以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるインクジェットヘッドの設計方法で設計されたインクジェットヘッドの外観斜視図である。図2は、図1のII−II線における断面図であり、インクジェットヘッドを構成するホルダにヘッド本体が組み付けられた状態を示している。図3は、図2に示すヘッド本体に補強板が接着された状態を示す斜視図である。インクジェットヘッド1は、シリアル式のインクジェットプリンタ(図示略)に用いられて、副走査方向に平行に搬送されてきた用紙に対してマゼンタ、イエロー、シアン及びブラックの4色のインクを吐出して記録するものである。図1及び図2に示すようにインクジェットヘッド1は、4色のインクをそれぞれ貯溜する4つのインク室3が形成されたインクタンク71と、このインクタンク71の下方に配置されたヘッド本体70とを備えている。
インクタンク71の内部には、4つのインク室3が主走査方向に並んで形成されており、図2中左方のインク室3からマゼンタ、イエロー、シアン、ブラックのインクが順に貯溜されている。これら4つのインク室3は、対応するインクカートリッジ(図示せず)がチューブ40(図1参照)によってそれぞれ接続されており、インクカートリッジからインク室3に各色のインクが供給されるようになっている。また、図2及び図3に示すようにインクタンク71が、平面矩形形状の補強板41に組み付けられている。この補強板41は、略直方体形状を有するホルダ72に紫外線型硬化剤43で固着されている。さらに、この補強板41には、図3に示すように平面形状が長方形形状の開口部42が形成されており、この開口部42内に後述のアクチュエータユニット21を配置するようにしてヘッド本体70が接着固定されている。インクタンク71の下端部には、4つのインク室3にそれぞれ連通する4つのインク導出口3aが形成されている。一方、補強板41には、図3に示すように、4つのインク導出口3aとそれぞれ連なる平面形状が楕円形状の4つの貫通孔41aが形成されている。
ヘッド本体70は、それぞれの色ごとに複数のインク流路が形成された流路ユニット4と、流路ユニット4の上面にエポキシ系の熱硬化性接着剤によって接着されたアクチュエータユニット21とを含んでいる。流路ユニット4及びアクチュエータユニット21は、複数の薄板を積層して互いに接着させた構成であり、これら流路ユニット4及びアクチュエータユニット21はインクタンク71の下方に配置されている。流路ユニット4の上面には、平面形状が楕円形状の4つのインク供給口4a(図4参照)が形成されている。また、図3に示すように補強板41には、補強板41に形成された貫通孔41aと流路ユニット4に形成されたインク供給口4aとがそれぞれ連なるようにして流路ユニット4が接着されている。この構成により、インクタンク71内の4種類のインクが、インクタンク71に形成された4つのインク導出口3a及び補強板41に形成された4つの貫通孔41aを通ってそれぞれに対応する流路ユニット4の4つのインク供給口4aから流路ユニット4内に供給されている。
また、ヘッド本体70は、補強板41がホルダ72に固着されることで、ホルダ72の下面に形成された段付き状の開口部72aに装着されており、ヘッド本体70の底面がホルダ外部に露出された状態となっている。そして、ホルダ72と流路ユニット4との間はシール剤73により封止されている。ヘッド本体70の底面は、微小径を有する多数のノズル8(図6参照)が配列されたインク吐出面70aとなっている。また、アクチュエータユニット21の上面には、給電部材であるフレキシブルプリント回路(FPC)50が接合され主走査方向の一方に引き出されるとともに、屈曲しながら上方に引き出されている。FPC50のアクチュエータユニット21と対向する部分における上面には、FPC50及びアクチュエータユニット21を保護する保護プレート44が貼付されている。
アクチュエータユニット21に接合されたFPC50は、スポンジなどの弾性部材74を介してインクタンク71の側面に沿うように引き出され、このFPC50上にドライバIC75が設置されている。一方で、FPC50は、ドライバIC75から出力された駆動信号をヘッド本体70のアクチュエータユニット21(後に詳述)に伝達するように、ハンダ付けによって電気的に接合されている。
図2において、ホルダ72のドライバIC75に対向する側壁には、ドライバIC75の熱を外部に放散する為の開口部72bが形成されている。さらに、ドライバIC75とホルダ72の開口部72bとの間には、略直方体形状のアルミ板からなるヒートシンク76がドライバIC75に密着するように配置されている。これらヒートシンク76及び開口部72bにより、ドライバIC75で発生した熱を効率的に散逸させることができる。また、開口部72b内には、ホルダ72の側壁とヒートシンク76の隙間を埋めるためのシール剤77が配置されており、インクジェットヘッド1内にゴミやインクが侵入することを防いでいる。
図4は、ヘッド本体70の平面図である。図4に示すように、ヘッド本体70は流路ユニット4の一方向(副走査方向)に延在した矩形平面形状を有している。図4において、流路ユニット4内には、流路ユニット4の長手方向(一方向)に沿って互いに平行に延在された4つのマニホールド流路(共通インク室)5が形成されている。これらマニホールド流路5には、流路ユニット4の4つのインク供給口4aを通じてインクタンク71のインク室3からそれぞれインクが供給される。本実施の形態では、図4中の4つのマニホールド流路5は上方から下方に向かって順にマゼンタ、イエロー、シアン及びブラックに対応するマニホールド流路5M、5Y、5C、5Kとなっている。これら4つのマニホールド流路5M,5Y,5C,5Kのうち、3つのマニホールド流路5M,5Y,5Cは流路ユニット4の幅方向(主走査方向)において等間隔に配置されており、マニホールド流路5Kは3つのマニホールド流路5M、5Y、5Cの配置間隔より大きい配置間隔でマニホールド流路5Cから離隔された位置(図4中流路ユニット4の下方位置)に形成されている。また、流路ユニット4の上面であって4つのインク供給口4aを覆う位置には、フィルタ部材45が配置されている。フィルタ部材45は、各インク供給口4aと重なる位置に複数の微小孔が形成されたフィルタ45aを有している。こうして、インクタンク71から流路ユニット4内に流通するインク内のゴミなどがフィルタ部材45のフィルタ45aによって捕獲される。
流路ユニット4の上面には、平面形状が長方形形状のアクチュエータユニット21が、インク供給口4aを避けたほぼ中央部分に接着されている。アクチュエータユニット21と流路ユニット4との接着領域と対応する流路ユニット4の下面は、多数のノズル8(図6参照)が配列されたインク吐出領域となっている。アクチュエータユニット21に対向する流路ユニット4の接着領域には、マトリクス状に配列された多数の圧力室10(図6参照)及び空隙60(図5参照)が形成されている。言い換えると、アクチュエータユニット21はすべての圧力室10及び空隙60に跨る寸法を有している。
