JP5158708B2 - 錯体の発色による簡易的アデニン濃度分析法 - Google Patents

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本発明は、アデニンと銅イオンとからなる錯体の発色を利用した、アデニンの簡易定量方法に係るものである。
アデニンの定量方法としては、一般的に高速液体クロマトグラフィーを用いて精製を行い、UV254nmの吸収強度よりアデニンの含有量を算出する。この分析方法は定量性がよく、再現性も十分得る事が出来る。
しかしながら、アデニン製造工程に於いて、製造工程中の工程液を分析する際は、工程液中に多くの不純物が含まれている場合が多く、分析機器や付属部品の損傷を起こす可能性があり、特にカラム等高価な付属品の劣化が激しい。よって、このような工程液中のアデニン含有量を定量する際には、工程液の前処理が必要であり、それを怠った場合は高価な分析機器の不具合や故障等の要因になる事もある。また、分析には多くの時間を要し通常は2時間程度掛かる。これによる問題点として、例えば工程中に不具合があった場合は、工程液の分析にて要因を調査し分析後に不具合を対応する為、分析時間中に工程液のロスが多く発生する事もあった。
分析化学 Vol.54, No.9(2005)pp761-765 特開2001−99826号公報 特開平5−66225号公報 Journal of the American Chemical Society Vol.80, No.5(1958)pp1132-1135
本発明は、上記の問題点を解決し、製造現場において迅速且つ簡易的にアデニンのおおよその濃度を定量できる方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を行った結果、アデニンを含有した工程液中に任意の濃度の銅イオンとアルカリを添加する事で発色させる事により、優れた発色領域が得られ、目視で判別できる事を見出し、それに基づき、簡易的で再現性のある、試料水溶液中のアデニン濃度の定量方法を確立することに成功した。
すなわち本発明は、
(1)試料水溶液に銅イオンを添加した後に、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加してアルカリ性にすることにより、前記試料水溶液中のアデニンと銅イオンとの錯体を生成させ発色させることを特徴とする、試料水溶液中のアデニン含有量の簡易的定量方法、
(2)添加する銅イオンの量が試料水溶液に対して10〜200ppmであり、添加するアルカリの量が前記銅イオンと当量以上であり、かつアルカリ添加後の水溶液がpH9〜12であることを特徴とする、請求項1記載の試料水溶液中のアデニン含有量の簡易的定量方法
を提供するものである。
本発明によれば、アデニン製造工程における工程液中のアデニン含有量を調べる際、少量の工程液試料に少量の銅イオンとアルカリを添加して発色させるだけで、目視で色相の判別ができ、試料中のアデニンのおおよその量を再現性よく定量することができる。このことにより、高価な分析機器を用いることなく、製造現場にて簡便に短時間で試料液中のアデニン含有量を定量することが出来、その測定結果を速やかに製造条件にフィードバックすることができる。
本発明のアデニンの定量方法においては、最初に銅イオンを含む試薬と工程液等の試料水溶液を反応させた後に、アルカリ溶液を含む試薬と反応させる。
本発明でいう試料水溶液とは、アデニンの定量を実施し得るものであれば、その由来は特に限定されない。具体的にはアデニン生産時の工程液、排水液を始め、各種用途のためにアデニンが添加された組成物等が挙げられる。
銅イオンを含む試薬としては、本発明の目的に適合するものであれば全て用いることが出来る。例えば、硝酸銅溶液、硫酸銅溶液、塩化銅溶液などが例示される。銅イオンの反応液中での最終濃度はアデニン溶液中のアデニン量の濃度範囲で詳細に確認する事が出来る。ここで、一般な物性としてアデニン水溶液の飽和濃度は37℃でおよそ1200ppmである。通常、例えば硝酸銅を使用した場合任意のアデニン濃度の水溶液に対して、好ましくは銅イオン濃度が10〜200ppm程度になるように添加する。
ここで、ある程度アデニン溶解濃度が把握できている場合に関しては、添加する銅イオン濃度の範囲を狭める事により、優れた発色領域が得られると共に、より詳細にアデニン含有量を確認する事が出来る。例えば、溶液中のアデニン濃度が200〜1000ppmの際は、添加する銅イオン濃度範囲を30〜80ppm、より好ましくは50ppm程度にすることで良好な発色領域を得る事が出来る。また、アデニン濃度が10〜200ppmの低濃度領域を確認する為には添加する銅イオン濃度を10〜40ppm、より好ましくは20ppm程度にする事により、アデニン濃度の低い領域に関しても、優れた発色領域を得る事が出来る。
アデニン含有量を定量する際の試料水溶液の液性はpH7以上である事が望ましい。というのは、pH7以下の場合、銅イオン自体が酸化銅の沈殿物を生じ、イオンとして存在できなくなり、測定不可能となることがあるためである。特に強酸存在下では測定する事は困難である。但し、試料水溶液が弱酸性の場合は、水酸化ナトリウム等のアルカリを用いる事で中和する事により測定する事が可能となる。この事による測定誤差等の支障は特に生じない。
