JP5157375B2 - 剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板及びその製造方法 - Google Patents

剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車用鋼板等の用途に好適な、剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れる高強度冷延鋼板及びその製造方法に関するものである。
炭酸ガスの排出量を抑制するため、自動車の燃費の向上を目的とする自動車車体の軽量化が進められている。そのため、自動車の部材には、板厚の低減が可能な高強度鋼板の適用が増えつつある。また、搭乗者の安全性確保のためにも、高強度鋼板が自動車車体に多く使用されるようになってきている。しかし、更に板厚を低減するには剛性が問題になるため、鋼板のヤング率を高めることが必要になる。
一方、自動車車体用部品の多くはプレス加工により成形されるために、使用される高強度鋼板には優れた成形性が求められる。なお、自動車車体用部品をプレス加工する際には、深絞り加工に加えて、伸びフランジ加工が施されることも多い。以上のことから、自動車車体に用いられる高強度鋼板には、剛性、深絞り性及び穴拡げ性の全ての特性をバランス良く向上させることが求められている。
このような問題に対し、集合組織を制御して、ヤング率を高め、剛性を向上させた高強度鋼板が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、これは、深絞り性や、穴拡げ性に対して考慮されたものではない。一方、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度鋼板として、フェライト相と硬質第2相からなる複合組織を有する鋼板が提案されている(例えば、特許文献2)。これは、硬質第2相を軟質化することにより、フェライト相の硬さと硬質第2相の硬さの差を制限したものであるが、ヤング率の向上を考慮したものではない。
また、ミクロ組織がフェライト相とマルテンサイト相からなる、剛性と深絞り性を向上させた鋼板が提案されている(例えば、特許文献3)。しかし、この複相組織鋼板は、軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相との硬度差に起因するミクロボイドが発生するため、穴拡げ性が劣ると考えられる。これに対して、フェライト相を細粒化することによって硬質第2相を微細に分散し、ミクロボイドの発生を抑制した高強度鋼板が提案されている(例えば、特許文献4)。しかし、これは剛性の向上を図ったものではない。
更に、フェライトを均質な未再結晶フェライトとして強化した、未再結晶複合組織からなる高強度の冷延鋼板が提案されている(例えば、特許文献5)。しかし、これは、強度が高いものの、降伏比が高く、また伸びも低いため、成形性が不十分である。
また、発明者らの一部は、特許文献6において、集合組織を制御してランクフォード値(r値という。)を高め、深絞り性を向上させた高強度鋼板を提案している。この方法によれば、ヤング率の向上も期待できるが、穴拡げ性を考慮したものではない。更に、発明者らは、特許文献7において、未再結晶フェライトを活用して穴拡げ性を向上させた、局部延性に優れた高ヤング率高強度鋼板を提案している。しかし、これは深絞り性の向上を考慮したものではない。
特開2007−92129号公報 特開2005−264323号公報 特開2005−120472号公報 特開2007−107099号公報 特開昭53−5018号公報 特開2006−193819号公報 特願2006−262873号
本発明は、従来、剛性、深絞り性及び穴拡げ性の全てを向上させた高強度冷延鋼板が提案されていないという実状に鑑み、剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板を提供するものであり、更には、このような優れた特性を有する冷延鋼板を安定的に、生産性を損なうことなく製造する方法を提供するものである。
本発明は、鋼板の幅方向のヤング率の向上に有効な{112}<110>及びr値の向上に有効な{332}<113>を発達させた集合組織を有する未再結晶フェライトの活用により、軟質相と硬質第2相との硬度差に起因するミクロボイドの発生を抑制し、剛性、深絞り性及び穴拡げ性を向上させた高強度冷延鋼板である。また、本発明は、Ti、Nbの一方又は双方、B、更に、Mo、Wの一方又は双方を複合添加し、熱延条件を制御することにより熱延鋼板の{112}<110>及び{332}<113>を発達させ、更に、冷延後の焼鈍条件を最適化することにより再結晶挙動を制御し、熱延鋼板に発達した集合組織を維持した未再結晶フェライトを冷延鋼板に生成させることができるという知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1) 質量%で、C:0.010〜0.300%、Mn:0.50〜3.50%、B:0.0003〜0.0070%を含有し、Si:1.00%以下、P:0.150%以下、S:0.0150%以下、Al:0.200%以下、N:0.0100%以下に制限し、更に、Ti、Nbの一方又は双方を合計で0.010〜0.130%、Mo、Wの一方又は双方を合計で0.05〜1.50%含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、板厚1/2層における{332}<113>の極密度が4.5以上であり、{112}<110>の極密度が5.0以上であり、金属組織がフェライトと硬質第2相からなり、前記フェライトが再結晶フェライト、変態フェライトの一方又は双方と未再結晶フェライトからなり、前記未再結晶フェライトの面積率が30〜90%であり、前記再結晶フェライト、前記変態フェライトの一方又は双方の面積率が6〜69%であり、前記硬質第2相の面積率が1〜30%であることを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