図5は、図4内に描かれた一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。流路ユニット4には、多数の圧力室10がマニホールド流路5と平行に配列された16本の圧力室列11と、多数の空隙60が圧力室列11と平行に配列された4本の空隙列61とが形成されている。16本の圧力室列11は、隣接して形成された4本の空隙列61の集団によって、12本の集団と4本の集団とに隔てられている。図5に示すように、圧力室10及び空隙60は平面形状及びサイズが同じである。多数の圧力室10及び空隙60は、両者を区別のないものと考えたときに、流路ユニット4において1つの配列パターンが形成されるように規則的に配列されている。
流路ユニット4に形成された圧力室10は、角部にアールが施された菱形の平面形状を有しており、その長い方の対角線は流路ユニット4の幅方向(主走査方向)に平行である。図5において、圧力室10は長い方の対角線に関して線対称な形状となっている。各圧力室10の一端はノズル8に連通しており、他端はアパーチャ13を介してマニホールド流路5に連通している。これにより、各マニホールド流路5には、ノズル8に連通して圧力室10毎に形成された多数の個別インク流路7(図6参照)が接続されている。図5には、図面を分かりやすくするために流路ユニット4内にあって破線で描くべき圧力室10、アパーチャ13及びノズル8等を実線で描いている。
図6は、個別インク流路を示す断面図であり、図5に示すVI−VI線に沿った断面図である。図6から分かるように、各ノズル8は、圧力室10及びアパーチャ(すなわち絞り)13を介してマニホールド流路5と連通している。すなわち、マニホールド流路5の出口からアパーチャ13、圧力室10を経てノズル8に至る1つの流路が構成されている。このようにして、ヘッド本体70には、個別インク流路7が圧力室10ごとに形成されている。
ヘッド本体70は、図6に示すように、上から、アクチュエータユニット21、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャプレート24、サプライプレート25、マニホールドプレート26〜29及びノズルプレート30の合計10枚のシート材が積層された積層構造を有している。これらのうち、アクチュエータユニット21を除いた9枚のプレートから流路ユニット4が構成されている。
アクチュエータユニット21は、後で詳述するように、4枚の圧電シート41〜44(図8参照)が積層され、そのうちの最上層だけが電界印加時に活性部となる部分を有する層(以下、単に「活性部を有する層」というように記する)とされ、残り3層が活性部を有しない非活性層とされたものである。キャビティプレート22は、圧力室10及び空隙60を構成する菱形の孔が、アクチュエータユニット21の貼付範囲(接着領域)内に多数設けられた金属プレートである。ベースプレート23は、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、圧力室10とアパーチャ13との連絡孔及び圧力室10からノズル8への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。
アパーチャプレート24は、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、アパーチャ13となる孔のほかに圧力室10からノズル8への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。サプライプレート25は、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、アパーチャ13とマニホールド流路5との連絡孔及び圧力室10からノズル8への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。マニホールドプレート26〜29は、マニホールド流路5に加えて、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、圧力室10からノズル8への連絡孔がそれぞれ設けられた金属プレートである。ノズルプレート30は、キャビティプレート22の1つの圧力室10について、ノズル8がそれぞれ設けられた金属プレートである。
これら10枚のシート21〜30は、図6に示すような個別インク流路7が形成されるように、互いに位置合わせして積層されている。この個別インク流路7は、マニホールド流路5からまず上方へ向かい、アパーチャ13において水平に延在し、それからさらに上方に向かい、圧力室10において再び水平に延在し、それからしばらくアパーチャ13から離れる方向に斜め下方に向かってから垂直下方にノズル8へと向かう。
図6から明らかなように、各プレートの積層方向において圧力室10とアパーチャ13とは異なるレベルに設けられている。これにより、図5に示すように、アクチュエータユニット21に対向した流路ユニット4内において、1つの圧力室10と連通したアパーチャ13を、当該圧力室に隣接する別の圧力室10と平面視で同じ位置に配置することが可能となっている。この結果、圧力室10同士が密着して高密度に配列されるため、比較的小さな占有面積のインクジェットヘッド1により高解像度の画像印刷が実現される。
図5に戻って、各圧力室10は、その長い対角線の一端においてノズル8に連通していると共に、長い対角線の他端においてアパーチャ13を介してマニホールド流路5に連通している。後述するように、アクチュエータユニット21上には、平面形状がほぼ菱形で圧力室10よりも一回り小さい個別電極35(図8参照)が、圧力室10と対向するようにマトリクス状に配列されている。なお、図5には、図面を簡略にするために、複数の個別電極35のうちの幾つかだけを描いている。
また、キャビティプレート22に形成された複数の空隙60は、キャビティプレート22に形成された圧力室10と同じ形状及び同じ大きさを有する孔がアクチュエータユニット21及びベースプレート23によって塞がれることによって画定されている。そのため、空隙60にはインク流路が接続されておらず、複数の空隙60はインクで満たされることがない。複数の空隙60は、配列方向A(第1の方向)及び配列方向B(第2の方向)の2方向に千鳥状配列パターンでマトリクス状に隣接配置されている。複数の空隙60は、互いに平行な4列の空隙列61を形成しており、それら4列の空隙列61によって空隙群62が構成されている。この空隙群62を挟むようにして複数の圧力室10が流路ユニット4に形成されている。
なお、本実施の形態では、圧力室10も空隙60もその形状、サイズ、配置状態に区別なく形成されている。そして、全体的には、圧力室10と空隙60とが、配列方向A及び配列方向Bの2方向に千鳥状配列パターンでマトリクス状に隣接配置されている。配列方向Aは、インクジェットヘッド1の長手方向(一方向)、すなわち流路ユニット4の延在方向であって、圧力室10の短い方の対角線と平行である。配列方向Bは、配列方向Aと鈍角θをなす圧力室10の一斜辺方向である。
