JP2007111838A - 刃先交換型切削チップ - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、耐摩耗性と靭性とを高度に両立させた刃先交換型切削チップを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の刃先交換型切削チップは、基材と被覆層を有し、該被覆層は内層と外層を含み、該外層は元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、またはこの金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより形成される化合物によって構成され、かつ切削に関与する部位において、逃げ面側における平均厚みをAμm、すくい面側における平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることを特徴とする。
【選択図】図2

Description

本発明は、刃先交換型切削チップ(スローアウェイチップと呼ぶこともある)に関する。
従来より、着脱自在に工具に取り付けて被削材を切削加工する刃先交換型切削チップが知られている。このような刃先交換型切削チップは、耐摩耗性や靭性を向上させることを目的として、超硬合金やサーメットからなる基材上にセラミックス等の硬質被膜を形成する構成のものが多数提案されている。
そして、このような構成の刃先交換型切削チップにおいては、硬質被膜の組成を変更したり、硬質被膜の厚みを逃げ面上とすくい面上とで変更させたりすることにより諸特性を向上させる試みが種々なされている(特許文献1〜4)。
また、上記のような硬質被膜の最外層として下層とは異なった色を有する層を形成し、この最外層の変色状態により刃先交換型切削チップの使用状態を判別しようとする試みがなされている(特許文献5)。
しかし、昨今のように高速切削をはじめとする高効率切削に対する要求が高まる中、このような高効率切削に必要とされる耐摩耗性と靭性とを高度に両立させた刃先交換型切削チップは未だ開発されていない現状にある。
特開2001−347403号公報 特開2004−122263号公報 特開2004−122264号公報 特開2004−216488号公報 特開2002−144108号公報
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、耐摩耗性と靭性とを高度に両立させた刃先交換型切削チップを提供することにある。特に、被削材の切り屑の温度が高くなるとともにすくい面側の耐摩耗性(耐クレーター摩耗性)が必要とされる鋼の高速切削に有効な刃先交換型切削チップを提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために、切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を鋭意研究したところ、図1に示したように刃先交換型切削チップ1の刃先稜線4の周辺部が被削材5に接し、逃げ面3が被削材5と対面するのに対してそのすくい面2が切り屑6側に位置する切削状況において、被覆層の厚みが薄くなる程靭性の向上には有利となること、および逆に耐摩耗性を向上させるためには被覆層の厚みを厚くする方が有利となること、という相反する特性が要求されることが明らかとなり、さらに研究を進めたところ前記前者の特性はとりわけ逃げ面で顕著になること、および前記後者の特性はすくい面で顕著になることが明らかとなった。本発明は、これらの知見に基づきさらに研究を重ねることによりついに完成させるに至ったものである。
すなわち、本発明は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを有する刃先交換型切削チップであって、該基材は、少なくとも1つの逃げ面と少なくとも1つのすくい面とを有し、該逃げ面と該すくい面とは、刃先稜線を挟んで繋がり、上記被覆層は、1以上の層からなる内層とその内層上に形成された外層とを含み、この外層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属によって構成されるか、または少なくとも1種の上記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより形成される化合物によって構成され、かつこの外層は、切削に関与する部位において、上記逃げ面側における平均厚みをAμm、上記すくい面側における平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることを特徴とする刃先交換型切削チップに係る。
ここで、上記外層は、切削に関与する部位において、上記逃げ面側における表面粗さRaをSμm、上記すくい面側における表面粗さRaをTμmとした場合に、S/T≦0.95となることが好ましい。
また、本発明は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを有する刃先交換型切削チップであって、該基材は、少なくとも2つの逃げ面と、少なくとも1つのすくい面と、少なくとも1つのコーナーとを有し、該逃げ面と該すくい面とは、刃先稜線を挟んで繋がり、上記コーナーは、2つの上記逃げ面と1つの上記すくい面とが交差する交点であり、上記被覆層は、1以上の層からなる内層とその内層上に形成された外層とを含み、この外層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属によって構成されるか、または少なくとも1種の上記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより形成される化合物によって構成され、かつ切削に関与する上記コーナーを通り、そのコーナーを構成する2つの上記逃げ面がなす角度を上記すくい面上において2等分し、かつ上記すくい面から上記2つの逃げ面が交差する稜へと繋がる直線上において、この外層は、上記コーナーから上記逃げ面側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域における平均厚みをAμm、上記コーナーから上記すくい面側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域における平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることを特徴とする刃先交換型切削チップに係る。
上記外層は、上記直線上において、上記コーナーから上記逃げ面側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域における表面粗さRaをSμm、上記コーナーから上記すくい面側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域における表面粗さRaをTμmとした場合に、S/T≦0.95となることが好ましい。
また、本発明は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを有する刃先交換型切削チップであって、該基材は、少なくとも1つの逃げ面と少なくとも1つのすくい面とを有し、該逃げ面と該すくい面とは、刃先稜線を挟んで繋がり、上記被覆層は、1以上の層からなる内層とその内層上に形成された外層とを含み、この外層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属によって構成されるか、または少なくとも1種の上記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより形成される化合物によって構成され、上記内層は、上記刃先稜線から上記逃げ面側に0.4mm未満の距離を有して広がった領域と、上記刃先稜線から上記すくい面側に2mm未満の距離を有して広がった領域とにおいて露出しており、その露出部における内層の表面がアルミナ層またはアルミナを含む層で構成され、上記外層は、上記内層の露出部から逃げ面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域における平均厚みをAμmとし、上記内層の露出部からすくい面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域における平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることを特徴とする刃先交換型切削チップに係る。
上記外層は、上記内層の露出部から逃げ面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域における表面粗さRaをSμmとし、上記内層の露出部からすくい面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域における表面粗さRaをTμmとした場合に、S/T≦0.95となることが好ましい。
また、上記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体のいずれかにより構成されることができる。
また、上記刃先交換型切削チップは、ドリル加工用、エンドミル加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップ加工用、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用のいずれかのものとすることができる。