(2) 質量%で、Cr、Cu、Niの1種又は2種以上を合計で0.01〜4.00%含有することを特徴とする上記(1)に記載の剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
(3) 上記(1)又は(2)の何れかに記載の冷延鋼板の表面に溶融Znめっきを設けたことを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
(4) 上記(1)又は(2)の何れかに記載の冷延鋼板の表面に合金化溶融Znめっきを設けたことを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
(5) 上記(1)又は(2)の何れか1項に記載の化学成分を有する鋼片を熱間圧延するにあたり、仕上温度をAr3変態温度以上として、900℃以下における圧下率の合計が50%以上となるように熱間圧延を行い、700℃以下で巻取り、酸洗後、10〜70%の圧下率で冷間圧延を施した後、鋼板を、(Ac1[℃]−100℃)からAc1[℃]までの昇温速度を5℃/s以上としてAc1[℃]〜Ac3[℃]の温度範囲内に昇温し、前記鋼板の温度が該温度範囲内である滞留時間を10〜300sとして焼鈍することにより、板厚1/2層における{332}<113>の極密度が4.5以上であり、{112}<110>の極密度が5.0以上であり、金属組織がフェライトと硬質第2相からなり、前記フェライトが再結晶フェライト、変態フェライトの一方又は双方と未再結晶フェライトからなり、前記未再結晶フェライトの面積率が30〜90%であり、前記再結晶フェライト、前記変態フェライトの一方又は双方の面積率が9〜69%であり、前記硬質第2相の面積率が1〜30%である鋼板とすることを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
ここで、Ac1[℃]及びAc3[℃]は質量%で表されるC、Mn、Siの含有量(%C)、(%Mn)、(%Si)によって下記(式1)及び(式2)から求めたAc1変態温度及びAc3変態温度である。
Ac1=761.3+212(%C)−45.8(%Mn)+16.7(%Si)
・・・(式1)
Ac3=915−325.9(%C)−35.9(%Mn)+31.4(%Si)
・・・(式2)
本発明により、未再結晶フェライトを積極的に活用した、剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の提供が可能になり、また、このような優れた特性を有する鋼板を、安定的に生産性を損うことなく製造できる方法の提供が可能になり、産業上の貢献が極めて顕著である。
従来、冷延鋼板の金属組織のフェライトの一部を未再結晶フェライトとして残留させるという発想は皆無であった。これは、再結晶が不完全であると冷延鋼板の材質が不均一になると考えられていたためである。
一方、模式的に図1に示した本発明のように、未再結晶フェライトを積極的に残留させると、軟質のフェライト、即ち、再結晶フェライト及び変態フェライトと硬質第2相の間に、中間の強度を有する未再結晶フェライトを存在させることができる。
未再結晶フェライトは、冷間圧延によって圧延方向に延伸されたフェライトの結晶粒が再結晶せず、粒内の転位が回復したものである。そのため、図2に模式的に示したように、未再結晶フェライトの粒内には転位の回復によって形成されたサブグレインを有することが多い。また、未再結晶フェライトの粒内では、冷間圧延による塑性変形のため結晶方位が連続的に変化している。一方、再結晶フェライト及び変態フェライトは、再結晶又は変態によって、粒内の結晶方位はほぼ均一となり、隣接する結晶粒同士の結晶方位は大きく異なっている。
また、未再結晶フェライトは、再結晶フェライト及び変態フェライトと異なり、焼鈍前の集合組織を保持している。そのため、冷間圧延及び焼鈍後に未再結晶フェライトを確保すれば、熱間圧延によって形成された集合組織の破壊を効果的に抑制することができる。したがって、成分組成及び熱間圧延条件の最適化により、熱延鋼板にヤング率及びr値を高める集合組織を発達させ、冷間圧延及び焼鈍後に未再結晶フェライトを確保すれば、剛性と深絞り性を両立させた冷延鋼板を得ることができる。
更に、未再結晶フェライトは、軟質のフェライトと硬質第2相との中間の強度を有するため、変形時にフェライトと硬質第2相の界面への歪みの集中が緩和される。したがって、未再結晶フェライトが存在すると、軟質のフェライトと硬質第2相との界面に生じるボイドの発生が抑制される。また、未再結晶フェライトを積極的に残留させ、変態フェライトの生成を抑制すると、ボイドの起点となるセメンタイトの生成も抑制される。これにより、局部延性が顕著に向上し、穴拡げ性が改善され、厳しい伸びフランジ加工やバーリング加工が可能になる。
以上のことから、熱延鋼板にヤング率及びr値を高める集合組織を発達させ、未再結晶フェライトを積極的に活用すると、剛性及び深絞り性の向上に加えて、穴拡げ性の改善も可能になる。即ち、本発明は、未再結晶フェライトの活用によって、r値の向上に有効な{332}<113>及び鋼板の幅方向のヤング率の向上に有効な{112}<110>を発達させた集合組織とし、剛性と深絞り性に加えて、穴拡げ性も向上させた冷延鋼板である。