配列方向A及び配列方向Bの2方向にマトリクス状に隣接配置された圧力室10は、配列方向Aに沿って解像度に対応した間隙を介して配置されている。例えば、本実施の形態では、ノズル8は150dpiの解像度による印字を可能とするため、隣接する圧力室10は配列方向Aに沿って37.5dpiに相当する距離ずつ離隔されている。
また、圧力室10は、アクチュエータユニット21内において、配列方向Bに沿って4つの空隙60を挟むようにして16個並べられているとともに、図5の紙面に対して垂直な方向(第3の方向)から見て、配列方向Aと直交する方向(第4の方向)に沿って2つの空隙60を挟むようにして8個並べられている。
マトリクス状に配置された多数の圧力室10は、図5に示す配列方向Aに沿って、16列の圧力室列11を形成している。16列の圧力室列11は、第3の方向から見て、各マニホールド流路5に対応して、図5中上から順に、第1の圧力室列11a、第2の圧力室列11b、第3の圧力室列11c、及び、第4の圧力室列11dに分けられる。これら第1〜第4の圧力室列11a〜11dは、アクチュエータユニット21の幅方向(主走査方向)における一方から他方(図5中上方から下方)に向けて、11a→11b→11c→11d→11a→11b→・・11dという順番で周期的に4個ずつ配置されている。これら周期的に配置されて隣接した第1〜第4の圧力室列11a〜11dが1つの圧力室列群12を形成している。そのため、アクチュエータユニット21には、4つの圧力室列群12が形成されている。
各圧力室列群12に属する圧力室10は、圧力室列群12毎に同じマニホールド流路5とそれぞれアパーチャ13を介して連通している。つまり、各圧力室列群12はマニホールド流路5毎に形成されているため、4つの圧力室列群12は4色のインクに対応する圧力室列群12M,12Y,12C,12Kとなっている。これら4つの圧力室列群12M,12Y,12C,12Kのそれぞれに属する圧力室10がアクチュエータユニット21によって容積変化されることで4色のインクを各圧力室列群12に属する圧力室10と連通したノズル8から吐出することが可能になる。
図5に示すように各圧力室列群12の第1の圧力室列11aに属する圧力室10aの中心を通る第4の方向に平行な中心軸18上には、各圧力室列群12の第3の圧力室列11cに属する圧力室10cの中心が位置している。また、各圧力室列群12の第2の圧力室列11bに属する圧力室10bの中心を通る第4の方向に平行な中心軸19であって、各圧力室列群12の第1の圧力室列11aに属し隣接する2つの圧力室10aの中心を通る2つの中心軸18から等距離にある中心軸19上には、各圧力室列群12の第4の圧力室列11dに属する圧力室10dの中心が位置している。そして、すべての圧力室10は、それぞれの中心を通る中心軸18,19に線対称な形状となっている。この構成により、各圧力室列群12の4つの圧力室列11に属する圧力室10は、配列方向Aに沿って4列の千鳥状配列になっている。
図7は、図5における一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。図5及び図7に示すように複数のノズル8は、互いに平行な16列のノズル列15を形成している。ノズル列15は、複数のノズル8が配列方向Aに沿って等間隔に配置されて形成されている。本実施の形態において、ノズル8は配列方向Aに沿って37.5dpiに相当する間隔ずつ離隔している。また、16列のノズル列15は、第1〜第4の圧力室列11a〜11dとそれぞれ係るように第1〜第4のノズル列15a〜15dに分けられる。これら第1〜第4のノズル列15a〜15dも、図5中上方から下方に向けて4列ずつ周期的に配置されているが、第3及び第4のノズル列15c,15dのほぼ中間には当該圧力室列群12と隣接する他の圧力室列群12に属する第1の圧力室列11aに係る第1のノズル列15aが配置されている。そして、第1〜第4のノズル列15が圧力室列群12毎に対応して4つのノズル列群(ノズル群)16M,16Y,16C,16Kを構成している。図5に示すようにノズル列群16Yに属する第1のノズル列15aがノズル列群16Mに属する第3及び第4のノズル列15c,15dのほぼ中間に位置し、ノズル列群16Cに属する第1のノズル列15aがノズル列群16Yに属する第3及び第4のノズル列15c,15dのほぼ中間に位置していることで、3つのノズル列群16M,16Y,16Cが互いに重なり合うことになる。そのため、インクジェットヘッド1の幅を小さくすることが可能になって、ヘッドの小型化や軽量化に寄与することができる。
図5及び図7に示すように、第1の圧力室列11aを構成する複数の圧力室10aとそれぞれ連通するノズル8によって構成された第1のノズル列15a及び第2の圧力室列11bを構成する複数の圧力室10bとそれぞれ連通するノズル8によって構成された第2のノズル列15bは、第3の方向から見て、第4の方向に関して、対応する圧力室列11a,11bより紙面上側に偏在している。また、第1及び第2のノズル列15a,15bに属するノズル8は、連通する圧力室10の中心軸18,19より図7中右側に偏在している。一方、第3の圧力室列11cを構成する複数の圧力室10cとそれぞれ連通するノズル8によって構成された第3のノズル列15c及び第4の圧力室列11dを構成する複数の圧力室10dとそれぞれ連通するノズル8によって構成された第4のノズル列15dは、第4の方向に関して、対応する圧力室列11c,11dより紙面下側に偏在している。また、第3及び第4のノズル列15c,15dに属するノズル8は、連通する圧力室10の中心軸18,19より図7中左側に偏在している。
なお、第2及び第3の圧力室列11b,11cにおいては、第3の方向から見て、圧力室10b,10cの半分以上の領域が、マニホールド流路5と重なっている。第1及び第4の圧力室列11a,11dにおいては、第3の方向から見て、圧力室10a,10dのほぼ全域が、マニホールド流路5と重なっていない。そのため、いずれの圧力室列に属する圧力室10についてもこれに連通するノズル8がマニホールド流路5と重ならないようにしつつ、マニホールド流路5の幅を可能な限り広くして各圧力室10にインクを円滑に供給することが可能となっている。
また、流路ユニット4のインク吐出面70aにおいて、ノズル8が空隙群62と対向する位置に形成されていないため、インク吐出面70aに形成されたインク吐出領域がブラック色のインクを吐出するブラック領域と、マゼンタ、イエロー及びシアン色のインクを吐出する有彩色領域とに分けられることになる。
このようにインク吐出領域が空隙群62を挟んで有彩色領域とブラック領域とに分けられることで、ブラックインクが吐出される複数のノズル8と有彩色インクが吐出される複数のノズルとが隔離された構成となる。そのため、流路ユニット4のインク吐出面70aのメンテナンス時において、ブラックインクと有彩色インクとの混色を抑制することができる。つまり、インク吐出面70aのメンテナンスは、板状の弾性部材からなるブレード(図示せず)でインク吐出面70aに付着した各色のインクを拭き取るので、ブラック領域と有彩色領域とが近接していると、ブラックインクがブレードに沿って有彩色インクを吐出する有彩色領域に移動し、有彩色インクを吐出するノズル8の出口付近にブラックインクが残留してブラックインクと有彩色インクとが混色を起こしてしまう。しかし、本実施の形態のようにインク吐出領域において、ブラック領域と有彩色領域とが空隙群62を挟んで離隔されることで、インク吐出面70aのメンテナンス時にブラックインクがブレードに沿って移動しても有彩色領域にまで到達しにくくなり、ブラックインクと有彩色インクとの混色が起こりにくくなる。