本発明の刃先交換型切削チップは、上述の通りの構成を有することから、耐摩耗性と靭性とを高度に両立させることに成功したものであり、特に、被削材の切り屑の温度が高くなるとともにすくい面側の耐摩耗性(耐クレーター摩耗性)が必要とされる鋼の高速切削に極めて有効な性能を示す。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。また、各図面はあくまでも説明用の模式的なものであって、被覆層の膜厚と基材とのサイズ比やコーナーのアール(R)のサイズ比は実際のものとは異なっている。
<刃先交換型切削チップ>
本発明の刃先交換型切削チップは、基材と、該基材上に形成された被覆層とを有するものである。そして、本発明の刃先交換型切削チップは、ドリル加工用、エンドミル加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップ加工用およびクランクシャフトのピンミーリング加工用のものとして特に有用である。
なお、本発明は、ネガティブタイプまたはポジティブタイプのいずれの刃先交換型切削チップに対しても有効であり、またチップブレーカが形成されているものおよびそれが形成されていないものの両者いずれに対しても有効である。
<基材>
本発明の基材を構成する材料としては、このような刃先交換型切削チップの基材として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができ、たとえば超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭化物、窒化物、炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体等を挙げることができる。
また、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていても良く、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
また、基材の形状は、このような刃先交換型切削チップの基材の形状として知られる従来公知のものを特に限定なく採用することができる。たとえば、基材表面に平行な断面形状で表せば、菱形、正方形、三角形、円形、楕円形等の形状のものが含まれる。
そして、このような基材8は、たとえば図2に示すように少なくとも1つの逃げ面3と少なくとも1つのすくい面2とを有する構造を備えたものであり、この逃げ面3とすくい面2とは刃先稜線4を挟んで繋がり、この刃先稜線4が被削材に対する切削作用の中心的作用点となる。より好ましくは、このような基材8は、少なくとも2つの逃げ面3と、少なくとも1つのすくい面2と、少なくとも1つのコーナー9とを有する構造を備えたものであり、このコーナー9は2つの逃げ面3と1つのすくい面2とが交差する交点であり、切削作用の最も中心的作用点となる場合が多い。
なお、本願で用いる逃げ面、すくい面、刃先稜線およびコーナー等という表現は、基材の表面部だけではなく刃先交換型切削チップ1の最表面部に位置する部分や面とともに、後述する内層や外層等の各層の表面部や内部等に位置する相当部分をも含む概念である。
また、上記刃先稜線4は図2では直線状に形成されているがこれのみに限られるものではなく、たとえば円周状のもの、波打ち状のもの、湾曲状のもの、または屈折状のものも含まれる。また、このような刃先稜線やコーナーに対しては、面取り加工および/またはコーナーのアール(R)付与加工等の刃先処理加工を施すことができるが、このような刃先処理加工等により刃先稜線が明瞭な稜を構成しなくなったり、コーナーが明瞭な交点を形成しなくなった場合には、そのような刃先処理加工等がされたすくい面および逃げ面に対して刃先処理加工等がされない状態を想定してそれぞれの面を幾何学的に延長させることにより双方の面が交差する稜や交点を仮定的な稜や交点と定め、その仮定的に定められた稜を刃先稜線とし、仮定的に定められた交点をコーナーとするものとする。なお、すくい面と逃げ面とが刃先稜線を挟んで繋がるという表現および刃先稜線を有するという表現は、いずれも刃先稜線に対して上記のような刃先処理加工が施された場合も含むものとする。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点という表現およびその交点がコーナーとなるという表現は、いずれもそのコーナーに対して上記のような刃先処理加工が施された場合も含むものとする。
また図2においては、すくい面2は平坦な面として示されているが、必要に応じてすくい面は他の構造、たとえばチップブレーカ等を有していてもよい。同じことが逃げ面3にも当てはまる。また、逃げ面3は図2において平坦な面として示されているが、必要に応じて(複数の面区域に区分する)面取りをしまたは別の仕方で平坦な面と異なる形状や曲面にしたり、チップブレーカを設けた形状にすることもできる。
なお、本発明の基材には、刃先交換型切削チップ1を工具に取り付ける固定孔として使用される貫通孔7が、上面と底面を貫通するように形成されていても良い。必要に応じ、この固定孔の他にまたはその代わりに、別の固定手段を設けることもできる。
<被覆層>
本発明の被覆層11は、たとえば図3〜図10に示したように上記基材8上に形成されるものであって、1以上の層からなる内層12(図面では便宜的に1の層として表されている)とその内層12上に形成された外層13とを含むものである。以下、内層12と外層13とに分けて説明する。
なお、図3および図4は、ネガティブタイプ(すくい面2と逃げ面3とが90°以上の角度をなして交差するもの)の刃先交換型切削チップ1の断面を模式的に表した概略断面図であり、図3はチップブレーカを有さず、図4はチップブレーカを有するものである。図5および図6は、ポジティブタイプ(すくい面2と逃げ面3とが鋭角をなして交差するもの)の刃先交換型切削チップ1の断面を模式的に表した概略断面図であり、図5はチップブレーカを有さず、図6はチップブレーカを有するものである。また、このような図3〜図6に対して、図7〜図10は、後述のように刃先稜線近傍部において内層12が表面に露出している状態を模式的に表した概略断面図である。
また、被覆層の厚み(内層と外層とからなる全体の厚み)は、1μm以上32μm以下であることが好ましい。そして特に、逃げ面の厚みは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上とすることが好ましく、すくい面の厚みは3μm以上、より好ましくは3.5μm以上、さらに好ましくは4μm以上とすることが好ましい。逃げ面の厚みが1μm未満、すくい面の厚みが3μm未満の場合、耐摩耗性等の諸特性の向上作用が十分に示されないためである。一方、32μmを超えてもそれ以上の諸特性の向上が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは32μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、たとえば刃先交換型切削チップを切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
<内層>
本発明の内層は、上記基材と後述の外層との間に1以上の層として形成されるものであり、刃先交換型切削チップの耐摩耗性や靭性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。通常、この内層は、後述の外層とは異なった色を有していることが好ましく、基材の全面を覆うようにして形成されていることが好ましい。
そしてこの内層は、後述の外層と接する最上層としてアルミナ層またはアルミナを含む層を有していることが好ましい。このようにアルミナ層またはアルミナを含む層を最上層として有することにより、マイクロチッピングに起因する膜損傷を低減させることができ被覆層全体の耐摩耗性の向上に資するものとなる。
またさらにこのようなアルミナ層またはアルミナを含む層は、耐摩耗性を向上させる作用を有するだけではなく黒ずんだ色(正確にはそれ自身が黒色を呈するものではなく下地の色の影響を受けやすいものであるが、本願では単に黒色と表現することもある)を呈するため、その上に形成される後述の外層との間で特に顕著なコントラストを形成することができるというメリットも有することになる。
なお、ここでいうアルミナ(酸化アルミニウム、Al23)は、その結晶構造は特に限定されず、α−Al23、κ−Al23、γ−Al23またはアモルファス状態のAl23が含まれるとともに、これらが混在した状態も含まれる。またアルミナを含むとは、その層の一部として少なくともアルミナを含んでいること(50質量%以上含まれていればアルミナを含むものとみなす)を意味し、残部は後述するような化合物や、ZrO2、Y23(アルミナにZrやYが添加されたとみることもできる)等によって構成することができ、また塩素、炭素、ホウ素、窒素等を含んでいても良い。
また、このような内層は、少なくとも1以上の層が圧縮応力を有していることが好ましく、さらに切削に関与する部位において上記のアルミナ層またはアルミナを含む層が圧縮応力を有していることが特に好ましい。これにより、靭性を効果的に向上させることができる。この場合、逃げ面の圧縮応力をすくい面の圧縮応力よりも大きくすることにより、靭性をさらに向上させることができるため好ましい。
ここで、切削に関与する部位とは、後述の通り、被削材が接触する(最接近する)刃先稜線から逃げ面側およびすくい面側にそれぞれ3mmの幅を有して広がった領域(後述の図12における線分区域cおよびdを包含する領域)を意味するものとする。なお、この圧縮応力の規定に関しては、この領域において内層が表面に露出している態様をも含むものとし、そのように露出する表面を構成するアルミナ層またはアルミナを含む層が圧縮応力を有している態様が含まれる。