{332}<113>及び{112}<110>が発達した熱延鋼板を得るには、オーステナイト相の再結晶を抑制して熱間圧延し、冷却してフェライト変態させることが重要である。その後、{332}<113>及び{112}<110>の破壊を抑制するため、冷間圧延の圧下率を制御し、更に、再結晶を抑制し得る条件で焼鈍を行うことによって、本発明の冷延鋼板を得ることができる。
即ち、本発明の冷延鋼板を得るには、熱間圧延時のオーステナイト相の再結晶及び冷間圧延後の焼鈍時のフェライト相の再結晶を抑制することが重要になる。再結晶を抑制する元素として、Ti、Nb、Mo、W、Bが挙げられる。Ti、Nb、Mo、Wは、鋼中への固溶や微細な析出物(炭窒化物)の生成によって再結晶を抑制する元素であり、Bは、粒界に偏析して再結晶を抑制する元素である。
更に、TiとNbは、主に炭窒化物の生成によって、MoとWは、主に鋼中に固溶して再結晶を抑制する元素である。そのため、Ti、Nbの一方又は双方と、Mo、Wの一方又は双方と、Bとを複合添加することにより、メカニズムの異なる再結晶の抑制効果が組み合わされるため、これらの相乗効果によって再結晶が著しく抑制される。
これにより、熱延工程においてはオーステナイト相の再結晶が抑制されて{332}<113>及び{112}<110>方位が発達し、焼鈍工程においてはフェライト相の再結晶が抑制されて未再結晶フェライトを確保することができる。
このように、本発明は、未再結晶フェライトの確保によって、ミクロボイド発生と熱延鋼板の集合組織の破壊を抑制し、穴拡げ性及び剛性を同時に向上させた冷延鋼板である。穴拡げ性及び剛性の向上という効果を得るためには、面積率で30%以上の未再結晶フェライトを確保することが必要である。一方、未再結晶フェライトの面積率が90%を超えると、著しく延性が低下するため、上限を90%とすることが必要である。
また、本発明者らは、未再結晶フェライトを残留させる方法について検討を行い、
(x)フェライトの再結晶温度が、フェライトからオーステナイトへの変態(α−γ変態という。)が開始する温度であるAc1変態温度(以下、Ac1ともいう。)よりも低い場合には、再結晶温度からAc1までの昇温速度を速くすること、
(y)フェライトの再結晶温度が、Ac1よりも高い場合には、昇温速度に依らず、再結晶が進行しないこと、
(z)焼鈍温度の上限が高すぎる場合、Ac1以上での滞留時間が長すぎる場合には、α−γ変態が進行して未再結晶フェライトが残留しないこと、
を見出した。
したがって、焼鈍の条件は本発明において極めて重要であり、未再結晶フェライトを確保するためには、特にAc1以下での昇温速度、最高到達温度及びAc1以上での保持時間を制限することが必要である。ただし、本発明のように、再結晶を抑制するために、Ti、Nbの一方又は双方と、Mo、Wの一方又は双方と、Bとを複合添加すると、昇温速度が若干遅くなっても、十分に再結晶が抑制される。
焼鈍における(Ac1[℃]−100℃)からAc1[℃]までの昇温速度は5℃/s以上とする。昇温速度を5℃/s以上とする温度の下限を(Ac1[℃]−100℃)以上としたのは、本発明の鋼の再結晶温度が成分の含有量によって上昇しており、低くとも(Ac1[℃]−100℃)以上になるためである。また、昇温速度を5℃/s以上とする温度の上限をAc1[℃]としたのは、Ac1[℃]以上の温度ではα−γ変態を生じて、再結晶が抑制され、昇温速度を高める必要がないためである。
一方、昇温速度が5℃/s未満の場合、再結晶が十分に進行するので、未再結晶フェライトの面積率が著しく減少する。なお、再結晶フェライトの粗大化を抑制するには、昇温速度を好ましくは10℃/s以上、更に好ましくは20℃/s以上とする。
更に、焼鈍における最高到達温度の下限はAc1[℃]以上とし、上限は、Ac3[℃]とする。ここで、Ac3とは、α−γ変態が完了してオーステナイト単相となる温度、即ち、Ac3変態温度である。最高到達温度がAc1未満の場合、フェライトからオーステナイトに変態しないため、硬質第2相の量が不十分であり、強度−延性バランスを損なう。また、本発明者は、最高到達温度をAc1+50℃以上にすれば、オーステナイト変態による再結晶の抑制が更に顕著になるという知見を得た。したがって、確実に未再結晶フェライトを確保し、特性を向上させるためには、最高到達温度をAc1+50℃以上とすることが好ましい。一方、最高到達温度がAc3[℃]超になると、オーステナイト変態が完了してしまうため、未再結晶フェライトの確保が困難になる。
また、鋼板の温度がAc1[℃]以上である温度範囲での滞留時間は10〜300sとする。これは、以下の理由による。即ち、鋼板の温度がAc1[℃]以上になる時間が10s未満であると、α−γ変態が十分に進行しないため、硬質第2相を確保できず、強度−延性バランスを損なう。一方、Ac1[℃]以上での滞留時間が300sを超えると、オーステナイト変態が進行しすぎるため、未再結晶フェライトの確保が困難になる。
なお、Ac1[℃]及びAc3[℃]は、それぞれAc1変態点及びAc3変態点であり、質量%で表されるC、Mn、Siの含有量である(%C)、(%Mn)、(%Si)により、下記(式1)及び(式2)から求めた温度である。
Ac1=761.3+212(%C)−45.8(%Mn)+16.7(%Si)
・・・(式1)
Ac3=915−325.9(%C)−35.9(%Mn)+31.4(%Si)
・・・(式2)
次に、本発明における鋼成分の限定理由について説明する。なお、元素の含有量における%は質量%を意味する。
Cは、硬質第2相の生成を促進し、強度の増加に寄与する元素であり、狙いとする強度レベルに応じて適量を添加する。C量は、0.010%未満であると、高強度を得るのが困難となるため、下限を0.010%とする。一方、C量が0.300%を超えると、成形性や溶接性の劣化を招くため、0.300%を上限とする。