また、圧力室列群12Y,12Cの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aは、本実施の形態において、圧力室列群12M,12Yの第3及び第4の圧力室列11c,11dに係る第3及び第4のノズル列15c,15dのほぼ中間に位置しているが、第1のノズル列15aが第3及び第4のノズル列15c,15dからほぼ同じ距離であって第3及び第4のノズル列15c,15d間において最も第3及び第4のノズル列15c,15dから離れた位置となっているので、インク吐出面70aのメンテナンス時に、有彩色インク同士すなわちマゼンタ、イエロー及びシアンインク同士がブレードに沿って移動してもそれぞれの色インクを吐出するノズル8近傍領域まで到達しにくくなり、有彩色同士の混色が起こりにくくなる。
次に、アクチュエータユニット21の構成について説明する。アクチュエータユニット21上には、圧力室10と同じ配列パターンで多数の個別電極35がマトリクス状に配置されている。各個別電極35は、平面視において圧力室10と対向する位置に配置されている。このように複数の圧力室10及び個別電極35が規則正しく配置されていることで、設計が容易になる。
図8は、アクチュエータユニットを示しており、(a)は図6における一点鎖線で囲まれた部分の拡大図であり、(b)は個別電極の平面図である。なお、図8(a)においては各個別電極35と電気的に接続されたFPC50を2点鎖線で描いている。図8(a)、(b)に示すように、個別電極35は圧力室10と対向する位置に配置されており、平面視において圧力室10の平面領域内に形成された主電極領域35aと、主電極領域35aにつながっており且つ圧力室10の平面領域外に形成された補助電極領域35bとから構成されている。
図8(a)に示すように、アクチュエータユニット21は、それぞれ厚みが15μm程度で同じになるように形成された4枚の圧電シート41、42、43、44を含んでいる。これら圧電シート41〜44は、ヘッド本体70内のインク吐出領域内に形成された多数の圧力室10に跨って配置されるように連続した層状の平板(連続平板層)となっている。圧電シート41〜44が連続平板層として多数の圧力室10に跨って配置されることで、例えばスクリーン印刷技術を用いることにより圧電シート41上に個別電極35を高密度に配置することが可能となっている。そのため、個別電極35に対応する位置に形成される圧力室10をも高密度に配置することが可能となって、高解像度画像の印刷ができるようになる。圧電シート41〜44は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなるものである。
最上層の圧電シート41上に形成された個別電極35の主電極領域35aは、図8(b)に示すように、圧力室10とほぼ相似である略菱形の平面形状を有している。略菱形の主電極領域35aにおける図8(b)中左側の一鋭角部は、圧力室10の一鋭角部と重なる領域に延出され、補助電極領域35bとつながっている。補助電極領域35bの先端には、個別電極35と電気的に接続された円形のランド部36が設けられている。図8(b)に示すように、ランド部36は、キャビティプレート22において圧力室10が形成されていない領域に対向している。ランド部36は、例えばガラスフリットを含む金からなり、図8(a)に示すように、補助電極領域35bにおける表面上に形成されている。
最上層の圧電シート41とその下側の圧電シート42との間には、圧電シート41と同じ外形及び略2μmの厚みを有する共通電極34が介在している。個別電極35及び共通電極34は共に、例えばAg−Pd系などの金属材料からなる。
共通電極34は、図示しない領域において接地されている。これにより、共通電極34は、すべての圧力室10に対応する領域において等しく一定の電位、本実施の形態ではグランド電位に保たれている。
FPC50は、図8(a)に示すように、ベースフィルム49と、その下面に形成された複数の導体パターン48と、ベースフィルム49の下面のほぼ全体を覆うカバーフィルム52と、を含む。ベースフィルム49は略25μm、導体パターン48は略9μm、カバーフィルム52は略20μmの厚みをそれぞれ有する。カバーフィルム52には、導体パターン48より小さな面積の貫通孔53が、複数の導体パターン48のそれぞれに対応するように、複数形成されている。ベースフィルム49、導体パターン48、及び、カバーフィルム52は、各貫通孔53の中心と導体パターン48の中心とが対応し、導体パターン48の外周縁部分がカバーフィルム52に覆われるよう、互いに位置合わせして積層される。FPC50の端子46は、貫通孔53を介して、導体パターン48と接続されている。
ベースフィルム49及びカバーフィルム52は、いずれも絶縁性を有するシート部材である。本実施形態において、ベースフィルム49はポリイミド樹脂からなり、カバーフィルム52は感光性材料からなる。このようにカバーフィルム52を感光性材料から構成することで、多数の貫通孔53を形成するのが容易になる。
導体パターン48は、銅箔により形成されている。導体パターン48は、ドライバIC75と接続された配線であり、ベースフィルム49の下面において、所定のパターンを形成している。
端子46は、例えばニッケルなどの導電性材料から構成されている。端子46は、貫通孔53を塞ぐと共に、貫通孔53の外側周縁を覆い、カバーフィルム52の下面より突出して形成されている。端子46の径は略50μm、カバーフィルム52下面からの厚みは略30μmである。
FPC50は多数の端子46を有し、各端子46はそれぞれ1つのランド部36と対応するよう構成されている。したがって、各ランド部36と電気的に接続された各個別電極35は、それぞれFPC50における独立した導体パターン48を介してドライバIC75に接続される。これにより、圧力室10ごとに電位を制御することが可能となっている。
次に、アクチュエータユニット21の駆動方法について述べる。アクチュエータユニット21における圧電シート41の分極方向はその厚み方向である。つまり、アクチュエータユニット21は、上側(つまり、圧力室10とは離れた)1枚の圧電シート41を活性部が存在する層とし且つ下側(つまり、圧力室10に近い)3枚の圧電シート42〜44を非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。従って、個別電極35を正又は負の所定電位とすると、例えば電界と分極とが同方向であれば圧電シート41中の電極に挟まれた電界印加部分が活性部(圧力発生部)として働き、圧電横効果により分極方向と直角方向に縮む。