また、圧縮応力とは、このような被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「−」(マイナス)の数値(単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう。このため、圧縮応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを示し、また、圧縮応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを示す。因みに、引張応力とは、被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「+」(プラス)の数値で表される応力をいう。なお、単に残留応力という場合は、圧縮応力と引張応力との両者を含むものとする。
そして、このような圧縮応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。その絶対値が0.1GPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が8GPaを越えると被覆層自体が剥離することがあり好ましくない。
なお、上記残留応力は、X線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。そしてこのような残留応力は内層中の圧縮応力が付与される領域に含まれる任意の点10点(これらの各点は当該層の該領域の応力を代表できるように互いに0.1mm以上の距離を離して選択することが好ましい)の応力を該sin2ψ法により測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
このようなX線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられているものであり、たとえば「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜66頁に詳細に説明されている方法を用いれば良い。
また、上記残留応力は、ラマン分光法を用いた方法を利用することにより測定することも可能である。このようなラマン分光法は、狭い範囲、たとえばスポット径1μmといった局所的な測定ができるというメリットを有している。このようなラマン分光法を用いた残留応力の測定は、一般的なものであるがたとえば「薄膜の力学的特性評価技術」(サイぺック、1992年発行)の264〜271頁に記載の方法を採用することができる。
さらに、上記残留応力は、放射光を用いて測定することもできる。この場合、被覆層の厚み方向で残留応力の分布を求めることができるというメリットがある。
このような内層は、公知の化学的蒸着法(CVD法)、物理的蒸着法(PVD法、スパッタリング法等を含む)により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。たとえば、刃先交換型切削チップがドリル加工用やエンドミル加工用として用いられる場合、内層は抗折力を低下させることなく形成できるPVD法により形成することが好ましい。また、内層の膜厚の制御は、成膜時間により調整を行なうと良い。
また、公知のCVD法を用いて内層を形成する場合には、MT−CVD(medium temperature CVD)法により形成された層を含むことが好ましい。特にその方法により形成した耐摩耗性に優れる炭窒化チタン(TiCN)層を備えることが最適である。従来のCVD法は、約1020〜1030℃で成膜を行なうのに対して、MT−CVD法は約850〜950℃という比較的低温で行なうことができるため、成膜の際加熱による基材のダメージを低減することができる。したがって、MT−CVD法により形成した層は、基材に近接させて備えることがより好ましい。また、成膜の際に使用するガスは、ニトリル系のガス、特にアセトニトリル(CH3CN)を用いると量産性に優れて好ましい。なお、上記のようなMT−CVD法により形成される層と、HT−CVD(high temperature CVD、上記でいう従来のCVD)法により形成される層とを積層させた複層構造のものとすることにより、これらの被覆層の層間の密着力が向上する場合があり、好ましい場合がある。
一方、このような内層は、1以上の層を積層して構成されるものであり、各層は元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより形成される化合物により構成することができる。なお、内層を構成するこれらの化合物の組成比(原子比)は後述の外層を構成する化合物の組成比と同様の規定とすることができるため、その詳細は後述する。
ここで、たとえばこのような内層は上記の化合物としてアルミナ(Al3)を含むことができ、このようなアルミナを含む場合の具体的な積層構成の一例を挙げると、まず基材上にTiN層を形成し、その上にTiCN層を形成し、さらにその上に最上層としてAl23層を形成する態様を挙げることができる。これらの層は3層全体として内層を構成し、耐摩耗層としての作用を示す。
また、このような内層は、図7〜図10に表したように上記刃先稜線4から上記逃げ面3側に0.4mm未満(好ましくは30μm以上)の距離を有して広がった領域aと、上記刃先稜線4から上記すくい面2側に2mm未満(好ましくは100μm以上)の距離を有して広がった領域bとにおいて露出したものとすることができ、その露出部における内層の表面はアルミナ層またはアルミナを含む層で構成されていることが特に好ましい。このような領域a、bにおいて被削材の溶着が顕著に発生すると考えられ、アルミナは被削材を構成する成分との間で化学反応が生じにくく、かつ被削材との摩擦抵抗が低くくなるためである。上記距離が上記の規定値を超えると内層上に形成される外層の後述のような色彩の変化が十分に示されなくなるため好ましくない。
上記距離は逃げ面側では、好ましくは0.35mm未満、より好ましくは0.3mm未満であり、すくい面側では好ましくは1.8mm未満、より好ましくは1.5mm未満、さらに好ましくは0.5mm未満である。また、該距離の下限は、逃げ面3側では30μm以上、すくい面2側では100μm以上である。この下限未満となる場合には、内層を露出させる効果が十分に示されない場合があるため好ましくない。
なお、このように内層を表面に露出させる方法は、従来公知の種々の方法を採用することができ、その方法は何等限定されるものではない。たとえば、内層上に後述の外層を形成した後に、内層を露出させる所定部位の該外層に対してブラスト処理、ブラシ処理またはバレル処理等を施すことによって該外層を除去することにより該所定部位の内層を表面に露出させることができる。
このように被削材を切削する中心的部位であり、被削材と接触する可能性が高い刃先稜線近傍部において、後述のような外層ではなく内層であるアルミナ層またはアルミナを含む層を表面最上層として露出させることにより、基材上に形成される被覆層と被削材との溶着現象を効果的に抑制することができ、以って被削材の表面状態の悪化を効果的に防止することができるばかりか、マイクロチッピングに起因する膜損傷を低減させることができ、被覆層の耐摩耗性を向上することができる。
なお、このような内層を構成する化合物としては、上記のアルミナ(Al3)以外に(あるいはAl3とともに)使用できるものとして、たとえばTiC、TiN、TiCN、TiCNO、TiB2、TiBN、TiBNO、TiCBN、ZrC、ZrO2、HfC、HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、AlN、AlCN、ZrN、TiAlC等を挙げることができる。
そして、アルミナ層またはアルミナを含む層の下層としてTiBNまたはTiBNOからなる層を形成させることが特に好ましい。下層としてこのような化合物からなる層を形成することによりアルミナとの密着性が極めて向上するとともに、アルミナが表面に露出した部分においてはこのような下層の色彩をアルミナ層を透して認識することができ、その部分においてアルミナが有する色彩(黒色)とは異なった色彩を提供することができるためである。
このような内層の厚み(2以上の層として形成される場合は全体の厚み)は、0.05μm以上30μm以下であることが好ましい。厚みが0.05μm未満では耐摩耗性等の諸特性の向上作用が十分に示されず、逆に30μmを超えてもそれ以上の諸特性の向上が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは30μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、たとえば刃先交換型切削チップを切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
なお、上記のように内層が表面に露出する場合、内層と外層との境界は当該境界の近傍部を電子顕微鏡および/または金属顕微鏡で観察することにより、単位面積(100μm×100μm)に占める表面に露出する内層の面積が80%以上となる場合に内層が表面に露出しているものとみなすものとする。
<外層>
本発明の外層は、上記の内層上に1以上の層として形成されるものであって、元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属によって構成されるか(2以上の金属により構成される場合は合金となる場合を含む)、または少なくとも1種の上記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより形成される化合物によって構成される。そして、該外層の厚みは、切削に関与する部位において、上記逃げ面側における平均厚みをAμm、上記すくい面側における平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることを特徴とするものである。