Siは脱酸元素であり、Si量の下限は規定しないが、0.01%未満とするには製造コストが高くなるため、下限を0.01%とすることが好ましい。また、Siは、固溶強化元素として強度を増加させる働きがある上、硬質第2相を得るためにも有効である。しかし、Si量が1.00%を超えるとAc1が高くなり過ぎ、焼鈍温度を高くする必要が生じ、変態が促進されて未再結晶フェライトの確保が困難になるため、上限を1.00%以下とする。また、Siを0.50%超添加すると溶融Znめっきを施す際のめっき密着性の低下や、合金化反応の遅延による生産性の低下という問題が生じることがある。そのため、Si量の上限を0.50%以下とすることが好ましい。
MnはAc1及びAc3を低下させる元素であり、本発明において極めて重要である。即ち、Mn量が少ないと、焼鈍温度を高くする必要が生じ、変態が促進されて未再結晶フェライトの確保が困難になる。したがって、Mn量の下限を0.50%とする。また、Mnは、Siと同様、固溶強化に寄与する元素として強度を増加させる働きがある上、硬質第2相を得るためにも有効である。これらの効果を得るには、Mn量の下限を1.50%とすることが好ましい。一方、Mn量が3.50%を超えると、成形性や溶接性の劣化を招くため、3.50%を上限とする。
Pは不純物であり、粒界に偏析し、鋼板の靭性の低下や溶接性の劣化を招くため、上限を0.150%とする。更に、Pを過剰に含有すると、溶融Znめっき時に合金化反応が極めて遅くなり、生産性が低下するため、P量の上限を0.050%とすることが好ましい。下限は特に限定しないが、Pは安価に強度を高める元素であるため、P量を0.005%以上とすることが好ましい。
Sは不純物であり、その含有量が0.0150%を超えると、熱間圧延時に割れが生じるので、上限を0.0150%とする。また、Sは、加工性を劣化させる元素でもあるため、上限を0.0050%とすることが好ましい。
Alは脱酸剤であり、下限は規定しないが、変態点を著しく高める元素であるため、上限を0.200%とする。また、Alは、酸化物や窒化物を生じる元素であり、過剰に含有すると成形性を損なうことがあるため、好ましくは、0.050%以下を上限とする。
Nは不純物であり、N量が0.0100%を超えると、鋼片の割れの発生が顕著になるため、上限を0.0100%とする。また、過剰なNの含有は、靭性や延性を劣化させるため、上限を0.0050%以下とすることが好ましい。なお、Nは、硬質第2相を得るためには有効であるため、0.0010%以上を含有させることが好ましい。
なお、Ac1が700℃以上の高温になると、α+γ二相域での焼鈍の際に、短時間でα−γ変態が進行することがあるため、本発明においてはAc1が700℃以下であることが好ましい。
Nb、Ti、Mo、W及びBは、上述のように、熱延工程におけるオーステナイト相の再結晶を抑制し、冷間圧延後の焼鈍工程におけるフェライトの再結晶を抑制するために重要な元素であり、Nb及びTiの一方又は双方と、Mo及びWの一方又は双方と、Bとを複合添加する。
再結晶を顕著に抑制して、{332}<113>の極密度を4.5以上、{112}<110>の極密度を5.0以上とするためには、Nb及びTiの一方又は双方の合計量を0.010%以上、Mo及びWの一方又は双方の合計量を0.05%以上、Bの添加量を0.0003%以上とすることが必要である。
一方、Nb及びTiの一方又は双方の合計の含有量が0.130%を超えると、再結晶が抑制されて強度が上昇し、延性が低下するため、上限を0.130%とする。なお、合金コストの観点から、Nb及びTiの一方又は双方の含有量の好ましい上限は0.100%である。また、Mo及びWの一方又は双方の合計量が1.50%を超えると加工性が劣化するので、上限を1.50%に限定した。合金コストの観点からは、Mo及びWの一方又は双方の合計量を1.00%以下とすることが好ましい。更に、Bの添加量が0.0070%を超えると、効果が飽和し、延性が低下するため、上限を0.0070%とした。
また、Ti及びNbを複合添加することによって、更に再結晶を抑制する効果が顕著になるため、それぞれの下限を0.005%以上とすることが好ましい。また、Mo及びWも同様に、それぞれの下限を0.05%以上として複合添加することが好ましい。
更に、焼入れ性を高めるためにCr、Cu、Niの1種又は2種以上を添加しても良い。Cr、Cu、Niは、焼入れ性の向上による高強度化のため、1種又は2種以上を合計で0.01%以上添加することが好ましい。一方、Cr、Cu、Niの1種又は2種以上の合計量が4.00%を超えると、合金コストの増加を招いてしまう。合金コストの観点から、Cr、Cu、Niの1種又は2種以上の合計量は、1.50%以下とすることが好ましい。
本発明によって得られる鋼板のミクロ組織は、フェライトと硬質第2相からなり、フェライトは、未再結晶フェライト、再結晶フェライト及び変態フェライトの総称である。なお、光学顕微鏡による組織観察では、再結晶フェライトと変態フェライトとの差異は明確ではなく、両者を区別することは困難である。
硬質第2相は、マルテンサイト、ベイナイト及びパーライトの1種又は2種以上からなり、面積率で3%未満の残留オーステナイトを含むことがある。硬質第2相は、高強度化に寄与するため、面積率の下限を1%以上とする。一方、硬質第2相が過剰に存在すると著しく延性が低下するため、上限を30%とする。
ミクロ組織は、圧延方向に平行な板厚断面を観察面として試料を採取し、観察面を研磨、ナイタールエッチ、必要に応じてレペラーエッチし、光学顕微鏡で観察すれば良い。光学顕微鏡を用いて撮影されたミクロ組織写真を画像解析することにより、パーライト、ベイナイト又はマルテンサイトの内の何れか1種又は2種以上の面積率の合計量を、フェライト以外の相、即ち硬質第2相の面積率として求めることができる。残留オーステナイトは、光学顕微鏡ではマルテンサイトとの区別が困難であるが、X線回折法によって体積率の測定を行うことができる。なお、ミクロ組織から求めた面積率は、体積率と同じである。