本実施の形態では、圧電シート41において個別電極35と共通電極34とによって挟まれた部分は、電界が印加されると圧電効果によって歪みを発生する活性部として働く。一方、圧電シート41の下方にある3枚の圧電シート42〜44は、外部から電界が印加されることが無く、そのために活性部としてほとんど機能しない。したがって、圧電シート41において主に主電極領域35aと共通電極34とによって挟まれた部分が、圧電横効果により分極方向と直角方向に縮む。
一方、圧電シート42〜44は、電界の影響を受けないため自発的には変位しないので、上層の圧電シート41と下層の圧電シート42〜44との間で、分極方向と垂直な方向への歪みに差を生じることとなり、圧電シート41〜44全体が非活性側に凸となるように変形しようとする(ユニモルフ変形)。このとき、図8(a)に示したように、圧電シート41〜44で構成されたアクチュエータユニット21の下面は圧力室を区画する隔壁(キャビティプレート)22の上面に固定されているので、結果的に圧電シート41〜44は圧力室側へ凸になるように変形する。このため、圧力室10の容積が低下して、インクの圧力が上昇し、ノズル8からインクが吐出される。その後、個別電極35を共通電極34と同じ電位に戻すと、圧電シート41〜44は元の形状になって圧力室10の容積が元の容積に戻るので、インクをマニホールド流路5側から吸い込む。
なお、他の駆動方法として、予め個別電極35を共通電極34と異なる電位にしておき、吐出要求があるごとに個別電極35を共通電極34と一旦同じ電位とし、その後所定のタイミングにて再び個別電極35を共通電極34と異なる電位にすることもできる。この場合は、個別電極35と共通電極34とが同じ電位になるタイミングで、圧電シート41〜44が元の形状に戻ることにより、圧力室10の容積は初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加し、インクがマニホールド流路5側から圧力室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を共通電極34と異なる電位にしたタイミングで、圧電シート41〜44が圧力室10側へ凸となるように変形し、圧力室10の容積低下によりインクへの圧力が上昇し、インクが吐出される。こうして、ノズル8からインクが吐出されると共に、インクジェットヘッド1が適宜、主走査方向に移動され用紙に所望画像が印刷される。
再び図5に戻って、配列方向Aに37.5dpiに相当する幅(677.3μm)を有し、第4の方向に延在する帯状領域Rについて考える。この帯状領域Rの中では、16列の圧力室列11a〜11dのうちのいずれの列についても、ノズル8が1つしか存在していない。すわなち、このような帯状領域Rをインク吐出面の任意の位置に区画した場合、この帯状領域R内には、常に16個のノズル8が分布している。そして、これら16個の各ノズル8を配列方向Aに延びる直線上に射影した点の位置は、印字解像度である150dpiに相当する間隔ずつ離隔している。
本実施の形態においては、ノズル列群16毎にノズル8から吐出されるインクの色が異なるようにされているため、各ノズル列群16の4つのノズル列15にそれぞれ属するノズル8において、相対位置関係にあるノズル8同士が配列方向Aに延びる直線上に射影した点の位置が重なっている。すべてのノズル8から吐出されるインクの色を1色として、ノズル8の射影した点の位置が重ならないようにすれば、ノズル8の射影点の間隔を基準ドット間隔となる600dpiに相当する間隔ずつ離隔させることができるが、本実施の形態では、色ごとにノズル列群16を4つに分け、さらにノズル8の射影点の間隔が600dpiの4分の1の150dpiに相当とする間隔としている。このように、ノズル列群16毎に対応するノズル列15に属するノズル8同士が射影した点の位置で重なっているので、圧力室列群12毎にノズル8から吐出されるインクの色が互いに異なるインク色に振り分けやすくなる。また、各圧力室列群12とそれぞれ対応するノズル列群16に属するすべてのノズル8が、配列方向Aに関する配置位置が決まるので、ノズル8の位置が設計しやすくなる。
このように構成されたインクジェットヘッド1において、アクチュエータユニット21内を印字媒体の搬送に合わせて適宜駆動させると、色ごとに150dpiの解像度を有する文字や図形等を描画することができる。
次に、上述したインクジェットヘッドの設計方法について、図7及び図9を参照しつつ説明する。図9は、本発明の一実施形態によるインクジェットヘッドの設計方法の手順を示す図である。インクジェットヘッド1を設計するには、予め、各種試験(シュミレーションや吐出試験など)を通じて、インク吐出性能などが良好な結果となった図10に示すような流路構成の基本サイズ、すなわち圧力室10や個別電極35などの基本サイズを決定する。本実施の形態においては、図10に示すように、圧力室10が菱形形状を有しており、その圧力室10の対辺間距離hが0.5mm、全長iが0.78mm、幅jが0.48mm、鋭角部の角度θ1が49.2°、鈍角部の角度θ2が130.8°となっている。そして、圧力室10とほぼ相似形状個別電極35の対辺間距離kが0.34mm、圧力室10と個別電極35との間隔mが0.08mmとなっている。隣接する圧力室10同士の間隔nが0.115mmとなっている。このように圧力室10や個別電極35の基本サイズをだいたい決めた状態で、以下に示すようにノズルプレート30に形成される複数のノズル8がなす複数のノズル列15の配置位置を決めていく。
まず、ステップ1(S1)では、ノズルプレート30の幅方向の端部に位置するノズル列15(本実施の形態においては、圧力室列群12Mの圧力室列11aに係る第1のノズル列15a)の位置を決定する。このとき、図7に示すように第1のノズル列15aに属するノズル(第1のノズル)8が、配列方向Aに沿って37.5dpiに相当する間隔で離隔配置されるとともに、各ノズル8が圧力室列11aの圧力室10aの中心を通る中心軸18から図中右側に等しい距離Uだけ離隔される。なお、距離Uは150dpiに相当する間隔の1/2倍(300dpiに相当する間隔)となっている。
そして、ステップ2(S2)において、ステップ1で決定された第1のノズル列15aから第4の方向であって図7中下側に向かって距離T1だけ離れた位置に圧力室列群12Mの圧力室列11bに係る第2のノズル列15bの位置を決定する。このとき、図7に示すように第2のノズル列15bに属するノズル(第2のノズル)8が、配列方向Aに沿って等間隔に離隔配置されるとともに、各ノズル8が圧力室列11bに属する圧力室10の中心を通る中心軸19から図中右側に等しい距離Uだけ離隔される。本実施の形態における距離T1は、T(自然数)×(基準ドット間隔である600dpiに相当するドット間隔)により算出される。例えば、Tを奇数である17とした場合においては、600dpiに相当する間隔の17倍となり、その距離T1は約0.72mmとなる。なお、基準ドット間隔としての(600dpiに相当するドット間隔)は(300dpiに相当するドット間隔)や(1200dpiに相当するドット間隔)等であってもよい。これによって算出される値が変化するだけであるが、距離T1を算出するときに設定した基準ドット間隔は、後述の距離T2,T3,T4,P,P1,P2,P3などを算出する場合にも同じ基準ドット間隔で算出する。