このように切削に関与する部位において、上記の如く外層の厚みをすくい面側に比し逃げ面側において薄く制御することにより、耐摩耗性を維持しつつ靭性を飛躍的に向上させることに成功したものである。すなわち、耐摩耗性の向上は被覆層の厚みを厚くすることにより達成されるが、とりわけすくい面側においてその効果が顕著に発揮され特に高硬度の外層の厚みを厚く制御することが効果的であること、および靭性の向上は被覆層の厚みを薄くすることにより達成されるが、とりわけ逃げ面側においてその効果が顕著に発揮され特に高硬度の外層の厚みを薄く制御することが効果的であること、が各々本発明者の研究により明らかとなり、この知見に基づきさらに研究を重ねて上述の構成を完成することにより耐摩耗性の向上と靭性の向上とを高度に両立させることに成功したものである。
ここで、切削に関与する部位とは、刃先交換型切削チップの形状、被削材の種類や大きさ、切削加工の態様等により異なるものであるが、通常被削材が接触する(最接近する)刃先稜線から逃げ面側およびすくい面側にそれぞれ3mmの幅を有して広がった領域を意味するものとする。なお、この領域においては内層が表面に露出していないことを条件とする(内層が表面に露出している場合の外層の厚みに対する規定は後述する)。
また、上記逃げ面側における平均厚みAμmおよび上記すくい面側における平均厚みBμmとは、それぞれ上記領域内において互いに異なる10点の測定ポイントにおける厚みの平均値を意味するものとする。なお、厚みの測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができ、たとえば刃先交換型切削チップを切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
上記A/B値は、より好ましくはA/B≦0.7、さらに好ましくはA/B≦0.5である。A/B値が0.9を超えると、耐摩耗性と靭性とを両立させる作用、特に靭性を向上させる作用を示さなくなる。この点、A/B値が1以下となっても0.9を超えると耐摩耗性と靭性とを両立させる作用を示さなくなる。また、A/B値の下限は0.3以上とすることが好ましい。これは0.3未満になると逃げ面側の外層の厚みが薄くなりすぎ、後述のような色彩の変化が十分に示されなくなるためである。
また、該外層は、切削に関与する部位(すなわち上記の領域)において、逃げ面側における表面粗さRaをSμm、すくい面側における表面粗さRaをTμmとした場合に、S/T≦0.95となることが好ましい。このように外層の表面粗さRaをすくい面側に比し逃げ面側においてより平滑なものとすることにより被削材との切削抵抗を低減することができ、以って逃げ面側の外層の厚みを薄くしているにもかかわらず耐摩耗性を飛躍的に向上させることができる。
上記S/T値は、より好ましくはS/T≦0.9、さらに好ましくはS/T≦0.8である。S/T値が0.95を超えると、耐摩耗性と靭性(刃先強度)とを両立させる効果が相対的に小さくなる。なお、本願における表面粗さRaとは、表面粗さを表す数値の一種であり、中心線平均値と呼ばれるものである(JIS B0601:2001)。
なお、外層に対する上記のような厚みおよび表面粗さの制御は、内層上に一旦外層を均一な厚みで形成した後に、ブラスト処理、ブラシ処理またはバレル処理等を外層に対して施すことによりその厚みおよび表面粗さを調整することが好ましい。このように外層の厚みおよび表面粗さを制御する方法としては、他の方法としてたとえば外層を形成する場合に直接的に制御して形成する方法も採用し得るが、厚みの薄い外層を均一な色彩を示すように直接的に形成することは困難なため、上述のように一旦外層を均一な厚みで形成した後にブラスト処理、ブラシ処理またはバレル処理等を施す方法を採用することが特に有効である。なお、ブラスト処理を行なう場合は、逃げ面に対してほぼ垂直方向からスラリーを照射することにより、効果的に逃げ面上の外層の厚みを薄くし、表面粗さを平滑化することができるため好ましい。しかし、逃げ面に対して所定の角度を有する方向からスラリーを照射することにより複数の面を同時に処理することもできる。
加えて、上記のような処理を施すことにより、被覆層の少なくとも1層に対して圧縮応力を付与することができ、以って刃先強度を向上させることができるというメリットが享受される。
さらに、このような外層は、特に図11および図12に示したように切削に関与するコーナー9(図面のように刃先処理されている場合は仮定的なコーナー)を通り、そのコーナー9を構成する2つの逃げ面がなす角度をすくい面上において2等分し、かつすくい面2から上記2つの逃げ面3が交差する稜へと繋がる直線L(図11ではこの直線Lはすくい面2上のみに表されているが2つの逃げ面が交差する稜(図面のように刃先処理されている場合はアールの中間に位置する部分を仮定的な稜とする)にも繋がる)上において、そのコーナー9から逃げ面3側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域cにおける平均厚みをAμm、コーナー9からすくい面2側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域dにおける平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることが特に好ましい。このように規定することにより、耐摩耗性と靭性との両立をさらに効果的に達成させることが可能となり、特に、鋼の高速切削に極めて有効な性能を示すものとなる。
ここで、切削に関与するコーナーとは、実際に被削材が接触する(最接近する)コーナーを含むとともに、コーナー近傍の刃先稜線に被削材が接触し(最接近し)、該コーナーもその切削に関与するような場合(たとえば温度が上昇するような場合)を含むものである。しかし、単に切削加工時の被削材の切り屑が飛散して接触するようなコーナーは含まれない。なお、上記線分区域cおよびdにおいては、内層が表面に露出していないことを条件とする(内層が表面に露出している場合の外層の厚みに対する規定は後述する)。
また、コーナーおよび稜が刃先処理されている場合は、2つの逃げ面が交差する稜とは、2つの逃げ面を繋げるアール部の中間を通る直線を仮定的な稜とし、この仮定的な稜と仮定的なコーナーとを結ぶ直線をいうものとする(図11および図12参照)。
また、上記線分区域cおよびdを、上記のように各々0.5mm以上1mm以下の範囲と規定したのは、切削され極めて高温となった被削材の切り屑がこの規定範囲内の領域に接触する確率が高く、このため耐摩耗性および靭性等の特性に最も大きな影響を与えるものと推測されるためである。
また、上記A/B値は、より好ましくはA/B≦0.7、さらに好ましくはA/B≦0.5である。A/B値が0.9を超えると、上記同様耐摩耗性と靭性との両立を達成させることができなくなる。この点、A/B値が1以下となっても0.9を超えると耐摩耗性と靭性との両立を達成させることができなくなるものであるが、これは前記と同様の理由によるものと考えられる。また、A/B値の下限は0.3以上とすることが好ましい。これは0.3未満になると逃げ面側の外層の厚みが薄くなりすぎ、後述のような色彩の変化が十分に示されなくなるためである。
なお、ここでいう平均厚みAμmおよびBμmとは、それぞれ上記線分区域c、dにおいて互いに異なる10点の測定ポイントにおける厚みの平均値を意味するものとし、厚みの測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができる。また、刃先交換型切削チップに複数のコーナーが存在する場合は、切削に関与する可能性のある全てのコーナーについて上記のA/B値の関係が成立する必要がある。
また、該外層は、逃げ面3側の上記線分区域c(図12)における表面粗さRaをSμm、すくい面2側の上記線分区域d(図12)における表面粗さRaをTμmとした場合に、S/T≦0.95となることが好ましい。このように外層の表面粗さRaをすくい面側に比し逃げ面側においてより平滑なものとすることにより被削材との切削抵抗を低減することができ、以って逃げ面側の外層の厚みを薄くしているにもかかわらず耐摩耗性を飛躍的に向上させることができる。
上記S/T値は、より好ましくはS/T≦0.9、さらに好ましくはS/T≦0.8である。S/T値が0.95を超えると、耐摩耗性と靭性(刃先強度)とを両立させる効果が相対的に小さくなる。
またさらに、このような外層は、図14に示したように刃先稜線4近傍部において内層12が表面に露出している場合(すなわち、刃先稜線4から逃げ面3側に0.4mm未満の距離を有して広がった領域aと、刃先稜線4からすくい面2側に2mm未満の距離を有して広がった領域bとにおいて内層12が表面に露出しており、その露出部における内層12の表面がアルミナ層またはアルミナを含む層で構成されている場合)、このような内層12の露出部から逃げ面3の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域eにおける平均厚みをAμmとし、内層12の露出部からすくい面2の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域fにおける平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることを特徴とするものである。このように規定することにより、刃先稜線近傍部において内層が表面に露出した場合においても耐摩耗性と靭性との両立を効果的に達成させることが可能となり、特に、鋼の高速切削に極めて有効な性能を示すものとなる。
