JP5157014B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Description

本発明は、基材と該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具に関する。
近年の工作機械の高性能化はめざましいが、その一方で、切削加工に対する更なる高能率化の要求は高まっている。これに伴い、切削加工における高速化の傾向が強まっている。また、Pbフリー鋼やダクタイル鋳鉄といった被削材を対象とする切削工具において、さらなる耐摩耗性の向上が求められている。耐摩耗性と刃先強度とは、トレードオフの関係にあり、従来の技術ではこれらを両立させることは困難であった。そのため、高能率加工の要求を十分に満たすことができていないのが現状である。
従来の技術としては、Zrを被膜に含有させることで耐摩耗性を改善させる試みがなされているが、単にZrを含有する被膜を設けるだけでは、高速加工に対応できる物性を有する切削工具は得られていない(たとえば、特許文献1など)。
また、Zrを含有させた層において、Zrと特定の元素の含有量の最高含有点が交互に存在する組成分布を有し、また組成分布が連続的に変化する構造の被膜を備える切削工具が提案されている(たとえば、特許文献2など)。
特開昭59−222570号公報 特開2004−42150号公報
しかしながら、これらの特許文献1および2などで提案されている切削工具は、耐摩耗性と刃先強度の両方を十分に向上できたものではなかった。
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、高速条件下の切削においてクレーター摩耗を低減するとともに高度な耐摩耗性を付与することができる被膜を備えた表面被覆切削工具を提供することにある。
本出願人は上記目的を達成するには、基材上に形成される被膜においてAlとZrの含有量を特定の範囲で連続的に変化させて形成することおよびそのような組成を有する層において酸化ジルコニウムを含有しないことで、特に、鋼、鋳鉄の切削において、耐摩耗性を改善することが可能であり、特に刃先温度が高温になりやすい、より高速域での乾式切削において寿命が長くなることを見出した。
すなわち、本発明の表面被覆切削工具は、基材と該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、この被膜は、1層または2層以上の層からなり、被膜のうち少なくとも1層は、AlとZrとを少なくとも含む硬質酸化物被膜層であり、硬質酸化物被膜層は、AlとZrの含有量が前記硬質酸化物被膜層の厚み方向に沿って変化する組成構造を有し、この変化は、Alの含有量が極大となるAl極大含有点とZrの含有量が極大となるZr極大含有点とを含み、Al極大含有点とZr極大含有点とが繰り返し存在し、Al極大含有点におけるAlの含有比率Al/(Al+Zr)は、原子比で0.9999<Al≦1であり、Zr極大含有点におけるZrの含有量比率Zr/(Al+Zr)は、原子比で0.001≦Zr/(Al+Zr)≦0.2であり、硬質酸化物被膜層は酸化ジルコニウムを含有しないことを特徴とする。
上記硬質酸化物被膜層は、その厚みが0.05μm以上20μm以下であることが好ましい。
隣接する上記Al極大含有点と上記Zr極大含有点との間隔は、0.005μm以上1μm以下であることが好ましい。
上記被膜は、周期律表IVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、または、該元素と硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物、からなる被覆層Xを含むことが好ましい。
また、上記被膜は、Al酸化物層をさらに含み、かつ、このAl酸化物層は、Al酸化物を含む層であり、硬質酸化物被膜層の直下に形成されることが好ましい。
上記被膜は、TiBxy(x、yは原子%を表し、0.001<x/(x+y)<0.2を満たす)からなるTiBN層をさらに含み、かつ、このTiBN層は、Al酸化物層の直下に形成されることが好ましい。
また、上記被膜は、TiBabc(a、bおよびcは原子%を表し、0.0005<a/(a+b+c)<0.2、かつ0<c/(a+b+c)<0.5を満たす)からなるTiBNO層をさらに含み、かつ、このTiBNO層は、Al酸化物層の直下に形成されることが好ましい。
上記Al酸化物は、α−アルミナであることが好ましい。
上記硬質酸化物被膜層の厚みd1と上記Al酸化物層の厚みd2とは、d1/(d1+d2)>0.05を満たすことが好ましい。
上記硬質酸化物被膜層と上記Al酸化物層とは、その合計厚みが0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。
上記表面被覆切削工具は、刃先稜線部を有し、この刃先稜線部において、上記硬質酸化物被膜層、上記Al酸化物層および上記被覆層Xの少なくともいずれかが露出し、刃先稜線部以外の部分は、隣接する上記Zr極大含有点と上記Al極大含有点とが交互に繰り返し存在し、その間隔が0.005μm以上1μm以下である硬質酸化物被膜層が露出していることが好ましい。
上記被膜は、該層を形成する少なくとも1以上の層が圧縮残留応力を有するかまたは応力を有さない層である態様とすることができ、該圧縮残留応力を有するかまたは応力を有さない層は、上記硬質酸化物被膜層および上記Al酸化物層の少なくともいずれかであることが好ましい。
上記被膜は、化学蒸着法により形成される。
上記被覆層Xは、1層以上形成され、少なくとも1層は、MT−CVD法により形成されたTiCNを層全体の50質量%以上含有する層であることが好ましい。
上記被膜は、その最下層としてチタン化合物を含有するチタン化合物層が形成されることが好ましい。
上記被膜は、その厚みが1μm以上25μm以下であることが好ましい。
上記基材は、超硬合金、サーメット、酸化アルミニウム系セラミックス、および窒化珪素系セラミックスの少なくともいずれかであることが好ましい。
上記基材上に形成される被膜においてAlとZrの含有量を特定の範囲で連続的に変化させて形成し、また特定層に酸化ジルコニウムを含まない態様とすることで、特に、鋼、鋳鉄の切削において、耐摩耗性を改善することが可能であり、さらに寿命を延すことができる。
<表面被覆切削工具>
本発明の表面被覆切削工具は、基材と該基材上に形成された被膜とを備えるものである。このような構成を有する本発明の表面被覆切削工具は、例えばドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切り工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップとして極めて有効に用いることができる。そして、本発明の被覆切削工具は、鋼や鋳鉄などの旋削加工用刃先交換型切削チップとして特に有効に用いることができる。
<基材>
本発明の表面被覆切削工具の基材としては、このような切削工具の基材として知られる従来公知のものを特に限定無く使用することができる。例えば、超硬合金(例えばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体等をこのような基材の例として挙げることができる。このような基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいても本発明の効果は示される。なお、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていたりしてもよく、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
これらの基材のなかでも、超硬合金、サーメット、酸化アルミニウム系セラミックス、窒化珪素系セラミックスの少なくともいずれかである場合、本発明における被膜を形成することで、鋼や鋳鉄に対する耐摩耗性をより改善することができる。
<被膜>
本発明の表面被覆切削工具の上記基材上に形成される被膜は、1層または2層以上からなる。そして、それらの層のうち少なくとも1の層は、以下で詳述するAlとZrの含有量を特定の範囲で連続的に変化させて形成した硬質酸化物被膜層である。本発明における被膜は、この硬質酸化物被膜層を含む限り、さらに他の層を含んでいても差し支えない。なお、本発明における被膜は、基材上の全面を被覆するもののみに限定されるものではなく、部分的に被膜が形成される態様をも含む。
