JP5157417B2 - 鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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I)軟質化には、フェライトとグラファイトとセメンタイトを含む組織とし、組織全体に占めるフェライトとグラファイトとセメンタイトの体積率の合計を95%以上、グラファイトとセメンタイト全体に占めるグラファイトの体積率を5%以上にすることが効果的である。
II)伸びフランジ性の向上には、さらにグラファイトとセメンタイト全体に占めるフェライト粒内に存在するグラファイトとセメンタイトの体積率の合計を15%以下にする必要がある。
III)フェライト粒内に存在するグラファイトとセメンタイトの体積率の制御には、熱間圧延後の冷却条件が極めて重要である。
C:0.3〜0.7%
Cは、グラファイトを形成する元素である。C量が0.3%未満では、焼入れ後の硬さが確保できない。また、0.7%を超えると、たとえグラファイト化しても鋼板が硬質化し、加工性が低下する。このため、C量は0.3〜0.7%とする。
Si量が0.1%を超えると、フェライトが硬質化し、加工性が低下する。このため、Si量は0.1%以下、好ましくは0.05%以下とする。
Mn量が0.15%以上だと、グラファイト形成を阻害するため、Mnは0.15%未満、好ましくは0.10%以下とする。
Pは、粒界などに偏析し加工性を低下させるため、また、セメンタイトを安定化させてグラファイト形成を阻害する作用を有しているため、極力低減することが望ましい。このため、P量は0.01%以下、好ましくは0.008%以下とする。
Sは、MnSなどの硫化物を形成して加工性を低下させるため、また、セメンタイトを安定化させてグラファイト形成を阻害する作用を有しているため、極力低減することが望ましい。このため、S量は0.01%以下、好ましくは0.007%以下とする。
Alは、固溶Nと結合してAlNを形成し、グラファイト形成を阻害する作用のある固溶Nの悪影響を無害化するとともに、AlNを核としてグラファイト形成を促進する元素である。このため、Al量は0.003%以上とすることが好ましいが、0.05%を超えると、鋼の清浄度を低下させるので、Al量は0.05%以下、好ましくは0.04%以下とする。
N量が0.0050%を超えると、固溶Nのセメンタイトを安定化させる作用が顕著となり、グラファイト形成が阻害される。このため、N量は0.0050%、好ましくは0.0040%以下とする。
Niは、グラファイト形成を促進させる元素であるとともに、焼入れ性の向上にも有効な元素であり、こうした効果を得るため0.1%以上含有されることが好ましいが、Ni量が3.0%を超えると、その効果は飽和する。このため、Ni量は3.0%以下、好ましくは0.1〜3.0%、より好ましくは0.3〜1.0%とする。
Bは、Nと結合してBNを形成して、グラファイト形成の核として作用する有用な元素であるとともに、焼入れ性の向上にも有効に作用する元素であり、こうした効果を得るため0.0005%以上含有されることが好ましいが、B量が0.005%を超えると、その効果は飽和する。このため、B量は0.005%以下、好ましくは0.0005〜0.005%、より好ましくは0.0010〜0.0040%とする。
Cuは、グラファイト形成を促進させる元素であるとともに、焼入れ性の向上にも有効な元素であり、こうした効果を得るため0.01%以上含有されることが好ましく、より好ましくは0.02%以上であるが、Cu量が0.1%を超えると、その効果は飽和する。このため、Cu量は0.1%以下とし、より好ましくは0.07%以下とする。
鋼板の軟質化を図り、曲げ加工性や引張試験における伸び特性を向上させるには、フェライトとグラファイトとセメンタイトを含む組織とし、組織全体に占めるフェライトとグラファイトとセメンタイトの体積率の合計を95%以上とし、かつグラファイトとセメンタイト全体に占めるグラファイト率を5%以上にする必要がある。このとき、本発明では、グラファイト率が100%、すなわちセメンタイトが全てグラファイト化した場合も、同様な効果が得られるので、含むものとする。フェライト、グラファイト、セメンタイトの体積率の合計が95%未満、すなわちこれら以外の相の体積率が5%を超えると、加工性が低下する。また、グラファイト率が5%未満では、加工性が低下する。
グラファイト率={Sgr/(Sgr+Scm)}×100
しかし、こうしたフェライトとグラファイトとセメンタイトの体積率の合計やグラファイト率を制御しただけでは、必ずしも優れた伸びフランジ性が得られない。すなわち、本発明では、優れた伸びフランジ性を確保するため、フェライト粒内に存在するセメンタイトとグラファイトの合計の体積率を15%以下とする必要がある。より好ましくは10%以下とする。
S={Sin/(Son+Sin)}×100