ここで、内層12の露出部から逃げ面3の中心方向に0.4mm離れた地点とは、内層と外層の境界部(該境界は上述の方法により決定するものとする)から刃先稜線側とは反対の垂直方向(すなわち刃先稜線から遠ざかる垂直方向)に0.4mm離れた地点を意味する。また同様に、内層12の露出部からすくい面2の中心方向に0.4mm離れた地点とは、内層と外層の境界部から刃先稜線側とは反対の水平方向(すなわち刃先稜線から遠ざかる水平方向)に0.4mm離れた地点を意味する。
また、上記領域eおよびfを、上記のように内層露出部から0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域と規定したのは、刃先稜線近傍部において上述のように内層が表面に露出している場合において、内層の露出部で切削され極めて高温となった被削材の切り屑がこの規定範囲内の領域に接触する確率が高く、このため耐摩耗性および靭性等の特性に最も大きな影響を与えるものと推測されるためである。
また、上記A/B値は、より好ましくはA/B≦0.7、さらに好ましくはA/B≦0.5である。A/B値が0.9を超えると、上記同様耐摩耗性と靭性との両立を達成させることができなくなる。この点、A/B値が1以下となっても0.9を超えると耐摩耗性と靭性との両立を達成させることができなくなるものであるが、これは前記と同様の理由によるものと考えられる。また、A/B値の下限は0.3以上とすることが好ましい。これは0.3未満になると逃げ面側の外層の厚みが薄くなりすぎ、後述のような色彩の変化が十分に示されなくなるためである。
なお、ここでいう平均厚みAμmおよびBμmとは、それぞれ上記領域e、fにおいて互いに異なる10点の測定ポイントにおける厚みの平均値を意味するものとし、厚みの測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができる。
また、該外層は、逃げ面3側の上記領域e(図14)における表面粗さRaをSμm、すくい面2側の上記領域f(図14)における表面粗さRaをTμmとした場合に、S/T≦0.95となることが好ましい。このように外層の表面粗さRaをすくい面側に比し逃げ面側においてより平滑なものとすることにより被削材との切削抵抗を低減することができ、以って逃げ面側の外層の厚みを薄くしているにもかかわらず耐摩耗性を飛躍的に向上させることができる。
上記S/T値は、より好ましくはS/T≦0.9、さらに好ましくはS/T≦0.8である。S/T値が0.95を超えると、耐摩耗性と靭性(刃先強度)とを両立させる効果が相対的に小さくなる。
このような外層は、公知の化学的蒸着法、または物理的蒸着法(スパッタリング法を含む)により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。
本発明の外層は、上述のように内層が表面に露出する場合を除き刃先交換型切削チップの最外層となるものであって、上述の通り耐摩耗性と靭性とを両立させる作用を奏するものであるが、より好ましくは上記内層(の最上層)とは異なった色を呈する(すなわち内層(の最上層)とは当然組成も異なる)ことにより、刃先交換型切削チップ(特に刃先稜線)の使用状態を判別する使用状態表示層としての機能をも示すものである。刃先稜線が被削材の切削加工に使用された場合にその刃先稜線に隣接する部分に形成された外層が摩耗しその部分の内層が表面に露出したり、あるいはその部分の外層自体が変色することによって、その色彩の変化を観察することにより使用された刃先稜線を識別することが可能となる。
このような外層を構成する金属または化合物は、より具体的にはたとえば金属としてはCr、Al等を挙げることができ、また化合物としてはTiC、TiN、TiCN、TiCNO、TiB2、TiBN、TiBNO、TiCBN、ZrC、ZrO2、HfC、HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、AlN、AlCN、ZrN、TiAlC等を挙げることができる。ただし、このような外層として、Al23は含まれない。アルミナ(Al23)は上述のように内層の最上層としてこれ単独またはこれを含む層として形成されることが多く、また色彩自体も黒色を呈することから使用状態表示層としての使用に適さないためである。
なお、このような外層を構成する化合物において、少なくとも1種の上記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素との組成比(原子比)は、従来公知のように必ずしも1:1に限定されるわけではなく、前者の金属1に対して、後者の元素を0.5〜1程度とすることができる(たとえばTiabとした場合であってa+b=100原子%とする場合、bは35〜50原子%程度となる)。また、後者の元素が複数の元素で構成される場合は、各元素の原子比は必ずしも等比に限定されるわけではなく、従来公知の原子比を任意に選択することができる。したがって、以下の実施例等において当該化合物を表す場合において特に断りのない場合は、その化合物を構成する原子比は従来公知の原子比を任意に選択することができるものとする。
また、上記外層が複数の金属(合金を含む)で構成される場合、それらの金属の原子比は従来公知の原子比を任意に選択することができるものとする。
このような外層は、摩耗した場合に変色する層であることが好ましい。好ましい厚み(外層が2層以上積層されて形成される場合は全体の厚み)は0.05μm以上2μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。0.05μm未満では、所定部位に均一に被覆することが工業的に困難となり、このためその外観に色ムラが発生し外観を害することがあるとともに、刃先稜線が使用済となっていることを示す表示が不明確となる。また、2μmを超えても使用状態表示層としての機能に大差なく、却って経済的に不利となる。この厚みの測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
2.0質量%のTiC、1.0質量%のTaC、1.4質量%のNbC、7.8質量%のCoおよび残部WCからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1430℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、切削チップCNMG120408N−UX(住友電工ハードメタル(株)製)の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、表面に脱β層が17μm形成されており、2つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計8つ存在した。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナーは計8つ存在した(ただし、ここで用いたチップは、その形状から、上面または下面から観察した場合に80°の頂角をなすコーナーを切削用途に用いることが多く、この場合コーナー数は4と考えることができる)。
この基材の全面に対して、下層から順に下記の層を被覆層として公知の熱CVD法により形成した。すなわち、基材の表面側から順に、0.4μmのTiN、4.3μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、および2.4μmのαアルミナ(α−Al23)をそれぞれ内層として形成し、これらの内層の最上層であるαアルミナ上にこれと接するように外層として1.5μmのTiNを形成した(以上の被覆層を被覆層No.1とする)。
以下同様にして、この被覆層No.1に代えて下記の表1に記載した被覆層No.2〜7をそれぞれ基材の全面に対して被覆した。
Figure 2007111838
上記表1において、内層は左側のものから順に基材の表面上に積層させた。また各層は、被覆層No.7のCrN層を除き、全て公知の熱CVD法により形成した(MT−CVDの表示のあるものはMT−CVD法(成膜温度900℃)により形成し、HT−CVDの表示のあるものはHT−CVD法(成膜温度1000℃)により形成した)。該CrN層はイオンプレーティング法により形成した。また、外層であるTiNは金色であり、ZrNは白金色であり、TiCNはピンク色であり、CrNは銀色である。
そしてこれらの被覆層を形成した基材に対して、公知のブラスト法(研磨材粒子:アルミナサンド120番(平均粒径100μm)、圧力:0.3MPa)および/またはブラシ法(ダイヤモンドブラシ使用)を用いて次の5種類の処理方法A〜Eを各々実施した。
(処理方法A)
被覆層に対してブラスト法およびブラシ法による処理を全く行なわなかった。
(処理方法B)
被覆層に対して外層の厚みが表2〜表3記載の平均厚みとなるようにブラシ法による処理を行なった。
(処理方法C)
被覆層に対して外層の厚みが表2〜表3記載の平均厚みとなるようにブラスト法による処理を行なった。
(処理方法D)
被覆層に対して外層の厚みが表2〜表3記載の平均厚みとなるようにブラシ法による処理を行なった後、さらにブラスト法による処理を行なった。
(処理方法E)
被覆層に対して外層の厚みが表2〜表3記載の平均厚みとなるようにブラスト法による処理を行なった後、さらにブラシ法による処理を行なった。
