は時間(ps)を示している。なお、これは、約12ps間隔で、前述したパルスレーザー光106を光伝導スイッチ(102)に照射し、10個の接合を持つジョセフソン伝送線104により伝送・成形されたパルス電圧を光遅延の手法を用いて測定したものである。
【0032】
図4に示されているように、2つの出力波形は明瞭に分離されており、出力された電圧パルスの半値幅は約1psであり、光伝導スイッチ(102)で生成された光電流のパルス幅(図3)とほぼ同等であることが確認された。これは、この光−磁束変換型入力インターフェース回路(素子)が少なくとも1ps程度のパルス信号を、波形を鈍らせることなく伝送可能であることを示している。
【0033】
因みに、磁束−電圧変換部103にジョセフソン接合の代わりにフラックスフロータイプの弱結合ブリッジを用いても同様の結果が得られる。
また、光−磁束変換型入力インターフェース回路において、前記超伝導単一磁束量子論理回路105として、ジョセフソン接合を用いることができる。
このように、本発明によれば、超伝導単一磁束量子(SFQ)論理回路の演算速度に見合う高速な応答、及び入力波形を鈍らせることなく、SFQ回路部分へ信号を伝達可能な入力インターフェース回路を実現するため、半導体光伝導スイッチを用いた、光信号を直接磁束量子へと変換し、生成したSFQパルスを数十ギガヘルツ以上の速度で伝送することができる、光−磁束変換型入力インターフェース回路を開発した。
【0034】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【0035】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
単一磁束量子を用いた超高速の超伝導論理回路に対して、数十ギガヘルツ以上の超高速で光信号を入力し、SFQ回路へと伝送することができ、これによって、SFQ回路の超高速性を十分に発揮した情報処理を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例を示す光−磁束変換型入力インターフェース回路図である。
【図2】 本発明の実施例を示す非晶質ゲルマニウム薄膜を用いた、ボウタイ型光伝導スイッチを示す図である。
【図3】 本発明の実施例を示す非晶質ゲルマニウムの光伝導スイッチの光電流特性を示す図である。
【図4】 本発明の実施例を示すジョセフソン接合部に発生する電圧パルスの形状を示す図である。
【符号の説明】
101 制御電流線
102 光伝導スイッチング手段(光伝導スイッチ又は単一走行キャリア・フォトダイオードなど)
103 磁束−電圧変換部
104 ジョセフソン伝送線
105 超伝導論理回路〔超伝導単一磁束量子(SFQ)論理回路〕
106 光信号

Claims (4)

  1. (a)バイアス電圧が印加されるとともに、光信号を受光すると、その光強度に応じたフォトキャリアが生成され、それに応じた電流を流すことができる、超伝導電極と高速光応答を示す半導体薄膜を用いる半導体光伝導スイッチング手段と、
    (b)該半導体光伝導スイッチング手段に接続されるとともに、流れた電流により磁束を発生させる制御電流線と、
    (c)該制御電流線とは電気的に独立し、前記発生した磁束から電圧パルスを発生する磁束−電圧変換部であって、超伝導体の線幅を1μm以下にし、イオン照射でダメージを与えることによって作製される、フラックスフロータイプの電流−電圧曲線をもつ弱結合ブリッジを用いる磁束−電圧変換部と、
    (d)該磁束−電圧変換部と共通接地に接続されたジョセフソン伝送線と、
    (e)数十ギガヘルツ以上で、かつ1〜2テラヘルツ以下の周波数帯の電圧パルスを入力することができる超伝導単一磁束量子論理回路とを具備することにより入力波形を鈍らせることなく、前記超伝導単一磁束量子論理回路へと信号を伝達できることを特徴とする光−磁束変換型入力インターフェース回路。
  2. 請求項記載の光−磁束変換型入力インターフェース回路において、前記半導体薄膜が低温成長ガリウム砒素又は非晶質ゲルマニウムであることを特徴とする光−磁束変換型入力インターフェース回路。
  3. 請求項1記載の光−磁束変換型入力インターフェース回路において、前記半導体光伝導スイッチング手段として、単一走行キャリア・フォトダイオードを用いることを特徴とする光−磁束変換型入力インターフェース回路。
  4. 請求項記載の光−磁束変換型入力インターフェース回路において、前記超伝導単一磁束量子論理回路として、ジョセフソン接合を用いることを特徴とする光−磁束変換型入力インターフェース回路。
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