このような被膜の合計厚み(2層以上の層が形成される場合はその総膜厚)は、1μm以上25μm以下とすることが好ましく、より好ましくはその上限が23μm以下、さらに好ましくは20μm以下、その下限が1.5μm以上、さらに好ましくは2μm以上である。その厚みが1μm未満の場合、耐摩耗性等の諸特性の向上作用が十分に示されない場合があり、25μmを超えると、被膜の合計厚みが上記範囲内にある場合に比べて、大きな耐摩耗性の改善効果は認められない傾向にあり、また、刃先強度が低下する場合があるため、工業的に不利となる。なお、膜厚の測定方法としては、切削工具を切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)または金属顕微鏡にて観察することができ、膜組成の測定方法としては、同様に切削工具を切断し、その断面をEPMA、ESCA、XPS、EDS、WDS、EELSなどを用いた微小分析により行なうことができる。また、必要に応じてTEMを用いて分析してもよい。
<硬質酸化物被膜層>
本発明における硬質酸化物被膜層はAlとZrとからなる複合被膜により形成される硬質酸化物被膜層である。この硬質酸化物被膜層は、AlとZrの含有量が硬質酸化物被膜層の厚み方向に沿って変化する組成構造を有し、この変化は、Alの含有量が極大となるAl極大含有点とZrの含有量が極大となるZr極大含有点とを含み、Al極大含有点とZr極大含有点とは繰り返し存在し、Al極大含有点におけるAlの含有量比率Al/(Al+Zr)は、原子比で0.9999<Al/(Al+Zr)≦1であり、Zr極大含有点におけるZrの含有量比率Zr/(Al+Zr)は、原子比で0.001≦Zr/(Al+Zr)≦0.2である。このような硬質酸化物被膜層を含むことにより、被膜の硬度が高くなり、かつ断熱性が向上するので、鋼や鋳鉄に対する耐摩耗性が向上する。本発明における硬質酸化物被膜層は、Alの酸化物以外に不可避不純物を含むものとする。たとえば、Alの酸化物としてはα−アルミナ、κ−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、δ−アルミナ、η−アルミナ、χ−アルミナ、無定形アルミナなどが挙げられる。各硬質酸化物被膜層は、これらの酸化物の1種または2種以上から形成することができる。
隣接する上記Al極大含有点間または上記Zr極大含有点間において、AlとZrの含有量はそれぞれ硬質酸化物被膜層の厚み方向に沿って連続的に変化してもよいし、たとえば、0.001μm以上0.5μm以下の幅をおいて段階的に変化するものも含む。この場合、AlとZrのそれぞれの含有量比率の変化の傾斜は、極大含有点の間隔にあわせて調整すればよい。また、隣接する上記極大含有点の間には、含有量が最低となる極小含有点が存在し、変化するとは、極大含有点から極小含有点の間では、含有量が連続的に減少することをいい、極小含有点から極大含有点の間では、含有量が連続的に増加することをいう。また、上記極大含有点は硬質酸化物被膜層の厚み方向において繰り返し存在すればよいものであり、繰り返しの数は特に限定されないが、耐摩耗性および耐熱性をより向上させることができる点から、Al極大含有点とZr極大含有点とはそれぞれ2以上(Al極大含有点とZr極大含有点の繰り返し数が2以上)であることが好ましく、4以上とすることがより好ましい。
AlとZrの上記極大含有点は、それぞれの極大含有点が厚み方向の同じ位置に存在してもよいし、異なる位置に存在してもよいが、被膜全体の硬度を高める点から、両者が異なる位置に存在し、かつAl極大含有点とZr極大含有点とが交互に存在することが望ましい。すなわち、Al極大含有点と厚み方向の同じ位置にZr極小含有点が存在し、Zr極大含有点と厚み方向の同じ位置にAl極小含有点が存在する場合である。Al極大含有点は相対的に優れた耐摩耗性、特に化学摩耗を抑制する効果を有するが断熱性が不十分であり、他方、Zr極大含有点は相対的に優れた断熱性を有するが耐摩耗性が不十分である場合がある。このため、Al極大含有点の断熱性の不十分さと、Zrの極大含有点の耐摩耗性の不十分さとを互いの含有により補わせるために、上記のようにAlとZrの極大含有点は交互に存在させることが望ましい。また、Alの含有による耐摩耗性とZrの含有による断熱性の効果を相互に補うことが可能であれば、交互とは上記AlとZrの極大含有点は必ずしも厚み方向の同一の位置をいうものではなく、たとえば、0.001μm以上0.5μm以下の範囲内で、厚み方向上下に異なる位置に存在してもよい。
隣接する上記Al極大含有点と上記Zr極大含有点とが交互に繰り返し存在する場合は、そのAl極大含有点とZr極大含有点との間隔は、0.005μm以上1μm以下であることが好ましく、0.03μm以上0.6μm以下であることがより好ましい。この間隔が0.005μm未満では、上記の原子組成範囲においてそれぞれの極大の含有量となる点(極大含有点)を明確に形成することが難しく、またその間隔が1μmを超える場合は、断熱性や耐摩耗性の不足する点が硬質酸化物被膜層内に局部的に現れることが多くなり、そのため切削工具の刃先の摩耗や、基材の塑性変形が進行しやすくなる場合がある。Al極大含有点とZr極大含有点との間隔は、後述のように厚み方向において一定でもよく、上記のような範囲を満たす範囲において互いに異なるように形成してもよい。なお、上記極大含有点は、厚み方向に幅を持って存在する場合も含み、このような場合には、厚み方向において原子比が一定である帯域の中心部を極大含有点とみなすものとする。
上記極大含有点におけるAlの含有量比率Al/(Al+Zr)は原子比で、0.9999<Al/(Al+Zr)≦1であり、好ましく0.99992以上である。Zrの含有量比率が下記範囲内であって、かつAlの含有量比率が0.9999以下の場合は、被膜の硬度が不十分となり、鋼や鋳鉄の切削時において耐摩耗性が不足して寿命が短くなる場合がある。
上記極大含有点におけるZrの含有量比率Zr/(Al+Zr)は原子比で、0.001≦Zr/(Al+Zr)≦0.2であり、好ましくは0.18以下であり、より好ましくは0.15以下である。また、Zrの含有量比率は好ましくは0.0012以上、より好ましくは0.0015以上である。Zrの含有量比率が0.2を超える場合は、Zrの含有量比が多くなり、被膜の化学的安定性に欠ける。Zrの含有量比率が0.001未満の場合は、本発明における被膜の断熱性が低下する。
上記極大含有点における原子比は、厚み方向において一定ではなく、上記範囲を満足するのであれば、たとえば厚み方向の隣接するZr極大含有点どうしの原子比は異なっていてもよい。
本発明において上記硬質酸化物被膜層には、酸化ジルコニウム(ZrO2)を含有しない。このように硬質酸化物被膜層中に酸化ジルコニウムを含有しない場合、鋼や鋳鉄の乾式高速切削において優れた耐摩耗性を示す。この理由は不明であるが、ZrO2は昇温していくと単斜晶から正方晶へ、正方晶から立方晶へと相変態し、特に1000〜1200℃の温度域において単斜晶から正方晶へと相変態する際に体積変化が生じることが知られており、硬質酸化物被膜層にZrO2を含む場合は、刃先温度が高くなる鋼や鋳鉄の乾式高速切削に用いた際にZrO2が上述の相変態に伴う体積変化により自壊してしまうことがあるが、本発明におけるZrO2を含まない硬質酸化物被膜層を備えたチップを用いた上記乾式高速切削において高い耐摩耗性を示すと推測される。
本発明において硬質酸化物被膜層に酸化ジルコニウム(ZrO2)を含有しないとは、XRD(X-ray diffraction)測定を行ない、Alの酸化物とZrO2とに関するX線の回折角度と回折強度のデータを収集して判断するものとする。具体的には、硬質酸化物被膜層の構成主体となっている「アルミニウムの酸化物の結晶構造において、JCPDS(Join Committee on Powder Diffraction Standards)カードにおける基準回折強度において、回折強度が高いものから順に並べた8つの面間隔における回折強度のうち、最も回折強度が低い面間隔の回折強度」と、「ジルコニウムの酸化物(ZrO2)のそれぞれ結晶構造において、JCPDSカードにおける面間隔d(Å)が、ZrO2単斜晶の場合:3.164Å、2.840Å、2.606Å(いずれも小数点以下四桁目は切り捨て)、またはZrO2正方晶の場合:2.950Å、1.810Å、1.535Å(いずれも小数点以下四桁目は切り捨て)の面間隔における回折強度のなかで、最も回折強度が高いものの回折強度」とを比べ、これらの「ジルコニウムの酸化物(ZrO2)に関する回折強度のいずれもが、前述のアルミニウムの酸化物に関する回折強度の一番小さいものより小さい場合」は、硬質酸化物被膜層はZrO2を含有しないとものとする。