なお、ここで、一部でもフェライト粒界上に存在する部分を有するセメンタイト粒あるいはグラファイト粒は、その一つのセメンタイト粒あるいはグラファイト粒全体の面積を、フェライト粒界上に存在するセメンタイト粒あるいはグラファイト粒の占有面積として測定し、また、フェライト粒界上に存在する部分を有しないセメンタイトあるいはグラファイト粒の面積を、フェライト粒内に存在するセメンタイト粒あるいはグラファイト粒の占有面積として測定した。
λ=100×(d-10)/10
図1に、フェライト粒内に存在するセメンタイトとグラファイトの体積率Sと平均λとの関係を示す。フェライト粒内に存在するセメンタイトとグラファイトの体積率Sが15%以下になると、60%以上の平均λが得られ、優れた伸びフランジ性が得られることがわかる。
以下に、本発明の鋼板の好ましい製造条件を示す。なお、本発明の鋼板の製造方法は下記に限定されるものではない。
熱間圧延時の仕上温度は、800℃未満では、圧延負荷の増大が著しくなり、950℃を超えると、生成するスケールが厚くなり酸洗性が低下するとともに、鋼板表層に脱炭層が生じる場合があるので、800〜950℃とする。
熱間圧延後の鋼板を、直ちに後述する冷却停止温度まで50℃/s以上の平均冷却速度で冷却すれば、初析フェライトの生成が抑制されてフェライトとセメンタイトが微細に析出する。そのため、巻取り後に行われる焼鈍時にフェライト粒界にCが拡散しやすくなり、フェライト粒界上にあるセメンタイトの凝集・粗大化さらにはグラファイト化が促進され、フェライト粒内のセメンタイトやグラファイトが減少して伸びフランジ性が向上する。また、熱間圧延でオーステナイト中に導入された圧延歪が、変態後の組織中に残存しやすくなり転位密度の増加をもたらす。その結果、焼鈍時に転位を核としたグラファイト形成が容易となり軟質化が進み、加工性が向上する。以上のことから、平均冷却速度は50℃/s以上、好ましくは80℃/s以上とする。平均冷却速度の上限は、特に規定する必要はないが、鋼板の形状の劣化を抑制して鋼板の形状を確保するため、200℃/s以下とすることが好ましい。
上記のような冷却速度によって冷却する必要のある最低温度、すなわち冷却停止温度は、600℃を超えると、巻取りまでの冷却中に初析フェライトが生成するとともに、パーライトが生成し、巻取り後の焼鈍時にフェライト粒内に存在するセメンタイトやグラファイトが増加して、伸びフランジ性の低下を招くので、600℃以下、好ましくは550℃以下とする。冷却停止温度の下限は、特に規定する必要はないが、鋼板の形状を確保するため、200℃以上とすることが好ましい。
冷却後の熱延板は直ちに巻取られるが、そのとき、巻取温度が550℃を超えると、パーライトが生成し、焼鈍時にフェライト粒内に存在するセメンタイトやグラファイトが増加して、伸びフランジ性が低下する。そのため、巻取温度は550℃以下とする。なお、上記した熱間圧延後の冷却の効果を十分に得るには、巻取温度は冷却停止温度よりも低温とすることが好ましい。また、熱延板の形状が劣化しやすいため、鋼板の形状を確保する上では巻取温度は200℃以上とすることが好ましく、より好ましくは450℃超えである。
巻取り後の熱延板には、酸洗などでスケール除去後、セメンタイトの球状化やグラファイト化を促進して、軟質化を図るために焼鈍が施される。そのとき、焼鈍温度は、720℃を超えると、冷却中にパーライトが生成し、伸びフランジ性の低下を招くので、720℃以下とする。また、焼鈍温度が600℃未満では、フェライト粒内に存在するセメンタイトやグラファイトが多くなり、伸びフランジ性が劣化する傾向にあるので、焼鈍温度は600℃以上とすることが好ましい。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.3〜0.7%、Si:0.1%以下、Mn:0.15%未満、P:0.01%以下、S:0.01%以下、Al:0.05%以下、N:0.0050%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、フェライトとグラファイトとセメンタイトを含む組織を有し、かつ組織全体に占めるフェライトとグラファイトとセメンタイトの体積率の合計が95%以上、グラファイトとセメンタイト全体に占めるグラファイトの体積率(グラファイト率)が5%以上、グラファイトとセメンタイト全体に占めるフェライト粒内に存在するグラファイトとセメンタイトの体積率の合計が15%以下であることを特徴とする鋼板。
- さらに、質量%で、Ni:3.0%以下、B:0.005%以下、Cu:0.1%以下のうちから選ばれた少なくとも1種を含有する組成を有することを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
- 請求項1または2に記載の組成を有する鋼を、800〜950℃の仕上温度で熱間圧延して熱延板とし、前記熱間圧延後の熱延板を、50℃/s以上の平均冷却速度で600℃以下の冷却停止温度まで冷却後、550℃以下の巻取温度で巻取り、前記巻取り後の熱延板を、720℃以下の焼鈍温度で焼鈍することを特徴とする鋼板の製造方法。
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