ステップ3(S3)において、ステップ1で決定された第1のノズル列15aから第4の方向であって図7中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Mの圧力室列11cに係る第3のノズル列15cまでの距離T2を算出する。この距離T2は、(3.5×T(T=17)±0.5)×(600dpiに相当するドット間隔)によって算出され、本実施の形態においては、距離T2が、60(3.5×17+0.5によって得られた値)×(600dpiに相当するドット間隔)より、約2.54mmとなる。このとき、図7に示すように第3のノズル列15cに属するノズル(第3のノズル)8が、配列方向Aに沿って等間隔に離隔配置されるとともに、各ノズル8が圧力室列11cに属する圧力室10の中心を通る中心軸18から図中左側に等しい距離Uだけ離隔される。
ステップ4(S4)において、ステップ1で決定された第1のノズル列15aから第4の方向であって図7中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Mの圧力室列11dに係る第4のノズル列15dまでの距離T3を算出する。この距離T3は、(4.5×T(T=17)±0.5×(600dpiに相当するドット間隔)によって算出され、本実施の形態においては、距離T3が、77(4.5×17+0.5によって得られた値)×(600dpiに相当するドット間隔)より、約3.26mmとなる。このとき、図7に示すように第4のノズル列15dに属するノズル(第4のノズル)8が、配列方向Aに沿って等間隔に離隔配置されるとともに、各ノズル8が圧力室列11dに属する圧力室10の中心を通る中心軸19から図中左側に等しい距離Uだけ離隔される。こうして、圧力室列群12Mの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dに属するノズル8の位置を決定することができる。
変形例として、ステップ3及びステップ4で距離T3,T4を算出する際において、3.5T又は4.5Tで算出された値に共に0.5を加えて、それら値を60と77としているが、3.5T又は4.5Tで算出された値から共に0.5を減じて、60を59、77を76となるようにしてもよい。こうすることで、ノズル列15の列間隔が小さくなってノズルプレート30の幅を小さくすることができる。そのため、インクジェットヘッド1の幅が小さくなる。
ステップ5(S5)において、ステップ1で決定された第1のノズル列15aから第4の方向であって図7中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Yの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aまでの距離T4を算出する。この距離T4は、4×T(T=17)×(600dpiに相当するドット間隔)によって算出され、本実施の形態においては、距離T4が、68(4×17によって得られた値)×(600dpiに相当するドット間隔)より、約2.88mmとなる。このように、圧力室列群12Yの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aが、図7に示すように圧力室列群12Mの圧力室列11c,11dにそれぞれ係る第3及び第4のノズル列15c,15dのほぼ中間に配置されることになる。また、図7に示すように圧力室列群12Yの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aに属するノズル8が、配列方向Aに沿って等間隔に離隔配置されるとともに、各ノズル8が圧力室列群12Yの圧力室列11aに属する圧力室10の中心を通る中心軸18から図中右側に等しい距離Uだけ離隔される。すなわち、圧力室列群12Mの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aのノズル8の中心と圧力室列群12Yの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aのノズル8の中心とが、第4の方向に平行な共通の中心軸上に配置されることになる。つまり、これらノズル8は上述したように配列方向Aに延びる直線上に射影した点の位置が同じ位置となる。こうして、圧力室列群12Mに隣接する圧力室列群12Yの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aに属するノズル8の位置を容易に決定することができる。
ステップ6(S6)において、ステップ5で決定された圧力室列群12Yの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aを基準として、上述したステップ2〜ステップ4とほぼ同様な作業を繰り返して、圧力室列群12Yの圧力室列11b〜11dに係る第2〜第4のノズル列15b〜15dの位置を決定する。すなわち、圧力室列群12Yの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aから距離T1、距離T2、及び、距離T3を算出して、各ノズル列15b〜15dの位置を決定する。こうして、圧力室列群12Yの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dの位置を容易に決定することができる。なお、圧力室列群12Yの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dにそれぞれ属するノズル8の中心は、圧力室列群12Mの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dにそれぞれ属するノズル8の中心を通る中心軸18、19に平行な中心軸上に位置している。
ステップ7(S7)において、ステップ5の手順とほぼ同様にして、ステップ1で決定された圧力室列群12Mの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aから第4の方向であって図7中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Cの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aまでの距離を算出する。この距離は、圧力室列群12Cの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aが図5中上から8列目になるため、8×T(T=17)×(600dpiに相当するドット間隔)によって算出される。本実施の形態において、圧力室列群12Mの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aからの距離は、136(8×17によって得られた値)×(600dpiに相当するドット間隔)より、約5.76mmとなる。この圧力室列群12Cの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aも、図5に示すように圧力室列群12Yの圧力室列11c,11dにそれぞれ係る第3及び第4のノズル列15c,15dのほぼ中間に配置されることになる。