すなわち、たとえば、アルミニウムの酸化物がα−Al23の場合、基準回折強度においてJCPSDカードにおける回折強度が高いものから順に並べた8つの面間隔d(Å)は、3.479Å、2.552Å、2.379Å、2.085Å、1.740Å、1.601Å、1.404Å、1.374Å(いずれも小数点以下四桁目は切り捨て)となる。これらの面間隔における回折強度のなかで最も回折強度が低いものと、ジルコニウムの酸化物(ZrO2)に起因する面間隔d(Å)が単斜晶の場合の3.164Å、2.840Åおよび2.606Åにおける回折強度、および正方晶の場合の2.950Å、1.810Åおよび1.535Å(いずれも小数点以下四桁目は切り捨て)における回折強度のなかで最も回折強度が高いものとを比べて、後者の回折強度が低い場合は、硬質酸化物被膜層にZrO2が含有されないと判断する。なお、上記α−Al23の面間隔は、JCPDSのNo.46-1212およびNo.010-0173(Huang,T.,Parrish,W.,Masciocchi,N.,Wang,P.,Adv.X-Ray Anal.,33,295.(1990)、Acta Crystallogr.,Sec.B:Structural Science.49,973,(1993))を基準とするものである。
また、たとえば、アルミニウムの酸化物がκ−Al23の場合、α−Al23の場合と同様、基準回折強度においてJCPSDカードにおける回折強度が高いものから順に並べた8つ面間隔d(Å)、3.040Å、2.790Å、2.570Å、2.320Å、2.110Å、1.640Å、1.430Å、1.390Å(いずれも小数点以下四桁目は切り捨て)における回折強度のなかで最も回折強度が低いものと、ジルコニウムの酸化物(ZrO2)に起因する面間隔d(Å)が単斜晶の場合の3.164Å、2.840Åおよび2.606Åにおける回折強度、および正方晶の場合の2.950Å、1.810Åおよび1.535Å(いずれも小数点以下四桁目は切り捨て)における回折強度のなかで最も回折強度が高いものとを比べて、後者の回折強度が低い場合は、硬質酸化物被膜層にZrO2が含有されないと判断する。なお、上記κ−Al23の面間隔は、JCPDSのNo.052-0803およびNo.004-0878(Halvarsson,M.,Langer,V.,Vuorinen,S.,Powder Diffraction,14,61,(1999)、Yourdshahyan,Y.,Ruberto,C.,Halvarsson,M.,Bengtsson,L.,Langer,V.,Lundqvist,B.,J.Am.Ceram.Soc.,82,1365.(1999)、Stumpf et al.,Ind.Eng.Chem.,42,1398,(1950))を基準とするものである。
上記硬質酸化物被膜層は、その厚みが0.05μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは、0.5μm以上20μm以下である。硬質酸化物被膜層の厚みが0.05μm未満の場合は、該硬質酸化物被膜層を設ける効果が十分得られない場合がある。
<被覆層X>
上記被膜は、周期律表IVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、または、周期律表IVa族、Va族およびVIa族の元素、AlおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素と硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選択される少なくとも1種とからなる化合物、からなる被覆層Xを含むことが好ましい。このような被覆層Xを設けることによって、耐摩耗性と靭性とのバランスをより高めることができる。被覆層Xを構成する元素または化合物が2種以上により構成される場合、その組み合わせは特に限定されるものではない。上記のような元素または化合物としては、たとえばCr、Ti、Al、Si、V、Zr、Hf、TiC、TiN、TiCN、TiNO、TiCNO、TiB2、TiO2、TiBN、TiBNO、TiCBN、ZrC、ZrO2、HfC、HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、Al23、AlN、AlCN、ZrN、TiZrN、TiZrCN、TiZrC、TiAlC、NbC、NbN、NbCN、Mo2C、WC、W2C等を挙げることができる。なお、本発明において上記のように化合物を化学式で表わす場合、原子比を特に限定しない場合は従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるものではない。たとえば単に「TiCN」と記す場合、「Ti」と「C」と「N」の原子比は50:25:25の場合のみに限られず、また「TiN」と記す場合も「Ti」と「N」の原子比は50:50の場合のみに限られない。これらの原子比としては従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする(以下の化学蒸着層、物理蒸着層、実施例等において同じ)。
上記被覆層Xの厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上30μm以下とすることが好ましい。被覆層Xの厚みが0.1μm未満では、前述のバランス改善の効果が現れない場合があり、30μmを超える場合は、耐摩耗性の大幅な改善は認められず、耐欠損性が劣化する場合がある。
上記被膜において、被覆層Xを形成する厚み方向の位置は特に限定されるものではなく、たとえば、上記硬質酸化物被膜層の上に形成した場合は、耐摩耗性、放熱性、耐溶着性、使用刃先の認識性等のうち少なくとも1の特性を改善することができ、上記硬質酸化物被膜層の下に形成した場合は、耐摩耗性と靭性とのバランスの改善や、これらの層間での密着力の改善を実現することができる。
また、上記被覆層Xは、1層または2層以上形成してもよく、複数層形成する場合は、少なくとも1層を、MT−CVD法により形成されたTiCN層とすることが好ましく、この場合、耐摩耗性と切削工具の刃先の強度のバランスを良好なものとすることができる。このTiCN層の組成比は特に限定されず、また、TiCN層中には、例えば、酸素、ケイ素、Zr、Hf、Al等その他の元素が含まれていてもよい。MT−CVD法としては、従来公知条件をいずれも採用することができるが、成膜の際、加熱による基材のダメージをより低減させるためには、800℃以上900℃以下で成膜することが好ましい。また、この場合、成膜に使用するガスは、ニトリル系のガス、特に、アセトニトリル(CH3CN)を用いた場合は量産性に優れるので好ましい。
<Al酸化物層>
上記被膜には、Al酸化物層を含むことが好ましく、このAl酸化物層は上記硬質酸化物被膜層の直下に形成されることが好ましい。Al酸化物層を含むことによって、被膜の密着力をより向上させることができる。この場合、硬質酸化物被膜層とAl酸化物層との境界において、Alの組成は、連続的に変化してもよいし、断続的や、不連続に変化するものであってもよく、いずれの態様であっても、Al酸化物層を含むことによる密着力の向上効果は発揮されるものである。
上記Al酸化物としては、α−アルミナ、κ−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、δ−アルミナ、η−アルミナ、χ−アルミナ、無定形アルミナなどや、これらAl酸化物のうちの2種以上が混在した状態が挙げられるが、化学的安定性の点からα−アルミナであることが好ましく、Al酸化層中にα−アルミナを質量比で50%以上含有することが好ましい。α−アルミナのより好ましい含有量は、60%以上であり、α−アルミナをこのような範囲で含有したAl酸化物層とすることにより、優れた耐摩耗性や化学的安定性を得ることができる。