再結晶フェライトと変態フェライトの一方又は双方の面積率は、9〜69%とする。これは、再結晶フェライトと変態フェライトの一方又は双方の面積率が、9%未満になると延性が低下し、69%を超えると強度が低下するためである。
未再結晶フェライトと、それ以外のフェライト、即ち再結晶フェライト及び変態フェライトとは、電子後方散乱解析像(Electron back scattering pattern、EBSPという。)の結晶方位測定データをKernel Average Misorientation法(KAM法)で解析することにより判別が可能である。
未再結晶フェライトの粒内には、転位は回復しているものの、冷延時の塑性変形によって生じた結晶方位の連続的な変化が存在する。一方、未再結晶フェライトを除くフェライト(再結晶フェライト及び変態フェライト)粒内の結晶方位変化は極めて小さくなる。これは、再結晶及び変態により、隣接する結晶粒の結晶方位は大きく異なるものの、1つの結晶粒内では結晶方位が変化していないためである。
KAM法では、隣接したピクセル(測定点)との結晶方位差を定量的に示すことができるので、本発明では隣接測定点との平均結晶方位差が1°以内且つ、平均結晶方位差が2°以上あるピクセル間を粒界と定義した時に、結晶粒径が3μm以上である粒を未再結晶フェライト以外のフェライト、即ち再結晶フェライト及び変態フェライトと定義する。
EBSP測定は、焼鈍後の試料の平均結晶粒径の10分の1の測定間隔で、任意の板断面の板厚方向の1/4厚の位置で100×100μmの範囲において行えば良い。このEBSP測定の結果、得られた測定点はピクセルとして出力される。EBSPの結晶方位測定に供する試料は、機械研磨等によって鋼板を所定の板厚まで減厚し、次いで電解研磨等によって歪みを除去すると同時に、板厚1/4面が測定面となるように作製する。
未再結晶フェライトを含むフェライトの総面積率は、硬質第2相の面積率の残部であるから、EBSPの結晶方位測定に使用した試料をナイタールエッチし、EBSP測定を行った視野の光学顕微鏡写真を同一の倍率で撮影し、得られた組織写真を画像解析して求めれば良い。更に、この組織写真とEBSPの結晶方位測定の結果を対比させることによって、未再結晶フェライト及び未再結晶フェライト以外のフェライト、即ち、再結晶フェライトと変態フェライトの面積率の合計を求めることもできる。
次に集合組織について説明する。
本発明鋼の板厚1/2層における{332}<113>の極密度は4.5以上とする。これによって、r値を高めることが可能となる。この観点から、極密度は6.0以上とすることが好ましく、更に好ましくは8.0以上とする。
本発明鋼の板厚1/2層における{112}<110>の極密度は5.0以上であることが必要である。この方位が発達することによって、鋼板の幅方向のヤング率が向上する。この極密度が5.0未満では、高ヤング率を得るのは困難であるため、これを下限とする。好ましくは極密度が6以上、更に好ましくは8以上とする。
なお、極密度とは、X線ランダム強度比と同義であり、特定の方位への集積を持たない標準試料と供試材のX線強度を同条件でX線回折法等により測定し、得られた供試材のX線強度を標準試料のX線強度で除した数値である。
{332}<113>及び{112}<110>方位の極密度は、X線回折によって測定される{110}、{100}、{211}、{310}極点図のうち、複数の極点図を用いて級数展開法で計算した3次元集合組織(ODF)から求めれば良い。すなわち、{332}<113>及び{112}<110>方位の極密度を求めるには、図3に例示したODFのφ2=45°断面における(332)[−1−13]及び(112)[1−10]の強度でそれぞれ代表させる。
X線回折に供する試料は、機械研磨などによって鋼板を所定の板厚まで減厚し、次いで化学研磨や電解研磨などによって歪みを除去すると同時に板厚1/2面が測定面となるように作製する。鋼板の板厚中心層に偏析帯や欠陥などが存在し測定上不都合が生ずる場合には、板厚の3/8〜5/8の範囲で適当な面が測定面となるように上述の方法に従って試料を調整して測定すればよい。更にX線回折が困難な場合には、EBSP法やECP(lectron hanneling attern)法により統計的に十分な数の測定を行う。
ここで、{hkl}<uvw>とは、上述の方法でX線用試料を採取した時、板面の法線方向が{hkl}に平行で、圧延方向が<uvw>と平行であることを示している。なお結晶の方位は通常、板面に垂直な方位を[hkl]又は{hkl}、圧延方向に平行な方位を(uvw)または<uvw>で表示する。{hkl}、<uvw>は等価な面の総称であり、[hkl]、(uvw)は個々の結晶面を指す。すなわち、本発明においては体心立方構造を対象としているため、例えば(111)、(−111)、(1−11)、(11−1)、(−1−11)、(−11−1)、(1−1−1)、(−1−1−1)面は等価であり区別がつかない。このような場合、これらの方位を総称して{111}と称する。ODF表示では他の対称性の低い結晶構造の方位表示にも用いられるため、個々の方位を[hkl](uvw)で表示するのが一般的であるが、本発明においては[hkl](uvw)と{hkl}<uvw>は同義である。
本発明の冷延鋼板を、耐食性が要求される用途に使用する際には、表面に溶融Znめっきを設けることが好ましい。更に、表面に溶融Znめっきを設けた冷延鋼板に合金化処理を施し、合金化溶融Znめっきとしても良い。
次に、製造方法及びその好ましい条件について述べる。