ステップ8(S8)において、ステップ7で決定された圧力室列群12Cの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aを基準として、上述したステップ6とほぼ同様な作業を行って、圧力室列群12Cの圧力室列11b〜11dに係る第2〜第4のノズル列15b〜15dの位置を決定する。すなわち、圧力室列群12Cの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aから距離T1、距離T2、及び、距離T3を算出して、各ノズル列15b〜15dの位置を決定する。こうして、圧力室列群12Cの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dの位置を決定することができる。なお、圧力室列群12Cの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dにそれぞれ属するノズル8の中心は、圧力室列群12Mの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dにそれぞれ属するノズル8の中心を通る中心軸18、19に平行な中心軸上に位置している。
ステップ9(S9)において、ステップ5の手順とほぼ同様にステップ1で決定された圧力室列群12Mの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aから第4の方向であって図7中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Kの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aまでの距離を算出する。このとき、図5において、圧力室列群12Kの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aは、平面視で圧力室列群12Cの圧力室列11dに係る第4のノズル列15dとで空隙群62を挟んだ位置に配置されることになるので、4列分のノズル列を含むようにすると図5中上から16列目になるため、16×T(T=17)×(600dpiに相当するドット間隔)によって算出される。本実施の形態において、圧力室列群12Mの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aから距離は、272(16×17によって得られた値)×(600dpiに相当するドット間隔)より、約11.51mmとなる。
ステップ10(S10)において、ステップ9で決定された圧力室列群12Kの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aを基準として、上述したステップ8とほぼ同様な作業を行って、圧力室列群12Kの圧力室列11b〜11dに係る第2〜第4のノズル列15b〜15dの位置を決定する。すなわち、圧力室列群12Kの圧力室列11aに係る第1のノズル列15aから距離T1、距離T2、及び、距離T3を算出して、各ノズル列15b〜15dの位置を決定する。こうして、圧力室列群12Kの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dの位置を決定することができる。なお、圧力室列群12Kの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dにそれぞれ属するノズル8の中心は、圧力室列群12Mの圧力室列11に係る第1〜第4のノズル列15a〜15dにそれぞれ属するノズル8の中心を通る中心軸18、19に平行な中心軸上に位置している。
以上のステップ1〜ステップ10を行うことで、ノズルプレート30にすべての圧力室列11に属する圧力室10と係るノズル8を設計することができる。このようにして設計された複数のノズル8の配置位置をもとに、上述した図10に示す圧力室10や個別電極35の配置位置を決定していく。
ステップ11(S11)において、ステップ1で決定された第1のノズル列15aに属する第1のノズル8の中心から第4の方向であって図7中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Mの圧力室列11aに属する圧力室10aの中心までの距離Pを算出する。この距離Pは、(1.5×T±0.5)/2×(600dpiに相当するドット間隔)によって算出され、本実施の形態においては、距離Pが、13((1.5×17+0.5)/2によって求められた値)×(600dpiに相当するドット間隔)により、約0.55mmとなる。このとき、図7に示すように圧力室列群12Mの圧力室列11aに属する圧力室10aが、配列方向Aに沿って等間隔に配置される。こうして、圧力室列群12Mの圧力室列11aに属する圧力室10の中心の位置が決定する。
ステップ12(S12)において、ステップ11で決定された圧力室列11aに属する圧力室10aの中心から第4の方向であって図7中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Mの圧力室列11bに属する圧力室10bの中心までの距離P1を算出する。この距離P1は、T×(600dpiに相当するドット間隔)によって算出され、本実施の形態においては、距離P1が上述の距離T1と同じとなり、約0.72mmとなる。このとき、図7に示すように圧力室列群12Mの圧力室列11bに属する圧力室10bが、配列方向Aに沿って等間隔に配置されると共に、各圧力室10bの中心が、圧力室列群12Mの圧力室列11aに属する隣接する2つの圧力室10aの中心を通る第4の方向に平行な中心軸18から等距離に存在する。つまり、圧力室列群12Mの圧力室列11bに属する圧力室10bの中心が2つの中心軸18から配列方向Aに等距離だけ離隔された中心軸19上に配置されている。
ステップ13(S13)において、ステップ12で決定された圧力室列11bに属する圧力室10bの中心から第4の方向であって図7中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Mの圧力室列11cに属する圧力室10cの中心までの距離P2を算出する。この距離P2も距離P1と同様に、T×(600dpiに相当するドット間隔)によって算出され、本実施の形態においては、距離P2が約0.72mmとなる。このとき、図7に示すように圧力室列群12Mの圧力室列11cに属する圧力室10cが、配列方向Aに沿って等間隔に配置されると共に、各圧力室10cの中心が、圧力室列群12Mの圧力室列11aに属する圧力室10aの中心を通る中心軸18上に配置されている。