Al酸化物層の厚みは、特に限定されないが、上記硬質酸化物被膜層の厚みd1と上記Al酸化物層の厚みd2とが、d1/(d1+d2)>0.05を満たすことが好ましい。0.1<d1/(d1+d2)<0.7を満たすことがより好ましい。d1/(d1+d2)が0.05以下の場合は、被膜全体に占めるZrの含有比率が小さくなるため、Zrを含むことによる効果が低下する場合がある。
上記Al酸化物層と上記硬質酸化物被膜層との合計膜厚d1+d2は、0.5μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.0μm以上、さらには1.5μm以上であることが好ましい。また、その上限が、18μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。d1+d2が0.5μm未満の場合は、耐摩耗性の改善が認められない場合があり、20μmを超える場合は、上記範囲内に比べて大きな耐摩耗性の改善は認められない傾向にあり、また、刃先の強度が低下する場合があるので、工業的に不利となる。
上記Al酸化物層は、被膜と基材である超硬合金との密着性や、切削工具の刃先の強度と耐摩耗性とのバランスを良好にできる点から、上記被覆層Xとともに形成されることが好ましい。ここで、上記被膜層とAl酸化層とは、相対的に耐酸化性に優れるが、上記被覆層Xをともに設ける場合には、これらの層間の密着性を高めるために、後述のTiBN層やTiBNO層を含むことが好ましい。
上記被膜がAl酸化物層を含む場合、TiBxy(x、yは原子%を表し、0.001<x/(x+y)<0.2を満たす)からなる層(TiBN層)をさらに含むことが好ましい。x/(x+y)は、0.002<x/(x+y)<0.15であることがより好ましい。このTiBN層は、Al酸化物層の直下に形成される層である。x/(x+y)が0.01以下の場合は、密着力を改善する効果が低く、0.2以上の場合は、被削材との反応性が高まり、溶着などによる摩耗が進行しやすくなることがある。なお、BとNが上記原子比率を満たす限り、TiとBNの存在比率は特に限定されるものではない。
また、上記被膜がAl酸化物層を含む場合、上記TiBN層の変わりに、TiBabc(a、bおよびcは原子%を表し、0.0005<a/(a+b+c)<0.2、かつ0<c/(a+b+c)<0.5を満たす)からなる層(TiBNO層)をさらに含むことが好ましい。このTiBNO層は、上記Al酸化物層の直下に形成される層である。a/(a+b+c)が0.0005以下の場合は、密着力を改善する効果が低く、0.2以上の場合は、被削材との反応性が高まり、溶着などによる摩耗が進行しやすくなることがある。酸素元素(O)が含まれることにより、被膜全体の硬度が高まるので、耐摩耗性をより改善することが可能であるが、c/(a+b+c)が0.5以上の場合は、被膜の硬度が低下し、切削時にこのTiBNO層が破壊の基点となる虞がある。なお、B、NおよびOが上記原子率比を満たす限り、TiとBNOとの存在比率は特に限定されるものではない。
<最下層>
上記被膜は、その最下層(基材直上層)として、チタン化合物を層全体の50質量%以上含有するチタン化合物層が形成されていることが好ましい。このようなチタン化合物を特定量含むチタン化合物層を最下層として設けることで、積層される被膜の密着力をより向上させることができる。
最下層を構成するチタン化合物としては、Tiと炭素、窒素、珪素および酸素の少なくともいずれかとの化合物であることが好ましく、TiNであることが好ましい。
<最表面層>
上記被膜は、耐溶着性を改善できる点からは、その最表面層が酸化物からなる層であることが好ましい。このような酸化物からなる層としては、上記Al酸化物を主体とする層や、Ti、Hf等の酸化物を主体とする層を用いることが好ましい。また、チップの使用状態(認識性、すなわち未使用であるか既使用であるか)を明確にするために、すくい面および逃げ面の少なくともいずれか一方を、明るい光沢のある層が表面層として残るように、上記表面被覆切削工具は、刃先稜線部を有する構造を有することが好ましく、該刃先稜線部において、上記硬質酸化物被膜層、Al酸化物層および被覆層Xの少なくともいずれかが露出し、刃先稜線部以外の部分を、硬質酸化物被膜層が露出した構成とすることが好ましい。
図4(a)は、ノーズR二等分線での断面図(ノーズRの頂角を二等分する線により分割される刃先の厚み方向の断面図)であり、本発明においては、刃先稜線部12が上記のように酸化物からなる層であることが好ましい。また、図4(a)に示す刃先稜線部の表面層部分10、11、13および14を構成する層は特に限定されないが、使用状態が確認できることがより好ましい態様である。上記露出とは、上記硬質酸化物被膜層またはAl酸化物層が露出する場合、刃先稜線部12における露出率がその表面積のたとえば50%以上である場合をいうものとする。なお、この露出率は、刃先稜線部12の表面の中心部分を含む領域であって、この領域の中心と刃先稜線部12の中心部とはほぼ同じ位置にある場合の値をいうものとする。刃先稜線部12における露出率は、表面積の80%以上であることがより望ましい。表面層部分11および13の露出率は、上記硬質酸化物層またはAl酸化物層が露出する場合、刃先稜線部12側からの表面領域が、各部分の表面積の50%以上であることが好ましいが、コーナーが識別できる限り特に限定されるものではない。また、表面層部分10および14の上記硬質酸化物層またはAl酸化物層の露出率は、各部分の表面積の50%以上であることが望ましく、80%以上であることがより好ましい。
また、刃先の耐微小チッピング性を高めるためには、刃先稜線部12における酸化物からなる層の層厚を薄くするか、図4(b)のノーズR二等分線での断面図に示すように酸化物からなる層の内層(刃先稜線部12c)を露出させることが効果的である。図4(b)においては、たとえば、基材上に被覆層Xが形成され、その上に硬質酸化物被膜層またはAl酸化物層が形成され、さらに任意の表面層が設けられた場合の刃先稜線部を示す。すなわち、図4(b)において、表面層部分10および14は任意の表面層、表面層部分11、12a、12bおよび13は硬質酸化物被膜層またはAl酸化物層を示す。刃先稜線部12cは、内層が5%以上露出することが好ましく、望ましくは10%以上内層が露出することにより、耐微小チッピング性を向上させることができる。また、刃先稜線部12aおよび12bにおいては、硬質酸化物被膜層、Al酸化物層または被覆層Xが50%以上露出することが好ましく、望ましくは80%以上である。また、表面層部分11および13は、図4(a)と同様、表面積の50%以上の露出が望ましいが、コーナーが識別できる限り特に限定されるものではない。
上記所望の層の露出は、たとえば、弾性砥石、バレル、ブラシ、ブラストなどを用いて加工すればよい。
上述のように刃先稜線部において、上記硬質酸化物被膜層、Al酸化物層および被覆層Xの少なくともいずれかが露出した状態とすることによって、刃先の稜線部における耐微小チッピング性を改善することができ、また、本発明の硬質酸化物被膜層を備えるので、チッピングにより引き起こされる被膜層の摩擦による破損を効果的に抑制することができる。その結果、切削工具全体として、耐摩耗性等を著しく改善することが可能となる。
<残留応力>
上記被膜は、被膜を形成する少なくとも1以上の層が圧縮残留応力を有するかまたは応力を有さない層とすることすることができ、これらの層が、上記硬質酸化物被膜層およびAl酸化物層の少なくともいずれかであることが好ましい。
上記のように、圧縮残留応力がある状態または応力を有さない状態とするためには、切削に寄与する部位の被膜を、弾性砥石、バレル、ブラシ、ブラストなどを用いて加工することにより、実現することができ、このような圧縮残留応力が導入された層または応力を有さない層は、層内に引張残留応力が存在している場合に比べて靭性が改善される。導入する圧縮残留応力は、特に限定されるものではないが、たとえば、0.0MPa以上5.0MPa以下の範囲で導入すれば、靭性の改善効果が良好となる。なお、本発明において上記残留応力は、X線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。
圧縮残留応力の導入、応力を有さない層の形成は、全ての層を形成し被膜を完成後に、該被膜に対して行なうことができる。この場合、上記本発明の効果が低減することはない。また、後述のように、表面層と特定の層とするために、表面処理により積層の一部を除去した場合においても、硬質酸化物被膜層が存在する限り、本発明の効果は発揮されるものである。