熱間圧延に供する鋼片は常法で製造すれば良く、鋼を溶製し、鋳造すれば良い。生産性の観点からは、連続鋳造が好ましく、薄スラブキャスター等で製造しても良い。また、鋳造後直ちに熱間圧延を行う連続鋳造―直接圧延のようなプロセスでも良い。
熱間圧延の加熱温度は、特に規定せず、通常の条件で良いが、本発明では、仕上温度をAr3変態温度以上とし、また、900℃以下での圧下率を確保することが必要であるため、1000℃以上とすることが好ましい。また、MoとWを鋼中に固溶させるためには、1050℃以上とすることが好ましい。熱間圧延の加熱温度の上限は、加熱炉の損傷などを考慮すると、1300℃以下とすることが好ましい。
熱間圧延の仕上温度はAr3変態温度以上とする。仕上温度がAr3変態温度未満では、フェライト相が圧延されるため、r値及びヤング率の向上にとって好ましくない集合組織が発達してしまう。Ar3変態温度は、冷却時のフェライト変態の開始温度であり、質量%で表されるC、Si、P、Al、Mn、Mo、Crの含有量である(%C)、(%Si)、(%P)、(%Al)、(%Mn)、(%Mo)、(%Cr)により、下記(式3)によって求めることができる。
Ar3=901−325(%C)+33(%Si)+287(%P)+40(%Al)
−92{(%Mn)+(%Mo)+(%Cr)} ・・・ (式3)
なお、Si、P、Al、Mo、Crを含有しない場合は、0として計算すれば良い。
また、本発明では、オーステナイト相の再結晶を抑制して熱間圧延を行い、{332}<113>及び{112}<110>の発達した熱延鋼板を得ることが極めて重要である。そのため、仕上温度までの900℃以下での圧下率の合計を高めることが必要であり、下限を50%以上とする。ここで、圧下率の合計とは、900℃以下の、最終パスまでの各パスの圧下率の合計である。各パスの圧下率は圧延前後の板厚の差を圧延前の板厚で除して求める。例えば、nパス目の圧下率Rnは、
n=[{(n−1)パス後の板厚―nパス後の板厚}/(n−1)パス後の板厚]
×100(%)
である。したがって、900℃から仕上温度までのパス数がnである圧延の場合、1パス目からnパス目までの各圧下率は、それぞれ、R1(%)、R2(%)R、・・・、Rn(%)であり、圧下率の合計は、R1+R2+・・・+Rnと定義される。
900℃以下での圧下率の合計の上限は、鋼片の厚みや仕上圧延後の鋼板の板厚、パススケジュールによって適宜決定すれば良いので特に規定しない。熱間圧延の各パスの圧下率は、通常、50%以下、また、比較的低温での圧延であるため、好ましくは20〜40%であり、パス数は圧延機によっても異なるが、せいぜい、8パス以下である。したがって、900℃以下での圧下率の合計の上限は、高くとも400%以下であり、好ましくは320%以下、比較的低温での圧延であることを考慮すると、更に好ましくは200%以下である。
熱延後の巻取温度は、700℃超になると熱延中に形成された集合組織が弱くなり、r値及びヤング率が低下することから、上限を700℃以下とする。下限は特に規定しないが、400℃未満で巻き取ると、熱延鋼板の強度が高くなり過ぎるため、冷延の負荷が高くなることから、巻取温度を400℃以上とすることが好ましい。
熱間圧延後は、酸洗し、冷間圧延を行う。冷間圧延の圧下率を10%未満とすると、板厚制御が難しく形状不良の原因となるため、圧下率の下限を10%以上とする。一方、冷間圧延の圧下率が70%超になると、熱延鋼板の集合組織が保存し難くなる。また、冷間圧延率が増加すると、再結晶の駆動力が高くなり、再結晶が促進されて未再結晶フェライトが減少することがある。したがって、冷間圧延の圧下率の上限は70%以下とする。
本発明において、冷間圧延後の焼鈍は極めて重要であり、上述の条件で行うことが必要である。焼鈍は、昇温速度、加熱時間を制御するため、連続焼鈍設備によって行うことが好ましい。また、昇温速度を速くするために、高周波加熱装置、通電加熱装置を併用しても良い。焼鈍において、Ac1以上での滞留時間は、鋼板の温度がAc1以上である時間の合計であり、加熱炉の設定温度と炉の長さ、通板速度によって制御することができる。
また、焼鈍後の冷却速度は特に規定しないが、冷却速度が1℃/s未満の場合、十分に硬質第2相が得られなくなることがある。この観点から、冷却速度の下限は1℃/sとすることが好ましい。一方、冷却速度を250℃/s超とするには、特殊な設備の導入などが必要になるため、250℃/sを冷却速度の上限とすることが好ましい。焼鈍後の冷却速度は、水等、冷媒の吹付け、送風、ミスト等による強制冷却により、適宜制御すれば良い。
焼鈍後、必要に応じて、過時効処理を施しても良い。過時効処理を行う場合は、250〜500℃の温度範囲で30s以上保持することが好ましい。これは、250〜500℃の温度域で30s以上滞留させるとベイナイト変態が進行するためである。これにより、冷却時にオーステナイトが残留していても、ベイナイト変態の進行によって硬質第二相の硬度が低下し、穴拡げ性を向上させることができる。
また、焼鈍後、必要に応じて、溶融Znめっき又は合金化溶融Znめっきを施しても良い。溶融Znめっき浴の温度は特に限定しないが、一般的な温度範囲である430〜500℃、好ましくは440〜480℃の温度範囲から、適宜選択すれば良い。Znめっきの組成は特に限定するものではなく、Znの他、Fe、Al、Mn、Cr、Mg、Pb、Sn、Ni等を必要に応じて添加しても構わない。
合金化処理を行う場合は、450〜600℃の温度範囲で行うことが好ましい。これは、450℃未満では合金化が十分に進行せず、また、600℃超では過度に合金化が進行し、めっき層が脆化して、プレス等の加工によってめっきが剥離する等の問題を誘発することがあるためである。合金化処理の時間は、10s未満では合金化が十分に進行しないことがあるため、10s以上とすることが好ましい。また、合金化処理の時間の上限は特に規定しないが、生産効率の観点から100s以内とすることが好ましい。