なお、表2〜表3における外層の厚みは、前述の図12に示したように切削に関与するコーナー(すなわち以下の旋削切削試験を実施したコーナー)を通り、そのコーナーを構成する2つの逃げ面がなす角度をすくい面上において2等分し、かつすくい面から2つの逃げ面が交差する稜へと繋がる直線上において、そのコーナーから逃げ面側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域cにおける平均厚みをAμm、そのコーナーからすくい面側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域dにおける平均厚みをBμmとし、A/B値を求めた。
ただし、表2〜表3中、以下の表4に記載した刃先交換型切削チップについての外層の厚みは、前述の図14に示したように内層の露出部(表4記載の内層露出距離を基準とする内層と外層の境界部)から逃げ面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域eにおける平均厚みをAμmとし、同内層の露出部からすくい面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域fにおける平均厚みをBμmとし、A/B値を求めた。
また、表2〜表3において、表面粗さRaの記載がされているものは、各々外層の厚みを測定したのと同じ線分区域c、dまたは領域e、fにおける表面粗さRaとしてSμm(逃げ面)とTμm(すくい面)とを測定し、S/T値を求めた。
このようにして、以下の表2〜表3に記載した32種類の刃先交換型切削チップNo.1〜No.32を製造した。表中に「※」の記号を付したものが本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。
なお、以下の表4に記載した刃先交換型切削チップについては、各々の刃先稜線に沿って、該刃先稜線から逃げ面側に表4に記載した距離を有して広がった領域aと、刃先稜線からすくい面側に表4に記載した距離を有して広がった領域bとにおいて内層が露出するものであった。なお、それぞれの距離は内層と外層との境界を上述のように電子顕微鏡および/または金属顕微鏡により特定し、上記コーナーを構成する2つの逃げ面がなす角度をすくい面上において2等分する直線であって、すくい面から2つの逃げ面が交差する稜へと繋がる直線上のすくい面側の距離と逃げ面側の距離をそれぞれ測定した。
一方さらに、上記の刃先交換型切削チップNo.1、No.2、No.11、No.12、No.16、No.27およびNo.28の内層の最上層であるアルミナ(α−Al23またはκ−Al23)層について残留応力を測定した。この残留応力の測定は、これらの刃先交換型切削チップの逃げ面側の切削に関与するコーナー9の近傍を示す図15のスポットU(スポットサイズ:直径0.5mm)で示される領域を測定した(具体的測定方法は、上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法を採用した)。なお、この測定領域は、逃げ面の切削に関与する部位を代表する領域である。
そして、該測定の結果、各刃先交換型切削チップの残留応力は以下の通りであった。
刃先交換型切削チップNo.1:0.2GPa
刃先交換型切削チップNo.2:0.2GPa
刃先交換型切削チップNo.11:−1.5GPa
刃先交換型切削チップNo.12:−0.4GPa
刃先交換型切削チップNo.16:−0.5GPa
刃先交換型切削チップNo.27:−1.7GPa
刃先交換型切削チップNo.28:−2.4GPa
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.1〜32について、下記条件で旋削切削試験を行ない、刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量と欠損率を測定した(耐摩耗性試験により逃げ面摩耗量を測定し、靭性試験により欠損率を測定した)。その結果を以下の表2〜表3に示す。なお、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示し、欠損率は、小さい数値のもの程、靭性に優れていることを示している。
<旋削切削試験の条件>
(耐摩耗性試験)
被削材:SCM440丸棒(断続なし)
切削速度:300m/min.
送り:0.3mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:有(水溶性)
切削時間:15分
(靭性試験)
被削材:SCM435(4本溝入り丸棒)
切削速度:170m/min.
送り:0.4mm/rev.
切込み:1.5mm
切削油:有(水溶性)
評価:20切れ刃を2分間切削した場合の欠損数から欠損率を求める
(すなわち、欠損した切れ刃数をnとすると欠損率(%)=n/20)
Figure 2007111838
Figure 2007111838
Figure 2007111838
表2〜表3より明らかなように、上記の外層の平均厚みAμm、Bμmから求められるA/B値が0.9以下である本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、比較例の刃先交換型切削チップに比し良好な逃げ面摩耗量および欠損率を示し、耐摩耗性と靭性とが高度に両立されたものであった。また、この傾向は、外層の表面粗さRaSμm、Tμmから求められるS/T値が小さくなる程顕著なものであった。なお、参考として、刃先交換型切削チップNo.28とNo.32について、ブラスト法により表面全面の外層を除去した後、上記と同じ切削試験を行なったところ、欠損率については同様の結果が得られたが、逃げ面摩耗量が劣っていたとともに切削試験に使用したコーナーの識別が困難であった。
以上、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、各比較例の刃先交換型切削チップに比し優れた効果を有していることは明らかであり、耐摩耗性と靭性とを高度に両立できるものであった。さらに、本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、切削に使用したコーナーの識別が容易にできるものであった。なお、本実施例は、チップブレーカが形成されている刃先交換型切削チップの場合について示したが、以下の実施例で述べる通りチップブレーカが形成されていない刃先交換型切削チップに対しても有効である。
<実施例2>
0.6質量%のTaC、0.3質量%のNbC、5.5質量%のCoおよび残部WCからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1450℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、JIS B4120(1998改)規定の切削チップCNMA120408の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、チップブレーカを有さないとともに表面に脱β層が形成されておらず、2つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計8つ存在した。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナーは計8つ存在した(ただし、ここで用いたチップは、その形状から、上面または下面から観察した場合に80°の頂角をなすコーナーを切削用途に用いることが多く、この場合コーナー数は4と考えることができる)。
続いて以下の表5に記載したように、この基材の全面に対して実施例1と同様の被覆層を各々形成した(すなわち、表5における被覆層No.は実施例1の被覆層No.を示す)。
そしてこれらの被覆層を形成した基材に対して、実施例1と同じ5種類の処理方法A〜Eを各々実施した。なお、表5における外層の厚み、A/B値、表面粗さRaおよびS/T値は実施例1と同様にして求めたものである。
このようにして、表5に記載した20種類の刃先交換型切削チップNo.33〜No.52を製造した。表中に「※」の記号を付したものが本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。なお、以下の表6に記載した刃先交換型切削チップについては、上記表4のものと同様に内層が露出するものであった。
一方さらに、上記の刃先交換型切削チップNo.34、No.37、No.42、No.50、No.51、およびNo.52の内層の最上層であるアルミナ(α−Al23またはκ−Al23)層について残留応力を測定した。この残留応力の測定は、前述した図15のスポットUで示される領域を測定した(具体的測定方法は、上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法を採用した)。なお、この測定領域は、逃げ面の切削に関与する部位を代表する領域である。
そして、該測定の結果、各刃先交換型切削チップの残留応力は以下の通りであった。
刃先交換型切削チップNo.34:0.2GPa
刃先交換型切削チップNo.37:0.2GPa
刃先交換型切削チップNo.42:−0.3GPa
刃先交換型切削チップNo.50:−0.9GPa
刃先交換型切削チップNo.51:−2.0GPa
刃先交換型切削チップNo.52:−2.0GPa
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.33〜52について、下記条件で旋削切削試験を行ない、刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量と欠損率を測定した。その結果を以下の表5に示す。
<旋削切削試験の条件>
(耐摩耗性試験)
被削材:Scr420(Pbレス)角材
切削速度:230m/min.
送り:0.4mm/rev.
切込み:1.0mm
切削油:無
切削時間:10分
(靭性試験)
被削材:SCM440(4本溝入り丸棒)
切削速度:160m/min.