<その他の層など>
本発明における被膜は、上記のような硬質酸化物被膜層以外の他の層をさらに1以上含むことができる。そのような他の層の形成位置は特に限定されず、このような他の層を形成することにより、たとえば、密着力をさらに向上させ高度な耐摩耗性を付与するという本発明の効果がさらに向上したり、あるいは潤滑性を付与したり、被削材との凝着を抑制したりすることができるという効果を達成することもできる。
このような他の層を形成する化合物としては、例えばAlN、AlCN、TiN、TiCN、VN、ZrN等を挙げることができる。なお、このような他の層は、0.01μm以上10μm以下、好ましくは0.1μm以上5μm以下の厚みとすることが好ましい。
<製造方法>
本発明における被膜は、化学蒸着法(CVD法)および物理蒸着法(PVD法)のうち、基材との密着性や化学的安定性より、化学蒸着法により形成されるものである。
また、上記AlとZrの含有量がその層内で連続的に変化した組成構造を有する硬質酸化物被膜層は、たとえば、図1に示すようなCVD炉により製造することができる。図1は、CVD炉1の断面を模式的に示す図である。CVD炉1内には、基材2を保持した基材セット治具3を複数設置することができ、これらをステンレス鋼製の反応容器4でカバーしてヒータ5で加熱し、反応容器4内に原料ガスを流すことで被膜層形成を行なうことができる。反応容器4内の治具類等は、通常黒鉛により構成されている。また、原料ガス7,8は、排気口9より排気できる構成となっている。
本発明においては、反応容器4内に導入する原料ガスを、短時間または連続的に変化させるため、短時間で反応容器内のガス均一化を図ることが望ましい。図2に、基材セット治具3とその上に保持された基材2を模式的に示す。基材セット治具3は、図2に示すように貫通孔が開いているため反応容器4内のガス分散の均一化を促進している。原料ガスは、たとえば図1に示すような複数の通気口を有する導入ノズル8から導入する場合、該導入ノズル8は回転させることが望ましい。また、反応容器4内のガス循環を促進するため、基材2は基材セット治具3に対して図2のように横置きにするのが望ましい。なお、図2においては、このような基材の設置方法の一例として、12.7mm角、厚みが4.76mmであり、中央に穴が明いているJIS規格B−4120(1998) CNMA120408形状の基材2を設置した場合を模式的に示し説明している。基材2の被覆層Xの品質や厚みのバラツキを低減させるために、図2に示すように、刃先位置が貫通孔上となるように基材を並べるのが望ましい。また、基材セット治具3と基材2の間にはスペーサー等(図示せず)を用いることで両者を密着させないことが、基材の上面と下面の被覆層Xとのバラツキを低減できるため望ましい。また、種々の試験結果より、反応容器4内へ原料ガスを導入する際、図1に示すようにZrCl4ガスの導入口7とそれ以外の原料ガスの導入口8を分離した場合には、本発明の硬質酸化物被膜層を形成する際、上記範囲内にZr含有量を制御することが可能となる。すなわちAlに対して相対的にZrが少ない状況でより正確な被膜層中の組成制御が可能となるため望ましい。そして、導入口より導入されたZrCl4を拡散するためのZrCl4導入用治具6には、図3に示されるように同心円状に複数の孔が開いており、反応容器4内にガスが均一に導入される。
上記のようなCVD炉を用いて、たとえば反応容器内を750℃以上1100℃以下の範囲内の所定の温度に加熱し、原料ガスを反応容器内に流すことで成膜することができる。用いる原料ガスは、TiCl4、ZrCl4、AlCl3、N2、H2、CH3CN、CH4、CO、CO2、BCl3、H2S、Ar等で、CVD炉内の圧力は3kPa以上60kPa以下の範囲内の所定の圧力とすることが好ましい。本発明における硬質酸化物被膜層においては、厚み方向に沿って被膜層構成する元素等の組成を精密に制御するため、導入ガス種、導入量と導入時間はコンピュターやシーケンサー等を用いて自動制御することが望ましい。
以上のようにして、AlおよびZrの含有量が規定された本発明の硬質酸化物被膜層を形成することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の各被膜を構成する各層の化学組成(化合物の組成)はX線マイクロアナライザ(EPMA)により確認し、各層の厚みは被膜の断面をSEMまたは金属顕微鏡を用いて観察し、確認した。
本実施例において基材上に形成される被膜は、以下のようにCVD法、MT(Moderate Temperature)−CVD法、またはHT(High Temperature)−CVD法により形成した。
(実施例1〜11:構造)
4.0質量%TiCN、1.2質量%TaC、0.6質量%NbC、0.3質量%ZrC、0.2質量%Cr32、8.0質量%Coと残部がWCである組成比で配合した原料粉末をボールミルで48時間湿式混合した後、乾燥させ、その後100MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を2Paの真空中において、1430℃で1時間保持した。その後、圧粉体を取り出し、座面を平研した後、刃先処理(SiCブラシですくい面から見て0.06mmのホーニング)を行ない、JIS規格、B−4120(1998)に規定されているCNMA120408形状のWC超硬合金製切削チップ基材を準備した。基材を厚み方向に切断した面を、ダイヤモンドペーストを用いてラッピングして金属顕微鏡で観測し、この基材の表面には15μmの脱β層が形成されていることを確認した。
次に、上記作製した基材の表面に公知の化学蒸着法を用いて、表1に示した被膜組成に従い、被膜を形成した。
Figure 0005157014
被膜の組成は、表1の「被膜層構造」の欄の左側に記載された層を最下層として順に上に積層させるよう形成した。また、表1の「被膜層構造」の欄の括弧内の記載は各層の厚み(μm)を示し、硬質酸化物被膜層A1〜A3は下記表2に示す組成構造のものである。
なお、EPMAの測定結果から、表1の実施例4におけるα−Al23(2.5)中には、0.11原子%のZr元素が含まれていることを確認した。また、上記実施例の各被膜に対して、公知のXRD(X-ray diffraction)測定を行ない、硬質酸化物被膜層におけるZrO2の存否を確認した。具体的には、α−Al23またはκ−Al23に関するそれぞれ8つのピークと、ZrO2に関する単斜晶と正方晶との6つのピークとの回折強度を比較して、いずれの場合もα−Al23またはκ−Al23に関する8つのピークの回折強度の最小値よりも、ZrO2に関する6つのピークの回折強度の全てが小さかった。その結果、実施例1〜11の硬質酸化物被膜層にはZrO2が含まれないことがわかった。
Figure 0005157014
Figure 0005157014
表2において、Zr/(Al+Zr)は所定間隔におけるZr極大含有点を示し、Al/(Al+Zr)は所定間隔におけるAl極大含有点を示す。Al/(Al+Zr)が「>0.9999」とは、EPMAにて測定したZrの含有比率が0.0001以下であったことを示す。また、dZr-Alは、隣接するZr極大含有点とAl極大含有点との間隔を示す。なお、この極大含有点に関する表記は、以下の表において同様とする。
表2の硬質酸化物被膜層A1〜A3は、表3に示す成膜条件「A−Zr」で5分間保持した後、成膜条件「A−Al」で5分間保持する各条件を交互に繰り返して形成した。A1は、各条件を15回ずつ交互に繰り返し、A2は40回ずつ交互に繰り返し、A3は130回ずつ交互に繰り返して、所定の膜厚を有する硬質酸化物被膜層を形成させた。
(切削評価)
上記のようにして製造された実施例1〜11の表面被覆切削工具について、以下の切削条件により連続旋削試験を実施することにより、逃げ面摩耗量を測定した。逃げ面摩耗量が小さいもの程耐摩耗性に優れていることを示す。その結果を以下の表4に示す。
(鋼の耐摩耗性試験:切削条件)
被削材:SCM435丸棒
切削速度:380m/min
送り:0.33mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:無し
切削時間:6分
(鋳鉄の耐摩耗性試験:切削条件)
被削材:FCD450丸棒
切削速度:330m/min
送り:0.34mm/rev.