なお、めっきは、焼鈍と別工程で行っても良いが、生産性の観点から、焼鈍とめっきを連続して行う、連続焼鈍−溶融Znめっきラインによって行うことが好ましい。更に、合金化処理を行う場合には、連続して合金化処理炉を連続して設け、焼鈍、めっき及び合金化処理を連続して行うことが好ましい。なお、連続焼鈍−溶融Znめっきラインによって溶融Znめっきを施す場合も、未再結晶フェライトを確保するためには、焼鈍を上記の条件で行うことが必要である。
表1に示す組成を有する鋼を真空溶解炉にて溶製し、鋳造した。得られた鋼片を1050℃に加熱し、表2に示す条件で熱間圧延した。得られた熱延鋼板を酸洗した後、表2に示す条件で冷間圧延及び焼鈍を行った。ここで、表1の[−]は、選択元素を意図的に添加していないことを意味する。また、表1には、Ac1[℃]とAc3[℃]の計算値も示した。
表2において、熱延工程の圧下率は、900℃以下、仕上圧延までの各パスの圧下率の合計である。また、FT[℃]は熱間圧延の仕上温度であり、CT[℃]は巻取温度である。表2の昇温速度は、(Ac1[℃]−100℃)からAc1[℃]までの温度の上昇に要した時間によって計算した。表2の滞留時間は、焼鈍時に、Ac1[℃]から最高到達温度までの温度域で保持された時間である。
表2に示す冷延鋼板のうち、製造No.3及び6については、焼鈍工程後、溶融Znめっき浴に浸漬して溶融Znめっきを施し、製造No.6については溶融Znめっきした後、500℃で20sの合金化処理を施した。更に、製造No.9については、焼鈍後、300℃まで冷却し、過時効処理として、300℃で400s保持した後、10℃/sで室温まで冷却した。また、製造No.15は、1.0%のスキンパス圧延を施した例である。
鋼板の板厚断面のミクロ組織観察は、圧延方向を観察面として試料を採取し、エッチングをレペラー法として、光学顕微鏡で行った、硬質第2相の面積分率は、光学顕微鏡による組織写真を画像解析し、フェライト以外の相の合計として求めた。
また、未再結晶フェライトの面積分率及び未再結晶フェライトを除くフェライトの面積分率は、EBSPの結晶方位測定及びその測定結果と光学顕微鏡組織写真を照合し、画像解析によって求めた。即ち、再結晶フェライト、変態フェライトの一方又は双方の面積率は、フェライトのうち、未再結晶フェライトの面積率を除いた残部として求めた。
板厚1/2層における{332}<113>の極密度、{112}<110>の極密度はX線回折により測定した。なお、X線回折の試料は、機械研磨及び電解研磨よって、板厚1/2面が測定面となるようにして作製した。
更に、鋼板の幅方向(TD方向という。)を長手方向としてJIS Z 2201の5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠して行った。更に、平均r値を、JIS Z 2254に準拠して評価した。穴拡げ試験は日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に準拠して行ない、穴拡げ率λを評価した。
また、鋼板の幅方向のヤング率はJIS Z 2280に記載の横共振法を常温で行って測定した。即ち、試料を固定せずに振動を加え、発振機の振動数を徐々に変化させて一次共振振動数を測定して下式よりヤング率を算出した。
E=0.946×(l/h)3×m/w×f2
ここで、E:動的ヤング率[N/m2]、l:試験片の長さ[m]、h:試験片の厚さ[m]、m:試験片の質量[kg]、w:試験片の幅[m]、f:横共振法の一次共振振動数[s-1]である。
結果を表3に示す。表3に示した金属組織の残部は、再結晶フェライトと変態フェライトの一方又は双方の合計の面積率である。また、表3のYSは降伏強度、TSは引張強度であり、YRは降伏比であり、(YS/TS)×100として求めた。なお、表3のミクロ組織及び集合組織の下線は本発明の範囲外であることを意味し、機械特性の下線は、目標に達していないことを意味する。
表3に示すように、本発明の化学成分を有する鋼を適正な条件で熱延及び冷延し、適切な焼鈍工程を経ることで、過時効処理、Znめっき、更に合金化処理を施しても、高強度で穴拡げ性が良好であり、ヤング率の高い冷延鋼板を得ることが可能である。
一方、鋼No.HはC量が少ないため、これを用いた製造No.22は強度が低下している。また、鋼No.IはSi量が多く、鋼No.JはMnが少ないため、高温で焼鈍を行う必要が生じ、また、鋼No.KはNb量とTi量の合計が少ないため、それぞれの鋼を用いた製造No.23、24及び25は、未再結晶フェライトが少なくなり、{332}<113>及び{112}<110>の極密度が低下し、ヤング率、平均r値、穴拡げ率λが低下している。
鋼No.LはMo量とW量の合計が少なく、鋼No.MはBを添加していないため、これらを用いた製造No.26及び27は、熱延時に好ましい集合組織が発達せず、{332}<113>及び{112}<110>の極密度が低下し、ヤング率、平均r値が低下している。
更に、製造No.2、5及び8は、熱延工程の条件を本発明の範囲外とした比較例である。製造No.2は圧下率の合計が低く、製造No.5は仕上温度が高く、製造No.8は巻取温度が高い例である。これらは、熱延時に好ましい集合組織が発達せず、{332}<113>及び{112}<110>の極密度が低下し、ヤング率、平均r値が低下している。なお、製造No.5の熱延工程の圧下率の「−」は、仕上温度が高く、900℃以下での圧延を行っていないことを意味する。
製造No.12は冷間圧延の圧下率が高く、再結晶が促進されて未再結晶フェライトが減少し、熱延時に発達した集合組織を維持できず、{332}<113>及び{112}<110>の極密度が低下し、ヤング率、平均r値、穴拡げ性が低下している。