送り:0.36mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:有(水溶性)
評価:20切れ刃を2分間切削した場合の欠損数から欠損率を求める
(すなわち、欠損した切れ刃数をnとすると欠損率(%)=n/20)
Figure 2007111838
Figure 2007111838
表5より明らかなように、外層の平均厚みAμm、Bμmから求められるA/B値が0.9以下である本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、比較例の刃先交換型切削チップに比し良好な逃げ面摩耗量および欠損率を示し、耐摩耗性と靭性とが高度に両立されたものであった。また、この傾向は、外層の表面粗さRaSμm、Tμmから求められるS/T値が小さくなる程顕著なものであった。なお、参考として、刃先交換型切削チップNo.48とNo.51について、ブラスト法により表面全面の外層を除去した後、上記と同じ切削試験を行なったところ、欠損率については同様の結果が得られたが、逃げ面摩耗量が劣っていたとともに切削試験に使用したコーナーの識別が困難であった。
以上、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、各比較例の刃先交換型切削チップに比し優れた効果を有していることは明らかであり、耐摩耗性と靭性とを高度に両立できるものであった。さらに、本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、切削に使用したコーナーの識別が容易にできるものであった。
<実施例3>
1.7質量%のTaC、10.5質量%のCoおよび残部WCからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1390℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、切削チップSEMT13T3AGSN−G(住友電工ハードメタル(株)製)の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、表面に脱β層を有さず、1つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計4つ存在した。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナーは計4つ存在した。
この基材の全面に対して、下層から順に下記の層を被覆層として公知の熱CVD法により形成した。すなわち、基材の表面側から順に、0.4μmのTiN、2.1μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、および2.2μmのαアルミナ(α−Al23)をそれぞれ内層として形成し、これらの内層の最上層であるαアルミナ上にこれと接するように外層として1.6μmのTiNを形成した(以上の被覆層を被覆層No.8とする)。
以下同様にして、この被覆層No.8に代えて下記の表7に記載した被覆層No.9〜13をそれぞれ基材の全面に対して被覆した。
Figure 2007111838
上記表7において、内層は左側のものから順に基材の表面上に積層させた。また被覆層No.8〜10は、被覆層No.7と同様全て公知の熱CVD法により形成した。被覆層No.11〜13は公知のPVD法により形成した。
そしてこれらの被覆層を形成した基材に対して、実施例1と同じ5種類の処理方法A〜Eを各々実施した。
このようにして、以下の表8〜表9に記載した25種類の刃先交換型切削チップNo.53〜No.77を製造した。表中に「※」の記号を付したものが本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。なお、表8〜表9における外層の厚み、A/B値、表面粗さRaおよびS/T値は実施例1と同様にして求めたものである。また、以下の表10に記載した刃先交換型切削チップについては、実施例1の表4のものと同様に内層が露出するものであった。
一方さらに、上記の刃先交換型切削チップNo.53、No.54、No.59、No.61、No.72およびNo.73の内層の最上層であるアルミナ(α−Al23またはκ−Al23)層について残留応力を測定した。この残留応力の測定は、これらの刃先交換型切削チップの逃げ面側の切削に関与するコーナー9の近傍(2つの逃げ面が交差する稜に対して刃先処理加工がされた部分の中央部)を示す図16のスポットV(スポットサイズ:直径0.5mm)で示される領域を測定した(具体的測定方法は、上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法を採用した)。なお、この測定領域は、逃げ面の切削に関与する部位を代表する領域である。
そして、該測定の結果、各刃先交換型切削チップの残留応力は以下の通りであった。
刃先交換型切削チップNo.53:0.2GPa
刃先交換型切削チップNo.54:0.2GPa
刃先交換型切削チップNo.59:−0.3GPa
刃先交換型切削チップNo.61:−0.4GPa
刃先交換型切削チップNo.72:−1.2GPa
刃先交換型切削チップNo.73:−1.2GPa
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.53〜77について、下記条件でフライス切削試験を行ない、逃げ面摩耗量と欠損率を測定した。その結果を以下の表8〜表9に示す。
<フライス切削試験の条件>
(耐摩耗性試験)
被削材:SKD11ブロック材
切削速度:220m/min.
送り:0.3mm/刃
切込み:2.0mm
切削油:有(水溶性)
切削距離:2m
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル(株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取り付け数は1枚とした
(靭性試験)
被削材:S50Cブロック材(スリット有)
切削速度:150m/min.
送り:0.45mm/刃
切込み:2.0mm
切削油:無
切削距離:1m
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル(株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取り付け数は1枚とした
評価:20切れ刃を2分間切削した場合の欠損数から欠損率を求める
(すなわち、欠損した切れ刃数をnとすると欠損率(%)=n/20)
Figure 2007111838
Figure 2007111838
Figure 2007111838
表8〜表9より明らかなように、外層の平均厚みAμm、Bμmから求められるA/B値が0.9以下である本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、比較例の刃先交換型切削チップに比し良好な逃げ面摩耗量および欠損率を示し、耐摩耗性と靭性とが高度に両立されたものであった。また、この傾向は、外層の表面粗さRaSμm、Tμmから求められるS/T値が小さくなる程顕著なものであった。なお、参考として、刃先交換型切削チップNo.53とNo.54について、ブラスト法により表面全面の外層を除去した後、上記と同じ切削試験を行なったところ、欠損率については同様の結果が得られたが、逃げ面摩耗量が劣っていたとともに切削試験に使用したコーナーの識別が困難であった。
以上、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、各比較例の刃先交換型切削チップに比し優れた効果を有していることは明らかであり、耐摩耗性と靭性とを高度に両立できるものであった。さらに、本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、切削に使用したコーナーの識別が容易にできるものであった。なお、本実施例は、チップブレーカが形成されている刃先交換型切削チップの場合について示したが、以下の実施例で述べる通りチップブレーカが形成されていない刃先交換型切削チップに対しても有効である。
<実施例4>
0.3質量%のTaC、0.3質量%のCr32、7.5質量%のCoおよび残部WCからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1440℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.05mm幅−25°のホーニングを施す、図13参照)を行なうことにより、JIS B4120(1998改)規定の切削チップSPGN120408の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、チップブレーカを有さないとともに表面に脱β層が形成されておらず、1つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計4つ存在した。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナーは計4つ存在した。
続いて以下の表11に記載したように、この基材の全面に対して実施例3と同様の被覆層を各々形成した(すなわち、表11における被覆層No.は実施例3の被覆層No.を示す)。
そしてこれらの被覆層を形成した基材に対して、実施例1と同じ5種類の処理方法A〜Eを各々実施した。なお、表11における外層の厚み、A/B値、表面粗さRaおよびS/T値は実施例1と同様にして求めたものである。
このようにして、表11に記載した22種類の刃先交換型切削チップNo.78〜No.99を製造した。表中に「※」の記号を付したものが本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。なお、以下の表12に記載した刃先交換型切削チップについては、実施例1の表4のものと同様に内層が露出するものであった。
一方さらに、上記の刃先交換型切削チップNo.80、No.89、No.90、No.91、およびNo.92の内層の最上層(ZrO2層)について残留応力を測定した。この残留応力の測定は、これらの刃先交換型切削チップの逃げ面側の切削に関与するコーナー9の近傍を示す図17のスポットW(スポットサイズ:直径0.5mm)で示される領域を測定した(具体的測定方法は、上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法を採用した)。なお、この測定領域は、逃げ面の切削に関与する部位を代表する領域である。
そして、該測定の結果、各刃先交換型切削チップの残留応力は以下の通りであった。
刃先交換型切削チップNo.80:0.2GPa
刃先交換型切削チップNo.89:−2.3GPa
刃先交換型切削チップNo.90:−0.3GPa
刃先交換型切削チップNo.91:−0.8GPa
刃先交換型切削チップNo.92:−0.9GPa
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.78〜99について、下記条件でフライス切削試験を行ない、刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量と欠損率を測定した。その結果を以下の表11に示す。
<フライス切削試験の条件>
(耐摩耗性試験)
被削材:S45C(Pbレス鋼)
切削速度:250m/min.