切込み:1.5mm
切削油:無し
切削時間:10分
(靭性試験:切削条件)
下記切削条件で切削により20コーナーを切削して破損率を算出し、得られた表面被覆切削工具の靭性を評価した。
被削材:S55C溝入り丸棒
切削速度:95m/min
送り:0.46mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:無し
切削時間:0.5分
Figure 0005157014
(実施例12〜21、比較例1〜3:組成)
被膜の構成を表5とし、各硬質酸化物被膜層Xを表6に示すものを用いた以外は実施例1と同様にして、表面被覆切削工具を得た。
Figure 0005157014
Figure 0005157014
被膜の組成は、表5の「被膜層構造」の欄の左側に記載された層を最下層として順に上に積層させるよう形成した。また、表5の「被膜層構造」の欄の括弧内の記載は、各層の厚み(μm)を示す。なお、表6に記載の各被膜に対して、公知のXRD(X-ray diffraction)測定を行ない、硬質酸化物被膜層におけるZrO2の存否を確認した。具体的には、α−Al23またはκ−Al23に関するそれぞれ8つのピークと、ZrO2に関する単斜晶と正方晶との6つのピークとの回折強度を比較して、いずれの場合もα−Al23またはκ−Al23に関する8つのピークの回折強度の最小値よりも、ZrO2に関する6つのピークの回折強度の全てが小さかった。その結果、硬質酸化物被膜層B〜NにはZrO2が含まれないことがわかった。
実施例12〜21、比較例1〜3で得られた表面被覆切削工具について、上記切削評価を行なった。その結果を表6に示す。
表6の硬質酸化物被膜層B〜Dは、表7に示す成膜条件「X−Zr」で6分間保持した後、成膜条件「X−Al」で6分間保持する各条件を交互に9回繰り返して、所定の膜厚を有する被膜を形成させた。なお、上記成膜条件におけるXは、各硬質酸化物被膜層におけるXと同一とする。また、硬質酸化物被膜層E〜Nは、表7に示す成膜条件「X−Zr」で4分間保持した後、「X−Al」で4分間保持する各条件を交互に9回繰り返して、所定の膜厚を有する被膜を形成させた。
Figure 0005157014
(実施例22〜30、比較例4〜5:周期)
被膜の構成を表8とし、各硬質酸化物被膜層Xを表9に示すものを用いた以外は実施例1と同様にして、表面被覆切削工具を得た。
Figure 0005157014
Figure 0005157014
被膜の組成は、表8の「被膜層構造」の欄の左側に記載された層を最下層として順に上に積層させるよう形成した。また、表8の「被膜層構造」の欄の括弧内の記載は、各層の厚み(μm)を示す。なお、表9に記載の各被膜に対して、公知のXRD(X-ray diffraction)測定を行ない、硬質酸化物被膜層におけるZrO2の存否を確認した。具体的には、α−Al23またはκ−Al23に関するそれぞれ8つのピークと、ZrO2に関する単斜晶と正方晶との6つのピークとの回折強度を比較して、いずれの場合もα−Al23またはκ−Al23に関する8つのピークの回折強度の最小値よりも、ZrO2に関する6つのピークの回折強度の全てが小さかった。その結果、硬質酸化物被膜層O〜T6にはZrO2が含まれないことがわかった。
表9において、各硬質酸化物被膜層O〜Sは下記の条件で形成させた。
硬質酸化物被膜層O:成膜条件「C−Zr」で15秒間保持した後、成膜条件「C−Al」で15秒間保持する工程を500回繰り返す。
硬質酸化物被膜層P:成膜条件「C−Zr」で20秒間保持した後、成膜条件「C−Al」で20秒間保持する工程を350回繰り返す。
硬質酸化物被膜層Q:成膜条件「C−Zr」で80秒間保持した後、成膜条件「C−Al」で80秒間保持する工程を90回繰り返す。
硬質酸化物被膜層R:成膜条件「C−Zr」で25分間保持した後、成膜条件「C−Al」で25分間保持する工程を5回繰り返す。
硬質酸化物被膜層S:成膜条件「C−Zr」で60分間保持した後、成膜条件「C−Al」で60分間保持する工程を2回繰り返す。
また、硬質酸化物被膜層T1〜T6は下記の条件で形成させた。なお、実施例29の硬質酸化物被膜層T5におけるZrとAlの極大含有点間の距離dZr-Al「0.12−0.25」とは、下記成膜条件によって、0.12μmと0.25μmの間の値であることを示す。また、実施例30の硬質酸化物被膜層T6におけるZrの極大含有点の比率は、下記成膜条件によって0.045と0.013の間の値としたことを示す。
硬質酸化物被膜層T1:成膜条件「E−Zr」で4分間保持した後、成膜条件「E−Zr」から成膜条件「E−Al」へ10分間かけて連続的にガス混合比率を変化させ、その後10分間かけて連続的にガス混合比率を成膜条件「E−Al」から成膜条件「E−Zr」に変化させることを8回繰り返し、最後に成膜条件「E−Zr」で4分間保持する。なお、T1におけるガス混合比率を変化させる工程は、例えばZrCl4ガスであれば、表7に示す0.90体積%から0体積%まで10分間かけて、すなわち0.09体積%/分の速度で混合ガス比率を変化させた後、0体積%から0.90体積%まで0.09体積%/分の速度で混合ガス比率を変化させることを9回繰り返した。他の原料ガスについても同様とする。
硬質酸化物被膜層T2:成膜条件「E−Zr」で10分間保持した後、10分間水素ガスのみを流し(水素ガス体積分率100%)し、その後成膜条件「E−Al」で10分間保持した後、10分間水素ガスのみを流し(水素ガス体積分率100%)と変化させることを8回繰り返す。Zr極大含有点とAl極大含有点との間隔について、Alおよび/またはZrの濃度分析値がほぼ一定(具体的には分析値の±1%以内)の帯域がある場合は、中心点をその帯域の極大含有点とみなした。
硬質酸化物被膜層T3:成膜条件「E−Zr」で4分間保持する。その後、成膜条件「E−Zr」から成膜条件「E−Al」へ5分間かけて連続的にガス混合比率を変化させ、その後成膜条件「E−Al」で5分間保持し、再び5分間かけて連続的にガス混合比率を成膜条件「E−Al」から成膜条件「E−Zr」に変化させ、その後成膜条件「E−Zr」で5分間保持する工程を8回繰り返した。次いで、成膜条件「E−Zr」で4分間保持し、硬質酸化物被膜層を形成した。Zr極大含有点とAl極大含有点との間隔については、Alおよび/またはZrの濃度分析値がほぼ一定(具体的には分析値の±1%以内)の帯域がある場合は、中心点をその帯域の極大含有点とみなした。なお、連続的なガス比率の変化はT1と同様にガス供給時間に比例して変化させる方法とした。
硬質酸化物被膜層T4:成膜条件「E−Zr」で5分間保持した後に、成膜条件「E−Al」で5分間保持する工程を4回繰り返した。その後、成膜条件「E−Zr」で10分間保持した後、成膜条件「E−Al」で10分間保持する工程を6回繰り返した。次いで、成膜条件「E−Zr」で5分間保持した後、成膜条件「E−Al」で5分間保持する工程を4回繰り返した。
硬質酸化物被膜層T5:成膜条件「E−Zr」で10分間保持した後、成膜条件「E−Al」で10分間保持する工程を2回繰り返した。その後、成膜条件「K−Zr」で10分間保持した後、成膜条件「K−Al」で10分間保持する工程を4回繰り返した。次いで、成膜条件「E−Zr」で10分間保持した後、成膜条件「E−Al」で10分間保持する工程を2回繰り返した。
硬質酸化物被膜層T6:成膜条件「E−Zr」で5分間保持した後、「E−Al」で5分間保持する工程を4回繰り返した。その後、成膜条件「K−Zr」で10分間保持した後、成膜条件「K−Al」で10分間保持する工程を6回繰り返した。次いで、成膜条件「E−Zr」で5分間保持した後、成膜条件「E−Al」で5分間保持する工程を4回繰り返した。
実施例22〜30、比較例4〜5で得られた表面被覆切削工具について、上記切削評価を行なった。その結果を表9に示す。
(実施例31〜35:厚み)