製造No.13は焼鈍時の昇温速度が遅く、未再結晶フェライトが減少し、{332}<113>及び{112}<110>の極密度が低下し、ヤング率、平均r値、穴拡げ率λが低下している。
更に、製造No.18は焼鈍の最高到達温度が低い例であり、硬質第2相が得られず、強度が低下している。また、製造No.20は、Ac1[℃]以上での滞留時間が長いため、硬質第2相が増加し、高強度ではあるものの、穴拡げ性が低下した例である。
Figure 0005157375
Figure 0005157375
Figure 0005157375
本発明の鋼の金属組織の模式図である。 本発明の未再結晶フェライトの模式図である。 φ2=45°における3次元集合組織の模式図である。
符号の説明
1 未再結晶フェライト
2 硬質第2相
3 再結晶フェライト又は変態フェライト
4 サブグレイン

Claims (9)

  1. 質量%で、
    C :0.010〜0.300%、
    Mn:0.50〜3.50%、
    B :0.0003〜0.0070%
    を含有し、
    Si:1.00%以下、
    P :0.150%以下、
    S :0.0150%以下、
    Al:0.200%以下、
    N :0.0100%以下
    に制限し、更に、
    Ti、Nbの一方又は双方を合計で0.010〜0.130%、
    Mo、Wの一方又は双方を合計で0.05〜1.50%
    含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、板厚1/2層における{332}<113>の極密度が4.5以上であり、{112}<110>の極密度が5.0以上であり、金属組織がフェライトと硬質第2相からなり、前記フェライトが再結晶フェライト、変態フェライトの一方又は双方と未再結晶フェライトからなり、前記未再結晶フェライトの面積率が30〜90%であり、前記再結晶フェライト、前記変態フェライトの一方又は双方の面積率が9〜69%であり、前記硬質第2相の面積率が1〜30%であることを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
  2. 質量%で、Cr、Cu、Niの1種又は2種以上を合計で0.01〜4.00%含有することを特徴とする請求項1に記載の剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
  3. 請求項1又は2の何れかに記載の冷延鋼板の表面に溶融Znめっきを設けたことを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
  4. 請求項1又は2の何れかに記載の冷延鋼板の表面に合金化溶融Znめっきを設けたことを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
  5. 請求項1又は2の何れかに記載の化学成分を有する鋼片を熱間圧延するにあたり、仕上温度をAr3変態温度以上として、900℃以下における圧下率の合計が50%以上となるように熱間圧延を行い、700℃以下で巻取り、酸洗後、10〜70%の圧下率で冷間圧延を施した後、鋼板を、(Ac1[℃]−100℃)からAc1[℃]までの昇温速度を5℃/s以上としてAc1[℃]〜Ac3[℃]の温度範囲内に昇温し、前記鋼板の温度が該温度範囲内である滞留時間を10〜300sとして焼鈍することにより、板厚1/2層における{332}<113>の極密度が4.5以上であり、{112}<110>の極密度が5.0以上であり、金属組織がフェライトと硬質第2相からなり、前記フェライトが再結晶フェライト、変態フェライトの一方又は双方と未再結晶フェライトからなり、前記未再結晶フェライトの面積率が30〜90%であり、前記再結晶フェライト、前記変態フェライトの一方又は双方の面積率が9〜69%であり、前記硬質第2相の面積率が1〜30%である鋼板とすることを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
    ここで、Ac1[℃]及びAc3[℃]は質量%で表されるC、Mn、Siの含有量(%C)、(%Mn)、(%Si)によって下記(式1)及び(式2)から求めたAc1変態温度及びAc3変態温度である。
    Ac1=761.3+212(%C)−45.8(%Mn)+16.7(%Si)
    ・・・(式1)
    Ac3=915−325.9(%C)−35.9(%Mn)+31.4(%Si)
    ・・・(式2)
  6. 請求項5記載の焼鈍後、250〜500℃まで冷却し、250〜500℃の温度範囲で30s以上保持する過時効処理を施すことを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
  7. 請求項5記載の焼鈍後、冷却し、次いで溶融Znめっきを施すことを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
  8. 請求項7記載の溶融Znめっきを施した後に450〜600℃の温度範囲で10s以上の熱処理を行うことを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
  9. 請求項5〜8の何れか1項に記載の方法により製造した冷延鋼板に0.1〜5.0%のスキンパス圧延を施すことを特徴とする剛性、深絞り性及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
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