ステップ14(S14)において、ステップ13で決定された圧力室列11cに属する圧力室10cの中心から第4の方向であって図7中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Mの圧力室列11dに属する圧力室10dの中心までの距離P3を算出する。この距離P3も距離P1と同様に、T×(600dpiに相当するドット間隔)によって算出され、本実施の形態においては、距離P3が約0.72mmとなる。このとき、図7に示すように圧力室列群12Mの圧力室列11dに属する圧力室10dが、配列方向Aに沿って等間隔に配置されると共に、各圧力室10dの中心が、圧力室列群12Mの圧力室列11bに属する圧力室10bの中心を通る中心軸19上に配置されている。このように、ステップ11〜ステップ14を行うことで、各圧力室10に属する圧力室10が、その圧力室10に係るノズル8との位置関係が決まるので、インクジェットヘッド1の設計がしやすくなる。また、第1の圧力室列11aをなす圧力室10aと第3の圧力室列11cをなす圧力室10cとが、共通の中心軸18上に配置されるように設計され、第2の圧力室列11bをなす圧力室10bと第4の圧力室列11dをなす圧力室10dとが、共通の中心軸19上に配置されるように設計されているので、各圧力室の配置位置が容易に決まり設計しやすい。
そして、ステップ11とほぼ同様に、3つのノズル列群16Y,16C,16Kのノズル列15aに属するノズル8の中心から第4の方向であって図5中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Y,12C,12Kの圧力室列11aに属する圧力室10aの中心までの距離を算出する。ステップ12とほぼ同様に、圧力室列群12Y,12C,12Kの圧力室列11aに属する圧力室10aの中心から第4の方向であって図5中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Y,12C,12Kの圧力室列11bに属する圧力室10bの中心までの距離を算出する。ステップ13とほぼ同様に、圧力室列群12Y,12C,12Kの圧力室列11bに属する圧力室10bの中心から第4の方向であって図5中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Y,12C,12Kの圧力室列11cに属する圧力室10cの中心までの距離を算出する。ステップ14とほぼ同様に、圧力室列群12Y,12C,12Kの圧力室列11cに属する圧力室10cの中心から第4の方向であって図5中下側に向かって離隔された、圧力室列群12Y,12C,12Kの圧力室列11dに属する圧力室10dの中心までの距離を算出する。
こうして、算出された距離によって圧力室列群12Y,12C,12Kの圧力室列11に属する圧力室10の中心位置が決定し、すべての圧力室10の配置位置が決定する。そして、圧力室10の平面形状とほぼ相似形状の個別電極35は、その中心が各圧力室10の中心と重なるように、且つ、圧力室10の平面領域内に存在するようにして設計される。
そして、各圧力室10からノズル8に通じる孔を各プレートに設計するとともに、各圧力室10からマニホールド流路5に通じる孔、マニホールド流路5及びアパーチャ13等を設計する。こうして、ヘッド本体70の複数の個別インク流路7を構成する設計が完了する。そして、ヘッド本体70の適宜の形状からベースブロック71及びホルダ72等を設計してインクジェットヘッド1の設計が完了する。
以上のように、本実施の形態によるインクジェットヘッド1の設計方法によると、各ノズル列15a〜15dに属するすべてのノズル8が、配列方向Aに直交する方向において、600dpiの基準ドット間隔の整数倍の位置に配置することができる。そのため、600dpiの整数倍又は整数分の一の解像度で印字を行う場合に、1種類の波形による吐出信号を同時に発信すればよいので、インクジェットヘッドの制御が容易になると共に製造コストの削減が可能となる。例えば、すべてのノズル8から600dpiに相当するドット間隔のタイミングでインクを吐出する1種類の波形による吐出信号を発信し、後は適宜のノズル8からインクを吐出するか、吐出しないかを選択するだけで、1色における解像度が150dpiの画像を記録媒体に描くことが可能となる。このようにノズル8毎にインクを吐出するためのインク吐出タイミング制御をする必要がなくなるので、複数種類の波形による吐出信号を発信する必要がなくなる。そのため、インク吐出制御が簡単な構成となり、インクジェットヘッド1の製造コストが減少する。
なお、本実施の形態においては、T(自然数)の値を奇数である17としているが、偶数であってもよい。偶数であれば、ステップ3で距離T2を算出する式が、(3.5×T(T=偶数の自然数))×(600dpiに相当するドット間隔)となり、ステップ4で距離T3を算出する式が、(4.5×T(T=偶数の自然数))×(600dpiに相当するドット間隔)となる。これら距離T2,T3を算出する式中において、±0.5がなくなっているのは、奇数であるT(自然数)に3.5又は4.5を乗じたときに出てくる、小数点以下の数字をなくすためである。言い換えると、偶数であるTに3.5又は4.5を乗じても小数点以下の数字が出てこないので、±0.5が式中からなくなっている。このように偶数に対応する式によって算出された距離T2,T3によっても、上述したように各ノズル列15a〜15dに属するすべてのノズル8が、配列方向Aに直交する方向において、600dpiの基準ドット間隔の整数倍の位置に配置することができる。そのため、600dpiの整数倍又は整数分の一の解像度で印字を行う場合に、1種類の波形による吐出信号を同時に発信すればよいので、インクジェットヘッドの制御が容易になると共に製造コストの削減が可能となる。
また、Tが偶数の場合においては、各圧力室列群12の圧力室列11aに属する圧力室10aの中心の位置を算出する式も、(1.5×T(偶数の自然数))/2×(600dpiに相当するドット間隔)となる。こうすることで、Tが偶数の自然数の場合におけるノズル8の位置に対応して圧力室10の中心の位置を決定することができる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいてさまざまな設計変更が可能なものである。例えば、上述したインクジェットヘッド1の圧力室10は、圧力室列群12毎に1つのマニホールド流路5と連通しているが、圧力室列群毎に2つ以上のマニホールド流路と連通していてもよい。また、複数の圧力室列群のうちの1つの圧力室列群の第1の圧力室列に係る第1のノズルの位置から、当該圧力室列群に隣接する他の圧力室列群の第1の圧力室列に係る第1のノズルの位置までの距離は、n(n:5以上の自然数)×T×(基準ドット間隔)で算出された値であってもよい。また、上述した各ノズル列の列方向(配列方向A)のノズルピッチを等間隔にしなくてもよい。また、第1の圧力室列11aに属する圧力室10と第3の圧力室列11cに属する圧力室10の中心、第2の圧力室列11bに属する圧力室10と第4の圧力室列11dに属する圧力室10の中心がそれぞれ共通の中心軸18,19上になくてもよい。また、圧力室10の平面形状は菱形以外の形状であってもよい。