被膜の構成を表10とし、各硬質酸化物被膜層Xを表11に示すものを用いた以外は実施例1と同様にして、表面被覆切削工具を得た。
Figure 0005157014
Figure 0005157014
被膜の組成は、表10の「被膜層構造」の欄の左側に記載された層を最下層として順に上に積層させるよう形成した。また、表10の「被膜層構造」の欄の括弧内の記載は、各層の厚み(μm)を示す。なお、表11に記載の各被膜に対して、公知のXRD(X-ray diffraction)測定を行ない、硬質酸化物被膜層におけるZrO2の存否を確認した。具体的には、α−Al23またはκ−Al23に関するそれぞれ8つのピークと、ZrO2に関する単斜晶と正方晶との6つのピークとの回折強度を比較して、いずれの場合もα−Al23またはκ−Al23に関する8つのピークの回折強度の最小値よりも、ZrO2に関する6つのピークの回折強度の全てが小さかった。その結果、硬質酸化物被膜層U1〜U5にはZrO2が含まれないことがわかった。
表11において、各硬質酸化物被膜層は下記の条件で形成させた。
硬質酸化物被膜層U1:成膜条件「A−Zr」で5分間保持した後、成膜条件「A−Al」で5分間保持する工程を5回繰り返した。
硬質酸化物被膜層U2:成膜条件「A−Zr」で5分間保持した後、成膜条件「A−Al」で5分間保持する工程を7回繰り返した。
硬質酸化物被膜層U3:成膜条件「A−Zr」で10分間保持した後、成膜条件「A−Al」で10分間保持する工程を15回繰り返す。
硬質酸化物被膜層U4:成膜条件「A−Zr」で13分間保持した後、成膜条件「A−Al」で13分間保持する工程を18回繰り返す。
硬質酸化物被膜層U5:成膜条件「C−Zr」で30秒間保持した後、成膜条件「C−Al」で30秒間保持する工程を2回繰り返した。
実施例31〜35で得られた表面被覆切削工具について、上記切削評価を行なった。その結果を表11に示す。
(実施例36〜45:TiBN層、TiBNO層の組成)
被膜の構成を表12とし、上記硬質酸化物被膜層B、A1を用いた以外は実施例1と同様にして、表面被覆切削工具を得た。
Figure 0005157014
被膜の組成は、表12の「被膜層構造」の欄の左側に記載された層を最下層として順に上に積層させるよう形成した。また、表12の「被膜層構造」の欄の括弧内の記載は、各層の厚み(μm)を示す。
実施例36〜45で得られた表面被覆切削工具について、上記切削評価を行なった。その結果を表12に示す。
(比較例6〜11)
被膜の構成を表13とした以外は実施例1と同様にして、表面被覆切削工具を得た。
Figure 0005157014
被膜の組成は、表13の「被膜層構造」の欄の左側に記載された層を最下層として順に上に積層させるよう形成した。また、表13の「被膜層構造」の欄の括弧内の記載は、各層の厚み(μm)を示す。比較例6〜11で得られた表面被覆切削工具について、上記切削評価を行なった。その結果を表14に示す。
Figure 0005157014
(内層露出1)
実施例2、6、12および比較例7、9、10で得られた表面被覆切削工具について、それぞれ表15または表16に示すように、#320SiCブラシ、振動バレル機または#320弾性砥石を用いて刃先稜線部の被覆層除去処理を行ない、表15または表16に記載した各部位の構成を有するチップを準備した。
Figure 0005157014
Figure 0005157014
表15および表16において、たとえば表面層部位11の欄の「0.02mmTiN除去」とは、表面層部位11が、刃先稜線部12との境界線部分(図4(a)中破線部)から表面層部位10方向に、最大0.02mmの幅でTiNが除去されたことを示す。なお、この「最大0.02mm」とは、種々の断面における表面層部位11の表面状態を観測したなかで除去された幅の最も広い値をいい、実際に種々の断面において除去された表面層部位11の幅は0−0.02mmの範囲である。同様に、表面層部位13の欄の「0.03mmTiN除去」とは、表面層部位13が、刃先稜線部12との境界線部分(図4(a)中破線部)から表面層部位14方向に、最大0.03mmの幅で除去されたことを示す。また、たとえば表面層部12の欄の「TiCNが10%露出」とは、切削工具の切れ刃部におけるノーズRの二等分線を中心とした刃先稜線部表面に沿った単位長さ(0.2mm)に占めるTiCNの露出面積が10%以上であることを示す。なお、この露出は、電子顕微鏡の反射電子像や、光学顕微鏡や、ビデオマイクロスコープなどを用いて観測することにより決定できる。表15および表16に示す実施例からは、本発明のように厚み方向に組成が変化する構造を有する硬質酸化物被膜層を備えた表面被覆切削工具は、刃先稜線部における酸化物層が除去された場合、耐微小チッピング性の改善効果が大きく、その結果、耐摩耗性および靭性が改善されていることが判る。
表15および表16において、たとえば実施例2と実施例2ウと、比較例7と比較例7アとの破損率のデータを比べると、比較例7アでは、TiCNを露出させても破損率はほとんど向上しないが、実施例2においてTiCNを露出させた実施例2ウの場合は、破損率が飛躍的に向上することがわかった。また、実施例2と比較例9、比較例10とをそれぞれ比較した場合も、同様に実施例2においてTiCNを露出させた場合の破損率の向上効果が示される。この理由は明確ではないが、被膜として本発明の硬質酸化物被膜層を含む場合は、各層同士の継ぎ目における破壊が起こりにくくなるためではないかと推察される。
(内層露出2)
実施例2、6、12および比較例7、9、10で得られた表面被覆切削工具について、砥粒50μmのアルミナ、吐出圧0.1MPa湿式ブラスト処理を行ない、被膜を表17に記載したように内層を露出させて、圧縮残留応力等を導入した。圧縮残留応力は、X線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定した。
Figure 0005157014
表17中の表面層部位11〜13は、図4(a)に示すノーズR二等分線の断面図の各部位に対応する。また、これらの処理を行なった切削工具について、実施例1と同様の切削試験を行なった。結果を表17に示す。なお、図4(a)の刃先稜線部12に対応する実際の切削工具の刃先稜線部は、内接円が12.7mm、ノーズRが0.8mmである。また、切削試験開始後1分で、各切削工具の切れ刃と被削材の加工面の光沢を目視により確認したところ、表17中の2に比べて、2aおよび2bは切れ刃の溶着が少なく、被削材の加工面の光沢が優れていた。また、表17中の6に比べて、6aおよび6bの評価がよく、表17中の12に比べて、12a〜12fの切れ刃と被削材の加工面の光沢が優れていた。
(内層露出3)
上記表15または表16の実施例2ア〜2エ、実施例6ア〜6エ、実施例12ア〜12サで得られた表面被覆切削工具について、上記(内層露出2)の方法を用いてブラスト処理を行ない、−0.1〜−0.2MPaの圧縮応力を導入したところ、それぞれに試験の耐摩耗性の改善即ち逃げ面摩耗量は0.001〜0.002mm減少したのに対し、靭性の改善即ち破損率はいずれも5〜15%低下した。
(実施例46〜49、比較例12〜15:基材)
基材として、表18に示す各配合組成のものを用いた以外は、実施例1と同様の手順により表面被覆切削工具を製造した。基材および被膜層の組み合わせを表19に示す。なお、被膜層としては、表1および表6に示す実施例と、表13に示す比較例とのものを適用した。
得られた表面被覆切削工具について、下記条件で切削評価を行なった。結果を表19に示す。
(鋼の耐摩耗性試験:切削条件)
被削材:SCM415丸棒
切削速度:380m/min
送り:0.36mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:無し
切削時間:7分
(鋳鉄の耐摩耗性試験:切削条件)
被削材:FCD450丸棒
切削速度:320m/min
送り:0.30mm/rev.