本発明において後で添加するアルカリも、本発明の目的に適合するものであれば全て用いることが出来る。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等が挙げられ、より好ましくは水酸化ナトリウムが用いられる。アルカリに関しては水溶液を使用し、アデニン−銅錯体に添加して発色させる。
アルカリを添加する理由は、アルカリを添加する事によりアデニン−銅錯体の発色度合いが顕著な差となって現れ、系内のアデニン含有量が発色度合いの差によってより鮮明に目視で確認する事が出来ることである。アルカリ水溶液の濃度に関しては特に規定しないが、例えば、水酸化ナトリウムを使用した場合0.01〜1N程度の水溶液を用いる事が発色度合いを確認する為にはより好ましく、再現性も十分に得られる。
アルカリ水溶液の添加量に関しては、添加前のアデニン−銅錯体溶液のpHの値にもよるが、添加後の最終pH値が8〜12、好ましくはpH9〜10に調整する事で、優れた発色領域を得る事が出来る。
本発明の方法による分析時間は、銅イオンの添加及びアルカリ溶液によるpH調整のみであり、5〜15分程度で終了する為、従来実施してきた分光光度計を用いる分析方法と比較した場合、分析時間を大きく低減する事が可能である。また、事前に既知アデニン濃度での標品、即ち色見本を作成しておく事により、分析結果は該色見本との目視による照合で容易に確認出来、簡便である。尚、この色見本は経時変化せず長期間保存可能である。
本発明をより詳細に説明するために、以下に実施例を挙げる。
<実施例1>
純水を溶媒として、アデニン濃度が100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000 ppmになるように水溶液を調製した。これらに銅標準液(1008 ppm in 硝酸0.1 mol/L)を、銅イオンベースで50 ppmになるよう添加していった。次に、これらの溶液を0.1N水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0になるように調整した。
<実施例2>
純水を溶媒として、アデニン濃度が10、20、30、40、50、60、70、80、90、100 ppmになるように水溶液調製した。これらに銅標準液(1008 ppm in 硝酸0.1 mol/L)を、銅イオンベースで20 ppmになるよう添加していった。次に、これらの溶液を0.1N水酸化ナトリウム水溶液でpH9.0になるように調整した。
実施例1及び実施例2の操作で得られたものは、アデニン濃度が既知であるために標品すなわち色見本として使用した。
<実施例3>
アデニン製造工程に於いて、通常アデニン含有量が800〜1000ppmである工程液Aに、銅標準液(1008 ppm in 硝酸0.1 mol/L)を、銅イオンベースで50 ppmになるよう添加していった。次に、これらの溶液を0.1N-NaOHaq.でpH9.0になるように調整した。その後、実施例1で作成した色見本にてアデニン濃度を確認したところ約900ppmと推測された。
<実施例4>
アデニン製造工程に於いて、通常アデニン含有量が5〜40ppmである工程液Bに、銅標準液(1008 ppm in硝酸0.1 mol/L)を、銅イオンベースで20 ppmになるよう添加していった。次に、これらの溶液を0.1N-NaOHaq.でpH9.0になるように調整した。その後、実施例2で作成した色見本にてアデニン濃度を確認したところ約20ppmと推測された。
<参考例1>
実施例3で試料として用いた工程液AをアルカリによりpH7へ調整した。調整液を任意の濃度に希釈した後、フィルター濾過を施し高速液体クロマトグラフィーにて分析を行った。分光光度計UV254nmで吸収される吸収強度より得られたエリア面積を、既知のアデニン濃度のエリア面積より算出した結果、工程液A中のアデニン濃度は918ppmであった。
<参考例2>
実施例4で試料として用いた工程液Bについて、参考例1の方法を用いてUV254nmで吸収される吸収強度より得られたエリア面積を算出した結果、濾液中のアデニン濃度は18ppmであった。
実施例3と参考例1、実施例4と参考例2はほぼ近似した値を示しており、本発明の方法に高速液体クロマトグラフィーに準ずる定量性がある事が確認された。よって、簡易的に工程液中のアデニン濃度を分析する事が可能となった。
本発明の方法は、アデニンを製造する工程や排水におけるアデニン量の測定の他、アデニンを使用する工業分野、具体的には薬学的組成物、化粧品、成長調節剤や、生物工学過程、化粧品産業、または農業における薬や化粧品等に対しての利用も期待できる。また、アデニン−銅錯体を使用して発色させる為、アデニン−銅錯体を利用する産業分野に対してはより有効である。

Claims (2)

  1. 試料水溶液に銅イオンを添加した後に、アルカリを添加することにより、前記試料水溶液中のアデニンと銅イオンとの錯体を生成させ、該錯体による発色の色相を目視で判別可能なことを特徴とする、試料水溶液中のアデニン含有量の簡易的定量方法。
  2. 添加する銅イオンの量が試料水溶液に対して10〜200ppmであり、アルカリを添加した後の水溶液がpH8〜12であることを特徴とする、請求項1記載の試料水溶液中のアデニン含有量の簡易的定量方法。
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