送り:0.2mm/刃
切込み:1.0mm
切削油:無
切削距離:5m
カッター:DPG4160R(住友電工ハードメタル(株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取り付け数は1枚とした
(靭性試験)
被削材:SCM435(スリット有)
切削速度:200m/min.
送り:0.35mm/刃
切込み:2.0mm
切削油:無
切削距離:1m
カッター:DPG4160R(住友電工ハードメタル(株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取り付け数は1枚とした
評価:20切れ刃を2分間切削した場合の欠損数から欠損率を求める
(すなわち、欠損した切れ刃数をnとすると欠損率(%)=n/20)
Figure 2007111838
Figure 2007111838
表11より明らかなように、外層の平均厚みAμm、Bμmから求められるA/B値が0.9以下である本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、比較例の刃先交換型切削チップに比し良好な逃げ面摩耗量および欠損率を示し、耐摩耗性と靭性とが高度に両立されたものであった。また、この傾向は、外層の表面粗さRaSμm、Tμmから求められるS/T値が小さくなる程顕著なものであった。なお、参考として、刃先交換型切削チップNo.89とNo.93について、ブラスト法により表面全面の外層を除去した後、上記と同じ切削試験を行なったところ、欠損率については同様の結果が得られたが、逃げ面摩耗量が劣っていたとともに切削試験に使用したコーナーの識別が困難であった。
以上、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、各比較例の刃先交換型切削チップに比し優れた効果を有していることは明らかであり、耐摩耗性と靭性とを高度に両立できるものであった。さらに、本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、切削に使用したコーナーの識別が容易にできるものであった。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を模式的に示した概略図である。 本発明の刃先交換型切削チップの一例を示す概略斜視図である。 チップブレーカを有さないネガティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。 チップブレーカを有するネガティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。 チップブレーカを有さないポジティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。 チップブレーカを有するポジティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。 刃先稜線近傍部において内層が露出したチップブレーカを有さないネガティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。 刃先稜線近傍部において内層が露出したチップブレーカを有するネガティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。 刃先稜線近傍部において内層が露出したチップブレーカを有さないポジティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。 刃先稜線近傍部において内層が露出したチップブレーカを有するポジティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。 2つの逃げ面がなす角度を2等分する直線Lを表した刃先交換型切削チップの平面図である。 図11の直線Lにおける概略断面図である。 基材の刃先処理部の一例を示した概略断面図である。 刃先稜線近傍部において内層が露出した場合の平均厚みと表面粗さRaの規定領域を示した刃先交換型切削チップの概略断面図である。 刃先交換型切削チップの逃げ面側のコーナーの近傍を示す概略側面図である。 図15とは異なる刃先交換型切削チップの逃げ面側のコーナーの近傍を示す概略図である。 図15とは異なる刃先交換型切削チップの逃げ面側のコーナーの近傍を示す概略側面図である。
符号の説明
1 刃先交換型切削チップ、2 すくい面、3 逃げ面、4 刃先稜線、5 被削材、6 切り屑、7 貫通孔、8 基材、9 コーナー、11 被覆層、12 内層、13 外層。

Claims (8)

  1. 基材と、該基材上に形成された被覆層とを有する刃先交換型切削チップであって、
    前記基材は、少なくとも1つの逃げ面と少なくとも1つのすくい面とを有し、
    前記逃げ面と前記すくい面とは、刃先稜線を挟んで繋がり、
    前記被覆層は、1以上の層からなる内層とその内層上に形成された外層とを含み、
    前記外層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属によって構成されるか、または少なくとも1種の前記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより形成される化合物によって構成され、かつ
    前記外層は、切削に関与する部位において、前記逃げ面側における平均厚みをAμm、前記すくい面側における平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることを特徴とする刃先交換型切削チップ。
  2. 前記外層は、切削に関与する部位において、前記逃げ面側における表面粗さRaをSμm、前記すくい面側における表面粗さRaをTμmとした場合に、S/T≦0.95となることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ。
  3. 基材と、該基材上に形成された被覆層とを有する刃先交換型切削チップであって、
    前記基材は、少なくとも2つの逃げ面と、少なくとも1つのすくい面と、少なくとも1つのコーナーとを有し、
    前記逃げ面と前記すくい面とは、刃先稜線を挟んで繋がり、
    前記コーナーは、2つの前記逃げ面と1つの前記すくい面とが交差する交点であり、
    前記被覆層は、1以上の層からなる内層とその内層上に形成された外層とを含み、
    前記外層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属によって構成されるか、または少なくとも1種の前記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより形成される化合物によって構成され、かつ
    切削に関与する前記コーナーを通り、そのコーナーを構成する2つの前記逃げ面がなす角度を前記すくい面上において2等分し、かつ前記すくい面から前記2つの逃げ面が交差する稜へと繋がる直線上において、前記外層は、前記コーナーから前記逃げ面側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域における平均厚みをAμm、前記コーナーから前記すくい面側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域における平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることを特徴とする刃先交換型切削チップ。
  4. 前記外層は、前記直線上において、前記コーナーから前記逃げ面側に0.5mm以上1mm以下となる前記線分区域における表面粗さRaをSμm、前記コーナーから前記すくい面側に0.5mm以上1mm以下となる線分区域における表面粗さRaをTμmとした場合に、S/T≦0.95となることを特徴とする請求項3記載の刃先交換型切削チップ。
  5. 基材と、該基材上に形成された被覆層とを有する刃先交換型切削チップであって、
    前記基材は、少なくとも1つの逃げ面と少なくとも1つのすくい面とを有し、
    前記逃げ面と前記すくい面とは、刃先稜線を挟んで繋がり、
    前記被覆層は、1以上の層からなる内層とその内層上に形成された外層とを含み、
    前記外層は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属によって構成されるか、または少なくとも1種の前記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより形成される化合物によって構成され、
    前記内層は、前記刃先稜線から前記逃げ面側に0.4mm未満の距離を有して広がった領域と、前記刃先稜線から前記すくい面側に2mm未満の距離を有して広がった領域とにおいて露出しており、その露出部における内層の表面がアルミナ層またはアルミナを含む層で構成され、
    前記外層は、前記内層の露出部から前記逃げ面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域における平均厚みをAμmとし、前記内層の露出部から前記すくい面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった領域における平均厚みをBμmとした場合に、A/B≦0.9となることを特徴とする刃先交換型切削チップ。
  6. 前記外層は、前記内層の露出部から前記逃げ面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった前記領域における表面粗さRaをSμmとし、前記内層の露出部から前記すくい面の中心方向に0.4mm離れた地点よりさらに0.2mmの幅を有して広がった前記領域における表面粗さRaをTμmとした場合に、S/T≦0.95となることを特徴とする請求項5に記載の刃先交換型切削チップ。
  7. 前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体のいずれかにより構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の刃先交換型切削チップ。
  8. 前記刃先交換型切削チップは、ドリル加工用、エンドミル加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップ加工用、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用のいずれかのものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の刃先交換型切削チップ。
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