切込み:1.0mm
切削油:無し
切削時間:15分
(靭性試験:切削条件)
下記切削条件で切削により20コーナーを切削して破損率を算出し、得られた表面被覆切削工具の靭性を評価した。
被削材:SCM435溝入り丸棒
切削速度:90m/min
送り:0.46mm/rev.
切込み:2.5mm
切削油:無し
切削時間:0.5分
Figure 0005157014
Figure 0005157014
(実施例50〜53、比較例16〜19)
基材として、表20に示す各配合組成のものを用いた以外は、実施例1と同様の手順により表面被覆切削工具を製造した。基材および被膜層の組み合わせを表21に示す。なお、被膜層としては、表1または表6に示す実施例および表13に示す比較例のものを適用した。また、得られた表面被覆切削工具について、下記条件で切削評価を行なった。結果を表21に示す。
(鋼の耐摩耗性試験:切削条件)
被削材:S35C丸棒
切削速度:280m/min
送り:0.34mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:無し
切削時間:6分
(鋳鉄の耐摩耗性試験:切削条件)
被削材:FC200丸棒
切削速度:450m/min
送り:0.42mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:無し
切削時間:20分
(靭性試験:切削条件)
下記切削条件で切削により20コーナーを切削して破損率を算出し、得られた表面被覆切削工具の靭性を評価した。
被削材:SCM435溝入り丸棒
切削速度:100m/min
送り:0.44mm/rev.
切込み:2.5mm
切削油:無し
切削時間:0.5分
Figure 0005157014
Figure 0005157014
なお、各実施例および比較例における硬質酸化物被膜層以外の層は、下記表22の成膜条件にしたがい、所望の厚みの被膜を形成したところで、混合ガスの供給を停止した。表22中、H2ガスの「残」とは、体積100%のうちの残部であることを示す。また、TiN(最下層)とは、被膜の最下層をTiN層とする場合の形成条件を示し、被膜の最下層以外に位置するTiN層を形成する場合は、「TiN」に記載した条件で被膜を形成した。表20中の、α−Al23(*)は、実施例4のα−Al23の場合の形成条件を示す。
Figure 0005157014
上記実施例より明らかなように、本発明の実施例の表面被覆切削工具は、高速条件下での切削における耐摩耗性の向上において優れた結果を示していることは明らかである。したがって、本発明の表面被覆切削工具は優れた切削性能を有するものである。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
CVD炉の断面を示す模式図である。 基材および基材セット治具を示す模式図である。 ZrCl4導入用治具を示す模式図である。 (a)切削工具のノーズRの二等分線の断面を示す模式図であり、(b)内層が露出した状態の切削工具のノーズRの二等分線の断面を示す模式図である。
符号の説明
1 CVD反応炉、2 基材、3 基材セット治具、4 反応容器、5 ヒータ、6 ZrCl4導入用治具、7,8 原料ガス、9 排気口、10,11,13,14 表面層部位、12 刃先稜線部。

Claims (17)

  1. 基材と該基材上に形成された被膜とを備える表面被覆切削工具であって、
    前記被膜は、1層または2層以上の層からなり、化学蒸着法により形成され、
    前記被膜のうち少なくとも1層は、AlとZrとを少なくとも含む硬質酸化物被膜層であり、
    前記硬質酸化物被膜層は、AlとZrの含有量が前記硬質酸化物被膜層の厚み方向に沿って変化する組成構造を有し、前記変化は、Alの含有量が極大となるAl極大含有点とZrの含有量が極大となるZr極大含有点とを含み、前記Al極大含有点と前記Zr極大含有点とが繰り返し存在し、
    前記Al極大含有点におけるAlの含有量比率Al/(Al+Zr)は、原子比で0.9999<Al/(Al+Zr)≦1であり、
    前記Zr極大含有点におけるZrの含有量比率Zr/(Al+Zr)は、原子比で0.001≦Zr/(Al+Zr)≦0.2であり、
    前記硬質酸化物被膜層は酸化ジルコニウムを含有しない表面被覆切削工具。
  2. 前記硬質酸化物被膜層は、その厚みが0.05μm以上20μm以下である請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. 隣接する前記Al極大含有点と前記Zr極大含有点とが交互に繰り返し存在し、その間隔は0.005μm以上1μm以下である請求項1または2に記載の表面被覆切削工具。
  4. 前記被膜は、周期律表IVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群より選択される少なくとも1種の元素、または、該元素と硼素、炭素、窒素および酸素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物、からなる被覆層Xを含む請求項1〜3のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  5. 前記被膜は、Al酸化物層をさらに含み、
    前記Al酸化物層は、Al酸化物を含む層であり、前記硬質酸化物被膜層の直下に形成される請求項1〜4のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  6. 前記被膜は、TiBxy(x、yは原子%を表し、0.001<x/(x+y)<0.2を満たす)からなるTiBN層をさらに含み、
    前記TiBN層は、前記Al酸化物層の直下に形成される請求項5に記載の表面被覆切削工具。
  7. 前記被膜は、TiBabc(a、bおよびcは原子%を表し、0.0005<a/(
    a+b+c)<0.2、かつ0<c/(a+b+c)<0.5を満たす)からなるTiBNO層をさらに含み、
    前記TiBNO層は、前記Al酸化物層の直下に形成される請求項5に記載の表面被覆切削工具。
  8. 前記Al酸化物は、α−アルミナである請求項5〜7のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  9. 前記硬質酸化物被膜層の厚みd1と前記Al酸化物層の厚みd2とは、d1/(d1+d2
    )>0.05を満たす請求項5〜8のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  10. 前記硬質酸化物被膜層と前記Al酸化物層とは、その合計厚みが0.5μm以上20μm以下である請求項5〜9のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  11. 前記表面被覆切削工具は、刃先稜線部を有し、
    前記刃先稜線部において、前記硬質酸化物被膜層、前記Al酸化物層および前記被覆層Xの少なくともいずれかが露出し、
    前記刃先稜線部以外の部分は、前記硬質酸化物被膜層が露出する請求項3〜10のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  12. 前記被膜は、この被膜を形成する少なくとも1以上の層が圧縮残留応力を有するか、または応力を有さない層である請求項1〜11のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  13. 前記圧縮残留応力を有するかまたは応力を有さない層は、前記硬質酸化物被膜層および前記Al酸化物層の少なくともいずれかである請求項12に記載の表面被覆切削工具。
  14. 前記被覆層Xは、1層以上形成され、少なくとも1層は、MT−CVD法により形成されたTiCNを含有する層である請求項4〜13のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  15. 前記被膜は、その最下層としてチタン化合物を含有するチタン化合物層が形成される請求項1〜14のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  16. 前記被膜は、その厚みが1μm以上25μm以下である請求項1〜15のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
  17. 前記基材は、超硬合金、サーメット、酸化アルミニウム系セラミックス、および窒化珪素系セラミックスの少なくともいずれかである請求項1〜16のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
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